説明

導電性接着剤、電極の接続構造及び電子機器

【課題】酸化防止皮膜としての有機膜を備える接続用電極を接続する導電性接着剤に関するものであり、製造工程を簡素化できるとともに、安価に、かつ信頼性の高い接続構造を構成できる導電性接着剤を提供する。
【解決手段】第1の接続用電極と第2の接続用電極とを接続する導電性接着剤であって、熱硬化性樹脂を含む接着剤成分と、導電性粒子と、少なくとも上記接続用電極の一方に形成されるとともに、水溶性プリフラックス処理によって形成された有機膜を分解する有機膜分解成分とを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、第1の電極と第2の電極とを電気的に接続する導電性接着剤、この導電性接着剤を用いた電極接続構造及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、高機能化の流れの中で、構成部品(たとえば、液晶製品における電子部品)内の接続端子の微小化が進んでいる。このため、エレクトロニクス実装分野においては、そのような端子間の接続を容易に行える導電性接着剤として、フィルム状の接着剤が広く使用されている。たとえば、銅電極からなる接続用電極が設けられたフレキシブルプリント配線板(FPC)やリジッドプリント配線板(PWB又はPCB)等のプリント配線板と、銅電極等の接続用電極が形成されたガラス基板等の配線板間の接続や、プリント配線板とICチップ等の電子部品の接続に、上記導電性接着剤が使用されている。
【0003】
上記導電性接着剤は、絶縁性の樹脂組成物中に、導電性粒子を、配向分散させた異方導電性を有する接着剤である。上記導電性接着剤は、被接着部材同士の間に挟まれ、加熱、加圧される。加熱、加圧により接着剤中の樹脂が流動し、電極表面を封止すると同時に、導電性粒子の一部が対峙する電極間に噛み込まれて電気接続が達成された状態で接着される。従来、プリント配線板等に設けられる接続用電極の表面には、酸化防止及び導電性の確保を目的として金メッキが施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−79568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の手法においては、銅等で形成された接続用電極の表面にニッケルメッキ層を形成した上に、上記金メッキ層が形成される。このため、電極の製造工程が複雑になるとともに、上記電極を有する配線板及びこれら配線板を有する電子機器の製造コストが増大するという問題がある。
【0006】
接続用電極に上記金メッキを施さない場合は、電極を構成する銅等の配線基材が露出するため酸化しやすく、電極を接続する際の障害になる。このため、上記金メッキに代えて、酸化防止用の有機膜が形成されることが多い。上記有機膜は、接続用電極の表面に水溶性プリフラックス処理(OSP処理:Organic Solderability Preservation)を施すことにより形成される。上記水溶性プリフラックスは、アゾール化合物を含有する酸性水溶液であり、電極表面との間に錯体が形成された状態で有機膜が形成される。
【0007】
一方、電子部品を配線板の電子部品接続用電極に接続する電子部品接続工程において、半田リフロー処理が採用されることが多い。半田リフロー処理は、鉛フリー半田を配線板の電子部品接続電極表面に塗着等して電子部品を載置し、リフロー炉に入れることにより行われる。その後、上記電子部品を接続した上記配線板の接続用電極に、配線用のフレキシブルプリント配線板等の接続電極が上記導電性接着剤を用いて接続される。この場合、図7に示すように、上記導電性接着剤9中の導電性粒子8が、上記接続用電極2,10の表面に形成された上記有機膜6,11を突き破るようにして電気的接続が行われる。
【0008】
ところが、上記半田リフロー処理において、上記有機膜6に熱が作用して硬質化することが多い。このため、上記導電性接着剤9中の導電性粒子8が上記有機膜6を突き破ることができなくなり、接続不良が生じる恐れがある。一方、上記有機膜6を形成しない場合、接続用電極6の表面が酸化して接続不良等が発生することになる。
【0009】
本願発明は、上記問題を解決するために案出されたものであり、酸化防止皮膜としての有機膜を備える接続用電極を、導電性接着剤を用いて接続することにより、製造工程を簡素化できるとともに、安価に、かつ信頼性の高い電極接続構造を構成することができる、電極接続方法、電極接続構造、これに用いる導電性接着剤及び電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に記載した発明は、第1の接続用電極と、第2の接続用電極とを、これら電極間に介挿される導電性接着剤を介して接続する電極の接続方法であって、少なくとも上記第1の接続用電極の表面に有機膜を設ける有機膜形成工程と、上記第1の接続用電極と上記第2の接続用電極とを、上記導電性接着剤を介して接続する電極接続工程とを含み、上記電極接続工程において、上記導電性接着剤に配合された有機膜分解成分を、上記有機膜に作用させることにより、上記有機膜を分解させてこれら接続用電極間の接続を行うものである。
