説明

多層塗膜塗装方法、多層塗膜塗装装置及び多層塗膜塗装平板

【課題】 鋼板等の平板上に3層以上の多層の塗膜を焼き付け塗装する多層膜塗装において、ワキの発生を防止することのできる多層塗膜塗装方法、多層塗膜塗装装置及び多層塗膜塗装平板を提供する。
【解決手段】 被塗装物の表面に薄い塗膜(下地塗膜)を形成し、加熱することによりこの下地塗膜中の溶剤濃度を減少させ、その後に下地塗膜上に多層塗膜を形成して焼き付けを行うこととすると、たとえ多層塗膜の厚さが厚くてもワキが発生しなくなる。即ち、移動する平板上に塗膜(下地塗膜)を形成してこの塗膜を加熱し、その後下地塗膜の上に2層以上の多層塗膜を同時に形成し、その後加熱することを特徴とする多層塗膜塗装方法である。多層塗膜形成前における下地塗膜内の溶剤量が30mg/m2以下であることを特徴とする。下地塗膜の加熱は、加熱開始から120秒以内に200〜300℃に加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板等の平板上に3層以上の多層の塗膜を焼き付け塗装する多層塗膜塗装方法、多層塗膜塗装装置及び多層塗膜塗装平板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の平板上に3層以上の多層の塗膜を焼き付け塗装するに際しては、1層毎に塗装し焼き付け、これを繰り返す方法が知られている。しかしこの方法では、例えば、一般的な「塗布→焼き付け→塗布→焼き付け」の2コート2ベーク仕様のラインであれば、ラインを複数回通過させる必要があり、作業効率が悪く、焼き付けに要するエネルギーが過大となる。また、1回のライン通板で全層の塗装・焼き付けを完了するラインを構成しようとすると、ラインが長くなり、生産効率が悪くなると同時に生産設備費用が過大となる。さらに、1層毎に塗装・焼き付けを繰り返すと、焼き付けた最上面が硬化し、さらに上層を塗装したときに密着性が悪くなる場合がある。また、焼き付け中に上面からガスを吸収すると塗料が変質する場合もある。
【0003】
1層毎に塗装と焼き付けを行う場合の上記欠点を補う技術として、塗装した層が乾かないうちに次の層を塗装する方法、いわゆるウェット・オン・ウェット塗装技術が知られている。下層が乾かないうちに上層を塗装するので、下層の上面の硬化は防止できるものの、下層の界面が上層の落下エネルギーにより乱れることにより、上層と下層との間に気泡の巻き込みが生じる恐れがある。
【0004】
平板上に単層または同時に複数層の塗膜を塗装する方法として、カーテン塗装方法が知られている。単層の塗膜を塗装するカーテン塗装方法として、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーターが知られている。また複数層の塗膜を塗装する方法として、特許文献1に記載のようなスライドカーテンコーターがある。特許文献1には、複数個のスロット状オリフィスで形成した複数層の流動層を相互に面対面接触するように流して複合層を形成し、この複合層を自由落下するカーテンとして、走行するウエブ(平板)上に付着し、複数層を形成する方法が記載されており、主に写真材料の製造に用いられている。
【0005】
特許文献2では、鋼板等の被塗装物に塗料を連続的に塗布する方法として、カーテン塗装方法が適用されている。スリット状ノズルから流出落下する塗料カーテンの下にコンベアベルトで被塗装物を走行させ、被塗装物の上面に塗料カーテンを被着させるようにして塗料膜を形成する。塗料が塗布された鋼板はその後連続的に乾燥炉へ送られ、この乾燥炉で塗料膜内の溶剤(揮発成分)が蒸発せしめられて塗料膜の焼き付け乾燥、硬化がなされる。
【0006】
