説明

変速装置

【課題】部品点数の増加や重量の増加を抑えながら充分なシンクロ容量を簡易に確保する。
【解決手段】変速要求があると、目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sだけでこの変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できる状態となるまでは(ステップS114〜S116)、目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’に加えて目標変速段i以外の変速段を構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’も出力軸23に固定するようアクチュエータACTRを駆動制御する(ステップS110〜S112、S122)。複数の同期装置Sのシンクロ容量をもって同期作用を行うことができる。複数の同期装置Sの同期作用を同時に行うようアクチュエータACTRを駆動制御するだけだから、部品点数の増加や重量の増加を抑えながら、大きなシンクロ容量を簡易に確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の変速装置としては、入力軸と、この入力軸に遊転可能に配置された変速ギヤを含む変速ギヤ列を介して入力軸と接続されるカウンタ軸と、変速ギヤのいずれかを同期させながら入力軸に固定する同期装置と、カウンタ軸の一端に配置されたパルスモータと、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この変速機では、パルスモータにより入力軸上を遊転する変速ギヤの回転数を増減させて入力軸の回転数と同期するのをアシストするから、シンクロ容量を確保するために同期装置を大型化する必要がない。
【特許文献1】実開平5−22864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、こうした変速装置では、パルスモータなど新たな部品が必要となる。また、その分、重量の増加を招くこととなる。マルチシンクロ機構とすれば良いが重量やコストが増加してしまう。
【0004】
本発明の変速装置およびその制御方法は、部品点数の増加や重量の増加を抑えながら充分なシンクロ容量を簡易に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の変速装置は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
本発明の変速装置は、変更可能なギヤ比をもって回転軸と第2の回転軸とを接続可能なギヤ機構と、前記ギヤ機構のうち前記回転軸または前記第2の回転軸に遊転可能に配置された遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に同期させながら固定するシンクロ機構と、前記シンクロ機構を駆動して前記遊転ギヤの前記回転軸または前記第2の回転軸への固定または固定の解除を行う駆動手段と、前記回転軸と前記第2の回転軸とが接続可能な状態か否かを判定する状態判定手段と、アップシフトするよう変速指示があったときには、前記状態判定手段により接続可能状態と判定されるまでは、前記変速指示があったギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤである変速指示ギヤと、現在前記回転軸と前記第2の回転軸とを接続している前記ギヤ機構の遊転ギヤである接続ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤである小ギヤ比ギヤとを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御し、ダウンシフトするよう変速指示があったときには、前記状態判定手段により接続可能状態と判定されるまでは、前記変速指示ギヤと前記接続ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成する大ギヤ比ギヤとを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御するとともに、前記状態判定手段により接続可能状態と判定されたときには、前記変速指示ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定し、前記小ギヤ比ギヤまたは前記大ギヤ比ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定しないよう前記駆動手段を駆動制御する駆動制御手段と、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
この本発明の変速装置では、アップシフトするよう変速指示があったときには、状態判定手段により接続可能状態と判定されるまでは、変速指示があったギヤ比を構成するギヤ機構の遊転ギヤである変速指示ギヤと現在回転軸と第2の回転軸とを接続しているギヤ機構の遊転ギヤである接続ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成するギヤ機構の遊転ギヤである小ギヤ比ギヤとを回転軸または第2の回転軸に固定するよう駆動手段を駆動制御し、ダウンシフトするよう変速指示があったときには、状態判定手段により接続可能状態と判定されるまでは、変速指示ギヤと接続ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成する大ギヤ比ギヤとを回転軸または第2の回転軸に固定するよう駆動手段を駆動制御するとともに、状態判定手段により接続可能状態と判定されたときには、変速指示ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定し、小ギヤ比ギヤまたは大ギヤ比ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定しないように駆動手段を駆動制御する。即ち、変速指示ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定するシンクロ機構だけでなく、小ギヤ比ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定するシンクロ機構も駆動するから、変速指示ギヤだけを回転軸または第2の回転軸に固定するシンクロ機構だけを駆動する場合に比して大きなシンクロ容量をもって変速操作ができる。変速指示があったときに複数のシンクロ機構を同時に駆動するだけだから、部品点数の増加や重量増加を抑えながら充分なシンクロ容量を簡易に確保することができる。
【0007】
