説明

操舵支援装置

【課題】障害物が移動する場合であっても適切な操舵支援を行うことができる操舵支援装置を提供する。
【解決手段】障害物の位置情報に基づいて障害物を回避するための操舵支援を行う操舵支援装置1であって、障害物が移動物体であるか否かを判定する障害物情報取得部11と、障害物情報取得部11により障害物が移動物体であると判定された場合には、障害物が静止物体である場合に比べて操舵支援の開始タイミングを遅らせる操舵支援タイミング変更部15と、を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、障害物を回避する支援を行う装置として、操舵制御を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の操舵支援装置は、車両の最大減速度、最大横加速度、障害物までの距離及び横移動量に基づいて制動回避限界及び操舵回避限界を算出し、制動回避限界に基づいて制動回避制御の開始タイミングを算出し、操舵回避限界に基づいて操舵回避制御の開始タイミングを算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−096349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の操舵支援装置にあっては、適切な回避支援を行うことができない場合がある。例えば、障害物が移動する場合には、障害物と自車両との位置関係が確定しないため、早めに操舵回避制御を行っても有効な回避支援になるとは限らない。
【0005】
そこで、本発明はこのような技術課題を解決するためになされたものであって、障害物が移動する場合であっても適切な操舵支援を行うことができる操舵支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る操舵支援装置は、障害物の位置情報に基づいて前記障害物を回避するための操舵支援を行う操舵支援装置であって、前記障害物が移動物体であるか否かを判定する障害物判定手段と、前記障害物判定手段により前記障害物が移動物体であると判定された場合には、前記障害物が静止物体である場合に比べて前記操舵支援の開始タイミングを遅らせる支援タイミング変更手段と、を備えて構成される。
【0007】
本発明に係る操舵支援装置では、障害物判定手段により障害物が移動物体であるか否かが判定され、障害物が移動物体であると判定された場合には、支援タイミング変更手段により障害物が静止物体である場合に比べて操舵支援の開始タイミングが遅くされる。このように、障害物が移動する場合には、操舵支援の開始タイミングを遅くすることで、最終的な障害物との位置関係に極力近い状態から操舵支援を開始することができるので、適切な操舵支援を行うことが可能となる。
【0008】
ここで、前記障害物判定手段は、前記移動物体の移動速度を取得し、前記支援タイミング変更手段は、前記移動速度が大きいほど前記操舵支援の開始タイミングを遅らせることが好適である。このように構成することで、最終的な位置関係が大きく変わる障害物ほど開始タイミングを遅らせることができるので、より適切な操舵支援を行うことができる。
【0009】
また、前記操舵支援により発生させる横加速度は、運転者による操舵支援への上書き操舵操作が可能な上限値以下の値とすることが好適である。このように構成することで、運転者の操舵によるオーバーライド容易性を考慮して横加速度を設定することができるので、運転者の操舵操作と装置の操舵支援との調和を適切に図ることが可能となる。
【0010】
また、前記操舵支援により発生させる横加速度は、前記障害物の移動速度が大きいほど大きい値としてもよい。
【0011】
さらに、前記障害物判定手段は、前記障害物が走行レーン横断中の歩行者であるか否かを判定し、前記支援タイミング変更手段は、前記障害物が走行レーン横断中の歩行者であってかつ前記歩行者の横断方向の移動距離が走行レーンの半分より小さい場合には、前記操舵支援の開始タイミングをさらに遅らせることが好適である。
【0012】
このように構成することで、歩行者が走行レーンを横断する際に横断方向の移動距離が走行レーンの中央まで満たない場合には、操舵支援の開始タイミングをさらに遅延させることができるので、歩行者が横断を止めて引き返す可能性を考慮して最終的な歩行者との位置関係に極力近い状態から操舵支援を行うことが可能となる。よって、適切な操舵支援を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、障害物が移動する場合であっても適切な操舵支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る操舵支援装置を備える車両の構成概要を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る操舵支援装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】実施形態に係る操舵支援装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】目標横加速度の障害物移動速度依存性を示すグラフである。
