説明

変速制御装置

【課題】四節リンク機構として構成された無段変速機における変速比を適正に制御可能な変速制御装置を提供すること。
【解決手段】四節リンク機構式の無段変速機における変速比を制御する変速制御装置は、動力源への要求出力を導出する要求出力導出部と、動力源への要求出力に応じた、無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部と、目標入力回転数に対する無段変速機における実際の出力回転数の比である目標変速比に応じた目標偏心量を導出する目標偏心量導出部と、無段変速機における実際の偏心量に対する目標偏心量との差に基づいて、偏心量を制御するための偏心量制御項を導出し、無段変速機の状態から得られる変速比可変機構の負荷特性に応じて、偏心量制御項を補償する偏心量制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四節リンク機構として構成された無段変速機における変速比を適正に制御する変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力軸の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換して変速機の出力軸から出力する方式のIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機が知られている。当該方式の変速機では、クラッチを使用せずに変速比を無段階に変更できると共に、変速比の最大値を無限大に設定することができる。なお、当該変速機において、変速比が無限大に設定されたときの出力回転数はゼロである。
【0003】
図7は、IVTと呼ばれる無段変速機の具体的構成を示す断面図である。図8は、IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図である。図7及び図8に示す無段変速機は、内燃機関等の動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線O1の周りを回転する、両端が軸受け102,103によって支持された入力軸101と、入力軸101と一体回転する複数の偏心ディスク104と、入力側と出力側を結ぶための偏心ディスク104と同数の連結部材130と、出力側に設けられたワンウェイクラッチ120とを備える。
【0004】
複数の偏心ディスク104は、それぞれ第1支点O3を中心とした円形形状に形成されている。第1支点O3は、入力軸101の周方向に等間隔で設けられると共に、それぞれが、入力中心軸線O1に対して変更可能な偏心量r1を保ちつつ、入力中心軸線O1の周りに入力軸101と共に回転するように設定されている。したがって、複数の偏心ディスク104は、それぞれに偏心量r1を保った状態で、入力中心軸線O1の周りを入力軸101が回転するに伴って偏心回転するように設けられている。
【0005】
偏心ディスク104は、図8に示すように、外周側円板105と、入力軸101に一体形成された内周側円板108とで構成されている。内周側円板108は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1に対して一定の偏心距離だけ中心を偏倚させた肉厚円板として形成されている。外周側円板105は、第1支点O3を中心にした肉厚円板として形成されており、その中心(第1支点O3)を外れた位置に中心を持つ第1円形孔106を有している。そして、この第1円形孔106の内周に回転可能に内周側円板108の外周が嵌っている。
【0006】
また、内周側円板108には、入力中心軸線O1を中心とすると共に周方向の一部が内周側円板108の外周に開口した第2円形孔109が設けられており、その第2円形孔109の内部にピニオン110が回転自在に収容されている。ピニオン110の歯は、第2円形孔109の外周の開口を通して、外周側円板105の第1円形孔106の内周に形成した内歯歯車107に噛み合っている。
【0007】
このピニオン110は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1と同軸に回転するように設けられている。即ち、ピニオン110の回転中心と入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1とが一致している。ピニオン110は、図7に示すように、直流モータ及び減速機構によって構成されるアクチュエータ180により、第2円形孔109の内部で回転させられる。通常時は、入力軸101の回転と同期させてピニオン110を回転させ、同期する回転数を基準として、ピニオン110に入力軸101の回転数を上回るか下回るかする回転数を与えることにより、ピニオン110を入力軸101に対して相対回転させる。例えば、ピニオン110およびアクチュエータ180の出力軸が互いに連結されるように配置し、アクチュエータ180の回転が入力軸101の回転に対して回転差が生じる場合には、その回転差に減速比をかけた分だけ入力軸101とピニオン110の相対角度が変化する減速機構(例えば遊星歯車)を用いることで実現できる。この際、アクチュエータ180と入力軸101の回転差がなく同期している場合には偏心量r1は変化しない。
