説明

懸架コイルばね

【課題】懸架装置に組み付けられた状態で、ばね反力軸を荷重入力軸と一致又は十分近接させ、しかもコイルばねの設計及び製造を簡略化する。
【解決手段】自由状態にある懸架コイルばね10は、屈折点PBにてコイル軸ACがV字状に屈曲するように成形され、上側座面38の座巻中心点CUから仮想コイル軸AIまでの距離が上側傾斜量VUとされ、かつ座巻中心点CLから仮想コイル軸AIまでの距離が下側傾斜量VLとされている。また懸架コイルばね10は、懸架装置におけるスプリングシート22,24との間に介装されると、ストラット軸に沿って圧縮状態とされる。これにより、傾斜量VU,VLに応じて、懸架コイルばね10のばね反力軸が仮想コイル軸AIに対して傾斜及び偏倚する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用の懸架装置に適用される懸架コイルばねに係り、特にストラット型の懸架装置に好適な懸架コイルばねに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用の懸架装置として広く普及しているストラット型懸架装置は、ショックアブソーバをホイールに対する位置決め用の支柱(ストラット)として利用する形式のものであり、このストラットとしてのショックアブソーバは、シリンダ、このシリンダにより摺動可能に支持されたロッド及び、このロッドの外周側に配置された圧縮コイルばねを備えている。このストラット型懸架装置では、ロッドの上端部がストラットマウント等を介して車体へ連結されると共に、シリンダの下端部がホイールを回転可能に支持するナックルに剛体結合される。ここで、ナックルはロアーアームを介して車体にピボット結合されている。また圧縮コイルばね(以下、単に「コイルばね」という。)は、車体側に固定された上側スプリングシートとシリンダ外周面に固定された下側スプリングシートとの間に圧縮状態となるように配置され、ロッドの外周側に支持される。
【0003】
上記のようなストラット型懸架装置は、他の独立懸架式のものと比較し、部品点数が少なく構造が簡単であると共に、設置スペースが小さくすむというメリットがあるが、ストラット軸と荷重入力軸(タイヤ接地点とストラットのアッパマウント点とを結んだ軸)がずれているため、ストラットに曲げモーメントを発生させる。この曲げモーメントは、ショックアブソーバの摺動部であるピストン及びブッシュにコジリを発生させるため、ロッドのフリクションを増大させてショックアブソーバの円滑な作動を妨げ、自動車の乗心地を悪化させる要因となる。現在、このような曲げモーメントの改善策としては、例えば、コイルばねをストラット軸とオフセットして取り付け、曲げモーメントをキャンセルする対策や、ストラット内の軸受部やピストン部の摺動面を低摩擦材により形成する対策が採られている。
【0004】
しかし、ストラット型懸架装置において、自動車のタイヤ幅が広くなるに従ってタイヤ接地点が外方へ移動するため、コイルばねのばね反力の作用線(ばね反力軸)が荷重入力軸と一致し、又は十分近接するようにコイルばねをオフセットすることが事実上できなくなり、またタイヤ幅が広くない場合でも、コイルばねによる車体への干渉を避けるためコイルばねのオフセットは小さいほうが望ましい。
【0005】
上記のような観点から、例えば、特開2000−104772号公報には、圧縮コイルばねのコイル軸が自由状態において実質的に所定の曲率で湾曲するように圧縮コイルばねを形成し、懸架装置における下側座に着座する下側座面及び上側座面に着座する上側座面の少なくとも一方が下側座及び上側座に対して所定方向へ、所定角度傾斜するように下側座巻部及び上側座巻部のピッチが設定された懸架コイルばねが開示されている。この懸架コイルばねによれば、下側座又は上側座に対する懸架コイルばねにおける下側座面又は上側座面の傾き及びコイル軸線の曲がり量(胴曲がり量)をそれぞれ調整することにより、ばね反力軸の傾き及び車体幅方向に沿った位置調整がそれぞれ可能になる。この結果、コイルばねのストラット軸に対するオフセットを増大させることなく、懸架コイルばねのばね反力軸を荷重入力軸と一致させ、又は十分近接させることが可能になるので、ショックアブソーバのフリクションを減少させてショックアブソーバの作動が円滑になる。これを換言すれば、下側座面又は上側座面の傾き及び胴曲がり量をそれぞれ調整することにより、コイルばねによって横反力を発生させ、この横反力によるモーメントをストラットの曲げモーメントに対抗させることで、ショックアブソーバにおけるピストン、ブッシュ等の摺動部への横力を減少できる。また、コイルばねのばね反力軸をアッパマウント(ストラットマウント)の中心を通過するように位置調整すれば、こじりによる軸受部のフリクションを効果的に防止できるので、操舵性を良好にできる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2000−104772号公報の懸架コイルばねを設計する際に、ばね特性に影響を与える設計上のパラメータとして胴曲がり量及び座巻ピッチが新たに追加されるため、コイルばねの設計が煩瑣になるという問題が生じる。またコイルばねにおける座巻ピッチ、すなわち座面の傾きの大きさ及び方向が、横反力の大きさ及び方向に対して極めて敏感に影響するため、コイルばねを十分高い寸法精度で製造する必要があり、例えば、座面の傾きの大きさや方向が設計上の目標値から僅かに外れただけでも、所要のばね特性が得られなくなるおそれがある。このため、コイルばねを製造する製造設備についても、高い寸法精度を得るために特別なものが必要となり、又はコイルばねの製造工程において特別な生産管理が必要となり、コイルばねの製造コストが大幅に上昇するという問題も生じる。
【0007】
また、上記のような懸架コイルばねは、通常、その特性が有限要素法を用いた非線形解析により解析され、解析された結果に基づいて設計される。これを換言すれば、新たに要求されるようになった横反力や荷重軸等の特性についても、モデル化さえ行えば汎用の有限要素コードで解析が可能であるが、有限要素法による解析(FEN解析)では、ばね諸元と境界条件を入力してばね特性を得ることはできても、逆に設計者が意図する所要の特性を満たすばね諸元を求めることはできず、結果が目的の特性を満たすようになるまで、ばね諸元を変えながらの反復計算が必要となる。
【0008】
図13のフローチャートに基づいて有限要素法を用いた懸架コイルばねの設計方法を具体的に説明する。先ず、ステップ300で懸架コイルばねの寸法及び形状をそれぞれ仮定した後、ステップ302〜ステップ306で、境界条件と組み合わせてFEM解析を行い、この解析結果が要求される特性を満足するか否かを判断する。このとき、解析結果が要求される特性を満足していれば、その解析結果に基づいて懸架コイルばねの寸法及び形状を確定し、また解析結果が要求される特性を満足していない場合には、ステップ300にリターンして要求される特性を満足する解析結果が得られるまで、仮定する懸架コイルばねの寸法及び形状を変えながら反復計算を行う。