説明

旋回制御装置及び旋回制御方法

【課題】旋回時に車輪にキャンバ角が付与されたときに、運転者が操舵装置の操作に違和感を覚えることがないようにする。
【解決手段】車両のボディと、複数の車輪と、所定の車輪にキャンバ角を付与するためのアクチュエータと、操舵装置と、操舵装置が操作されたときに、アシストトルクを発生させて操舵を補助する操舵補助装置と、アクチュエータを駆動して車輪にキャンバ角を付与するキャンバ制御処理手段と、車輪にキャンバ角が付与されたときに、アシストトルクを調整するアシストトルク調整処理手段とを有する。車両の旋回時に、車輪にキャンバ角が付与されると、アシストトルクが調整されるので、操舵装置の操作が重くなったり、軽くなったりすることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回制御装置及び旋回制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を走行させる際には、タイヤと路面との間で発生させられる摩擦力によって、タイヤの進行方向と逆方向に転がり抵抗が発生する。また、車両を旋回させるために、運転者が操舵装置としてのステアリングホイールを操作してタイヤの向きを変えると、前記摩擦力によって、タイヤの向きに対して垂直の方向に横力が発生する。したがって、車両の旋回時には、前記転がり抵抗と横力との合力がタイヤ力となってタイヤに加わる。
【0003】
このとき、前記タイヤ力における、タイヤの進行方向に対して垂直の方向の成分がコーナリングフォースとなり、該コーナリングフォースは、車両を旋回させる際に遠心力に抗して必要になる求心力として機能する。また、前記タイヤ力における、タイヤの進行方向の成分がコーナリング抵抗となり、該コーナリング抵抗は、車両の走行抵抗として機能する。
【0004】
ところで、車両を旋回させる際に、消費されるエネルギーを小さくするために、前輪にキャンバ角を付与することによって、キャンバスラストを発生させ、タイヤのスリップ角をその分小さくしてコーナリング抵抗を小さくするようにした車両が提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−15473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の車両においては、旋回時に車輪にキャンバ角が付与されると、車輪の回転及びキャンバ角の変化によって車輪にジャイロモーメントが発生してしまう。
【0007】
その結果、運転者はステアリングホイールの操作に違和感を覚えてしまう。
【0008】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、旋回時に車輪にキャンバ角が付与されたときに、運転者が操舵装置の操作に違和感を覚えることがない旋回制御装置及び旋回制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明の旋回制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、所定の車輪にキャンバ角を付与するためのアクチュエータと、操舵装置と、該操舵装置が操作されたときに、アシストトルクを発生させて操舵を補助する操舵補助装置と、前記アクチュエータを駆動して前記車輪にキャンバ角を付与するキャンバ制御処理手段と、前記車輪にキャンバ角が付与されたときに、アシストトルクを調整するアシストトルク調整処理手段とを有する。
【0010】
本発明の他の旋回制御装置においては、さらに、前記アシストトルク調整処理手段は、操舵装置の操作に基づく車両の旋回方向、及び各車輪に付与されるキャンバ角に対応させてアシストトルクの調整量を算出する。
【0011】
本発明の更に他の旋回制御装置においては、さらに、前記アシストトルク調整処理手段は、車輪に発生するジャイロモーメントを算出し、該ジャイロモーメントに基づいて、操舵装置の操作に基づく車両の旋回方向、及び各車輪に付与されるキャンバ角に対応させてアシストトルクの調整量を算出する。
【0012】
本発明の旋回制御方法においては、車両のボディ、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪、所定の車輪にキャンバ角を付与するためのアクチュエータ、操舵装置、及び該操舵装置が操作されたときに、アシストトルクを発生させて操舵を補助する操舵補助装置を有する車両に適用されるようになっている。
【0013】
