説明

小型熱機関

本発明は、少なくとも一列の、燃焼室(10)を備える平行なシリンダー群を有する自動車の熱機関に関するものであり、本熱機関は、クランクシャフト(8)とエンジンの潤滑油用タンク(14)を備える。本発明は、オイルタンク(14)の少なくとも一部が、シリンダーの軸に沿って、クランクシャフト(8)に対向し燃焼室(10)を越えた位置に配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内燃機関、特に再配置されるオイルリザーバを有するエンジンの分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱機関を有する車両による衝撃を受けた際の歩行者の防護を強化するために、安全基準により、車両のボンネットとエンジンとの間の間隔を広げることが課せられている。従って、歩行者が車両のボンネットにぶつかった場合、ボンネットが徐々に変形し、歩行者がエンジン等の固い構成部品に直接ぶつかることはない。ミニバンタイプの自動車の場合、運転者が十分高いところに座っているため、エンジンを覆っている車両のボンネットに充分な隙間が得られる。従来のセダン型の車両の場合、エンジンの高さは350mm未満でなければならない。従来のセダンには、大量生産のエンジンも必要であり、1〜1.6リットルの容量を有する3〜4気筒の直列型エンジンで上記のような低背型のものはない。
【0003】
米国特許第5063895号明細書(ポルシェ)には、V字形に形成された8気筒のエンジンが開示されており、このエンジンではクランクシャフトから流れる潤滑油がオイルパンに流れ込む。メインポンプはオイルパンからオイルを回収し、エンジンの主転がり軸受に注油する回路に供給する。第2ポンプは油圧を増加させてクランクシャフトに注油する。上記エンジンにおいて、オイルリザーバはクランクシャフトの下に設置されており、高さの点で無視できる空間を占めている。加えて、2列のシリンダーには、各々特定のポンプが必要となる。多数のシリンダーに容量が分布しているにも関わらず、且つシリンダーの傾斜にも関わらず、この種のエンジンには、過剰な高さ要件がある。その上、多数のポンプにより必要以上のエネルギーが消費される。
【0004】
米国特許第6029638号明細書(ホンダ)には、潤滑油が、エンジン内を通った後にクランクシャフト室へ流れ込み、そこからポンプによりエンジンのシリンダーブロックの側面に位置するオイルリザーバに送られるエンジンが開示されている。これにより、エンジンブロックの幅に関する全体的な空間要件が増大する。上記エンジンは特にボートに設置されており、エンジンのシリンダー軸は垂直線に対しわずかに傾いている。ここでも、エンジンブロックが占める高さは過剰である。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、従来のセダン型車両に設置することができる自動車のエンジンであって、衝撃を受けた際の歩行者の防護を確保するのに充分な間隔を、車両のボンネットとエンジンの間に保つことができ、過剰なエネルギー消費を伴わないエンジンを提案する。
【0006】
一実施形態によれば、自動車の熱機関は、燃焼室を有する、1列以上の平行なシリンダー群を有し、クランクシャフトと、熱機関に注油するオイルサンプとを備える。オイルサンプの少なくとも一部は、シリンダーの軸に沿って、クランクシャフトに対向し、クランクシャフトを越えた位置に配置されている。
【0007】
オイルサンプの位置により、熱機関を車両内の据付位置にほぼ配置することができる。これにより、車両のボンネットと熱機関の間に充分な間隔を残すことができる。このような配置によって、熱機関を車両の床の下に設置することも可能となる。
【0008】
有利には、熱機関はケーシングを備え、このケーシングには、ケーシング内部を流れるオイルを受容できるクランクシャフトの低点を有するクランクシャフト室が設置されている。熱機関は、クランクシャフトの低点に流れ込むオイルを引き込んでオイルサンプに供給する回収ポンプを備える。
【0009】
一実施形態によれば、熱機関は、熱機関のケーシング及び/又はオイルサンプの2つの対向する部分に沿って配置された2つの吸引口を含むろ過器を備える。ろ過器は、車両が加速する際のオイルと同じ方向、且つ2つの吸引口を接続する方向に向かって駆動されるのに適した慣性遮断部材を備えている。慣性遮断部材は、上記加速方向とは反対の方向に吸引口を遮ることができる。ろ過器の2つの吸引口を接続する方向は、車両の運動方向に対し横方向であってもよい。
【0010】
