説明

多室型熱処理装置

【課題】冷却室以外の他の処理室が冷却液で汚染されることを防止可能とする多室型熱処理装置を提供する。
【解決手段】熱処理室を含む複数の処理室を備える多室型熱処理装置S1であって、液体粒子の潜熱により被処理物の冷却を行う前記熱処理室である冷却室3と、前記冷却室3と異なる他の処理室1,2と、前記冷却室3の乾燥を行う乾燥手段11,19とを備えており、前記乾燥手段11,19は、前記冷却室3内に熱風を供給する熱風供給装置19を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多室型熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被処理物である金属部品に対して焼入れ等の処理を行う際に、熱処理室を含む複数の処理室を有する多室型熱処理装置が用いられている(特許文献1参照)。
この多室型熱処理装置は、一般的に、被処理物を加熱する加熱室や、加熱室で加熱された被処理物を冷却する冷却室等を処理室として有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−153386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被処理物の冷却方法としては、従来からガス冷却と油冷却が一般的に用いられている。
ガス冷却は、被処理物に対して冷却ガスを吹き付けることによって冷却する方法であり、冷却ガスの吹き付け量やその分布を容易に調節できることから冷却コントロール性に優れた方法である。
油冷却は、被処理物を冷却油に対して浸漬することによって冷却する方法であり、被処理物と冷却油との熱伝達効率が高いことから冷却効率が高い方法である。
【0005】
しかしながら、逆に、ガス冷却は、被処理物と冷却ガスとの熱伝達率が低く、冷却効率が高くないという問題を有している。また、油冷却は、被処理物の全体が冷却油に浸漬されるために細かい冷却速度の調節が難しく冷却コントロール性が高くないという問題を有している。
このため、近年は、被処理物の冷却効率と冷却コントロール性を両立させるために、冷却室において液体粒子の潜熱によって被処理物の冷却を行う方法が提案されている。
【0006】
このような液体粒子の潜熱により被処理物を冷却する場合には、冷却室に液体粒子を充填あるいは噴出し、被処理物に対して液体粒子を付着させ、液体粒子が気化する際の潜熱を被処理物から奪うことによって被処理物を冷却する。
【0007】
そして、上述の多室型熱処理装置において、液体粒子の潜熱によって被処理物を冷却する方法を採用する場合には、多室型熱処理装置が備える冷却室に液体粒子を充填あるいは噴出することとなる。
ところが、多室型熱処理装置において、冷却室に液体粒子を充填あるいは噴出すると、当然ながら、被処理物以外の冷却室の内壁等にも液体粒子が付着することとなる。そして、被処理物以外に付着した液体粒子は、被処理物よりも付着領域の温度が低いために気化せずに残存することとなる。
【0008】
このように冷却室内に気化しない液体粒子が残存すると、冷却室と他の処理室との間で被処理物の受渡しを行う際に、液体粒子あるいは液体粒子が凝集した液体(すなわち冷却液)が他の処理室を汚染することとなり、処理室間の被処理物の受渡しに伴って多室型熱処理装置が備える全ての処理室が冷却液で汚染される場合もある。
例えば、多室型熱処理装置が備える加熱室が冷却液で汚染された場合には、加熱温度の低下に起因して被処理物に酸化膜が形成され、被処理物が意図せずに着色されてしまうことがある。
【0009】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、多室型熱処理装置において、冷却室以外の他の処理室が冷却液で汚染されることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0011】
第1の発明は、熱処理室を含む複数の処理室を備える多室型熱処理装置であって、液体粒子の潜熱により被処理物の冷却を行う上記熱処理室である冷却室と、上記冷却室と異なる他の処理室と、上記冷却室の乾燥を行う乾燥手段とを備えるという構成を採用する。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記乾燥手段が、上記冷却室内に熱風を供給する熱風供給装置を備えるという構成を採用する。
