説明

断線検知装置および断線検知プログラム

【課題】 断線の有無および断線位置を即座に検知することができる。
【解決手段】 理論値演算部34は、鉄道車両における電磁弁の各々の抵抗値、ブレーキ指令線およびマイナス線の抵抗値に基づき、所定数の鉄道車両におけるブレーキ指令線、電磁弁、および、マイナス線の回路網モデルにしたがって、車両数、および、当該車両数より少ない車両数について、マイナス線に接続された端子における電流理論値と電源部により印加される電圧とにより得られる抵抗理論値を取得する。断線位置検出部37は、抵抗測定値と、前記抵抗理論値とを比較して、抵抗測定値が、車両数に対応する抵抗理論値からの所定範囲に含まれるかを判断することで、ブレーキ指令線或いはマイナス線における断線の有無を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車両間に引き通され、車両のブレーキ装置にブレーキ操作の信号を与えるブレーキ指令線およびマイナス線の断線を検知する断線検知装置および断線検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
編成された鉄道車両、たとえば、編成された貨車においては、電磁ブレーキのために1以上のブレーキ指令線およびマイナス線(グラウンド線、以下、「マイナス線」と称する)が設けられ、車両間で対応する指令線どうしがジャンパ線により接続されている。1両目(先頭)の鉄道車両には、機関車が接続され、機関車からブレーキ指令線(たとえば、緩め指令線、常用ブレーキ指令線および非常ブレーキ指令線)に電気信号が与えられ、鉄道車両のブレーキが制御される。
【0003】
ブレーキ指令線の断線は、断線位置より後段に連結された鉄道車両においてブレーキの制御が不可能となるため運転に深刻な影響を与える。したがって、従来、ターミナルなどにおいて、鉄道車両の営業走行に先立って、機関車と鉄道車両とを連結した状態で、連結された鉄道車両の一端(つまり、機関車が連結されていない側の端部)において、所定のブレーキ指令線とマイナス線との間に電圧を与え、他端において当該所定のブレーキ指令線とマイナス線との間が導通しているかを、電球の点灯の有無などにより判断している。何れかのブレーキ指令線が断線している場合には、断線箇所を特定するために、鉄道車両を切り離して、前記編成の一部を構成する複数の車両或いは単独の車両ごとに、ブレーキ指令線の導通を確認する必要があった。このような断線箇所の特定には多大な時間を要するため、列車の運行スケジュールに影響を与え、最悪の場合、この編成は運休となる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−301568号公報
【特許文献2】特開平9−249115号公報
【非特許文献1】「電気回路」最新高級電験講座第4巻 大坪 昭著、昭和50年3月10日、電気書院発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば、特許文献1には、機関車において、ブレーキ指令線の電流を検出し、正常値との比較からブレーキ指令線の断線を検知する装置が提案されている。また、特許文献2には、機関車において、ブレーキ指令線を流れる全電流値Iと、機関車内のブレーキ指令線を流れる電流値Iとの比(I/I)が定められた値から逸脱した場合に、断線或いは短絡の存在と、断線或いは短絡の種別を判断する装置が提案されている。
【0006】
しかしながら、上述した装置を用いても、断線位置を検出することはできず、断線(ないし短絡)が見出された場合には、編成の一部を構成する複数の車両或いは単独の車両ごとに、断線(ないし短絡)の有無を探さなければならなかった。
【0007】
本発明は、断線の有無および断線位置を即座に検知することができる断線検知装置および断線検知プログラムを提供することを目的とする。また、本発明は、断線した線の種別(ブレーキ指令線或いはマイナス線)も検知することができる断線検知装置および断線検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ブレーキ操作によって指令された電気信号が与えられる1以上のブレーキ指令線と、前記ブレーキ指令線と接続され前記電気信号により制御される電磁弁を各々有する複数の鉄道車両が、編成を構成する車両数だけ連結され隣接する車両との間で前記ブレーキ指令線が接続される鉄道車両編成において、前記ブレーキ指令線および前記電磁弁と接続されるマイナス線における断線および断線位置を検知する断線検知装置であって、
前記連結された複数の鉄道車両のブレーキ指令線およびマイナス線とそれぞれ接続する端子を備えた端子部と、
所定のブレーキ指令線に接続される端子と、前記マイナス線に接続する端子との間に電圧を与える電源部と、
前記マイナス線に接続された端子を通る電流を測定する電流測定手段と、
前記連結された複数の鉄道車両における前記電磁弁の数と、各鉄道車両の電磁弁の各々の抵抗値、前記各鉄道車両のブレーキ指令線およびマイナス線の抵抗値に基づき、前記編成を構成する車両数の鉄道車両におけるブレーキ指令線、電磁弁、および、マイナス線の回路網モデルにしたがって、前記連結された複数の鉄道車両の編成を構成する車両数、および、編成を構成する車両数より少ない車両数について、前記マイナス線に接続された端子を通る電流の電流理論値、或いは、当該電流理論値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗理論値である、一連の理論値を取得する理論値取得手段と、
前記電流測定手段により測定された電流測定値、或いは、当該電流測定値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗測定値である測定値と、前記一連の理論値のうち、編成を構成する車両数に対応する理論値とを比較して、前記測定値が、前記編成を構成する車両数に対応する理論値からの所定範囲に含まれるかを判断することで、前記ブレーキ指令線或いはマイナス線における断線の有無を判断する断線判断手段と、
