説明

官能基導入無機化合物およびその製造方法、複合体およびその製造方法、医療用材料

【課題】 無機基材とリン酸カルシウムまたは酸化チタンとを化学結合によって結合させた複合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を無機基材に導入する官能基導入工程と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと上記官能基とを反応させる反応工程を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンおよび/またはリン酸カルシウムと無機基材とが化学結合してなる複合体およびその製造方法、官能基導入無機化合物、医療用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムや、ポリウレタン等の高分子基材は、生体不活性、長期安定性、強度および柔軟性等の特性を有しており、例えば経皮カテーテルのような医療用材料として広く用いられている。しかし、上記例示の高分子基材は、生体不活性であるために、経皮部において生体組織との接着が起こらず、皮膚のダウングロース(上皮組織がカテーテル表面に沿って内部へ陥入していく現象)、および、陥入部位における細菌感染の危険性が常に問題となっている。
【0003】
また、ステンレス鋼、Ni-Ti合金、Co-Cr合金およびチタン系合金などの金属基材等も上記高分子基材と同様に生体不活性、長期安定性を有しており、また、強度の面でも非常に優れた性質を有しているので、ステント、人工骨、歯科材料等の医療用インプラント材料として広く用いられている。しかし、上記金属基材もまた生体不活性であるので、生体組織との接着は起こらず、これら金属基材を生体内に埋植すると、この金属基材と生体組織との間でずれが生じる結果となり、本来の機能を十分に発揮できなくなるような問題が発生する。
【0004】
ところで、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム(以下、CPと称する)は、生体活性材料として、単独または無機材料や有機材料と複合化させて、医療分野において広く用いられている。上記CPは、例えば、経皮カテーテル等の部材として使用されている。しかし、上記CPは、もろく、成形性が悪く、そして金属基材との結合性がない。したがって、例えば、上記CPを単に上記金属基材と組み合わせて経皮カテーテルとして用いた場合には、金属基材とこのCP端子との間隙から細菌感染が起こる可能性がある等の問題がある。
【0005】
そこで、上記基材表面にハイドロキシアパタイト等のCPを修飾したCP複合体が提案されている。具体的には、例えば、CPにて基材表面を修飾する方法としては、ガラスとの複合化(特許文献1)、生体模倣反応(特許文献2)、交互浸漬法(特許文献3)を用いたものがある。これらの特許文献に開示の構成では、CPの結晶構造がアモスファス(非晶質)のものしか使用できない。アモルファスのCPは、生体内で溶解しやすく生体活性の持続が十分でない。また、上記特許文献に開示の修飾法の場合、基材表面にCPを物理的に接着または堆積させている。つまり、CPと基材との間の結合力が弱く、基材からCPが剥離する恐れがある。
【0006】
一方、高結晶性CPセラミックスを用いる高分子表面修飾法では接着剤もしくは高分子基材を溶融することにより複合化する製造方法(特許文献4)やスパッタリングイオンビーム法(特許文献5)、プラズマ処理法(特許文献6、特許文献7)、レーザーアブレーション法(特許文献5)などがあるが、これは高分子基材の物性を損なう恐れがあり、スパッタリングイオンビーム法、プラズマ処理法、レーザーアブレーション法で行われたものはCP粒子が均一でなくまた吸着しているのみであるので基材と粒子との間の結合力は十分でなく、基材からCP粒子が剥離する恐れがある。
【0007】
つまり、上記特許文献に開示の方法では、CPと基材とは、物理的な力によって接合(接着、蒸着、堆積等)されているのみであり、その接合力は弱く、基材からCPが剥離する恐れがある。
【0008】
一方、酸化チタン(以下、TiOと称する)は、白色顔料としての特性を利用して塗料、合成樹脂、インキ、製紙、化学繊維、等に混合・複合化されている。また、TiOは、光触媒として脱臭剤、防汚材、抗菌・抗ウィルス・防カビ材、水処理材、抗がん剤(材)等に用いられている。また、上記TiOは、化学的に極めて安定で毒性がない物質として知られている。具体的には、例えば、16ヶ月間飼育資料にTiOを添加して与えた動物試験、皮下注射、粉末注入を行った動物試験においても中毒症状が認められないことが報告されている。さらに、経口投与しても発癌性がないことが報告されている(非特許文献1)。
【0009】
このようなTiOを医療用材料として使用したものとしては、高い隠ぺい力による歯科用レジンコンポジット充填剤(非特許文献2)や、光触媒効果による抗癌剤(非特許文献3)、液体含有物非付着性カテーテルなどが提案されている。
【0010】
そして、医療用材料として好適な、これらTiOと上記基材とを複合化させたTiO複合体が提案されている。
【0011】
上記TiO複合体の製造方法としては、具体的には、例えば、すき込み、または溶融による混合がある。また、高分子基材の表面にTiOをコーティングする方法としては、例えば、ディップ法、スピンコート法、スクリーン印刷法等がある。
【0012】
しかしながら、上記製造方法によって製造されたTiO複合体では、高分子基材および酸化チタンが本来有する性質が変化する、または、TiOが高分子基材から剥離するという問題点がある。
【0013】
具体的には、すき込み、または、溶融によって製造されたTiO複合体の場合には、製造過程において、本来TiOまたは本来高分子基材が有する物性を損なう、または、物性が変化してしまう。
【0014】
また、例えば高分子基材の表面に、TiOを上記コーティングする方法によって製造されたTiO複合体は、高分子基材表面にTiOを塗布しただけである。つまりTiOを物理的に接着または吸着させている。したがってTiOが高分子基材の表面から簡単に剥離することとなる。このように高分子基材からTiOが簡単に剥離してしまうと、TiO複合体としての機能を発揮することができない。
【0015】
このように、上記従来のCPまたはTiOを基材と複合化させた複合体は、CPまたはTiOと基材とを物理的に接合(接着、蒸着、吸着、被覆等)しているのみであり、基材からCPまたはTiOが剥離するという問題がある。
【0016】
そこで、本願発明者等は、上記問題点を解決するために、CPまたはTiOと有機物質からなる高分子基材とを化学結合を介して結合してなる複合体を提案している(特許文献8、特許文献9、特許文献10)。
【特許文献1】特開昭63−270061号公報(公開日;1988年11月8日)
【特許文献2】特開平7−306201号公報(公開日;1995年11月21日)
【特許文献3】特開2000−342676公報(公開日;2000年12月12日)
【特許文献4】特開平10−15061号公報(公開日;1998年1月10日)
【特許文献5】特開2003−52805号公報(公開日;2003年2月25日)
【特許文献6】特開平8−56963号公報(公開日;1996年3月5日)
【特許文献7】特開2001−190653公報(公開日;2001年7月17日)
【特許文献8】特開2001−172511公報(公開日;2001年6月26日)
【特許文献9】特開特開2004−051952公報(公開日;2004年2月19日)
【特許文献10】特開特開2004−143417公報(公開日;2004年5月20日)
【非特許文献1】『酸化チタン−物性と応用技術』p80、著者:清野学、出版社:p技術堂出版株式会社
【非特許文献2】K. Yoshida, et al., J. Biomed. Mater. Res. Appl. Biomater.,58, 525, (2001)
【非特許文献3】R. Cai, et al.,Cancer. Res.,52, 2346, (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来の構成では、CPまたはTiOと有機化合物からなる高分子基材とを化学結合させた複合体を得ることはできても、例えば、金属単体のような無機基材とCPまたはTiOとを化学結合によって複合化させた複合体を得ることはできなかった。
【0018】
金属単体、特に、金および銀等、ガラスおよび水晶等の無機材料は、CPまたはTiOと化学的に結合するための反応基を有していないため、これらを複合化することはできない。
【0019】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば、Au、Ag、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Fe、Cr、Coまたはこれらの金属元素を含む合金もしくはこれらの金属元素を含む金属複合材料等の金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナ等の無機基材とCPまたはTiOとを化学結合によって結合させた複合体およびその製造方法、そして、CPまたはTiOを化学結合させるための官能基を有する官能基導入無機基材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る複合体は、上記課題を解決するために、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合してなることを特徴としている。
【0021】
上記の構成によれば、無機材料とリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとが化学結合を介して結合している。これにより、従来のように、例えば、接着剤や蒸着等によって無機基材表面に無機材料とリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンを物理的に接合した構成と比べて、強固に結合した複合体を提供することができる。
【0022】
本発明に係る複合体は、イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとが化学結合してなる構成がより好ましい。
【0023】
上記イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基は、リン酸カルシウムまたは酸化チタンと化学結合することができる。従って、無機基材が上記官能基を有する場合には、当該無機基材と酸化チタンおよび/またはリン酸カルシウムとを化学結合させることができる。これにより、無機基材の表面に強固に酸化チタンまたはリン酸カルシウムが結合した複合体を提供することができる。また、酸化チタンまたはリン酸カルシウムと無機基材との間は化学結合によって結合されているので、例えば、従来のように無機基材と酸化チタンまたはリン酸カルシウムとを物理的に接着(蒸着)している構成と比べて、酸化チタンまたはリン酸カルシウムが無機基材から剥離することを防止することができる。
【0024】
本発明に係る複合体は、上記化学結合が、イオン的相互作用による結合である構成がより好ましい。
【0025】
本発明に係る複合体は、上記無機基材が、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナである構成がより好ましく、さらに、金属が、Au、Ag、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Fe、Cr、Coまたはこれらの金属元素を含む合金もしくはこれらの金属元素を含む金属複合材料である構成がより好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、無機基材として、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナを用いることが可能であり、従来、酸化チタンまたはリン酸カルシウムを物理的に接着(蒸着)させることしかできなかった基材を用いて、複合体を得ることができる。
【0027】
本発明に係る医療用材料は、上記複合体を用いてなることを特徴としている。
【0028】
上記の構成によれば、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合によって結合しているので、例えば、接着剤等を用いて構成されている複合体と比べて、上記接着剤等が溶出するおそれがない。従って、医療用材料として好適に用いることができる。
【0029】
本発明に係る官能基導入無機基材は、上記の課題を解決するために、無機基材にイソシアネート基、アルコキシシリル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基が導入されてなることを特徴としている。
【0030】
これにより、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと直接化学結合することができる官能基導入無機基材を得ることができる。
【0031】
本発明に係る官能基導入無機基材は、上記無機基材が、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナであることを特徴とする請求項1記載の官能基導入無機基材。
【0032】
本発明に係る官能基導入無機基材は、上記金属が、Au、Ag、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Fe、Cr、Coまたはこれらの金属元素を含む合金もしくはこれらの金属元素を含む金属複合材料であることがより好ましい。
【0033】
上記の構成によれば、Au、Ag、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Fe、Cr、Coまたはこれらの金属元素を含む合金もしくはこれらの金属元素を含む金属複合材料に上記官能基が導入された官能基導入無機基材を提供することができる。
【0034】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記の課題を解決するために、イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとを反応させる反応工程を含むことを特徴としている。
【0035】
上記官能基は、酸化チタンおよびリン酸カルシウムと化学結合することができる。従って、上記官能基を有する無機基材の官能基をリン酸カルシウムまたは酸化チタンと反応させることにより、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合を介して結合された複合体を提供することができる。
【0036】
また、上記の構成によれば、上記官能基は、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと直接化学結合することが可能であるので、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに上記官能基と反応することができる活性基を導入する必要がない。つまり、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに化学的前処理を行う必要がない。従って、より簡単に複合体を製造することができる。
【0037】
また、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに、化学的前処理を行う必要がないので、この化学的前処理のためにリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンの生体活性が損なわれたり、変性したりする恐れがない。
【0038】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記反応工程の前に、無機基材に上記官能基を導入する官能基導入工程を含む構成がより好ましい。
【0039】
上記の構成によれば、無機基材に上記官能基を導入しているので、上記官能基を有していない無機基材であっても、複合体を製造することができる。
【0040】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記官能基導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、上記反応性官能基と無機基材とを反応させる構成がより好ましい。
【0041】
本発明に係る複合体の製造方法は、さらに、官能基導入工程の前に、無機基材に活性基を導入する活性基導入工程を含み、官能基導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、該反応性官能基と上記活性基とを反応させる構成がより好ましい。
【0042】
上記の構成によれば、無機基材に上記反応性官能基と反応することができる活性基を導入するので、多種の反応性官能基を選択することができる。これにより、上記官能基をより簡単に導入することができる。
【0043】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記化合物がシランカップリング剤であり、上記官能基導入工程は、アルコキシシリル基と反応性官能基とを含む上記化合物を界面活性剤にて保護する保護工程と、上記保護工程により保護された保護化合物の反応性官能基と、当該反応性官能基と反応可能な無機基材とを、水系溶媒中で反応させることにより無機基材にアルコキシシリル基を導入する構成がより好ましい。
【0044】
アルコキシシリル基は、水系溶媒中では水と反応して加水分解が起こるために、そのままでは、アルコキシシリル基を無機基材に導入することはできない。そこで、界面活性剤を用いて、上記アルコキシシリル基を保護することにより、水系溶媒中であっても、良好にアルコキシシリル基を無機基材に導入することができる。
