説明

放射線検出器

【課題】検出した画像の画質を向上し、製造歩留まりの高い放射線検出器を提供する。
【解決手段】放射線検出器は、TFT回路基板5の上部に画素電極57を置き、下部光電変換膜37、導電性中間膜35、上部光電変換膜33とを含む光導電層3を形成する。下部光電変換膜37は、実質的にはTFT63および画素電極57の全域を覆う。下部光電変換膜37は上部光電変換膜33を形成する種結晶膜として機能するとともに、画素電極57との界面で生じるショットキー障壁の大きさを小さくし、また、画素電極57の表面の凹凸を埋めている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線に代表される放射線で撮影された放射線画像を検出する放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代のX線診断用検出器としてアクティブマトリックス構造を用いた平面型のX線画像検出器が大きな注目を集めている。平面状の検出器にX線を当てる事で、X線撮影像又はリアルタイムのX線画像がデジタル信号とし出力される。固体検出器である事から、画質性能や安定性の面でも極めて期待が大きい。
【0003】
平面検出器には大きく分けて直接方式と間接方式の2通りがある。直接方式は、X線をa−Se等の光導電膜により直接電荷信号に変換し、電荷蓄積用のキャパシタに導く方式である。間接方式は、シンチレータ層によりX線を受けて一旦可視光に変換し、可視光をa−SiフォトダイオードやCCDにより信号電荷に変換して、電荷蓄積用キャパシタに導く方式である。直接方式は、入射X線によりX線光導電体内部に発生した光導電電荷を高電界により直接に電荷蓄積用キャパシタに導く方式である。
【0004】
X線画像検出器には、先に述べたように直接方式と間接方式の2種類の方式がある。現在主に発表されているものは間接方式が大半を占めているが、将来における高性能化への可能性は直接方式のほうが高いとされている。
【0005】
直接方式は、入射X線を直接電荷信号に変換するための「X線光導電材料」として、検出波長に特徴のある半導体を用いる。平面画像検出器の主な用途としては人体を透過させその情報を医療用として使用する場合が多く、人体を十分にカバーできるだけの大きさを必要とする。そのため通常使用される大きさとしては一辺40cmほどの検出器が良く用いられている。このときに直接方式のX線画像検出器を実現しようとすると、それ以上の大きさを持つTFT回路基板の上にX線光導電膜を均一に形成することが要求される。また、入射X線を十分に検出するためには、重金属で構成された大きな比重を持つ材料を、数百μmの厚みに積層して、X線光導電膜とすることが必要である。このことは、概ね、40cm四方の大きさの半導体膜を、TFT基板上に形成することを要求する。
【0006】
X線光導電材料は半導体の一種なので、その結晶構造や組成によって特性が大きく変化してしまう可能性が非常に高い。また通常の半導体材料の特性は単結晶において最高の特性が得られるが、X線画像検出器の大きさをカバーできるだけの半導体単結晶材料は実現されていない。そこで直接方式のX線画像検出器を実現するにはTFT基板の上にX線光導電材料を直接形成することが必要となる。
【0007】
なお、直接方式において、検出面に2次元に配列された画素毎に、画素部、電荷蓄積部、TFT(読み出しスイッチ)およびツェナダイオードを設け、ツェナダイオードによりTFTの入力側に入力される電圧が、TFTを破壊する電圧未満の所定の電圧になった時点で電荷蓄積部に電荷を出力することにより、TFTの破壊を防止する検出器が既に提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−10237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常のX線画像検出器のTFT回路基板は、例えば液晶表示装置の製造プロセスを流用して作られている。そのため、X線光導電膜と直接接触する画素電極にはアルミニウムまたはITOが多く用いられ、それら画素電極を取り囲むように酸化ケイ素(SiO2)の絶縁膜も、X線光導電膜に接触する構造となっている。
【0009】
TFT基板上に光電変換膜を形成するX線画像検出器では、TFT基板の表面にはITOが下部電極として形成されているため、光電変換膜はITO上に成膜される。半導体である光電変換膜と導体であるITOが接すると、その間にショットキー障壁が生じる。
【0010】
ITOと金属ヨウ化物半導体膜との間のショットキー障壁は比較的大きく、光電変換膜とITO下部電極間の電荷の移動が阻害され、この結果、X線画像の画質が劣化する問題がある。
【0011】
また、ITOはその表面の凹凸が比較的大きく、この影響による画素毎のショットキー障壁の大きさに差が生じて、画質が劣化することが知られている。
【0012】
これに対し、下部電極をITO以外の材料とする、あるいはITO上に他の材料を形成するなどの方法により画質を向上させることが検討されているが、電極としての特性や、信頼性、あるいは製造性などの面から。ITOに代わる材料は報告されていない。
【0013】