焼き付け塗装において、焼き付けを行う前の未焼き付け塗膜厚さが厚くなると、焼き付け後の塗膜に「ワキ」と呼ばれる現象が発生することが知られている。ワキとは、塗膜表面の泡状の表面欠陥であり、塗膜内部に残留している溶媒が焼き付け時の加熱で急激に蒸発して塗膜内に気泡を生じ、これが既に硬化した塗膜表面を変形させて泡状欠陥となって現れるものであり、特に厚膜塗装の場合にその発生が顕著である。多層塗膜を同時に塗装するカーテン塗装においては、必然的に焼き付け前の未焼き付け塗膜厚さが厚くなり、ワキが発生しやすい状況となる。
【0007】
特許文献2によると、被塗装物に塗布された焼き付け乾燥前の塗料膜における溶剤濃度について、被塗装物と接する側の溶剤濃度をその反対側のそれよりも低くすることにより、焼き付け時のワキ発生を低減することができるとしている。
【0008】
【特許文献1】特公昭62−47075号公報
【特許文献2】特開平7−24401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カーテン塗装等の塗装方法を実施するに際し、供給する塗料中の溶剤濃度については、カーテン塗装を良好に行い、さらに良好な塗装を行う観点から最適な溶剤濃度が定まる。従って、特許文献2に記載のように、塗料における溶剤濃度について、被塗装物と接する側の溶剤濃度をその反対側のそれよりも低くしようとすると、被塗装膜と接する側の塗膜における溶剤濃度が最適濃度よりも低くなりすぎるか、あるいはその反対側の塗膜における溶剤濃度が最適濃度よりも高くなりすぎる結果を招くこととなり、良好な塗膜の形成を阻害することとなる。
【0010】
厚膜の多層塗膜を同時に塗装して焼き付けを行う場合、ワキが発生しやすいのは乾燥時の膜厚が20μmを超えるような場合である。一方、膜厚が20μm以下の場合であっても、例えば上層にクリア塗膜が存在するとワキが発生しやすい場合がある。クリア塗膜中には顔料が存在せず、溶剤が抜けるチャンネルとなり得る顔料と樹脂との界面が存在しないためである。また、焼き付け速度が速くなると、膜厚20μm以下の場合でもワキが発生しやすくなる。
【0011】
本発明は、鋼板等の平板上に3層以上の多層の塗膜を焼き付け塗装する多層膜塗装において、ワキの発生を防止することのできる多層塗膜塗装方法、多層塗膜塗装装置及び多層塗膜塗装平板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
焼き付け塗装において焼き付け中の塗膜に気泡が発生するのは、塗膜が塗装された被塗装物表面の付着水分やゴミ、あるいは被塗装物表面の微少凹凸の凹み部に捕捉された空気が微細な気泡生成の核になって生じる。塗膜中にある濃度以上の溶剤がある時間以上存在していると、ワキの原因となる微細の気泡が生成する。
【0013】
これに対し、被塗装物の表面に薄い塗膜(以下「下地塗膜」という。)を形成し、加熱することによりこの下地塗膜中の溶剤濃度を減少させ、その後に下地塗膜上に多層塗膜を形成して焼き付けを行うこととすると、たとえ多層塗膜の厚さが厚くてもワキが発生しなくなることが判明した。下地塗膜は薄いので加熱してもワキは発生しない。また加熱後の下地塗膜の表面には付着水分、ゴミ、空気が捕捉される凹凸が存在しないので、この上に多層塗膜を形成して焼き付けても気泡が生成せず、結果としてワキの発生を防止することができるからである。
【0014】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)移動する平板上に塗膜(下地塗膜)を形成してこの塗膜を加熱し、その後下地塗膜の上に2層以上の多層塗膜を同時に形成し、その後加熱することを特徴とする多層塗膜塗装方法。
(2)多層塗膜形成前における下地塗膜内の溶剤量が30mg/m2以下であることを特徴とする上記(1)に記載の多層塗膜塗装方法。
(3)下地塗膜の加熱は、加熱開始から120秒以内に200〜300℃に加熱することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の多層塗膜塗装方法。