こうした本発明の変速装置において、前記駆動制御手段は、前記小ギヤ比ギヤとして、前記変速指示ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定または固定の解除をするよう前記駆動手段を駆動制御する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、アップシフトの場合に、変速指示ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成するギヤ機構の遊転ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定するシンクロ機構の同期作用を用いて大きなシンクロ容量を確保することができる。
【0008】
また、本発明の変速装置において、前記駆動制御手段は、前記大ギヤ比ギヤとして、前記変速指示ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定または固定の解除をするよう前記駆動手段を駆動制御手段であるものとすることもできる。
こうすれば、ダウンシフトの場合に、変速指示ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成するギヤ機構の遊転ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定するシンクロ機構の同期作用を用いて大きなシンクロ容量を確保することができる。
【0009】
さらに、本発明の変速機において、前記駆動制御手段は、複数の前記小ギヤ比ギヤまたは複数の前記大ギヤ比ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定または固定の解除をするよう前記駆動手段を駆動制御する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、より大きなシンクロ容量を確保することができる。
【0010】
本発明の変速装置において、前記回転軸または前記第2の回転軸の回転数を検出する回転数検出手段を備え、前記状態判定手段は、検出した前記回転軸または前記第2の回転軸の回転数に基づき接続可能状態であるか否かを判定する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、回転軸または第2の回転軸の回転数に基づき接続可能状態であるか否かを判定するだけだから、判定を簡易なものとすることができる。
【0011】
この態様の本発明の変速機において、前記変速指示があったときに前記回転軸または前記第2の回転軸の目標回転数を設定する目標回転数設定手段を備え、前記状態判定手段は、検出された前記回転数と設定された前記目標回転数との回転数差が所定値以下の場合に接続可能状態であると判定する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、回転数検出手段により検出された回転数と目標回転数設定手段により設定された目標回転数との回転数差とを比較して、この回転数差が所定値以下であるか否かにより接続状態であるか否かを判定するだけだから、判定をより簡易なものとすることができる。
【0012】
本発明の変速機において、前記ギヤ機構として前記回転軸または前記第2の回転軸の回転を反転する反転ギヤ比をもって前記第2の回転軸または前記回転軸に接続可能な反転ギヤ機構を有し、前記駆動制御手段は、前記変速指示ギヤが最も小さいギヤ比を構成する遊転ギヤである最小ギヤ比ギヤであった場合、前記状態判定手段により接続可能な状態と判定されるまでは、前記最小ギヤ比ギヤと前記反転ギヤ機構の遊転ギヤである反転ギヤとを前記回転軸や前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御し、前記状態判定手段により接続可能な状態であると判定されたときには、前記最小ギヤのみを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御すると共に前記反転ギヤの前記回転軸または前記第2の回転軸への固定を解除するよう前記駆動手段を駆動制御するものとすることもできる。
こうすれば、変速指示が変更可能なギヤ比のうち最も小さいギヤ比へのアップシフト要求であった場合でも、充分なシンクロ容量をもってアップシフトすることができる。
【0013】
本発明の変速装置の制御方法は、変更可能なギヤ比をもって回転軸と第2の回転軸とを接続可能なギヤ機構と、前記ギヤ機構のうち前記回転軸または前記第2の回転軸に遊転可能に配置された遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に同期させながら固定するシンクロ機構と、前記遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定または固定の解除がなされるよう前記シンクロ機構を駆動可能な駆動手段と、を備える変速装置の制御方法であって、(a)変速指示があったときに、前記回転軸と前記第2の回転軸とが接続可能な状態か否かを判定し、(b)前記変速指示がアップシフトであったとき、接続可能な状態と判定されるまでは、前記変速指示があったギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤである変速指示ギヤと、現在前記回転軸と前記第2の回転軸とを接続している前記ギヤ機構の遊転ギヤである接続ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤである小ギヤ比ギヤとを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御し、(c)前記変速指示がダウンシフトであったときには、接続可能な状態と判定されるまでは、前記変速指示ギヤと前記接続ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成する大ギヤ比ギヤとを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御するとともに、(d)接続可能な状態と判定されたときには、前記変速指示ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定し、前記小ギヤ比ギヤまたは前記大ギヤ比ギヤが前記回転軸または前記第2の回転軸へ固定されないよう前記駆動手段を駆動制御することを要旨とする。
【0014】
