説明

有機−無機ハイブリッド型メソポーラス材料、その製造方法及び固体触媒

【課題】新規な有機−無機ハイブリッド型のメソポーラス材料、その製造方法及び当該メソポーラス材料を用いた固体触媒を提供すること。
【解決手段】有機−無機ハイブリッド型のメソポーラス材料であって、エテニレン基、及び金属酸化物を少なくとも構成成分とする細孔壁と、この細孔壁の表面に存在するエテニレン基を化学的に修飾することにより、表面に存在するエテニレン基を構成する炭素原子と直接結合する側鎖型の有機基とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機−無機ハイブリッド型メソポーラス材料、その製造方法、及び有機−無機ハイブリッド型メソポーラス材料を用いた固体触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラス材料は、ナノサイズの均一な細孔を持ち、表面積が大きい(およそ数百m/g)ため様々な用途への応用が期待されている。
メソポーラス材料として、無機骨格(無機細孔壁)のみから構成されるものが知られている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、細孔壁が無機材料のみから構成されるため、細孔壁の表面特性は無機の特性を示すのみである。従って、有機物が関与する用途等への応用は限定されていた。
【0003】
そこで、有機材料と無機材料とからなるハイブリッド材料が提案された(例えば、非特許文献2〜4、特許文献1)。
非特許文献2には、有機基を無機材料である金属に直接結合させた表面修飾型のメソポーラス材料が提案されている。同文献には、金属と有機基とが結合する有機金属化合物を原料として直接合成する方法と、無機酸化物からなる骨格を一旦合成し、その後に細孔壁表面に有機基を導入する方法とが提案されている。
【0004】
特許文献1、非特許文献3、及び非特許文献4には、骨格の構成材料自身を有機材料と無機材料で構成した、いわゆる有機−無機ハイブリッド骨格型メソポーラス材料が提案されている。例えば、非特許文献3には、骨格(細孔壁)中に疎水性のベンゼン層と、無機物質で親水性のシリカ層が0.76nm間隔で交互に配列した複合体の壁を有する合成例が報告されている。
【非特許文献1】C.T.Kresge et al.,Natuer、vol.359,p710、1992
【非特許文献2】Wim M.Van Rhijin et al.,Chem.Commun.,p317、1998
【非特許文献3】Shinji Inagaiki et al,.Natuer、vol.416,p304、2002
【非特許文献4】Tewodros Asefa et al.,Natuer,vol.402,p867,1999
【特許文献1】特開2001−114790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献2に記載のタイプの有機表面修飾型メソポーラス材料は、加熱環境下や触媒反応等の際に有機基が脱離しやすいという問題点があった。
【0006】
一方、特許文献1等に記載のタイプの有機−無機ハイブリッド骨格型メソポーラス材料は、加熱環境下や触媒反応等の際に有機基の脱離率が上記有機表面修飾型のメソポーラス材料に比して低減される。しかしながら、有機−無機ハイブリッド骨格型メソポーラス材料においては、骨格中に導入可能な有機基が限定されてしまうという問題点があった。
【0007】
メソポーラス材料は、前述したとおりナノスケールの均一な細孔を持ち、高い表面積を有するので、ナノスケールの特殊な反応場を提供できる可能性があり、ナノケミストリーの観点から注目されている。また、環境負荷の少ない触媒等としての応用の可能性があり、グリーンケミストリーの観点からも期待が集まっている。このため、さまざまな用途への応用展開が可能な、新規メソポーラス材料の開発が切望されているところであった。
【0008】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、新規なメソポーラス材料、その製造方法及びその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、下記の態様において本件発明の目的を達成し得ることを見出し、本件発明を完成するに至った。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るメソポーラス材料は、有機−無機ハイブリッド型のメソポーラス材料であって、エテニレン基及び金属酸化物とを少なくとも構成成分とする細孔壁と、該細孔壁の表面に存在するエテニレン基を化学的に修飾することにより、該エテニレン基を構成する炭素原子と直接結合する側鎖型の有機基とを有するものである。
【0011】
本発明に係るメソポーラス材料によれば、骨格を形成している有機基中のエテニレン基を化学的に修飾することにより側鎖型の有機基を導入しているため、上記非特許文献2に記載のタイプの有機表面修飾型メソポーラス材料に比して、定常的に安定なメソポーラス材料を得ることができる。これは、有機表面修飾型メソポーラス材料は骨格との結合点が無機−有機結合からなるのに対し、本件発明は骨格中に導入した安定な有機基に、修飾型の第2の有機基を結合させているためである。
また、エテニレン基と化学的に反応して結合することが可能な部位を有する有機基であれば、所望の構造、分子量、立体配置、光学異性体等を有する有機基をメソポーラス材料中に導入できる。メソポーラス材料は、前述したとおり、ナノスケールの均一な細孔を有し、かつ、表面積が大きい。これに加えて、メソポーラス材料の細孔壁の表面にさまざまな化学修飾をすることが可能となれば、様々な用途への応用展開が可能となる。
【0012】
本発明に係る他のメソポーラス材料は、有機−無機ハイブリッド型のメソポーラス材料であって、2以上の炭素原子を有する第1の有機基と、金属酸化物とを少なくとも構成成分とする細孔壁と、該細孔壁の表面に存在する該第1の有機基に結合する側鎖型の第2の有機基とを有し、該第2の有機基と、該第2の有機基に直接結合する該第1の有機基とが、下記式(I)
【化6】