【図5】遅延時間の移動距離及び車線幅依存性を示すグラフである。
【図6】実施形態に係る操舵支援装置の作用効果を説明する概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
本実施形態に係る操舵支援装置は、例えば、進行方向に存在する障害物に対して運転支援もしくは車両制御を行う車両に好適に採用されるものである。
【0017】
最初に、本実施形態に係る操舵支援装置を備える車両の概要から説明する。図1は、本実施形態に係る操舵支援装置1を備える車両3の構成概要を示すブロック図である。図1に示す車両3は、センサ30、ECU2及び車両制御装置31を備えている。ECUは、電子制御する自動車デバイスのコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリ、及び入出力インターフェイスなどを備えて構成されている。
【0018】
センサ30は、車両3の周囲の障害物及び走行環境や、車両3の走行状態を取得する機能を有している。センサ30としては、例えば、車両3が走行する道路のレーンを認識するためのレーン認識センサや障害物を認識する画像センサ、車両3周辺の障害物を検知する電磁波センサやミリ波センサ、車両3のヨーレートを計測するヨーレートセンサ、車両3のハンドル舵角及びタイヤ角を検知する舵角センサ、車両3の車速を計測する車速センサ、車両3の加速度及び横加速度等を検出する加速度センサ等が用いられる。また、センサ30は、取得した情報をECU2へ出力する機能を有している。
【0019】
ECU2は、障害物情報取得部(障害物判定手段)11、車両状態取得部12及び運転支援部13を備えている。
【0020】
障害物情報取得部11は、センサ30により出力された情報に基づいて、障害物の位置、障害物までの距離、障害物の移動速度及び種類(車両、歩行者、静止物等)等を取得する機能を有している。障害物情報取得部11は、取得した障害物に関する情報を運転支援部13へ出力する機能を有している。
【0021】
車両状態取得部12は、センサ30により出力された情報に基づいて、ハンドル舵角、タイヤ角、車速、加速度、横加速度等を取得する。また、車両状態取得部12は、取得した車両に関する情報を運転支援部13へ出力する機能を有している。
【0022】
運転支援部13は、車両3の支援内容を決定する機能を有しており、例えば減速支援及び操舵支援の内容を決定可能に構成されている。例えば、運転支援部13は、障害物情報取得部11により取得された障害物に関する情報、及び車両状態取得部12により取得された車両に関する情報に基づいて、車両3の減速支援の内容を決定する機能を有している。例えば、運転支援部13は、障害物との衝突を回避するように、ブレーキタイミングや減速量等を決定する機能を有している。
【0023】
また、運転支援部13は、操舵支援の内容を決定するために、操舵支援部14及び操舵支援タイミング変更部(支援タイミング変更手段)15を備えている。操舵支援部14は、障害物情報取得部11により取得された障害物に関する情報、及び車両状態取得部12により取得された車両に関する情報に基づいて、車両3の操舵支援の内容を決定する機能を有している。例えば、運転支援部13は、障害物との衝突を回避するように操舵タイミングや発生させる横加速度等を決定する機能を有している。なお、操舵タイミングは障害物が静止物体である場合を想定して決定される。また、操舵支援部14は、後述する操舵支援タイミング変更部15により操舵支援の開始タイミングが変更される場合には、その支援の際に発生させる横加速度が、運転者による操舵支援への上書き操舵操作が可能な上限値以下の値となるように設定する機能を有している。すなわち、操舵支援部14は、所定の横加速度の上限値を超えない範囲で、障害物の移動速度が大きいほど目標横加速度を大きく設定する機能を有している。
【0024】