このような設計方法により懸架コイルばねを設計する場合には、懸架コイルばねの寸法及び形状を仮定する際に設計者の勘や経験に頼る他はなく、最適解が見付かるかどうかは設計者の熟練度次第になってしまうという問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、上記事実を考慮して、懸架装置に組み付けられた状態で、ばね反力軸を荷重入力軸と一致又は十分近接させることができ、しかも設計及び製造が簡単な懸架コイルばねを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る懸架コイルばねは、自由状態においては、ばね端末からR(Rは正の実数)巻目の巻線部に対応する部位を屈折点としてコイル軸がV字状に屈曲するように成形され、前記屈折点における屈折角が0°であると仮定した場合の仮想コイル軸に対して上側座巻部の中心及び下側座巻部の中心の少なくとも一方を所定の偏心方向へ所定の偏心量だけ偏心させ、前記懸架装置における上側座と下側座との間に介装されストラット軸に沿って圧縮された状態で、懸架装置におけるばね反力軸が荷重入力軸に十分に近接するように、前記上側座巻部の中心及び下側座巻部の中心の前記仮想コイル軸に対する前記偏心方向及び偏心量を設定したものである。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の懸架コイルばねが、懸架装置における上側座と下側座との間に介装されストラット軸に沿って圧縮状態とされることにより、懸架コイルばねにより圧縮反力と共に横反力が発生し、これらの合成力であるばね反力の作用線(ばね反力軸)に仮想コイル軸に対する傾きが生じる。さらに懸架コイルばねが仮想コイル軸に対して非対称的に弾性変形することにより、ばね反力軸が仮想コイル軸に対して偏倚する。
【0012】
この結果、仮想コイル軸をコイル軸とするコイルばね(基準コイルばね)の設計上のパラメータに対して、懸架コイルばねにおける上側座巻部の中心から仮想コイル軸までの距離(上側偏心量)と下側座巻部の中心から仮想コイル軸までの距離(下側偏心量)と、それぞれの座巻部の偏心方向とを新たな設計上のパラメータとして追加するだけで、ばね反力軸が荷重入力軸及びアッパマウント中心と一致し、又は十分近接する懸架コイルばねを設計できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るコイルばね及びその製造方法について図面を参照して説明する。
【0014】
(懸架コイルばねの構成及び作用)
図1の(A)、(B)には本発明の実施形態に係る懸架コイルばねの一例が示されている。この懸架コイルばね10は、図2に示される自動車におけるストラット型の懸架装置12に適用されるものである。なお、図2では懸架コイルばね10の上端部の支持部分を除く部分については二点鎖線により示されている。
【0015】
先ず、本実施形態に係る懸架装置12の構成について説明する。懸架装置12は、図2に示されるように、車輪を位置決めするための支柱(ストラット)としてショックアブソーバ14を備えている。ショックアブソーバ14は、ガス、オイル等の流体が封入されたシリンダ16及び、このシリンダ16内に摺動可能に配置されたピストン(図示省略)に連結されシリンダ16から上方へ突出するロッド18を備えている。
【0016】
懸架装置12では、ロッド18の上端部がストラットマウント20を介して自動車の車体30に弾性的に連結されている。またロッド18の上端側には上側座としてスプリングシート22が固定され、シリンダ16の中間部には下側座としてスプリングシート24が固定されている。ショックアブソーバ14の外周側には懸架コイルばね10が支持されており、この懸架コイルばね10は、ショックアブソーバ14のスプリングシート22,24間に配置され、ショックアブソーバ14の中心軸(ストラット軸AS)に沿って圧縮状態とされている。またショックアブソーバ14の下端部は、タイヤ及びホイールからなる車輪44を回転可能に支持するナックル26に剛体結合され、このナックル26は、ロアーアーム28を介して自動車の車体30にピボット結合されている。これにより、ナックル26に軸支される車輪44は、ショックアブソーバ14及び懸架コイルばね10を介して車体30に支持されると共に、ロアーアーム28を介して車体30に支持される。
【0017】
次に、懸架コイルばね10の構成について説明する。自由状態にある懸架コイルばね10は、図1の(A)に示されるように下側のばね端末11からR巻目の巻線部に対応する位置を屈折点PBとしてコイル軸ACがV字状に屈曲するように成形されている。また図1の(A)において二点鎖線で示される直線AIは、屈折点PBにおける屈折角が0°であると仮定した場合の仮想コイル軸である。懸架コイルばね10は、その上側座面38及び下側座面40が仮想コイル軸AIに対して直交し、又は所定角度傾いた平面となるように、上側座巻部32及び下側座巻部34のリード角が設定されている。
【0018】
本実施形態の懸架コイルばね10は、仮想コイル軸AIをコイル軸とする基準コイルばね36(図1の(A)参照)を基礎として設計される。このことから、本実施形態の懸架コイルばね10を設計するに際には、基準コイルばね36を設計する際に要求される設計上のパラメータに対し、新に追加される基本的なパラメータは上側偏心量V及び下側偏心量Vと上側座巻部32及び下側座巻部34の偏心方向とを追加すれば良い。
【0019】
ここで、図1の(A)に示されるように、上側偏心量Vは上側座巻部32の座巻中心点Cから仮想コイル軸AIまでの距離により規定され、下側偏心量Vは下側座巻部34の座巻中心点Cから仮想コイル軸AIまでの距離により規定される。すなわち、仮想コイル軸AIの位置を座標軸の原点と考えると、偏心量V,偏心量Vは、それぞれ仮想コイル軸AIに直交する座標軸上の点となる。この座標軸は車体30の幅方向と略平行な直線軸であるとし、前記幅方向に沿って車体30の外側へ向かう方向を座標軸の正方向、車体30の内側へ向かう方向を座標軸の負方向として以下の説明を行う。但し、図1の(A)に示される座標軸は、必ずしも車体30の幅方向と平行になるものではなく、多くの場合、懸架装置12の構造に応じて車体30の幅方向に対して若干傾いたものになる。
【0020】
また、上側偏心量V及び下側偏心量Vに加えて屈折点PBについても、当然、設計上のパラメータとなるが、この屈折点PBは、上側偏心量V及び下側偏心量Vとの相関関係により定められるパラメータであり、上側偏心量V及び下側偏心量Vとの相関関係を満たす範囲内で任意の値に設定できる。但し、屈折点PBを変化させると、自動車走行時に受ける荷重による懸架コイルばね10の応力分布が変化するため、このような応力分布を予め解析しておき、可能な限り応力が均一に分布する、すなわち可能な限り応力集中が生じないような屈折点PBを選択し、設定する必要がある。
【0021】
図1の(B)には実線により懸架装置12に組み付けられた懸架コイルばね10が示され、二点鎖線により自由状態にある懸架コイルばね10が示されている。懸架装置12に組み付けられた懸架コイルばね10は、前述したようにスプリングシート22,24間に配置され圧縮状態とされる。ここで、懸架装置12におけるスプリングシート22,24は略円板状に形成されている。またスプリングシート22の下面側には、圧縮状態とされた懸架コイルばね10の上側座面38と圧接し、上側座巻部32を軸直角方向に沿って所定位置に強制的に位置決めするリブ状の係合部23が設けられ、スプリングシート24の上面側には、圧縮状態とされた懸架コイルばね10の下側座面40と圧接し、下側座巻部34を軸直角方向に沿って所定位置に強制的に位置決めする円柱状の係合部25が設けられている。
【0022】
