説明

手動変速機

【課題】「HV走行用変速段」と「EV走行用変速段」とを備えたHV−MT車用の手動変速機であって、シフト操作部材の操作の際に通常のMT車両に慣れ親しんだ運転者に違和感を与える恐れのないものを提供すること。
【解決手段】この手動変速機は、クラッチC/Tを介して内燃機関E/Gから動力が入力される入力軸Aiと、電動機M/Gから動力が入力される出力軸Aoとを備える。この変速機は、動力伝達系統がAi−Ao間で確立されないEV走行用の複数の変速段(EV、EV−R)と、動力伝達系統がAi−Ao間で確立されるHV走行用の複数の変速段(2速〜5速)とを有する。H型のシフトパターン上にて、前進用のEV走行用変速段のシフト完了位置(EV)が最も左側のシフトラインの前端部に配置され、後進用のEV走行用変速段のシフト完了位置(EV−R)が最も右側のシフトラインの後端部に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用される手動変速機に関し、特に、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に摩擦クラッチが介装された車両に適用されるものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジンと電動機とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。ハイブリット車両では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、内燃機関の出力軸の駆動トルクを「内燃機関駆動トルク」と呼び、電動機の出力軸の駆動トルクを「電動機駆動トルク」と呼ぶ。
【0003】
近年、手動変速機と摩擦クラッチとを備えたハイブリッド車両(以下、「HV−MT車」と呼ぶ)に適用される動力伝達制御装置が開発されてきている。ここにいう「手動変速機」とは、運転者により操作されるシフトレバーのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション、MT)である。また、ここにいう「摩擦クラッチ」とは、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化するクラッチである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0005】
ハイブリッド車両では、内燃機関駆動トルクと電動機駆動トルクの両方を利用して車両が走行する状態(以下、「HV走行」と呼ぶ)が実現され得る。近年、このHV走行に加えて、内燃機関を停止状態(内燃機関の出力軸の回転が停止した状態)に維持しながら電動機駆動トルクのみを利用して車両が走行する状態(以下、「EV走行」と呼ぶ)が実現できるハイブリッド車両が開発されてきている。
【0006】
HV−MT車において、運転者がクラッチペダルを操作しない状態(即ち、クラッチが接合された状態)においてEV走行を実現するためには、変速機の入力軸が回転しない状態を維持しながら変速機の出力軸が電動機駆動トルクにより駆動される必要がある。このためには、電動機の出力軸が変速機の出力軸に接続されることに加え、変速機が「変速機の入力軸と変速機の出力軸との間で動力伝達系統が確立されない状態」に維持される必要がある。
【0007】
以下、「(クラッチを介して)内燃機関から動力が入力される入力軸」と「電動機から動力が入力される(即ち、電動機の出力軸が動力伝達可能に常時接続された)出力軸」とを備えた手動変速機を想定する。この手動変速機では、入力軸・出力軸間での動力伝達系統の確立の有無にかかわらず、電動機駆動トルクを手動変速機の出力軸(従って、駆動輪)に任意に伝達することができる。
【0008】
従って、この手動変速機を利用してHV走行に加えて上記のEV走行を実現するためには、手動変速機の変速段として、HV走行用の「変速機の入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立される変速段」(以下、「HV走行用変速段」と呼ぶ)に加えて、EV走行用の「変速機の入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立されない変速段」(ニュートラルとは異なる変速段。以下、「EV走行用変速段」と呼ぶ)が設けられる必要がある。
【0009】
即ち、この手動変速機では、シフトレバーをシフトパターン上において複数のHV走行用変速段に対応するそれぞれのHV走行シフト完了位置に移動することにより、入力軸・出力軸間で、「減速比」が対応するHV走行用変速段に対応するそれぞれの値に設定される動力伝達系統が確立され、シフトレバーをシフトパターン上においてEV走行用変速段に対応するEV走行シフト完了位置(ニュートラル位置とは異なる)に移動することにより、入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立されない。
【0010】
ところで、本出願人は、この種のHV−MT車用の手動変速機を既に提案している(例えば、特願2011−154447号を参照)。この出願では、シフトパターン上において、EV走行用変速段として前進用のEV走行用変速段(前方発進用の1速に相当)と、後進用のEV走行用変速段(後方発進用の変速段に相当)とを備える手動変速機が開示されている。この構成によれば、EV走行を利用した前方発進及び後方発進が可能となる。これに伴い、前進用の1速用のギヤ対(具体的には、常時噛合する1速用の固定ギヤ及び1速用の遊転ギヤの組み合わせ)と、後進用のギヤ対(具体的には、後進用の固定ギヤ、後進用の遊転ギヤ、及びアイドルギヤ等の組み合わせ)とが廃止され得る。従って、変速機全体をよりコンパクト化することができる。
【0011】
