説明

接合方法および水晶素子

【課題】加熱などを必要とせず、また、製造時や使用環境においてガスを発生することなく、より強い強度で水晶が接合できるようにする接合方法を提供する。
【解決手段】スパッタ法により、水晶基板101の接合面に対する物質層102の形成、および水晶基板111の接合面に対する物質層102の形成を開始した後、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層102が各々形成された水晶基板101の接合面および水晶基板111の接合面とを、物質層102を介して着接する。物質層102の層厚が、1nmになる前に、2つの基板の着接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶を接合する接合方法および水晶素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶を用いた素子には、水晶の持つ圧電効果を利用した水晶圧電素子、および水晶の光学特性を利用した水晶光学素子などがある。水晶圧電素子の多くは、所望の形状に加工された水晶片を容器の内部に固定し、この容器を封止することで作製されている。水晶片の固定では、例えば、導電性を有する有機系接着材が用いられている。また、容器の封止においては、真空排気状態や不活性ガス雰囲気において、電子ビーム溶接,シーム溶接,レーザ溶接などの局所溶融接合、半田接合、Au−Sn,Au−Geなどの共晶接合、あるいはガラス接合などの接合方法が用いられている。
【0003】
しかしながら、上述した接合方法では、製造過程あるいは使用環境で発生するガスや、熱による応力などにより、水晶が持つ本来の特性が損なわれるという問題がある。
【0004】
また、水晶光学素子は、複数の水晶片およびガラス片などを貼り合わせることで用いられることが多いが、これらの貼り合わせにおいては、アクリル系などの有機系接着剤が用いられている。しかしながら、有機系接着剤は、可視域を中心としたときの短波長領域および長波長領域(含む赤外領域)の光透過性が劣り、また、紫外線により分解されて経時変化が引き起こされるなど、対応可能な波長域が限定されるという問題がある。
【0005】
上述した問題をもつ接合方法に対し、直接接合と呼ばれる接合技術がある。直接接合には、陽極接合、フュージョンボンディング、およびイオンビームを用いた表面活性化接合などがある。
【0006】
陽極接合は、よく知られているように、ガラス基板とシリコン基板との研磨面を当接させ、加熱しながら電圧をかけて接合する技術である。陽極接合では、ガラス中のアルカリイオンを直流電界により移動させ、両者の間に共有結合を起こさせることで接合する。
【0007】
フュージョンボンディングでは、まず、シリコンや酸化シリコンなどの基板の接合面を研磨し、この研磨面に硝酸を作用させるなどのことにより水酸基を付ける。これらを重ね合わせて水素結合で弱く接合した後、加熱処理(1000℃程度)をして水分を除去することで、Si-O-Si結合により強く接合する。フュージョンボンディングでは、陽極接合のように電圧をかけない。また、プラズマで表面処理をした後に接合することで、加熱の温度を低下させる技術もある。プラズマにより表面水酸基が多くなるためめに、加熱の温度が下げられるとされており、プラズマ活性化後,大気中で接合することもできるとされている。
【0008】
表面活性化接合では、表面活性化接合は,イオンビームを用いて接合の妨げになる表面層をエッチング除去し,表面の原子の結合手同士を直接結合させ強固な接合を形成する。エッチング処理後の表面は周囲の気体分子とも反応しやすい状態にあり、プロセスは高真空に排気した容器の内部で行われる。
【0009】
ところが、上述した直接接合に技術では、次に示すような問題がある。
【0010】
まず、陽極接合では、アルカリイオンの移動を促進させるために400℃以上の加熱が必要となり、熱歪みによる応力が発生する。また、電気化学反応によりガラスから酸素が発生する。これらの熱応力の発生や酸素の発生は、例えば、振動子としての特性への悪影響を及ぼすという問題がある。
【0011】
また、フュージョンボンディングにおいても、加熱が必要となり、また、水素が発生するため、これらが、振動子としての特性への悪影響を及ぼすという問題がある。
【0012】
一方、上述した表面活性化接合では、加熱をすることがなく、また、酸素や水素などの発生もない。しかしながら、水晶などの酸化物結晶体は、イオンガンなどによりエッチングされると、表面が荒れた状態となり、接合しにくい状態になるという問題がある。表面が荒れた状態では、強い接合強度が得られず、安定性の欠けたものとなる。
【0013】