スプリングシート22,24は、図1の(B)に示されるように圧縮前後において上側座面38と下側座面40との仮想コイル軸AIに対する傾きを変化させることなく、懸架コイルばね10をストラット軸ASに沿って圧縮する。このとき、懸架コイルばね10は、座面38,40がスプリングシート22の下面側及びスプリングシート24の上面側と平行になっている。またスプリングシート22,24は、係合部23,25により上側座巻部32の座巻中心点Cと下側座巻部34の座巻中心点Cとをそれぞれ仮想コイル軸AIと一致するように強制的に位置決めする。これにより、スプリングシート22,24間に配置された懸架コイルばね10は、コイル軸ACの撓み方向に沿って弾性変形し、コイル軸ACは、仮想コイル軸AIに対して軸方向中央部が車体30の外側へ向かって僅かに膨らむように曲線となる。
【0023】
上記のように懸架コイルばね10がスプリングシート22,24間で圧縮方向及び撓み方向へ弾性変形されることにより、懸架コイルばね10が圧縮反力及び横反力をスプリングシート22,24へ作用させる。このとき、懸架コイルばね10のばね反力は、圧縮反力と横反力との合成力と見なすことができる。また懸架コイルばね10がスプリングシート22,24に作用させる横反力は、上側偏心量V及び下側偏心量Vを適宜設定することで、その力の大きさを設定できると共に、横反力の方向を座標軸(図1の(A)参照)における正方向及び負方向の何れかに設定できる。この結果、上側偏心量V及び下側偏心量Vの大きさをそれぞれ適宜設定することで、仮想コイル軸AIに対する懸架コイルばね10のばね反力の作用線であるばね反力軸の傾きが調整可能になる。
【0024】
さらに、懸架コイルばね10がスプリングシート22,24間で懸架コイルばね10が仮想コイル軸AIに対して非対称的に弾性変形することにより、懸架コイルばね10のばね反力軸が座標軸に沿って仮想コイル軸AIを中心として偏倚する。この結果、上側偏心量V及び下側偏心量Vの大きさをそれぞれ適宜設定することで、仮想コイル軸AIに対する懸架コイルばね10のばね反力の作用線であるばね反力軸の傾き及び座標軸に沿った位置調整が可能になる。
【0025】
次に、図2に示されるストラット型の懸架装置12に作用する荷重について説明する。図2において、ASはショックアブソーバ14の中心軸であるストラット軸、AKは車輪44の操舵中心軸であるキングピン軸、Aはロアーアーム28の中心軸であるロアーアーム軸、AAは路面からショックアブソーバ14への荷重入力軸である。
【0026】
懸架装置12には、図2に示されるように、先ず路面からの路面反力Wが車輪44の中心に垂直な直線に沿って作用する。さらに路面反力Wに対抗するため、懸架装置12には、ショックアブソーバ14の上端からの荷重軸線力Wが荷重入力軸AAに沿って作用し、路面反力Wと荷重軸線力Wとの合成力であるロアーアーム軸力WCがロアーアーム軸Aに沿ってロアーアーム28の根元部に作用する。これらの路面反力W、荷重軸線力W及びロアーアーム軸力WCは、図3の(A)に示されるように力の三角形を構成し、懸架コイルばね10はばね反力WRを発生する。一方、図3の(B)は、懸架コイルばね10との比較のために懸架装置12に基準コイルばね36を組み付けた場合の路面反力W、荷重軸線力W及びロアーアーム軸力WC並びに基準コイルばね36によるばね反力WR´を示している。
【0027】
基準コイルばね36のばね反力軸AR´は、仮想コイル軸AIと略一致しており、基準コイルばね36をストラット軸ASに対して十分にオフセットできない場合には、図3の(B)に示されるように荷重軸線力Wの作用線である荷重入力軸AAと平行にならず、かつロッド18の上端部が連結されるストラットマウント20のマウント中心点CMを通過しない。このため、基準コイルばね36を用いた場合には横力WTが発生し、この横力WTはショックアブソーバ14に対して曲げモーメントとして作用する。この曲げモーメントは、ショックアブソーバ14におけるピストン、ブッシュ等の摺動部(図示省略)にこじりを発生させるため、ロッド18のフリクションを増大させる。また、基準コイルばね36を用いた場合のように、ばね反力軸AR´がロッド18の上端部が連結されるストラットマウント20のマウント中心点CM(図2参照)を通過しないと、ストラットマウント20にコジリが発生する。これにより、ストラットマウント20における軸受部42のフリクションを増大することから、自動車の操舵性が悪化する。
【0028】
一方、本実施形態の懸架コイルばね10では、懸架装置12に組み付けられた状態で、懸架コイルばね10のばね反力WRの作用線であるばね反力軸ARが荷重入力軸AAと平行になり、かつばね反力軸ARがストラットマウント20のマウント中心点CMを通過するように、上側偏心量V及び下側偏心量Vと偏心方向とがそれぞれ適宜設定されている。このため、懸架コイルばね10を用いた場合には、図3の(A)に示されるようにショックアブソーバ14に作用する横力が発生せず、ショックアブソーバ14における摺動部にコジリが発生しなくなる。また、ばね反力軸ARがストラットマウント20のマウント中心点CMを通過するので、ストラットマウント20にもこじりが発生せず、ストラットマウント20における軸受部42(図2参照)のフリクション増大により操舵性の悪化が生じなくなる。
【0029】
以上説明した本実施形態の懸架コイルばね10によれば、懸架コイルばね10がストラット型の懸架装置12におけるスプリングシート22,24との間に介装され、ストラット軸ASに沿って圧縮状態とされると共に、上側座巻部32の座巻中心点Cと下側座巻部34の座巻中心点Cとが仮想コイル軸AIと近づくようにコイル軸ACの撓み方向に沿って弾性変形されることにより、懸架コイルばね10により圧縮反力と共に横反力が発生し、これらの合成力であるばね反力WRの作用線であるばね反力軸ARに仮想コイル軸AIに対する傾きが生じる。さらに懸架コイルばね10が仮想コイル軸AIに対して非対称的に弾性変形することにより、ばね反力軸ARが仮想コイル軸AIに対して車体30の幅方向に沿って偏倚する。
【0030】
さらに懸架コイルばね10では、上側偏心量V及び下側偏心量Vと偏心方向とによりばね反力軸ARの傾き及び位置を調整できるので、上側座面38及び下側座面40の傾きを設計上のパラメータとする必要もなくなる。この結果、仮想コイル軸AIをコイル軸とする基準コイルばね36の設計上のパラメータに対して、懸架コイルばね10における上側偏心量V及び下側偏心量Vと偏心方向とを新たな設計上のパラメータとして追加するだけで、ばね反力軸ARが荷重入力軸AA及びアッパマウント中心CMと一致し、又は十分近接する懸架コイルばね10を設計できるようになる。
【0031】
次に、本発明の実施形態に係る懸架コイルばねの変形例を図4の(A)〜(F)及び図5の(A)〜(C)を参照して説明する。
【0032】
図4の(A)には基準コイルばね36が示され、図4の(B)〜(F)には、それぞれ上述した懸架コイルばね10(図1の(A)、1B参照)に対して上側偏心量V及び下側偏心量Vの設定が異なる懸架コイルばね150,152,154,156,158が示されている。
【0033】
図1の(A)、(B)に示される懸架コイルばね10では、上側偏心量V及び下側偏心量Vの絶対値が0より大きくされ、かつ上側偏心量V及び下側偏心量Vが負の値になっている。すなわち、懸架コイルばね10では、仮想コイル軸AIに対して上側座巻部32及び下側座巻部34が共に車体30内側へ偏倚している。それに対し、図4の(B)〜(F)に示される懸架コイルばね150〜158のように、上側偏心量V及び下側偏心量Vの絶対値を双方とも“0”より大きくしても、また上側偏心量V及び下側偏心量Vの何れかを“0”とするようにしても良く、さらに上側偏心量V及び下側偏心量Vの双方を正の値としても、また上側偏心量V及び下側偏心量Vの一方を正とし他方を負の値とするようにしてもても良い。