【0045】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記無機基材が金であり、上記活性基導入工程では、金−チオール反応によって金に活性基を導入する構成がより好ましい。
【0046】
上記の構成によれば、金−チオール反応によって金に活性基を導入するので、化学的に非常に安定な金を用いて複合体を製造することができる。
【0047】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記無機基材が銅であり、上記活性基導入工程では、シランカップリング反応によって銅に活性基を導入する構成がより好ましい。
【0048】
上記の構成によれば、シランカップリング反応によって銅に活性基を導入するので、銅に簡単に活性基を導入することができる。また、シランカップリング反応を行うには、シランカップリング剤を用いればよいので、銅に簡単に活性基を導入することができる。
【0049】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記化合物がシランカップリング剤である構成がより好ましい。
【0050】
シランカップリング剤は、アルコキシシリル基と反応性官能基とを有しているので、簡単に、無機基材にアルコキシシリル基を導入することができる。
【0051】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記反応工程の前に、無機基材にカルボキシル基および/または4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基である官能基を導入する官能基導入工程と、上記官能基をイオン化させるイオン化工程を含む構成がより好ましい。
【0052】
本発明に係る複合体の製造方法は、反応性官能基を有するリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと、活性基を有する無機基材とを用い、上記活性基と反応性官能基とを反応させる構成がより好ましい。
【0053】
本発明に係る複合体の製造方法は、無機基材と反応可能な反応基を有するリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンの当該反応基と上記無機基材とを反応させる構成がより好ましい。
【0054】
上記の構成によれば、無機基材の化学的前処理等を行うことなく、直接反応させることができるので、無機基材の物性が変化することを防止できる。
【0055】
本発明に係る複合体の製造方法は、上記無機基材が、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナである構成がより好ましい。
【0056】
本発明に係る官能基導入無機基材の製造方法は、イソシアネート基、アルコキシシリル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基と、無機基材と反応可能な反応性官能基とを有する化合物を用いて、上記反応性官能基と無機基材とを反応させることを特徴としている。
【0057】
本発明に係る官能基導入無機基材の製造方法は、上記無機基材に反応性官能基と反応可能な活性基を導入する活性基導入工程を含み、上記反応性官能基と上記活性基とを反応させる構成がより好ましい。
【0058】
本発明に係る官能基導入無機基材の製造方法は、上記無機基材は、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナである構成がより好ましい。
【発明の効果】
【0059】
本発明に係る複合体は、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合してなる構成である。
【0060】
それゆえ、従来のように、例えば、接着剤や蒸着等によって無機基材表面に無機材料とリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンを物理的に接合した構成と比べて、強固に結合した複合体を提供することができるという効果を奏する。
【0061】
本発明に係る複合体の製造方法は、イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとを反応させる反応工程を含む構成である。
【0062】
それゆえ、上記官能基を有する無機基材の官能基をリン酸カルシウムまたは酸化チタンと反応させることにより、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合を介して結合された複合体を提供することができるという効果を奏する。
【0063】
また、上記官能基は、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと直接化学結合することが可能であるので、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに上記官能基と反応することができる活性基を導入する必要がなく、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに化学的前処理を行う必要がないため、より簡単に複合体を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。すなわち、本実施の形態にかかる複合体は、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナ等の無機基材と、酸化チタンまたはリン酸カルシウムとが化学結合を介して結合されている構成である。より詳細には、上記複合体は、イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとが化学結合(共有結合およびイオン的相互作用による結合)している構成である。
【0065】
(酸化チタン)
本実施の形態にかかる酸化チタンは、例えば、化学式;TiO等で表される化合物であるとともに、この化合物の表面に水酸基を有するものである。すなわち、本実施の形態にかかる酸化チタンとは、表面に水酸基を有している酸化チタンを示す。
【0066】
具体的に説明すると、上記TiOの場合、酸化チタンの表面を最も多く占めている結晶面、すなわち、アナターゼ型の(001)面とルチル型の(110)面とには、2種類の水酸基が存在している。その1つは、Ti4+と結合しているターミナルOH基であり、もう1つは、2個のTi4+と結合しているブリッジOH基である(清野学著、酸化チタン 物性と応用、技法堂出版、2000参照)。
【0067】
そして、本実施の形態にかかる酸化チタンは、生体組織との親和性および生体環境における安定性が優れているために、医療用材料として好適である。
【0068】
上記酸化チタンは、粒子状であることがより好ましい。粒子状である場合、酸化チタン粒子の形状および粒子径としては、上記酸化チタンと後述する無機基材とが化学結合することにより、無機基材の表面に固定できる程度の粒子の形状および粒子径であればよい。具体的には、上記粒子径の下限値としては、0.001μm以上がより好ましく、0.01μm以上がさらに好ましい。一方、上記粒子径の上限値としては、1000μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。上記粒子径が1000μmよりも大きいと、または、0.001μmよりも小さいと、酸化チタンと後述する無機基材との結合が相対的に弱くなり、生体に埋入した場合に、複合体が破損する場合がある。
【0069】
(リン酸カルシウム)
上記リン酸カルシウムは、生体活性が高い。上記リン酸カルシウムとしては、具体的には、例えば、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、トリリン酸カルシウム(β(α)−トリリン酸カルシウム(Ca(PO))、メタリン酸カルシウム(Ca(PO)、オクタリン酸カルシウム(OCP)、Ca10(PO、Ca10(POCl等が挙げられる。なお、上記リン酸カルシウムは、湿式法や、乾式法、加水分解法、水熱法等の公知の製造方法によって、人工的に製造されたものであってもよく、また、骨、歯等から得られる天然由来のものであってもよい。また、上記リン酸カルシウムには、水酸イオンおよび/またはリン酸イオンの一部がストロンチウムイオン、バリウムイオン、ナトリウムイオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等で置換された化合物等が含まれていてもよい。上記例示のうち、ハイドロキシアパタイトが好適である。
【0070】
そして、上記リン酸カルシウムとして、リン酸カルシウムを焼結させたリン酸カルシウム焼結体(リン酸カルシウムセラミックスとも呼ばれる)を使用することも可能である。リン酸カルシウム焼結体は、非晶質のリン酸カルシウムと比べて、結晶性が高く、生体において溶解性が低い。上記リン酸カルシウム焼結体は、アモルファス(非晶質)のリン酸カルシウムを焼結させることにより得られる。具体的には、例えば、アモルファスのリン酸カルシウムを800℃〜1300℃の温度範囲内で所定時間、焼結させることにより、リン酸カルシウム焼結体を得ることができる。上記リン酸カルシウムを焼結させることによって、結晶性を高めることができ、例えば、生体内(象牙細管内および象牙細管の露出面)に導入した場合における溶解性を小さくすることができる。このリン酸カルシウムの結晶性の度合いは、X線回折法(XRD)により、測定することができる。具体的には、各結晶面を示すピークの半値幅が狭ければ狭いほど結晶性が高い。
【0071】
そして、本実施の形態にかかるリン酸カルシウムの表面には、Ca10(PO(OH)が存在していることがより好ましい。このCa10(PO(OH)は、リン酸カルシウムの表面に存在していればよく、リン酸カルシウム全量に対して、0.1重量%程度含まれていればよいが、50重量%以上含まれていることがより好ましく、90重量%以上含まれていることがさらに好ましい。また、上記リン酸カルシウムには、リン酸カルシウムの水酸イオンおよび/またはリン酸イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等で置換された化合物が含まれていてもよい。さらに、上記リン酸カルシウムには、アモルファスのハイドロキシアパタイトを焼結する際に生じる、リン酸三カルシウム等が含まれていてもよい。
【0072】
また、上記リン酸カルシウム焼結体は、生体組織との親和性および生体環境における安定性が優れているために、医療用材料、特に歯科用材料として好適である。また、上記リン酸カルシウム焼結体は、生体内で溶解し難い。従って、生体内で長期間、生体活性を維持することができる。
【0073】
ここで、上記リン酸カルシウム焼結体の製造方法について説明する。本実施の形態にかかるリン酸カルシウムは、アモルファスのリン酸カルシウムを焼結させることにより得ることができる。上記リン酸カルシウムは、湿式法や、乾式法、加水分解法、水熱法等の公知の製造方法によって、人工的に製造されたものであってもよく、また、骨、歯等から得られる天然由来のものであってもよい。
【0074】
また、例えば、リン酸カルシウム焼結体を製造する場合、上記アモルファスのリン酸カルシウムを焼結させる焼結温度の下限値としては、800℃以上がより好ましく、900℃以上がさらに好ましく、1000℃以上が特に好ましい。焼結温度が800℃よりも低いと、焼結が十分でない場合がある。一方、焼結温度の上限値としては、1300℃以下がより好ましく、1250℃以下がさらに好ましく、1200℃以下が特に好ましい。焼結温度が1300℃よりも高いと、リン酸カルシウムが分解する場合がある。従って、焼結温度を、上記範囲内とすることにより、生体内で溶解し難い(結晶性が高い)リン酸カルシウム焼結体を製造することができる。また、焼結時間としては、特に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0075】
上記リン酸カルシウム(またはリン酸カルシウム焼結体)は、粒子状であることがより好ましい。より詳細には、上記粒子径の下限値としては、0.001μm以上がより好ましく、0.01μm以上がさらに好ましい。上記粒子径が0.001μmよりも小さいと、上記リン酸カルシウムが溶出する恐れがある。一方、上記粒子径の上限値としては、1000μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。上記粒子径が1000μmよりも大きいと、リン酸カルシウム焼結体と後述する無機基材との結合が相対的に弱くなり、上記複合体が破損する恐れがある。
【0076】
また、上記リン酸カルシウムの焼結温度およびリン酸カルシウム焼結体の粒子径を制御することにより、例えば、得られたリン酸カルシウム複合体を生体内に埋入させたとき、リン酸カルシウム焼結体の溶出速度を制御することができる。つまり、上記焼結温度および上記粒子径を制御することにより、用途に応じた、リン酸カルシウム複合体の物性を設計することができる。
【0077】
また、例えば、リン酸カルシウム焼結体を構成する材料として、ハイドロキシアパタイト焼結体またはβ−トリリン酸カルシウムを用いる場合、該ハイドロキシアパタイト焼結体またはβ−トリリン酸カルシウムは、生体組織との親和性および生体環境における安定性が優れているために、医療用材料として好適である。また、ハイドロキシアパタイト焼結体は、生体内で溶解し難い。従って、例えば、上記ハイドロキシアパタイト焼結体を用いてリン酸カルシウム複合体を製造した場合には、生体内で長期間、生体活性を維持することができる。
(無機基材)
上記無機基材は、無機化合物から構成されている。上記無機基材を構成する材料としては、具体的には、例えば、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナ等が挙げられる。また、上記金属としては、具体的には、アルカンチオールと反応可能な金属、および、アルコキシシリル基と反応可能な金属等が挙げられ、詳細には、アルカンチオールと反応可能な金(Au)、銀(Ag)、および、アルコキシシリル基と反応可能な銅(Cu)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。また、上記金属としては、他にTi、Zr、Al、Fe、Cr、Co等を用いても良い。また、上記アルカンチオールとしては、炭素数が1〜10程度のものであればよい。
【0078】
また、上記無機基材の形状としては、例えば、シート状、繊維状、チューブ状、網目状、棒状または、多孔体でもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0079】
また、例えば無機基材を異なる材料等に接合したものを用いても良い。具体的には例えば、金を鉄等の金属上に蒸着したものを用いても良い。この場合、上記金が無機基材となる。
【0080】
また、上記無機基材の表面には、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと化学結合可能な官能基が導入されていてもよい。上記官能基としては、例えば、イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基等が挙げられる。このように、上記無機基材の表面に上記官能基が存在する場合には、上記官能基とリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとを反応させることにより複合体を得ることができる。
【0081】
また、上記無機基材の表面には、リン酸カルシウム自体とイオン的相互作用によって化学結合可能な官能基を有していてもよい。なお、上記「イオン的相互作用」については、後述する。
(複合体)
上記複合体は、上記リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと、上記無機基材とが化学結合で結合されている。換言すると、上記複合体は、上記無機基材の表面にリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンが化学結合している。
【0082】
より詳細に説明すると、上記複合体は、活性基を有する無機基材と、該活性基と反応可能な反応性官能基を有するリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとからなる複合体であって、上記(1)活性基と反応性官能基とが化学結合してなる構成であってもよく、また、(2)リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンが、当該リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと化学結合可能なイソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材に化学結合してなる複合体であって、上記リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと、上記官能基とが、直接、化学結合してなる構成であってもよい。
【0083】
また、上記複合体が例えば、リン酸カルシウムのうちのハイドロキシアパタイト焼結体とイソシアネート基(―NCO)またはアルコキシシリル基を有する無機基材とを結合させた複合体である場合、無機基材の表面には、ハイドロキシアパタイト焼結体が化学結合されている。具体的には、ハイドロキシアパタイト焼結体に存在する水酸基(−OH)と、上記無機基材の表面に存在するイソシアネート基(―NCO)またはアルコキシシリル基とが、直接、化学結合している。上記無機基材のアルコキシシリル基が−Si≡(OR)である場合、ハイドロキシアパタイト焼結体と無機基材との間には、化学式(1)に示すような結合が存在することとなる。
【0084】
【化1】

