説明

強誘電体薄膜形成用液状組成物および強誘電体薄膜の製造方法

低温度での焼成でも優れた特性の強誘電体薄膜を作製可能な薄膜形成用液状組成物、及びそれを用いた強誘電体薄膜の製造方法を提供することを目的とする。液状媒体中に、一般式ABO(Aは、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Pb2+、La2+、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Ti4+、Zr4+、Nb5+、Ta5+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種)で表される、ペロブスカイト構造を有し、平均一次粒子径が100nm以下であり、かつアスペクト比が2以上の板状もしくは針状の結晶である強誘電体酸化物粒子が分散し、加熱により強誘電体酸化物を形成する可溶性金属化合物が溶解したことを特徴とする強誘電体薄膜形成用液状組成物を用いることにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は強誘電体薄膜形成用液状組成物およびそれを用いた強誘電体薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
近年、新しいメモリ素子として注目を集めている強誘電体メモリ(FeRAM)は、強誘電体薄膜の自発分極特性を積極的に利用して情報の読み書きを行うもので、揮発性、書込み速度、信頼性、セル面積などの点において、これまでのDRAM、SRAM、FLASHメモリなどの有する欠点を克服できる、優れたメモリとして期待されている。
FeRAM用の強誘電体材料としては、これまでにチタン酸ジルコン酸鉛系(PZT,PLZT)、ビスマス系層状ペロブスカイト強誘電体(BLSF)などの金属酸化物系材料が提案され、検討されてきている。
一般に、これらの強誘電体薄膜は、スパッタリング法などの物理的気相成膜法(PVD)やMOCVD法などの化学的気相成長法、および化学的溶液成膜法(溶液法)による成膜方法が提案されている。このうち、溶液法は、特殊で高価な装置を必要とせず、最も安価かつ簡便に強誘電体薄膜を成膜できることが知られている。また溶液法は精密な組成制御が容易であり、多くの強誘電体材料に見られる、組成の違いによる特性変動を抑制できるというメリットがあるため、非常に有効な強誘電体薄膜作製方法の一つとして検討が進められている。
溶液法による強誘電体薄膜の作製は、原料となる各成分の金属化合物(前駆体)を均質に溶解させた溶液を基板に塗布し、塗膜を乾燥し、必要に応じて仮焼成(Pre−bake)した後、例えば空気中で約700℃もしくはそれ以上の温度で焼成して結晶性の金属酸化物の薄膜を形成することにより強誘電体薄膜を成膜する方法である。原料の可溶性金属化合物としては、金属アルコキシドやその部分加水分解物もしくは有機酸塩やキレート錯体化合物といった有機金属化合物が一般に使用されている。
一方、上記FeRAMを使用するセル構造については、これまでに幾つかのセル構造が提案されてきているが、現在実用化されているのは強誘電体キャパシタとトランジスタを局所配線で接続した、いわゆるプレーナ構造と呼ばれるものであり、セル面積の縮小化、すなわち高集積化という観点からは不利な構造である。
これらを解決する構造として、プラグ上に強誘電体キャパシタを形成するスタック構造が提案されているが、多層配線形成時の還元雰囲気が強誘電体薄膜に致命的な特性劣化を引き起こすため問題となっている。さらに、これらの問題を解決する構造として、多層配線の形成を行った後、すなわちロジックプロセスの終了後、最上層に強誘電体薄膜とプレート線を形成する構造が提案されている。この構造においては論理回路上への成膜となるため、強誘電体薄膜形成時の焼成温度は400℃〜450℃程度まで低下させることが求められている。
これに対応するため、溶液法による強誘電体薄膜の作製においても結晶化温度の低減に関して様々な手法が提案されてきている。例えば、USP5,925,183号公報などに示される前駆体の構造を適切に制御する方法や、常誘電体であるケイ酸ビスマスをあらかじめコート液に添加しておく方法(Ferroelectrics,271巻,289頁(2002年))、チタン酸鉛層をシード層として用いる方法(Jpn.J.Appl.Phys.,35巻,4896頁(1996年))、適宜の基材の選択(J.Am.Ceram.Soc.,75巻,2785頁(1992年))、減圧アニール法(Jpn.J.Appl.Phys.,38巻,5346頁(1999年))などである。しかし、これら従来の方法における焼成温度は、いずれも550℃程度までの低減が限界であった。このために、従来、溶液法による場合には、高集積化に必要な論理回路上への強誘電体薄膜の形成は事実上困難であるとされていた。