前記断線が有る場合に、前記一連の理論値のうち、前記測定値に近似する理論値を見出して、当該見出された理論値に基づいて、前記連結された複数の鉄道車両における断線位置を特定する断線位置特定手段と、を備えたことを特徴とする断線検知装置により達成される。
【0009】
好ましい実施態様においては、前記理論値取得手段が、
前記回路網モデルにおける枝数、節数および閉回路数に基づき、枝の各々における電圧値を示す行列、枝数および閉回路数に基づくタイセット行列、および、枝の各々における抵抗値を配置した対角行列とに基づき、前記一連の理論値を算出する。
【0010】
より好ましい実施態様においては、前記各電磁弁の抵抗値について、特定の温度における初期値から温度が増大するのにしたがって、その抵抗値も増大するように、前記電磁弁の抵抗値を補正する抵抗値補正手段を備える。
【0011】
別の好ましい実施態様においては、前記編成を構成する車両数およびそれ以下の車両数と対応付けられた理論値を含むテーブルを格納した記憶装置を備え、
前記理論値取得手段が、前記記憶装置のテーブルから、前記理論値を読み出す。
【0012】
より好ましい実施態様においては、前記理論値のテーブルが、特定の温度における初期値から温度が増大するのにしたがって、その抵抗値も増大するような電磁弁の抵抗値に基づき、所定の複数の電磁弁の温度のそれぞれについて、前記編成を構成する車両数およびそれ以下の車両数と対応付けられた理論値を格納している。
【0013】
さらに別の好ましい実施態様においては、前記所定のブレーキ指令線以外の他のブレーキ指令線と、前記マイナス線との間の電圧値を測定する電圧測定手段を備え、
前記電源部が前記所定のブレーキ指令線と前記マイナス線との間に電圧を与えているときに、前記電圧測定手段が、前記電圧値を測定することにより、前記マイナス線における断線の有無を判断する。
【0014】
また、本発明の目的は、ブレーキ操作によって指令された電気信号が与えられる1以上のブレーキ指令線と、前記ブレーキ指令線と接続され前記電気信号により制御される電磁弁を各々有する複数の鉄道車両が、編成を構成する車両数だけ連結され隣接する車両との間で前記ブレーキ指令線が接続される鉄道車両編成において、前記ブレーキ指令線および前記電磁弁と接続されるマイナス線における断線および断線位置を検知するために、
前記連結された複数の鉄道車両のブレーキ指令線およびマイナス線とそれぞれ接続する端子を備えた端子部と、
所定のブレーキ指令線に接続される端子と、前記マイナス線に接続する端子との間に電圧を与える電源部と、
前記マイナス線に接続された端子を通る電流を測定する電流測定手段と、それぞれ接続されたコンピュータに、
前記連結された複数の鉄道車両における前記電磁弁の数と、各鉄道車両の電磁弁の各々の抵抗値、前記各鉄道車両のブレーキ指令線およびマイナス線の抵抗値に基づき、前記編成を構成する車両数の鉄道車両におけるブレーキ指令線、電磁弁、および、マイナス線の回路網モデルにしたがって、前記連結された複数の鉄道車両の編成を構成する車両数、および、編成を構成する車両数より少ない車両数について、前記マイナス線に接続された端子を通る電流の電流理論値、或いは、当該電流理論値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗理論値である、一連の理論値を取得する理論値取得ステップと、
前記電流測定手段により測定された電流測定値、或いは、当該電流測定値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗測定値である測定値と、前記一連の理論値のうち、編成を構成する車両数に対応する理論値とを比較して、前記測定値が、前記編成を構成する車両数に対応する理論値からの所定範囲に含まれるかを判断することで、前記ブレーキ指令線或いはマイナス線における断線の有無を判断する断線判断ステップと、
前記断線が有る場合に、前記一連の理論値のうち、前記測定値に近似する理論値を見出して、当該見出された理論値に基づいて、前記連結された複数の鉄道車両における断線位置を特定する断線位置特定ステップと、を実行させることを特徴とする断線検知プログラムにより達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、断線の有無および断線位置を即座に検知することができる断線検知装置および断線検知プログラムを提供することが可能となる。また、本発明によれば、断線した線の種別(ブレーキ指令線或いはマイナス線)も検知することができる断線検知装置および断線検知プログラムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、連結された複数の鉄道車両のブレーキ指令系統を説明する図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態にかかる断線検知装置の構成を示すブロックダイヤグラムである。
【図3】図3は、本実施の形態にかかる制御・演算部の構成の例を示すブロックダイヤグラムである。
【図4】図4は、本実施の形態にかかる断線検知装置において実行される処理の例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本実施の形態にかかる断線検知装置において実行される処理の例を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本実施の形態にかかる電流理論値の算出を説明する図である。
【図7】図7は、本実施の形態にかかる電流理論値の算出を説明する図である。
【図8】図8は、演算に用いる行列を説明する図である。
【図9】図9は、演算に用いる行列を説明する図である。
【図10】図10は、図1に示す車両編成において、1両目(先頭)の鉄道車両T1のマイナス線104が、符号1001に示す位置で断線している状態を示している。
【図11】図11は、本実施の形態において、抵抗実測値と近似する抵抗理論値の決定を説明する図である。
【図12】図12は、鉄道車両付近の温度が35°Cのときの、鉄道車両編成の抵抗実測値と、本発明にかかる抵抗理論値とを示すグラフである。
【図13】図13は、本発明の他の実施の形態にかかる抵抗理論値テーブルの例を示す図である。