手動変速機と摩擦クラッチとを備えた通常のMT車両(ハイブリッド車両ではない)では、前記H型のシフトパターン上において、前方発進用の1速のシフト完了位置が車両左右方向の最も左側に位置するシフトラインの前端部に配置される一方で、後方発進用のR(リバース)のシフト完了位置が車両左右方向の最も右側に位置するシフトラインの後端部に配置される場合が多い。
【0012】
これに対し、前記出願に開示された構成では、単一のセレクトラインと複数のシフトラインを備えた所謂H型のシフトパターン上において、前進用及び後進用のEV走行シフト完了位置が車両左右方向の最も左側に位置するシフトラインの前端部及び後端部にそれぞれ配置されている。このように、少なくとも後方発進用の変速段のシフト完了位置が前記通常のMT車両における位置とは異なる。従って、この出願に開示された構成では、シフトレバーの操作の際、前記通常のMT車両に慣れ親しんだ運転者に違和感を与える恐れがあった。
【0013】
本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、その目的は、「HV走行用変速段」と「EV走行用変速段」とを備えた手動変速機であって、シフト操作部材の操作の際に前記通常のMT車両に慣れ親しんだ運転者に違和感を与える恐れのないものを提供することにある。
【0014】
本発明に係る手動変速機の特徴は、HV−MT車において、前記H型のシフトパターン上において、前進用の「EV走行用変速段」(前方発進用の1速に相当)のシフト完了位置が車両左右方向の最も左側に位置するシフトラインの前端部に配置される一方で、後進用の「EV走行用変速段」(後方発進用の変速段に相当)のシフト完了位置が車両左右方向の最も右側に位置するシフトラインの後端部に配置されたことにある。
【0015】
これによれば、シフトパターン上において、少なくとも前方発進用及び後方発進用の変速段のシフト完了位置が前記通常のMT車両における位置と一致する。従って、シフト操作部材の操作の際、前記通常のMT車両に慣れ親しんだ運転者に違和感を与える恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るHV−MT車用の動力伝達制御装置のN位置が選択された状態における概略構成図である。
【図2】N位置が選択された状態におけるS&Sシャフト及び複数のフォークシャフトの位置関係を示した模式図である。
【図3】「スリーブ及びフォークシャフト」とS&Sシャフトとの係合状態を示した模式図である。
【図4】シフトパターンの詳細を示した図である。
【図5】EV位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図6】EV位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図7】2速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図8】2速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図9】3速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図10】3速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図11】4速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図12】4速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図13】5速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図14】5速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図15】EV−R位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図16】EV−R位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図17】2速から3速への斜めシフトが実行される状態における図2に対応する図である。
【図18】3速から2速への斜めシフトが実行される状態における図2に対応する図である。
【図19】4速から5速への斜めシフトが実行される状態における図2に対応する図である。
【図20】5速から4速への斜めシフトが実行される状態における図2に対応する図である。
【図21】セレクト支持用のアームが設けられた場合における図19に対応する図である。
【図22】セレクト支持用のアームが設けられた場合における図16に対応する図である。
【図23】シフトパターンの他の例を示した図4に対応する図である。
【図24】図23に示した例における図2に対応する図である。
【図25】シフトパターンの他の例を示した図4に対応する図である。
【図26】図25に示した例における図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る手動変速機を含む車両の動力伝達制御装置(以下、「本装置」と呼ぶ)について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本装置は、「動力源としてエンジンE/GとモータジェネレータM/Gとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tと、摩擦クラッチC/Tとを備えた車両」、即ち、上記「HV−MT車」に適用される。この「HV−MT車」は、前輪駆動車であっても、後輪駆動車であっても、4輪駆動車であってもよい。
【0018】
(全体構成)
