説明

撥水撥油防汚性反射板およびその製造方法ならびにそれを用いたトンネル、道路標識、表示板、乗り物および建物

【課題】耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性ともいう)、ならびに防汚性の向上した撥水撥油防汚性反射板およびその製造方法ならびにそれを用いたトンネル、道路標識、表示板、乗り物および建物を提供する。
【解決手段】第1の官能基3が表面に導入された反応性基材4、および第1の官能基3と反応して共有結合を形成する第2の官能基7が表面に導入された反応性透明微粒子9を接触させた状態で加熱し、次いで酸素を含む雰囲気中で加熱処理して得られる、表面に透明微粒子が融着された基材1aの表面に撥水撥油防汚性被膜11を形成することにより製造される撥水撥油防汚性反射板12、ならびにこれを用いたトンネル、道路標識、表示板、乗り物および建物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子によって表面が覆われている撥水撥油防汚性反射板およびその製造方法ならびに撥水撥油防汚性反射板を用いたトンネル、道路標識、表示板、乗り物および建物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化炭素基を有するクロロシラン化合物の溶液を基材の表面に接触させると、表面反応により単分子膜状の撥水性被膜を形成できることはすでによく知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような撥水性被膜の製造原理は、基材表面の水酸基(シラノール基)等の活性水素とクロロシリル基との脱塩酸反応によりシロキサン結合を形成することにある。
【0003】
【特許文献1】特開平4−132637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の化学吸着膜は吸着剤と平坦な基材表面との化学結合のみを用いているため、耐摩耗性や耐候性等の耐久性や、防汚性、水滴離水性(滑水性ともいう)に乏しいという課題があった。
【0005】
本発明は、耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性ともいう)、ならびに防汚性の向上した撥水撥油防汚性反射板およびその製造方法ならびにそれを用いたトンネル、道路標識、表示板、乗り物および建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として提供される第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、基材表面が少なくとも直接または微粒子融着用の被膜を介して融着した撥水撥油防汚性透明微粒子で覆われている。ここで「融着」とは、基材および透明微粒子の一部が共融により接着された状態をいう。
【0007】
第2の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、前記透明微粒子として、粒径の異なるものが混合して用いられている。
【0008】
第3の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第1、第2の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、撥水撥油防汚性被膜が少なくとも前記透明微粒子の表面に共有結合している。
【0009】
第4の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第3の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、前記撥水撥油防汚性被膜が−CF基を含む。
【0010】
第5の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第1〜第4の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、前記透明微粒子が透光性でかつ前記基材より融点が高い樹脂、ガラス、シリカ、アルミナ、およびジルコニアのいずれか1である。
【0011】
第6の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第1〜第5の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、前記透明微粒子の粒径が400nm未満である。
【0012】
第7の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第1〜第6の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、水に対する接触角が130度以上である。
【0013】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第1〜第7の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、前記微粒子融着用の被膜が、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜である。
【0014】
第9の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第1〜第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、前記基材が光反射性のステンレス板、またはアルミニウム板であり、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が透明である。
【0015】
第10の発明に係る撥水撥油防汚性反射板は、第1〜第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射板において、前記基材が、紙、布、樹脂、ガラス、金属、またはセラミックスであり、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が染料、顔料、金属微粒子、あるいはマイカ微粒子を含む。
【0016】
第11の発明に係るトンネルは、第1〜第10の発明に係る撥水撥油防汚性反射板を壁面に装着している。
【0017】
第12の発明に係る道路標識は、第1〜第10の発明に係る撥水撥油防汚性反射板を少なくともその一部に用いている。
【0018】
第13の発明に係る表示板は、第1〜第10の発明に係る撥水撥油防汚性反射板を少なくともその一部に用いている。なお、ここで表示板には看板も含まれる。
【0019】
第14の発明に係る乗り物は、第1〜第10に記載の撥水撥油防汚性反射板を車体内部または外部あるいはその両方に装着している。
【0020】
第15の発明に係る建物は、第1〜第10の発明に係る撥水撥油防汚性反射板を外壁や内壁に装着している。
【0021】
第16の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第1の官能基を含む第1のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第1の化学吸着液を基材に接触させ、前記第1のシラン化合物のシリル基と前記基材の表面の活性水素基との反応により前記第1のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた反応性基材を製造する工程Aと、
前記第1の官能基と反応して共有結合を形成する第2の官能基を含む第2のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第2の化学吸着液中に透明微粒子を分散し、前記第2のシラン化合物のシリル基と前記透明微粒子の表面の活性水素基との反応により前記第2のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた反応性透明微粒子を製造する工程Bと、
前記反応性基材と前記反応性透明微粒子とを接触させた状態で加熱して前記第1の官能基と前記第2の官能基とを反応させ、形成した共有結合を介して前記透明微粒子を表面に結合させた基材を製造する工程Cと、
前記工程Cで前記透明微粒子を表面に結合させた基材を、例えば、酸素を含む雰囲気中で加熱処理し、前記基材の表面に前記透明微粒子を融着させ、前記融着した透明微粒子で表面が覆われた基材を製造する工程Dと、
フッ化炭素基を含む第3のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第3の化学吸着液を前記融着した透明微粒子で表面が覆われた基材に接触させて、前記第3のシラン化合物のシリル基と前記融着した透明微粒子で表面が覆われた基材の表面の活性水素基との反応により前記フッ化炭素基よりなる撥水撥油防汚性被膜を形成する工程Eとを含む。
【0022】
なお、「活性水素基」とは、縮合反応によりシリル基と結合を形成する任意の官能基をいう。
また、「前記シリル基と前記活性水素基との反応」とは、工程Aにおいては第1のシラン化合物のシリル基とガラス基材の表面の活性水素基との反応を、工程Bにおいては第2のシラン化合物のシリル基と透明微粒子の表面の活性水素基との反応を、工程Eにおいては第3のシラン化合物のシリル基と融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材の表面の活性水素基との反応をそれぞれ意味する。
【0023】
第17の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第16の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1および第2の官能基の一方がエポキシ基、他方がアミノ基またはイミノ基である。
【0024】
第18の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第16、第17の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記工程A、B、およびEのいずれか1〜3の工程で、前記シリル基と前記活性水素基との反応後、未反応物を洗浄除去する。ここで、「未反応物」とは、工程Aにおいては未反応の第1のシラン化合物を、工程Bにおいては未反応の第2のシラン化合物を、工程Eにおいては未反応の第3のシラン化合物をそれぞれ意味する。
【0025】
第19の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第16〜第18に発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記工程Aの前に、前記基材の融点よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する透明被膜を前記基材の表面に形成する工程Fをさらに有する。ここで、透明皮膜は金属酸化物であってもよく、この場合、「金属」には、ホウ素(B)、ケイ素(Si)等のいわゆる半金属元素が含まれるものとする。
【0026】
第20の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第19の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記透明皮膜がシリカ系ガラス膜であって、前記工程Fにおける前記透明被膜の形成にゾルゲル法を用いる。
【0027】
第21の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第19の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記基材として、紙、布または樹脂を、微粒子融着用の被膜として樹脂膜またはシリカ系ガラス膜をそれぞれ用いる。
【0028】
第22の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第19の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記基材として、ガラス、金属、またはセラミックスを、微粒子融着用の被膜として樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜を用いる。
【0029】
第23の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第22の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記微粒子融着用の被膜である樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が、染料、顔料、金属微粒子、あるいはマイカを含む。
【0030】
第24の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第16〜第23の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1〜3はアルコキシシラン化合物である。なお、「アルコキシシラン化合物」とは、シラン化合物のうち、一般式−SiOR(Rはアルキル基を表す)で表されるアルコキシシリル基を有するものをいう。
【0031】
第25の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第16〜第23の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1〜3はハロシラン化合物である。なお、「ハロシラン化合物」とは、シラン化合物のうち、一般式−SiX(Xは、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを表す)で表されるハロシリル基を有するものをいう。
【0032】
第26の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第24の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、さらに縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を含む。
【0033】
第27の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第24の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、縮合触媒としてケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含む。
【0034】
第28の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第26の発明に係る撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、さらに助触媒として、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含む。
【0035】
