説明

基準電圧発生回路

【課題】高ビット数のA/Dコンバータにも利用可能な、温度変化による出力電圧の変化の少ない精密な基準電圧発生回路を提供する。
【解決手段】温度補償された基準電圧発生回路は、ゼロ温度係数点を有する基準電圧発生部1と補償回路部10とからなる。補償回路部10は、基準電圧発生部1の出力を入力として温度補償を行う。そして、補償回路部10には、ゼロ温度係数点より低い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が増加する特性を有する第1MOSトランジスタ101と、ゼロ温度係数点より高い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が減少する特性を有する第2MOSトランジスタ102とが含まれる。さらに、これらの2つのドレイン電流に対応する電流を加算して出力する、出力端子Vrefを有する加算回路110とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温度補償された基準電圧発生回路に関し、特に、ゼロ温度係数点近傍の特性を用いて温度変化に対して安定な電圧を出力する基準電圧発生回路に関する。
【背景技術】
【0002】
A/Dコンバータ等に広く用いられている基準電圧発生回路は、動作温度範囲において温度変化により出力電圧に誤差が生じると、A/Dコンバータの線形性等に悪影響を及ぼす。ケースやマイクロプロセッサ、周辺IC等の温度を監視するための温度センサ等においては、その精度を上げるためにA/Dコンバータのビット数を高くすることがある。例えば14ビットや16ビット等以上の高いビット数のA/Dコンバータの場合、この温度変化による悪影響が問題となってくるため、温度変化による出力電圧の変化の少ない精密な基準電圧発生回路が必要となってくる。このような、小さい温度係数を持つ基準電圧発生回路は、これまで種々開発されてきた。
【0003】
MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)は、図1に示すような特性を有することが一般的に知られている。図1は、エンハンスメント型MOSFETのゲート・ソース間電圧の変化に対するドレイン電流の変化を表すグラフである。温度が変化することにより、この特性も変化していることがわかる。ゲート・ソース間電圧とドレイン電流が温度変化に影響を受けない点をゼロ温度係数点ZTCという。MOSFETでは、ゼロ温度係数点より低い領域においては温度の上昇に対してドレイン電流が増加する特性を有しており、ゼロ温度係数点より高い領域においては温度の上昇に対してドレイン電流が減少する特性を有している。従来の種々の基準電圧発生回路においては、ゲート・ソース間電圧を調整する等して、このゼロ温度係数点ZTCでMOSFETが動作するように構成されていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭53−80551号公報
【特許文献2】特開2000−75946号公報
【非特許文献1】P.R. Gray, P.J. Hurst, S.H. Lewis, and R.G. Meye“Analysis and Design of Analog Integrated Circuits Fourth Edition.” pp.309−317, John Willey & Sons (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ゼロ温度係数点は温度依存性が小さいが、それでもなお、一定のゲート・ソース間電圧であっても温度に対してドレイン電流が変動することが、以下のように説明できる。
【0006】
ドレイン電流Iとゲート・ソース間電圧Vgsの関係は、MOSFETが飽和領域で動作するときには以下の式で表される。
【数1】

但し、μは移動度、Coxはゲート酸化膜容量、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、VgsはMOSFETのゲート・ソース間電圧、Vは閾値電圧である。
【0007】
式1において、移動度μと閾値電圧Vは次式で表され、これは温度に対して依存性を持つことが分かる。
【数2】

但し、Kは比例定数、Tは絶対温度である。
【数3】

但し、Tは基準温度、αは閾値電圧の温度係数である。
【0008】
ここで、ある温度Tにおけるゲート・ソース間電圧Vgsは、以下の式で表される。
【数4】

【0009】
そして、ゼロ温度係数点のゲート・ソース間電圧VZTCは、上記の式(2)−(4)

【数5】

【0010】
ゼロ温度係数点のドレイン電流IZTCは、式(1)のVgsに式(5)のVZTCを代入して、Vgs=VZTCの条件式を用いると、以下の式で表される。
【数6】

上記の式は、ゼロ温度係数点におけるドレイン電流が温度に対して依存性を有していることを示している。
