説明

塗布膜の製造装置、製造方法および乾燥装置並びに光学フィルム

【課題】わずかな乾燥ムラの発生をも抑制しながら少なくとも自然乾燥よりも乾燥速度を早く維持できる面性も生産性も向上できる製造装置、製造方法および乾燥装置乾燥装置並びに光学フィルムを提供する。
【解決手段】塗布装置の塗布部から乾燥炉の搬入口までの塗布膜搬送距離が0.2m以上〜0.8m以下の範囲にある。乾燥炉内は複数の乾燥路に分割され乾燥路毎に給排気手段を有しており、吸気手段と塗布膜搬送部をつなぐ空間に整風部材を兼ね備えたことを特徴とする。また、天板と底板との距離を10mm以上〜100mm以下の範囲とし、天板と塗布膜との高さL1と、底板と基材との底板側間隙の高さL2と、の関係が高さL1≦高さL2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布膜の製造装置および製造方法に関するものである。特に、塗布液に有機溶剤を含み膜厚精度として誤差1%以下の膜厚ムラが製品上欠陥として認識される光学フィルム等の製造において使用される塗布膜の製造装置、製造方法および乾燥装置並びに光学フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年ウェットコーティング技術を利用して製造される光学フィルム製品には、膜厚精度として誤差1%以下を要求されるような製品が増えてきている。そのような光学フィルムの製造では、一般的に塗布液の溶媒として有機溶剤を使用することが多いが、有機溶剤は水に比べると蒸発速度が速く、塗布後の乾燥過程において精密に乾燥しないと、風紋のようなムラを生じせしめることが知られている。
【0003】
従来は塗布膜の乾燥効率を上げることを目的とする技術が多く、例えば特許文献1には走行する基材の両面に熱風を当てる方法が提案されているが、この方法では熱風を塗布膜面に当てるためムラが発生し、高い膜厚精度を要求される製品では用いることができない。
【0004】
一方で、精密な塗膜の形成のために乾燥効率よりも精密に乾燥することに重きをおいた技術も提案されている。例えば、特許文献2では乾燥初期に膜面の乾燥風の風速を低くすることが提案されている。
また、特許文献3では乾燥時の雰囲気溶剤濃度を飽和状態にして極力乾燥速度を抑えることで結果的に精密な乾燥を行なうことも提案されている。
しかし、これらの方法は乾燥速度を遅くすることでムラのない面状を達成しようとするものであり、生産性が落ちるという欠点が存在する。
【0005】
そこで、少しでも乾燥速度を上げるために蒸発した溶剤を効率的に除去しながら乾燥する方法として、特許文献4では走行する基材を囲み基材搬送部と溶剤除去部に分割して蒸発した溶剤を溶剤除去部の横風で常に除去しながら乾燥する方法が提案されている。この方法は基材搬送部を基材近傍に狭く区切っていることが特徴である。
また、特許文献5では横風で除去するのではなく、凝縮板に蒸発した溶剤を凝縮させて除去する方法が提案されている。
また、乾燥速度を上げるために乾燥風を整流化しながら横風を直接走行する基材に当てる方法も提案されている。しかし、例えば特許文献6に記載の方法では、特に乾燥初期の塗液粘度が1.5倍まで上昇するまでは風を当てないことを前提としており、乾燥速度を飛躍的に向上させることはできない。
これらの方法は、乾燥速度を大気中に放置したいわゆる自然乾燥の乾燥速度よりも上げることができず、飛躍的な生産性の向上ができないことが問題になる。
【特許文献1】特開2002−59074号公報
【特許文献2】特開2003−126768号公報
【特許文献3】特開2002−320898号公報
【特許文献4】特開2003−93954号公報
【特許文献5】特表2002−515585号公報
【特許文献6】特開2005−81256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明における課題は、わずかな乾燥ムラの発生を抑制しながら少なくとも自然乾燥よりも乾燥速度を早く維持でき、面性と生産性を向上することができる塗布膜の製造装置、製造方法および乾燥装置乾燥装置並びに光学フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、搬送中の帯状の基材に溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布装置と、前記基材に形成した塗布膜を搬送しながら乾燥させる乾燥装置とを有する塗布膜の製造装置において、前記乾燥装置は、少なくとも、乾燥路と、給気口と、給気手段と、排気口と、排気手段と、整風部材とを備え、前記乾燥路は、前記塗布膜をその厚さ方向で挟んで対向する天板および底板と、前記塗布膜をその幅方向で挟んで対向し前記天板と前記底板の両側を接続する右側板および左側板とを