(式中、C1は該第1の有機基中の第1の炭素原子、C2は該第1の有機基中の第2の炭素原子、Aは、置換基を有していてもよい単環基、又は多環基を示す)で表されるものである。
【0013】
本発明に係る他のメソポーラス材料によれば、骨格を形成している第1の有機基中の炭素原子と第2の有機基とが直接結合しているため、上記非特許文献2に記載のタイプの有機表面修飾型メソポーラス材料に比して、定常的に安定なメソポーラス材料を得ることができる。これは、有機表面修飾型メソポーラス材料は骨格との結合点が無機−有機結合からなるのに対し、本件発明は骨格中に導入した安定な有機基に、修飾型の第2の有機基を結合させているためである。
また、第2の有機基が環式化合物からなるので、鎖状化合物を導入する場合に比して配向性(例えば、細孔壁と第2の有機基との配向角度)の制御が容易になる。
また、第1の有機基の反応部位と結合可能な部位さえ有するものであれば、所望の構造、分子量、立体配置、光学異性体等を有する有機基をメソポーラス材料の側鎖に導入できる。従って、前述したとおり様々な用途への応用展開が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規なメソポーラス材料、その製造方法及び当該メソポーラス材料を用いた固体触媒を提供することができるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に係るメソポーラス材料は、ナノスケールの細孔を有する骨格(細孔壁)と、この骨格の表面と結合点を有する側鎖型の有機基とから構成される。メソポーラス骨格は、有機材料と無機材料から構成される。
なお、側鎖型の有機基とは、有機材料のみから構成されるものの他、有機金属錯体を含むものとする。
【0016】
本発明に係るメソポーラス材料の形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜選定することができる。例えば、粒子状あるいは膜状とする。結晶構造については特に制限はないが、対象性の粒子が得られることから、結晶構造は二次元ヘキサゴナル、三次元ヘキサゴナル、キュービックであることが好ましい。
【0017】
本発明に係るメソポーラス材料の細孔は、粒子の表面のみならず内部にも形成される。この細孔の形状は特に制限はないが、トンネル状に貫通したものや、球状、多角形状の空洞が互いに連結したような形状を有していてもよい。X線回折パターンにおいて1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。
【0018】
図1は、本発明に係るメソポーラス材料の一例を示す模式的な斜視図である。このメソポーラス材料は、同図に示すように、六角柱状の貫通孔を形成する細孔壁が複数集合したような形状を示している。細孔径は、特に限定されないが2nm〜50nm、一般的には2nm〜30nm程度である。用途に応じて、適宜、最適な細孔径を選択することができる。細孔壁の表面積は、特に限定されないが一般的には、数百m/g程度である。
【0019】
本発明に係るメソポーラス材料の骨格構造は、公知の有機−無機ハイブリッド型のメソポーラス材料を利用することができる。ただし、側鎖型の有機基と結合させるための反応部位を骨格中の有機基(以下、「骨格中の有機基」という)に備えている必要がある。骨格中の有機基中の反応部位は、特に限定されないが、例えば、エテニレン基(−CH=CH−)、プロペニレン基(−CH−CH=CH−)、ブテニレン基(−CH−CH=CH−CH−)等を挙げることができる。骨格中の有機基は、2価以上の価数を有しているものを用いる。
【0020】
骨格中の有機基は、その水素原子の一部が、アミド基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、カルボキシル基、エーテル基、アシル基、ビニル基等の置換基で置換されたものであってもよい。本発明に係るメソポーラス材料は、骨格中の有機基として1種類のみからなるものであってもよいし、2種以上含むものであってもよい。
【0021】
本発明に係るメソポーラス材料の骨格中に含まれる金属は、特に限定されないが、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム、スズ、鉛、バナジウム、ホウ素が挙げられる。中でも、有機基及び酸素との結合性が良好なことから、ケイ素、アルミニウム、チタンが好ましい。なお、上記の金属は骨格中の有機基と結合するとともに酸素原子と結合し、酸化物となるが、この酸化物は2種以上の金属原子からなる複合酸化物であってもよい。
骨格中の有機基と金属原子、金属原子と酸素原子との結合の種類は限定されず、共有結合の他、イオン結合などが可能である。
【0022】
本発明に係るメソポーラス材料の骨格中に導入される側鎖型有機基は、鎖状構造であると環状構造であるとを問わずに導入可能であるが、安定性や修飾容易性等を考慮すると環状構造であることが好ましい。環状構造としては、細孔を構成する骨格中の有機基中の連続する2つの炭素原子と側鎖型の有機基とが結合している下記式(I)の形態が、安定性等の観点から好ましい。
【化7】

ここで、式(I)において、Cは骨格中の有機基中の第1の炭素原子、Cは骨格中の有機基中の第2の炭素原子、Aは、置換基を有していてもよい単環基、又は置換基を有していてもよい多環基である。
【0023】
本発明のメソポーラス材料が有する側鎖型有機基の好ましい例としては、下記式(Ia)を挙げることができる。
【化8】

ここで、式(Ia)において、Zは、ヘテロ原子を含んでいてもよい2価の鎖状の飽和、又は不飽和の炭化水素基を示している。また、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、官能基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい有機金属錯体、複数のRが結合して形成される置換基を有していてもよい単環基、又は、複数のRが結合して形成される置換基を有していてもよい多環基を示している。さらに、mは0以上であってZに置換可能な最大数以下の数を示し、他の記号は式(I)の記載と同意義を示している。
【0024】
Zの炭素数、又は炭素とヘテロ原子の合計数は、特に限定されないが、5又は6とすることが好ましい。細孔壁に対する配向角度を制御しやすく、安定性が向上するためである。例えば、シクロヘキシル環、シクロヘキセン環、ピロリジン環等を挙げることができる。
【0025】
本発明のメソポーラス材料が有する側鎖型有機基の特に好ましい例としては、下記式(Ib)又は式(Ic)を挙げることができる。
【化9】

【化10】

ここで式(Ib)及び式(Ic)中、Rはハロゲン原子、官能基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケン基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい有機金属錯体を示している。また、C及びCは炭素原子を示し、nは0以上8以下の整数、他の記号は式(I)の記載と同意義を示す。CとCの結合様式は、炭素−炭素単結合、又は炭素−炭素二重結合である。さらに、Bは置換基を有していてもよい単環基、置換基を有していてもよい多環基を示す。
【0026】
上記式(Ic)中のB
【化11】

