説明

多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法、多孔質シリカ−繊維複合体およびそれを用いた真空断熱材

【課題】安価で高い断熱性能を有し、かつ量産性、柔軟性、施工性に優れた多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法、多孔質シリカ−繊維複合体およびそれを用いた真空断熱材を提供する。
【解決手段】pH3〜4.5の酸性水溶液、非イオン性界面活性剤、水溶性の非プロトン性極性有機溶媒、および尿素を含む混合液に、アルキルトリアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン、ビス(トリアルコキシシリル)アルカンからなる群より選択される1または複数を氷冷下添加し、シロキサンゾルを生成させ、これを繊維構造体に含浸後、その内部で前記シロキサンゾルを一定の温度で反応させ、多孔質の酸化ケイ素ゲルを生成させることにより多孔質シリカ−繊維複合体を調製後、内部に含まれる水をアルコール溶媒に置換し、常圧下で加熱乾燥させる多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法、多孔質シリカ−繊維複合体およびそれを用いた真空断熱材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーコストの削減および環境保護の観点から、エアロゲル等の多孔質材料を用いた断熱材が注目されている。エアロゲルは、シリカゲル等のゲル中に含まれる水分を超臨界乾燥により気体(空気)と置換した低密度物質で、伝熱の主要な方法である対流、伝導、放射の全てを遮断するため、断熱性に非常に優れているという特徴を有する。
【0003】
シリカ、アルミナ等の金属酸化物を骨格とするエアロゲルは、金属アルコキシド等を前駆体とするゾル−ゲル法等の液相法により合成される。そのため、溶媒の乾燥が必要不可欠であるが、その際に、溶媒の表面張力に起因する微細構造の収縮や破壊、クラックの発生等が起こりやすいという問題点を有している。そこで、現在市販されているエアロゲルにおいて、乾燥には超臨界乾燥法が用いられている。しかしながら、超臨界乾燥は大がかりな装置を必要とするため製造コストが高くなると共に、量産性の点で課題を有している。
【0004】
例えば、特許文献1では、(a)分子中に加水分解性官能基および非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を、界面活性剤を含む酸性水溶液に添加して、ゾルを生成する反応と前記ゾルをゲル化させる反応とを一段階で行わせる工程と、(b)工程(a)によって形成されたゲルを乾燥させる工程と、を含み、工程(b)では、前記ゲルの乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度および圧力下で、前記ゲルを乾燥させるアルキルシロキサンエアロゲルおよびその製造方法が開示されている。
また、特許文献2では、繊維を絡合および/または接着させてなる嵩密度が0.01g/cm以上である繊維構造体100重量部の空間に対し、平均粒子径1μm以下の微粒子1〜250重量部を、該繊維構造体により保持させてなる繊維・微粒子複合断熱材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/010949号パンフレット
【特許文献2】特開2002−333092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のアルキルシロキサンエアロゲルは、超臨界乾燥を用いないため、乾燥工程に要するコストが従来のエアロゲルよりも小さくなるが、脆くて曲げ応力や衝撃により破断しやすいというエアロゲルの欠点については解決されていない。今日の自動車、航空機、産業用の高温設備は狭小スペースで複雑な形状をしており、これらを断熱するためには熱抵抗が大きく、柔軟で施工性に優れた断熱材が求められているが、特許文献1記載のアルキルシロキサンエアロゲルは、柔軟性および施工性の点で上記のようなニーズに十分応えることが困難である。
また、特許文献2記載の繊維・微粒子複合断熱材は、繊維構造体の内部に微粒子が保持されているが、微粒子の脱落による粉塵の発生や断熱性能の低下等の問題を生じるおそれがある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、安価で高い断熱性能を有し、かつ量産性、柔軟性、施工性に優れた多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法、多孔質シリカ−繊維複合体およびそれを用いた真空断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、下記の(1)〜(7)に記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
