説明

極薄粗面化フィルムおよびそれを得るための原反シート、その製造方法

【課題】
巻き取り加工適性に優れた微細な粗面性を有し、かつ非常に薄いフィルム厚であってコンデンサー用延伸フィルムに好適に用いられる極薄粗面化フィルムおよびそれを得るためのポリプロピレンキャスト原反シートを提供する。
【解決手段】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した重量平均分子量が、10万以上50万以下であるポリプロピレン樹脂を、加熱溶融しポリプロピレンキャスト原反シートを作製するものであって、シート化キャスティング工程において、シートのどちらか一方の面、あるいは両方の面にβ晶造核剤を噴霧、塗布および転写から選ばれる方法で供給されることによってβ晶化し、ポリプロピレンキャスト原反シートを製造する。その原反シートは、X線法で測定したβ晶分率が5%以上25%未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が微細に粗化された2軸延伸ポリプロピレンフィルムおよびそれを得るためのキャスト原反シートに関するものであり、さらに詳しくは、耐電圧特性に優れ、かつ非常に薄いフィルム厚であり素子巻き加工適性に優れたコンデンサー用延伸フィルムに好適に用いられる極薄粗面化フィルムおよびそれを得るためのキャスト原反シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、耐電圧特性や、誘電損失などの電気特性が他のプラスチックフィルムよりも優れていることから、一般包装用途ばかりではなく工業用途、特に電気工業用途にも広く用いられている。中でも、表面を微細に粗化した粗面化ポリプロピレンフィルムは、プリントラミネート用フィルム、各種産業用工程セパレートフィルム、あるいは、コンデンサーの誘電体フィルムなどのさまざまな工業用途に広く用いられている。特に、コンデンサー用誘電体フィルムは、その需要の伸びも非常に大きい。最近では、各種電気設備がインバーター化されつつあり、それに伴い、コンデンサーの小型化・大容量化の要求が一層強まってきている。そのような市場の要求を受け、2軸延伸ポリプロピレンフィルムの耐電圧特性や素子巻き加工適性を向上させつつ、一層の薄膜化が必須な状況になってきている。
【0003】
この種の工業用ポリプロピレンフィルムは、表面に各種の印刷がなされたり、アルミニウムやその他金属の蒸着が施されることが多い。これらの工程では、巻き取りや巻き戻しが何度も行われるが、近年では、これらの作業をさらに高速で行われるようになってきている。このため、特に薄いポリプロピレンフィルムでは、巻き取り、巻き戻し作業の際に、端面ずれや、シワが多く発生するなどし、作業効率や品質上、大きな問題となっている。これらの問題を防止するためには、フィルム表面に、微細な凹凸加工を施すことが有効であることが知られている。
【0004】
一方で、コンデンサー用フィルムにおいては、コンデンサーを作製する際の素子巻きを容易にする目的や、加工する際の滑り性向上、また、油含浸型コンデンサーの場合には、それを作製する際の油含浸性向上のため、表面を適度に微細粗面化する事が必須であることが知られている(特許文献1)。
【0005】
表面の微細粗化の方法としては、従来、エンボス法やサンドラミ法などの機械的方法、溶剤を用いたケミカルエッチングなどの化学的方法、ポリエチレンなどの異種ポリマーをブレンドないしは共重合体化したシートを延伸する方法、そして、β晶を生成させたシートを延伸する方法等が提案されている(たとえば、特許文献1など)。
【0006】
粟屋裕著、高分子素材の偏光顕微鏡入門、アグネ技術センター、131頁、2001年(非特許文献1)によると、ポリプロピレン樹脂には、通常、α晶、β晶などの結晶多形を有している。β晶は、α晶に比して、密度が低く、融点も低いなど、物性上、異なる特徴を有している。溶融したポリプロピレン樹脂を、特定の温度範囲で結晶化させるとβ晶が生じ、これをβ晶の融点近傍で延伸することにより、β晶の球晶がα晶球晶に転移し、その結晶形間の密度差により、フィルム表面にミクロな凹凸加工ができる。この方法では、機械的加工法やブレンド・共重合体化による方法に比して、非常にミクロな凹凸を付与させることができる(微細粗面化)という特徴を持つ。
