説明

導電性有機ポリマー/ナノ粒子複合材料およびその使用方法

【課題】導電性有機ポリマーを含む薄膜電界効果トランジスタ電極および高抵抗緩衝層の導電率の制御方法の提供。
【解決手段】PAni/PAAMPSAまたはPEDT/PSSと複数のナノ粒子とからなる水性分散液を含む組成物に対して、カーボンナノチューブまたは無機ナノ粒子を添加し、組成物を基材上にキャストすることによって得られる層の導電率を増大または減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機発光ダイオードのようなピクセル化エレクトロルミネセンスデバイス、および薄膜電界効果トランジスタ電極の製造における導電性有機ポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本願は、特願2004−540019の分割出願であり、特に、導電性有機ポリマーを用いて形成される電極または高抵抗緩衝層の導電率の制御に関する。
【0003】
導電性有機ポリマーはそもそも20年以上前に研究者の注目を集めた。通常の導電性材料(例えば、金属、半導体金属酸化物)と比較してこれらのポリマーによってもたらされた関心は、主として、軽量、柔軟性、耐久性、および加工の潜在的容易さのような因子のためであった。今日までに最も商業的に成功した導電性有機ポリマーは、様々な商品名で市販されているポリアニリンおよびポリチオフェンである。これらの材料は、例えば、「ポリチオフェン分散液、それらの製造およびそれらの使用(Polythiophene dispersions,their production and their use)」という表題の米国特許公報(特許文献1)に記載されているように、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)のような水溶性ポリマー酸の存在下に水溶液中でアニリンまたはジオキシチオフェンモノマーを重合することによって製造することができる。発光ディスプレイでの使用のためのエレクトロルミネセンス(EL)デバイスおよび電極としての使用のための薄膜電界効果トランジスタの最近の進展は、導電性有機ポリマーに新分野の関心をもたらしてきた。導電性有機ポリマーを含有する有機発光ダイオード(OLED)のようなELデバイスは一般に次の構造を有する。
陽極/緩衝層/ELポリマー/陰極
陽極は、例えば、インジウム/錫酸化物(ITO)のような、典型的には、半導体ELポリマーのさもなければ充満したπ−バンド中へ正孔を注入する能力を有する任意の材料である。陽極は、任意選択的にガラスまたはプラスチック基材上にサポートされる。ELポリマーは、典型的には、ポリ(パラフェニレンビニレン)またはポリフルオレンのような共役半導体有機ポリマーである。陰極は、典型的には、半導体ELポリマーのさもなければ空のπ*−バンド中へ電子を注入する能力を有する、CaまたはBaのような任意の材料である。
【0004】
緩衝層は、典型的には、陽極からELポリマー層への正孔の注入を容易にする導電性有機ポリマーである。緩衝層はまた正孔注入層、正孔輸送層と呼ばれることもできる、または二層陽極の部分として特徴付けられるかもしれない。緩衝層として使用される典型的な水分散性の導電性有機ポリマーは、ポリアニリン(PAni)のエメラルド色塩形またはポリマースルホン酸でドープされたポリマー・ジオキシアルキレンチオフェンである。
【0005】
緩衝層は、電荷移動を容易にするために多少の導電性を持たなければならないが、一般に知られる水性ポリアニリンまたはポリチオフェン分散液に由来する緩衝層フィルムの最高の導電率は一般には約10-3S/cmの範囲にある。導電率は必要なものよりも約3桁高い。実際に、陽極線(またはピクセル)間のクロストークを防ぐために、緩衝層の導電率は、かかる緩衝層を含有するデバイスの発光特性に負の影響を及ぼすことなく約10-6S/cmまで最小限にされるべきである。例えば、商業的に入手可能な水性ポリ(エチレンジオキシチオフェン)分散液(独国レーベルクーセンのエッチ.シー.スタルク有限責任会社(H.C.Starck,GmbH,Leverkusen,Germany)製のバイトロン(Baytron)−P VP AI 4083)から製造されるフィルムは約10-3S/cmの導電率を有する。これは余りにも高くてピクセル間のクロストークを避けられない。従って、エレクトロルミネセンスデバイスでの使用のための高抵抗緩衝層を求める要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,300,575号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
導電性有機ポリマーと複数のナノ粒子との水性分散液含んでなる組成物が提供される。発明組成物は、有機発光ダイオード(OLED)のようなエレクトロルミネセンスデバイスで緩衝層としてまたは薄膜電界効果トランジスタ用の電極として連続の滑らかな薄膜を提供することができる。本発明の実施での使用を考慮されるナノ粒子は無機または有機であり得る。無機または有機ナノ粒子を含有する緩衝層は、かかるナノ粒子なしの緩衝層よりもはるかに低い導電率を有する。エレクトロルミネセンス(EL)デバイス中へ組み込まれた場合に、本発明による緩衝層は、ELデバイスのより高い応力寿命に寄与しながら高い抵抗を提供する。
【0008】
本発明の別の実施形態に従って、発明水性分散液からキャストされた緩衝層を含んでなるエレクトロルミネセンスデバイスが提供される。
【0009】
本発明のさらなる実施形態に従って、導電性ポリマーの水性分散液から基材上へキャストされた導電性有機ポリマーフィルムの導電率を下げるための方法であって、水性分散液に複数のナノ粒子を添加する工程を含んでなる方法が提供される。
【0010】
本発明のもっとさらなる実施形態では、増加した厚さを有する緩衝層の製造方法であって、複数のナノ粒子を導電性有機ポリマーの水性分散液に添加する工程と、前記水性分散液から基材上へ緩衝層をキャストする工程とを含んでなる方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の実施形態では、発明水性分散液からキャストされた薄膜電界効果トランジスタ電極が提供される。
