説明

成型機による無機物・ポリマーコンポジットの製造方法および無機物・ポリマーコンポジット

【課題】成型機による無機物・ポリマーコンポジット成形体を効率よく製造する方法と当該製造方法により製造される無機物・ポリマーコンポジット成形体を提供する。
【解決手段】ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させる工程と、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げる工程と、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる工程と、さらに減圧してポリマー内で二酸化炭素と金属化合物を相分離させ二酸化炭素をポリマー外へ拡散させて金属化合物をポリマー内に分散する工程を有する無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型機による無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法及び無機物・ポリマーコンポジット成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂やゴムの物性改良、例えばその耐磨耗性、耐熱性、耐衝撃性、靱性、引張強度、引き裂き強度の改良のために、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ、クレー等の無機粉末をフィラーとして配合することが行われている。
【0003】
ところで、近年ナノスケールの化学が注目され、ナノオーダーの無機粉末を配合剤として樹脂又はゴムへ配合する試みがなされている。
【0004】
しかしながら、樹脂にナノオーダーの超微粒子を配合する際、当該超微粒子が凝集し、分散不良さらには増粘を起こしてしまう問題が生じている。また、使用時に、当該超微粒子が粉塵として舞い上がり、作業者に対する悪影響が懸念されつつある。
【0005】
上記した問題点を解決すべく、水谷らは、ポリプロピレンにテトラエトキシシランと水とを配合し、押出機にて三者を混合することによりテトラエトキシシランを加水分解してサブミクロンオーダーのシリカをポリプロピレン中に生成した微多孔性フィルムを発表した(特許文献1を参照。)。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、樹脂とテトラエトキシシラン等の配合剤の熱力学的な相状態が考慮されておらず、配合剤は樹脂に相溶する量しか均質に混合できない。ポリマーとの親和性により、均質に混合できる配合剤の量は限られており、所望の配合量に到達するためには、押出機による混合を数度繰り返す必要がある。また、加水分解を生じさせるために配合した水が少なすぎると、未反応の配合剤が成型後のフィルムに残留する問題が生じ、逆に多すぎると、水分を除去するために長時間にわたる乾燥工程が必須となる。
【0007】
本発明者らは特願2006−164683号において、無機物・ポリマーコンポジットの製造方法において、超臨界流体と金属化合物とポリマーからなる均一相を形成する工程、当該均一相を減圧してポリマーを発泡させる発泡ポリマーの製造工程、さらに減圧することにより発泡セル内で超臨界流体と金属化合物を相分離させる行程、金属化合物を分解して当該発泡ポリマーのセル中に金属酸化物を充填する工程からなる、無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法を提案した。
【0008】
この製造方法では、発泡ポリマーの発泡セル内に金属酸化物を充填させることがきるユニークな無機物・ポリマーコンポジット成形体を製造することが可能である。しかしながら、出発物質であるポリマーの形状は既にフィルム状などの成形体であり、耐圧容器などのいわゆるバッチ式での製造が主であり、押出機や射出成形機のように溶融ポリマーから出発とする連続した製造方法により生産速度を上げる検討が必要であった。
【0009】
【特許文献1】特開平10−287758号公報(特許請求の範囲(請求項1〜4)、〔0044〕〜〔0067〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、押出機等による無機物・ポリマーコンポジット成形体を効率よく製造する方法と当該製造方法により製造される無機物・ポリマーコンポジット成形体と無機物・ポリマーコンポジット成型機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく研究を重ねてきた。その結果、押出機内の溶融ポリマーからであっても、二酸化炭素と金属化合物とを高圧下所定の条件において溶解させた一相の溶融状態から、減圧させることにより、金属化合物と二酸化炭素の均一混合物が相分離してポリマー内に気泡状に生成し、さらにこの均一混合物がさらに相分離して、二酸化炭素がポリマー外に拡散する一方金属化合物はポリマー内に分散保持されること、及びこの金属化合物を適当な手段により分解し金属酸化物等がセル内部に充填しうることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、本工程において二酸化炭素は必ずしも超臨界状態である必要はないことも判明した。
【0012】
図1は、本発明方法の原理を模式図として示す説明図であって、各種ポリマーPに、COとMC(金属化合物)を添加して昇温・昇圧し(A)、三成分の均一相状態を得(1)、これを減圧することにより(B)、COとMCの均一相をポリマーPから相分離し(2)、これを減圧して(C)、さらにCOとMCとが相分離する(3)。図において、白で示した部分がCOであり、黒い部分がMCである。