【0011】
本願発明では、導電性接着剤に有機膜分解成分を配合しているため、電極接続の際に上記有機膜の一部又は全部を分解して接続を行うことができる。このため、導電性接着剤中の導電性粒子を、上記有機膜を突き破って電極に食い込ますことが容易となり、接続用電極間同士の電気的接続を確実に行うことができる。
【0012】
特に、請求項2に記載した発明のように、上記第1の接続用電極が、電子部品を搭載する配線板に形成されているとともに、上記有機膜形成工程の後に、上記電子部品を、半田リフロー処理によって上記配線板に接続する電子部品接続工程を含む場合、上記有機膜が硬質化していることが多い。
【0013】
本願発明を採用することにより、硬質化した有機膜が存在する場合においても、この有機膜を分解し、あるいは、硬質化した有機膜の一部を分解して強度を低下させることができる。このため、上記接続用電極間の接続を確実に行うことが可能となる。
【0014】
しかも、有機膜によって接続用電極の酸化を防止できるため、従来の金メッキを施す場合と比べて、電気機器等の製造コストを大幅に低減させることができる。
さらに、半田リフロー工程を非酸化性雰囲気下で行うことにより、この工程中の電極の酸化を防止して、上記接続用電極間の接続をより確実に行うことができる。
【0015】
酸化防止用の有機膜を備えていれば、本願発明に係る接続方法が適用される電極及びこの電極を設けた配線板等は特に限定されることはない。たとえば、プリント配線板等に設けられた電極のみならず、電子部品の電極を接続する場合に本願発明に係る電極の接続方法を適用できる。
【0016】
また、半田リフロー処理を行って、上記有機膜が硬質化した電極のみならず、半田リフロー処理を行わない配線板や電子部品の接続電極の接続に対して本願発明を適用することができる。電極接続の際に、上記有機膜の強度を低下させることができるため、有機膜の厚さを大きく設定して、耐酸化性を高めた有機膜を採用することも可能となる。
【0017】
本願発明に係る電極の接続方法を適用できる有機膜の種類は特に限定されることはない。上記水溶性プリフラックス処理は、たとえば、アゾール化合物を含有する酸性水溶液を作用させることにより行われる。上記アゾール化合物として、イミダゾール、2−ウンデシルイイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2,2,4ジフェニルイミダゾール、トリアゾール、アミノトリアゾール、ピラゾール、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、2−ブチルベンゾイミダゾール、2−フェニルエチルベンゾイミダゾール、2−ナフチルベンゾイミダゾール、5−ニトロ−2−ノニルベンゾイミダゾール、5−クロロ−2−ノニルベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、カルボキシルベンゾトリアゾール等のアゾール化合物を採用することができる。
【0018】
さらに、2−フェニル−4−メチル−5−ベンジルイミダゾール、2,4−ジフェニルイミダゾール、2,4−ジフェニル−5−メチルイミダゾール等の2−フェニルイミダゾール類、5−メチルベンゾイミダゾール、2−アルキルベンゾイミダゾール、2−アリールベンゾイミダゾール、2−フェニルベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール類から選ばれる少なくとも1つの有機化合物を含む有機膜は、耐熱性が高いため、酸化防止機能が高く好適である。
【0019】
上記有機膜の平均厚みは、0.05μm以上であることが好ましい。有機膜の平均厚みが、0.05μm未満の場合は、有機膜の酸化防止機能を確保しにくく、接続電極の表面が酸化される恐れがある。一方、本願発明では、電極接続時に有機膜を分解できるため、電極の酸化を確実に防止できる厚みの大きな有機膜を採用することも可能となる。
【0020】
請求項3に記載した発明のように、上記有機膜分解成分として、カルボキシル基、メルカプト基、スルホ基のうち、少なくとも1つを有する樹脂成分を採用するのが好ましい。
【0021】
上記カルボキシル基を有する樹脂成分として、たとえば、メタクリル樹脂(アクリル樹脂)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、カルボキシル基含ブタジエンニトリルゴム等を採用することができる。また、メルカプト基、スルホ基を有する樹脂成分として、たとえば、メルカプト基含有ポリビニルアルコール、スルホ基含有ポリビニルアルコール等を採用することができる。上記カルボキシル基、メルカプト基、スルホ基は、電極接続工程において、電極表面に存在する有機膜に作用し、有機膜を分解する。