以上の問題を解消する技術として、真空成膜方法により金属や各種化合物の被膜を膜厚1nm〜10μmの範囲で形成し、この被膜の成膜中,あるいは成膜後に真空を維持したまま,被接合材の接合面に形成された被膜相互の面を常温で重ね合わせ、被膜同士を拡散させて接合する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−207221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、水晶の接合において、より高い接合強度が要求されるようになってきている。
【0016】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、加熱などを必要とせず、また、製造時や使用環境においてガスを発生することなく、より強い強度で水晶が接合できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る接合方法は、真空成膜法による成膜装置の処理室内で、第1基板の接合面および水晶からなる第2基板の接合面に、真空成膜法による物質層の形成を開始する第1工程と、処理室内で、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層が各々形成された第1基板の接合面および第2基板の接合面を、物質層を介して着接して第1基板と第2基板とを各々の接合面で接合する第2工程とを少なくとも備え、第1基板の接合面および第2基板の接合面は、平均表面粗さが1nm未満とされている。
【0018】
上記接合方法において、第2工程は、真空成膜法による物質層の形成を停止した後で行えばよい。
【0019】
上記接合方法において、第1基板は、水晶から構成されている。また、真空成膜法は、スパッタ法およびイオンプレーティング法より選択された方法であればよい。また、物質層は、金属または半導体材料より構成されていればよい。
【0020】
また、本発明に係る水晶素子は、上述した接合方法により作製されたものである。例えば、水晶素子は、水晶からなる第1基板および第2基板が物質層を介して接合された光学素子であればよい。また、水晶素子は、第1基板の上に搭載された圧電素子と、この圧電素子に対応して形成された凹部を備える第2基板とを備えるものであり、圧電素子は、物質層を介して接合された第1基板および第2基板により凹部の内部に封止されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明では、真空成膜法による成膜装置の処理室内で、第1基板の接合面および水晶からなる第2基板の接合面に、真空成膜法による物質層の形成を開始し、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層が各々形成された第1基板の接合面および第2基板の接合面を、物質層を介して着接するようにした。この結果、本発明によれば、加熱などを必要とせず、また、製造時や使用環境においてガスを発生することなく、より強い強度で水晶が接合できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】本発明の実施の形態1における接合方法を説明するための工程図である。
【図1B】本発明の実施の形態1における接合方法を説明するための工程図である。
【図1C】本発明の実施の形態1における接合方法を説明するための工程図である。
【図2】物質層102の層厚と接合強度(引張り強度)との関係を示す特性図である。
【図3A】本発明の実施の形態2における接合方法を説明するための工程図である。
【図3B】本発明の実施の形態2における接合方法を説明するための工程図である。
【図3C】本発明の実施の形態2における接合方法を説明するための工程図である。
【図3D】本発明の実施の形態2における接合方法を説明するための工程図である。
【図3E】本発明の実施の形態2における水晶素子の構成を示す断面図である。
【図4】金属からなる物質層の層厚と膜抵抗値との関係を示す相関図である。
【図5】本発明の実施の形態3における水晶素子の構成を示す断面図である。
【図6】接合に用いた物質層の材料および層厚と光学素子の透過率との関係を示す特性図である。
【図7】接合に用いた物質層の材料および層厚と光学素子の透過率との関係を示す特性図である。
【図8】接合に用いた物質層の材料および層厚と光学素子の透過率との関係を示す特性図である。
【図9】接合に用いた物質層の材料および層厚と光学素子の透過率との関係を示す特性図である。
【図10】接合に用いた物質層の材料および層厚と光学素子の透過率との関係を示す特性図である。
【図11】接合に有機系接着剤を用いた場合と物質層を用いた場合の光学的な損失率の波長による変化を示す特性図である。
【図12】接合に有機系接着剤を用いた場合の光学的な透過率の波長(2.5〜5μm)による変化を示す特性図である。
【図13】接合に物質層を用いた場合の光学的な透過率の波長(2.5〜5μm)による変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0024】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1A〜図1Cは、本発明の実施の形態1における接合方法を説明するための工程図である。図1A〜図1Cでは、接合対象となる水晶基板101および水晶基板111の一部断面を示している。