(4)塗装完了後における下地塗膜内の溶剤量が20mg/m2以下であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の多層塗膜塗装方法。
(5)多層塗膜を同時に形成するに際して多層カーテン塗装方法を用いることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の多層塗膜塗装方法。
(6)移動する平板上に連続的に多層塗膜を塗装するための多層塗膜塗装装置であって、平板上に塗膜(下地塗膜)を形成する装置と、下地塗膜を加熱する装置と、下地塗膜の上に2層以上の多層塗膜を同時に形成する装置と、多層塗膜を加熱する装置とをこの順序で配置してなることを特徴とする多層塗膜塗装装置。
(7)多層塗膜を同時に形成する装置が多層カーテン塗装装置であることを特徴とする上記(6)に記載の多層塗膜塗装装置。
(8)平板の表面に3層以上の塗膜を有し、該平板に接する最下層の塗膜(下地塗膜)内の溶剤量が20mg/m2以下であることを特徴とする多層塗膜塗装平板。
(9)最下層の塗膜(下地塗膜)以外の塗膜内の単位体積あたりの溶剤量が、下地塗膜内の単位体積あたりの溶剤量よりも多いことを特徴とする上記(8)に記載の多層塗膜塗装平板。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、移動する平板上に塗膜(下地塗膜)を形成してこの塗膜を加熱し、その後下地塗膜の上に2層以上の多層塗膜を同時に形成し、その後加熱するので、厚膜の多層塗膜を同時に形成して焼き付けを行っても塗膜中に気泡が生成せず、ワキの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
移動する平板の上に厚膜の多層塗膜を塗布して焼き付けた場合の、ワキ発生の要因の一つとして、以下の仮説を考えることができる。即ち、移動する平板の上に、水分や、ゴミ等が付着しているか、平板上の粗度の凹み部に捕捉された空気があると、これらが微細な気泡の生成の核になる。この気泡の核の周囲に、ある濃度以上の溶剤がある時間以上存在すると、塗膜中にワキの原因となる微細な気泡が生成する。したがって、ワキの原因となる微細な気泡の生成を防止するためには、多層塗膜と接する面に水分や、ゴミ、捕捉された空気等の付着がないこと、ある濃度以上の溶剤がある時間以上存在しないことが必要と考えられる。
【0017】
しかし、移動する平板の上に直接、多層塗膜を形成した場合には、移動する平板の上に直接接する層(最下層)の溶剤の濃度は、少なくしようとしても、膜を液体状で塗ることから、特許文献2に述べられているように、溶剤の濃度の下限は限度がある。また、この層(最下層)の上には、複数の層が存在するので、この層内の溶剤濃度は、高い状態に保持されたまま、ある時間以上存在することになり、ワキの原因となる微細な気泡が生成しやすい状態に置かれる事になる。
【0018】
そこで、発明者は、これらの仮説を基に、ワキを防止する方法を検討した。
まず、多層塗膜と接する面に水分や、ゴミ、捕捉された空気等が付着をなくして、この面を清浄化する方法を検討した。
【0019】
この方法の1つとして、移動する平板を予備加熱すれば、表面の水分やゴミ等の付着を除去することはできる。しかしこの方法は、移動する平板の表面が粗い場合には、平板上の粗度の凹み部に捕捉された空気は完全には除去できず、これが原因で気泡発生が抑制できない可能性が考えられる。
【0020】
そこで、水分やゴミ等の付着防止、平板上の粗度の凹み部の解消を目的に、多層塗膜を塗装する前に移動する平板上に1層の薄い塗膜(下地塗膜)を塗布することを試みた。この場合にも、下地塗膜塗布前の移動する平板上には、水分やゴミ等の付着とか、平板上の粗度の凹み部に捕捉された空気が存在するので、ある濃度以上の溶剤がある時間以上存在すると、ワキの核となる微細気泡が生成される可能性がある。また、下地塗膜を形成した直後に多層塗膜を形成すると、ウェット・オン・ウェットの場合と同様に、下地塗膜の表面が上層の多層膜の落下エネルギーにより乱れて気泡を巻き込む場合がある。