【0085】
(ただし、上記Xは無機基材を示し、Yはハイドロキシアパタイト焼結体を示す)
上記の場合、無機基材が備えている1つの(−Si≡(OR))に対して、ハイドロキシアパタイト焼結体の3個の水酸基が反応していることとなる。従って、例えば、アルコキシシリル基の数が少ない無機基材であっても、ハイドロキシアパタイト焼結体を多く結合させることができる。従って、無機基材にアルコキシシリル基を導入する場合には、この導入するアルコキシシリル基の数を、従来と比べて、減らすことができる。なお、上記化学式(1)のケイ素原子(Si)は、無機基材が有するアルコキシシリル基の一部である。具体的には、上記ケイ素原子は、表面修飾したグラフト鎖の一部でもよく、高分子鎖が有するアルコキシシリル基の一部でもよい。また、上記化学式(1)の酸素原子(O)は、無機基材が有するアルコキシシリル基の一部、または、ハイドロキシアパタイト焼結体が有する水酸基の一部である。また、上記化学式(1)のXとSiとの間は、高分子鎖で結合されていてもよく、低分子鎖で結合されていてもよく、直接結合していてもよい。
【0086】
また、上記官能基がイソシアネート基の場合には、ハイドロキシアパタイト焼結体と無機基材とは、ウレタン結合で化学結合されている。
【0087】
また、上記複合体は、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが、例えば、イオン結合のようなイオン的相互作用による化学結合を介して結合していてもよい。これについては後述する。
(複合体の製造方法)
ここで、本実施の形態にかかる複合体の製造方法について説明する。上記複合体の製造方法は、大別すると3つの方法が挙げられる。具体的には、(1)酸化チタンまたはリン酸カルシウムと反応可能な官能基を有するまたは上記官能基が導入された無機基材と、酸化チタンまたはリン酸カルシウムとを反応させる、(2)無機基材と反応可能な反応基を有するまたは上記反応基が導入された酸化チタンおよび/またはリン酸カルシウムと、無機基材とを反応させる、(3)反応性官能基を有するまたは当該反応性官能基が導入されたリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと、上記反応性官能基と反応する活性基を有するまたは当該活性基が導入された無機基材とを反応させる、の3つの方法が挙げられる。
【0088】
上記(1)の方法は、酸化チタンまたはリン酸カルシウムの表面を修飾する(化学的前処理を行う)必要がないので、上記酸化チタンまたはリン酸カルシウムの物性が損なわれることを防止できる。また、上記(2)の方法は、無機基材の表面を修飾する(化学的前処理を行う)必要がないので、上記無機基材の物性が損なわれることを防止できる。上記(3)の方法は、酸化チタンまたはリン酸カルシウムと無機基材との間で形成される化学結合の種類を容易に選択することができる。
【0089】
以下に、上記(1)の方法である、酸化チタンまたはリン酸カルシウムと反応可能な官能基を有するまたは上記官能基が導入された無機基材と、酸化チタンまたはリン酸カルシウムとを反応させる方法について説明する。より具体的には、イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとを反応させる反応工程を含む方法である。なお、以下の説明では、無機基材として金を用いて、金に上記官能基を導入するために、まず、金に活性基を導入する活性基導入工程を行い、次に、上記活性基と反応可能な反応性官能基と上記官能基とを含む化合物(シランカップリング剤)を用いて、上記金に官能基を導入する官能基導入工程を含む方法について説明する。
(活性基導入工程)
活性基導入工程では、活性基を有するアルカンチオール(チオール化合物)を用いて金に活性基を導入する。上記アルカンチオールは、チオール基(−SH)を有しており、上記チオール基が金と反応(金−チオール反応(金−イオウ結合))し、金に活性基が導入される。
【0090】
上記活性基を有するアルカンチオールとしては、具体的には、例えば、活性基として水酸基を有する2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−2−ペンタノン、3−メルカプト−1−ヘキサノール、3−メルカプトフェノール、3−メルカプト−1,2−プロピオンジオール、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。つまり、例えば、活性基としてアミノ基を選択する場合には、アミノ基を有するアルカンチオールを使用すればよく、活性基としてビニル基を選択する場合には、ビニル基を有するアルカンチオールを選択すればよい。
【0091】
上記金に対する活性基の導入率(重量%)の下限値としては、0.1重量%以上がより好ましく、1.0重量%以上がさらに好ましく、2.0重量%以上が特に好ましい。導入率が0.1重量%よりも少ないと、金に導入されるアルコキシシリル基の数が少なくなり、複合体を製造することができなくなる恐れがある。一方、導入率の上限値としては、30重量%以下がより好ましく、25重量%以下がさらに好ましく、20重量%以下が特に好ましい。上記導入率が30重量%よりも多いと、金に導入された活性基の数が多くなり、この活性基同士が反応する場合がある。
(官能基導入工程)
官能基導入工程では、金に官能基を導入する。具体的には、上記金に導入された活性基と反応可能な反応性官能基と上記イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを有する化合物を用いて、金に上記官能基を導入する。
【0092】
ここで、金にアルコキシシリル基を導入する方法の1つとして、シランカップッリング剤(化合物)を用いて導入する方法について説明する。なお、金にアルコキシシリル基を導入する方法は、この方法に限定されるものではなく、種々の方法を採用することができる。
【0093】
シランカップリング剤は、化学式(2)に示すような化学構造をしている。
【0094】
Z−Si≡(OR) ・・・(2)
上記Zは、活性基と化学結合することができる反応性官能基であればよく、具体的には、例えば、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロキシ基、メルカプト基等が挙げられる。また、上記ORは、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと化学結合することができるものであればよく、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、上記化学式(2)中の反応性官能基であるZとSiとは、高分子鎖で結合されていてもよく、低分子鎖で結合されていてもよく、直接結合されていてもよい。
【0095】
すなわち、上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤;p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル系シランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ系シランカップリング剤;γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリロキシ系シランカップリング剤;N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−トリエトキシ−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、特殊アミノシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド系シランカップリング剤;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピル系シランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;ビス(トリエトキシプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤等が挙げられる。上記例示のシランカップリング剤のうち、重合性モノマーであるという点で、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。上記シランカップリング剤は、無機基材の種類、および、無機基材表面に導入された活性基の種類等によって適宜選択すればよい。
【0096】
次に、金に導入された活性基と、末端に反応性官能基を有するシランカップリング剤とを重合することにより、金に上記官能基であるアルコキシシリル基を導入する。
【0097】
上記シランカップリング剤としては、末端の反応性官能基が、金に導入された活性基と重合することができるものであればよく、特に限定されるものではないが、活性基としてビニル基を導入した場合には、上記メタクリロキシ系シランカップリング剤である例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を好適に使用することができる。
【0098】
そして、上記シランカップリング剤と活性基が導入された金とを、重合開始剤、溶媒の存在下で重合させることにより、金にアルコキシシリル基を導入することができる。
【0099】
上記溶媒としては、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒等の無極性の有機溶媒が好適に使用される。
【0100】
また、重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等を用いればよい。
【0101】
上記シランカップリング剤の使用量(添加量)の下限値としては、上記活性基が導入された金に対して、10重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましく、100重量%以上が特に好ましい。上記使用量が10重量%よりも少ないと、十分なリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと反応するだけのアルコキシシリル基を導入することができない場合がある。一方、上記使用量の上限値としては、500重量%以下がより好ましく、400重量%以下がさらに好ましく、300重量%以下が特に好ましい。上記使用量が500重量%よりも多いと、経済的でない。
【0102】
また、重合は、窒素雰囲気下で行うことがより好ましい。重合温度の下限値としては、40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましく、50℃以上が特に好ましい。重合温度が40℃よりも低いと、重合が十分に起こらず、無機基材に官能基が導入されない場合がある。一方、重合温度の上限値としては、80℃以下がより好ましく、75℃以下がさらに好ましく、70℃以下が特に好ましい。重合温度が80℃よりも高いと、重合量をコントロールできなくなる。また、経済的でもない。なお、重合時間としては、所望の導入率(金に官能基が導入される割合)となるように適宜設定すればよい。
【0103】
また、金に対する上記官能基の導入率(重量%)の下限値としては、0.1重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらに好ましい。ここで、導入率とは、金の単位重量あたりに導入されたシランカップリング剤カップリング剤の重量の割合である。上記導入率が0.1重量%以上であれば、上記金に、十分な酸化チタンおよび/またはリン酸カルシウムを結合させることができる。一方、上記導入率の上限値としては、特に限定されるものではないが、上記導入率が100重量%よりも高いと、金に結合する酸化チタンおよび/またはリン酸カルシウムの量が多くなりすぎ、経済的でない場合がある。なお、上記官能基の導入率については、最終的に得られる複合体の使用目的に合わせて適宜設定すればよい。
【0104】
次に、上記官能基がイソシアネート基である場合について説明する。イソシアネート基を末端に有するモノマーと活性基が導入された金と重合させて、金にイソシアネート基を導入する場合には、イソシアネート基が反応溶媒中の活性水素と反応して失活する恐れがあるために、脱水ジメチルスルフォキシド、脱水ジメチルフォルムアミド等の脱水溶媒中で反応させることが好ましい。
【0105】