【0025】
まず、図1Aに示すように、水晶基板(第1基板)101および水晶基板(第2基板)111を用意する。水晶基板101の接合面および水晶基板111の接合面は、よく知られた研磨などにより、表面粗さが1nm未満の状態としておく。次に、水晶基板101および水晶基板111を、真空成膜法(例えばスパッタ法)による成膜装置(スパッタ装置)の処理室131内に搬入する。
【0026】
次に、図1Bに示すように、水晶基板101の接合面および水晶基板111の接合面に、真空成膜法による物質層102の形成を開始する。例えば、よく知られたスパッタ法により、水晶基板101の接合面に対する物質層102の形成、および水晶基板111の接合面に対する物質層102の形成を開始する。
【0027】
例えば、成膜装置としてマグネトロンスパッタ装置を用い、まず、水晶基板101および水晶基板111を搬入した処理室131の内部を、圧力10-6Pa程度にまで排気する。次に、処理室131内にスパッタガスとしてアルゴンガスを導入し、また、プラズマパワーを入力し、処理室内にプラズマを生成させ、スパッタ成膜を開始する。ここで、スパッタガスには、アルゴンなどの不活性ガスを用いる。また、ターゲットには、物質層102を構成する材料を用いる。例えば、ターゲットは、Crである。この場合、Crの層が物質層102として形成される。
【0028】
以上のように、処理室131内で物質層102の成膜を開始した後、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層102が各々形成された水晶基板101の接合面および水晶基板111の接合面とを、物質層102を介して着接する。なお、この着接においては、圧力を加える必要はない。例えば、2つの基板を保持し、また当接させる治具(不図示)を処理室131の内部に配置し、この治具を用いて着接させればよい(特許文献1参照)。基板の自重程度で接合ができる。
【0029】
上述したことにより、図1Cに示すように、物質層102を介し、水晶基板101と水晶基板111とを各々の接合面で接合する。水晶基板101と水晶基板111との貼り合わせは、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層102が形成されたら、上述したスパッタ状態を停止し、この後(直後)で行ってもよく、スパッタ状態を継続している中で行ってもよい。物質層102の層厚が、1nmになる前に、2つの基板の着接を行うことが重要である。
【0030】
なお、物質層102は、Crの他、例えばTi,Ta,Cu,およびAlなどの金属より構成することもできる。以下、物質層102に、Ti,Cr,およびTaを用いた場合の、物質層102の層厚と接合強度(引張り強度)との関係について説明する。
【0031】
図2は、物質層102の層厚と接合強度(引張り強度)との関係を示す特性図である。この結果は、成膜してから30秒後に貼り合わせ(着接)を行っている。図中白四角は、物質層102をTiより構成した結果を示し、白丸は、物質層102をCrから構成した場合を示し、白三角は、物質層をTaらか構成した場合を示している。なお、ここでいう「層厚」は、一方の基板に形成された物質層102の厚さを表す。図2から明らかなように、材料にかかわらず、物質層102の層厚が1nm未満の引張り強度(接合力)は約25MPa以上であり、物質層102の層厚を1nm未満とすることで、強い接合強度が得られる。なお、物質層102の層厚を、1nm未満とするので、基板の表面粗さを1nm未満としておくことが重要となる。
【0032】
ここで、物質層の層厚を1nm未満とすることでより強い接合強度が得られることについて説明する。上述した本実施の形態における接合方法は、まず、高い真空状態のほぼ酸素がなく清浄な環境下で、基板の接合面に極薄い物質層を形成し、この物質層を構成する物質の拡散現象を利用して2つの基板を接合しているものと考えることができる。この接合方法では、物質層が一様な膜となる前の不完全な層の状態の方が、活性が高く拡散速度も高いため、より高い接合強度が得られるものと考えられる。ここで、接合を行う処理室の内部は、10-6Pa以下の圧力(真空度)としておけば、自然酸化膜の形成が抑制されて十分な清浄環境となり、上述した接合が行えることが実験の結果判明している。例えば、スパッタを開始する前の初期段階で、処理室内を10-6Pa以下の圧力としておけばよい。また、スパッタを停止してからスパッタガスの供給を停止してより高い真空度としてから、着接を行って接合してもよい。なお、物質層としてAu,Pt,Agなどの貴金属や動などの酸化しにくい金属を用いる場合、接合を行う処理室の内部圧力が、10-4Pa程度であっても上述した接合が行える。
【0033】