【図14】図14は、本実施の形態にかかる断線検知装置において実行される処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、連結された複数の鉄道車両のブレーキ指令系統を説明する図である。図1においては、n両の鉄道車両(貨車)T、T、・・・、Tのそれぞれにおける回路要素が示されている。各鉄道車両T、T、・・・、Tには、3つのブレーキ指令線101〜103が設けられ、隣接する車両との間で、対応する指令線が接続される構成となっている。また、各鉄道車両には、マイナス線104が設けられる。図1において、破線111、112は鉄道車両の境界を示している。なお、本実施の形態において、以下の緩め指令線(指令線101)を含めて、ブレーキ指令線と称する。
【0018】
指令線101は、71線ないし緩め指令線と称される(本実施の形態では、緩め指令線と称する)。指令線102は、72線ないし常用ブレーキ指令線と称される(本実施の形態では、常用ブレーキ指令線と称する)。また、指令線103は、75線ないし非常ブレーキ指令線と称される(本実施の形態では、非常ブレーキ指令線と称される)。
【0019】
各車両においては、ブレーキ指令線のそれぞれに、ヒューズFUを介して電磁弁が接続されている。たとえば、1両目の鉄道車両Tには、緩め指令線101に接続された第1の電磁弁(ブレーキ緩め電磁弁)R1rv、常用ブレーキ指令線102に接続された第2の電磁弁(常用ブレーキ電磁弁)S1rv、および、非常ブレーキ指令線103に接続された第3の電磁弁(非常ブレーキ電磁弁)E1rvが配置される。また、第1の電磁弁〜第3の電磁弁R1rv、S1rv、E1rvは、さらに、マイナス線(グラウンド線)104に接続される。
【0020】
図1に示す連結された複数の鉄道車両においては、たとえば、先頭の鉄道車両Tのさらに前方に動力車(図示せず)が連結され、先頭の鉄道車両Tの端子121〜123と、動力車の対応する指令線の端子とが接続されるとともに、先頭の鉄道車両Tの端子124に、動力車のマイナス線が接続され、動力車から、連結された複数の鉄道車両のブレーキを作動させ或いはブレーキを緩めるための指令信号が、各ブレーキ指令線を介して鉄道車両に与えることができるようになっている。
【0021】
本実施の形態においては、常用ブレーキおよび非常ブレーキという2系統のブレーキが鉄道車両に設けられている。動力車から緩め指令線101に指令信号(緩め指令信号)が与えられると、各鉄道車両T、T、・・・、Tにおいて、第1の電磁弁R1rv、R2rv、・・・、Rnrvが励磁され、各鉄道車両の常用ブレーキ装置(図示せず)のブレーキ力が減少される。動力者から常用ブレーキ指令線102に指令信号(常用ブレーキ指令信号)が与えられると、各鉄道車両T、T、・・・、Tにおいて、第2の電磁弁S1rv、S2rv、・・・、Snrvが励磁され、各鉄道車両の常用ブレーキ装置(図示せず)が作動する。また、動力者から非常ブレーキ指令線103に指令信号(非常ブレーキ指令信号)が与えられると、各鉄道車両T、T、・・・、Tにおいて、第3の電磁弁E1rv、E2rv、・・・、Enrvが励磁され、各鉄道車両の非常ブレーキ装置(図示せず)が作動する。
【0022】
第1の電磁弁、第2の電磁弁および第3の電磁弁には、一定のインピーダンスがあり、その値(抵抗値)は、温度により変化するものの、たとえば、24°Cの温度の下では622Ω程度である。また、各車両における指令線の抵抗値は、電磁弁の抵抗値より小さいが、約0.2Ω/25m程度である。図1において、rRT1、rRT2、・・・、rRTnは、各鉄道車両T、T、・・・、Tにおける緩め指令線101の抵抗値、rST1、rST2、・・・、rSTnは、各鉄道車両T、T、・・・、Tにおける常用ブレーキ指令線102の抵抗値、rET1、rET2、・・・、rETnは、各鉄道車両T、T、・・・、Tにおける非常ブレーキ指令線103の抵抗値、rmT1、rmT2、・・・、rmTnは、各鉄道車両T、T、・・・、Tにおけるマイナス線104の抵抗値を示している。
本実施の形態にかかる断線検知装置においては、後述する端子部22の端子211〜214を、先頭の鉄道車両Tの指令線、マイナス線の端子121〜124にそれぞれ接続し、或いは、最後尾の鉄道車両Tの指令線、マイナス線の端子131〜134にそれぞれ接続して、所定の指令線の端子に、端子部22から所定のシーケンスにしたがって検知電圧を与え、断線の有無および断線位置を検知する。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態にかかる断線検知装置の構成を示すブロックダイヤグラムである。図2に示すように、本実施の形態にかかる断線検知装置10は、電源部12、制御・演算部14、スイッチ部16、電圧測定部18、電流測定部20、端子部22、記憶装置24、入力部26および表示部28を備えている。
【0024】
電源部12は、直流の所定の電圧(たとえば20V)を発生し、スイッチ部16に選択された信号線201〜203に、電圧を印加する。制御・演算部14は、記憶装置24に記憶されたプログラムにしたがって、電源部12およびスイッチ装置16を制御して、所定の信号線に電圧を印加して、後述する電圧測定部18および電流測定部20により電圧値および電流値を測定する。また、制御・演算部14は、電流値の理論値に基づく回路抵抗値の理論値(抵抗理論値)を算出し、測定された電流値に基づく回路抵抗値の実測値(抵抗実測値)と比較して断線位置を検知するともに、電圧測定部18において測定された電圧値に基づいて、断線された線の種別を検知する。
【0025】
電流測定部20は、スイッチ16により選択された信号線201〜203の何れかに印加された電圧により、接続された鉄道車両の信号線および電磁弁による負荷を経て生じた電流値を取得する。記憶装置24は、上記制御・演算部14による制御シーケンスのプログラムおよび抵抗理論値演算プログラムなどを格納する。また、記憶装置24は、演算により得られた値やパラメータを記憶する。
【0026】
端子部22は、信号線201〜203、および、マイナス信号線204とそれぞれ接続された端子121〜124を有し、前述したように、それぞれの端子が、対応する信号線およびマイナス線の端子と接続される。