は、置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有していてもよいナフタレン環、置換基を有していてもよいアントラセン環、置換基を有していてもよいチオフェン環、置換基を有していてもよいフラン環、置換基を有していてもよいイミダゾール環からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
上記式(I)〜(Ic)における置換基は、官能基、官能基を有していてもよいアルキル基、官能基を有していてもよいアルケニル基、官能基を有していてもよいアルキニル基、官能基を有していてもよいアリール基、官能基を有していてもよい複素環基、官能基を有していてもよい有機金属錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
上記式(I)〜(Ic)において、上記官能基は、不飽和基、水酸基、アミノ基、アミド基、アシル基、イミノ基、エーテル基、エステル基、カルボキシル基、カルバメート基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、ニトロ基、メルカプト基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
次に、本発明に係るメソポーラス材料の製造方法の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の製造方法も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0030】
本発明において使用する有機−無機ハイブリッド骨格型メソポーラス材料の骨格部は、公知の原料(有機金属化合物、界面活性剤等)を用いて公知の方法により調製することができる。例えば、(CO)Si−CH=CH−Si(OCで表される、1、2−ビス(トリエトキシシリルエテン)、(CO)Si−CH=CH−Si(OCで表される、1、2−ビス(トリメトキシシリルエテン)を重縮合することにより骨格構造を得ることができる。1種類のみからなる重縮合物であっても、複数の種類から構成される重縮合物であってもよい。また、必要に応じてアルコキシシラン等の無機系化合物等を一緒に重縮合してもよい。
【0031】
重縮合物を構成する有機金属化合物を、界面活性剤を含む水溶液に加え、酸性若しくはアルカリ性条件下で重縮合する。界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のいずれの界面活性剤も使用することができる。このような界面活性剤としては、飽和炭化水素鎖とポリアルキレンオキサイド鎖からなるオリゴマーや、3つのポリアルキレンオキサイド鎖からなるトリブロックコポリマー等を用いることができる。ポリエチレンオキサイド(EO)鎖−ポリプロピレンオキサイド鎖(PO)鎖−ポリエチレンオキサイド鎖(EO)鎖で表されるトリブロックコポリマーは、(EO)(PO)(EO)として表すことができ、例えば、(EO)20(PO)30(EO)20、(EO)20(PO)70(EO)20、(EO)80(PO)30(EO)80などを用いることができる。この他、本発明の趣旨に反しない限り、公知の界面活性剤を利用することができる。
【0032】
重縮合反応を十分に行った後、得られた沈殿あるいはゲルをろ過し、必要に応じて洗浄を行って乾燥する。その後、水やアルコール等の界面活性剤の溶解性の高い溶媒中に生成物を分散させ、界面活性剤を除去して固形分を回収する。
【0033】
反応温度や界面活性剤の長さ(炭素数)等の合成条件を変更することにより、適宜粒子形状(結晶構造)を変更することが可能である。また、界面活性剤の種類を変化させたり、調製段階で適当な有機助剤を添加し、その量や種類を選択することにより、得られるメソポーラス材料の細孔径を比較的自由に調整することができる。
【0034】
続いて、メソポーラス骨格に側鎖型の有機基を導入する。骨格中にある有機基の反応部位を化学修飾することにより、側鎖型の有機基を導入する。側鎖型の有機基の原料は、骨格中の有機基と結合させるための反応部位を備えていれば特に限定されない。骨格中の有機基の反応部位に応じて、側鎖型有機基を適宜選択する。
【0035】
例えば、骨格有機基中のエテニレン基と反応させて側鎖を導入する方法としては、エポキシ化反応を行った後に有機基を導入する方法、ヒドロメタル化反応、3+2シクロ付加反応、ディールズ・アルダー(Diels Alder)反応等を挙げることができる。中でも、3+2シクロ付加反応、Diels Alder反応は、1段階反応により有機基を導入可能であることから好ましい。
【0036】
Diels Alder反応により側鎖型の有機基を導入する場合の好ましい原料としては、ベンゾシクロブテン誘導体を挙げることができる。この場合、ベンゼン環を骨格である細孔壁に対して突出した状態にさせることができる。このため、官能基等を導入させやすいという利点を有する。また、骨格中の無機材料とベンゼン環とは、分子スケールにおいて離間しているため、無機材料の影響が少なく、本来のベンゼン環の合成反応を展開することができる。
【0037】
側鎖型の有機基を導入した後に、必要に応じて官能基等を導入することができる。無論、側鎖型の有機基を骨格と結合させる前に、予め側鎖型の有機基に官能基を導入させてもよい。また、側鎖型の有機基を導入した後、さらに化学反応より側鎖型有機基の構造を変更することが可能である。
【0038】
次に、本発明に係るメソポーラス材料を固体酸触媒として用いた例について説明する。固体酸触媒として用いる場合、側鎖型の有機基に固体酸触媒として機能する酸点を有する官能基を導入すればよい。例えば、スルフォン酸基やカルボン酸基を導入すればよい。
なお、本発明において用いられる最終生成物を触媒とする方法は、公知の方法を利用することができる。
【0039】
固体酸触媒は、従来の均一液相の触媒に比して、反応生成物と触媒(メソポーラス材料)との分離が容易であるため、グリーンケミストリーの観点から期待されている。従来の固体酸触媒としては、無定型のシリカ−アルミナ、結晶性のゼオライトなどを挙げることができる。しかしながら、無定型のシリカ−アルミナ触媒は、細孔径の不均一性等から、触媒活性、選択性の点で結晶性多孔質のゼオライト触媒に劣っていた。また、ゼオライト触媒は、細孔径が0.7nm以下であるため、石化原料等の小さい分子への用途に限定されていた。そこで、メソポーラス材料の固体酸触媒としての利用が期待され、検討がなされてきた。
【0040】
上記非特許文献2に係る表面修飾型のメソポーラス材料においては、有機基の末端をスルフォン酸に変換した例が開示され、固体酸触媒としての利用例が報告されている。しかしながら、修飾されている有機基の結合点は、有機−無機結合であるため、触媒反応条件下において脱離しやすかった。実際、非特許文献2に記載のスルフォン酸基を有するメソポーラス材料において、固体酸触媒の性能を検討したところ、使用による劣化が激しく、繰り返しの使用は困難であった。
【0041】
上記非特許文献3には、骨格中の有機基であるベンゼン環にスルフォン酸基を導入したものにおいて、固体酸触媒としての利用可能性がある旨が記載されている。しかしながら、スルフォン酸基を導入したものについて固体酸触媒の性能を検討したところ、活性が低く、かつ、使用による劣化が激しく繰り返しの使用が困難であった。推察される原因としては、第1に骨格中の無機物と隣接する有機基に直接官能基を導入しているため、官能基の導入率が低いことを挙げることができる。第2に骨格中の有機基に直接官能基を導入することで骨格中の無機物と官能基とが比較的近くに存在するためスルフォン酸基が脱離しやすいことを挙げることができる。第3に骨格の無機材料と骨格のベンゼンがパラ位で結合していることでスルフォン酸基をベンゼンのオルト位又はメタ位に導入するため、導入率が低くなってしまうことを挙げることができる。
【0042】
本発明者らは、有機−無機ハイブリッド骨格型メソポーラス材料に、側鎖型の有機基を有機−有機結合により導入し、さらに酸性点を有する官能基を導入する(又は、予め側鎖型の有機基に官能基が結合されたものを導入する)ことにより、活性が高く、しかも繰り返し使用による劣化のない固体酸触媒が得られることを見出した。上記非特許文献3のように骨格中の有機基に直接官能基を導入するのではなく、側鎖型の有機基に導入することにより、酸性点を有する官能基の導入率を高くすることができたためと考えている。また、骨格中の金属等と官能基等を離間させることにより、金属等の影響のない官能基本来の触媒作用を発揮できたため、触媒活性が高いと考えている。
【0043】
また、官能基を有する側鎖型の有機基を、骨格中の有機基と結合させたために、上記非特許文献2に比して触媒反応条件下における、有機基の脱離をほとんどなくすことに成功した。このため、使用による劣化のない固体酸触媒を得ることができたものと考えている。さらに、側鎖型有機基として耐熱性のあるもの(例えば、ベンゼン骨格)を導入すれば、気相反応等の高温環境化においても適用可能な固体酸触媒を提供することができる。
【0044】
本発明に係るメソポーラス材料は、前述したとおりゼオライトの細孔よりも大きく、2〜50nmの範囲で細孔径の大きさを調製可能である。しかも、細孔径が均一で、表面積が極めて大きい。従って、機能性分子等の合成用触媒として極めて有用である。
メソポーラス材料の細孔径の大きさは、触媒を利用する化合物の分子の大きさ等を考慮して適宜変更可能であるが、一般的には2〜30nm、より好ましくは2〜10nmとする。さらに好ましくは、3〜7nmである。2nm以下では、細孔径が小さいので反応分子が細孔径内に入らない恐れがある。また、10nmを越えると、表面積が低下するのでその分触媒特性が低下する傾向がある。
【0045】
本発明に係るメソポーラス材料は、骨格に側鎖型の有機基を導入し、さらに官能基を導入している分、骨格構造のみの場合よりも細孔の大きさが小さくなる。しかしながら、ゼオライトに比してメソポーラス材料の細孔径は十分に大きいので、有機基の導入による不具合は一般的には生じない。嵩高い有機基を側鎖に導入する場合、あるいは、固体酸触媒を利用する反応化合物の分子が嵩高い場合には、適宜最適な細孔径となるように調製すればよい。
【0046】
官能基の導入方法は、特に限定されない。官能基を導入する有機基や官能基の種類に応じて、適宜選択する。
【0047】