この接合方法によると、基板の接合面に活性な面を露出させるためのエッチングなどを行わないので、水晶などのエッチング異方性のある基板であっても、安定した接合が行える。また、この接合方法では、加熱処理などを必要としないので、耐熱性の低い基板であっても容易に適用可能であり、また、加熱によるプロセスコストの削減も可能となる。
【0034】
また、物質層102を1nm未満(0.2nm以上)の層厚とすることで、まず、水晶光学素子の場合、水晶基板の光透過特性を損なうことがない。このように薄い層であれば、可視光の範囲であればほとんど吸収がなく、様々の光学素子として問題なく用いることができる。また、水晶圧電素子の場合、様々な配線が形成されている水晶基板が貼り合わせの対象となる。このような場合であっても、物質層102が金属材料から構成されていても、物質層102が1nm未満と薄く高い抵抗が得られているため、物質層102の絶縁性についたは問題とならない。よく知られているように、厚さが2nm以下の金属層であれば、高い絶縁性が得られる。
【0035】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、物質層の層厚を0.2nm以上1nm未満としたので、物質層を介した2つの基板をより十分な接合強度で接合できるようになる。また、接合した2つの基板の間に介在する物質層が非常に薄いので、光学素子として用いる場合においても光学特性の劣化を招くことがない。また、物質層が非常に薄く、物質層においては、高い絶縁状態が得られているので、圧電素子に適用しても、短絡などを招くことがない。また、高温に加熱することがなく、応力の発生などによる破損などが抑制できるようになる。
【0036】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2では、圧電素子(水晶素子)を例に説明し、特に、圧電素子の封止を例に説明する。
【0037】
まず、図3Aに示すように、圧電素子301を水晶からなる支持基板302の上に搭載(実装)する。圧電素子301は、よく知られているように、例えば水晶などの圧電基板303に所定の電極304および配線305が形成されて構成された水晶振動子である。また、支持基板302は、配線305に接続して圧電素子301の端部を支持固定する導電性を有する支持部306,支持部306を介して配線305に接続する配線307,ビア配線308,および外部端子309が形成されている。圧電素子301は、支持部306により支持基板302に実装される。
【0038】
次に、図3Bに示すように、水晶からなる封止基板311を用意する。封止基板301には、圧電素子301の部分に対応して凹部312が形成されている。
【0039】
次に、支持基板301および封止基板311を、真空成膜法(例えばスパッタ法)による成膜装置(スパッタ装置)の処理室内に搬入する。なお、成膜装置および処理室などは、図示していない。引き続いて、図3Cおよび図3Dに示すように、支持基板302の圧電素子301が搭載されている面(膜形成面)、および、封止基板311の凹部312が形成されている面(膜形成面)に、真空成膜法による物質層321の形成を開始する。例えば、よく知られたスパッタ法により、支持基板301の膜形成面に対する物質層321の形成、および封止基板311の膜形成面に対する物質層321の形成を開始する。例えば、成膜装置としてマグネトロンスパッタ装置を用い、アルミニウム(Al)をターゲットとしてAlからなる物質層321の形成を開始すればよい。
【0040】
以上のように、処理室内で物質層321の成膜を開始した後、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層321が各々形成された支持基板301の接合面および封止基板311の接合面とを、物質層321を介して着接する。なお、この着接においては、圧力を加える必要はない。
【0041】
上述したことにより、図3Eに示すように、物質層321を介し、支持基板301と封止基板311とを各々の接合面で接合すれば、圧電素子301が支持基板301と封止基板311とによる容器の中に封止された水晶素子が得られる。圧電素子301は、物質層321を介して接合された支持基板301および封止基板311により、凹部312の内部に封止される。ここで、支持基板301と封止基板311との貼り合わせは、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層321が形成されたら、上述したスパッタ状態を停止し、この後(直後)で行ってもよく、スパッタ状態を継続している中で行ってもよい。物質層321の層厚が1nmになる前に、2つの基板の着接を行うことが重要である。
【0042】