【0012】
本発明のもっとさらなる実施形態では、水性分散液から基材上へキャストされた薄膜電界効果トランジスタ電極の導電率を増大させるための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による緩衝層を含む電子デバイスの断面図を例示する。
【図2】本発明による電極を含む薄膜電界効果トランジスタの断面図を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
導電性有機ポリマーと複数のナノ粒子との水性分散液を含んでなる組成物が提供される。本明細書で用いるところでは、用語「分散液」は、微粒子の懸濁を含有する連続媒体を意味する。本発明に従って、「連続媒体」は典型的には水性液体、例えば、水である。本発明によるナノ粒子は無機または有機であり得る。本明細書で用いるところでは、用語「無機」は、ナノ粒子が実質的に炭素を含まないことを意味する。本明細書で用いるところでは、用語「有機」は、ナノ粒子が実質的に炭素よりなることを意味する。本明細書で用いるところでは、用語「ナノ粒子」は、1000ナノメートル(nm)未満のサイズを有する粒子を意味する。
【0015】
本発明による組成物は典型的にはその中に導電性有機ポリマーが分散されている連続の水相を含有する。本発明の実施での使用を考慮される導電性有機ポリマーには、例えば、ポリマーを導電性にするために酸/塩基塩を形成することができるポリアニリンのすべての形(例えば、ロイコエメラルド色、エメラルド色、アニリンブラック(nigraniline)など)が含まれる。酸化の程度に依存して、ポリアニリンポリマーの異なる形を合成できることは周知である。ポリアニリン(PAni)は、一般に、下の式Iにおけるような、芳香族アミン窒素原子、および/または下の式IIにおけるような、芳香族イミン窒素原子を有するモノマー単位よりなるとして記載することができる。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、
nは0〜4の整数であり、
かつ、
Rは、各出現で同じまたは異なるものであるように独立して選択され、アルキル、アルケニル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、カルボン酸、ハロゲン、シアノ、または1種または複数のスルホン酸、カルボン酸、ハロ、ニトロ、シアノもしくはエポキシ部分で置換されるアルキルから選択され、あるいは任意の2つのR基は一緒になって、その環が任意選択的に1個または複数の二価の窒素、硫黄または酸素原子を含んでもよい3、4、5、6、もしくは7員環芳香族もしくは脂環式環を完成するアルキレンまたはアルケニレン鎖を形成してもよい。
【0018】
式IおよびIIは非プロトン化形のモノマー単位を示すが、酸(ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)(PAAMPSA)、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)などのような)の存在下では、塩基性窒素原子はプロトン化されて塩を形成するであろう。イミン窒素原子対アミン窒素原子の相対的比率は、増加する酸化と共に増加する。一実施形態では、ポリアニリンは、式Iを有するモノマー単位対式IIを有するものの比が2:1である、エメラルド色塩基形である。この実施形態では、アミン窒素原子対イミン窒素原子の比は1:1である。
【0019】
別の実施形態では、導電性有機ポリマーはポリ(ジオキシチオフェン)である。本発明の実施での使用を考慮されるポリ(ジオキシチオフェン)は式IIIを有する。
【0020】
【化2】

【0021】
式中、
1およびR1’はそれぞれ独立して水素および1〜4個の炭素原子を有するアルキルから選択されるか、
またはR1およびR1’は一緒になって、1〜4個の炭素原子を有するアルキレン鎖であって、任意選択的に1〜12個の炭素原子を有するアルキルもしくは芳香族基、または1,2−シクロヘキシレン基で置換されてもよいアルキレン鎖を形成し、かつ、
nは約9よりも大きい。
【0022】
本発明組成物および方法で使用される導電性有機ポリマーは、典型的には、ポリマー酸(例えば、PAAMPSA、PSSなど)を含有する水溶液中で相当するモノマーを酸化重合することによって製造される。酸化重合は、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどのような酸化剤を使用して実施される。従って、例えば、アニリンがPAAMPSAの存在下に酸化重合される場合には、導電性酸/塩基塩PAni/PAAMPSAが形成される。エチレンジオキシチオフェン(EDT)がPSSの存在下に酸化重合される場合には、導電性酸/塩基塩ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)/PSSが形成される。
【0023】
水溶液はまた、硫酸第二鉄、塩化第二鉄などのような重合触媒を含むこともできる。重合は、典型的には、低温、例えば−10℃〜30℃で実施される。重合反応の完了後に、ポリマーは、任意選択的に、ポリマーにとっての非溶剤、例えば、アセトンなどを使用する水性分散液からの沈殿によって単離される。導電性有機ポリマーが単離される場合、材料は、約1000nm未満のサイズを有するポリマー粒子を生み出すために典型的には精緻化される。一実施形態では、ポリマー粒子は約500nm未満である。別の実施形態では、ポリマー粒子は約50nm未満である。単離された導電性有機ポリマー粒子は次にナノ粒子の水性分散液と直接組み合わされるか、または導電性有機ポリマー粒子はナノ粒子の水性分散液との組合せの前に水に再分散されるかのどちらかである。
【0024】
本発明方法の別の実施形態では、酸化重合はナノ粒子の存在下に実施され、それによって導電性有機ポリマーを単離することなく水性分散液を製造する。例えば、ナノ粒子はアニリンモノマーを含有する水溶液に添加されてもよく、それによって分散液を形成する。次に酸化剤を加えてナノ粒子の存在下にモノマーを重合することができる。本発明のこの実施形態は、発明水性分散液を「ワンポット」合成で提供するので、経済的に魅力的である。どちらかの方法によって製造される発明水性分散液は、例えば、ミレックス(Millex)0.45μm HVフィルターを通して、容易に濾過されるという利点を提供する。こうして、発明水性分散液は連続の滑らかなフィルムを容易に提供する。
