説明

昇圧コンバータの制御装置

【課題】駆動電圧系の電圧の目標電圧への追従性を向上させる。
【解決手段】昇圧コンバータのデューティ指令値Dutyは、電池電圧系電力ラインの電圧VLから昇圧されている駆動電圧系電力ラインの電圧VHとバッテリの充放電電力とが変動していない所定の定常状態のときには前回Dutyから前回Dffを減じることにより更新されると共に所定の定常状態でないときには更新されずに保持される力行時推定項Dadj1または回生時推定項Dadj2と(S150,S160,S260,S270)フィードフォワード項Dffとフィードバック項Dffとの和として設定される(S220,S330)。即ち、所定の定常状態でない状態になったときでも、フィードバック項Dfbとは別に、装置の個体差に応じた値として所定の定常状態のときに更新される力行時推定項Dadj1または回生時推定項Dadj2を一部に加えてデューティ指令値Dutyが設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧コンバータの制御装置に関し、詳しくは、バッテリが接続された電池電圧系からの電力を昇圧してモータを駆動するためのインバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータを、電池電圧系の電圧と駆動電圧系の目標電圧とにより算出されるフィードフォワード項と、駆動電圧系の電圧が駆動電圧系の目標電圧となるように算出されるフィードバック項と、を用いて設定されるデューティ指令値によって制御する昇圧コンバータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の昇圧コンバータの制御装置としては、バッテリから供給される低圧系の電力をインバータによるモータの駆動に必要な高圧系のシステム電圧に昇圧する昇圧コンバータの制御装置であって、モータの駆動に必要な指令電圧に対する電圧センサにより検出された低圧系の電圧の比率としてのフィードフォワード項と、指令電圧と電圧センサにより検出された高圧系の電圧との差分をゼロとするようなフィードバック項との和として、昇圧コンバータのデューティ信号を設定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−178443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した昇圧コンバータの制御装置では、モータの駆動状態が変化したり高圧系の指令電圧が変化したときに、電圧フィードバック制御の結果として高圧系の電圧が指令電圧に追従して安定するまでにある程度の時間を要する。こうした時間は、モータの応答性や制御性を高める観点から、できるだけ短くするのが望ましい。
【0005】
本発明の昇圧コンバータの制御装置は、駆動電圧系の電圧の目標電圧への追従性を向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の昇圧コンバータの制御装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の昇圧コンバータの制御装置は、
バッテリが接続された電池電圧系からの電力を昇圧してモータを駆動するためのインバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータを、前記電池電圧系の電圧と前記駆動電圧系の目標電圧とにより算出されるフィードフォワード項と、前記駆動電圧系の電圧が前記駆動電圧系の目標電圧となるように算出されるフィードバック項と、を用いて設定されるデューティ指令値によって制御する昇圧コンバータの制御装置において、
前記デューティ指令値は、前記電池電圧系の電圧から昇圧されている前記駆動電圧系の電圧と前記バッテリの充放電電力とが変動していない所定の定常状態のときには前回に前記設定されたデューティ指令値から前回に前記算出されたフィードフォワード項を減じることにより更新されると共に前記所定の定常状態でないときには更新されずに保持されるフィードバック推定項と、前記フィードフォワード項と、前記フィードバック項との和として設定される、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の昇圧コンバータの制御装置では、昇圧コンバータを、電池電圧系の電圧と駆動電圧系の目標電圧とにより算出されるフィードフォワード項と、駆動電圧系の電圧が駆動電圧系の目標電圧となるように算出されるフィードバック項と、を用いて設定されるデューティ指令値によって制御するものにおいて、デューティ指令値は、電池電圧系の電圧から昇圧されている駆動電圧系の電圧とバッテリの充放電電力とが変動していない所定の定常状態のときには前回に設定されたデューティ指令値から前回に算出されたフィードフォワード項を減じることにより更新されると共に所定の定常状態でないときには更新されずに保持されるフィードバック推定項と、フィードフォワード項と、フィードバック項との和として設定される。したがって、モータの駆動状態や駆動電圧系の目標電圧が変化するなどして所定の定常状態でない状態になったときに、フィードバック項とは別に、装置の個体差に応じた値として所定の定常状態のときに更新されるフィードバック推定項を一部に加えてデューティ指令値が設定されるから、駆動電圧系の電圧の目標電圧への追従性を向上させることができる。この結果、モータのトルク指令に対する応答性を高めることができる。
【0009】
こうした本発明の昇圧コンバータの制御装置において、前記デューティ指令値のフィードバック推定項は、前記昇圧コンバータのキャリア周波数が変更されたときには値0にリセットされる、ものとすることもできる。こうすれば、昇圧コンバータのキャリア周波数によって異なる値となるフィードバック推定項が誤った推定値となるのを抑制することができる。