先ず、本装置の全体構成について説明する。エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0019】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸Aeから動力が入力される入力軸Aiと、M/Gから動力が入力されるとともに車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸Aoと、を備える。入力軸Ai及び出力軸Aoは互いに平行に配置されている。出力軸Aoは、M/Gの出力軸そのものであってもよいし、M/Gの出力軸と平行であり且つM/Gの出力軸とギヤ列を介して常時動力伝達可能に接続された軸であってもよい。M/Tの構成の詳細は後述する。
【0020】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸AeとM/Tの入力軸Aiとの間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、Aeと一体回転するフライホイールに対する、Aiと一体回転する摩擦プレートの軸方向位置)が変化する周知のクラッチである。
【0021】
C/Tの接合状態(摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサP1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0022】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)が出力軸Aoと一体回転するようになっている。即ち、M/Gの出力軸とM/Tの出力軸Aoとの間では動力伝達系統が常時確立されている。以下、E/Gの出力軸Aeの駆動トルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸(出力軸Ao)の駆動トルクを「MGトルク」と呼ぶ。
【0023】
また、本装置は、クラッチペダルCPの操作量(踏み込み量、クラッチストローク等)を検出するクラッチ操作量センサP1と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサP2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサP3と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサP4と、を備えている。
【0024】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサP1〜P4、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでEGトルクを制御するとともに、インバータ(図示せず)を制御することでMGトルクを制御する。
【0025】
(M/Tの構成)
以下、M/Tの構成の詳細について図1〜図4を参照しながら説明する。図1及び図4に示すように、本例で採用されるシフトレバーSLのシフトパターンは、車両左右方向に延びる単一のセレクトラインと、このセレクトライン上に位置する3つのセレクト位置(N位置、第1セレクト位置、及び第2セレクト位置)から車両前後方向にそれぞれ延びる3本のシフトラインと、からなる所謂「H型」のシフトパターンである。以下、説明の便宜上、これら3つのセレクト位置を含むセレクト操作が可能な範囲を総称して「ニュートラル範囲」と呼ぶ。
【0026】
本例では、選択される変速段(シフト完了位置)として、前進用の5つの変速段(EV、2速〜5速)、及び後進用の1つの変速段(EV−R)が設けられている。「EV」及び「EV−R」は上述したEV走行用変速段であり、「2速」〜「5速」はそれぞれ上述したHV走行用変速段である。特に、EVのシフト完了位置は、第1セレクト位置から車両前後方向に延びるシフトライン(即ち、車両左右方向の最も左側に位置するシフトライン)の前端部に位置し、EV−Rのシフト完了位置は、第2セレクト位置から車両前後方向に延びるシフトライン(即ち、車両左右方向の最も右側に位置するシフトライン)の後端部に位置する。
【0027】
M/Tは、スリーブS1、及びS2を備える。S1、及びS2はそれぞれ、出力軸Aoと一体回転する対応するハブに相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に嵌合された、「5速−2速」用のスリーブ、及び「3速−4速」用のスリーブである。
【0028】
図2及び図3に示すように、スリーブS1、及びS2はそれぞれ、フォークシャフトFS1、及びFS2と(フォークを介して)一体に連結されている。FS1、及びFS2(従って、S1、及びS2)はそれぞれ、シフトレバーSLの操作と連動するS&Sシャフトに固設された第1インナレバーIL1又は第2インナレバーIL2(図2、図3を参照)によって「中立位置」から軸方向(図2では上下方向、図1及び図3では左右方向)に駆動される。この結果、SLの操作に対応する変速段が達成される。
【0029】
図2及び図3では、S&Sシャフトとして、シフトレバーSLのシフト操作(図1、図4では上下方向の操作)によって軸方向に平
行移動し且つシフトレバーSLのセレクト操作(図1、図4では左右方向の操作)によって軸中心に回動する「セレクト回転型」が示されているが、SLのシフト操作によって軸中心に回動し且つSLのセレクト操作によって軸方向に平行移動する「シフト回転型」が使用されてもよい。以下、各変速段について順に説明していく。なお、以下、SLが或る変速段のシフト完了位置にあることを、その変速段が「選択された」と表現することもある。
【0030】
<N>
図1、2に示すように、シフトレバーSLが「N位置」にある状態では、第1インナレバーIL1は、フォークシャフトFS2に固設された「3速−4速」用シフトヘッドH2の3速用ヘッドと4速用ヘッドの間に位置する。即ち、IL1はH2と係合可能な位置にある(H2と係合はしていない)。なお、第2インナレバーIL2と係合可能なシフトヘッドは存在しない。この状態(より正確には、SLがニュートラル領域にある状態)では、スリーブS1、及びS2(従って、フォークシャフトFS1、及びFS2)が「中立位置」にある。従って、S1、及びS2はそれぞれ、対応する何れの遊転ギヤとも係合しない。この結果、入力軸Aiと出力軸Aoとの間で動力伝達系統が確立されない。また、MGトルクは「ゼロ」に維持される。即ち、EGトルク及びMGトルクは共に駆動輪に伝達されない。