この本発明の変速装置の制御方法によれば、アップシフトするよう変速指示があったときには、状態判定手段により接続可能状態と判定されるまでは、変速指示があったギヤ比を構成するギヤ機構の遊転ギヤである変速指示ギヤ現在回転軸と第2の回転軸とを接続しているギヤ機構の遊転ギヤである接続ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成するギヤ機構の遊転ギヤである小ギヤ比ギヤとを回転軸または第2の回転軸に固定するよう駆動手段を駆動制御し、ダウンシフトするよう変速指示があったときには、状態判定手段により接続可能状態と判定されるまでは、変速指示ギヤと接続ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成する大ギヤ比ギヤとを回転軸または第2の回転軸に固定するよう駆動手段を駆動制御するとともに、状態判定手段により接続可能状態と判定されたときには、変速指示ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定し、小ギヤ比ギヤまたは大ギヤ比ギヤは回転軸または第2の回転軸に固定されないよう駆動手段を駆動制御する。即ち、変速指示ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定するシンクロ機構だけでなく、小ギヤ比ギヤを回転軸または第2の回転軸に固定するシンクロ機構も駆動するから、変速指示ギヤだけを回転軸または第2の回転軸に固定するシンクロ機構だけを駆動する場合に比して大きなシンクロ容量をもって変速できる。変速指示があったときに複数のシンクロ機構を同時に駆動するだけだから、部品点数の増加や重量増加を抑えながら充分なシンクロ容量を簡易に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施例である変速装置10の構成の概略を示す概略構成図である。実施例の変速装置10は、図1に示すように、変速機20と、この変速機20をコントロールする電子制御ユニット70とを備える。
【0016】
変速機20は、図1に示すように、クラッチCLに接続された入力軸21と、この入力軸21にリダクションギヤ機構RMを介して接続されたカウンタ軸22と、入力軸21に同軸状に配置されるとともにカウンタ軸22に変速機構TMを介して接続された出力軸23と、変速機構TMの変速操作を行う操作機構30とを備え、図示しないエンジンからの動力を所望の変速段に変速して出力可能な歯車式変速機として構成されている。
【0017】
リダクションギヤ機構RMは、入力軸21に配置された固定ギヤとしてのリダクション駆動ギヤRGと、カウンタ軸22の最もクラッチCL側に配置されてリダクション駆動ギヤRGに歯合する固定ギヤとしてのリダクション被駆動ギヤRG’とから構成されている。リダクション駆動ギヤRGは、後で詳述する同期装置Sの同期作用により入力軸21と出力軸23とを直結状態として5速段を確立するギヤとしても機能する。
【0018】
変速機構TMは、カウンタ軸3と一体回転可能に固定配置された変速駆動ギヤGと、変速駆動ギヤGと歯合する出力軸23に遊転可能に配置された変速被駆動ギヤG’と、出力軸23と一体回転可能に配置された同期装置Sとから構成されている。
変速駆動ギヤGは、リダクション被駆動ギヤRG’に続いてクラッチCL側から6速駆動ギヤG6,1速駆動ギヤG1,2速駆動ギヤG2,3速駆動ギヤG3,4速駆動ギヤG4,リバース駆動ギヤGRと順に配置され、変速被駆動ギヤG’は、6速駆動ギヤG6,1速駆動ギヤG1,2速駆動ギヤG2,3速駆動ギヤG3,4速駆動ギヤG4,リバース駆動ギヤGRに対応して6速被駆動ギヤG6’,1速被駆動ギヤG1’,2速駆動ギヤG2’,3速駆動ギヤG3’,4速被駆動ギヤG4’,リバース駆動ギヤGR’と順に配置されている。なお、リバース駆動ギヤGRは、カウンタ軸22や出力軸23と並列的に配置されたリバースアイドラ軸24に配置されたリバースアイドラギヤGRIを介してリバース被駆動ギヤGR’と歯合しており、入力軸21の回転を反転して出力軸23に伝達する。
【0019】
同期装置Sは、遊転歯車の回転速度と回転軸の回転速度とを同期させながら遊転歯車を回転軸に固定する周知のシンクロ機構として構成されており、リダクション駆動ギヤRGと6速被駆動ギヤG6’との間に配置された5−6速用同期装置S1と、1速被駆動ギヤG1’と2速駆動ギヤG2’との間に配置された1−2速用同期装置S2と、3速駆動ギヤG3’と4速被駆動ギヤG4’との間に配置された3−4速用同期装置S3と、リバース駆動ギヤGR’のクラッチCL側とは反対側に配置されたリバース速用同期装置S4とを備える。
各同期装置S1,S2,S3,S4は、出力軸23に固定配置されたシンクロハブH1,H2,H3,H4と、シンクロハブH1,H2,H3,H4と一体回転すると共に軸方向に移動可能にシンクロハブH1,H2,H3,H4の外周面に配置されたカップリングスリーブC1,C2,C3,C4と、各変速被駆動ギヤG1’,G2’,G3’,G4’,G5’,G6’と一体回転するように各変速被駆動ギヤG1’,G2’,G3’,G4’,G5’,G6’のシンクロハブH1,H2,H3,H4側側面に設けられたクラッチギヤCG1,CG2,CG3,CG4,CG5,CG6と、シンクロハブH1,H2,H3,H4とクラッチギヤCG1,CG2,CG3,CG4,CG5,CG6との間に配置され同期摩擦力を生ずる図示しないシンクロリングとから構成されている。
【0020】
図2は、カップリングスリーブC1,C2,C3,C4の内周面に形成されたスリーブスプラインと、シンクロリングの外周面に形成された外歯およびクラッチギヤCG1,CG2,CG3,CG4,CG5,CG6,CGRの外歯とを拡大して示す拡大図である。スリーブスプライン、シンクロリングの外歯およびクラッチギヤCG1,CG2,CG3,CG4,CG5,CG6,CGRの外歯のそれぞれの先端には、図示するように、チャンファが形成されている。
このチャンファのチャンファ角は、従来のチャンファ(例えば、110度ないし120度、図2中二点鎖線)のチャンファ角に比較して比較的小さい角度(例えば、80度ないし95度)に形成されている。ここで、チャンファ角は、図2中の角度θがアップシフト時に使用するチャンファのチャンファ角であり、図2中の角度θ’がダウンシフト時に使用するチャンファのチャンファ角である。なお、同期装置S2における1速段側の各部のチャンファは、ダウンシフト時に使用するチャンファのチャンファ角θ’が、従来のチャンファのチャンファ角と同程度に形成されている。
【0021】
操作機構30は、各カップリングスリーブC1,C2,C3,C4にそれぞれ係合すると共にケース20aに固定されたフォークロッドRに軸方向移動可能に配置されたシフトフォークF1,F2,F3,F4と、シフトフォークF1,F2,F3,F4に形成されたアームA1,A2,A3,A4に接続されてシフトフォークF1,F2,F3,F4を軸方向に移動するアクチュエータACTR1,ACTR2,ACTR3,ACTR4とから構成されおり、アクチュエータACTR1,ACTR2,ACTR3,ACTR4が駆動することにより、それぞれシフトフォークF1,F2,F3,F4を介してカップリングスリーブC1,C2,C3,C4を移動して変速を行う。
即ち、アクチュエータACTR1が図1中左側へ移動することにより5速段に、アクチュエータACTR1が図1中右側へ移動することにより6速段に、アクチュエータACTR2が図1中左側へ移動することにより1速段に、アクチュエータACTR2が図1中右側へ移動することにより2速段に、アクチュエータACTR3が図1中左側へ移動することにより3速段に、アクチュエータACTR3が図1中右側へ移動することにより4速段に、アクチュエータACTR4が図1中左側へ移動することによりリバース段に変速する。