【0022】
また、請求項4に記載した発明のように、加熱によってカルボキシル基が生成される樹脂成分を配合することもできる。たとえば、導電性接着剤の基材としてエポキシ樹脂を採用する場合、酸無水物系の硬化剤を採用するとともに、加熱することにより、カルボキシル基を生成させることができる。カルボン酸無水物は、2分子のカルボン酸を脱水縮合させた化合物であり、カルボキシル基を備える。無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸等のカルボン酸無水物を含む硬化剤を採用するとともに、接着工程において、これら接着材を加熱し、生成したカルボキシル基を有機膜に作用させて分解することができる。
【0023】
さらに、上記カルボン酸無水物を含む樹脂成分を採用する場合、三級アミン類、イミダゾール類を含む樹脂成分を配合することにより、カルボキシル基の生成反応を促進することができる。
【0024】
請求項5に記載した発明は、第1の接続用電極と第2の接続用電極とを、導電性接着剤を介して接続した電極の接続構造であって、少なくとも上記第1の接続用電極に設けられた有機膜と、上記接続用電極間に設けられる導電性接着剤層を備えるとともに、上記導電性接着剤層中に上記有機膜分解成分を含むものである。
【0025】
上記導電性接着剤は、請求項6に記載した発明のように、熱硬化性樹脂を含む接着剤成分と、導電性粒子と、接続用電極に形成された有機膜を分解する有機膜分解成分とを含んで構成することができる。
【0026】
上記接着剤成分として、熱硬化性樹脂を主成分とし、これに硬化剤、各種フィラーを添加したものを採用できる。上記熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂等を採用できる。
【0027】
請求項7に記載した発明のように、上記有機膜分解成分として、カルボキシル基を有する樹脂成分を採用するのが好ましい。カルボキシル基が酸として作用し、上記有機膜を分解することができる。なお、上記有機膜が完全に分解される必要はなく、導電性粒子が突き破ることができる程度に、有機膜の膜強度を低下させれば足りる。
【0028】
また、請求項8に記載した発明のように、上記導電性接着剤を、上記有機膜分解成分が加熱によって生成される樹脂成分を含んで構成することができる。例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸等のカルボン酸無水物を含む樹脂成分を採用できる。
【0029】
上記導電性粒子の形態も特に限定されることはない。例えば、請求項9に記載した発明のように、微細な金属粒子が多数、直鎖状に繋がった形状、又は針形状を有する金属粉末からなる導電性粒子を採用するのが好ましい。
【0030】
この形態の導電性粒子を採用することにより、導電性接着剤層の接合面方向においては、隣り合う電極間の絶縁を維持して短絡を防止しつつ厚み方向においては、多数の上記導電性粒子を介して電気的接続を確保することができる。このため、接続電極間の電気的接続の信頼性が向上する。
【0031】
また、請求項10に記載した発明のように、アスペクト比が5以上の導電性粒子を採用するのが好ましい。なお、本請求項におけるアスペクト比とは、導電性粒子の平均短径と平均長径の比のことをいう。
【0032】
アスペクト比が5以上の導電性粒子を採用すると、導電性接着剤を使用する場合に、電極に対する接触確率が高くなる。その結果、導電性粒子の配合量を増やすことなく、電極の電気的接続を確保することができる。
【0033】
上記導電性接着剤の形態も特に限定されることはない。たとえば、流動性のある液状の導電性接着剤を採用し、電極に塗着することにより上記接着剤層を構成することができる。
【0034】
また、請求項11に記載した発明のように、フィルム状の導電性接着剤を採用することができる。
【0035】
フィルム状の導電性接着剤を採用することにより、取り扱いが容易になるとともに、上記接着剤を介して、加熱圧縮処理を行うことにより、電極を接続する際の作業性が向上する。
【0036】
請求項12に記載した発明は、上記有機膜分解成分を、上記フィルム状接着剤の少なくとも上記有機膜に対接させられる部分に偏在させたものである。
【0037】
上記有機膜に対接させられる部分に上記有機膜分解成分を偏在させることにより、上記有機膜を効率よく分解することができる。
【0038】
上記有機膜分解成分を上記有機膜に対接させられる部分に偏在させる手法は特に限定されることはない。例えば、エポキシ樹脂を主剤とするフィルム状接着剤を採用する場合、有機膜に対接する面に、上記有機膜分解成分を有する樹脂フィルムを積層して、多層フィルム状の導電性接着剤を構成することができる。
