説明

堆積膜形成方法

【課題】均一な堆積膜を安価に安定して製造可能な、堆積膜形成方法を提供する。
【解決手段】
反応容器と、該反応容器の内部にクリーニング性ガスを導入する手段と、該クリーニング性ガスを排気する手段と、前記反応容器の内部に基体を設置するための基体ホルダと、該基体ホルダを回転運動又は往復運動させるための軸と、該軸を支持する軸受とを備え、前記軸および前記軸受の摺動面のうち少なくとも一方が固体潤滑材からなる堆積膜形成装置を用いて前記基体の外周面上に堆積膜を形成する堆積膜形成方法であって、前記基体の外周面上に堆積膜を形成させた後に、前記反応容器の内部にクリーニング性ガスを導入し、前記軸を回転運動又は往復運動させながらクリーニング処理をおこない、前記クリーニング処理中に前記回転運動又は往復運動の駆動状態を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆積膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非単結晶材料で構成された半導体用の堆積膜が提案されている。例えば水素およびハロゲン(例えばフッ素、塩素)の少なくとも一方で補償されたアモルファスシリコン(以下、“a−Si”と略記す。)が光受容部材として用いられている。このような光受容部材は、例えば半導体デバイス、電子写真感光体デバイス、画像入力用ラインセンサー、撮像デバイス、光起電力デバイス、その他各種エレクトロニクス素子、光学素子に、素子部材として用いることができる。
【0003】
この種の堆積膜を形成するための方法についても各種提案されている。例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等である。なかでもプラズマCVD法、すなわち、原料ガスに、DC電力やRF高周波電力を引加して、原料ガスを分解し、円筒状基体の外周面上に堆積膜を形成する方法は、電子写真感光体の形成方法等において、現在、実用化が進んでいる。
堆積膜を形成する際には、堆積膜の膜厚、膜特性の均一化が求められる。そのために、原料ガスの供給や排気方法を工夫したり、堆積膜が形成される被処理基体を回転させたり、プラズマCVD法を用いる場合にはプラズマを均一にする方策を採ったりすることが有効であることが示されている。
【0004】
一方、前述のように、所定の基体の外周面上に堆積膜を形成する場合、堆積膜を形成する反応容器内の他の構成部材等に堆積膜、あるいは粉体状の重合物(以下ポリシランと略記す)が堆積してしまう場合がある。例えば、グロー放電分解によるプラズマCVD法により堆積膜を形成する場合には、反応容器の内側の基体以外の部分である、対向電極あるいは反応容器の内壁に堆積膜あるいはポリシランが形成される。
これらの堆積膜あるいはポリシランは、次回の堆積膜形成時に形成される堆積膜中に不純物として取り込まれる場合が有る。その結果、得られる膜の特性を悪化させたり、あるいは基体の上にポリシランが付着し、形成された堆積膜に欠陥を形成したりする場合がある。
こうしたことから、数回の堆積膜形成サイクル後、あるいは堆積膜形成サイクル毎に反応容器の内部を清掃し、目的とする堆積膜形成箇所以外の部分に堆積した堆積膜あるいはポリシランを除去することが行なわれる。
【0005】
その際の清掃方法として、気相化学反応により、堆積膜あるいはポリシランを形成している元素を気相分子で還元し、クリーニングするいわゆるドライエッチングクリーニング方法が提案されている。
ドライエッチングクリーニング方法(以降、単に「クリーニング処理」と略す)は、ClF3ガス、CF4ガス、NF3ガス、SF6等のいわゆるクリーニング性ガスを、反応容器の内部に導入する。そして、プラズマ、熱、光等のエネルギーにより励起状態とし、堆積膜あるいはポリシランと反応させ、それらの元素を気相分子とし、排気手段によって排除してクリーニングすることが行われている。
特許文献1には、ClF、ClF3、ClF5のうち少なくとも1種を含有するクリーニング性ガスを用いたクリーニング処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2720966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、例えば、電子写真装置の画像特性向上のために電子写真装置内の光学露光装置、現像装置、転写装置等の改良がなされた結果、電子写真感光体においても従来以上の特性の均一性の向上が求められるようになった。そのため、前述のようにクリーニング処理を行う場合、以下のような問題が生じる場合がある。
例えば、回転手段の支持部材の摺動面に設置される固体潤滑材は、一般的には耐食性、耐摩耗性に優れた材料であるが、使用する状況(場所、環境)や、クリーニング処理条件等によっては、まったく腐食が進行しないわけではない。具体的には、固体潤滑材表面にクリーニング性ガスが作用することにより腐食(酸化)が生じ、その結果、固体潤滑材を介しての基体の導通状態が不安定になる場合が有る。また、腐食による変質で摩耗が増加し、円滑な摺動が行えなくなり回転精度が低下してしまう場合が有る。その結果、堆積膜の均一性が低下する場合が有る。
さらには、このような状況で長期間使用した場合、固体潤滑材が相手面と接着し、摺動が困難な場合が有る。その結果、堆積膜の均一性がさらに低下する場合が有る。
【0008】
クリーニング性ガスを使用した場合における以上のような問題点に鑑みて、実使用時には、一定回数のクリーニング処理を実施した後、堆積膜形成装置を停止させ、固体潤滑材を交換する等の対処がなされている。しかし、この対処方法によれば、装置の稼働率が低下し、部品交換によるコストの増加といった問題がある。