【0027】
入力部26はタッチパネルやキーボードを有し、鉄道車両の編成を構成する車両数や、現在温度を入力することができる。表示部28は、たとえば、液晶表示装置を有し、画面上に断線の検出結果(断線した線の種別および断線位置)を示す画像を表示することができる。
【0028】
図3は、本実施の形態にかかる制御・演算部の構成の例を示すブロックダイヤグラムである。図3に示すように、本実施の形態にかかる制御・演算部14は、設定値受付部31、計測値受付部32、シーケンス制御部33、理論値演算部34、マイナス線断線検出部35、実測値・理論値比較部36、断線位置検出部37および画像生成部38を有する。
【0029】
設定値受付部31は、入力部26において入力された編成を構成する車両数および現在温度を受け付ける。計測値受付部32は、電圧測定部18および電流測定部20において測定された電圧実測値および電流実測値を受け付ける。シーケンス制御部33は、プログラムにしたがって、スイッチ部16を制御して、電源部12と、所定の信号線とを接続させ、図3に示す各部を制御して、断線された線の種別および断線位置を見出す。
【0030】
理論値演算部34は、設定値受付部31において受け付けられた編成を構成する車両数および現在温度に基づいて、信号線201〜203の端子211〜213の何れかと、マイナス線204の端子214の間で存在すると考えられる抵抗理論値を算出する。抵抗理論値の算出については後述する。
【0031】
マイナス線断線検知部35は、計測値受付部32により受け付けられた電圧実測値を参照して、各鉄道車両におけるマイナス線104の断線の有無を検知する。実測値・理論値比較部36は、電流実測値に基づきえられた抵抗実測値と、理論値演算部34において算出された抵抗理論値を比較し、双方の相違が一定範囲を超えている場合には、断線位置検出部37が、抵抗実測値に基づいて、断線位置を検出する。なお、マイナス線の断線についても断線位置検出部37が、断線位置を検出することができる。画像生成部38は、検出結果を示す画像を生成して表示部28に出力する。
【0032】
このように構成された断線検知装置の動作について説明する。図4および図5は、本実施の形態にかかる断線検知装置において実行される処理の例を示すフローチャートである。図4に示すように、制御・演算部14(設定値受付部31)は、入力部26から入力され、設定値受付部31により受け付けられた編成を構成する車両数および現在温度を取得する。なお、本実施の形態においては、1両の車両の各々に、3つの電磁弁(第1の電磁弁〜第3の電磁弁)が設けられている。したがって、編成を構成する車両数nを入力すると、電磁弁の総数3nおよび第1の電磁弁〜第3の電磁弁からなる組数nが得られる。その一方、鉄道車両によっては、数両に第1の電磁弁〜第3の電磁弁が1つだけ設けられているユニット車両というものが存在する。ユニット車両が編成中に含まれる場合には、電磁弁の組数を直接入力するように構成しても良い。また、現在温度は、たとえば、何れかの鉄道車両において、電磁弁の配置されている位置付近の温度を測定し、その測定値が入力されれば良い。或いは、断線検知装置に温度センサ(図示せず)を備えておき、温度センサからの現在温度を設定値受付部31が受け付けるように構成しても良い。
【0033】
温度により、第1の電磁弁〜第3の電磁弁のそれぞれの抵抗値が変化することが本発明者により知見されている。したがって、現在温度は、後述するように電磁弁のそれぞれの抵抗値を補正し、これによってより正確な抵抗理論値を得るために用いられる。
【0034】
次いで、制御・演算部14(理論値演算部34)は、電磁弁の個数および現在温度に基づく抵抗理論値パターンRI〜RIを算出する。この抵抗理論値パターンには、RI〜RIまでのN個の抵抗理論値が含まれる。抵抗理論値RIは、車両の編成数がp(1≦p≦N)であった場合に、電源部12から電圧が信号線の何れかに印加され、端子部22の信号線の端子211〜213の何れかと、マイナス線の端子214の間で測定されるはずの抵抗値を示している。実際の車両の編成数がNであれば、抵抗実測値は、車両の編成数がNであるときの抵抗理論値RIと略一致する。そこで、本実施の形態においては、後に詳述するように、抵抗実測値と抵抗理論値RIとを比較して、値の相違が一定範囲を超えている場合には、断線が生じていると判断してその位置の検出が行なわれる。
【0035】
以下、図6および図7を参照して、抵抗理論値の算出について説明する。なお、本実施の形態においては、電流理論値II〜IIを算出し、電源部12から供給される電圧値Vを用いて、RI=V/IIを演算することで、抵抗理論値を算出する。したがって、以下、電流理論値の算出について説明する。
【0036】
図6および図7は、本実施の形態にかかる電流理論値の算出を説明する図、図8および図9は、演算に用いる行列を説明する図である。たとえば、図2に示す断線検知装置10において、電源部12が、信号線201に電圧を印加することで、図1に示す鉄道車両においては、端子121を介して緩め信号線101に電圧が印加される。したがって、たとえば鉄道車両Tについて、電流は、緩め指令線101から、第1の電磁弁R1rvを経て、マイナス線104に流れ、端子124に至る。しかしながら、第1の電磁弁R1rvを経た電流は、微量ながら、第2の電磁弁S1rvおよび常用ブレーキ指令線102を経て端子122に至り、或いは、第3の電磁弁E1rvおよび非常ブレーキ指令線103を経て端子123に至る。本実施の形態では、回路網理論に基づいて、上述したような他の電磁弁に流出する電流値も考慮した電流理論値を算出する。
【0037】
図6(a)は、車両数が1両である場合の回路網を示す図である。図1に示すように、回路網600においては、枝数が「4」、節数が「2」、閉回路数が「3」となる。回路網において、符号601〜604がそれぞれ枝を示す(図6において破線1〜4も同様である)。また、符号601および符号604、符号602および符号604、符号603および符号604が、それぞれ閉回路に該当する。また、符号611および612が、それぞれ節に該当する。図6において、電源Eは、本実施の形態にかかる断線検知装置の電源部12に対応する。