さらに詳細には、本発明は、少なくともエポキシ基またはイミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に基材を接触させエポキシ基またはイミノ基を含むアルコキシシラン化合物と基材表面を反応させてエポキシ基またはイミノ基を含む反応性基材を製造する工程と、イミノ基またはエポキシ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に透明微粒子を分散してイミノ基またはエポキシ基を含むアルコキシシラン化合物と透明微粒子表面を反応させてイミノ基またはエポキシ基を含む反応性透明微粒子を製造する工程と、前記エポキシ基を含む反応性基材と前記イミノ基を含む反応性透明微粒子、またはイミノ基を含む反応性基材と前記エポキシ基を含む反応性透明微粒子を接触させ、加熱して前記反応性基材と前記反応性透明微粒子を結合させる工程と、加熱または酸素を含む雰囲気中で焼成する工程と、フッ化炭素基とトリクロロシリルキを含むクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合するかあるいはフッ化炭素基とアルコキシシリルキを含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液と表面に透明微粒子を融着させた基材を接触させて表面に撥水撥油防汚性被膜を形成する工程とを含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法、あるいは、少なくともエポキシ基またはイミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に基材を接触させエポキシ基またはイミノ基を含むアルコキシシラン化合物と基材表面を反応させてエポキシ基またはイミノ基を含む反応性基材を製造する工程と、イミノ基またはエポキシ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に透明微粒子を分散してイミノ基またはエポキシ基を含むアルコキシシラン化合物と透明微粒子表面を反応させてイミノ基またはエポキシ基を含む反応性透明微粒子を製造する工程と、前記エポキシ基を含む反応性基材と前記イミノ基を含む反応性透明微粒子、またはイミノ基を含む反応性基材と前記エポキシ基を含む反応性透明微粒子を接触させ、加熱して前記反応性基材と前記反応性透明微粒子を結合させる工程と、加熱または酸素を含む雰囲気中で焼成する工程と、フッ化炭素基とトリクロロシリルキを含むクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合するか、あるいはフッ化炭素基とアルコキシシリルキを含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液と表面に透明微粒子を融着させた基材を接触させて撥水撥油防汚性被膜を反応形成する工程において、反応形成後余分な化学吸着液を洗浄除去することを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法を用いて、基材表面が少なくとも直接あるいは微粒子融着用の被膜を介して融着した撥水撥油防汚性透明微粒子で覆われている撥水撥油防汚性反射板を提供する。
【発明の効果】
【0036】
請求項1〜10記載の撥水撥油防汚性反射板、および請求項16〜28記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法によれば、撥水撥油防汚機能が要求される、例えば自動車や建築物の基材(ガラス、内装材、外装材)において、耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性、ならびに防汚性に優れ乗り物や建築物の基材に好適な、撥水撥油防汚性反射板およびその製造方法を提供できる。
【0037】
また、請求項1〜10記載の撥水撥油防汚性反射板、それぞれ請求項11〜15記載のトンネル、道路標識、表示板、乗り物、および建物、請求項16〜28記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法においては、撥水撥油防汚性反射板の基材の表面が融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子で覆われているので、撥水撥油防汚性反射板が凹凸を有する複雑な表面形状を呈し、そのため、いわゆる「蓮の葉効果」により高い撥水撥油防汚性を有する。
【0038】
特に請求項2記載の撥水撥油防汚性反射板は、粒径の異なる透明微粒子が混合して用いられているので、撥水撥油防汚性反射板の表面形状がフラクタル性を有し、撥水撥油防汚性を向上できる。
【0039】
請求項3記載の撥水撥油防汚性反射板は、撥水撥油防汚性被膜が少なくとも透明微粒子の表面に共有結合しているので、その耐久性を向上できる。
【0040】
請求項4記載の撥水撥油防汚性反射板は、撥水撥油防汚性被膜が−CF基を含んでいるので、撥水撥油防汚性を向上できる。
【0041】
請求項5記載の撥水撥油防汚性反射板は、透明微粒子が透光性でかつガラス基材より軟化点が高いシリカ、アルミナ、またはジルコニアであるので、微粒子の融着や形状を損なうことなくガラス基材の表面に融着できる。
【0042】
請求項6記載の撥水撥油防汚性反射板は、透明微粒子の粒径が可視光の波長より小さい400nm未満であるので、可視光の散乱が少なく、反射効果を高めることができる。
【0043】
請求項7記載の撥水撥油防汚性反射板は、水に対する接触角が130度以上であるので、水滴の転落角が小さくなり、実質上水滴が付着しなくなり、防汚性能が向上する。
【0044】
請求項8記載の撥水撥油防汚性反射板は、透明微粒子は、基材よりも低い温度で透明微粒子と融着する透明被膜を介して基材の表面に融着されているので、融着時における透明微粒子の熱変形が抑制されている。
【0045】
請求項9記載の撥水撥油防汚性反射板は、基材が光反射性のステンレス板、またはアルミニウム板であり、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が透明であると、基材表面からの反射も付加できる。
【0046】
請求項10記載の撥水撥油防汚性反射板は、基材が紙、布、樹脂、ガラス、金属、またはセラミックスであり、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が染料、顔料、金属微粒子、あるいはマイカを含むと、反射光の色調を制御できる。
【0047】
請求項11記載のトンネルにいては、撥水撥油防汚性反射板が壁面に装着されているので、照明電力を低減できる。
【0048】
請求項12記載の道路標識においては、撥水撥油防汚性反射板が用いられているので、暗闇での視認性が向上できる。
【0049】
請求項13記載の表示板は、より一層の視認性を向上できる。
【0050】
請求項14記載の乗り物は、それぞれ撥水撥油防汚性反射板が使用されているので、視認性の向上が確保でき、雨天時でも視認性を確保でき、掃除の手間が省ける。
【0051】
請求項15記載の建物においては、撥水撥油防汚性反射板が外壁や内壁に使用されているので、照明電力を低減することができる。
【0052】
請求項16〜28記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法では、第1の官能基と第2の官能基とを反応させ、形成した共有結合を介して透明微粒子を表面に結合させたガラス基材を製造し、次いでこれを加熱処理して、融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材を製造し、その上に撥水撥油防汚性被膜を形成しているので、全表面にわたり実質的に均一に透明微粒子で覆われ、視認性、透明性、および耐久性に優れた撥水撥油防汚性反射板を得ることができる。
【0053】
請求項17記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第1および第2の官能基の一方がエポキシ基、他方がアミノ基またはイミノ基であるので、工程Cにおいて、これらの官能基同士の反応により形成された共有結合を介してガラス基材と透明微粒子を強固に結合固定できる。
【0054】
請求項18記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、シリル基と活性水素基との反応後、未反応物を洗浄除去するので、融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材の表面に共有結合した撥水撥油防汚性被膜のみが形成されることにより、撥水撥油防汚性反射板の撥水撥油防汚性および耐久性を向上できる。
【0055】
請求項19記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、工程Aの前に、基材の融点よりも低い温度で透明微粒子と融着する透明被膜を形成する工程Fを有するので、工程Dにおける加熱処理をより低温で行うことができる。
【0056】
請求項20記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法では、透明被膜の形成にゾルゲル法を用いるので、透明被膜の形成を簡便に行うことができる。
【0057】
請求項21記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法では、基材として、紙、布または樹脂、微粒子融着用の被膜として樹脂膜またはシリカ系ガラス膜を用い、加熱して前記透明微粒子と前記基材表面を融着すると、基材を損なうことなく微粒子を融着する上で好都合である
【0058】
請求項22記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法では、基材として、ガラス、金属、またはセラミックス、微粒子融着用の被膜として樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜を用い、加熱または酸素を含む雰囲気中で焼成して前記透明微粒子と前記基材表面を融着すると、耐久性を向上する。
【0059】
請求項23記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が染料、顔料、金属微粒子、あるいはマイカを含むと、反射膜の色調を任意に制御できる。また、微粒子融着用の被膜がシリカ系ガラス膜であり、被膜形成にゾル−ゲル法を用いること、製麻区および加熱温度を低減できる。
【0060】
請求項24記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法は、第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1、2、または3は、活性水素基との反応の際に有害な塩化水素を発生しないアルコキシシラン化合物であるので、撥水撥油防汚性反射板の製造をより安全に行うことができるとともに、製造設備の腐食や酸性廃液の発生を抑制できる。
【0061】
請求項25記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法では、第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1、2、または3は、活性水素基との反応性の高いハロシラン化合物であるので、撥水撥油防汚性反射板の製造をより高効率に行うことができるとともに、触媒の添加が不要になる。
【0062】
請求項26記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法では、第1、第2、および第3の化学吸着液のうちアルコキシシラン化合物を含むものは、さらに縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を含むので、アルコキシシラン化合物と活性水素基との反応時間を短縮し、撥水撥油防汚性反射板の製造をより高効率に行うことができる。
【0063】
請求項27および28記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法では、第1、第2、および第3の化学吸着液のうちアルコキシシラン化合物を含むものは、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からからなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むので、アルコキシシラン化合物と活性水素基との反応時間を短縮し、撥水撥油防汚性反射板の製造をより高効率に行うことができる。特に、これらの化合物と上述の縮合触媒の両者をともに含む場合には、反応時間をさらに短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性反射板について説明する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性反射板12は、表面に撥水撥油防汚性被膜11が形成されたアルミナ微粒子5(撥水撥油防汚性の透明微粒子の一例)が基材(例えば、琺瑯、ステンレスなどの金属板、ガラス板)1の表面に融着した構造を有する。撥水撥油防汚性被膜11は、CF基を含むフッ化炭素基の一例であるパーフルオロオクチル基(CF(CF−)を含むシラン化合物と、融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aの表面の水酸基(活性水素を有する官能基(活性水素基)の一例)との反応により、その表面に共有結合している。
【0065】
撥水撥油防汚性反射板12の製造方法は、第1の官能基の一例であるエポキシ基3を含む第1のシラン化合物の一例であるアルコキシシラン化合物と縮合触媒、および非水系の有機溶媒とを混合して作成した第1の化学吸着液を基材1に接触させ、アルコキシシラン化合物のアルコキシシリル基(シリル基の一例)と、図2(a)に模式的に示した基材1の表面の水酸基2(活性水素基の一例)との反応により、エポキシ基3が表面に導入された、すなわち、エポキシ基3を含むアルコキシシラン化合物の単分子膜3aで表面が覆われた反応性ガラス基材4(図2(b))を製造する工程Aと、エポキシ基3と反応して共有結合を形成する第2の官能基の一例であるアミノ基7を含む第2のシラン化合物の一例であるアルコキシシラン化合物と縮合触媒、および非水系の有機溶媒とを混合して作成した第2の化学吸着液中にアルミナ微粒子5を分散し、アルコキシシラン化合物のアルコキシシリル基と、図3(a)に模式的に示したアルミナ微粒子5の表面の水酸基6(活性水素基の一例)との反応により、アミノ基7が表面に導入された、すなわち、アミノ基7を含むアルコキシシラン化合物の単分子膜8で表面が覆われた反応性アルミナ微粒子(反応性透明微粒子の一例)9(図3(b))を製造する工程Bと、反応性基材4と反応性アルミナ微粒子9とを接触させた状態で加熱してエポキシ基3とアミノ基7とを反応させ、アルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合した基材10(図4)を製造する工程Cと、アルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合した基材10を、酸素を含む雰囲気中で加熱処理し、融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1a(図5参照)を製造する工程Dと、フッ化炭素基を含む第3のシラン化合物の一例であるアルコキシシラン化合物と縮合触媒、および非水系の有機溶媒とを混合して作成した第3の化学吸着液を、融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aに接触させて、アルコキシシラン化合物のアルコキシシリル基と、融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aの表面の水酸基との反応により、撥水撥油防汚性被膜11(図1参照)を形成する工程Eとを含んでいる。
以下、工程A〜Eについてより詳細に説明する。
【0066】
工程Aでは、エポキシ基を有する単分子膜3aで表面が覆われた反応性基材4を製造する。
反応性基材4の製造に用いる基材1の材質、形状、および大きさについて特に制限はなく、乗り物および建築物において使用される任意の窓ガラス材を用いることができる。また、表面に活性水素基が存在していれば、表面被膜が形成されていてもよい。なお、本実施の形態において、活性水素基は水酸基2であるが、活性水素を含むアミノ基等であってもよい。
【0067】
反応性基材4の製造に用いる第1の化学吸着液は、エポキシ基3を含むアルコキシシラン化合物と、アルコキシシリル基と基材1の表面の水酸基2との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0068】
エポキシ基3を含むアルコキシシラン化合物としては、直鎖状アルキレン基の両末端に、エポキシ基(オキシラン環)を含む官能基およびアルコキシシリル基をそれぞれ有し、下記の一般式(化1)で表されるアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0069】
【化1】