さらに、強誘電体の微粒子を可溶性金属塩と共存させた組成物を用いて薄膜を形成する試みもなされている(Jpn.J.Appl.Phys.,41巻,6969頁(2002年))。しかし、この強誘電体の微粒子は長時間の機械的粉砕によって得られた粒子を使用しているために、粒子の結晶性などの低下を招き、所望の特性が得られていなかった。
【発明の開示】
本発明は、上記したような従来技術の問題点に鑑み、溶液法で成膜して強誘電体薄膜を得る場合に、比較的低温度、特に、550℃以下、更には450℃以下の温度で焼成ができるために、高集積化に必要な論理回路上への強誘電体薄膜の形成が可能になり、かつ耐電圧、自発分極性、特に疲労特性などの点で優れた強誘電体特性を有する薄膜を作製可能な薄膜形成用液状組成物、およびそれを用いた強誘電体薄膜の製造方法の提供を目的とする。
本発明は、鋭意研究を続けたところ、上記目的を達成することができる、下記の構成を有することを特徴とするものである。
(1)液状媒体中に、一般式ABO(Aは、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Pb2+、La2+、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Ti4+、Zr4+、Nb5+、Ta5+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種である。)で表される、ペロブスカイト構造を有し、平均一次粒子径が100nm以下であり、かつアスペクト比が2以上の板状もしくは針状の結晶である強誘電体酸化物粒子が分散され、かつ加熱により強誘電体酸化物を形成する可溶性金属化合物が溶解されてなることを特徴とする強誘電体薄膜形成用液状組成物。
(2)可溶性金属化合物が、加熱により、一般式ABO(Aは、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Pb2+、La2+、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Ti4+、Zr4+、Nb5+、Ta5+およびFeからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)で表される、ペロブスカイト構造を有する強誘電体酸化物を形成する化合物である、上記(1)に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
(3)強誘電体酸化物粒子が、ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物粒子を結晶化させた後にガラスマトリックス成分を除去することによって得られる粒子である、上記(1)または(2)に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
(4)強誘電体酸化物粒子/可溶性金属化合物の含有比率が、酸化物換算の質量比で、5/95〜95/5である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
(5)強誘電体酸化物粒子と可溶性金属化合物との合計含有量が1〜50質量%である(1)〜(4)のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の液状組成物を基板上に塗布し、550℃以下で焼成を行う強誘電体薄膜の製造方法。
(7)強誘電体薄膜の膜厚が10〜300nmである(6)に記載の強誘電体薄膜の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明における、一般式ABO(Aは、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Pb2+、La2+、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Ti4+、Zr4+、Nb5+、Ta5+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種である。)で表される、ペロブスカイト構造を有する強誘電体酸化物結晶粒子(以降、単に強誘電体粒子ともいう)は、本発明の組成物中の根幹となる必須の成分である。本発明では、かかる高い結晶性を有する強誘電体粒子が液状媒体中に分散した液状組成物を用いることによって、これまで溶液法で用いられてきた可溶性金属化合物溶液からの成膜の際に必要な焼成温度を飛躍的に低下させることが可能となる。