この相分離は、さらに進行し(D)、COは拡散により、ポリマーP外に拡散放出され(4)、ポリマーP内に金属化合物MCが分解して生成された金属または金属酸化物が高分散したナノコンポジット成形体が得られるのである。
【0013】
〔1〕ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させる工程と、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げる工程と、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる工程と、さらに減圧してポリマー内で二酸化炭素と金属化合物を相分離させ二酸化炭素をポリマー外へ拡散させて金属化合物をポリマー内に分散する工程を備えることを特徴とする、成型機による無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【0014】
〔2〕金属化合物を分解してポリマー内に金属酸化物を形成させる工程をさらに備えることを特徴とする、〔1〕に記載の成型機による無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【0015】
〔3〕ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させる工程と、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げる工程と、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる工程を成型機で行い、さらに減圧してポリマー内で二酸化炭素と金属化合物を相分離させ二酸化炭素をポリマー外へ拡散させて金属化合物をポリマー内に分散した複合ポリマーを作成する工程と、当該複合ポリマー中の金属化合物を分解して金属酸化物とする工程とを備えることを特徴とする、無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【0016】
〔4〕前記溶融体に水分を供給する工程をさらに備えることを特徴とする、〔1〕または〔3〕に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【0017】
〔5〕前記成型機が押出成型機または射出成型機であることを特徴とする〔1〕または〔3〕に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【0018】
〔6〕前記二酸化炭素が超臨界二酸化炭素であることを特徴とする〔1〕または〔3〕に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【0019】
〔7〕前記溶融体を形成する工程は、二酸化炭素と金属化合物を混合した状態で、溶融したポリマーに供給する〔1〕または〔3〕に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【0020】
〔8〕上記金属化合物における金属が、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズ及びインジウムから選ばれる少なくとも一つであり、当該金属化合物がアルコキシド、β−ジケトナート、酢酸塩から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、〔1〕または〔3〕に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【0021】
〔9〕〔1〕または〔3〕に記載の当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させ、さらに減圧してポリマー中で二酸化炭素と金属化合物を相分離させ二酸化炭素をポリマー外へ拡散させてなる無機物・ポリマーコンポジット成形体。
【0022】
〔10〕前記成形体が射出成形体または押出成形体であることを特徴とする〔9〕に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体。
【0023】
〔11〕ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させ、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げ、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる成型機と、二酸化炭素と金属化合物を混合する混合装置とを備え、前記成型機内で溶融したポリマーに、前記混合装置から二酸化炭素と金属化合物の混合物を供給するようにしたことを特徴とする無機物・ポリマーコンポジット成型機。
【0024】
〔12〕ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させ、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げ、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる成型機と、前記成型機に水分を供給する水分供給装置とを備え、前記成型機内で金属化合物が添加されたポリマーに、前記水分供給装置から水分を供給するようにしたことを特徴とする無機物・ポリマーコンポジット成型機。
【0025】
〔13〕前記水分供給は、ポリマー中に金属化合物が分散された直後に行うことを特徴とする〔12〕に記載の無機物・ポリマーコンポジット成型機。
【0026】