また、活性水素を有する、水またはアルコール中で、末端にイソシアネート基有するモノマーを上記活性基と反応させる場合には、上記イソシアネート基が上記活性水素と反応するため、イソシアネート基を保護する必要がある。具体的には、例えば、上記イソシアネート基を、フェノール、イミダゾール、オキシム、N−ヒドロキシイミド、アルコール、ラクタム、活性メチレン複合体等のブロック剤を用いて、保護することにより重合を行うことができる。イソシアネート基を保護している上記ブロック剤は、加熱することにより脱離させることができる。従って、イソシアネート基を有するモノマーをブロック剤で保護して、金に導入された活性基と重合させた後に、加熱することにより、金にイソシアネート基を導入することができる。
【0106】
上記ブロック剤として、例えば、フェノールを用いた場合、110〜120℃の範囲内で加熱することにより、イソシアネート基を保護しているブロック剤を脱離させることができる。また、ブロック剤として、例えば、イミダゾールを用いた場合には110〜130℃の範囲内、オキシムを用いた場合には130〜150℃の範囲内で加熱することにより、上記ブロック剤を脱離させることができる。上記ブロック剤としては、具体的には、例えば、メチルサリチレート、メチル−p−ヒドロキシベンゾエート等のフェノール含有化合物;イミダゾール;メチルエチルケトキシム、アセトンオキシム等のオキシム含有化合物等が挙げられる。また、金に導入された活性基の種類によっては、例えば、N−ヒドロキシフタルイミド、N−ヒドロキシスクシンイミド等のN−ヒドロキシイミド含有化合物;メトキシプロパノール、エチルヘキサノール、ペントール、エチルラクテート等のアルコール含有化合物;カプロラクタム、ピロリジノン等のラクタム含有化合物;エチルアセトアセテート等の活性メチレン化合物等を使用してもよい。
【0107】
なお、金に、アルコキシシリル基またはイソシアネート基を導入する方法としては、上記説明の方法に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。また、上記反応条件については、金、アルカンチオールおよびシランカップリング剤の種類等によって、適宜設定されるものであり、特に限定されるものではない。このようにして、金の表面に官能基を導入することができる。
【0108】
なお、上記反応性官能基と上記活性基との他の組み合わせとしては、後述する実施の形態3に示す。
【0109】
また、無機基材にアルコキシシリル基を導入するためにシランカップリング剤が有する反応性官能基(アルコキシシリル基ではない)と、無機基材の活性基とを水系溶媒中で反応させる場合には、シランカップリング剤のアルコキシシリル基を、界面活性剤を用いて保護することにより、水系溶媒中であっても、無機基材にアルコキシシリル基を導入することができる。これについては、後述する。
【0110】
(反応工程)
反応工程では、上記官能基導入工程により、金(無機基材)に導入されたアルコキシシリル基またはイソシアネート基と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとを反応させる。具体的には、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンを分散させた分散液に、上記アルコキシシリル基が導入された金(以下、導入物と称する)を浸漬することにより、導入物の表面にリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンを吸着させる。そして、上記表面に吸着したリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと、アルコキシシリル基またはイソシアネート基とを反応させる。なお、以下の説明では、導入物として、アルコキシシリル基が導入された金であり、リン酸カルシウムがハイドロキシアパタイト焼結体である例について説明する。なお、ハイドロキシアパタイト焼結体とは、アモルファスのハイドロキシアパタイトを焼結させたものである。
【0111】
上記ハイドロキシアパタイト焼結体を分散させる分散媒としては、具体的には、例えば、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;等の有機溶媒が挙げられる。上記例示の溶媒のうち、ハイドロキシアパタイト焼結体を良好に分散させたり、アルコキシシリル基を保護している界面活性剤を脱離させたりするという点で、アルコール類が好適に使用される。これら分散媒としては、1種類のみを用いてもよく、また、複数の分散媒を併用して使用してもよい。また、例えば、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒を用いる場合、ハイドロキシアパタイト焼結体を良好に分散させるためには、例えば、(1)スターラー等の攪拌装置で強力に攪拌する、(2)超音波装置を用いて分散させる、(3)上記攪拌装置および超音波装置を併用する、等の方法を用いればよい。
【0112】
上記分散液の調整において、ハイドロキシアパタイト焼結体の添加量の下限値としては、上記分散媒に対して、0.01重量%以上がより好ましく、0.02重量%以上がさらに好ましく、0.05重量%以上が特に好ましい。上記ハイドロキシアパタイト焼結体の添加量が0.01重量%よりも少ないと、上記導入物の表面に均一にハイドロキシアパタイト焼結体が吸着せず、均一な被覆表面を形成できなくなる場合がある。一方、上記ハイドロキシアパタイト焼結体の添加量の上限値としては、上記分散媒に対して、5.0重量%以下がより好ましく、4.0重量%以下がさらに好ましく、3.0重量%以下が特に好ましい。上記添加量が5.0重量%よりも多い場合には、上記導入物の表面に吸着するハイドロキシアパタイト焼結体の量よりも、分散液に残存するハイドロキシアパタイト焼結体の量が著しく多くなり、経済的でない。
【0113】
上記導入物の表面に吸着したハイドロキシアパタイト焼結体の水酸基と導入物に導入されている上記アルコキシシリル基とを反応させる反応温度の下限値としては、25℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましく、80℃以上が特に好ましい。上記反応温度が25℃よりも低いと、ハイドロキシアパタイト焼結体と上記アルコキシシリル基とが反応しない場合がある。一方、上記反応温度の上限値としては、200℃以下がより好ましく、175℃以下がさらに好ましく、150℃以下が特に好ましい。上記反応温度が200℃よりも高い場合には、導入物が分解する場合がある。
【0114】
なお、上記分散液に導入物を浸漬した後、反応させる前に、上記分散媒と同じ溶媒で、導入物を洗浄することがより好ましい。上記分散液に浸漬した後の導入物の表面には、ハイドロキシアパタイト焼結体が積層されており、洗浄しないで反応させると、ハイドロキシアパタイト焼結体が積層されるため、導入物の物性を損なわせる場合がある。
【0115】
また、必要に応じて、真空条件下で反応させてもよい。真空条件下でハイドロキシアパタイト焼結体とアルコキシシリル基とを反応させることにより、より早くハイドロキシアパタイト複合体を製造することができる。なお、真空条件下で反応させる場合、反応を行う圧力としては、0.01mmHg(1.33kPa)〜10mmHg(13.3kPa)の範囲内が好ましい。圧力を上記範囲内とすることにより、ハイドロキシアパタイト焼結体の水酸基とアルコキシシリル基とを反応させる際に発生するメタノール(エタノール)を除去することができる。
【0116】
なお、用いる無機基材の種類、および、官能基の種類によって、上記反応工程の反応条件や溶媒の種類等は適宜変更すればよい。
【0117】
また、少なくとも分子中に2個のアルコキシシリル基を有する化合物を用い、無機基材として銅、ニッケル、ガラスまたは水晶を用いる場合には、アルコキシシリル基は、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材と反応することが可能であるため、この化合物を無機基材と反応した後で、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンを反応することができる。また、その逆、すなわち、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと上記化合物を反応させた後で、無機基材を反応させることができる。
【0118】
以上のように、本実施の形態にかかる複合体は、上記課題を解決するために、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合してなる構成である。
【0119】
上記の構成によれば、無機材料とリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとが化学結合を介して結合している。これにより、従来のように、例えば、接着剤や蒸着等によって無機基材表面に無機材料とリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンを物理的に接合した構成と比べて、強固に結合した複合体を提供することができる。
【0120】
本実施の形態にかかる複合体は、イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとが化学結合してなる構成がより好ましい。
【0121】
上記イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基は、リン酸カルシウムまたは酸化チタンと化学結合することができる。従って、無機基材が上記官能基を有する場合には、当該無機基材と酸化チタンおよび/またはリン酸カルシウムとを化学結合させることができる。これにより、無機基材の表面に強固に酸化チタンまたはリン酸カルシウムが結合した複合体を提供することができる。また、酸化チタンまたはリン酸カルシウムと無機基材との間は化学結合によって結合されているので、例えば、従来のように無機基材と酸化チタンまたはリン酸カルシウムとを物理的に接着(蒸着)している構成と比べて、酸化チタンまたはリン酸カルシウムが無機基材から剥離することを防止することができる。
【0122】
本実施の形態にかかる複合体は、上記化学結合が、イオン的相互作用による結合である構成がより好ましい。
【0123】
本実施の形態にかかる複合体は、上記無機基材が、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナである構成がより好ましく、さらに、金属が、Au、Ag、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Fe、Cr、Coまたはこれらの金属元素を含む合金もしくはこれらの金属元素を含む金属複合材料である構成がより好ましい。
【0124】
上記の構成によれば、無機基材として、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナを用いることが可能であり、従来、酸化チタンまたはリン酸カルシウムを物理的に接着(蒸着)させることしかできなかった基材を用いて、複合体を得ることができる。
【0125】
本実施の形態にかかる医療用材料は、上記複合体を用いてなることを特徴としている。
【0126】
上記の構成によれば、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合によって結合しているので、例えば、接着剤等を用いて構成されている複合体と比べて、上記接着剤等が溶出するおそれがない。従って、医療用材料として好適に用いることができる。
【0127】
本実施の形態にかかる官能基導入無機基材は、無機基材にイソシアネート基、アルコキシシリル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基が導入されてなる構成である。これにより、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと直接化学結合することができる官能基導入無機基材を得ることができる。
【0128】
本実施の形態にかかる官能基導入無機基材は、上記無機基材が、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナであることを特徴とする請求項1記載の官能基導入無機基材。
【0129】
本実施の形態にかかる官能基導入無機基材は、上記金属が、Au、Ag、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Fe、Cr、Coまたはこれらの金属元素を含む合金もしくはこれらの金属元素を含む金属複合材料であることがより好ましい。上記の構成によれば、Au、Ag、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Fe、Cr、Coまたはこれらの金属元素を含む合金もしくはこれらの金属元素を含む金属複合材料に上記官能基が導入された官能基導入無機基材を提供することができる。