【0031】
<EV>
図5、6に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から「第1セレクト位置」に移動すると、IL1は、図6の左方に向けて移動し、フォークシャフトFS1に固設された「5速−2速」用シフトヘッドH1の5速用ヘッドと2速用ヘッドの間に移動する。即ち、IL1はH1と係合可能な位置に移動する。なお、IL2と係合可能なシフトヘッドは存在しない。
【0032】
この状態にて、SLが「第1セレクト位置」から「EVのシフト完了位置」に向けて移動すると、図6に示すように、IL1が図の上方に向けて移動し、IL1がヘッドH1の5速用ヘッドと係合する。その後、IL1が5速用ヘッド(従って、FS1)を図6の上方に向けて押圧しようとする(図6の「シフト荷重」を参照)。
【0033】
ここで、図6に示すように、IL1と5速用ヘッドとが係合する場合、IL1の係合部(側面)に形成されたFS1の軸方向から傾斜したテーパ面と、5速用ヘッドの係合部(側面)に形成された前記テーパ面と同じ方向に延びるテーパ面とが合わさるように係合する。この結果、IL1は5速用ヘッドから図6の左方向のスラスト反力を受ける。このスラスト反力の発生に起因して、IL1は、両テーパ面間の滑りを伴いながら、図6の真上方向ではなく斜め左上方向に移動する。これに伴い、5速用ヘッド(従って、FS1)は、図6の上方に移動することなく中立位置に維持される。換言すれば、前記両テーパ面の存在により、SLが「第1セレクト位置」から「EVのシフト完了位置」に移動する際に「5速」が確立される事態の発生が防止される。なお、FS1は、中立位置から上方に僅かに移動するかもしれない。この点、「中立位置」とは、「対応するスリーブが対応する遊転ギヤと係合しない範囲内の位置」を意味する(以下も同様)。
【0034】
このように、SLが「第1セレクト位置」から「EVのシフト完了位置」に移動しても、FS1(従って、S1)が「中立位置」に維持される。なお、FS2(従って、S2)も「中立位置」に維持されている。従って、<N>の場合と同様、入力軸Aiと出力軸Aoとの間では動力伝達系統が確立されない。一方、この場合、図5に太い実線で示すように、M/Gと出力軸Aoとの間の動力伝達系統を利用して、前進方向のMGトルクが駆動輪に伝達される。
【0035】
即ち、「EV」が選択された場合、E/Gを停止状態(E/Gの出力軸Aeの回転が停止した状態)に維持しながらMGトルクのみを利用して車両が走行する状態(即ち、上記「EV走行」)が実現される。即ち、この車両では、「EV」を選択することにより、EV走行による前方発進が可能である。MGトルクは、アクセル開度等に応じた大きさの前進方向の値に調整される。なお、SLが「N位置」(ニュートラル領域)にあるか、「EVのシフト完了位置」にあるかの識別は、例えば、シフト位置センサP4の検出結果、並びに、S&Sシャフトの位置を検出するセンサの検出結果等に基づいて達成され得る。
【0036】
<2速>
図7、図8に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から「第1セレクト位置」に移動すると、上述のように、IL1はH1と係合可能な位置に移動する。この状態にて、SLが「第1セレクト位置」から「2速のシフト完了位置」に向けて移動すると、図8に示すように、IL1が図の下方に向けて移動し、IL1がヘッドH1の2速用ヘッドと係合する。その後、IL1が2速用ヘッド(従って、FS1)を図8の下方に向けて押圧する。
【0037】
ここで、図8に示すように、IL1と2速用ヘッドとが係合する場合、IL1の係合部(側面)及び2速用ヘッドの係合部(側面)にそれぞれ形成されたFS1の軸方向と垂直方向に延びる面同士が合わさるように係合する。この結果、上述したスラスト反力は発生しない。従って、IL1が図8の真下方向に移動するに伴って、FS1(従って、S1)が図8の下方に移動する。この結果、スリーブS1が「2速位置」に移動する。なお、スリーブS2は「中立位置」にある。
【0038】
この状態では、S1は、遊転ギヤG2oと係合し、遊転ギヤG2oを出力軸Aoに対して相対回転不能に固定している。また、遊転ギヤG2oは、入力軸Aiに固定された固定ギヤG2iと常時噛合している。この結果、図7に太い実線で示すように、M/Gと出力軸Aoとの間で動力伝達系統が確立されることに加えて、入力軸Aiと出力軸Aoとの間で、G2i及びG2oを介して「2速」に対応する動力伝達系統が確立される。即ち、「2速」が選択された場合、クラッチC/Tを介して伝達されるEGトルクと、MGトルクとの両方を利用して車両が走行する状態(即ち、上記「HV走行」)が実現される。
【0039】
<3速、4速>
図9〜図12に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から「3速のシフト完了位置」又は「4速のシフト完了位置」に移動する場合も、「2速」の場合と同様、IL1がH2を押圧・移動することによって、上記「HV走行」が実現される。即ち、「3速」、「4速」ではそれぞれ、M/Gと出力軸Aoとの間で動力伝達系統が確立されることに加えて、入力軸Aiと出力軸Aoとの間で、「G3i及びG3o」、「G4i及びG4o」を介して、「3速」、「4速」に対応する動力伝達系統が確立される。
【0040】
<5速>
図13、14に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から「第2セレクト位置」に移動すると、IL2は、図14の右方に向けて移動し、フォークシャフトFS1に固設されたヘッドH1の5速用ヘッドと2速用ヘッドの間に移動する。即ち、IL2はH1と係合可能な位置に移動する。なお、IL1と係合可能なシフトヘッドは存在しない。
【0041】