【0022】
電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。
電子制御ユニット70には、図示しないアクセルポジションセンサからのアクセル開度Accや車速センサ82からの車速V,回転数センサ84からのカウンタ軸22の回転数Ncntrなどが入力ポートを介して入力されている。また、電子制御ユニット70からは、アクチュエータACTR1,ACTR2,ACTR3,ACTR4への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0023】
次に、こうして構成された実施例における変速装置10の動作、特に変速要求があった際の同期装置Sの動作について説明する。
図3は、実施例1の変速装置10の電子制御装置70により実行されるシンクロ処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0024】
シンクロ処理ルーチンが実行されると、電子制御ユニット70のCPU72は、まず、図示しないアクセルペダルポジションセンサにより検出されるアクセル開度Accや車速センサ82により検出される車速Vを読み込む処理を実行する(ステップS100)。そして、読み込んだアクセル開度Accと車速Vとに基づいて目標変速段iを設定すると共に、車速Vと設定した目標変速段iに基づいて目標カウンタ軸回転数Ncntr*とを設定する(ステップS102)。目標変速段iの設定は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと目標変速段iとの関係を予め設定してマップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると、記憶したマップから対応する目標変速段iが導出されるものとした。アクセル開度Accと車速Vと目標変速段iとの関係の一例を示すマップを図4に示す。
【0025】
また、目標カウンタ軸回転数Ncntr*は、次式(1)により設定するものとした。式(1)中、Gvは車速Vを出力軸23の回転数に変換する変換係数であり、αは目標変速段iのギヤ比である。
Ncntr*=V×Gv/α (1)
【0026】
こうして目標変速段iと目標カウンタ軸回転数Ncntr*とが設定されると、変速要求がアップシフトであるか否かを判定する(ステップS104)。アップシフトであると判断されたときには、目標変速段iが1速段であるか6速段であるか、それともそれ以外の変速段であるかを判定する(ステップS106)。1速段であると判定されたときには、発進時であると判断して、1速段の遊転ギヤである1速被駆動ギヤG1’を選択するようアクチュエータACTR2を駆動して(ステップS108)、本ルーチンを終了する。
【0027】
目標変速段iが6速段であると判定されたときには、6速段の遊転ギヤとしての6速被駆動ギヤG6’およびリバース段の遊転ギヤとしてのリバース被駆動ギヤGR’を出力軸23に固定するようアクチュエータACTR1およびACTR4を駆動制御する(ステップS110)。このように、6速被駆動ギヤG6’に加えてリバース被駆動ギヤGR’も出力軸23に固定するよう両アクチュエータACTR1,ACTR4を駆動制御するから、2つの同期装置S1,S4のシンクロ容量をもって同期作用を行うことができる。この結果、部品点数の増加や重量の増加を抑えながら、大きなシンクロ容量を確保することができる。ここで、目標変速段iである6速段の遊転ギヤとしての6速被駆動ギヤG6’を出力軸23に固定する際の同期装置S1の同期作用を、リバース被駆動ギヤGR’を出力軸23に固定する際の同期装置S4の同期作用により補助するものとしたのは以下の理由による。
【0028】
アップシフトの場合、これから出力軸23に固定しようとする変速被駆動ギヤG’はカウンタ軸22上に固定された変速駆動ギヤGとの噛合いにより、その回転数が出力軸23の回転数よりも高くなっているから、同期作用は、変速被駆動ギヤG’を介してカウンタ軸22の回転数を低下することにより行われる。したがって、アップシフトの場合、目標変速段iの同期作用を補助するには、カウンタ軸22の回転数を低下させる変速被駆動ギヤG’、即ち、目標変速段iよりもギヤ比が小さい変速段あるいは出力軸23の回転を反転させる変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRを駆動すれば良い。目標変速段iが6速段である場合には、実施例では、6速段よりもギヤ比が小さい変速段が存在しないため、リバース被駆動ギヤGR’を出力軸23に固定するようアクチュエータACTR4を駆動するのである。
【0029】
一方、目標変速段iが1,6速段以外の変速段、即ち、目標変速段iが2速段〜5速段のいずれかであると判定されたときには、目標変速段iとしての2速段〜5速段のいずれかの遊転ギヤである変速被駆動ギヤG2’,G3’,G4’,G5’および目標変速段iよりもギヤ比の小さい変速段の遊転ギヤである変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定するようアクチュエータACTRを駆動制御する(ステップS112)。
ここで、具体的に説明するために、変速要求として2速段へのアップシフトがなされた場合を考える。この場合のステップS110の処理は、目標変速段iである2速段の遊転ギヤとしの2速被駆動ギヤG2’と目標変速段iよりもギヤ比の小さい変速段である3速段の遊転ギヤとしての3速被駆動ギヤG3’および5速段としても機能するリダクション駆動ギヤRGを出力軸23に固定するようアクチュエータACTR2,ACTR3およびACTR1を駆動制御する処理である。
このように、目標変速段iの変速被駆動ギヤG’に加えて目標変速段iよりもギヤ比の小さい変速段の遊転ギヤである変速被駆動ギヤG’も出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRを駆動制御するから、3つの同期装置のシンクロ容量をもって同期作用を行うことができる。この結果、部品点数の増加や重量の増加を抑えながら、大きなシンクロ容量を確保することができる。ここで、目標変速段iである2速段〜5速段のいずれかの遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG2’,G3’,G4’,G5’を出力軸23に固定する際のいずれかの同期装置S1,S2,S3の同期作用を、目標変速段iよりもギヤ比の小さい変速段の遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する際の同期装置Sの同期作用により補助するものとしたのは上述のとおりである。
【0030】