【0025】
酸化重合の前に立体安定化剤のような有機添加物が任意選択的に水溶液に添加されてもよい。これらの添加物は、ナノメートルサイズの粒子を有する導電性有機ポリマーの形成を促進する。有機添加物には、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルブチラール)などが含まれる。
【0026】
本発明の実施での使用を考慮されるナノ粒子は無機か有機かのどちらかであり得る。本発明の実施での使用を考慮される無機ナノ粒子には、アルミナ、シリカ、金属ナノ粒子、半導電性金属酸化物などが含まれる。一実施形態では、半導電性金属酸化物は、アンチモン酸亜鉛などのような混合原子価金属酸化物から選択される。別の実施形態では、金属ナノ粒子はモリブデン・ナノ粒子である。本発明の実施での使用を考慮される有機ナノ粒子には、コロイド状スルホン酸(パーフルオロエチレンスルホネートなどのような)、ポリアクリレート、ポリホスホネート、カーボンナノチューブなどが含まれる。
【0027】
本発明の実施での使用を考慮されるナノ粒子は様々な形状およびサイズを有する。一実施形態では、ナノ粒子は実質的に球形である。別の実施形態では、ナノ粒子は、金属ナノワイヤのように実質的に細長い。本発明の実施での使用を考慮されるナノ粒子は典型的には約500nm未満の平均粒径を有する。別の実施形態では、ナノ粒子は約100nm未満の平均粒径を有する。さらに別の実施形態では、ナノ粒子は約50nm未満の平均粒径を有する。別の実施形態では、細長いナノ粒子のアスペクト比は1対100よりも大きい。アスペクト比は粒子幅対粒子長さの比と定義される。細長い粒子については、「粒度」は粒子幅であると考えられる。別の実施形態では、ナノ粒子は不規則なジオメトリーを有する。不規則形状の粒子については、「粒度」は、粒子が通過する最小のスクリーン開口部のサイズであると考えられる。本発明の別の実施形態では、導電性有機ポリマーとナノ粒子とを含んでなる水性分散液からキャストされた緩衝層が提供される。導電性ポリマーおよびナノ粒子の両方とも水に容易に分散することができる。従って、連続の滑らかなフィルムは、導電性ポリマーとナノ粒子とを含有する水性分散液からキャストすることによって製造することができる。発明緩衝層は、無機ナノ粒子がないことを除いて同じ組成の緩衝層と比べて低下した導電率を有する。電気抵抗率は導電率に反比例する。従って、本明細書で用いるところでは、語句「高抵抗」および「低導電率」は、本明細書で記載される緩衝層に関しては同義的に用いられる。本明細書で用いるところでは、語句「高抵抗」および「低導電率」は、それぞれ、商業的に入手可能な緩衝層の導電率未満、すなわち、約1.0×10-3S/cm未満の導電率レベルを意味する。別の実施形態では、抵抗率は好ましくは1.0×10-5S/cm未満である。抵抗率および導電率値は、典型的には、それぞれ、オーム−センチメートル(オーム−cm)およびセンチメートル当たりのシーメンス(Siemens)(S/cm)の単位で報告される。本明細書で用いるところでは、抵抗率値よりもむしろ導電率値が報告される(単位S/cmを用いて)。
【0028】
本発明の別の実施形態では、2つの電気接触層の間に置かれた少なくとも1つのエレクトロルミネセンス層(通常は半導体共役ポリマー)を含んでなる電子デバイスであって、デバイスの層の少なくとも1つが本発明の緩衝層を含む電子デバイスが提供される。図1に示されるように、典型的なデバイスは、陽極層110、緩衝層120、エレクトロルミネセンス層130、および陰極層150を有する。任意選択的な電子注入/輸送層140が陰極層150に隣接している。緩衝層120と陰極層150(または任意選択的な電子注入/輸送層140)との間に、エレクトロルミネセンス層130がある。
【0029】
デバイスは、陽極層110または陰極層150に隣接することができるサポートまたは基材(示されていない)を含んでもよい。最も頻繁には、サポートは陽極層110に隣接している。サポートは柔軟なまたは堅い、有機または無機であり得る。一般に、ガラスまたは柔軟な有機フィルムがサポートとして使用される。陽極層110は、陰極層150よりも正孔を注入するのにより効率的である電極である。陽極は、金属、混合金属、合金、金属酸化物または混合酸化物を含有する材料を含むことができる。好適な材料には、2族元素(すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)、11族元素、4、5、および6族元素、ならびに8〜10族遷移元素の混合酸化物が含まれる。陽極層110が光伝達性であるべきである場合には、インジウム−錫酸化物のような、12、13および14族元素の混合酸化物が使用されてもよい。本明細書で用いるところでは、語句「混合酸化物」は、2族元素または12、13、もしくは14族元素から選択される2つ以上の異なる陽イオンを有する酸化物を意味する。陽極層110用材料の幾つかの非限定的な具体例には、インジウム錫酸化物(「ITO」)、アルミニウム錫酸化物、金、銀、銅、およびニッケルが挙げられるが、それらに限定されない。陽極はまた、ポリアニリンまたはポリチオフェンのような有機材料を含んでなってもよい。
【0030】
陽極層110は、化学もしくは物理蒸着法またはスピンキャスト法によって形成されてもよい。化学蒸着は、プラズマ強化化学蒸着(「PECVD」)または金属有機化学蒸着(「MOCVD」)として行われてもよい。物理蒸着には、e−ビーム蒸発および抵抗蒸発だけでなく、イオンビームスパッタリングをはじめとする、すべての形のスパッタリングが含まれ得る。物理蒸着の具体的形態には、無線周波数(rf)マグネトロンスパッタリングおよび誘導結合プラズマ物理蒸着(「IMP−PVD」)が含まれる。これらの蒸着技術は半導体製造技術内では周知である。
【0031】
