説明

多孔質シリコン光素子の製造方法

【課題】発光効率、発光波長の狭帯域化を図ることができる多孔質シリコン層を形成するため、陽極酸化法で多孔質シリコン層を形成する際、制御性良く微小孔を形成する方法を提供する。
【解決手段】単結晶シリコン基板101と、その表面に埋設された多孔質シリコン層102と、多孔質シリコン層に接続するように設けられた透明電極103と、単結晶シリコン基板の裏面に設けられたオーミック性電極104とを有し、多孔質シリコン層を発光層あるいは受光層とする半導体光素子の製造方法であって、超音波振動を印加しながら、単結晶シリコン基板表面を陽極酸化し、発光層あるいは受光層となる前記多孔質シリコン層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質シリコン光素子の製造方法に関し、特に陽極酸化法によって形成した多孔質シリコン層を発光層あるいは受光層とする多孔質シリコン光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶は、ボーア(Bohr)半径程度まで微小化すると、不確定性原理によりエネルギーは増大し、また微小化されたシリコン結晶の電子あるいは正孔は、波数選択則緩和によって非局在化し、直接遷移で再結合が可能となる。これは量子サイズ効果といわれ、間接遷移型半導体であるシリコンが、直接遷移して可視光を放射する現象として知られている。
【0003】
具体的には、陽極酸化法により、シリコン単結晶の基板表面に、例えば2〜50nm径の微小孔を形成した多孔質シリコンを形成することで、受光素子あるいは発光素子を形成する技術が、特許文献1に開示されている。
【0004】
図6に、この種の多孔質シリコン光素子の模式図を示す。図6に示す多孔質シリコン光素子は、単結晶シリコン基板101の表面の一部を陽極酸化することによって、微小孔を形成した多孔質シリコン層102を形成した後、多孔質シリコン層102上に、多孔質シリコン層102から放射される光を透過する透明電極103が形成され、単結晶シリコン基板101の裏面には、オーミック性電極104が形成されている。単結晶シリコン基板101の表面は、透明電極103との絶縁のため、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜からなる絶縁膜105で被覆されている。
【0005】
発光層あるいは受光層を形成する多孔質シリコン層102は、単結晶シリコン基板101の表面をフッ化水素酸水溶液中で電気化学的にエッチングする陽極酸化法で形成すると、微小孔を容易に形成することができる。
【0006】
図7に、多孔質シリコン層を形成するための従来の陽極酸化法の説明図を示す。単結晶シリコン基板101の裏面にオーミック性電極104を形成し、多孔質シリコン層の形成予定領域の単結晶シリコン基板101表面の一部が露出するように耐フッ化水素酸樹脂13で被覆した後、フッ化水素酸水溶液14を入れた耐フッ化水素酸容器15内に投入する。フッ化水素酸水溶液14はフッ化水素酸とエチルアルコールを適量混合した混合水溶液を用いる。そして、定電流源16の陽極をオーミック性電極104に接続し、陰極を対向電極となるプラチナ陰電極17に接続する。陽極酸化の諸条件を監視するため、電圧計18と電流計19も接続される。
【0007】
このように配置した状態で、定電流源16から所定の条件で電流を供給すると、多孔質シリコン層102を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3306077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に、シリコン微結晶の発光波長と発光エネルギーは、結晶径の二乗に反比例して大きくなることが知られている。つまり、結晶粒径が均一で小さくなる程、均一で、高効率の発光を得ることができる。そのため、陽極酸化法によって形成した多孔質シリコン層を発光層あるいは受光層とする場合、陽極酸化法によって形成される微小孔をナノメータ水準で制御する必要がある。しかしながら、従来提案されている陽極酸化法では、フッ化水素酸溶液の濃度、印加する電流密度、陽極酸化時間等の種々の条件を最適化するだけでは、微小孔をナノメータ水準で制御することができず、その結果、シリコン微結晶の粒径が不均一となり、所望の発光波長や発光強度を得ることが困難で、実用化を図る上では、限界があった。
【0010】
