説明

定着部材の製造方法、定着部材および定着装置

【課題】 軸方向に外径の異なる定着部材において、表面に定着画像の品質を低下させる程度の傷を生じることなく、弾性体層の薄層化を実現する。
【解決手段】 定着部材の製造方法において、樹脂で形成された円筒状の樹脂スリーブが内嵌された円筒状の金型の内部に、樹脂スリーブの内面に沿って、樹脂チューブを配置する工程と、芯金を配置する工程と、液状ゴムを注入する工程と、液状ゴムをゴム硬化させてロール部材を成型する工程と、ロール部材を脱型する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複写機やプリンタ等の画像形成装置において、画像定着を行なう定着装置に用いられる定着部材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた複写機、プリンタ等の画像形成装置では、例えばドラム状に形成された感光体(感光体ドラム)を一様に帯電し、この感光体ドラムを画像情報に基づいて制御された光で露光して感光体ドラム上に静電潜像を形成する。そして、この静電潜像をトナーによって可視像(トナー像)とし、このトナー像を感光体ドラム上から記録紙に転写した後、定着装置によってこのトナー像を記録紙に定着している。
【0003】
かかる画像形成装置に用いられる定着装置は、円筒状の芯金の内部に加熱源を備え、その芯金に耐熱性弾性体層と、その外周面に離型層とが積層して形成された定着ロールと、この定着ロールに対して圧接配置され、芯金に耐熱性弾性体層と、その外周面に耐熱性樹脂被膜あるいは耐熱性ゴム被膜による離型層とが積層して形成された加圧ロールとで構成されている。そして、定着ロールと加圧ロールとの間に、未定着トナー像を担持した記録紙を通過させて、未定着トナー像に対して加熱と加圧とを行うことによって、記録紙にトナー像を定着している。
【0004】
このように、定着装置に用いられる定着ロールや加圧ロールといった定着部材では、特にカラー画像形成装置の普及に伴って、定着画像の画像品質を高めるための弾性体層と、トナーのオフセットを抑えるための離型層とは、必須の構成要素となっている。そして、近年、かかる画像品質の向上およびトナーオフセットの抑制といった観点に加えて、定着ロールを室温から定着可能温度に上昇させるまでの時間(ウォームアップタイム)の短縮化、および低消費電力化に対する要求も大きなものとなっている。そのため、特に定着ロールにおいては、定着ロール内に備えられた加熱源からの熱に対して断熱体として働く弾性体層を、可能な限り薄層に形成することが求められている。
【0005】
ここで、定着ロールの弾性体層を薄層とする従来技術として、肉厚が0.5〜2.5mmの芯金の上に、厚さ0.15〜0.4mm、ゴム硬度1〜45°のゴム層を形成し、この上に20〜50μmの厚さのフッ素樹脂チューブの薄層を形成した定着ロールに関する技術が存在する(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−254278号公報(第3-4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、定着ロールにおいては、記録紙がニップ部を通過する際に、記録紙にしわが生じないように、記録紙に対して幅方向に向かう引張力を作用させるべく、定着ロールの外径が軸方向の中央部で相対的に小さく、両端部にかけて相対的に大きい、所謂「フレア形状」に形成されることが多い。また、定着ロールの製造方法としては、一般的に、円筒状金型の中に芯金を同軸上に設置して、円筒状金型と芯金との間隙にシリコーンゴム等の耐熱性ゴムを注入して、これを硬化させ、冷却して、脱型する方法が採用されている。そして、弾性体層が厚肉に形成される場合には、冷却後の耐熱性ゴムの熱収縮量が大きいことから、脱型する際には、円筒状金型の内面と定着ロールの弾性体層との間には、充分な空隙を確保することができる。そのため、定着ロールを両端部の外径が中央部よりも大きいフレア形状に形成した場合においても、脱型する際に、円筒状金型の内面と成型された弾性体層の両端部表面との間での摺擦は殆ど生じず、両端部表面に引き抜き傷が生じることはなかった。
【0008】
しかしながら、定着ロールの弾性体層の薄層化を図ろうとする場合には、フレア形状の定着ロールでは、冷却後の弾性体層の熱収縮量が小さいために、脱型する際に、円筒状金型の内面と定着ロールの弾性体層との間の空隙を充分に確保することができない。そのため、脱型する際において、円筒状金型の内面と、中央部よりも外径が大きい弾性体層の両端部表面とが摺擦を生じ、定着ロールの両端部表面に引き抜き傷が発生する場合があった。そして、定着ロールの表面にこのような傷が生じると、そこに記録紙上のトナーがオフセットして固着し、それが原因となって、定着画像の品質を低下させる可能性がある。
【0009】
そこで本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、軸方向に外径の異なる定着部材において、表面に定着画像の品質を低下させる程度の傷を生じることなく、弾性体層の薄層化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもと、本発明の定着部材の製造方法は、樹脂で形成された円筒状の樹脂スリーブが内嵌された円筒状の金型の内部に、樹脂スリーブの内面に沿って、樹脂チューブを配置する工程と、樹脂チューブの内部に、金型および樹脂スリーブと同軸に芯金を配置する工程と、芯金と樹脂チューブとの間の間隙に液状ゴムを注入する工程と、液状ゴムをゴム硬化させ、硬化したゴムを介して芯金と樹脂チューブとが接着されたロール部材を成型する工程と、金型より、ロール部材を脱型する工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
ここで、本発明の定着部材の製造方法は、樹脂スリーブと樹脂チューブとの間の間隙を減圧し、樹脂チューブを樹脂スリーブの内面に密着させる工程をさらに含むことを特徴とすることができる。また、樹脂スリーブは、線膨張係数が5×10−5(/℃)以上であることを特徴とすることもでき、特に、樹脂スリーブは、フッ素樹脂で形成することもできる。加えて、樹脂チューブは、内面が接着前処理されていることを特徴とすることもできる。また、液状ゴムは、付加反応型のシリコーンゴムであることを特徴とすることもできる。
【0012】
また、本発明を定着部材として捉え、本発明の定着部材は、円筒状の金型を用いて成型される定着部材であって、芯金と、芯金上に形成された厚さ1mm以下の耐熱性弾性体層と、耐熱性弾性体層の表面に被覆された離型層とを有し、離型層は、表面が算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑面か、または算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑部と、最大高さRmax≦4.0μmの凹部とからなる面で形成されたことを特徴としている。