【0034】
すなわち、上記したように懸架コイルばね150〜158における上側偏心量V及び下側偏心量Vの設定を懸架コイルばね10と異ならせた場合も、懸架コイルばね10と同様に、座巻部32,34を除く巻線部のリード角及びピッチが基準コイルばね36と共通していることから、基本的なばね特性については基準コイルばね36と共通になり、ばね反力軸ARの傾きの大きさ及び方向、並びにばね反力軸ARの偏倚量及び偏倚方向が懸架コイルばね10とは異なるものになる。これを換言すれば、上側偏心量V及び下側偏心量Vの絶対値を“0”を含む範囲で変化させると共に、上側偏心量V及び下側偏心量Vを正負の何れかに変化させることで、ばね反力軸ARの傾きの大きさ及び方向、並びにばね反力軸ARの仮想コイル軸AIに対する偏倚量及び偏倚方向をそれぞれ広い範囲で調整できるようになる。
【0035】
また、懸架コイルばね10は、全ての巻線部の巻径が略一定された円筒状の基準コイルばね36を基礎として設計されるものであるが、本実施形態の懸架コイルばねは、図5の(A)〜(C)に示されるような非円筒状のコイルばねを基礎として設計することも可能である。すなわち、図5Aに示される軸方向中央部から両端部へ向かって巻線部の巻径が縮小して行く樽型コイルばね160、図5の(B)に示される軸方向中央部から両端部へ向かって巻線部の巻径が拡大して行く鼓型コイルばね162、図5の(C)に示される軸方向一端部から他端部へ向かって巻線部の巻径が拡大して行く円錐コイルばね164、図5の(D)に示される軸方向一端部にテーパ部が形成された片絞りコイルばね166及び、図5の(E)に示される巻線部の形状が楕円状又は長円状とされた楕円コイルばね168等の各種の異形コイルばねを基礎として本実施形態の懸架コイルばねを設計及び製造することも可能である。
【0036】
上記のような異形コイルばね160〜168を基礎として本実施形態の懸架コイルばねを設計する場合にも、コイルばね160〜168に対して新に追加される設計上のパラメータは、基本的には上側偏心量V及び下側偏心量Vと偏心方向とであるので、ばね反力軸が図2に示される荷重入力軸AA及びアッパマウント中心CMと一致し、又は十分近接する懸架コイルばねを簡単に設計できる。
【0037】
なお、本実施形態に係る懸架装置12では、スプリングシート22,24が懸架コイルばね10における上側座巻部32の座巻中心点Cと下側座巻部34の座巻中心点Cとをそれぞれ仮想コイル軸AIと一致するように強制的に位置決めしているが、懸架コイルばね10に横反力を発生させるためには、座巻中心点C,Cが仮想コイル軸AIに近接するように懸架コイルばね10をコイル軸ACの撓み方向へ弾性変形させれば良く、必ずしもC,Cを仮想コイル軸AIに一致させる必要はない。
【0038】
(懸架コイルばねの設計方法)
次に、上記のように構成された本発明の実施形態に係る懸架コイルばねの設計方法の一例について説明する。懸架コイルばね10を設計する際には、先ず、図14のフローチャートに示されるような方法により懸架コイルばね10の形状及び寸法が決定される。すなわち、懸架コイルばね10の寸法及び形状を決定するためには、ステップ310〜ステップ318で、懸架コイルばねの寸法及び形状について可能なn組(nは正の整数)の組み合わせを仮定した後、ステップ320〜ステップ328で、境界条件を設定して1〜n組目の懸架コイルばねの特性(ばね特性)についてそれぞれFEM解析する(予備計算)。
【0039】
ステップ330では、FEM解析により得られた1〜n組目の懸架コイルばねについての解析結果を分析し、懸架コイルばねの寸法及び形状とばね特性との間の相関関係を見出し数式化する(回帰式の算出)。ステップ332〜ステップ334では、ステップ330で得られた回帰式に基づいて所要のばね特性が得られると予測される懸架コイルばねの寸法及び形状を算出する。このようにして懸架コイルばねの寸法及び形状が得られたならば、ステップ336では、ステップ334で算出された寸法及び形状を有する懸架コイルばねに対してFEM解析を再び行う(検算)。ステップ338では、ステップ338のFEM解析より得られたばね特性が所要の特性を満足していれば、懸架コイルばねの形状及び寸法を得るための解析処理を終了し、またステップ336のFEM解析より得られたばね特性が所要の特性を満足していない場合には、ステップ310に処理をリターンして所要のばね特性が得られるまで、仮定する懸架コイルばねの寸法及び形状の組み合わせを変えながら反復計算を行う。
【0040】
図14に示される解析プロセスにおいて、ステップ330の回帰分析で用いるデータ(多変量データ)は、FEM解析の入力条件と結果を用いる。多変量データを構成する目的変数と説明変数はその個数を増やすと、回帰分析に用いるデータを作成するための予備計算の回数が増えてしまう。そこで、先ず目的変数は、ばね特性を表す量的変数の中から、特に制限を必要とするものを数種類に絞って選択する。次に、説明変数は、形状パラメータの中から選択した目的変数に影響を与える量的変数を選べばよいが、その個数は以下に示す通り、目的変数と同じとするとよい。
【0041】
m個の目的変数におけるi番目の目的変数y(i=1,2,…,m)が、n個の説明変数x〜xとn+1個の回帰係数a0i〜aniを用いた次の1次式回帰式(1)で表されるものとする。
【0042】
=a0i+a1i×x+a2i×x+・・・+ani×x・・・(1)
【0043】
このとき、i番目の目的変数yの狙い値がyi0とすると、説明変数x〜xは以下の連立方程式の解となり、この連立方程式が一意的に解を持つためにはm=n、すなわち目的変数と説明変数の個数が同じであることが必要条件となる。
【0044】

【0045】
次に、懸架コイルばね10のばね反力軸(荷重軸AL)を制御する方法を説明する。ここで、荷重軸ALの位置及び傾きは、荷重軸ALと上下の座面との交点の座標を用いて表現が可能である。このことから、図15に示されるような座標系を考えることができる。この座標系では、Z方向が懸架コイルばねの高さ方向を、Y軸が懸架コイルばねのオフセット方向を、X軸が高さ方向及びオフセット方向へ直交する方向(車体の前後方向と略一致する方向)をそれぞれ示している。ここでは、説明を簡単にするために、荷重軸ALはオフセット方向へのみ制御が要求されているものとする。これにより、目的変数は、図16に示されるYとYとの2種類となる。
【0046】
懸架コイルばね10の荷重軸ALは、前述したように、コイル軸AC(図1の(A)、1B参照)をオフセット方向に沿ってV字状に曲げることにより制御可能である。この場合、コイル軸ACの曲げ量と荷重軸ALの移動量には一定の関係があるものと推定される。そこで、説明変数としては、図17に示されるばねの曲げ量VとVを採用する。
【0047】