酸触媒反応の種類は、特に限定されないが、例えば、エステル化反応、アシル化反応、アルドール縮合反応、脱水縮合反応、環状オレフィンの水和反応、アルコールの脱水反応、ホルマリン3量化反応、転位反応、異性化反応、不均化反応、アルキル化反応、脱アルキル化反応、オレフィンへのアルコール付加反応、ベックマン転位反応、ピナコール・ピナコロン転位反応、フランからピロールへの転位反応、置換芳香族化合物の異性化反応、置換芳香族化合物の不均化反応、芳香族化合物のアルキル化反応、置換芳香族化合物のクラッキング反応等が例として挙げられる。
【0048】
反応の方法も特に制限はなく、適宜選択することができる。反応圧力や反応温度も反応の種類によって違うので、特に制限はない。また固定床、移動床、流動床のいずれの方法も用いられるが、操作の容易さから工業的には固定床流通式が特に好ましい。コーキングなどを抑制するために、水素などを共存させても構わない。
【0049】
本発明に係るメソポーラス材料は、塩基性触媒としての利用が可能である。固体塩基触媒としての有用性については、上記固体酸触媒と同様である。この場合、官能基としてアミン基等を導入すればよい。
【0050】
本発明によれば表面積が非常に大きく、かつ細孔構造を有しているため、バルク体と比較したときに局所的に酸濃度の高い空間を作り出すことができる。また、側鎖型の有機基として耐熱性の高い材料(例えば、ベンゼン骨格)を用いれば、液相反応のみならず、気相反応等の高温環境下での応用展開も可能である。
【実施例】
【0051】
次に、実施例によりさらに本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[合成例1]
構造鋳型剤である中性の界面活性剤であるポリエチレンオキサイド鎖−ポリプロピレンオキサイド鎖−ポリエチレンオキサイド鎖で表される(EO)20(PO)70(EO)20(0.99g)のブロックコポリマーを、イオン交換水(22.5ml)と4MのHCl水溶液(15ml)に溶解し、40℃で攪拌した。次いで、1、2−ビス(トリエトキシシリル)エテン(CO)Si−CH=CH−Si(OC(4.23g(5.0mmol))を加えて40℃で24h攪拌した。その後、オートクレーブに移して100℃で24h水熱合成を行い、内容物を濾過して回収し、前駆体を得た。この前駆体をエタノール(150 ml)‐塩酸溶液(3.8g)に分散させて、80℃で6h攪拌して構造鋳型剤の抽出除去を行い、エテニレン基を導入した有機−無機ハイブリッドの骨格(細孔壁)メソポーラス材料を得た。以降、この骨格(細孔壁)メソポーラス材料をHMES(Hybrid mesoporous ethenylene−silica)と略記する。
【0053】
次に、HMES(1.0g)とベンゾシクロブテン(0.6g)をオートクレーブに導入し、200℃,24hでDiels−Alder反応を行った。その後、得られた材料をクロロホルム(150ml)に分散させて還流条件下で6時間洗浄を行った。この操作をもう一度繰り返し、80℃で6時間風乾することにより、細孔表面にフェニル基を導入した側鎖導入メソポーラス材料を得た。以降、この側鎖導入メソポーラス材料をPh−HMES(Phenyl−Hybrid mesoporous ethenylene−silica)と略記する。
【0054】
最後に、Ph−HMES(1.0g)を濃硫酸(100ml)中に80°Cでアルゴン雰囲気下、3日間攪拌した。その後、イオン交換水(500ml)で洗浄し、5回水洗(300ml×5)し、80℃で6時間風乾することにより、スルフォン酸基を側鎖のベンゼン部位に導入した官能基(スルフォン酸基)導入メソポーラス材料を得た。以降、このスルフォン酸基導入メソポーラス材料をSOH−HMES(SOH−Hybrid mesoporous ethenylene−sillica)と略記する。
【0055】
[合成例2]
本合成例2は、基本的な合成方法は上記合成例1と同様であるが、以下の点が異なる。すなわち、上記合成例1においては、界面活性剤としてポリエチレンオキサイド鎖−ポリプロピレンオキサイド鎖−ポリエチレンオキサイド鎖で表される(EO)20(PO)70(EO)20を用いて有機−無機ハイブリッドの骨格メソポーラス材料を得たが、本合成例2においては、界面活性剤として飽和炭化水素鎖−ポリエチレンオキサイド鎖により構成されるCH(CH15(OCHCH10OH(以降、「Brij56」と略記する)を用いて有機−無機ハイブリッドの骨格メソポーラス材料を得ている点が異なる。
【0056】
具体的には、界面活性剤として、Brij56(1.92g)を、イオン交換水(10ml)と2MのHCl水溶液(50ml)に溶解し、50℃で攪拌した。次いで、1、2−ビス(トリエトキシシリル)エテン(CO)Si−CH=CH−Si(OC(10.0mmol)を加えて50℃で20h攪拌した。その後、オートクレーブに移して100℃で24h水熱合成を行い、内容物を濾過して回収し、前駆体を得た。この前駆体をエタノール(150ml)-塩酸溶液(3.8g)に分散させて、80℃で6h攪拌して構造鋳型剤の抽出除去を行い、エテニレン基を導入した有機−無機ハイブリッドの骨格(細孔壁)メソポーラス材料を得た。続いて、上記合成例1と同様の操作により、Diels−Alder反応を行った後にスルフォン酸基を導入した。以降、得られたスルフォン酸基導入メソポーラス材料を、「SOH−HMES(Briji56)」と略記する。
【0057】
[合成例3]
本合成例3は、基本的な合成方法は上記合成例2と同様であるが、以下の点が異なる。すなわち、上記合成例2においては、界面活性剤としてBrij56を用いて有機−無機ハイブリッドの骨格メソポーラス材料を得たが、本合成例3においては、界面活性剤として同じく飽和炭化水素鎖の炭素数が異なるCH(CH17(OCHCH10OH(以降、「Brij76」と略記する)を用いて有機−無機ハイブリッドの骨格メソポーラス材料を得ている点が異なる。具体的合成方法としては、上記合成例2における界面活性剤のBrij56に代えて界面活性剤Brij76(2.0g)を用いて、上記合成例2と同様にして行った。得られたスルフォン酸基導入メソポーラス材料を、「SOH−HMES(Brij76)」と略記する。
【0058】
[構造解析]
上記により得られた化合物について、NMR測定(13C−MAS−NMR、29Si−MAS−NMR)から表面官能基に関する構造の特定を、X線解析から細孔構造の変化の評価を、窒素吸着測定から表面積、細孔径、細孔容積の算出を行った。また、熱分析による耐熱性等の評価を行った。
【0059】
13C−MAS−NMR及び29Si−MAS−NMRは、ASX−200、ASX−400(Bruker社製)を用いて測定した。
【0060】
X線回折装置(XRD)は、X'Pert-MPD PW3500 Diffractometer(Philips社製)を用い、以下の測定条件で細孔構造の変化の検討を行った。すなわち、管電圧を40.0kV、管電流を30.0mAとし、スリットは、発散スリット1/2deg、散乱スリット1/2deg、受光スリット0.2mmとした。d(100)及び、格子定数は、Bragg式により求めた。
【0061】
窒素吸着測定は、SA−3100(Beckmann Coulter社製)を用い、以下の測定条件で表面積等を算出した。各メソポーラス材料は、真空化150℃で2時間以上脱気処理を行ったものを用いた。各メソポーラス材料の表面積はBET法により算出し、細孔径と細孔容積はBJH法により算出した。また、細孔壁の厚みは、[(2/√3)−細孔径]により算出した。
【0062】
示差熱熱重量同時測定(TG−DTA)は、DTG−50(Shimazu社製)を用いて空気気流中で行った。また、示差熱天秤質量分析同時測定(TG−MS)は、MS測定にMS(四重極型質量分析計);M9A−200DS ThermoMass(ANELVA社製)、TG測定にMS;TG−8120Thermoplus(RIGAKU社製)を用いて、アルゴン気流中で同時に耐熱性の評価を行った。
【0063】
図2に、HMES,Ph−HMES,SOH−HMESの29Si−MAS−NMRスペクトルを示す。HMESのスペクトルデータには、図中S3で示す−73ppmに−CH=CH−Si(OH)(OSi)の構造に基づくT2サイトが確認された。また、図中S4で示す−82ppmに−CH=CH−Si(OSi)の構造に基づくT3サイトが確認された。S3及びS4のシグナルより、有機−無機ハイブリッド骨格が形成されていることがわかる。
【0064】
Ph−HMESのスペクトルデータにおいては、上記S3及びS4のシグナルの他に、S1及びS2のシグナルを確認した。S1(−50ppm)は、R−Si(OH)(OSi)の構造に基づくT2サイトであり、S2(−60ppm)は、R−Si(OSi)の構造に基づくT3サイトである。このスペクトルデータにより、細孔壁(骨格)中にあるエテニル基が化学的に修飾されたことがわかる。
SOH−HMESの29Si−MAS−NMRスペクトルには、上記S1,S2、S3、S4のシグナルが確認され、本実施例の最終生成物であるスルフォン酸化したメソポーラス材料の生成が確認された。
【0065】
図3に、HMES,Ph−HMES,及びSOH−HMESの13C−MAS−NMRスペクトルを示す。
図3中のHMES,Ph−HMES,及びSOH−HMESのスペクトルにおいて、所望の化合物が生成されていることを示すピークが確認された。すなわち、図4中の矢印c1で示す炭素原子に基づくピークが、図3中の矢印S8に示す129ppmに確認された。また、図4中の矢印c2で示す炭素原子に基づくピークが、図3中の矢印S7に基づく126ppmに確認された。さらに、図4中の矢印c3、c4、c5に示すそれぞれの炭素原子に基づくピークが、図3中のそれぞれ矢印S9、S6、S5に示す137ppm、28ppm、19ppmに確認された。すなわち、13C−MAS−NMRスペクトルから、骨格に側鎖型の有機基であるベンゾシクロブテンが導入されたことを確認した。なお、図中の米印*は、スピリング サイド バンド(SSB)に基づくピークである。
【0066】
図5に、HMES,Ph−HMES,SOH−HMESの窒素吸着等温線を示す。また、図6に、HMES,Ph−HMES,SOH−HMESの窒素吸着等温線からBJH法で求めた細孔分布曲線を示す。そして、測定結果から算出した表面積、細孔径、細孔容積の結果を表1に示す。
【表1】