【0013】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記乾燥手段が、上記被処理物の冷却に使用可能な冷却ガスを上記冷却室内に送風して乾燥を行う冷却ガス供給装置を備えるという構成を採用する。
【0014】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記冷却室内に上記液体粒子を噴霧するノズルと、該ノズルに液体粒子となる冷却液を案内するヘッダ管とを備え、上記冷却ガス供給装置が、上記ノズル及び上記ヘッダ管を通じて、上記冷却ガスを上記冷却室内に送風するという構成を採用する。
【0015】
第5の発明は、上記第1〜第4いずれかの発明において、上記冷却室と異なる他の処理室として、上記被処理物の加熱処理を行う加熱室を備えるという構成を採用する。
【0016】
第6の発明は、上記第5の発明において、上記冷却室と異なる他の処理室として、上記加熱室と上記冷却室との間に配置される中間搬送室を備えるという構成を採用する。
【0017】
第7の発明は、上記第1〜第6いずれかの発明において、上記冷却室と異なる他の処理室として、上記被処理物に対するプラズマ処理を行うプラズマ処理室を備えるという構成を採用する。
【0018】
第8の発明は、上記第7の発明において、上記プラズマ処理室の内部に固定配置されると共に上記プラズマ処理室の内部に上記被処理物が運び込まれた際に上記被処理物が載置される導電性トレーと当接する電極を備えるという構成を採用する。
【0019】
第9の発明は、上記第1〜第8いずれかの発明において、接続される上記処理室同士が高さ方向に配置され、接続された上記処理室間で上記被処理物の受渡しを行う昇降装置を備えるという構成を採用する。
【0020】
第10の発明は、上記第2の発明において、上記熱風供給装置が、上記被処理物が載置された上記冷却室内に熱風を供給することで行う焼戻し処理に使用可能であるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、乾燥手段によって冷却室の乾燥が行われる。このため、本発明によれば、冷却室と他の処理室の間における被処理物の受渡しに先立って冷却室の乾燥を行うことによって、冷却室内に残存する冷却液(液体粒子及び当該液体粒子が凝集した液体を含む)が蒸発し、当該冷却液が他の処理室に流入することを防止することができる。
したがって、本発明によれば、多室型熱処理装置において、冷却室以外の他の処理室が冷却液で汚染されることを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置の機能ブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置の変形例が備えるプラズマ処理室の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る多室型熱処理装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0024】
図1は、本実施形態の多室型熱処理装置S1の概略構成を示す平面図である。また、図2が図1のA−A線断面図であり、図3が図1のB−B線断面図である。また、図4は、本実施形態の多室型熱処理装置S1の機能ブロック図である。なお、図1〜図3においては、図4に示す構成要素の一部を省略し、図4においては、図1〜図3に示す構成要素の一部を省略している。また、図3においては、後述の冷却室3の図示を省略している。また図1及び図3では、後述の上蓋6が閉じられた状態を示し、図2では、後述の上蓋6が上昇している状態を示している。
【0025】
図1及び図4に示すように、本実施形態の多室型熱処理装置S1は、金属部品である被処理物Xに対して焼入れ処理を行うための熱処理装置であり、中間搬送室1(処理室)と、加熱室2(処理室)と、冷却室3(処理室)とを備えている。
【0026】
中間搬送室1は、加熱室2と冷却室3との間に配置されており、加熱室2と冷却室3との間において被処理物Xを搬送するための部屋であり、中央室1aと加熱用昇降室1bとを有している。なお、この中間搬送室1は、被処理物Xに対して搬送という処理を行うものであり、本発明の処理室の1つのとして機能するものである。
【0027】
中央室1aは、図1に示すように、正八角形に形状設定されており、本実施形態の多室型熱処理装置S1にて処理される全ての被処理物Xが通過する部屋である。