こうして、目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’とリバース段のリバース被駆動ギヤGR’あるいは目標変速段iよりもギヤ比が小さい変速段を構成する変速被駆動ギヤG’とを出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRが駆動制御されると、カウンタ軸22の回転数Ncntrを読み込み(ステップS114)、読み込んだカウンタ軸22の回転数NcntrとステップS102で設定した目標カウンタ軸回転数Ncntr*との差の絶対値と閾値Nrefとを比較する(ステップS116)。ここで、閾値Nrefは、目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’の回転数が、一つの同期装置S、即ち、目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sのシンクロ容量だけで目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できる状態であるか否かの判断を行うために設定されるものであり、同期装置Sのシンクロ容量や目標変速段iなどにより定められる。
【0031】
ステップS114で読み込んだカウンタ軸22の回転数NcntrとステップS102で設定した目標カウンタ軸回転数Ncntr*との差の絶対値が閾値Nref以下であるときには、目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRを駆動制御しつづけると共に、目標変速段i以外の変速段を構成する変速被駆動ギヤG’の出力軸23への固定を解除するようにアクチュエータACTRを駆動制御して(ステップS118)、本ルーチンを終了する。
【0032】
ステップS114で読み込んだカウンタ軸22の回転数NcntrとステップS102で設定した目標カウンタ軸回転数Ncntr*との差の絶対値が閾値Nrefよりも大きいときには、目標変速段を構成する変速被駆動歯車G’の回転数が、この変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sのシンクロ容量だけでは変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できない状態と判断して、閾値Nref以下となるまでステップS114〜S116の処理を繰り返し、閾値Nref以下となったときに、目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRを駆動制御しつづけると共に、目標変速段i以外の変速段を構成する変速被駆動ギヤG’の出力軸23への固定を解除するようにアクチュエータACTRを駆動制御して(ステップS118)、本ルーチンを終了する。
【0033】
ステップS104でアップシフトでないと判断されたときには、変速要求がダウンシフトであると判断して、目標変速段iが1速段であるか、それともそれ以外の変速段であるかを判定する(ステップS120)。1速段以外の変速段、即ち、目標変速段iが2速段〜5速段のいずれかであると判定されたときには、目標変速段iとしての2速段〜5速段のいずれかの遊転ギヤである変速被駆動ギヤG2’,G3’,G4’,G5’および目標変速段iよりもギヤ比の大きい変速段の遊転ギヤである変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定するようアクチュエータACTRを駆動制御する(ステップS122)。
ここで、具体的に説明するために、変速要求として5速段へのダウンシフトがなされた場合を考える。この場合のステップS122の処理は、目標変速段iである5速段の遊転ギヤとしての5速被駆動ギヤG5’と目標変速段iよりもギヤ比の大きい変速段である1速段の遊転ギヤとしての1速被駆動ギヤG1’および3速段の遊転ギヤとしての3速被駆動ギヤG3’とを出力軸23に固定するようアクチュエータACTR1,ACTR2およびACTR3を駆動制御する処理である。
このように、目標変速段iの遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’に加えて目標変速段iよりもギヤ比の大きい変速段の遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’も出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRを駆動制御するから、3つの同期装置のシンクロ容量をもって同期作用を行うことができる。この結果、部品点数の増加や重量の増加を抑えながら、大きなシンクロ容量を確保することができる。ここで、目標変速段iである2速段〜5速段のいずれかの遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG2’,G3’,G4’,G5’を出力軸23に固定する際のいずれかの同期装置S1,S2,S3の同期作用を、目標変速段iよりもギヤ比の大きい変速段の遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する際の同期装置Sの同期作用により補助するものとしたのは以下の理由による。
【0034】
ダウンシフトの場合、これから出力軸23に固定しようとする変速被駆動ギヤG’はカウンタ軸22上に固定された変速駆動ギヤGとの噛合いにより、その回転数が出力軸23の回転数よりも低くなっているから、同期作用は、変速被駆動ギヤG’を介してカウンタ軸22の回転数をアップすることにより行われる。したがって、ダウンシフトの場合、目標変速段iの同期作用を補助するには、カウンタ軸22の回転数をアップさせる変速被駆動ギヤG’、即ち、目標変速段iよりもギヤ比が大きい変速段の変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRを駆動すれば良い。
【0035】
