説明

板状ヒータ、加熱装置、画像形成装置

【課題】定着用フィルムによる磨耗を低減させ、搬送不良や定着不良の発生を防止することのできる板状ヒータを実現する。
【解決手段】長尺平板状のセラミック基板11の長手方向に平行してAgとPd合金を主成分とする発熱抵抗体12,13を形成する。発熱抵抗体12,13の一端には通電用の電極14,15を、他端には接続導体16を接続し、発熱抵抗体12,13を直列的に接続する。発熱抵抗体12,13上にはオーバーコート層17を形成する。オーバーコート層17上にはさらに表面粗さRzが3.0μm〜6.0μmの熱伝導率が高いとともに延性の良い銀を主成分とする合金製の摺動層18を形成する。表面粗さRzが3.0μm〜6.0μmの摺動層18を延性の良い金属により形成したことで、定着フィルム上を摺動させた場合の摺動屑の発生を低減して定着不良を防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、情報機器、家電製品や製造設備などの小型機器類に装着されて用いられる薄型の板状ヒータおよびこの板状ヒータを実装したプリンタ、複写機、ファクシミリやリライタブルカードリーダライタなどの加熱装置ならびにこの加熱装置を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の板状ヒータは、定着フィルムの摺動層として、Rzで0.1〜2.0μmのガラスコート層を形成していた。表面粗さ(最大高さ粗さ)Rzが0.1μm以上であるため表面が平滑過ぎず、この上を摺動する定着用フィルムがガラスコート層上に密着し、加圧ローラのトルクが大きくなってしまうことがない。また、Rzが2.0μm以下であるため表面が粗すぎず、表面の凹凸により定着用フィルムが引っかかることがないため、定着用フィルムをスムーズに搬送することができる。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開平5―242958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、近年の印刷速度の高速化に伴い、摺動層に硬いガラスが用いられると、使用時間の経過とともに定着用フィルムが磨耗し、被定着物の搬送に不良が発生したり、削れたガラスの屑により定着不良が発生したりする、という問題があった。
【0004】
この発明は、定着用フィルムによる磨耗を低減し、搬送不良や定着不良の発生を防止した板状ヒータ、この板状ヒータを用いた加熱装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するために、この発明の板状ヒータは、耐熱・絶縁性材料で形成した長尺平板状の絶縁基板と、前記絶縁性基板上の長手方向に平行して銀とパラジウムを主とする導電性成分により厚膜形成された発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体の両端に電力を供給する電極と、少なくとも前記電極を残して前記絶縁基板上に施したオーバーコート層と、前記オーバーコート層上に形成し、熱伝導率が高いとともに延性の良い金属を主成分とする摺動層と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、表面粗さRzが3.0μm〜6.0μmの摺動層を延性の良い金属により形成したことで、定着フィルムを摺動させた場合の摺動屑の発生を低減して定着不良の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0008】
図1、図2は、この発明の板状ヒータに関する一実施形態の構成について説明するためもので、図1(a)は正面図、図1(b)は図1(a)の背面図、図2は図1(a),(b)のx−x’線の拡大断面図である。
【0009】
図1において、11は、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)等の耐熱、絶縁性の材料で長尺状に形成された絶縁基板である。12,13は、絶縁基板11の表面側の長手方向に沿って平行に形成された銀(Ag)・パラジウム(Pd)の合金をはじめとする銀系材料や、ルテニウム系、炭素系等などの抵抗体ペーストを高温で焼成し、所定の抵抗値を有する厚膜からなる帯状の発熱抵抗体である。
【0010】
14,15は、それぞれ絶縁基板11上に形成された銀系の導体ペーストを焼成した良導電体膜の給電用の電極である。電極14は発熱抵抗体12の一端と、電極15は発熱抵抗体13の一端とそれぞれ接続する。発熱抵抗体12,13のそれぞれ他端は銀系の導体ペーストを焼成して形成した接続導体16で共通に接続する。
【0011】
17は、発熱抵抗体12,13それに接続導体16を、厚膜印刷方法を用いてガラスペーストを印刷で覆い、これを焼成して形成されるオーバーコート層である。18は、オーバーコート層17上に、熱伝導率が高いとともに延性の良い金、銀、銅等の金属を主成分とする合金を貼着して形成した後述する定着フィルムを摺動させる摺動層である。摺動層18の表面は、日本工業規格により規格化された表面粗さ(最大高さ粗さ)Rzを、3.0μm〜6.0μmの範囲とする。金属を主成分とする合金の一例としては、銀とパラジウムが考えられる。
【0012】