表1に示すとおり、HMESの表面積は652m/g、Ph−HMESの表面積は506m/g、SOH−HMESの表面積は565m/gという結果を得た。この結果より、側鎖型有機基を導入すると、骨格型有機基に比して表面積が若干減少するものの、以前として高い表面積を有していることがわかる。また、細孔径は、HMESが6.8nm、Ph−HMESが6.0nm、SOH−HMESが6.0nmという結果を得た。側鎖型の有機基の導入に伴って、若干細孔径が小さくなることがわかる。また、細孔容積は、HMESが1.27ml/g、Ph−HMESが0.70ml/mg、SOH−HMESが0.78ml/gであった。
【0067】
図7に、HMES,Ph−HMES,SOH−HMESのX線回折パターンを示す。また、表2に、XRD測定により得られたd(100)値及び格子定数の結果、及び、骨格(細孔壁)の厚みを算出した結果を示す。骨格(細孔壁)の厚みは、格子定数と細孔径の差により求めた。X線回折ピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。
【表2】

表2に示すとおり、d(100)値はHMESが9.3nm,Ph−HMESが9.0nm,SOH−HMESが10.2nm、格子定数の値は、HMESが10.7nm,Ph−HMESが10.4nm,SOH−HMESが11.8nmであった。いずれもメソ孔であるメソ多孔体の構造を有していることを確認した。
また、骨格(細孔壁)の厚みは、HMESが3.9nm、Ph−HMESが4.4nm、SOH−HMESが5.8nmであり、側鎖型有機基の導入に伴って、細孔壁の厚みが厚くなっていることを確認した。
【0068】
図8は、空気気流中における熱重量分析を行った場合におけるSOH−HMESの重量変化をプロットしたものである。また、図9は、アルゴン気流中における熱重量分析を行った場合におけるSOH−HMESの重量変化をプロットすると同時に、分解物の解析を行ったものである。図8及び図9の結果から、約400℃以上の温度において、本実施例のメソポーラス材料の有機物の分解或いは燃焼に伴うメソポーラス材料の大きな重量減少が観測された。また、導入したスルフォン酸基は、TG−MAS測定の結果より、300℃以上において脱離することがわかった。すなわち、約400℃以下の温度領域においては、メソポーラス材料の細孔内においてベンゼン環が安定に保持されており、約300℃以下の温度領域においてスルフォン酸基が安定に保持されており、SOH−HMESが高い耐熱性を示すことを確認した。
【0069】
図10(a)に、SOH−HMES、SOH−HMES(Brij56)、SOH−HMES(Brij76)の13C−MAS−NMRスペクトルを、図10(b)に、SOH−HMES、SOH−HMES(Brij56)、SOH−HMES(Brij76)の29Si−MAS−NMRスペクトルの結果を示す。図中の(1)はSOH−HMESのスペクトルを示し、(2)はSOH−HMES(Brij76)のスペクトルを示し、(3)はSOH−HMES(Brij56)のスペクトルを示す。これらの図より、SOH−HMESのスペクトルと、SOH−HMES(Brij56)、SOH−HMES(Brij76)のスペクトルがほぼ同一であり、いずれも同じ組成の側鎖型メソポーラス材料が得られていることを確認した。
【0070】
図11に、SOH−HMES、SOH−HMES(Brij56)、SOH−HMES(Brij76)の窒素吸着等温線を示す。また、測定結果から算出した表面積、細孔径、細孔容積の結果を表3に示す。
【表3】