【0011】
図2に、温度に対するゼロ温度係数点におけるドレイン電流の変化分ΔIZTCを示す。同図は、式(6)から求めたものであり、例えば、単なる一例として、定数をμ=2.295、Cox=250Å、α=−3000ppm/℃、W/L=1とし、VZTC=1.55Vとした場合の結果である。同図から、温度範囲0℃から90℃で、ΔIZTCが約0.095μA変化していることがわかる。
【0012】
したがって、これまでのゼロ温度係数点を用いた基準電圧発生回路は、ゲート・ソース間電圧をゼロ温度係数点の電圧VZTCに固定していたとしても、厳密にはゼロ温度係数点ZTCの位置にも変化があり、なお温度に対する依存性を有していた。
【0013】
本発明は、斯かる実情に鑑み、より高ビット数のA/Dコンバータにも利用可能な温度変化による出力電圧の変化の少ない精密な基準電圧発生回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による基準電圧発生回路は、ゼロ温度係数点を有する基準電圧発生部と、基準電圧発生部の出力を入力として温度補償を行う補償回路部であって、補償回路は、ゼロ温度係数点より低い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が増加する特性を有しそのドレイン端子に基準電圧発生部の出力を入力する第1MOSトランジスタと、ゼロ温度係数点より高い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が減少する特性を有しそのドレイン端子に基準電圧発生部の出力を入力する第2MOSトランジスタと、2つのドレイン電流に対応する電流を加算して出力する出力端子を有するものである。
【0015】
さらに、第1MOSトランジスタのドレイン電流に対応する電流が流れる位置に挿入される第1抵抗素子と、第2MOSトランジスタのドレイン電流に対応する電流が流れる位置に挿入される第2抵抗素子と、を具備するよう構成されても良い。
【0016】
また、加算回路は、第3抵抗素子と第4抵抗素子とを有し、第3抵抗素子の一端が第1MOSトランジスタと第1抵抗素子との間に接続され、第4抵抗素子の一端が第2MOSトランジスタと第2抵抗素子との間に接続され、第1抵抗素子の他端と第2抵抗素子の他端が出力端子に接続されるよう構成されても良い。
【0017】
ここで、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタがN型MOSトランジスタである場合、第1MOSトランジスタは、そのドレイン端子が第1抵抗素子を介して電源に接続され、そのソース端子がグラウンドに接続され、第2MOSトランジスタは、そのドレイン端子が第2抵抗素子を介して電源に接続され、そのソース端子がグラウンドに接続されれば良い。
【0018】
また、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタがP型MOSトランジスタである場合、第1MOSトランジスタは、そのドレイン端子が電源に接続され、そのソース端子が第1抵抗素子を介してグラウンドに接続され、第2MOSトランジスタは、そのドレイン端子が電源に接続され、そのソース端子が第2抵抗素子を介してグラウンドに接続されれば良い。
【0019】
また、第1抵抗素子及び第2抵抗素子は、MOS抵抗で構成されても良い。
【0020】
さらに、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタの特性は、チャネル長とチャネル幅の比率でそれぞれ決定されれば良い。
【0021】
さらにまた、第3抵抗素子及び第4抵抗素子の抵抗値の比率は、2つのドレイン電流に対応する電流の温度に対するそれぞれの変化量の比率に合わせて決定されれば良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明の基準電圧発生回路には、ゼロ温度係数点を有する一般的な基準電圧発生部からの出力をシンプルな回路で補正することで、温度に対してより高安定な基準電圧を生成可能であるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図3は、本発明の基準電圧発生回路の全体構成を説明するためのブロック図である。図示の通り、本発明の基準電圧発生回路は、基準電圧発生部1と補償回路10とからなり、基準電圧発生部1の出力が補償回路10に入力され、補償回路10の出力を基準電圧出力Vrefとする構成となっている。基準電圧発生部1としては、ゼロ温度係数点を有するものであればいかなるものであっても構わない。このような回路としては、例を挙げれば例えば従来技術の特許文献1,2や非特許文献1等が該当する。
【0024】