【0007】
β晶を得るための方法としては、融液を特定の温度域で保持し結晶化させる方法のほか、特定の冷却条件や温度勾配の付与、せん断配向誘起による方法、そしてβ晶造核剤を添加する方法が知られている(特許文献2、非特許文献2−5)。
【0008】
β晶を利用して表面粗化する方法では、シート作製の際、β晶をいかに制御しながら生成させるかが技術上重要な要点となる。造核剤を用いずにβ晶を生成させる技術に関しては、たとえば、特許文献3〜5には、特定の触媒によって重合した一定の範囲のメルトフローレート、分子量および分子量分布を有するポリプロピレン樹脂をシート化すると、造核剤を用いず高いβ晶比率を持ったシートが得られることを開示している。
【0009】
また、特許文献6においては、粗面化した延伸ポリプロピレンフィルムを得るための方法として、特定の値の立体規則性度のポリプロピレン原料樹脂を用い、キャスト原反シートのβ晶量を、特定の値以上に制御することによって達成する製造技術が開示されている。
【0010】
しかしながら、前述の様に、巻き取り加工適性を向上させる上では、粗面化は必須であるが、一般的に、粗化は耐電圧特性の低下を招くというマイナス面も併せ持つので、電気用途においては、耐電圧特性を低下させず適度に微細粗面化するβ晶量の構造制御が、シート品質の設計上、極めて重要な要点となる。
【0011】
さらに、原反シート内にα晶、β晶という2種類の性質の異なる結晶形態が混在する構造体を2軸延伸するということは、物理的に欠陥が多い構造体を延伸することに他ならず、微細粗面化を目的にβ晶量の制御を行うほど、結果的に延伸性の低下を招き、延伸過程におけるフィルムの破断が発生しやすくなり、薄い延伸フィルムの製造上、極めて好ましくない。
【0012】
しかしながら、産業用コンデンサーの需要が増える中、電気用途市場では、耐電圧特性のみならず、電気容量のより一層の向上も求められている。同体積のコンデンサーにおいて、電気容量を向上させるためには、誘電体フィルムを薄くする必要がある。そのように極薄のフィルムを得るためには、樹脂およびキャスト原反シートの延伸性向上が必要となるが、この特性は、前述の様に、粗面化制御のための手法、つまりβ晶の構造制御とは相容れない手法である。
【0013】
他方、結晶造核剤の添加は、一般に、結晶の粗大化を防ぎ、機械的特性や熱成形性の向上、透明性を付与するために広く用いられている(例えば特許文献7など)。β晶造核剤を用いた技術としては、例えば、特許文献8には、ポリプロピレン樹脂とβ晶核剤とからなる組成物を融液成形したβ晶比率が60%以上のポリプロピレンシートとそれから製造される多孔性フィルムに関して開示されている。しかしながら、β晶量の制御や表面性(粗面化)制御、それらと薄膜化との両立に関して、例示も示唆も無く、ましてや、巻き取り加工適性やコンデンサー誘電体については、なんらの記述も無い。
【0014】
以上のように、市場が要求する(1)加工適性(粗面化)、(2)フィルム極薄化のための延伸性向上、さらに、コンデンサー用途においては(3)高耐電圧特性(面平滑化)、の3つの特性を同時に充たし得る極薄粗面化フィルムおよびそのキャスト原反シートは、これまで得られていない状況にあった。
【特許文献1】特開昭51-63500号公報(2−4頁)
【特許文献2】特開昭61-281105号公報(1−3頁)
【特許文献3】特開2004-2655号公報(3−7頁)
【特許文献4】特開2004-175932号公報(4−8頁)
【特許文献5】特開2005-89683号公報(5−7頁)
【特許文献6】特許第3508515号公報(2−3頁)
【特許文献7】特開2003-236833号公報(2−5頁)
【特許文献8】特開平7-118429号公報(2−4頁)
【非特許文献1】粟屋裕著、「高分子素材の偏光顕微鏡入門」、アグネ技術センター、131頁、2001年
【非特許文献2】H. J. Leugering、 Makromol. Chem.、109巻、204-216頁(1967).