かかる強誘電体粒子は、一般式ABO(A、Bは、上記と同じ)で表される、ペロブスカイト構造を有する強誘電体であり、上記一般式のAは、Ba2+、Sr2+、Pb2+が好ましく、また、Bは、Ti4+、Zr4+が好ましい。なかでも、AがPb、BがTiとZrの複合酸化物である、Pb(ZrTi1−x)O(xは、0.1〜0.9である。以下、PZTともいう。)が好ましい。もちろん、このPZTのPbサイトを他元素、例えばLaなどの希土類元素で部分的に置換したPLZTとして知られる強誘電体なども用いることができる。
上記強誘電体粒子は、その平均一次粒子径が100nm以下であることが必要である。ここで、一次粒子径は粒子の長径を基準としており、また、平均粒子径は数平均粒子径である。平均一次粒子径がこれより大きいと、薄膜形成時の表面の凹凸が粗くなったり、薄膜中での充填率が上がらず誘電特性が低下する。なかでも、平均一次粒子径が好ましくは50nm以下、特に好ましくは、10〜30nmが好適である。平均一次粒子径が10nm未満では、粒子の強誘電特性が低下するおそれがあるため好ましくない。
さらに、本発明で強誘電体粒子は、上記範囲の平均一次粒子径を有するとともに、その形態は異方性の結晶粒子、すなわち、アスペクト比が2以上の板状または針状の結晶であることが必要である。ここで、アスペクト比とは、異方性粒子が有する、長径/短径の比率を意味し、板状結晶であれば、直径/厚みの比率、針状結晶であれば、長さ/直径の比率である。特に、本発明のペロブスカイト型の強誘電体酸化物においては、自発分極の向きが結晶格子のc軸の向きにほぼ一致するものが多く、例えばc軸に直交する面((001)面)が成長した板状結晶を用いることで、塗布後粒子がc軸方向に自発的に整列、すなわち配向しやすくなり、高い自発分極値が得られるという利点がある。また、強誘電体粒子の配向性を向上できるため、強誘電体薄膜の疲労特性の向上にもつながると考えられる。本発明では、アスペクト比が2より小さい場合には、形成された強誘電体薄膜の特性が低下するため好ましくない。特に好ましくは、アスペクト比を5以上とする。
上記特性を有する強誘電体粒子としては、特に高い結晶性を有することから、ガラスマトリックス中で強誘電体粒子を結晶化させた後ガラスマトリックス成分を除去することによって得られる粒子が好ましい。すなわち、ガラス母材融液中に強誘電体粒子として結晶化させる成分を溶解させておき、融液を急速冷却してガラス化させた後、再度加熱アニールを行うことで母材中に微結晶を析出させるガラス結晶化法により得られる粒子である。析出した微結晶は、ガラスマトリックスを適宜の薬液等によって溶解させることにより取り出される。
かかるガラスマトリックス中で結晶化させた超微粒子は、形態の制御が容易であり、アニール処理の条件等によって比較的異方性の大きい微粒子を作製しやすく、アスペクト比の大きい粒子が得られ易いという利点も併せ有している。
上記ガラス母材としては、ホウ酸系、リン酸系、ケイ酸系などが使用できるが、溶融性や目的酸化物との複合化合物の製造のし易さやマトリックスの溶離の容易性などの点から、ホウ酸系のガラス母材が好ましく用いられる。
以下に、強誘電体酸化物粒子の製造をチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)微結晶を作製する方法を例にとって具体的に説明すると、次の▲1▼〜▲4▼の工程で強誘電体粒子を得ることができる。
▲1▼ガラス形成成分(例えば、酸化ホウ素)と、目的とする強誘電体酸化物粒子の組成の金属酸化物(例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン及び酸化鉛)とを混合し、1200℃以上の温度で全体を熔融させる[熔融]。
▲2▼熔融ガラスを急速冷却させることによって強誘電体酸化物組成の金属イオンを含むガラスを得る[ガラス化]。
▲3▼550℃〜700℃程度の温度でアニール処理を行うことでガラス中に強誘電体酸化物の結晶核を形成させ、アニール条件を制御して所定の粒子径まで成長させる[結晶化]。
▲4▼酸、水、あるいはその混合物によりガラス母材成分(例えば、酸化ホウ素)を取り除き強誘電体粒子(例えば、Pb(ZrTi1−x)O)を得る[リーチング]。
上記一連の工程によれば、アニール温度領域において非常に粘度の高いガラスを母材として結晶化を行っているため、強誘電体粒子の粒子径や粒子形態の制御が容易であり、また結晶性の高い微結晶が得られるという特徴がある。
一方、本発明における、加熱により強誘電性酸化物になりうる可溶性金属化合物(以降、単に可溶性金属化合物ともいう)とは、加熱による熱分解などによって酸化物に転化して強誘電性を示しうる化合物である。目的とする強誘電体酸化物が複合酸化物である場合は、2種以上の可溶性金属化合物を所定の比率で混合して用いるか、もしくは2種以上の金属を所定の割合で含む複合金属化合物を用いる。これらの可溶性金属化合物としては、硝酸塩などの無機酸塩、エチルヘキサン酸塩などの有機酸塩、アセチルアセトン錯体などの有機金属錯体、または金属アルコキシドなどが用いられ、特に有機酸塩、有機金属錯体、または金属アルコキシドが好ましく用いられる。
