説明

成膜装置用部品の付着膜除去方法

【課題】成膜装置用部品に形成された付着膜を、より効率よく除去することができる付着膜除去方法を提供する。
【解決手段】成膜装置用部品の付着膜除去方法は、成膜装置用部品に、水で処理することにより溶解または軟化プレコート層を形成する成層工程;前記プレコート層上に形成された付着膜5に水を噴射し、前記付着膜の少なくとも一部2を切除する切除工程;および、前記付着膜が切除された成膜装置用部品を水へと浸漬させる除去工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置用部品に付着した付着膜を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体部品などには成膜処理が施されている。ここで、成膜とは、対象物に薄膜を形成することであり、成膜の一例としてスパッタリングが挙げられる。スパッタリングとは、チャンバー内を真空にした後、アルゴンガスなどの不活性ガスを導入しながら、対象物である母材と薄膜の材料となるターゲット材の間に高電圧を印加し、イオン化した不活性ガスをターゲット材に衝突させ、それにより弾き飛ばされた成膜物質を母材上に付着させ薄膜を形成する方法である。
【0003】
上記スパッタリングのような成膜を行う成膜装置では、成膜過程において、ターゲット材から弾き飛ばされた成膜物質は対象物のみならず、対象物を保持する部品やチャンバー内の装置各部に付着し、薄膜を形成することとなる。そして、成膜装置を用いて繰返し成膜を行うことにより、対象物を保持する部品やチャンバー内の装置各部には、薄膜が積層されスパッタリング膜などの付着膜が形成される。この付着膜は、繰返しの熱履歴などにより成膜装置の部品から剥落し、母材に付着して膜欠陥の原因となる。そのため、成膜装置用部品は、定期的に付着膜を除去する必要がある。
【0004】
成膜装置用部品に形成された付着膜を除去する方法としては、化学的除去方法や物理的除去方法などが用いられているが、再生作業に係る時間や成膜装置用部品の損耗が問題となっている。そこで、より容易に付着膜を除去できるように改良された成膜装置用部品や、より効率よく成膜装置用部品から付着膜を除去する技術などが提案されている。
【0005】
例えば、成膜装置用構成部材の表面に水崩壊性Al複合材料により水崩壊性Al膜を形成しておき、水、水蒸気、水溶液等の存在する雰囲気に曝すことにより、水崩壊性Al膜を崩壊させ付着膜を剥離する技術(特許文献1(請求項10、段落0029、0030)参照);成膜装置用部品の母材金属よりも電気化学的に卑な金属膜層を母材金属の表面に形成し、この構成部品を洗浄液に浸漬することで、構成部品に堆積した付着膜を除去する技術(特許文献2(請求項3、第4頁第30〜34行)参照);成膜装置用部品の構成材料より硬度の低い材料からなる軟質膜を形成し、軟質膜の化学的エッチングによって軟質膜と共に付着膜を除去する技術(特許文献3(請求項4)参照);部分安定化ジルコニア溶射膜で被覆された部材を薄膜形成またはプラズマ処理プロセスで使用後、温度100〜300℃、湿度50%以上の環境下に置くことにより該部材から該溶射膜を剥離する技術(特許文献4(請求項1、段落0016、0017)参照);が提案されている。
【0006】
また、真空処理装置用の防着板であって、アルミニウムを主材質とする薄板を、層間材を介して複数枚積層した積層構造を有し、露呈状態となっている表層の前記薄板が汚染物によって汚染されたならばこの表層の薄板を剥離して次層を露呈させることを特徴とする真空処理装置用の防着板(特許文献5(請求項1)参照)や、付着物の付着した洗浄対象物が配置される矩形状のテーブルと、上記洗浄対象物に向けて配置される洗浄ノズルを有し、上記洗浄対象物に付着した付着物に対し高圧水を噴射するノズル装置と、上記ノズル装置を上記テーブルの長手方向としてのX軸方向および幅方向としてのY軸方向にそれぞれ移動させるX軸駆動手段およびY軸駆動手段と、上記洗浄ノズルを垂直方向としてのZ軸方向に移動させるZ軸駆動手段と、上記洗浄ノズルを垂直軸まわりに回転させるR軸駆動手段と、を備える剥離洗浄装置(特許文献6(請求項1)参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−256063号公報
【特許文献2】特表2004−74545号公報
【特許文献3】特開平6−49626号公報
【特許文献4】特開2004−346374号公報
【特許文献5】特開2005−101435号公報