大抵、陽極層110はリソグラフィック操作中にパターン化される。パターンは要望通り変わってもよい。層は、例えば、第1電気接触層材料を付着する前にパターン化マスクまたはレジストを第1の柔軟な複合バリア構造物上に置くことによってパターンで形成することができる。あるいはまた、層は、全体層(また全面的被覆物とも呼ばれる)として付着し、その次に、例えば、パターン化レジスト層および湿式化学または乾式エッチング技術を用いてパターン化することができる。当該技術で周知であるパターン化の他の方法もまた用いることができる。電子デバイスがアレイ内に置かれる場合、陽極層110は、実質的に同じ方向に伸びる長さを有する実質的に平行のストリップへと典型的に形成される。
【0032】
緩衝層120は、当業者に周知の様々な技術を用いて基材上へ通常キャストされる。典型的なキャスティング技術には、例えば、溶液キャスティング、ドロップ・キャスティング、カーテン・キャスティング、スピン−コーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷などが含まれる。あるいはまた、緩衝層は、かかる多数の方法、インクジェット印刷などを用いてパターン化することができる。
【0033】
エレクトロルミネセンス(EL)層130は、典型的には、ポリ(パラフェニレンビニレン)、またはポリフルオレンのような共役ポリマーであってもよい。選ばれる特有の材料は、具体的な用途、動作の間に用いられる電位、または他の因子に依存するかもしれない。エレクトロルミネセンス有機材料を含有するEL層130は、スピン−コーティング、キャスティング、および印刷をはじめとする任意の通常の技術によって溶液から付着することができる。EL有機材料は、材料の性質に依存して、蒸着法によって直接付着することができる。別の実施形態では、ELポリマー前駆体を付着し、次に、典型的には熱または他の外部エネルギー源(例えば、可視光またはUV放射線)を適用することによってポリマーに変換することができる。
【0034】
任意選択的な層140は、電子注入/輸送を促進する両方の機能を果たすことができ、かつ、層界面で反応をクエンチするのを防ぐための閉じ込め層としてもまた働くことができる。より具体的には、層140は、電子易動度を高め、かつ、層130と150とがさもなければ直接接触する場合に反応をクエンチする可能性を低下させるかもしれない。任意選択的な層140用の材料の例には、金属−キレート化オキシノイド化合物(例えば、Alq3など)、フェナントロリン−ベース化合物(例えば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DDPA」)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DPA」)など)、アゾール化合物(例えば、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(「PBD」など)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(「TAZ」など))、他の類似の化合物、またはそれらの任意の1つまたは複数の組合せが挙げられる。あるいはまた、任意選択的な層140は無機であり、BaO、LiF、Li2Oなどを含んでなってもよい。
【0035】
陰極層150は、電子または負電荷キャリアを注入するのに特に効率的である電極である。陰極層150は、第1電気接触層(この場合、陽極層110)よりも低い仕事関数を有する任意の金属または非金属であり得る。本明細書で用いるところでは、用語「より低い仕事関数」は、約4.4eV以下の仕事関数を有する材料を意味することを意図される。本明細書で用いるところでは、「より高い仕事関数」は、少なくともおおよそ4.4eVの仕事関数を有する材料を意味することを意図される。
【0036】
陰極層用の材料は、1族のアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)、2族金属(例えば、Mg、Ca、Baなど)、12族金属、ランタニド(例えば、Ce、Sm、Euなど)、およびアクチニド(例えば、Th、Uなど)から選択することができる。アルミニウム、インジウム、イットリウム、およびそれらの組合せのような金属もまた使用されてもよい。陰極層150用の材料の具体的な非限定例には、バリウム、リチウム、セリウム、セシウム、ユーロピウム、ルビジウム、イットリウム、マグネシウム、およびサマリウムが挙げられる。
【0037】
陰極層150は通常化学または物理蒸着法によって形成される。一般に、陰極層は、陽極層110に関して上に議論されたようにパターン化されるであろう。デバイスがアレイ内に位置する場合、陰極層150は実質的に平行のストリップへパターン化されてもよく、そこでは、陰極層ストリップの長さは実質的に同じ方向におよび陽極層ストリップの長さに実質的に垂直に伸びている。ピクセルと呼ばれる電子要素は交差点(そこで、アレイが平面図または上面図から見られる時に陽極層ストリップが陰極層ストリップと交差する)で形成される。
【0038】
他の実施形態では、追加の層は有機電子デバイス内に存在してもよい。例えば、緩衝層120とEL層130との間の層(示されていない)は、正電荷輸送、層のバンド−ギャップ整合、保護層としての機能などを容易にするかもしれない。同様に、EL層130と陰極層150との間の追加の層(示されていない)は、負電荷輸送、層間のバンド−ギャップ整合、保護層としての機能などを容易にするかもしれない。当該技術で公知である層を使用することができる。さらに、上記層の任意のものは、2つ以上の層から製造され得る。あるいはまた、無機陽極層110、緩衝層120、EL層130、および陰極層150の幾つかまたはすべてが電荷キャリア輸送効率を増大させるために表面処理されてもよい。成分層のそれぞれのための材料の選択は、デバイスに高いデバイス効率を提供するという目標を、製造コスト、製造複雑性、または潜在的に他の因子とバランスさせることによって決定されてもよい。
【0039】
