学習装置及び燃料噴射システム
【課題】演算処理量の減少を図った学習装置及び燃料噴射システムを提供する。
【解決手段】燃圧センサの検出波形について、その検出波形についてモデル式により表されたモデル波形の実検出波形に対する近似度を高めるよう、モデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習する学習装置において、複数のパラメータを、そのパラメータ毎に設定された基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれに変更し(S52)、複数のパラメータについて変更の組み合わせ毎に近似度を算出し(S53)、基準値における近似度ΣMが、変更後の各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしていない場合に、各々の近似度のうち最も近似度が高くなっているときの変更の組み合わせを基準値として更新する(S56)。そして、更新終了条件を満たしている場合には、各々の基準値を複数のパラメータの学習値として決定する(S55)。
【解決手段】燃圧センサの検出波形について、その検出波形についてモデル式により表されたモデル波形の実検出波形に対する近似度を高めるよう、モデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習する学習装置において、複数のパラメータを、そのパラメータ毎に設定された基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれに変更し(S52)、複数のパラメータについて変更の組み合わせ毎に近似度を算出し(S53)、基準値における近似度ΣMが、変更後の各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしていない場合に、各々の近似度のうち最も近似度が高くなっているときの変更の組み合わせを基準値として更新する(S56)。そして、更新終了条件を満たしている場合には、各々の基準値を複数のパラメータの学習値として決定する(S55)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの検出波形を数式で表したモデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習する学習装置、及びその学習装置を備えた燃料噴射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力トルク及びエミッション状態を精度良く制御するには、燃料噴射弁から噴射される燃料の噴射量及び噴射開始時期等、その噴射形態を精度良く制御することが重要である。そこで従来より、噴射に伴い変動する燃料の圧力を検出することで、実際の噴射形態を検出する技術が提案されている。
【0003】
例えば、噴射に伴い燃圧が下降を開始した時期を検出することで実際の噴射開始時期を検出したり、噴射に伴い生じた燃圧の下降量を検出することで実際の噴射量を検出することを図っている。このように実際の噴射形態を検出できれば、その検出値に基づき噴射形態を精度良く制御することができる。
【0004】
このような燃圧の変動を検出するにあたり、コモンレール(蓄圧容器)に直接設置された燃圧センサ(レール圧センサ)では、噴射に伴い生じた燃圧変動がコモンレール内で緩衝されてしまうため、正確な燃圧変動を検出することができない。そこで特許文献1記載の発明では、燃圧センサを、コモンレールから燃料噴射弁に燃料を供給する高圧配管のうちコモンレールとの接続部分に設置することで、噴射に伴い生じた燃圧変動がコモンレール内で緩衝する前に、その燃圧変動を検出することを図っている。
【特許文献1】特開2000−265892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施する場合には次の点に留意する必要がある。すなわち、燃圧センサにより検出される波形のうちn回目噴射に対応する部分の検出波形(図7(b)参照)には、n回目より前のm回目噴射(図7の例ではm=n−1)に起因して生じる波形成分(図8(b)参照)が重畳している。
【0006】
そこで本発明者は、燃圧センサにより検出された波形からm回目噴射に起因して生じる波形成分を差し引くことで、n回目噴射に起因した波形成分を抽出し、その抽出した波形成分に基づき実際の噴射形態を検出することを検討した。具体的には、m回目噴射波形成分を数式で表したモデル式を予め記憶させておき、モデル式により表されるモデル波形を燃圧センサによる検出波形から差し引く。
【0007】
さらに本発明者は、モデル波形を実波形に近づけるよう、モデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習することを検討した。具体的には、パラメータの存在領域全ての値をモデル式に順次代入していき、モデル波形が実波形に最も近くなるようなパラメータ値の組み合わせを算出する。そして、このように算出した各々のパラメータ値を学習値として記憶更新させる。
【0008】
しかしながら、このように複数のパラメータの全てについて存在領域全ての値をモデル式に代入して算出しようとすると、そのパラメータの組み合わせ数は膨大となるため、前記算出に要する演算処理量が膨大となる。例えばパラメータの数が17個で1つのパラメータにつき10通りの値を演算する場合には、1017=10京回の演算を要する。
【0009】
なお、このような演算処理量膨大化の課題は、燃料圧力の変化を検出する燃圧センサを背景としたものに限らず、物理量変化を検出するセンサ全てについて同様に生じるものである。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、演算処理量の減少を図った学習装置及び燃料噴射システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0012】
請求項1記載の発明は、
物理量変化を検出するセンサの検出波形について、その検出波形を数式で表したモデル式が記憶された記憶手段を備え、前記モデル式により表されるモデル波形の実検出波形に対する近似度を高めるよう、前記モデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習する学習装置において、
前記複数のパラメータを、そのパラメータ毎に設定された基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれに変更するパラメータ変更手段と、
前記複数のパラメータについて前記変更の組み合わせ毎に前記近似度を算出する近似度算出手段と、
前記複数のパラメータを前記基準値とした場合における前記近似度が、前記パラメータを前記変更した値とした場合における各々の前記近似度のいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かを判定する判定手段と、
前記更新終了条件を満たしていない場合に、前記変更した値に対応する各々の前記近似度のうち最も近似度が高くなっているときの前記変更の組み合わせを、前記基準値として更新する基準値更新手段と、
前記更新終了条件を満たしている場合に、各々の前記基準値を前記複数のパラメータの学習値として決定する学習値決定手段と、
を備え、
前記基準値更新手段により更新される毎に、前記パラメータ変更手段による前記変更、前記近似度算出手段による前記算出、及び前記判定手段による前記判定を繰り返し実行することを特徴とする学習装置である。
【0013】
これによれば、「複数のパラメータの全てについて存在領域全ての値をモデル式に代入して算出する場合に比べて、演算処理量の減少を図ることができる。」その理由を、図14に示す場合を一例として以下に説明する。図14の例では、パラメータがA,ωの2つであり、各々のパラメータA,ωの存在領域を10個の領域に分割している。したがってこの場合、従来の学習装置では102=100回の演算を要することとなる。
【0014】
これに対し上記請求項1記載の発明によれば、以下の如く演算されることとなる。すなわち、例えば符号1の位置に対応するA,ωの値を基準値とした場合に、その基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれにA,ωの値が変更される(パラメータ変更手段による作用)。つまり、パラメータAについては符号q,rの位置に対応する値に変更され、パラメータωについては符号s,tの位置に対応する値に変更される。
【0015】
次に、モデル波形の実検出波形に対する近似度が、変更の組み合わせ毎に算出される(近似度算出手段による作用)。つまり、符号qの位置に対応するA,ωの値がモデル式に代入されてその場合の近似度が算出され、符号r,s,tについても同様にして各々の近似度が算出される。以下、符号xにおける近似度をΣxと記載する。
【0016】
次に、基準値(符号1に対応するA,ωの値)における近似度Σ1が、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かが判定される(判定手段による作用)。
【0017】
次に、更新終了条件を満たしていない場合に、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのうち最も近似度が高くなっているときの変更の組み合わせが、前記基準値として更新される(基準値更新手段による作用)。図14(a)では、Σrの近似度が最も高くなっている場合を例示しており、符号rの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新される。なお、図14(b)中の符号2は、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を示す。
【0018】
このように更新が為されると、前記パラメータ変更手段による前記変更、前記近似度算出手段による前記算出、及び前記判定手段による前記判定が繰り返し実行される。したがって、図14の例では、符号1から符号2の位置に対応する値に基準値が変更された後、図14(c)に示す如く符号2に対応する基準値に対して、符号q,r,s,tの位置に対応する値に変更され、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtが算出され、近似度Σ1と、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtとの比較に基づき更新終了条件を満たしているか否かが判定される。図14(c)の例では、符号tの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新され、図14(d)では、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を符号3で表している。
【0019】
そして、更新終了条件を満たしている場合には、その時の基準値をパラメータA,ωの学習値として決定する(学習値決定手段による作用)。図14(f)の例では、符号1〜9まで基準値を順に更新していき、近似度Σ9と、符号9に対して変更した符号q,r,s,tの位置に対応する値の近似度Σq,Σr,Σs,Σtとを比較した結果、Σ9の近似度が最も高いため更新を終了し、符号9の位置に対応するA,ωの値が学習値として決定される。
【0020】
以上により、上記パラメータ変更手段、前記近似度算出手段、前記判定手段、基準値更新手段、及び学習値決定手段の作用によれば、近似度を算出するにあたり、102=100回全てについて演算することを不要にできる。具体的には、図14の例では、近似度を算出する回数は、符号1に対するq,r,s,t、符号2に対するq,r,s,t・・・符号9に対するq,r,s,t、つまり4×9=36回となる。ちなみに、図14の例でパラメータの数を17個とした場合には、近似度を算出する回数は最悪でも5780回となり、全ての組み合わせについて演算した場合の回数1017=10京回に比べて、演算処理量を大幅に減少できる。
【0021】
したがって、上記請求項1記載の発明によれば、「複数のパラメータの全てについて存在領域全ての値をモデル式に代入して算出する場合に比べて、演算処理量の減少を図ることができる。」と言うことができる。
【0022】
請求項2記載の発明では、前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、前記存在範囲を複数の領域に分割し、前記複数の領域毎に設定された各々の代表値に対して算出された前記近似度を比較し、最も近似度の高い代表値を、前記基準値更新手段による更新に先立ち設定される前記基準値の初期値とすることを特徴とする。
【0023】
これによれば、基準値の初期値を更新終了条件を満たす値に近い値にできるので、更新終了条件を満たすに至るまで基準値を初期値から更新していくにあたり、その更新回数を少なくできる。よって、近似度を算出する回数をより一層減少でき、さらなる演算処理量の減少を図ることができる。
【0024】
請求項3記載の発明では、前記パラメータ変更手段により前記変更を実施するに先立って用いられる前記複数のパラメータの初期値は、既知の物理量変化に対する前記センサの検出波形を試験により計測し、その試験結果に基づき設定されていることを特徴とする。
【0025】
これによれば、基準値の初期値を更新終了条件を満たす値に近い値にできるので、更新終了条件を満たすに至るまで基準値を初期値から更新していくにあたり、その更新回数を少なくできる。よって、近似度を算出する回数をより一層減少でき、さらなる演算処理量の減少を図ることができる。
【0026】
請求項4記載の発明では、前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、前記パラメータ変更手段は、前記存在範囲をN分割して得られる大きさで、前記増大側及び前記減少側への変更を行うことを特徴とする。
【0027】
請求項5記載の発明では、前記パラメータ変更手段は、前記基準値更新手段による更新の回数が多くなるほど、前記変更の量を小さくすることを特徴とする。
【0028】
これによれば、更新終了条件を満たすに至るまで基準値を初期値から更新していくにあたり、更新の初期段階から終了段階まで変更量を一律に小さくする場合に比べて、更新回数を少なくできる。また、更新の初期段階から終了段階まで変更量を一律に大きくする場合に比べて、更新終了条件を満たした時点における基準値の近似度を高めることができ、学習精度を向上できる。つまり、更新回数の減少と学習精度向上との両立を図ることができる。なお、上記請求項5を実施するにあたり、例えば更新の回数が多くなるほど、請求項4記載のN分割数を多くすることが具体例として挙げられる。
【0029】
請求項6記載の発明では、前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、前記パラメータ変更手段による前記変更の範囲を、前記存在範囲に制限することを特徴とする。そのため、算出した近似度の値が発散してしまう等の演算処理上の不具合を回避できる。
【0030】
ところで、図18は、1つのパラメータωについての変化と近似度との関係を例示する図であり、例えば、パラメータωの値をω5,ω6,ω7,ω8,ω9と順に変更させた場合において、近似度がΣ5,Σ6,Σ7,Σ8と順に高くなったため、パラメータωについての基準値がω5,ω6,ω7,ω8と順に更新される状況を示している。ここで、Σ9よりΣ8の方が近似度が高いため、ω8にて更新終了条件を満たすこととなるが、その場合であっても、図18に示すようにω=ωu4,ωu5,ωu6の近似度Σu4,Σu5,Σu6の方がΣ8よりも近似度が高い場合が有り得る。よって、このような場合にω8を学習値として決定しては、学習精度が低下してしまう。
【0031】
この点を鑑みた請求項7記載の発明では、前記更新終了条件を満たしている場合に、前記パラメータ変更手段で行われる変更の大きさよりも大きく前記基準値を大変更し、その大変更後のパラメータについて算出された前記近似度が、前記大変更前のパラメータについて算出された前記近似度の所定範囲よりも高い場合には、前記学習値決定手段において前記基準値を前記学習値に決定することを禁止することを特徴とする。
【0032】
そのため、例えば図18の如くω8にて更新終了条件を満たしている場合であっても、パラメータωの値をω8からωu4まで大変更し、近似度Σu4が近似度Σω8より高い場合にはω8を学習値として決定することを禁止するので、上述の如く学習精度が低下することを回避できる。
【0033】
なお、上記請求項7中に記載の「大変更後のパラメータについて算出された前記近似度(大変更後の近似度)が、前記大変更前のパラメータについて算出された前記近似度(大変更前の近似度)の所定範囲よりも高い場合」との条件は、前記所定範囲をゼロとした場合には「大変更後の近似度が大変更前の近似度よりも高い場合」という旨を意味する。また、大変更後の近似度が大変更前の近似度よりも低い場合であっても、所定範囲内であれば前記条件を満たすこととなる。
【0034】
そして、請求項8記載の如く、前記禁止を行った場合には、前記大変更後のパラメータの値を前記基準値として更新すれば、その後、u5,u6と順に変更、更新され、より近似度が高くなるようパラメータの値が学習されるので、学習精度を向上できる。
【0035】
また、図18の例では近似度Σu4がΣω8より高くなっているが、仮にΣω8の方がΣu4より近似度が高かったとしても、ω8からωu4への変更よりもさらに大きくω8からωu5へ変更した場合において、Σu4よりもΣu5の方が近似度が高くなっていれば、Σω8よりも高い近似度となるパラメータωが見つかる可能性があると言える。
【0036】
この点を鑑みた請求項9記載の発明では、前記更新終了条件を満たしている場合には、前記パラメータ変更手段で行われる変更の大きさよりも大きく前記基準値を第1変更するとともに、前記第1変更よりもさらに大きく前記基準値を第2変更し、前記第2変更後の前記近似度が、前記第1変更後の前記近似度の所定範囲よりも高い場合には、前記学習値決定手段において前記基準値を前記学習値に決定することを禁止することを特徴とする。そのため、高い近似度となるパラメータωを見つける確実性を高めることができ、ひいては学習精度の低下を回避できる。
【0037】
なお、上記請求項9中に記載の「前記第2変更後の前記近似度が、前記第1変更後の前記近似度の所定範囲よりも高い場合」との条件は、前記所定範囲をゼロとした場合には「第2変更後の近似度が第1変更後の近似度よりも高い場合」という旨を意味する。また、第2変更後の近似度が第1変更後の近似度よりも低い場合であっても、所定範囲内であれば前記条件を満たすこととなる。
【0038】
そして、請求項10記載の如く、前記禁止を行った場合には、前記第2変更後のパラメータの値を前記基準値として更新すれば、その後u6へと順に変更、更新され、より近似度が高くなるようパラメータの値が学習されるので、学習精度を向上できる。
【0039】
請求項11記載の発明では、前記モデル波形と前記実検出波形とのずれ量を波形中の複数個所で演算し、その演算により得られた複数のずれ量の総和を前記近似度とし、前記総和の値が小さいほど近似度が高いとすることを特徴とする。このように最小二乗法を用いれば、近似度を容易に演算することができ、好適である。
【0040】
請求項12記載の発明は、前記センサは、燃料を蓄圧する蓄圧容器から複数の燃料噴射弁へ燃料を分配供給するよう構成された内燃機関に搭載され、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を前記物理量変化として検出する燃圧センサであり、前記燃圧センサは、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の噴射孔に至るまでの燃料通路のうち前記蓄圧容器に対して前記噴射孔に近い側に配置されており、前記燃圧センサと上記学習装置とを備えることを特徴とする燃料噴射システムである。