【0039】
また、フィルム状導電性接着剤の有機膜に対接させられる面に、上記有機膜分解成分を含む樹脂を塗着して、有機膜分解成分を有機膜対接面に偏在させることができる。さらに、有機膜対接面近傍における上記有機膜分解成分の濃度が高くなるように、濃度勾配を設けたフィルム状接着剤を採用することもできる。
【0040】
請求項13に記載した発明は、上記導電性粒子の長径方向を、上記フィルム形状を有する接着剤の厚み方向に配向したものである。
【0041】
導電性粒子を上記のように配向することにより、隣り合う接続用電極間の絶縁を維持してこれら電極間の短絡を防止しつつ、多数の電極を一度に、かつ各々を独立して導電接続することが可能となる。
【0042】
本願の請求項14に記載した発明は、請求項6から請求項12のいずれか1項に記載の導電性接着剤によって、有機膜を有する電極が接続された電極接続構造を有する電子機器に関するものである。
【0043】
本願発明に係る導電性接着剤は、電極接続方法等は、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ等のカメラ、ポータブルオーディオプレーヤー、ポータブルDVDプレーヤー、ノートパソコン等の電子機器内に採用される部材等の電極接続構造に適用することができる。
【発明の効果】
【0044】
本願発明に係る電極の接続方法を採用することにより、電極の製造工程を簡素化して製造コストを低減させることができるとともに、電極間の確実な電気的接続を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本願発明に係る接続方法の概略手順を示す図である。
【図2】図1(e)に示す接続工程おけるII−II線に対応する断面の拡大断面図である。
【図3】本願発明に係る接続構造の拡大断面図である。
【図4】図3に示す接続構造を模式的に表した拡大断面図である。
【図5】第2の実施形態に係る接続工程を示す図であり、図2に相当する拡大断面図である。
【図6】第2の実施形態に係る接続構造を模式的に表した拡大断面図である。
【図7】本願発明に係る導電性接着剤を用いずに形成した電極接続構造を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1の(a)〜(e)に、本願発明に係る接続方法の概略手順を示す。なお、本実施形態は、電子部品7を、半田リフロー処理を用いて接続したリジッド配線板1の接続用電極2と、配線用のフレキシブルプリント配線板3の接続用電極11とを接続する場合に、本願発明に係る電極の接続方法を適用したものである。
【0047】
図1(a)に示すように、リジッドプリント配線板1の縁部に、配線接続用電極2が形成されている。図1(b)に示すように、上記配線接続用電極2の表面を覆うようにして酸化防止皮膜としての有機膜6を形成する有機膜形成工程が行われる。なお、図示はしないが、リジッドプリント配線板1の電子部品搭載用の電極に、上記有機膜を形成することもできる。
【0048】
上記有機膜6は、電極表面を水溶性プリフラックス処理(OSP処理:Organic Solderability Preservation)を施すことにより形成される。
【0049】
上記水溶性プリフラックス処理は、アゾール化合物を含有する酸性水溶液を作用させることにより行われる。上記アゾール化合物として、たとえば、イミダゾール、2−ウンデシルイイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2,2,4ジフェニルイミダゾール、トリアゾール、アミノトリアゾール、ピラゾール、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、2−ブチルベンゾイミダゾール、2−フェニルエチルベンゾイミダゾール、2−ナフチルベンゾイミダゾール、5−ニトロ−2−ノニルベンゾイミダゾール、5−クロロ−2−ノニルベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、カルボキシルベンゾトリアゾール等のアゾール化合物が挙げられる。
【0050】
さらに、2−フェニル−4−メチル−5−ベンジルイミダゾール、2,4−ジフェニルイミダゾール、2,4−ジフェニル−5−メチルイミダゾール等の2−フェニルイミダゾール類、5−メチルベンゾイミダゾール、2−アルキルベンゾイミダゾール、2−アリールベンゾイミダゾール、2−フェニルベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール類から選ばれる少なくとも1つ有機化合物を含む有機膜は、耐熱性が高いため、酸化防止機能が高く好適である。
【0051】