【0008】
従って、ピニオン110を回すことにより、ピニオン110の歯が噛合している内歯歯車107つまり外周側円板105が内周側円板108に対して相対回転し、それにより、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)と外周側円板105の中心(第1支点O3)との間の距離(つまり偏心ディスク104の偏心量r1)が変化する。
【0009】
この場合、ピニオン110の回転によって、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)に外周側円板105の中心(第1支点O3)を一致させることができるように設定されており、両中心を一致させることにより、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」に設定できる。
【0010】
また、ワンウェイクラッチ120は、入力中心軸線O1から離れた出力中心軸線O2の周りを回転する出力部材(クラッチインナー)121と、外部から回転方向の動力を受けることで出力中心軸線O2の周りを揺動するリング状の入力部材(クラッチアウター)122と、入力部材122および出力部材121を互いにロック状態または非ロック状態にするために入力部材122と出力部材121の間に挿入された複数のローラ(係合部材)123とを有する。なお、ワンウェイクラッチ120には、出力部材121の断面における辺数と同数のローラ123が設けられている。
【0011】
図7に示すように、ワンウェイクラッチ120の出力部材121は、軸方向に一体に連続した部材として構成されたものであるが、入力部材122は、軸方向に複数に分割されており、偏心ディスク104および連結部材130の数だけ、軸方向に各々独立して揺動できるように配列されている。そして、ローラ123は、入力部材122毎に、入力部材122と出力部材121との間に挿入されている。
【0012】
ワンウェイクラッチ120の入力部材122から出力部材121への動力(トルク)の伝達は、入力部材122の正方向(図8中矢印RD1方向)の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ行われる。つまり、ワンウェイクラッチ120では、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より高くなったときに初めてローラ123を介しての噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。
【0013】
また、図8に示すように、リング状の各入力部材122上の周方向の1箇所には張り出し部124が設けられており、その張り出し部124に、出力中心軸線O2から離間した第2支点O4が設けられている。そして、各入力部材122の第2支点O4上にピン125が配置され、このピン125によって、連結部材130の先端(他端部)132が入力部材122に回転自在に連結されている。
【0014】
連結部材130は、一端側にリング部131を有し、そのリング部131の円形開口133の内周が、ベアリング140を介して、偏心ディスク104の外周に回転自在に嵌合されている。従って、このように連結部材130の一端が偏心ディスク104の外周に回転自在に連結されると共に、連結部材130の他端が、ワンウェイクラッチ120の入力部材122上に設けられた第2支点O4に回動自在に連結されることにより、図9に示すように、入力中心軸線O1、第1支点O3、出力中心軸線O2、第2支点O4の4つの節を回動点とする四節リンク機構が構成されており、入力軸101から偏心ディスク104に与えられる回転運動が、ワンウェイクラッチ120の入力部材122に対して該入力部材122の揺動運動として伝えられ、その入力部材122の揺動運動が出力部材121の回転運動に変換される。
【0015】
図9は、四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図である。この四節リンク機構では、入力軸101から偏心ディスク104に与えられる回転運動が、連結部材130を介して、ワンウェイクラッチ120の入力部材122に対して該入力部材122の揺動運動として伝えられ、その入力部材122の揺動運動が出力部材121の回転運動に変換される。偏心ディスク104を回転させる入力軸101が1回転すると、ワンウェイクラッチ120の入力部材122は1往復揺動する。図9に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1の値に関係なく、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動周期は常に一定である。入力部材122の角速度ω2は、偏心ディスク104(入力軸101)の回転角速度ω1と偏心量r1によって決まる。
【0016】