表3に示すとおり、SOH−HMESの表面積が565m/gであったのに対し、SOH−HMES(Brij56)の表面積が582m/g、SOH−HMES(Brij76)の表面積が824m/gであった。また、細孔径は、SOH−HMESが6.0nmであったのに対し、SOH−HMES(Brij56)が1.9nm、SOH−HMES(Brij76)が2.8nmという結果を得た。また、細孔容積は、SOH−HMESが0.78ml/gのに対し、SOH−HMES(Brij56)が0.33ml/g、SOH−HMES(Brij76)が0.64ml/gという結果を得た。これらの結果より、界面活性剤を代えることによって、メソポーラス材料の細孔構造を変化させずに細孔径を自由に変化させることができることがわかる。
【0071】
以下に、SOH−HMESを固体酸触媒として用いた場合の具体例について説明する。
【0072】
図12は、SOH−HMESの酸−塩基滴定曲線を示すグラフである。0.05N水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定し、水素イオン(H+)の等量を測定した。その結果、SOH−HMES中に存在する−SOH基の物質量は1.41mmol/gであった。
【0073】
[実験例1(エステル化反応)]
100mlの蓋付ガラス製容器にエタノール46g、酢酸6.0gを入れ、これに150℃の真空排気条件下で1時間加熱することにより脱水処理を行ったSOH−HMESを0.2g入れて密封した。これを70℃の条件下で反応を進行させた。1時間間隔で、ガスクロマトグラフィーを用いて6回、生成物の分析を行った。比較例として、一般的な樹脂系固体酸触媒であるNafion(登録商標)−Hと、一般的な固体酸触媒であるNb・nHOを用いた。
図13に、SOH−HMESと比較例を、酢酸とエチルアルコールの反応におけるエステル化触媒として用いたときの生成した酢酸エチル量を反応時間に対してプロットした結果を示す。同図から明らかなように、SOH−HMESは、Nafion(登録商標)−Hに匹敵する触媒性能を有することがわかった。また、Nb・nHOを用いた場合よりも大幅に高い反応効率で酢酸エチルを生成することができた。
【0074】
Nafion(登録商標)−Hは、耐熱性がないため、気相反応等の高温環境下での利用が困難である。一方、SOH−HMESにおいては、分解温度が約400℃なので、気相反応等の高温環境下においても利用が可能であるという利点を有する。
【0075】
[実験例2(エステル化反応)]
次に、上記実験例1とは異なるエステル化反応の一例について説明する。上記実験例1に係るエステル化反応においては原料として酢酸を用いたのに対し、本実験例2においては安息香酸(Benzoic acid)を用いた。
具体的には、100mlの蓋付ガラス製容器にエタノール11.66ml(0.2mol)、安息香酸1.22g(0.01mol)を入れ、この中に150℃の真空排気条件下で1時間加熱することにより脱水処理を行ったSOH−HMESを0.2g入れて密封した。これを70℃の条件下で反応を進行させた。1時間間隔で、ガスクロマトグラフィーを用いて6回、生成物の分析を行った。比較例として、Nafion(登録商標)−H、一般的な樹脂系固体酸触媒であるAmberlyst(登録商標)−15、一般的な固体酸触媒であるH−ZSM5(JRC−Z5−90H)を用いた。
【0076】
図14に、SOH−HMESと比較例を、安息香酸とエチルアルコールの反応におけるエステル化触媒として用いたときの生成した安息香酸エチル(Ethyl benzolate)量を反応時間に対してプロットした結果を示す。同図から明らかなように、SOH−HMESは、Amberlyst(登録商標)−15に匹敵する触媒性能を有することがわかった。また、H−ZAM5を用いた場合よりも大幅に高い反応効率で安息香酸エチルを生成することができた。
【0077】
表4は、本実験例2に係るエステル化反応において、触媒ごとに酸の量[mmol/g]、反応生成速度、触媒活性(TOF[h−1])、及び安息香酸エチルの収率を示したものである。
【表4】