【0130】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとを反応させる反応工程を含む構成である。
【0131】
上記官能基は、酸化チタンおよびリン酸カルシウムと化学結合することができる。従って、上記官能基を有する無機基材の官能基をリン酸カルシウムまたは酸化チタンと反応させることにより、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合を介して結合された複合体を提供することができる。
【0132】
また、上記の構成によれば、上記官能基は、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと直接化学結合することが可能であるので、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに上記官能基と反応することができる活性基を導入する必要がない。つまり、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに化学的前処理を行う必要がない。従って、より簡単に複合体を製造することができる。
【0133】
また、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに、化学的前処理を行う必要がないので、この化学的前処理のためにリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンの生体活性が損なわれたり、変性したりする恐れがない。
【0134】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、上記反応工程の前に、無機基材に上記官能基を導入する官能基導入工程を含む構成がより好ましい。上記の構成によれば、無機基材に上記官能基を導入しているので、上記官能基を有していない無機基材であっても、複合体を製造することができる。
【0135】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、上記官能基導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、上記反応性官能基と無機基材とを反応させる構成がより好ましい。
【0136】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、さらに、官能基導入工程の前に、無機基材に活性基を導入する活性基導入工程を含み、官能基導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、該反応性官能基と上記活性基とを反応させる構成がより好ましい。上記の構成によれば、無機基材に上記反応性官能基と反応することができる活性基を導入するので、多種の反応性官能基を選択することができる。これにより、上記官能基をより簡単に導入することができる。
【0137】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、上記化合物がシランカップリング剤であり、上記官能基導入工程は、アルコキシシリル基と反応性官能基とを含む上記化合物を界面活性剤にて保護する保護工程と、上記保護工程により保護された保護化合物の反応性官能基と、当該反応性官能基と反応可能な無機基材とを、水系溶媒中で反応させることにより無機基材にアルコキシシリル基を導入する構成がより好ましい。アルコキシシリル基は、水系溶媒中では水と反応して加水分解が起こるために、そのままでは、アルコキシシリル基を無機基材に導入することはできない。そこで、界面活性剤を用いて、上記アルコキシシリル基を保護することにより、水系溶媒中であっても、良好にアルコキシシリル基を無機基材に導入することができる。
【0138】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、上記無機基材が金であり、上記活性基導入工程では、金−チオール反応によって金に活性基を導入する構成がより好ましい。
【0139】
上記の構成によれば、金−チオール反応によって金に活性基を導入するので、化学的に非常に安定な金を用いて複合体を製造することができる。
【0140】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、上記無機基材が銅であり、上記活性基導入工程では、シランカップリング反応によって銅に活性基を導入する構成がより好ましい。
【0141】
上記の構成によれば、シランカップリング反応によって銅に活性基を導入するので、銅に簡単に活性基を導入することができる。また、シランカップリング反応を行うには、シランカップリング剤を用いればよいので、銅に簡単に活性基を導入することができる。
【0142】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、上記化合物がシランカップリング剤である構成がより好ましい。
【0143】
シランカップリング剤は、アルコキシシリル基と反応性官能基とを有しているので、簡単に、無機基材にアルコキシシリル基を導入することができる。
【0144】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、無機基材と反応可能な反応基を有するリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンの当該反応基と上記無機基材とを反応させる構成がより好ましい。上記の構成によれば、無機基材の化学的前処理等を行うことなく、直接反応させることができるので、無機基材の物性が変化することを防止できる。
【0145】
本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、上記無機基材が、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナである構成がより好ましい。
【0146】
本実施の形態にかかる官能基導入無機基材の製造方法は、イソシアネート基、アルコキシシリル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基と、無機基材と反応可能な反応性官能基とを有する化合物を用いて、上記反応性官能基と無機基材とを反応させることを特徴としている。
【0147】
本実施の形態にかかる官能基導入無機基材の製造方法は、上記無機基材に反応性官能基と反応可能な活性基を導入する活性基導入工程を含み、上記反応性官能基と上記活性基とを反応させる構成がより好ましい。
【0148】
本実施の形態にかかる官能基導入無機基材の製造方法は、上記無機基材は、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナである構成がより好ましい。
【0149】
また、本実施の形態にかかる官能基導入無機基材は、無機基材に酸化チタンおよび/またはリン酸カルシウムと反応可能な官能基が導入されてなる構成であってもよい。
【0150】
また、本実施の形態にかかる複合体は、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンが、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと化学結合可能なイソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材に化学結合してなる複合体であって、上記リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと、上記官能基とが、直接、化学結合してなる構成であってもよい。
【0151】
ここで、シランカップリング剤を用い、水系溶媒中で、シランカップリング剤の反応性官能基と、活性基導入工程によって導入された無機基材の活性基とを反応させることにより、無機基材にアルコキシシリル基(官能基)を導入する方法について説明する。
【0152】
上記水系溶媒中でアルコキシシリル基を無機基材に導入するためには、保護工程と導入工程とを行う必要がある。
【0153】
(保護工程)ここで、保護工程について説明する。保護工程では、シランカップリング剤を界面活性剤にて保護する。具体的には、シランカップリング剤と界面活性剤とを混合することで、当該シランカップリング剤(シランカップリング剤が有するアルコキシシリル基および反応性官能基)を保護する。この保護工程で、使用する界面活性剤の量としては、シランカップリング剤に対して、1.0〜50.0重量%の範囲内がより好ましく、10.0〜25.0重量%の範囲内がさらに好ましい。界面活性剤を上記の範囲内で使用することにより、シランカップリング剤が有するアルコキシシリル基を、水から確実に保護することができる。
【0154】
上記界面活性剤は、親水性部分と親油性部分(疎水性部分)とを有している。そして、シランカップリング剤を界面活性剤で保護したとき、当該界面活性剤の親油性部分はシランカップリング剤側に位置し、親水性部分は外側に位置している。
【0155】
(導入工程)次に、導入工程について説明する。導入工程では、上記保護工程にて保護した保護シランカップリング剤の反応性官能基と無機基材に導入された(または無機基材が元来有する)活性基とを反応させる。
【0156】
より具体的には、保護シランカップリング剤を無機基材と開始剤とが含まれている水系溶液中に加えて反応させる。この場合、上記開始剤としては、具体的には、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム(ペルオキソ二酸カリウム)等が挙げられる。なお、上記水系溶媒とは、少なくとも水が50重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは、95重量%以上含まれている溶媒を示している。また、上記水系溶媒には、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール等が含まれていてもよい。
【0157】
また、上記導入工程では、無機基材が入っている水系溶媒中に、保護シランカップリング剤を投入する際、均一に無機基材表面に保護シランカップリング剤が分散するように攪拌することがより好ましい。
【0158】
そして、保護シランカップリング剤が、水系溶媒中で、無機基材表面に接触することにより、保護シランカップリング剤の反応性官能基が無機基材表面に対して剥き出しの状態となり無機基材表面に存在する活性基とが反応することとなる。
【0159】
上記保護シランカップリング剤の使用量(添加量)の下限値としては、上記表面に活性基が存在している無機基材に対して、10重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましく、100重量%以上が特に好ましい。上記使用量が10重量%よりも少ないと、十分な無機基材と反応するだけのアルコキシシリル基を導入することができない場合がある。一方、上記使用量の上限値としては、500重量%以下がより好ましく、400重量%以下がさらに好ましく、300重量%以下が特に好ましい。上記使用量が500重量%よりも多いと、経済的でない。
【0160】
また、反応は、窒素雰囲気下で行うことがより好ましい。反応温度の下限値としては、40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましく、50℃以上が特に好ましい。反応温度が40℃よりも低いと、反応が十分に起こらず、無機基材にアルコキシシリル基が導入されない場合がある。一方、反応温度の上限値としては、80℃以下がより好ましく、75℃以下がさらに好ましく、70℃以下が特に好ましい。反応温度が80℃よりも高いと、無機基材が劣化する場合がある。なお、反応時間としては、所望の導入率(無機基材にアルコキシシリル基が導入される割合)となるように適宜設定すればよい。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について説明すれば、以下の通りである。なお、説明の便宜上、前記実施の形態1にて示した各部材と同一の機能を有する部材には、同一の符号を付記し、その説明を省略する。
【0161】
本実施の形態では、無機化合物と無機基材とが、イオン的相互作用によって化学結合している複合体について説明する。
【0162】
本実施の形態における複合体において、リン酸カルシウム焼結体と無機基材とがイオン的相互作用によって化学結合する場合、上記無機基材の表面には、上記官能基がイオン化されたイオン性官能基が存在している。そして、無機基材の表面にイオン性官能基が存在している場合には、イオン性官能基とリン酸カルシウム焼結体自体のイオンとがイオン的な相互作用によって化学結合することにより、複合体を形成することとなる。