その際、ピニオン110、ピニオン110を収容する第2円形孔109を備えた内周側円板108、内周側円板108を回転可能に収容する第1円形孔106を備えた外周側円板105、アクチュエータ180などにより構成された変速比可変機構112の前記ピニオン110をアクチュエータ180で動かすことにより、偏心ディスク104の偏心量r1を変化させることができる。そして、偏心量r1を変更することで、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を変更することができ、それにより、入力軸101の回転数に対する出力部材121の回転数の比(変速比:レシオi)を変えることができる。即ち、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量r1を調節することで、偏心ディスク104からワンウェイクラッチ120の入力部材122に伝えられる揺動運動の揺動角度θ2を変更し、それにより、入力軸101に入力される回転動力が、偏心ディスク104および連結部材130を介してワンウェイクラッチ120の出力部材121に回転動力として伝達される際の変速比を変更することができる。
【0017】
図10(a)〜(d)及び図11(a)〜(c)は、図8に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図である。図10及び図11に示すように、変速比可変機構112のピニオン110を回転させて、内周側円板108に対して外周側円板105を回転させることにより、偏心ディスク104の入力中心軸線O1(ピニオン110の回転中心)に対する偏心量r1を調節することができる。
【0018】
例えば、図10(a)及び図11(a)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「大」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を大きくすることができるので、小さな変速比iを実現することができる。また、図10(b)及び図11(b)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「中」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「中」にすることができるので、中くらいの変速比iを実現することができる。また、図10(c)及び図11(c)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「小」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を小さくすることができるので、大きな変速比iを実現することができる。また、図10(d)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「ゼロ」にすることができるので、変速比iを「無限大(∞)」にすることができる。
【0019】
図12は、図8に示した無段変速機において、入力軸101と共に等速回転する偏心ディスク104の偏心量r1(変速比i)を「大」、「中」、「小」と変化させた場合の、入力軸101の回転角度(θ)とワンウェイクラッチ120の入力部材122の角速度ω2の関係を示す図である。図13は、図8に示した無段変速機において、複数の連結部材130によって入力側(入力軸101や偏心ディスク104)から出力側(ワンウェイクラッチ120の出力部材121)へ動力が伝達される際の出力の取り出し原理を説明するための図である。
【0020】
図9に示すように、ワンウェイクラッチ120の入力部材122は、連結部材130を介して偏心ディスク104から与えられる動力により揺動運動する。偏心ディスク104を回転させる入力軸101が1回転すると、ワンウェイクラッチ120の入力部材122は1往復揺動する。図12に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1の値に関係なく、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動周期は常に一定である。入力部材122の角速度ω2は、偏心ディスク104(入力軸101)の回転角速度ω1と偏心量r1によって決まる。
【0021】
図8に示すように、入力軸101とワンウェイクラッチ120を繋ぐ複数の連結部材130の一端(リング部131)は、入力中心軸線O1の周りに周方向等間隔で設けられた偏心ディスク104に回転自在に連結されている。このため、各偏心ディスク104の回転運動によりワンウェイクラッチ120の入力部材122にもたらされる揺動運動は、図13に示すように、一定の位相で順番に起こることになる。
【0022】