表面粗さRzが3.0μmより小さい摺動層18の場合は、定着フィルムとの摺動抵抗が大きくなり摺動不良を起こしたり、摺動層18がオーバーコート層17から剥離したりする可能性がある。表面粗さRzが6.0μmより大きい摺動層18の場合は、粗さが大きくなった分だけ定着フィルムとの接触面積の低下を招いて均一に熱を伝えることができず、摺動不良を生じる可能性がある。このため、表面粗さRzは3.0μm〜6.0μmを範囲としている。
【0013】
この実施形態では、表面粗さRzが3.0μm〜6.0μmの摺動層をAg系のような延性が良い金属により形成することで、定着フィルムの摺動による摺動屑の発生を低減することができる。また、定着フィルムの摺動にともない摺動層表面の凹凸が滑らかになるため、定着フィルムの引っかかりがなく、スムーズな摺動を行うことができる。
【0014】
図3、図4は、この発明の板状ヒータに関する他の実施形態の構成について説明するためもので、図3(a)は正面図、図3(b)は図3(a)の背面図、図4は図3(a),(b)のx−x’線の拡大断面図である。上記した板状ヒータの一実施形態と同一の構成部分には同一の符号付してここでは異なる部分を中心に説明する。
【0015】
この実施形態は、図3、図4に示すように、発熱抵抗体12,13が形成された絶縁基板11の反対面に定着フィルムと摺動させる摺動層18を形成したものである。オーバーコート層17上に導電性を有する摺動層18を形成した場合は、オーバーコート層17が絶縁破壊を起こす可能性を低減させることができる。
【0016】
この実施形態では、絶縁基板11の非抵抗発熱体形成面に摺動層18を形成することにより、絶縁破壊の虞をなくすことが可能となる。さらに、熱伝導性の優れたセラミック製の絶縁基板11からガラスに比べて熱伝導率の良い金、銀、銅等の金属を主成分とする摺動層18から熱を効率よく定着フィルムに伝えることが可能となる。
【0017】
次に、上記した板状ヒータを加熱装置200に実装した場合の、この発明の加熱装置に関する一実施形態について図5、図6を参照して説明する。図5は模式図、図6は図5の断面図である。図中100については、図1、図2で説明した板状ヒータであり、同一部分には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0018】
図5において、51は、ポリイミド樹脂等の耐熱性のフィルムをロール状にして循環自在に巻装された円筒状の定着フィルムである。この定着フィルム51は、支持体52の底部に板状ヒータ100を固着させ、板状ヒータ100にコネクタ531,532をリード線541,542介して電力を供給させ、加熱した板状ヒータ100に形成された摺動層18に圧接加熱しながら移動させる。
【0019】
55は、その表面に耐熱性弾性材料である、たとえばシリコーンゴム層56が嵌合してある加圧ローラであり、加圧ローラ55の回転軸57と対向して板状ヒータ100が、定着フィルム51と並置して図示しない基台内に取り付けられている。加圧ローラ55は、定着フィルム51と相互に圧接させることで、発熱抵抗体12,13と加圧ローラ55とで形成される図6に示すようなニップ部Nを形成するとともに、作動時にはそれぞれを矢印d1,d2の方向に回転させる。
【0020】
このとき、摺動層18上に配置された定着フィルム51面とシリコーンゴム層56との間で、トナー像To1がまず定着フィルム51を介して板状ヒータ100により加熱溶融され、少なくともその表面部は融点を大きく上回り完全に軟化して溶融する。この後、加圧ローラ55の用紙排出側では複写用紙Pが板状ヒータ100から離れ、トナー像To2は自然放熱して再び冷却固化し、定着フィルム51も複写用紙Pから離反される。
【0021】
ここで、板状ヒータ100に形成され、定着フィルム51上を摺動させる摺動層18は、オーバーコート層17上全面に必ずしも形成する必要はない。長さは少なくもと発熱抵抗体12,13同じで発熱抵抗体12,13と対向するとする。幅は少なくとも定着フィルム51を挟んで発熱抵抗体12,13と加圧ローラ55とで形成されるニップ部Nとする。
【0022】
この実施形態では、表面粗さRzが3.0μm〜6.0μmの摺動層をAg系のような延性の良い金属による形成された板状ヒータを用いたことで、定着フィルムの摺動による摺動屑の発生を低減させることが可能となる。
【0023】
次に、図7を参照して、この発明の加熱装置200を搭載した複写機を例とした、この発明の画像形成装置について説明する。図中、加熱装置200の部分は、上記した説明と同じであり、同一部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0024】
図7において、301は複写機300の筐体、302は筐体301の上面に設けられたガラス等の透明部材からなる原稿載置台で、矢印Z方向に往復動作させて原稿P1を走査する。
【0025】
筐体301内の上方向には光照射用のランプと反射鏡とからなる照明装置302が設けられており、この照明装置302により照射された原稿P1からの反射光源が短焦点小径結像素子アレイ303によって感光ドラム304上スリット露光される。なお、この感光ドラム304は矢印方向に回転する。
【0026】
また、305は帯電器で、例えば酸化亜鉛感光層あるいは有機半導体感光層が被覆された感光ドラム304上に一様に帯電を行う。この帯電器305により帯電された感光ドラム304には、結像素子アレイ303によって画像露光が行われた静電画像が形成される。この静電画像は、現像器306による加熱で軟化溶融する樹脂等からなるトナーを用いて顕像化される。