本発明の強誘電体薄膜形成用液状組成物から強誘電体薄膜を形成する過程において、上記可溶性金属化合物は、強誘電体酸化物結晶粒子の結合剤としても働き、この可溶性金属化合物は前述の強誘電体粒子を核として結晶成長することが可能となり、より低温からの結晶化が可能となる。また、可溶性金属化合物は、熱処理による焼成後に強誘電体粒子間の空隙において強誘電体酸化物を形成することにより、得られる強誘電体薄膜全体としての誘電特性を向上させる働きをも有する。
上記可溶性金属化合物は、焼成後に強誘電体粒子と略同じ組成の強誘電体を形成するような組成を有していてもよいし、強誘電体粒子と異なる組成の強誘電体を形成するような組成を有していてもよい。しかし、強誘電体粒子が結晶核として働くことを考慮すると、強誘電体粒子と可及的に同じ組成の強誘電体を形成するようにすることが好ましい。
本発明において、強誘電体粒子と可溶性金属化合物の含有比率は、可溶性金属化合物が加熱により酸化物になった際の酸化物換算の質量比で、強誘電体粒子/可溶性金属化合物の比率が5/95〜95/5であることが好ましい。強誘電体粒子がこの範囲よりも大きくなると結合剤成分が不足し、形成された薄膜が基板に密着しなくなるおそれがあり、逆に、上記範囲よりも小さい場合、強誘電体粒子の添加効果が発現しにくい。ここで、上記比率を30/70以上とすると強誘電体粒子の配向性が向上し、高特性の強誘電体薄膜を得やすくなるため特に好ましい。一方、上記比率を70/30以下とすれば緻密な強誘電体薄膜を得やすくなる点で好ましい。
上記強誘電体粒子と可溶性金属化合物は、適当な液状媒体中に強誘電体粒子を分散させ、かつ、可溶性金属化合物を溶解させた液状組成物として、強誘電体薄膜形成用の塗布液などに使用される。上記液状組成物を形成する場合、強誘電体粒子と可溶性金属塩化合物とを混合して液状媒体中に溶解または分散してもよいし、それぞれを同一または異なる液状媒体中に分散または溶解したものを混合してもよい。液状媒体としては可溶性金属化合物を溶解しうるものであれば特に限定はされないが、一般的には、水、アルコール(エタノール、2−プロパノールなど)、エーテルアルコール(2−エトキシエタノール、2−エトキシプロパノールなど)、エステル(酢酸ブチル、乳酸エチルなど)、ケトン(アセトン、メチルイソブチルケトンなど)、エーテル(ジブチルエーテル、ジオキサンなど)、脂肪族炭化水素(シクロヘキサン、デカンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン)、含窒素有機溶媒(アセトニトリル、N−メチルピロリドンなど)、或いはこれらの2種以上の混合溶媒を用いることができる。具体的な液状媒体としては、組成物中の結晶粒子の種類や表面状態、可溶性金属化合物の種類、さらには塗布方法によって適宜選択、混合して用いられる。なお、液状媒体中に、可溶性金属化合物の未溶解分が一部、含まれていてもよい。
本発明の液状組成物中の固形分(強誘電体粒子と可溶性金属化合物の合計)の含有量としては、目的とする強誘電体膜厚や液状物の塗布方法などによって適宜調整されるが、通常、1〜50質量%であることが好ましい。上記範囲より小さい場合には塗布により得られる薄膜の厚みが非常に小さくなり、所望の厚みにするために非常に多くの回数の塗布を繰り返す必要があるし、上記範囲より大きい場合には、液の安定性が低下するおそれがある。
また、本発明の液状組成物を形成する上記強誘電体粒子や可溶性金属塩化合物を媒体中に溶解または分散させる場合には、例えば、ビーズミル、サンドミルなどのメディアミル、超音波式、撹拌式など各種ホモジナイザー、ジェットミル、ロールミルなど、既知の方法や装置が使用できる。
本発明の液状組成物中には、上記強誘電体粒子や可溶性金属化合物を分散させるための分散剤や、塗膜のレオロジー特性などを改善させるために各種界面活性剤や表面処理剤、樹脂成分等を含有せしめてもよい。しかし、あまりこれらが多量に添加されていると焼成後に残炭分として残りやすくなるため、必要最小限の量にするのが好ましい。
本発明の液状組成物を基板上に塗布し、焼成を行うことによって強誘電体薄膜を製造することができる。塗布の方法としては、既知の方法を用いることができる。好ましい具体例としては、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、転写印刷法などが挙げられる。なかでも、得られる薄膜の均質性や生産性の点から、スピンコート法が最も好適に用いられる。