表4に示すとおり、SOH−HMESの触媒活性(TOF)は、Nafion(登録商標)−Hのそれよりは劣るものの、Amberlyst(登録商標)−15のそれよりも3倍高い値を示した。
【0078】
上述したとおりNafion(登録商標)−Hは、耐熱性がないため、気相反応等における高温環境下での適用が困難である。一方、SOH−HMESにおいては、分解温度が約400℃なので、気相反応等の高温環境下においても利用が可能であるという利点を有する。
【0079】
[実験例3(ベックマン転位反応)]
100mlの蓋付ガラス製容器にDMF20ml、シクロヘキサノンオキシム0.2gを入れ、この中に150℃の真空排気条件下で1時間加熱することにより脱水処理を行ったSOH−HMESを0.2g入れ密封した。これを130℃、20時間攪拌混合した。そして、1時間間隔で、ガスクロマトグラフィーを用いて6回、生成物の分析を行った。比較例として、Nafion(登録商標)−H、H−Beta(JRC−Z−HB25)、H−ZSM5(JRC−Z5−90H)を用いた。ガスクロマトグラフィーとしては、GC−17A(Shimazu社製)を用い、キャピラリー:DB−1、内標:n−デカン0.1ml)の条件下で行った。
【0080】
表5に、SOH−HMES及び比較例を上記ベックマン転位反応の触媒として用いたときの反応の転化率と選択性の結果を示す。
【表5】

表5の結果に示すとおり、SOH−HMESを用いたベックマン転位反応は、比較例の触媒を用いたそれに比して格段に転化率が優れているという結果を得た。
【0081】
通常、ベックマン転位反応は、300℃程度の高温環境の下、気相反応により行われる。一方、上記実験例3によれば、液相反応において反応を進行させることができる。従って、本実施例に係るメソポーラス材料によれば、エネルギーロスが少ない反応を提供することができる。
【0082】
[実験例4(ピナコール・ピナコロン転位反応)]
100mlの蓋付ガラス製容器にピナコール5.0gを入れ、この中に150℃の真空排気条件下で1時間加熱することにより脱水処理を行ったSOH−HMESを0.2g入れて密封した。これを130℃、2時間攪拌混合した。そして、30分間隔で、2時間経つまでの生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。比較例としては、HSO、パラトルエンスルフォン酸(TsOH)、HPW1240、Nafion(登録商標)−H、Amblyst(登録商標)−15、H−ZSM5(JRC−Z5−90H)
を用いた。ガスクロマトグラフィーとしては、GC−17A(Shimazu社製)を用い、キャピラリー:DB−1、内標:トルエン0.1ml)の条件下で行った。
【0083】
表6に、SOH−HMESと比較例を上記ピナコール・ピナコロン転位反応の触媒として用いたときの反応の転化率と選択性の結果を示す。
【表6】

表6の結果より、SOH−HMESを用いたピナコール・ビナコロン転位反応は、Nafion(登録商標)−Hを用いたそれに比して2倍以上の転化率を示すことが明らかとなった。また、SOH−HMESは、硫酸に匹敵する触媒性能を有することが明らかとなった。
【0084】
[実験例5(フリーデルクラフツアルキル化反応)]
100mlの蓋付ガラス製容器にアニソール100mmol、ベンジルアルコール10mmolを入れ、これに150℃の真空排気条件下で1時間加熱することにより脱水処理を行ったSOH−HMESを0.2g入れて密封した。これを70℃で4時間攪拌混合した。そして、70℃で4時間反応させた後の生成物それぞれをガスクロマトグラフィーにより分析した。比較例としては、パラトルエンスルフォン酸(TsOH)、HPW1240、Nafion(登録商標)−SAC、H−Beta(JRC−Z−HB20)、Nb・nHOを用いた。ガスクロマトグラフィーの測定条件は、上記実験例3と同様である。
【0085】
上述のようにアニソールとベンジルアルコールを酸触媒の存在下で反応せしめると、フリーデルクラフツアルキル化反応が進行し、下記式(II)のようにフェニルアニソールとジベンジルエーテルが生成する。
【化12】

【0086】
表7に、SOH−HMESと比較例を触媒として用い、70℃で4時間攪拌混合した後の生成物(フェニルアニソールとジベンジルエーテル)の収率(%)と、フェニルアニソールの選択性(%)の結果を示す。
【表7】

表7の結果より、パラトルエンスフフォン酸を用いたフリーデルクラフツアルキル化反応の収率が0.8%、Nafion(登録商標)−SACを触媒として用いた場合の収率が16.5%等といずれも低い値であったのに対し、SOH−HMESを触媒として用いたフリーデルクラフツアルキル化反応は、77.0%と極めて高い収率を示すことがわかった。また、フェニルアニソールの選択性は85.7%であり、高い選択性が得られた。
【0087】
[実験例6(フリーデルクラフツアルキル化反応)]
次に、上記実験例5のフリーデルクラフツアルキル化反応について反応条件を変更した例について説明する。本実験例6においては、上記実験例5に対して、以下の条件のみを変更した以外は、同様の方法によりフリーデルクラフツアルキル化反応を行った。すなわち、上記実験例5においては、攪拌混合条件を70℃で4時間行ったが、本実験例6においては攪拌混合条件を100℃で2時間行った。本実験例6においては、上記実験例5に記載した触媒(比較例)に加えて、Nafion(登録商標)−NR50、Amblyst(登録商標)−15、H−ZSM5(JRC−Z5−90H)についても評価した。
表8に、SOH−HMESと比較例を触媒として用い、100℃で2時間攪拌混合した後の生成物(フェニルアニソールとジベンジルエーテル)の収率(%)と、フェニルアニソールの選択性(%)の結果を示す。
【表8】