【0010】
また、本発明の昇圧コンバータの制御装置において、前記デューティ指令値のフィードバック推定項は、該フィードバック推定項が更新されてから所定時間が経過したときには値0にリセットされる、ものとすることもできる。ここで、前記所定時間は、前記電池電圧系の電圧を検出する電池電圧系電圧センサと前記駆動電圧系の電圧を検出する駆動電圧系電圧センサとの少なくとも一方の雰囲気温度が検出値に影響を与える程に変化する時間として予め定められた時間である、ものとすることもできる。こうすれば、雰囲気温度によって検出値が異なる値となる電圧センサを用いる場合に、この電圧センサの検出値に基づいて算出されたフィードバック推定項が長い時間更新されずに保持されて、フィードバック推定項が誤った推定値となるのを抑制することができる。
【0011】
さらに、本発明の昇圧コンバータの制御装置において、前記デューティ指令は、前記モータを力行駆動するときの指令値と前記モータを回生駆動するときの指令値とに区分して設定される、ものとすることもできる。この場合、前記昇圧コンバータは、2つのスイッチング素子と該2つのスイッチング素子の各々に逆方向に並列に接続された2つのダイオードとを有する、ものとすることもできる。これは、2つのスイッチング素子を短絡防止のために共にオフとする時間(デッドタイム)のため、モータを力行駆動するときと回生駆動するときとによって昇圧コンバータのデューティ指令値が異なる値となることに基づく。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例としての電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電子制御ユニット50により実行されるデューティ指令値設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例としての電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、例えば永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを有する同期発電電動機として構成されて駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、モータ32を駆動するインバータ34と、例えばリチウムイオン電池などの二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、駆動電圧系電力ラインという)42とバッテリ36が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)44とに接続されて電池電圧系電力ライン44の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン42に供給可能な昇圧コンバータ40と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。なお、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ46が接続されており、電池電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ48が接続されている。
【0015】
インバータ34は、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側となるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を制御することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ32を回転駆動することができる。
【0016】
昇圧コンバータ40は、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ駆動電圧系電力ライン42の正極母線と駆動電圧系電力ライン42および電池電圧系電力ライン44の負極母線とに接続されており、その接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと駆動電圧系電力ライン42および電池電圧系電力ライン44の負極母線とにはそれぞれバッテリ36の正極端子と負極端子とが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフ制御することにより、電池電圧系電力ライン44の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン42に供給したり、駆動電圧系電力ライン42の電力を降圧して電池電圧系電力ライン44に供給したりすることができる。
【0017】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmや、インバータ34からモータ32への電力ラインに取り付けられた電流センサ32U,32VからのU相,V相の相電流Iu,Iv,バッテリ36の端子間に設置された電圧センサ37aからの電池電圧Vb,バッテリ36の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた電流センサ37bからの充放電電流Ib(放電側が正の値),バッテリ36に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tb,コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(駆動電圧系電力ライン42の電圧)VHやコンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48の電圧(電池電圧系電力ライン44の電圧)VL,イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号,シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50からは、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmを演算したり、電流センサ37bにより検出されたバッテリ36の充放電電流Ibに基づいてそのときのバッテリ36から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ36を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0018】
こうして構成された実施例の電気自動車20は、図示しない駆動制御ルーチンにより駆動制御されている。駆動制御では、アクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accと車速センサ68からの車速Vとに応じて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を設定し、バッテリ36の入出力制限Win,Woutをモータ32の回転数Nmで除することによってモータ32から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを設定し、要求トルクTr*をトルク制限Tmin,Tmaxで制限することによってモータ32から出力すべきトルク指令Tm*を設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御すると共に駆動電圧系電力ライン42の電圧VHがトルク指令Tm*とモータ32の回転数Nmとに基づく目標電圧VH*となるよう昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をスイッチング制御する。
【0019】
ここで、昇圧コンバータ40の制御は、図示しない昇圧制御ルーチンにより行なわれている。昇圧制御では、モータ32のトルク指令Tm*および回転数Nmからなる目標駆動点とモータ32を駆動できる駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*との関係を予め定めたマップを用いて駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*を設定し、設定した駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*に対する電圧センサ48aからの電池電圧系電力ライン44の電圧VLの割合(VL/VH*)として算出されるフィードフォワード項Dffと、電圧センサ46aからの駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが設定した目標電圧VH*となるように算出されるフィードバック項Dfbとを用いてデューティ指令値Dutyを設定する。また、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32の温度を検出するための図示しない温度センサからの素子温度や昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32を冷却する冷却水の温度を検出する図示しない水温センサからの冷却水温に基づいてトランジスタT31,T32の温度が予め定めた閾値未満と推定されるときには、昇圧コンバータ40の制御性を高めるために予め定められた第1周波数Fc1をキャリア周波数Fcに設定し、同じく素子温度や冷却水温に基づいてトランジスタT31,T32の温度が閾値以上と推定されるときには、トランジスタT31,T32の過熱を抑制するために第1周波数Fc1より小さい値として予め定められた第2周波数Fc2をキャリア周波数Fcに設定する。そして、設定したキャリア周波数Fcの逆数としてのトランジスタT31,T32のスイッチング周期のうち設定したデューティ指令値Dutyに相当する時間はトランジスタT31をオンとすると共にトランジスタT32をオフとし、スイッチング周期の残りの時間はトランジスタT31をオフとすると共にトランジスタT32をオンとすることによって、トランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。トランジスタT31,T32のオンオフを切り替える際にトランジスタT31,T32が共にオンとなるのを防止するためのデッドタイム(トランジスタT31,T32を共にオフとする時間)を考慮しなければ、デューティ指令値Dutyは、トランジスタT31のオン時間とトランジスタT32のオン時間(トランジスタT31のオフ時間)との和に対するトランジスタT31のオン時間の比率を示す値となる。
【0020】
次に、こうして構成された実施例の電気自動車20の動作、特に昇圧コンバータ40の昇圧制御におけるデューティ指令値Dutyを設定する際の動作について説明する。図2は、電子制御ユニット50により実行されるデューティ指令値設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0021】