1つの連結部材130による駆動が終了した後は、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より低下すると共に、他の連結部材130の駆動力によってローラ123によるロックが解除されて、フリーな状態(空転状態)に戻る。これが、連結部材130の数だけ順番に行われることで、揺動運動が一方向の回転運動に変換される。そのため、出力部材121の回転速度を超えたタイミングの入力部材122の動力のみが出力部材121に順番に伝えられ、ほぼ平滑に均された回転動力が出力部材121に与えられることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記説明した無段変速機では、変速比可変機構112における入力回転数、入力トルク及び変速比i等の状態量に応じて、ピニオン110にかかるトルク(ピニオントルク)が変化する。ピニオントルクが変化すると、アクチュエータ180が偏心量r1を目標値に変更しても、無段変速機の出力は目標からずれた値になってしまう。
【0025】
本発明の目的は、四節リンク機構として構成された無段変速機における変速比を適正に制御可能な変速制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明の変速制御装置(例えば、実施の形態での変速制御装置200)は、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関)からの回転動力を受けることで入力中心軸線(例えば、実施の形態での入力中心軸線O1)の周りを回転する入力軸(例えば、実施の形態での入力軸101)と、前記入力中心軸線に対する偏心量(例えば、実施の形態での偏心量r1)を変更可能な第1支点(例えば、実施の形態での第1支点O3)をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスク(例えば、実施の形態での偏心ディスク104)と、前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線(例えば、実施の形態での出力中心軸線O2)の周りを回転する出力部材(例えば、実施の形態での出力部材121)と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材(例えば、実施の形態での入力部材122)と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材(例えば、実施の形態でのローラ123)と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点(例えば、実施の形態での第2支点O4)に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材(例えば、実施の形態での連結部材130)と、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータ(例えば、実施の形態でのアクチュエータ180)を有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構(例えば、実施の形態での変速比可変機構112)と、を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速制御装置であって、前記動力源への要求出力を導出する要求出力導出部(例えば、実施の形態での内燃機関要求出力導出部201)と、前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部(例えば、実施の形態での目標BD入力回転数導出部205)と、前記目標入力回転数に対する前記無段変速機における実際の出力回転数の比である目標変速比に応じた目標偏心量を導出する目標偏心量導出部(例えば、実施の形態での目標偏心量導出部207)と、前記無段変速機における実際の偏心量に対する前記目標偏心量との差に基づいて、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出し、前記無段変速機の状態から得られる前記変速比可変機構の負荷特性に応じて、前記偏心量制御項を補償する偏心量制御部(例えば、実施の形態での偏心量制御部209)と、を備えたことを特徴としている。
【0027】
さらに、請求項2に記載の発明の変速制御装置では、前記負荷特性は、前記無段変速機における入力回転数が高いほど前記変速比可変機構にかかる負荷は大きな特性を示すことを特徴としている。
【0028】
さらに、請求項3に記載の発明の変速制御装置では、前記負荷特性は、前記無段変速機における入力トルクが大きいほど前記変速比可変機構にかかる負荷は大きな特性を示すことを特徴としている。
【0029】
さらに、請求項4に記載の発明の変速制御装置では、前記負荷特性は、前記変速比が小さいほど前記変速比可変機構にかかる負荷は大きな特性を示すことを特徴としている。
【0030】
さらに、請求項5に記載の発明の変速制御装置では、前記目標偏心量導出部が導出した前記目標偏心量をその変化率が小さくなるようフィルタリングする目標値フィルタ部を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0031】
請求項1〜5に記載の発明の変速制御装置によれば、四節リンク機構として構成された無段変速機の変速比可変機構にかかる負荷特性に基づく偏心量の補償によって変速比を適正に制御できる。