【0027】
カセット307内に収納されている複写用紙Pは、給送ローラ308と感光ドラム304上の画像と同期するタイミングをとって上下方向で圧接して回転される対の搬送ローラ309によって、感光ドラム304上に送り込まれる。そして、転写放電器310によって感光ドラム304上に形成されているトナー像は複写用紙P上に転写される。
【0028】
その後、感光ドラム304上から離れた用紙Pは、搬送ガイド311によって加熱装置200に導かれて加熱定着処理された後に、トレイ312内に排出される。なお、トナー像が転写された後、感光ドラム304上の残留トナーはクリーナ313を用いて除去される。
【0029】
加熱装置200は、複写用紙Pの移動方向と直交する方向に、この複写機300が複写できる最大判用紙の幅(長さ)に合わせた有効長、すなわち最大判用紙の幅(長さ)より長い発熱抵抗体を備えた板状ヒータ100が、加圧ローラ55の外周に取り付けられたシリコーンゴム層56に加圧された状態で設けられている。
【0030】
そして、板状ヒータ100と加圧ローラ55との間を送られる用紙P上の未定着トナー像T1は、発熱抵抗体12の熱を受け溶融して複写用紙P面上に文字、英数字、記号、図面等の複写像を現出させる。
【0031】
この実施形態では、表面粗さRzが3.0μm〜6.0μmの摺動層をAg系のような延性の良い金属により形成された板状ヒータを用いた加熱装置としたことにより、定着フィルムの摺動による摺動屑の発生を低減でき、複写不良の発生を低減させることが可能となる。
【0032】
板状ヒータの用途としては、複写機等の画像形成装置の定着用に用いたが、これに限らず、家庭用の電気製品、業務用や実験用の精密機器や化学反応用の機器等に装着して加熱や保温の熱源としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の板状ヒータに関する一実施形態の構成について説明するためもので、(a)は正面図、(b)は(a)の背面図。
【図2】図1(a),(b)のx−x’線の拡大断面図。
【図3】この発明の板状ヒータに関する他の実施形態の構成について説明するためもので、(a)は正面図、(b)は(a)の背面図。
【図4】図3(a),(b)のy−y’線の拡大断面図。
【図5】この発明の加熱装置に関する一実施形態について説明するための斜視図。
【図6】図5の断面図。
【図7】この発明の画像形成装置に関する一実施形態について説明するための説明図。
【符号の説明】
【0034】
11 絶縁基板
12,13 発熱抵抗体
14,15 電極
16 接続導体
17 オーバーコート層
18 摺動層
51 定着フィルム
52 支持体
55 加圧ローラ
56 シリコーンゴム層
57 回転軸
100 板状ヒータ
200 加熱装置
300 複写機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱・絶縁性材料で形成した長尺平板状の絶縁基板と、
前記絶縁性基板上の長手方向に平行して銀とパラジウムを主とする導電性成分により厚膜形成された発熱抵抗体と、
前記発熱抵抗体の両端に電力を供給する電極と、
少なくとも前記電極を残して前記絶縁基板上に施したオーバーコート層と、
前記オーバーコート層上に形成し、熱伝導率が高いとともに延性の良い金属を主成分とする摺動層と、を具備したことを特徴とする板状ヒータ。
【請求項2】
耐熱・絶縁性材料で形成した長尺平板状の絶縁基板と、
前記絶縁性基板上の長手方向に平行して銀とパラジウムを主とする導電性成分により厚膜形成された発熱抵抗体と、
前記発熱抵抗体の両端に電力を供給する電極と、
少なくとも前記電極を残して前記絶縁基板上に施したオーバーコート層と、
前記発熱抵抗体が形成された反対面の前記絶縁基板上に形成したAg系材料による摺動層と、を具備したことを特徴とする板状ヒータ。
【請求項3】
前記摺動層の表面粗さRzは、3.0〜6.0μmとしたことを特徴とする請求項1または2記載の板状ヒータ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の板状ヒータと、
前記板状ヒータに形成された摺動層に対向配置し、該摺動層を圧接するように回転可能に支持された加圧ローラと、
前記板状ヒータと前記加圧ローラとの間を設けられ、前記加圧ローラの回転にともない前記板状ヒータ上を摺動する定着フィルムと、を具備したことを特徴とする加熱装置。
【請求項5】
媒体に形成された静電潜像にトナーを付着させてこのトナーを用紙に転写して所定の画像を形成する形成手段と、
画像が形成された用紙を加圧ローラにより定着フィルムを介して前記ヒータに圧接しながら通過させることによって、トナーを定着するようにした請求項4記載の加熱装置と、を具備したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−42417(P2009−42417A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206151(P2007−206151)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】