補償回路10は、基準電圧発生部1からの出力のゼロ温度係数点を基準に、これより低い領域における特性と高い領域における特性が得られるよう構成し、これらを加算して温度補償を行うものである。
【0025】
補償回路10の回路構成を、図4を用いて説明する。図4は、本発明の基準電圧発生回路の補償回路の回路構成の一例を説明するための図である。図示の通り、補償回路10は、N型の第1MOSFET101と第2MOSFET102、第1抵抗素子111と第2抵抗素子112、加算回路110とを具備するものである。第1MOSFETは、基準電圧発生部1のゼロ温度係数点より低い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が増加する特性を有するよう構成される。反対に、第2MOSFETは、基準電圧発生部1のゼロ温度係数より高い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が減少する特性を有するよう構成される。これらのMOSFETの特性について、以下、図5を用いてより具体的に説明する。
【0026】
図5は、本発明に用いられる第1MOSFETと第2MOSFETのゲート・ソース間電圧に対するドレイン電流の変化の一例を表すグラフである。各MOSFETについて、0℃のときと90℃のときのドレイン電流の変化を表しており、それぞれゼロ温度係数点ZTC、ZTCがあることが分かる。このゼロ温度係数点ZTC、ZTCが、基準電圧発生部1の出力電圧を挟むように、各MOSFETのチャネル長とチャネル幅の比率W/Lが設定される。具体的には、図示のような特性の場合、具体的には例えば基準電圧発生部1の出力電圧が1.59Vの場合、第1MOSFETは、ゼロ温度係数点ZTCが1.59Vよりも低い電圧となるようにW/Lを設定する。これは例えばW/L=0.35である。そのときZTCは約1.57Vとなる。そして、第2MOSFETは、ゼロ温度係数点ZTCが1.59Vよりも高い電圧となるようにW/Lを設定する。これは例えばW/L=1である。そのときZTCは約1.61Vとなる。
【0027】
上記のようにチャネル長Lとチャネル幅Wの比率W/Lでそれぞれの特性を決定すれば良いが、上記の各電圧やW/Lの値は、単なる例示であり上記の値には限定されず、基準電圧発生部の出力電圧、より具体的には基準電圧発生部のゼロ温度係数点の上下に各MOSFETのゼロ温度係数点が来るように構成された状態であれば、いかなる値であっても良い。但し、第1MOSFETに関しては、ゼロ温度係数点が余りに低いところになると、ドレイン電流が飽和してしまうためそれよりは高い領域が好ましく、第2MOSFETに関しては、ゼロ温度係数点が余りに高いところになると、ドレイン電流が飽和してしまうためそれより低い領域が好ましい。したがって、各MOSFETのゼロ温度係数点は、基準電圧発生部1の出力電圧の上下であり、かつ飽和しない領域に存在するように適宜構成すれば良い。このように各MOSFETを構成することで、第1MOSFETは基準電圧発生部1のゼロ温度係数点より低い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が増加する特性を有するようになり、第2MOSFETは基準電圧発生部1のゼロ温度係数より高い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が減少する特性を有するようになる。
【0028】
図4を再度参照して補償回路構成を説明すると、第1MOSFET101と第1抵抗素子111が基準電圧発生部1の出力電圧より低い電圧側にゼロ温度係数点が設定された回路を構成し、第2MOSFET102と第2抵抗素子112が基準電圧発生部1の出力電圧より高い電圧側にゼロ温度係数点が設定された回路を構成している。第1MOSFET101のゲート端子は、基準電圧発生部1からの出力Vinを受ける。またドレイン端子は、第1抵抗素子111を介して電源Vddに接続される。そして、ソース端子はグラウンドGNDに接続される。一方、第2MOSFET102のゲート端子は、基準電圧発生部1からの出力Vinを受ける。また、ドレイン端子は第2抵抗素子112を介して電源Vddに接続される。そして、ソース端子はグラウンドGNDに接続される。すなわち、第1抵抗素子111及び第2抵抗素子112は、各ドレイン電流に対応する電流が流れる位置に挿入されている。
【0029】
加算回路110は、上記のように構成された低い領域側の第1MOSFET101と第1抵抗素子111のドレイン電流に対応する電流と、高い領域側の第2MOSFET102と第2抵抗素子112のドレイン電流に対応する電流とを加算するものである。なお、ドレイン電流に対応する電流とは、ドレイン電流の変化に応じて変化する電流であり、これは例えば第1抵抗器111に流れる電流IR1からドレイン電流ID1を引いた電流である。また、第2抵抗器112に流れる電流IR2からドレイン電流ID2を引いた電流である。したがって、加算回路110では、このようなドレイン電流に対応する電流を加算する、すなわち、(IR1−ID1)+(IR2−ID2)という処理を行うものである。