【0163】
上記イオン性官能基は、酸性官能基または塩基性官能基に分類される。
【0164】
上記酸性官能基としては、具体的には、例えば、−COO,−SO2−,−SO,−O、RNC(S)等が挙げられる。また、上記塩基性官能基としては、具体的には、例えば、−NH3+、エチレンジアミン、ピリジン等が挙げられる。つまり、上記無機基材の表面には、上記例示の、酸性官能基または塩基性官能基が存在している。なお、上記RNC(S)のRは、アルキル基を示している。
【0165】
また、上記イオン性官能基としては、酸処理またはアルカリ処理等の化学的処理によりイオン化するものであればよく、具体的には、例えば、カルボキシル基、ジカルボキシル基、ジチオカルバミン酸イオン、アミン、エチレンジアミン、ピリジン等が挙げられる。
【0166】
なお、上記官能基としては、例えば、該官能基とリン酸カルシウム焼結体自体とが配位結合によって結合することができる、非イオン性官能基(中性官能基)等であってもよい。
【0167】
上記無機基材の表面にイオン性官能基を導入する方法としては、例えば、末端にカルボキシル基、ジカルボキシル基または塩基性官能基を有するビニル系重合性単量体を無機基材にグラフト重合させる方法等が挙げられる。詳細については後述する。
【0168】
上記イオン的相互作用による結合とは、無機基材の表面に存在するイオンと、リン酸カルシウム焼結体の表面に存在するイオンとの間で化学的に結合することである。従って、上記イオン的相互作用による結合としては、例えば、イオン結合、配位結合等が挙げられる。また、本実施の形態におけるイオン結合には、イオン結合性と共有結合性との両方が含まれる結合も含むものとする。また、同様に、本実施の形態における配位結合には、配位結合性と共有結合性との両方が含まれる結合も含むものとする。なお、上記イオン結合性または配位結合性と共有結合性との両方が含まれる結合の場合には、イオン結合性または配位結合性が50%以上含まれているものとする。
【0169】
また、上記イオン的相互作用による結合には、上記に加えて、さらに、水素結合、双極子相互作用、ファン・デル・ワールス力等による結合が含まれていてもよい。
【0170】
つまり、本実施の形態にかかる複合体がリン酸カルシウム複合体である場合には、リン酸カルシウム焼結体と、無機基材のイオン性官能基との大部分が、イオン結合または配位結合によって結合されている。
【0171】
ここで、リン酸カルシウムの表面に存在するイオンと、無機基材の表面に存在するイオン性官能基との関係について説明する。
【0172】
上記無機基材の表面に存在するイオン性官能基が塩基性官能基(+の電荷を有する官能基)である場合には、該塩基性官能基と、リン酸カルシウムの表面に存在するリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンとが直接化学結合することによりリン酸カルシウム複合体を構成することとなる。
【0173】
一方、上記無機基材の表面に存在するイオン性官能基が酸性官能基(−の電荷を有する官能基)である場合には、該酸性官能基と、リン酸カルシウムの表面に存在するカルシウムイオンとが直接化学結合することによりリン酸カルシウム複合体を構成することとなる。
【0174】
ここで、本実施の形態にかかる複合体の製造方法について説明する。
【0175】
(官能基導入工程)
リン酸カルシウム焼結体と無機基材とがイオン的相互作用によって結合した複合体の場合、官能基は、後述するイオン化工程により、該官能基自体をイオン化することができるものである。
【0176】
ここで、無機基材に官能基を導入する方法の1つとして、官能基を有する官能基含有化合物と無機基材とを反応させる方法について説明する。なお、無機基材に官能基を導入する方法は、この方法に限定されるものではなく、種々の方法を採用することができる。なお、以下の説明では、官能基(イオン性官能基)がカルボキシル基(ジカルボキシル基も含む)である場合について具体的に説明する。
【0177】
無機基材にカルボキシル基を導入するためには、例えば、上記活性基導入工程を行い、この活性基と反応可能な反応基とカルボキシル基とを有する官能基含有化合物と上記活性基を有する無機基材とを反応させればよい。
【0178】
上記官能基含有化合物としては、末端にカルボキシル基を有する化合物であれば特に限定されるものではないが、カルボキシル基と無機基材と反応することができる反応基とを有する化合物が好適に使用される。上記官能基含有化合物としては、具体的には、例えば、4−メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド(4-Methacryloxyethyl trimellitate anhydride(以下、4−METAと称する))、コハク酸、無水コハク酸、アクリル酸等が挙げられる。
【0179】
上記例示の官能基含有化合物のうち、例えば、最終的に得られる複合体を医療用材料として使用する場合には、既に歯科用材料として一般的に使用されており、医療用材料として好適に使用することができる点で、4−METAを使用することがより好ましい。
【0180】
そして、これら、官能基含有化合物と無機基材の活性基とを反応させることにより、無機基材の表面に官能基を導入する。具体的には、上記官能基導入工程と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0181】
また、他の方法としては、活性基がカルボキシ基であれば、無機基材に直接カルボキシ基を導入することができる。より詳細には、上記無機基材が金である場合、カルボキシ基を有するチオール化合物を用いて、当該チオール化合物と金とを反応させることにより、金にカルボキシ基を導入することができる。
【0182】
(イオン化工程)
イオン化工程では、無機基材に導入した官能基をイオン化する。具体的には、例えば、官能基を導入した無機基材をアルカリ処理または酸処理することにより、官能基をイオン化することができる。
【0183】
上記官能基がカルボキシル基である場合には、このカルボキシル基を有する無機基材を、例えば、水酸化カリウム等のアルカリ溶液に浸漬することにより、カルボキシル基をイオン化することができる。
【0184】
つまり、官能基をアルカリ処理することにより、酸性官能基とすることができる。一方、官能基を酸処理することにより、塩基性官能基とすることができる。
【0185】
上記アルカリ処理を行う場合には、例えば、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の強塩基性の水溶液を用いることがより好ましい。一方、酸処理を行う場合には、例えば、塩酸、硫酸、過塩素酸等の強酸性の水溶液を用いることがより好ましい。このように、イオン化工程を行うことにより、無機基材の官能基をイオン化することができる。つまり、無機基材の表面にイオン性官能基を存在させることができる。
【0186】
(反応工程)
反応工程では、上記イオン化工程により、イオン化されたイオン性官能基とハイドロキシアパタイト焼結体の表面に存在するイオンとを反応させる。具体的には、ハイドロキシアパタイト焼結体を分散させた分散液に、上記無機基材を浸漬することにより、無機基材の表面にハイドロキシアパタイト焼結体を吸着させる。そして、上記表面に吸着したハイドロキシアパタイト焼結体の表面に存在するイオン(カルシウムイオン)と上記イオン性官能基(−COO)とを反応させる。
【0187】
上記ハイドロキシアパタイト焼結体を分散させる分散媒としては、具体的には、例えば、水、または、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;等の有機溶媒が挙げられる。上記例示の溶媒のうち、ハイドロキシアパタイト焼結体を良好に分散させる点で、アルコール類が好適に使用される。上記例示の分散媒のうち、得られるリン酸カルシウム複合体を医療用材料として使用する場合には、より高い分散性を得るために、アルコール類がより好ましく、アルコール類とトルエンとの混合溶媒が特に好ましい。また、分散液の調整における、ハイドロキシアパタイト焼結体の添加量等については、実施の形態1と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0188】
この反応工程において、イオン性官能基とハイドロキシアパタイト焼結体とを結合させる反応温度としては、特に限定されるものではなく、常温で行うことができる。つまり、本実施の形態では、イオン的な相互作用によって両者を結合させており、従来と比べてより簡単に両者を結合させることができる。
【0189】
また、無機基材の種類、および、官能基の種類によって、上記官能基導入工程、イオン化工程および反応工程の反応条件や溶媒の種類等は適宜変更すればよい。
【0190】
なお、上記の説明では、リン酸カルシウム焼結体としてハイドロキシアパタイト焼結体を用いている例について説明しているが、上記に限定されるものではなく、例えば、リン酸カルシウム焼結体としてβ−トリリン酸カルシウム等を用いた場合でも上記製造方法を用いることにより、好適にリン酸カルシウム複合体を製造することができる。
【0191】
また、上記の説明では、官能基含有化合物として、カルボキシル基含有化合物について説明しているが、官能基としてはカルボキシル基に限定されるものではない。他の官能基を有する官能基含有化合物としては、具体的には、例えば、−SO、−SO、−O、等の官能基を有する化合物等が挙げられ、より具体的には、RNC(S)、NH、ピリジン、N−CH−CH−NH等が挙げられる。そして、官能基含有化合物は、無機基材の種類によって適宜選択すればよい。なお、上記RNC(S)のRは、アルキル基を示している。
【0192】
上記方法によって、無機基材とリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとがイオン的相互作用による化学結合によって結合した複合体を製造することができる。
【0193】
以上のように本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、上記反応工程の前に、無機基材にカルボキシル基および/または4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基である官能基を導入する官能基導入工程と、上記官能基をイオン化させるイオン化工程を含む構成である。上記の構成とすることにより、イオン的相互作用による化学結合(例えば、イオン結合)によって強固に結合された複合体を製造することができる。
〔実施の形態3〕
本発明の他の実施の形態について説明すれば、以下の通りである。なお、説明の便宜上、前記実施の形態1および2にて示した各部材と同一の機能を有する部材には、同一の符号を付記し、その説明を省略する。
【0194】
本実施の形態にかかる複合体は、反応性官能基を有するリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと活性基を有する無機基材とを用い、上記活性基と反応性官能基とを反応させてなる構成である。
【0195】
上記複合体の製造方法としては、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに反応性官能基を導入する反応性官能基導入工程と、無機基材に活性基を導入する活性基導入工程と、上記反応性官能基と活性基とを反応させる反応工程を含む構成である。なお、活性基導入工程については実施の形態1と同じであり詳細な説明は省略する。
【0196】
以下の説明では、酸化チタンを用いる例について説明する。
【0197】
より具体的には、例えば、活性基を有する無機基材として、表面にカルボキシル基を有する無機基材と、表面に反応性官能基を導入した酸化チタンの粒子として、アミノ基を導入した酸化チタンとを用い、両者を反応させることにより、本実施の形態にかかる複合体(酸化チタン複合体)を製造する例について説明する。
【0198】
つまり、活性基と反応性官能基とを反応させることにより、上記酸化チタンと無機基材とを結合する化学結合が形成されることとなる。
【0199】
本実施の形態にかかる複合体が有する化学結合、すなわち、上記酸化チタンと無機基材とを結合する化学結合としては、酸化チタン・無機基材間の結合強度が十分に得られるものであれば、特に限定されるものではないが、以下に示す化学結合を一例として挙げることができる。
【0200】
また、上記実施の形態1の官能基導入工程において、シランカップリング剤を用いて、活性機を有する無機基材にアルコキシシリル基を導入する場合、シランカップリング剤が有する反応性官能基と無機基材の活性機とによって形成される化学結合としても、下記の化学結合が挙げられる。
【0201】
【化2】