そして、前記アクチュエータを駆動して前記車輪にキャンバ角を付与し、前記車輪にキャンバ角が付与されたときに、アシストトルクを調整する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、旋回制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、所定の車輪にキャンバ角を付与するためのアクチュエータと、操舵装置と、該操舵装置が操作されたときに、アシストトルクを発生させて操舵を補助する操舵補助装置と、前記アクチュエータを駆動して前記車輪にキャンバ角を付与するキャンバ制御処理手段と、前記車輪にキャンバ角が付与されたときに、アシストトルクを調整するアシストトルク調整処理手段とを有する。
【0015】
この場合、車両の旋回時に、前記車輪にキャンバ角が付与されると、アシストトルクが調整されるので、操舵装置の操作が重くなったり、軽くなったりすることがなく、運転者が操舵装置の操作に違和感を覚えることがない。
【0016】
本発明の他の旋回制御装置においては、さらに、前記アシストトルク調整処理手段は、操舵装置の操作に基づく車両の旋回方向、及び各車輪に付与されるキャンバ角に対応させてアシストトルクの調整量を算出する。
【0017】
この場合、車両の旋回時に、車輪に発生するジャイロモーメントに基づいてアシストトルクの調整量が算出されるので、ジャイロモーメントを打ち消すようにアシストトルクを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【図3】本発明の実施の形態における車輪の断面図である。
【図4】負のキャンバ角を付与したときの車輪の状態を示す図である。
【図5】負のキャンバ角を付与したときに発生するジャイロモーメントを説明する図である。
【図6】正のキャンバ角を付与したときの車輪の状態を示す図である。
【図7】負のキャンバ角を付与したときに発生するジャイロモーメントを説明する図である。
【図8】本発明の実施の形態におけるアシストトルク調整処理手段の動作を説明するフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態におけるアシストトルク調整量マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図2は本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【0021】
図において、11は車両の本体を表すボディ、12は駆動源としてのエンジン、WLF、WRF、WLB、WRBは、前記ボディ11に対して回転自在に配設された左前方、右前方、左後方及び右後方の車輪であり、車輪WLF、WRFによって前輪が、車輪WLB、WRBによって後輪が構成される。前記各車輪WLF、WRF、WLB、WRBは、アルミニウム合金等によって形成された図示されないホイール、及び該ホイールの外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ36を備える。なお、この場合、前記車両は前輪駆動方式の構造を有し、前記エンジン12と車輪WLF、WRFとが図示されないドライブシャフトを介して連結され、エンジン12を駆動することによって発生させられた回転は車輪WLF、WRFに伝達され、該車輪WLF、WRFが、回転させられ、駆動輪として機能する。
【0022】
また、13は車両の操舵を行うための操作部としての、かつ、操舵装置としてのステアリングホイール、14は車両を加速するための操作部としての、かつ、加速操作部材としてのアクセルペダル、15は車両を制動するための操作部としての、かつ、制動操作部材としてのブレーキペダルである。操作者としての運転者がステアリングホイール13を操作して回転させると、ステアリングホイール13の操作量であるステアリング角度に応じて車輪WLF、WRFに舵角が付与され、車両を旋回させることができる。また、運転者がアクセルペダル14を踏み込むと、アクセルペダル14の操作量である踏込量(ストローク)に応じて車両を加速することができ、運転者がブレーキペダル15を踏み込むと、ブレーキペダル15の操作量である踏込量に応じて車両を制動することができる。なお、前記舵角は、ステアリングホイール13の回転に応じて車輪WLF、WRFの向きが変化させられたときの、車両の前後方向と車輪WLF、WRFの向きとが成す角度である。
【0023】