含んで構成され、前記乾燥路の前記塗布膜の搬送方向の上流端に搬入口が設けられ、前記乾燥路の前記塗布膜の搬送方向の下流端に搬出口が設けられ、前記給気口は、前記乾燥路の右側板または左側板の一方に配置され、前記給気手段は、前記給気口を介して前記乾燥路内に空気を給気し、前記排気口は、前記左側板または右側板の他方に配置され、前記排気手段は、前記排気口を介して前記乾燥路内から空気を排気し、前記整風部材は、前記給気口に配置され、前記整風部材は、前記右側板または左側板に沿って延在し互いに対向する面状の第1の多孔部材と第2の多孔部材とを含んで構成され、前記第1の多孔部材は前記給気口に臨むように配置され、前記第2の多孔部材は前記塗布膜に臨むように配置され、前記第1の多孔部材は、孔径が2mm以上10mm以下、開口率が10%以上30%以下の面状の部材を1枚以上備えてなり、前記第2の多孔部材は、孔径が0.1mm以上2mm未満、開口率が40%以上99%以下の面状の部材を1枚以上備えてなることを特徴とする塗布膜の製造装置である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記塗布装置は前記基材に前記塗布液を塗布し前記塗布膜を形成する塗布部を有し、前記塗布部から該塗布部に臨む前記搬入口までの塗布膜搬送距離が0.2m以上0.8m以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の塗布膜の製造装置である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記天板が前記基材の塗布膜を形成した側に位置し、前記底板が前記基材の塗布膜を形成した側と反対側に位置し、前記天板と前記塗布膜との距離を天板側間隙の高さL1とし、前記底板と前記基材との距離を底板側間隙の高さL2としたときに、前記高さL1と高さL2が、L1≦L2の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の塗布膜の製造装置である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記天板と底板との距離が10mm以上100mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布膜の製造装置である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記給気口は前記右側板または左側板の一方に開口された給気口用開口部を有し、前記排気口は前記右側板または左側板の他方に開口された排気口用開口部を有し、前記天板と前記底板とが対向する方向に沿った前記給気口用開口部および前記排気口用開口部の高さは、前記天板と前記底板との距離とほぼ一致していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塗布膜の製造装置である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の製造装置を用いて形成したことを特徴とする光学フィルムである。
【0013】
請求項7に記載の発明は、搬送中の帯状の基材に溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布工程と、次に、前記基材に形成した塗布膜を乾燥路中で搬送しつつ乾燥させる乾燥工程とを含む塗布膜の製造方法において、前記乾燥路に給気口と整風部材を配置し、
前記整風部材を、前記搬送される前記基材の塗布膜の延長面に対して交差する面上を延在し互いに対向する面状の第1の多孔部材と第2の多孔部材とを含んで構成し、前記第1の多孔部材を前記給気口に臨ませて配置し、前記第2の多孔部材を前記塗布膜に臨むように配置し、前記第1の多孔部材を、孔径が2mm以上10mm以下、開口率が10%以上30%以下の面状の部材を1枚以上含んで構成し、前記第2の多孔部材を、孔径が0.1mm以上2mm未満、開口率が40%以上99%以下の面状の部材を1枚以上含んで構成し、前記給気口から前記整風部材を通して前記塗布膜上に空気を流すようにしたことを特徴とする塗布膜の製造方法である。
【0014】
請求項8に記載の発明は、基材に形成した塗布膜を搬送しながら乾燥させる塗布物の乾燥装置において、少なくとも、乾燥路と、給気口と、給気手段と、排気口と、排気手段と、整風部材とを備え、前記乾燥路は、前記塗布膜をその厚さ方向で挟んで対向する天板および底板と、前記塗布膜をその幅方向で挟んで対向し前記天板と前記底板の両側を接続する右側板および左側板とを含んで構成され、前記乾燥路の前記塗布膜の搬送方向の上流端に搬入口が設けられ、前記乾燥路の前記塗布膜の搬送方向の下流端に搬出口が設けられ、前記給気口は、前記乾燥路の右側板または左側板の一方に配置され、前記給気手段は、前記給気口を介して前記乾燥路内に空気を給気し、前記排気口は、前記左側板または右側板の他方に配置され、前記排気手段は、前記排気口を介して前記乾燥路内から空気を排気し、