上記接続用電極2の表面に水溶性プリフラックス処理を施す手法として、例えば、スプレー法、シャワー法、浸漬法等が用いられる。その後、水洗、乾燥させることにより、上記有機膜6が形成される。上記水溶性プリフラックスの温度は、25℃〜40℃が好ましく、水溶性プリフラックスと電極2との接触時間は、30秒〜60秒が好ましい。
【0052】
上記形成された有機膜6の膜厚は、0.05μm以上であることが望ましい。上記有機膜の膜厚が0.05μm未満であると、十分な酸化防止機能を確保できない。一方、本願発明では、電極接続時に有機膜を分解できるため、電極の酸化を確実に防止できる厚みの大きな有機膜を採用することも可能となる。
【0053】
上記有機膜6を形成することにより、上記電子部品接続工程等において、上記接続用電極2の酸化を防止することができる。また、従来のように、電極に金メッキを施す必要がないため、製造工程を簡略化して、製造コストを低減させることができる。
【0054】
上記水溶性プリフラックス処理を施した後に、電子部品7が上記リジッドプリント配線板1に接続される。本実施形態では、上記リジッドプリント配線板1上の図示しない電子部品接続電極の表面に鉛フリーハンダを印刷手法等によって塗着し、電子部品7を載置した後にリフロー炉に入れることにより、上記電子部品7が所定の電極に接続される。
【0055】
なお、上記電子部品接続用電極に金メッキを施して上記電子部品を搭載することもできるし、上記接続用電極と同様の水溶性プリフラックス処理を施した後に、後に説明する上記接続用電極と同様の手法によって電子部品を接続することもできる。また、半田接続される電子部品等と接着剤接続される電子部品等が混在してもよい。この場合、半田による接続工程の後に、接着剤による接続工程が行われる。
【0056】
上記電子部品7を半田リフロー処理によって接続した後、上記リジッドプリント配線板1の上記接続用電極2に、配線用のフレキシブルプリント配線板3の電極が接続される。
【0057】
図1(d)及び図2に示すように、本実施形態では、上記リジッドプリント配線板1の上記配線接続用電極2の表面に、エポキシ樹脂等の絶縁性の熱硬化性樹脂を主成分とし、潜在性硬化剤と、導電性粒子8を含有するフィルム状の導電性接着剤9を載置する。そして、上記導電性接着剤9を所定の温度に加熱した状態で、リジッドプリント配線板1の方向へ所定の圧力で加圧することにより、上記導電性接着剤9を上記接続用電極2上に仮接着する。なお、上記導電性接着剤9として、ペースト状の導電性接着剤を、上記有機膜6が形成された電極表面に塗着することもできる。
【0058】
次に、図2に示すように、配線用のフレキシブルプリント配線板3の接続用電極10を下向きにした状態で、上記リジッドプリント配線板1の表面に形成された接続用電極2と、上記フレキシブルプリント配線板3の接続用電極10とを位置合わせし、フレキシブルプリント配線板3を上記リジッドプリント配線板1上に載置する。
【0059】
なお、本実施形態では、上記フレキシブルプリント配線板3の接続用電極10の表面にも、上記リジッドプリント配線板1の接続用電極2と同様の水溶性プリフラックス処理が施されて、酸化防止用の有機膜11が形成されている。
【0060】
その後、上記導電性接着剤9を所定の温度に加熱した状態で、上記リジッドプリント配線板1と上記フレキシブルプリント配線板3とを所定の圧力で挟圧することにより、上記リジッドプリント配線板1の接続用電極2と上記フレキシブルプリント配線板3の接続用電極10とが、上記導電性接着剤9を介して圧着される。上記導電性接着剤9は、熱硬化性樹脂を主成分としているため、加熱することにより基材9aが一旦軟化するが、加熱を継続することにより硬化させられる。上記状態であらかじめ設定した硬化時間を経過した後に、上記加圧状態を解除して冷却することにより、リジッドプリント配線板1の接続用電極2と上記フレキシブルプリント配線板3の接続用電極10とが、上記導電性接着剤9を介して、電気的導通を確保しながら接続される。
【0061】
図3は、図1(e)におけるII−II線に対応する断面図である。また、図4は、図3における断面の接続構造を模式的に示す拡大断面図である。
【0062】
これらの図に示すように、本実施形態に係る上記導電性接着剤9は、導電性粒子8が、微細な金属粒子が多数直鎖状に繋がった形態、又は針形状の形態を有している。この形態の金属粒子を採用することにより、フィルム状の導電性接着剤9の面方向においては、リジッドプリント配線板1の隣り合う接続用電極2,2間、又はフレキシブルプリント配線板3に設けた接続用電極10,10間の絶縁を維持して、短絡を防止しつつ、導電性接着剤9の厚み方向においては、対接させられた多数の電極2,10を一度に、かつ各々を独立して導通接続することが可能となる。
【0063】