【0041】
このような燃圧センサでは高精度な学習が要求されるので、演算処理量の減少を図ることができる上記学習装置を適用すれば、例えばパラメータ変更手段による変更の大きさを小さくすることで、高精度な学習を容易に実現でき、好適である。
【0042】
また、燃圧センサを用いた制御の一例として、請求項13記載の発明が挙げられる。すなわち、1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施するにあたり、前記検出波形のうちn回目噴射に対応する部分の波形から、n回目より前のm回目噴射に起因した波形成分を差し引くことで、n回目噴射に起因した波形成分を抽出する抽出手段を備え、前記抽出手段は、前記学習装置により学習されたパラメータによる前記モデル波形を、前記m回目噴射に起因した波形成分とすることを特徴とする。
【0043】
ところで、近似度が最も高くなる複数のパラメータ値の組み合わせは、内燃機関の運転状態に応じて異なってくる。そこで請求項14記載の発明では、前記学習装置は、前記内燃機関の運転状態に応じて、その運転状態毎に前記複数のパラメータの値を学習することを特徴とするので、近似度が高くなるよう学習の精度を向上できる。なお、上記運転状態の具体例としては、出力軸(クランク軸)の回転速度、内燃機関の負荷、燃料温度、蓄圧容器内の燃料圧力等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0045】
(第1実施形態)
先ず、本実施形態に係る学習装置が搭載されるエンジン(内燃機関)の概略について、簡単に説明する。本実施形態では、4輪自動車用ディーゼルエンジン(内燃機関)を対象にしており、燃焼室に直接的に高圧燃料(例えば噴射圧力「1000気圧」以上の軽油)を噴射供給(直噴供給)する方式のエンジンである。また、当該エンジンは、多気筒(例えば直列4気筒)の4ストローク、レシプロ式ディーゼルエンジン(内燃機関)を想定しており、4つのシリンダ#1〜#4について、それぞれ吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で、詳しくは例えば各シリンダ間で「180°CA」ずらしてシリンダ#1,#3,#4,#2の順に逐次実行される。
【0046】
次に、エンジンの燃料系について説明する。
【0047】
図1は、本実施形態に係るコモンレール式燃料噴射システムの構成図である。このシステムに備えられたECU30(電子制御ユニット)は、吸入調整弁11cに対する電流供給量を調整して燃料ポンプ11の燃料吐出量を所望の値に制御することで、コモンレール12(蓄圧容器)内の燃料圧力(燃圧センサ20aにて測定される時々の燃料圧力)を目標値(目標燃圧)にフィードバック制御(例えばPID制御)している。そして、その燃料圧力に基づいて、対象エンジンの所定シリンダに対する燃料噴射量、ひいては同エンジンの出力(出力軸の回転速度やトルク)を所望の大きさに制御している。
【0048】
燃料供給系を構成する諸々の装置は、燃料上流側から、燃料タンク10、燃料ポンプ11、コモンレール12、及びインジェクタ20(燃料噴射弁)の順に配設されている。燃料ポンプ11は、対象エンジンの出力によって駆動される高圧ポンプ11a及び低圧ポンプ11bを有し、低圧ポンプ11bによって上記燃料タンク10から汲み上げられた燃料を、高圧ポンプ11aにて加圧して吐出するように構成されている。そして、高圧ポンプ11aに送られる燃料圧送量、ひいては燃料ポンプ11の燃料吐出量は、燃料ポンプ11の燃料吸入側に設けられた吸入調整弁(SCV:Suction Control Valve)11cによって調量される。すなわち、この燃料ポンプ11では、吸入調整弁11cの駆動電流量(ひいては弁開度)を調整することで、同ポンプ11からの燃料吐出量を所望の値に制御する。
【0049】
低圧ポンプ11bは、例えばトロコイド式のフィードポンプとして構成されている。これに対し高圧ポンプ11aは、例えばプランジャポンプからなり、図示しない偏心カムにて所定のプランジャ(例えば3本のプランジャ)をそれぞれ軸方向に往復動させることにより加圧室に送られた燃料を逐次所定のタイミングで圧送するように構成されている。
【0050】
燃料タンク10の燃料は、燃料ポンプ11によりコモンレール12へ加圧供給(圧送)された後、高圧状態でコモンレール12に蓄えられる。その後、シリンダ毎に設けられた高圧配管14を通じて、各シリンダ#1〜#4のインジェクタ20へそれぞれ分配供給される。これらインジェクタ20(#1)〜(#4)の燃料排出口21は、それぞれ余分な燃料を燃料タンク10へ戻すための配管18とつながっている。また、コモンレール12と高圧配管14との間には、コモンレール12から高圧配管14に流れる燃料の圧力脈動を減衰させるオリフィス12a(燃料脈動軽減手段)が備えられている。
【0051】
図2に、上記インジェクタ20の詳細構造を示す。なお、上記4つのインジェクタ20(#1)〜(#4)は基本的には同様の構造(例えば図2に示す構造)となっている。いずれのインジェクタ20も、燃焼用のエンジン燃料(燃料タンク10内の燃料)を利用した油圧駆動式の燃料噴射弁であり、燃料噴射に際しての駆動動力の伝達が油圧室Cd(制御室)を介して行われる。同図2に示されるように、このインジェクタ20は、非通電時に閉弁状態となるノーマリクローズ型の燃料噴射弁として構成されている。
【0052】
インジェクタ20のハウジング20eに形成された燃料流入口22には、コモンレール12から送られてくる高圧燃料が流入し、流入した高圧燃料の一部は油圧室Cdに流入し、他は噴射孔20fに向けて流れる。油圧室Cdには制御弁23により開閉されるリーク孔24が形成されており、制御弁23によりリーク孔24が開放されると、油圧室Cdの燃料はリーク孔24から燃料排出口21を経て燃料タンク10に戻される。
【0053】
このインジェクタ20の燃料噴射に際しては、二方電磁弁を構成するソレノイド20bに対する通電状態(通電/非通電)に応じて制御弁23を作動させることで、油圧室Cdの密閉度合、ひいては同油圧室Cdの圧力(ニードル弁20cの背圧に相当)が増減される。そして、その圧力の増減により、スプリング20d(コイルばね)の伸張力に従って又は抗して、ニードル弁20cがハウジング20e内を往復動(上下)することで、噴射孔20f(必要な数だけ穿設)までの燃料供給通路25が、その中途(詳しくは往復動に基づきニードル弁20cが着座又は離座するテーパ状のシート面)で開閉される。
【0054】
ここで、ニードル弁20cの駆動制御は、オンオフ制御を通じて行われる。すなわち、ニードル弁20cの駆動部(上記二方電磁弁)には、ECU30からオンオフを指令するパルス信号(通電信号)が送られる。そして、パルスオン(又はオフ)によりニードル弁20cがリフトアップして噴射孔20fが開放され、パルスオフ(又はオン)によりリフトダウンして噴射孔20fが閉塞される。
【0055】
ちなみに、上記油圧室Cdの増圧処理は、コモンレール12からの燃料供給によって行われる。他方、油圧室Cdの減圧処理は、ソレノイド20bへの通電により制御弁23を作動させてリーク孔24を開放させることによって行われる。これにより、当該インジェクタ20と燃料タンク10とを接続する配管18(図1)を通じてその油圧室Cd内の燃料が上記燃料タンク10へ戻される。つまり、油圧室Cd内の燃料圧力を制御弁23の開閉作動により調整することで、噴射孔20fを開閉するニードル弁20cの作動が制御される。
【0056】
このように、上記インジェクタ20は、弁本体(ハウジング20e)内部での所定の往復動作に基づいて噴射孔20fまでの燃料供給通路25を開閉(開放・閉鎖)することにより当該インジェクタ20の開弁及び閉弁を行うニードル弁20cを備える。そして、非駆動状態では、定常的に付与される閉弁側への力(スプリング20dによる伸張力)でニードル弁20cが閉弁側へ変位するとともに、駆動状態では、駆動力が付与されることにより上記スプリング20dの伸張力に抗してニードル弁20cが開弁側へ変位する。そしてこの際、それら非駆動状態と駆動状態とでは、ニードル弁20cのリフト量が略対称に変化する。
【0057】
インジェクタ20には、燃料圧力を検出する燃圧センサ20a(図1も併せ参照)が取り付けられている。具体的には、ハウジング20eに形成された燃料流入口22と高圧配管14とを治具20jで連結させ、この治具20jに燃圧センサ20aを取り付けている。このようにインジェクタ20の燃料流入口22に燃圧センサ20aを取り付けることで、燃料流入口22における燃料圧力(インレット圧)の随時の検出が可能とされている。具体的には、この燃圧センサ20aの出力により、当該インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の変動波形や、燃料圧力レベル(安定圧力)、燃料噴射圧力等を検出(測定)することができる。
【0058】
燃圧センサ20aは、複数のインジェクタ20(#1)〜(#4)の各々に対して設けられている。そして、これら燃圧センサ20aの出力に基づいて、所定の噴射について、インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の変動波形を高い精度で検出することができるようになっている(詳しくは後述)。
【0059】
ECU30に搭載されるマイクロコンピュータ(マイコン)は、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM、プログラムメモリとしてのROM、データ保存用メモリとしてのEEPROM、バックアップRAM(ECU30の主電源停止後も車載バッテリ等のバックアップ電源により常時給電されているメモリ)等を備えて構成されている。そして、ROMには、当該燃料噴射制御に係るプログラムを含めたエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM)には、対象エンジンの設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
【0060】
また、ECU30は、クランク角センサ42から入力される検出信号に基づき、対象エンジンの出力軸(クランク軸41)の回転角度位置や回転速度(エンジン回転速度NE)を算出する。また、アクセルセンサ44から入力される検出信号に基づき、運転者によるアクセルペダルの操作量(踏込み量)が算出される。ECU30は、前記各種センサ42,44及び後述する各種センサの検出信号に基づいて対象エンジンの運転状態やユーザの要求を把握し、それに応じて上記吸入調整弁11cやインジェクタ20等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジンに係る各種の制御を行っている。
【0061】
次に、ECU30が実行する燃料系の制御についての概略を説明する。
【0062】
ECU30のマイコンは、時々のエンジン運転状態(例えばエンジン回転速度NE)や運転者によるアクセルペダルの操作量等に応じて燃料噴射量を算出し、所望の噴射時期に同期して、その燃料噴射量での燃料噴射を指示する噴射制御信号(噴射指令信号)を上記インジェクタ20へ出力する。当該噴射制御信号に応じた駆動量(例えば開弁時間)でインジェクタ20が作動することにより、対象エンジンの出力トルクが目標値へ制御されることになる。
【0063】
以下、図3を参照して、上記燃料系制御の基本的な処理手順について説明する。なお、この図3の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。そして、これら各図の一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行される。
【0064】
同図3に示すように、この一連の処理においては、まずステップS11で、所定のパラメータ、例えばその時のエンジン回転速度NE(クランク角センサ42による実測値)及び燃料圧力(燃圧センサ20aによる実測値)、さらには運転者によるその時のアクセル操作量(アクセルセンサ44による実測値)等を読み込む。
【0065】
続くステップS12では、上記ステップS11で読み込んだ各種パラメータに基づいて噴射パターンを設定する。例えば単段噴射の場合にはその噴射の噴射量(噴射時間)が、また多段噴射の噴射パターンの場合にはトルクに寄与する各噴射の総噴射量(総噴射時間)が、それぞれ上記出力軸(クランク軸41)に生成すべきトルク(アクセル操作量等から算出される要求トルク、いわばその時のエンジン負荷に相当)に応じて可変設定される。
【0066】
この噴射パターンは、例えば上記ROMに記憶保持された所定のマップ(噴射制御用マップ、数式でも可)及び補正係数に基づいて取得される。詳しくは、例えば予め上記所定パラメータ(ステップS11)の想定される範囲について試験により最適噴射パターン(適合値)を求め、その噴射制御用マップに書き込んでおく。
【0067】
この噴射パターンは、例えば噴射段数(1燃焼サイクル中の噴射回数)、並びにそれら各噴射の噴射時期(噴射タイミング)及び噴射時間(噴射量に相当)等のパラメータにより定められるものである。こうして、上記噴射制御用マップは、それらパラメータと最適噴射パターンとの関係を示すものとなっている。
【0068】
そして、この噴射制御用マップで取得された噴射パターンを、別途更新されている補正係数(例えばECU30内のEEPROMに記憶)に基づいて補正する(例えば「設定値=マップ上の値/補正係数」なる演算を行う)ことで、その時に噴射すべき噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応した上記インジェクタ20に対する噴射指令信号を得る。補正係数(厳密には複数種の係数のうちの所定の係数)は、別途の処理により内燃機関の運転中に逐次更新されている。
【0069】
なお、上記噴射パターンの設定(ステップS12)には、同噴射パターンの要素(上記噴射段数等)毎に別々に設けられた各マップを用いるようにしても、あるいはこれら噴射パターンの各要素を幾つか(例えば全て)まとめて作成したマップを用いるようにしてもよい。
【0070】
こうして設定された噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応する指令値(噴射指令信号)は、続くステップS13で使用される。すなわち、同ステップS13(指令信号出力手段)では、その指令値(噴射指令信号)に基づいて(詳しくは上記インジェクタ20へその噴射指令信号を出力して)、同インジェクタ20の駆動を制御する。そして、このインジェクタ20の駆動制御をもって、図3の一連の処理を終了する。
【0071】
次に、インジェクタ20からの燃料噴射量を推定する処理について、図4を用いて説明する。
【0072】
図4に示す一連の処理は、所定周期(例えば先述のCPUが行う演算周期)又は所定のクランク角度毎に実行される。まずステップS21で、燃圧センサ20aの出力値(検出圧力)を取り込む。この取り込み処理は複数の燃圧センサ20aの各々について実行される。以下、ステップS21の取り込み処理について、図5を用いて詳細に説明する。
【0073】
図5(a)は、図3のステップS13にてインジェクタ20に出力される噴射指令信号を示しており、この指令信号のパルスオンによりソレノイド20bが作動して噴射孔20fが開弁する。つまり、噴射指令信号のパルスオン時期Isにより噴射開始が指令され、パルスオフ時期Ieにより噴射終了が指令される。よって、指令信号のパルスオン期間(噴射指令期間)により噴射孔20fの開弁時間Tqを制御することで、噴射量Qを制御している。図5(b)は、上記噴射指令に伴い生じる噴射孔20fからの燃料噴射率の変化(推移)を示し、図5(c)は、噴射率の変化に伴い生じる燃圧センサ20aの出力値(検出圧力)の変化(変動波形)を示す。なお、図5は噴射孔20fを1回開閉させた場合の各種変化の一例である。
【0074】
そして、ECU30は、図4の処理とは別のサブルーチン処理により、燃圧センサ20aの出力値を検出しており、そのサブルーチン処理では燃圧センサ20aの出力値を、該センサ出力で圧力推移波形の軌跡(図5(c)にて例示される軌跡)が描かれる程度に短い間隔(図4の処理周期よりも短い間隔)にて逐次取得している。具体的には、50μsecよりも短い間隔(より望ましくは20μsec)でセンサ出力を逐次取得する。
【0075】
燃圧センサ20aの検出圧力の変動と噴射率の変化とは以下に説明する相関があるため、検出圧力の変動波形から噴射率の推移波形を推定することができる。
【0076】
図5(b)に示す噴射率の変化について説明すると、先ず、符号Isの時点でソレノイド20bへの通電を開始した後、噴射孔20fから燃料が噴射開始されることに伴い、噴射率は変化点R3にて上昇を開始する。つまり実際の噴射が開始される。その後、変化点R4にて最大噴射率に到達し、噴射率の上昇は停止する。これは、R3の時点でニードル弁20cがリフトアップを開始してR4の時点でリフトアップ量が最大になったことに起因する。
【0077】
なお、本明細書における「変化点」は次のように定義される。すなわち、噴射率(又は圧力センサ20aの検出圧力)の2階微分値を算出し、その2階微分値の変化を示す波形の極値(変化が最大となる点)、つまり2階微分値波形の変曲点が、噴射率又は検出圧力の波形の変化点である。
【0078】
次に、符号Ieの時点でソレノイド20bへの通電を遮断した後、変化点R7にて噴射率は下降を開始する。その後、変化点R8にて噴射率はゼロとなり、実際の噴射が終了する。これは、R7の時点でニードル弁20cがリフトダウンを開始し、R8の時点で完全にリフトダウンして噴射孔20fが閉弁されたことに起因する。
【0079】
図5(c)に示す圧力センサ20aの検出圧力の変化について説明すると、変化点P1以前の圧力P0は噴射指令時点Isでの燃料供給圧力であり、先ず、駆動電流がレノイド20bに流れた後、噴射率がR3の時点で上昇を開始する前に、検出圧力は変化点P1にて下降する。これは、P1の時点で制御弁23がリーク孔24を開放し、油圧室Cdが減圧処理されることに起因する。その後、油圧室Cdが十分に減圧された時点で、変化点P2にてP1からの下降が一旦停止する。
【0080】
次に、R3の時点で噴射率が上昇を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P3にて下降を開始する。その後、R4の時点で噴射率が最大噴射率に到達したことに伴い、検出圧力の下降は変化点P4にて停止する。なお、変化点P3からP4までの下降量は、P1からP2までの下降量に比べて大きい。
【0081】
次に、検出圧力は変化点P5にて上昇する。これは、P5の時点で制御弁23がリーク孔24を閉塞し、油圧室Cdが増圧処理されることに起因する。その後、油圧室Cdが十分に増圧された時点で、変化点P6にてP5からの上昇が一旦停止する。
【0082】
次に、R7の時点で噴射率が下降を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P7にて上昇を開始する。その後、R8の時点で噴射率がゼロになり実際の噴射が終了したことに伴い、検出圧力の上昇は変化点P8にて停止する。なお、変化点P7から変化点P8までの上昇量はP5からP6までの上昇量に比べて大きい。P8以降の検出圧力は、一定の周期T7(図6参照)で下降と上昇を繰り返しながら減衰する。
【0083】
以上により、燃圧センサ20aによる検出圧力の変動のうち変化点P3,P4,P7及びP8を検出することで、噴射率の上昇開始時点R3(実噴射開始時点)、最大噴射率到達時点R4、噴射率下降開始時点R7及び下降終了時点R8(実噴射終了時点)等を推定することができる。また、以下に説明する検出圧力の変動と噴射率の変化との相関関係に基づき、検出圧力の変動から噴射率の変化を推定できる。