中央室1aの8つの側壁1a1〜1a8を備えている。そして、その1つである側壁1a1に対しては、本実施形態の多室型熱処理装置S1への出入口となる搬出入扉4が設けられている。この搬出入扉4を介して被処理物Xが中央室1aに対して搬入され、また、搬出入扉4を介して被処理物Xが中央室1aから搬出される。
【0028】
また、図1に示すように、中央室1aは、側壁1a2,1a4,1a7に対して、加熱用昇降室1bが取付可能に構成されている。また、中央室1aは、側壁1a3,1a6,1a8に対してプッシュ装置5が取付可能に構成されている。
なお、本実施形態の多室型熱処理装置S1においては、側壁1a2,1a7に対して加熱用昇降室1bが取り付けられ、加熱用昇降室1bに対向する側壁1a3,1a6に対してプッシュ装置5が取り付けられている。
プッシュ装置5は、被処理物Xが載置されるトレーTを押すことにより、中間搬送室1の内部に設置されたレールに沿って被処理物Xを水平方向前方に押し出して搬送するものである。
【0029】
また、中央室1aは、床部に対して下方から冷却室3が取付可能に構成されており、床部の中央部が中央室1a(すなわち中間搬送室1)から冷却室3へ連通する開口が設けられている。そして、当該開口は、開閉可能な上蓋6によって閉鎖可能とされている。つまり、中間搬送室1と冷却室3とは、上蓋6が閉鎖されることによって隔離される。
中央室1aの内部には、図1及び図3に示すように、上記上蓋6を昇降するための上蓋昇降装置7が、プッシュ装置5と干渉しない位置に設置されている。また、上蓋6の上面には、図2及び図3に示すように、トレーTを載置可能な載置台8が設けられており、上蓋6が閉鎖されている場合に中央室1aに被処理物Xを収容可能に構成されている。
【0030】
加熱用昇降室1bは、中間搬送室1から加熱室2にこれから搬入する被処理物X、あるいは加熱室2から中間搬送室1に搬出された被処理物Xを収容する部屋である。そして、加熱用昇降室1bは、加熱室2の開閉可能な床部と当該床部上に設置される載置台10とを収容可能とされており、載置台10ごと被処理物Xを収容する。
なお、図2に示すように、加熱用昇降室1bの下方には、被処理物Xを昇降する昇降装置9が設置され、当該昇降装置9によって被処理物Xが載置台10と共に加熱用昇降室1b内を昇降されて搬送される。
また、図1に示すように、加熱用昇降室1bの各々には、プッシュ装置5が設けられており、当該プッシュ装置5によって加熱用昇降室1bから中央室1aに被処理物Xを搬送可能とされている。
【0031】
なお、図4に示すように、中間搬送室1に対しては、中間搬送室1の内部に雰囲気形成ガスを供給するためのガス供給装置11が接続されている。
このガス供給装置11は、雰囲気形成ガスとして、窒素ガスを中間搬送室1に対して供給する。また、図4に示すように、ガス供給装置11は、中間搬送室1に加えて、冷却室3とも接続されており、当該冷却室3に対しても雰囲気形成ガスを供給する。
さらに、図4に示すように、中間搬送室1に対して、中間搬送室1の内部を真空引きするための中間搬送室用真空ポンプ12が接続されている。
【0032】
加熱室2は、被処理物Xの加熱処理を行う円筒形状の部屋であり、各加熱用昇降室1bの上方に設置されている。つまり、本実施形態の多室型熱処理装置S1は、2つの加熱室2を備えている。なお、加熱室2は、被処理物Xに対して加熱処理という処理(熱処理)を行うものであり、本発明の熱処理室であり、本発明における冷却室と異なる他の処理室に相当するものである。
これらの加熱室2には、ヒータ13が設置されており、当該ヒータ13が発熱することによって被処理物Xが加熱処理される。なお、ヒータ13としては、ニッケルクロム(Ni−Cr)、モリブデン(Mo)あるいは黒鉛を発熱体とする電熱ヒータや、高周波電力にて加熱を行うヒータ等を用いることができる。
【0033】
また、図4に示すように、各加熱室2に対しては、加熱室2の内部に雰囲気形成ガスを供給するためのガス供給装置14が接続されている。
これらのガス供給装置14は、雰囲気形成ガスとして、例えば、窒素ガス及びアセチレンガスを加熱室2に対して供給する。
さらに、図4に示すように、加熱室2に対して、加熱室2の内部を真空引きするための加熱室用真空ポンプ15が接続されている。
【0034】
冷却室3は、液体粒子であるミストの潜熱により被処理物の冷却を行う熱処理室であり、上述のように中間搬送室1の中央室1aの下方に接続されている。
冷却室3の内部には、冷却室3内にミストを噴霧する複数のノズル16と、これらのノズル16にミストとなる冷却液を案内する複数のヘッダ管17とが設置されている。