【0070】
上式において、Eはエポキシ基を含む官能基を、mは3〜20の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。
【0071】
縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレート等の金属塩が利用可能である。
縮合触媒の添加量は、好ましくはアルコキシシラン化合物の0.2〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜1質量%である。
【0072】
カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸第1スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第1スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄が挙げられる。
【0073】
カルボン酸エステル金属塩の具体例としては、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩が挙げられる。
カルボン酸金属塩ポリマーの具体例としては、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマーが挙げられる。
カルボン酸金属塩キレートの具体例としては、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレートが挙げられる。
【0074】
チタン酸エステルの具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネートが挙げられる。
チタン酸エステルキレート類の具体例としては、ビス(アセチルアセトニル)ジ−プロピルチタネートが挙げられる。
【0075】
第1の化学吸着液を基材1の表面に塗布し、室温の空気中で反応させると、アルコキシシリル基と基材1の表面の水酸基2とが縮合反応を起こし、下記の化2で示されるような構造を有するエポキシ基を含む単分子膜3aを生成する。なお、酸素原子から延びた3本の単結合は基材1の表面または隣接するシラン化合物のケイ素(Si)原子と結合しており、そのうち少なくとも1本は基材1の表面のケイ素原子と結合している。
【0076】
【化2】

【0077】
アルコキシシリル基は、水分の存在下で分解するので、反応は相対湿度45%以下の空気中で行うことが好ましい。なお、縮合反応は、基材1の表面に付着した油脂分や水分により阻害されるので、基材1をよく洗浄して乾燥することにより、これらの不純物を予め除去しておくことが好ましい。
縮合触媒として上述の金属塩のいずれかを用いた場合、縮合反応の完了までに要する時間は2時間程度である。
【0078】
上述の金属塩の代わりに、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を縮合触媒として用いた場合、反応時間を1/2〜2/3程度まで短縮できる。
【0079】
または、これらの化合物を助触媒として、上述の金属塩と混合(質量比1:9〜9:1の範囲で使用可能だが、1:1前後が好ましい)して用いると、反応時間をさらに短縮できる。
【0080】
例えば、縮合触媒として、ジブチルスズオキサイドの代わりにケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3を用い、その他の条件は同一にして反応性基材4の製造を行うと、反応性基材4の品質を損なうことなく反応時間を1時間程度にまで短縮できる。
【0081】
さらに、縮合触媒として、ジャパンエポキシレジン社のH3とジブチルスズビスアセチルアセトネートとの混合物(混合比は1:1)を用い、その他の条件は同一にして反応性基材4の製造を行うと、反応時間を20分程度に短縮できる。
【0082】
なお、ここで用いることができるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等が挙げられる。
【0083】
また、用いることができる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸等が挙げられる。
【0084】
第1の化学吸着液の調製には、有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、フッ化炭素系溶媒、シリコーン系溶媒、およびこれらの混合溶媒を用いることができる。アルコキシシラン化合物の加水分解を防止するために、乾燥剤または蒸留により使用する溶媒から水分を除去しておくことが好ましい。また、溶媒の沸点は50〜250℃であることが好ましい。
【0085】
具体的に使用可能な溶媒としては、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
さらに、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、またはそれらの混合物を用いることもできる。
【0086】
また、用いることができるフッ化炭素系溶媒としては、フロン系溶媒、フロリナート(米国3M社製)、アフルード(旭硝子株式会社製)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、ジクロロメタン、クロロホルム等の有機塩素系溶媒を添加してもよい。
【0087】
第1の化学吸着液におけるアルコキシシラン化合物の好ましい濃度は、0.5〜3質量%である。
【0088】
反応後、溶媒で洗浄し、未反応物として表面に残った過剰なアルコキシシラン化合物および縮合触媒を除去すると、エポキシ基を含む単分子膜3aで表面が覆われた反応性基材4が得られる。このようにして製造される反応性基材4の断面構造の模式図を図2(b)に示す。なお、図2(b)においては、エポキシ基を有する単分子膜3aの一例として、下記の化3で表される構造を有するものを示している。
【0089】
【化3】

【0090】
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい。
【0091】
反応後、生成した反応性基材4を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、反応性基材4の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、反応性基材4の表面に共有結合により固定されていないが、エポキシ基3を含んでいるため、反応性アルミナ微粒子9に対してエポキシ基を含む単分子膜3aと同様の反応性を有している。そのため、洗浄を行わなくても、工程C以降の撥水撥油防汚性反射板12の製造工程に特に支障をきたすことはない(以上工程A)。
【0092】
工程Bでは、アミノ基を有する単分子膜8で表面が覆われた反応性アルミナ微粒子9を製造する。
製造される撥水撥油防汚製ガラス板12の透明度を損なわないためには、反応性アルミナ微粒子9の製造に用いるアルミナ微粒子5の直径は、可視光波長(380〜700nm)より小さいことが好ましい。具体的には、微粒子の直径は10〜400nmであることが好ましく、10〜300nmであることがより好ましく、10〜100nmであることがさらに好ましい。用いられるアルミナ微粒子5の粒径は単一であってもよいが、2以上の異なる粒径を有するアルミナ微粒子を混合して用いると、得られる撥水撥油防汚性反射板12の表面がフラクタル性を有し、撥水撥油防汚性が向上するため好ましい。
【0093】
本実施の形態では、透明微粒子としてアルミナ微粒子を用いているが、水酸基、アミノ基等の、アルコキシシリル基およびハロシリル基と反応する活性水素基を表面に有し、透光性で基材よりも軟化点の高い任意の微粒子を用いることができる。アルミナ以外に用いることのできる透明微粒子としては、シリカ、ジルコニア等の微粒子が挙げられる。
【0094】
反応性アルミナ微粒子9の製造に用いる第2の化学吸着液は、アミノ基7を含むアルコキシシラン化合物と、アルコキシシリル基とアルミナ微粒子5の表面の水酸基6との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0095】
アミノ基7を含むアルコキシシラン化合物としては、直鎖状アルキレン基の両末端に、アミノ基およびアルコキシシリル基をそれぞれ有し、下記の一般式(化4)で表されるアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0096】
【化4】