操舵支援タイミング変更部15は、操舵支援タイミングを変更する機能を有している。例えば、操舵支援タイミング変更部15は、障害物情報取得部11により取得された障害物に関する情報に基づいて、障害物が移動物体である場合には、障害物が静止物体である場合に比べて操舵支援の開始タイミングを遅く変更する機能を有している。また、操舵支援タイミング変更部15は、障害物の移動速度が大きくなるほど操舵支援の開始タイミングを遅く変更する機能を有している。さらに、操舵支援タイミング変更部15は、障害物が走行レーン横断中の歩行者の場合には、歩行者の横断方向の移動距離が走行レーンの半分より小さい場合には、操舵支援の開始タイミングをさらに遅らせる機能を有している。
【0025】
運転支援部13は、制動支援内容や、操舵支援部14及び操舵支援タイミング変更部15により決定された操舵支援内容を車両制御装置31に出力する機能を有している。車両制御装置31は、運転支援部13が出力した運転支援内容に基づいて車両3を制御する機能を有している。例えば、車両制御装置31は、ブレーキアクチュエータ、スロットルバルブ、操舵アクチュエータ等を動作させて車両3の制御を行う機能を有している。
【0026】
上述した障害物情報取得部11、車両状態取得部12、操舵支援部14及び操舵支援タイミング変更部15を備えて操舵支援装置1が構成される。
【0027】
次に、本実施形態に係る操舵支援装置1の動作について説明する。図2は、本実施形態に係る操舵支援装置1の動作を示すフローチャートである。図2に示す制御処理は、例えば、車両3が障害物を検知したタイミングで実行される。
【0028】
図2に示すように、操舵支援装置1は、車速検出処理から開始する(S10)。S10の処理では、車両状態取得部12がセンサ30により検出された車速Vを取得する。S10の処理が終了すると、レーン検出処理へ移行する(S12)。
【0029】
S12の処理では、車両状態取得部12が、センサ30により検出された走行レーンの位置情報を取得する。例えば、車両状態取得部12は、走行レーンの白線の位置情報(x,y)を取得する。S12の処理が終了すると、障害物検出処理へ移行する(S14)。
【0030】
S14の処理では、障害物情報取得部11が、センサ30から障害物に関する情報を取得する。例えば、障害物情報取得部11は、障害物の位置情報(x,y)、障害物の移動速度V、障害物の移動方向及び障害物の種類を取得する。S14の処理が終了すると、距離検出処理へ移行する(S16)。
【0031】
S16の処理では、障害物情報取得部11が、センサ30から障害物に関する情報に基づいて障害物までの距離Lを取得する。例えば、障害物情報取得部11は、画像情報に基づいて障害物までの距離Lを取得する。あるいは、障害物情報取得部11は、ミリ波センサ等の出力値に基づいて距離Lを取得してもよい。S16の処理が終了すると、距離検出処理へ移行する(S18)。
【0032】
S18の処理では、運転支援部13が、障害物と衝突する前に停止するために必要な減速度gを算出する。例えば、運転支援部13は、S10の処理で取得された車速V、及び、S16の処理で取得された障害物までの距離Lに基づいて減速度gを算出する。S18の処理が終了すると、減速度判定処理へ移行する(S20)。
【0033】
S20の処理では、運転支援部13が、S18の処理で算出された減速度gが所定の閾値gよりも大きいか否かを判定する。運転支援部13は、上記判定を行うことで、減速度gを車両3に与えることができるか否かを判定する。ここで、所定の閾値gは、例えば車両性能や路面摩擦係数等を考慮して予め定められる限界減速度であって、例えば0.8Gが用いられる。運転支援部13は、S18の処理で算出された減速度gが所定の閾値gよりも大きくないと判定した場合には、減速度gを車両3に与えることができるので、減速度gで減速するためのブレーキ制御処理へ移行する(S26)。S26の処理では、運転支援部13及び車両制御装置31が、S18の処理で算出された減速度gで減速処理を行う。S26の処理が終了すると、図2に示す制御処理を終了する。
【0034】
一方、S20の処理において、S18の処理で算出された減速度gが所定の閾値gよりも大きいと判定した場合には、減速処理だけでは障害物を回避しきれないため、操舵支援処理へ移行する(S22)。S22の処理では、操舵支援部14及び操舵支援タイミング変更部15が操舵支援を行う。詳細な制御処理を図3に示す。図3に示すように、最初に障害物の移動速度判定処理を開始する(S30)。
【0035】
S30の処理では、操舵支援タイミング変更部15が、S14の処理で取得した障害物の移動速度Vが所定の閾値Vthよりも大きいか否かを判定する。操舵支援タイミング変更部15は、上記判定を行うことで、障害物が移動しているか否かを判定する。S30の処理において、障害物の移動速度Vが所定の閾値Vthよりも大きい場合には、障害物が移動していると判定し、ステア誘導タイミング(操舵開始タイミング)決定処理へ移行する(S32)。