この実施形態では、オイルが流れる低点の高さを更に低くすることが可能である。車両が曲がる時、加速する時、上る時又は下る時、オイルは慣性によりクランクシャフト室の隅へ移動する。慣性遮断部材により選択される2つの吸引口のおかげで、ろ過器は常にオイルを深い低点に滞留させることなくオイルを吸引することができる。
【0011】
有利には、熱機関は、オイルサンプからオイルを引き込んで、熱機関の潤滑回路に供給する潤滑ポンプを備える。
【0012】
別の実施形態によれば、熱機関はバルブ室が設置されたシリンダーヘッドを備え、このバルブ室はシリンダーヘッドの低点を有する。熱機関は、シリンダーヘッドの低点をオイルサンプに接続してバルブ室内を流れるオイルを回収するダクトを備える。
【0013】
有利には、オイルサンプはシリンダーヘッドと一体形成されるか、又はシリンダーヘッドに搭載される。
【0014】
有利には、熱機関は、クランクシャフト室及び/又はバルブ室から発生する蒸気を受けるデカンテーション用の容器を備え、このデカンテーション容器は熱機関の吸気回路に接続されており、熱機関はさらに、デカンテーション容器に沈殿するオイルを回収するために、デカンテーション容器とオイルサンプとを接続するダクトを備えている。
【0015】
本発明の一実施形態による車両の熱機関では、熱機関の少なくとも1つのシリンダー軸が、車両の水平面に対し30度未満、好ましくは−10度〜+10度の角度で傾いており、シリンダーヘッドが熱機関のクランクシャフトの上方に位置している。
【0016】
本発明の他の特徴及び利点は、単一の添付図面である本発明によるエンジンの概略図に示す、非限定的な実施例としての一実施形態の詳細な説明により明らかとなる。
【0017】
図に示すように、本熱機関は、基本的に、シリンダーヘッド2を搭載した1列の平行なシリンダー群1と、熱機関の下部3とを有し、下部3は、シリンダーケーシング4とクランクシャフトケーシング5を備えている。各シリンダー1aの内部で、ピストン6及び接続ロッド7が運動する。接続ロッド7の大端部は、クランクシャフト8を駆動する一方、クランクピン9を包囲している。接続ロッドの小端部は、ピストン6に固定的に取り付けられたピン6aに、回転可能に搭載されている。クランクシャフト8は、クランクシャフト室8aの中で回転する。ピストン6は、シリンダー1aの上部において燃焼室10を画定する。燃焼室10の上部11はシリンダーヘッド2に固定的に取り付けられており、円筒状の側壁はシリンダーケーシング4の一部を形成している。クランクシャフト8により回転する2つのカム軸12及び12aは、図示しない歯止め又はリフターにより、対応するバルブ13及び13aに並進運動をさせる。カム軸12及び12aからバルブ13及び13aにかけての全てのメカニズムは、図示の部分的断面によって示されるシリンダーヘッド2のチャンバー23aの中で作動する。
【0018】
オイルサンプ14は、シリンダーヘッド2に取り付けられ、前記シリンダーヘッド2の下方に位置している。潤滑ポンプ15は、オイルサンプ14の側面に配置され、カム軸12aにより駆動される。デカンテーション容器16は、オイルサンプ14内部の上部に配置されている。オイルサンプ14を含むアセンブリと、デカンテーション容器16及び潤滑ポンプ15は、取り付け面14aを介してシリンダーヘッド2に取付けられている。
【0019】
共通のレール電源装置用に設計された超高圧燃料ポンプ17は、シリンダーヘッド2の上部に配置され、カム軸12により駆動される。スターター18は、クランクシャフトケーシング5に配置され、クランクシャフト8に固定的に取付けられたスターターリングギア18aを駆動させる。
【0020】
平行なシリンダー群からなる列は、車両の水平面、つまり車両の進行面に対し約11度の角度で傾斜している。傾斜角度によりエンジンの高さ、すなわちスターターリングギア18aの底部と燃料ポンプ17の上端の間における空間の高さの差に関する要件が決まる。スターターリングギア18a自体が、クランクシャフト室8aに可能な限り近くに配置されるが必然的に外側に位置するスターター18の空間要件の直接的な結果である。変形例では、前記実施例よりクランクシャフト室8aの寸法が小さく且つ傾斜角度が大きいか、又はその反対である。
【0021】