【非特許文献3】M-R. Huang et al.、J. Appl. Polym. Sci.、56巻、1323-1337頁(1995).
【非特許文献4】A. Menyhard et al.、J. Therm. Anal. Cal.、83巻、625-630頁(2006).
【非特許文献5】J. X. Li et al.、J. vinyl. Addit. Technol.、3巻、151-156頁(1997).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、巻き取り加工適性に優れた微細な粗面性を有し、かつ非常に薄いフィルム厚である延伸フィルムおよびそれを得るためのポリプロピレンキャスト原反シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下の各技術を包含する。
(1) ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した重量平均分子量が、10万以上50万以下であるポリプロピレン樹脂を、加熱溶融し作製されたポリプロピレンキャスト原反シートであって、前記シートは、シート化キャスティング工程において、シートのどちらか一方の面、あるいは両方の面にβ晶造核剤が噴霧、塗布、転写から選ばれる方法で供給されることによってβ晶化されており、シートのX線法で測定したβ晶分率が5%以上25%未満であることを特徴とするキャスト原反シート。
【0017】
(2)キャスティング工程において、噴霧、塗布および転写から選ばれる方法で供給されるβ晶造核剤が、(A)有機二塩基酸および(B)周期律表第IIA属金属の酸化物、水酸化物、または酸塩からなる成分より調製される溶液(または分散液)であることを特徴とする(1)項記載のキャスト原反シート。
【0018】
(3)シートの表面層のみがβ晶化されていることを特徴とする(1)項記載のキャスト原反シート。
【0019】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載のキャスト原反シートにおいて、前記ポリプロピレン樹脂が、分子量分布Mw/Mnが4以上10以下であり、かつ、逐次抽出法で測定された抽出残分(樹脂中に含む立体規則性成分(アイソタクチック成分)の分率)が、93質量%以上98質量%以下であることを特徴とするキャスト原反シート。
【0020】
(5)上記(1)〜(4)の項いずれか1項に記載のキャスト原反シートを2軸延伸して成形される厚さが1μm以上7μm以下であることを特徴とするコンデンサーフィルム用極薄粗面化フィルム。
【0021】
(6)上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載のキャスト原反シートの製造方法であって、キャスティング工程において、シートのどちらか一方の面、あるいは両方の面に、β晶造核剤を噴霧、塗布および転写から選ばれる方法で供給することによって、シート表面層のみをβ晶化することを特徴とするポリプロピレンキャスト原反シートの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のポリプロピレンキャスト原反シートは、シートの極表面層にのみβ晶が存在し、内部構造はα晶の均一構造であるため物理的・構造的欠陥が少なく、高い延伸特性を有し、非常に薄い粗面化フィルムを作製できる。ここで得られるフィルムは、適度な微細粗化面を有するため、各種産業用途の巻き取り加工適性に優れた効果を有するとともに、さらに、高耐電圧も付与されているので、素子巻き適性に優れた高い電気容量のコンデンサーが得られる効果も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に用いるポリプロピレン樹脂は、結晶性のアイソタクチックポリプロピレンである樹脂であり、プロピレンの単独重合体、または、プロピレンとエチレンないしは炭素数4〜10のα―オレフィンとの共重合体である。炭素数4〜10のα―オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなど一般的に良く知られたα―オレフィン類が使用可能である。エチレンおよびこれらのα―オレフィンは、プロピレンとランダム共重合をなしても良く、ブロック共重合していても良い。共重合しているエチレンおよびα―オレフィンの含有比率は、ポリプロピレン樹脂中に2モル%以下であるのがよく、好ましくは1モル%以下である。
【0024】