【0036】
S32の処理では、操舵支援タイミング変更部15が、ステア誘導タイミングを決定する。ここで、目標横加速度をG、障害物の回避幅をWとすると、ステア誘導タイミングTTCstは以下の式1で表すことができる。
【数1】


ここで、ステア誘導タイミングTTCstは、値が大きいほど支援実行時刻を早め、逆に値が小さいほど支援実行時刻を遅くするものである。また、回避幅Wは予め定められた値であって、例えば障害物の種類ごとに定められている。また、目標横加速度をGは、図4に示すグラフから算出される。図4は、目標横加速度Gの移動速度V依存性を示すグラフであり、縦軸が目標横加速度G、横軸が障害物の移動速度Vである。図4に示すように、目標横加速度Gは、障害物の移動速度Vが大きくなるほど大きく設定される。また、目標横加速度Gは、所定値GyMAX以下に設定される。この所定値GyMAXは、運転者の操舵操作によってオーバーライド可能な横加速度の最大値である。言い換えれば、所定値GyMAXは、操舵支援によって発生する横加速度に対して、運転者の操舵操作によって上書きすることが可能な横加速度の最大値である。所定値GyMAXとしては、例えばシミュレーション等を用いて事前に算出されたものを採用する。操舵支援タイミング変更部15は、障害物の移動速度Vの値に基づいて目標横加速度Gを算出し、算出された目標横加速度G及び式1に基づいて、ステア誘導タイミングTTCstを算出する。S32の処理が終了すると、ステア制御(操舵制御)決定処理へ移行する(S34)。
【0037】
S34の処理では、操舵支援部14がステア制御の内容を決定する。例えば、操舵支援部14は、S10の処理で取得された車速V、S12の処理で取得された走行レーンの白線の位置情報(x,y)、S14の処理で取得された障害物の位置情報(x,y)、障害物の移動速度V、障害物の移動方向、S16の処理で取得された障害物までの距離Lに基づいて、制御トルクT及び回避誘導方向を算出する。S34の処理が終了すると、回避誘導方向確定の判定処理へ移行する(S36)。
【0038】
S36の処理では、操舵支援部14が、S36の処理で回避誘導方向が確定したか否かを判定する。障害物が不規則に移動する場合には、回避誘導方向が定まらない場合がある。例えば、操舵支援部14は、障害物の移動方向が所定期間一定であれば、回避誘導方向が確定したと判定する。S36の処理において、回避誘導方向が確定したと判定した場合には、歩行者判定処理へ移行する(S38)。
【0039】
S38の処理では、操舵支援部14が、S14の処理で取得した障害物に関する情報に基づいて障害物が歩行者であるか否かを判定する。S38の処理において、歩行者であると判定した場合には、移動距離算出処理へ移行する(S40)。
【0040】
S40の処理では、操舵支援部14が、S14の処理で取得した障害物に関する情報に基づいて障害物の移動距離を算出する。操舵支援部14は、位置情報(x,y)、障害物の移動速度V及び障害物の移動方向に基づいて、走行レーンを横断する方向の移動距離Lを算出する。S40の処理が終了すると、移動距離判定処理へ移行する(S42)。
【0041】
S42の処理では、操舵支援部14が、移動距離Lが走行レーンの中央よりも小さいか否かを判定する。操舵支援部14は、例えば、走行レーンの幅をWとすると、以下の式2を用いて判定を行う。
【数2】


S42の処理において、移動距離Lが走行レーンの中央よりも小さいと判定した場合には、歩行者が未だ走行レーンの中央に達していないことになる。このような場合、走行レーンを横断中の歩行者は、車両3の存在に気が付いて横断を中止して引き返す可能性がある。このように、移動距離Lが走行レーンの中央よりも小さいと判定した場合には、歩行者が別の挙動を起こす可能性があるため、さらにステア誘導の開始タイミングを遅延させるべく、遅延時間算出処理へ移行する(S44)。
【0042】
S44の処理では、操舵支援部14が、ステア誘導の開始タイミングの遅延時間Δtを算出する。操舵支援部14は、例えば図5に示すマップを用いて遅延時間Δtを算出する。図5は、遅延時間Δtの移動距離L及び車線幅W依存性を示すグラフであり、縦軸が遅延時間Δt、横軸がL(W/2)である。L(W/2)は、式2から導出された数式であり、値が大きくなるにつれて走行レーンの真ん中に近い位置に歩行者が位置することを示している。横軸が1の場合はちょうど走行レーンの真ん中に歩行者が到達する場合である。図5に示すように、歩行者が走行レーンの端から走行レーンの中央に向かうに連れて除々Δtが大きくなり、ある一定の値を超えると、今度は走行レーンの中央に向かうに連れて除々にΔtが小さくなる。これは、歩行者の心理を反映させたものである。例えば、走行レーンの端の方であれば、横断するよりも引き返した方が安全であるという心理が働く。一方、走行レーンの中央に近づくにつれて、途中で引き返すよりも横断した方が安全であるという心理が働く。このため、歩行者が行動を起こしそうな位置では遅延時間Δtを大きく設定できるように、図5に示すマップに基づいてΔtを設定する。S44の処理が終了すると、ステア回避誘導制御処理へ移行する(S48)。