このとき、回帰方程式Y=A+B×V+C×V及びY=A+B×V+C×V(A,A,B,B,C,C:回帰係数)を考えると、これは、Y−V座標系及びY−V座標系において、それぞれ点P(YUi,VUi,VLi)及び点Q(YLi,VUi,VLi)(i=1,2,・・・,n)と最もあてはまりのよい(残差平方和が最小の)平面を表す。つまり、実際には曲面と予想されるものを、図18に示されるようなV平面(投影面)で近似するので、出来るだけ解に近い範囲で、予備計算と回帰分析を行う方がよい。また、通常の回帰計算ではデータ数を多くして、外れ値の影響を除くようにするが、今回の場合は定数と変数がはっきりしており、極値を除けば外れ値の影響は少ないものと考えられる。そこで、回帰精度を上げるためには、予備計算を行う際に計算範囲の中での組み合わせ数を多くするよりも、一回の予備計算当たりの組み合わせ数は少なくし、予備計算を繰り返し行い、範囲を小さくして行く方が有効である。具体的には、初期条件として、解の推定値(VUo,VLo)と、解の誤差幅を(ΔV,ΔV)を仮定し、下記(表1)の組み合わせで予備計算を行い回帰式を得る。もし、解の見当がつかない場合は、まず(VUo,VLo)=(0,0)を解の推定値とし、解の誤差幅をやや大きくとって予備計算を行い回帰式を求めればよい。
【0048】
【表1】

【0049】
次に、連立回帰方程式より求めた解を、初期値として、誤差幅を先ほどより小さくして、予備計算を繰り返し行う。回帰式より求める解は以下の通りである。
【0050】

ただしB−C≠0
【0051】
この解を用いて、FEM解析を行い結果のばね特性が所要の特性を満たしているかどうか確認する。
【0052】
以上説明したように、汎用の有限要素コードと統計的手法を組み合わせることで、所要の特性を満たす懸架コイルばねの形状及び寸法を得ることができる。従って、ここで述べた統計処理をFEM解析のプリポストに組み込むことで、設計者が比較的簡単にばねの最適設計を行うことができる。なお、ここでは簡単な具体例でその手法を示したが、目的変数(狙いのばね特性)の数が増え、必要な説明変数(ばね形状等の入力条件)の数が増えた場合でも、変数の選択がやや複雑になるものの、同様の取り扱いが可能である。
【0053】
次に、図19の(A)〜(I)〜図21の(A)、(B)に基づいてFEM解析により得られた懸架コイルばねに対する解析結果の一例を説明する。本実施形態に係る懸架コイルばねを設計する際には、前述したように直線状の仮想コイル軸を有する基準コイルばねに基づいて設計される。具体的には、図19の(E)に示されるように、上側偏心量V=0及び下側偏心量V=0である懸架コイルばね10Eを基準コイルばねとした場合、上側偏心量Vを正、0及び負の何れかに変化させると同時に、下側偏心量Vを正、0及び負の何れかに変化させることで、図19の(A)〜(I)に示される9種類のパターンで懸架コイルばね10A〜10Iを考えることができる。
【0054】
図19の(A)〜(I)に示される懸架コイルばね10A〜10Iでは、FEM解析の結果を簡単に説明するため、上側偏心量Vを−20mm、0mm及び20mmの何れかに設定すると共に、下側偏心量Vも−20mm、0mm及び20mmの何れかに設定し、またコイル軸ACの屈折点PBは、懸架コイルばねの総巻数の1/2巻目に対応する位置に設定した。これらの懸架コイルばね10A〜10IについてそれぞれFEM解析を行った結果が下記(表2)に示されている。
【0055】
【表2】

【0056】
図20にはFEM解析により得られた懸架コイルばね10A〜10Iのばね反力軸AR〜AR及び目標とするばね反力軸ARがY−H座標面上にそれぞれ示されている。また図21Aには、FEM解析により得られた懸架コイルばね10A〜10Iの上側座面における着力点PU〜PU及び目標とする着力点の狙いPUがそれぞれ示され、図21Bには、FEM解析により得られた懸架コイルばね10A〜10Iの下側座面における着力点PL〜PL及び目標とする着力点の狙いPLがそれぞれ示されている。
【0057】
図20及び図21の(A)、(B)から明らかなように、懸架コイルばねのコイル軸をV字状に屈曲して上側偏心量V及び下側偏心量Vの偏心量及び偏心方向(正方向又は負方向)をそれぞれ変化させることで、懸架コイルばねのばね反力軸の位置及び傾きをそれぞれオフセット方向に沿って制御可能になる。そして、前述したように、このようなFEM解析の結果を分析し、懸架コイルばねの寸法及び形状とばね特性との間の相関関係を見出し数式化することで(回帰式の算出)、要求されるばね特性を有する懸架コイルばねを簡単に設計できるようになる。
【0058】
次に、図6〜図11の(A)、(B)を参照して本実施形態に係る懸架コイルばね10を懸架装置12に適用した場合の実施例について説明する。
【実施例1】
【0059】
図2に示されるような懸架装置12では、車輪44におけるタイヤ幅等の条件が一定で、路面反力Wの大きさが著しく変化しないならば、荷重入力軸AAの傾き及び位置は変化しないものと考えることができる。これを前提として、図7〜図11の(A)、(B)には、それぞれ荷重入力軸AAとばね反力軸ARとのスプリングシート22,24における通過位置(着力点)が座標平面上に示されている。これらの座標平面において、横軸は車体30の前後方向を、縦軸は車体30の幅方向をそれぞれ示している。なお、図7〜図11の(A)、(B)の座標平面の横軸及び縦軸に付された数値は相対的な指数であって実際の長さを表すものではない。
【0060】
また図7〜図11の(A)、(B)において、荷重入力軸AAの上側スプリングシート22における着力点をPA、下側スプリングシート24における着力点をPAでそれぞれ表す。またばね反力軸ARの上側スプリングシート22における着力点をPR、下側スプリングシート24における着力点をPRでそれぞれ表す。ここで、図7の(A)〜図11の(A)に示されるように、着力点PAは座標平面上において(−3.7,0)により表される位置にあり、上側スプリングシート22の中心は座標平面における原点(0,0)とされている。また図7の(B)〜図11の(B)に示されるように、着力点PAは座標平面上において(−37.3,0)により表される位置にある。
【0061】
図6には、ばね反力軸ARの着力点PRをスプリングシート22において着力点PAに一致させ、かつ着力点PRをスプリングシート24において着力点PAに一致させるために必要となる上側偏心量V及び下側偏心量Vの大きさと屈折点PBとの関係が示されている。前述したように、上側偏心量V及び下側偏心量Vと屈折点PBとは、互いに相関する設計上のパラメータであり、偏心量V,V及び屈折点PBの一方が変化すると、それに応じて他方も変化する関係になっている。また図6に示される偏心量V,Vと屈折点PBとの関係は、懸架装置12の設計上の特性値と基準コイルばね36の設計上のパラメータに基づいて公知の有限要素法により算出したものである。
【0062】
一方、図7〜図11の(A)、(B)には、図6に示される算出結果に基づいて偏心量V,V及び屈折点PBがそれぞれ異なる5種類の懸架コイルばね10を製造し、これらの懸架コイルばね10を懸架装置12に組み付けた状態で、ばね反力軸ARの着力点PR、着力点PRを実測した結果が示されている。ここで、図7の(A)、(B)は屈折点PB=2.250巻目である場合が示され、図8の(A)、(B)は屈折点PB=2.750巻目である場合が示され、図9の(A)、(B)は屈折点PB=3.250巻目である場合が示され、図10の(A)、(B)は屈折点PB=3.750巻目である場合が、図11の(A)、(B)は屈折点PB=4.250巻目である場合が示されている。
【0063】
また図7の(A)、(B)〜図11の(A)、(B)には、本実施形態の懸架コイルばね10との比較のために、基準コイルばね36を懸架装置12に組み付けた場合のばね反力軸AR´の上側スプリングシート22における着力点PR´及び着力点PR´が、懸架コイルばね10の着力点PR,PRと共に示されている。
【0064】