前記整風部材は、前記給気口に配置され、前記整風部材は、前記右側板または左側板に沿って延在し互いに対向する面状の第1の多孔部材と第2の多孔部材とを含んで構成され、
前記第1の多孔部材は前記給気口に臨むように配置され、前記第2の多孔部材は前記塗布膜に臨むように配置され、前記第1の多孔部材は、孔径が2mm以上10mm以下、開口率が10%以上30%以下の面状の部材を1枚以上備えてなり、前記第2の多孔部材は、孔径が0.1mm以上2mm未満、開口率が40%以上99%以下の面状の部材を1枚以上備えてなることを特徴とする塗布膜の乾燥装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明における塗布膜の製造装置、製造方法および乾燥装置を使用することにより、わずかな乾燥ムラの発生をも抑制しながら少なくとも自然乾燥よりも乾燥速度を早く維持でき、塗布膜の面性と生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明における塗布物の製造装置を側面から見たときの側面概略図である。
塗布装置1aの塗布部1bにおいて基材4上に塗布膜が塗布される。
塗布膜が形成された基材4は乾燥装置2に搬送される。
乾燥装置2は乾燥路(乾燥ゾーン)3a〜3dの4ゾーンを備え、各乾燥路3a〜3dは、乾燥路の塗布膜5の搬送方向の上流端に設けられた搬入口と乾燥路の塗布膜5の搬送方向の下流端に設けられた搬出口とを有し、塗布膜を搬送し、給気口9を介して、整風部材を通り塗布膜搬送部6に空気を強制的に給気する給気手段と、同じく図示していないが排気口10を介して塗布膜搬送部6から空気を強制的に排気する排気手段と、塗布膜が最初に搬送される乾燥路3aの搬入口13から構成されている。
【0017】
図2は、図1に示された乾燥装置のA−A’断面概略図である。
給気手段を用いて塗布膜搬送部6内へ空気を給気し、排気手段を用いて塗布膜搬送部6内から空気を排気することで、塗布膜搬送部6内に空気の流れ18を発生させている。
塗布膜搬送部6内では給気口9から排気口10に向って空気の流れ15が発生しており、塗布膜搬送部6内を搬送される塗布膜5から蒸発した有機溶剤は、空気の流れ15とともに排気口10を介して塗布膜搬送部6内から排気される。
【0018】
このとき、基材4に形成した塗布膜5と天板11の高さL1と、基材4と底板12との底板側間隙の高さL2が、L1≦L2の関係になっていることが好ましい。
詳細に説明すると、図2に示すように、各乾燥路3a〜3dは、塗布膜5をその厚さ方向で挟んで対向する天板11および底板12と、塗布膜5をその幅方向で挟んで対向し天板11と底板12の両側を接続する右側板および左側板とを含んで構成され、天板11が基材4の塗布膜5を形成した側に位置し、底板12が基材4の塗布膜5を形成した側と反対側に位置し、天板11と塗布膜5との距離を天板11側間隙の高さL1とし、底板12と基材4との距離を底板12側間隙の高さL2としたときに、高さL1と高さL2が、L1≦L2の関係を満たすことが好ましい。
L1≦L2の関係を満たすとき、外乱となる風は基材4と底板12との間に流れ込むのが主流になるため、塗布膜面に外乱となる風が当たり難く、面性と生産性を向上することができる。
【0019】
また、天板11と底板12との距離が10mm未満であると、基材4が搬送されたとき、天板11もしくは底板12に接触するなどのトラブルの原因となる不利があり、天板11と底板12との距離が100mmより大きいと、乾燥速度を維持するために給気量と排気量とを増加させる必要があることから、給気手段と排気手段の増設やエネルギー量の増加などコスト面での不利があり、天板11と底板12との距離が10mm以上100mm以下の範囲であることが安定生産とコストの面で好ましい。
【0020】
また、給気口9は右側板または左側板の一方に開口された給気口用開口部を有し、排気口10は右側板または左側板の他方に開口された排気口用開口部を有している。
天板11と底板12とが対向する方向に沿った給気口用開口部および排気口用開口部の高さが天板11と底板12との距離とほぼ一致していると、給気口用開口部と排気口用開口部の間に発生する空気の流れが天板11と底板12との間で一様に発生し、基材4を搬送する高さにブレが生じにくくなり、基材4の搬送時の安定性が確保されるため好ましい。
【0021】
本構成を塗布装置1aと乾燥装置2を0.2m以上〜0.8m以下の範囲で連結することが望ましい。言い換えると、塗布部1bから該塗布部1bに臨む搬入口13までの塗布膜搬送距離8が0.2m以上0.8m以下の範囲であることが望ましい。