【0038】
車両が1両である場合には、図示しないが、破線1で示す枝には、緩め指令線の抵抗値および第1の電磁弁の抵抗値が存在する。また、破線2で示す枝には、常用ブレーキ指令線の抵抗値および第2の電磁弁の抵抗値が存在する。破線3で示す枝には、非常ブレーキ指令線の抵抗値および第3の電磁弁の抵抗値が存在する。さらに、破線4で示す枝には、マイナス線の抵抗値が存在する。また、破線4で示す枝に電源Eが存在する。
【0039】
図6(b)に示すように、車両数が2両である場合には、回路網650は、11個の枝、6個の節(たとえば、符号661、662参照)、および、6個の閉回路を備える。ここでも、個々の枝に、各車両の対応する指令線の抵抗値および電磁弁の抵抗値が存在する。
【0040】
図7は、車両数が3両である場合の回路網の例を示す図である。図7に示すように、回路網700においては、18個の枝(たとえば、符号701〜704参照)、10個の節(たとえば、符号711参照)および9個の閉回路を有する。ここで、各枝における抵抗値をZ1〜Z21と考える。この抵抗値Z1〜Z21は、それぞれ鉄道車両において以下の構成部分の抵抗値に対応する。なお、Z15およびZ19、Z16およびZ20、Z17およびZ21は、同じ枝に属する。
【0041】
Z1、Z2、Z3、Z4:1両目(先頭)の鉄道車両の緩め指令線、常用ブレーキ指令線、非常ブレーキ指令線、マイナス線の抵抗値
Z5、Z6、Z7:1両目の鉄道車両の電磁弁の抵抗値
Z8、Z9、Z10、Z11:2両目の鉄道車両の緩め指令線、常用ブレーキ指令線、非常ブレーキ指令線、マイナス線の抵抗値
Z12、Z13、Z14:2両目の鉄道車両の電磁弁の抵抗値
Z15、Z16、Z17:3両目の鉄道車両の緩め指令線の抵抗値、常用ブレーキ指令線の抵抗値、非常ブレーキ指令線の抵抗値
Z18:3両目の鉄道車両のマイナス線の抵抗値
Z19、Z20、Z21:3両目の第1の電磁弁の抵抗値、第2の電磁弁の抵抗値、第3の電磁弁の抵抗値
たとえば、各車両の指令線、マイナス線の抵抗値は、20°Cの温度の下で略0.2Ω、電磁弁の抵抗値は、同様の温度の下で略615Ωである。
【0042】
たとえば、非特許文献1に掲載されたように、枝の各々の電圧(図7においてはV1〜V18)は、枝の抵抗値(図7においてはZ1〜Z21)および枝の電圧値E(この場合、4番目の枝において与えられる)を用いて、以下のように表される。
【0043】
MatrixV=MatrixZ・MatrixI−MatrixE ・・・(1)
MatrixB・MatrixV=0 ・・・(2)
なお、「Marix」は、それぞれが行列であることを示している。
【0044】
図8は、図7の例におけるMatrixBおよびMatrixV、および、MatrixEを示す。MatrixBについて、符号801および802で示す範囲が行列の要素である。つまり、MatrixBは、枝数を行(10行)、節数を列(18列)とする行列である。また、MatrixBは、タイセット行列と称され、閉ループ中の電流の向きを「1」、「−1」で表した行列である。
【0045】
図9は、本実施の形態にかかるMatrixZの例を示す図である。MatrixZについても、符号901および902で示す範囲が行列の要素である。つまり、MatrixZは、枝数を行(10行)、節数を列(18列)とする行列である。また、枝の抵抗値Z1〜Z18が配置された対角行列である。
【0046】
(1)式および(2)式より以下の式が導き出される。
【0047】
MatrixB・MatrixZ・MatrixI
−MatrixB・MatrixE=0 ・・・(3)
(3)式を変形すると以下の式が得られる。
【0048】
MatrixI=MatrixZ−1・MatrixE ・・・(4)
すなわち、MatrixZの逆行列と、MatrixEとの積により、枝の各々における電流値を示すMatrixIを求めることができる。さらに、MatrixEを参照すると、この例では、枝番号4の枝(枝4)に、電源Eが存在する。したがって、求められたMatrixIから、枝番号4の枝における電流値を取得すれば良い。
【0049】
本実施の形態においては、所定の車両数(たとえば、26両)の回路網モデルに基づいた行列式の情報を記憶装置24に格納している。理論値演算部34は、この行列式において、車両数から、節の総数TotalNodeNumを算出し、1≦節番号NodeNum≦TotalNodeNumの節に関して、指令線の抵抗値および電磁弁の抵抗値に基づく、節の抵抗値ZNodeNumをMatrixZに与える。その一方、TotalNodeNumより大きな節については、ハイインピーダンスを示す値(つまり、節の抵抗値より十分に大きな値)をZとして与える。
【0050】
本実施の形態については、車両数が1の場合から、車両数がNの場合まで、(4)式を用いて、演算を繰り返して、電源が配置された枝における電流値を取得することにより、車両数が1の場合の電流理論値II〜車両数がNの場合の電流理論値IIを算出することができる。
【0051】
さらに、本発明者は、電磁弁の抵抗値は、温度により変化することを知見している。たとえば、電磁弁の抵抗値は、温度の上昇とともにほぼ一定の割合で上昇する。たとえば、20°Cの温度の下では上述したように、略615Ωである。そこで、本実施の形態においては、現在温度T(°C)をパラメータとして、電磁弁抵抗値を
電磁弁抵抗値=R+q・T (qは定数)
とする。したがって、上記節の抵抗値に割り当てる電磁弁の抵抗値は、温度Tによって補正されたものとなる。
【0052】
図12は、鉄道車両付近の温度が35°Cのときの、鉄道車両編成の抵抗実測値と、本発明にかかる抵抗理論値とを示すグラフである。抵抗実測値では、鉄道車両の間のジャンパ線(図示)を外すことにより、車両数を変更している。図12のグラフにおいて、横軸の「n−(n+1)両目」という表記は、n両目の鉄道車両と(n+1)両目の鉄道車両との間のジャンパ線を外していることを意味しており、このときの抵抗実測値は、車両数がnのときの値となる。また、「断線なし」は、車両数が「13」であることを示している。また、グラフにおいて、抵抗理論値は、電磁弁抵抗値を温度T(=35°C)として補正した上で、本発明による行列演算により得たものである。