ここで、耐熱性弾性体層は、厚さが軸方向で異なることを特徴とすることができ、特に、耐熱性弾性体層は、軸方向中央での厚さが相対的に薄く、両端部での厚さが相対的に厚く形成することができる。また、離型層は、厚さを100μm以下に形成することができる。さらに、離型層は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体のいずれかで形成されたことを特徴とすることもできる。
【0013】
さらに、本発明を定着装置として捉え、本発明の定着装置は、記録材に担持されたトナー像を定着する定着装置であって、発熱源を有する定着部材と、定着部材に接触しながら移動可能な加圧部材とを備え、定着部材は、芯金と、芯金上に形成され、厚さが1mm以下であって、軸方向中央での厚さが相対的に薄く、両端部での厚さが相対的に厚く形成された耐熱性弾性体層と、耐熱性弾性体層の表面に被覆され、表面が算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑面か、または算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑部と、最大高さRmax≦4.0μmの凹部とからなる面で形成された離型層とを備えたことを特徴としている。
ここで、加圧部材は、定着部材に接触しながら移動可能なベルト部材と、ベルト部材の内側に配置され、ベルト部材を定着部材に圧接させて定着部材とベルト部材との間に記録材が通過するニップ部を形成する圧力部材とを含むことを特徴とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、フレア形状のような軸方向に外径の異なる定着部材において、表面に定着画像の品質を低下させる程度の傷を生じることなく、弾性体層の薄層化を実現することができる。また、弾性体層の薄層化を実現することにより、ウォームアップタイムの短縮化および低消費電力化を可能とし、それと同時に、高品質な定着画像を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本実施の形態が適用される定着装置を示した概略構成図である。図1に示す定着装置1は、例えば複写機やプリンタ等の電子写真方式の画像形成装置において、記録材(記録紙)である用紙Pに転写されたトナー像を用紙Pに定着する機能を有している。そして、図1に示すように、定着装置1は、回動部材の一例としての定着ロール61、ベルト部材の一例としてのエンドレスベルト62、およびエンドレスベルト62を介して定着ロール61から押圧される圧力部材の一例としての圧力パッド64により主要部が構成されている。
【0016】
定着ロール61は、円筒状ロールであり、回転自在に支持されて所定の表面速度で矢印A方向に回転する。
定着ロール61の内部には、発熱源として、例えば定格600Wのハロゲンヒータ66が配設されている。一方、定着ロール61の表面には温度センサ69が接触して配置されている。画像形成装置の制御部(不図示)は、この温度センサ69による温度計測値に基づいてハロゲンヒータ66の点灯を制御し、定着ロール61の表面温度が所定の設定温度(例えば、175℃)を維持するように調整している。
【0017】
エンドレスベルト62は、継ぎ目がない無端状のベルトであり、エンドレスベルト62の内部に配置された圧力パッド64とベルトガイド部材63、さらにはエンドレスベルト62の両端部に配置されたエッジガイド部材80(後段の図2参照)によって回動自在に支持されている。そして、ニップ部Nにおいて定着ロール61に対して圧接されるように配置され、定着ロール61に従動して回動する。
ここで、図2はエンドレスベルト62が支持される構成を説明する構成図であり、用紙Pの搬送方向下流側から見た定着装置1の一方の端部領域を示している。
図2に示したように、エンドレスベルト62の内部に配置されたホルダ65の両端部には、エッジガイド部材80が配設されている。エッジガイド部材80は、ニップ部Nとその近傍に対応する部分に切り欠きが形成された円筒状、すなわち断面がC形状のベルト走行ガイド部801、このベルト走行ガイド部801の外側に設けられ、エンドレスベルト62の外径よりも大きな外径で形成されたフランジ部802、さらにフランジ部802の外側に設けられ、エッジガイド部材80を定着装置1本体に位置決めして固定するための保持部803で構成されている。
【0018】
そして、エンドレスベルト62の両端部では、ニップ部Nとその近傍を除いて、両端部の内周面がベルト走行ガイド部801の外周面に支持され、エンドレスベルト62はベルト走行ガイド部801の外周面に沿って回動する。したがって、ベルト走行ガイド部801は、エンドレスベルト62がスムーズに回動することができるように摩擦係数の小さな材質で形成され、さらには、エンドレスベルト62から熱を奪い難いように熱伝導率の低い材質で形成されている。
また、フランジ部802は、ホルダ65の両端部において対向するように配置された両フランジ部802の内側面が、エンドレスベルト62の幅と略一致する間隔を持つように配置されている。そして、エンドレスベルト62が回動する際には、エンドレスベルト62の端部がフランジ部802の内側面に当接することによって、エンドレスベルト62の幅方向への移動(ベルトウォーク)が制限されている。このように、エンドレスベルト62は、エッジガイド部材80によって片寄りが規制されるように支持されている。
【0019】
また、エンドレスベルト62の両端部を除く長手方向の領域では、エンドレスベルト62は圧力パッド64とベルトガイド部材63とに支持されている(図1も参照)。そして、エンドレスベルト62の両端部を除く領域では、エンドレスベルト62の内周面が圧力パッド64とベルトガイド部材63とに摺擦しながら回動する。
ベルトガイド部材63は、エンドレスベルト62の内部に配置されたホルダ65に、長手方向に沿って取り付けられている。また、ベルトガイド部材63には、エンドレスベルト62の回転方向に向けて複数のリブが形成され、エンドレスベルト62内周面との接触面積を極力少なくするように構成されている。さらに、ベルトガイド部材63は、エンドレスベルト62がスムーズに回動することができるように摩擦係数が低い材質であって、かつ、エンドレスベルト62から熱を奪い難いように熱伝導率が低い材質で形成されている。具体的にはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)やポリフェニレンサルファイド(PPS)等の耐熱性樹脂が用いられる。