図2のデューティ指令値設定ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、電圧センサ46aからの駆動電圧系電力ライン42の電圧VHや電圧センサ48aからの電池電圧系電力ライン44の電圧VL,電圧センサ37aからの電池電圧Vb,電流センサ37bからの充放電電流Ib,昇圧コンバータ40のスイッチング制御におけるキャリア周波数Fc,駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*など設定に必要なデータを入力する処理を実行する。ここで、キャリア周波数Fcは、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32の推定される温度に応じて第1周波数Fc1またはこの第1周波数Fc1より小さい第2周波数Fc2に設定されたものを入力するものとした。駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*は、モータ32のトルク指令Tm*および回転数Nmからなる目標駆動点とモータ32を駆動できる駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*との関係を予め定めたマップを用いて設定されたものを入力するものとした。
【0022】
こうしてデータを入力すると、入力したバッテリ36の充放電電流Ibが値0以上であるか否かを判定し(ステップS110)、充放電電流Ibが値0以上のときには、モータ32を力行駆動すると判断し、入力したキャリア周波数Fcが前回本ルーチンを実行したときに入力したキャリア周波数Fc(前回Fc)と同じであるか否かと(ステップS120)、デューティ指令値Dutyの設定に用いる力行時推定項Dadj1を更新してからの経過時間T1が所定時間Tref未満であるか否かとを判定する(ステップS130)。ここで、キャリア周波数Fcが前回Fcと同じであるか否かを判定するのは、キャリア周波数Fcが変更されることによってフィードバック項Dfbが大きく変化するという昇圧コンバータ40の特性に従ってデューティ指令値Dutyが大きく変化するか否かを判断するためである。また、力行時推定項Dadj1については後述するが、この力行時推定項Dadj1を更新してからの経過時間T1が所定時間Tref未満であるか否かを判定するのは、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを検出する電圧センサ46aや電池電圧系電力ライン44の電圧VLを検出する電圧センサ48aの雰囲気温度がそれぞれの検出値に影響を与える程に変化する時間が経過することによって、デューティ指令値Dutyの設定に用いるフィードフォワード項Dffやフィードバック項Dfb,デューティ指令値Dutyが大きく変化するか否かを判断するためである。したがって、所定時間Trefは、実施例では、電圧VHを検出する電圧センサ46aと電圧VLを検出する電圧センサ48aとの少なくとも一方の雰囲気温度がセンサの検出値に影響を与える程に変化する時間として予め実験などにより定められたもの(例えば、数分など)を用いるものとした。
【0023】
キャリア周波数Fcが前回Fcと同じであり且つ経過時間T1が所定時間Tref未満のときには、前回までに設定されたデューティ指令値Dutyなどを用いて力行時推定項Dadj1を求めてもよいと判断し、電池電圧系電力ライン44の電圧VLから昇圧されている駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが変動しておらず且つバッテリ36の充放電電力が変動していない定常状態(以下、所定の定常状態という)であるか否かを判定する(ステップS140)。ここで、所定の定常状態の判定は、実施例では、電圧VHが電圧VLより大きい状態(VH>VL)が前回本ルーチンで入力した値と今回本ルーチンで入力した値との間で継続しており且つ前回入力した電圧VHと今回入力した電圧VHとの差が値0を含む所定範囲内にあるときに駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが変動していない状態と判定すると共に、前回本ルーチンで入力した電池電圧Vbと充放電電流Ibとの積と今回本ルーチンで入力した電池電圧Vbと充放電電流Ibとの積との差が値0を含む所定範囲内にあるときにバッテリ36の充放電電力が変動していない状態と判定し、両判定がなされたときに所定の定常状態であると判定することにより行なうものとした。
【0024】
所定の定常状態であると判定されたときには、前回本ルーチンを実行したときに設定されたデューティ指令値Duty(前回Duty)から前回本ルーチンを実行したときに計算されたフィードフォワード項Dff(前回Dff)を減じたものを力行時推定項Dadj1として更新すると共に(ステップS150)、力行時推定項Dadj1を更新してからの経過時間T1の値0からの計時を開始し(ステップS160)、所定の定常状態でないと判定されたときには、前回本ルーチンを実行したときに設定(更新)された力行時推定項Dadj1をそのまま力行時推定項Dadj1に設定する(ステップS170)。ここで、力行時推定項Dadj1について説明する。力行時推定項Dadj1は、デューティ指令値Dutyをフィードフォワード項とフィードバック項との和として設定する従来手法の場合であれば、モータ32を力行駆動するとき且つ所定の定常状態のときにフィードバック項の一部として装置の個体差に応じて定常的に現れる成分であり、モータ32を力行駆動するとき且つ所定の定常状態のときの従来手法におけるフィードバック項の推定成分である。従来手法におけるフィードバック項の値に影響を与える装置の個体差の要因としては、電圧センサ46a,48aの検出誤差や、昇圧コンバータ40をデューティ指令値Dutyでスイッチング制御したときに実際にトランジスタT31,T32がオンオフする時間、昇圧コンバータ40のスイッチング制御におけるデッドタイムなどがある。したがって、ステップS150の処理は、モータ32を力行駆動するとき且つ所定の定常状態のときに、従来手法におけるフィードバック項の推定成分を最新の推定値に更新するための処理であり、ステップS170の処理は、所定の定常状態でないために従来手法におけるフィードバック項の推定成分を一旦保持するための処理となる。