(1)pH3〜4.5の酸性水溶液100重量部と、非イオン性界面活性剤10〜40重量部と、水溶性の非プロトン性極性有機溶媒30〜50重量部と、尿素30〜70重量部とを含む混合液に、アルキルトリアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン、およびビス(トリアルコキシシリル)アルカンからなる群より選択される1または複数のアルコキシシラン化合物50〜100重量部を氷冷下添加し、前記混合液中でシロキサンゾルを生成させる工程Aと、前記シロキサンゾルを含む混合液を繊維構造体に含浸させる工程Bと、前記繊維構造体の内部で前記シロキサンゾルを一定の温度で反応させ、多孔質の酸化ケイ素ゲルを生成させることにより、前記酸化ケイ素ゲルが前記繊維構造体の内部に形成された多孔質シリカ−繊維複合体を調製する工程Cと、前記多孔質シリカ−繊維複合体をアルコール溶媒に浸漬し、内部に含まれる水をアルコール溶媒に置換する工程Dと、前記多孔質シリカ−繊維複合体を常圧下で加熱して、内部に含まれる前記アルコール溶媒を乾燥させる工程Eとを有する多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
(2)前記工程Dと前記工程Eとの間に、前記多孔質シリカゲルに含まれるシラノール基とアルキル化剤とを反応させる工程Fをさらに有する(1)記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
(3)前記繊維構造体が不織布である(1)および(2)のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
(4)前記繊維構造体が中空繊維を含み、前記多孔質シリカゲルがその内部に形成されている(1)から(3)のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
(5)前記水溶性の非プロトン性極性有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミドである(1)から(4)のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
(6)前記アルコール溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノールからなる群より選択される1または複数である(1)から(5)のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
(7)前記アルキル化剤が、アルキルトリハロシラン、ジアルキルジハロシラン、トリアルキルハロシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランおよびトリアルキルアルコキシシランからなる群より選択される1または複数である(2)から(6)のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
【0009】
本発明の第2の態様は、
(8)本発明の第1の態様に係る(上記(1)から(7)のいずれか1項記載の)製造方法で製造される多孔質シリカ−繊維複合体を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0010】
本発明の第3の態様は、
(9)ガスバリア性を有する包装材の内部に、本発明の第2の態様に係る(上記(8)記載の)多孔質シリカ−繊維複合体を減圧密封した真空断熱材を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、安価で高い断熱性能を有し、かつ量産性、柔軟性、施工性に優れた多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法、多孔質シリカ−繊維複合体およびそれを用いた真空断熱材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1において得られた多孔質シリカ−繊維複合体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る真空断熱材の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の第1の実施の形態に係る多孔質シリカ−繊維複合体(以下「複合体」と略称する場合がある。)は、下記の工程を有する製造方法(以下「本製造方法」と略称する場合がある。)を用いて製造される。
(1)pH3〜4.5の酸性水溶液100重量部と、非イオン性界面活性剤10〜40重量部と、水溶性の非プロトン性極性有機溶媒5〜15重量部と、尿素30〜70重量部とを含む混合液に、アルキルトリアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン、およびビス(トリアルコキシシリル)アルカンからなる群より選択される1または複数のアルコキシシラン化合物50〜100重量部を氷冷下添加し、混合液中でシロキサンゾルを生成させる工程A
(2)工程Aで調製したシロキサンゾルを含む混合液を繊維構造体に含浸させる工程B
(3)前記繊維構造体の内部で前記シロキサンゾルを一定の温度で反応させ、多孔質の酸化ケイ素ゲル(以下「多孔質ゲル」と略称する場合がある。)を生成させることにより、前記酸化ケイ素ゲルが前記繊維構造体の内部に形成された多孔質シリカ−繊維複合体を調製する工程C
(4)工程Cで調製した多孔質シリカ−繊維複合体をアルコール溶媒に浸漬し、内部に含まれる水をアルコール溶媒に置換する工程D
(5)多孔質シリカ−繊維複合体を常圧下で加熱して、内部に含まれる前記アルコール溶媒を乾燥させる工程E
【0014】