そして、16は車両の全体の制御を行う制御部、31、32は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLF、WRFとの間に配設され、各車輪WLF、WRFを回転自在に支持するとともに、各車輪WLF、WRFに舵角を独立させて形成し、キャンバ角を独立させて付与するアクチュエータ(車輪駆動部)、33、34は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に配設され、各車輪WLB、WRBを回転自在に支持するとともに、各車輪WLB、WRBにキャンバ角を独立させて付与するアクチュエータである。前記アクチュエータ31、32によってキャンバ角可変機構及び舵角可変機構が、アクチュエータ33、34によってキャンバ角可変機構が構成される。
【0024】
ところで、低速走行中に、ステアリングホイール13を操作して車両を大きく旋回させようとすると、タイヤ36と路面との間で大きな摩擦力が発生するが、該摩擦力に抗して車輪WLF、WRFの向きを変えるためにステアリングホイール13の操舵力をその分大きくする必要がある。
【0025】
そこで、本実施の形態においては、ステアリングホイール13の操舵軸に操舵力検出部としてのトルクセンサ81を配設し、該トルクセンサ81によって操舵軸に発生する操舵トルクを検出し、検出された操舵トルクに応じて操舵用の駆動部としてのモータ82を駆動することによって、アシストトルク(補助操舵トルク)を発生させ、前記車両における運転者のステアリングホイール13の操作を補助するようにしている。なお、トルクセンサ81、モータ82等によって操舵補助装置としてのパワーステアリング装置が構成される。本実施の形態においては、操舵用の駆動部としてモータ82が使用されるようになっているが、モータ82に代えて油圧ピストンを使用することもできる。
【0026】
次に、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与するためのキャンバ角可変機構について説明する。この場合、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBのキャンバ角可変機構の構造は同じであるので、左前方の車輪WLFについてだけ説明する。
【0027】
図3は本発明の実施の形態における車輪の断面図である。
【0028】
図において、21はホイール、31はアクチュエータ、36はホイール21に取り付けられたタイヤである。
【0029】
前記アクチュエータ31は、ベース部材としての図示されないナックル、該ナックルに固定されたキャンバ制御用の駆動部としてのモータ41、前記ナックルの下端において、ナックルに対して揺動自在に配設された可動部材としての可動プレート43、前記モータ41の回転運動を可動プレート43の揺動運動に変換する運動方向変換部としてのクランク機構45、エンジン12の回転をホイール21に伝達する伝動軸としてのドライブシャフト46、ステアリングホイール13を操作したときに、車輪WLFの向きを変えるための操舵部材としてのロワアーム48等を備える。
【0030】
前記ホイール21は、可動プレート43に対して回転自在に支持され、ドライブシャフト46と連結される。
【0031】
また、前記クランク機構45は、前記モータ41の出力軸に取り付けられた第1の変換要素としてのウォームギヤ51、前記ナックルに対して回転自在に配設され、前記ウォームギヤ51と噛(し)合させられる第2の変換要素としてのウォームホイール52、及び該ウォームホイール52と可動プレート43とを連結する第3の変換要素としてのアーム53を有する。該アーム53は、一端において、ウォームホイール52の回転軸に対して偏心させた位置で、第1の連結部を介してウォームホイール52と連結され、他端において、可動プレート43の上端と第2の連結部を介して連結される。この場合、可動プレート43によって第4の変換要素が構成される。
【0032】
前記ウォームギヤ51及びウォームホイール52によって、回転運動の軸の向きが変換され、ウォームホイール52及びアーム53によって回転運動が直進運動に変換され、アーム53及び可動プレート43によって直進運動が揺動運動に変換される。
【0033】
したがって、モータ41を駆動すると、ウォームギヤ51及びウォームホイール52が回転させられ、アーム53が進退させられ、可動プレート43が揺動させられる。その結果、可動プレート43が傾けられた角度と同じキャンバ角が車輪WLFに付与される。
【0034】
次に、前記構成の車両の制御装置について説明する。
【0035】
図1は本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0036】