【0084】
つまり、検出圧力の変化点P3からP4までの圧力下降率Pαと、噴射率の変化点R3からR4までの噴射率上昇率Rαとは相関がある。変化点P7からP8までの圧力上昇率Pγと変化点R7からR8までの噴射率下降率Rγとは相関がある。変化点P3からP4までの圧力下降量Pβ(最大落込量)と変化点R3からR4までの噴射率上昇量Rβとは相関がある。よって、燃圧センサ20aによる検出圧力の変動から圧力下降率Pα、圧力上量率Pγ及び圧力下降量Pβを検出することで、噴射率上昇率Rα、噴射率下降率Rγ及び噴射率上昇量Rβを推定することができる。以上の如く噴射率の各種状態R3,R4,R7,R8,Rα,Rβ,Rγを推定することができ、よって、図5(b)に示す燃料噴射率の変化(推移波形)を推定することができる。
【0085】
さらに、実噴射開始から終了までの噴射率の積分値(斜線を付した符号Sに示す部分の面積)は噴射量に相当する。そして、検出圧力の変動波形のうち実噴射開始から終了までの噴射率変化に対応する部分(変化点P3〜P8の部分)の圧力の積分値と噴射率の積分値Sとは相関がある。よって、燃圧センサ20aによる検出圧力の変動から圧力積分値を算出することで、噴射量Qに相当する噴射率積分値Sを推定することができる。以上により、燃圧センサ20aは、インジェクタ20に供給される燃料の圧力を噴射量に関連する物理量として検出する噴射量センサとして機能していると言える。
【0086】
図4の説明に戻り、先述のステップS21に続くステップS22において、ステップS21で取得した変動波形から変化点P3,P8の出現時期等を検出する。具体的には、変動波形の1階微分値を演算し、噴射指令のパルスオン時期Is以降、前記微分値が最初に閾値を超えたことをもってして変化点P3の出現を検出するようにして好適である。また、変化点P3の出現以降、前記微分値が閾値内で変動する安定状態となった場合に、その安定状態以前において前記微分値が最後に閾値を下回ったことをもってして変化点P8の出現を検出するようにして好適である。
【0087】
続くステップS23では、ステップS21で取得した変動波形から圧力下降量Pβを検出する。具体的には、変動波形の変化点P3からP8までにおける検出圧力のピーク値から、変化点P3時点の検出圧力を減算することにより圧力下降量Pβを検出することが挙げられる。
【0088】
続くステップS24では、ステップS22での検出結果P3,P4に基づき噴射率の上昇開始時点R1(実噴射開始時点)及び下降終了時点R8(実噴射終了時点)を推定する。また、ステップS23での検出結果Pβに基づき噴射率上昇量Rβを推定する。そして、少なくともこれらの推定値R3,R8,Rβに基づき、図5(b)に示すような噴射率の推移波形を算出する。なお、これらの推定値R3,R8,Rβの他にも、先述の如くR4,R7,Rα,Rγ等の値を推定し、これらの推定値R4,R7,Rα,Rγを噴射率推移波形の算出に用いるようにしてもよい。
【0089】
続くステップS25では、ステップS24にて算出した噴射率推移波形をR3からR8の区間にて積分演算することにより面積Sを算出する。そして、当該面積Sを噴射量として推定する。以上により、図4の一連の処理が終了し、ステップS25にて推定された燃料噴射量及びステップS24にて推定された噴射率推移波形は、図3のステップS11で用いる先述の噴射制御用マップの更新(学習)等に用いられる。
【0090】
ところで、図6は、図5と同様にして噴射孔20fを1回開閉させた場合の各種変化の一例であり、噴射終了に伴い変化点P8が出現した後における、燃圧センサ20aの出力値(検出圧力)の変化を示すタイミングチャートである。また、図7〜図10において、(a)はインジェクタ20に対する指令信号(駆動電流)を示すタイミングチャート、(b)は、その指令信号に基づく検出圧力の変動波形を示すタイミングチャートである。
【0091】
ここで、1燃焼サイクルあたりに複数回燃料を噴射させる多段噴射制御を実行する場合には次の点に留意する必要がある。すなわち、前記変動波形のうち1回目噴射以降のn回目噴射に対応する部分の変動パターンには、n回目より前のm回目噴射(本実施形態では1回目噴射)に伴い生じる変動波形のうち噴射終了後に対応する部分(図6中の一点鎖線Peに示す部分)の変動パターンが重畳(干渉)する。以下、前記変動パターンを噴射後変動パターンPeと呼ぶ。
【0092】
より具体的に説明すると、図7に示されるように1燃焼サイクルあたりに2回噴射を行った場合では、図7(a)中に実線L2aにて示す通電パルスに対して、図7(b)に実線L2bにて示す変動波形となっている。すなわち、図中に示す2つの噴射のうち、後段側の噴射(後段噴射)の噴射開始タイミング近傍においては、この後段噴射のみに起因した変動パターンと前段側の噴射(前段噴射)の変動パターンとが互いに干渉してしまっており、後段噴射のみに起因した変動パターンを認識することは困難である。
【0093】
図8に示されるように、前段噴射のみを行った場合では、図8(a)中に実線L1aにて示す通電パルスに対して、図8(b)に実線L1bにて示す変動波形(m回目噴射波形成分)となっている。図9は、図7の変動波形(実線L2a,L2b)と図8の変動波形(破線L1a,L1b)とを重ねて示したものである。そして、図7の変動波形L2bから図8の変動波形L1bを減算(対応箇所をそれぞれ減算)して差し引けば、図10に示すように後段噴射のみに起因した変動パターン(実線L2c)を抽出することができる。
【0094】
したがって、図4のステップS21にて先述の如く燃圧センサ20aの出力値(検出圧力)を取り込むにあたり、図7(b)に示す変動波形L2bをそのまま取り込むのではなく、変動波形L2bから変動波形L1bを差し引いて抽出した変動パターンL2cを取り込む。
【0095】
次に、このように差し引くことに用いる変動波形L1bを取得する手法について説明する。
【0096】
m回目噴射波形成分を数式で表したモデル式が、データ保存用メモリ(例えばEEPROM)等の記憶手段に予め記憶されている。そして、このモデル式により表されるモデル波形を前記変動波形L1bとして取得している。本実施形態では、複数の減衰振動方程式を重ね合わせた以下の数式1を上記モデル式として採用している。
【0097】
【数1】
【0098】
数式1中のpはモデル式により表されるモデル波形の値(燃圧センサ20aによる検出圧力推定値)を示す。ここで、図8に示す如く単段噴射を行った場合又は他の噴射による波形成分が干渉していない場合において、燃圧センサ20aにて検出された実際の波形を「検出波形」と呼ぶことにする。そして、数式1中のp0は検出波形に対するモデル波形のオフセットずれ量を示す。数式1中のnは減衰振動方程式を重ね合わせた数を示す。数式1中のA,k,ω,θは、減衰振動における振幅、減衰係数、周波数、位相をそれぞれ示す。
【0099】
つまり、数式1に示すモデル式は、p0,n,A,k,ω,θのパラメータを決定することで、モデル波形の値pを出力することができる。よって、例えばn=4とした場合においては、4個のパラメータA,k,ω,θから決定される減衰振動方程式を4つ重ね合せることとなるので、16個のパラメータA,k,ω,θ及び1つのパラメータp0(合計17個のパラメータ)を決定することでpの値を取得することができる。
【0100】
なお、数式1のモデル式によるモデル波形は、当然のことながら連続した波形となっており、離散的に変化する箇所は存在しない。そして、単調増加と単調減少を繰り返しながら減衰する減衰波形となっている。
【0101】
図11は、重ね合わせる個々の減衰振動方程式の具体例を説明する図であり、噴射孔20fにて燃料噴射に伴い生じた燃圧脈動は、噴射孔20fから燃圧センサ20aに伝播する経路中にてインジェクタ20内部にて減衰する(図11(a)中の符号(1)参照)。このようにインジェクタ20内部で生じる減衰振動を、図11(b)中の波形成分(1)は表している。
【0102】
噴射孔20fにて燃料噴射に伴い生じた燃圧脈動は、インジェクタ20及び高圧配管14を経由してオリフィス12aに達し、その後オリフィス12aにて反射して燃圧センサ20aまで伝播する(図11(a)中の符号(2)参照)。このようにオリフィス12aから燃圧センサ20aへ伝播した減衰振動を、図11(b)中の波形成分(2)は表している。
【0103】
他のインジェクタ20(#3)の噴射孔20fにて燃料噴射に伴い生じた燃圧脈動は、コモンレール12を経由してインジェクタ20(#2)の燃圧センサ20aまで伝播する(図11(a)中の符号(3)参照)。このように燃圧センサ20aまで伝播した減衰振動を、図11(b)中の波形成分(3)は表している。
【0104】
以上に例示される複数の波形成分(1)(2)(3)の減衰振動方程式を組み合わせて、数式1のモデル式は構成されており、これにより、モデル式によるモデル波形が図11(b)の最上段に示す波形となる。なお、図12中の実線は、燃圧センサ20aにて検出された実際の検出波形を示し、一点鎖線及び点線はモデル波形を示す。このように検出波形とモデル波形とのずれをゼロにするように、つまり、モデル波形の実検出波形に対する近似度を高めるよう、モデル式に含まれる先述した各種パラメータp0,A,k,ω,θを学習させている。
【0105】
以下、本実施形態の要部であるパラメータp0,A,k,ω,θの学習手順について、図13及び図14を用いて説明する。なお、図14では2つのパラメータA,ωの変化についてのみ図示し、他のパラメータp0,k,θの変化については図示を省略しているが、他のパラメータp0,k,θもA,ωと同様に変化するものである。
【0106】
図13に示す一連の学習処理は、所定周期(例えば先述のCPUが行う演算周期)又は所定のクランク角度毎に、ECU30のマイコンにより実行される。まずステップS51で、燃料噴射を停止させてエンジン回転速度NEが減速している期間、つまり無噴射減速運転期間中に、微小量の燃料を1燃焼サイクル中に1回だけ噴射する単段微小噴射を実施する。そして、当該単段微小噴射に伴い生じた燃圧センサ20aの検出波形を、学習規範値として取得する。
【0107】
続くステップS52(パラメータ変更手段)では、パラメータp0,A,k,ω,θを微小区間で増大側及び減少側に変更する。図14(a)の例では、符号1の位置に対応するA,ωの値を基準値とした場合に、その基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれにA,ωの値を変更する。つまり、パラメータAについては符号q,rの位置に対応する値に変更し、パラメータωについては符号s,tの位置に対応する値に変更する。
【0108】
続くステップS53(近似度算出手段)では、モデル波形の実検出波形に対する近似度を、変更の組み合わせ毎に算出する。近似度を算出するにあたり本実施形態では最小二乗法を採用しており、例えば図12中の一点鎖線に示すモデル波形の検出波形に対する近似度は、所定時間毎のモデル波形の値と検出波形の値との距離ΔL(ずれ量)を算出し、これらの距離ΔLの総和として定義されている。よって、前記総和Σxの値が小さいほど近似度が高いと言える。
【0109】
続くステップS54(判定手段)では、基準値M(図14(a)での基準値は符号1に対応するA,ωの値)における近似度ΣMが、変更後の各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かを判定する。
【0110】
Σq,Σr,Σs,Σtの少なくとも1つがΣMよりも近似していると判定され、更新終了条件を満たしていないと判定された場合(S54:NO)には、続くステップS56(基準値更新手段)において、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのうち最小値となっているときの変更の組み合わせを、前記基準値として更新する。
【0111】
図14(a)では、Σrが最小となっている場合を例示しており、符号rの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新される。なお、図14(b)中の符号2は、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を示す。
【0112】
このように更新が為されると、処理はステップS52に戻り、パラメータ変更手段S52による前記変更、近似度算出手段S53による前記算出、及び判定手段S54による前記判定が繰り返し実行される。したがって、図14の例では、符号1から符号2の位置に対応する値に基準値が変更された後、図14(c)に示す如く符号2に対応する基準値に対して、符号q,r,s,tの位置に対応する値に変更され、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtが算出され、近似度Σ1と、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtとの比較に基づき更新終了条件を満たしているか否かが判定される。
【0113】
図14(c)の例では、符号tの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新され、図14(d)では、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を符号3で表している。また、続く図14(e)では、符号rの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新され、このように更新を繰り返した結果、図14(f)に示すように符号9を基準値とした場合に、Σ9<(Σq,Σr,Σs,Σt)となり更新終了条件を満たしている。
【0114】
そして、更新終了条件を満たしていると判定された場合(S54:YES)には、ステップS55(学習値決定手段)において、現在の基準値(図14(f)の例では符号9の位置に対応するA,ωの値の組み合わせ)を、パラメータA,ωの学習値として決定し、マップ中に記憶されているパラメータA,ωの値を基準値とするよう補正して学習させる。
【0115】
なお、上述の如く更新される基準値の初期値は、例えば存在領域の中央値を用いてもよいし、適合により設定された値を用いてもよい。また、検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、パラメータp0,A,k,ω,θの値が存在し得る存在範囲(図14(a)中の矢印参照)を予め設定しておき、ステップS52において変更するパラメータの変更範囲を、前記存在範囲に制限している。すなわち、基準値が存在範囲の境界に位置する場合には、パラメータ変更手段S52により基準値を変更するにあたり、その境界を超えて変更することを禁止する。
【0116】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0117】
(1)図13に示すパラメータ変更手段S52、近似度算出手段S53、判定手段S54、基準値更新手段S56、及び学習値決定手段S55の作用によれば、例えば図14に示す2つのパラメータA,ωそれぞれ10個ずつの値の組み合わせ、つまり102=100回全てについて近似度を演算することを不要にできる。
【0118】
具体的には、図14の例では、近似度を算出する回数は、符号1に対するq,r,s,t、符号2に対するq,r,s,t・・・符号9に対するq,r,s,t、つまり4×9=36回となる。ちなみに、図14の例でパラメータの数を17個とした場合には、近似度を算出する回数は最悪でも5780回となり、全ての組み合わせについて演算した場合の回数1017=10京回に比べて、演算処理量を大幅に減少できる。
【0119】
したがって、複数のパラメータp0,A,k,ω,θの全てについて存在領域全ての値をモデル式に代入して算出する場合に比べて、演算処理量の減少を図ることができる。
【0120】
(2)検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、パラメータp0,A,k,ω,θの値が存在し得る存在範囲(図14(a)中の矢印参照)を予め設定しておき、ステップS52において変更するパラメータの変更範囲を、前記存在範囲に制限している。よって、算出した近似度の値が発散してしまう等の演算処理上の不具合を回避できる。
【0121】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、ステップS56にて更新される基準値の初期値として、存在領域の中央値等、予め設定された値を用いている。これに対し本実施形態では、後に詳述する初期値設定手段(図15のステップS511参照)を備え、これにより近似度が高くなるような初期値に設定している。また、上記第1実施形態では、ステップS54にて更新終了条件を満たしている場合にはその時の基準値をパラメータの学習値として決定している。これに対し本実施形態では、後に詳述する学習値検証手段(図15のステップS541,S542,S543参照)を備え、これにより更新終了条件を満たした時の基準値が学習値として妥当か否かを検証している。
【0122】
図15は、本実施形態によるパラメータp0,A,k,ω,θの学習手順を示すフローチャートであり、図13と同じ処理を実行する部分には、図中同一符号を付してその説明を援用する。
【0123】
先ず、ステップS51において、学習規範値としての検出波形を取得する。続くステップS511(初期値設定手段)では、存在範囲を複数の領域に分割し(図16(a)中のA1,A2,ω1,ω2参照)、複数の領域毎に設定された各々の代表値(例えば分割領域中の中央値M1,M2,M3,M4)の各々に対して近似度ΣM1,ΣM2,ΣM3,ΣM4を算出する。そして、これらの近似度ΣM1,ΣM2,ΣM3,ΣM4を比較し、最も近似度の高い代表値を基準値の初期値として設定する。図16の例では、近似度ΣM1が最小であることから代表値M1を初期値として設定している。
【0124】
続くステップS52では、パラメータp0,A,k,ω,θを微小区間で増大側及び減少側に変更し、続くステップS53では、変更の組み合わせ毎に近似度を算出し、続くステップS54では、基準値M1(図16(a)での基準値は符号M1に対応するA,ωの値)における近似度ΣM1が、変更後の各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かを判定する。
【0125】
更新終了条件を満たしていないと判定された場合(S54:NO)には、続くステップS56において、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのうち最小値となっているときの変更の組み合わせを、前記基準値として更新する。図16(b)では、Σrが最小となっている場合を例示しており、符号rの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新される。なお、図16(c)中の符号2は、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を示す。
【0126】
このように更新が為されると、処理はステップS52に戻り、パラメータ変更手段S52による前記変更、近似度算出手段S53による前記算出、及び判定手段S54による前記判定が繰り返し実行される。図16の例では、符号M1から符号2,3,4,5,6の位置に対応する値に基準値が順に更新されており、図16(d)に示すように符号6を基準値とした場合に、Σ6<(Σq,Σr,Σs,Σt)となり更新終了条件を満たしている。
【0127】