この発明の目的は、上記のような不具合を解決し、検出した画像の画質を向上し、その製造歩留まりを向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、TFT基板上に光電変換膜を形成し、TFT基板と光電変換膜上に形成した上部電極との間で、放射線入射時に発生する電荷を検出して画像化する放射線検出器において、TFT基板の全域を覆う下部光電変換膜と、この下部光電変換膜に積層された導電性中間膜と、この導電性中間膜に積層された上部光電変換膜と、を有することを特徴とする放射線検出器を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本件出願においては、ショットキー障壁の影響を受けにくく、画質の劣化の少ない画質の高い検出画像を得ることができ、しかもその製造歩留まりの高い放射線検出器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態とその効果について詳細に説明する。
【0017】
図1は、X線画像検出器の検出器部分のみを示した図である。なお、本発明においてはX線,γ線,その他各種放射線の場合に適用可能であるが、以下の一実施の形態においては、放射線の中の代表的なX線の場合を例にとり説明する。従って、実施の形態中の「X線」とする記載を「放射線」に置き換えることにより、本発明が対象とする他の放射線にも適用可能である。
【0018】
図1に示すように、X線画像検出器1は、入射X線を電気信号(電子「e」またはホール(正孔「h」))に変換する光導電層)3、光導電層3により電子eまたはホール(正孔)hに変換された出力を、光導電層3に入射した入射X線の位置に関連付けて取り出すTFT回路基板5を有する。なお、図2に、TFT回路基板5内部の等価回路を、示す。
【0019】
光導電層3は、図3を用いて後段に説明するが、上部電極31と、上部電極31により大気と接することが抑止された上部多結晶質光電変換膜33と、上部多結晶質光電変換膜33の下方すなわちTFT回路基板5側に設けられた導電性中間膜35と、導電性中間膜35の下方に設けられた下部光電変換膜37とを含む。
【0020】
TFT回路基板5は、通常、平板のガラスである保持基板51上に積層された層間絶縁膜53上に設けられたTFT回路層55を有する。TTF回路層55は、画素電極(ITO下部電極)57と、図2に示すように互いに直交された制御電極59読み出し電極61と、それぞれの電極59および61の交差部に1組ずつ設けられる薄膜トランジスタ(TFT)63と、任意の画素電極(ITO下部電極)57に流れ込んできた電荷をTFT63のゲート電極がオン状態になるまで保持するコンデンサ65を有する。なお、光導電層3の下部光電変換膜37は、実質的にTFT63および画素電極57の全域を覆うように形成される。
【0021】
画素電極57と、コンデンサ65は、それぞれが組に、格子状に配置され、それぞれの組が、X線画像の画素に対応する。
【0022】
制御電極59は、TFT63のゲート電極に、読み出し電極61は、TFT63のドレイン電極に、それぞれ接続されている。
【0023】
このような、回路構成にすることにより、各画素に対応した画素電極57に流れ込んできた電荷は、それぞれに接続されているTFT63のゲート電極がオン状態になるまで、それぞれに接続されたコンデンサ65に保持され、その状態で制御電極59の1つのみがオン状態に切り換えられることで、そのオン状態にある制御電極59に接続された横一列のTFT63がオンとなり、TFT63を通じ、個々のTFT63に接続されているコンデンサ65の電荷が読み出し電極61に流れる。
【0024】
これにより、特定の行に対応する画像情報(画素電極57により検出された電荷)が、外部に出力される。
【0025】
以下、オン状態に切り換える制御電極59を、順に変化(シフト)することにより、光導電層3(光導電膜33)により電気信号に変換された全体の画像情報を、外部に、映像信号として出力することが可能となる。
【0026】
次に、本発明の特徴である部分について図3により、説明をする。
【0027】
TFT回路基板5のTFT63および画素電極(ITO下部電極)57に、それぞれの全域を覆うように、下部光電変換膜37(構造上はTFT回路基板5側に位置されるとみなすことが妥当であるが、光導電層3側の役割を果たす)を形成する。
【0028】
本実施例では、下部光電変換膜37として、例えばPbIを室温で真空蒸着することにより、10nm〜1μm程度の薄い非晶質の膜を、TFT63および画素電極(ITO下部電極)57のそれぞれの全域を覆うように、形成している。
【0029】
下部光電変換膜37は、上部多結晶質光電変換膜33を形成する(成長させる)ための種結晶膜として用いられる。すなわち、上部多結晶質光電変換膜33は、種結晶膜が存在しなければ膜状にはならない。また、この下部光電変換膜37は、接しているITO下部電極(画素電極)57との界面で生じるショットキー障壁の大きさを、所定の大きさよりも小さくするため、また、ITO膜(画素電極)57の表面の凹凸を埋めるため、半導体としての性質および結晶性が小さいことが必要となる。このため、材質としてのPbIを非晶質としている。