以下、各工程についてより詳細に説明する。
(1)工程A
工程Aにおけるシロキサンゾルの形成は、酸触媒の存在下で行われる。アルコキシシラン化合物の加水分解および縮合反応によるシロキサンオリゴマーの生成は、酸および塩基のいずれによっても触媒されるが、塩基触媒では反応速度が大きくなりすぎ密度の高い酸化ケイ素ゲルが得られるため、多孔質ゲルの形成には、反応速度がより小さい酸触媒を用いることが好ましいためである。
【0015】
pH3〜4.5の酸性水溶液の調製に用いられる酸としては、水溶性である限りにおいて特に制限はなく、価格、入手の容易さ、安全性等を考慮した上で任意の有機酸および無機酸を用いることができる。有機酸の具体例としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸等のジカルボン酸、乳酸、酒石酸等のオキシカルボン酸、クエン酸、リンゴ酸等の多価カルボン酸等が挙げられる。無機酸の具体例としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。
【0016】
空隙率の高い多孔質ゲルを形成させるために、酸性水溶液に界面活性剤を添加する。両親媒性の界面活性剤が水中で形成するナノスケールの分子集合体(ミセル等)を鋳型として利用し、多孔質の無機酸化物をゾル−ゲル法で合成する方法は、ゼオライトの合成等に広く用いられている。しかし、カチオン性界面活性剤を多孔質ゲルの調製に用いると、微細構造を有する多孔質ゲルが得られる反面、多孔質ゲルの機械的強度が低くなり、乾燥時の収縮等によって微細構造が破壊される等の問題が生じる。
【0017】
そこで、工程Aにおいては、非イオン性界面活性剤を用いる。非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体等が挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤を用いると、シラノール基にポリオキシエチレン鎖が吸着し、部分的に疎水環境が形成される。それに伴い、徐々に相溶性が低下し相分離が起こるため、重合の進行と共に網目構造を有する多孔質ゲルを形成することができる。
【0018】
非イオン性界面活性剤の添加量は、酸性水溶液100重量部に対し10〜40重量部、好ましくは15〜25重量部である。非イオン性界面活性剤の添加量が多すぎると後の工程においてゲル化が進行せず、少なすぎると得られる多孔質ゲルの空隙率が低くなる。
【0019】
多孔質ゲルの製造において大きな問題となるのが、乾燥時における収縮に伴う微細構造の破壊である。従来のエアロゲルの合成においては、この問題を回避するために超臨界状態で乾燥を行っており、そのことが、製造コストの上昇、量産化の困難性等の原因となっている。そこで、本製造方法では、反応液の揮発性および表面張力を低下させることにより、乾燥に伴うクラックの発生を抑制するために、水溶性の非プロトン性極性有機溶媒を用いる。
【0020】
水溶性の非プロトン性極性有機溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、スルホラン等が挙げられるが、最も好ましいのはN,N−ジメチルホルムアミドである。
【0021】
水溶性の非プロトン性極性有機溶媒の添加量は、酸性水溶液100重量部に対し5〜15重量部、好ましくは6〜10重量部である。添加量が少なすぎると十分な収縮およびクラック抑制効果が得られず、多すぎると製造コストの上昇を招く。
なお、必要に応じてメタノール等の水溶性の有機溶媒を適量添加してもよい。
【0022】
多孔質ゲルの形成のためのゾル−ゲル反応を酸触媒存在下でのみ行うと、反応性が低すぎるため未反応のゾル(シロキサンオリゴマー)が多く残ってしまい、十分な強度を有する多孔質ゲルを得ることが困難である。そこで、ゾル−ゲル反応の初期段階においては酸触媒存在下で反応させ、密度の高いゲルの形成を抑制しつつ、ある程度反応が進行した段階で、未反応のシロキサンゾルを完全に反応させるために塩基触媒を添加することが好ましい。本製造方法においては、反応液に尿素を添加し、酸性条件下における加水分解で生成するアンモニアを利用して、反応液を塩基性にする。尿素を添加するメリットとしては、添加量を変化させることにより、多孔質ゲルの微細構造を制御できることも挙げられる。
【0023】
尿素の添加量は、酸性水溶液100重量部に対し30〜70重量部、好ましくは35〜50重量部である。添加量が多すぎるとゲル化が却って進行しなくなり、少なすぎると十分な反応速度を得ることができなくなる。なお、尿素の急激な加水分解を避けるため、尿素の反応液への添加は、低温(例えば氷冷下)で行うことが好ましい。
【0024】
ゾル−ゲル反応による多孔質ゲルの形成の原料となるアルコキシシラン化合物としては、アルキルトリアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシランおよびビス(トリアルコキシシリル)アルカン(以下、総称して「トリアルコキシシラン化合物」という場合がある。)が用いられる。これらのアルコキシシラン化合物を用いて得られた多孔質ゲルは、テトラアルコキシシランを用いて得られた多孔質ゲルよりも乾燥時の収縮やクラックを生じにくいため、本製造方法の原料として好適に用いることができる。
【0025】