図7の(A)〜図11の(A)から明らかなように、図6の算出結果に基づいて製造された懸架コイルばね10の上側スプリングシート22における着力点PRは、基準コイルばね36の着力点PR´と比較してばね反力軸ARの着力点PAに十分近接している。また図7B〜図11Bから明らかなように、図6の算出結果に基づいて製造された懸架コイルばね10の下側スプリングシート24における着力点PRも、基準コイルばね36の着力点PR´と比較してばね反力軸ARの着力点PAに十分近接している。
【0065】
従って、本実施形態の懸架コイルばね10を懸架装置12に組み付けた場合には、基準コイルばね36を懸架装置12に組み付けた場合と比較し、着力点PRの着力点PAに対する偏差及び着力点PRの着力点PAに対する偏差に応じて生じる横力WT(図3の(B)参照)を大幅に減少又は消失できるので、横力WTによるショックアブソーバ14のフリクション増大を効果的に防止し自動車の乗り心地を向上でき、かつばね反力軸ARのストラットマウント20のマウント中心CM(図2参照)に対する偏差を大幅に減少又は消失できるので、ストラットマウント20におけるこじりにより操舵性が低下することを効果的に防止できる。
【実施例2】
【0066】
実施例1では、懸架コイルばね36におけるばね反力軸AR´の着力点PR´及び着力点PR´が、荷重入力軸AAの着力点PA及び着力点PAに対して車体前後方向においては殆ど偏倚していない場合について説明した。ところで、懸架コイルばね10のばね反力軸ARの着力点PR及び着力点PRが、荷重入力軸AAの着力点PA及び着力点PAに対して車体前後方向において偏倚していると、操舵中心軸であるキングピン軸AK(図2参照)周りのモーメントに不釣合いが生じて、自動車の直進安定性が低下する。
【0067】
上記のような問題を解決するため、従来構造の懸架コイルばね36では、その総巻数Tを調整(増減)して上側座巻部の端末位置及び下側座巻部の端末位置をそれぞれ最適化することで、着力点PR´及び着力点PR´の着力点PA及び着力点PAに対する車体前後方向の偏倚を十分小さくしていた。従って、このような方法で設計された懸架コイルばね36を基礎とする懸架コイルばね10では、その着力点PR及び着力点PRの着力点PA及び着力点PAに対する車体前後方向の偏倚が十分小さくなっている。
【0068】
しかし、懸架コイルばね10の総巻数Tを調整して上側座巻部の端末位置及び下側座巻部の端末位置をそれぞれ最適化する方法を採ると、懸架コイルばね10の軽量化にとって不利になる場合がある。このため、総巻数Tを調整することなく、懸架コイルばね10の着力点PR及び着力点PRを荷重入力軸AAの着力点PA及び着力点PAに十分近接させることが望まれる。
【0069】
本実施例では、図12の(A)、(B)に基づいて、懸架コイルばね10の総巻数Tを調整することなく、着力点PR及び着力点PRを、車体前後方向及び車体幅方向においてそれぞれ荷重入力軸AAの着力点PA及び着力点PAに十分近接させる場合の懸架コイルばね10の設計及び製造方法について説明する。
【0070】
図12の(A)、(B)には荷重入力軸AAとばね反力軸ARとのスプリングシート22,24における通過位置(着力点)が座標平面上に示されている。これらの座標平面において、横軸は車体30の前後方向を、縦軸は車体30の幅方向をそれぞれ示している。なお、図12の(A)、(B)の座標平面の横軸及び縦軸に付された数値は相対的な指数であって実際の長さを表すものではない。
【0071】
また図12の(A)、(B)においても、図7の(A)、(B)〜図11の(A)、(B)と同様に、荷重入力軸AAの上側スプリングシート22における着力点をPA、下側スプリングシート24における着力点をPAでそれぞれ表す。またばね反力軸ARの上側スプリングシート22における着力点がPR、下側スプリングシート24における着力点がPRでそれぞれ表されている。さらに図12の(A)、(B)では、基準コイルばね36を懸架装置12に組み付けた場合のばね反力軸AR´の上側スプリングシート22における着力点がPR´、下側スプリングシート24における着力点がPR´でそれぞれ表されている。
【0072】
本実施例の懸架コイルばね10も、実施例1の場合と同様に、仮想コイル軸AIをコイル軸とする基準コイルばね36(図1の(A)参照)を基礎として設計される。但し、この基準コイルばね36は、総巻数Tが調整されることなく設計されたものであるため、着力点PR´、PR´が着力点PA,PAに対して車体前後方向にも無視できない程度偏倚しており、この基準コイルばね36を懸架装置12(フロントサスペンション)に装着すると、自動車の直進安定性を損なうおそれがある。
【0073】
本実施形態では、基準コイルばね36を基礎として懸架コイルばね10を設計する際に、先ず、着力点PR´、PR´を車体幅方向に沿って着力点PA,PAと一致させるためにパラメータが算出される。このパラメータのうち基本的になものは、実施例1の場合と同様に、上側偏心量VU1、下側偏心量VL1、上側座巻部32及び下側座巻部34それぞれの上側偏心方向DU1及び下側偏心方向DL1であり、これらのパラメータに相関するパラメータとして屈折点PBが圧縮状態とされた懸架コイルばね10の応力分布等が考慮されて算出される。これら上側偏心量VU1、下側偏心量VL1、上側偏心方向D及び下側偏心方向DL1が得られるように、屈折点PBを起点として基準コイルばね36のコイル軸をV字状に屈曲することにより、この基準コイルばね36(以下、これを「中間コイルばね」という。)の上側着力点は、図12の(A)に示されるように車体幅方向に沿ってPR´からPRU1へ移動し、また図12の(B)に示されるように下側着力点はPR´からPRL1へ移動する。
【0074】
上記の基準コイルばねでは、その着力点PRU1,PRL1の車体幅方向に沿って位置が荷重入力軸AAの着力点PA,PAと理論上一致する。従って、仮に基準コイルばねが懸架装置12に装着された場合には、そのばね反力軸ARが荷重入力軸AAと一致するので、横力WTによるショックアブソーバ14のフリクション増大が防止されると共に、ストラットマウント20における軸受部42のこじりが防止される。
【0075】
次いで、上記の中間コイルばねを基礎として懸架コイルばね10を設計するために、中間コイルばねの着力点PRU1、PRL1´を車体前後方向に沿って着力点PA,PAと一致させるためにパラメータが算出される。このパラメータのうち基本的になものは、上側偏心量VU2、下側偏心量VL2、上側座巻部32及び下側座巻部34それぞれの上側偏心方向DU2及び下側偏心方向DL2であり、屈折点PBについては、原則的には基準コイルばね36から中間コイルばねを設計する場合と共通の値が設定される。これら上側偏心量VU2、下側偏心量VL2、上側偏心方向DU2及び下側偏心方向DL2が得られるように、屈折点PBを起点として中間コイルばねのコイル軸を1回目の屈曲時とは異なる方向へ屈曲する。これにより、この中間コイルばねを基礎として懸架コイルばね36が製造され、その上側着力点は、図12の(A)に示されるように車体幅方向に沿ってからPRU1からPAへ移動し、また図12の(B)に示されるように下側着力点はPRL1からPAへ移動する。このようにして製造された懸架コイルばね10を懸架装置12へ装着すると、キングピン軸AK(図2参照)周りのモーメントを釣り合った状態にできるので、懸架コイルばね10の横力に起因して直進安定性が低下することを防止できる。
【0076】