【0021】
そこで、下地塗膜を塗布した後は、速やかに、残留溶剤をある上限値以下の濃度に低下させるためと、下地塗膜の表層が上層塗布時の落下エネルギーにより乱れないように、ある程度の硬さを持たせることの目的で、下地塗膜を塗布した後にこの塗膜を加熱し、焼き付けを行うことにした。
【0022】
下地塗膜を加熱して焼き付けた後に、2層以上の多層塗膜を同時に形成する。加熱して焼き付けた後の下地塗膜の表面には付着水分、ゴミ、空気が捕捉される凹凸が存在しないので、この上に多層塗膜を形成して焼き付けても気泡が生成せず、結果としてたとえ多層塗膜が厚膜であってもワキの発生を防止することができる。
【0023】
本発明においては、3層以上の多層塗膜を形成する焼き付け塗装において、下地塗膜の塗装及び焼き付け、2層以上の多層塗膜の形成及び焼き付けを行うのみであり、2回の焼き付けで多層塗膜を形成することができる。平板上に3層以上の多層の塗膜を焼き付け塗装するに際して、従来のように1層毎に塗装し焼き付け、これを繰り返す方法を用いたのでは、ラインを複数回通過させる必要があり、作業効率が悪く、焼き付けに要するエネルギーが過大となっていた。本発明においては2回の焼き付けで3層以上の多層塗膜の塗装・焼き付けを行うことができ、ワキの発生も見られないので、効率よく良好な多層塗膜を形成することが可能となる。
【0024】
本発明において、下地塗膜の焼き付け後の残留溶剤量を30mg/m2以下にし、その後2層以上の多層塗膜を形成して焼き付けを行うと、ワキの発生が極めて低位に抑えられることを見出した。下地塗膜の焼き付け後の残留溶剤量を30mg/m2以下にすれば、平板表面の水分やゴミ、凹部に捕捉された空気を核として貴方が発生することがなくなる。そのため、その後に下地塗膜表面に2層以上の多層塗膜を形成した後に焼き付けを行っても、ワキを発生させずに塗装を完了することができるのである。
【0025】
下地塗膜を加熱するに際しては、下地塗膜内で微細気泡の生成を抑制しながら溶剤の減少を早めるため、下地塗膜を塗布してから120秒以内に、加熱炉内で200℃以上にまで温度を上昇させて、溶剤の濃度を30mg/m2以下まで低下させるのが良い。一方、塗膜の温度を300℃超まで昇温させると、表面の硬化が過度に進み多層塗膜との密着性が低下する場合があるので、加熱温度を300℃以下とすると好ましい。
【0026】
下地塗膜中の溶剤の濃度を30mg/m2以下まで低下させ、その後その上に多層塗膜を塗布して焼き付ける際にも下地塗膜からは溶剤が蒸発する。多層塗膜形成前の下地塗膜中溶剤濃度が30mg/m2以下であれば、多層塗膜形成・焼き付け後における下地塗膜中の残留溶剤量が20mg/m2以下になることが明らかになった。即ち、塗装完了後における下地塗膜内の溶剤量が20mg/m2以下であれば、ワキの発生が極めて低位に抑えられることを見出した。
【0027】
本発明において、下地塗膜の厚さは薄い方が好ましい。下地塗膜の厚さが15μm以下であれば、ワキの少ない多層塗膜塗装を行うことが可能となる。下地塗膜の厚さが10μm以下であるとより好ましい。
【0028】
下地塗膜の塗装方法としては、ロールコート、カーテンコート、バーコート、スピンコート、スプレーコート等、任意の方法を採用することができる。
【0029】
通常、下地塗膜としては1層の塗膜を形成すればよい。一方、本発明の効果を発揮する観点からは、下地塗膜は2層以上の多層であっても構わない。下地塗膜を塗装後に焼き付けを行った際、ワキが発生しない範囲の条件でありさえすればよい。
【0030】