【0043】
S48の処理では、操舵支援部14及び車両制御装置31が、ステア回避誘導制御を実行する。ここで、S32の処理で取得されたステア誘導タイミングTTCst、及びS44の処理で取得されたΔtに基づくタイミングでステア誘導制御を実行する。例えば、以下の式3に示すタイミングでステア誘導制御を行う。
【数3】


S48の処理が終了すると、図3に示す操舵支援処理を終了する。
【0044】
一方、S30の処理において、S14の処理で取得した障害物の移動速度Vが所定の閾値Vthよりも大きくない場合には、障害物が静止物体であるとし、タイミングを変更する処理を行わないでステア制御決定処理へ移行する(S34)。よって、障害物が静止物体である場合には、通常の誘導タイミングでステア回避誘導制御が実行される。ここで、通常の誘導タイミングとして、例えば演算した時の時刻がそのまま採用される。
【0045】
一方、S36の処理において、回避誘導方向が確定していないと判定した場合には、操舵支援処理が適切な支援にならないおそれがあるので、ステア回避誘導制御を行わないで図3に示す操舵支援処理を終了する。
【0046】
一方、S38の処理において、歩行者でないと判定した場合には、車両3の存在に気が付いて横断を中止して引き返す可能性が低いため、遅延時間Δtを0とする(S46)。同様に、S42の処理において、移動距離Lが走行レーンの中央よりも小さくないと判定した場合には、歩行者が既に走行レーンの中央に達していることになる。このような場合、走行レーンを横断中の歩行者は、車両3の存在に気が付いてもそのまま走行レーンを通過する可能性が高い。よって、遅延時間Δtを0とする(S46)。S46の処理が終了すると、図3に示す操舵支援処理を終了する。
【0047】
以上で図3に示す操舵支援処理を終了する。図2のS22の処理に戻り、ブレーキ制御処理へ移行する(S24)。S24の処理では、運転支援部13が減速度gで減速処理を行う。S24の処理が終了すると、図2に示す制御処理を終了する。
【0048】
以上で図2,3に示す制御処理を終了する。図2,3に示す制御処理を実行することで、障害物が移動物体である場合には、静止物体の時の開始タイミングよりも遅い開始タイミングで操舵支援が実行される。以下、図6を用いて操舵支援の開始タイミング遅延効果を説明する。図6の(A)は、障害物検出時刻をXとすると操舵支援の開始タイミングを通常のタイミングX(演算時)とする例、すなわち従来の操舵支援装置の例であり、図6の(B)は、操舵支援の開始タイミングを式3のタイミング(Δt=0)で遅らせる例、すなわち本実施形態に係る操舵支援装置1の例である。図6の(A)に示すように、車両3が進行方向H1で進行しているとし、障害物KがH2方向に移動しているとする。この場合、従来の操舵支援装置であれば、操舵支援がタイミングXで開始され、車両3が障害物Kを避けるためにH3方向に誘導される。しかしながら障害物Kと車両3の移動方向が同一であるので、結果として操舵支援が適切でない。一方、図6の(B)に示すように、本実施形態の操舵支援装置1であれば、操舵支援のタイミングが1/TTCst分だけ遅延され、最終的な障害物との位置関係に近い状態から車両3が障害物Kを避けるためにH4方向に誘導される。このように、操舵支援は、制動支援と異なり実行タイミングが早ければ早いほどよいというものではなく、障害物が移動する場合はむしろ遅いほどよいという特徴がある。図2,3に示す制御処理を実行することで、制動と操舵の特徴を使い分けてより適切な運転支援を行うことができる。
【0049】
上述したように、本実施形態に係る操舵支援装置1によれば、障害物情報取得部11により障害物が移動物体であるか否かが判定され、障害物が移動物体であると判定された場合には、操舵支援タイミング変更部15により障害物が静止物体である場合に比べて操舵支援の開始タイミングが遅くされる。このように、障害物が移動する場合には、操舵支援の開始タイミングを遅くすることができるので、最終的な障害物との位置関係に極力近い状態から操舵支援を開始することが可能となる。よって、適切な操舵支援を行うことができる。
【0050】