【0035】
また、図4に示すように、冷却室3には、冷却室3から冷却液を回収すると共に回収した冷却液を再度冷却してヘッダ管17に供給する冷却液回収供給装置18が接続されている。
この冷却液回収供給装置18は、図4に示すように、冷却室3から回収した冷却液を貯留する冷却液タンク18aと、冷却液タンク18aに貯留された冷却液をヘッダ管17に圧送する冷却液ポンプ18bと、冷却液ポンプ18bで圧送された冷却液を冷却する熱交換器18cとを備えている。
【0036】
そして、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、冷却室3に対して、当該冷却室3の乾燥を行う熱風供給装置19(乾燥手段)が接続されている。
この熱風供給装置19は、冷却室3内に熱風を供給することによって冷却室3内の乾燥を行うものである。
また、熱風供給装置19は、ヘッダ管17と接続されており、ヘッダ管17及びノズル16を通じて熱風を冷却室3内に供給する。
なお、当該熱風供給装置19にて熱風とされるガスとしては、空気や窒素ガス等の不活性ガスを用いることができる。
また、熱風の温度は、冷却室3で用いられる冷却液の種類、冷却室3の圧力等にもよるが、冷却液が水である場合には、約110℃〜120℃が好ましい。これは、大気圧で水が蒸気化する(被処理物Xから除去される)ことが可能な温度であり、かつ、上蓋6や開口等に設けられるシール材への負担が軽減可能なためである。
【0037】
また、図4に示すように、冷却室3には、冷却室3の内部を真空引きするための冷却室用真空ポンプ20が接続されている。
さらに、冷却室3には、冷却室3内に冷却ファン21が接続されており、ガス供給装置14から雰囲気形成ガスを冷却室3内に供給し、さらに冷却ファン21を駆動して冷却室3内の雰囲気形成ガスを熱交換器18c、ヘッダ管17及びノズル16を介して循環させることによって、被処理物Xをガス冷却することも可能に構成されている。
【0038】
また、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、ガス供給装置11は、被処理物Xの冷却に使用可能な冷却ガスを冷却室3内に送風することによって冷却室3内を乾燥可能とされている。
つまり、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、ガス供給装置11を本発明における冷却ガス供給装置として使用し、乾燥手段として機能させることができる。なお、ガス供給装置11を乾燥手段として機能させる場合には、熱交換器18cによる雰囲気形成ガスの冷却は、必ずしも必要なものではない。
なお、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、ガス供給装置14は、ヘッダ管17と接続されており、ヘッダ管17及びノズル16を通じて冷却ガスとなる雰囲気形成ガスを冷却室3内に送風する。
【0039】
また、図2に示すように、冷却室3の内部にはトレーTごと被処理物Xを載置可能な載置台22が設置され、冷却室3の下方には当該載置台22を昇降可能な昇降装置23が設置されている。
昇降装置23は、上述した上蓋6が開放されている場合に、中間搬送室1と冷却室3との間で被処理物Xの受渡しを行うものであり、載置台22を中間搬送室1の中央室1a内部まで上昇可能とされている。
【0040】
なお、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、冷却室3において液体(冷却液)を扱うため、当該液体が最も供給及び排出しやすい下方に冷却室3が配置されている。そして、図2に示すように、冷却室3の上方に中間搬送室1が接続され、さらには中間搬送室1の上方に加熱室2が接続され、冷却室3と中間搬送室1との間及び加熱室2と中間搬送室1との間において昇降装置9,22を用いて被処理物Xの受渡しを行う。
つまり、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、接続される処理室(中間搬送室1、加熱室2及び冷却室3)同士が高さ方向に配置され、接続された処理室間で被処理物Xの受渡しが昇降装置9,22によって行われる。
【0041】
次に、このように構成された本実施形態の多室型熱処理装置S1における焼入れ動作の一例について説明する。なお、本実施形態の多室型熱処理装置S1は、不図示の制御装置を備えており、以下の動作は、主として制御装置が主体となって行う。