【0030】
本発明における補償回路10について、加算回路110の具体的な回路構成を含めた回路を図6を用いて説明する。図中、図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。図6に示すように、加算回路110は、第3抵抗素子113と第4抵抗素子114とからなるものである。そして、第3抵抗素子113は、第1MOSFET101のドレイン端子と第1抵抗素子111との間にその一端が接続される。一方、第4抵抗素子114は、第2MOSFET102のドレイン端子と第2抵抗素子112との間にその一端が接続される。また、第3抵抗素子の他端と第4抵抗素子の他端が接続され、これが本発明の基準電圧発生回路の出力端子Vrefを構成する。第3抵抗素子113及び第4抵抗素子114は、低い領域側のドレイン電流に対応する電流と高い領域側のドレイン電流に対応する電流との温度に対する変化量の比率に合わせて、その抵抗値の比率を決定すれば良い。
【0031】
なお、図4や図6で例示した補償回路10の加算回路110が接続される部分は、第1MOSFET101と第1抵抗素子111の間、及び第2MOSFET102と第2抵抗素子112の間となっているが、本発明はこれに限定されず、ドレイン電流に対応する電流をそれぞれ加算できるところであればどこの電流を加算するようにしても構わず、また、他の抵抗素子等をさらに用いても勿論構わない。また、MOSFETはN型のものを図示したが、本発明はこれに限定されず、P型のものであっても特性を反転させれば同様に適用可能である。さらに、図示例ではエンハンスメント型MOSFETを用いたが、これらも必要により適宜デプレッション型MOSFETに代替することも勿論可能である。
【0032】
図7に、MOSFETとしてP型のものを用いた場合の本発明における補償回路10の具体的な回路構成を示す。図中、図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。図6等に示したN型MOSFETを用いた場合では、ドレイン端子は抵抗素子を介して電源に接続され、ソース端子はグラウンドに接続されていたが、本実施例のようにP型MOSFETを用いた場合では、図7に示すように、ドレイン端子は電源に接続され、ソース端子は抵抗素子を介してグラウンドに接続されるよう構成されている。そして、第3抵抗素子113は、P型の第1MOSFET101’のソース端子と第1抵抗素子111との間にその一端が接続される。一方、第4抵抗素子114は、P型の第2MOSFET102’のソース端子と第2抵抗素子112との間にその一端が接続される。また、第3抵抗素子の他端と第4抵抗素子の他端が接続され、これが本発明の基準電圧発生回路の出力端子Vrefを構成する。第3抵抗素子113及び第4抵抗素子114は、高い領域側のドレイン電流に対応する電流と低い領域側のドレイン電流に対応する電流との温度に対する変化量の比率に合わせて、その抵抗値の比率を決定すれば良い。なお、P型MOSFETを用いる場合には、特性が反転するため、第1MOSFET101’と第1抵抗素子111が基準電圧発生部1の出力電圧より高い電圧側にゼロ温度係数点が設定された回路を構成し、第2MOSFET102’と第2抵抗素子112が基準電圧発生部1の出力電圧より低い電圧側にゼロ温度係数点が設定された回路を構成することになる。
【0033】
さらに、第1抵抗素子と第2抵抗素子をMOS抵抗で構成することも可能である。図8に、本発明における補償回路10の第1抵抗素子と第2抵抗素子に、P型MOSFETのMOS抵抗を用いた場合の回路図を示す。図中、図4や図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。第3MOSFET103がMOS抵抗を構成し第1抵抗素子に対応するものであり、第4MOSFET104がMOS抵抗を構成し第2抵抗素子に対応するものである。第3MOSFET103のドレイン端子は電源Vddに接続され、ゲート端子がソース端子に接続され第1MOSFET101のドレイン端子に接続される。同様に、第4MOSFET104のドレイン端子は電源Vddに接続され、ゲート端子がソース端子に接続され第2MOSFET102のドレイン端子に接続される。このように構成しても、図6に示した補償回路10と同様の動作が可能である。
【0034】