アルキル基としては、炭素数5以下の直鎖または分岐鎖アルキル基あるいは炭素数10以下のアリールアルキル基が挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アルキルトリアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。アリールトリアルコキシシランの具体例としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。ビス(トリアルコキシシリル)アルカンの具体例としては、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン等が挙げられる。トリアルコキシシラン化合物として、これらの中から1種類のみを単独で用いてもよく、任意の2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0026】
トリアルコキシシラン化合物の添加量は、酸性水溶液100重量部に対して50〜100重量部、好ましくは70〜100重量部である。急激な反応の進行を避けるため、トリアルコキシシラン化合物は、氷冷下で少量ずつ数回に分けて反応液に添加する。酸触媒の作用により、アルコキシシリル基の加水分解によるシラノール基の生成およびシラノール基の縮合が進行し、シロキサンモノマーおよびオリゴマーを含むゾル溶液が得られる。
【0027】
(2)工程B
上記のようにして得られたシロキサンゾルを含む混合液(ゾル溶液)を、繊維構造体に含浸させる。本発明において「繊維構造体」とは、長繊維もしくは短繊維またはこれらの混合物からなり、シート状等の所定の形状および構造を有するものをいい、好ましくは不織布である。以下、好ましい繊維構造体の一例として不織布を用いた場合について説明する。不織布の材質、製造方法について特に制限はなく、所望の性質を有する任意のものを用いることができる。不織布の材質の例としては、ポリエチレンフタレート(PET)、アラミド繊維等の合成繊維、綿、羊毛等の天然繊維、シリカファイバー、カーボンファイバー等の無機繊維、およびこれらのうち任意の2以上を組み合わせたものが挙げられる。不織布の比重(目付)は、例えば180〜250g/m、好ましくは約200g/mである。
【0028】
ゾル溶液の不織布への含浸は、ゾル溶液への不織布の浸漬、噴霧、塗布等の任意の方法を用いて行うことができる。ゾル溶液の含浸量は、例えば、不織布1kgあたり20〜40kgである。
【0029】
なお、繊維構造体として、中空繊維からなる不織布または織布を用いてもよく、この場合において、中空繊維の内部にもゾル溶液を含浸させるようにしてもよい。
【0030】
(3)工程C
次いで、ゾル溶液を含浸させた不織布を一定の温度で反応させ、不織布に付着した状態で多孔質ゲルを生成させる。反応は、例えば、ゾル溶液を含浸させた不織布を密閉容器に入れ、加熱下で所定時間放置することにより行う。加熱することにより尿素の加水分解を進行させ、それにより生成するアンモニアを利用してゾル溶液を塩基性(pH9〜11)に変化させる。このようにすることで、シラノール縮合反応の速度が増大し、未反応のシラノール基が反応し、強度の高い網目構造を有する多孔質ゲルが不織布の内部に形成された複合体が得られる。
反応温度は、40〜65℃で、好ましくは45〜60℃であり、反応に要する時間は、60℃に加熱した場合において、例えば、3〜7日間程度である。
【0031】
(4)工程D
このようにして得られた複合体の内部には、表面張力の高い水が含まれているため、このまま乾燥させると収縮に伴う微細構造の破壊が起こるおそれがある。そこで、複合体をアルコール溶媒に浸漬し、内部に含まれる水をアルコール溶媒に置換する。
アルコール溶媒としては、水に可溶な任意のアルコールを用いることができ、その具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノールが挙げられる。これらの中から1種類のみを単独で用いてもよく、任意の2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0032】
溶媒の置換は、複合体を、適当な槽中でアルコール溶媒中に所定時間(例えば5日間)浸漬することにより行う。必要に応じて、槽内のアルコール溶媒を交換しながら浸漬を行ってもよい。なお、アルコール溶媒の代わりに、DMF等の非プロトン性の水溶性極性有機溶媒を用いてもよい。
【0033】
(5)工程E
最後に、複合体を常圧下で加熱してアルコール溶媒を乾燥させることにより、複合体が得られる。乾燥は常圧でも減圧下でもよく、工程Dにおいてメタノールを用いた場合には、例えば、常圧下100℃で48時間熱風乾燥を行う。
【0034】
必要に応じて、工程Dと工程Eとの間に、多孔質ゲルに含まれる未反応のシラノール基とアルキル化剤とを反応させる工程Fをさらに有していてもよい。工程Fにより未反応のシラノール基をアルキル化することにより、多孔質ゲル内部の疎水性を向上させ、乾燥時における収縮による微細構造の破壊を抑制できる。