【0025】
そして、入力した電池電圧系電力ライン44の電圧VLを駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*で割ったものを次式(1)によりフィードフォワード項Dffとして計算すると共に(ステップS200)、入力した駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VH*とに基づいて式(2)によりフィードバック項Dfbを計算し(ステップS210)、計算したフィードフォワード項Dffと力行時推定項Dadj1とフィードバック項Dfbとの和をデューティ指令値Dutyとして設定して(ステップS220)、デューティ指令値設定ルーチンを終了する。式(2)は、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを目標電圧VH*とするための電圧フィードバック制御におけるフィードバック項の計算式であり、式(2)中、右辺第1項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第2項の「k2」は積分項のゲインである。
【0026】
Dff=VL/VH* (1)
Dfb=k1(VH*-VH)+k2∫(VH*-VH)dt (2)
【0027】
こうして設定されたデューティ指令値Dutyは、モータ32を力行駆動するとき且つ所定の定常状態のときには前回Dutyから前回Dffを減じることにより従来手法におけるフィードバック項の推定成分として更新されると共に所定の定常状態でないときには更新されずに保持される力行時推定項Dadj1と、フィードフォワード項Dffと、フィードバック項Dfbとの和となる。したがって、モータ32の回転数Nmやトルク指令Tm*など駆動状態が変化したり、駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*が変化するなどして所定の定常状態でない状態になったときに、フィードバック項Dfbとは別に、フィードフォワード的に、装置の個体差に応じた値としてモータ32を力行駆動するとき且つ所定の定常状態のときに更新される力行時推定項Dadj1を一部に加えてデューティ指令値Dutyが設定されるから、実施例の電気自動車20では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの目標電圧VH*への追従性を向上させることができる。
【0028】
ステップS120でキャリア周波数Fcが前回Fcとは異なるときや、ステップS130で力行時推定項Dadj1を更新してからの経過時間T1が所定時間Tref以上のときには、前回までに設定されたデューティ指令値Dutyなどを用いて力行時推定項Dadj1を求めるべきでないと判断し、力行時推定項Dadj1を値0にリセットすると共に(ステップS180)、経過時間T1を値0にリセットしてその計時を停止する(ステップS190)。そして、フィードフォワード項Dffとフィードバック項Dfbとを計算してデューティ指令値Dutyを設定して(ステップS200〜S220)、デューティ指令値設定ルーチンを終了する。こうして設定されたデューティ指令値Dutyは、値0の力行時推定項Dadj1を用いることになるから、従来手法と同様に、フィードフォワード項Dffとフィードバック項Dfbとの和として設定されたものとなる。こうした設定により、昇圧コンバータ40のキャリア周波数Fcによって本来異なる値となる力行時推定項Dadj1が誤った推定値となるのを抑制することができる。また、例えば比較的安価なセンサなどセンサの雰囲気温度によって検出値が異なる値となる電圧センサ46a,48aを用いる場合に、電圧センサ46a,48aの検出値に基づいて計算された力行時推定項Dadj1が更新されずに所定時間Trefを超えて保持されてしまい、力行時推定項Dadj1が誤った推定値となるのを抑制することができる。
【0029】
ステップS110でバッテリ36の充放電電流Ibが値0未満のときには、モータ32を回生駆動すると判断し、入力したキャリア周波数Fcが前回Fcと同じであるか否かと(ステップS230)、デューティ指令値Dutyの設定に用いる回生時推定項Dadj2を更新してからの経過時間T2が所定時間Tref未満であるか否かとを判定する(ステップS240)。キャリア周波数Fcの判定を行なう理由や、経過時間T2の判定を行なう理由については、モータ32を力行駆動するときと同様である。キャリア周波数Fcが前回Fcと同じであり且つ経過時間T2が所定時間Tref未満のときには、前回までに設定されたデューティ指令値Dutyなどを用いて回生時推定項Dadj2を求めてもよいと判断し、所定の定常状態であるか否かを判定する(ステップS250)。所定の定常状態の判定についても、モータ32を力行駆動するときと同様に行なう。
【0030】