なお、本実施例では、懸架コイルばね36の設計方法を理解し易くするため、基準コイルばね36から懸架コイルばね10への中間製造物として中間コイルばねが製造されるものとして説明を行ったが、このような中間コイルばねは、実際の懸架コイルばね10の製造工程において必ずしも製造する必要は無く、設計時にパラメータ演算のために便宜的に仮想されるものである。
【0077】
すなわち、基準コイルばね36を基礎として懸架コイルばね10を製造する際には、懸架コイルばね10の上側偏心方向は上側偏心方向DU1と上側偏心方向DU2とが合成された方向となり、下側偏心方向は下側偏心方向Dと下側偏心方向DL2とが合成された方向となる。また懸架コイルばね10の上側偏心量及び下側偏心量は方向と大きさを有するベクトル量と考えることができるので、懸架コイルばね10の上側偏心量は上側偏心量VU1と上側偏心量VU2とが合成されたものとなり、下側偏心量はベクトル量として下側偏心量VL1と上側偏心量VU2とが合成されたものになる。従って、懸架コイルばね10を実際に製造する場合には、上記のようにして合成された偏心方向へ合成された偏心量が得られるように屈折点PBを起点としてコイル軸LCをV字状に屈曲すれば、コイル軸を1回屈曲するだけで懸架コイルばね10が製造可能になる。但し、製造設備の制約等によりコイルばねのコイル軸を3次元的に屈曲することができない場合には、直線状のコイル軸を屈曲して中間コイルばねを得た後に、この中間コイルばねのコイル軸を更に異なる方向へ屈曲して懸架コイルばね10を製造するようにしても良い。
【0078】
また、本実施例では、車体幅方向に沿ってコイルばねの着力点をPA,PAと一致させるためにパラメータが算出した後に、車体前後方向に沿って着力点をPA,PAと一致させるためにパラメータを算出したが、これとは逆に、車体前後方向に沿って着力点をPA,PAと一致させるためにパラメータを算出した後に、車体幅方向に沿ってコイルばねの着力点をPA,PAと一致させるためにパラメータが算出するようにしても、同一ばね特性の懸架コイルばね10を設計できることは言うまでも無い。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明に係る懸架コイルばねは、ばね反力軸を荷重入力軸と一致又は十分近接させることが要求される懸架装置の使用に適しており、しかも設計及び製造の簡略化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る懸架コイルばねの側面図であり、該懸架コイルばねの自由状態及び懸架装置に組み付けられた圧縮状態をそれぞれ示している。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る懸架コイルばねが組み付けられたストラット型の懸架装置の構成を示す側面図である。
【図3】図3は、図2に示される懸架装置における路面反力、荷重軸線力及びロアーアーム軸力の関係を示す説明図である。
【図4】図4は、図1においてAおよびBに示される懸架コイルばねとは上側偏心量V及び下側偏心量Vの設定が異なる懸架コイルばねを示す側面図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態に係る懸架コイルばねの設計上の基礎とすることが可能な異形コイルばねの例を示す側面図である。
【図6】図6は、本発明の実施例1に係る懸架コイルばねにおける上側偏心量V及び下側偏心量Vと屈折点PBとの関係を示す特性図である。
【図7】図7は、本発明の実施例1に係る懸架コイルばねの上側及び下側のスプリングシートにおける着力点をそれぞれ示す座標図である。
【図8】図8は、本発明の実施例1に係る懸架コイルばねの上側及び下側のスプリングシートにおける着力点をそれぞれ示す座標図である。
【図9】図9は、本発明の実施例1に係る懸架コイルばねの上側及び下側のスプリングシートにおける着力点をそれぞれ示す座標図である。
【図10】図10は、本発明の実施例1に係る懸架コイルばねの上側及び下側のスプリングシートにおける着力点をそれぞれ示す座標図である。
【図11】図11は、本発明の実施例1に係る懸架コイルばねの上側及び下側のスプリングシートにおける着力点をそれぞれ示す座標図である。
【図12】図12は、本発明の実施例2に係る懸架コイルばねを設計する際の着力点の移動過程を示す座標図である。
【図13】図13は、有限要素法を用いた従来の懸架コイルばねに対する設計方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図14】図14は、本発明の実施形態に係る懸架コイルばねを統計的手法により設計するための設計方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図15】図15は、本発明の実施形態に係る懸架コイルばねのばね反力軸の位置及び傾きを3次元的に表した座標図である。
【図16】図16は、本発明の実施形態に係る懸架コイルばねを設計する際の目的変数を2次元的に表した座標図である。
【図17】図17は、本発明の実施形態に係る懸架コイルばねにおける上側偏心量及び下側偏心量を説明するための懸架コイルばねの模式的な側面図である。
【図18】図18は、図14に示される設計方法に基づいて得られた回帰方程式により表されるV−V平面(投影面)を表す座標図である。
【図19】図19は、図14に示される設計方法におけるFEM解析により得られる懸架コイルばねに対する解析結果を説明するための懸架コイルばねの模式的な側面図である。
【図20】図20は、図14に示される設計方法におけるFEM解により得られた懸架コイルばねのばね反力軸及び目標とするばね反力軸を2次元的に表した座標図である。
【図21】図21は、図14に示される設計方法におけるFEM解により得られた懸架コイルばねのばね反力軸及び目標とするばね反力軸の着力点を2次元的に表した座標図である。
【符号の説明】
【0081】
11 端末
12 懸架装置
14 ショックアブソーバ
16 シリンダ
18 ロッド
20 ストラットマウント
22 スプリングシート
23 係合部
24 スプリングシート
25 係合部
26 ナックル
28 ロアーアーム
30 車体
32 上側座巻部
34 下側座巻部
38 上側座面
40 下側座面
42 軸受部
44 車輪
300 ステップ
302 ステップ
306 ステップ
310 ステップ
318 ステップ
320 ステップ
328 ステップ
330 ステップ
332 ステップ
334 ステップ
336 ステップ
338 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のストラット型懸架装置における上側座と下側座との間に介装される懸架コイルばねであって、
自由状態においては、コイル軸上にあるとともに前記懸架コイルばねのばね端末からR(Rは正の実数)巻目の巻線部に対応する部位に対応する点を屈折点としてコイル軸がV字状に屈曲するように成形され、前記屈折点における屈折角が0°であると仮定した場合の仮想コイル軸に対して上側座巻部の中心及び下側座巻部の中心の少なくとも一方を所定の偏心方向へ所定の偏心量だけ偏心させると共に、上側座面及び下側座面が前記仮想コイル軸に対して実質的に直交した平面となるように、前記上側座巻部のリード角及び下側座巻部のリード角をそれぞれ設定し、
前記懸架装置における上側座と下側座との間に介装され、ストラット軸に沿って圧縮された状態で、ばね反力軸が懸架装置における荷重入力軸に十分に近接するように、前記上側座巻部の中心及び下側座巻部の中心の前記仮想コイル軸に対する前記偏心方向及び偏心量を設定したことを特徴とする懸架コイルばね。