本実施形態に係る上記導電性粒子8は、アスペクト比が5以上に設定されている。アスペクト比を5以上に設定することにより、導電性接着剤9を使用する場合に、電極に対する接触確率が高くなる。このため、導電性粒子8の配合量を増やすことなく、接続用電極間の電気的導通を図りつつ、これら電極を接続することが可能となる。ここで言うアスペクト比とは、図4に示す導電性粒子8の平均短径(導電性粒子8の断面の長さRの平均値)と平均長径(導電性粒子8の長さLの平均値)の比のことをいう。
【0064】
また、本実施形態では、上記導電性接着剤9は、フィルム形状を有するものを採用している。フィルム形状の接着剤を採用することにより、接着剤の取り扱いが容易になるとともに、上記加熱加圧処理を容易に行うことができる。
【0065】
さらに、本実施形態に係る上記導電性接着剤9は、上記アスペクト比を有する導電性粒子の長径方向を、フィルム形状を有する導電性接着剤の厚み方向に配向させている。この構成を採用することにより、リジッドプリント配線板1の隣り合う接続用電極2,2間、又はフレキシブルプリント配線板3の隣り合う接続用電極10,10間の絶縁を維持して短絡を防止しつつ、対向する多数の電極間を、一度に、かつ各々を独立して導通接続することが可能となる。
【0066】
一方、上述したように、本実施形態では、上記有機膜6を形成した後に、電子部品7を接続するために、半田リフロー処理が施される。このため、リジッドプリント配線板1の接続電極2に形成した上記有機膜6がリフロー炉で作用する熱によって硬質化している。したがって、上記導電性粒子8が、上記有機膜6を突き破って上記接続用電極6に十分に接触できず、図7に示すような接続構造を形成できない恐れがある。
【0067】
本実施形態では、上記問題を解消するために、上記導電性接着剤9に、上記有機膜6,11を分解する有機膜分解成分を配合している。
【0068】
上記有機膜分解成分として、カルボキシル基、メルカプト基、スルホ基のうち、少なくとも1つを有する樹脂成分を採用することができる。
【0069】
上記カルボキシル基を有する樹脂成分として、たとえば、メタクリル樹脂(アクリル樹脂)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、カルボキシル基含ブタジエン二トリルゴム等を採用することができる。また、メルカプト基、スルホ基を有する樹脂成分として、たとえば、メルカプト基含有ポリビニルアルコール、スルホ基含有ポリビニルアルコール等を採用することができる。上記カルボキシル基、メルカプト基、スルホ基は、電極接続工程において、電極表面に存在する有機膜に作用し、有機膜6,11を分解する。
【0070】
たとえば、上記有機膜分解成分を有する樹脂を、上記接着剤の基材に対して2重量%以上含有させるのが好ましい。
【0071】
図4に、上記有機膜分解成分が、上記有機膜6,11に作用した状態を模式的に示す。この図に示すように、上記有機膜分解成分によって、上記有機膜6,11が分解することにより、上記有機膜6,11の実質的な厚さを減少させ、あるいは強度を低下させることができる。このため、上記導電性粒子8の端部が、上記有機膜6,11を突き破って、接続用電極2,10の表面に容易に到達し、確実な電気的接続を図ることができる。
【0072】
なお、上記図4は、本願発明の原理を模式的に示したものであり、有機膜6,11の一部が残存するように表現されているが、有機膜6,11の全てが分解して消失するように構成することもできる。また、有機膜の厚さは変化させず、軟化等させることにより強度を低下させるように構成することもできる。
【0073】
上記有機膜分解成分が、自然状態でカルボキシル基を有するものに限定されることはない。加熱によってカルボキシル基が生成される樹脂成分を配合することもできる。
【0074】
また、導電性接着剤の基材9aとしてエポキシ樹脂を採用する場合、酸無水物系の硬化剤を採用するとともに、加熱することにより、カルボキシル基を生成させることができる。カルボン酸無水物は、2分子のカルボン酸を脱水縮合させた化合物であり、カルボキシル基を備える。無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸等のカルボン酸無水物を含む硬化剤を配合するとともに、上記導電性接着剤を仮接着する工程や、上記リジッドプリント配線板1と上記フレキシブルプリント配線板3とを接続する工程において作用する熱を利用して、上記有機膜分解成分を生成させ、上記有機膜6,11に作用させて有機膜を分解することができる。
【0075】
さらに、上記カルボン酸無水物を含む樹脂成分を採用する場合、三級アミン類、イミダゾール類を含む樹脂成分を配合することにより、カルボキシル基の生成反応を促進することができる。
【0076】