そして、更新終了条件を満たしていると判定された場合(S54:YES)には、ステップS541(大変更手段)において、パラメータ変更手段S52で行われる変更の大きさよりも大きく基準値を変更(大変更)する。図17は、学習値検証手段S541,S542,S543を実行した場合における基準値の更新状態を示す一態様であり、例えば図17(a)に示す如く符号1から符号2,3,4,5,6,7,8の位置に対応する値に基準値が順に更新され、符号8の位置で更新終了条件を満たしていた場合において、大変更手段S541により符号u1〜u6のそれぞれの位置に対応する値にパラメータp0,A,k,ω,θは大変更される。図17の例ではパラメータA,ωの存在範囲をN分割(N=10)した大きさをステップS52における微小区間とし、ステップS541ではその微小区間よりも大きく変更させている。
【0128】
続くステップS542(近似度算出手段)では、モデル波形の実検出波形に対する近似度を、大変更の組み合わせ毎に算出する。続くステップS543(判定手段)では、基準値M(図17(b)での基準値は符号8に対応するA,ωの値)における近似度Σ8が、大変更後の各々の近似度Σu1〜Σu6のいずれよりも高いとの学習許可条件を満たしているか否かを判定する。
【0129】
Σu1〜Σu6の少なくとも1つがΣ8よりも近似していると判定され、学習許可条件を満たしていないと判定された場合(S543:NO)には、続くステップS544(基準値更新手段)において、各々の近似度Σu1〜Σu6のうち最小値となっているときの変更の組み合わせを、前記基準値として更新する。
【0130】
図17(b)では、Σu6が最小となっている場合を例示しており、符号u6の位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新される。このように更新が為されると、処理はステップS52に戻り、パラメータ変更手段S52による前記変更、近似度算出手段S53による前記算出、及び判定手段S54による前記判定が繰り返し実行される。
【0131】
したがって、図17の例では、符号1から符号8の位置に対応する値に基準値が順次変更された後、符号8に対応する基準値に対して更新終了条件を満たし、その後u6の位置に大変更、更新されている。そして、図17(c)に示す如く符号u6に対応する基準値に対して、符号q,r,s,tの位置に対応する値に変更され、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtが算出され、近似度Σu6と、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtとの比較に基づき更新終了条件を満たしているか否かが判定されている。図17(c)の例では、符号u6から符号tの位置に対応する値に基準値が更新されており、図17(d)に示すように符号9を基準値とした場合に、Σ9<(Σq,Σr,Σs,Σt)となり更新終了条件を満たしている。
【0132】
一方、ステップS543にて学習許可条件を満たしていると判定された場合(S543:YES)には、続くステップS55(学習値決定手段)において、現在の基準値(図17(d)の例では符号9の位置に対応するA,ωの値の組み合わせ)を、パラメータA,ωの学習値として決定し、マップ中に記憶されているパラメータA,ωの値を基準値とするよう補正して学習させる。
【0133】
このようにして、更新終了条件を満たしている場合であっても、基準値を大変更させて学習許可条件を満たしているか否かを判定し、学習許可条件を満たしていなければ(S543:NO)、大変更前の基準値を学習値として決定することを禁止する。そして、前記禁止を行った場合には、大変更後のパラメータの値(図17の例では符号u6の位置に対応するA,ωの値の組み合わせ)を基準値として再度更新する。
【0134】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0135】
(1)更新終了条件を満たしている場合(S54:YES)であっても、基準値を大変更させて学習許可条件を満たしていなければ(S543:NO)、大変更前の基準値を学習値として決定することを禁止する。そのため、先述した図18に例示される如く、パラメータωの値がω8にて更新終了条件を満たしている場合であっても、パラメータωの値をω8からωu4まで大変更し、近似度Σu4が近似度Σω8より高い場合にはω8を学習値として決定することが禁止される。よって、図18に示すようにω=ωu4,ωu5,ωu6の近似度Σu4,Σu5,Σu6の方がΣ8よりも近似度が高い場合において、符号8の位置に対応するA,ωの値の組み合わせを学習値として学習してしまうことによる学習精度低下を回避できる。
【0136】
(2)前記禁止を行った場合には、大変更後のパラメータの値(図17の例ではu6、図18の例ではωu4)を基準値として更新するので、その後、図18の例ではωu5,ωu6と順に変更、更新され、より近似度が高くなるようパラメータの値が学習されるので、学習精度を向上できる。
【0137】
(第3実施形態)
上記第2実施形態では、大変更前の符号8に対応する基準値における近似度Σ8が、大変更後の各々の近似度Σu1〜Σu6のいずれよりも高いか否かに基づき、学習許可条件を満たしているか否かを判定し、学習を禁止するか否かを判定している。これに対し本実施形態では、ステップS541と同様にして大変更(第1変更)させた後、大変更前の基準値に対してさらに大きく変更(第2変更)させる。つまり、図18の例では、基準値ω8からωu4に第1変更してωu4における近似度Σu4を算出するとともに、基準値ω8からωu5に第2変更してωu5における近似度Σu5を算出する。そして、Σu5の近似度がΣu4より高い(つまりΣu5<Σu4)場合には学習を禁止する。すなわち、Σu5≧Σu4であることを学習許可条件としている。
【0138】
ここで、図18の例において、仮にΣω8の方がΣu4より近似度が高かったとしても、ω8からωu4への変更よりもさらに大きくω8からωu5へ変更した場合において、Σu4よりもΣu5の方が近似度が高くなっていれば、Σω8よりも高い近似度となるパラメータωが見つかる可能性があると言える。
【0139】
この点を鑑みた本実施形態では、基準値から大きく離れた領域において、基準値から離れるほど近似度が高くなる領域の有無を学習許可条件として判定するので、高い近似度となるパラメータωの値を見つける確実性を高めることができ、ひいては学習精度の低下を回避できる。そして、前記禁止を行った場合には、第2変更後のパラメータの値を基準値として更新するので、その後u6へと変更、更新され、より近似度が高くなるようパラメータの値が学習されるので、学習精度をより一層向上できる。
【0140】
(他の実施形態)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。また、本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0141】
・上記第1実施形態のパラメータ変更手段S52では、増大側及び減少側へ変更するにあたりその変更量を一定の値としている。これに対し、基準値更新手段S56による更新の回数が多くなるほど、前記変更量を小さくするようにしてもよい。これによれば、更新終了条件を満たすに至るまで基準値を初期値から更新していくにあたり、更新の初期段階から終了段階まで変更量を一律に小さくする場合に比べて更新回数を少なくできる。また、更新の初期段階から終了段階まで変更量を一律に大きくする場合に比べて、更新終了条件を満たした時点における基準値の近似度を高めることができ、学習精度を向上できる。つまり、更新回数の減少と学習精度向上との両立を図ることができる。
【0142】
例えば、上記第1実施形態のパラメータ変更手段S52では、パラメータの存在範囲をN分割(図14の例では10分割)して得られる大きさで、増大側及び減少側への変更を実施している。これに対し、基準値更新手段S56による更新の回数が多くなるほど、前記N分割数を多くするようにすれば、上述の如く変更量を可変設定できる。
【0143】
・上記第1実施形態では、ステップS51において、無噴射減速運転期間中に単段微小噴射を実施し、その時の検出波形を学習規範値として取得しているが、要するに、図8に示す如く他の噴射による燃圧変動があまり干渉していない状態の燃圧波形を取得できれば、その状態の部分の検出波形を学習規範値としてもよい。したがって、例えば図7に示す如く複数の噴射が重畳している波形であっても、そのうちの重畳度合いの低い部分を抽出して学習規範値とするようにしてもよい。
【0144】
・パラメータp0,A,k,ω,θを学習させるにあたり、エンジンの運転状態毎にその状態に応じて学習させれば、運転状態に応じた最適なモデル式にすることができるので、モデル式の近似度を向上できる。なお、上記運転状態の具体例としては、エンジン回転速度NE、内燃機関の負荷(例えば燃料の指令噴射量や運転者によるアクセル操作量等)、燃料温度、コモンレール12内の燃料圧力、燃料ポンプ11からコモンレール12への燃料供給量等が挙げられる。
【0145】
・図16に示す如くパラメータの存在範囲を複数の領域に分割した場合において、その分割領域毎に、パラメータ変更手段S52による前記変更、近似度算出手段S53による前記算出、判定手段S54による前記判定、基準値更新手段S56による前記更新、及び学習値決定手段S55による前記決定を実行し、各々の領域で決定された学習値のうち最も近似度が高くなるパラメータ値の組み合わせを最終的な学習値として決定するようにしてもよい。
【0146】
・上記各実施形態では、パラメータ変更手段S52によりパラメータp0,A,k,ω,θを微小区間で増大側及び減少側に微小区間の大きさで変更するにあたり、各パラメータp0,A,k,ω,θの存在範囲をN分割して得られた大きさを前記微小区間としている。ここで、各パラメータp0,A,k,ω,θにおける分割数Nを同じとしてもよいし、パラメータp0,A,k,ω,θ毎に異なる分割数Nとなるように微小区間を設定してもよい。
【0147】
・燃圧センサ20aをインジェクタ20に取り付けるにあたり、上記実施形態では、インジェクタ20の燃料流入口22に燃圧センサ20aを取り付けているが、図2中の一点鎖線200aに示すようにハウジング20eの内部に燃圧センサ200aを組み付けて、燃料流入口22から噴射孔20fに至るまでの内部燃料通路25の燃料圧力を検出するように構成してもよい。
【0148】
そして、上述の如く燃料流入口22に取り付ける場合には、ハウジング20eの内部に取り付ける場合に比べて燃圧センサ20aの取付構造を簡素にできる。一方、ハウジング20eの内部に取り付ける場合には、燃料流入口22に取り付ける場合に比べて燃圧センサ20aの取り付け位置が噴射孔20fに近い位置となるので、噴射孔20fでの圧力変動をより的確に検出することができる。
【0149】
・コモンレール12と高圧配管14との間に、コモンレール12から高圧配管14に流れる燃料の流量を制限する流量制限手段を備えてもよい。この流量制限手段は、高圧配管14やインジェクタ20等の損傷による燃料漏れにより過剰な燃料流出が発生した時に、流路を閉塞するよう機能するものであり、例えば過剰流量時に流路を閉塞するように作動するボール等の弁体により構成することが具体例として挙げられる。なお、オリフィス12a(燃料脈動軽減手段)と流量制限手段とを一体に構成したフローダンパを採用してもよい。
【0150】
・また、燃圧センサ20aをオリフィス及び流量制限手段の燃料流れ下流側に配置する構成の他に、オリフィス及び流量制限手段の少なくとも一方に対して下流側に配置するよう構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の第1実施形態に係る学習装置が適用された、燃料系システムの概略を示す構成図。
【図2】図1の燃料噴射弁の内部構造を模式的に示す内部側面図。
【図3】図1のシステムに係る燃料噴射制御処理の基本的な手順を示すフローチャート。
【図4】図1の燃圧センサの検出圧力に基づく燃料噴射量推定の処理手順を示すフローチャート。
【図5】図1の燃圧センサによる検出圧力の変動波形と噴射率推移波形との関係を示す、単段噴射実行時におけるタイミングチャート。
【図6】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図7】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図8】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図9】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャートであり、実線は図7の波形、点線は図8の波形を示す。
【図10】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャートであり、図7の波形から図8の波形を差し引いて得られた波形を示す図。
【図11】図8に示す波形を表したモデル式を複数の減衰振動方程式を重ね合わせた導出するにあたり、それら複数の減衰振動方程式を説明するための模式図。
【図12】モデル波形と検出波形とのずれ量を示すとともに、近似度を算出するための最小二乗法の考え方を説明するための図。
【図13】モデル式に含まれる複数のパラメータp0,A,k,ω,θを学習させるための手順を示すフローチャート。
【図14】図13におけるパラメータ変更手段及び基準値更新手段を説明する図。
【図15】本発明の第2実施形態において、モデル式に含まれる複数のパラメータp0,A,k,ω,θを学習させるための手順を示すフローチャート。
【図16】第2実施形態において、モデル式に含まれる複数のパラメータp0,A,k,ω,θを学習させるための手順を説明する図。
【図17】本発明の第3実施形態において、モデル式に含まれる複数のパラメータp0,A,k,ω,θを学習させるための手順を説明する図。
【図18】上記第3実施形態の作用を説明する図であり、1つのパラメータωについての変化と近似度との関係を例示する図。
【符号の説明】
【0152】
12…コモンレール(蓄圧容器)、20…インジェクタ(燃料噴射弁)、20a,200a…燃圧センサ、20f…噴射孔、30…ECU(学習装置、記憶手段)、S52…パラメータ変更手段、S53…近似度算出手段、S54…判定手段、S55…学習値決定手段、S56…基準値更新手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの検出波形を数式で表したモデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習する学習装置、及びその学習装置を備えた燃料噴射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力トルク及びエミッション状態を精度良く制御するには、燃料噴射弁から噴射される燃料の噴射量及び噴射開始時期等、その噴射形態を精度良く制御することが重要である。そこで従来より、噴射に伴い変動する燃料の圧力を検出することで、実際の噴射形態を検出する技術が提案されている。
【0003】
例えば、噴射に伴い燃圧が下降を開始した時期を検出することで実際の噴射開始時期を検出したり、噴射に伴い生じた燃圧の下降量を検出することで実際の噴射量を検出することを図っている。このように実際の噴射形態を検出できれば、その検出値に基づき噴射形態を精度良く制御することができる。
【0004】
このような燃圧の変動を検出するにあたり、コモンレール(蓄圧容器)に直接設置された燃圧センサ(レール圧センサ)では、噴射に伴い生じた燃圧変動がコモンレール内で緩衝されてしまうため、正確な燃圧変動を検出することができない。そこで特許文献1記載の発明では、燃圧センサを、コモンレールから燃料噴射弁に燃料を供給する高圧配管のうちコモンレールとの接続部分に設置することで、噴射に伴い生じた燃圧変動がコモンレール内で緩衝する前に、その燃圧変動を検出することを図っている。
【特許文献1】特開2000−265892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施する場合には次の点に留意する必要がある。すなわち、燃圧センサにより検出される波形のうちn回目噴射に対応する部分の検出波形(図7(b)参照)には、n回目より前のm回目噴射(図7の例ではm=n−1)に起因して生じる波形成分(図8(b)参照)が重畳している。
【0006】
そこで本発明者は、燃圧センサにより検出された波形からm回目噴射に起因して生じる波形成分を差し引くことで、n回目噴射に起因した波形成分を抽出し、その抽出した波形成分に基づき実際の噴射形態を検出することを検討した。具体的には、m回目噴射波形成分を数式で表したモデル式を予め記憶させておき、モデル式により表されるモデル波形を燃圧センサによる検出波形から差し引く。
【0007】
さらに本発明者は、モデル波形を実波形に近づけるよう、モデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習することを検討した。具体的には、パラメータの存在領域全ての値をモデル式に順次代入していき、モデル波形が実波形に最も近くなるようなパラメータ値の組み合わせを算出する。そして、このように算出した各々のパラメータ値を学習値として記憶更新させる。
【0008】
しかしながら、このように複数のパラメータの全てについて存在領域全ての値をモデル式に代入して算出しようとすると、そのパラメータの組み合わせ数は膨大となるため、前記算出に要する演算処理量が膨大となる。例えばパラメータの数が17個で1つのパラメータにつき10通りの値を演算する場合には、1017=10京回の演算を要する。
【0009】
なお、このような演算処理量膨大化の課題は、燃料圧力の変化を検出する燃圧センサを背景としたものに限らず、物理量変化を検出するセンサ全てについて同様に生じるものである。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、演算処理量の減少を図った学習装置及び燃料噴射システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0012】
請求項1記載の発明は、
物理量変化を検出するセンサの検出波形について、その検出波形を数式で表したモデル式が記憶された記憶手段を備え、前記モデル式により表されるモデル波形の実検出波形に対する近似度を高めるよう、前記モデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習する学習装置において、
前記複数のパラメータを、そのパラメータ毎に設定された基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれに変更するパラメータ変更手段と、
前記複数のパラメータについて前記変更の組み合わせ毎に前記近似度を算出する近似度算出手段と、
前記複数のパラメータを前記基準値とした場合における前記近似度が、前記パラメータを前記変更した値とした場合における各々の前記近似度のいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かを判定する判定手段と、
前記更新終了条件を満たしていない場合に、前記変更した値に対応する各々の前記近似度のうち最も近似度が高くなっているときの前記変更の組み合わせを、前記基準値として更新する基準値更新手段と、
前記更新終了条件を満たしている場合に、各々の前記基準値を前記複数のパラメータの学習値として決定する学習値決定手段と、
を備え、
前記基準値更新手段により更新される毎に、前記パラメータ変更手段による前記変更、前記近似度算出手段による前記算出、及び前記判定手段による前記判定を繰り返し実行することを特徴とする学習装置である。
【0013】
