説明

多層セラミック基板及びその製造方法

【課題】ウェハー上のパッドとの接続に関して十分な寸法精度を有し、なおかつ、温度差が大きな試験等の場合でも、ウェハー上のパッドと基板上に形成された接続端子とが接続不良無く接続することが可能な多層セラミック基板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ムライトを主結晶とするセラミックを有する多層セラミック基板1であって、ムライト以外の成分として、Si及びAlを含み、−50〜150℃の平均熱膨張係数が3.0〜4.0ppm/℃で、且つ、−50〜150℃における各温度の熱膨張係数α1と、同じ温度でのSiの熱膨張係数α2とが、0ppm<α1−α2≦2.5ppmの関係を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、表層にシリコンウェハーの電気検査用の接続端子を高精度で実装可能で、しかも、広範囲な温度域(−50〜150℃)での検査においても、回路が形成されたシリコンウェハーの寸法の伸びや収縮に対して、同様な挙動を取ることが可能な多層セラミック基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、IC検査として、Siウェハー単位で検査を行う要求が多くなっており、特に、Siウェハーの大型化が進む現在では、φ300mm(12inch)のウェハー対応が必要となっている。
【0003】
また、これらのウェハーを検査するに当たっては、測定治具にICとコンタクトするような接続端子を形成する必要があり、この接続端子は繰り返し接触するために、強度が必要となる。
【0004】
更に、最近では、ウェハーの電気検査を行う際に、ウェハー状態で合格品として保証されているKGD(Known Good Die)の必要性が言われている。
このKGDを得る工程として、ウェハー状態で、バーンイン検査(熱及び電気的負荷をかけての選別試験)を行うことが必須となってくる。
【0005】
しかし、現在使用されているウェハーの電気検査治具(ウェハー検査用治具)では、その熱膨張係数がウェハーとは大きく異なることから、温度が異なった条件で検査を行おうとすると、その温度での熱膨張により、ウェハー検査用治具とウェハーとの間で寸法の乖離が生じ、ウェハー上のパッドにウェハー検査用治具の接続端子が接触できないといった状態が発生する。
【0006】
そのため、ウェハーとウェハー検査用治具(特にそのウェハー検査用治具の基板)では、それぞれの熱膨張係数のある程度の調整(合わせ込み)が重要となる。
このウェハーとウェハー検査用治具の基板との熱膨張係数を合わせ込む技術として、下記引用文献1〜5に記載の技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭55−139709号公報
【特許文献2】特開平6−316463号公報
【特許文献3】特開平1−13599号公報
【特許文献4】特開平5−178658号公報
【特許文献5】特開平4−243982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、いずれの引用文献にも、検査範囲等の広い温度範囲において、ウェハーとウェハー検査用治具の基板との熱膨張係数を精度良く合わせ込むことは検討されておらず、そのためのセラミック組成などの検討や、それを用いたウェハー検査用の多層セラミック基板の検討はなされていないのが現状である。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、例えば温度差が大きな試験等の場合でも、ウェハー上のパッドと基板上に形成された接続端子とが接続不良無く接続することが可能な多層セラミック基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)請求項1の発明は、ムライト(3Al23・2SiO2)を主結晶とするセラミックを有する多層セラミック基板であって、前記ムライト以外の成分として、Si及びAlを含み、−50〜150℃の平均熱膨張係数が3.0〜4.0ppm/℃で、且つ、−50〜150℃における各温度の熱膨張係数α1と、同じ温度でのSiの熱膨張係数α2とが、0ppm<α1−α2≦2.5ppmの関係を有することを特徴とする。
【0010】
本発明では、低熱膨張材であるムライトを主結晶とし、更にムライト以外に、Si及びAlを含有させることにより(Si及びAlは酸化物として存在する)、−50〜150℃の平均熱膨張係数を3.0〜4.0ppm/℃の範囲とし、且つ、−50〜150℃における各温度の熱膨張係数α1と、同じ温度でのSiウェハーの熱膨張係数α2とを、0ppm<α1−α2≦2.5ppmの関係に設定している。