【0042】
まず、中間搬送室1の中央室1aの側壁1a1に設けられた搬出入扉4を開放し、中間搬送室1の中央室1aに、トレーTに載置された被処理物Xが搬入されると、搬出入扉4が閉鎖された後、中間搬送室用真空ポンプ12によって中間搬送室1が真空引きされて、ガス供給装置11によって中間搬送室1内に雰囲気形成ガスが供給される。
【0043】
中間搬送室1内の雰囲気形成が完了すると、被処理物Xは、予め定められた加熱室2に搬送される。
例えば、中央室1aの側壁1a2に取り付けられた加熱用昇降室1bに接続された加熱室2まで被処理物Xが搬送される場合には、側壁1a6に取り付けられたプッシュ装置5を用いて被処理物XをトレーTごと押し出して加熱用昇降室1bまで搬送する。
加熱用昇降室1bでは、被処理物Xが搬入されるのに先立ち、昇降装置9によって、加熱室2内の載置台10が下降されて待機されており、プッシュ装置5によって押し出された被処理物Xは、載置台10上に配置される。
その後、昇降装置9によって上昇されることによって載置台10上の被処理物Xが加熱室2まで搬送される。
【0044】
加熱室2は、予め加熱室用真空ポンプ15によって真空引きされると共に、ガス供給装置14によって雰囲気形成ガスが供給されている。そして、昇降装置9によって被処理物Xが加熱室2に搬入されると、ヒータ13によって被処理物Xが加熱処理される。
なお、一方の加熱室2において被処理物Xの加熱処理が行われている間は、当該加熱室2は密閉されている。このため、他方の加熱室2が空いている場合には、一方の加熱室2において被処理物Xを加熱処理している間に、他方の加熱室2に他の被処理物Xを搬入することができる。
【0045】
加熱室2における加熱処理が完了すると、昇降装置9によって加熱室2に収容された被処理物Xが再び中間搬送室1の加熱用昇降室1bまで下降される。そして、加熱用昇降室1bまで下降された被処理物Xは、トレーTごとプッシュ装置5によって中央室1aの中央まで搬送される。
【0046】
中間搬送室1では、加熱室2から被処理物Xを受け渡されるのに先立って、上蓋6が上蓋昇降装置7によって上昇されており、さらにはこれにより開いた開口に昇降装置23により上昇された載置台22が配置されている。
このため、加熱用昇降室1bまで下降された被処理物Xは、中央室1aの中央まで搬送されることによって、載置台22上に搬送されることとなる。
【0047】
このように載置台22上まで被処理物Xが搬送されると、昇降装置23によって載置台22が下降され、被処理物Xが冷却室3内に搬送され、さらに上蓋6が閉鎖される。
冷却室3は、予め冷却室用真空ポンプ20によって真空引きされると共にガス供給装置11から雰囲気形成ガスが供給されている。そして、昇降装置23によって被処理物Xが冷却室3に搬入されると、被処理物Xの冷却処理が行われる。
【0048】
具体的には、冷却液回収供給装置18によってヘッダ管17に冷却液が供給され、この冷却液がノズル16から冷却室3内に噴霧されることによって、冷却室3内にミストが充填された状態となる。そして、冷却室3内に充填されたミストが被処理物Xに付着し、ミストの潜熱により被処理物Xが冷却される。
なお、冷却室3において被処理物Xの冷却処理が行われている間は、当該冷却室3は密閉されている。このため、冷却室3において被処理物Xを冷却処理している間に、空いている加熱室2に他の被処理物Xを搬入することができる。
【0049】
また、ミストによる冷却に加えてあるいは換えて、冷却ガスを被処理物Xに吹き付けることによって被処理物Xを冷却するガス冷却を行っても良い。
この場合には、ガス供給装置11から雰囲気形成ガスを冷却室3内に供給し、冷却ファン21を駆動すると共に熱交換器18cによって雰囲気形成ガスを冷却することによって、ヘッダ管17及びノズル16を介して被処理物Xに冷却ガスを吹き付けて冷却を行う。
【0050】
そして、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、冷却室3において被処理物Xの冷却が完了すると、冷却室3を大気圧に開放した後、熱風供給装置19によって熱風を冷却室3内に供給することによって、冷却室3を乾燥する。
また、熱風供給装置19からの熱風は、最も乾燥し難いヘッダ管17及びノズル16を通過して冷却室3内に供給されるため、冷却室3内の冷却液は確実に蒸発し、確実に冷却室3内の乾燥が行われる。
【0051】