【0097】
上式において、mは3〜20の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。なお、アミノ基7は、アルコキシシリル基との副反応を避けるために、保護基によって保護されていてもよい。保護基は加水分解等により容易に除去できるものが好ましく、ケトンとアミノ基との反応により生成するケチミン誘導体等が挙げられる。
また、アミノ基7は、化4に示したような1級アミン以外に2級アミンでもよく、アミノ基7の代わりにピロール基、イミダゾール基等のイミノ基を有する官能基を含むアルコキシシラン化合物を用いることができる。
【0098】
第2の化学吸着液中にアルミナ微粒子5を分散させ、室温の空気中で反応させると、アルコキシシリル基とアルミナ微粒子5の表面の水酸基6とが縮合反応を起こし、下記の化5で示されるような構造を有するアミノ基を含む単分子膜8を生成する。なお、酸素原子から延びた3本の単結合は基材1の表面または隣接するシラン化合物のケイ素(Si)原子と結合しており、そのうち少なくとも1本は基材1の表面のケイ素原子と結合している。
【0099】
【化5】

【0100】
アルコキシシリル基は、水分の存在下で分解するので、反応は相対湿度45%以下の空気中で行うことが好ましい。なお、縮合反応は、アルミナ微粒子5の表面に付着した油脂分や水分により阻害されるので、アルミナ微粒子5をよく洗浄して乾燥することにより、これらの不純物を予め除去しておくことが好ましい。
縮合触媒として上述の金属塩のいずれかを用いた場合、縮合反応の完了までに要する時間は2時間程度である。
【0101】
第1の化学吸着液において用いることのできる縮合触媒のうち、スズ(Sn)塩を含む化合物は、アルコキシシラン誘導体に含まれるアミノ基7と反応して沈殿を生成するため、第2の化学吸着液において縮合触媒として用いることができない。
したがって、第2の化学吸着液においては、カルボン酸スズ塩、カルボン酸エステルスズ塩、カルボン酸スズ塩ポリマー、カルボン酸スズ塩キレートを除き、第1の化学吸着液と同様の化合物を単独でまたは2種類以上を混合して縮合触媒として用いることができる。
第2の化学吸着液に用いることのできる助触媒の種類およびそれらの組み合わせ、溶媒の種類、アルコキシシラン化合物、縮合触媒、および助触媒の濃度、反応条件ならびに反応時間については第1の化学吸着液と同様であるので、説明を省略する。
【0102】
反応後、溶媒で洗浄し、表面に残った過剰なアルコキシシラン化合物および縮合触媒を除去すると、アミノ基を含む単分子膜8で表面が覆われた反応性アルミナ微粒子9が得られる。このようにして製造される反応性アルミナ微粒子9の断面構造の模式図を図3(b)に示す。なお、図3(b)においては、アミノ基を有する単分子膜8の一例として、下記の化6で表される構造を有するものを示している。
【0103】
【化6】

【0104】
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい。
【0105】
反応後、生成した反応性アルミナ微粒子9を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、反応性アルミナ微粒子9の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、反応性アルミナ微粒子9の表面に共有結合により固定されていないが、アミノ基7を含んでいるため、反応性基材4に対してアミノ基を含む単分子膜8と同様の反応性を有している。そのため、洗浄を行わなくても、工程C以降の撥水撥油防汚性反射板12の製造工程に特に支障をきたすことはない(以上工程B)。
【0106】
工程Aにおいて用いることができるエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物の一例としては、下記(1)〜(11)に示した化合物が挙げられる。また、工程Bにおいて用いることができるアミノ基を有するアルコキシシラン化合物の一例としては、下記(12)〜(18)に示した化合物が挙げられる。
【0107】
(1)(CHOCH)CHO(CHSi(OCH
(2)(CHOCH)CHO(CHSi(OCH
(3)(CHOCH)CHO(CH11Si(OCH
(4)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OCH
(5)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OCH
(6)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OCH
(7)(CHOCH)CHO(CHSi(OC
(8)(CHOCH)CHO(CH11Si(OC
(9)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OC
(10)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OC
(11)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OC
(12)HN(CHSi(OCH
(13)HN(CHSi(OCH
(14)HN(CHSi(OCH
(15)HN(CHSi(OCH
(16)HN(CHSi(OC
(17)HN(CHSi(OC
(18)HN(CHSi(OC
【0108】
ここで、(CHOCH)CHO−基は、化7で表される官能基(グリシドキシ基)を表し、(CHCHOCH(CH)CH−基は、化8で表される官能基(3,4−エポキシシクロヘキシル基)を表す。
【0109】
【化7】

【0110】
【化8】

【0111】
なお、本実施の形態においては、第1の官能基としてエポキシ基を、第2の官能基としてアミノ基をそれぞれ用いたが、第1の官能基としてアミノ基を、第2の官能基としてエポキシ基をそれぞれ用いてもよい。
【0112】
工程Cでは、反応性基材4と反応性アルミナ微粒子9とを接触させた状態で加熱してエポキシ基3とアミノ基7とを反応させ、アルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合した基材10を製造する。
反応性アルミナ微粒子9を分散液中に分散させ、反応性基材4に塗布後、分散液を蒸発させる。その後加熱すると、化9に示したようなエポキシ基とアミノ基との付加反応により、アルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合した基材10が得られる。
【0113】
【化9】

【0114】
反応性アルミナ微粒子9の分散液としては、エポキシ基3およびアミノ基7と副反応を起こさず、基材1およびアルミナ微粒子5の表面をそれぞれ覆っているエポキシ基を含む単分子膜3aおよびアミノ基を含む単分子膜8を破壊しない任意の液体を用いることができる。好ましい分散液としては、エタノールが挙げられる。
エポキシ基とアミノ基との反応の場合、好ましい反応温度は100℃、好ましい反応時間は30分である。
【0115】
反応後、洗浄溶媒で洗浄すると、未反応の反応性アルミナ微粒子9が除去され、アルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合した基材10が得られる。このようにして製造されるアルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材10の断面構造の模式図を図4に示す。
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい(以上工程C)。
【0116】
工程Dでは、アルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合した基材10を、酸素を含む雰囲気中で加熱処理し、基材1およびアルミナ微粒子5の表面を覆う単分子膜を分解させ、併せて基材1とアルミナ微粒子5とを融着させることにより、融着した単層のアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1a(図5参照)を製造する。
加熱処理温度は、基材1およびアルミナ微粒子5の表面を覆う単分子膜が分解する温度、および基材1とアルミナ微粒子5との融着が起こる温度よりも高く、かつ基材1およびアルミナ微粒子5の融解温度よりも低くなければならない。基材1として青板ガラスを用いた場合には、好ましい加熱処理温度は650度程度である。また、反応時間は、650℃の空気中で加熱処理を行った場合には30分である。
このようにして得られた融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aの断面構造の模式図を図5に示す(以上工程D)。
【0117】
工程Eでは、融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aの表面に撥水撥油防汚性被膜11を形成し、撥水撥油防汚性反射板12を製造する。
【0118】
撥水撥油防汚性反射板12の製造に用いる第3の化学吸着液は、フッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物と、融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aの表面の水酸基とアルコキシシリル基との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0119】
フッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物としては、下記の一般式(化10)で表されるアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0120】
【化10】