図において、16は制御部、41は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBごとに配設されたモータ、61は第1の記憶部としてのROM、62は第2の記憶部としてのRAM、63は車速を検出する車速検出部としての車速センサ、64はステアリングホイール13のステアリング角度を検出する操舵検出部としてのステアリングセンサ、65は車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサ、66は横G及び前後Gを検出する加速度検出部としてのGセンサ、68は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されたキャンバ角を検出するキャンバ角検出部としてのキャンバ角センサである。
【0037】
また、80はパワーステアリング装置、81はトルクセンサ、82はモータ、84は、制御部16と接続され、パワーステアリング装置80の全体の制御を行うパワステ制御部である。前記制御部16及びパワステ制御部84は、単独で、又は組み合わせることによってコンピュータとして機能する。
【0038】
なお、ボディ11、ステアリングホイール13、制御部16、アクチュエータ31〜34、パワーステアリング装置80、車輪WLF、WRF、WLB、WRB等によって旋回制御装置が構成される。
【0039】
ところで、本実施の形態においては、車両の旋回時に、車輪WLF、WRFにキャンバ角を付与することによって、キャンバスラストを発生させるようにしている。
【0040】
そのために、制御部16の図示されない操舵判断処理手段は、操舵判断処理を行い、ステアリングセンサ64によって検出されたステアリング角度を読み込み、ステアリング角度が閾(しきい)値より大きいかどうかによって運転者がステアリングホイール13の操舵を行っているかどうかを判断する。ステアリング角度が閾値より大きく、運転者がステアリングホイール13の操舵を行っている場合、制御部16の図示されないキャンバ制御処理手段は、キャンバ制御処理を行い、車輪WLF、WRFに所定の、例えば、±3〔°〕のキャンバ角を付与する。すなわち、キャンバ制御処理手段は、車輪WLF、WRFのモータ41を駆動し、車両を左に旋回させる場合、車輪WLFに正のキャンバ角(ポジティブキャンバ)を、車輪WRFに負のキャンバ角(ネガティブキャンバ)を付与し、車両を右に旋回させる場合、車輪WLFに負のキャンバ角を、車輪WRFに正のキャンバ角を付与する。
【0041】
したがって、車両を左に旋回させる場合、車両に対して左方向にキャンバスラストを発生させることができ、車両を右に旋回させる場合、車両に対して右方向にキャンバスラストを発生させることができる。その結果、旋回時に、タイヤ36のスリップ角を小さくすることができるので、コーナリング抵抗を小さくすることができ、燃費を良くすることができる。
【0042】
次に、パワーステアリング装置80の動作について説明する。
【0043】
まず、パワステ制御部84の図示されないアシスト必要性判断処理手段は、アシスト必要性判断処理を行い、車速センサ63によって検出された車速、及びステアリングセンサ64によって検出されたステアリング角度を読み込み、車速が閾値以下であるかどうか、及びステアリング角度が閾値以上であるかどうかを判断することによって、パワーステアリング装置80による操舵のアシストが必要であるかどうかを判断する。なお、このときのステアリング角度の閾値は、前記操舵判断処理におけるステアリング角度の閾値と等しくされる。
【0044】
そして、前記アシスト必要性判断処理手段が、車速が閾値以下であり、ステアリング角度が閾値以上であり、パワーステアリング装置80による操舵のアシストが必要である判断すると、パワステ制御部84の図示されないアシストトルク取得処理手段は、アシストトルク取得処理を行い、トルクセンサ81によって検出された操舵トルクを読み込み、ROM61内の図示されないアシストトルクマップを参照し、前記車速及び操舵トルクに対応するアシストトルクを取得する。前記アシストトルクマップには、車速及び操舵トルクとアシストトルクとが対応させて記録される。なお、車速が低いほどアシストトルクが大きく、車速が高いほどアシストトルクが小さく設定される。
【0045】
続いて、パワステ制御部84の図示されないアシストトルク発生処理手段は、アシストトルク発生処理を行い、取得されたアシストトルクを目標トルクとしてモータ82を駆動する。このようにして、モータ82を駆動することによってアシストトルクを発生させ、車両における運転者の操舵を補助する。
【0046】
ところで、車両の旋回時に車輪WLF、WRFにキャンバ角が付与されると、車輪WLF、WRFの回転及びキャンバ角の変化によって車輪WLF、WRFにジャイロモーメントが発生してしまう。