なお、熱風供給装置19による冷却室3の乾燥処理に加えあるいは換えて、ガス供給装置14からヘッダ管17及びノズル16を通じて雰囲気形成ガス(被処理物Xの冷却に使用可能な冷却ガス)を冷却室3内に送風することによって冷却室3の乾燥を行っても良い。
【0052】
このように冷却室3の乾燥が行われた後、上蓋6が上蓋昇降装置7によって上昇されると共に昇降装置23によって載置台22が中間搬送室1内に上昇されることによって、冷却処理が完了した被処理物Xが中間搬送室1に搬送される。
その後、搬出入扉4から加熱処理及び冷却処理が完了し、焼入れ処理が完了した被処理物Xが本実施形態の多室型熱処理装置S1の外部に搬出される。
【0053】
このような本実施形態の多室型熱処理装置S1によれば、冷却室3から中間搬送室1に被処理物Xを受渡す前に冷却室3の乾燥が行われる。このため、本実施形態の多室型熱処理装置S1によれば、冷却室3から中間搬送室1に被処理物Xを受渡す前に、冷却室3内に残存する冷却液(ミスト及び当該ミストが凝集した液体を含む)が蒸発し、当該冷却液が中間搬送室1に流入することを防止することができる。
したがって、本実施形態の多室型熱処理装置S1によれば、冷却室3以外の他の処理室(中間搬送室1及び加熱室2)が冷却液で汚染されることを防止することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態の多室型熱処理装置S1においては、熱風供給装置19が本発明の乾燥手段として機能する構成、すなわち本発明の乾燥手段が熱風供給装置19を備える構成を採用している。
このような構成を採用する本実施形態の多室型熱処理装置S1によれば、熱風に晒されることによって冷却室3内が乾燥される。このため、冷却室3の隅々まで乾燥させることができ、より確実に冷却室3の乾燥を行うことができる。
【0055】
なお、冷却室3で冷却された被処理物Xは、いわゆる焼入れ処理が完了した状態となっている。この焼入れ処理によって被処理物Xに形成される組織(マルテンサイト)は不安定な組織である。このため、焼入れ処理が完了した被処理物Xを常温で放置すると、焼き割れ等を起こす場合がある。よって、通常、焼入れ処理が完了した被処理物Xに対して、その後、再び低温で加熱される焼戻し処理を別装置にて行うことになる。
一方、本実施形態の多室型熱処理装置S1は、熱風供給装置19を備えており、冷却室3における被処理物Xの冷却の後、冷却室3に熱風を供給することによって冷却室3内の乾燥を行っている。そして、この間、冷却室3に載置された被処理物Xは、熱風に晒されることとなる。このように被処理物Xが熱風供給装置19から供給される熱風に晒されることによって、実質的に被処理物Xが加熱され上記焼戻し処理が行われる。このように、本実施形態の多室型熱処理装置S1においては、熱風供給装置19が被処理物Xの焼戻し処理にも使用可能とされており、被処理物Xに対する焼入れ処理と合わせて焼戻し処理を同一装置に行うことが可能となっている。
【0056】
また、本実施形態の多室型熱処理装置S1においては、ガス供給装置11(冷却ガス供給装置)が本発明の乾燥手段として機能する構成、すなわち本発明の乾燥手段がガス供給装置11を備える構成を採用している。
このような構成を採用する本実施形態の多室型熱処理装置S1によれば、被処理物Xのガス冷却が可能となる上に、冷却室3の乾燥を行うことが可能となる。
【0057】
また、本実施形態の多室型熱処理装置S1においては、熱風供給装置19からの熱風及びガス供給装置11からの雰囲気形成ガスが、ヘッダ管17及びノズル16を通じて冷却室3内に送風される構成を採用している。
このため、ヘッダ管17及びノズル16の内部が熱風あるいは雰囲気形成ガスに晒され、冷却液が蒸発し難いヘッダ管17及びノズル16の内部まで確実に乾燥させることができる。
【0058】
また、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、加熱室2を備える構成を採用している。このため、本実施形態の多室型熱処理装置S1のみで被処理物Xの焼入れ処理を完了させることができる。
なお、本発明の多室型熱処理装置は、必ずしも加熱室2を備える必要はない。例えば、加熱室2に換えて、図5に示すような、被処理物Xをプラズマ処理するプラズマ処理室30を備えることもできる。
【0059】
図5は、プラズマ処理室30の断面図である。プラズマ処理室30は、加熱室2と同様に円筒形に形状設定され、少なくとも内壁31が金属材によって形成されている。