【0121】
上式において、mは0〜20の整数を、nは0〜9の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。
また、Yは、(CH(kは1〜3の整数を表す)および単結合のいずれかを表し、Zは、O(エーテル酸素)、COO、Si(CH、および単結合のいずれかを表す。
【0122】
第3の化学吸着液に用いることのできる縮合触媒、助触媒の種類およびそれらの組み合わせ、溶媒の種類、アルコキシシラン化合物、縮合触媒、および助触媒の濃度、反応条件ならびに反応時間については第1の化学吸着液と同様であるので、説明を省略する。
【0123】
本実施の形態においては、アルコキシシラン化合物を用いた場合について説明したが、フッ化炭素基を有するハロシラン化合物を用いてもよい。ハロシラン化合物を用いる場合には、縮合触媒および助触媒が不要であること、アルコール系溶媒が使用できないこと、アルコキシシラン化合物より加水分解を受けやすいので、乾燥溶媒を用い、乾燥空気中(相対湿度30%以下)で反応を行うことを除き、アルコキシシラン化合物と同様に第3の化学吸着液の調製および融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aとの反応を行うことができる。
このようにして得られる撥水撥油防汚性反射板12の断面構造の模式図を図1に示す。なお、図1においては、撥水撥油防汚性被膜11の一例として、下記の化11で表される構造を有するものを示している。
【0124】
【化11】

【0125】
単分子膜状の撥水撥油防汚性被膜11の膜厚は、たかだか1nm程度であるため、融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aの表面に形成された50nm程度の凸凹はほとんど損なわれることがない。また、この凸凹の効果(いわゆる「蓮の葉効果」)により、撥水撥油防汚性反射板12の見かけ上の表面エネルギーを小さくでき、水滴接触角は、140度以上(本実施の形態では150度程度)となり、超撥水が実現できる。
【0126】
また、撥水撥油防汚性反射板12の基材ガラスの表面には、ガラスよりも硬度が高いアルミナ微粒子5が融着しているので、耐摩耗性も大幅に向上している。
また、撥水撥油防汚性反射板12において、基材1の表面に形成されたアルミナ微粒子5および撥水撥油防汚性被膜11を含む被膜の厚さは、全体で100nm程度であるため、基材1の透明性が損なわれることもない。
【0127】
反応後、生成した撥水撥油防汚性反射板12を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、撥水撥油防汚性反射板12の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、単分子膜と異なり、その全体が撥水撥油防汚性反射板12の表面に共有結合により固定されていることはないが、フッ化炭素基を有しているため撥水撥油防汚性を有している。そのため、多少耐久性に劣る点を除けば、このままの状態でも撥水撥油防汚性反射板12として使用できる。
【0128】
また、工程Eにおいて用いることができるフッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物としては、下記(21)〜(32)に示す化合物が挙げられる。
【0129】
(21)CFCHO(CH15Si(OCH
(22)CF(CHSi(CH(CH15Si(OCH
(23)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OCH
(24)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OCH
(25)CFCOO(CH15Si(OCH
(26)CF(CF(CHSi(OCH
(27)CFCHO(CH15Si(OC
(28)CF(CHSi(CH(CH15Si(OC
(29)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(30)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(31)CFCOO(CH15Si(OC
(32)CF(CF(CHSi(OC
【0130】
また、工程Eにおいて用いることができるフッ化炭素基を含むハロシラン化合物としては、下記(41)〜(46)に示す化合物が挙げられる。
【0131】
(41)CFCHO(CH15SiCl
(42)CF(CHSi(CH(CH15SiCl
(43)CF(CF(CHSi(CH(CHSiCl
(44)CF(CF(CHSi(CH(CHSiCl
(45)CFCOO(CH15SiCl
(46)CF(CF(CHSiCl
【0132】
本実施の形態においては、工程Aにおいて基材1をそのまま反応性基材4の製造に用いたが、基材1よりも低い温度でアルミナ微粒子5を融着する被膜を基材1の表面に形成する工程Fを工程Aの前に行ってもよい。
被膜としては、透明性を有し基材1よりも低い温度でアルミナ微粒子5を融着することのできる任意の被膜(透明被膜)を用いることができるが、ゾルゲル法により形成された酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の金属酸化物の乾燥ゲル膜が好ましい。
縮合触媒を含む金属アルコキシドの溶液を基材1表面に塗布後溶媒を蒸発させると、空気中の水分によるアルコキシル基の加水分解により生成する水酸基とアルコキシル基との間で縮合反応が起こり、基材1の表面に金属酸化物の透明な乾燥ゲル膜が形成される。
未焼結の乾燥ゲル膜の表面および内部には、基材1よりも多くの遊離の水酸基が存在するため、基材1よりも低い温度でアルミナ微粒子5と融着できる。
【0133】
透明被膜の一例であるシリカの乾燥ゲル膜の形成は、テトラメトキシシラン(Si(OCH)等のテトラアルコキシシラン、縮合触媒および溶媒を混合して得られるゾル溶液を基材1の表面に塗布し、溶媒を蒸発させることにより行うことができる。
用いることのできる縮合触媒、助触媒、溶媒の種類、テトラアルコキシシランの濃度、触媒の添加量については第1の化学吸着液と同様であるので、説明を省略する。
【0134】
ゾル溶液の塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷法等の任意の方法により行うことができる。
また、乾燥ゲル膜の膜厚は、撥水撥油防汚性反射板12の製造に用いるアルミナ微粒子5の粒径にもよるが、10〜50nmが好ましい。
このようにして得られたシリカの乾燥ゲル膜を表面に有する基材1を用いて撥水撥油防汚性反射板12の製造を行うと、工程Dにおける加熱処理を300度以下の低温で行うことが可能となり、あらかじめ風冷強化されたガラスの強化度を劣化させることなく融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材1aを製造できる。
【0135】
撥水撥油防汚性反射板12は、150度程度の水滴接触角を有している。
参考として、異なる体積の水滴(0.02〜0.08ml)を用いた実験より求められた、撥水性表面上における水滴に対する接触角と転落角の関係を図6に示す。このグラフより明らかなように、水滴接触角が150度以上のとき、水滴の体積に関係なく転落角は15度以下となる。
そのため、撥水撥油防汚性反射板12を乗り物や建築物の窓ガラス板として用いた場合、ほとんどの水滴は表面にとどまることができずに転落することがわかる。
【0136】
撥水撥油防汚性反射板12は、耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性)、ならびに防汚性に優れており、撥水撥油防汚機能が要求される乗り物や建築物の窓用ガラス板として用いることができる。
撥水撥油防汚性反射板12を用いることのできる乗り物としては、自動車、鉄道車両、船舶等が挙げられ、運転席、客室等の別を問わずあらゆる窓の窓用ガラス板として用いることができる。
また、撥水撥油防汚性反射板12を用いることのできるものとしては、トンネル、道路標識、表示板(看板を含む)、乗り物、建物などがある。
【実施例】
【0137】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0138】
なお、本発明に係る撥水撥油防汚性反射板を用いる場所としては、前述ようにトンネル、道路標識、表示板(看板を含む)、乗り物、建物などに設ける反射板があるが、代表例として以下トンネルの内装板を取り上げて説明する。なお、実施例に使用する図面と、実施の形態に説明に使用した図面とが同一の場合にはそのまま使用する。図面に付した番号もそのまま使用するので、実施の形態の名称と実施例に使用した名称が下位概念となって異なる場合もある。
【0139】
(実施例1)
まず、図1、図2に示すように、トンネル用反射内装板射に用いる白色琺瑯基材1を用意し、よく洗浄して乾燥した。
次に、化学吸着剤として機能部位に反応性の官能基、例えば、一端にエポキシ基を含み他端にアルコキシシリル基を含む薬剤、例えば、下記化学式(化12)に示す薬剤が99重量%、シラノール縮合触媒として、例えば、ジブチル錫ジアセチルアセトナートが1重量%となるようそれぞれ秤量し、シリコーン溶媒、例えば、ヘキサメチルジシロキサン溶媒に合計1重量%程度の濃度(好ましくい化学吸着剤の濃度は、0.5〜3%程度)になるように溶かして化学吸着液を調製した。
【0140】
【化12】

【0141】
この吸着液を前記琺瑯基材1表面に塗布し、普通の空気中で(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。このとき、図2(a)に示すように、前記琺瑯基材1の表面には水酸基2が多数含まれているので、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基と前記水酸基2がシラノール縮合触媒の存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応し、図2(b)に示すように、前記した化学式(化3)に示したような結合を形成し、反射表面全面に亘り表面と化学結合したエポキシ基を含む化学吸着単分子膜3が約1ナノメートル程度の膜厚で形成される。
【0142】
その後、クロロホルムで洗浄すると、表面に反応性のエポキシ基を有する化学吸着単分子膜で被われた琺瑯基材4を製造できた。
ここで、洗浄せずに空気中に取り出し放置すると、溶媒が蒸発し基材表面に残った化学吸着剤が基材表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄のポリマー膜が形成された。なお、この被膜でも、以下に述べる反応性はほとんど変わらなかった。
【0143】
一方、図3(a)に示すように、大きさが5μm程度の透明シリカ微粒子5(透明であればアルミナやジルコニアの微粒子でも良い。なお、形状は、球形でも短繊維状でもその他異形でも問題はなかった。)を用意して、よく乾燥した。次に、化学吸着剤として機能部位にエポキシ基と反応するイミノ基(−NH)を含み他端にアルコキシシリル基を含む薬剤、例えば、末端にアミノ基を含む下記化学式(化13)に示す薬剤が99重量%、シラノール縮合触媒として有機酸である酢酸を1重量%となるようそれぞれ秤量し、シリコーンとジメチルホルムアミドを同量混合した溶媒、例えば、ヘキサメチルジシロキサン50%とジメチルホルムアミド50%の溶液に合計1重量%程度の濃度(好ましくい化学吸着剤の濃度は、0.5〜3%程度)になるように溶かして化学吸着液を調製した。
【0144】
【化13】