塗布膜搬送距離8が0.8mより離れると自然に乾燥していく領域が無視できなくなり、自然乾燥によるムラが生じるため好ましくない。また、0.2m未満であると基材4を搬入する搬入口13において外気を遮断してしまうため好ましくない。
【0022】
図3は、整風部材22の一例を側面から見たときの側面概略図である。
整風部材22は、吸気口側に開口率が小さく、孔径の大きな板状の部材をいれ吸気される気流をわざと乱すことにより速度分布を打ち消し、その後開口率が大きく、孔径の小さな板状の部材をいれ気流を整流化する構成を有する機構である。
ここで、孔の開口率とは、(孔の開口部の面積/整風部材の面積)×100(%)で表される値である。
詳細に説明すると、給気口9は、乾燥路の右側板または左側板の一方に配置され、排気口10は、乾燥路の右側板または左側板の他方に配置されている。
整風部材22は給気口9に配置されている。
整風部材22は、右側板または左側板に沿って延在し互いに対向する面状の第1の多孔部材24と第2の多孔部材23とを含んで構成されている。
第1の多孔部材24は給気口9に臨むように配置され、第2の多孔部材23は塗布膜5に臨むように配置されている。
言い換えると、整風部材22は、搬送される基材4の塗布膜5の延長面に対して交差する面上(または直交する面上)を延在し互いに対向する面状の第1の多孔部材24と第2の多孔部材23とを含んで構成されている。
【0023】
第1の多孔部材24は速度分布を打ち消す部材であり、第1の多孔部材24としては、金網、パンチングメタル等、複数の孔を形成した板状部材を用いることができる。
好ましい構成としては孔径2〜10mm、開口率10〜30%程度の条件になる。ただし、枚数を重ねれば塗布膜搬送部内の空気の流れ、および、蒸発した有機溶剤の流れを制御する機能を有するものであれば、孔の開口形状や孔の開口率等は特に制限されるものではない。また、部材の材質としては、耐溶剤性を有するものであればよく、特に限定されるものではない。
言い換えると、第1の多孔部材24は、孔径が2mm以上10mm以下、開口率が10%以上30%以下の面状の部材を1枚以上備えて構成されている。
【0024】
第2の多孔部材23は整流化させる部材であり、第2の多孔部材23としては、金網、メッシュ、ハニカム等、複数の孔を形成した板状部材を用いることができる。好ましい構成としては孔径0.1〜2mm、開口率40〜99%程度の条件になる。この条件の部材の枚数を重ねるごとにムラを抑える効果は大きくなる。また、部材の材質としては、耐溶剤性を有するものであればよく、特に限定されるものではない。
言い換えると、第2の多孔部材23は、孔径が0.1mm以上2mm未満、開口率が40%以上99%以下の面状の部材を1枚以上備えて構成されている。
【0025】
図1において、基材4に形成された塗布膜5は、最初に搬入する乾燥路3aの搬入口13から最初の乾燥路3a内へ搬入され、最後に搬出する乾燥路3dの搬出口14から乾燥路3d外へ搬出される。図1では、乾燥路3a〜3dの4ゾーンが直線的に配置されているが、これは本発明の一実施形態を表したものであり、これに限定されるものではない。また、隣接する各乾燥路は直線的に配置されていても、屈折して配置されていてもよい。
【0026】
また、図1では、各乾燥路(3a〜3d)に給気口9と排気口10が1個ずつ配置されているが、これは本発明の一実施形態を表したものであり、これに限定されるものではなく、各乾燥路に対して配置される給気口9および排気口10の個数に制限はない。
【0027】
本発明における塗布装置1aは、グラビア、ワイヤーバー、ダイ等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明における乾燥路は、乾燥路外から吹き込む風や塵等の外乱を防止するためにある程度密封された箱型の形状をしている。塗布膜5を搬入する搬入口と、塗布膜5を搬出し搬入口に対向して設置された搬出口と、基材4の塗布膜5を形成した側に設置された天板11と、基材4を挟んで天板11と対向して設置された底板12と、塗布膜5の搬送方向に向って右側であり、塗布膜5の幅方向に設置された右側板と、右側板と対向して設置された左側板とで構成されている。ここで、搬送される基材4に対し、重力方向上面側に塗布膜5が形成されているか、下面側に塗布膜5が形成されているかは関係ない。
【0029】
本発明における給気手段、または、排気手段、または、その両方、のいずれかより選ばれる気流発生手段としては、給気手段および排気手段の出力(給気出力D1および排気出力D2)に応じて、塗布膜搬送部内の空気の流れを調節することができるブロアを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明における乾燥装置2の長さ(基材の搬送方向)は、特に制約すべき事項ではない。乾燥装置2の長さは塗布膜が乾燥するかどうかで決定されるものであり、製品によって異なるものである。ただし、本発明では、50cm以上100m以下程度の一般的な長さの乾燥装置2を用いている。