本発明において、更に密着性を向上させるためには、第1層(下地塗膜)の塗料の組成を選択するとなお良い。例えば、ポリエステル+メラミン、ポリエステル+イソシアネート、エポキシ、フッ素、アクリル等を下地塗膜の塗料として選択したときには、その上の多層塗膜のうちの最下層であって下地塗膜と接する膜の塗料としてポリエステル+メラミン、ポリエステル+イソシアネート、エポキシ、フッ素、アクリル等の中から同系の塗料を選ぶのが良い。
【0031】
本発明において使用する溶剤としては、キシレン、シクロヘキサノン、NMP、MEK、EEP、イソホロン、イソプロピルアルコール、ソルベッソ150等が使用できる。
【0032】
本発明において、多層塗膜を同時に形成するに際して多層カーテン塗装方法を用いることとすると好ましい。多層カーテン塗装方法においては、例えば2以上のスリット状ノズルから流出する塗膜を合流させて多層膜とし、多層膜カーテンとして自由落下させる。自由落下する多層膜カーテンの下方に平板を配置して一定速度で移動させることにより、平板上に多層膜カーテンを被着させて一定膜厚の多層塗膜を形成することができる。
【0033】
本発明の多層塗膜塗装方法を実施することができる多層塗膜塗装装置は、移動する平板上に連続的に多層塗膜を塗装するための多層塗膜塗装装置であって、平板上に塗膜(下地塗膜)を形成する装置と、下地塗膜を加熱する装置と、下地塗膜の上に2層以上の多層塗膜を同時に形成する装置と、多層塗膜を加熱する装置とをこの順序で配置してなることを特徴とする多層塗膜塗装装置である。塗装装置をこのような構成とすることにより、塗装装置内において平板を1回移動させることにより、3層以上の多層塗膜の塗装・焼き付けを完了することができる。平板としては、切り板でもコイル状の帯板でもいずれでも良い。
【0034】
上記本発明の多層塗膜塗装装置においても、多層塗膜を同時に形成する装置が多層カーテン塗装装置であることとすると好ましい。
【0035】
本発明の多層塗膜塗装平板は、平板の表面に3層以上の塗膜を有し、該平板に接する最下層の塗膜(下地塗膜)内の溶剤量が20mg/m2以下であることを特徴とする多層塗膜塗装平板である。前述のとおり、移動する平板上に塗膜(下地塗膜)を形成してこの塗膜を加熱して下地塗膜内の溶剤量が30mg/m2以下とし、その後下地塗膜の上に2層以上の多層塗膜を同時に形成することにより、塗装完了後における下地塗膜内の溶剤量が20mg/m2以下となり、ワキの発生しない3層以上の多層塗膜塗装平板を形成することができる。即ち、3層以上の塗膜を有し、同時に下地塗膜内の溶剤量が20mg/m2以下である多層塗膜塗装平板とすることで、ワキの発生を防止することができるのである。
【0036】
多層塗膜形成前における下地塗膜内の溶剤量が30mg/m2超であっても、その上に多層塗膜を形成した後の焼き付けの温度を上げたり時間を延長すれば、塗装完了後における下地塗膜内の溶剤量が20mg/m2以下とすることは可能であるが、これではワキの発生を防止することはできない。一方、最下層の塗膜(下地塗膜)以外の塗膜内の単位体積あたりの溶剤量が、下地塗膜内の単位体積あたりの溶剤量よりも多ければ、このような過剰な焼き付けを行っていないものと推認することができる。
【0037】
即ち本発明において、平板の表面に3層以上の塗膜を有し、平板に接する最下層の塗膜(下地塗膜)内の溶剤量が20mg/m2以下であると同時に、下地塗膜以外の塗膜内の単位体積あたりの溶剤量が、下地塗膜内の単位体積あたりの溶剤量よりも多いこととすれば、多層塗膜形成前における下地塗膜内の溶剤量が30mg/m2以下であったものと推認することができ、本発明のワキの少ない多層塗膜塗装平板であることが確実となる。
【0038】
次に、塗膜中の溶剤量の測定方法について説明する。
【0039】