【0020】
次に、圧力パッド64は、エンドレスベルト62の内側において金属製のホルダ65に支持されている。そして、エンドレスベルト62を介して定着ロール61に押圧される状態で配置され、定着ロール61との間でニップ部Nを形成している。圧力パッド64は、ニップ部Nの入口側(上流側)に、幅の広いニップ部Nを確保するためのプレニップ部材64aを配置している。また、ニップ部Nの出口側(下流側)には、定着ロール61表面を局所的に押圧することで、トナー像表面を平滑化して画像光沢を付与するとともに、定着ロール61表面に歪み(凹み)を与えて用紙Pにダウンカールを形成するための剥離ニップ部材64bを配置している。
【0021】
さらに、圧力パッド64には、エンドレスベルト62の内周面と圧力パッド64との摺動抵抗を小さくするために、エンドレスベルト62と接する面に低摩擦部材の一例としての低摩擦シート68が設けられている。
低摩擦シート68は、ニップ部Nの上流側端部が低摩擦シート固定部材68aによってホルダ65に固定されている。そして、エンドレスベルト62の回動方向に沿って、圧力パッド64とエンドレスベルト62内周面との間に挟持された状態で、ニップ部Nの全域に亘って配設されている。なお、低摩擦シート68のニップ部N下流側は、低摩擦シート68に歪みが生じないように、固定されず自由端(フリー)の状態に設定されている。そして、低摩擦シート68は、ニップ部Nにおいて圧力パッド64と定着ロール61との間に押圧力が印加されている状態の下で、エンドレスベルト62内周面と圧力パッド64との摺動抵抗(摩擦抵抗)を低減している。
【0022】
このような構成において、定着ロール61は、図示しない駆動モータに連結されて矢印A方向に回転し、この回転に従動してエンドレスベルト62も定着ロール61と同じ方向に回動する。トナー像が静電転写された用紙Pは、定着入口ガイド56によって導かれて、ニップ部Nに搬送される。そして、用紙Pがニップ部Nを通過する際に、用紙P上のトナー像はニップ部Nに作用する圧力と、定着ロール61から供給される熱とによって定着される。本実施の形態の定着装置1では、ほぼ定着ロール61の外周面に倣う凹形状のプレニップ部材64aによりニップ部Nを広く構成することができるため、安定した定着性能を確保することができる。
【0023】
なお、ニップ部Nの下流側近傍には、剥離ニップ部材64bによって定着ロール61から剥離された用紙Pを完全に定着ロール61から分離し、画像形成装置の排出部へ向かう排紙通路に誘導するための剥離補助部材70が配設されている。剥離補助部材70は、剥離バッフル71が定着ロール61の回転方向と対向する向き(カウンタ方向)に定着ロール61と近接する状態でバッフルホルダ72によって保持されている。
【0024】
次に、定着装置1を構成する各部材について詳細に述べる。まずエンドレスベルト62は、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じないように、原形が円筒形状に形成された継ぎ目がない無端ベルトであり、ベース層と、このベース層の定着ロール61側の面(外周面)または両面に被覆された離型層(表面層)とから構成されている。ベース層は、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等のポリマーが耐熱性、機械特性等の観点から好適に用いられる。その厚さは、30〜200μm、好ましくは50〜125μm、より好ましくは75〜100μm程度に設定される。
【0025】
ベース層の表面に被覆される離型層(表面層)としては、フッ素樹脂が用いられる。ここで、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)、ポリエチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。特に耐熱性、機械特性等の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が好適に用いられる。その厚さは5〜100μm、好ましくは10〜30μm程度に設定される。
本実施の形態の定着装置1では、周長94mm、厚さ75μm、幅320mmの熱硬化性ポリイミドからなるベース層に、厚さ30μmのPFAからなる離型層を積層した構成のエンドレスベルト62を用いている。
【0026】
エンドレスベルト62の内部に配置された圧力パッド64は、上述したように、プレニップ部材64aと剥離ニップ部材64bとで構成され、バネや弾性体によって定着ロール61を、例えば35kgfの荷重で押圧するようにホルダ65に支持されている。プレニップ部材64aには、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の弾性体や板バネ等を用いることができ、定着ロール61側の面は、ほぼ定着ロール61の外周面に倣う凹状曲面で形成されている。本実施の形態の定着装置1では、幅10mm、厚さ5mm、長さ320mmのシリコーンゴムを用いている。
剥離ニップ部材64bは、PPS、ポリイミド、ポリエステル、ポリアミド等の耐熱性を有する樹脂、または鉄、アルミニウム、SUS等の金属で形成されている。剥離ニップ部材64bの形状としては、ニップ部Nにおける外面形状が一定の曲率半径を有する凸状曲面に形成されている。
そして、本実施の形態の定着装置1では、エンドレスベルト62は、圧力パッド64により定着ロール61に約40°の巻き付き角度でラップされ、約10mm幅のニップ部Nを形成している。
【0027】
さらに、ホルダ65には、定着装置1の長手方向に亘って潤滑剤塗布部材67が配設されている。潤滑剤塗布部材67は、エンドレスベルト62内周面に対して接触するように配置され、潤滑剤を適量供給する。これにより、エンドレスベルト62と低摩擦シート68との摺動部に潤滑剤を供給し、低摩擦シート68を介したエンドレスベルト62と圧力パッド64との摺動抵抗をさらに低減して、エンドレスベルト62の円滑な回動を図っている。また、エンドレスベルト62の内周面や低摩擦シート68表面の摩耗を抑制する効果も有している。
【0028】