【0053】
図12に示すように、温度補正をして、かつ、回路網モデルに基づいて演算して得た抵抗理論値は、抵抗実測値と略一致していることが理解できる。
【0054】
ステップ402の後、制御・演算部14(シーケンス制御部33)は、指令線特定パラメータkを「0」に初期化し、スイッチ部16に指示を与える。本実施の形態においては、スイッチ部16は、パラメータkが「0」のときに、電源部12と、緩め指令線101に接続された信号線201とを接続させ、パラメータkが「1」のときに、電源部12と、常用ブレーキ指令線102に接続された信号線202とを接続させ、パラメータkが「2」のときに、電源部12と、非常ブレーキ指令線103に接続された信号線203とを接続させる。
【0055】
次いで、制御・演算部14(計測値受付部32)は、電流測定部20から受け入れた電流実測値と電源部12から指令線に印加される電圧値とに基づいて、抵抗実測値Rを取得する(ステップ404)。その後、制御・演算部14(シーケンス制御部33)は、パラメータkが「0」であるかを判断し(ステップ405)、ステップ405でYesであれば、マイナス線断線検知部35が計測値受付部から、電圧実測値V、Vを取得する(ステップ406)。ここに電圧実測値Vは、信号線202(つまり、常用ブレーキ指令線102)と信号線204(つまりマイナス線104)との間の電位差に相当する。また、電圧実測値Vは、信号線203(つまり、非常ブレーキ指令線103)と信号線204(つまりマイナス線104)との間の電位差に相当する。すなわち、電圧実測値V、Vは、電圧を印加した信号線(ブレーキ指令線)以外の信号線(ブレーキ指令線)とマイナス線との間の電位差に相当する。
【0056】
マイナス線断線検知部35は、所定の電圧閾値Vthを参照して、V≧Vth或いは
≧Vthであるかを判断する(ステップ407)。ステップ407でYesと判断された場合には、マイナス線断線検知部35は、マイナス線が断線しているとして、その情報(マイナス線断線情報)を記憶装置24に格納する(図14のステップ1401参照)。マイナス線が断線している場合の処理については後述する。
【0057】
図10は、図1に示す車両編成において、1両目(先頭)の鉄道車両T1と2両目の鉄道車両T2との連結部においてマイナス線104が、符号1001に示す位置で断線している状態を示している。電源部20によって、緩め指令線101に電圧が印加されており、たとえば、2両目の鉄道車両Tでは、緩め指令線101から第1の電磁弁R2rv2を介してマイナス線104に電流が流れる(符号1002参照)。本来であれば、電流は、1両目の鉄道車両Tのマイナス線104を経て、端子124から断線検知装置10に戻る。他の車両からマイナス線104に流れている電流(符号1003)も同様である。
【0058】
しかしながら、鉄道車両Tのマイナス線104に断線1001が生じているため、電流の一部は、鉄道車両Tの第2の電磁弁S2rvを経て常用ブレーキ指令線102に流れ込み(符号1004参照)、また、第3の電磁弁E2rvを経て非常ブレーキ指令線103に流れ込む(符号1005)。このように電圧が印加されていないブレーキ指令線にも電流が流れ込むことにより、電圧実測値V、Vが、「0」より明らかに大きな値をとることになる。本実施の形態においては、電圧実測値V、Vの変化(所定の閾値Vth以上であること)を検知することで、マイナス線の断線を検知することができる。
【0059】
次に、制御・演算部14(実測値・理論値比較部36)は、抵抗実測値Rと、抵抗理論値RIとを比較する(ステップ408)。実測値・理論値比較部36は、抵抗実測値Rが、抵抗理論値RINから所定の範囲逸脱しているかを判断する(ステップ501)。所定の範囲は、たとえば、理論抵抗値RINの所定のパーセンテージ(数パーセント)の誤差を許容範囲として、抵抗実測値Rが下記の範囲内に含まれるかを判断すれば良い。
【0060】
IN×(1−DevTh)≦R≦RIN×(1+DevTh
上記式において、DevTh×100が、許容範囲を示すパーセンテージである。
【0061】
抵抗実測値Rが上記範囲を逸脱している場合(ステップ501でYes)には、断線位置検出部37が、抵抗理論値パターンRI〜RI(N−1)から、抵抗実測値Rに近似する抵抗理論値RIを特定する(ステップ502)。図11は、抵抗理論値RIの取得を説明する図である。図11(a)に示すように、一般に、抵抗実測値Rは、抵抗理論値と一致せず、2つの抵抗理論値の間(図11(a)では、RIおよびRIp+1)に位置する。そこで、図11(b)に示すように、(RI−R)=D1と(R−RIp+1)=D2とを比較して、抵抗実測値Rが何れの抵抗理論値に近いかを判断して、近似する抵抗理論値を特定すれば良い。
【0062】
抵抗理論値RIが特定されると、断線位置検出部37は、p両目の鉄道車両に断線が生じている可能性が高いと判断し(ステップ503)、p両目の鉄道車両における断線を示す情報を断線位置情報として記憶装置24に格納する(ステップ504)。次いで、シーケンス制御部33は、パラメータkをインクリメントして(ステップ505)、パラメータkが「2」より大きいかを判断する(ステップ506)。ステップ506でNoと判断された場合には、ステップ404に戻り、次の指令線についての断線の検知が実行される。
【0063】
ステップ506でYesと判断された場合には、制御・演算部14(画像生成部38)は、記憶装置24に記憶されたマイナス線断線情報および断線位置情報を含む画像を生成して、表示部28に出力する。これにより、表示部28の画面上には、検知結果としてマイナス線断線情報および断線位置情報を含む画像が表示される。
【0064】