図9は、本発明の基準電圧発生回路の具体的な回路構成を説明するための図である。図中、図6や図8等と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。図示例の基準電圧発生部1は、非特許文献1に記載の回路構成であり、P型の第5MOSFET105、第6MOSFET106と、N型の第7MOSFET107、第8MOSFET108と、第5抵抗素子115とからなる。より具体的には、第5MOSFET105と第6MOSFET106とでカレントミラー回路を構成しており、それぞれのソース端子が電源Vddに接続され、ゲート端子が互いに接続される。また、それらのゲート端子が第6MOSFET106のソース端子に接続され、且つ第7MOSFET107のドレイン端子にも接続される。第7MOSFET107のゲート端子は、第5MOSFET105のソース端子に接続され、第8MOSFET108のドレイン端子にも接続される。第8MOSFET108のソース端子はグラウンドGNDに接続され、ゲート端子は第7MOSFET107のソース端子に接続され、第5抵抗素子115の一端にも接続される。第5抵抗素子115の他端は、グラウンドGNDに接続される。そして、第5抵抗素子115の両端の電圧を、補償回路10の入力端子である第1MOSFET101と第2MOSFET102のゲート端子に入力する。
【0035】
ここで、図9に示した回路の各構成要素のパラメータの値の一例を表1に挙げる。なお、この値はあくまでも単なる一例であり、本発明の基準電圧発生回路がこの値に限定されるものではない。
【表1】

【0036】
図10に、図9に示した回路構成の基準電圧発生回路の温度に対するドレイン電流に対応する電流の変化のシミュレーション結果を示す。図10(a)が第1MOSFET101のドレイン電流ID1に対応する電流IR1の温度変化による変化を表し、図10(b)が第2MOSFET102のドレイン電流ID2に対応する電流IR2の温度変化による変化を表している。図10(a)から、温度の上昇に伴い電流IR1が減少する特性を示していることが分かる。また、図10(b)から、温度の上昇に伴い電流IR2が60℃までは増加し、60℃以上ではわずかに減少する特性を示していることが分かる。また、0℃から90℃までの温度変化における電流IR1の変化量ΔIR1は、約0.04μAであり、電流IR2の変化量ΔIR2は、約0.08μAであることが分かる。したがって、この変化量の比率に合わせて、第3抵抗素子113と第4抵抗素子114の抵抗値の比率を、例えば表1のように10kΩと20kΩに決定している。
【0037】
図11に、基準電圧発生部1単体での温度に対する出力電圧の変化量と本発明による補償回路10を組み合わせた基準電圧発生回路での温度に対する出力電圧Vrefの変化量を比較したシミュレーション結果を示す。同図から分かるとおり、基準電圧発生部1単体では、0℃から90℃の温度変化に対して、約5mV出力電圧が変化し、温度安定性(TC)が35ppm/℃であるのに対し、本願発明の基準電圧発生回路では、約400μVの出力電圧の変化だけであり、TCは0.7ppm/℃となっている。すなわち、本願発明の基準電圧発生回路では、補償回路10を設けたことにより、出力電圧Vrefの温度安定性TCが約1/50となり、温度に対して非常に安定化できていることが分かる。
【0038】
なお、本発明の基準電圧発生回路は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、MOSFETのゲート・ソース間電圧の変化に対するドレイン電流の変化を表すグラフである。
【図2】図2は、温度に対するゼロ温度係数点におけるドレイン電流の変化分を表すグラフである。
【図3】図3は、本発明の基準電圧発生回路の全体構成を説明するためのブロック図である。
【図4】図4は、本発明の基準電圧発生回路の補償回路の回路構成を説明するための回路図である。
【図5】図5は、本発明に用いられる第1MOSFETと第2MOSFETのゲート・ソース間電圧に対するドレイン電流の変化を表すグラフである。
【図6】図6は、本発明の基準電圧発生回路の補償回路の回路構成を説明するためのより具体的な回路図である。
【図7】図7は、本発明の基準電圧発生回路の補償回路の他の回路構成を説明するための回路図である。
【図8】図8は、本発明の基準電圧発生回路の補償回路の他の回路構成を説明するための回路図である。
【図9】図9は、本発明の基準電圧発生回路の具体的な回路構成を説明するための回路図である。
【図10】図10は、図9に示した回路構成の基準電圧発生回路の温度に対するドレイン電流に対応する電流の変化のシミュレーション結果を表すグラフであり、図10(a)が第1MOSFETのドレイン電流に対応する電流の温度変化による変化を表すグラフであり、図10(b)が第2MOSFETのドレイン電流に対応する電流の温度変化による変化を表すグラフである。
【図11】図11は、基準電圧発生部単体での温度に対する出力電圧の変化量と本発明による補償回路を組み合わせた基準電圧発生回路での温度に対する出力電圧の変化量を比較したシミュレーション結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 基準電圧発生部