電子デバイスの意図される用途に依存して、EL層130は、信号によって活性化される発光層(発光ダイオードにおけるような)または印可電圧ありもしくはなしで、放射エネルギーに応答し、信号を発する材料の層(検出器またはボルタ電池のような)であり得る。放射エネルギーに応答するかもしれない電子デバイスの例は、光導電素子、フォトレジスター、光スイッチ、フォトトランジスタ、および光電管、ならびに光電池から選択される。本明細書を読んだ後に、当業者は、彼らの特殊用途に好適である材料を選択することができるであろう。発光材料は、添加物ありまたはなしで、別の材料のマトリックス中に分散されてもよいが、好ましくは層だけを形成する。EL層130は一般におおよそ50〜500nmの範囲の厚さを有する。
【0040】
有機発光ダイオード(OLED)において、それぞれ、陰極層150および陽極層110からEL層130へ注入される電子および正孔は、ポリマー中に負および正に帯電したポーラロンを形成する。これらのポーラロンは印可電場の影響下に移動し、逆に帯電した種とポーラロン励起子を形成し、その次に放射再結合を受ける。通常おおよそ12ボルト未満、多くの場合おおよそ5ボルト以下の、陽極と陰極との間の十分な電位差がデバイスに印可されてもよい。実際の電位差は、より大きな電子部品でのデバイスの使用に依存するかもしれない。多くの実施形態では、陽極層110は正の電圧にバイアスをかけられ、陰極層150は電子デバイスの動作の間ずっと実質的に地電位またはゼロボルトである。バッテリーまたは他の電源が回路の部品としての電子デバイスに電気的に接続されてもよいが、図1には例示されていない。
【0041】
本発明はまた薄膜電界効果トランジスタ電極をも提供する。薄膜電界効果トランジスタでは、誘電性ポリマーまたは誘電性酸化物薄膜は、一側面にゲート電極を、反対側にドレインおよびソース電極を備えている。ドレイン電極とソース電極との間に、有機半導体フィルムが置かれる。有機半導体ポリマーフィルムは、典型的には、トルエンのような芳香族溶剤、またはクロロホルムのような塩素化有機溶剤を使用した有機溶液からキャストされる。電極用途に有用であるためには、導電性ポリマーおよび導電性ポリマーを分散させるまたは溶解するための液体は、導電性ポリマーか半導体ポリマーかのどちらかの再溶解を回避するために、半導体ポリマーおよび半導体ポリマー用の溶剤と相溶性でなければならない。導電性ポリマーから製造される薄膜電界効果トランジスタ電極は10S/cmよりも大きい導電率を有するべきである。しかしながら、ポリマー酸を伴って製造される導電性ポリマーは約10-3S/cmまたはそれよりも低い範囲の導電率を与えるにすぎない。加工性(キャスティング、スピン−コーティングなど)を危うくすることなしに導電性ポリマーの導電率を高めるために、高導電性添加物が必要とされる。従って、本発明の別の実施形態では、薄膜電界効果トランジスタ電極が提供される。発明電極は、導電性ポリマーとナノ粒子とを含有する水性分散液からキャストされる。この実施形態では、ナノ粒子は、典型的には、約10S/cmよりも大きい導電率を有する電極をもたらすカーボンナノチューブ、金属ナノ粒子、または金属ナノワイヤである。さらなる実施形態では、導電性ポリマーはポリアニリン/ポリマー酸、ポリジオキシアルキレンチオフェン/ポリマー酸などである。
【0042】
本発明はまた、発明電極を含有する薄膜電界効果トランジスタをも提供する。図2に示されるような、薄膜電界効果トランジスタは典型的には次の方法で製造される。誘電性ポリマーまたは誘電性酸化物薄膜210は一側面にゲート電極220を、反対側に、それぞれ、ドレインおよびソース電極、230および240を有する。ドレイン電極とソース電極との間に、有機半導体フィルム250が置かれる。ナノワイヤまたはカーボンナノチューブを含有する発明水性分散液は、溶液薄膜析出における有機ベース誘電性ポリマーおよび半導体ポリマーとのそれらの相溶性のために、ゲート、ドレインおよびソース電極の用途にとって理想的である。
【0043】
本発明の別の実施形態に従って、基材上へ水性分散液からキャストされる導電性有機ポリマーの導電率を約1×10-5S/cm未満の値まで下げるための方法が提供される。かかる方法は、例えば、複数のナノ粒子を導電性ポリマーの水性分散液に添加することによって行うことができる。驚くべきことに、半導電性無機ナノ粒子でさえも、本明細書で記載されるように導電性有機ポリマーフィルム中へ組み込まれた場合に、ポリマーフィルムの導電性を下げることが発見された。一実施形態では、導電性有機ポリマーフィルムは、エレクトロルミネセンスデバイスで緩衝層として使用することができる。別の実施形態では、導電性ポリマーフィルムはPAni/PAAMPSAである。
【0044】
本発明のもっとさらなる実施形態では、増加した厚さを有する緩衝層の製造方法が提供される。かかる方法は、例えば、導電性有機ポリマーの水性分散液に複数のナノ粒子を添加する工程と、前記水性分散液から基材上へ緩衝層をキャストする工程とによって行うことができる。導電性ポリマーの水性分散液へのナノ粒子の添加は、増加した粘度を有する水性分散液を生み出す。この高められた粘度は、該水溶液からキャストされる層の厚さの増加した制御を提供する。適切に機能する緩衝層の適切な厚さはその上へ緩衝層が付着される金属導電性層の表面粗さにある程度依存するので、緩衝層厚さの制御は望ましい。
【0045】
ここで本発明は、次の非限定的な実施例への言及によってより詳細に説明されるであろう。
【実施例】
【0046】
(比較例1)
本比較例は、PAni/PAAMPSAの製造とその導電率および緩衝層としての発光デバイス特性とを例示する。
【0047】
PAni/PAAMPSAの合成は次のように実施した。アニリン(4.08g)を、PAAMPSA(6.35g、PAAMPSAは米国ミズーリ州セントルイスのシグマ−アルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.,St.Louis,MO,USA)から15重量%水溶液の形態で入手した。PAAMPSAの重量平均分子量は2,000,000である)を含有する150ml水溶液に溶解した。アニリンとPAAMPSAとを含有する水溶液を4首500ml丸底フラスコ中へ入れ、氷/水浴で約4℃に冷却した。溶液を電磁撹拌機で連続的に撹拌した。冷やしたアニリン/PAAMPSA水溶液に、4.235gPAAMPSAと2.36g過硫酸アンモニウムとを含有する100ml水溶液を1時間にわたって一定速度で加えた。重合を198分間進行させた。
【0048】