また、本発明における乾燥路の長さ(基材の搬送方向)としては、30cm以上30m以下程度のものを用いている。
【0031】
本発明における基材4の搬送速度は制約すべき事項ではないが、10m/min以上100m/min以下程度の一般的な速度が好ましい。
【0032】
本発明における乾燥装置2は、塗布膜中の有機溶剤の蒸発速度を安定化し、わずかな乾燥ムラの発生を抑制することができるため、その効果が最も現れるのは乾燥初期である。乾燥装置の全長すべてが本発明の乾燥装置2によるものではなく、基材に形成された塗布膜を最初に搬入する乾燥路の搬入口を含む乾燥初期段階のみに本発明の乾燥装置2を導入することも可能である。その場合、図1に示すように、前半部に第一乾燥装置として本発明の乾燥装置2を導入し、後半部に第二乾燥装置21として公知の乾燥装置を導入してもよい。
【0033】
第二乾燥装置21としては、スリットノズルやパンチングメタルから基材に形成された塗布膜に温度を上昇させた噴流を当てるような方式を導入しても良いし、クイックリターン方式のノズルや基材の搬送方向に平行流を流す方式のノズルから熱風を噴出する方式でも良い。また、片面だけでなく両面から加熱手段を設けても良い。市販されているいかなる乾燥装置を使用しても本発明の効果をさまたげるものではない。
【0034】
さらに、図1には本発明の乾燥装置2と公知の第二乾燥装置21をそれぞれの装置として独立させる場合を示しているが、一つの乾燥装置の中で、前半部が本発明の乾燥装置による方式をとり、後半部が公知の乾燥装置に基づく方式をとる場合でも本発明の効果は変わらない。
【0035】
本発明の塗布膜の乾燥装置および乾燥方法、これらを用いた塗布物の製造装置および製造方法は、様々な製品に対して用いることができるが、近年需要が伸びている光学フィルムのようなこれまで以上にムラに対する許容余地の少ない製品に効果的である。
【0036】
ここで、光学フィルムとは、透過光や反射光の方向、位相、偏光面等を制御するフィルムであり、例えば、液晶やプラズマディスプレイなどの表示装置の最表面またはその内側に使用されるフィルムであり、反射防止フィルム、防眩性フィルム、光学補償フィルム、光拡散フィルムなどが挙げられる。
【0037】
また、本発明に用いられる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチル等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール・ブチルカルビトール等のグリコールエーテル類、ヘキサン、ヘプタン・オクタン等の脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、1種、または、2種類以上の混合物として用いてよいが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明の塗布液に用いられるバインダーとしては、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等が挙げられ、電離放射線硬化性樹脂等には光重合開始剤が含まれる。
【0039】
電離放射線硬化性樹脂としては、多価アルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルのような多官能性のアクリレート樹脂、ジイソシアネート、多価アルコール及びアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタンアクリレート樹脂等が挙げられる。またこれらの他にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等も使用することができる。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、熱硬化型ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0041】
光重合開始剤としては、活性エネルギー線が照射された際にラジカルを発生するものであればよく、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]モルフォリノプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。光重合開始剤の添加量は、活性エネルギー線硬化単量体10〜80質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜7質量部がより好ましく、1〜5質量部がさらに好ましくい。