〔14〕当該溶融体を減圧して二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる前記成型機において、さらに減圧してポリマー内で二酸化炭素と金属化合物を相分離させる工程が行われ、当該相分離を微細化する手段をさらに備えることを特徴とする〔11〕または〔12〕に記載の無機物・ポリマーコンポジット成型機。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、押出成形機や射出成形機等の成型機により、溶融ポリマーから出発とする連続した製造方法により生産速度を上げることが可能な無機物・ポリマーコンポジット成形体を製造することができる。本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体は、発泡においては内在気泡密度が高く、発泡気泡も小さく、かつ、該気泡内に無機物を充填した構造の成形体が得られる。本発明の成型機は、上記のような優れた無機物・ポリマーコンポジット成形体を効率的に製造するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体に使用されるポリマーとしては、押出機等の成型機内で溶融する熱可塑性樹脂が好ましく、かつ、二酸化炭素の作用により膨潤、可塑化しやすいものが望ましい。たとえば、次に記載するオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。なお、これら重合体または共重合体の構造はランダム、ブロック等、立体規則性はアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックのいずれでもよい。
【0030】
オレフィン系樹脂としては、エチレン又はプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン、又はシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のシクロオレフィンの単独重合体、上記α−オレフィン同士の共重合体、及びα−オレフィンと共重合可能な他の単量体、酢酸ビニル、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等との共重合体等があげられる。
【0031】
ポリエステル系樹脂としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸単量体とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のジオール又は多価アルコール単量体との共重合体、乳酸、p−ヒドロキシ安息香酸や、2,6−ヒドロキシナフトエ酸、等のヒドロキシカルボン酸等の(共)重合体等があげられる。
【0032】
ポリアミド系樹脂としては、3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、二塩基酸とジアミンなどの重縮合によって得られる鎖中に酸アミド結合を有する重合体で、具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドンなどの重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸と重縮合せしめて得られる重合体またはこれらの共重合体であり、たとえば、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−7、ナイロン−8、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6、6、ナイロン−6、10、ナイロン−6、11、ナイロン−6、12、ナイロン−6T、ナイロン−6/ナイロン−6、6共重合体、ナイロン−6/ナイロン−12共重合体、ナイロン−6/ナイロン−6T共重合体、ナイロン−6I/ナイロン−6T共重合体等があげられる。
【0033】
上記した樹脂以外に、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム、エラストマー等も使用可能な樹脂としてあげられる。なお、上記ポリマーのうち、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタラート、ポリメチルメタクリレートおよびそれらの誘導体が、二酸化炭素との親和性がよく、好適に用いられる。
【0034】
また、これらのポリマーまたは樹脂については、通常使用される添加剤、たとえば可塑剤、安定剤、耐衝撃性向上剤、難燃剤、結晶核剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等を単独又は二種以上添加してもよい。
【0035】
また、ポリマーの添加剤として、発泡核剤として作用する無機微粉末を使用することが可能で、無機微粉末としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー、酸化マグネシウム、ガラスパウダー、酸化チタン、無水シリカ等があがられ、それぞれ単独又は二種以上で用いられる。
【0036】
本発明における金属化合物としては、高圧二酸化炭素に溶解し、かつ加水分解、熱分解、あるいは光、マイクロ波等により分解して金属酸化物を作るものであればいずれも使用可能であり、たとえば、金属としては、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズ及びインジウムが、金属化合物としては、そのアルコキシド、β−ジケトナート、酢酸塩があげられ、それぞれ単独又は二種以上で用いられる。なかでも高圧二酸化炭素との混和性を考慮すると、シリコンアルコキシド、チタンアルコキシド等のアルコキシド類がよく、さらにはテトラメトキシシランが好適に用いられる。