被処理物Xをプラズマ処理する場合には、被処理物Xは、金属製の導電性トレーTaに載置されて搬送される。そして、プラズマ処理室30の内部には、導電性トレーTaと導通する電極32を備えている。
【0060】
電極32は、図5に示すように、プラズマ処理室30の内部に固定配置され、プラズマ処理室30に被処理物Xが運び込まれた際に、被処理物Xが載置された導電性トレーTaと当接する位置に配置されている。
【0061】
このようなプラズマ処理室30を備える多室型熱処理装置によれば、昇降装置9によって被処理物Xを上昇させてプラズマ処理室30に収容が完了した時点で導電性トレーTaと電極32とが導通する。つまり、導電性トレーTaと電極32との導通を確保する動作を別途行うことなく、容易に導電性トレーTaと電極32とを導通することができる。
【0062】
そして、例えば、内壁31を接地してベース電位とし、電極32を介して被処理物Xに負電圧を印加することで、内壁31と被処理物Xとの間でプラズマが発生し、被処理物Xがプラズマ処理される。
【0063】
このように、本発明の多室型熱処理装置では、加熱室2に加えてあるいは換えてプラズマ処理室30を設置しても良い。そして、プラズマ処理室30を備える場合には、容易に導電性トレーTaと電極32とを導通することができ、被処理物Xのプラズマ処理を容易に行うことが可能となる。
【0064】
本実施形態の多室型熱処理装置S1の説明に戻り、本実施形態の多室型熱処理装置S1では、加熱室2と冷却室3との間に中間搬送室1を備える構成を採用している。
このような構成を採用する本実施形態の多室型熱処理装置S1によれば、万が一冷却室3から冷却液が流出した場合であっても、中間搬送室1が緩衝領域となり、冷却液が加熱室2まで到達することを防ぐことができる。このため、本実施形態の多室型熱処理装置S1によれば、被処理物Xに対する加熱処理を安定して行うことが可能となる。
【0065】
また、本実施形態の多室型熱処理装置S1によれば、接続される処理室(中間搬送室1、加熱室2及び冷却室3)同士が高さ方向に配置され、接続された処理室間で被処理物Xの受渡しが昇降装置9,22によって行われる。
このため、本実施形態の多室型熱処理装置S1は、平面視形状がコンパクトなものとなり、小さい設置面積に設置することができる。また、被処理物Xを下方から支えながら垂直搬送する機会が増え、被処理物Xを安定して搬送することができる。
【0066】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態においては、冷却室3以外の他の処理室として、中間搬送室1及び加熱室2を備える構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、処理室として冷却室と加熱室とのみを備える多室型熱処理装置、処理室として冷却室と搬送室とのみを備える多室型熱処理装置、処理室として冷却室とプラズマ処理室とのみを備える多室型熱処理装置に適用することもできる。
【0068】
また、上記実施形態においては、冷却室3においてミストの潜熱によって被処理物Xを冷却する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ミストよりも粒径の大きな液体粒子の潜熱によって被処理物Xを冷却する多室型熱処理装置に適用することもできる。
【0069】
また、上記実施形態においては、冷却室3にミストを充填する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、冷却室3内の被処理物Xに対してミストを吹き付けて被処理物Xを冷却する構成を採用することもできる。
【0070】
また、上記実施形態においては、熱風供給装置19とガス供給装置11との両方を備え、熱風供給装置19とガス供給装置11とのいずれであっても冷却室3の乾燥を行える構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば熱風供給装置19のみを備える構成を採用することもできる。
【0071】
また、上記実施形態においては、接続される処理室(中間搬送室1、加熱室2及び冷却室3)同士が高さ方向に配置され、接続された処理室間で被処理物Xの受渡しが昇降装置9,22によって行われる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、接続される処理室同士を水平に配置し、接続された処理室間における被処理物Xの受渡しを水平搬送によって行っても良い。