なお、潤滑剤としては、定着温度環境下での長期使用に対する耐久性を有し、かつ、エンドレスベルト62内周面との濡れ性を維持できるものが適している。例えば、シリコーンオイルやフッ素オイル等の液体状のオイルや、固形物質と液体とを混合させた合成潤滑油グリース等、さらにはこれらを組み合わせたものを用いることができる。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩添加ジメチルシリコーンオイル、ヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩およびヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、有機金属塩添加アミノ変性シリコーンオイル、ヒンダードアミン添加アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、シラノール変性シリコーンオイル、スルホン酸変性シリコーンオイル等を用いることもできる。また、フッ素オイルとしては、パーフルオロポリエーテルオイル、変性パーフルオロポリエーテルオイルを用いることもできる。本実施の形態の定着装置1では、アミノ変性シリコーンオイルを用いている。
【0029】
続いて、定着ロール61について説明する。
本実施の形態の定着ロール61は、図3に示したように、金属製のコア(円筒状芯金)611の周囲に耐熱性弾性体層612、さらには離型層613が積層されて構成されている。そして、コア611は、鉄、アルミニウム(例えば、A−5052)、SUS等の熱伝導率の高い金属で形成された、例えば外径30mm、肉厚1.8mm、長さ360mmの円筒体で形成されている。
耐熱性弾性体層612は、耐熱性の高い弾性体で構成され、特に、ゴム硬度が15〜45°(JIS−A)程度のシリコーンゴム、フッ素ゴム、またはエラストマー等の弾性体が用いられる。このように、定着ロール61において耐熱性弾性体層612を配設するのは、定着が行なわれる用紙P上のトナー像は、粉体であるトナーが積層して形成されているので、ニップ部Nにおいてトナー像の全体にムラなく熱を供給するには、用紙P上のトナー像の凹凸に倣うように定着ベルト62が変形できることが好ましいからである。特に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色トナーが積層されたカラートナー像を定着する際には、耐熱性弾性体層612は、発色性の観点からも重要となる。
【0030】
また、耐熱性弾性体層612は、層厚が1mm以下の薄層に形成されている。ここで、耐熱性弾性体層612の層厚を1mm以下の薄層に形成するのは、以下の理由に基づくものである。すなわち、ゴム、エラストマー等からなる耐熱性弾性体層612は、熱伝導率が低いため、熱伝導に対して抵抗体として作用する。そのため、定着ロール61の内部のハロゲンヒータ66から充分な熱量を供給しても、その熱が定着ロール61表面に素早く伝達されないといった現象が生じる。そこで、本実施の形態の定着ロール61では、かかる耐熱性弾性体層612の薄層化を図っている。耐熱性弾性体層612を薄層に形成することにより、熱伝導に対する抵抗を低減できるので、定着ロール61を室温から定着可能温度に上昇させるまでの時間(ウォームアップタイム)の短縮化、および低消費電力化(省エネルギー化)を実現することが可能となる。
【0031】
さらに、耐熱性弾性体層612の層厚は、軸方向において、中央部で相対的に薄く、両端部で相対的に厚く形成されることで、定着ロール61が所謂「フレア形状」に形成されている。このように、定着ロール61をフレア形状に形成することにより、定着ロール61の表面速度は両端部ほど速くなるため、ニップ部Nを通過する用紙Pの移動速度は両端部ほど相対的に大きくなる。それによって、用紙Pに対して中央部から両端部に向かって幅方向の力が作用することとなる。そして、この幅方向に向かう力が用紙Pを両幅方向に引っ張ることで、用紙Pにおいて紙しわが生じるのを抑制することが可能となる。
【0032】
以上のような観点から、本実施の形態の定着ロール61では、耐熱性弾性体層612がシリコーンゴムで構成され、耐熱性弾性体層612の厚さが、軸方向の中央部で600μm、両端部で650μmの薄層に形成されている。それにより、定着ロール61は、中央部から両端部に向けて外径が直線的に増加する所謂「フレア形状」に形成されている。
【0033】
また、離型層613には、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂等の耐熱性樹脂が用いられるが、トナーに対する離型性や耐摩耗性の観点から、フッ素樹脂が適している。フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が使用できる。
離型層613の厚さに関しては、耐熱性弾性体層612の層厚が1mm以下の薄層に形成されていることから、耐熱性弾性体層612の弾性を低減しないように、離型層613を薄く形成することが必要であり、5〜100μm、特に10〜30μmが好ましい。
【0034】
さらに、本実施の形態の定着ロール61では、上述したように、軸方向において外径が異なるフレア形状で形成されており、また、耐熱性弾性体層612の層厚が1mm以下の薄層に形成されていると同時に、離型層613の表面は、所定値より深い傷(凹部)のない平滑面、具体的には、算術平均粗さRaが0.02μm以下であって、かつ、最大高さRmaxが4.0μmより大きな凹部のない(すなわち、Rmax≦4.0μm)平滑面で形成されている。
なお、ここでの最大高さRmaxとは、JIS−82規格による最低谷底から最大山頂までの高さをいう。また、RmaxおよびRaの計測は、サーフコム表面粗さ測定機(東洋精機社製)を用いて行い、粗さ測定モードは、測定長:2.5mm、カットオフ波長:0.25mm、カットオフ種別:2CR(位相非補償)、傾斜補正:最小二乗直線補正、測定速度:0.06mm/secである。
【0035】
ところで、従来より、定着ロール61の製造方法においては、円筒状金型の中にコア611を同軸上に設置して、円筒状金型とコア611との間隙に付加反応型のシリコーンゴム等の耐熱性ゴムを注入して、これを硬化させ、脱型するといった方法が採られている。このような製造方法では、耐熱性弾性体層612が厚肉に形成される場合には、冷却後の耐熱性弾性体層612の熱収縮量が大きいことから、脱型時において、円筒状金型の内面と、耐熱性弾性体層612表面に被覆された離型層613との間には、充分な空隙を確保することができる。そのため、両端部の外径が中央部よりも大きいフレア形状に形成した場合においても、脱型時に、円筒状金型の内面と、耐熱性弾性体層612表面に被覆された離型層613の両端部表面とが摺擦することは殆ど生じなかった。
【0036】
しかし、耐熱性弾性体層612を層厚が1mm以下の薄層に形成する場合には、冷却後の耐熱性弾性体層612の熱収縮量が小さいために、脱型時に、円筒状金型の内面と耐熱性弾性体層612との間の空隙を充分に確保することはできない。そのため、両端部の外径が中央部よりも大きいフレア形状では、脱型する際に、円筒状金型の内面と、両端部の離型層613とが摺擦してしまい、離型層613の両端部表面における引き抜き傷の発生が不可避であった。このような現象は、軸方向において外径が異なって形成されたロールにおいて一様に発生し、軸方向の中央部で相対的に大きく、両端部にかけて相対的に小さい所謂「クラウン形状」の定着ロール61においても同じである(この場合には、外径の大きな中央部で引き抜き傷が発生する。)。そして、定着ロール61の表面にこのような傷が生じると、そこに用紙Pに担持されたトナーがオフセットして固着し、それが原因となって、定着画像の品質を低下させる場合があった。
