説明

振動片、振動子、発振器、および電子機器

【課題】振動アームの反りを抑制した振動片、それを用いた振動子および発振器、あるいはそれを用いた電子機器を提供する。
【解決手段】振動片1は、Zカット水晶板を加工して形成された基部16と、基部16の一端側から平行に延出する三本の振動アーム18a,18b,18cとを有している。各振動アーム18a,18b,18cの第1表面12には、第1電極層20、第1圧電体層22、および第2電極層26が、この順に積層された励振電極としての第1の積層体が形成されている。また、振動アーム18a,18b,18cの第2表面10上には、電気的に独立した金属層5と、第2圧電体層7とが、この順に積層された第2の積層体が設けられている。第1電極層20には、例えば、Pt、Ti、あるいはTi−Au合金などを用いることができる。また、金属層5には、例えば、Al、Cr、あるいはNiなどを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動片、および、それを用いた振動子およびそれを用いた発振器、あるいはそれを用いた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、屈曲振動モードで振動する屈曲振動片として、例えば圧電材料などの振動体用の基材からなる基部から一対の振動アームを互いに平行に延出させて、それらの振動アームの主面に沿った水平方向に互いに接近または離反する向きに振動させる音叉型の振動片が広く使用されている。また、そのような音叉型の振動片において、振動アームの主面に対して直交する方向に振動アームを屈曲振動させるタイプのものも紹介されている(例えば特許文献1を参照)。これらの振動片の振動アームを励振して屈曲振動させたとき、その振動エネルギーに損失が生じると、CI(Crystal Impedance)値の増大やQ値の低下など、振動片の性能を低下させる原因となる。そこで、そのような振動エネルギーの損失を防止または低減するために、従来から様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、矩形断面を有する振動アームの延出方向の中心線上に溝部が形成された音叉型の振動片(圧電振動片)が特許文献2に紹介されている。特許文献2に記載の振動片は、基部と、その基部の一端部から二股に分かれて平行に延びる一対の振動アームを備えている。振動アームの表面(第1表面)および裏面(第2表面)には、振動アームの延出方向に延びる細長い溝部が設けられている。そして、その溝部の表面には、振動片の励振電極としての電極層(金属膜)が形成されている。このように、振動アームに溝を形成することにより、振動アームが振動しやすくなって振動効率が向上してCI値の増大を抑えることができる。
【0004】
近年、携帯電話、モバイルコンピューター、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯情報端末、あるいはGPS(Global Positioning System)などの小型の通信機器など電子機器においては、小型・薄型化の要望がますます高まっている。これに伴って、それらの電子機器に使用される、振動片を用いた振動子や発振器の小型・薄型化の要求が高まっている。このように、振動片の小型・薄型化を進めるうえで、特許文献1に記載の振動片のように、振動アームに溝部を形成すると剛性が低下し、振動片の製造工程においてハンドリングなどにより変形や破損が発生する可能性が増大する虞がある。
【0005】
発明者は、振動アームに溝部を設けないタイプの振動片において、振動アームの薄型化を図って振動効率を向上させることにより、振動エネルギーの損失を低減させるとともに、その振動アームよりも基部の厚みを厚くすることにより、振動片の剛性を保持することが可能なことを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−197946号公報
【特許文献2】特開2009−60478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、振動アームよりも厚い基部を有する振動片において、振動アームの第1表面に、第1電極層、圧電体層、および第2電極層をこの順に積層させた積層体からなる駆動電極を設けた場合に、主に圧電体層の配向性に起因する応力の影響により、振動アームが基部に対して、第1表面の裏面である第2表面側に反ってしまい、フォトプロセスで露光が困難になり電極配線に断線が生じ易くなり、電気抵抗などの特性が劣化して振動特性が不安定になる虞があるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