エンジンの潤滑回路をここで説明する。潤滑ポンプ15はオイルサンプ14の低点からオイルを引き込み、オイルサンプ14の壁に配置されたオイルフィルター19を通るダクト内に加圧下でオイルを注入すると同時に、シリンダーケーシング4の方向に向かうメインダクト20と、シリンダーヘッド2の方向に向かう第2ダクト21とに供給する。メインの潤滑ダクト20は、各シリンダーに固定的に取付けられ、ピストン6が最大限に引き込まれた時に、ピストン6の内部に位置する接続ロッドの小端部にオイルをスプレーするノズル22に供給する。メインダクト20は、シリンダーケーシング4内に配置された図示しないトンネルを通して、クランクシャフト8が搭載される転がり軸受にも供給する。同様に、クランクシャフト8に沿って図示しないチャネルが走っていることにより、接続ロッドの大端部とクランクシャフト8の間の誘導クランクピン9までオイルを運搬することができる。第2ダクト21は、図示しない複数のダクトを介してカム軸12及び12aを誘導する軸受と、歯止めの回転軸及びバルブ13及び13aを誘導して並進させる手段の回転軸とを接合している。これら様々な注油箇所により、オイルがシリンダーヘッド2のチャンバー23aに浸透する。オイルはシリンダーヘッドの低点23に回収される。同様に、ノゾル22によりスプレーされた後にピストン6の下部から流出するオイルは、クランクシャフト室8aに沿ってクランクシャフト低点24へと流れる。エンジン1におけるオイル消費の約70%はエンジン3の下部への注油を目的とするもので、クランクシャフトの低点24に流れるオイルは回収ポンプ25によってオイルサンプ14の方向に回収される。オイルサンプ14はシリンダーヘッド2の真下に位置するため、シリンダーヘッドの低点23に到達するオイルは、回収ダクト26のおかげで、重力によってオイルサンプ14へ回収される。このオイルサンプ14の構成により、追加のオイルポンプをなくすことが可能となり、これは大量生産される車両に極めて適している。
【0022】
次に油性蒸気を回収する回路を説明する。エンジン3下部の内部において、クランクシャフト室8aの雰囲気はオイル滴で飽和し、ピストン6とシリンダーケーシング4との間の密閉リングがあるにも関わらず燃焼室10から漏洩する蒸気が混ざっている。吸引高点27が、油性蒸気を吸引するためにクランクシャフト室8aに配置されている。ダクト28はエンジンの下部に配置され、シリンダーヘッド2の中で吸引高点27をデカンテーション容器16に接続している。同様に、シリンダーヘッドのダクト29は、シリンダーヘッド2のチャンバーを同じデカンテーション容器16に接続し、これにより、バルブ13及び13aの誘導手段とこれらの制御手段から漏洩する蒸気を回収することができる。燃焼室10に空気を供給する回路は吸引口30を備え、ターボチャージャー31と吸引回路32はバルブ13に支配される。吸引ダクト33は、デカンテーション容器16をターボチャージャー31の上流の吸気回路に接続する。変形例では、吸気回路32はターボチャージャーを備えていない。吸引ダクト33は、ベンチュリタイプの装置(図示しない)を介して吸気回路に接合するので、吸気回路32を流れる大量の気流により軽い吸引流が発生し、クランクシャフト室8aとシリンダーヘッド2のチャンバー内部から油性蒸気を回収することができる。デカンテーション容器16に搭載されたバッフル34のおかげで、エンジン内部から発生する油性蒸気の一部が排出され、残りは燃焼室10で燃やされる。デカンテーション容器16によって回収されたオイルの一部は、サイフォン型ダクト16aによってオイルサンプ14に流れ込み、圧力差及び傾斜のばらつきに関わらず、オイルがデカンテーション容器16からオイルサンプ14に流れることが可能となる。
【0023】
例えば仏国特許出願番号第2860548号明細書に記載されているようなオイルポンプ供給ろ過器35を、クランクシャフトの低点24において用いることができる。低点24は、クランクシャフト8の軸と平行なチャネルの形状を有し、このチャネルの端部には、2つの吸引口36及び36aを有するろ過器35が搭載されている。慣性遮断部材は、車両が旋回加速等の加速を行う際に、2つの吸引口36及び36aを接続する方向に向かって動作させることができる。この慣性遮断部材の動きは従って、クランクシャフトの低点24を形成しているチャネル内部のオイルの動きと平行である。車両が例えば右に曲がると、オイルは低点24の左側に溜まり、ろ過器35の右の吸引口36が閉じる。空の場合に回収ポンプは動作せず、このことは、オイルサンプへの供給を断絶することがないため有利である。上記ろ過器は、オイルの乳化、気化及びエンジンによるオイル消費を制限する。
【0024】