本発明は上記問題点を解決し、発光効率、発光波長の狭帯域化を図ることができる多孔質シリコン層を形成するため、陽極酸化法で多孔質シリコン層を形成する際、制御性良く微小孔を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本願発明は、単結晶シリコン基板と、該単結晶シリコン基板表面に埋設された多孔質シリコン層と、該多孔質シリコン層に接続するように設けられた透明電極と、前記単結晶シリコン基板の裏面に設けられたオーミック性電極とを有し、前記透明電極及び前記オーミック性電極間に電圧印加することによって、前記多孔質シリコン層を発光層あるいは受光層とする半導体光素子の製造方法において、単結晶シリコン基板の表面の一部を露出させ、フッ化水素酸水溶液中で陽極酸化する際、超音波振動を印加しながら、前記露出する単結晶シリコン基板表面を陽極酸化し、発光層あるいは受光層となる前記多孔質シリコン層を形成する工程と、前記多孔質シリコン層表面に接続する透明電極を形成する工程と、前記単結晶シリコン基板の裏面に前記オーミック性電極を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔質シリコン光素子の製造方法によれば、陽極酸化処理過程でシリコン基板に対して超音波振動を印加することで、多孔質シリコンの微結晶粒径のばらつきが小さくなり、シリコン光素子の発光効率、発光波長の狭帯域化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の陽極酸化法の説明図である。
【図2】本発明により形成した多孔質シリコン光素子のフォトルミネッセンススペクトルを説明する図である。
【図3】本発明により形成した多孔質シリコン光素子のフォトルミネッセンス強度の超音波発振出力依存性を説明する図である。
【図4】本発明により形成した多孔質シリコン光素子のフォトルミネッセンス強度の超音波発振周波数依存性を説明する図である。
【図5】本発明の多孔質シリコン光素子の製造方法を示す図である。
【図6】一般的な多孔質シリコン光素子を説明する図である。
【図7】従来の陽極酸化法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の多孔質シリコン光素子の製造方法は、超音波振動を印加しながら陽極酸化を行うことで、均一な微小孔を形成し、その結果、シリコン微結晶粒径のばらつきが小さい多孔質シリコン層を形成することを大きな特徴としている。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の多孔質シリコン光素子の製造方法について説明する。まず、面方位(100)、比抵抗が2〜4Ωcmのp型単結晶シリコン基板101を用意する。次に単結晶シリコン基板101の裏面に、真空蒸着法等でアルミニウムからなるオーミック性電極104を形成する。このオーミック性電極104は、後述する透明電極との間で、電圧を印加することによって多孔質シリコン光素子を形成するとともに、陽極酸化を行う際、電源の陽極に接続して一方の電極を構成する。その後、多孔質シリコン層の形成予定領域を開口するように、単結晶シリコン基板101表面の一部を露出するように耐フッ化水素酸樹脂13で被覆する。
【0016】
一方、50wt%のフッ化水素酸とエチルアルコールを混合比1:1で混合して、陽極酸化のためのフッ化水素酸水溶液15を用意する。
【0017】
定電流源16の陽極をオーミック性電極104に接続し、陰極を対向電極となるプラチナの陰電極17に接続する。また陽極酸化の諸条件を監視するために、電圧計18と電流計19を接続する。本発明では、陽極酸化を行う際、超音波を印加することができるように、耐フッ化水素酸性容器15を超音波発生機11が配置された純水12中に浸漬させる構成となっている。
【0018】
その後、超音波を印加しながら、陽極酸化を行う。一例として、超音波発生機11から発振周波数45kHz、発振出力100Wの超音波振動を印加しながら、定電流源16により電流密度50mA/cm2の定電流を供給し、120秒間陽極酸化して多孔質シリコン層102を形成する。
【0019】
陽極酸化法は、従来方法同様、単結晶シリコン基板101から正孔が供給されることによって、微小孔の先端部のみで局部的、自律的にシリコンの溶出反応が進行する。また微小孔は、陽極となる単結晶シリコン基板101と陰極のプラチナ陰電極17間に印加した電界とは逆方向に優先的に進行する。
【0020】
ここで本発明では、超音波振動を印加しながら陽極酸化を行うことで、陽極と陰極が、規則的に振動し、それに伴い電界の印加方向も振動する。その結果、溶出反応の進行方向、即ち、微小孔の形成方向が規則的に変化し、粒径ばらつきの少ない多孔質シリコンが形成できる。具体的には、粒径が数nmのシリコン微結晶が規則的に堆積した多孔質シリコン層102を形成することができる。
【0021】
次に、以上の方法により形成した多結晶シリコン層12を用いて、多孔質シリコン光素子を形成する方法について説明する。
【0022】
まず、前述の方法によって、単結晶シリコン基板101の表面に、多孔質シリコン層102を形成し、耐フッ化水素酸樹脂13を除去する(図2a)。