【0011】
なお、Siの酸化物であるシリカ(SiO2)の含有量が多いと多層セラミック基板の熱膨張係数が低下し、また、Alの酸化物であるアルミナ(Al23)の含有量が多いと熱膨張係数が増加するので、これらの含有量を調整することにより、多層セラミック基板の熱膨張係数を調整することができる。
【0012】
ここで、熱膨張係数の範囲を前記の様に設定した理由を説明する。
例えばウェハーの電気検査においては、通常、−50〜150℃の温度範囲にて検査が行われるが、この温度範囲にて例えばウェハーとウェハーの電気検査用治具(ウェハー検査用治具)の基板の熱膨張係数の差が小さいことが望ましい。
【0013】
特に、バーンイン検査においては、ウェハーのみが加熱され、その輻射熱によってウェハー検査用治具が熱せられることから、必然的にウェハーの方がウェハー検査用治具より高温となる。そのため、ウェハー検査用治具をウェハーと同じ熱膨張係数とした場合には、ウェハー検査治具とウェハーの収縮又は膨張の挙動が合わなくなることから、ウェハー検査治具に実装される基板には、所定の上限の範囲内でウェハーよりも大きな熱膨張係数を持つ必要がある。
【0014】
具体的には、最も低い温度である−50℃においては、この多層セラミック基板の熱膨張係数の範囲が、0ppm<α1−α2≦1.5ppmであり、最も高い温度である150℃においては、この範囲が、0.5ppm≦α1−α2≦2.5ppmである。特に、高温時(150℃)に、α1がα2より2.5ppmより大きくなると、ウェハーと検査用治具に温度差があるとは言え、ウェハーと検査用治具との熱膨張挙動に乖離が生じ、バッド上へ接続端子を当てることができる寸法より逸脱するので、この様に設定している。なお、低温時(−50℃)についても、同様なことが言える。
【0015】
ここで、本発明の範囲をグラフで示すと、例えば図1のようになる。本発明の範囲は、グレーで示す範囲であり、斜線の範囲はより好ましい範囲である。なお、斜線の範囲は、(温度[℃]、熱膨張係数の差[α1−α2])で示される各座標A(−50、0)、B(−50、1.5)、C(150、2.5)、D(150、0.5)で囲まれる範囲である。また、同図において、本発明相当品とは本発明の範囲内の1例であり、従来品とは本発明の範囲外の1例である。更に、各温度における熱膨張係数とは、図2に示す様に、温度変化による寸法変化率の各温度における傾き、即ち各温度での接線の傾きを計算したもの(瞬時熱膨張係数)である。なお、同図の試験片とは、多層セラミック基板(縦20mm×横4mm×厚み3mm)ないしはSiウェハーのロッドの一部(縦20mm×横4.5mm×厚み4.5mm)である。
【0016】
従って、本発明の多層セラミック基板を、ウェハーの電気検査用治具(ウェハー検査用治具)の基板として用いた場合には、ウェハーのパッドとの電気的接続の観点からも十分な寸法精度を有し、なおかつ、検査等の際に温度を変更した場合でも、ウェハーのパッドと基板上に形成された接続端子とが、電気的接続不良無く接続することが可能である。
【0017】
(2)請求項2の発明では、前記セラミックに含まれるムライトの含有量が、70〜90質量%であることを特徴とする。
ムライトの含有量が70質量%を下回ると、ムライト以外の添加物(焼結助剤等)により、焼成時に生成される液相成分が多くなり、焼成セッターとの融着を招く。また、液相量が多い場合には、含まれる組成によっては、接続端子形成時に使用される薬液(例えばフッ化水素酸)への耐薬品性が低下する。一方、90質量%を上回ると、添加物が不足するので、十分に液相が生成されず、ムライト基板の焼結が不十分になる。よって、本発明の範囲が好適である。
【0018】
なお、ムライトと他の成分とを区別する測定方法としては、内標準法を用いたX線回折法による定量方法を採用できる。この内標準法を用いたX線回折法による定量方法では、各結晶相の含有量は各結晶相の回折X線のピーク強度の比から算出できる。即ちX線のピークが強いほど、その結晶相が多く含まれていると言える。なお、内標準物質には、できる限り結晶性の高い物質(例えばSi)を使用する。
【0019】
(3)請求項3の発明では、前記セラミックに含まれるSiの含有量が、酸化物に換算して5.0〜20.0質量%であることを特徴とする。
Siの酸化物(SiO2)換算した含有量が、5質量%を下回ると、緻密化温度が高温化する。一方、20質量%を上回ると、基板の熱膨張係数が著しく低下し、所望の温度範囲内において、ウェハーの熱膨張係数より小さくなってしまい、ウェハーと検査用治具の接続端子との間で位置ずれが生じる。よって、本発明の範囲が好適である。
【0020】