図5及び図6に、本願発明の第2の実施形態を示す。この実施形態は、有機膜分解成分を有する樹脂フィルム120を、導電性粒子を配合したエポキシ樹脂フィルム109の両側に積層して多層フィルム状の導電性接着剤119を構成したものである。なお、接続手法は、図2に示す第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0077】
上記有機膜分解成分を有するフィルム120としてアクリル樹脂フィルムを採用できる。この構成を採用することにより、上記フィルム状接着剤119の上記有機膜106,111に対接させられる部分に有機膜分解成分を偏在させることができる。このため、効率よく有機膜106,111を分解させることが可能となる。なお、図6では、理解を容易にするために、仮想上の上記アクリル樹脂フィルム120層を表現してあるが、電極接続工程において、上記アクリル樹脂フィルム120は溶融させられて、エポキシ樹脂フィルム109と混合一体化させられる。
【0078】
上記有機膜分解成分を、上記導電性接着剤の有機膜対接部位に偏在させる手法は、上記第2の実施形態に限定されることはない。たとえば、カルボキシル基を備えるアクリル樹脂溶液を、上記フィルム状導電性接着剤の上記有機膜に対接させられる面に塗着して、有機膜分解成分を導電性接着剤の表面に偏在させることもできる。また、上記有機物分解成分を、表面側の濃度を高くした状態で濃度勾配をもって配合することもできる。
【0079】
以下に、本願発明の実施例及び比較例について説明する。なお、本願発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
(導電性接着剤の作製)
導電性粒子として、長径Lの分布が1μm〜10μmでその平均値が3μm、短径Rの分布が0.1μm〜0.4μmでその平均値が0.2μmである直鎖状ニッケル微粒子を用いた。本実施例における上記導電性粒子のアスペクト比は15となる。また、絶縁性の熱硬化性樹脂として、2種類のビスフェノールA型の固形エポキシ樹脂〔(1)ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名エピコート1256、及び(2)エピコート1004〕、ナフタレン型エポキシ樹脂〔(3)大日本インキ化学工業(株)製、商品名エピクロン4032D〕を使用した。また、熱可塑性であるポリビニルブチラール樹脂〔(4)積水化学工業(株)製、商品名エスレックBM−1〕を使用し、マイクロカプセル型潜在性硬化剤としては、(5)マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤〔旭化成エポキシ(株)製、商品名ノバキュアHX3941〕を使用した。さらに、有機膜分解成分として、(6)カルボキシル基含有アクリル樹脂(日本ペイント(株)製、商品名ファインスフェアFS−201)を添加した。これら(1)〜(6)を重量比で(1)35/(2)20/(3)25/(4)10/(5)30/(6)10の割合で配合した。
【0081】
これらエポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、潜在製硬化剤及び有機膜分解成分を、セロソルブアセテートに溶解して、分散させた後、三本ロールによる混練を行い、固形分が50重量%である溶液を作製した。この溶液に、固形分の総量(Ni粉末+樹脂)に占める割合で表される金属充填率が0.05体積%となるように上記Ni粉末を添加した後、遠心攪拌ミキサーを用いて攪拌することにより、Ni粉末を均一に分散し、接着剤用の複合材料を作製した。ついで、この複合材料を離型処理したPETフィルム上にドクターナイフを用いて塗布した後、磁束密度100mTの磁場中、60℃で30分間、乾燥、固化させて、塗膜中の直鎖状粒子が磁場方向に配向した厚さ35μmのフィルム状の異方導電性をもつ導電性接着剤を作製した。
【0082】
(プリント配線板の作製)
幅150μm、長さ4mm、高さ18μmの銅電極である接続用電極が150μm間隔で30個配列されたフレキシブルプリント配線板を用意した。接続用電極には、2−フェニル−4−メチル−5−ベンジルイミダゾールを含む酸化防止膜を形成した。その熱分解温度は310℃、平均膜厚は0.60μm、厚さ0.1μm以下となる領域の面積率は2%であった。
【0083】
(接続抵抗評価)
上記フレキシブルプリント配線板を、窒素をフローすることによって酸素濃度1%以下としたリフロー炉槽内において、ピーク温度を260℃とした半田リフロー処理を施した。その後、フレキシブルプリント配線板同士を、連続する30箇所の接続抵抗が測定可能なデイジーチェーンを形成するように対向させて配置した。これらフレキシブルプリント配線板の間に作製した上記導電性接着剤を挟み、190℃に加熱しながら、5MPaの圧力で15秒間加圧して接着させ、フレキシブルプリント配線板同士の接合体を得た。ついで、この接合体において、上下の接続用電極とこれに挟まれた導電性接着剤の積層体について、上記30箇所の抵抗値を四端子法により求め、求めた値を30で除することにより、接続された1箇所あたりの接続抵抗を求めた。そして、接続抵抗の値が、50mオーム以下の場合を、導電性を確保したものとした。