所定の定常状態であると判定されたときには、前回Dutyから前回Dffを減じたものを回生時推定項Dadj2として更新すると共に(ステップS260)、回生時推定項Dadj2を更新してからの経過時間T2の値0からの計時を開始し(ステップS270)、所定の定常状態でないと判定されたときには、前回本ルーチンを実行したときに設定(更新)された回生時推定項Dadj2をそのまま回生時推定項Dadj2に設定する(ステップS280)。ここで、回生時推定項Dadj2は、力行時推定項Dadj1と同様に、デューティ指令値Dutyをフィードフォワード項とフィードバック項との和として設定する従来手法の場合であれば、モータ32を回生駆動するとき且つ所定の定常状態のときにフィードバック項の一部として装置の個体差に応じて定常的に現れる成分であり、モータ32を回生駆動するとき且つ所定の定常状態のときの従来手法におけるフィードバック項の推定成分である。また、回生時推定項Dadj2を力行時推定項Dadj1と別に求めるのは、昇圧コンバータ40のスイッチング制御におけるデッドタイムの影響のために(モータ32の力行駆動時における昇圧コンバータ40のデッドタイムにはリアクトルLからダイオードD31を介して電流が流れるなどのために)、モータ32を力行駆動するときと回生駆動するときとによって、昇圧コンバータ40の同じデューティ指令値Dutyに対する実際のデューティが異なり、電圧フィードバック制御の結果として所定の定常状態におけるデューティ指令値Dutyが異なる値となることに基づく。
【0031】
そして、入力した電池電圧系電力ライン44の電圧VLを駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*で割ったものを前述の式(1)によりフィードフォワード項Dffとして計算すると共に(ステップS310)、入力した駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VH*とに基づいて式(2)によりフィードバック項Dfbを計算し(ステップS320)、計算したフィードフォワード項Dffと回生時推定項Dadj2とフィードバック項Dfbとの和をデューティ指令値Dutyとして設定して(ステップS330)、デューティ指令値設定ルーチンを終了する。
【0032】
こうして設定されたデューティ指令値Dutyは、モータ32を回生駆動するとき且つ所定の定常状態のときには前回Dutyから前回Dffを減じることにより従来手法におけるフィードバック項の推定成分として更新されると共に、所定の定常状態でないときには更新されずに保持される回生時推定項Dadj2と、フィードフォワード項Dffと、フィードバック項Dfbとの和となる。したがって、実施例の電気自動車20では、モータ32の力行駆動時と同様に、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの目標電圧VH*への追従性を向上させることができる。
【0033】
ステップS230でキャリア周波数Fcが前回Fcとは異なるときや、ステップS240で回生時推定項Dadj2を更新してからの経過時間T2が所定時間Tref以上のときには、前回までに設定されたデューティ指令値Dutyなどを用いて回生時推定項Dadj1を求めるべきでないと判断し、回生時推定項Dadj2を値0にリセットすると共に(ステップS290)、経過時間T2を値0にリセットしてその計時を停止する(ステップS300)。そして、フィードフォワード項Dffとフィードバック項Dfbとを計算してデューティ指令値Dutyを設定して(ステップS310〜S330)、デューティ指令値設定ルーチンを終了する。こうした設定により、モータ32の力行駆動時と同様に、昇圧コンバータ40のキャリア周波数Fcによって本来異なる値となる回生時推定項Dadj2が誤った推定値となるのを抑制することができる。また、例えば比較的安価なセンサなどセンサの雰囲気温度によって検出値が異なる値となる電圧センサ46a,48aを用いる場合に、電圧センサ46a,48aの検出値に基づいて計算された回生時推定項Dadj2が更新されずに所定時間Trefを超えて保持されてしまい、回生時推定項Dadj2が誤った推定値となるのを抑制することができる。このように、モータ32が力行駆動するときと回生駆動するときとによってそれぞれ力行時推定項Dadj1と回生時推定項Dadj2とを求めてデューティ指令値Dutyを設定するから、駆動電圧系の電圧の目標電圧への追従性をより適正に向上させることができる。この結果、モータ32のトルク指令Tm*に対する応答性を高めることができる。
【0034】
以上説明した実施例の電気自動車20では、昇圧コンバータ40を、電池電圧系電力ライン44の電圧VLと駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*とにより算出されるフィードフォワード項Dffと、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHがその目標電圧VH*となるように算出されるフィードバック項Dfbと、を用いて設定されるデューティ指令値Dutyによって制御するものにおいて、デューティ指令値Dutyは、電池電圧系電力ライン44の電圧VLから昇圧されている駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとバッテリ36の充放電電力とが変動していない所定の定常状態のときには前回に設定されたデューティ指令値Duty(前回Duty)から前回に算出されたフィードフォワード項Dff(前回Dff)を減じることにより更新されると共に所定の定常状態でないときには更新されずに保持される力行時推定項Dadj1または回生時推定項Dadj2と、フィードフォワード項Dffと、フィードバック項Dffとの和として設定される。したがって、モータ32の駆動状態や駆動電圧系の目標電圧が変化するなどして所定の定常状態でない状態になったときに、フィードバック項Dfbとは別に、フィードフォワード的に、装置の個体差に応じた値として所定の定常状態のときに更新される力行時推定項Dadj1または回生時推定項Dadj2を一部に加えてデューティ指令値Dutyが設定されるから、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの目標電圧VH*への追従性を向上させることができる。この結果、モータ32のトルク指令Tm*に対する応答性を高めることができる。