本発明において薄膜の形成に使用される基板としては、Si、GaAsなどの単結晶半導体基板やBaTiO、SrTiO、MgO、Alなどの単結晶誘電体基板、これら表面上に多結晶Siや電極層として、Pt、Ir、IrO、Ru、RuOなどを堆積させたもの、または半導体基板と上記電極層との間にSiO、Si等の絶縁層やTi、Taといったバッファ層を設けたものなどが挙げられる。しかし、基板としては、焼成温度程度の耐熱性があるものであれば、これらに限定されるものではない。
これら基板上に、本発明の液状組成物を塗布した後、好ましくは、媒体の除去のために、通常、100〜400℃で1分〜2時間乾燥した後、焼成が行われる。ここでの焼成は、上記したように本発明では、低温度範囲の採用が可能であり、好ましくは550℃以下、場合により450℃以下で行われる。焼成はもちろん、550℃を超える温度での採用も可能であり、用途によってはかかる高温度での焼成が有利な場合がある。焼成時間は温度や雰囲気によっても異なるが、好ましくは1分〜2時間で行われる。この焼成は、可溶性金属化合物を分解、および/または結晶化させるもので、雰囲気としては大気中、酸素中、不活性ガス中など、適宜選択して使用可能である。焼成には、通常の拡散炉のような電気炉も使用可能であるが、急速昇温の可能なホットプレートや赤外線ランプアニール炉(RTA)などを用いると、さらに結晶化を進行させやすいために好ましい。
上記のようにして、本発明において強誘電体薄膜を形成する場合、膜厚を10〜300nmとすると好ましい。膜厚が10nm未満では均質な膜を得ることが困難であるし、300nmを超える場合には膜中にクラックが入るおそれがあり好ましくない。なお、塗布−乾燥−焼成からなる一回のプロセスで所望の膜厚が得られない場合には、このプロセスを繰り返して行うことができることはもちろんである。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるわけではない。なお、例6〜例8は比較例である。
[例1−強誘電体粒子(PZT)の作製]
酸化鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン(ルチル)、及び酸化ホウ素を、PbO、ZrO、TiO、及びBとしてそれぞれ47.2モル%、13.3モル%、11.7モル%、及び27.82モル%含むように秤量し、エタノール少量を用いて自動乳鉢でよく湿式混合した後乾燥させて原料粉末とした。得られた原料粉末を、融液滴下用のノズルのついた白金製容器(ロジウム10%含有)に充填し、ケイ化モリブデンを発熱体とした電気炉において1350℃で2時間加熱し、完全に熔融させた。次いでノズル部を加熱し、融液を電気炉の下に設置された双ロール(ロール径150mm、ロール回転数50rpm、ロール表面温度30℃)に滴下しフレーク状固形物を得た。
得られたフレーク状固形物は透明を呈し、粉末X線回折の結果、非晶質物質であることが確認された。このフレーク状固形物を、500℃で12時間加熱することにより、Bガラスマトリックス中で強誘電体粒子が結晶化せしめた。次いで、このフレーク粉を80℃に保った1mol/Lの酢酸水溶液中に添加し6時間撹拌した後、遠心分離、水洗浄、乾燥を行って白色粉末を得た。
得られた白色粉末を粉末X線回折によって同定したところ、Pb(Zr0.52Ti0.48)O結晶のみからなる粉末であることが判った。なお、ZrとTiの比率は、ICP法による定量によって行った。また、透過型電子顕微鏡によって観察を行った結果、この結晶は板状形をしており平均一次粒子径20nm、厚み9nmであり、アスペクト比は2.22であった。
[例2−強誘電体粒子BaTiOの作製]
炭酸バリウム、酸化チタン(ルチル)、および酸化ホウ素を、BaO、TiO、及びBとしてそれぞれ50.0、16.7、及び33.3モル%となるよう秤量し、エタノール少量を用いて自動乳鉢でよく湿式混合した後乾燥させて原料粉末とした。得られた原料粉末を、融液滴下用のノズルのついた白金製容器(ロジウム10%含有)に充填し、ケイ化モリブデンを発熱体とした電気炉において1350℃で2時間加熱し、完全に熔融させた。次いで、ノズル部を加熱し、融液を電気炉の下に設置された双ロール(ロール径150mm、ロール回転数50rpm、ロール表面温度30℃)に滴下しフレーク状固形物を得た。
得られたフレーク状固形物は透明を呈し、粉末X線回折の結果、非晶質物質であることが確認された。このフレーク状固形物を、590℃で12時間加熱し、結晶化処理を行った。次いで、このフレーク粉を80℃に保った1mol/Lの酢酸水溶液中に添加し12時間攪拌したのち遠心分離、水洗浄、乾燥を行って白色粉末を得た。
得られた白色粉末を粉末X線回折によって同定したところ、チタン酸バリウム結晶のみからなる粉末であることが判った。また、透過型電子顕微鏡によって観察を行った結果、この結晶は板状形をしており平均一次粒子径25nm、厚み10nmであり、アスペクト比は2.50であった。