また、請求項5に記載の発明の変速制御装置によれば、実際の偏心量との差を小さくできるため、変速比の修正量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】一実施形態の変速制御装置の内部構成を示すブロック図
【図2】内燃機関の熱効率に関する特性を示すグラフ
【図3】図8に示した無段変速機における偏心量r1に対する変速比iの特性を異なる入力トルク毎に示したグラフ
【図4】偏心量制御部209の内部構成を示すブロック図
【図5】無段変速機(BD)においてBD入力回転数が低いとき、中程度のとき、高いとき、それぞれの、BD入力トルク毎の変速比iに対するピニオントルクを示すマップの基となるグラフ
【図6】図1に示した変速制御装置の動作を示すフローチャート
【図7】IVTと呼ばれる無段変速機の具体的構成を示す断面図
【図8】IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図
【図9】四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図
【図10】(a)〜(d)は、図8に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図11】(a)〜(c)は、図8に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図12】図8に示した無段変速機において、入力軸と共に等速回転する偏心ディスクの偏心量r1(変速比i)を「大」、「中」、「小」と変化させた場合の、入力軸の回転角度θとワンウェイクラッチの入力部材の角速度ω2の関係を示す図である。
【図13】図8に示した無段変速機において、複数の連結部材によって入力側(入力軸や偏心ディスク)から出力側(ワンウェイクラッチの出力部材)へ動力が伝達される際の出力の取り出し原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0034】
本発明に係る変速制御装置は、上記説明したIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機(以下「BD」とも表記する)における変速比が適正値となるよう偏心量r1を制御する。なお、偏心量r1とは、図8に示した偏心ディスク104の中心である第1支点O3とピニオン110の中心である入力中心軸線O1の間の距離である。以下の説明では、IVTの入力側の動力源を、車両の駆動源である内燃機関として説明する。本実施形態では、内燃機関のクランク軸が無段変速機の入力軸に直結されている。したがって、内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。
【0035】
図1は、一実施形態の変速制御装置の内部構成を示すブロック図である。図1に示す変速制御装置200は、アクチュエータ180の駆動を制御する装置であり、内燃機関要求出力導出部201と、出力トルク算出部203と、目標BD入力回転数導出部205と、目標偏心量導出部207と、偏心量制御部209とを備える。変速制御装置200には、車両の走行速度(車速)を示す信号、アクセルペダル開度(AP開度)を示す信号、内燃機関の回転数を示す信号、及びアクチュエータ180の回転数を検出するエンコーダ190からの信号が入力される。なお、車速は、車両の駆動軸の回転数を検出する回転数センサからの信号から得られる。
【0036】
内燃機関要求出力導出部201は、車速及びAP開度に基づいて、内燃機関に要求する出力(内燃機関要求出力)を導出する。
【0037】
出力トルク算出部203は、内燃機関要求出力導出部201が導出した内燃機関要求出力を内燃機関の回転数(内燃機関回転数)で除算して、内燃機関の出力トルクを算出する。上述したように、本実施形態では内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。したがって、出力トルク算出部203が算出する内燃機関の出力トルクは、無段変速機の目標入力トルク(目標BD入力トルク)でもある。
【0038】
目標BD入力回転数導出部205は、内燃機関要求出力に応じた無段変速機(BD)における目標入力回転数(目標BD入力回転数)を導出する。上述したように、本実施形態では内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。したがって、目標BD入力回転数導出部205は、内燃機関の効率を優先させる場合において、内燃機関の燃料消費率が最も良い運転点に対応する内燃機関の回転数を目標BD入力回転数として出力する。
【0039】
図2は、内燃機関の熱効率に関する特性を示すグラフである。当該グラフの縦軸は内燃機関のトルクを示し、横軸は内燃機関の回転数を示す。図2中の太い実線は、燃料消費率が最も良い内燃機関の運転点を結んだ線(BSFCボトムライン)であり、一点鎖線は等出力ラインである。目標BD入力回転数導出部205は、入力された内燃機関要求出力に対応する等出力ラインがBSFCボトムラインと交差する運転点に対応した回転数を目標BD入力回転数として導出する。
【0040】