アルキル化剤としては、シラノール基に対する反応性を有する任意のアルキル化剤を用いることができる。アルキル化剤としては、シラノール基(Si−OH)をアルコキシシリル基(Si−OR)に変換するヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル、メチルトシラート等のスルホン酸アルキルエステルを用いてもよいが、シラノール基をアルキルシリルエーテル基(Si−O−SiR)に変換するアルキルトリハロシラン、ジアルキルジハロシラン、トリアルキルハロシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランおよびトリアルキルアルコキシシランからなる群より選択される1または複数がより好ましく用いられる。最も好ましいアルキル化剤としては、トリメチルシラン、トリメチルメトキシシラン等のトリアルキルシラン化合物が挙げられる。あるいは、トリアルキルシラン化合物の代わりにヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いてもよい。
【0035】
複合体に含まれる多孔質ゲルの空隙率は、50〜85%、好ましくは80〜85%である。また、多孔質ゲルは略球状の細孔を有しており、細孔分布測定により求められる細孔容量は、多孔質ゲル1gあたり2〜4g・cmであり、細孔容積分布のピークは約15〜25nmである。細孔分布測定は、ガス吸着法、水銀圧入法等の任意の公知の方法を用いて行うことができる。
熱伝導率は、多孔質の断熱材について用いられる任意の方法(例えば、JIS A1413に準拠した平板直接法、JIS A1412に準拠した平板比較法等)、あるいはそれらに類似の方法を用いて測定することができる。複合体は、空気よりも低い熱伝導率を示すため、大気中でその値を精度よく求めることは困難であるが、例えば、JIS A1413の平板直接法に類似の方法を用いて測定した場合に、0.006〜0.02W・m−1・K−1という熱伝導率値が得られる。複合体がこのように低い熱伝導率を示す理由は必ずしも明らかではないが、略球状という細孔の形状、細孔に含まれる大気の対流の寄与が低いこと等によるものであると考えられる。
【0036】
複合体はそのまま断熱材、吸音材等として用いることができる。不織布等の繊維構造体の内部に多孔質ゲルが形成されているため、多孔質ゲル単独の場合よりも破損しにくく、必要に応じて曲げ等の変形を加えた状態で用いることもできる。なお、例えば不織布の耐熱温度以上の高温条件下で使用する場合には、高温で熱処理を行い、不織布を熱分解させてから使用することもできる。
【0037】
本発明の第2の実施の形態に係る真空断熱材は、ガスバリア性を有する包装材の内部に、本発明の第1の実施の形態に係る多孔質シリカ−繊維複合体を減圧密封している。真空断熱材は、例えば、図2に示すような工程により製造される。図2に示すフローチャートのうち、溶液調合〜乾燥までの工程は、第1の実施の形態に係る複合体の製造工程と同様である。このようにして得られる複合体を所定の形状および大きさに成型後、ガスバリア性を有する包装材の内部に減圧密封することにより、真空断熱材が得られる。このように、ガスバリア性を有する包装材の内部に複合体を減圧密封することにより、熱伝導に対する細孔中の大気の対流の寄与が殆どなくなるため、大気中の複合体よりも高い断熱性能が得られる。また、複合体に含まれる多孔質ゲルの表面を覆う疎水性基の加水分解が抑制され、細孔構造を長期間にわたって維持できる。そのため、真空断熱材は、長期間にわたって高い断熱性能を維持できる。
【0038】
包装材としては、アルミニウムを蒸着したPET等からなるガスバリアフィルム等が好ましく用いられる。
減圧密封は、真空包装機等の任意の公知の方法および装置を用いて行うことができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:多孔質シリカゲル−不織布複合体の製造
(1)反応液(ゾル溶液)の調製
純水30重量%に酢酸(ダイセル化学製)0.21重量%を入れて攪拌後pH3〜4.5の酸性の水溶液作る。続いてPE−108(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体:三洋化成製)を6重量%投入後溶解するまで攪拌した。得られた溶液に、尿素(三井化学製)を12重量%投入し、溶解するまで攪拌後、DMFを2質量%投入し攪拌した。得られた水溶液を0℃以下に冷却し、KBM−13(メチルトリメトキシシラン:信越化学工業製)を28.5重量%入れて攪拌した。
【0040】
(2)含浸
スパンボンド(東洋紡)不織布にゾル溶液を含浸させながら密閉容器(カワナベステンレス製)の中へ入れ、完全密閉した。容器を恒温庫内で60℃に保ち、5日間熟成させゾル−ゲル反応を終えた。
【0041】
(3)メタノール置換
上記のようにして得られた複合体をメタノールで洗浄後、内部に含まれる水分をメタノールと置換するために室温で5日間メタノール中に浸漬した。
【0042】
(4)乾燥
その後、100℃の乾燥庫内で48時間乾燥させた。このようにして得られた多孔質シリカゲル−不織布複合体を走査型電子顕微鏡(SEM)で確認したところ、図1に示すように直径20〜50nmの球状の細孔を有する多孔質構造が確認された。水銀ポロシメーターを用いて細孔分布測定を行った結果、1gあたり3.5cmの細孔を有し、ピーク細孔径が約20nmであることが確認された。
JIS A1413(保温剤の熱伝導率測定方法(平板直接法))に類似の方法を用いた簡易熱伝導率測定装置を自作し、得られた多孔質シリカゲル−不織布複合体の熱伝導率を測定したところ、約0.0068W・m−1・K−1という数値が得られた。
【0043】
実施例2:真空断熱材の製造