【0037】
これに対し、本実施の形態の定着ロール61では、以下に説明する製造方法を用いることによって、軸方向において外径が異なるフレア形状に形成され、耐熱性弾性体層612の層厚が1mm以下の薄層に形成されると同時に、離型層613の表面において、深さが所定値より深い傷(凹部)のない平滑面、具体的には、算術平均粗さRaが0.02μm以下であって、かつ、最大高さRmaxが4.0μmより大きな凹部がない(すなわち、Rmax≦4.0μm)平滑面で形成されていることに特徴がある。従来の製造方法では、上述した理由により、耐熱性弾性体層612の層厚が1mm以下の薄層であって、しかもフレア形状に形成された定着ロール61において、表面の最大高さRmaxが4.0μm以下を満たす平滑面を形成することは困難であった。
このような本実施の形態の定着ロール61により、ウォームアップタイムの短縮化および低消費電力化を実現するとともに、所定の基準を満たす高品質な定着画像を形成することが可能となる。
【0038】
以下に、本実施の形態の定着ロール61の製造方法を説明する。ここで、図4は、定着ロール61の製造装置の概略構成を示す図であり、図4を参照しながら説明する。
(1)まず、図4に示すように、円筒状金型101の内周面に沿って、円筒状金型101の内径よりも若干小さな外径を有する樹脂で形成されたスリーブ(樹脂スリーブ)102を内嵌させて配置する。この樹脂スリーブ102は、例えばフッ素樹脂等の線膨張係数が大きな樹脂で形成されている。この場合、この樹脂スリーブ102は、円筒状金型101と一体的に構成しても、別体に構成して内挿しても、いずれでもよい。
また、円筒状金型101の内径は、中央部で相対的に小さく、両端部に向かうほど直線的に大きくなるように形成されている。したがって、円筒状金型101の内周面に樹脂スリーブ102が内嵌された状態では、樹脂スリーブ102の内径も同様に、中央部で相対的に小さく、両端部に向かうほど直線的に大きくなるように設定される。
【0039】
(2)次に、樹脂スリーブ102の内周面に沿って、樹脂スリーブ102の内径よりも若干小さな外径を有するフッ素樹脂製のチューブ(フッ素樹脂チューブ)103を取り付ける。フッ素樹脂チューブ103の外径は、樹脂スリーブ102の内径と同等〜樹脂スリーブ102の内径の約90%の間に形成することが好ましい。フッ素樹脂チューブ103の外径が樹脂スリーブ102の内径よりも大きい場合には、シワの発生の原因となり、その一方で、樹脂スリーブ102の内径よりも小さ過ぎる場合には、樹脂スリーブ102の内周面に取り付ける際に破れたり、後述する成型後のシリコーンゴムの層厚が不均一となるからである。
また、フッ素樹脂チューブ103の内周面には、後述するシリコーンゴムとの接着性を向上させるため、エッチング処理やプラズマ加工処理等の接着前処理が施されている。
【0040】
(3)そして、取り付けられたフッ素樹脂チューブ103内に円筒状芯金104を介挿して、円筒状金型101および樹脂スリーブ102と同軸上に設置する。円筒状芯金104の表面は、後述するシリコーンゴムとの接着性を向上させるため、表面をブラスト処理したり、接着剤をコートすることもできる。
(4)続いて、樹脂スリーブ102とフッ素樹脂チューブ103との間の空気を吸引して抜き取り、樹脂スリーブ102とフッ素樹脂チューブ103との間を大気圧〜0.1Torrの間の適切な圧力に設定する。
樹脂スリーブ102とフッ素樹脂チューブ103との間の空気を吸引する際には、円筒状金型101および樹脂スリーブ102の軸方向端部側面に空気抜き穴105を設け、この空気抜き穴105からパイプ106を介して空気を吸引する。空気抜き穴105は1ヶ所でもよいが、2ヶ所以上設けることが望ましい。これは、フッ素樹脂チューブ103を樹脂スリーブ102内周面にしっかりと固定するためである。
【0041】
(5)樹脂スリーブ102とフッ素樹脂チューブ103との間の空気を吸引した後、0〜10秒の間の所定の時間の後に、フッ素樹脂チューブ103の一端から、円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙107の空気を吸引して抜き取り、樹脂スリーブ102とフッ素樹脂チューブ103との間の圧力と同じか、またはそれよりも大きな適切な圧力(大気圧〜0.1Torrの間の圧力)に設定する。
(6)円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙の空気を吸引した後、0〜10秒の間の所定の時間の後に、空気を吸引した端部とは反対側のフッ素樹脂チューブ103の他端から、円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙107に、付加反応型のシリコーンゴムが、材料加圧力である0.1〜5MPaの間の適切な圧力によって注入される。
付加反応型のシリコーンゴムを用いるのは、樹脂スリーブ102の内部で加硫するため、気体発生の無いものが好ましいからである。また、シリコーンゴムの粘度は、高すぎると、円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙に注入できない場合もあるため、1000Pa・s以下であることが好ましい。
【0042】
(7)円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙107に注入されたシリコーンゴムを、加硫温度(100〜140℃)まで加熱し、加硫して、シリコーンゴムを硬化する。これによって、シリコーンゴムを介して円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103とが一体的に接着される。
(8)その後、冷却する。これによって、円筒状芯金104とシリコーンゴムとフッ素樹脂チューブ103とが一体化したロールが成型される。その際、上述したように、樹脂スリーブ102の内径は、中央部で相対的に小さく、両端部に向かうほど直線的に大きくなるように設定されているので((1)参照)、シリコーンゴムの外径は、中央部で小さく、両端部に向かうほど直線的に大きく形成される。そのため、ロールは所謂「フレア」形状に形成される。
(9)そして、成型されたロールを、円筒状金型101および樹脂スリーブ102から脱型する。なお、円筒状芯金104は定着ロール61のコア611、硬化したシリコーンゴムは耐熱性弾性体層612、さらにフッ素樹脂チューブ103は離型層613を構成する。