表8の結果より、SOH−HMESを用いたフリーデルクラフツアルキル化反応は、収率が99%以上であり、しかもフェニルアニソールの選択性が100%という結果を得た。
【0088】
[実験例7(アルケンの水和反応)]
10mlの蓋付ガラス製容器に2、3−ジメチル−2−ブテン1.5ml、水7.5mlを入れ、これに150℃の真空排気条件下で1時間加熱することにより脱水処理を行ったSOH−HMESを0.2g入れ密封した。これを70℃で5時間攪拌混合した。そして、生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。比較例としては、パラトルエンスルフォン酸(TsOH)、Nafion(登録商標)−NR50、Amblyst(登録商標)−15、H−ZSM5(JRC−Z5−90H)、Nb・nHO、硫酸を用いた。
【0089】
図15に、SOH−HMESと比較例を上記アルケンの水和反応の触媒として用いたときの2、3−ジメチル−2−ブタノ−ルへの転化率(%)をプロットしたグラフを示す。同図より、SOH−HMESを用いたアルケンの水和反応の転化率は、硫酸を含むいずれの比較例に係る触媒の転化率に比して高いという結果を得た。
【0090】
本実施例に係るメソポーラス材料によれば、これまで用いられた液体の硫酸を用いた均一系触媒反応に硫酸代替品として利用可能である。
【0091】
[実験例8(触媒寿命の評価)]
上記実験例1で述べたエステル化反応において、SOH−HMESの固体酸触媒としての繰り返し使用による触媒活性の変化について検討した。
具体的には反応が終了した触媒をろ過、純水中にて6時間洗浄したものを再び反応に使用した。
その結果の一例を図16に示す。SOH−HMESは、何度使用しても反応活性の低下が起こらず、安定に機能する固体酸触媒であることを確認した。また、元素分析の結果からも活性点の分解がないことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係るメソポーラス材料の構造の一例を模式的に示す斜視図。
【図2】本実施例に係るメソポーラス材料の29Si−MAS−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図3】本実施例に係るメソポーラス材料の13C−MAS−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図4】本実施例に係るメソポーラス材料の一部を示す化学式を示す図。
【図5】本実施例に係るメソポーラス材料の窒素吸着等温線を示す図。
【図6】本実施例に係るメソポーラス材料の窒素吸着等温線からBJH法で求めた細孔分布曲線を示す図。
【図7】本実施例に係るメソポーラス材料のX線回折パターンを示す図。
【図8】本実施例に係るメソポーラス材料の熱重量分析のプロット図。
【図9】本実施例に係るメソポーラス材料の熱重量分析のプロット図。
【図10】(a)は本実施例に係るメソポーラス材料の13C−MAS−NMRスペクトル、(b)は本実施例に係るメソポーラス材料の29Si−MAS−NMRスペクトル表すグラフ。
【図11】本実施例に係るメソポーラス材料の窒素吸着等温線を示す図。
【図12】本実施例に係るメソポーラス材料の酸−塩基滴定曲線を示す図。
【図13】本実施例に係るメソポーラス材料を固体酸触媒として用いた場合の酢酸エチル生成の経時変化を示す図。
【図14】本実施例に係るメソポーラス材料を固体酸触媒として用いた場合の安息香酸エチルの経時変化を示す図。
【図15】本実施例に係るメソポーラス材料をアルケンの水和反応の固体酸触媒として用いた場合の転化率を示す図。
【図16】本実施例に係るメソポーラス材料の触媒寿命の評価結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機−無機ハイブリッド型のメソポーラス材料であって、
エテニレン基及び金属酸化物を少なくとも構成成分とする細孔壁と、
該細孔壁の表面に存在するエテニレン基を化学的に修飾することにより、該エテニレン基を構成する炭素原子と直接結合する側鎖型の有機基とを有するメソポーラス材料。
【請求項2】
請求項1に記載のメソポーラス材料において、
上記側鎖型の有機基に、さらに官能基が結合されていることを特徴とするメソポーラス材料。
【請求項3】
有機−無機ハイブリッド型のメソポーラス材料であって、
2以上の炭素原子を有する第1の有機基と、金属酸化物とを少なくとも構成成分とする細孔壁と、
該細孔壁の表面に存在する該第1の有機基に結合する側鎖型の第2の有機基を有し、
該第2の有機基と、該第2の有機基に直接結合する該第1の有機基とが、下記式(I)
【化1】

(式中、Cは該第1の有機基中の第1の炭素原子、Cは該第1の有機基中の第2の炭素原子、Aは、置換基を有していてもよい単環基、又は置換基を有していてもよい多環基を示す)
で表されるメソポーラス材料。
【請求項4】
請求項3に記載のメソポーラス材料において、
上記式(I)は、下記式(Ia)
【化2】

(式中、Zは、ヘテロ原子を含んでいてもよい2価の鎖状の飽和、又は不飽和の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、官能基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、複数のRが結合して形成される置換基を有していてもよい単環基、又は、複数のRが結合して形成される置換基を有していてもよい多環基を示し、mは0以上であってZに置換可能な最大数以下の数を示し、他の記号は請求項3の記載と同意義を示す。)
であることを特徴とするメソポーラス材料。
【請求項5】
請求項4に記載のメソポーラス材料において、
上記式(Ia)は、下記式(Ib)
【化3】

(式中、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、官能基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケン基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい有機金属錯体を示し、C及びCは炭素原子を示し、nは0以上8以下の整数、他の記号は請求項3の記載と同意義を示す。また、CとCの結合様式は、炭素−炭素単結合、又は炭素−炭素二重結合である。)
又は、下記式(Ic)
【化4】

(式中、Bは置換基を有していてもよい単環基、置換基を有していてもよい多環基を示し、他の記号は請求項3の記載と同意義を示す。)
であることを特徴とするメソポーラス材料。
【請求項6】
請求項5に記載のメソポーラス材料において、
上記式中のB
【化5】

は、置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有していてもよいナフタレン環、置換基を有していてもよいアントラセン環、置換基を有していてもよいチオフェン環、置換基を有していてもよいフラン環、置換基を有していてもよいイミダゾール環からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするメソポーラス材料。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のメソポーラス材料において、
上記置換基は、官能基、官能基を有していてもよいアルキル基、官能基を有していてもよいアルケニル基、官能基を有していてもよいアルキニル基、官能基を有していてもよいシクロアルキル基、官能基を有していてもよいシクロアルケニル基、官能基を有していてもよいアリール基、官能基を有していてもよい複素環基、有機金属錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするメソポーラス材料。
【請求項8】
請求項2、4、5、6、又は7に記載のメソポーラス材料において、
上記官能基は、不飽和基、水酸基、アミノ基、アミド基、アシル基、イミノ基、エーテル基、エステル基、カルボキシル基、カルバメート基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、ニトロ基、メルカプト基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするメソポーラス材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のメソポーラス材料を用いることを特徴とする固体触媒。
【請求項10】
有機−無機ハイブリッド型のメソポーラス材料の製造方法であって、
少なくともエテニレン基と、金属酸化物とを構成成分とする細孔壁を合成し、
該細孔壁の表面に存在するエテニレン基を化学的に修飾することにより該エテニレン基を構成する炭素と直接結合する第2の有機基を導入するメソポーラス材料の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のメソポーラス材料の製造方法において、
上記第2の有機基を導入した後に、上記側鎖にさらに官能基を導入することを特徴とするメソポーラス材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−152263(P2006−152263A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310255(P2005−310255)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】