(4)請求項4の発明では、前記ムライトを除いたセラミックに含まれるAlの含有量が、酸化物に換算して15〜65質量%であることを特徴とする。
Alの酸化物(Al23)換算した含有量が、ムライト以外の残部セラミックにおける15質量%を下回ると、熱膨張係数が著しく小さく、65質量%を上回ると、熱膨張係数が著しく大きくなる。よって、本発明の範囲が好適である。
【0021】
(5)請求項5の発明では、前記セラミックに含まれるMgの含有量が、酸化物に換算して0.5〜3.0質量%であることを特徴とする。
Mgの酸化物(MgO)換算した含有量が、0.5質量%を下回ると、緻密化温度が高温化する。一方、3.0質量%を上回ると、液相の生成量が過剰となり、焼成セッターとの融着を生じたり、例えばフッ化水素酸等の薬品に対する耐薬品性が著しく低下する。よって、本発明の範囲が好適である。
【0022】
(6)請求項6の発明では、前記多層セラミック基板を、60℃の3%フッ化水素酸に20分間浸漬した際のセラミックの重量減少率が、10g/m2以下である特性を有することを特徴とする。
【0023】
本発明は、多層セラミック基板の耐薬品性の好ましい範囲を示したものである。
つまり、ウェハー検査用治具の接続端子を形成する際に、MEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)等の技術を使用する場合、耐薬品性が重用視されるが、本発明の範囲の耐薬品性を有していれば、接続端子を形成する工程で、特定の薬液(例えばフッ化水素酸)が使用された場合でも、多層セラミック基板の浸食を防止して、接続端子等の接合部などの強度低下を抑制することができる。
【0024】
(7)請求項7の発明では、前記請求項1〜6のいずれかに記載の多層セラミック基板は、シリコンウェハーの電気検査用治具に用いられるものであることを特徴とする。
本発明は、多層セラミック基板の用途を例示したものである。
【0025】
この電気検査用治具は、表層にシリコンウェハーの電気検査用の接続端子を高精度で実装可能であり、しかも、バーンインテストのような広範囲の温度領域で行う検査においても、回路が形成されたシリコンウェハーの寸法の伸び縮みに対して、同様な挙動を取ることが可能である。
【0026】
(8)請求項8の発明は、前記請求項1〜7のいずれかに記載の多層セラミック基板を製造する方法であって、セラミック材料として、ムライト、シリカ及びアルミナを用いて、グリーンシートを形成する工程と、前記グリーンシートに導体を形成する工程と、前記導体を形成したグリーンシートを、所定枚積層してグリーンシート積層体を形成する工程と、前記グリーンシート積層体に対して、脱脂及び焼成を行って、焼成体を形成する工程と、前記焼成体の表面を研磨する工程と、前記焼成体の研磨後の表面に、表面導体を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
本発明の製造方法により、上述した多層セラミック基板を容易に製造することができる。
この様にして製造された多層セラミック基板を、ウェハーの電気検査用治具(ウェハー検査用治具)の基板として用いた場合には、検査等の際に温度を変更したときでも、ウェハーのパッドと基板上に形成された接続端子とが、電気的接続不良無く接続することが可能である。
【0028】
ここで、前記焼成際の焼成温度としては、1400〜1600℃が挙げられる。これは、1400℃より低い温度で焼成すると、基板と導体との同時焼成が困難となるからであり、1600℃より高い温度で焼成すると、粒成長を促進することにより、焼成体内のボイドが大きくなり、セラミック強度低下を招くからである。
【0029】
なお、前記導体(内部の導体)としては、例えばW、Moを採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
[実施形態]
a)まず、本実施形態の多層セラミック基板を、図3及び図4に基づいて説明する。
【0031】
図3に示す様に、本実施形態の多層セラミック基板1は、ムライトを主結晶とし、残部にSi及びAl(従ってSiO2及びAl23)を含むセラミック層3が板厚方向に複数積層された構造を有する、例えば厚さ5mm×縦300mm×横300mmの直方体の焼結体である。
【0032】
前記セラミック層3は、ムライトの含有量が、セラミック成分の70〜90質量%、Siの含有量が、酸化物に換算してセラミック成分の5〜20質量%、Alの含有量が、酸化物に換算して(ムライトを除いた)セラミック成分の15〜65質量%、Mgの含有量が、酸化物に換算してセラミック成分の0.5〜3.0質量%である。
【0033】