また、本実施形態に係る操舵支援装置1によれば、操舵支援タイミング変更部15により障害物の移動速度が大きいほど操舵支援の開始タイミングを遅らせることができるので、最終的な位置関係が大きく変わる障害物ほど開始タイミングを遅らせることが可能となる。
【0051】
また、本実施形態に係る操舵支援装置1によれば、操舵支援により発生させる横加速度を、運転者による操舵支援への上書き操舵操作が可能な上限値以下の値とすることができる。このため、運転者の操舵によるオーバーライド容易性を考慮して横加速度を設定することができるので、運転者の操舵操作と装置の操舵支援との調和を適切に図ることが可能となる。例えば、操舵支援開始後に運転者が車両3の進行方向を容易に調整することができるので、より適切に障害物を回避させることが可能となる。
【0052】
さらに、本実施形態に係る操舵支援装置1によれば、障害物情報取得部11により障害物が走行レーン横断中の歩行者であるか否かが判定され、障害物が走行レーン横断中の歩行者であってかつ歩行者の横断方向の移動距離Lが走行レーンWの半分より小さい場合には、操舵支援タイミング変更部15により操舵支援の開始タイミングがさらに遅延される。このように、歩行者が走行レーンを横断する際に横断方向の移動距離Lが走行レーンWの中央まで満たない場合には、操舵支援の開始タイミングをさらに遅延させることができるので、歩行者が横断を止めて引き返す可能性を考慮して最終的な歩行者との位置関係に極力近い状態から操舵支援を行うことが可能となる。よって、適切な操舵支援を行うことができる。
【0053】
なお、上述した実施形態は本発明に係る操舵支援装置の一例を示すものである。本発明に係る操舵支援装置は、実施形態に係る操舵支援装置1に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、実施形態に係る操舵支援装置1を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0054】
例えば、上述した実施形態では、障害物が静止物体である場合には操舵支援の開始タイミングを演算時とする例を説明したが、演算時に限られるものではない。また、図2に示す制御処理において、S22の操舵支援処理の後にS24のブレーキ制御処理を実行する例を説明したが、S22の処理及びS24の処理は実行が前後してもよいし、同時に行ってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…操舵支援装置、2…ECU、3…車両、11…障害物情報取得部(障害物判定手段)、12…車両状態取得部、13…運転支援部、14…操舵支援部、15…操舵支援タイミング変更部(操舵支援タイミング変更手段)、30…センサ、31…車両制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物の位置情報に基づいて前記障害物を回避するための操舵支援を行う操舵支援装置であって、
前記障害物が移動物体であるか否かを判定する障害物判定手段と、
前記障害物判定手段により前記障害物が移動物体であると判定された場合には、前記障害物が静止物体である場合に比べて前記操舵支援の開始タイミングを遅らせる支援タイミング変更手段と、
を備えることを特徴とする操舵支援装置。
【請求項2】
前記障害物判定手段は、前記移動物体の移動速度を取得し、
前記支援タイミング変更手段は、前記移動速度が大きいほど前記操舵支援の開始タイミングを遅らせる請求項1に記載の操舵支援装置。
【請求項3】
前記操舵支援により発生させる横加速度は、運転者による操舵支援への上書き操舵操作が可能な上限値以下の値とする請求項1又は2に記載の操舵支援装置。
【請求項4】
前記操舵支援により発生させる横加速度は、前記障害物の移動速度が大きいほど大きい値とする請求項1〜3の何れか一項に記載の操舵支援装置。
【請求項5】
前記障害物判定手段は、前記障害物が走行レーン横断中の歩行者であるか否かを判定し、
前記支援タイミング変更手段は、前記障害物が走行レーン横断中の歩行者であってかつ前記歩行者の横断方向の移動距離が走行レーンの半分より小さい場合には、前記操舵支援の開始タイミングをさらに遅らせる請求項1〜4の何れか一項に記載の操舵支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−195083(P2011−195083A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66133(P2010−66133)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】