〔適用例1〕本適用例にかかる振動片は、基部と、前記基部の一端部から延出された振動アームと、前記振動アームの第1表面に形成された駆動電極と、を有し、前記駆動電極は、前記第1表面に形成された第1電極層と、前記第1電極層上に設けられた第1圧電体層と、前記第1圧電体層を挟んで前記第1電極層に対向して設けられた第2電極層と、を含む第1の積層体であり、前記第1表面と表裏関係にある第2表面に、電気的に独立した金属層と、前記金属層上に設けられた第2圧電体層と、を含む第2の積層体が形成されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、振動片の駆動電極を形成する第1の積層体だけが設けられた場合に、第1の積層体によって作用する応力により発生する振動アームの反りを、振動アームの第2表面に設けた第2の積層体によって作用する応力により改善することができる。特に、振動片の小型・薄型化に伴って顕著化する振動アームの反りに対して効果を奏するので、振動片の小型・薄型化に有利となる。
【0011】
〔適用例2〕上記適用例にかかる振動片において、前記第1電極層と前記金属層との金属組成が異なることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1電極上に形成する第1圧電体層の配向と、金属層上に形成される第2圧電体層の配向とを変えることができるので、例えば、第2圧電体層の配向性を制御することによって振動アームの反り量を軽減することが可能である。
【0013】
〔適用例3〕上記適用例にかかる振動片において、前記第1電極層と前記金属層との少なくとも一方が積層構造を有し、前記第1電極層と前記金属層との層構成が異なることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第1圧電体層の配向と第2圧電体層の配向とを変えることができるので、第2圧電体層の配向性を制御して振動アームの反り量を軽減することが可能になる。
【0015】
〔適用例4〕上記適用例にかかる振動片において、前記基部と前記振動アームとが、圧電体材料を用いて形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、従来より振動片の材料として広く用いられている圧電体材料を用いることにより、周知の原理やノウハウを加味して圧電効果を利用した、高性能な圧電振動片を提供することができる。
【0017】
〔適用例5〕上記適用例にかかる振動片において、前記圧電体材料として水晶が用いられていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、水晶を用いることにより、振動片の小型化に伴う温度特性(周波数特性などの温度依存性)の低下を抑制することができる。
【0019】
〔適用例6〕本適用例にかかる振動片は、基部と、前記基部の一端部から延出された振動アームと、前記振動アームの第1表面に形成された駆動電極と、を有し、前記駆動電極は、前記第1表面に形成された第1電極層と、前記第1電極層上に設けられた第1圧電体層と、前記第1圧電体層を挟んで前記第1電極層に対向して設けられた第2電極層と、を含む積層体であり、前記第1表面の裏面である第2表面に第2圧電体層が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、上記適用例と同様に、振動アームの第2表面に設けた第2圧電体層によって作用する応力により振動アームの反りを改善することができる。また、第2圧電体層の下層には何も設けないので、上記適用例よりも振動片の製造工程が少なくて済むという効果を奏する。
【0021】
〔適用例7〕本適用例にかかる振動子は、上記適用例にかかる振動片と、該振動片を収容するパッケージと、を有することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、上記適用例に示す振動アームの反りが軽減された振動片を備えているので、安定した振動特性を有する小型の振動子を提供することができる。
【0023】
〔適用例8〕本適用例にかかる発振器は、振動片と、前記振動片を発振させる発振回路を含む回路素子と、前記振動片および前記回路素子を収容するパッケージと、を含むことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、上記適用例に示す振動アームの反りが抑制された振動片を備えているので、小型で、安定した発振特性を有する小型の発振器を提供することができる。
【0025】
〔適用例9〕本適用例にかかる電子機器は、上記適用例にかかる振動子、または、上記適用例にかかる発振器を搭載していることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、上記適用例にかかる安定した振動特性を備えた振動子、または、上記適用例にかかる安定した発振特性を備えた発振器が搭載されているので、小型で、優れた特性を備えた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は、振動片の一実施形態を上側(第1面側)からみて説明する概略平面図、(b)は、底側(第2面側)からみて説明する概略平面図、(c)は、(a),(b)のA−A´線断面図。