【特許文献6】特開2008−149297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、成膜装置用部品に形成された付着膜を、より効率よく除去することができる付着膜除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することができた本発明の成膜装置用部品の付着膜除去方法は、成膜装置用部品に、水で処理することにより溶解または軟化するプレコート層を形成する成層工程;前記プレコート層上に形成された付着膜に水を噴射し、前記付着膜の少なくとも一部を切除する切除工程;および、前記付着膜が切除された成膜装置用部品を水へと浸漬させる除去工程を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明では、成膜装置用部品を予めプレコート層でコートしておき、このプレコート層上に形成された付着膜の少なくとも一部を、付着膜に水を噴射することにより切除する。このように、付着膜に水を噴射して切除することにより、プレコート層の露出部分が多くなり、水に浸漬した際により短時間で付着膜を除去できる。また、付着膜の切除に水を用いるため、付着膜の切除とともに、プレコート層の溶解または軟化も行うことができる。
【0011】
前記切除工程において、付着膜400cm2当たり、5cm2〜50cm2を切除することが好ましい。前記切除工程において、付着膜に噴射する水の噴射圧力は30MPa〜250MPaであることが好ましい。
【0012】
前記成層工程においては、水性無機コーティング剤を用いてプレコート層を形成することが好ましい。前記水性無機コーティング剤としては、骨材(顔料を含む)として、珪石、霞石閃長岩、シリカ、アルミナ、非晶質シリカおよび窒化硼素よりなる群から選択される少なくとも1種を含有し、結合剤として、コロイダルシリカ、水溶性アクリル樹脂、アクリル酸系ポリマーおよび水ガラスよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成膜装置用部品に形成された付着膜を、より効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】接着強度試験の試験片を示す模式図である。
【図2】実施例1における、付着膜が切除されたAl試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の成膜装置用部品の付着膜除去方法は、成膜装置用部品に、水で処理することにより溶解または軟化するプレコート層を形成する成層工程;前記プレコート層上に形成された付着膜に水を噴射し、前記付着膜の少なくとも一部を切除する切除工程;および、前記付着膜が切除された成膜装置用部品を水へと浸漬させる除去工程を含むことを特徴とする。
【0016】
以下、本発明の成膜装置用部品の付着膜除去方法について詳しく説明する。
【0017】
前記成層工程では、成膜装置用部品上にプレコート層を形成する。なお、プレコート層は成膜装置用部品の表面全体に形成してもよいし、成膜装置に組み込んだ際に付着膜が付着することが予測される部分にのみ形成してもよい。なお、成膜装置用部品に対してプレコート層を形成する部分は、成膜装置用部品の使用態様などに応じて適宜変更すればよい。
【0018】
前記成膜装置用部品を構成する基材としては、通常、成膜装置用部品に用いられるものであれば、特に限定されない。前記基材としては、アルミニウム、鉄、銅、ステンレス鋼、チタンなどの金属が挙げられる。なお、近年では、成膜装置の大型化に伴い、成膜装置用部品の基材としてアルミニウムが多用されている。また、成膜物質(例えば、スパッタリングさせる成分)としてもアルミニウムが多用されている。そのため、成膜装置用部品において、アルミニウム基材上にアルミニウムからなる付着膜が形成されるという組合せが多くなっている。ここで、アルミニウムは物理的強度が弱く、酸にも溶けやすいため、従来の技術では、基材を傷めることなく付着膜を除去することが困難であった。本発明の付着膜除去方法では、このようなアルミニウム基材上にアルミニウムからなる付着膜が形成された場合などにおいて、特に効果を発揮する。
【0019】
前記プレコート層は、水で処理することにより溶解または軟化することが必要である。ここで、水で処理することにより溶解するとは、プレコート層を構成する成分全てが水に溶解する場合、および、プレコート層を構成する成分の大部分が水に可溶な成分あるいは水と反応する成分であり、水で処理した際にプレコート層が崩壊する場合を含む。また、水で処理することにより軟化するとは、水で処理することにより、成膜装置用部品に対するプレコート層の接着強度が低下することを指す。