別の対処法として、クリーニング性ガスの使用時に、希釈ガスにより極めて低い濃度に希釈して用いるという方法がある。しかし、この場合、クリーニングに要する時間が増加し、製造タクトタイムがアップするという問題がある。その結果、堆積膜の製造コストが増加してしまう。
【0009】
以上述べた如く、クリーニング性ガスを使用する際の上述した問題点を解決し、固体潤滑材が受ける腐食や摩擦による堆積膜の不均一化を抑制し、安定して、かつ安価に均一な堆積膜を形成する方法が望まれている。
本発明は、均一な堆積膜を安価に安定して製造可能な、堆積膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る堆積膜形成方法は、反応容器と、該反応容器の内部にクリーニング性ガスを導入する手段と、該クリーニング性ガスを排気する手段と、前記反応容器の内部に基体を設置するための基体ホルダと、該基体ホルダを回転運動又は往復運動させるための軸と、該軸を支持する軸受とを備え、前記軸および軸受の摺動面のうち少なくとも一方が固体潤滑材からなる堆積膜形成装置を用いて前記基体の外周面上に堆積膜を形成する堆積膜形成方法であって、前記基体の外周面上に堆積膜を形成させた後に、前記反応容器の内部にクリーニング性ガスを導入し、前記軸を回転運動又は往復運動させながらクリーニング処理をおこない、前記クリーニング処理中に前記回転運動又は往復運動の駆動状態を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固体潤滑材のクリーニング性ガスによる腐食や駆動による摩耗を低減させ、安定して均一な堆積膜を形成することができる。また、製造タクトタイムをアップさせずに、製造装置のメンテナンスの頻度を低減できるので、安価に堆積膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】a−Si電子写真感光体の製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】クリーニング処理中の回転数を示すグラフである。
【図3】a−Si電子写真感光体の層構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
(堆積膜形成装置)
図1は、RF(Radio Frequency)−CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、電子写真感光体を製造するための堆積膜形成装置100の一例を模式的に示した図である。堆積膜形成装置100は、プラズマ処理によって円筒状基体102に堆積膜を形成する装置である。円筒状カソード電極103、絶縁体104、上壁105、ゲート弁106、底壁107により、減圧可能な反応容器101を形成している。
【0014】
円筒状基体102は、使用目的に応じた材質であればよい。円筒状基体102の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタンやこれらの合金を用いることができる。中でも加工性や製造コストを考慮するとアルミニウムが優れている。この場合、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金のいずれかを用いることが好ましい。
【0015】
反応容器101の内部には、加熱用ヒータ108が設けられている。加熱用ヒータ108は、真空中で使用可能なものであればどのようなものを用いてもよい。具体的には、シース状ヒータ、板状ヒータ、セラミックヒータ、カーボンヒータの様な電気抵抗発熱体や、ハロゲンランプ、赤外線ランプの様な熱放射ランプや、液体、気体を熱媒とした熱交換手段が対象として挙げられる。
また、反応容器101の内部には、反応容器101の内部に原料ガスを導入するための原料ガス導入管(原料ガス導入手段)109が設けられている。原料ガス導入管109は、保持される円筒状基体102の長手方向に平行に延びている。原料ガス導入管109は接続配管120を介して、原料ガスの流量を調整するためのマスフローコントローラ(不図示)を介在させたミキシング装置121と、原料ガス流入バルブ122からなるガス供給系に接続されている。
【0016】
堆積膜形成装置100が備える排気系は、排気手段である真空ポンプユニット(不図示)が、排気配管123を介して、底壁107の排気口124に接続されている。排気配管123には、排気メインバルブ125が設けられている。また、反応容器101には、その内部の圧力を測定する真空計126が取り付けられている。これらを用いて、反応容器101の内部を、各工程に適した所定の圧力に維持することができる。真空ポンプユニットには、例えばロータリーポンプや、メカニカルブースターポンプを用いることができる。
【0017】
円筒状カソード電極103には、整合回路を有するマッチングボックス110を介して高周波電源(印加手段)111が電気的に接続されている。円筒状カソード電極103の上下は、セラミックスからなる絶縁体104により上壁105および底壁107と絶縁されている。上壁105には反応容器101の内部と外部とを連通させる開閉部であるゲート弁106が設置されており、ここから反応容器101に、円筒状基体102を保持する基体ホルダ112が搬入・搬出・設置される。
【0018】
反応容器101の下部には、円筒状基体102およびキャップ113が装着された基体ホルダ112の長手方向の一端側を回転可能に保持する回転保持機構130が設けられている。この回転保持機構130は、基体ホルダ112を回転させるための回転台131と、この回転台131を支持する支柱132と、支柱132に設置された固体潤滑材からなる軸受133を有している。回転台131は、モータ134により回転させられる。軸受133は、支柱132に固定されており、回転台131と接する面に摺動面を形成している。したがって、円筒状基体102は、基体ホルダ112上に装着された状態で、回転台131と共に支柱132および軸受133を中心として回転させることができる。このとき、回転保持機構130は全て導電部材で構成されているため、基体ホルダ112と底壁107は電気的に接続する状態となる。