【図2】(a)〜(c)は、振動片の電極形成の過程を示す概略平面図。
【図3】(a)は、本発明の振動片を用いた振動子の一実施形態を説明する概略平面図、(b)は、(a)のB−B´線断面図。
【図4】(a)は、本発明の振動片を用いた発振器の一実施形態を説明する概略平面図、(b)は、(a)のC−C´線断面図。
【図5】振動片の変形例1の一つのバリエーションを説明する概略断面図。
【図6】振動片の変形例1の別のバリエーションを説明する概略断面図。
【図7】振動片の変形例2を説明する概略断面図。
【図8】(a)は、本発明の振動子や発振器を搭載した電子機器としての携帯電話を示す図、(b)は、同じく電子機器としてのモバイルコンピューターを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の振動片の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
図1は、振動片の一実施形態を説明するものであり、(a)は上側(第1面側)からみた概略平面図、(b)は裏側(第2面側)からみた概略平面図、(c)は(a),(b)のA−A´線断面図である。また、図2(a)〜(c)は、振動片の電極形成の過程を説明する概略平面図である。
【0030】
〔振動片〕
図1において、本実施形態の振動片1は、振動片形成材料を加工することにより形成された基部16と、この基部16の一端側(図において上端側)から平行に延出する三本の振動アーム18a,18b,18cとを有して形成されている。
振動片1の形成材料としては、例えば圧電体材料を用いることができる。本実施形態では従来より圧電振動片形成材料として広く用いられる水晶の単結晶から切り出されたものを使用する。例えば、所謂Zカットの水晶薄板から、水晶結晶軸のY軸を振動アーム18a,18b,18cの延出方向に、X軸をその延出方向と直交する幅方向に、Z軸を振動片の表裏主面としての第1表面12および第2表面10の垂直方向にそれぞれ配向して形成される。
【0031】
平面視で略矩形の基部16は、図1(c)に示すように、振動アーム18a,18b,18cよりも厚い厚みを有している。詳述すると、基部16と振動アーム18a,18b,18cとの第1表面12は同一平面であり、振動片1の第2表面10側は、基部16で厚く、振動アーム18a,18b,18cで薄く形成されている。このように、振動片1の振動部である振動アーム18a,18b,18cよりも基部16を厚くすることによって剛性を持たせることにより、小型・薄型化が図られた振動片1の製造過程で、ハンドリング中に破損するなどの不具合を回避することができる。
【0032】
このような振動片1の外形は、例えば、フォトリソグラフィーを用いて、水晶基板材料(水晶ウェハー)をフッ酸溶液などでウェットエッチングしたり、ドライエッチングしたりすることにより精密に形成することができる。
なお、本実施形態の振動片1において、基部16と各振動アーム18a,18b,18cとの接続部にかけての第2表面10には傾斜面14が形成されている。この傾斜面14は、Zカット水晶薄板をウェットエッチングして振動片1の外形を形成した場合に、Zカット水晶のエッチング異方性によって形成されるものであり、例えば、Xカット水晶などを用いた場合には、基部16と各振動アーム18a,18b,18cとの接続部にかけての第2表面10には略垂直な側壁が形成される。
【0033】
なお、振動片形成材料として、上記の水晶以外の圧電体材料を用いることができる。例えば、窒化アルミニウム(AlN)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、四ほう酸リチウム(Li247)などの酸化物基板や、ガラス基板上に窒化アルミニウム、五酸化タンタル(Ta25)などの薄膜圧電材料を積層させて構成された圧電基板を用いることができる。
また、圧電体材料以外にも、例えばシリコン半導体材料などにより振動片を形成することもできる。
ただし、屈曲振動片の共振周波数は屈曲振動体材料のヤング率を質量密度で除した値の平方根に比例し、ヤング率を質量密度で除した値が小さい材料ほど、屈曲振動モードの振動片の小型化に有利である。よって、本実施形態の振動片1のように水晶からなる屈曲振動片は、シリコン半導体材料などに比してヤング率を質量密度で除した値の平方根が小さくできるので小型化に有利であるとともに、周波数温度特性に優れているので、振動片1に用いる材料として特に好ましい。
【0034】
各振動アーム18a,18b,18cの第1表面12には励振電極が形成されている。本実施形態の振動片1の励振電極は、第1電極層20と、第1圧電体層22と、第2電極層26とが、この順に積層された第1の積層体からなる(各電極層および圧電体層の詳細については後述する)。