【0020】
前記プレコート層の具体例としては、例えば、水溶性の結合剤を用いた水性無機コーティング剤から形成されるもの;アルミニウムまたはアルミニウム合金の粒子表面がインジウム、錫またはこれらの合金の皮膜で覆われた水崩壊性アルミニウム複合材料から形成されるもの;が挙げられる。前記プレコート層を形成する方法は、特に限定されず、溶射や塗工など、使用する材料に応じて変更すればよい。
【0021】
前記成層工程では、水性無機コーティング剤を用いてプレコート層を形成することが好ましい。水性無機コーティング剤を用いてプレコート層を形成すれば、成膜装置用部品に水性無機コーティング剤を塗装し乾燥させるだけで、プレコート層を形成できる。そのため、プレコート層を形成する作業が非常に容易となり、作業効率がよい。
【0022】
前記水性無機コーティング剤としては、分散媒の主成分(50質量%以上)として水を含有し、骨材(顔料を含む)および結合剤を含有するものであれば、特に限定されない。
【0023】
前記骨材としては、例えば、珪藻土、霞石閃長岩、珪石、黒鉛などの鉱物;シリカ(SiO2)、非晶質シリカ(SiO2)、アルミナ(酸化アルミニウム:Al23)、酸化コバルト(Co34)、酸化マグネシウム(MgO)、三酸化二クロム(Cr23)などの金属酸化物;窒化硼素(BN)、窒化珪素(Si34)などの金属窒化物;クロムチタンイエロー((Ti,Sb,Cr)O2)、亜鉛鉄ブラウン((Zn,Fe)Fe24)、ニッケルチタンイエロー((Ti,Sb,Ni)O2)などの複合酸化物系顔料;などが挙げられる。これらの骨材は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明に用いる水性無機コーティング剤は珪石、霞石閃長岩、シリカ、アルミナ、非晶質シリカおよび窒化硼素よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0024】
前記結合剤としては、無機結合剤、有機結合剤のいずれも可能である。前記無機結合剤としては、コロイダルシリカ(SiO2・xH2O)、アルミナゾル、水ガラスなどが挙げられる。前記有機結合剤としては、水溶性アクリル樹脂、アクリル酸系ポリマーなどが挙げられる。これらの結合剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明に用いる水性無機コーティング剤は、コロイダルシリカ、水溶性アクリル樹脂、アクリル酸系ポリマーおよび水ガラスよりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0025】
前記水性無機コーティング剤は、水以外の分散媒を含有していてもよい。水以外の分散媒を添加することにより、水性無機コーティング剤の塗工性を向上させることができる。前記水以外の分散媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチルジグリコールなどのグリコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類が挙げられる。
【0026】
また、前記水性無機コーティング剤は、前記無機骨材、結合剤および分散媒のほかに、本発明の効果を損なわない程度で、硬化促進剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤、防錆剤などの添加剤を含有してもよい。
【0027】
前記硬化促進剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど炭酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの水酸化物;塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄などの塩化物;ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどのケイ酸塩;りん酸アルミニウムなどのりん酸塩などが挙げられる。これらの硬化促進剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記水性無機コーティング剤は、上記の骨材、結合剤などを混合して調製してもよいが、市販のものを用いることもできる。