実施例1で製造した多孔質シリカゲル−不織布複合体(厚さ6mm)をアルミ蒸着ガスバリアフィルム(PET)で包装後、高真空包装機(V−tec製)を用いて包装体の内部を0.5Torrまで減圧し、フィルムを封止することにより真空断熱材を完成させた。
【0044】
上記のようにして得られた真空断熱材を用いて、内寸455×260×83(mm)の蓋付きの保冷容器を作製した。また、この保冷容器を内部に収容可能な発泡ポリスチレン(発泡倍率70〜80倍)製の蓋付きの保冷容器(内寸455×260×83(mm))を用意した。
(A)真空断熱材製保冷容器、(B)発泡ポリスチレン製保冷容器、(C)内部に真空断熱材製保冷容器を収容した発泡ポリスチレン製保冷容器のそれぞれに板氷(300×180×80(mm)、重量約1.7kg)を入れ、PETフィルム製テープで蓋を密閉後、室温下で氷が完全に融解するまでの時間を測定した。
【0045】
(A)、(B)、(C)の各保冷容器についての測定結果は、それぞれ、17時間、15時間、22時間であった。これらの測定結果および発泡ポリスチレンの熱伝導率(0.035W・m−1・K−1)より、真空断熱材の熱伝導率は、0.0076W・m−1・K−1と概算された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、建築物(屋根、壁、床等)、工業プラント(反応器、蒸留塔、パイプライン等)、冷凍庫、保冷車等の断熱材、住宅用吸音材等の用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH3〜4.5の酸性水溶液100重量部と、非イオン性界面活性剤10〜40重量部と、水溶性の非プロトン性極性有機溶媒5〜15重量部と、尿素30〜70重量部とを含む混合液に、アルキルトリアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン、およびビス(トリアルコキシシリル)アルカンからなる群より選択される1または複数のアルコキシシラン化合物50〜100重量部を氷冷下添加し、前記混合液中でシロキサンゾルを生成させる工程Aと、
前記シロキサンゾルを含む混合液を繊維構造体に含浸させる工程Bと、
前記繊維構造体の内部で前記シロキサンゾルを一定の温度で反応させ、多孔質の酸化ケイ素ゲルを生成させることにより、前記酸化ケイ素ゲルが前記繊維構造体の内部に形成された多孔質シリカ−繊維複合体を調製する工程Cと、
前記多孔質シリカ−繊維複合体をアルコール溶媒に浸漬し、内部に含まれる水をアルコール溶媒に置換する工程Dと、
前記多孔質シリカ−繊維複合体を常圧下で加熱して、内部に含まれる前記アルコール溶媒を乾燥させる工程Eとを有する多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
【請求項2】
前記工程Dと前記工程Eとの間に、前記多孔質シリカゲルに含まれるシラノール基とアルキル化剤とを反応させる工程Fをさらに有する請求項1記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
【請求項3】
前記繊維構造体が不織布であることを特徴とする請求項1および2のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
【請求項4】
前記繊維構造体が中空繊維を含み、前記多孔質シリカゲルがその内部に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性の非プロトン性極性有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミドであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
【請求項6】
前記アルコール溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノールからなる群より選択される1または複数であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
【請求項7】
前記アルキル化剤が、アルキルトリハロシラン、ジアルキルジハロシラン、トリアルキルハロシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランおよびトリアルキルアルコキシシランからなる群より選択される1または複数である請求項2から6のいずれか1項記載の多孔質シリカ−繊維複合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項記載の製造方法で製造されることを特徴とする多孔質シリカ−繊維複合体。
【請求項9】
ガスバリア性を有する包装材の内部に請求項8記載の多孔質シリカ−繊維複合体を減圧密封した真空断熱材。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−162756(P2011−162756A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30758(P2010−30758)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(396026570)株式会社栄住産業 (21)
【出願人】(396026499)
【Fターム(参考)】