【0019】
また、反応容器101の内部には、導電性棒状体140が回転保持機構130の支柱132および加熱用ヒータ108の内部を貫通するようにして設けられている。この導電性棒状体140は、底壁107を貫通し、底壁107の下部に設置された移動装置141に接続されている。この移動装置141によって、導電性棒状体140は基体ホルダ112の長手方向に移動可能となっている。移動装置141は、反応容器101の気密を保持するためのベローおよび導電性棒状体140を移動可能とするためのエアーシリンダ(共に不図示)により構成されている。なお、移動装置141には特に制限は無く、空圧、油圧、水圧を用いたシリンダ機構による駆動方式や、電動モータを用いたボールネジ機構を用いた駆動方式でも良い。
【0020】
基体ホルダ112が回転台131に載置された後、導電性棒状体140は、基体ホルダ112の上面142の中央に形成された穴143を通り、上昇する。
導電性棒状体140は導電性の接続体144を有しており、導電性棒状体140が上昇することで、接続体144は基体ホルダ112の上面142に接触し、基体ホルダ112と導電性棒状体140が導通する構成となっている。さらに導電性棒状体140の上端には第一接触子145が設けられている。
導電性棒状体140が上昇することで、この第一接触子145が基体ホルダ112のゲート弁106の弁体146に接触し、ゲート弁106と導電性棒状体140が導通する構成となっている。なお、導電性棒状体140は基体ホルダ112を反応容器101の内部への搬入・搬出する時に収縮して、設置時に最終的に基体ホルダ112およびゲート弁106と接触し導通がなされるような伸縮可能なものでも良い。
【0021】
導電性棒状体140の接続体144は、固体潤滑材からなる軸受149、および基体ホルダ112の上面142に接触する導電性の第二接触子147を備えた接続部148を有する。軸受149は、導電性棒状体140に固定されており、接続部148と接触する面に摺動面を形成している。基体ホルダ112の回転時は、導電性棒状体140は静止し、接続部148が、導電性棒状体145および軸受149を中心として基体ホルダ112に連れ回りする構成になっている。
【0022】
接続部144の第二接触子147および導電性棒状体140の上端の第一接触子145は導電性の材料であれば特に制限は無い。第一接触子145及び第二接触子147としては、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、白金、鉛、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタン、ステンレスが、電気伝導率が良好であるため好適である。なかでも、発塵や繰り返し使用時の耐久性の点からステンレスが最適である。また、第二接触子147および第一接触子145は、それぞれ上面142および弁体146にそれぞれ接触していれば構成は特に制限はない。しかし、高温下や基体ホルダ112の回転時でも安定して接触し、かつ基体ホルダ112や弁体146の押し上げ防止のために、弾性を有するものが望ましく、板バネが好適である。
以上のように構成された堆積膜形成装置100を用いて堆積膜を形成する手順の一例について図1、図2を用いて説明する。
【0023】
(堆積膜形成方法)
まず、反応容器101の内部に、円筒状基体102およびキャップ113が装着された基体ホルダ112を搬入し、回転保持機構130の上に載置した後、ゲート弁106の弁体146が閉まる。続いて、導電性棒状体140が上昇し、導電性棒状体140の接続体144の第二接触子147が基体ホルダ112の上面142と、導電性棒状体140の第一接触子145が弁体146とそれぞれ接触する。そして、基体ホルダ112の長手方向両端が反応容器101と電気的に接続され、導通状態となる。このとき、キャップ113の上端部が基体ホルダ112と接触しているため、基体ホルダ112およびキャップ113を介して円筒状基体102の長手方向両端が反応容器101と電気的に接続、導通状態となっている。
【0024】
その後、真空ポンプユニット(不図示)により排気された反応容器101の内部に、ミキシング装置121、原料ガス流入バルブ122、接続配管120および原料ガス導入管109を介して、円筒状基体102の加熱に必要な、例えばAr,Heガスを導入する。そして、反応容器101の内部を所定の圧力になるように、真空計126を確認しながら真空ポンプユニット(不図示)の回転周波数を調整する。この調整は、例えば、真空ポンプユニット(不図示)のメカニカルブースターポンプの回転周波数を調整することによって行うことができる。
次に、所定の圧力になった後、加熱用ヒータ108により円筒状基体102の温度を200[℃]〜450[℃]、より好ましくは250[℃]〜350[℃]の所望の温度に制御する。
【0025】
以上の手順によって堆積膜を形成する準備が完了した後、円筒状基体102の外周面上に堆積膜の形成を行う。このために、まず、堆積膜形成用の原料ガスとして、主原料ガスと希釈ガスおよび特性改善ガスを、ミキシング装置121を介して混合して導入し、導入ガスが所望の流量になるように調整する。その際、反応容器101の内部の圧力が13.3[mPa]〜1330[Pa]の所望の圧力になるように、真空計126を確認しながら真空ポンプユニット(不図示)の回転周波数を調整する。
【0026】