これによれば、「複数のパラメータの全てについて存在領域全ての値をモデル式に代入して算出する場合に比べて、演算処理量の減少を図ることができる。」その理由を、図14に示す場合を一例として以下に説明する。図14の例では、パラメータがA,ωの2つであり、各々のパラメータA,ωの存在領域を10個の領域に分割している。したがってこの場合、従来の学習装置では102=100回の演算を要することとなる。
【0014】
これに対し上記請求項1記載の発明によれば、以下の如く演算されることとなる。すなわち、例えば符号1の位置に対応するA,ωの値を基準値とした場合に、その基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれにA,ωの値が変更される(パラメータ変更手段による作用)。つまり、パラメータAについては符号q,rの位置に対応する値に変更され、パラメータωについては符号s,tの位置に対応する値に変更される。
【0015】
次に、モデル波形の実検出波形に対する近似度が、変更の組み合わせ毎に算出される(近似度算出手段による作用)。つまり、符号qの位置に対応するA,ωの値がモデル式に代入されてその場合の近似度が算出され、符号r,s,tについても同様にして各々の近似度が算出される。以下、符号xにおける近似度をΣxと記載する。
【0016】
次に、基準値(符号1に対応するA,ωの値)における近似度Σ1が、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かが判定される(判定手段による作用)。
【0017】
次に、更新終了条件を満たしていない場合に、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのうち最も近似度が高くなっているときの変更の組み合わせが、前記基準値として更新される(基準値更新手段による作用)。図14(a)では、Σrの近似度が最も高くなっている場合を例示しており、符号rの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新される。なお、図14(b)中の符号2は、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を示す。
【0018】
このように更新が為されると、前記パラメータ変更手段による前記変更、前記近似度算出手段による前記算出、及び前記判定手段による前記判定が繰り返し実行される。したがって、図14の例では、符号1から符号2の位置に対応する値に基準値が変更された後、図14(c)に示す如く符号2に対応する基準値に対して、符号q,r,s,tの位置に対応する値に変更され、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtが算出され、近似度Σ1と、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtとの比較に基づき更新終了条件を満たしているか否かが判定される。図14(c)の例では、符号tの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新され、図14(d)では、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を符号3で表している。
【0019】
そして、更新終了条件を満たしている場合には、その時の基準値をパラメータA,ωの学習値として決定する(学習値決定手段による作用)。図14(f)の例では、符号1〜9まで基準値を順に更新していき、近似度Σ9と、符号9に対して変更した符号q,r,s,tの位置に対応する値の近似度Σq,Σr,Σs,Σtとを比較した結果、Σ9の近似度が最も高いため更新を終了し、符号9の位置に対応するA,ωの値が学習値として決定される。
【0020】
以上により、上記パラメータ変更手段、前記近似度算出手段、前記判定手段、基準値更新手段、及び学習値決定手段の作用によれば、近似度を算出するにあたり、102=100回全てについて演算することを不要にできる。具体的には、図14の例では、近似度を算出する回数は、符号1に対するq,r,s,t、符号2に対するq,r,s,t・・・符号9に対するq,r,s,t、つまり4×9=36回となる。ちなみに、図14の例でパラメータの数を17個とした場合には、近似度を算出する回数は最悪でも5780回となり、全ての組み合わせについて演算した場合の回数1017=10京回に比べて、演算処理量を大幅に減少できる。
【0021】
したがって、上記請求項1記載の発明によれば、「複数のパラメータの全てについて存在領域全ての値をモデル式に代入して算出する場合に比べて、演算処理量の減少を図ることができる。」と言うことができる。
【0022】
請求項2記載の発明では、前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、前記存在範囲を複数の領域に分割し、前記複数の領域毎に設定された各々の代表値に対して算出された前記近似度を比較し、最も近似度の高い代表値を、前記基準値更新手段による更新に先立ち設定される前記基準値の初期値とすることを特徴とする。
【0023】
これによれば、基準値の初期値を更新終了条件を満たす値に近い値にできるので、更新終了条件を満たすに至るまで基準値を初期値から更新していくにあたり、その更新回数を少なくできる。よって、近似度を算出する回数をより一層減少でき、さらなる演算処理量の減少を図ることができる。
【0024】
請求項3記載の発明では、前記パラメータ変更手段により前記変更を実施するに先立って用いられる前記複数のパラメータの初期値は、既知の物理量変化に対する前記センサの検出波形を試験により計測し、その試験結果に基づき設定されていることを特徴とする。
【0025】
これによれば、基準値の初期値を更新終了条件を満たす値に近い値にできるので、更新終了条件を満たすに至るまで基準値を初期値から更新していくにあたり、その更新回数を少なくできる。よって、近似度を算出する回数をより一層減少でき、さらなる演算処理量の減少を図ることができる。
【0026】
請求項4記載の発明では、前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、前記パラメータ変更手段は、前記存在範囲をN分割して得られる大きさで、前記増大側及び前記減少側への変更を行うことを特徴とする。
【0027】
請求項5記載の発明では、前記パラメータ変更手段は、前記基準値更新手段による更新の回数が多くなるほど、前記変更の量を小さくすることを特徴とする。
【0028】
これによれば、更新終了条件を満たすに至るまで基準値を初期値から更新していくにあたり、更新の初期段階から終了段階まで変更量を一律に小さくする場合に比べて、更新回数を少なくできる。また、更新の初期段階から終了段階まで変更量を一律に大きくする場合に比べて、更新終了条件を満たした時点における基準値の近似度を高めることができ、学習精度を向上できる。つまり、更新回数の減少と学習精度向上との両立を図ることができる。なお、上記請求項5を実施するにあたり、例えば更新の回数が多くなるほど、請求項4記載のN分割数を多くすることが具体例として挙げられる。
【0029】
請求項6記載の発明では、前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、前記パラメータ変更手段による前記変更の範囲を、前記存在範囲に制限することを特徴とする。そのため、算出した近似度の値が発散してしまう等の演算処理上の不具合を回避できる。
【0030】
ところで、図18は、1つのパラメータωについての変化と近似度との関係を例示する図であり、例えば、パラメータωの値をω5,ω6,ω7,ω8,ω9と順に変更させた場合において、近似度がΣ5,Σ6,Σ7,Σ8と順に高くなったため、パラメータωについての基準値がω5,ω6,ω7,ω8と順に更新される状況を示している。ここで、Σ9よりΣ8の方が近似度が高いため、ω8にて更新終了条件を満たすこととなるが、その場合であっても、図18に示すようにω=ωu4,ωu5,ωu6の近似度Σu4,Σu5,Σu6の方がΣ8よりも近似度が高い場合が有り得る。よって、このような場合にω8を学習値として決定しては、学習精度が低下してしまう。
【0031】
この点を鑑みた請求項7記載の発明では、前記更新終了条件を満たしている場合に、前記パラメータ変更手段で行われる変更の大きさよりも大きく前記基準値を大変更し、その大変更後のパラメータについて算出された前記近似度が、前記大変更前のパラメータについて算出された前記近似度の所定範囲よりも高い場合には、前記学習値決定手段において前記基準値を前記学習値に決定することを禁止することを特徴とする。
【0032】
そのため、例えば図18の如くω8にて更新終了条件を満たしている場合であっても、パラメータωの値をω8からωu4まで大変更し、近似度Σu4が近似度Σω8より高い場合にはω8を学習値として決定することを禁止するので、上述の如く学習精度が低下することを回避できる。
【0033】
なお、上記請求項7中に記載の「大変更後のパラメータについて算出された前記近似度(大変更後の近似度)が、前記大変更前のパラメータについて算出された前記近似度(大変更前の近似度)の所定範囲よりも高い場合」との条件は、前記所定範囲をゼロとした場合には「大変更後の近似度が大変更前の近似度よりも高い場合」という旨を意味する。また、大変更後の近似度が大変更前の近似度よりも低い場合であっても、所定範囲内であれば前記条件を満たすこととなる。
【0034】
そして、請求項8記載の如く、前記禁止を行った場合には、前記大変更後のパラメータの値を前記基準値として更新すれば、その後、u5,u6と順に変更、更新され、より近似度が高くなるようパラメータの値が学習されるので、学習精度を向上できる。
【0035】
また、図18の例では近似度Σu4がΣω8より高くなっているが、仮にΣω8の方がΣu4より近似度が高かったとしても、ω8からωu4への変更よりもさらに大きくω8からωu5へ変更した場合において、Σu4よりもΣu5の方が近似度が高くなっていれば、Σω8よりも高い近似度となるパラメータωが見つかる可能性があると言える。
【0036】
この点を鑑みた請求項9記載の発明では、前記更新終了条件を満たしている場合には、前記パラメータ変更手段で行われる変更の大きさよりも大きく前記基準値を第1変更するとともに、前記第1変更よりもさらに大きく前記基準値を第2変更し、前記第2変更後の前記近似度が、前記第1変更後の前記近似度の所定範囲よりも高い場合には、前記学習値決定手段において前記基準値を前記学習値に決定することを禁止することを特徴とする。そのため、高い近似度となるパラメータωを見つける確実性を高めることができ、ひいては学習精度の低下を回避できる。
【0037】
なお、上記請求項9中に記載の「前記第2変更後の前記近似度が、前記第1変更後の前記近似度の所定範囲よりも高い場合」との条件は、前記所定範囲をゼロとした場合には「第2変更後の近似度が第1変更後の近似度よりも高い場合」という旨を意味する。また、第2変更後の近似度が第1変更後の近似度よりも低い場合であっても、所定範囲内であれば前記条件を満たすこととなる。
【0038】
そして、請求項10記載の如く、前記禁止を行った場合には、前記第2変更後のパラメータの値を前記基準値として更新すれば、その後u6へと順に変更、更新され、より近似度が高くなるようパラメータの値が学習されるので、学習精度を向上できる。
【0039】
請求項11記載の発明では、前記モデル波形と前記実検出波形とのずれ量を波形中の複数個所で演算し、その演算により得られた複数のずれ量の総和を前記近似度とし、前記総和の値が小さいほど近似度が高いとすることを特徴とする。このように最小二乗法を用いれば、近似度を容易に演算することができ、好適である。
【0040】
請求項12記載の発明は、前記センサは、燃料を蓄圧する蓄圧容器から複数の燃料噴射弁へ燃料を分配供給するよう構成された内燃機関に搭載され、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を前記物理量変化として検出する燃圧センサであり、前記燃圧センサは、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の噴射孔に至るまでの燃料通路のうち前記蓄圧容器に対して前記噴射孔に近い側に配置されており、前記燃圧センサと上記学習装置とを備えることを特徴とする燃料噴射システムである。
【0041】
このような燃圧センサでは高精度な学習が要求されるので、演算処理量の減少を図ることができる上記学習装置を適用すれば、例えばパラメータ変更手段による変更の大きさを小さくすることで、高精度な学習を容易に実現でき、好適である。
【0042】
また、燃圧センサを用いた制御の一例として、請求項13記載の発明が挙げられる。すなわち、1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施するにあたり、前記検出波形のうちn回目噴射に対応する部分の波形から、n回目より前のm回目噴射に起因した波形成分を差し引くことで、n回目噴射に起因した波形成分を抽出する抽出手段を備え、前記抽出手段は、前記学習装置により学習されたパラメータによる前記モデル波形を、前記m回目噴射に起因した波形成分とすることを特徴とする。
【0043】
ところで、近似度が最も高くなる複数のパラメータ値の組み合わせは、内燃機関の運転状態に応じて異なってくる。そこで請求項14記載の発明では、前記学習装置は、前記内燃機関の運転状態に応じて、その運転状態毎に前記複数のパラメータの値を学習することを特徴とするので、近似度が高くなるよう学習の精度を向上できる。なお、上記運転状態の具体例としては、出力軸(クランク軸)の回転速度、内燃機関の負荷、燃料温度、蓄圧容器内の燃料圧力等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0045】
(第1実施形態)
先ず、本実施形態に係る学習装置が搭載されるエンジン(内燃機関)の概略について、簡単に説明する。本実施形態では、4輪自動車用ディーゼルエンジン(内燃機関)を対象にしており、燃焼室に直接的に高圧燃料(例えば噴射圧力「1000気圧」以上の軽油)を噴射供給(直噴供給)する方式のエンジンである。また、当該エンジンは、多気筒(例えば直列4気筒)の4ストローク、レシプロ式ディーゼルエンジン(内燃機関)を想定しており、4つのシリンダ#1〜#4について、それぞれ吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で、詳しくは例えば各シリンダ間で「180°CA」ずらしてシリンダ#1,#3,#4,#2の順に逐次実行される。
【0046】
次に、エンジンの燃料系について説明する。
【0047】
図1は、本実施形態に係るコモンレール式燃料噴射システムの構成図である。このシステムに備えられたECU30(電子制御ユニット)は、吸入調整弁11cに対する電流供給量を調整して燃料ポンプ11の燃料吐出量を所望の値に制御することで、コモンレール12(蓄圧容器)内の燃料圧力(燃圧センサ20aにて測定される時々の燃料圧力)を目標値(目標燃圧)にフィードバック制御(例えばPID制御)している。そして、その燃料圧力に基づいて、対象エンジンの所定シリンダに対する燃料噴射量、ひいては同エンジンの出力(出力軸の回転速度やトルク)を所望の大きさに制御している。
【0048】
燃料供給系を構成する諸々の装置は、燃料上流側から、燃料タンク10、燃料ポンプ11、コモンレール12、及びインジェクタ20(燃料噴射弁)の順に配設されている。燃料ポンプ11は、対象エンジンの出力によって駆動される高圧ポンプ11a及び低圧ポンプ11bを有し、低圧ポンプ11bによって上記燃料タンク10から汲み上げられた燃料を、高圧ポンプ11aにて加圧して吐出するように構成されている。そして、高圧ポンプ11aに送られる燃料圧送量、ひいては燃料ポンプ11の燃料吐出量は、燃料ポンプ11の燃料吸入側に設けられた吸入調整弁(SCV:Suction Control Valve)11cによって調量される。すなわち、この燃料ポンプ11では、吸入調整弁11cの駆動電流量(ひいては弁開度)を調整することで、同ポンプ11からの燃料吐出量を所望の値に制御する。
【0049】
低圧ポンプ11bは、例えばトロコイド式のフィードポンプとして構成されている。これに対し高圧ポンプ11aは、例えばプランジャポンプからなり、図示しない偏心カムにて所定のプランジャ(例えば3本のプランジャ)をそれぞれ軸方向に往復動させることにより加圧室に送られた燃料を逐次所定のタイミングで圧送するように構成されている。
【0050】
燃料タンク10の燃料は、燃料ポンプ11によりコモンレール12へ加圧供給(圧送)された後、高圧状態でコモンレール12に蓄えられる。その後、シリンダ毎に設けられた高圧配管14を通じて、各シリンダ#1〜#4のインジェクタ20へそれぞれ分配供給される。これらインジェクタ20(#1)〜(#4)の燃料排出口21は、それぞれ余分な燃料を燃料タンク10へ戻すための配管18とつながっている。また、コモンレール12と高圧配管14との間には、コモンレール12から高圧配管14に流れる燃料の圧力脈動を減衰させるオリフィス12a(燃料脈動軽減手段)が備えられている。
【0051】
図2に、上記インジェクタ20の詳細構造を示す。なお、上記4つのインジェクタ20(#1)〜(#4)は基本的には同様の構造(例えば図2に示す構造)となっている。いずれのインジェクタ20も、燃焼用のエンジン燃料(燃料タンク10内の燃料)を利用した油圧駆動式の燃料噴射弁であり、燃料噴射に際しての駆動動力の伝達が油圧室Cd(制御室)を介して行われる。同図2に示されるように、このインジェクタ20は、非通電時に閉弁状態となるノーマリクローズ型の燃料噴射弁として構成されている。
【0052】
インジェクタ20のハウジング20eに形成された燃料流入口22には、コモンレール12から送られてくる高圧燃料が流入し、流入した高圧燃料の一部は油圧室Cdに流入し、他は噴射孔20fに向けて流れる。油圧室Cdには制御弁23により開閉されるリーク孔24が形成されており、制御弁23によりリーク孔24が開放されると、油圧室Cdの燃料はリーク孔24から燃料排出口21を経て燃料タンク10に戻される。
【0053】
このインジェクタ20の燃料噴射に際しては、二方電磁弁を構成するソレノイド20bに対する通電状態(通電/非通電)に応じて制御弁23を作動させることで、油圧室Cdの密閉度合、ひいては同油圧室Cdの圧力(ニードル弁20cの背圧に相当)が増減される。そして、その圧力の増減により、スプリング20d(コイルばね)の伸張力に従って又は抗して、ニードル弁20cがハウジング20e内を往復動(上下)することで、噴射孔20f(必要な数だけ穿設)までの燃料供給通路25が、その中途(詳しくは往復動に基づきニードル弁20cが着座又は離座するテーパ状のシート面)で開閉される。
【0054】
ここで、ニードル弁20cの駆動制御は、オンオフ制御を通じて行われる。すなわち、ニードル弁20cの駆動部(上記二方電磁弁)には、ECU30からオンオフを指令するパルス信号(通電信号)が送られる。そして、パルスオン(又はオフ)によりニードル弁20cがリフトアップして噴射孔20fが開放され、パルスオフ(又はオン)によりリフトダウンして噴射孔20fが閉塞される。
【0055】
ちなみに、上記油圧室Cdの増圧処理は、コモンレール12からの燃料供給によって行われる。他方、油圧室Cdの減圧処理は、ソレノイド20bへの通電により制御弁23を作動させてリーク孔24を開放させることによって行われる。これにより、当該インジェクタ20と燃料タンク10とを接続する配管18(図1)を通じてその油圧室Cd内の燃料が上記燃料タンク10へ戻される。つまり、油圧室Cd内の燃料圧力を制御弁23の開閉作動により調整することで、噴射孔20fを開閉するニードル弁20cの作動が制御される。