こうして、目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’と目標変速段iよりもギヤ比が大きい変速段を構成する変速被駆動ギヤG’とを出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRが駆動制御されると、カウンタ軸22の回転数Ncntrを読み込み(ステップS114)、読み込んだカウンタ軸22の回転数NcntrとステップS102で設定した目標カウンタ軸回転数Ncntr*との差の絶対値と閾値Nrefとを比較する(ステップS116)。ステップS114で読み込んだカウンタ軸22の回転数NcntrとステップS102で設定した目標カウンタ軸回転数Ncntr*との差の絶対値が閾値Nref以下であるときには、目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRを駆動制御しつづけると共に、目標変速段i以外の変速段を構成する変速被駆動ギヤG’の出力軸23への固定を解除するようにアクチュエータACTRを駆動制御して(ステップS118)、本ルーチンを終了する。ステップS114で読み込んだカウンタ軸22の回転数NcntrとステップS102で設定した目標カウンタ軸回転数Ncntr*との差の絶対値が閾値Nrefよりも大きいときには、目標変速段iを構成する変速比駆動ギヤG’の回転数が、この変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sのシンクロ容量だけでは変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できない状態と判断して、閾値Nref以下となるまでステップS114〜S116の処理を繰り返し、閾値Nref以下となったときに、目標変速段iを構成する変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定するようにアクチュエータACTRを駆動制御しつづけると共に、目標変速段i以外の変速段を構成する変速被駆動ギヤG’の出力軸23への固定を解除するようにアクチュエータACTRを駆動制御して(ステップS118)、本ルーチンを終了する。
【0036】
一方、ステップS120において目標変速段iが1速段であると判定されたときには、同期作用を補助できないと判断して、1速段の遊転ギヤである1速被駆動ギヤG1’を選択するようアクチュエータACTR2を駆動して(ステップS124)、本ルーチンを終了する。目標変速段iが1速段であるときに、同期作用が補助できないのは、1速段よりもギヤ比の大きい変速段が存在しないからである。
【0037】
以上説明した実施例の変速装置10によれば、変速要求があると、目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sだけでこの変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できる状態となるまでは、目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’に加えて目標変速段i以外の変速段を構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’も出力軸23に固定するようアクチュエータACTRを駆動制御するから、複数の同期装置Sのシンクロ容量をもって同期作用を行うことができる。複数の同期装置Sの同期作用を同時に行うようアクチュエータACTRを駆動制御だけだから、部品点数の増加や重量の増加を抑えながら、大きなシンクロ容量を簡易に確保することができる。もとより、目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sだけでこの変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できる状態となったときには、目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’だけを出力軸23に固定するようアクチュエータACTRを駆動制御すると共に、目標変速段i以外の変速段を構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’の出力軸23への固定を解除するようアクチュエータACTRを駆動制御するから、インターロックすることもない。
【0038】
また、実施例の変速装置10によれば、目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sだけでこの変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できる状態となったか否かは、カウンタ軸22の回転数Ncntrと目標カウンタ軸回転数Ncntr*との差の絶対値と閾値Nrefとの比較により行うものとするから、その判定を簡易なものとすることができる。
【0039】
さらに、実施例の変速装置10によれば、同期装置Sにおけるスリーブスプライン、シンクロリングの外歯およびクラッチギヤCG1,CG2,CG3,CG4,CG5,CG6の外歯のそれぞれの先端形成したチャンファのチャンファ角を、従来のチャンファ角と比較して比較的小さい角度θ,θ’に形成するから、操作性を向上することができる。もとより、シンクロ容量は、複数の同期装置Sの同期作用を同時に行うことにより確保できる。なお、同期装置S2における1速段側の各部のチャンファのうち、ダウンシフト時に使用するチャンファのチャンファ角θ’を、従来のチャンファのチャンファ角と同程度に形成するから、1速段へのダウンシフト時におけるシンクロ容量も確保できる。
【0040】
実施例の変速装置10では、目標変速段iよりもギヤ比が小さい変速段を構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’あるいは目標変速段iよりもギヤ比が大きい変速段を構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sを用いて目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sの同期作用を補助するものとしたが、段飛び変速のような場合には、変速前の変速段、即ち、現在の変速段よりもギヤ比が小さい変速段を構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’あるいは現在の変速段よりもギヤ比が大きい変速段を構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sを用いて目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sの同期作用を補助するものとしても構わない。例えば、1速段で変速中に3速段への段飛び変速指示があった場合、目標変速段iである3速段を構成する3速被駆動ギヤG3’を出力軸23に固定する同期装置S3の同期作用を、2速段を構成する2速被駆動ギヤG2’を出力軸23に固定する同期装置S2の同期作用を用いて補助するものとすれば良い。
【0041】