この状態にて、SLが「第2セレクト位置」から「5速のシフト完了位置」に向けて移動すると、図14に示すように、IL2が図の上方に向けて移動し、IL2がヘッドH1の5速用ヘッドと係合する。その後、IL2が5速用ヘッド(従って、FS1)を図14の上方に向けて押圧する。
【0042】
ここで、図14に示すように、IL2と5速用ヘッドとが係合する場合、IL2の係合部(側面)及び5速用ヘッドの係合部(側面)にそれぞれ形成されたFS1の軸方向と垂直方向に延びる面同士が合わさるように係合する。この結果、上述したスラスト反力は発生しない。従って、IL2が図14の真上方向に移動するに伴って、FS1(従って、S1)が図14の上方に移動する。この結果、スリーブS1が「5速位置」に移動する。なお、スリーブS2は「中立位置」にある。
【0043】
この結果、上記「HV走行」が実現される。即ち、図13に太い実線で示すように、M/Gと出力軸Aoとの間で動力伝達系統が確立されることに加えて、入力軸Aiと出力軸Aoとの間で、G5i及びG5oを介して「5速」に対応する動力伝達系統が確立される。
【0044】
<EV−R>
図15、図16に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から「第2セレクト位置」に移動すると、上述のように、IL2はH1と係合可能な位置に移動する。この状態にて、SLが「第2セレクト位置」から「EV−Rのシフト完了位置」に向けて移動すると、図16に示すように、IL2が図の下方に向けて移動し、IL2がヘッドH1の2速用ヘッドと係合する。その後、IL2が2速用ヘッド(従って、FS1)を図16の下方に向けて押圧しようとする(図16の「シフト荷重」を参照)。
【0045】
ここで、図16に示すように、IL2と2速用ヘッドとが係合する場合、IL2の係合部(側面)に形成されたFS1の軸方向から傾斜したテーパ面と、2速用ヘッドの係合部(側面)に形成された前記テーパ面と同じ方向に延びるテーパ面とが合わさるように係合する。この結果、IL2は2速用ヘッドから図16の左方向のスラスト反力を受ける。このスラスト反力の発生に起因して、IL2は、両テーパ面間の滑りを伴いながら、図16の真下方向ではなく斜め左下方向に移動する。これに伴い、2速用ヘッド(従って、FS1)は、図16の下方に移動することなく中立位置に維持される。換言すれば、前記両テーパ面の存在により、SLが「第2セレクト位置」から「EV−Rのシフト完了位置」に移動する際に「2速」が確立される事態の発生が防止される。
【0046】
このように、SLが「第2セレクト位置」から「EV−Rのシフト完了位置」に移動しても、FS1(従って、S1)が「中立位置」に維持される。なお、FS2(従って、S2)も「中立位置」に維持されている。従って、<N>及び<EV>の場合と同様、入力軸Aiと出力軸Aoとの間では動力伝達系統が確立されない。一方、この場合、図15に太い実線で示すように、M/Gと出力軸Aoとの間の動力伝達系統を利用して、後進方向のMGトルクが駆動輪に伝達される。
【0047】
即ち、「EV−R」が選択された場合、「EV走行」が実現される。即ち、この車両では、「EV−R」を選択することにより、EV走行による後方発進が可能である。MGトルクは、アクセル開度等に応じた大きさの前進方向の値に調整される。なお、SLが「N位置」(ニュートラル領域)にあるか、「EV−Rのシフト完了位置」にあるかの識別は、例えば、シフト位置センサP4の検出結果、並びに、S&Sシャフトの位置を検出するセンサの検出結果等に基づいて達成され得る。
【0048】
以上、本例では、「EV」、及び「EV−R」がEV走行用の変速段であり、「2速」〜「5速」がHV走行用の変速段である。EGトルクの伝達系統について、「Aoの回転速度に対するAiの回転速度の割合」を「MT減速比」と呼ぶものとすると、「2速」から「5速」に向けてMT減速比(GNoの歯数/GNiの歯数)(N:2〜5)が次第に小さくなっていく。
【0049】
なお、上記の例では、スリーブS1、S2の軸方向位置は、シフトレバーSLとスリーブS1、S2とを機械的に連結するリンク機構(S&Sシャフトとフォークシャフト)等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に調整されている。これに対し、スリーブS1、S2の軸方向位置が、シフト位置センサP4の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0050】
(E/Gの制御)
本装置によるE/Gの制御は、大略的に以下のようになされる。車両が停止しているとき、或いは、「N」、「EV」、又は「EV−R」が選択されているとき、E/Gが停止状態(燃料噴射がなされない状態)に維持される。E/Gの停止状態において、HV走行用の変速段(「2速」〜「5速」の何れか)が選択されたことに基づいて、E/Gが始動される(燃料噴射が開始される)。E/Gの稼働中(燃料噴射がなされている間)では、アクセル開度等に基づいてEGトルクが制御される。E/Gの稼働中において、「N」、「EV」、又は「EV−R」が選択されたこと、或いは、車両が停止したことに基づいて、E/Gが再び停止状態に維持される。
【0051】
(M/Gの制御)
本装置によるM/Gの制御は、大略的に以下のようになされる。車両が停止しているとき、或いは、「N」が選択されているとき、M/Gが停止状態(MGトルク=0)に維持される。「EV」又は「EV−R」が選択されたことに基づいて、MGトルクが、アクセル開度及びクラッチストローク等に基づいてEV走行用の値に調整される(EV走行用MGトルク制御)。他方、HV走行用の変速段(「2速」〜「5速」の何れか)が選択されたことに基づいて、MGトルクが、アクセル開度及びクラッチストローク等に基づいてHV走行用の値に調整される(HV走行用MGトルク制御)。EV走行用MGトルク制御とHV走行用MGトルク制御とでは、調整されるMGトルクの大きさが異なる。そして、「N」が選択されたこと、或いは、車両が停止したことに基づいて、M/Gが再び停止状態に維持される。