【0029】
前記水性無機コーティング剤を基材に塗工する方法は特に限定されず、通常の塗料と同様の塗装方法を採用することができる。塗装方法としては、例えば、エアースプレー、エアレススプレー、ディッピング、刷毛塗りなどの方法が挙げられる。そして、基材に塗装された水性無機コーティング剤を、乾燥・焼成することによりプレコート層を形成できる。なお、水性無機コーティング剤の乾燥・焼成は、脱離成分の脱離が終了するように、用いられる結合剤の種類などによって適宜調整すればよいが、通常100℃〜500℃で、0.1時間〜24時間乾燥・焼成すればよい。
【0030】
前記プレコート層の厚みは1μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、500μm以下が好ましく、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。プレコート層の厚みが1μm以上であれば、成膜装置用部品を十分にコートすることができ、付着膜の除去がより容易となる。また、プレコート層の厚みが500μm以下であれば、成膜装置用部品が昇降温された際にも、プレコート層がより剥離しにくくなる。
【0031】
上記のようにして、プレコート層を形成した成膜装置用部品を、成膜装置に組み込む。そして、前記成膜装置用部品が組み込まれた成膜装置を用いて、成膜対象物などに成膜処理を施すことにより、前記成膜装置用部品上にも成膜物質が付着、堆積して、プレコート層上に付着膜が形成される。なお、成膜処理としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法などの物理的気相成長法(PVD法)や、化学的気相成長法(CVD法)が挙げられる。次いで、付着膜が形成された成膜装置用部品を、成膜装置から取り外し切除工程に供する。
【0032】
前記切除工程では、プレコート層上に形成された付着膜に水を噴射し、前記付着膜の少なくとも一部を切除する。付着膜に水を噴射する方法は、特に限定されないが、例えば、ウォーターガン、ウォーターカッタなどを用いればよい。
【0033】
プレコート層の表面の大部分が付着膜に覆われている場合は、プレコート層の露出部分が少ない。そのため、後述する除去工程において、プレコート層と水との接触面積が小さいため、付着膜の除去に長時間を有する。しかし、付着膜の少なくとも一部を切除することにより、プレコート層の露出面積が多くなる。これにより、後述する除去工程において、プレコート層と水との接触面積が大きくなるため、付着膜の除去をより短時間で行うことができる。さらに、水を噴射することにより付着膜の切除を行うため、付着膜が切除されると同時に、噴射された水がプレコート層に直接作用する。そのため、噴射された水により、予めプレコート層の溶解または軟化を促進することができ、除去工程における付着膜の除去がより短時間で達成される。
【0034】
前記切除工程においては、付着膜を除去する面積は、付着膜400cm2当たり5cm2以上とすることが好ましく、より好ましくは10cm2以上、さらに好ましくは15cm2以上である。付着膜400cm2当たり5cm2以上切除することにより、プレコート層の露出面積を充分に増大させることができ、付着膜の除去に要する時間をより短縮することができる。なお、付着膜の切除面積は大きいほど好ましいが、切除面積を増大させると切除処理に長時間を要することとなるため、切除面積の上限は50cm2程度である。
【0035】
前記切除工程において、付着膜に噴射する水の噴射圧力は30MPa以上が好ましく、より好ましくは50MPa以上、さらに好ましくは70MPa以上である。付着膜に噴射する水の噴射圧力が30MPa以上であれば、付着膜を容易に切除することができ、また、プレコート層への水の浸透をより促進することができる。なお、付着膜に噴射する水の噴射圧力の上限は、特に限定されないが、250MPa程度である。
【0036】
また、付着膜に水を噴射する際の水の噴射口と付着膜との距離は10mm以上とすることが好ましく、より好ましくは20mm以上、さらに好ましくは30mm以上であり、100mm以下とすることが好ましく、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下である。
【0037】