【0047】
次に、ジャイロモーメントが発生する状態について説明する。この場合、左前方の車輪WLFに発生するジャイロモーメントについて説明する。
【0048】
図4は負のキャンバ角を付与したときの車輪の状態を示す図、図5は負のキャンバ角を付与したときに発生するジャイロモーメントを説明する図、図6は正のキャンバ角を付与したときの車輪の状態を示す図、図7は負のキャンバ角を付与したときに発生するジャイロモーメントを説明する図である。
【0049】
図において、WLFは左前方の車輪、rは路面である。
【0050】
図4及び5に示されるように、車両が矢印F方向に走行しているときに、車輪WLFに負のキャンバ角を矢印Hn方向に付与すると、矢印Jn方向にジャイロモーメントが発生する。該ジャイロモーメントは、車両を左に旋回させる場合、タイヤ36の向きを左方向に変えるのを阻止するように、車両を右に旋回させる場合、タイヤ36の向きを右方向に変えるのを促進するように働く。したがって、車両を左に旋回させる場合、ステアリングホイール13の操作が重くなり、車両を右に旋回させる場合、ステアリングホイール13の操作が軽くなってしまい、運転者は違和感を覚えてしまう。
【0051】
また、図6及び7に示されるように、車両が矢印F方向に走行しているときに、車輪WLFに正のキャンバ角を矢印Hp方向に付与すると、矢印Jp方向にジャイロモーメントが発生する。該ジャイロモーメントは、車両を左に旋回させる場合、タイヤ36の向きを左方向に変えるのを促進するように、車両を右に旋回させる場合、タイヤ36の向きを右方向に変えるのを阻止するように働く。したがって、車両を左に旋回させる場合、ステアリングホイール13の操作が軽くなり、車両を右に旋回させる場合、ステアリングホイール13の操作が重くなってしまい、運転者は違和感を覚えてしまう。
【0052】
そこで、本実施の形態においては、ジャイロモーメントによってステアリングホイール13の操作が重くなったり、軽くなったりすることがなく、運転者が違和感を覚えることがないように、前記パワステ制御部84の図示されないアシストトルク調整処理手段によって、アシストトルク調整処理を行い、前記パワーステアリング装置80によって発生させられるアシストトルクを調整するようにしている。
【0053】
次に、前記アシストトルク調整処理手段の動作について説明する。
【0054】
図8は本発明の実施の形態におけるアシストトルク調整処理手段の動作を説明するフローチャート、図9は本発明の実施の形態におけるアシストトルク調整量マップを示す図である。
【0055】
まず、前記アシストトルク調整処理手段のキャンバ判断処理手段は、キャンバ判断処理を行い、キャンバ制御信号を読み込み、前記制御部16においてキャンバ制御処理が行われ、キャンバ角が付与されているかどうかを判断する。そして、キャンバ制御処理が行われ、キャンバ角が付与されている場合、アシストトルク調整処理手段のジャイロモーメント算出処理手段は、ジャイロモーメント算出処理を行い、車速センサ63によって検出された車速、及びキャンバ角に基づいて、車輪WLF、WRFに発生するジャイロモーメントを算出する。そのために、前記ROM61に図示されないジャイロモーメントマップが配設され、該ジャイロモーメントマップに車速及びキャンバ角に対応するジャイロモーメントが記録され、前記ジャイロモーメント算出処理手段は、車速及びキャンバ角に対応するジャイロモーメントを読み出す。
【0056】
続いて、前記アシストトルク調整処理手段の調整量算出処理手段は、調整量算出処理を行い、ジャイロモーメントに基づいて、アシストトルクの調整量を算出する。そのために、前記ROM61には、図9に示されるようなアシストトルク調整量マップが配設され、該アシストトルク調整量マップに、車両の旋回方向、車輪WLFに付与されるキャンバ角(左キャンバ角)及び車輪WRFに付与されるキャンバ角(右キャンバ角)に対応させて、アシストトルクの調整量ΔTp(増)、ΔTm(減)が記録される。なお、調整量ΔTp(増)は、アシストトルクを大きくするために、正の値を、調整量ΔTm(減)は、アシストトルクを小さくするために、負の値を採る。
【0057】
次に、前記アシストトルク調整処理手段のアシストトルク算出処理手段は、アシストトルク算出処理を行い、前記調整量ΔTp(増)、ΔTm(減)を読み込み、アシストトルクを算出する。このようにして、アシストトルクが算出されると、前記アシストトルク発生処理手段は、算出されたアシストトルクを目標トルクとしてモータ82を駆動し、モータ82を駆動することによってアシストトルクを発生させ、車両における運転者のステアリングホイール13の操舵を補助する。