多層塗膜形成前の下地塗膜内溶剤量は、下地塗装をした鋼板を1cm角(1cm2)に切断し、熱重量測定装置(TG)にて、室温から200℃まで加熱したときの重量変化を測定し、これを1m2あたりに換算することによって算出することができる。
【0040】
多層塗膜形成後の下地塗膜内溶剤量は、塗装完了後の鋼板の塗膜を、水平回転式紙ヤスリにて下地塗膜が露出する直前まで研磨し、下地塗膜のみ残った鋼板を1cm角(1cm2)に切断し、熱重量測定装置(TG)にて、室温から200℃まで加熱したときの重量変化を測定し、これを1m2あたりに換算することによって算出することができる。
【0041】
最下層の塗膜(下地塗膜)以外の塗膜内の溶剤量は、以下のように測定するとよい。即ち、塗装完了後の鋼板を1cm角(1cm2)に切断し、熱重量測定装置(TG)にて、室温から200℃まで加熱したときの重量変化を測定し(この値をXとする)、他方、塗装完了後の鋼板の塗膜を、水平回転式紙ヤスリにて下地塗膜が露出する直前まで研磨し、下地塗膜のみ残った鋼板を1cm角(1cm2)に切断し、熱重量測定装置(TG)にて、室温から200℃まで加熱したときの重量変化を測定し(この値をYとする)、X−Yの値を1m2あたりに換算することによって、下地塗膜以外の塗膜内の溶剤量を算出することができる。
【0042】
また、塗装完了後の鋼板を樹脂埋め込みし、断面検鏡及び顕微鏡観察により、下地塗膜及び下地塗膜以外の塗膜の厚さを測定し、それぞれの塗膜について、先に求めた塗膜内の溶剤量を塗膜の厚さで除することによって、単位体積当たりの溶剤量を算出することができる。
【実施例】
【0043】
下記表1に示す本発明例及び比較例は、以下のような手順で作製した。
【0044】
A4サイズの鋼板の表面に非クロメート系化成処理を施したものを原板とした。この上に下地塗膜用塗料をバーコート塗布し、高周波誘導加熱と熱風併用オーブンにて所定の条件にて下地塗膜を乾燥させた(ただし、比較例1は塗料塗布及び乾燥工程を省略し、比較例2は乾燥工程のみ省略した)。次に、上層の多層膜として2層膜をスライドカーテン塗装装置にて塗布し、高周波誘導加熱と熱風併用オーブンにて所定の条件にて塗膜を乾燥させた。
【0045】
塗装を行う鋼板として0.8mm厚さの電気亜鉛めっき鋼板(EG)を用いた。下地塗膜として塗料A:ポリエステル/イソシアネート硬化系(着色)、塗料B:ポリエステル/メラミン硬化系(着色)、塗料C:ポリエステル/メラミン硬化系(クリア)の3種類を用いた。それぞれの塗料の溶剤として溶剤X:シクロヘキサノン/高沸点芳香族ナフサ(高沸点タイプ)、溶剤Y:シクロヘキサノン/高沸点芳香族ナフサ(低沸点タイプ)を用いた。
【0046】
下地塗膜の塗料、溶剤、膜厚、加熱温度、乾燥時間、多層塗膜としての2層膜の塗料、溶剤、膜厚、加熱温度、乾燥時間を表1に示す。
【0047】
下地塗膜内の溶剤量については、多層塗膜形成前とすべての塗膜を塗装完了後においてそれぞれ測定して表1に示した。測定方法は上記発明を実施するための最良の形態において記載した方法を用いている。
【0048】
製品のワキ発生状況については目視で判定し、○:目視でワキの全くないもの、△:目視でワキが若干あるもの(塗装面に平均3個/cm2未満)、×:目視でワキが多くあるもの(塗装面に平均3個/cm2以上)として結果を表1に示した。
【0049】
下地塗膜と多層塗膜の間の密着性については、碁盤目テープ法試験(JIS K5400)にて評価を行い、評価が10〜8点であったものを○とし、評価が4〜7点であったものを△とし、結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示す本発明例No.1〜20については、処理条件が本発明の範囲内に入っており、いずれも良好な結果を得ることができた。
【0052】