ここで、物質層321は、例えば、支持基板301の上の全域に形成される。このため、例えば、支持基板301の上に形成されている複数の配線307に渡って物質層321が形成されることになる。物質層321をAlなどの金属より構成した場合、金属層により各配線307の間が接続されることになる。しかしながら、物質層321は、層厚1nm未満と薄くしているので、高い絶縁性を有した状態となっており、各配線307の間で電気的な短絡を招くことがない。図4に示すように、例えば、Au,Tiなどの金属であれば、層厚1nm未満では、高い膜抵抗値となり、十分な絶縁性が確保できる。
【0043】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。実施の形態3では、光学素子を例に説明し、特に、接合により作製される光学素子を例に説明する。
【0044】
本実施の形態における接合方法で作製された光学素子(水晶素子)は、例えば、図5に示すように、水晶基板501と水晶基板502とが、物質層503を介して接合されている。水晶基板501は平均表面粗さRa<1nm、水晶基板502は平均表面粗さRaが0.3nmとされている。
【0045】
例えば、水晶基板501および水晶基板502を、真空成膜法(例えばスパッタ法)による成膜装置(スパッタ装置)の処理室内に搬入する。引き続いて、支持基板302の接合面、および、水晶基板502の接合面に、真空成膜法による物質層503の形成を開始する。例えば、よく知られたスパッタ法により、水晶基板501の接合面に対する物質層503の形成、および水晶基板502の接合面に対する物質層503の形成を開始する。例えば、成膜装置としてマグネトロンスパッタ装置を用い、アルミニウム(Al)をターゲットとしてAlからなる物質層503の形成を開始すればよい。
【0046】
以上のように、処理室内で物質層503の成膜を開始した後、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層503が各々形成された水晶基板501の接合面および水晶基板502の接合面とを、物質層503を介して着接する。例えば、各々の接合面に、0.4nmの物質層503が形成されたら、接着を行う。なお、この着接においては、圧力を加える必要はない。
【0047】
上述したことにより、物質層503を介し、水晶基板501と水晶基板502とが各々の接合面で接合される。水晶基板501と水晶基板502との貼り合わせは、0.2nm以上1nm未満の層厚の物質層503が形成されたら、上述したスパッタ状態を停止し、この後(直後)で行ってもよく、スパッタ状態を継続している中で行ってもよい。水晶板501の接合面に形成される物質層503および水晶板502の接合面に形成される物質層503の各々の層厚が1nmになる前に、2つの基板の着接を行うことが重要である。
【0048】
ここで、上述した本実施の形態における光学素子の特性評価結果について説明する。本実施の形態における光学素子と、従来の有機系接着剤で接着された光学素子について、透過波面収差の測定を行い、P−V(Peak-Valley)値を比較した。透過波面収差の測定は、フィゾー干渉計により行い、測定波長は632.8nmとし、測定領域は、物質層503により接続している領域の中央部の直径13mmの円形領域とする。測定の結果、従来の有機系接着剤で接着された光学素子のP−V値が1wave以上であるのに対し、本実施の形態における光学素子のP−V値は、0.1wave以下と非常に小さく良好な特性が確認できた。
【0049】
有機系接着剤の厚さは10μm以上となり、接着固定時に接着層の厚さに不均一が発生し、また、接着時の部分的な応力による屈折率の不均一さが、有機系接着剤で接着された光学素子における透過波面の劣化につながっているものと考えられる。これに対し、本実施の形態における接合方法で接合された光学素子は、接合部となる物質層503の合計の層厚が、2nm未満と非常に薄くかつ均一のため、非常に良好な透過波面が得られるものと考えられる。
【0050】
なお、物質層503は、Alに限らず、Au,Ti,Ta,Cu,Crなどの金属でもよく、また、Siなどの半導体材料でもよい。
【0051】
ところで、光学素子においては、所望の透過率(高い透明性)が得られていることが重要となるが、上述したように、一方の接合面に形成される物質層の層厚が1nm未満であれば、透明性に影響を与えることがない。
【0052】
例えば、図6,図7に示すように、CrおよびSiの場合、一方の接合面に形成される物質層の層厚が0.2nmおよび0.4nmのいずれの場合も、ほぼ75%以上の透過率が得られている。また、図8,図9に示すように、Cu,Ti,Taの場合、一方の接合面に形成される物質層の層厚が0.2nmであれば、ほぼ75%以上の透過率が得られている。なお、Taの場合、層厚が0.4nmの場合、0.2μm近辺の波長域の透過率が70%程度となる。
【0053】