また、各振動アームに形成された励振電極は基部16に引き出され、基部16に設けられた外部との接続に供する外部接続電極26a,26bに接続されている。本実施形態では、3本の振動アームのうち両端の振動アーム18a,18c上に形成され基部16に引き出された第1電極層20、および、中央の振動アーム18b上に形成され基部16に引き出された第1電極層20と、基部16上の第1圧電体層22に形成された2つの開口部24(外部接続電極26a,26bのそれぞれに対応)により導通接続された第2電極層26により、外部接続電極26a,26bが形成されている。
【0035】
ここで、振動アーム18a,18b,18cの第1表面12に形成された振動片1の励振電極としての第1の積層体の構造をわかりやすくするために、第1の積層体を構成する電極層および圧電体層形成の過程について説明する。
図2(a)に示すように、まず、振動アーム18a,18b,18cの第1表面12に第1電極層20を形成する。本実施形態では、第1電極層20は、振動アーム18a,18b,18cの基部16との付け根から先端側に向けて、各振動アーム18a,18b,18cの延出方向の長さの約2分の1まで形成するとともに、後で基部16上に形成する外部接続電極26a,26bと電気的な接続を図るために基部16上に引き出され引き回し配線を形成している。
【0036】
次に図2(b)に示すように、第1電極層20および基部16の一部を覆うように第1圧電体層22を形成すると共に、その第1圧電体層22に、第1電極層20と後で形成する第2電極層26とを導通接続するための開口部24を形成する。
【0037】
次に、図2(c)に示すように、第1圧電体層22上に第2電極層26を形成する。この工程で、振動アーム18a,18cの第1電極層20と振動アーム18bの第2電極層26とが第1圧電体層22の一方の開口部24を介して接続され、振動アーム18a,18cの第2電極層26と振動アーム18bの第1電極層20とが第1圧電体層22の他方の開口部24を介して接続され、それぞれが第2電極層26から基部16上に引き出されて設けられた対応する外部接続電極26a,26bに接続される。
以上の工程を経て、振動片1に、第1電極層20、第1圧電体層22、および第2電極層26が積層されてなる励振電極としての第1の積層体が形成される。
【0038】
以上説明した工程を経て第1の積層体が形成された振動アーム18a,18b,18cの第1表面12と表裏関係にある第2表面10上には、図1(c)に示すように、金属層5と、第2圧電体層7とが、この順に積層された第2の積層体が設けられている。本実施形態では、第2の積層体は、振動アーム18a,18b,18cにおいて第1の積層体と平面視で重なる領域に設けられている。なお、第2の積層体において、金属層5は、振動片1に形成される電気回路には接続されず、電気的に独立している。
【0039】
〔各電極層、金属層、および圧電体層の形成用材料〕
ここで、本実施形態の振動片1の各電極層や金属層、あるいは圧電体層の形成用材料について説明する。
まず、振動片1の振動アーム18a,18b,18cの第1表面12に形成される第1の積層体の第1圧電体層22、および、第2表面10に形成される第2の積層体の第2圧電体層7は、AlN(窒化アルミニウム)やZnO(酸化亜鉛)などの圧電体材料を用いて形成される。
【0040】
第1圧電体層22の下地層として振動片1の第1表面12上に形成される第1電極層20には、例えば、Pt(白金)やTi(チタン)、あるいはTi−Au(チタン−金)合金などを用いることができる。このような金属あるいは合金により第1電極層20を設けることにより、その第1電極層20上に積層される第1圧電体層22の配向性を向上させることができる。
また、第1圧電体層22上に積層される第2電極層26に用いる材料としては、第1電極層20に用いたPt、Ti、あるいはTi−Au合金などを用いてもよく、また、その他の電極形成用金属、例えば、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、あるいはNi(ニッケル)や、合金などを用いることができる。
【0041】
一方、第2圧電体層7の下地層として振動片1の第2表面10上に形成される金属層5には、例えば、Al、Cr、あるいはNiなどを用いることができる。これらのような金属材料を用いて金属層5を形成することにより、その金属層5上に積層される第2圧電体層7の配向性が、上記第1圧電体層22の配向性よりも下がる。
このように、第1表面12側の第1圧電体層22の下地層である第1電極層20の形成用材料と、第2表面10側の第2圧電体層7の下地層である金属層5の形成材料とを異なる金属材料を用いて形成することによって、それらの上に積層させる第1圧電体層22と第2圧電体層7との配向性を変えることにより、各振動アーム18a,18b,18cの第2表面10に第2の積層体が形成されない従来構造の振動片に比して、振動アーム18a,18b,18cに発生する反りを抑制することができる。このように、振動アーム18a,18b,18cの反りを抑制することにより、安定した振動特性を有する振動片1を提供することができる。
【0042】
なお、第1圧電体層22と第2圧電体層7とを、同じ圧電体材料により形成する場合には、図2(b)で説明した第1圧電体層22を形成するステップで、第2圧電体層7を同時に形成することができる。