【0043】
このように、本実施の形態の定着ロール61の製造方法では、円筒状金型101の内周面に沿って、円筒状金型101の内径よりも若干小さな外径を有する樹脂で形成された樹脂スリーブ102を内嵌させて配置している点に特徴がある。樹脂スリーブ102を円筒状金型101の内部に内嵌させることにより、円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙107に注入されたシリコーンゴムを、加硫温度まで加熱した際には(上記した(7))、樹脂スリーブ102が熱膨張する。すると、樹脂スリーブ102は、内周面側(円筒状芯金104側)に拡がって、円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙107を画定し、それによってシリコーンゴムの層厚が設定される。すなわち、円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙107は、加硫温度における樹脂スリーブ102の熱膨張を想定して予め設定される。そして、加硫温度状態における円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙107によって、シリコーンゴムの層厚が設定されることとなる。
【0044】
そして、これを冷却すると(上記した(8))、樹脂スリーブ102は元の内径に収縮する。その一方で、シリコーンゴムの層厚に関しては、加硫温度状態における円筒状芯金104とフッ素樹脂チューブ103との間の間隙107によって定まった状態で硬化する。そのため、冷却した後には、シリコーンゴムに接着されたフッ素樹脂チューブ103と樹脂スリーブ102との間には、充分な空隙が生じることとなる。
そして、フッ素樹脂チューブ103と樹脂スリーブ102との間に、充分な空隙が生じるので、ロールはフレア形状に形成されてはいるが、ロールの最も外径の大きな部分、すなわちロールの両端部領域が、樹脂スリーブ102の最も内径の小さな領域である中央部と、擦れることなく通過することができる。そのため、上述した(9)におけるロールの脱型の際にも、ロールの表面(フッ素樹脂チューブ103表面)が、樹脂スリーブ102と摺擦することはない。したがって、脱型時において、ロールの表面(フッ素樹脂チューブ103表面)においては、最大高さRmaxが4.0μmよりも大きくなるような引き抜き傷の無い平滑な面を形成することが可能となる。
【0045】
このように、本実施の形態の定着ロール61の製造方法では、円筒状金型101の内周面に樹脂スリーブ102を内嵌させることで、冷却時にはこの樹脂スリーブ102において充分な熱収縮を生じさせることができる。そのため、定着ロール61の耐熱性弾性体層612を薄層化した場合においても、冷却後に、定着ロール61と樹脂スリーブ102との間に、樹脂スリーブ102の内面と、定着ロール61の両端部の離型層613とが摺擦しないだけの充分な空隙を生じさせることができる。これによって、定着ロール61表面が円筒状金型101に引き抜き傷が生じるのを抑制することを可能としている。
【0046】
したがって、樹脂スリーブ102は、冷却時に充分な熱収縮量を得ることができるように形成される。すなわち、定着ロール61の外径のフレア量(軸方向端部と中央部との半径差)が、例えば50μmである場合には、樹脂スリーブ102は、加硫温度から常温までの冷却によって、内径換算で100μm以上収縮するように構成する必要がある。そのため、樹脂スリーブ102としては、線膨張係数が大きな材質を用いることが好ましい。特に、線膨張係数としては、5×10−5(/℃)以上が好ましい。5×10−5(/℃)以上の線膨張係数では、一般的に定着ロール61の外径が30mm、加硫温度が100〜140℃程度であって、定着ロール61のフレア量が50μm程度を想定した場合に、収縮量が内径換算で100μm以上となるように設定することができるからである。
さらに、樹脂スリーブ102に用いられる材質としては、フッ素樹脂が好ましい。これは、フッ素樹脂は滑り性が良好で、摺擦しても傷が付き難いことや、線膨張係数が10〜12×10−5(/℃)と大きいことによる。
なお、線膨張係数が5×10−5(/℃)よりも小さな材質であっても、樹脂スリーブ102の肉厚を大きく形成することで、熱収縮量を充分に大きくすることもできる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例およびこれに対する比較例に基づき、本実施の形態の定着ロール61の製造方法を具体的に説明する。なお、本実施の形態の定着ロール61の製造方法は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
押し出し法により、PFA(三井デュポンフロロケミカル(株)製:テフロン(登録商標)HP−450−J)を用いて、外径φ35.5mm、内径φ31.5mm(肉厚2mm)の樹脂スリーブを得た。この樹脂スリーブを内径φ35.55mmの鉄材(S45C)金型に内嵌した。次に、PFA(三井デュポンフロロケミカル(株)製:テフロン(登録商標)HP−450−J)で形成され、内周面に接着処理が施された外径φ30.17mm、肉厚30μmのフッ素樹脂チューブを樹脂スリーブの内周面に装着した。そして、フッ素樹脂チューブと樹脂スリーブとの間を減圧して、フッ素樹脂チューブを樹脂スリーブ内周面に拡張した。
【0048】
樹脂スリーブ内に、表面に接着処理が施された外径φ29.84mmのアルミニウム製(A−5052)芯材を挿入して、同軸に設置した。そして、アルミニウム製芯材とフッ素樹脂チューブとの間隙に、粘度200Pa・sの付加反応型液状シリコーンゴムを4MPaの圧力で注入した。その後、120℃にて1時間の加硫反応を行なった。
これを冷却した後、アルミニウム製芯材と一体化したシリコーンゴムおよびフッ素樹脂チューブからなる定着ロールを、樹脂スリーブより脱型を行なった。
その結果、定着ロールの弾性層の厚さを600μmの薄層に形成することができた。その際に、定着ロールの脱型は容易であって、定着ロールの表面には引き抜き傷の無い平滑な面を形成することができた。
【0049】
(実施例2)
押し出し法により、PFA(三井デュポンフロロケミカル(株)製:テフロン(登録商標)HP−450−J)を用いて、外径φ35.5mm、内径φ31.5mm(肉厚2mm)の樹脂スリーブを得た。この樹脂スリーブを鉄材(S45C)金型に内嵌した。この鉄材金型は、中央部の内径がφ35.55mm、両端部の内径がφ35.65mmであって、中央部から両端部に向けて直線的に内径が大きくなって形成されている。次に、PFA(三井デュポンフロロケミカル(株)製:テフロン(登録商標)HP−450−J)で形成され、内周面に接着処理が施された外径φ30.17mm、肉厚30μmのフッ素樹脂チューブを樹脂スリーブの内周面に装着した。そして、フッ素樹脂チューブと樹脂スリーブとの間を減圧して、フッ素樹脂チューブを樹脂スリーブ内周面に拡張した。