【0056】
このように、上記インジェクタ20は、弁本体(ハウジング20e)内部での所定の往復動作に基づいて噴射孔20fまでの燃料供給通路25を開閉(開放・閉鎖)することにより当該インジェクタ20の開弁及び閉弁を行うニードル弁20cを備える。そして、非駆動状態では、定常的に付与される閉弁側への力(スプリング20dによる伸張力)でニードル弁20cが閉弁側へ変位するとともに、駆動状態では、駆動力が付与されることにより上記スプリング20dの伸張力に抗してニードル弁20cが開弁側へ変位する。そしてこの際、それら非駆動状態と駆動状態とでは、ニードル弁20cのリフト量が略対称に変化する。
【0057】
インジェクタ20には、燃料圧力を検出する燃圧センサ20a(図1も併せ参照)が取り付けられている。具体的には、ハウジング20eに形成された燃料流入口22と高圧配管14とを治具20jで連結させ、この治具20jに燃圧センサ20aを取り付けている。このようにインジェクタ20の燃料流入口22に燃圧センサ20aを取り付けることで、燃料流入口22における燃料圧力(インレット圧)の随時の検出が可能とされている。具体的には、この燃圧センサ20aの出力により、当該インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の変動波形や、燃料圧力レベル(安定圧力)、燃料噴射圧力等を検出(測定)することができる。
【0058】
燃圧センサ20aは、複数のインジェクタ20(#1)〜(#4)の各々に対して設けられている。そして、これら燃圧センサ20aの出力に基づいて、所定の噴射について、インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の変動波形を高い精度で検出することができるようになっている(詳しくは後述)。
【0059】
ECU30に搭載されるマイクロコンピュータ(マイコン)は、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM、プログラムメモリとしてのROM、データ保存用メモリとしてのEEPROM、バックアップRAM(ECU30の主電源停止後も車載バッテリ等のバックアップ電源により常時給電されているメモリ)等を備えて構成されている。そして、ROMには、当該燃料噴射制御に係るプログラムを含めたエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM)には、対象エンジンの設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
【0060】
また、ECU30は、クランク角センサ42から入力される検出信号に基づき、対象エンジンの出力軸(クランク軸41)の回転角度位置や回転速度(エンジン回転速度NE)を算出する。また、アクセルセンサ44から入力される検出信号に基づき、運転者によるアクセルペダルの操作量(踏込み量)が算出される。ECU30は、前記各種センサ42,44及び後述する各種センサの検出信号に基づいて対象エンジンの運転状態やユーザの要求を把握し、それに応じて上記吸入調整弁11cやインジェクタ20等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジンに係る各種の制御を行っている。
【0061】
次に、ECU30が実行する燃料系の制御についての概略を説明する。
【0062】
ECU30のマイコンは、時々のエンジン運転状態(例えばエンジン回転速度NE)や運転者によるアクセルペダルの操作量等に応じて燃料噴射量を算出し、所望の噴射時期に同期して、その燃料噴射量での燃料噴射を指示する噴射制御信号(噴射指令信号)を上記インジェクタ20へ出力する。当該噴射制御信号に応じた駆動量(例えば開弁時間)でインジェクタ20が作動することにより、対象エンジンの出力トルクが目標値へ制御されることになる。
【0063】
以下、図3を参照して、上記燃料系制御の基本的な処理手順について説明する。なお、この図3の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。そして、これら各図の一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行される。
【0064】
同図3に示すように、この一連の処理においては、まずステップS11で、所定のパラメータ、例えばその時のエンジン回転速度NE(クランク角センサ42による実測値)及び燃料圧力(燃圧センサ20aによる実測値)、さらには運転者によるその時のアクセル操作量(アクセルセンサ44による実測値)等を読み込む。
【0065】
続くステップS12では、上記ステップS11で読み込んだ各種パラメータに基づいて噴射パターンを設定する。例えば単段噴射の場合にはその噴射の噴射量(噴射時間)が、また多段噴射の噴射パターンの場合にはトルクに寄与する各噴射の総噴射量(総噴射時間)が、それぞれ上記出力軸(クランク軸41)に生成すべきトルク(アクセル操作量等から算出される要求トルク、いわばその時のエンジン負荷に相当)に応じて可変設定される。
【0066】
この噴射パターンは、例えば上記ROMに記憶保持された所定のマップ(噴射制御用マップ、数式でも可)及び補正係数に基づいて取得される。詳しくは、例えば予め上記所定パラメータ(ステップS11)の想定される範囲について試験により最適噴射パターン(適合値)を求め、その噴射制御用マップに書き込んでおく。
【0067】
この噴射パターンは、例えば噴射段数(1燃焼サイクル中の噴射回数)、並びにそれら各噴射の噴射時期(噴射タイミング)及び噴射時間(噴射量に相当)等のパラメータにより定められるものである。こうして、上記噴射制御用マップは、それらパラメータと最適噴射パターンとの関係を示すものとなっている。
【0068】
そして、この噴射制御用マップで取得された噴射パターンを、別途更新されている補正係数(例えばECU30内のEEPROMに記憶)に基づいて補正する(例えば「設定値=マップ上の値/補正係数」なる演算を行う)ことで、その時に噴射すべき噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応した上記インジェクタ20に対する噴射指令信号を得る。補正係数(厳密には複数種の係数のうちの所定の係数)は、別途の処理により内燃機関の運転中に逐次更新されている。
【0069】
なお、上記噴射パターンの設定(ステップS12)には、同噴射パターンの要素(上記噴射段数等)毎に別々に設けられた各マップを用いるようにしても、あるいはこれら噴射パターンの各要素を幾つか(例えば全て)まとめて作成したマップを用いるようにしてもよい。
【0070】
こうして設定された噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応する指令値(噴射指令信号)は、続くステップS13で使用される。すなわち、同ステップS13(指令信号出力手段)では、その指令値(噴射指令信号)に基づいて(詳しくは上記インジェクタ20へその噴射指令信号を出力して)、同インジェクタ20の駆動を制御する。そして、このインジェクタ20の駆動制御をもって、図3の一連の処理を終了する。
【0071】
次に、インジェクタ20からの燃料噴射量を推定する処理について、図4を用いて説明する。
【0072】
図4に示す一連の処理は、所定周期(例えば先述のCPUが行う演算周期)又は所定のクランク角度毎に実行される。まずステップS21で、燃圧センサ20aの出力値(検出圧力)を取り込む。この取り込み処理は複数の燃圧センサ20aの各々について実行される。以下、ステップS21の取り込み処理について、図5を用いて詳細に説明する。
【0073】
図5(a)は、図3のステップS13にてインジェクタ20に出力される噴射指令信号を示しており、この指令信号のパルスオンによりソレノイド20bが作動して噴射孔20fが開弁する。つまり、噴射指令信号のパルスオン時期Isにより噴射開始が指令され、パルスオフ時期Ieにより噴射終了が指令される。よって、指令信号のパルスオン期間(噴射指令期間)により噴射孔20fの開弁時間Tqを制御することで、噴射量Qを制御している。図5(b)は、上記噴射指令に伴い生じる噴射孔20fからの燃料噴射率の変化(推移)を示し、図5(c)は、噴射率の変化に伴い生じる燃圧センサ20aの出力値(検出圧力)の変化(変動波形)を示す。なお、図5は噴射孔20fを1回開閉させた場合の各種変化の一例である。
【0074】
そして、ECU30は、図4の処理とは別のサブルーチン処理により、燃圧センサ20aの出力値を検出しており、そのサブルーチン処理では燃圧センサ20aの出力値を、該センサ出力で圧力推移波形の軌跡(図5(c)にて例示される軌跡)が描かれる程度に短い間隔(図4の処理周期よりも短い間隔)にて逐次取得している。具体的には、50μsecよりも短い間隔(より望ましくは20μsec)でセンサ出力を逐次取得する。
【0075】
燃圧センサ20aの検出圧力の変動と噴射率の変化とは以下に説明する相関があるため、検出圧力の変動波形から噴射率の推移波形を推定することができる。
【0076】
図5(b)に示す噴射率の変化について説明すると、先ず、符号Isの時点でソレノイド20bへの通電を開始した後、噴射孔20fから燃料が噴射開始されることに伴い、噴射率は変化点R3にて上昇を開始する。つまり実際の噴射が開始される。その後、変化点R4にて最大噴射率に到達し、噴射率の上昇は停止する。これは、R3の時点でニードル弁20cがリフトアップを開始してR4の時点でリフトアップ量が最大になったことに起因する。
【0077】
なお、本明細書における「変化点」は次のように定義される。すなわち、噴射率(又は圧力センサ20aの検出圧力)の2階微分値を算出し、その2階微分値の変化を示す波形の極値(変化が最大となる点)、つまり2階微分値波形の変曲点が、噴射率又は検出圧力の波形の変化点である。
【0078】
次に、符号Ieの時点でソレノイド20bへの通電を遮断した後、変化点R7にて噴射率は下降を開始する。その後、変化点R8にて噴射率はゼロとなり、実際の噴射が終了する。これは、R7の時点でニードル弁20cがリフトダウンを開始し、R8の時点で完全にリフトダウンして噴射孔20fが閉弁されたことに起因する。
【0079】
図5(c)に示す圧力センサ20aの検出圧力の変化について説明すると、変化点P1以前の圧力P0は噴射指令時点Isでの燃料供給圧力であり、先ず、駆動電流がレノイド20bに流れた後、噴射率がR3の時点で上昇を開始する前に、検出圧力は変化点P1にて下降する。これは、P1の時点で制御弁23がリーク孔24を開放し、油圧室Cdが減圧処理されることに起因する。その後、油圧室Cdが十分に減圧された時点で、変化点P2にてP1からの下降が一旦停止する。
【0080】
次に、R3の時点で噴射率が上昇を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P3にて下降を開始する。その後、R4の時点で噴射率が最大噴射率に到達したことに伴い、検出圧力の下降は変化点P4にて停止する。なお、変化点P3からP4までの下降量は、P1からP2までの下降量に比べて大きい。
【0081】
次に、検出圧力は変化点P5にて上昇する。これは、P5の時点で制御弁23がリーク孔24を閉塞し、油圧室Cdが増圧処理されることに起因する。その後、油圧室Cdが十分に増圧された時点で、変化点P6にてP5からの上昇が一旦停止する。
【0082】
次に、R7の時点で噴射率が下降を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P7にて上昇を開始する。その後、R8の時点で噴射率がゼロになり実際の噴射が終了したことに伴い、検出圧力の上昇は変化点P8にて停止する。なお、変化点P7から変化点P8までの上昇量はP5からP6までの上昇量に比べて大きい。P8以降の検出圧力は、一定の周期T7(図6参照)で下降と上昇を繰り返しながら減衰する。
【0083】
以上により、燃圧センサ20aによる検出圧力の変動のうち変化点P3,P4,P7及びP8を検出することで、噴射率の上昇開始時点R3(実噴射開始時点)、最大噴射率到達時点R4、噴射率下降開始時点R7及び下降終了時点R8(実噴射終了時点)等を推定することができる。また、以下に説明する検出圧力の変動と噴射率の変化との相関関係に基づき、検出圧力の変動から噴射率の変化を推定できる。
【0084】
つまり、検出圧力の変化点P3からP4までの圧力下降率Pαと、噴射率の変化点R3からR4までの噴射率上昇率Rαとは相関がある。変化点P7からP8までの圧力上昇率Pγと変化点R7からR8までの噴射率下降率Rγとは相関がある。変化点P3からP4までの圧力下降量Pβ(最大落込量)と変化点R3からR4までの噴射率上昇量Rβとは相関がある。よって、燃圧センサ20aによる検出圧力の変動から圧力下降率Pα、圧力上量率Pγ及び圧力下降量Pβを検出することで、噴射率上昇率Rα、噴射率下降率Rγ及び噴射率上昇量Rβを推定することができる。以上の如く噴射率の各種状態R3,R4,R7,R8,Rα,Rβ,Rγを推定することができ、よって、図5(b)に示す燃料噴射率の変化(推移波形)を推定することができる。
【0085】
さらに、実噴射開始から終了までの噴射率の積分値(斜線を付した符号Sに示す部分の面積)は噴射量に相当する。そして、検出圧力の変動波形のうち実噴射開始から終了までの噴射率変化に対応する部分(変化点P3〜P8の部分)の圧力の積分値と噴射率の積分値Sとは相関がある。よって、燃圧センサ20aによる検出圧力の変動から圧力積分値を算出することで、噴射量Qに相当する噴射率積分値Sを推定することができる。以上により、燃圧センサ20aは、インジェクタ20に供給される燃料の圧力を噴射量に関連する物理量として検出する噴射量センサとして機能していると言える。
【0086】
図4の説明に戻り、先述のステップS21に続くステップS22において、ステップS21で取得した変動波形から変化点P3,P8の出現時期等を検出する。具体的には、変動波形の1階微分値を演算し、噴射指令のパルスオン時期Is以降、前記微分値が最初に閾値を超えたことをもってして変化点P3の出現を検出するようにして好適である。また、変化点P3の出現以降、前記微分値が閾値内で変動する安定状態となった場合に、その安定状態以前において前記微分値が最後に閾値を下回ったことをもってして変化点P8の出現を検出するようにして好適である。
【0087】
続くステップS23では、ステップS21で取得した変動波形から圧力下降量Pβを検出する。具体的には、変動波形の変化点P3からP8までにおける検出圧力のピーク値から、変化点P3時点の検出圧力を減算することにより圧力下降量Pβを検出することが挙げられる。
【0088】
続くステップS24では、ステップS22での検出結果P3,P4に基づき噴射率の上昇開始時点R1(実噴射開始時点)及び下降終了時点R8(実噴射終了時点)を推定する。また、ステップS23での検出結果Pβに基づき噴射率上昇量Rβを推定する。そして、少なくともこれらの推定値R3,R8,Rβに基づき、図5(b)に示すような噴射率の推移波形を算出する。なお、これらの推定値R3,R8,Rβの他にも、先述の如くR4,R7,Rα,Rγ等の値を推定し、これらの推定値R4,R7,Rα,Rγを噴射率推移波形の算出に用いるようにしてもよい。
【0089】
続くステップS25では、ステップS24にて算出した噴射率推移波形をR3からR8の区間にて積分演算することにより面積Sを算出する。そして、当該面積Sを噴射量として推定する。以上により、図4の一連の処理が終了し、ステップS25にて推定された燃料噴射量及びステップS24にて推定された噴射率推移波形は、図3のステップS11で用いる先述の噴射制御用マップの更新(学習)等に用いられる。
【0090】
ところで、図6は、図5と同様にして噴射孔20fを1回開閉させた場合の各種変化の一例であり、噴射終了に伴い変化点P8が出現した後における、燃圧センサ20aの出力値(検出圧力)の変化を示すタイミングチャートである。また、図7〜図10において、(a)はインジェクタ20に対する指令信号(駆動電流)を示すタイミングチャート、(b)は、その指令信号に基づく検出圧力の変動波形を示すタイミングチャートである。
【0091】
ここで、1燃焼サイクルあたりに複数回燃料を噴射させる多段噴射制御を実行する場合には次の点に留意する必要がある。すなわち、前記変動波形のうち1回目噴射以降のn回目噴射に対応する部分の変動パターンには、n回目より前のm回目噴射(本実施形態では1回目噴射)に伴い生じる変動波形のうち噴射終了後に対応する部分(図6中の一点鎖線Peに示す部分)の変動パターンが重畳(干渉)する。以下、前記変動パターンを噴射後変動パターンPeと呼ぶ。
【0092】
より具体的に説明すると、図7に示されるように1燃焼サイクルあたりに2回噴射を行った場合では、図7(a)中に実線L2aにて示す通電パルスに対して、図7(b)に実線L2bにて示す変動波形となっている。すなわち、図中に示す2つの噴射のうち、後段側の噴射(後段噴射)の噴射開始タイミング近傍においては、この後段噴射のみに起因した変動パターンと前段側の噴射(前段噴射)の変動パターンとが互いに干渉してしまっており、後段噴射のみに起因した変動パターンを認識することは困難である。
【0093】
図8に示されるように、前段噴射のみを行った場合では、図8(a)中に実線L1aにて示す通電パルスに対して、図8(b)に実線L1bにて示す変動波形(m回目噴射波形成分)となっている。図9は、図7の変動波形(実線L2a,L2b)と図8の変動波形(破線L1a,L1b)とを重ねて示したものである。そして、図7の変動波形L2bから図8の変動波形L1bを減算(対応箇所をそれぞれ減算)して差し引けば、図10に示すように後段噴射のみに起因した変動パターン(実線L2c)を抽出することができる。
【0094】
したがって、図4のステップS21にて先述の如く燃圧センサ20aの出力値(検出圧力)を取り込むにあたり、図7(b)に示す変動波形L2bをそのまま取り込むのではなく、変動波形L2bから変動波形L1bを差し引いて抽出した変動パターンL2cを取り込む。
【0095】
次に、このように差し引くことに用いる変動波形L1bを取得する手法について説明する。
【0096】
m回目噴射波形成分を数式で表したモデル式が、データ保存用メモリ(例えばEEPROM)等の記憶手段に予め記憶されている。そして、このモデル式により表されるモデル波形を前記変動波形L1bとして取得している。本実施形態では、複数の減衰振動方程式を重ね合わせた以下の数式1を上記モデル式として採用している。
【0097】
【数1】
【0098】
数式1中のpはモデル式により表されるモデル波形の値(燃圧センサ20aによる検出圧力推定値)を示す。ここで、図8に示す如く単段噴射を行った場合又は他の噴射による波形成分が干渉していない場合において、燃圧センサ20aにて検出された実際の波形を「検出波形」と呼ぶことにする。そして、数式1中のp0は検出波形に対するモデル波形のオフセットずれ量を示す。数式1中のnは減衰振動方程式を重ね合わせた数を示す。数式1中のA,k,ω,θは、減衰振動における振幅、減衰係数、周波数、位相をそれぞれ示す。
【0099】
つまり、数式1に示すモデル式は、p0,n,A,k,ω,θのパラメータを決定することで、モデル波形の値pを出力することができる。よって、例えばn=4とした場合においては、4個のパラメータA,k,ω,θから決定される減衰振動方程式を4つ重ね合せることとなるので、16個のパラメータA,k,ω,θ及び1つのパラメータp0(合計17個のパラメータ)を決定することでpの値を取得することができる。
【0100】
なお、数式1のモデル式によるモデル波形は、当然のことながら連続した波形となっており、離散的に変化する箇所は存在しない。そして、単調増加と単調減少を繰り返しながら減衰する減衰波形となっている。