【0030】
なお、PbI等の金属ヨウ化物多結晶質膜を用いた場合、膜厚が厚くなると結晶性が大きくなるため、その厚さは、10〜200nmであることが好ましい。より詳細には、PbI2の厚さが10nmよりも薄いと、局所的に膜厚の薄い部分かできる、等により膜としての均質性を保つことが困難であり、200nmを越えると、結晶性が大きくなり、結果として表面に凹凸が生じやすくなる問題がある。また、隣り合う画素に電荷を伝えないために、横方向の抵抗を高くすることが必要であり、そのためにも薄い膜としている。
【0031】
下部光電変換膜37上には、例えばスパッタリング法により数nm〜数10nm程度の薄いPbを含む導電性中間膜35が形成されている。導電性中間膜35は、上部多結晶質光電変換膜33で発生した電荷を集電する役割を持つ。従って、導電性中間膜35は、上部多結晶質光電変換膜33との界面で生じるショットキー障壁が小さくなる材料であることが求められる。また、上部多結晶質光電変換膜33を形成するためには、下部光電変換膜37の種結晶膜としての性質を伝えることが必要であり、この点においても、導電性中間膜35は、充分に薄い膜とすることが必要となる。なお、下部光電変換膜37と同様、隣り合う画素に電荷を伝えないために横方向の抵抗を高くすることが必要であり、そのためにも薄い膜とした。
【0032】
多結晶質光電変換膜33は、Pbを含む導電性中間膜35上に、例えば数100μmの厚さに形成される。多結晶質光電変換膜33は、PbIを材料として加熱しながら真空蒸着することにより形成した。この膜によりX線が電荷に変換される。なお、入射X線を十分に検出するためには、重金属で構成された大きな比重を持つ材料を、数百μmの厚みに積層して、充分量の電荷を得ることが必要となる。
【0033】
上記のような構造とした結果、光−電子変換膜(光電変換膜)3−ITO(画素電極)57間のショットキー障壁が小さくなり、多結晶質光電変換膜35で発生した電荷は、大きく阻害されることなくITO下部電極(画素電極)57に伝えられ、この結果、X線画像の画質が向上される。なお、PbI等の金属ヨウ化物の光電変換膜を形成する場合、通常スパッタリング、あるいは蒸着等の手法が用いられるが、多くの場合、金属ヨウ化物の膜は、多結晶質膜となる。このため、上部多結晶質光電変換膜33と同一または特性、特に仕事関数が類似の、もしくは実質的に等しい下部光電変換膜37を設けることで、ショットキー障壁の影響も受けにくい良好な光電子変換膜を形成することができる。
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、簡便な方法で光電変換特性を向上することができる。また、光電変換膜とTFT基板との密着性を向上させる効果が認められ、膜剥がれが防止できる。この結果、より良好な画像が得られるX線画像検出器を、歩留り良く提供することができる。
【0035】
なお、重金属で構成された大きな比重を持つ材料としては、例えばHgI等も利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態が適用可能なX線画像検出器の一例を示す概略図。
【図2】図1に示したX線画像検出器の内部の等価回路を示す概略図。
【図3】図1に示したX線画像検出器の断面構造の一例を示す概略図。
【符号の説明】
【0037】
1…X線(放射線)検出器、3…光導電層、31…上部電極、33…上部多結晶質光電変換膜(光導電膜)、35…導電性中間膜、37…下部光電変換膜、5…TFT回路基板、51…平板ガラス(保持基板)、53…層間絶縁膜、55…TFT回路層、57…画素電極(ITO下部電極)、59…制御電極、61…読み出し電極、63…TFT(薄膜トランジスタ)、65…コンデンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TFT基板上に光電変換膜を形成し、TFT基板と光電変換膜上に形成した上部電極との間で、放射線入射時に発生する電荷を検出して画像化する放射線検出器において、
TFT基板の全域を覆う下部光電変換膜と、
この下部光電変換膜に積層された導電性中間膜と、
この導電性中間膜に積層された上部光電変換膜と、
を有することを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記下部光電変換膜は、非晶質金属ヨウ化物であり、前記上部光電変換膜は、多結晶質金属ヨウ化物であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記導電性中間膜は、前記上部光電変換膜の仕事関数に類似した仕事関数を持つ金属、金属化合物、あるいは有機膜であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−93257(P2007−93257A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279589(P2005−279589)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】