【0037】
本発明においては、押出機等の成型機内の溶融体に二酸化炭素を供給し相溶させるが、二酸化炭素を供給する方法としては、特に限定されないが、例えば液体状態の二酸化炭素をプランジャーポンプ、押し込みポンプ等で供給する方法、気体または液体状態の二酸化炭素をボンベより直接あるいは減圧した状態で供給する方法、超臨界状態とした後直接あるいはポンプ等で加圧した状態で供給する方法等があげられる。
【0038】
また、金属化合物の添加方法は特に限定されないが、例えばポリマーと混合して供給する方法、成型機内に液体状態あるいは溶融状態で供給する方法、液体または超臨界状態の二酸化炭素に溶解させた状態で添加する方法等があげられる。予め二酸化炭素に混合する方法においては、成型機に接続する混合装置を設ける方が好適である。ポリマー、金属化合物および二酸化炭素の供給、混合の順番は、均一混合状態を得る上で最適な方法を選択すればよく、特に限定されない。また均一相が形成される条件であれば、ポリマーと金属化合物、二酸化炭素の量比は特に限定されない。金属化合物の供給量を制御して、無機物の含有量または相分離構造を制御することが可能である。
【0039】
本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法は、ポリマーの成型機内でポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させる工程、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げる工程、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる工程、さらに減圧してポリマー内で二酸化炭素と金属化合物を相分離させ二酸化炭素をポリマー外へ拡散放出させて金属化合物をポリマー内に分散する工程からなる。これらの行程は厳密に区別される必要はなく、連続的に、一部平行して進行しても差し支えない。成型機は押出成型機、あるいは射出成型機が好適に用いられるが特に限定されない。
【0040】
図2は、本発明方法の好ましい実施態様の1例を模式的工程図として示す説明図であり、この図に基づいて工程の流れを説明する。
(溶融ゾーンI)
すなわち、図2に示したような押出機において、ホッパーよりペレット状ポリマーPを供給し、図2の溶融ゾーンIで加熱溶融させる。二酸化炭素は、ボンベより高圧ポンプにて輸送、昇圧され、溶融ゾーンIで溶融したポリマーPに供給、混合される。金属化合物MCは別途ポンプで、あるいは二酸化炭素と混合して、同様に溶融ゾーンIに供給される。この工程は、溶融ポリマーと二酸化炭素と金属化合物からなる均一相の相溶状態を形成させるための工程である。
【0041】
均一相を形成する条件は、ポリマーPと金属化合物MCの種類により異なるが、気体および超臨界流体の二酸化炭素は多くのポリマーに溶解しやすく、一方金属化合物は一般に固体または液体でありポリマーとは混合し難い。金属化合物が二酸化炭素に溶解、もしくは均一相を形成する条件であれば、金属化合物と二酸化炭素の混合物が容易にポリマーに導入され、均一相を形成しやすくなる。例えば金属化合物がテトラメトキシシランで温度が313Kの場合、10MPa以上の条件で二酸化炭素と任意の組成で均一相を形成する。チタンテトライソプロポキシドで353Kの場合はおよそ13MPa以上で二酸化炭素と任意の組成で均一相を形成する。これらの混合物は、容易にポリマーに吸収されて均一相を形成する。
【0042】
このように、均一相を形成させる条件は、導入する金属化合物と二酸化炭素の相平衡に合わせて設定すればよい。多くの場合、二酸化炭素の超臨界条件が金属化合物と均一相を形成する上で好適である。
【0043】
(溶融ゾーンII)
この均一状態となった溶融体を溶融ゾーンIIへと送入し、一相の相溶状態を保ったまま当該溶融体を相分離に適した温度まで下げていく。この工程は、溶融体の粘性を上げて、次の相分離の際にポリマー外へ金属化合物および二酸化炭素が拡散するのを防ぎ、相分離構造を形成しやすくするための工程であり、この過程により連続的、かつ、安定的な製造が可能となる。ただし、第一溶融ゾーンIで予め当該溶融体の相分離に適した温度で均一相を形成させても構わない。
【0044】
(相分離ゾーンI)
次に相分離ゾーンIIにて、当該溶融体の圧力を低下させることにより、ポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる。減圧は成型機内の内径を拡大する方法でも、出口を解放する方法でも、細孔を通じて二酸化炭素の一部を放出する方法でも構わない。この工程は、粘性の増大したポリマーから、二酸化炭素および金属化合物がポリマー外へ拡散する時間が十分ないまま、圧力の低下によりポリマーへの溶解度が急激に低下するため、二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物がポリマー内で気泡状となって析出する工程である。
【0045】
(相分離ゾーンII)
次に、相分離ゾーンIIにて、さらに圧力を低下させることにより、均一相混合物を形成していた二酸化炭素と金属化合物を相分離させる。この際の圧力低下は、成型機内で内径を拡大する等の方法により行っても、あるいは鋳型への射出やダイス等への押し出し、大気中への解放など成型機外に導出する方法でも構わない。相分離した二酸化炭素は、気体となり、ポリマー外へ拡散するが、金属化合物は、液体または固体としてポリマー内に分散保持される。なお、相分離ゾーンIおよびIIに相当する工程は必ずしも厳密に区別される必要はなく、減圧によりほぼ同時に、あるいは平行して進行しても構わない。
【0046】