前記除去工程では、前記付着膜が切除された成膜装置用部品を水へと浸漬させる。付着膜を切除し、プレコート層の露出部分を多くした成膜装置用部品を水へと浸漬させることにより、プレコート層が溶解または軟化し、付着膜を容易に除去できる。なお、成膜装置用部品を浸漬させる水の温度は、0℃超が好ましく、より好ましくは60℃以上、特に好ましくは沸騰温度(約100℃)である。成膜装置用部品を浸漬させる水の温度が60℃以上であれば、プレコート層の溶解または軟化を促進することができ、付着膜の除去がより短時間で行える。
【0038】
なお、プレコート層の種類によっては、成膜装置用部品を水へと浸漬させただけでは付着膜が除去されない場合がある。このような場合には、成膜装置用部品を水に浸漬させた状態で超音波を照射するなどして、付着膜を除去すればよい。
【0039】
本発明の付着膜除去方法が適用される成膜装置用部品としては、例えば、FPD(Flat Panel Display)保持用フレーム、自動車部品保持用フレームなどが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
プレコート層の接着強度評価
Al試験片(4cm四方、厚さ2mm)の片面に、WA#100による表面ブラスト処理を施した。前記Al試験片のブラスト処理を施した面の全体に、骨材として珪石60質量部、結合剤としてコロイダルシリカ12質量部、分散媒として水28質量部を含有する水性無機コーティング剤を、ピースガン(明治機械製作所製、「MP−3」)を用いてスプレー塗布した。塗布した水性無機コーティング剤を乾燥させプレコート層(厚さ20μm)を形成した。
【0042】
図1に示すように、水性無機コーティング剤を塗布乾燥して形成されたプレコート層2を有する成膜装置用部品1にSUS薄板3(5mm×70mm×0.2mm)を、接着剤(東亞合成社製、「アロンアルファ(登録商標)」)を用いて、接着面4が5mm×10mmとなるように接着して試験片を作製した。ここで、図1中のX、YおよびZは、それぞれ成膜装置用部品1、SUS薄板3および接着面4の長さを示しており、X=40mm、Y=70mm、Z=10mmである。
【0043】
得られた試験片について、万能試験機(東京試験機社製、小型卓上試験機「LSC−1/30−2」)を用いて引張せん断試験を行い、SUS薄板3が成膜装置用部品1から剥離する際の応力(破断応力)を測定し、これをプレコート層の基材に対する接着強度とした。なお、測定条件は、図1に矢印Aで示す方向を引張方向とし、試験機の下部チャックに成膜装置用部品1、上部チャックにSUS薄板3を固定し、引張速度を30mm/minとした。なお、SUS薄板と接着剤との界面で剥離が発生した場合、プレコート層の基材に対する接着強度は10N/mm2超とした。
【0044】
次に、上記のプレコート層2が形成された成膜装置用部品1を水に浸漬し、約100℃で10分間煮沸処理した後、上記と同様にして、プレコート層の基材に対する接着強度を測定した。
【0045】
プレコート層の成膜装置用部品に対する接着強度は、水で処理する前は10N/mm2超であったが、水で処理した後は5.0N/mm2であった。この結果から、水性無機コーティング剤から形成されたプレコート層は、水で処理することにより軟化することが確認された。
【0046】
実施例1
Al試験片(20cm四方、厚さ2mm)の片面に、WA#100による表面ブラスト処理を施した。前記Al試験片のブラスト処理を施した面の全体に、骨材として珪石60質量部、結合剤としてコロイダルシリカ12質量部、分散媒として水28質量部を含有する水性無機コーティング剤を、ピースガン(明治機械製作所製、「MP−3」)を用いてスプレー塗布した。塗布した水性無機コーティング剤を乾燥させプレコート層(厚さ20μm)を形成した。
【0047】
前記プレコート層の上面全体を覆うように、UBMSスパッタ装置(神戸製鋼所製、「UBMS503」)を用いて、スパッタリングにより付着膜(Al膜、厚さ1mm)を形成した。
【0048】
超高圧水洗浄装置(ケイエヌラボアナリシス社製、ノズル径0.25mm)を用いて、付着膜とノズルとの距離を50mm、水の噴射圧力150MPaに調節して、水を付着膜に噴射して、付着膜の一部を切除した。付着膜への水の噴射は、Al試験片の中心点をとおり、且つ、Al試験片の辺と平行になるように直線状に噴射した後、この噴射経路と直交し、Al試験片の中心点をとおり、且つ、Al試験片の辺と平行になるように直線状に噴射した。図2に示すように、付着膜5は、Al試験片の中央を通る十字状に切除され、プレコート層2が露出した。付着膜を除去した面積は、付着膜400cm2当たり20cm2であった。
【0049】