車両の進行面に平行であり且つエンジンの下部3に正接している下面と、シリンダーヘッド2又はシリンダーヘッド2に直接取り付けられている堅い器具に平行であり且つ正接している上面とを考慮すると、これら2つの平面間の距離が縮小され、車両のボンネットとエンジンとの間に間隔を空けることが可能になる。オイルサンプ14が下面とシリンダーヘッド2との間に位置していることで、クランクシャフトの軸を下面に近づけることができ、任意的に、エンジンの傾斜を浅くするか、あるいは2つの平面間の距離を縮小するかのいずれかが可能となる。
【0025】
別の実施形態によれば、エンジンにガソリンポンプ、直接噴射エンジンポンプ、又は多点噴射エンジンポンプを装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による熱機関の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1列以上の、燃焼室(10)が設置された平行なシリンダー群を有する自動車の熱機関であって、クランクシャフト(8)と、熱機関に注油するオイルサンプ(14)とを備え、オイルサンプ(14)の少なくとも一部が、シリンダーの軸に沿って、クランクシャフト(8)に対向し且つ燃焼室(10)を越えた位置に配置されていることを特徴とする、熱機関。
【請求項2】
クランクシャフト室(8a)が設置されたケーシング(5)であって、ケーシング内部を流れるオイルがクランクシャフトの低点(24)で受容されるケーシングと、クランクシャフトの低点(24)に流れ込むオイルを引き込んでオイルサンプ(14)に供給する回収ポンプ(25)とを備える、請求項1に記載の熱機関。
【請求項3】
熱機関(1)のケーシング(5)及び/又はオイルサンプ(14)の2つの対向する部分に設けられた2つの吸引口(36、36a)を含むろ過器(35)を備え、ろ過器が、車両が加速する際のオイルと同じ方向であり、且つ2つの吸引口(36、36a)を接続する方向に向かって駆動されるのに好適な慣性遮断部材を備えており、慣性遮断部材は、上記加速方向とは反対の方向に吸引口を遮断することができる、請求項1又は2に記載の熱機関。
【請求項4】
ろ過器(35)の2つの吸引口(36、36a)を接続する方向が、車両の運動方向に対し横方向である、請求項3に記載の熱機関。
【請求項5】
オイルサンプ(14)からオイルを引き込んで熱機関の潤滑回路(20、21)に供給する潤滑ポンプ(15)を備える、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の熱機関。
【請求項6】
バルブ室が設置されたシリンダーヘッド(2)であって、バルブ室がシリンダーヘッドの低点(23)を有するシリンダーヘッドと、シリンダーヘッド(2)の低点(23)をオイルサンプ(14)に接続してバルブ室内を流れるオイルを回収するダクト(26)とを備える、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の熱機関。
【請求項7】
オイルサンプが、シリンダーヘッド(2)と一体に形成されているか、又はシリンダーヘッド(2)に搭載されている、請求項6に記載の熱機関。
【請求項8】
クランクシャフト室(8a)及び/又はバルブ室から発生する蒸気を受けるデカンテーション容器(16)を備え、デカンテーション容器(16)が熱機関の空気取入回路に接続され、熱機関が、デカンテーション容器に溜まるオイルを回収するために、デカンテーション容器をオイルサンプに接続させるダクトを備える、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の熱機関。
【請求項9】
熱機関の少なくとも1つのシリンダー軸が、車両の水平面に対し30度未満、好ましくは−10度〜+10度の角度で傾いており、シリンダーヘッド(2)がクランクシャフト(8)の上方に位置している、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の熱機関を備える車両。

【図1】
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【公表番号】特表2009−520910(P2009−520910A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546540(P2008−546540)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/FR2006/051313
【国際公開番号】WO2007/074256
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】