【0058】
このように、本実施の形態においては、車両の旋回時に車輪WLF、WRFにキャンバ角が付与されると、車輪WLF、WRFに発生するジャイロモーメントに対応させて、パワーステアリング装置80によってアシストトルクが調整されるので、ジャイロモーメントを打ち消すようにアシストトルクを発生させることができる。したがって、ステアリングホイール13の操作が重くなったり、軽くなったりすることがなく、運転者がステアリングホイール13の操作に違和感を覚えることがない。
【0059】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1 キャンバ制御信号を読み込む。
ステップS2 キャンバ角が付与されたかどうかを判断する。キャンバ角が付与された場合はステップS3に進み、キャンバ角が付与されない場合は処理を終了する。
ステップS3 ジャイロモーメントを算出する。
ステップS4 アシストトルクの調整量を算出する。
ステップS5 アシストトルクを算出し、処理を終了する。
【0060】
本実施の形態においては、車両を左に旋回させる場合、車輪WLFに正のキャンバ角を、車輪WRFに負のキャンバ角を付与し、車両を右に旋回させる場合、車輪WLFに負のキャンバ角を、車輪WRFに正のキャンバ角を付与するキャンバ制御処理に適用されるようになっているが、車両を左に旋回させる場合、車輪WLFに負のキャンバ角を、車輪WRFに正のキャンバ角を付与し、車両を右に旋回させる場合、車輪WLFに正のキャンバ角を、車輪WRFに負のキャンバ角を付与するキャンバ制御処理に適用することもできる。この場合、車両を左に旋回させる場合、アシストトルクは調整量ΔTm(減)だけ小さく、車両を右に旋回させる場合、アシストトルクは調整量ΔTp(増)だけ大きくされる。
【0061】
また、車両を左又は右に旋回させる場合、車輪WLF、WRFに正のキャンバ角を付与したり、負のキャンバ角を付与したりするキャンバ制御処理においては、車輪WLF、WRFに各ジャイロモーメントが互いに反対の方向に発生し、ステアリングホイール13を操作する上で相殺される。したがって、アシストトルクを調整する必要はない。
【0062】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0063】
11 ボディ
13 ステアリングホイール
16 制御部
31〜34 アクチュエータ
80 パワーステアリング装置
WLF、WRF、WLB、WRB 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、所定の車輪にキャンバ角を付与するためのアクチュエータと、操舵装置と、該操舵装置が操作されたときに、アシストトルクを発生させて操舵を補助する操舵補助装置と、前記アクチュエータを駆動して前記車輪にキャンバ角を付与するキャンバ制御処理手段と、前記車輪にキャンバ角が付与されたときに、アシストトルクを調整するアシストトルク調整処理手段とを有することを特徴とする旋回制御装置。
【請求項2】
前記アシストトルク調整処理手段は、操舵装置の操作に基づく車両の旋回方向、及び各車輪に付与されるキャンバ角に対応させてアシストトルクの調整量を算出する請求項1に記載の旋回制御処理。
【請求項3】
前記アシストトルク調整処理手段は、車輪に発生するジャイロモーメントを算出し、該ジャイロモーメントに基づいて、操舵装置の操作に基づく車両の旋回方向、及び各車輪に付与されるキャンバ角に対応させてアシストトルクの調整量を算出する請求項2に記載の旋回制御処理。
【請求項4】
車両のボディ、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪、所定の車輪にキャンバ角を付与するためのアクチュエータ、操舵装置、及び該操舵装置が操作されたときに、アシストトルクを発生させて操舵を補助する操舵補助装置を有する車両の旋回制御方法において、前記アクチュエータを駆動して前記車輪にキャンバ角を付与し、前記車輪にキャンバ角が付与されたときに、アシストトルクを調整することを特徴とする旋回制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−234967(P2010−234967A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85595(P2009−85595)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】