堆積膜形成時に使用する主原料ガスとしては、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、四フッ化ケイ素(SiF)、六フッ化二ケイ素(Si)のアモルファスシリコン形成用の原料ガス、またはそれらの混合ガスを用いることができる。希釈ガスとしては、水素(H)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)を用いることができる。また、特性改善ガスとして、窒素原子を含むもの、酸素原子を含むもの、炭素原子を含むもの、またはフッ素原子を含むもの、あるいはこれらの混合ガスを併用してもよい。この際に用いる窒素原子を含むものとしては、窒素(N)、アンモニア(NH)が挙げられる。酸素原子を含むものとしては、酸素(O)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、酸化二窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)が挙げられる。炭素原子を含むものとしては、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、アセチレン(C)、プロパン(C)が挙げられる。フッ素原子を含むものとしては、四フッ化ゲルマニウム(GeF)、フッ化窒素(NF)が挙げられる。また、ジボラン(B)、フッ化硼素(BF)、ホスフィン(PH)の特性改善ガスを同時に放電空間に導入してもよい。
【0027】
次に、反応容器101の内部の圧力が安定した後、高周波電源111を所望の電力に設定して、高周波電力を、マッチングボックス110を介して円筒状カソード電極103に供給することで、高周波グロー放電を生起させる。供給電力は、例えば、13.56[MHz]の周波数とすることができる。この放電エネルギーによって、反応容器101の中に導入された堆積膜形成用の原料ガスが励起されて励起種が生成され、すなわち分解されて、円筒状基体102の外周面上に堆積膜が形成される。
均一な堆積膜を形成するために、堆積膜を形成するのと同時期、あるいは円筒状基体102を加熱する段階から、円筒状基体102を回転させる。この回転は、0.5[rpm]〜20[rpm]、例えば10[rpm]の回転速度とする。こうすることで、円筒状基体102の周方向に均一な堆積膜が形成される。
【0028】
以上のようにして円筒状基体102の外周面上に堆積膜が形成される。
堆積膜が形成された後には、堆積膜形成用の原料ガスおよび高周波電力、加熱用ヒータ108の電力の供給を停止し、反応容器101の中を排気する。その後、反応容器101および原料ガス導入管109内をパージガス、例えばArやHeの様な不活性ガスおよびNの少なくとも一方を用いてパージ処理する。パージ処理完了後、円筒状基体102が装着された基体ホルダ112を反応容器101の中から搬出する。搬出の際は、導電性棒状体140は下降する。
【0029】
(クリーニング処理)
その後に、反応容器101の中に堆積した堆積膜およびポリシランをクリーニング処理する。手順としては、まず、円筒状基体102の替わりに、略同一形状のクリーニング用ダミー基体(不図示)を装着した基体ホルダ112を、反応容器101に搬入、設置する。
その後、前述と同様に、導電性棒状体140を上昇させる。そして、導電性棒状体140の上端の第一接触子145をゲート弁106の弁体146に接触させる。
【0030】
次に、真空ポンプユニット(不図示)により反応容器101の中を排気する。続いて、反応容器101の中にミキシング装置121および原料ガス導入管109を介してクリーニング処理に必要なクリーニング性ガスを導入する。そして、反応容器101の内部の圧力を所定の圧力になるように真空計126を確認しながら真空ポンプユニット(不図示)の回転周波数を調整する。
クリーニング処理時に使用するクリーニング性ガスとしては、例えばCF、CF/O、SF、NF、ClF(三フッ化塩素)が挙げられるが、本実施形態では、クリーニング時間を短縮する面から有効であるClFを用いる。また、本実施形態においては、クリーニング性ガスの濃度を調整するためにも、希釈用の不活性ガスを用いることが有効である。この不活性ガスとしては、例えばHe、Ne、Arが挙げられるが、なかでもArを用いることが好ましい。
【0031】
反応容器101の内部の圧力が安定した後、基体ホルダ112を回転させる。すなわち、クリーニング処理中に回転台131および接続部148を駆動させる。この回転は、0.5[rpm]〜20[rpm]、例えば10[rpm]の回転速度とする。そして、高周波電源111を所望の電力に設定して、高周波電力を、マッチングボックス110を介して円筒状カソード電極103に供給することで、高周波グロー放電を生起させる。供給電力は、例えば、13.56[MHz]の周波数とすることができる。この放電エネルギーによって、反応容器101の中に導入されたクリーニング性ガスが分解され、反応容器101の内部のクリーニング処理が開始される。
【0032】
次に、例えば所定の時間が経過後、基体ホルダ112の回転数を、例えば2[rpm]の回転速度とする。こうすることで、クリーニング処理中に回転台131および接続部148の駆動状態を変化させることになる。このときのクリーニング処理中の基体ホルダ112の回転数の変化を図2(a)に示している。
図2(a)〜(c)は、クリーニング処理中の、基体ホルダ112の回転数を示した略図である。それぞれ、横軸はクリーニング処理中の経過時間を示し、縦軸は、クリーニング処理中における基体ホルダ112の回転数を示している。
その後、例えば所定の時間が経過後、
クリーニング処理用の原料ガスおよび高周波電力の供給を停止し、反応容器101の中を排気する。その後、反応容器101および原料ガス導入管109の内部をパージガス、例えばArやHeの様な不活性ガスおよびN2の少なくとも一方を用いてパージ処理する。パージ処理完了後、クリーニング用のダミー基体(不図示)が装着された基体ホルダ112を反応容器101から搬出する。
【0033】