【0050】
樹脂スリーブ内に、表面に接着処理が施された外径φ29.84mmのアルミニウム製(A−5052)芯材を挿入して、同軸に設置した。そして、アルミニウム製芯材とフッ素樹脂チューブとの間隙に、粘度200Pa・sの付加反応型液状シリコーンゴムを4MPaの圧力で注入した。その後、120℃にて1時間の加硫反応を行なった。
これを冷却した後、アルミニウム製芯材と一体化したシリコーンゴムおよびフッ素樹脂チューブからなる定着ロールを、樹脂スリーブより脱型を行なった。
その結果、定着ロールの弾性層の厚さが、両端部で650μm、中央部で600μmの薄層であって、中央部から両端部に向けて直線的に厚くなったフレア形状に形成することができた。その際に、定着ロールの脱型はやや抵抗はあったが問題の無い程度に容易であって、定着ロールの表面には引き抜き傷の無い平滑な面を形成することができた。
【0051】
(比較例1)
内径φ31.15mmの鉄材(S45C)金型に、PFA(三井デュポンフロロケミカル(株)製:テフロン(登録商標)HP−450−J)で形成され、内周面に接着処理が施された外径φ31.1mm、肉厚30μmのフッ素樹脂チューブを鉄材金型の内周面に装着した。そして、フッ素樹脂チューブと鉄材金型との間を減圧して、フッ素樹脂チューブを鉄材金型内周面に拡張した。
【0052】
鉄材金型内に、表面に接着処理が施された外径φ29.84mmのアルミニウム製(A−5052)芯材を挿入して、同軸に設置した。そして、アルミニウム製芯材とフッ素樹脂チューブとの間隙に、粘度200Pa・sの付加反応型液状シリコーンゴムを4MPaの圧力で注入した。その際、注入に時間がかかり、圧力を8MPaに上げざるを得なかった。その後、120℃にて1時間の加硫反応を行なった。
これを冷却した後、アルミニウム製芯材と一体化したシリコーンゴムおよびフッ素樹脂チューブからなる定着ロールを、樹脂スリーブより脱型を行なった。
その結果、定着ロールの弾性層の厚さを600μmの薄層に形成することができたが、定着ロールの脱型は抵抗が大きく、定着ロールの表面には引き抜き方向の傷が無数に発生していた。
【0053】
(比較例2)
鉄材(S45C)金型に、PFA(三井デュポンフロロケミカル(株)製:テフロン(登録商標)HP−450−J)で形成され、内周面に接着処理が施された外径φ30.17mm、肉厚30μmのフッ素樹脂チューブを鉄材金型の内周面に装着した。そして、フッ素樹脂チューブと鉄材金型との間を減圧して、フッ素樹脂チューブを鉄材金型内周面に拡張した。ここで、この鉄材金型は、中央部の内径がφ31.15mm、両端部の内径がφ31.25mmであって、中央部から両端部に向けて直線的に内径が大きくなって形成されている。
【0054】
鉄材金型内に、表面に接着処理が施された外径φ29.84mmのアルミニウム製芯材(A−5052)を挿入して、同軸に設置した。そして、アルミニウム製芯材とフッ素樹脂チューブとの間隙に、粘度200Pa・sの付加反応型液状シリコーンゴムを4MPaの圧力で注入した。その際、注入に時間がかかり、圧力を8MPaに上げざるを得なかった。その後、120℃にて1時間の加硫反応を行なった。
これを冷却した後、アルミニウム製芯材と一体化したシリコーンゴムおよびフッ素樹脂チューブからなる定着ロールを、樹脂スリーブより脱型を行なった。
その結果、定着ロールの弾性層の厚さが、両端部で700μm、中央部で650μmの薄層であって、中央部から両端部に向けて直線的に厚くなったフレア形状に形成されたが、定着ロールの脱型は抵抗が大きく、全く脱型することができなかった。
【0055】
続いて、定着ロール61の表面を最大高さRmaxに関して4.0μm以下に形成する必要性について述べる。
上述したように、定着ロール61の表面に傷が生じると、そこに用紙Pに担持されたトナーがオフセットして固着し、それが原因となって、定着画像の品質を低下させることとなる。具体的には、定着ロール61の表面の傷の部分にオフセットして固着したトナーに、用紙P上のトナーがさらに吸着されて、これが定着動作中に用紙P上に再度転写されて、定着画像を汚してしまうという現象が生じる。
そこで、定着ロール61の表面に生じた傷の深さ、すなわち最大高さRmaxの異なる定着ロール61を用いて、定着画像の汚れの程度を評価した。図5は、最大高さRmaxと定着画像の汚れとを比較した図である。図5に示すように、最大高さRmaxが4.0μm以下である場合には、定着画像には目立った汚れは生じておらず、高品質な定着画像を得ることができた。その一方で、Rmaxが4.0μmを超えると、定着画像には傷の部分の形状に倣った汚れが目立ち始め、Rmaxが5.0μmを超えると、定着画像の汚れは看過できないレベルとなった。
このような結果から、定着ロール61の表面を最大高さRmaxに関してRmax≦4.0μmに形成する必要があり、上述した本実施の形態の製造方法を用いることにより、これを実現することが可能となる。
【0056】
なお、定着ロール61の表面における凹部以外の平滑部の表面粗さとしては、算術平均粗さはRa≦0.02μmに形成されている。すなわち、定着ロール61の表面は、離型層613を構成するフッ素樹脂チューブ103の本来の表面の算術平均粗さであるRa≦0.02μmに形成されている。そして、本実施の形態の製造方法により、かかる本来の表面の算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑面に、最大高さRmaxが4.0μmより大きな傷(凹部)が形成されないように、定着ロール61を形成することが可能となる。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態の製造方法により形成された定着ロール61は、軸方向において外径が異なるフレア形状に形成され、耐熱性弾性体層612の層厚が1mm以下の薄層に形成されると同時に、離型層613の表面は、算術平均粗さRa≦0.02μmであって、かつ、最大高さRmaxが4.0μmより大きな凹部がない(すなわち、Rmax≦4.0μm)平滑面で形成されている。このような本実施の形態の定着ロール61により、ウォームアップタイムの短縮化および低消費電力化を実現するとともに、所定の基準を満たす高品質な定着画像を形成することが可能となる。
【0058】