【0084】
(接続信頼性評価)
上記のようにして作製した接合体を85℃85%RHの高温高湿槽中に500hr静置した後、同様に接続抵抗を測定した。そして、接続抵抗の上昇率が50%以下の場合を、接続信頼性が良好と判断した。
【0085】
[実施例2]
有機膜分解成分として、(7)テトラヒドロフタル酸無水物(大日本インキ化学工業(株)製、商品名エピクロンB−570H)を添加し、これら(1)〜(5)、及び(7)を重量比で、(1)35/(2)20/(3)25/(4)10/(5)30/(7)5の割合で配合して、実施例2に係る導電性接着剤を作製した。その他の作製条件を実施例1と同様にして、接合体を製作した。
【0086】
[比較例]
比較例として、上記導電性接着剤に有機膜分解成分を配合しない以外は、上記実施例1と同様の手法にて得られた接合体を用いた。
【0087】
【表1】

【0088】
(評価結果)
表1から明らかなように、有機膜分解成分を配合した場合の初期接続抵抗値及び抵抗上昇率のいずれの値も低下することが判る。
【0089】
本願発明の範囲は、上述の実施形態に限定されることはない。今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものでないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
電極接続構造において、酸化防止皮膜として採用される有機膜が、電子部品を接続する半田リフロー工程において硬質化した場合であっても、確実な電気的接続を確保することができる。
【符号の説明】
【0091】
2 第1の接続用電極
6 有機膜
9 導電性接着剤
10 第2の接続用電極
11 有機膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の接続用電極と第2の接続用電極とを接続する導電性接着剤であって、
熱硬化性樹脂を含む接着剤成分と、
導電性粒子と、
少なくとも上記接続用電極の一方に形成されるとともに、水溶性プリフラックス処理によって形成された有機膜を分解する有機膜分解成分とを含む、導電性接着剤。
【請求項2】
上記有機膜分解成分は、カルボキシル基、メルカプト基、スルホ基のうち、少なくとも1つを有する樹脂成分である、請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項3】
上記有機膜分解成分が加熱によって生成される樹脂成分を含む、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項4】
上記導電性粒子は、微細な金属粒子が多数、直鎖状に繋がった形状、又は針形状を有する金属粉末である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の導電性接着剤。
【請求項5】
上記導電性粒子のアスペクト比が5以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の導電性接着剤。
【請求項6】
上記導電性接着剤がフィルム状である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の導電性接着剤。
【請求項7】
上記有機膜分解成分を、上記フィルム状接着剤の少なくとも上記有機膜に対接させられる部分に偏在させた、請求項6に記載の導電性接着剤。
【請求項8】
上記導電性粒子の長径方向が、上記フィルム形状を有する接着剤の厚み方向に配向されている、請求項6又は請求項7のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載された導電性接着剤によって接続された、電極の接続構造。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載された導電性接着剤によって接続された接続構造を備える、電子機器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−77045(P2011−77045A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253491(P2010−253491)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【分割の表示】特願2009−142258(P2009−142258)の分割
【原出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】