以上のように構成される本実施形態の堆積膜形成方法によれば、まずクリーニング処理中に、固体潤滑材からなる軸受133、軸受149に対して軸となる回転台131、接続部148を駆動させることができる。それにより、固体潤滑材の摺動面部のクリーニング性ガスによる腐食を低減することが可能となる。
これは、固体潤滑材は、自己潤滑材のため、固体潤滑材からなる軸受(軸受133および軸受149)と、これらに接する軸(回転台131および接続部148)が摺動することで、常に新しい摺動面が形成される。そのため、固体潤滑材の摺動面部のクリーニング性ガスによる腐食を低減することが可能となる。
【0034】
逆に、軸受と軸を摺動させずに、クリーニング処理を実施した場合、前述の摺動させる場合と比較すると、加速度的に腐食が進行する。それにより、固体潤滑材の種類によってあるいは、クリーニング条件および処理回数によっては、固体潤滑材の摺動面と摺動相手の面が接着し、摺動が困難になり、さらに導通状態が不安定となる場合が有る。
よって、例えば、回転数を上げることで、新しい摺動面の形成を増加させれば、さらに腐食は低減されることになる。
【0035】
一方、回転数を上げることで、固体潤滑材の機械的摩耗は増加することになる。そのため、一義的に回転数を上げても、クリーニング性ガスによる腐食は低減できるが、摩耗により回転精度が低下する場合がある。
固体潤滑材のクリーニング性ガスによる腐食の進行速度を決める要因の1つに、固体潤滑材の使用温度が挙げられる。つまり、高温でクリーニング性ガスに接触させる方が、低温で接触させる場合に比べ、腐食の進行が速くなる。
【0036】
クリーニング処理は、まずクリーニング性ガスが供給される反応容器101が主に実施される。その結果、反応容器101のクリーニングがまず完了し、その後、排気配管123、さらに真空ポンプユニット(不図示)近傍のクリーニング処理が完了していく。
また、クリーニング性ガスが、ポリシランや堆積膜と化学反応する際、上壁105、円筒状カソード電極103、回転台131、排気配管123との間で、熱エネルギーの授受が行われる。そのため、反応容器101の構成部品や、排気配管123の温度が上昇する。
【0037】
以上より、クリーニング処理の進行に伴い、まず反応容器101の内部の温度が上昇し、その後反応容器101のクリーニング処理が終了すると、反応容器101の内部の温度が低下していく。よって、固体潤滑材は、その設置されている場所によって、クリーニング処理中において使用温度が変化している。
その結果、固体潤滑材の温度が高い状態の時は、回転数を高くすることで、腐食を低減させ、温度が低い状態の時は、回転数を低くすることで、摩耗を低減させることにより、最適な腐食および摩耗の低減を行うことが可能となる。
つまり、本実施形態のような、クリーニング処理中は軸を駆動させ、さらに、クリーニング処理中に軸の駆動状態を変化させることで、摩耗を抑えつつ、固体潤滑材の摺動面部のクリーニング性ガスによる腐食を低減可能となる。
【0038】
本発明において、駆動状態の変化の仕方は特に制限されるものでは無く、状況に応じて最適な変化がなされる。
例えば、図1に示す堆積膜形成装置においては、クリーニング処理中、反応容器101の上下端側の位置に固体潤滑材が設置されている。よって、図2(a)に示したように、まずは回転数の高い駆動状態(クリーニング1の条件)でクリーニング処理をし、反応容器101の内部のクリーニング処理がほぼ終了した時点で、回転数の低い駆動状態(クリーニング2の条件)に変化させてもよい。
【0039】
さらに、前述のように固体潤滑材の設置されている位置、さらには、クリーニング処理中のクリーニング性ガスの導入位置、ガス導入量、希釈率、あるいは投入パワー等によって、駆動状態は適宜決定される。例えば、図2(b)のように、クリーニング処理開始からクリーニング1およびクリーニング2のそれぞれにおいて、徐々に回転数を低下させても良い。また、図2(c)のように、クリーニング1ではクリーニング処理初期は徐々に回転数を上げ、その後、一定回転数でクリーニング処理した後に、クリーニング2において回転数を徐々に下げても良い。
【0040】
前述のように、クリーニング処理は、反応容器101の内部から、排気配管123、さらに真空ポンプユニット(不図示)近傍の順に処理が、完了していく。そのため、反応容器101の内部のクリーニング処理の最中、すなわち固体潤滑材の温度が高い状態のときは、回転数の高い駆動状態(クリーニング1の条件)でクリーニング処理をおこなう。こうすることで、固体潤滑材の腐食を低減させることができるからである。そして、反応容器101の内部のクリーニング処理がほぼ終了した後、すなわち固体潤滑材の温度が低い状態のときは、回転数の低い駆動状態(クリーニング2の条件)に変更してクリーニング処理をおこなう。こうすることで、固体潤滑材の摩耗を低減させることができるからである。このように駆動状態を所定の時期に低減させることにより、固体潤滑材の耐久性を向上させることができる。
【0041】
本発明において、駆動状態を変化させる時期に関しては特に制限されるのもでは無く、状況に応じて最適な変化がなされる。
例えば、駆動状態をクリーニング1からクリーニング2へ変化させる時期としては、前述のように、固体潤滑材が使用されている反応容器101の内部のクリーニング処理が終了する前後となる。時期の判断の仕方に特に制限は無く、例えばクリーニング処理が終了する時間を予め決定し、その時間を用いて、駆動状態を変化させる時期としても良い。
【0042】
また、堆積膜形成装置100の一部の温度をモニターし、そのモニター値に基づいて駆動状態を変化させる時期としても良い。
例えば、反応容器101の内部の一部を、熱電対等の温度測定器を用いて、その温度をモニターし、モニター値が所定の温度を超えた時点を、駆動状態を変化させる時期としても良い。また、モニター値がピーク値を超えた時点で、あるいはピーク値を超えて所定の時間経過後を、駆動状態を変化させる時期としても良い。