(分解ゾーン)
ポリマー内に分散して析出した金属化合物は、何らかの適当な手段により分解し、金属または金属酸化物等としてポリマー内で生成させる。分解の前に機械的な混錬、あるいはその他の手法により、分散した金属化合物をさらに微細化する工程を加えることもできる。分解工程は、図2に示したように、成型機内で行っても、成型機外に当該溶融体を取り出してから行ってもよく、また析出後時間を置いてから行っても構わない。分解手段は特に限定されないが、例えば加熱、マイクロ波照射、光照射、放射線照射などの手段が好ましく、特に加水分解が好適に用いられる。
【0047】
加水分解の場合、当該溶融体に水分を供給することで、内部まで水分が導入され均一かつ効果的な分解反応を行うことができる。
水分の供給はポリマーや金属化合物の種類に応じ、成型機に接続する水あるいは水蒸気の供給装置を設ける等の手法で成型機内で行っても、あるいは成型機外に当該複合体を導出した後で行っても構わない。特に、二酸化炭素と金属化合物の相分離を行った直後に水分を導入して安定な金属酸化物等を生成させ、相分離によって生じた微細構造を固定化する手法が、コンポジットの調製には好適である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下の実施例では、次のとおり平均粒径及びシリカの含有量を測定した。
【0049】
(平均粒径)
走査型電子顕微鏡(日本電子社製、TEM2000FXII)にて、フィルム試料をランダムに10カ所サンプリングして観察し、実測した数値の平均を求めた。
【0050】
(ゲル状シリカの含有量)
次の式により求めた。
[シリカの含有量(質量%)]={[シリカ含有フィルムの質量]−[フィルム単独の質量]}/[フィルム単独の質量]×100
【0051】
[実施例1]
図2に示す工程図に従い以下の無機物・ポリマーコンポジット成形体を製造した。
ポリ乳酸樹脂(PLA4032、カーギルダウ社製)のペレットをホッパーより発泡押出機に供給し第一溶融ゾーン(口径50mm、L/D=20)にて、シリンダー温度220℃で加熱溶融させた。二酸化炭素は液化炭酸ガスボンベより高圧ポンプにて、当該樹脂(4Kg/hr)に対し、液体の状態で2.5ml/minの割合で送液した。一方で、テトラメトキシシランを、二酸化炭素に対し25%の供給量(0.675ml/min)となるよう高圧ポンプを用いて供給し、前記二酸化炭素と混合した上、第一溶融ゾーンの完全に溶融した当該樹脂に供給した。供給時の圧力は12MPaで保持した。
【0052】
続いて第二溶融ゾーン(口径40mm、L/D=20)へと当該溶融体を送入し、徐々に温度を下げていった。第二溶融ゾーンの先端の設定温度を110℃とし、温度一定のままダイスより大気圧解放することで減圧させ、相分離を誘起させた。この時、大気圧解放されているので相分離した二酸化炭素はシリカ含有ポリ乳酸樹脂から放散した。
【0053】
得られた生成物を水に含浸し、加水分解を進行させることでシリカ含有ポリ乳酸成形体を得た。走査電子顕微鏡(SEM)により、平均50ミクロンの気泡がポリマー内に分散し、気泡内に粒径1〜40ミクロンのシリカ成分が存在していることが確認された。当該成形体中のシリカ含量は2質量%であった。
【0054】
[実施例2]
実施例1において、高圧ポンプによるテトラメトキシシランの供給量を1.25mlとした以外は、実施例1と同様にしてシリカ含有ポリ乳酸成形体を得た。走査電子顕微鏡(SEM)により、平均40ミクロンの気泡がポリマー内に分散し、気泡内に粒径1〜35ミクロンのシリカ成分が存在していることが確認された。当該成形体中のシリカ含量は3質量%であった。
【0055】
[実施例3]
実施例1において、高圧ポンプによるテトラメトキシシランの供給量を2.5mlとした以外は、実施例1と同様にしてシリカ含有ポリ乳酸成形体を得た。走査電子顕微鏡(SEM)により、平均35ミクロンの気泡がポリマー内に分散し、気泡内に粒径1〜30ミクロンのシリカ成分が存在していることが確認された。当該成形体中のシリカ含量は4.5質量%であった。
【0056】
[比較例1]
実施例1において二酸化炭素を供給せず、テトラメトキシシランの供給のみとした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸成形体を得た。この条件下ではテトラメトキシシランが当該成形体中に混合したのみであり、顕著な発泡構造はみられなかった。また成形体の表面にテトラメトキシシランが遊離して付着した状態が観察され、均一な混合が進行していないことが示唆された。走査電子顕微鏡(SEM)による観察では、成形体中の気泡数が少なく、また気泡内にシリカ粒子は確認されず、相分離による構造形成は見られなかった。
【0057】
[比較例2]
実施例1おいてテトラメトキシシランを供給せず、二酸化炭素のみを供給した以外は、実施例1と同様にして、発泡ポリ乳酸成形体を得た。走査電子顕微鏡(SEM)により、平均60ミクロンの気泡がポリマー内に分散していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体は、シュリンクフィルム等の包装用フィルム、電池用セパレータ、断熱材等に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の原理を模式図として示す参考説明図である。