また、セラミック層3は、−50〜150℃の平均熱膨張係数が3.0〜4.0ppm/℃で、且つ、−50〜150℃における各温度の熱膨張係数α1と、同じ温度でのSiウェハーの熱膨張係数α2とが、0ppm<α1−α2≦2.5ppmである特性を有している。
【0034】
また、多層セラミック基板1の表面には、導電性の電極5が形成され、多層セラミック基板1の内部(詳しくは各セラミック層3の境界部分)には、内部配線層7が形成されている。更に、多層セラミック基板1の表面の電極5と裏面の電極5とを、内部配線層7を介して電気的に接続するように、基板の厚み方向に伸びる層間接続導体(ビア)9が形成されている。
【0035】
従って、図4に示す様に、多層セラミック基板1の表面には、多数の電極5が露出している。
なお、電極5を構成する導体(表面導体)としては、Ti、Cr、Mo、Cu、Ni、Au、及びそれらを組み合わせた物を採用でき、内部配線層7やビア9を構成する導体(内部導体)としては、セラミックの焼成の際に同時焼成可能な、W、Moなどの導体が使用できる。
【0036】
また、図5に示す様に、上述した構成の多層セラミック基板1の電極5には、導電性のプローブ11が接続されてIC検査用基板13が構成される。
このIC検査用基板13は、例えばφ300mm(12inch)のSiウェハー15に対応したものであり、(各ICを切り出す前の)Siウェハー15におけるICの端子17にプローブ11が接触することにより、一度に多数のICの検査を行うことが可能である。
【0037】
b)次に、本実施形態の多層セラミック基板1の製造方法を、図6及び図7に基づいて詳細に説明する。尚、前記図6及び図7では、基板形状を簡略化してあるので、図3とはビア9の配置など多少異なる。
【0038】
(1)まず、セラミック原料粉末として、平均粒径2μm、比表面積3.0m2/gのムライト(3Al23・2SiO2)粉末を用意するとともに、添加物として、平均粒径7μm、比表面積30m2/gのMgCO3粉末と、平均粒径2μm、比表面積2.0m2/gのAl23粉末と、平均粒径1μm、比表面積12.0m2/gのSiO2粉末を用意した。
【0039】
更に、シート成形時のバインダー成分及び可塑剤成分として、ブチラール樹脂及びDOP(ジ・オクチル・フタレート)を用意した。
そして、アルミナ製のポットに、ムライト粉末とMgCO3粉末とAl23粉末とSiO2粉末とを、ムライト粉末100重量部、MgCO3粉末5重量部、Al23粉末15重量部、SiO2粉末8重量部の割合で、総量1kgとなるように投入するとともに、ブチラール樹脂を120g投入した。
【0040】
更に、適当なスラリー粘度とシート強度を持たせるのに必要な量の溶剤(MEK:メチルエチルケトン)と可塑剤(DOP)を上記ポットに入れ、5時間混合することにより、セラミックスラリーを得た。
【0041】
得られたセラミックスラリーを用いて、ドクターブレード法により、図6(a)に示す様に、厚み0.15mmの(各セラミック層3用の)グリーンシート21を作製した。
(2)次に、図6(b)に示す様に、前記グリーンシート21に、パンチによって、直径0.12mmのビアホール25を形成した。
【0042】
(3)次に、図6(c)に示す様に、ビアホール25に、例えばW系ペーストを充填し、(ビア9となる)充填部27を形成した。
(4)また、図6(d)に示す様に、グリーンシート21の表面の必要な箇所に、W系ペーストを用いて、印刷によって(内部配線層7となる)導電パターン29を形成した。
【0043】
(5)次に、図6(e)に示す様に、上述した様にして製造した各グリーンシート21を、順次積層してグリーンシート積層体31を形成を形成した。
(6)次に、図7(a)に示す様に、グリーンシート積層体31を、H2を50体積%含むN2雰囲気にて、1550℃で2時間焼成(脱脂焼成)し、焼結体33を得た。
【0044】
(7)次に、図7(b)に示す様に、焼結体33の両外側表面を、アルミナ質砥粒を用いたラップ研磨により研磨した。
(8)次に、図7(c)に示す様に、研磨した焼結体33の表面のビア9に対応する位置に、表面導体として例えばTi薄膜をスパッタ法により形成した後に、Cu、Ni、Auメッキにより、電極5を形成し、多層セラミック基板1を完成した。
【0045】
c)この様に、本実施形態の多層セラミック基板1は、ムライトが70〜90質量%、酸化物換算したMgが0.5〜3.0質量%、酸化物換算したSiが5.0〜20.0質量%、ムライト以外のセラミック総量に対して酸化物換算したAlが15〜65質量%である。
【0046】
従って、後述する実験例からも明らかな様に、この多層セラミック基板1は、−50〜150℃の平均熱膨張係数が3.0〜4.0ppm/℃であり、−50〜150℃における各温度の熱膨張係数α1と、同じ温度でのSiウェハーの熱膨張係数α2とが、0<α1−α2≦2.5ppmである。また、高い相対密度を有し、耐薬品性が高く、焼成時のセッターへの融着も見られないという顕著な効果を奏する。