【0202】
【化3】

【0203】
【化4】

【0204】
【化5】

【0205】
【化6】

【0206】
【化7】

【0207】
【化8】

【0208】
【化9】

【0209】
【化10】

【0210】
【化11】

【0211】
【化12】

【0212】
【化13】

【0213】
【化14】

【0214】
【化15】

【0215】
【化16】

【0216】
【化17】

【0217】
これらの化学結合は、酸化チタンに導入された反応性官能基と無機基材に導入された活性基との間の反応によって得られる。
【0218】
以下に、上記例示の化学結合のうち、化学式(3)で示されるアミド基について具体的に説明する。アミド結合は、アミノ基と、カルボキシル基、アジドカルボニル基、クロロカルボニル基、N−ヒドロキシスクシンイミドカルボン酸エステルおよび/または酸無水物との反応;カルボキシル基と、N−アセチルアミノ基および/またはN−トリメチルシリルアミノ基との反応;イソシアナート基とカルボキシル基との反応;等により得られる。適切な反応条件は、それぞれの組合わせによって異なり、反応が進むのであれば、反応条件は特に限定されるものではない。
【0219】
例えば、アミノ基とカルボキシル基との組合わせの場合、まず、溶媒中に酸化チタンを加え、攪拌して、この酸化チタンを分散させた後、この中に、無機基材を浸漬する。そして、上記無機基材を溶媒から引き上げた後に、洗浄して、特定の反応条件にて無機基材が有する活性基と酸化チタンが有する反応性官能基とを反応(縮合反応)させる。
【0220】
このとき、酸化チタンの使用量の下限値は、活性基を有する無機基材1重量部に対して、0.001重量部以上がより好ましく、0.01重量部以上がさらに好ましい。一方、酸化チタンの使用量の上限値は、活性基を有する無機基材1重量部に対して、100重量部以下がより好ましく、50重量部以下がさらに好ましい。上記下限値が0.001重量部よりも少ないと、無機基材の表面に均一に酸化チタンの粒子が吸着せず、均一な被膜表面を形成することができなくなる場合がある。一方、上記上限値が100重量部よりも多い場合には、経済的でない。
【0221】
また、酸化チタンを分散させる溶媒としては、具体的には、例えば、水;トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;等が挙げられる。上記溶媒の使用量の下限値としては、上記無機基材1重量部に対して、0.1重量部以上がより好ましく、1.0重量部以上がさらに好ましい。上記下限値が0.1重量部よりも少ない場合、無機基材の表面に均一に酸化チタンの粒子が吸着せず、均一な被膜表面を形成することができなくなる場合がある。一方、上記溶媒の使用量の上限値としては、上記無機基材1重量部に対して、1000重量部以下がより好ましく、500重量部以下がさらに好ましい。上記上限値が1000重量部よりも多い場合には、経済的でない。
【0222】
そして、無機基材を溶媒から引き上げた後、無機基材が有する活性基と酸化チタンが有する反応性官能基と反応させる反応温度の下限値としては、120℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましく、160℃以上が特に好ましい。上記反応温度が120℃よりも低い場合には、縮合反応が十分に進行しない恐れがある。一方、上記反応温度の上限値としは、200℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましい。上記反応温度が200℃よりも高いと、無機基材が劣化する場合がある。
【0223】
また、上記縮合反応は、減圧下で行うことがより好ましい。上記減圧度の下限値としては、0.01mmHg(1.33Pa)以上がより好ましく、0.1mmHg以上がさらに好ましい。上記減圧度の下限値が0.01mmHgよりも低い場合には、装置等の設備面において、経済的でない。一方、上記減圧度の上限値としては、10mmHg(1.33kPa)以下がより好ましく、5.0mmHg以下がさらに好ましい。上記減圧度の上限値が10mmHgよりも高い場合には、縮合反応が起こり難くなり、反応時間が長時間となる。また、アミノ基とカルボキシル基とでアミド結合を形成する場合には、縮合剤、例えば、カルボジイミド等を用いることで低温にて合成することができる。具体的には、例えば、4℃〜室温(25℃)にて、1〜6時間反応させることで上記アミド結合が形成される。
【0224】
また、上記化学式(4)で示されるエステル結合は、カルボキシル基とヒドロキシル基、ジアゾカルボニル基および/またはジアゾアルキル基の反応等により得られる。適切な反応条件は、それぞれの組合わせによって異なり、特に限定されるものではない。具体的に、例えば、カルボキシル基とヒドロキシル基との組み合わせの場合、有機溶媒中で、カルボキシル基とヒドロキシル基とを反応させる方法等が挙げられる。
【0225】
上記化学式(5)で示される尿素結合は、アミノ基とイソシアナート基とを反応させることにより得られる。反応条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、有機溶媒中、室温でアミノ基とイソシアナート基とを反応させる方法等が挙げられる。
【0226】
上記化学式(6)で示されるチオ尿素結合は、アミノ基とイソチオシアナート基とを反応させることにより得られる。反応条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、pH9の炭酸ナトリウム緩衝溶液中で、0℃〜室温の温度範囲内でアミノ基とイソチオシアナート基とを1〜24時間反応させる方法等が挙げられる。
【0227】
上記化学式(7)で示されるβ−ケトチオエーテル結合は、メルカプト基とα−ハロアセチル基の反応等により得られる。反応条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、水中、室温、pH7〜8の弱アルカリの条件でメルカプト基とα−ハロアセチル基とを反応させる方法等が挙げられる。
【0228】
上記化学式(8)で示されるシッフ塩基構造は、アミノ基と、アルデヒドまたはケトンとして機能しうる部分との反応等により得られる。反応条件としては、例えば、アルカリ水溶液中、室温で両者を反応させる方法等がある。また、上記のシッフ塩基構造を、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム等の公知の還元剤を用いて還元することにより、化学式(9)で示される2級、3級アミン構造を得ることができる。
【0229】
上記化学式(10)で示されるスルファミド結合は、アミノ基と、塩化スルフォニル基および/またはスルフォン基との反応等により得られる。適切な反応条件は、それぞれの組合わせによって異なり、特に限定されるものではないが、具体的に、例えば、アミノ基とスルフォニル基との組合わせの場合、(I)有機溶媒中、室温で、アミノ基とスルフォニル基とを反応させる方法、(II)水中、pH9〜10のアルカリの条件で反応させる方法等がある。
【0230】
上記化学式(11)で示されるヒドロキシ−2級アミン構造は、アミノ基とエポキシ基との反応により得られる。反応条件については特に限定されるものではないが、例えば、水中、室温下、pH8〜10の条件で反応させる方法等がある。
【0231】
上記化学式(12)で示されるカルバメート結合は、ヒドロキシル基とイソシアナート基および/または炭酸ジエステルとの反応等により得られる。適切な反応条件については、組合わせによって異なり、特に限定されるものではない。例えば、ヒドロキシル基とイソシアナート基との組合わせの場合、トルエン溶媒中、還流下でヒドロキシル基とイソシアナート基とを反応させる方法等がある。
【0232】
上記化学式(13)で示されるアリールアミン構造は、アミノ基とハロゲン化アリール基および/またはスルフォン化アリール基との反応等によって得られる。適切な反応条件については、それぞれの組合わせによって異なり、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アミノ基とハロゲン化アリール基の場合、アルカリ条件下、水溶液中で、アミノ基とハロゲン化アリール基とを反応させる方法等がある。なお、上記化学式(13)中のArは、アリール基を示している。
【0233】
上記化学式(14)で示されるアリールチオエーテル結合は、メルカプト基と、ハロゲン化アリール基および/またはスルフォン化アリール基との反応等により得られる。適切な反応条件については、それぞれの組合わせによって異なり、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、メルカプト基とハロゲン化アリール基との場合、メタノール溶媒中、0℃でピペリジンを触媒として用いて、メルカプト基とハロゲン化アリール基を反応させる方法等がある。なお、上記化学式(14)中のArは、アリール基を示している。
【0234】
上記化学式(15)で示されるスルフィド結合は、メルカプト基と、スルフィド結合との交換反応によって得られる。適切な反応条件は、特に限定されるものではなく、例えば、pH7〜8の水溶液中、室温でメルカプト基とスルフィド結合とを反応させる方法等がある。
【0235】
上記化学式(16)で示されるチオエーテル結合は、メルカプト基と、アクリロイル基および/またはマレイン酸イミドとの反応等により得られる。適切な反応条件については、それぞれの組合わせによって異なり、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、メルカプト基とアクリロイル基との場合、中性〜アルカリ性溶液中で、メルカプト基とアクリロイル基とを反応させる方法等がある。
【0236】
上記化学式(17)で示されるβ−アミノチオエーテル結合は、メルカプト基とアジリジンおよび/またはイミンとの反応等により得られる。適切な反応条件については、それぞれの組合わせによって異なり、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、メルカプト基とアジリジン基との場合、水溶液中、弱アルカリ条件下で反応させる方法等がある。
【0237】
上記化学式(18)で示されるビニル結合は、ビニル重合反応等により得られる。適切な反応条件については、それぞれの組合わせによって異なり、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビニル基を導入したTiO粒子(酸化チタン粒子)に対して、無機基材からビニル基化合物をグラフト重合させることにより、両者を結合させる方法等がある。
【0238】
これらの化学結合は、酸化チタンの粒子表面の反応性官能基と無機基材表面の活性基との間の反応によって得られる。従って、上記例示の組合わせのうち、一方が反応性官能基であり、他方が活性基であればよい。具体的には、例えば、アミノ基と、カルボキシル基との反応により、化学式(3)に示すようなアミド結合を得る場合、アミノ基は上記活性基であってもよく、また、反応性官能基であってもよい。同様に、カルボキシル基が反応性官能基であってもよく、また、活性基であってもよい。
【0239】
なお、上記の説明では、無機基材に活性基を導入して、上記活性基と反応性官能基とを反応させる構成について説明している。しかしながら、例えば、上記反応性官能基が、無機基材と直接反応できるものである場合には、上記活性基導入工程を行わなくてもよい。具体的には、上記反応性官能基がチオール基であり、上記無機基材が金である場合には、上記金とチオール基とを直接反応させることができる。
【0240】
また、例えば、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに反応性官能基としてアルコキシシリル基を導入し、上記無機基材として銅、ニッケル、ガラス、または水晶を用いた場合には、無機基材に活性基を導入することなく、上記アルコキシシリル基と無機基材とを直接反応させることができる。
【0241】
以上のように、本実施の形態にかかる複合体の製造方法は、反応性官能基を有するリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと、活性基を有する無機基材とを用い、上記活性基と反応性官能基とを反応させる構成がより好ましい。上記の構成によれば、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに反応性官能基を導入し、無機基材に上記反応性官能基と反応可能な活性基を導入して、両者を反応させているので、反応性官能基と活性基とを適宜選択することにより、より簡単に複合体を製造することができる。
【0242】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0243】
本実施例では、無機基材として金を用いて、当該金とハイドロキシアパタイト焼結体とが化学結合してなる複合体の製造方法について説明する。
(官能基導入無機基材の製造)
ここで、官能基導入無機材料の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、官能基がアルコキシシリル基であり、無機基材が金である場合を例に説明するが、これに限定されるものではない。
【0244】
水晶振動子(株式会社ユーエスアイ・システム社製、型番)の表面に蒸着された金薄膜(円形;直径0.5cm)に付着している有機物等を取り除いて清浄化するために、Piranha溶液(硫酸(ナカライテスク株式会社製):30%過酸化水素水(三徳化学工業株式会社製)=3:1(体積比))を上記金薄膜に滴下し、2〜5分間放置後、純水で洗浄した。
【0245】
次に、水晶振動子を1wt%濃度の2-メルカプトエタノール(和光純薬工業株式会社)エタノール(キシダ化学株式会社)溶液1.5mlに10〜20分間浸漬した後、取り出してエタノールで充分洗浄し、乾燥させた。これにより、金薄膜と2-メルカプトエタノールとを金−チオール反応させ、当該金薄膜に、活性基(−S−OH)を導入することができる。
【0246】
そして、開始剤として過酸化ベンゾイル(キシダ化学株式会社)15mg、γ-メタクリル酸オキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社)1.5mlを含有する脱水トルエン(和光純薬工業株式会社)3.0mlに入れた重合ガラス管に水晶振動子を入れ、十分に脱気・窒素ガス充填を繰り返した後、70℃にて所定の時間重合反応を行った。重合反応後後、上記水晶振動子を、脱水トルエンにて洗浄を行い、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定(図2)およびFT−IT測定を行った(図1)。ここで、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定では振動子の周波数変化が金基板表面に存在する量によって変化する。その変化量はSauerbreyの式(下式1)のように示される。
【0247】
【数1】