また、振動アーム18a,18b,18cの第2表面10に形成する金属層5に用いる金属材料が、第1表面12に形成する第1電極層20に用いる材料と同一である場合には、図2(a)で説明した第1電極層20を形成するステップで、金属層5を同時に形成することができる。
このように、振動アーム18a,18b,18cの第1表面12と第2表面10とにそれぞれ形成する電極層や金属層、あるいは圧電体層は、用いる材料の組み合わせを考えることにより、少ない製造工程で効率よく形成することができる。
【0043】
(第2の実施形態)
〔振動子〕
次に、上記の振動片1を用いた振動子について説明する。
図3は、上記の振動片1を用いた振動子の一実施形態を説明するものであり、(a)は上側からみた概略平面図、(b)は(a)のB−B´線断面図である。なお、図3(a)では、振動子の内部の構造を説明する便宜上、振動子500の上方に設けられるリッド91(図3(b)を参照)を取り外した状態を図示している。
【0044】
図3において、振動子500は、段差を有する凹部が設けられたパッケージ70を有している。パッケージ70の凹部の凹底部分には、振動片1が接合され、パッケージ70の開放された上端には蓋体としてのリッド91が接合されている。
【0045】
パッケージ70は、平板状の第1層基板71上に、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板72および第3層基板73がこの順に積層されて構成されることにより、上面側に開口部を有し内部に段差が設けられた凹部が形成されている。パッケージ70の材質としては、例えば、セラミック、ガラスなどを用いることができる。
【0046】
パッケージ70の凹部において、第2層基板72により形成される段差上には、振動片1が接合される複数の振動片接続端子76が設けられている。また、パッケージ70の外底面となる第1層基板71の凹部側の面とは反対側の面には、外部基板などとの接合に供する外部実装端子75が設けられている。このようにパッケージ70に設けられた各種端子は、対応する端子どうしが図示しない引き回し配線やスルーホールなどの層内配線により接続されている。
【0047】
パッケージ70の凹部には、振動片1が接合されている。本実施形態では、振動片1の基部16の外部接続電極26a,26bが形成された面の反対側の面が、パッケージ70の第2層基板72により形成された段差上に設けられた振動片接続端子76の近傍に接着剤などの接合部材99を介して接合・固定されているとともに、振動片1の外部接続電極26a,26bと、パッケージ70の対応する振動片接続端子76とがボンディングワイヤー95により電気的に接続されている。これにより、振動片1が、パッケージ70内において、凹部の凹底部分となる第1層基板71との間に隙間を空けながら、振動アーム18a,18b,18cを自由端として片持ち支持された態様で固定される。
【0048】
図3(b)に示すように、振動片1が凹部内に接合されたパッケージ70の上端には、蓋体としてのリッド91が配置され、パッケージ70の開口を封鎖している。リッド91の材質としては、例えば、42アロイ(鉄にニッケルが42%含有された合金)やコバール(鉄、ニッケルおよびコバルトの合金)などの金属、セラミックス、あるいはガラスなどを用いることができる。金属からなるリッド91を用いる場合には、例えば、コバール合金などを矩形環状に型抜きして形成されたシールリング79を介してシーム溶接することによりパッケージ70と接合することができる。リッド91を接合することによりパッケージ70内に形成される内部空間は、振動片1が動作するための空間となる。また、この内部空間は、減圧空間または不活性ガス雰囲気に密閉・封止することができる。
【0049】
上記構成の振動子500によれば、上記したように第2の積層体により振動アーム18a,18b,18cの反りが抑制された振動片1を備えているので、安定した振動特性を備えた小型の振動子500を提供することができる。
【0050】
(第3の実施形態)
〔発振器〕
次に、上記の振動片1を用いた発振器について説明する。
図4は、上記の振動片1を搭載する発振器の一実施形態を説明するものであり、(a)は上側からみた概略平面図、(b)は(a)のC−C´線断面図である。なお、図4(a)では、発振器の内部の構造を説明する便宜上、発振器600の上方に設けられるリッド92を取り外した状態を図示している。
【0051】
図4において、発振器600は、段差を有する凹部が設けられたパッケージ80を有している。パッケージ80の凹部の凹底部分には、回路素子としてのICチップ60と、ICチップ60の上方に配置された振動片1とが接合され、パッケージ80の開口部を有する上端には蓋体としてのリッド92が接合されている。
【0052】