【0047】
よって、この多層セラミック基板1を、ウェハー検査用治具13の基板として用いた場合に好適である。具体的には、ウェハー15のパッド17との電気的接続の観点からも十分な寸法精度を有し、なおかつ、検査等の際に温度を変更した場合でも、ウェハー15のパッド17と基板1上に形成されたプローブ11とが、電気的接続不良無く接続することが可能である。
<実験例>
次に、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0048】
本実験例では、下記表1に示す材料を使用して、下記の条件にて、焼結体の相対密度、平均熱膨張係数、−50℃、30℃、150℃における(α1−α2)、酸浸漬後の重量減少、焼成セッターとの融着の有無を調べた。その結果を、下記表2に記す。
【0049】
a)熱膨張係数
前記実施形態と同様なムライト粉末とMgCO3粉末とAl23粉末とSiO2粉末とを、下記表1の組成となる割合で使用し、実験に使用する試料を作製した。
【0050】
具体的には、アルミナ製のポットに、ムライト粉末とMgCO3粉末とAl23粉末とSiO2粉末とを、所定の割合(焼成後に下記表1の組成となる割合)で混合し、総量100gとなるように秤量して投入した。これらをエタノール150gとともに混合した後、ポット外に排出し、エタノール分を乾燥させ除去した。その後、得られたムライト粉末と添加物に、アクリル系バインダー4gとアセトン100gを加え、乳鉢中でアセトンを蒸発させ、よく混合して乾燥させて試料粉末とした。
【0051】
次に、この試料粉末を金型に入れ、3mm×3mm×20mmの棒状の試験片とし、この試験片に5Mpaの圧力を加えて成形体とした。この成形体を、大気にて1550℃で2時間焼成して、熱膨張係数を評価する試料とした。
【0052】
そして、前記各試料に対して、熱機械分析装置(TMA)により、−60〜200℃までの寸法変動率を測定し、測定中の伸び及び測定温度をサンプリングして調べた。具体的には、サンプリングを1.0秒ごとに行って、その測定値をグラフ化(縦軸(伸び)、横軸(温度))し、サンプリング前後での傾きから熱膨張係数(α1)を求めた。また、平均熱膨張係数は、−50〜150℃におけるグラフの傾きから求めた。その結果を下記表2に記す。
【0053】
b)−50℃、30℃、150℃における熱膨張係数の差(α1−α2)
Siウェハーのロッドの一部を用い、前記a)の熱膨張係数(α1)の測定と同様にして、−50℃、30℃、150℃時点の熱膨張係数(α2)を求めた。そして、α1−α2を算出した。その結果を下記表2に記す。
【0054】
なお、Siウェハーのロッドの一部として、縦20mm×横4.5mm×厚み4.5mmの試料を用いた。
c)相対密度(焼成後の焼結性)
前記a)と同様にして作製した試料を用い、この試料の焼成後の比重を、アルキメデス法により測定し、理論比重から相対比重を計算した。その結果を下記表2に記す。
【0055】
d)酸浸漬後の重量減少
前記a)と同様な試料粉末を、直径19mmの円柱状金型に入れ、5Mpaの圧力を加えてプレス成形体を得た。この成形体を、大気中で1550℃にて2時間焼成し、焼成体の試料を得た。
【0056】
この試料を、60℃の3%フッ化水素中に20分浸漬し、浸漬前後の重量減少量を測定した。この重量減少量(g)を試料の表面積(m2)で除することにより、単位面積当たりの重量減少量(g/m2)を求めた。その結果を下記表2に記す。
【0057】
e)焼成セッターとの融着
前記a)と同様にして試料を作製する際に、試料を載置する焼成セッターとの融着の有無を調べた。その結果を、下記表2に記す。なお、○が融着無しを示し、×が融着有りを示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

なお、この表2では、請求項1〜5の1つでも条件を満たしていないものを、比較例とした。
【0060】
前記表2から明かな様に、本発明の範囲の実施例1〜6では、ムライトは70〜90質量%であり、且つ、酸化物換算したMgは0.5〜3.0質量%、酸化物換算したSiは5.0〜20.0質量%、(ムライト以外のセラミック成分中の)酸化物換算したAlは15〜65質量%であるので、作製したセラミック基板等では、平均熱膨張係数が3.0〜4.0ppm、各温度でのセラミック基板とシリコンの熱膨張係数差が、0<α1−α2≦2.5ppmである。また、相対密度が92%以上と高く、フッ化水素酸に浸漬することによる浸漬前後の重量減少率は、6.9g/m2以下に抑えられ、焼成時のセッターへの融着も見られなかった。