[例3−PZT強誘電体薄膜の作製]
例1で得られたPZT結晶粒子を、湿式ジェットミルを用いてエタノール中に分散させた後遠心分離によって粗大粒を除去し、10質量%のPZTを含む分散液Aを得る。該分散液Aの分散粒子径をレーザー散乱粒度分布計を用いて測定すると90nmであり、良好な分散体である。
酢酸鉛、テトラブチルチタネート、テトラブチルジルコネートおよびアセチルアセトンを、2−エトキシプロパノール中にPb:Zr:Ti:アセチルアセトン=1.05:0.53:0.47:1.00(モル比)となるよう溶解させ、窒素気流中130℃で4時間の還流操作を行う。この溶液を室温まで冷却し、イオン交換水を(Pb+Zr+Ti)の2倍(モル比)となるようゆっくりと添加する。その後、再度窒素気流中130℃で8時間の還流加熱を行って可溶性金属化合物溶液Bを得る。なお、金属源の液中濃度は、酸化物換算で10質量%とする。
分散液Aと可溶性金属化合物溶液Bとを、質量比(酸化物換算値)で50/50となるよう混合し、本発明の組成物とする。
基板として表面にPt層(厚み200nm)/Ti層(厚み20nm)/熱酸化SiO層(厚み800nm)が積層されたシリコン単結晶基板を用い、表面のPt層上にスピンコート法によって上記組成物を塗布し、ホットプレート上200℃で30分間乾燥させる。この、塗布−乾燥の処理を3回行った後、RTA炉を用いて酸素中450℃30分間の焼成を行う。
得られる被膜は厚さ100nmであり、X線回折の結果、c軸方向に優先配向したPZT結晶相のみからなる被膜である。さらにこの被膜上にDCスパッタ法によって0.1mmφのPt電極を作製し、RTA炉において400℃、15分間のポストアニール処理を行ってキャパシタを作製して強誘電体ヒステレシス特性を測定すると、抗電界値は44kV/cm、自発分極値は35μC/cmとなる。得られる強誘電体キャパシタの疲労特性を評価(サイクル試験において、自発分極が初期の5%以上低下するサイクル数)すると、±3V、10回のサイクルを繰り返した後にも自発分極の値の変化量を5%以内に抑えられる。
[例4]
例2で得られたBaTiO結晶粒子を、湿式ジェットミルを用いてエタノール中に分散させた後、遠心分離によって粗大粒を除去し、10質量%のBaTiOを含む分散液Cを得る。該分散液Cの分散粒子径をレーザー散乱粒度分布計を用いて測定すると80nmであり、良好な分散体である。
金属バリウム、テトラブチルチタネート、およびジエチレングリコールを2−メトキシプロパノール中にBa:Ti:ジエチレングリコール=1:1:1(モル比)となるよう溶解させ、窒素気流中110℃で4時間の還流操作を行った後、室温まで冷却し、イオン交換水を(Ba+Ti)の2倍(モル比)となるようゆっくりと添加する。その後、再度窒素気流中110℃で8時間の還流加熱を行って可溶性金属化合物溶液Dを得る。なお、金属源の液中濃度は、酸化物換算で10質量%とする。
分散液Cと可溶性金属化合物溶液Dとを、質量比(酸化物換算)70/30となるよう混合し、本発明の組成物とする。
基板として表面にPt層(厚み200nm)/Ti層(厚み20nm)/熱酸化SiO層(厚み800nm)が積層されたシリコン単結晶基板を用い、表面のPt層上にスピンコート法によって上記組成物を塗布し、ホットプレート上200℃で30分間乾燥させる。この、塗布−乾燥の処理を3回行った後、RTA炉を用いて酸素中500℃20分間の焼成を行う。
得られる被膜は厚さ120nmであり、X線回折の結果、c軸方向に優先配向したBaTiO結晶相のみからなる被膜である。さらにこの被膜上にDCスパッタ法によって0.1mmφのPt電極を作製し、RTA炉450℃15分間のポストアニール処理を行ってキャパシタを作製して強誘電体ヒステレシス特性を測定すると、抗電界値は30kV/cm、自発分極値は19μC/cmとなる。得られる強誘電体キャパシタの疲労特性を例3と同様に評価すると、±3V、10回のサイクルを繰り返した後にも自発分極の値の変化量を約5%に抑えられる。
[例5〜7]
例1の分散液Aと可溶性金属化合物液Bの混合比を表1に示す割合で変化させ、例3と同様にして強誘電体薄膜を作製し、評価を行うと、表1に示す結果が得られる。なお、例5、例6で得られる強誘電体薄膜は、X線回折の結果、c軸方向に優先配向したPZT単相である。
[例8]
例3の強誘電体結晶分散液Aの代わりに、固相法で作製した平均一次粒子径1.2μm(アスペクト比1)の球状PZT結晶粒子を10質量%含む分散液Eを用いて例3と同様にして成膜/評価を行う。得られる相はPZT単相からなる強誘電体相であり、分極特性も例3で得られた被膜と同等のものであるが、疲労特性の評価では3V、10回のサイクルで自発分極はほとんどゼロとなり、劣化が著しいものである。なお、X線回折の結果、強誘電体相は無配向である。