本実施の形態にかかる理論値演算部34は、連結された複数の鉄道車両における電磁弁の数と、各鉄道車両の電磁弁の各々の抵抗値、各鉄道車両のブレーキ指令線(たとえば、緩め指令線、常用ブレーキ指令線、非常ブレーキ指令線)およびマイナス線の抵抗値に基づき、編成を構成する車両数の鉄道車両におけるブレーキ指令線、電磁弁、および、マイナス線の回路網モデルにしたがって、連結された複数の鉄道車両の編成を構成する車両数、および、編成を構成する車両数より少ない車両数について、マイナス線に接続された端子を通る電流の電流理論値、或いは、当該電流理論値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗理論値である、一連の理論値を取得する。本実施の形態では、理論値として抵抗理論値を取得する。
【0065】
また、実測値・理論値比較部36および断線位置検出部37は、測定値(抵抗測定値)と、一連の理論値(抵抗理論値)のうち、編成を構成する車両数に対応する理論値(抵抗理論値)とを比較して、測定値が、編成を構成する車両数に対応する理論値からの所定範囲に含まれるかを判断することで、ブレーキ指令線或いはマイナス線における断線の有無を判断する。さらに、打線位置検出部37は、断線が有る場合に、一連の理論値(抵抗理論値)のうち、測定値(抵抗測定値)に近似する理論値(抵抗理論値)を見出して、当該見出された理論値(理論値)に基づいて、連結された複数の鉄道車両における断線位置を特定する。
【0066】
マイナス線が断線していると判断された場合にも、同様の処理により断線位置が特定される。図14に示すように、マイナス線断線情報が記憶装置24に格納された(ステップ1401)後、断線位置検出部37が、抵抗理論値パターンRI〜RI(N−1)から、抵抗実測値Rに近似する抵抗理論値RIを特定する(ステップ1402)。次いで、抵抗理論値RIが特定されると、断線位置検出部37は、p両目の鉄道車両に断線が生じている可能性が高いと判断し(ステップ1403)、p両目の鉄道車両における断線を示す情報を断線位置情報として記憶装置24に格納する(ステップ1404)。
【0067】
このように、本実施の形態では、各鉄道車両の電磁弁の抵抗値およびブレーキ指令線およびマイナス線の抵抗値を考慮した理論値を算出し、理論値と実測値との相違に基づいて、断線の有無および断線位置を検出する。これにより、正確な断線位置の特定が可能となる。
【0068】
また、本実施の形態においては、マイナス線断線検出部35は、電圧が印加されているブレーキ指令線以外の他のブレーキ指令線とマイナス線との間の電圧値に基づいて、マイナス線における断線の有無を検出する。これにより、断線があった場合に、ブレーキ指令線(電圧が印加されているブレーキ指令線)の断線であるか、マイナス線の断線であるかを適切に判断することが可能となる。
【0069】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0070】
たとえば、本実施の形態においては、n両の鉄道車両T〜Tの1両目(先頭)の車両Tのブレーキ指令線およびマイナス線の端子と、断線検知装置10の端子部22の対応する端子とを接続して、断線検知装置10を作動して、電源部12から所定のブレーキ指令線に電圧を印加して、当該ブレーキ指令線およびマイナス線の断線位置を特定している。しかしながら、これに限定されるものではなく、n両目(最後方)の車両Tのブレーキ指令線およびマイナス線の端子と、断線検知装置10の端子部22の対応する端子とを接続して、断線検知装置10を作動しても良い。
【0071】
さらに、最初に1両目(先頭)の車両Tのブレーキ指令線およびマイナス線の端子と、断線検知装置10の端子部22の対応する端子とを接続して、断線検知装置10を作動して、断線が検出された場合には、さらに、n両目(最後方)の車両Tのブレーキ指令線およびマイナス線の端子と、断線検知装置10の端子部22の対応する端子とを接続して、断線検知装置10を作動しても良い。このように、編成された鉄道車両の双方から断線位置を検出することで、より正確な断線位置の特定が可能である。
【0072】
また、本実施の形態においては、断線検知装置10を単独の装置としているが、これに限定されるものではなく、機関車に断線検知装置10を搭載して、機関車を、編成された鉄道車両T〜Tと連結した状態で、断線検知装置10を作動させて、断線位置を検知しても良い。
【0073】
また、前記実施の形態においては、理論値算出部34が、編成を構成する車両数および現在温度を受け入れて、行列演算によって抵抗理論値を算出している。しかしながら、これに限定されず、一定の最大編成を構成する車両数(たとえば26両)およびそれ以下の車両数(1両〜25両)までの抵抗理論値を予め算出しておき、これを記憶装置24に抵抗理論値テーブルとして格納しておき、理論値演算部34が、編成を構成する車両数を受け入れて、当該車両数に対応する抵抗理論値を読み出すことで、抵抗理論値を取得しても良い。
【0074】
図13に示すように、抵抗理論テーブルには、温度範囲ごとに、車両数が「1」〜最大編成を構成する車両数(この例では「26」)までの抵抗理論値の組が格納されている。したがって、理論値算出部34は、現在温度が属する温度範囲を特定し、当該温度範囲に関連付けられた抵抗理論値の組を用いれば良い。
【符号の説明】
【0075】
10 断線検知装置
12 電源部
14 制御・演算部
16 スイッチ部
18 電圧測定部
20 電流測定部
22 端子部
24 記憶装置
26 入力部
28 表示部
31 設定値受付部
32 計測値受付部
33 シーケンス制御部
34 理論値演算部
35 マイナス線断線検知部
36 実測値・理論値比較部
37 断線位置検出部
38 画像生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作によって指令された電気信号が与えられる1以上のブレーキ指令線と、前記ブレーキ指令線と接続され前記電気信号により制御される電磁弁を各々有する複数の鉄道車両が、編成を構成する車両数だけ連結され隣接する車両との間で前記ブレーキ指令線が接続される鉄道車両編成において、前記ブレーキ指令線および前記電磁弁と接続されるマイナス線における断線および断線位置を検知する断線検知装置であって、
前記連結された複数の鉄道車両のブレーキ指令線およびマイナス線とそれぞれ接続する端子を備えた端子部と、
所定のブレーキ指令線に接続される端子と、前記マイナス線に接続する端子との間に電圧を与える電源部と、