【0052】
(作用・効果)
上記のように、本発明の実施形態に係る手動変速機M/Tでは、EV走行を利用した前方発進のみならず、EV走行を利用した後方発進が可能となる。これに伴い、前進用の1速用のギヤ対(具体的には、常時噛合する1速用の固定ギヤ及び1速用の遊転ギヤの組み合わせ)のみならず、後進用のギヤ対(具体的には、後進用の固定ギヤ、後進用の遊転ギヤ、及びアイドルギヤ等の組み合わせ)が廃止されている(図1等を参照)。従って、前進用の1速用のギヤ対及び後進用のギヤ対の一方又は両方を有する変速機と比べて、変速機全体がよりコンパクトに構成され得る。
【0053】
また、上記実施形態では、H型のシフトパターン上において、前方発進用の「EVのシフト完了位置」が車両左右方向の最も左側に位置するシフトラインの前端部に配置され、且つ、後方発進用の「EV−Rのシフト完了位置」が車両左右方向の最も右側に位置するシフトラインの後端部に配置されている。従って、少なくとも前方発進用及び後方発進用の変速段のシフト完了位置が、手動変速機と摩擦クラッチとを備えた通常のMT車両(ハイブリッド車両ではない)における位置と一致する。従って、シフトレバーSLの操作の際、前記通常のMT車両に慣れ親しんだ運転者に違和感を与える恐れがない。
【0054】
加えて、通常は、H型のシフトパターンにおいて存在するシフトラインの本数と同数のフォークシャフトが必要となるのに対し、上記構成によれば、3本のシフトラインを備えるH型のシフトパターンが採用されているにもかかわらず、2本のフォークシャフトで変速機が構成されている(図2等を参照)。即ち、必要なフォークシャフトの本数を1本減らすことができ、変速機全体をより一層コンパクト化できる。
【0055】
以下、図17〜図20を参照しながら、上記実施形態において所謂「斜めシフト」が実行された場合について付言する。「斜めシフト」とは、SLがセレクト方向(車両左右方向)に押圧された状態を維持しながら開始・実行されるシフト操作を指す。
【0056】
図17、図18、及び図20から理解できるように、2速→3速、3速→2速、及び、5速→4速の「斜めシフト」の場合、「斜めシフト」の開始段階にて、インナレバーIL1が、セレクト方向において近接して存在する部材に接触する。具体的には、2速→3速の「斜めシフト」の場合にはIL1が4速用ヘッドの左側面に当接し(図17を参照)、3速→2速の「斜めシフト」の場合にはIL1が5速用ヘッドの右側面に当接し(図18を参照)、5速→4速の「斜めシフト」の場合にはIL1が3速用ヘッドの右側面に当接する(図20を参照)。
【0057】
換言すれば、「斜めシフト」の開始段階においてSLをセレクト方向において支持する部材が存在する。なお、図を用いた説明は省略するが、EV→4速、4速→EV、3速→EV−R、及びEV−R→3速の「斜めシフト」の場合も、上記と同様、「斜めシフト」の開始段階においてSLをセレクト方向において支持する部材が存在する。この結果、「斜めシフト」の開始段階においてSLがセレクト方向に大きく移動する事態の発生が防止され得る。
【0058】
これに対し、図19に示すように、4速→5速の「斜めシフト」の場合、「斜めシフト」の開始段階にて、インナレバーIL1,IL2のうちの何れに対してもセレクト方向において近接する部材が存在しない。換言すれば、「斜めシフト」の開始段階においてSLをセレクト方向において支持する部材が存在しない。この結果、「斜めシフト」の開始段階においてSLがセレクト方向(図19では右方向)に大きく移動する事態の発生が発生し得る。
【0059】
この問題に対処するためには、例えば、図21〜図22に示すように、インナレバーのセレクト方向の移動を規制するアームBを設ければよい。このアームBは、フォークシャフトFS1に軸方向に相対移動可能に設けられている。図21に示すように、アームBは、通常、スプリング荷重によってFS1に対する相対移動可能範囲内の図中の最も上側に位置している。この状態で、アームBの先端部は、「4速」が選択されている状態(即ち、4速→5速の「斜めシフト」の開始段階)において、インナレバーIL1に対してセレクト方向において近接する位置に存在する。
【0060】
従って、4速→5速の「斜めシフト」の開始段階において、IL1がアームBの先端部の右側面に当接する。この結果、4速→5速の「斜めシフト」の開始段階においてSLがセレクト方向に大きく移動する事態の発生(図19を参照)が防止され得る。
【0061】
また、図22に示すように、シフトレバーSLが「第2セレクト位置」から「EV−Rのシフト完了位置」に向けて移動する際、インナレバーIL1がアームBの先端部と当接し、IL1がBを図の下方に向けて押圧する。このとき、アームBがFS1に対してスプリング荷重に抗して図の下方に相対移動することによって、フォークシャフトFS1を中立位置に維持しながらアームBが図の下方に移動できる。従って、SLが「第2セレクト位置」から「EV−Rのシフト完了位置」に移動する際に「2速」が確立される事態の発生が防止される。
【0062】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、第1、第2インナレバーIL1、IL2がS&Sシャフトに固設されている。従って、シフトレバーSLが「第1セレクト位置」から「EVのシフト完了位置」に向けて操作される際、IL1が図6の斜め左上方向に移動するに伴い、実際には、SLも、図4において、「第1セレクト位置」から真上方向ではなく斜め左上方向に移動する。同様に、シフトレバーSLが「第2セレクト位置」から「EV−Rのシフト完了位置」に向けて操作される際、IL2が図16の斜め左下方向に移動するに伴い、実際には、SLも、図4において、「第2セレクト位置」から真下方向ではなく斜め左下方向に移動する。
【0063】