【0061】
これに対して、比較例1、2では、Mgの添加量が過大であるので、耐薬品性が低く、セッターに融着があるので好ましくない。比較例3では、Siの添加量が過大で、Alの添加量が過少であるので、熱膨張係数の差(α1−α2)が小さく好ましくない。比較例4では、ムライトの含有量が過大で、Siの添加量が過少であるので、十分に焼結した焼結体が得られなかった。比較例5では、ムライトの含有量が過少で、Siの添加量が過大で、Mgの添加量が過大であるので、耐薬品性が低く、セッターに融着があるので好ましくない。
【0062】
尚、本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の熱膨張係数の範囲を示す説明図である。
【図2】本発明の各温度における熱膨張係数の定義を説明するための説明図である。
【図3】実施形態の多層セラミック基板の基板表面の一部を示す平面図である。
【図4】実施形態の多層セラミック基板を示す断面図である。
【図5】実施形態の多層セラミック基板の基板表面の一部を示す平面図である。
【図6】IC検査用基板の使用方法を示す説明図である。
【図7】実施形態の多層セラミック基板の製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1…多層セラミック基板
3…セラミック層
5…電極
7…内部導電層
9…ビア
13…IC検査用基板
21…グリーンシート
31…グリーンシート積層体
33…焼成体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムライトを主結晶とするセラミックを有する多層セラミック基板であって、
前記ムライト以外の成分として、Si及びAlを含み、
−50〜150℃の平均熱膨張係数が3.0〜4.0ppm/℃で、且つ、−50〜150℃における各温度の熱膨張係数α1と、同じ温度でのSiの熱膨張係数α2とが、0ppm<α1−α2≦2.5ppmの関係を有することを特徴とする多層セラミック基板。
【請求項2】
前記セラミックに含まれるムライトの含有量が、70〜90質量%であることを特徴とする請求項1に記載の多層セラミック基板。
【請求項3】
前記セラミックに含まれるSiの含有量が、酸化物に換算して5.0〜20.0質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層セラミック基板。
【請求項4】
前記ムライトを除いたセラミックに含まれるAlの含有量が、酸化物に換算して15〜65質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層セラミック基板。
【請求項5】
前記セラミックに含まれるMgの含有量が、酸化物に換算して0.5〜3.0質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層セラミック基板。
【請求項6】
前記多層セラミック基板を、60℃の3%フッ化水素酸に20分間浸漬した際のセラミックの重量減少率が、10g/m2以下である特性を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多層セラミック基板。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の多層セラミック基板は、シリコンウェハーの電気検査用治具に用いられるものであることを特徴とする多層セラミック基板。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれかに記載の多層セラミック基板を製造する方法であって、
セラミック材料として、ムライト、シリカ及びアルミナを用いて、グリーンシートを形成する工程と、
前記グリーンシートに導体を形成する工程と、
前記導体を形成したグリーンシートを、所定枚積層してグリーンシート積層体を形成する工程と、
前記グリーンシート積層体に対して、脱脂及び焼成を行って、焼成体を形成する工程と、
前記焼成体の表面を研磨する工程と、
前記焼成体の研磨後の表面に、表面導体を形成する工程と、
を有することを特徴とする多層セラミック基板の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−93197(P2010−93197A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264156(P2008−264156)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】