前記マイナス線に接続された端子を通る電流を測定する電流測定手段と、
前記連結された複数の鉄道車両における前記電磁弁の数と、各鉄道車両の電磁弁の各々の抵抗値、前記各鉄道車両のブレーキ指令線およびマイナス線の抵抗値に基づき、前記編成を構成する車両数の鉄道車両におけるブレーキ指令線、電磁弁、および、マイナス線の回路網モデルにしたがって、前記連結された複数の鉄道車両の編成を構成する車両数、および、編成を構成する車両数より少ない車両数について、前記マイナス線に接続された端子を通る電流の電流理論値、或いは、当該電流理論値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗理論値である、一連の理論値を取得する理論値取得手段と、
前記電流測定手段により測定された電流測定値、或いは、当該電流測定値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗測定値である測定値と、前記一連の理論値のうち、編成を構成する車両数に対応する理論値とを比較して、前記測定値が、前記編成を構成する車両数に対応する理論値からの所定範囲に含まれるかを判断することで、前記ブレーキ指令線或いはマイナス線における断線の有無を判断する断線判断手段と、
前記断線が有る場合に、前記一連の理論値のうち、前記測定値に近似する理論値を見出して、当該見出された理論値に基づいて、前記連結された複数の鉄道車両における断線位置を特定する断線位置特定手段と、を備えたことを特徴とする断線検知装置。
【請求項2】
前記理論値取得手段が、
前記回路網モデルにおける枝数、節数および閉回路数に基づき、枝の各々における電圧値を示す行列、枝数および閉回路数に基づくタイセット行列、および、枝の各々における抵抗値を配置した対角行列とに基づき、前記一連の理論値を算出することを特徴とする請求項1に記載の断線検知装置。
【請求項3】
前記各電磁弁の抵抗値について、特定の温度における初期値から温度が増大するのにしたがって、その抵抗値も増大するように、前記電磁弁の抵抗値を補正する抵抗値補正手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の断線検知装置。
【請求項4】
前記編成を構成する車両数およびそれ以下の車両数と対応付けられた理論値を含むテーブルを格納した記憶装置を備え、
前記理論値取得手段が、前記記憶装置のテーブルから、前記理論値を読み出すことを特徴とする請求項1に記載の断線検知装置。
【請求項5】
前記理論値のテーブルが、特定の温度における初期値から温度が増大するのにしたがって、その抵抗値も増大するような電磁弁の抵抗値に基づき、所定の複数の電磁弁の温度のそれぞれについて、前記編成を構成する車両数およびそれ以下の車両数と対応付けられた理論値を格納していることを特徴とする請求項4に記載の断線検知装置。
【請求項6】
前記所定のブレーキ指令線以外の他のブレーキ指令線と、前記マイナス線との間の電圧値を測定する電圧測定手段を備え、
前記電源部が前記所定のブレーキ指令線と前記マイナス線との間に電圧を与えているときに、前記電圧測定手段が、前記電圧値を測定することにより、前記マイナス線における断線の有無を判断するように構成されたことを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の断線検知装置。
【請求項7】
ブレーキ操作によって指令された電気信号が与えられる1以上のブレーキ指令線と、前記ブレーキ指令線と接続され前記電気信号により制御される電磁弁を各々有する複数の鉄道車両が、編成を構成する車両数だけ連結され隣接する車両との間で前記ブレーキ指令線が接続される鉄道車両編成において、前記ブレーキ指令線および前記電磁弁と接続されるマイナス線における断線および断線位置を検知するために、
前記連結された複数の鉄道車両のブレーキ指令線およびマイナス線とそれぞれ接続する端子を備えた端子部と、
所定のブレーキ指令線に接続される端子と、前記マイナス線に接続する端子との間に電圧を与える電源部と、
前記マイナス線に接続された端子を通る電流を測定する電流測定手段と、それぞれ接続されたコンピュータに、
前記連結された複数の鉄道車両における前記電磁弁の数と、各鉄道車両の電磁弁の各々の抵抗値、前記各鉄道車両のブレーキ指令線およびマイナス線の抵抗値に基づき、前記編成を構成する車両数の鉄道車両におけるブレーキ指令線、電磁弁、および、マイナス線の回路網モデルにしたがって、前記連結された複数の鉄道車両の編成を構成する車両数、および、編成を構成する車両数より少ない車両数について、前記マイナス線に接続された端子を通る電流の電流理論値、或いは、当該電流理論値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗理論値である、一連の理論値を取得する理論値取得ステップと、
前記電流測定手段により測定された電流測定値、或いは、当該電流測定値と電源部により印加される電圧により得られる抵抗測定値である測定値と、前記一連の理論値のうち、編成を構成する車両数に対応する理論値とを比較して、前記測定値が、前記編成を構成する車両数に対応する理論値からの所定範囲に含まれるかを判断することで、前記ブレーキ指令線或いはマイナス線における断線の有無を判断する断線判断ステップと、
前記断線が有る場合に、前記一連の理論値のうち、前記測定値に近似する理論値を見出して、当該見出された理論値に基づいて、前記連結された複数の鉄道車両における断線位置を特定する断線位置特定ステップと、を実行させることを特徴とする断線検知プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−209122(P2011−209122A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77358(P2010−77358)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000230696)日本貨物鉄道株式会社 (14)
【Fターム(参考)】