【0145】
この吸着液に前記シリカ微粒子を混入撹拌して普通の空気中で(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。このとき図3(a)に示すように、シリカ微粒子5の表面には水酸基6が多数含まれているので、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基と前記水酸基が酢酸の存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応し、下記化学式(化14)に示したような結合を形成し、シリカ微粒子表面全面に亘り表面と化学結合したアミノ基7を含む化学吸着単分子膜8が約1ナノメートル程度の膜厚で形成される。
【0146】
【化14】

その後、塩素系溶媒であるクロロホルムかn−メチルピロリディノンを添加して撹拌洗浄すると、実施例1と同様に、表面に反応性の官能基、ここでは図3(b)に示すように、アミノ基を有する化学吸着単分子膜で被われたシリカ微粒子9を形成できた。なお、ここで、アミノ基を含む吸着剤を使用する場合には、シラノール縮合触媒であるスズ系の触媒は沈殿が生成するので、酢酸等の有機酸を用いた方がよかった。また、アミノ基はイミノ基を含んでいるが、アミノ基以外にイミノ基を含む物質には、ピロール誘導体や、イミダゾール誘導体等が利用できた。さらに、ケチミン誘導体を用いれば、被膜形成後、加水分解により容易にアミノ基を導入できた。
【0147】
この処理により形成された単分子膜は、琺瑯基材4と同様に、ナノメートルレベルの膜厚で極めて薄いため、シリカ微粒子の粒子径や表面形状を損なうことはなかった。
なお、洗浄せずに空気中に取り出すと、反応性はほぼ変わらないが、溶媒が蒸発し粒子表面に残った化学吸着剤が粒子表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄のポリマー膜が形成されたシリカ微粒子が得られた。
【0148】
次ぎに、前記エポキシ基を有する化学吸着単分子膜で被われた基材表面に、前記アミノ基を有する化学吸着単分子膜で被われたシリカ微粒子をエタノールに分散させて塗布し、エタノールを蒸発させた後、100℃程度で30分程度加熱すると、下記化学化学式(化15)に示したような反応でエポキシ基とアミノ基が付加反応して反射とシリカ微粒子が2つの単分子膜を介して結合固定した。
【0149】
【化15】

【0150】
その後、さらにクロロホルム等の有機溶媒で洗浄すると、余分な未反応のアミノ基を有する化学吸着単分子膜で被われたシリカ微粒子が除去され、基材1表面とシリカ微粒子5が前記2つの単分子膜を介して1層のみ共有結合した表面が凸凹の基材10が得られた(図4)。
【0151】
そこでさらに、前記単分子膜が分解する温度以上で且つ琺瑯基板表面の琺瑯膜が融解する温度以上で、下地鉄板が融解しない温度未満、すなわち、この場合、琺瑯の下地は鉄板であるが、表面に微粒子融着用の被膜となる釉膜が形成されているため、この釉膜を酸素を含む雰囲気中、例えば空気中で750度程度で30分間程度加熱すれば、微粒子接合部の有機膜は分解し除去されシリカ微粒子(融点は1000℃程度でも融解することはない。)5を微粒子の形状をほとんど損なうことなく琺瑯基板1’表面に直接融着固定できた(図5)。
【0152】
一方、ここで、あらかじめ基材表面に微粒子融着用の被膜としてさらに融点が低い親水性の被膜、例えばゾル−ゲル法を用いたシリカ含有膜等をあらかじめ形成しておくと、この被膜を介してより融点が低いガラス微粒子でも微粒子の形状をほとんど損なうことなくより低温で下地基板表面に間接的に融着固定できた。なお、この場合には、焼成温度を300度以下の低温で行うことが可能となり、あらかじめ風冷強化されたガラス板を下地基材として用いても、強化強度を劣化させることなく表面が凸凹のガラス板を製造できた。
また、琺瑯基材の代わりに、セラミック製品であるタイル等の陶磁器を用いても同様の凸凹板を製造できた。
【0153】
次に、単分子膜を形成すると臨界表面エネルギー10mN/m以下になるフッ化炭素基(機能部位)およびクロロシリル基(活性部位)を含む化学吸着剤、例えばCF(CF27(CH22SiCl3を1重量%程度の濃度で非水系溶媒(例えば、脱水したノナン)に溶かして化学吸着溶液(以下吸着溶液という)を調製した。この吸着溶液を、乾燥雰囲気中(相対湿度30%以下が好ましかった。)で前記基材表面に塗布し反応させると、基材1表面と基材表面のシリカ微粒子4表面は多数の水酸基で被われているので、前記化学吸着剤のクロロシリル基(SiCl)基と前記基材およびシリカ微粒子表面の水酸基とで脱塩酸反応が生じ、基材およびシリカ微粒子表面全面に亘り、下記化学式(化16)に示す共有結合が生成さる。次ぎに、フロン系の溶媒で洗浄すると、前記化学吸着剤よりなる撥水性単分子膜11で被われた撥水撥油防汚性の反射板12が得られた(図1)。
【0154】
【化16】

【0155】
この単分子膜の膜厚は、たかだか1nm程度であるため、シリカ微粒子により形成された基材表面の5μm程度の凸凹はほとんど損なわれることがなかった。また、この凸凹の効果により、この反射板の見かけ上の水滴接触角は、130度程度となり、超撥水が実現できた。
【0156】
なお、このとき、大きさが異なる100〜1μm程度の微粒子を混合して用いると、さらに撥水撥油防汚性能と反射性能に優れた反射板が得られた。また、前記微粒子に1000〜10nmの粒径の微粒子を混合して用いると、フラクタル構造の表面凸凹形状を形成でき、さらに撥水撥油防汚性に優れた反射板が得られた。
ここで、表面粗さが可視光の波長より小さいと、入射光は大部分正反射してしまい反射性能が劣化してしまった。反射効率を高めるためには、微粒子の大きさは、可視光波長(380〜700nm)より大きい方がよく、汚れにくくするには小さい方が良かった。好ましくは、粒径が100〜1μm、より好ましくは10〜1μmであった。さらに、この粒子に1000〜10nm程度の微粒子を混合(例えば、1:10〜50の混合比で)して用いておけば、表面乱反射性能を維持した理想的なフラクタル構造の表面粗さを実現でき、撥水撥油防汚性能をより一層向上できた。形状は、球形でも異形でも問題はなかった。
【0157】
なお、比較のために、平坦な基材表面にCF(CF27(CH22SiCl3を用いて作成してみたが、単分子膜の臨界表面エネルギーは6mN/m程度になり、最大水滴接触角は115度程度であった。これに対して、本発明では、少なくとも130度以上を実現できた。
【0158】
一方、シリカ微粒子は琺瑯膜よりも硬度が高く、しかも基材表面とは直接融着されているため、直接琺瑯基材表面にCF(CF27(CH22SiCl3を用いて作成された単分子膜に比べて耐摩耗性も大幅に向上できた。
【0159】
また、洗浄せずに空気中に取り出すと、溶媒が蒸発し基材表面に残った化学吸着剤が基材表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄のポリマー膜が形成されたが、この被膜でも、撥水撥油防汚性はほとんど変わらなかった。
【0160】
(実施例2)
なお、実施例1同様に、基材表面にシリカ微粒子を1層のみ融着した基材を作成後、一端にフッ化炭素基(−CF)を含み他端にアルコキシシリル基を含む薬剤、例えば、CF(CF27(CH22Si(OCH)3で示す薬剤を99重量%、シラノール縮合触媒として、例えば、ジブチル錫ジアセチルアセトナートを1重量%となるようそれぞれ秤量し、シリコーン溶媒、例えば、ヘキサメチルジシロキサン溶媒に1重量%程度の濃度(好ましくい化学吸着剤の濃度は、0.5〜3%程度)に溶かして化学吸着液を調製し、基材表面にシリカ微粒子が1層のみ共有結合した基材を漬浸し2時間程度反応させた後、余分な吸着剤を洗浄除去すると、アルコキシシリル基は、アミノ基と脱アルコール反応して、実施例1と同様の撥水撥油防汚性反射板を製造できた。
【0161】
(実施例3)
一方、実施例1とは反対に、同様の方法で基材表面にアミノ基を有する化学吸着単分子膜を形成し、シリカ微粒子表面にエポキシ基を有する化学吸着単分子膜を形成し、同じ反応で基材表面にシリカ微粒子を1層固着させ、最後にCF(CF27(CH22SiCl3を反応させると、SiCl基は、エポキシ基とも反応するので、実施例1と同様の撥水撥油防汚性反射を製造できた。
【0162】
なお、上記実施例1〜3では、反応性基を含む化学吸着剤として(化1)と(化3)に示した物質を用いたが、上記のもの以外にも、下記(1)〜(16)に示した物質が利用できた。
(1)(CHOCH)CH2O(CH2)Si(OCH)3
(2)(CHOCH)(CH2)10Si(OCH)3
(3)(CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(4)(CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(5)(CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(6)(CHOCH)CH2O(CH2)Si(OC)3
(7)(CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OC)3
(8)(CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(9)(CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(10)(CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(11) H2N(CH2)Si(OCH)3
(12) H2N(CH2)Si(OCH)3
(13)H2N(CH2)Si(OCH)3
(14)H2N(CH2)Si(OC)3
(15) H2N(CH2)Si(OC)3
(16)H2N(CH2)Si(OC)3
【0163】
ここで、(CHOCH)−基は、下記式(化7)で表される官能基を表し、(CHCHOCH(CH)CH−基は、下記式(化8)で表される官能基を表す。
【0164】
【化17】