この問題に対処するためには、例えば、第1、第2インナレバーIL1、IL2がS&Sシャフトに対して、基準位置から、セレクト操作に応じた方向において上記のSLの進行方向のずれを吸収できる程度の範囲にて相対移動可能に配設されることが好ましい。この構造は、スプリング荷重等を用いた周知の構造の1つを用いて実現され得るので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0064】
また、上記実施形態では、3本のシフトラインを備えるH型のシフトパターンに対して2本のフォークシャフトで変速機が構成されているが(図2、図4等を参照)、図23、図24に示すように、2本のシフトラインを備えるH型のシフトパターンに対して1本のフォークシャフトで変速機が構成されてもよい。或いは、図25、図26に示すように、4本のシフトラインを備えるH型のシフトパターンに対して3本のフォークシャフトで変速機が構成されてもよい。上記の何れのパターンにおいても、H型のシフトパターンにおいて存在するシフトラインの本数より1本少ない本数のフォークシャフトで変速機が構成されているので、変速機全体をより一層コンパクト化できる。
【0065】
また、図4に示す3本のシフトラインを備えるH型のシフトパターンに対して3本のフォークシャフトで変速機が構成されてもよい。この場合、S$Sシャフトには単一のインナレバーが設けられ、第1セレクト位置から延びるシフトラインに対応するフォークシャフトには2速用ヘッドが設けられ、N位置から延びるシフトラインに対応するフォークシャフトには3速用ヘッド及び4速用ヘッドが設けられ、第2セレクト位置から延びるシフトラインに対応するフォークシャフトには5速用ヘッドが設けられる。SLが第1セレクト位置からEVのシフト完了位置に移動する場合、並びに、SLが第2セレクト位置からEV−Rのシフト完了位置に移動する場合、インナレバーと係合するヘッドが存在しない。
【0066】
また、上記実施形態では、スリーブS1、S2が共に入力軸Aiに設けられているが、スリーブS1、S2が共に出力軸Aoに設けられていてもよい。また、スリーブS1、S2のうちの一方が出力軸Aoに他方が入力軸Aiに設けられていてもよい。また、Ai及びAoに配設された複数のギヤ対の軸方向における並び順が異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、Ae…エンジンの出力軸、Ai…変速機の入力軸、Ao…変速機の出力軸、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、BP…ブレーキペダル、P1…クラッチ操作量センサ、P2…ブレーキ操作量センサ、P3…アクセル操作量センサ、P4…シフト位置センサ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関(E/G)と電動機(M/G)とを備えた車両に適用される、トルクコンバータを備えない手動変速機(M/T)であって、
前記内燃機関から動力が入力される入力軸(Ai)と、
前記電動機から動力が入力されるとともに前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸(Ao)と、
運転者により操作されるシフト操作部材(SL)をシフトパターン上において前記内燃機関及び前記電動機の両方の駆動力を利用し得る状態で走行するための複数のハイブリッド走行用変速段(2速〜5速)に対応するそれぞれのハイブリッド走行シフト完了位置に移動することによって、前記入力軸と前記出力軸との間で、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である変速機減速比が対応するハイブリッド走行用変速段に対応するそれぞれの値に設定される動力伝達系統を確立し、前記シフト操作部材を前記シフトパターン上において前記内燃機関及び前記電動機の駆動力のうち前記電動機の駆動力のみを利用して走行するための複数の電動機走行用変速段(EV、EV−R)に対応するそれぞれの電動機走行シフト完了位置に移動することによって、前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統を確立しない変速機変速機構(M)と、
を備え、
前記変速機変速機構は、
前記複数の電動機走行用変速段として、前進用の1つの前記電動機走行用変速段と、後進用の1つの前記電動機走行用変速段とを含み、
前記シフトパターンは、
前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統が確立されていないニュートラル状態において前記シフト操作部材の前記車両の左右方向の操作であるセレクト操作によって前記シフト操作部材が前記車両の左右方向に移動する径路である、前記車両の左右方向に延びる単一のセレクトラインと、
それぞれが前記セレクトライン上にある複数のセレクト位置のうちの対応するセレクト位置から前記シフト操作部材の前記車両の前後方向の操作であるシフト操作によって前記シフト操作部材が前記車両の前後方向に移動する径路である複数のシフトラインであって、それぞれが前記対応するセレクト位置から前記車両の前後方向の一方又は両方に延びるとともにそれぞれの端部に対応するシフト完了位置がそれぞれ配置された複数のシフトラインと、
を備え、
前記前進用の電動機走行用変速段(EV)に対応するセレクト位置は前記複数のセレクト位置のうち車両の最も左側に位置する第1セレクト位置であり、前記複数のシフトラインのうち前記第1セレクト位置から前記車両の前後方向に延びる第1シフトラインの前端部に前記前進用の電動機走行用変速段のシフト完了位置が配置され、
前記後進用の電動機走行用変速段(EV−R)に対応するセレクト位置は前記複数のセレクト位置のうち車両の最も右側に位置する第2セレクト位置であり、前記複数のシフトラインのうち前記第2セレクト位置から前記車両の前後方向に延びる第2シフトラインの後端部に前記後進用の電動機走行用変速段のシフト完了位置が配置された、手動変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の手動変速機において、