【0023】
単結晶シリコン基板101の表面全面に、透明電極103との絶縁のため、スパッタ装置を用いてシリコン酸化膜、またはシリコン窒化膜等の絶縁膜105を、厚さ3000nm程度堆積する(図2b)。
【0024】
通常のフォトリソグラフ法により、絶縁膜105をバッファードフッ酸、またはドライエッチング工程を用いてエッチングし、先に形成した多孔質シリコン層102表面を露出させる(図2c)。
【0025】
全面に、スパッタ法によりITO(インジウム、スズ酸化膜)のような、多孔質シリコン層102から放出される光を透過する透明電極103を、厚さ3000nm程度堆積し、所望の形状にパターニングし、多孔質シリコン光素子を完成する(図2d)。
【0026】
次に、上記方法によって形成した多孔質シリコン光素子の特性について説明する。図3に本発明のシリコン光素子のフォトルミネッセンススペクトルと従来の陽極酸化法によって作製したシリコン光素子のフォトルミネッセンススペクトルを比較した図を示す。これらのフォトルミネッセンススペクトルは、励起光に同一強度で波長が325nmのHe−Cdレーザを用い、同一測定系において室温で測定した。
【0027】
図3に示すように、本発明のシリコン光素子は、680nmにフォトルミネッセンス発光が得られた。また、従来例と比較して強度が強く、発光効率が高いことが確認された。さらに、半値幅で比較したフォトルミネッセンススペクトルの広がりは、本発明では168nmであるのに対し、従来例では200nmとなり、本発明のフォトルミネッセンススペクトルの方が狭帯化していることがわかる。さらにまた、フォトルミネッセンススペクトルのシリコン基板表面の面内分布についても観察した結果、シリコン基板全体の特性の均一性が良いことも確認された。
【0028】
図4に本発明のシリコン光素子のフォトルミネッセンス強度の超音波発振出力依存性を示す。超音波発振出力の増加に伴い発光強度が強くなることが確認できる。なお、超音波振動の印加を行わない場合は、発光強度は0.2となる。従って、超音波振動を印加すると、印加しない場合と比較して、発光強度が高くなることがわかる。なお、超音波発振出力は、陽極酸化の他の諸条件により、最適な条件を設定すればよい。
【0029】
図5に本発明のシリコン光素子のフォトルミネッセンス強度の超音波発振周波数依存性を示す。発光強度は超音波発振周波数にも依存することが確認できる。超音波発振周波数は、高いほどシリコン微結晶の粒径が均一となり、粒径を数nmオーダーで制御することができる。従って、シリコン微結晶の粒径が所望の大きさとなるように、超音波振動発振出力、発振周波数および陽極酸化条件を適宜設定する必要がある。
【0030】
以上説明したように、陽極酸化を行う際、超音波振動を印加することで、多孔質シリコン光素子の光特性が向上することが確認された。さらに本発明によれば、15nm程度の口径の単結晶シリコン基板に多孔質シリコン層を形成した場合、面内のバラツキが少ないことも確認でき、歩留まり良く多孔質シリコン光素子を形成できることも確認ででた。
【符号の説明】
【0031】
11:超音波発生機、12:純水、13:耐フッ化水素酸性樹脂、14:フッ化水素酸水溶液、15:耐フッ化水素酸性容器、16:定電流電源、17:プラチナ陰電極、18:電圧計、19:電流計、101:単結晶シリコン基板、102:多孔質シリコン層、103:透明電極、104:オーミック性電極、105:絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板と、該単結晶シリコン基板表面に埋設された多孔質シリコン層と、該多孔質シリコン層に接続するように設けられた透明電極と、前記単結晶シリコン基板の裏面に設けられたオーミック性電極とを有し、前記透明電極及び前記オーミック性電極間に電圧印加することによって、前記多孔質シリコン層を発光層あるいは受光層とする半導体光素子の製造方法において、
単結晶シリコン基板の表面の一部を露出させ、フッ化水素酸水溶液中で陽極酸化する際、超音波振動を印加しながら、前記露出する単結晶シリコン基板表面を陽極酸化し、発光層あるいは受光層となる前記多孔質シリコン層を形成する工程と、
前記多孔質シリコン層表面に接続する透明電極を形成する工程と、
前記単結晶シリコン基板の裏面に前記オーミック性電極を形成する工程とを含むことを特徴とする多孔質シリコン光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−39016(P2012−39016A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179887(P2010−179887)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】