【0165】
【化18】

【0166】
また、上記実施例1、3では、フッ化炭素系化学吸着剤としてCF3(CF27(CH22SiCl3を用いたが、上記のもの以外にも、炭化水素系を含めて下記(21)〜(26)に示した物質が利用できた。
(21)CF3CH2O(CH2)15SiCl3
(22)CF3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(23)CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(24)CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(25)CF3COO(CH2)15SiCl3
(26)CF3(CF2)5(CH2)2SiCl3
【0167】
さらにまた、上記実施例2では、フッ化炭素系化学吸着剤としてCF3(CF27(CH22Si(OCH)3を用いたが、上記のもの以外にも、下記(31)〜(42)に示した物質が利用できた。
【0168】
(31)CF3CH2O(CH2)15Si(OCH)3
(32)CF3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15Si(OCH)3
(33)CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9Si(OCH)3
(34)CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9Si(OCH)3
(35)CF3COO(CH2)15Si(OCH)3
(36)CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH)3
(37)CF3CH2O(CH2)15Si(OC)3
(38)CF3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15Si(OC)3
(39)CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9Si(OC)3
(40)CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9Si(OC)3
(41)CF3COO(CH2)15Si(OC)3
(42)CF3(CF2)5(CH2)2Si(OC)3
【0169】
なお、実施例1〜3に置いて、シラノール縮合触媒には、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレート類が利用可能である。さらに具体的には、酢酸第1錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクタン酸第1錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチル錫ビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチル錫マレイン酸エステル塩、ジブチル錫マレイン酸塩ポリマー、ジメチル錫メルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネートおよびビス(アセチルアセトニル)ジープロピルチタネートを用いることが可能であった。
【0170】
また、膜形成溶液の溶媒としては、化学吸着剤がアルコキシシラン系、クロロシラン系何れの場合も、水を含まない有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、あるいはフッ化炭素系溶媒やシリコーン系溶媒、あるいはそれら混合物を用いることが可能であった。なお、洗浄を行わず、溶媒を蒸発させて粒子濃度を上げようとする場合には、溶媒の沸点は50〜250℃程度がよい。
【0171】
具体的に使用可能な溶媒は、クロロシラン系の場合は、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
さらに、吸着剤がアルコキシシラン系の場合で且つ溶媒を蒸発させて有機被膜を形成する場合には、前記溶媒に加え、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、あるいはそれら混合物が使用できた。
【0172】
また、フッ化炭素系溶媒には、フロン系溶媒や、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭反射社製品)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、クロロホルム等有機塩素系の溶媒を添加しても良い。
【0173】
一方、上述のシラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物または有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いた場合、同じ濃度でも処理時間を半分〜2/3程度まで短縮できた。
【0174】
さらに、シラノール縮合触媒とケチミン化合物、または有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を混合(1:9〜9:1範囲で使用可能だが、通常1:1前後が好ましい。)して用いると、処理時間をさらに数倍早くでき、製膜時間を数分の一まで短縮できる。
【0175】
例えば、シラノール触媒であるジブチル錫オキサイドをケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3に置き換え、その他の条件は同一にしてみたが、反応時間を1時間程度にまで短縮できた他は、ほぼ同様の結果が得られた。
【0176】
さらに、シラノール触媒を、ケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3と、シラノール触媒であるジブチル錫ビスアセチルアセトネートの混合物(混合比は1:1)に置き換え、その他の条件は同一にしてみたが、反応時間を20分程度に短縮できた他は、ほぼ同様の結果が得られた。
【0177】
したがって、以上の結果から、ケチミン化合物や有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物がシラノール縮合触媒より活性が高いことが明らかとなった。
【0178】
さらにまた、ケチミン化合物や有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物の内の1つとシラノール縮合触媒を混合して用いると、さらに活性が高くなることが確認された。
【0179】
なお、ここで、利用できるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等がある。
【0180】
また、利用できる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、あるいは酢酸、プロピオン酸、ラク酸、マロン酸等があり、ほぼ同様の効果があった。
【0181】
また、上記3つの実施例では、シリカ微粒子を例として説明したが、本発明は、表面に活性水素、すなわち水酸基の水素やアミノ基あるいはイミノ基の水素などを含んだ微粒子で有れば、どのような微粒子にでも適用可能であった。
【0182】
具体的には、基材が紙、布、樹脂であれば、微粒子融着用の被膜に各種低融点樹脂やゾル−ゲル法を用いたシリカ系被膜を用い、微粒子には、前記微粒子融着用の被膜樹脂より融点が高い樹脂微粒子、ガラス微粒子、アルミナ微粒子やジルコニア微粒子、金属微粒子、マイカ微粒子が使用できた。
【0183】
例えば、表面が親水性の樹脂微粒子であるナイロン微粒子でも、微粒子融着用の被膜としてより融点が低い酢酸ビニル樹脂等を用い、溶剤系に基材や微粒子を溶解しないアルコールを用いれば、同様の撥水撥油防汚性反射板を製造できた。
【0184】
また、基材が、ガラス、金属、またはセラミックスであれば、微粒子融着用の被膜に各種低融点樹脂やゾル−ゲル法を用いたシリカ系被膜や釉膜を用い、微粒子には、前記微粒子融着用の被膜樹脂より融点が高い樹脂微粒子、ガラス微粒子、アルミナ微粒子やジルコニア微粒子、金属微粒子、マイカ微粒子が使用できた。
なお、金属微粒子やマイカ微粒子を用いた場合には、それ自身は透明ではないが、乱反射性能をより一層向上できた。
【0185】
さらにまた、上述の反射板をポスターや看板や表示板として用いる場合には、基材が紙、布、樹脂であれば、微粒子融着用の被膜に各種低融点樹脂やゾル−ゲル法を用いたシリカ系被膜を用い、さらに染料、顔料、金属微粒子、あるいはマイカ微粒子を混合しておくことで任意のパターンに着色できた。
また、基材がガラス、金属、またはセラミックスであれば、微粒子融着用の被膜にゾル−ゲル法を用いたシリカ系被膜や釉膜を用い、顔料、金属微粒子、あるいはマイカ微粒子を混合しておくことで任意のパターンに着色できた。
【0186】
(実施例4)
実施例1で作成した反射板と同条件で作成した水滴接触角が130度程度(水滴接触角が高いほど防汚性は高いが、実用上、水滴接触角が130以上であれば同様の効果が得られた。)の撥水撥油防汚性反射板をトンネル内の側壁に装着し、走行実験を試みた。
【0187】
初めに、トンネル内照明を点灯した状態で走行してみると、ヘッドランプを点灯していなくとも、中央線と同様に照明光が側壁で反射するため、側壁視認性は大幅に向上できた。
次に、トンネル内照明を半分点灯した状態で走行してみたが、ヘッドランプを点灯していなくとも、中央線と同様に照明光が側壁で反射するため、側壁視認性は十分確保でき、安全運転に支障はなかった。
【0188】
さらに、トンネル内照明を消した状態でも、ヘッドランプを点灯していれば、ヘッドランプの照明光が側壁で運転席方向に反射され、道路中央線と同様に側壁視認性は確保でき、安全運転に支障はなかった。
【0189】
一方、1、3,6ヶ月後の汚れ具合を調べてみたが、本発明の反射板を装着してない白色壁面は、6ヶ月後には多量のススが付着し白色度が大幅に劣化したが、本発明の反射板は、白色度を維持できた。さらに、1年後の結果では、本発明の反射板を装着してない白色壁面は、多量のススが付着し白色度がさらに大幅に劣化したが、本発明の反射板は、白色度をある程度維持できた。
そこで、洗浄のしやすさを評価してみると、従来の白色反射板では、水を吹き付ける程度では、ススを除去できなかったが、本発明の反射板では、容易に洗浄除去できて、反射性能を回復できた。このことは、本発明の反射板の見かけ上の表面エネルギーが非常に小さい(実際に、ジスマンプロットを用いて実測してみると、3mN/m以下であった。)ことによる。
【0190】
なお、汚れの原因は、空気中の浮遊油が多少付着して、その被膜とススが混じり合い反射板表面に付着するためである。したがって、従来の反射板では、表面エネルギーが高いため、水圧より汚れの付着強度が大きく、水をはじいて除去できないことが判明した。これに対して、本発明の反射板では、蓮の葉と同様に表面エネルギーが非常に小さく、汚れを水圧で容易に剥離でき、洗浄除去できて反射性能を回復できた。
【0191】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で、道路標識や表示板、看板を試作し、道路近傍に設置し、汚れぐわいや耐久性を従来のものと比較評価した。
従来の道路標識や表示板、看板では、照明を消すと遠くからほとんど識別できなかったが、本発明の道路標識や表示板、看板では、道路中央線以上に大幅に識別性能を向上できた。
【0192】
また、この場合、使用期間に応じて砂埃や浮遊油脂が表面に付着して汚れてくるが、雨が降るとほぼ完全に洗い流され、実用上不都合は全くなかった。
さらにまた、防汚耐久性も5年以上は保証できることが判明した。
さらに、本発明の反射板を、テールランプ部に装着した自動車を試作し、後方よりヘッドランプを照射した場合、点灯したテールランプと同様に遜色なく識別できた。
【0193】
(実施例6)
実施例2と同様の方法で、反射性能の高い建物内装用クロスを試作し室内に装着して、省エネ性を従来のクロス貼りと比較評価した。
この場合、照明電力を約70%まで低減しても、従来のクロス貼りの場合とほぼ同様の室内の明るさを維持できた。
【0194】
また、この場合も、使用期間に応じて埃や浮遊油脂が表面に付着して汚れてくるが、掃除機で吸引するだけでほぼきれいになり、実用上不都合は全くなかった。さらにまた、防汚耐久性も10年以上は保証できることが判明した。