【0248】
ここで、ΔF(Hz)は振動数変化、Fは基本振動数(9MHz)、Δm(ng)は重量変化量、Aは電極面積(0.159cm)、ρは水晶の密度(2.65g/cm)、μは水晶の剛性率(2.95×1011dyne/cm)(2.95×10N/cm)をそれぞれ示す。
【0249】
そして、図1および図2の結果より、水晶振動子の表面にアルコキシシリル基が導入されたことが分かる。つまり、アルコキシシリル基が導入された官能基導入無機基材を製造することができる。
【0250】
(ハイドロキシアパタイト焼結体の製造方法)
まず、本実施例にかかるハイドロキシアパタイト焼結体の製造方法についた説明する。
【0251】
連続オイル相としてドデカン、非イオン性界面活性剤として曇天31℃のペンタエチレングリコールドデシルエーテルを用いて、上記非イオン性界面活性剤0.5gを含有している連続オイル層40mlを調整した。次に、上記調整した連続オイル層にCa(OH)分散水溶液(2.5モル%)を10ml添加した。そして、得られた分散液を十分に撹拌した後、その水/オイル(W/O)乳濁液に1.5モル%のKHPO溶液10mlを添加して、反応温度50℃で、24時間撹拌しながら反応させた。得られた反応物を遠心分離により分離することにより、ハイドロキシアパタイトを得た。そして、上記ハイドロキシアパタイトを800℃の条件で、1時間加熱することにより、ハイドロキシアパタイト焼結体の粒子(以下、HAp粒子と称する)を得た。このHAp粒子は、単結晶体であり、長径が50〜100nmであった。
(複合体の製造方法)
まず、エタノール4ml中に上記HAp粒子8mgを加えて、2分間超音波処理することにより、エタノール中にHAp粒子を分散させた。
【0252】
そして、上記HAp粒子を分散させたエタール分散液の中に、アルコキシシリル基を導入した水晶振動子を、スターラを用いて攪拌しながら、1時間浸漬した。このときの水晶振動子の周波数変化を図3に示す。
【0253】
その後、水晶振動子を取り出し、エタノールで十分洗浄した後、乾燥させ、120℃、1mmHgの圧力下で2時間加熱処理を行うことにより、本発明にかかる複合体を製造した。得られた複合体を走査型電子顕微鏡(以下、SEMと称する)で観察すると、図4に示すように、水晶振動子の表面(金薄膜)にハイドロキシアパタイト焼結体が化学結合していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0254】
本発明の複合体は、例えば、医療用材料等に好適に用いることができる。また、例えば、酸化チタンの光触媒効果を利用した建築資材等にも好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0255】
【図1】γ-メタクリル酸オキシプロピルトリエトキシシランをグラフトした水晶振動子のFT−IR測定の測定結果を示す図面である。
【図2】反応時間とγ-メタクリル酸オキシプロピルトリエトキシシランをグラフトした導入量との関係を示す水晶発振子マイクロバランス測定の測定結果を示す図面である。
【図3】アルコキシシリル基を導入した金表面へ吸着したハイドロキシアパタイトの粒子量の時間変化を示す水晶発振子マイクロバランス測定の測定結果を示す図面である。
【図4】複合体の表面の走査型電子顕微鏡画像を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合してなることを特徴とする複合体。
【請求項2】
イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとが化学結合してなることを特徴とする請求項1記載の複合体。
【請求項3】
上記化学結合が、共有結合またはイオン的相互作用による結合であることを特徴とする請求項1記載の複合体。
【請求項4】
上記無機基材は、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナであることを特徴とする請求項1記載の複合体。
【請求項5】
上記金属は、Au、Ag、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Fe、Cr、Coまたはこれらの金属元素を含む合金もしくはこれらの金属元素を含む金属複合材料であることを特徴とする請求項4記載の複合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合体を用いてなることを特徴とする医療用材料。
【請求項7】
リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合してなる複合体の製造方法であって、
イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する無機基材と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとを反応させる反応工程を含むことを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項8】
上記反応工程の前に、無機基材に上記官能基を導入する官能基導入工程を含むことを特徴とする請求項7記載の複合体の製造方法。
【請求項9】
上記官能基導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、上記反応性官能基と無機基材とを反応させることを特徴とする請求項8記載の複合体の製造方法。
【請求項10】
さらに、官能基導入工程の前に、無機基材に活性基を導入する活性基導入工程を含み、
官能基導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、該反応性官能基と上記活性基とを反応させることを特徴とする請求項8記載の複合体の製造方法。
【請求項11】
上記化合物がシランカップリング剤であることを特徴とする請求項10記載の複合体の製造方法。
【請求項12】
上記化合物がシランカップリング剤であり、
上記官能基導入工程は、アルコキシシリル基と反応性官能基とを含む上記化合物を界面活性剤にて保護する保護工程と、
上記保護工程により保護された保護化合物の反応性官能基と、当該反応性官能基と反応可能な無機基材とを、水系溶媒中で反応させることにより無機基材にアルコキシシリル基を導入することを特徴とする請求項10記載の複合体の製造方法。
【請求項13】
上記無機基材が金であり、
上記活性基導入工程では、金−チオール反応によって金に活性基を導入することを特徴とする請求項10記載の複合体の製造方法。
【請求項14】
上記無機基材が銅であり、
上記活性基導入工程では、シランカップリング反応によって銅に活性基を導入することを特徴とする請求項10記載の複合体の製造方法。
【請求項15】
上記反応工程の前に、無機基材にカルボキシル基および/または4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基である官能基を導入する官能基導入工程と、
上記官能基をイオン化させるイオン化工程を含むことを特徴とする請求項7記載の複合体の製造方法。
【請求項16】
リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合してなる複合体の製造方法であって、
反応性官能基を有するリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと、反応性官能基と反応可能な活性基を有する無機基材とを用い、
上記活性基と反応性官能基とを反応させることを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項17】
反応性官能基とイソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物と、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンとを反応させることにより、リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンに反応性官能基を導入することを特徴とする請求項16記載の複合体の製造方法。
【請求項18】
リン酸カルシウムおよび/または酸化チタンと無機基材とが化学結合してなる複合体の製造方法であって、
無機基材と反応可能な反応基を有するリン酸カルシウムおよび/または酸化チタンの当該反応基と上記無機基材とを反応させることを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項19】
上記無機基材は、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナであることを特徴とする請求項7〜18のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項20】
無機基材にイソシアネート基、アルコキシシリル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基が導入されてなることを特徴とする官能基導入無機基材。
【請求項21】
上記無機基材は、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナであることを特徴とする請求項20記載の官能基導入無機基材。
【請求項22】
イソシアネート基、アルコキシシリル基、および4‐メタクリロキシエチルトリメルリテートアンハイドライド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基と、無機基材と反応可能な反応性官能基とを有する化合物を用いて、
上記反応性官能基と無機基材とを反応させることを特徴とする官能基導入無機基材の製造方法。
【請求項23】
上記無機基材に反応性官能基と反応可能な活性基を導入する活性基導入工程を含み、上記反応性官能基と上記活性基とを反応させることを特徴とする請求項22記載の官能基導入無機基材の製造方法。
【請求項24】
上記無機基材は、金属、ガラス、水晶、雲母、セリサイト、カオリン、タルク、アルミナであることを特徴とする請求項22記載の官能基導入無機基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−89778(P2006−89778A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274148(P2004−274148)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】