また、例えば、反応容器101と排気装置(不図示)間の、排気配管123の外部の表面の温度をモニターし、前述のように駆動状態を変化させる時期を決めても良い。
【0043】
本発明において使用される、固体潤滑材としては特に制限は無く、堆積膜形成条件によって、適宜選択されれば良い。
例えば、WS、黒鉛、BNからなる固体潤滑剤は、導電性および耐熱性あり、これらをW系合金、Cu系合金、Ni系合金からなる金属マトリックス材中に分散させた、固体潤滑材等が挙げられる。
【0044】
本発明における軸受および軸は、少なくとも一方の摺動面に固体潤滑材を用いていれば、特に制限は無い。
本発明における軸とは、動く部分を示しており、その形態に関しては特に制限は無い。例えば、前述のように円筒状基体102を回転させるための、回転台131、接続部148のような回転運動する形態でもよい。なお、本発明では回転台131および接続部148の両方を軸とした実施形態を示したが、基体ホルダ112を回転させることができる形態であれば、軸はいずれか一方でも構わない。また例えば、部品を上下あるいは前後に移動させるための、往復運動する形態でもよい。往復運動する形態としては、モータとギアを用いた駆動機構、電磁石、エアシリンダなどを好適に用いることができる。
【0045】
本発明における軸受とは、前述の様な回転運動や往復運動を行う軸に接して荷重を受けて、軸を支持する部品である。軸受の形態としては特に制限は無く、玉や「ころ」の転がり運動を利用した転がり軸受や、潤滑機能を利用したすべり軸受が用いられる。
また、本発明における、駆動とは、前述のように回転運動あるいは往復運動を行っている状態を示している。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の説明では上述した実施形態において示したものと同じ部分に対しては同じ符号を用いて説明する。
【0047】
<実施例1>
図1に示す堆積膜形成装置100を用いて、アルミニウムよりなる直径84mm、長さ381mm、肉厚3mmの円筒状基体102の表面に、表1に示す条件で、堆積膜を形成して図3に示す層構成のa−Si電子写真感光体の作製をおこなった。符号301は円筒状基体、符号302は下部阻止層(第1層)、符号303は光導電層(第2層)、符号304は表面層(第3層)をそれぞれ示す。
【0048】
本実施においては、表2に示す条件で、クリーニング処理をおこなった。まず、原料ガス導入管109を介して表2の「クリーニング1」の条件でクリーニング性ガスを導入した。そして、クリーニング1をおこなっている間は、回転軸である回転台131および接続部148を駆動させ、円筒状基体102の回転数を表2に記載した「クリーニング1」の欄に示すように10[rpm]で回転させた。
【0049】
クリーニング処理中には、排気メインバルブ125と接続されている、反応容器101側の排気配管123の外部表面に熱電対を取付け、排気配管123の外部表面の温度モニターを実施した。そして、排気配管123の外部表面の温度が所定の温度(ここでは、温度70℃)を超えた時点で、反応容器101の内部のクリーニング処理が終了したと判断して、クリーニング処理条件を表2に記載の「クリーニング2」に変更した。つまり、回転軸である回転台131および接続部148の駆動状態を、10[rpm]の回転から2[rpm]の回転状態に変更した。回転状態の変更は図2(a)に示した通りである。その後は、予め決定されたクリーニング処理終了時間までクリーニング処理をおこなった。
【0050】
また、本実施例においては、軸受133および軸受149としてWSを含む富士ダイス(株)社製のFW−430Lを用い、回転軸となる回転台131および接続部148には、ニッケルを加工したものを使用した。
軸受133、軸受149および回転台131、接続部148を新品に交換後、堆積膜の形成及びクリーニング処理を30回実施した。そして、1回目および、30回目に作製されたa−Si電子写真感光体に関して、「軸方向帯電ムラ」「周方向帯電ムラ」の評価を以下のように実施した。
【0051】
(「軸方向帯電ムラ」「周方向帯電ムラ」の評価)
a−Si電子写真感光体の帯電ムラの評価には、複写機(キヤノン製複写機iRC6880N)を表面電位測定用に改造したものを用いた。表面電位を測定する際には、現像器を取り外し、現像器の代わりにa−Si電子写真感光体の軸方向の所定の位置の表面電位を測定できる電位プローブ(TREK社製Model344)を装着した。
プロセススピードを265mm/sec、前露光(波長660nmのLED)の光量を4lx・sとし、主帯電器の電流値を1000μAの条件にして電子写真感光体を帯電した。
このとき、表面電位計により電子写真感光体の暗部表面電位を測定した。そして、電子写真感光体の中央部位置を0位置とし、そこから軸方向に両側夫々4cm間隔で8点(±4cm,±8cm,±12cm,±16cm)の合計9点の電位を測定した。
また、各9点について、それぞれ周方向36点の電位を測定した。
【0052】
「軸方向帯電ムラ」
軸方向の各9点において、得られた周方向36点の電位の平均値を求めた。得られた各位置の前記平均値の最大値と最小値の電位差を軸方向帯電ムラとした。
「周方向帯電ムラ」
軸方向の各9点において、得られた周方向36点の電位の最大値と最小値の電位差を求めた。9点のうちで、電位差が最も大きい値を周方向帯電ムラとした。
得られた結果を表3に示す。いずれの評価も比較例1で得られた1回目に作成されたa−Si電子写真感光体の結果を100としたときの、相対評価でおこなった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
<実施例2>