実施例の変速装置10では、変速要求として2速段へのアップシフトがなされた場合、目標変速段iである2速段を構成する2速被駆動ギヤG2’を出力軸23に固定する同期装置S2の同期作用を、3速被駆動ギヤG3’および5速段としても機能するリダクション駆動ギヤRGを出力軸23に固定する同期装置S3,S1の同期作用を用いて補助するものとしたが、これに限らず、3速被駆動ギヤG3’および6速被駆動ギヤG6’を出力軸23に固定する同期装置S3,S1の同期作用を用いて補助するものとしたり、4速被駆動ギヤG4’および6速被駆動ギヤG6’を出力軸23に固定する同期装置S3,S1の同期作用を用いて補助するものとしたりするなど、同期作用を補助する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’の組み合わせは、如何なる組み合わせであっても構わない。同様に、変速要求として5速段へのダウンシフトがなされた場合、目標変速段iである5速段を構成する5速被駆動ギヤG5’を出力軸23に固定する同期装置S1の同期作用を、1速被駆動ギヤG1’および3速被駆動ギヤG3’を出力軸23に固定する同期装置S2,S3の同期作用を用いて補助するものとしたが、これに限らず、2速被駆動ギヤG2’および3速被駆動ギヤG3’を出力軸23に固定する同期装置S2,S3の同期作用を用いて補助するものとしたり、2速被駆動ギヤG2’および4速被駆動ギヤG4’を出力軸23に固定する同期装置S2,S3の同期作用を用いて補助するものとしたりするなど、同期作用を補助する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’の組み合わせは、如何なる組み合わせであっても構わない。
【0042】
実施例の変速装置10では、目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sの同期作用を、目標変速段i以外の変速段を構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する複数の同期装置Sの同期作用を用いて補助するものとしたが、補助する同期装置Sは、1つであっても構わない。
【0043】
実施例の変速装置10では、1速段へのアップシフトの場合は、発進時であると判断して同期作用の補助は行わないものとしたが、1速段へのアップシフトの場合も同期作用の補助は行うものとしても差し支えない。
【0044】
実施例の変速装置10では、カウンタ軸22の回転数Ncntrに基づいて目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sのシンクロ容量だけで目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できる状態であるか否かの判断を行うものとしたが、入力軸21の回転数Ninやカウンタ軸22の回転数Ncntrと出力軸23の回転数Noutとに基づいて目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定する同期装置Sのシンクロ容量だけで目標変速段iを構成する遊転ギヤとしての変速被駆動ギヤG’を出力軸23に固定できる状態であるか否かの判断を行うものとしても構わない。入力軸21の回転数Ninに基づいて上述した判断を行う場合、入力軸21の目標入力軸回転数Nin*を設定すると共に、回転数センサにより入力軸21の回転数Ninを読み込み、読み込んだ入力軸21の回転数Ninと目標入力軸回転数Nin*との差の絶対値と閾値Nrefとを比較することにより行うものとすれば良い。
【0045】
なお、目標入力軸回転数Nin*は、次式(2)により設定するものとすれば良い。式(2)中、Gvは車速Vを出力軸23の回転数Noutに変換する変換係数であり、αは目標変速段iのギヤ比であり、βはリダクションギヤ機構RMの減速比である。
Nin*=V×Gv/α/β (2)
【0046】
また、カウンタ軸22の回転数Ncntrと出力軸23の回転数Noutとに基づいて上述した判断を行う場合、回転数センサによりカウンタ軸22の回転数Ncntrと出力軸23の回転数Noutとを読み込み、読み込んだ回転数センサによりカウンタ軸22の回転数Ncntrと出力軸23の回転数Noutとの差の絶対値と閾値Nrefとを比較することにより行うものとすれば良い。
【0047】
実施例の変速装置10では、スリーブスプライン、シンクロリングの外歯およびクラッチギヤCG1,CG2,CG3,CG4,CG5,CG6,CGRの外歯のそれぞれの先端に形成したチャンファのチャンファ角は、従来のチャンファのチャンファ角に比較して比較的小さい角度(例えば、80度ないし95度)に形成するものとしたが、スリーブスプライン、シンクロリングの外歯およびクラッチギヤCG1,CG2,CG3,CG4,CG5,CG6,CGRの外歯のそれぞれの先端に形成したチャンファのチャンファ角は、従来のチャンファのチャンファ角と同程度の角度(例えば、110度ないし120度)に形成するものとしても構わない。
【0048】
実施例の変速装置10では、変速機20は、遊転ギヤを全て出力軸23に配置するものとしたが、遊転ギヤを全てカウンタ軸22に配置するものとしたり、遊転ギヤを出力軸23とカウンタ軸22との両方に配置するものとするなど、遊転ギヤの配置は如何なるものであっても構わない。
【0049】
実施例の変速装置10では、変速機20はFR型として説明したが、変速機20はFF型であっても良い。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例である変速装置10の構成の概略を示す概略構成図である。
【図2】カップリングスリーブC1,C2,C3,C4の内周面に形成されたスリーブスプラインと、シンクロリングの外周面に形成された外歯およびクラッチギヤCG1,CG2,CG3,CG4,CG5,CG6,CGRの外歯とを拡大して示す拡大図である。
【図3】実施例1の変速装置10の電子制御装置70により実行されるシンクロ処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】アクセル開度Accと車速Vと目標変速段iとの関係の一例を示すマップである。
【符号の説明】
【0052】
10 変速装置
20 変速機
20a ケース
21 入力軸
22 カウンタ軸
23 出力軸
24 リバースアイドラ軸
30 操作機構
70 電子制御ユニット
72 CPU
74 ROM
76 RAM
82 車速センサ
84 回転数センサ
RM リダクションギヤ機構
RG リダクション駆動ギヤ
RG’ リダクション被駆動ギヤ
TM 変速機構
CL クラッチ
G 変速駆動ギヤ
G1 1速駆動ギヤ
G2 2速駆動ギヤ
G3 3速駆動ギヤ
G4 4速駆動ギヤ
G6 6速駆動ギヤ
GR リバース駆動ギヤ
G’ 変速被駆動ギヤ
G1’ 1速被駆動ギヤ
G2’ 2速被駆動ギヤ
G3’ 3速被駆動ギヤ
G4’ 4速被駆動ギヤ
G6’ 6速被駆動ギヤ
GR’ リバース被駆動ギヤ
GRI リバースアイドラギヤ
S 同期装置
S1 5−6速用同期装置
S2 1−2速用同期装置
S3 3−4速用同期装置
S4 リバース速用同期装置
C1,C2,C3,C4 カップリングスリーブ
H1,H2,H3,H4 シンクロハブ
CG1,CG2,CG3,CG4,CGR クラッチギヤ
θ,θ’ チャンファ角
R フォークロッド
F1,F2,F3,F4 シフトフォーク
A1,A2,A3,A4 アーム
ACTR1,ACTR2,ACTR3,ACTR4 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変更可能なギヤ比をもって回転軸と第2の回転軸とを接続可能なギヤ機構と、