そして、付着膜を切除したAl試験片を、沸騰水(約100℃)に浸漬した。なお、Al試験片を入れた後も沸騰水を加熱し続け、沸騰状態を維持させた。付着膜は、Al試験片を沸騰水に浸漬してから10分間で、全てAl試験片から剥離した。
【0050】
実施例2
上記実施例1と同様に、Al試験片(20cm四方、厚さ2mm)に、プレコート層(厚さ20μm)および、付着膜(Al膜、厚さ1mm)を形成した。
【0051】
超高圧水洗浄装置(ケイエヌラボアナリシス社製、ノズル径0.25mm)を用いて、付着膜とノズルとの距離を50mm、水の噴射圧力50MPaに調節して、水を付着膜に噴きつけて、付着膜の一部を切除した。付着膜への水の噴射は、実施例1と同じ噴射経路とした。付着膜は、実施例1とほぼ同様に切除されたが、水を噴射した部分において、付着膜が切除できていない箇所があった。付着膜を除去した面積は、付着膜400cm2当たり約10cm2であった。
【0052】
そして、付着膜を切除したAl試験片を、沸騰水(約100℃)に浸漬した。なお、Al試験片を入れた後も沸騰水を加熱し続け、沸騰状態を維持させた。付着膜は、Al試験片を沸騰水に浸漬してから30分間で、全てAl試験片から剥離した。
【0053】
比較例1
上記実施例1と同様に、Al試験片(20cm四方、厚さ2mm)に、プレコート層(厚さ20μm)および、付着膜(Al膜、厚さ1mm)を形成した。
そして、Al試験片を、沸騰水(約100℃)に浸漬した。なお、Al試験片を入れた後も沸騰水を加熱し続け、沸騰状態を維持させた。付着膜は、Al試験片を沸騰水に浸漬してから60分間で、Al試験片から剥離し始めた。
【0054】
比較例2
Al試験片(20cm四方、厚さ2mm)の片面に、WA#100による表面ブラスト処理を施した。前記Al試験片のブラスト処理を施した面の全体に、UBMSスパッタ装置(神戸製鋼所製、「UBMS503」)を用いて、スパッタリングにより付着膜(Al膜、厚さ1mm)を形成した。
そして、付着膜を切除したAl試験片を、沸騰水(約100℃)に浸漬した。なお、Al試験片を入れた後も沸騰水を加熱し続け、沸騰状態を維持させた。付着膜は、沸騰水に浸漬してから60分間経過した後も、全く剥離しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、成膜装置用部品に付着した付着膜の除去に好適である。
【符号の説明】
【0056】
1:成膜装置用部品、2:プレコート層、3:SUS薄板、4:接着面、5:付着膜、A:引張方向、X:成膜装置用部品の長さ、Y:SUS薄板の長さ、Z:接着面の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置用部品に、水で処理することにより溶解または軟化するプレコート層を形成する成層工程;
前記プレコート層上に形成された付着膜に水を噴射し、前記付着膜の少なくとも一部を切除する切除工程;および、
前記付着膜が切除された成膜装置用部品を水へと浸漬させる除去工程を含むことを特徴とする成膜装置用部品の付着膜除去方法。
【請求項2】
前記切除工程において、付着膜400cm2当たり、5cm2〜50cm2を切除する請求項1に記載の成膜装置用部品の付着膜除去方法。
【請求項3】
前記切除工程において、付着膜に噴射する水の噴射圧力が30MPa〜250MPaである請求項1または2に記載の成膜装置用部品の付着膜除去方法。
【請求項4】
前記成層工程において、水性無機コーティング剤を用いてプレコート層を形成する請求項1〜3のいずれか1項に記載の成膜装置用部品の付着膜除去方法。
【請求項5】
前記水性無機コーティング剤が、骨材(顔料を含む)として、珪石、霞石閃長岩、シリカ、アルミナ、非晶質シリカおよび窒化硼素よりなる群から選択される少なくとも1種を含有し、結合剤として、コロイダルシリカ、水溶性アクリル樹脂、アクリル酸系ポリマーおよび水ガラスよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものである請求項4に記載の成膜装置用部品の付着膜除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63856(P2011−63856A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216185(P2009−216185)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(591265459)株式会社ケイエヌラボアナリシス (8)
【Fターム(参考)】