【0101】
図11は、重ね合わせる個々の減衰振動方程式の具体例を説明する図であり、噴射孔20fにて燃料噴射に伴い生じた燃圧脈動は、噴射孔20fから燃圧センサ20aに伝播する経路中にてインジェクタ20内部にて減衰する(図11(a)中の符号(1)参照)。このようにインジェクタ20内部で生じる減衰振動を、図11(b)中の波形成分(1)は表している。
【0102】
噴射孔20fにて燃料噴射に伴い生じた燃圧脈動は、インジェクタ20及び高圧配管14を経由してオリフィス12aに達し、その後オリフィス12aにて反射して燃圧センサ20aまで伝播する(図11(a)中の符号(2)参照)。このようにオリフィス12aから燃圧センサ20aへ伝播した減衰振動を、図11(b)中の波形成分(2)は表している。
【0103】
他のインジェクタ20(#3)の噴射孔20fにて燃料噴射に伴い生じた燃圧脈動は、コモンレール12を経由してインジェクタ20(#2)の燃圧センサ20aまで伝播する(図11(a)中の符号(3)参照)。このように燃圧センサ20aまで伝播した減衰振動を、図11(b)中の波形成分(3)は表している。
【0104】
以上に例示される複数の波形成分(1)(2)(3)の減衰振動方程式を組み合わせて、数式1のモデル式は構成されており、これにより、モデル式によるモデル波形が図11(b)の最上段に示す波形となる。なお、図12中の実線は、燃圧センサ20aにて検出された実際の検出波形を示し、一点鎖線及び点線はモデル波形を示す。このように検出波形とモデル波形とのずれをゼロにするように、つまり、モデル波形の実検出波形に対する近似度を高めるよう、モデル式に含まれる先述した各種パラメータp0,A,k,ω,θを学習させている。
【0105】
以下、本実施形態の要部であるパラメータp0,A,k,ω,θの学習手順について、図13及び図14を用いて説明する。なお、図14では2つのパラメータA,ωの変化についてのみ図示し、他のパラメータp0,k,θの変化については図示を省略しているが、他のパラメータp0,k,θもA,ωと同様に変化するものである。
【0106】
図13に示す一連の学習処理は、所定周期(例えば先述のCPUが行う演算周期)又は所定のクランク角度毎に、ECU30のマイコンにより実行される。まずステップS51で、燃料噴射を停止させてエンジン回転速度NEが減速している期間、つまり無噴射減速運転期間中に、微小量の燃料を1燃焼サイクル中に1回だけ噴射する単段微小噴射を実施する。そして、当該単段微小噴射に伴い生じた燃圧センサ20aの検出波形を、学習規範値として取得する。
【0107】
続くステップS52(パラメータ変更手段)では、パラメータp0,A,k,ω,θを微小区間で増大側及び減少側に変更する。図14(a)の例では、符号1の位置に対応するA,ωの値を基準値とした場合に、その基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれにA,ωの値を変更する。つまり、パラメータAについては符号q,rの位置に対応する値に変更し、パラメータωについては符号s,tの位置に対応する値に変更する。
【0108】
続くステップS53(近似度算出手段)では、モデル波形の実検出波形に対する近似度を、変更の組み合わせ毎に算出する。近似度を算出するにあたり本実施形態では最小二乗法を採用しており、例えば図12中の一点鎖線に示すモデル波形の検出波形に対する近似度は、所定時間毎のモデル波形の値と検出波形の値との距離ΔL(ずれ量)を算出し、これらの距離ΔLの総和として定義されている。よって、前記総和Σxの値が小さいほど近似度が高いと言える。
【0109】
続くステップS54(判定手段)では、基準値M(図14(a)での基準値は符号1に対応するA,ωの値)における近似度ΣMが、変更後の各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かを判定する。
【0110】
Σq,Σr,Σs,Σtの少なくとも1つがΣMよりも近似していると判定され、更新終了条件を満たしていないと判定された場合(S54:NO)には、続くステップS56(基準値更新手段)において、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのうち最小値となっているときの変更の組み合わせを、前記基準値として更新する。
【0111】
図14(a)では、Σrが最小となっている場合を例示しており、符号rの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新される。なお、図14(b)中の符号2は、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を示す。
【0112】
このように更新が為されると、処理はステップS52に戻り、パラメータ変更手段S52による前記変更、近似度算出手段S53による前記算出、及び判定手段S54による前記判定が繰り返し実行される。したがって、図14の例では、符号1から符号2の位置に対応する値に基準値が変更された後、図14(c)に示す如く符号2に対応する基準値に対して、符号q,r,s,tの位置に対応する値に変更され、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtが算出され、近似度Σ1と、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtとの比較に基づき更新終了条件を満たしているか否かが判定される。
【0113】
図14(c)の例では、符号tの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新され、図14(d)では、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を符号3で表している。また、続く図14(e)では、符号rの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新され、このように更新を繰り返した結果、図14(f)に示すように符号9を基準値とした場合に、Σ9<(Σq,Σr,Σs,Σt)となり更新終了条件を満たしている。
【0114】
そして、更新終了条件を満たしていると判定された場合(S54:YES)には、ステップS55(学習値決定手段)において、現在の基準値(図14(f)の例では符号9の位置に対応するA,ωの値の組み合わせ)を、パラメータA,ωの学習値として決定し、マップ中に記憶されているパラメータA,ωの値を基準値とするよう補正して学習させる。
【0115】
なお、上述の如く更新される基準値の初期値は、例えば存在領域の中央値を用いてもよいし、適合により設定された値を用いてもよい。また、検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、パラメータp0,A,k,ω,θの値が存在し得る存在範囲(図14(a)中の矢印参照)を予め設定しておき、ステップS52において変更するパラメータの変更範囲を、前記存在範囲に制限している。すなわち、基準値が存在範囲の境界に位置する場合には、パラメータ変更手段S52により基準値を変更するにあたり、その境界を超えて変更することを禁止する。
【0116】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0117】
(1)図13に示すパラメータ変更手段S52、近似度算出手段S53、判定手段S54、基準値更新手段S56、及び学習値決定手段S55の作用によれば、例えば図14に示す2つのパラメータA,ωそれぞれ10個ずつの値の組み合わせ、つまり102=100回全てについて近似度を演算することを不要にできる。
【0118】
具体的には、図14の例では、近似度を算出する回数は、符号1に対するq,r,s,t、符号2に対するq,r,s,t・・・符号9に対するq,r,s,t、つまり4×9=36回となる。ちなみに、図14の例でパラメータの数を17個とした場合には、近似度を算出する回数は最悪でも5780回となり、全ての組み合わせについて演算した場合の回数1017=10京回に比べて、演算処理量を大幅に減少できる。
【0119】
したがって、複数のパラメータp0,A,k,ω,θの全てについて存在領域全ての値をモデル式に代入して算出する場合に比べて、演算処理量の減少を図ることができる。
【0120】
(2)検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、パラメータp0,A,k,ω,θの値が存在し得る存在範囲(図14(a)中の矢印参照)を予め設定しておき、ステップS52において変更するパラメータの変更範囲を、前記存在範囲に制限している。よって、算出した近似度の値が発散してしまう等の演算処理上の不具合を回避できる。
【0121】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、ステップS56にて更新される基準値の初期値として、存在領域の中央値等、予め設定された値を用いている。これに対し本実施形態では、後に詳述する初期値設定手段(図15のステップS511参照)を備え、これにより近似度が高くなるような初期値に設定している。また、上記第1実施形態では、ステップS54にて更新終了条件を満たしている場合にはその時の基準値をパラメータの学習値として決定している。これに対し本実施形態では、後に詳述する学習値検証手段(図15のステップS541,S542,S543参照)を備え、これにより更新終了条件を満たした時の基準値が学習値として妥当か否かを検証している。
【0122】
図15は、本実施形態によるパラメータp0,A,k,ω,θの学習手順を示すフローチャートであり、図13と同じ処理を実行する部分には、図中同一符号を付してその説明を援用する。
【0123】
先ず、ステップS51において、学習規範値としての検出波形を取得する。続くステップS511(初期値設定手段)では、存在範囲を複数の領域に分割し(図16(a)中のA1,A2,ω1,ω2参照)、複数の領域毎に設定された各々の代表値(例えば分割領域中の中央値M1,M2,M3,M4)の各々に対して近似度ΣM1,ΣM2,ΣM3,ΣM4を算出する。そして、これらの近似度ΣM1,ΣM2,ΣM3,ΣM4を比較し、最も近似度の高い代表値を基準値の初期値として設定する。図16の例では、近似度ΣM1が最小であることから代表値M1を初期値として設定している。
【0124】
続くステップS52では、パラメータp0,A,k,ω,θを微小区間で増大側及び減少側に変更し、続くステップS53では、変更の組み合わせ毎に近似度を算出し、続くステップS54では、基準値M1(図16(a)での基準値は符号M1に対応するA,ωの値)における近似度ΣM1が、変更後の各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かを判定する。
【0125】
更新終了条件を満たしていないと判定された場合(S54:NO)には、続くステップS56において、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtのうち最小値となっているときの変更の組み合わせを、前記基準値として更新する。図16(b)では、Σrが最小となっている場合を例示しており、符号rの位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新される。なお、図16(c)中の符号2は、更新後のA,ωの基準値に対応する位置を示す。
【0126】
このように更新が為されると、処理はステップS52に戻り、パラメータ変更手段S52による前記変更、近似度算出手段S53による前記算出、及び判定手段S54による前記判定が繰り返し実行される。図16の例では、符号M1から符号2,3,4,5,6の位置に対応する値に基準値が順に更新されており、図16(d)に示すように符号6を基準値とした場合に、Σ6<(Σq,Σr,Σs,Σt)となり更新終了条件を満たしている。
【0127】
そして、更新終了条件を満たしていると判定された場合(S54:YES)には、ステップS541(大変更手段)において、パラメータ変更手段S52で行われる変更の大きさよりも大きく基準値を変更(大変更)する。図17は、学習値検証手段S541,S542,S543を実行した場合における基準値の更新状態を示す一態様であり、例えば図17(a)に示す如く符号1から符号2,3,4,5,6,7,8の位置に対応する値に基準値が順に更新され、符号8の位置で更新終了条件を満たしていた場合において、大変更手段S541により符号u1〜u6のそれぞれの位置に対応する値にパラメータp0,A,k,ω,θは大変更される。図17の例ではパラメータA,ωの存在範囲をN分割(N=10)した大きさをステップS52における微小区間とし、ステップS541ではその微小区間よりも大きく変更させている。
【0128】
続くステップS542(近似度算出手段)では、モデル波形の実検出波形に対する近似度を、大変更の組み合わせ毎に算出する。続くステップS543(判定手段)では、基準値M(図17(b)での基準値は符号8に対応するA,ωの値)における近似度Σ8が、大変更後の各々の近似度Σu1〜Σu6のいずれよりも高いとの学習許可条件を満たしているか否かを判定する。
【0129】
Σu1〜Σu6の少なくとも1つがΣ8よりも近似していると判定され、学習許可条件を満たしていないと判定された場合(S543:NO)には、続くステップS544(基準値更新手段)において、各々の近似度Σu1〜Σu6のうち最小値となっているときの変更の組み合わせを、前記基準値として更新する。
【0130】
図17(b)では、Σu6が最小となっている場合を例示しており、符号u6の位置に対応するA,ωの値の組み合わせが基準値として更新される。このように更新が為されると、処理はステップS52に戻り、パラメータ変更手段S52による前記変更、近似度算出手段S53による前記算出、及び判定手段S54による前記判定が繰り返し実行される。
【0131】
したがって、図17の例では、符号1から符号8の位置に対応する値に基準値が順次変更された後、符号8に対応する基準値に対して更新終了条件を満たし、その後u6の位置に大変更、更新されている。そして、図17(c)に示す如く符号u6に対応する基準値に対して、符号q,r,s,tの位置に対応する値に変更され、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtが算出され、近似度Σu6と、各々の近似度Σq,Σr,Σs,Σtとの比較に基づき更新終了条件を満たしているか否かが判定されている。図17(c)の例では、符号u6から符号tの位置に対応する値に基準値が更新されており、図17(d)に示すように符号9を基準値とした場合に、Σ9<(Σq,Σr,Σs,Σt)となり更新終了条件を満たしている。
【0132】
一方、ステップS543にて学習許可条件を満たしていると判定された場合(S543:YES)には、続くステップS55(学習値決定手段)において、現在の基準値(図17(d)の例では符号9の位置に対応するA,ωの値の組み合わせ)を、パラメータA,ωの学習値として決定し、マップ中に記憶されているパラメータA,ωの値を基準値とするよう補正して学習させる。
【0133】
このようにして、更新終了条件を満たしている場合であっても、基準値を大変更させて学習許可条件を満たしているか否かを判定し、学習許可条件を満たしていなければ(S543:NO)、大変更前の基準値を学習値として決定することを禁止する。そして、前記禁止を行った場合には、大変更後のパラメータの値(図17の例では符号u6の位置に対応するA,ωの値の組み合わせ)を基準値として再度更新する。
【0134】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0135】
(1)更新終了条件を満たしている場合(S54:YES)であっても、基準値を大変更させて学習許可条件を満たしていなければ(S543:NO)、大変更前の基準値を学習値として決定することを禁止する。そのため、先述した図18に例示される如く、パラメータωの値がω8にて更新終了条件を満たしている場合であっても、パラメータωの値をω8からωu4まで大変更し、近似度Σu4が近似度Σω8より高い場合にはω8を学習値として決定することが禁止される。よって、図18に示すようにω=ωu4,ωu5,ωu6の近似度Σu4,Σu5,Σu6の方がΣ8よりも近似度が高い場合において、符号8の位置に対応するA,ωの値の組み合わせを学習値として学習してしまうことによる学習精度低下を回避できる。
【0136】
(2)前記禁止を行った場合には、大変更後のパラメータの値(図17の例ではu6、図18の例ではωu4)を基準値として更新するので、その後、図18の例ではωu5,ωu6と順に変更、更新され、より近似度が高くなるようパラメータの値が学習されるので、学習精度を向上できる。
【0137】
(第3実施形態)
上記第2実施形態では、大変更前の符号8に対応する基準値における近似度Σ8が、大変更後の各々の近似度Σu1〜Σu6のいずれよりも高いか否かに基づき、学習許可条件を満たしているか否かを判定し、学習を禁止するか否かを判定している。これに対し本実施形態では、ステップS541と同様にして大変更(第1変更)させた後、大変更前の基準値に対してさらに大きく変更(第2変更)させる。つまり、図18の例では、基準値ω8からωu4に第1変更してωu4における近似度Σu4を算出するとともに、基準値ω8からωu5に第2変更してωu5における近似度Σu5を算出する。そして、Σu5の近似度がΣu4より高い(つまりΣu5<Σu4)場合には学習を禁止する。すなわち、Σu5≧Σu4であることを学習許可条件としている。
【0138】
ここで、図18の例において、仮にΣω8の方がΣu4より近似度が高かったとしても、ω8からωu4への変更よりもさらに大きくω8からωu5へ変更した場合において、Σu4よりもΣu5の方が近似度が高くなっていれば、Σω8よりも高い近似度となるパラメータωが見つかる可能性があると言える。
【0139】
この点を鑑みた本実施形態では、基準値から大きく離れた領域において、基準値から離れるほど近似度が高くなる領域の有無を学習許可条件として判定するので、高い近似度となるパラメータωの値を見つける確実性を高めることができ、ひいては学習精度の低下を回避できる。そして、前記禁止を行った場合には、第2変更後のパラメータの値を基準値として更新するので、その後u6へと変更、更新され、より近似度が高くなるようパラメータの値が学習されるので、学習精度をより一層向上できる。
【0140】
(他の実施形態)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。また、本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0141】
・上記第1実施形態のパラメータ変更手段S52では、増大側及び減少側へ変更するにあたりその変更量を一定の値としている。これに対し、基準値更新手段S56による更新の回数が多くなるほど、前記変更量を小さくするようにしてもよい。これによれば、更新終了条件を満たすに至るまで基準値を初期値から更新していくにあたり、更新の初期段階から終了段階まで変更量を一律に小さくする場合に比べて更新回数を少なくできる。また、更新の初期段階から終了段階まで変更量を一律に大きくする場合に比べて、更新終了条件を満たした時点における基準値の近似度を高めることができ、学習精度を向上できる。つまり、更新回数の減少と学習精度向上との両立を図ることができる。
【0142】