10 補償回路
101 第1MOSFET
102 第2MOSFET
103 第3MOSFET
104 第4MOSFET
105 第5MOSFET
106 第6MOSFET
107 第7MOSFET
108 第8MOSFET
110 加算回路
111 第1抵抗素子
112 第2抵抗素子
113 第3抵抗素子
114 第4抵抗素子
115 第5抵抗素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度補償された基準電圧発生回路であって、該回路は、
ゼロ温度係数点を有する基準電圧発生部と、
前記基準電圧発生部の出力を入力として温度補償を行う補償回路部であって、前記ゼロ温度係数点より低い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が増加する特性を有しそのドレイン端子に前記基準電圧発生部の出力を入力する第1MOSトランジスタと、前記ゼロ温度係数点より高い領域において温度の上昇に対してドレイン電流が減少する特性を有しそのドレイン端子に前記基準電圧発生部の出力を入力する第2MOSトランジスタと、2つのドレイン電流に対応する電流を加算して出力する出力端子を有する加算回路と、を有する補償回路部と、
を具備することを特徴とする基準電圧発生回路。
【請求項2】
請求項1に記載の基準電圧発生回路であって、さらに、
前記第1MOSトランジスタのドレイン電流に対応する電流が流れる位置に挿入される第1抵抗素子と、
前記第2MOSトランジスタのドレイン電流に対応する電流が流れる位置に挿入される第2抵抗素子と、
を具備することを特徴とする基準電圧発生回路。
【請求項3】
請求項2に記載の基準電圧発生回路において、前記加算回路は、第3抵抗素子と第4抵抗素子とを有し、
前記第3抵抗素子の一端が第1MOSトランジスタと第1抵抗素子との間に接続され、
前記第4抵抗素子の一端が第2MOSトランジスタと第2抵抗素子との間に接続され、
前記第1抵抗素子の他端と第2抵抗素子の他端が出力端子に接続される、
ことを特徴とする基準電圧発生回路。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の基準電圧発生回路において、前記第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタはN型MOSトランジスタからなり、
前記第1MOSトランジスタは、そのドレイン端子が第1抵抗素子を介して電源に接続され、そのソース端子がグラウンドに接続され、
前記第2MOSトランジスタは、そのドレイン端子が第2抵抗素子を介して電源に接続され、そのソース端子がグラウンドに接続される、
ことを特徴とする基準電圧発生回路。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載の基準電圧発生回路において、前記第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタはP型MOSトランジスタからなり、
前記第1MOSトランジスタは、そのドレイン端子が電源に接続され、そのソース端子が第1抵抗素子を介してグラウンドに接続され、
前記第2MOSトランジスタは、そのドレイン端子が電源に接続され、そのソース端子が第2抵抗素子を介してグラウンドに接続される、
ことを特徴とする基準電圧発生回路。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5の何れかに記載の基準電圧発生回路において、前記第1抵抗素子及び第2抵抗素子は、MOS抵抗であることを特徴とする基準電圧発生回路。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の基準電圧発生回路において、前記第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタの特性は、チャネル長とチャネル幅の比率でそれぞれ決定されることを特徴とする基準電圧発生回路。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7の何れかに記載の基準電圧発生回路において、前記第3抵抗素子及び第4抵抗素子の抵抗値の比率は、2つのドレイン電流に対応する電流の温度に対するそれぞれの変化量の比率に合わせて決定されることを特徴とする基準電圧発生回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−133637(P2007−133637A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325772(P2005−325772)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】