次に反応混合物を2つの遠心分離機ボトル中へ注ぎ込み、15℃で8000rpmで30分間遠心分離した。遠心分離後に、上澄液をゆっくりとアセトンに加えてポリマー生成物を沈殿させた。沈殿後に、固体ポリマーをアセトン中で繰り返し洗浄し、濾過し、真空オーブン中(約18Hg、N2ブリード、周囲温度)で一晩乾燥した。収量は7.03gである。
【0049】
上で製造したままのPAni/PAAMPSA(1.21g)を、水溶液中3.0重量%固形物を構成する、39.12g脱イオン水に分散させた。分散液を導電率および発光特性について試験した。厚さが100〜150nmのITO層を有する商業的に入手可能なインジウム錫酸化物(ITO)/ガラス板をサイズが30×30mmの試料へとカットした。その次にITO層を酸素プラズマでエッチングした。導電率測定に用いられるべきガラス基材上のITOを、電極として用いられるべきITOの一連の平行線へとエッチングした。発光測定用のLEDにされるべき基材上のITOを、陽極として働くためのITOの15×20mm層へとエッチングした。次に水性分散液を1,200rpmの回転速度でITO/ガラス基材のそれぞれ上へスピンコートした。生じたPAni/PAAMPSA層は厚さが約137nmであった。
【0050】
粘度測定用の試料は次の通り製造した。0.0989gのPAni/PAAMPSAを、分散液中0.99重量%PAni/PAAMPSAを構成する、9.9081g脱イオン水と混合した。混合物を一晩磁気撹拌した。より低いスピンコーティング速度(1,200rpm対6,000rpm)にもかかわらず発明実施例4と比較した時にコーティング厚さがより小さい(137nm対300nm)ことに留意すべきである。該比較は、分散液が発明実施例4の分散液よりも低い粘度を有することを示す。
【0051】
PAni/PAAMPSAでコートしたITO/ガラス基材を導電率について測る前に窒素中90℃で30分間乾燥した。導電率は、2電極間の抵抗を測ることによって測定し、抵抗、導電層の厚さおよび抵抗を測るために用いた2電極間の距離に基づいて3.6×10-5S/cmであると計算された。導電率を表1に示す。
【0052】
発光測定のために、発光ダイオード(LED)中へ組み込まれた場合に、PAni/PAAMPSA層を、活性エレクトロルミネセンス(EL)層として働くためのスーパー−イエロー発光体ポリ(置換フェニレンビニレン)(独国フランクフルトのコビオン・カンパニー(Covion Company,Frankfurt,Germany)から入手したPDY131)でトップコートした。EL層の厚さはおおよそ70nmであった。総フィルム厚さはテンコール500表面プロファイラー(TENCOR 500 Surface Profiler)で測定した。陰極については、BaおよびAl層を1.3×10-4Paの圧力下にEL層上へ蒸着した。Ba層の最終厚さは3nmであり、Ba層のトップ上のAl層の厚さは300nmであった。LEDデバイス性能は次の通り試験した。電流対印可電圧、発光輝度対印可電圧、および発光効率(カンデラ/アンペア−c/A)の測定値は、ケイスレー・インスツルメント社(Keithley Instrument Inc.)(オハイオ州クリーブランド(Cleveland,OH))製のケイスレイ236光源−測定装置(Keithley 236 source−measure unit)、および較正シリコンフォトダイオード付きS370オプトメーター(Optometer)(カリフォルニア州ホーソーンのUDTセンサー社(UDT Sensor,Inc.,Hawthorne,CA))で測定した。電流を室温で8.3mA/cm2の電流密度で5つのLEDのそれぞれに通した。表1にまとめるように、該電流密度を達成するための平均電圧は4.2ボルトであり、平均光効率および発光輝度は、それぞれ、8.3cd/Aおよび115cd/m2であった。表1はまた、80℃および3.3mA/cm2電流密度でのデバイス半減期が12時間であったことを示す。
【0053】
(発明実施例1)
本実施例は、シリカ・ナノ粒子入りの水性PAni/PAAMPSA分散液の製造と緩衝層としてのその導電率および発光特性とを例示する。
【0054】
比較例1でのように製造したPAni/PAAMPSA(0.63g)を、0.152gシリカ・ナノ粒子を含有する、0.75gスノーテックス−UP(Snowtex−UP)(登録商標)(0.75g、日本国東京の日産化学工業株式会社)および24.07g脱イオン水と組み合わせた。スノーテックス−UP(登録商標)は、9.0〜10.5のpHを有し、かつ、幅が約5〜20nmで、長さが約40〜300nmのシリカ粒度を有する水性分散液である。シリカ:PAni/PAAMPSA重量比は4.1:1である。
【0055】
分散液を、比較例1に記載したのと同じやり方で導電率および発光特性について試験した。表1にまとめた結果に示すように、発明実施例1の分散液からキャストされた緩衝層は、比較例1と比較した時に、より低い導電率(8.2×10-7S/cm対3.6×10-5S/cm)およびより高い半減期(29時間対12時間)を有する。本実施例は、高められたデバイス寿命と共に導電率の低下に及ぼすナノ粒子の影響を実証している。
【0056】
(発明実施例2)
本実施例は、コロイド状シリカ入りの発明水性PAni/PAAMPSA分散液の製造と緩衝層としてのその導電率および発光特性とを例示する。
【0057】
比較例1で製造したようなPAni/PAAMPSA(0.61g)を、0.153gシリカ・ナノ粒子を含有する、スノーテックス−O(登録商標)(0.75g、日本国東京の日産化学工業株式会社製)および23.47g脱イオン水と組み合わせた。スノーテックス−O(登録商標)は、2〜4のpH範囲を有し、かつ、10〜20nmのシリカ粒度を有する水性分散液である。シリカ:PAni/PAAMPSA重量比は3.99:1である。
【0058】
分散液を、比較例1に記載したのと同じやり方で導電率および発光特性について試験した。表1にまとめた結果に示すように、発明実施例2の分散液からキャストされた緩衝層は、比較例1と比較した時に、より低い導電率(7.6×10-7S/cm対3.6×10-5S/cm)およびより高い半減期(30時間対12時間)を有する。本実施例は、再び、高められたデバイス寿命と共に導電率の低下に及ぼすナノ粒子の影響を実証している。