例えば、上記第1実施形態のパラメータ変更手段S52では、パラメータの存在範囲をN分割(図14の例では10分割)して得られる大きさで、増大側及び減少側への変更を実施している。これに対し、基準値更新手段S56による更新の回数が多くなるほど、前記N分割数を多くするようにすれば、上述の如く変更量を可変設定できる。
【0143】
・上記第1実施形態では、ステップS51において、無噴射減速運転期間中に単段微小噴射を実施し、その時の検出波形を学習規範値として取得しているが、要するに、図8に示す如く他の噴射による燃圧変動があまり干渉していない状態の燃圧波形を取得できれば、その状態の部分の検出波形を学習規範値としてもよい。したがって、例えば図7に示す如く複数の噴射が重畳している波形であっても、そのうちの重畳度合いの低い部分を抽出して学習規範値とするようにしてもよい。
【0144】
・パラメータp0,A,k,ω,θを学習させるにあたり、エンジンの運転状態毎にその状態に応じて学習させれば、運転状態に応じた最適なモデル式にすることができるので、モデル式の近似度を向上できる。なお、上記運転状態の具体例としては、エンジン回転速度NE、内燃機関の負荷(例えば燃料の指令噴射量や運転者によるアクセル操作量等)、燃料温度、コモンレール12内の燃料圧力、燃料ポンプ11からコモンレール12への燃料供給量等が挙げられる。
【0145】
・図16に示す如くパラメータの存在範囲を複数の領域に分割した場合において、その分割領域毎に、パラメータ変更手段S52による前記変更、近似度算出手段S53による前記算出、判定手段S54による前記判定、基準値更新手段S56による前記更新、及び学習値決定手段S55による前記決定を実行し、各々の領域で決定された学習値のうち最も近似度が高くなるパラメータ値の組み合わせを最終的な学習値として決定するようにしてもよい。
【0146】
・上記各実施形態では、パラメータ変更手段S52によりパラメータp0,A,k,ω,θを微小区間で増大側及び減少側に微小区間の大きさで変更するにあたり、各パラメータp0,A,k,ω,θの存在範囲をN分割して得られた大きさを前記微小区間としている。ここで、各パラメータp0,A,k,ω,θにおける分割数Nを同じとしてもよいし、パラメータp0,A,k,ω,θ毎に異なる分割数Nとなるように微小区間を設定してもよい。
【0147】
・燃圧センサ20aをインジェクタ20に取り付けるにあたり、上記実施形態では、インジェクタ20の燃料流入口22に燃圧センサ20aを取り付けているが、図2中の一点鎖線200aに示すようにハウジング20eの内部に燃圧センサ200aを組み付けて、燃料流入口22から噴射孔20fに至るまでの内部燃料通路25の燃料圧力を検出するように構成してもよい。
【0148】
そして、上述の如く燃料流入口22に取り付ける場合には、ハウジング20eの内部に取り付ける場合に比べて燃圧センサ20aの取付構造を簡素にできる。一方、ハウジング20eの内部に取り付ける場合には、燃料流入口22に取り付ける場合に比べて燃圧センサ20aの取り付け位置が噴射孔20fに近い位置となるので、噴射孔20fでの圧力変動をより的確に検出することができる。
【0149】
・コモンレール12と高圧配管14との間に、コモンレール12から高圧配管14に流れる燃料の流量を制限する流量制限手段を備えてもよい。この流量制限手段は、高圧配管14やインジェクタ20等の損傷による燃料漏れにより過剰な燃料流出が発生した時に、流路を閉塞するよう機能するものであり、例えば過剰流量時に流路を閉塞するように作動するボール等の弁体により構成することが具体例として挙げられる。なお、オリフィス12a(燃料脈動軽減手段)と流量制限手段とを一体に構成したフローダンパを採用してもよい。
【0150】
・また、燃圧センサ20aをオリフィス及び流量制限手段の燃料流れ下流側に配置する構成の他に、オリフィス及び流量制限手段の少なくとも一方に対して下流側に配置するよう構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の第1実施形態に係る学習装置が適用された、燃料系システムの概略を示す構成図。
【図2】図1の燃料噴射弁の内部構造を模式的に示す内部側面図。
【図3】図1のシステムに係る燃料噴射制御処理の基本的な手順を示すフローチャート。
【図4】図1の燃圧センサの検出圧力に基づく燃料噴射量推定の処理手順を示すフローチャート。
【図5】図1の燃圧センサによる検出圧力の変動波形と噴射率推移波形との関係を示す、単段噴射実行時におけるタイミングチャート。
【図6】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図7】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図8】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図9】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャートであり、実線は図7の波形、点線は図8の波形を示す。
【図10】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャートであり、図7の波形から図8の波形を差し引いて得られた波形を示す図。
【図11】図8に示す波形を表したモデル式を複数の減衰振動方程式を重ね合わせた導出するにあたり、それら複数の減衰振動方程式を説明するための模式図。
【図12】モデル波形と検出波形とのずれ量を示すとともに、近似度を算出するための最小二乗法の考え方を説明するための図。
【図13】モデル式に含まれる複数のパラメータp0,A,k,ω,θを学習させるための手順を示すフローチャート。
【図14】図13におけるパラメータ変更手段及び基準値更新手段を説明する図。
【図15】本発明の第2実施形態において、モデル式に含まれる複数のパラメータp0,A,k,ω,θを学習させるための手順を示すフローチャート。
【図16】第2実施形態において、モデル式に含まれる複数のパラメータp0,A,k,ω,θを学習させるための手順を説明する図。
【図17】本発明の第3実施形態において、モデル式に含まれる複数のパラメータp0,A,k,ω,θを学習させるための手順を説明する図。
【図18】上記第3実施形態の作用を説明する図であり、1つのパラメータωについての変化と近似度との関係を例示する図。
【符号の説明】
【0152】
12…コモンレール(蓄圧容器)、20…インジェクタ(燃料噴射弁)、20a,200a…燃圧センサ、20f…噴射孔、30…ECU(学習装置、記憶手段)、S52…パラメータ変更手段、S53…近似度算出手段、S54…判定手段、S55…学習値決定手段、S56…基準値更新手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量変化を検出するセンサの検出波形について、その検出波形を数式で表したモデル式が記憶された記憶手段を備え、前記モデル式により表されるモデル波形の実検出波形に対する近似度を高めるよう、前記モデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習する学習装置において、
前記複数のパラメータを、そのパラメータ毎に設定された基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれに変更するパラメータ変更手段と、
前記複数のパラメータについて前記変更の組み合わせ毎に前記近似度を算出する近似度算出手段と、
前記複数のパラメータを前記基準値とした場合における前記近似度が、前記パラメータを前記変更した値とした場合における各々の前記近似度のいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かを判定する判定手段と、
前記更新終了条件を満たしていない場合に、前記変更した値に対応する各々の前記近似度のうち最も近似度が高くなっているときの前記変更の組み合わせを、前記基準値として更新する基準値更新手段と、
前記更新終了条件を満たしている場合に、各々の前記基準値を前記複数のパラメータの学習値として決定する学習値決定手段と、
を備え、
前記基準値更新手段により更新される毎に、前記パラメータ変更手段による前記変更、前記近似度算出手段による前記算出、及び前記判定手段による前記判定を繰り返し実行することを特徴とする学習装置。
【請求項2】
前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、
前記存在範囲を複数の領域に分割し、
前記複数の領域毎に設定された各々の代表値に対して算出された前記近似度を比較し、
最も近似度の高い代表値を、前記基準値更新手段による更新に先立ち設定される前記基準値の初期値とすることを特徴とする請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
前記パラメータ変更手段により前記変更を実施するに先立って用いられる前記複数のパラメータの初期値は、既知の物理量変化に対する前記センサの検出波形を試験により計測し、その試験結果に基づき設定されていることを特徴とする請求項1に記載の学習装置。
【請求項4】
前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、
前記パラメータ変更手段は、前記存在範囲をN分割して得られる大きさで、前記増大側及び前記減少側への変更を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項5】
前記パラメータ変更手段は、前記基準値更新手段による更新の回数が多くなるほど、前記変更の量を小さくすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項6】
前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、
前記パラメータ変更手段による前記変更の範囲を、前記存在範囲に制限することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項7】
前記更新終了条件を満たしている場合に、前記パラメータ変更手段で行われる変更の大きさよりも大きく前記基準値を大変更し、
その大変更後のパラメータについて算出された前記近似度が、前記大変更前のパラメータについて算出された前記近似度の所定範囲よりも高い場合には、前記学習値決定手段において前記基準値を前記学習値に決定することを禁止することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項8】
前記禁止を行った場合には、前記大変更後のパラメータの値を前記基準値として更新することを特徴とする請求項7に記載の学習装置。
【請求項9】
前記更新終了条件を満たしている場合には、前記パラメータ変更手段で行われる変更の大きさよりも大きく前記基準値を第1変更するとともに、前記第1変更よりもさらに大きく前記基準値を第2変更し、
前記第2変更後の前記近似度が、前記第1変更後の前記近似度の所定範囲よりも高い場合には、前記学習値決定手段において前記基準値を前記学習値に決定することを禁止することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項10】
前記禁止を行った場合には、前記第2変更後のパラメータの値を前記基準値として更新することを特徴とする請求項9に記載の学習装置。
【請求項11】
前記モデル波形と前記実検出波形とのずれ量を波形中の複数個所で演算し、その演算により得られた複数のずれ量の総和を前記近似度とし、前記総和の値が小さいほど近似度が高いとすることを特徴とする請求1〜10のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項12】
前記センサは、燃料を蓄圧する蓄圧容器から複数の燃料噴射弁へ燃料を分配供給するよう構成された内燃機関に搭載され、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を前記物理量変化として検出する燃圧センサであり、
前記燃圧センサは、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の噴射孔に至るまでの燃料通路のうち前記蓄圧容器に対して前記噴射孔に近い側に配置されており、
前記燃圧センサと、請求項1〜11のいずれか1つに記載の学習装置と、を備えることを特徴とする燃料噴射システム。
【請求項13】
1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施するにあたり、
前記検出波形のうちn回目噴射に対応する部分の波形から、n回目より前のm回目噴射に起因した波形成分を差し引くことで、n回目噴射に起因した波形成分を抽出する抽出手段を備え、
前記抽出手段は、前記学習装置により学習されたパラメータによる前記モデル波形を、前記m回目噴射に起因した波形成分とすることを特徴とする請求項12に記載の燃料噴射システム。
【請求項14】
前記学習装置は、前記内燃機関の運転状態に応じて、その運転状態毎に前記複数のパラメータの値を学習することを特徴とする請求項12又は13に記載の燃料噴射システム。
【請求項1】
物理量変化を検出するセンサの検出波形について、その検出波形を数式で表したモデル式が記憶された記憶手段を備え、前記モデル式により表されるモデル波形の実検出波形に対する近似度を高めるよう、前記モデル式に含まれる複数のパラメータの値を学習する学習装置において、
前記複数のパラメータを、そのパラメータ毎に設定された基準値に対して増大側及び減少側のそれぞれに変更するパラメータ変更手段と、
前記複数のパラメータについて前記変更の組み合わせ毎に前記近似度を算出する近似度算出手段と、
前記複数のパラメータを前記基準値とした場合における前記近似度が、前記パラメータを前記変更した値とした場合における各々の前記近似度のいずれよりも高いとの更新終了条件を満たしているか否かを判定する判定手段と、
前記更新終了条件を満たしていない場合に、前記変更した値に対応する各々の前記近似度のうち最も近似度が高くなっているときの前記変更の組み合わせを、前記基準値として更新する基準値更新手段と、
前記更新終了条件を満たしている場合に、各々の前記基準値を前記複数のパラメータの学習値として決定する学習値決定手段と、
を備え、
前記基準値更新手段により更新される毎に、前記パラメータ変更手段による前記変更、前記近似度算出手段による前記算出、及び前記判定手段による前記判定を繰り返し実行することを特徴とする学習装置。
【請求項2】
前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、
前記存在範囲を複数の領域に分割し、
前記複数の領域毎に設定された各々の代表値に対して算出された前記近似度を比較し、
最も近似度の高い代表値を、前記基準値更新手段による更新に先立ち設定される前記基準値の初期値とすることを特徴とする請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
前記パラメータ変更手段により前記変更を実施するに先立って用いられる前記複数のパラメータの初期値は、既知の物理量変化に対する前記センサの検出波形を試験により計測し、その試験結果に基づき設定されていることを特徴とする請求項1に記載の学習装置。
【請求項4】
前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、
前記パラメータ変更手段は、前記存在範囲をN分割して得られる大きさで、前記増大側及び前記減少側への変更を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項5】
前記パラメータ変更手段は、前記基準値更新手段による更新の回数が多くなるほど、前記変更の量を小さくすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項6】
前記検出波形が存在し得る範囲の波形に基づき、前記パラメータの値が存在し得る存在範囲を予め設定しておき、
前記パラメータ変更手段による前記変更の範囲を、前記存在範囲に制限することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項7】
前記更新終了条件を満たしている場合に、前記パラメータ変更手段で行われる変更の大きさよりも大きく前記基準値を大変更し、
その大変更後のパラメータについて算出された前記近似度が、前記大変更前のパラメータについて算出された前記近似度の所定範囲よりも高い場合には、前記学習値決定手段において前記基準値を前記学習値に決定することを禁止することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項8】
前記禁止を行った場合には、前記大変更後のパラメータの値を前記基準値として更新することを特徴とする請求項7に記載の学習装置。
【請求項9】
前記更新終了条件を満たしている場合には、前記パラメータ変更手段で行われる変更の大きさよりも大きく前記基準値を第1変更するとともに、前記第1変更よりもさらに大きく前記基準値を第2変更し、
前記第2変更後の前記近似度が、前記第1変更後の前記近似度の所定範囲よりも高い場合には、前記学習値決定手段において前記基準値を前記学習値に決定することを禁止することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項10】
前記禁止を行った場合には、前記第2変更後のパラメータの値を前記基準値として更新することを特徴とする請求項9に記載の学習装置。
【請求項11】
前記モデル波形と前記実検出波形とのずれ量を波形中の複数個所で演算し、その演算により得られた複数のずれ量の総和を前記近似度とし、前記総和の値が小さいほど近似度が高いとすることを特徴とする請求1〜10のいずれか1つに記載の学習装置。
【請求項12】
前記センサは、燃料を蓄圧する蓄圧容器から複数の燃料噴射弁へ燃料を分配供給するよう構成された内燃機関に搭載され、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を前記物理量変化として検出する燃圧センサであり、
前記燃圧センサは、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の噴射孔に至るまでの燃料通路のうち前記蓄圧容器に対して前記噴射孔に近い側に配置されており、
前記燃圧センサと、請求項1〜11のいずれか1つに記載の学習装置と、を備えることを特徴とする燃料噴射システム。
【請求項13】
1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施するにあたり、
前記検出波形のうちn回目噴射に対応する部分の波形から、n回目より前のm回目噴射に起因した波形成分を差し引くことで、n回目噴射に起因した波形成分を抽出する抽出手段を備え、
前記抽出手段は、前記学習装置により学習されたパラメータによる前記モデル波形を、前記m回目噴射に起因した波形成分とすることを特徴とする請求項12に記載の燃料噴射システム。
【請求項14】
前記学習装置は、前記内燃機関の運転状態に応じて、その運転状態毎に前記複数のパラメータの値を学習することを特徴とする請求項12又は13に記載の燃料噴射システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−3004(P2010−3004A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159488(P2008−159488)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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