【0035】
実施例の電気自動車20では、モータ32を力行駆動するときと回生駆動するときとによってそれぞれ力行時推定項Dadj1と回生時推定項Dadj2とを求めてデューティ指令値Dutyを設定するものとしたが、昇圧コンバータ40のデッドタイムの影響が極めて小さい場合には、モータ32を力行駆動するか回生駆動するかに拘わらず同様に推定項を求めてデューティ指令値Dutyを設定するものとしてもよい。
【0036】
実施例の電気自動車20では、昇圧コンバータ40のキャリア周波数Fcが変更されたときには力行時推定項Dadj1や回生時推定項Dadj2を値0にリセットするものとしたが、昇圧コンバータ40のキャリア周波数Fcが変更されない装置では、こうしたリセットは行なわないものとすればよい。
【0037】
実施例の電気自動車20では、力行時推定項Dadj1が更新されてからの経過時間T1や回生時推定項Dadj2が更新されてからの経過時間T2が所定時間Tref以上のときには力行時推定項Dadj1や回生時推定項Dadj2を値0にリセットするものとしたが、雰囲気温度によっては検出値が許容範囲内でしか変化しない温度センサを駆動電圧系電力ライン42の電圧や電池電圧系電力ライン44の電圧を検出するセンサとして用いる場合には、こうしたリセットは行なわないものとすればよい。
【0038】
実施例では、駆動輪26a,26bに接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32とモータ32を駆動するインバータ34とバッテリ36とバッテリ36からの電力を昇圧してインバータ34側に供給する昇圧コンバータ40とを備える電気自動車20における昇圧コンバータ40の制御装置に適用するものとしたが、走行用の動力を入出力可能なモータとモータを駆動するインバータとバッテリとバッテリからの電力を昇圧してインバータ側に供給する昇圧コンバータとに加えて内燃機関を備えるハイブリッド自動車における昇圧コンバータの制御装置に適用するものとしてもよい。また、こうした電気自動車やハイブリッド自動車に適用するものに限定されるものではなく、自動車以外の列車などの車両における昇圧コンバータの制御装置に適用するものとしてもよいし、車両以外の移動体や移動しない設備などに組み込まれた駆動装置における昇圧コンバータの制御装置に適用するものとしてもよい。
【0039】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、昇圧コンバータ40が「昇圧コンバータ」に相当し、図2のデューティ指令値設定ルーチンを実行すると共に設定されたデューティ指令値Dutyによって昇圧コンバータ40のスイッチング制御を行なう電子制御ユニット50が「昇圧コンバータの制御装置」に相当する。
【0040】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0041】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、昇圧コンバータの制御装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
20 電気自動車、22 駆動軸、24 デファレンシャルギヤ、26a,26b 駆動輪、32 モータ、32a 回転位置検出センサ、32U,32V 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、37a 電圧センサ、37b 電流センサ、40 昇圧コンバータ、42 駆動電圧系電力ライン、44 電池電圧系電力ライン、46,48 コンデンサ、46a,48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、60 イグニッションスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、D11〜D16,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、T11〜T16,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリが接続された電池電圧系からの電力を昇圧してモータを駆動するためのインバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータを、前記電池電圧系の電圧と前記駆動電圧系の目標電圧とにより算出されるフィードフォワード項と、前記駆動電圧系の電圧が前記駆動電圧系の目標電圧となるように算出されるフィードバック項と、を用いて設定されるデューティ指令値によって制御する昇圧コンバータの制御装置において、
前記デューティ指令値は、前記電池電圧系の電圧から昇圧されている前記駆動電圧系の電圧と前記バッテリの充放電電力とが変動していない所定の定常状態のときには前回に前記設定されたデューティ指令値から前回に前記算出されたフィードフォワード項を減じることにより更新されると共に前記所定の定常状態でないときには更新されずに保持されるフィードバック推定項と、前記フィードフォワード項と、前記フィードバック項との和として設定される、
ことを特徴とする昇圧コンバータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−17302(P2013−17302A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148250(P2011−148250)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】