【0042】
本発明に用いられる基材としては、用途によって様々なものを使用することができる。基材を構成する成分としては、例えば、アセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フルイム、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系フィルム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、基材は、単層からなっていても複数層からなっていてもよい。なお、基材の厚さは一般的に10μm以上500μm以下のものが用いられる。
【0043】
(実施例)
次に実施例について説明する。
幅1000mm、厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)基材に、溶剤として酢酸エチル、バインダーとしてアクリル樹脂を用い、固形分濃度50wt%からなる塗布液をエクストルージョン方式のダイヘッドで塗布し、長さ8.0mの乾燥装置2内に、搬送速度30m/minで塗布膜5を搬送した。
基材4と天板側間隙の高さL1と、基材と底板側間隙の高さL2はともに15mmである。ここで用いた乾燥装置2は、長さ1.0mの乾燥路を8ゾーン配置したものであった。
【0044】
整風部材22としては、第1の多孔部材24として開口率20%、孔径3mm、厚さ2mmのパンチングメタルを2枚、給気口9に臨ませて設け、第2の多孔部材23として開口率60%、孔径1mm、厚さ1mmの金網を1枚、塗布膜5に臨ませて設ける構成とした。
【0045】
この時、乾燥後の塗布膜には風紋のようなムラは見つからなかった。
【0046】
一方、整風部材22無しでそれ以外の条件は同様にしたところ、乾燥後の塗布膜5上にはっきりとしたムラが確認された。
【0047】
また、上記とは別の条件で整風部材22を作成した。
この整風部材22としては、第1の多孔部材24として開口率20%、孔径3mm、厚さ2mmのパンチングメタルを2枚、給気口9に臨ませて設け、第2の多孔部材23として開口率30%、孔径1mm、厚さ1mmの金網を1枚、塗布膜5に臨ませて設ける構成とした。
この場合には整風部材22がない状態よりは改善するが、供給側の一部に風紋のようなムラが生じる。
【0048】
乾燥後の塗布膜のムラ状況を比較した結果から本発明はムラの低減の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】塗布物の製造装置を側面から見たときの側面概略図である。
【図2】乾燥装置のA−A’断面概略図である。
【図3】整風部材の一例を側面から見たときの側面概略図である。
【符号の説明】
【0050】
1a……塗布装置、1b……塗布部、2……乾燥装置、3a〜3c……乾燥路、4……基材、5……塗布膜、6……塗布膜搬送部、9……給気口、10……排気口、11……天板、12……底板、13……最初に搬入する乾燥路の搬入口、14……最後に搬出する乾燥路の搬出口、15……空気の流れ、18……空気の流れ、21……第二乾燥装置、22……整風部材、23……第2の多孔部材、24……第2の多孔部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送中の帯状の基材に溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布装置と、前記基材に形成した塗布膜を搬送しながら乾燥させる乾燥装置とを有する塗布膜の製造装置において、
前記乾燥装置は、少なくとも、乾燥路と、給気口と、給気手段と、排気口と、排気手段と、整風部材とを備え、
前記乾燥路は、前記塗布膜をその厚さ方向で挟んで対向する天板および底板と、前記塗布膜をその幅方向で挟んで対向し前記天板と前記底板の両側を接続する右側板および左側板とを含んで構成され、
前記乾燥路の前記塗布膜の搬送方向の上流端に搬入口が設けられ、
前記乾燥路の前記塗布膜の搬送方向の下流端に搬出口が設けられ、
前記給気口は、前記乾燥路の右側板または左側板の一方に配置され、
前記給気手段は、前記給気口を介して前記乾燥路内に空気を給気し、
前記排気口は、前記左側板または右側板の他方に配置され、
前記排気手段は、前記排気口を介して前記乾燥路内から空気を排気し、
前記整風部材は、前記給気口に配置され、
前記整風部材は、前記右側板または左側板に沿って延在し互いに対向する面状の第1の多孔部材と第2の多孔部材とを含んで構成され、
前記第1の多孔部材は前記給気口に臨むように配置され、
前記第2の多孔部材は前記塗布膜に臨むように配置され、