前記ギヤ機構のうち前記回転軸または前記第2の回転軸に遊転可能に配置された遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に同期させながら固定するシンクロ機構と、
前記シンクロ機構を駆動して前記遊転ギヤの前記回転軸または前記第2の回転軸への固定または固定の解除を行う駆動手段と、
前記回転軸と前記第2の回転軸とが接続可能な状態か否かを判定する状態判定手段と、
アップシフトするよう変速指示があったときには、前記状態判定手段により接続可能状態と判定されるまでは、前記変速指示があったギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤである変速指示ギヤと、現在前記回転軸と前記第2の回転軸とを接続している前記ギヤ機構の遊転ギヤである接続ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤである小ギヤ比ギヤとを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御し、ダウンシフトするよう変速指示があったときには、前記状態判定手段により接続可能状態と判定されるまでは、前記変速指示ギヤと前記接続ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成する大ギヤ比ギヤとを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御するとともに、前記状態判定手段により接続可能状態と判定されたときには、前記変速指示ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定し、前記小ギヤ比ギヤまたは前記大ギヤ比ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定しないよう前記駆動手段を駆動制御する駆動制御手段と、
を備える変速装置。
【請求項2】
前記駆動制御手段は、前記小ギヤ比ギヤとして、前記変速指示ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定または固定の解除をするよう前記駆動手段を駆動制御する手段である請求項1記載の変速装置。
【請求項3】
前記駆動制御手段は、前記大ギヤ比ギヤとして、前記変速指示ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定または固定の解除をするよう前記駆動手段を駆動制御手段である請求項1または2記載の変速装置。
【請求項4】
前記駆動制御手段は、複数の前記小ギヤ比ギヤまたは複数の前記大ギヤ比ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定または固定の解除をするよう前記駆動手段を駆動制御する手段である請求項1ないし3いずれか記載の変速装置。
【請求項5】
前記回転軸または前記第2の回転軸の回転数を検出する回転数検出手段を備え、
前記状態判定手段は、検出した前記回転軸または前記第2の回転軸の回転数に基づき接続可能状態であるか否かを判定する手段である請求項1ないし4いずれか記載の変速装置。
【請求項6】
前記変速指示があったときに前記回転軸または前記第2の回転軸の目標回転数を設定する目標回転数設定手段を備え、
前記状態判定手段は、検出された前記回転数と設定された前記目標回転数との回転数差が所定値以下の場合に接続可能状態であると判定する手段である請求項5記載の変速装置。
【請求項7】
前記ギヤ機構として前記回転軸または前記第2の回転軸の回転を反転する反転ギヤ比をもって前記第2の回転軸または前記回転軸に接続可能な反転ギヤ機構を有し、
前記駆動制御手段は、前記変速指示ギヤが最も小さいギヤ比を構成する遊転ギヤである最小ギヤ比ギヤであった場合、前記状態判定手段により接続可能な状態と判定されるまでは、前記最小ギヤ比ギヤと前記反転ギヤ機構の遊転ギヤである反転ギヤとを前記回転軸や前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御し、前記状態判定手段により接続可能な状態であると判定されたときには、前記最小ギヤのみを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御すると共に前記反転ギヤの前記回転軸または前記第2の回転軸への固定を解除するよう前記駆動手段を駆動制御する請求項1ないし6いずれか記載の変速装置。
【請求項8】
変更可能なギヤ比をもって回転軸と第2の回転軸とを接続可能なギヤ機構と、
前記ギヤ機構のうち前記回転軸または前記第2の回転軸に遊転可能に配置された遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に同期させながら固定するシンクロ機構と、
前記遊転ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定または固定の解除がなされるよう前記シンクロ機構を駆動可能な駆動手段と、
を備える変速装置の制御方法であって、
(a)変速指示があったときに、前記回転軸と前記第2の回転軸とが接続可能な状態か否かを判定し、
(b)前記変速指示がアップシフトであったとき、接続可能な状態と判定されるまでは、前記変速指示があったギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤである変速指示ギヤと、現在前記回転軸と前記第2の回転軸とを接続している前記ギヤ機構の遊転ギヤである接続ギヤのギヤ比よりも小さなギヤ比を構成する前記ギヤ機構の遊転ギヤである小ギヤ比ギヤとを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御し、
(c)前記変速指示がダウンシフトであったときには、接続可能な状態と判定されるまでは、前記変速指示ギヤと前記接続ギヤのギヤ比よりも大きなギヤ比を構成する大ギヤ比ギヤとを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定するよう前記駆動手段を駆動制御するとともに、
(d)接続可能な状態と判定されたときには、前記変速指示ギヤを前記回転軸または前記第2の回転軸に固定し、前記小ギヤ比ギヤまたは前記大ギヤ比ギヤが前記回転軸または前記第2の回転軸へ固定されないよう前記駆動手段を駆動制御する
変速装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−185882(P2009−185882A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25784(P2008−25784)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(390009896)愛知機械工業株式会社 (190)
【Fターム(参考)】