前記複数のハイブリッド走行用変速段(2速〜5速)のうちの第1変速段(2速)に対応するセレクト位置は前記第1セレクト位置であり、前記第1シフトラインの後端部に前記第1変速段のシフト完了位置が配置され、
前記複数のハイブリッド走行用変速段(2速〜5速)のうちの第2変速段(5速)に対応するセレクト位置は前記第2セレクト位置であり、前記第2シフトラインの前端部に前記第2変速段のシフト完了位置が配置され、
前記変速機変速機構は、
それぞれが前記入力軸(Ai)又は前記出力軸(Ao)に相対回転不能に設けられた複数の固定ギヤであってそれぞれが前記複数のハイブリッド走行用変速段のそれぞれに対応する複数の固定ギヤ(G2i、G3i、G4i、G5i)と、
それぞれが前記入力軸又は前記出力軸に相対回転可能に設けられた複数の遊転ギヤであってそれぞれが前記複数のハイブリッド走行用変速段のそれぞれに対応するとともに対応するハイブリッド走行用変速段の前記固定ギヤと常時歯合する複数の遊転ギヤ(G2o、G3o、G4o、G5o)と、
それぞれが前記入力軸及び前記出力軸のうち対応する軸に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられた複数のスリーブであってそれぞれが前記複数の遊転ギヤのうち対応する遊転ギヤを前記対応する軸に対して相対回転不能に固定するために前記対応する遊転ギヤと係合可能な複数のスリーブ(S1、S2)と、
それぞれが前記複数のスリーブのそれぞれと連結され且つ軸方向に移動可能な複数のフォークシャフト(FS1、FS2)と、
前記シフト操作部材の前記セレクト操作によって軸方向に移動し又は軸周りに回動し且つ前記シフト操作部材の前記シフト操作によって軸周りに回動し又は軸方向に移動するシフトアンドセレクトシャフトであって、その側面から突出する第1インナレバー(IL1)及び第2インナレバー(IL2)を備えたシフトアンドセレクトシャフトと、
を備え、
前記シフト操作部材の前記セレクト操作によって前記第1及び第2インナレバー(IL1、IL2)のうち対応するインナレバーが前記複数のフォークシャフトのうち対応するフォークシャフトの側面に形成された対応するシフトヘッド(H1,H2)と係合可能な位置に移動し、前記シフト操作部材の前記シフト操作によって前記対応するインナレバーが移動するに伴い、前記対応するインナレバーと前記対応するシフトヘッド(H1,H2)との係合により前記対応するフォークシャフトがその中立位置から軸方向に移動することによって対応する変速段が達成されるように構成され、
前記セレクト操作によって前記シフト操作部材が前記第1セレクト位置にあるとき、前記第1インナレバー(IL1)が前記複数のフォークシャフトのうち第1フォークシャフト(FS1)のシフトヘッドと係合可能な位置に移動し、
前記セレクト操作によって前記シフト操作部材が前記第2セレクト位置にあるとき、前記第2インナレバー(IL2)が前記第1フォークシャフト(FS1)のシフトヘッドと係合可能な位置に移動し、
前記変速機変速機構は、
前記シフト操作部材の前記第1セレクト位置から前記第1変速段(2速)のシフト完了位置への前記シフト操作の際には前記第1インナレバー(IL1)が第1軸方向に移動するに伴って前記第1インナレバーと前記第1フォークシャフトのシフトヘッドとの係合により前記第1フォークシャフトがその中立位置から前記第1軸方向に移動することによって前記第1変速段が達成される一方で、前記シフト操作部材の前記第1セレクト位置から前記前進用の電動機走行用変速段(EV)のシフト完了位置への前記シフト操作の際には前記第1インナレバー(IL1)が前記第1軸方向と反対の前記第2軸方向に移動しても前記第1フォークシャフトが前記中立位置に維持されるように構成され、
前記シフト操作部材の前記第2セレクト位置から前記第2変速段(5速)のシフト完了位置への前記シフト操作の際には前記第2インナレバー(IL2)が前記第2軸方向に移動するに伴って前記第2インナレバーと前記第1フォークシャフトのシフトヘッドとの係合により前記第1フォークシャフトがその中立位置から前記第2軸方向に移動することによって前記第2変速段が達成される一方で、前記シフト操作部材の前記第2セレクト位置から前記後進用の電動機走行用変速段(EV−R)のシフト完了位置への前記シフト操作の際には前記第2インナレバー(IL2)が前記第1軸方向に移動しても前記第1フォークシャフトが前記中立位置に維持されるように構成された、手動変速機。
【請求項3】
請求項2に記載の手動変速機において、
前記変速機変速機構は、
前記シフト操作部材の前記第1セレクト位置から前記前進用の電動機走行用変速段(EV)のシフト完了位置への前記シフト操作の際、前記第1インナレバーの係合部及び前記第1フォークシャフトのシフトヘッドの係合部にそれぞれ形成された前記第2軸方向から傾斜し且つ同じ方向に延びるテーパ面同士が合わさるように係合するよう構成され、
前記シフト操作部材の前記第2セレクト位置から前記後進用の電動機走行用変速段(EV−R)のシフト完了位置への前記シフト操作の際、前記第2インナレバーの係合部及び前記第1フォークシャフトのシフトヘッドの係合部にそれぞれ形成された前記第1軸方向から傾いた同じ方向に延びるテーパ面同士が合わさるように係合するよう構成された、手動変速機。
【請求項4】
請求項3に記載の手動変速機において、
前記変速機変速機構は、
前記シフト操作部材が前記シフト完了位置にある状態において、前記第1インナレバー又は前記第2インナレバーの前記第1、第2軸方向と垂直な方向への移動を規制する規制部材(B)を備えた、手動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−18425(P2013−18425A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154817(P2011−154817)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】