パッケージ80は、平板状の第1層基板81上に、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板82、第3層基板83、および第4層基板84がこの順に積層されて構成されることにより、上面側に開口部を有し内部に段差が設けられた凹部が形成されている。
パッケージ80の凹部の凹底部分となる第1層基板81上には、ICチップ60が配置されるダイパッド86が設けられている。また、パッケージ80の外底面となる第1層基板81のダイパッド86が設けられた面の反対側の面には、外部基板などとの接合に供する外部実装端子85が設けられている。
また、パッケージ80の凹部において、第2層基板82により形成される段差上には、ICチップ60との電気的な接続に供する複数のIC接続端子87が設けられている。また、第3層基板83により形成される段差上には、振動片1が接合される複数の振動片接続端子88が設けられている。このように、パッケージ80に設けられた上記の各種端子は、対応する端子どうしが、図示しない引き回し配線やスルーホールなどの層内配線により接続されている。
【0053】
ICチップ60は、振動片1を発振させる発振回路や、温度補償回路などを含む半導体回路素子である。ICチップ60は、パッケージ80の凹部の凹底部分に設けられたダイパッド86上に、例えばろう材98によって接着・固定されている。また、ICチップ60とパッケージ80とは、本実施形態では、ワイヤーボンディング法を用いて電気的に接続されている。具体的には、ICチップ60に設けられた複数の電極パッド35と、パッケージ80の対応するIC接続端子87とが、ボンディングワイヤー95により接続されている。
【0054】
また、パッケージ80の凹部において、ICチップ60の上方には、振動片1が接合されている。具体的には、振動片1の基部16が、パッケージ80の第3層基板83により形成された段差上に設けられた振動片接続端子88の近傍に接着剤などの接合部材99を介して接合・固定されているとともに、振動片1の外部接続電極26a,26bと、パッケージ80の対応する振動片接続端子88とがボンディングワイヤー95により電気的に接続されている。これにより、振動片1が、パッケージ80内において、下方に接合されたICチップ60との間に隙間を空けながら、振動アーム18a,18b,18cを自由端として片持ち支持された態様で固定される。
【0055】
図4(b)に示すように、ICチップ60および振動片1が凹部内に接合されたパッケージ80の上端にはリッド92が配置され、例えば、シールリング89を介してシーム溶接することによりパッケージ80と接合されている。パッケージ80内において振動片1が動作するための空間となる内部空間は、減圧空間または不活性ガス雰囲気に密閉・封止することができる。
【0056】
上記構成の発振器600によれば、第2の積層体が設けられていることにより振動アーム18a,18b,18cの反りの抑制が図られた振動片1を搭載しているので、小型で、安定した発振特性を有する発振器600を提供することができる。
【0057】
(第4の実施形態)
〔電子機器〕
上記第1の実施形態の振動片1を備えた上記第2の実施形態の振動子500、または、上記第3の実施形態の発振器600を搭載した電子機器は、小型化および高性能化を図ることが可能である。
例えば、図8(a)に示す電子機器としての携帯電話200や、図8(b)に示す電子機器としてのモバイルコンピューター300の信号源として、振動アーム18a,18b,18cの反りの軽減が図られた小型の振動片1を備えた振動子500、または発振器600を搭載することにより、携帯電話200やモバイルコンピューター300の小型化、および高機能化を図ることができる。
また、これらの携帯電話200やモバイルコンピューター300に限らず、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯情報端末、あるいはGPS(Global Positioning System)として広く知られる汎地球測位システムなどの小型の通信機器などにおいては、近年、小型・薄型化の要望がますます高まっていることから、小型で、安定した振動特性を備えた振動片、および、それを用いた振動子500や発振器600は、それらを搭載する電子機器の小型化に対応できるとともに、安定した特性を具備することが可能になる。
【0058】
上記実施形態で説明した振動片としての振動片は、以下の変形例として実施することも可能である。
【0059】
(変形例1)
上記実施形態では、各振動アーム18a,18b,18cにおいて、第2表面10に形成する金属層5や、第1表面12に形成する第1電極層20として、単層の第1電極層20や金属層5を形成する構成を説明した。これに限らず、第1金属層や金属層を多層構造にしてもよい。
図5および図6は、金属層や第1電極層を多層構造とした振動片の変形例のバリエーションの各々を模式的に説明するものであり、いずれも、上記実施形態の振動片1の図1(c)と同じ断面を示す断面図である。なお、図5および図6に示す振動片の変形例1の説明において、上記実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0060】