【0072】
また、上記実施形態においては、中間搬送室1において被処理物Xを出し入れする構成を採用した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、冷却室3において被処理物Xを出し入れする構成や、冷却室3において被処理物Xの取り出しのみを行う構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0073】
S1……多室型熱処理装置、1……中間搬送室(処理室)、1a……中央室、1a1〜1a8……側壁、1b……加熱用昇降室、2……加熱室(処理室,熱処理室)、3……冷却室(処理室,熱処理室)、4……搬出入扉、5……プッシュ装置、6……上蓋、7……上蓋昇降装置、8……載置台、9……昇降装置、10……載置台、11……ガス供給装置(乾燥手段)、12……中間搬送室用真空ポンプ、13……ヒータ、14……ガス供給装置、15……加熱室用真空ポンプ、16……ノズル、17……ヘッダ管、18……冷却液回収供給装置、18a……冷却液タンク、18b……冷却液ポンプ、18c……熱交換器、19……熱風供給装置(乾燥手段)、20……冷却室用真空ポンプ、21……冷却ファン、22……載置台、23……昇降装置、30……プラズマ処理室、31……内壁、32……電極、T……トレー、Ta……導電性トレー、X……被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理室を含む複数の処理室を備える多室型熱処理装置であって、
液体粒子の潜熱により被処理物の冷却を行う前記熱処理室である冷却室と、
前記冷却室と異なる他の処理室と、
前記冷却室の乾燥を行う乾燥手段と
を備えることを特徴とする多室型熱処理装置。
【請求項2】
前記乾燥手段は、前記冷却室内に熱風を供給する熱風供給装置を備えることを特徴とする請求項1記載の多室型熱処理装置。
【請求項3】
前記乾燥手段は、前記被処理物の冷却に使用可能な冷却ガスを前記冷却室内に送風して乾燥を行う冷却ガス供給装置を備えることを特徴とする請求項1または2記載の多室型熱処理装置。
【請求項4】
前記冷却室内に前記液体粒子を噴霧するノズルと、該ノズルに液体粒子となる冷却液を案内するヘッダ管とを備え、
前記冷却ガス供給装置は、前記ノズル及び前記ヘッダ管を通じて、前記冷却ガスを前記冷却室内に送風する
ことを特徴とする請求項3記載の多室型熱処理装置。
【請求項5】
前記冷却室と異なる他の処理室として、前記被処理物の加熱処理を行う加熱室を備えることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の多室型熱処理装置。
【請求項6】
前記冷却室と異なる他の処理室として、前記加熱室と前記冷却室との間に配置される中間搬送室を備えることを特徴とする請求項5記載の多室型熱処理装置。
【請求項7】
前記冷却室と異なる他の処理室として、前記被処理物に対するプラズマ処理を行うプラズマ処理室を備えることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の多室型熱処理装置。
【請求項8】
前記プラズマ処理室の内部に固定配置されると共に前記プラズマ処理室の内部に前記被処理物が運び込まれた際に前記被処理物が載置される導電性トレーと当接する電極を備えることを特徴とする請求項7記載の多室型熱処理装置。
【請求項9】
接続される前記処理室同士が高さ方向に配置され、
接続された前記処理室間で前記被処理物の受渡しを行う昇降装置を備える
ことを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の多室型熱処理装置。
【請求項10】
前記熱風供給装置は、前記被処理物が載置された前記冷却室内に熱風を供給することで行う焼戻し処理に使用可能であることを特徴とする請求項2記載の多室型熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−13341(P2012−13341A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151563(P2010−151563)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198329)株式会社IHI機械システム (27)
【Fターム(参考)】