ここで、本実施の形態の定着ロール61の製造方法においては、円筒状金型101の内周面に沿って、円筒状金型101の内径よりも若干小さな外径を有する樹脂で形成された樹脂スリーブ102を内嵌させて配置している。これにより、脱型させる際には、樹脂スリーブ102が充分に熱収縮するので、定着ロール61の耐熱性弾性体層612を薄層化したフレア形状に形成した場合においても、定着ロール61と樹脂スリーブ102との間に空隙を生じさせることができる。そのため、定着ロール61表面が円筒状金型101に摺擦して引き抜き傷が生じるのを抑制し、定着ロール61の表面において、算術平均粗さRa≦0.02μmであって、かつ、最大高さRmaxが4.0μmより大きな凹部がない(すなわち、Rmax≦4.0μm)平滑面を形成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の活用例として、電子写真方式を用いた複写機、プリンタ等の画像形成装置への適用、例えば記録紙(用紙)上に担持された未定着トナー像を定着する定着装置への適用がある。また、インクジェト方式を用いた複写機、プリンタ等の画像形成装置への適用、例えば記録紙(用紙)上に担持された未乾燥インク像を乾燥する定着装置への適用がある。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の定着装置を示した概略構成図である。
【図2】エンドレスベルトが支持される構成を説明する図である。
【図3】定着ロールの構成を説明する断面図である。
【図4】定着ロールの製造装置の概略構成を示す図である。
【図5】最大高さRmaxと定着画像の汚れとを比較した図である。
【符号の説明】
【0061】
1…定着装置、61…定着ロール、611…コア、612…耐熱性弾性体層、613…離型層、62…エンドレスベルト、63…ベルトガイド部材、64…圧力パッド、64a…プレニップ部材、64b…剥離ニップ部材、65…ホルダ、66…ハロゲンヒータ、67…潤滑剤塗布部材、68…低摩擦シート、69…温度センサ、70…剥離補助部材、101…円筒状金型、102…樹脂スリーブ、103…フッ素樹脂チューブ、104…円筒状芯金、105…空気抜き穴、106…パイプ、107…間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で形成された円筒状の樹脂スリーブが内嵌された円筒状の金型の内部に、当該樹脂スリーブの内面に沿って、樹脂チューブを配置する工程と、
前記樹脂チューブの内部に、前記金型および前記樹脂スリーブと同軸に芯金を配置する工程と、
前記芯金と前記樹脂チューブとの間の間隙に液状ゴムを注入する工程と、
前記液状ゴムをゴム硬化させ、当該硬化したゴムを介して前記芯金と前記樹脂チューブとが接着されたロール部材を成型する工程と、
前記金型より、前記ロール部材を脱型する工程と
を含むことを特徴とする定着部材の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂スリーブと前記樹脂チューブとの間の間隙を減圧し、当該樹脂チューブを当該樹脂スリーブの内面に密着させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の定着部材の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂スリーブは、線膨張係数が5×10−5(/℃)以上であることを特徴とする請求項1記載の定着部材の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂スリーブは、フッ素樹脂で形成されたことを特徴とする請求項1記載の定着部材の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂チューブは、内面が接着前処理されていることを特徴とする請求項1記載の定着部材の製造方法。
【請求項6】
前記液状ゴムは、付加反応型のシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1記載の定着部材の製造方法。
【請求項7】
円筒状の金型を用いて成型される定着部材であって、
芯金と、
前記芯金上に形成された厚さ1mm以下の耐熱性弾性体層と、
前記耐熱性弾性体層の表面に被覆された離型層とを有し、
前記離型層は、表面が算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑面か、または算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑部と、最大高さRmax≦4.0μmの凹部とからなる面で形成されたことを特徴とする定着部材。
【請求項8】
前記耐熱性弾性体層は、厚さが軸方向で異なることを特徴とする請求項7記載の定着部材。
【請求項9】
前記耐熱性弾性体層は、軸方向中央での厚さが相対的に薄く、両端部での厚さが相対的に厚く形成されたことを特徴とする請求項8記載の定着部材。
【請求項10】
前記離型層は、厚さが100μm以下に形成されたことを特徴とする請求項7記載の定着部材。
【請求項11】
前記離型層は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体のいずれかで形成されたことを特徴とする請求項7記載の定着部材。
【請求項12】
記録材に担持されたトナー像を定着する定着装置であって、
発熱源を有する定着部材と、
前記定着部材に接触しながら移動可能な加圧部材とを備え、
前記定着部材は、
芯金と、
前記芯金上に形成され、厚さが1mm以下であって、軸方向中央での当該厚さが相対的に薄く、両端部での当該厚さが相対的に厚く形成された耐熱性弾性体層と、
前記耐熱性弾性体層の表面に被覆され、表面が算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑面か、または算術平均粗さRa≦0.02μmの平滑部と、最大高さRmax≦4.0μmの凹部とからなる面で形成された離型層と
を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項13】
前記加圧部材は、前記定着部材に接触しながら移動可能なベルト部材と、当該ベルト部材の内側に配置され、当該ベルト部材を当該定着部材に圧接させて当該定着部材と当該ベルト部材との間に前記記録材が通過するニップ部を形成する圧力部材とを含むことを特徴とする請求項12記載の定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−71962(P2006−71962A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255171(P2004−255171)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】