【請求項2】
車両用のストラット型懸架装置における上側座と下側座との間に介装される懸架コイルばねであって、
前記懸架コイルばねが自由状態にあるときは、
コイル軸ACは、前記コイル軸AC上にあるとともに前記懸架コイルばねのばね端末からR(Rは正の実数)巻目の巻線部に対応する点である屈折点PBにおいてV字状に屈曲し、
上側座巻部中心Cと下側座巻部中心Cとはコイル軸AC上にあり、
上側座巻部中心Cは、屈折点PBを通る直線である仮想コイル軸AIに対して前記仮想コイル軸AIに対して直角な方向である偏心方向に沿って偏心量Vだけ偏心し、
下側座巻部中心Cは、仮想コイル軸AIに対して前記偏心方向に沿って偏心量Vだけ偏心するとともに、
前記懸架コイルばねにおける偏心量Vと偏心量Vとは、前記懸架コイルばねを、前記ストラット型懸架装置の上側座と下側座との間に介装し、前記ストラット型懸架装置のストラット軸に沿って圧縮したときに、上側座巻部中心Cと下側座巻部中心Cとが仮想コイル軸AI上に位置し、ばね反力軸が前記ストラット型懸架装置における荷重入力軸上に位置するように設定されていることを特徴とする懸架コイルばね。
【請求項3】
前記上側座巻部の中心及び下側座巻部の中心の偏心量及び偏心方向は、
(a)前記懸架コイルばねの上側座巻部の中心の偏心量及び偏心方向と下側座巻部の中心の偏心量及び偏心方向との組合せをn組(nは正の整数である。)仮定し、
(b)境界条件を設定して、前記偏心量及び偏心方向のn組の組合せのそれぞれについて懸架コイルばねのばね特性を有限要素法解析し、
(c)得られた解析結果から、上側座巻部の中心の偏心量、偏心方向及び下側座巻部の中心の偏心量、偏心方向と、懸架コイルばねのばね特性との関係を示す回帰式を求め、
(d)求められた回帰式に基いて所望のばね特性が得られる上側座巻部の中心及び下側座巻部の中心の偏心量と偏心方向との組合せを求め、
(e)上側座巻部の中心と下側座巻部の中心とが前記組合せの偏心量及び偏心方向を有する懸架コイルばねについて有限要素法解析し、前記懸架コイルばねが所望のばね特性を有するか否かを調べ、
(f)前記懸架コイルばねが所望のばね特性を満足していれば解析処理を終了し、前記懸架コイルばねが所望のばね特性を満足していなければ前記ステップ(a)〜(e)を繰り返す
というステップを有する偏心量・偏心方向決定方法に従って決定されている請求項1に記載の懸架コイルばね。
【請求項4】
前記偏心量Vと偏心量Vとは、
(a)前記懸架コイルばねの上側座巻部中心Cの偏心量と下側座巻部中心Cの偏心量との組合せをn組(nは正の整数である。)仮定し、
(b)境界条件を設定して、前記偏心量のn組の組合せのそれぞれについて懸架コイルばねのばね特性を有限要素法解析し、
(c)得られた解析結果から、上側座巻部中心Cの偏心量及び下側座巻部中心Cの偏心量と、懸架コイルばねのばね特性との関係を示す回帰式を求め、
(d)求められた回帰式に基いて所望のばね特性が得られる上側座巻部中心Cの偏心量と下側座巻部中心Cの偏心量との組合せを求め、
(e)前記組合せの上側座巻部中心Cの偏心量と下側座巻部中心Cの偏心量とを有する懸架コイルばねについて有限要素法解析し、前記懸架コイルばねが所望のばね特性を有するか否かを調べ、
(f)前記懸架コイルばねが所望のばね特性を満足していれば解析処理を終了し、前記懸架コイルばねが所望のばね特性を満足していなければ前記ステップ(a)〜(e)を繰り返す
というステップを有する偏心量決定方法に従って決定された請求項2に記載の懸架コイルばね。
【請求項5】
前記懸架装置における上側座と下側座との間に介装されると、前記上側座巻部の中心と前記下側座巻部の中心とが前記仮想コイル軸と実質的に一致するように前記コイル軸の撓み方向に沿って弾性変形されることを特徴とする請求項1または3に記載の懸架コイルばね。
【請求項6】
前記ストラット型懸架装置における上側座と下側座との間に介装されると、該上側座及び下側座により前記上側座巻部及び下側座巻部がそれぞれ前記仮想コイル軸に対して実質的に直交した状態で、前記ストラット軸に沿って圧縮されることを特徴とする請求項1、3、または5に記載の懸架コイルばね。
【請求項7】
車両用のストラット型ストラット型懸架装置における上側座と下側座との間に介装される懸架コイルばねの設計方法であって、
懸架コイルばねが自由状態にあるときは、コイル軸上にあるとともに前記懸架コイルばねのばね端末からR(Rは正の実数)巻目の巻線部に対応する部位に対応する点である屈折点において前記コイル軸がV字状に屈曲し、しかも、前記屈折点における屈折角が0°であると仮定した場合の仮想コイルの軸線である仮想コイル軸に対し、上側座巻部の中心点及び下側座巻部の中心点を所定の偏心方向に沿って所定の偏心量だけ偏心するようにし、
前記懸架コイルばねにおける前記上側座巻部の中心点及び下側座巻部の中心点の偏心方向および偏心量を、前記懸架コイルばねがストラット型懸架装置における上側座と下側座との間に介装され、ストラット軸に沿って圧縮された状態において、上側座巻部中心と下側座巻部中心とが仮想コイル軸上に位置し、ばね反力軸がストラット型懸架装置における荷重入力軸に一致するように設定することを特徴とする懸架コイルばねの設計方法。
【請求項8】
前記懸架コイルばねにおける上側座巻部の中心及び下側座巻部の中心の偏心量及び偏心方向の設定は、
(a)前記懸架コイルばねの上側座巻部の中心の偏心量及び偏心方向と下側座巻部の中心の偏心量及び偏心方向との組合せをn組(nは正の整数である。)仮定し、
(b)境界条件を設定して、前記偏心量及び偏心方向のn組の組合せの夫々について懸架コイルばねのばね特性を有限要素法解析し、
(c)得られた解析結果から、上側座巻部の中心の偏心量、偏心方向及び下側座巻部の中心の偏心量、偏心方向と、懸架コイルばねのばね特性との関係を示す回帰式を求め、
(d)求められた回帰式に基いて所望のばね特性が得られる上側座巻部の中心及び下側座巻部の中心の偏心量と偏心方向との組合せを求め、
(e)上側座巻部の中心と下側座巻部の中心とが前記組合せの偏心量及び偏心方向を有する懸架コイルばねについて有限要素法解析し、前記懸架コイルばねが所望のばね特性を有するか否かを調べ、
(f)前記懸架コイルばねが所望のばね特性を満足していれば解析処理を終了し、前記懸架コイルばねが所望のばね特性を満足していなければ前記ステップ(a)〜(e)を繰り返す
というステップを有する偏心量・偏心方向決定方法に従って行われる請求項7に記載の懸架コイルばねの設計方法。
【請求項9】
前記懸架コイルばねの上側座面及び下側座面が前記仮想コイル軸に対して実質的に直交した平面となるように、前記懸架コイルばねの上側座巻部及び下側座巻部のそれぞれのリード角を設定する請求項7または8に記載の懸架コイルばねの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−241043(P2008−241043A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117284(P2008−117284)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【分割の表示】特願2002−581212(P2002−581212)の分割
【原出願日】平成14年4月12日(2002.4.12)
【出願人】(000176833)三菱製鋼株式会社 (69)
【Fターム(参考)】