本発明例No.1については、下地塗膜の加熱温度が190℃と好ましい範囲よりやや低いため、ワキの発生状況が△と他の本発明例よりはやや低い結果となった。一方本発明例No.11は、下地塗膜の加熱温度は上記本発明例No.1と同様190℃であったが、使用した溶剤が低沸点であったために下地塗膜乾燥後の塗膜内溶剤量が低く、ワキの発生のない良好な塗膜を形成することができた。
【0053】
本発明例No.7は下地塗膜の乾燥温度が高く、下地塗膜を乾燥した段階で塗膜中樹脂の自己架橋反応が過度に進み、樹脂の反応性置換基が消費されて少なくなるため、上層に塗料を塗布乾燥した場合に上層塗料中の樹脂との反応性が低く、上層塗膜との密着性がやや低下する傾向が見られる。
【0054】
下地塗膜の乾燥時間を長くすることは、塗装効率の低下につながる。実際の連続塗装ラインで塗装する場合に乾燥時間を長くしようとすると、操業速度を落とすか、相当に長いオーブンを設置せざるを得ないためである。本発明例No.10については、乾燥時間が長いため、操業速度が低下するばかりでなく、この操業速度では遅すぎて上層の多層カーテンの形成が難しい条件範囲に入り、実ラインにて1回通搬で塗装を完了することが難しいため、表1に示す「塗装効率」を△とした。
【0055】
表1に示す比較例No.1とNo.2が比較例である。比較例No.1は、下地塗膜の塗装を行わなかったため、ワキが多発しワキの評価が×となった。また比較例No.2は、下地塗膜は塗装したものの下地塗膜の加熱を行わなかったため、同じくワキが多発しワキの評価が×となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する平板上に塗膜(以下「下地塗膜」という。)を形成してこの塗膜を加熱し、その後下地塗膜の上に2層以上の多層塗膜を同時に形成し、その後加熱することを特徴とする多層塗膜塗装方法。
【請求項2】
前記多層塗膜形成前における下地塗膜内の溶剤量が30mg/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層塗膜塗装方法。
【請求項3】
前記下地塗膜の加熱は、加熱開始から120秒以内に200〜300℃に加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の多層塗膜塗装方法。
【請求項4】
塗装完了後における下地塗膜内の溶剤量が20mg/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の多層塗膜塗装方法。
【請求項5】
前記多層塗膜を同時に形成するに際して多層カーテン塗装方法を用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の多層塗膜塗装方法。
【請求項6】
移動する平板上に連続的に多層塗膜を塗装するための多層塗膜塗装装置であって、平板上に塗膜(下地塗膜)を形成する装置と、下地塗膜を加熱する装置と、下地塗膜の上に2層以上の多層塗膜を同時に形成する装置と、多層塗膜を加熱する装置とをこの順序で配置してなることを特徴とする多層塗膜塗装装置。
【請求項7】
前記多層塗膜を同時に形成する装置が多層カーテン塗装装置であることを特徴とする請求項6に記載の多層塗膜塗装装置。
【請求項8】
平板の表面に3層以上の塗膜を有し、該平板に接する最下層の塗膜(下地塗膜)内の溶剤量が20mg/m2以下であることを特徴とする多層塗膜塗装平板。
【請求項9】
最下層の塗膜(下地塗膜)以外の塗膜内の単位体積あたりの溶剤量が、下地塗膜内の単位体積あたりの溶剤量よりも多いことを特徴とする請求項8に記載の多層塗膜塗装平板。

【公開番号】特開2006−806(P2006−806A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182240(P2004−182240)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】