前記第1の多孔部材は、孔径が2mm以上10mm以下、開口率が10%以上30%以下の面状の部材を1枚以上備えてなり、
前記第2の多孔部材は、孔径が0.1mm以上2mm未満、開口率が40%以上99%以下の面状の部材を1枚以上備えてなる、
ことを特徴とする塗布膜の製造装置。
【請求項2】
前記塗布装置は前記基材に前記塗布液を塗布し前記塗布膜を形成する塗布部を有し、
前記塗布部から該塗布部に臨む前記搬入口までの塗布膜搬送距離が0.2m以上0.8m以下の範囲である、
ことを特徴とする請求項1に記載の塗布膜の製造装置。
【請求項3】
前記天板が前記基材の塗布膜を形成した側に位置し、前記底板が前記基材の塗布膜を形成した側と反対側に位置し、前記天板と前記塗布膜との距離を天板側間隙の高さL1とし、前記底板と前記基材との距離を底板側間隙の高さL2としたときに、前記高さL1と高さL2が、L1≦L2の関係を満たす、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の塗布膜の製造装置。
【請求項4】
前記天板と底板との距離が10mm以上100mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布膜の製造装置。
【請求項5】
前記給気口は前記右側板または左側板の一方に開口された給気口用開口部を有し、
前記排気口は前記右側板または左側板の他方に開口された排気口用開口部を有し、
前記天板と前記底板とが対向する方向に沿った前記給気口用開口部および前記排気口用開口部の高さは、前記天板と前記底板との距離とほぼ一致している、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塗布膜の製造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造装置を用いて形成したことを特徴とする光学フィルム。
【請求項7】
搬送中の帯状の基材に溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布工程と、次に、前記基材に形成した塗布膜を乾燥路中で搬送しつつ乾燥させる乾燥工程とを含む塗布膜の製造方法において、
前記乾燥路に給気口と整風部材を配置し、
前記整風部材を、前記搬送される前記基材の塗布膜の延長面に対して交差する面上を延在し互いに対向する面状の第1の多孔部材と第2の多孔部材とを含んで構成し、
前記第1の多孔部材を前記給気口に臨ませて配置し、
前記第2の多孔部材を前記塗布膜に臨むように配置し、
前記第1の多孔部材を、孔径が2mm以上10mm以下、開口率が10%以上30%以下の面状の部材を1枚以上含んで構成し、
前記第2の多孔部材を、孔径が0.1mm以上2mm未満、開口率が40%以上99%以下の面状の部材を1枚以上含んで構成し、
前記給気口から前記整風部材を通して前記塗布膜上に空気を流すようにした、
ことを特徴とする塗布膜の製造方法。
【請求項8】
基材に形成した塗布膜を搬送しながら乾燥させる塗布物の乾燥装置において、
少なくとも、乾燥路と、給気口と、給気手段と、排気口と、排気手段と、整風部材とを備え、
前記乾燥路は、前記塗布膜をその厚さ方向で挟んで対向する天板および底板と、前記塗布膜をその幅方向で挟んで対向し前記天板と前記底板の両側を接続する右側板および左側板とを含んで構成され、
前記乾燥路の前記塗布膜の搬送方向の上流端に搬入口が設けられ、
前記乾燥路の前記塗布膜の搬送方向の下流端に搬出口が設けられ、
前記給気口は、前記乾燥路の右側板または左側板の一方に配置され、
前記給気手段は、前記給気口を介して前記乾燥路内に空気を給気し、
前記排気口は、前記左側板または右側板の他方に配置され、
前記排気手段は、前記排気口を介して前記乾燥路内から空気を排気し、
前記整風部材は、前記給気口に配置され、
前記整風部材は、前記右側板または左側板に沿って延在し互いに対向する面状の第1の多孔部材と第2の多孔部材とを含んで構成され、
前記第1の多孔部材は前記給気口に臨むように配置され、
前記第2の多孔部材は前記塗布膜に臨むように配置され、
前記第1の多孔部材は、孔径が2mm以上10mm以下、開口率が10%以上30%以下の面状の部材を1枚以上備えてなり、
前記第2の多孔部材は、孔径が0.1mm以上2mm未満、開口率が40%以上99%以下の面状の部材を1枚以上備えてなる、
ことを特徴とする塗布膜の乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−69261(P2009−69261A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235195(P2007−235195)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】