[例9]
例3の強誘電体結晶分散液Aの代りに、固相法で作製した球状PZT粒子(平均一次粒子径1.2μm)を、遊星式ボールミルを用いて40時間粉砕する。電子顕微鏡観察の結果、粒子径は40nmまで微細化している。この微粉末を用い、例3の分散液Aと同様にして分散液を調製し、例3と同様にしてPZT被膜を作製する。得られる相はPZT単相からなる強誘電体相であるが、粉砕によるPZT結晶の歪みの影響もあってか自発分極値は小さくなり、また疲労特性も10回のサイクルで自発分極が初期の50%まで低下する。なお、X線回折の結果、強誘電体相は無配向である。


【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、溶液法で成膜して強誘電体薄膜を得る場合に、比較的低温度、特に、550℃以下、更には450℃以下の温度で焼成ができるために、高集積化に必要な論理回路上への強誘電体薄膜の形成が可能になり、かつ抗高電性、自発分極性、特に疲労特性の点で優れた強誘電体特性を有する薄膜を作製可能な薄膜形成用組成物、およびそれを用いた強誘電体薄膜の製造方法が提供される。
本発明により製造される強誘電体薄膜は、メモリ素子およびその他のデバイスの製造において有利に利用することができる。特に、膜厚が10〜300nmであると、FeRAMへの適用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状媒体中に、一般式ABO(Aは、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Pb2+、La2+、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Ti4+、Zr4+、Nb5+、Ta5+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種である。)で表される、ペロブスカイト構造を有し、平均一次粒子径が100nm以下であり、かつアスペクト比が2以上の板状もしくは針状の結晶である強誘電体酸化物粒子が分散され、かつ加熱により強誘電体酸化物を形成する可溶性金属化合物が溶解されてなることを特徴とする強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項2】
可溶性金属化合物が、加熱により、一般式ABO(Aは、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Pb2+、La2+、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Ti4+、Zr4+、Nb5+、Ta5+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種である。)で表される、ペロブスカイト構造を有する強誘電体酸化物を形成する化合物である請求項1に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項3】
強誘電体酸化物粒子が、ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物粒子を結晶化させた後にガラスマトリックス成分を除去することによって得られる粒子である請求項1または2に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項4】
強誘電体酸化物粒子/可溶性金属化合物の含有比率が、酸化物換算の質量比で、5/95〜95/5である請求項1〜3のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項5】
強誘電体酸化物粒子と可溶性金属化合物との合計含有量が1〜50質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の液状組成物を基板上に塗布し、550℃以下で焼成を行う強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項7】
強誘電体薄膜の膜厚が10〜300nmである請求項6に記載の強誘電体薄膜の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/097854
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505886(P2005−505886)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005913
【国際出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】