まず、変形例1の振動片の一つ目のバリエーションについて説明する。
図5に示す振動片101の振動アーム108において、第1表面12に形成された第1の積層体は、上記実施形態と同じく、単層の第1電極層20、第1圧電体層22、および第2電極層26が、この順に積層されて構成されている。
一方、振動アーム108の第2表面10に形成された第2の積層体は、金属層と第2圧電体層107とがこの順に積層された構造において、金属層が、第2表面10上に形成された下地層105と、その下地層105上に積層された上側層106との2層構造を有している。
【0061】
下地層105と上側層106との組み合わせとしては、上側層106に金属を用いて下地層105には絶縁層を形成する組み合わせや、下地層105に金属を用いて上側層106に絶縁層を形成する組み合わせ、あるいは、上側層106および下地層105の双方に金属を用いる組み合わせのいずれかを選択することができる。
第2圧電体層107の配向性を上げる場合には、下地層105としてSiO2(二酸化珪素)層を形成し、上側層106として、例えばTi(チタン)層を形成した構成とすることができる。
また、第2圧電体層107の配向性を下げる場合には、下地層105として(二酸化珪素)層を形成し、上側層106としてSiO2層を形成した構成とすることができる。
このように、下地層105および上側層106の組み合わせを適宜選定して第2圧電体層107の配向を調整することによって、振動アーム108の第1表面12側の第1圧電体膜22の配向と異ならせることにより、振動片101の振動アーム108の反りを軽減することができる。
【0062】
また、図6に示す本変形例1の別のバリエーションの振動片111では、振動アーム118の第2表面10に形成された第2の積層体のうち、第2圧電体層117の下層(第2表面10側)の金属層が、第2表面10上に形成された下地層115と、その下地層115上に積層された上側層116の2層構造を有していることに加えて、振動アーム118の第1表面12に形成された第1の積層体においても、第1圧電体層222の下層(第1表面12側の層)の金属層が、第1表面12上に形成された下地層220aと、その下地層220a上に積層された上側層220bの2層構造を有している。
【0063】
この振動片111の振動アーム118に設けられた第1表面12の第1の積層体、および第2表面10の第2の積層体においても、上記した図5の下地層105と上側層106との組み合わせと同様な組み合わせを選択することによって、第1圧電体層222や第2圧電体層117の配向を調整することができるので、これにより、振動アーム118の反りを軽減することが可能となる。
【0064】
(変形例2)
上記実施形態および変形例1では、各振動アーム18a,18b,18cの第2表面10に設けた第2の積層体のうち、第2圧電体層7,107,117の下層(第2表面10側)には、単層の金属層5や、下地層105,115と上側層106,116との2層構造の金属層を設ける構成とした。これに限らず、振動アームの第2表面に直接第2圧電体層を形成する構成としてもよい。
図7は、振動アームの第2表面に直接第2圧電体層を形成する振動片の変形例2を模式的に説明するものであり、上記実施形態の振動片1の図1(c)と同じ断面を示す断面図である。なお、図7に示す振動片の変形例2の説明において、上記実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
図7に示すように、振動片121の振動アーム128の第1表面12には、上記実施形態と同じく、第1電極層20、第1圧電体層22、および第2電極層26が、この順に積層された第1の積層体からなる励振電極が形成されている。
また、振動アーム128の第2表面10上には第2圧電体層127が形成されている。
このように、振動片121の例えば水晶からなる第2表面10に直接積層された第2圧電体層127は配向性が低くなるので、振動アーム128の第1表面12側に形成された第1の積層体の第1圧電体層22の配向性との差異によって振動アーム128の反りを軽減することができる。
また、この構成によれば、第2圧電体層127の下層(第2表面10側)には何も設けないので、上記実施形態および変形例1よりも振動片121の製造工程が少なくて済むという効果を奏する。
【0066】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態では、3つの振動アーム18a,18b,18cと有する振動片1について説明した。これに限らず、本発明の振動片は、短冊状の所謂ビーム型の屈曲振動片でもよく、また、2つの振動アームを有するいわゆる音叉型の振動片、あるいは、4つ以上の振動アームを有する振動片であっても、上記した実施形態および変形例と同様な構成をとることによる効果を得ることができる。
【0068】