【0059】
(発明実施例3)
本実施例は、半導電性酸化物入りの発明水性PAni/PAAMPSA分散液の製造と緩衝層としてのその導電率および発光特性とを例示する。
【0060】
比較例1で製造したようなPAni/PAAMPSA(0.90g)を、0.601g導電性酸化物粒子を含有する、セルナックス(Celnax)CX−Z300H(登録商標)(1.97g、日本国東京の日産化学工業株式会社製の亜アンチモン酸亜鉛)および48.53g脱イオン水と組み合わせた。セルナックスCX−Z300H(登録商標)は、6.85のpHを有し、かつ、20nm酸化物ナノ粒子を有する水性分散液である。酸化物粉末の導電率は、160Kg/cm2の圧力で圧縮乾燥ペレットについて測って3.6S/cmである。酸化物:PAni/PAAMPSA重量比は1.50:1である。
【0061】
分散液を、比較例1に記載したのと同じやり方で導電率および発光特性について試験した。表1にまとめた結果に示すように、発明実施例3の分散液からキャストされた緩衝層は、比較例1と比較した時に、より低い導電率(8.3×10-8S/cm対3.6×10-5S/cm)およびより高い半減期(61時間対12時間)を有する。本実施例は、再び、高められたデバイス寿命と共に導電率の低下に及ぼすナノ粒子の影響を実証している。
【0062】
(発明実施例4)
本実施例は、SiO2ナノ粒子の存在下でのPAni/PAAMPSAの発明水性分散液の製造と緩衝層としてのその導電率および発光特性とを例示する。
【0063】
SiO2ナノ粒子の存在下でのPAni/PAAMPSAの合成は次のように実施した。PAAMPSA(36.32gの米国ミズーリ州セントルイスのシグマ−アルドリッチ社製の15重量%水溶液)を250ナルゲネ(Nalgene)(登録商標)プラスチックボトルに入れた。PAAMPSA溶液にスノーテックス−UP(登録商標)(日本国東京の日産化学工業株式会社製の34.33g)を加えた。スノーテックス−UP(登録商標)は、幅が5〜20nm、長さが40〜300nmのサイズのシリカを含有する、9.0〜10.5のpHの水性分散液である。PAAMPSA/スノーテックス−UP(登録商標)シリカ混合物を脱イオン水(150ml)中に分散させた。この分散液にアニリン(4.08g)を加えた。水性PAAMPSA/スノーテックス−UP(登録商標)/アニリン混合物を4首500ml丸底フラスコに入れ、次に氷/水混合物で約4℃に冷却した。溶液を電磁撹拌機で連続的に撹拌した。冷やしたPAAMPSA/スノーテックス−UP(登録商標)/アニリン分散液に、4.493gPAAMPSA(上記のような)と過硫酸アンモニウム(2.33g)とを含有する100ml水溶液を1時間にわたって加えた。反応を180分間進行させた。
【0064】
次に反応混合物を2つの遠心分離機ボトル中へ注ぎ込み、15℃で8000rpmで30分間遠心分離した。遠心分離後に、上澄液をゆっくりとアセトンに加えてポリマー生成物を沈殿させた。沈殿後に、固体ポリマーをアセトン中で繰り返し洗浄し、濾過し、真空オーブン中(約18Hg、N2ブリード、周囲温度)で一晩乾燥した(収量は14.19gであった)。収量が比較例1での収量のほぼ2倍であることに留意すべきである。収量の増加は、SiO2ナノ粒子がPAni/PAAMPSA内に存在することを示唆する。
【0065】
PAni/PAAMPSA/SiO2(1.20g、上で製造したままの)を、その分散液が水中3.0重量%固形物を構成する、38.80g脱イオン水に分散させた。緩衝層を前の実施例でのようにITO基材上へキャストした。発光測定のために、次にPAni/PAAMPSA/シリカ層を、LEDデバイスで活性エレクトロルミネセンス(EL)層として働くためのスーパー−イエロー発光体ポリ(置換フェニレンビニレン)(独国フランクフルトのコビオン・カンパニーから入手したPDY131)でトップコートした。EL層の厚さはおおよそ70nmであった。総フィルムの厚さはテンコール500表面プロファイラーで測定した。陰極については、BaおよびAl層を1.3×10-4Paの真空下にEL層のトップ上に蒸着した。Ba層の最終厚さは3nmであり、Ba層のトップ上のAl層の厚さは300nmであった。LEDデバイス性能は次の通り試験した。電流対印可電圧、発光輝度対印可電圧、および発光効率(カンデラ/アンペア−c/A)の測定値は、ケイスレー・インスツルメント社(オハイオ州クリーブランド)製のケイスレイ236光源−測定装置、および較正シリコンフォトダイオード付きS370オプトメーター(カリフォルニア州ホーソーンのUDTセンサー社)で測定した。電流を室温で8.3mA/cm2の電流密度で5つのLEDのそれぞれに通した。表1にまとめるように、該電流密度を達成するための平均電圧は4.3ボルトであり、平均光効率および発光輝度は、それぞれ、5.3cd/Aおよび130cd/m2であった。表1はまた、80℃および3.3mA/cm2電流密度でのデバイス半減期が42時間であったことをも示す。厚さが比較例1に例示された厚さの2.2倍であるにもかかわらずシリカなしPAni/PAAMPSAと比較した時に半減期が4倍に高められ、発光強度がより高い(130cd/m2対115cd/m2)ことに留意すべきである。
【0066】
【表1】

【0067】
表2に示すように、発明実施例4の水性分散液は6.000rpmの回転速度で300nmコーティング厚さを生み出す。より高いスピンコーティング速度(6,000rpm対1,200rpm)にもかかわらず、コーティング厚さは比較例1のそれよりもはるかに高い(300nm対137nm)。該比較は、シリカ・ナノ粒子ありで重合したPAni/PAAMPSAがシリカ・ナノ粒子なしで重合したPAni/PAAMPSAよりも高い粘度を有することを示す。表2に示すように、この増加した粘度は、増加した厚さを有する緩衝層を生み出す。粘度測定用の分散液は次の通り製造した。0.0999gのPAni/PAAMPSA/シリカを、分散液中1.00重量%PAni/PAAMPSA/シリカを構成する、9.9164g脱イオン水と混合した。
【0068】
【表2】

【0069】
(発明実施例5)
本実施例は、市販の水性PEDT分散液から製造された固体フィルムの有機溶剤中での完全性を実証する。
【0070】