本実施例では、実施例1と同様に、a−Si電子写真感光体の作製をおこなった。但し、本実施例においては、以下のようにクリーニング処理をおこなった。まず、原料ガス導入管109を介して表2に記載の「クリーニング1」の条件でクリーニング性ガスを導入した。そして、所定の時間をかけて、回転台131および接続部148の回転速度を、クリーニング処理開始時の0[rpm](静止状態)から、10[rpm]まで直線的に増加させた。本実施例においては、所定の時間とは、あらかじめ同一条件でクリーニング処理を実施した時に、加熱用ヒータの表面に取り付けた熱電対の温度が、室温から温度100℃になる時間とした。その後回転数は、10[rpm]一定で、クリーニング処理を続けた。
【0056】
次に、実施例1同様、排気メインバルブ125と接続されている、反応容器101側の排気配管123の外部表面に取付けた熱電対の温度が所定の温度(ここでは、温度50℃)を超えた時点で、回転数を変化させた。変化の方法は、10[rpm]から、0[rpm](静止状態)まで、予め決定されたクリーニング処理終了時間まで直線的に変化させた。これら、回転数とクリーニング処理の経過時間との関係は、図2(c)に示した通りである。そして、実施例1と同様にしてa−Si電子写真感光体を作製し、同様の評価をおこなった。
【0057】
<実施例3>
本実施例では、実施例1と同様に、a−Si電子写真感光体の作製をおこなった。但し、本実施例においては、以下のようにクリーニング処理をおこなった。まず、原料ガス導入管109を介して表2に記載の「クリーニング1」の条件でクリーニング性ガスを導入した。そして、クリーニング処理開始時に回転軸である回転台131および接続部148を駆動させ、円筒状基体102を回転数12[rpm]で回転させた。そして、予め決定されたクリーニング1の終了時間まで回転数を直線的に変化させ、クリーニング1の終了時に回転数を8[rpm]とした。本実施例において、予め決定されたクリーニング1の終了時間とは、予め同一条件でクリーニング処理を実施した時に、加熱用ヒータの表面に取り付けた熱電対の温度が、室温から温度110℃になる時間とした。次に予め決定されたクリーニング処理時間まで、回転数を8[rpm]から0[rpm](静止状態)まで直線的に変化させた。これら、回転数とクリーニング処理の経過時間との関係は、図2(b)に示した通りである。そして、実施例1と同様にしてa−Si電子写真感光体を作製し、同様の評価をおこなった。
【0058】
<比較例1>
本比較例では、実施例1と同様に、a−Si電子写真感光体の作製をおこなった。但し、本比較例では、クリーニング処理中に、円筒状基体102の回転数を0[rpm]の停止状態でおこなった。
そして、実施例1と同様にしてa−Si電子写真感光体を作製し、同様の評価をおこなった。
<比較例2>
本比較例では、実施例1と同様に、a−Si電子写真感光体の作製をおこなった。但し、本比較例では、クリーニング処理中の、円筒状基体102の回転数を10[rpm]一定とし、クリーニング処理中に駆動を変化させなかった。
そして、実施例1と同様にしてa−Si電子写真感光体を作製し、同様の評価をおこなった。
<比較例3>
本比較例では、実施例1と同様に、a−Si電子写真感光体の作製をおこなった。但し、本比較例では、クリーニング処理中の、円筒状基体102の回転数を2[rpm]一定とし、クリーニング処理中に駆動を変化させなかった。
そして、実施例1と同様にしてa−Si電子写真感光体を作製し、同様の評価をおこなった。
【0059】
【表3】

【0060】
表3から明らかなように、本発明の堆積膜形成方法によれば、a−Si電子写真感光体の電気特性の均一性が、達成可能であることが判った。
この理由に関しては、以下のように推測される。
30回目のクリーニング処理終了後、円筒状基体102およびキャップ113が装着された基体ホルダ112を反応容器101の内部に設置し、図1の状態で反応容器101の内部の圧力を大気状態にした。その後、ゲート弁106を取り除き、円筒状基体102の表面と、導電性棒状体140の表面との導通に関してチェックをおこなった。円筒状基体102を堆積膜形成時と同じ10[rpm]で回転させ、円筒状基体102の表面と導電性棒状体140の表面間の抵抗をテスターにて測定をおこなったところ、実施例1、実施例2、実施例3、および比較例2に関しては、回転中も安定していた。一方、比較例1に関しては、回転中に、十数Ωの変動が観察され、比較例3に関しては、回転中に数Ωの変動が観察された。そこで、比較例1および比較例3に関しては、軸受149を新品に交換したところ、実施例1及び比較例2と同様、回転中も安定した。
このことから、比較例1及び比較例3において抵抗が変動したのは、固体潤滑材からなる軸受149の劣化が原因と考えられる。
【0061】
また、実施例1、実施例2、実施例3、比較例2、および比較例3から、クリーニング処理中に軸149を駆動させることで、接続部148との摺動面における固体潤滑材の変質が抑制され、導通の安定性が向上することが分かった。さらに、比較例2と比較例3から、回転数が高いほど、導通の安定性の向上が得られることが分かった。このように、クリーニング処理中に軸を駆動させることで、円筒状基体102の上下方向でのインピーダンスの不均一が大幅に軽減される。そのため、上下方向でのプラズマの均一性が向上し、長期使用後も均一な堆積膜形成が可能であることが分かった。
さらに、前述と同様に円筒状基体102を10[rpm]で回転させ、円筒状基体102の中央部の表面で、回転時の振れを、ダイヤルゲージを用いて測定したところ、実施例1実施例2、および実施例3に関しては、ビビリや偏芯が極めて小さいことが分かった。一方、比較例1においては、顕著なビビリが観測された。軸受133および軸受149周辺を観察したところ、それぞれ、軸となる相手側の摺動面において、固体潤滑材の一部が変質した、微小な固着物があるのが観察され、その影響で円滑に摺動していないことが分かった。
【0062】