一方、一方の接合面に形成される物質層の層厚が1nmを超えて厚くなると、図10に示すように、透過率が低下するようになる。特に、Cuの場合、一方の接合面に形成される物質層の層厚が5nmでは、2.5μm近辺の波長域の透過率が20%程度となる。また、図11に示すように、本実施の形態における光学素子によれば、貼り合わせに有機系接着剤を用いた場合に比較して、紫外域の光学的な損失率の低下が大幅に抑制されるようになる。損失率は、物質層や接着剤を用いずに、2つの水晶基板のみを透過させた光量Pと、1つの水晶基板が物質層もしくは接着剤により接合された状態で透過させた光量P’を用い、損失率(%)={(P−P’)/P}×100により求めている。なお、図11の結果は、物質層にCuおよびTiを用いた場合の結果を示している。
【0054】
次に、より長波長領域(波長2.5〜5μm)における透過率の測定結果について説明する。まず、貼り合わせ(接合)に有機系接着剤を用いた場合、図12に示すように、接着剤に含まれている成分に対応する吸収が確認される。
【0055】
上述の結果に対し、本実施の形態における物質層を用いた貼り合わせの場合、図13に示すように、有機系接着剤を用いた場合に比較してより高い透過率が得られている。
【0056】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、スパッタ法に限らず、公知のイオンプレーティング法で物質層を形成してもよい。これらは、プラズマの発生下で成膜が行われる真空成膜法である。また、真空蒸着法など、他の真空成膜法であってもよい。
【0057】
また、接合対象の基板に反りがある場合、接合面同士が接触するように、2つの基板の間に荷重を加えてもよい。また、上述では、Ti,Cr,およびTaを用いた実験結果について示したが、物質層は、これらの材料に限るものではなく、Au,Cu,Alなどの他の金属材料でもよいことはいうまでもない。また、物質層は、Si,Geなどの半導体材料から構成されていてもよい。
【0058】
また、上述では、水晶基板に水晶基板を貼り合わせる場合を例に説明したが、これに限るものではなく、一方の基板が、ガラス,シリコンなどの他の材料から構成されている基板であっても同様に接合可能である。また、上述では、圧電素子として、水晶振動子を例にしたが、これに限るものではなく、よく知られた表面弾性波 (Surface Acoustic Wave:SAW) 素子であっても同様である。
【符号の説明】
【0059】
101…水晶基板、102…物質層、111…水晶基板、131…処理室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成膜法による成膜装置の処理室内で、第1基板の接合面および水晶からなる第2基板の接合面に、前記真空成膜法による物質層の形成を開始する第1工程と、
前記処理室内で、0.2nm以上1nm未満の層厚の前記物質層が各々形成された前記第1基板の接合面および前記第2基板の接合面を、前記物質層を介して着接して前記第1基板と前記第2基板とを各々の接合面で接合する第2工程と
を少なくとも備え、
前記第1基板の接合面および前記第2基板の接合面は、平均表面粗さが1nm未満とされていることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の接合方法において、
前記第2工程は、前記真空成膜法による前記物質層の形成を停止した後で行うことを特徴とする接合方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の接合方法において、
前記第1基板は、水晶から構成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の接合方法において、
前記真空成膜法は、スパッタ法およびイオンプレーティング法より選択された方法であることを特徴とする接合方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合方法において、
前記物質層は、金属または半導体材料より構成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の接合方法により作製された水晶素子。
【請求項7】
請求項6記載の水晶素子において、
前記水晶素子は、水晶からなる前記第1基板および前記第2基板が前記物質層を介して接合された光学素子であることを特徴とする水晶素子。
【請求項8】
請求項6記載の水晶素子において、
前記水晶素子は、前記第1基板の上に搭載された圧電素子と、この圧電素子に対応して形成された凹部を備える前記第2基板とを備え、
前記圧電素子は、前記物質層を介して接合された前記第1基板および前記第2基板により前記凹部の内部に封止されている
ことを特徴とする水晶素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−187867(P2011−187867A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54208(P2010−54208)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】