本実施例では、約10-3S/cmの導電率を有する、商業的に入手可能な水性PEDT分散液(独国レーベルクーセンのエッチ.シー.スタルク有限責任会社製のバイトロン−P VP AI 4083)を、室温で窒素気流下ガラスビーカー中で固体フィルムに乾燥した。乾燥フィルムを、薄膜電界効果トランジスタの製造で有機半導体ポリマーを溶解するのに使用される一般的な有機溶剤(トルエン、クロロホルム、ジクロロメタンなどのような)と混合した。フィルムフレークは、有機液体のどれによっても膨潤しなかったし、また、液体を変色させもしなかった。この結果は、バイトロン−Pから製造されたPEDTフィルムが半導体ポリマー用の有機溶剤と相溶性であることを明らかに実証し、それによって薄膜電界効果トランジスタ用の電極としての有用性を実証している。
【0071】
(発明実施例6)
本実施例は、PAni/PAAMPSAの水性分散液から製造された固体フィルムの有機溶剤中での完全性を実証する。
【0072】
本実施例では、比較例1で製造したPAni/PAAMPSAの水性分散液を室温で窒素気流下ガラスビーカー中で固体フィルムに乾燥した。乾燥フィルムを、薄膜電界効果トランジスタの製造で有機半導体ポリマーを溶解するのに使用される一般的な有機溶剤(トルエン、クロロホルム、ジクロロメタンなどのような)と混合した。フィルムフレークは有機液体のどれによっても膨潤しなかったし、また、液体を変色させもしなかった。この結果は、PAni/PAAMPSAの水性分散液から製造されたPAni/PAAMPSAフィルムが半導体ポリマー用の有機溶剤と相溶性であることを明らかに実証し、それによって薄膜電界効果トランジスタ用の電極としての有用性を実証している。
【0073】
(発明実施例7)
本実施例は、ポリアニリン/ポリマー酸またはポリ(ジオキシエチレンチオフェン)/ポリマー酸と高導電性ナノ粒子とを含有する発明水性分散液の製造を例示する。
【0074】
比較例1に示すように、PAni/PAAMPSAの水性分散液からキャストされたPAni/PAAMPSAの導電率は、薄膜電界効果トランジスタのゲート、ドレインまたはソース電極としての用途にとって十分ではない、たったの3.6×10-5S/cmにすぎない。例えばオーメコン(Ormecon)(独国アムメルスベック(Ammersbeck,Germany))製のPAniの水性分散液からまたはPEDT、例えばバイトロン−Pからこれまでに達成された最高の導電率は約10-3S/cmであり、それは該用途にとってはまだ低すぎる。しかしながら、金属のナノ−ワイヤもしくはナノ−粒子またはカーボンナノチューブのようなナノ粒子を含有する発明水性導電性ポリマー分散液の使用は、これらの水性分散液からキャストされた電極の導電性を劇的に増加させる。例えば、15nmの直径および1.7×104S/cmの導電率を有する金属モリブデンワイヤを、高められた導電率のために使用することができる。8nm直径および20μm長さならびに60S/cmの導電率を有するカーボンナノチューブもまた導電率を高めるために使用することができる。ナノ粒子の高い導電率および水中での粒子の分散性のために、導電性ポリマーと高導電性ナノ粒子とよりなる複合水性分散液は、薄膜電界効果トランジスタでのドレイン、ソースまたはゲート電極として連続の滑らかなフォルムを製造するために容易に製造することができる。
【0075】
本発明はそのある種の好ましい実施形態に関して詳細に説明されてきたが、修正および変形が説明されているおよび特許請求されているものの精神および範囲内であることは理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散液から基材上へキャストされた薄膜電界効果トランジスタ電極の導電率を約10-3S/cmよりも大きい値に増大させるための方法であって、導電性有機ポリマーと複数のナノ粒子との前記水性分散液に複数のナノ粒子を添加する工程を含み、前記導電性有機ポリマーが、対イオンとしてポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)を有するポリアニリン(PAni/PAAMPSA)、および対イオンとしてポリ(スチレンスルホン酸)を有するポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDT/PSS)から選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子がカーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
導電性有機ポリマーと複数のナノ粒子との水性分散液を含む組成物から基材上へキャストされた高抵抗緩衝層の導電率を約10-3S/cmよりも小さい値に減少させるための方法であって、導電性有機ポリマーと複数のナノ粒子との前記水性分散液に複数のナノ粒子を添加する工程を含み、前記導電性有機ポリマーが、対イオンとしてポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)を有するポリアニリン(PAni/PAAMPSA)、および対イオンとしてポリ(スチレンスルホン酸)を有するポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDT/PSS)から選択され、前記ナノ粒子が無機ナノ粒子を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記高抵抗緩衝層の導電率を約10-5S/cmよりも小さい値に減少させることを特徴とする請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100854(P2010−100854A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254984(P2009−254984)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【分割の表示】特願2004−540019(P2004−540019)の分割
【原出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】