また、上記第2の実施形態の振動子500、および、上記第3の実施形態の発振器600では、振動片1を接合部材99によりパッケージ70,80に機械的に接合し、さらに、ワイヤーボンディング法を用いてボンディングワイヤー95により振動片1とパッケージ70,80とを電気的に接続する構成とした。これに限らず、振動片1の外部接続電極26a,26bを基部16の第2表面側に設けて、その外部接続電極26a,26bと、パッケージ70,80の対応する振動片接続端子76,88とを、例えば銀ペーストなどの導電性の接合部材によって接合する構成にすることもできる。この場合、パッケージ70,80への振動片1の機械的な接合と電気的な接続を同時に実現することができる。
また、上記第3の実施形態の発振器600では、ICチップ60をワイヤーボンディング法を用いてパッケージ80にボンディングワイヤー95により接続した構成を説明した。これに限らず、ICチップ60などの電子部品を他の実装方法、例えば、金属バンプや導電性接着剤などの接合部材を用いてフェースダウン接合する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,101,111,121…振動片、5…金属層、7,107,117…第2圧電体層、10…第2表面、12…第1表面、14…傾斜面、16…基部、18a〜18c、108,118,128…振動アーム、20…第1電極層、22,222…第1圧電体層、24…開口部、26…第2電極層、26a,26b…外部接続電極、35…電極パッド、60…回路素子としてのICチップ、70,80…パッケージ、71,81…第1層基板、72,82…第2層基板、73,83…第3層基板、75…外部実装端子、76,88…振動片接続端子、79,89…シールリング、84…第4層基板、86…ダイパッド、87…IC接続端子、91,92…リッド、95…ボンディングワイヤー、98…ろう材、99…接合部材、105,115,220a…下地層、106,116,220b…上側層、200…電子機器としての携帯電話、300…電子機器としてのモバイルコンピューター、500…振動子、600…発振器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部の一端部から延出された振動アームと、
前記振動アームの第1表面に形成された駆動電極と、を有し、
前記駆動電極は、前記第1表面に形成された第1電極層と、前記第1電極層上に設けられた第1圧電体層と、前記第1圧電体層を挟んで前記第1電極層に対向して設けられた第2電極層と、を含む第1の積層体であり、
前記第1表面と表裏関係にある第2表面に、電気的に独立した金属層と、前記金属層上に設けられた第2圧電体層と、を含む第2の積層体が形成されていることを特徴とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片において、
前記第1電極層と前記金属層との金属組成が異なることを特徴とする振動片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動片において、
前記第1電極層と前記金属層との少なくとも一方が積層構造を有し、前記第1電極層と前記金属層との層構成が異なることを特徴とする振動片。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の振動片において、
前記基部と前記振動アームとが、圧電体材料を用いて形成されていることを特徴とする振動片。
【請求項5】
請求項4に記載の振動片において、
前記圧電体材料として水晶が用いられていることを特徴とする振動片。
【請求項6】
基部と、
前記基部の一端部から延出された振動アームと、
前記振動アームの第1表面に形成された駆動電極と、を有し、
前記駆動電極は、前記第1表面に形成された第1電極層と、前記第1電極層上に設けられた第1圧電体層と、前記第1圧電体層を挟んで前記第1電極層に対向して設けられた第2電極層と、を含む積層体であり、
前記第1表面の裏面である第2表面に第2圧電体層が形成されていることを特徴とする振動片。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の振動片と、該振動片を収容するパッケージと、を有することを特徴とする振動子。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の振動片と、前記振動片を発振させる発振回路を含む回路素子と、前記振動片および前記回路素子を収容するパッケージと、を含むことを特徴とする発信器。
【請求項9】
請求項7に記載の振動子または請求項8に記載の発振器を搭載した電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−239256(P2011−239256A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109934(P2010−109934)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】