一方、比較例2、比較例3においては、偏芯量が実施例1や実施例2、実施例3に比べ大きく、不定期ではあるが、短時間なビビリの発生が観測された。軸受133および軸受149を観察したところ、軸となる相手側と摺動している面の摩耗が、実施例1や実施例2、実施例3に比べ、進行していることが分かった。そのため、軸受と軸との摺動面部分に隙間が生じ、それが原因で偏芯量が大きくなり、突発的にビビリが発生していると考えられる。摩耗量が実施例1や実施例2、実施例3に比べ増加している原因に関しては、以下のように推測される。
【0063】
実施例1、実施例2、および実施例3と、比較例3とを比べた場合、「クリーニング1」においては、実施例1、実施例2、および実施例3の方が、回転数が多いので、クリーニング性ガスによる腐食の進行は低減される。しかし、回転数が多いので、摩耗に関しては進行し易くなる。
「クリーニング2」においては、回転数には差は無い。「クリーニング2」においては、反応容器101の内部のクリーニング処理(クリーニング1)が終了しているため、固体潤滑材の温度は低下し、腐食が進行し難い状態となっている。
一方、腐食部分と、腐食無しの部分を比較した場合、同一の回転数であっても、腐食が進行している方が摩耗量は多くなる。これは、腐食により、本来の円滑な摺動が達成できていないので、摩耗量が増加してしまうからである。
よって、実施例1、実施例2、および実施例3は、腐食が進行し易い「クリーニング1」で腐食を抑制することで、腐食の影響による摩耗量の増加を抑制している。一方、比較例3は、「クリーニング1」での腐食の抑制が充分でないため、実施例1、実施例2、および実施例3よりは、回転数が低いので機械的摩耗条件は有利であるが、腐食による摩耗量の増加が顕著となる。そのため、実施例1、実施例2、および実施例3に比べて、クリーニング2の段階において摩耗量が増加していると考えられる。
【0064】
次に、実施例1、実施例2、および実施例3と、比較例2とを比べた場合、「クリーニング2」においては、実施例1、実施例2、および実施例3の方が、回転数が少ないので、クリーニング性ガスによる腐食は進行し易くなり、回転数が少ないので、摩耗に関しては進行し難くなる。しかし、「クリーニング2」においては、反応容器101の内部のクリーニング処理(クリーニング1)が終了しているため、固体潤滑材の温度は低下し、腐食が進行し難い状態である。よって、機械的な摩耗条件が有利である実施例1、実施例2、および実施例3の方が、摩耗量が少なくなっていると考えられる。
以上のように、本発明によれば、固体潤滑材の温度が高く、腐食が進行し易い状態の時は、回転数を高くすることで、腐食を低減させている。さらに、温度が低く、腐食が進行し難い状態の時は、回転数を低くすることで、摩耗を低減させることにより、最適な腐食および摩耗の低減を行うことが可能となる。
【0065】
その結果、本発明によれば、クリーニング処理中は軸を駆動させ、さらに、クリーニング処理中に前記駆動状態を変化させることで、固体潤滑材のクリーニング性ガスによる腐食および摩擦によるダメージを低減させることができる。これにより、安定して均一性な堆積膜を形成することができる。
よって、メンテナンス頻度を低減しても安定して均一な堆積膜が形成できるので、安価に堆積膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0066】
100 堆積膜形成装置
101 反応容器
102 円筒状基体
103 円筒状カソード電極
104 絶縁体
105 上壁
106 ゲート弁
107 底壁
108 加熱用ヒータ
109 原料ガス導入管
110 マッチングボックス
111 高周波電源
112 基体ホルダ
113 キャップ
120 接続配管
121 ミキシング装置
122 原料ガス流入バルブ
123 排気配管
124 排気口
125 排気メインバルブ
126 真空計
130 回転保持機構
131 回転台(軸)
132 支柱
133 軸受
134 モータ
140 導電性棒状体
141 移動装置
142 上面
143 穴
144 接続体
145 第一接触子
146 弁体
147 第二接触子
148 接続部(軸)
149 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器と、該反応容器の内部にクリーニング性ガスを導入する手段と、該クリーニング性ガスを排気する手段と、前記反応容器の内部に基体を設置するための基体ホルダと、該基体ホルダを回転運動又は往復運動させるための軸と、該軸を支持する軸受とを備え、前記軸および前記軸受の摺動面のうち少なくとも一方が固体潤滑材からなる堆積膜形成装置を用いて前記基体の外周面上に堆積膜を形成する堆積膜形成方法であって、
前記基体の外周面上に堆積膜を形成させた後に、前記反応容器の内部にクリーニング性ガスを導入し、前記軸を回転運動又は往復運動させながらクリーニング処理をおこない、前記クリーニング処理中に前記回転運動又は往復運動の駆動状態を変化させることを特徴とする堆積膜形成方法。
【請求項2】
前記クリーニング処理において、前記固体潤滑材の温度が高い状態のときの駆動状態よりも前記固体潤滑材の温度が低い状態のときの駆動状態を低くすることにより、前記固体潤滑材の温度が高いときは固体潤滑材の腐食を低減させ、前記固体潤滑材の温度が低い状態のときは固体潤滑材の摩耗を低減させる、請求項1に記載の堆積膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−108148(P2013−108148A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255798(P2011−255798)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】