一方、外装板を試作して建物の屋壁に装着してみると、従来の外装版に比べて省エネ効果はほとんどみられなかったが、防汚効果は、格段に向上し、ホースで水を吹き付ける程度では、汚れを除去できた。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性反射板の断面構造を模式的に表した説明図である。
【図2】同撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、基材の表面にエポキシ基を含む単分子膜を形成する工程を説明するために分子レベルまで拡大した模式図であり、(a)は反応前のガラス表面の断面構造、(b)はエポキシ基を含む単分子膜が形成された反応性基材の断面構造をそれぞれ表す。
【図3】同撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、アルミナ微粒子の表面にアミノ基を含む単分子膜を形成する工程を説明するために分子レベルまで拡大した模式図であり、(a)は反応前のアルミナ微粒子の断面構造、(b)はアミノ基を含む単分子膜が形成された反応性アルミナ微粒子の断面構造をそれぞれ表す。
【図4】同撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、アルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合した基材を製造する工程を説明するためにその断面構造を分子レベルまで拡大した模式図である。
【図5】融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材の断面構造を表す模式図である。
【図6】撥水性表面上における水に対する接触角と転落角との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0196】
1:基材(白色琺瑯基材)、1a:融着したアルミナ微粒子で表面が覆われた基材、2:水酸基、3:エポキシ基(化学吸着単分子膜)、3a:エポキシ基を含む単分子膜、4:反応性基材(琺瑯基材)、5:アルミナ微粒子(透明シリカ微粒子)、6:水酸基、7:アミノ基、8:アミノ基を含む単分子膜、9:反応性アルミナ微粒子(シリカ微粒子)、10:アルミナ微粒子が共有結合を介して表面に結合した基材、11:撥水撥油防汚性被膜、12:撥水撥油防汚性反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面が少なくとも直接または微粒子融着用の被膜を介して融着した撥水撥油防汚性透明微粒子で覆われていることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項2】
請求項1記載の撥水撥油防汚性反射板において、前記透明微粒子として、粒径の異なるものが混合して用いられていることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項3】
請求項1および2のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板において、撥水撥油防汚性被膜が少なくとも前記透明微粒子の表面に共有結合していることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項4】
請求項3記載の撥水撥油防汚性反射板において、前記撥水撥油防汚性被膜が−CF基を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板において、前記透明微粒子が透光性でかつ前記基材より融点が高い樹脂、ガラス、シリカ、アルミナ、およびジルコニアのいずれか1であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板において、前記透明微粒子の粒径が400nm未満であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板において、水に対する接触角が130度以上であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板において、前記微粒子融着用の被膜が、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板において、前記基材が光反射性のステンレス板、またはアルミニウム板であり、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が透明であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板において、前記基材が、紙、布、樹脂、ガラス、金属、またはセラミックスであり、樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が染料、顔料、金属微粒子、あるいはマイカ微粒子を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板を壁面に装着したことを特徴とするトンネル。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板を用いたことを特徴とする道路標識。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板を用いたことを特徴とする表示板。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板を車体内外部に装着したことを特徴とする乗り物。
【請求項15】
請求項1〜10いずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板を外壁や内壁に装着したことを特徴とする建物。
【請求項16】
第1の官能基を含む第1のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第1の化学吸着液を基材に接触させ、前記第1のシラン化合物のシリル基と前記基材の表面の活性水素基との反応により前記第1のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた反応性基材を製造する工程Aと、
前記第1の官能基と反応して共有結合を形成する第2の官能基を含む第2のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第2の化学吸着液中に透明微粒子を分散し、前記第2のシラン化合物のシリル基と前記透明微粒子の表面の活性水素基との反応により前記第2のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた反応性透明微粒子を製造する工程Bと、
前記反応性基材と前記反応性透明微粒子とを接触させた状態で加熱して前記第1の官能基と前記第2の官能基とを反応させ、形成した共有結合を介して前記透明微粒子を表面に結合させた基材を製造する工程Cと、
前記工程Cで前記透明微粒子を表面に結合させた基材を、加熱処理し、前記基材の表面に前記透明微粒子を融着させ、前記融着した透明微粒子で表面が覆われた基材を製造する工程Dと、
フッ化炭素基を含む第3のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第3の化学吸着液を前記融着した透明微粒子で表面が覆われた基材に接触させて、前記第3のシラン化合物のシリル基と前記融着した透明微粒子で表面が覆われた基材の表面の活性水素基との反応により前記フッ化炭素基よりなる撥水撥油防汚性被膜を形成する工程Eとを含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項17】
請求項16記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1および第2の官能基の一方がエポキシ基、他方がアミノ基またはイミノ基であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項18】
請求項16および17のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記工程A、B、およびEのいずれか1〜3の工程で、前記シリル基と前記活性水素基との反応後、未反応物を洗浄除去することを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記工程Aの前に、前記基材の融点よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する透明被膜を前記基材の表面に形成する工程Fをさらに有することを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項20】
請求項19記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記透明皮膜がシリカ系ガラス膜であって、前記工程Fにおける前記透明被膜の形成にゾルゲル法を用いることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項21】
請求項19記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記基材として、紙、布または樹脂を、微粒子融着用の被膜として樹脂膜またはシリカ系ガラス膜をそれぞれ用いることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項22】
請求項19記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記基材として、ガラス、金属、またはセラミックスを、微粒子融着用の被膜として樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜を用いることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項23】
請求項22記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記微粒子融着用の被膜である樹脂膜、シリカ系ガラス膜、または釉膜が、染料、顔料、金属微粒子、あるいはマイカを含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項24】
請求項16〜23のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1〜3はアルコキシシラン化合物であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項25】
請求項16〜23のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1〜3はハロシラン化合物であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項26】
請求項24記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、さらに縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項27】
請求項24記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、縮合触媒としてケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。
【請求項28】
請求項26記載の撥水撥油防汚性反射板の製造方法において、さらに助触媒として、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−246959(P2008−246959A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93617(P2007−93617)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(596063056)財団法人 ひろしま産業振興機構 (24)
【Fターム(参考)】