目標偏心量導出部207は、無段変速機(BD)における実際の出力回転数(実BD出力回転数)を目標BD入力回転数で除算して、目標の変速比を算出する。実BD出力回転数は、車両の駆動軸の回転数に相当する。なお、無段変速機(BD)においては、偏心量r1に対する変速比iの特性が幾何学的に非線形である。図3は、図8に示した無段変速機における偏心量r1に対する変速比iの特性を異なる入力トルク毎に示したグラフである。図3に示すように、変速比iに対する偏心量r1の特性は入力トルクに応じて異なる。したがって、目標偏心量導出部207は、図3に示したグラフを参照して、目標の変速比に相当する偏心量を目標BD入力トルクに基づいて導出する。目標偏心量導出部207は、このようにして導出した偏心量を目標偏心量r1tとして出力する。
【0041】
偏心量制御部209は、目標偏心量r1tと実際の偏心量(実偏心量)r1rの差分(Δr1)に応じて得られる偏心量制御項を導出した上で、当該偏心量制御項を無段変速機(BD)の変速比可変機構112を構成するピニオン110にかかる負荷特性に基づいて補償する。偏心量制御部209は、補償した偏心量制御項に基づく制御信号をアクチュエータ180に出力する。なお、アクチュエータ180は、偏心量制御部209から出力された制御信号に応じてピニオン110を回転駆動する。ピニオン110が回転すると、偏心量r1が変化する。
【0042】
図4は、偏心量制御部209の内部構成を示すブロック図である。図4に示すように、偏心量制御部209は、実偏心量導出部211と、マップ記憶部215と、実変速比算出部217と、ゲイン演算部219と、目標値フィルタ部221と、ゲイン制御部223と、制御信号生成部225とを有する。なお、ゲイン制御部223は、Pゲイン制御部223Pと、Iゲイン制御部223Iと、Dゲイン制御部223Dとを含む。
【0043】
実偏心量導出部211は、エンコーダ190からの入力信号が示すアクチュエータ180の回転数と実BD入力回転数の差に応じた偏心量r1を実偏心量r1rとして導出する。
【0044】
マップ記憶部215は、無段変速機(BD)におけるBD入力トルク毎の変速比iに対するピニオントルクを示すマップを、異なるBD入力回転数毎に記憶する。図5は、無段変速機(BD)においてBD入力回転数が低いとき、中程度のとき、高いとき、それぞれの、BD入力トルク毎の変速比iに対するピニオントルクを示すマップの基となるグラフを示す。図5に示すように、BD入力回転数が高いほど、ピニオントルクは大きい。また、BD入力トルクが大きいほどピニオントルクは大きい。また、変速比iが小さいほどピニオントルクは大きい。
【0045】
実変速比算出部217は、無段変速機(BD)における実際の出力回転数(実BD出力回転数)を実際の入力回転数(実BD入力回転数)で除算して、実際の変速比(実変速比)を算出する。なお、上述したように、内燃機関のクランク軸は無段変速機の入力軸に直結されているため、実BD入力回転数は内燃機関の回転数に等しい。
【0046】
ゲイン演算部219には、出力トルク算出部203が算出した出力トルクで代用される目標BD入力トルクを示す信号と、実BD入力回転数を示す信号と、実変速比算出部217が算出した実変速比を示す信号とが入力される。ゲイン演算部219は、入力された信号が示す情報とマップ記憶部215から読み出したマップとを用いて、無段変速機(BD)の変速比可変機構112を構成するピニオン110にかかるトルク(ピニオントルク)を導出した上で、当該ピニオントルクに応じた偏心量制御項の各ゲインを演算によって求める。なお、ピニオントルクに応じた偏心量制御項の各ゲインにはゲインスケジューリングが適用され、各動作点におけるゲインが計算式等によって予め設定されている。
【0047】
目標値フィルタ部221は、ゲイン演算部219が導出したピニオントルクに応じて目標偏心量r1tをフィルタリングする。当該フィルタリングは、目標偏心量r1tをその変化率が小さくなるようになます(smooth)ためのフィルタリングであり、その度合い(フィルタ量)はピニオントルクが大きいほど大きい。
【0048】
ゲイン制御部223は、ゲイン演算部219の演算結果に応じて、実偏心量r1rに対するフィルタリングされた目標偏心量r1tとの差分(Δr1=r1t−r1r)である偏心量制御項の各ゲイン(Pゲイン,Iゲイン,Dゲイン)を制御する。制御信号生成部225は、ゲイン制御部223によって制御されたゲインの偏心量制御項に応じた制御信号を生成する。当該制御信号は、アクチュエータ180に入力される。
【0049】
図6は、図1に示した変速制御装置200の動作を示すフローチャートである。図6に示すように、変速制御装置200の内燃機関要求出力導出部201は、車速及びAP開度に基づいて内燃機関要求出力を導出する(ステップS101)。次に、目標BD入力回転数導出部205は、内燃機関要求出力に応じた無段変速機(BD)における目標BD入力回転数を導出する(ステップS103)。次に、出力トルク算出部203は、ステップS101で導出した内燃機関要求出力と内燃機関回転数から内燃機関の出力トルク(目標BD入力トルク)を算出する(ステップS105)。
【0050】