【図2】本発明の工程の好ましい一例を模式的に示した説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させる工程と、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げる工程と、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる工程と、さらに減圧してポリマー内で二酸化炭素と金属化合物を相分離させ二酸化炭素をポリマー外へ拡散させて金属化合物をポリマー内に分散する工程を備えることを特徴とする、成型機による無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項2】
金属化合物を分解してポリマー内に金属酸化物を形成させる工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の成型機による無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項3】
ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させる工程と、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げる工程と、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる工程を成型機で行い、さらに減圧してポリマー内で二酸化炭素と金属化合物を相分離させ二酸化炭素をポリマー外へ拡散させて金属化合物をポリマー内に分散した複合ポリマーを作成する工程と、当該複合ポリマー中の金属化合物を分解して金属酸化物とする工程とを備えることを特徴とする、無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項4】
前記溶融体に水分を供給する工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1または3に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成型機が押出成型機または射出成型機であることを特徴とする請求項1または3に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項6】
前記二酸化炭素が超臨界二酸化炭素であることを特徴とする請求項1または3に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項7】
前記溶融体を形成する工程は、二酸化炭素と金属化合物を混合した状態で、溶融したポリマーに供給する請求項1または3に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項8】
上記金属化合物における金属が、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズ及びインジウムから選ばれる少なくとも一つであり、当該金属化合物がアルコキシド、β−ジケトナート、酢酸塩から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1または3に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1または3に記載の当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させ、さらに減圧してポリマー中で二酸化炭素と金属化合物を相分離させ二酸化炭素をポリマー外へ拡散させてなる無機物・ポリマーコンポジット成形体。
【請求項10】
前記成形体が射出成形体または押出成形体であることを特徴とする請求項9に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体。
【請求項11】
ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させ、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げ、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる成型機と、二酸化炭素と金属化合物を混合する混合装置とを備え、前記成型機内で溶融したポリマーに、前記混合装置から二酸化炭素と金属化合物の混合物を供給するようにしたことを特徴とする無機物・ポリマーコンポジット成型機。
【請求項12】
ポリマーと二酸化炭素と金属化合物を高圧下で相溶させて一相の溶融体を形成させ、相溶状態を保ったまま当該溶融体の温度を下げ、当該溶融体を減圧してポリマーから二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる成型機と、前記成型機に水分を供給する水分供給装置とを備え、前記成型機内で金属化合物が添加されたポリマーに、前記水分供給装置から水分を供給するようにしたことを特徴とする無機物・ポリマーコンポジット成型機。
【請求項13】
前記水分供給は、ポリマー中に金属化合物が分散された直後に行うことを特徴とする請求項12に記載の無機物・ポリマーコンポジット成型機。
【請求項14】
当該溶融体を減圧して二酸化炭素と金属化合物の均一相混合物を相分離させる前記成型機において、さらに減圧してポリマー内で二酸化炭素と金属化合物を相分離させる工程が行われ、当該相分離を微細化する手段をさらに備えることを特徴とする請求項11または12に記載の無機物・ポリマーコンポジット成型機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−172782(P2009−172782A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11297(P2008−11297)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】