次に、目標偏心量導出部207は、目標の変速比を算出した上で、当該目標変速比とステップS105で導出した目標BD入力トルクとに応じた目標偏心量r1tを導出する(ステップS107)。次に、偏心量制御部209は、目標偏心量r1tをフィルタリングする(ステップS108)。次に、偏心量制御部209は、フィルタリングした目標偏心量r1tと実偏心量r1rの差分(Δr1)である偏心量制御項を算出する(ステップS109)。次に、偏心量制御部209は、無段変速機(BD)の変速比可変機構112を構成するピニオン110にかかる負荷特性に基づいて、ステップS109で算出した偏心量制御項を補償する(ステップS111)。最後に、偏心量制御部209は、ステップS111で補償した偏心量制御項に基づく制御信号をアクチュエータ180に出力する(ステップS113)。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、無段変速機(BD)の変速比可変機構112を構成するピニオン110にかかる負荷特性に基づいて偏心量制御項を補償し、当該補償した偏心量制御項に応じて偏心量r1を制御する。したがって、ピニオントルクが変化しても偏心量r1を目標値に合わせることができるため、無段変速機(BD)の変速比iは適正に制御される。また、偏心量r1の目標値はフィルタリングされるため、実際の偏心量との差分(偏心量制御項)が小さくなる。その結果、変速比iの修正量を低減できる。
【符号の説明】
【0052】
101 入力軸
104 偏心ディスク
110 ピニオン
112 変速比可変機構
120 ワンウェイクラッチ
121 出力部材
122 入力部材
123 ローラ(係合部材)
130 連結部材
131 一端部(リング部)
132 他端部
133 円形開口
140 ベアリング
180 アクチュエータ
190 エンコーダ
200 変速制御装置
201 内燃機関要求出力導出部
203 出力トルク算出部
205 目標BD入力回転数導出部
207 目標偏心量導出部
209 偏心量制御部
211 実偏心量導出部
215 マップ記憶部
217 実変速比算出部
219 ゲイン演算部
221 目標値フィルタ部
223 ゲイン制御部
225 制御信号生成部
223P Pゲイン制御部
223I Iゲイン制御部
223D Dゲイン制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、
一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、
前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、
を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速制御装置であって、
前記動力源への要求出力を導出する要求出力導出部と、
前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部と、
前記目標入力回転数に対する前記無段変速機における実際の出力回転数の比である目標変速比に応じた目標偏心量を導出する目標偏心量導出部と、
前記無段変速機における実際の偏心量に対する前記目標偏心量との差に基づいて、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出し、前記無段変速機の状態から得られる前記変速比可変機構の負荷特性に応じて、前記偏心量制御項を補償する偏心量制御部と、
を備えたことを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置であって、
前記負荷特性は、前記無段変速機における入力回転数が高いほど前記変速比可変機構にかかる負荷は大きな特性を示すことを特徴とする変速制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の変速制御装置であって、
前記負荷特性は、前記無段変速機における入力トルクが大きいほど前記変速比可変機構にかかる負荷は大きな特性を示すことを特徴とする変速制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の変速制御装置であって、
前記負荷特性は、前記変速比が小さいほど前記変速比可変機構にかかる負荷は大きな特性を示すことを特徴とする変速制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の変速制御装置であって、
前記目標偏心量導出部が導出した前記目標偏心量をその変化率が小さくなるようフィルタリングする目標値フィルタ部を備えたことを特徴とする変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−79668(P2013−79668A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219467(P2011−219467)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】