本発明に用いるポリプロピレン樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量が10万以上50万以下である。好ましくは、20万以上40万以下である。さらに好ましくは、25万以上40万未満である。重量平均分子量が50万を超えると、樹脂流動性が著しく低下し、キャスト原反シートの厚さの制御が困難となり、本発明の目的である非常に薄い延伸フィルムを幅方向に精度良く作製することが出来なくなるため、実用上好ましくない。また、重量平均分子量が10万に満たない場合、押し出し成形性には富むが、出来たシートの力学特性の低下とともに延伸性が著しく低下し、2軸延伸成形が出来なくなるという製造上の難点を生じるため、好ましくない。
【0025】
本発明に係る分子量測定値を得るためのGPC装置には、特に制限はなく、ポリオレフィン類の分子量分析が可能な一般に市販されている高温型GPC装置が、例外なく利用可能であるが、本発明の検討では、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機、HLC-8121GPC-HTを用いた。GPCカラムには、東ソー株式会社製、TSKgel GMHHR−H(20)HTを3本連結させて用い、カラム温度は140℃、溶離液にはトリクロロベンゼンを用い、流速は1.0ml/minにて測定した。検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用い、測定結果はポリプロピレン値に換算した。
【0026】
このような特定の範囲の分子量を持つポリプロピレン樹脂の重合方法としては、一般的に公知の重合方法をなんら制限無く用いることが出来る。一般的に公知の重合方法としては、例えば、気相重合法、塊状重合法、スラリー重合法が例として挙げられる。
【0027】
また、少なくとも2つ以上の重合反応器を用いた多段重合反応であっても良く、また、反応器中に水素あるいはコモノマーを分子量調整剤として添加しても良い。
【0028】
使用される触媒は、特に限定されるものではなく、一般的に公知のチーグラー・ナッタ触媒が広く適用される。また、助触媒成分やドナーを含んでも構わない。触媒や重合条件を調整することによって、立体規則性度や分子量分布をコントロールすることが可能となる。
【0029】
このような重合方法によって得られたポリプロピレン樹脂を170℃〜320℃、好ましくは、200℃〜300℃で加熱溶融してTダイから押し出して、冷却、固化させることによりキャスト原反シートを得ることが出来る。
【0030】
従来、β晶造核剤を含まない状態で、β晶含有キャスト原反シートを得るためには、200℃〜300℃で加熱してTダイから押しされた溶融樹脂を60℃〜140℃の特定温度領域に温度保持された金属ドラムにて温冷却し、結晶化させることが必須であった。造核剤という不純物を含まずβ晶化シートを得ることが出来るという利点を持つこの方法は、一方で、温度制御や冷却速度制御の安定性にβ晶含有量が大きく左右される上、比較的高いβ晶含有量を得ることが難しいというマイナス面を持つ。これに対し、特許文献3〜5に開示されている技術によると、特定の触媒によって重合した一定の範囲のメルトフローレート、分子量および分子量分布を有するポリプロピレン樹脂をシート化すると、造核剤を用いず高いβ晶比率を持ったシートが得られることを開示している。
【0031】
一方、β晶造核剤とポリプロピレン樹脂の混合組成物を加熱溶融し、冷却固化すると、温度保持された金属ドラムを介さなくても、容易に高いβ晶含有量のシートが得られることが知られている(例えば、特許文献8など)。この方法では、冷却・金属ドラムを加熱しなくとも良いが、造核剤という不純物を少なからぬ量シートに添加されるため、得られたキャスト原反シートは、コンデンサーなどの電気用途としては、好適とはいえない。
【0032】
さらに、β晶造核剤を使用してもしなくとも、前出に代表される従来までの技術による方法では、原反シート内にα晶、β晶という2種類の性質の異なる結晶形態が混在する構造体を2軸延伸することになり、それは、物理的に欠陥が多い構造体を延伸することに他ならない。したがって、微細粗面化を目的にβ晶量の制御を行うほど、結果的に延伸性の低下を招き、延伸過程におけるフィルムの破断が発生しやすくなり、薄い延伸フィルムの製造が困難となっていた。
【0033】
そこで、本発明では、溶融樹脂を冷却・固化するキャスティング工程において、β晶造核剤を、シートのどちらか一方の面、あるいは両方の面に、噴霧、および/あるいは、塗布、および/あるいは、転写する製造技術を用いる。造核剤をTダイから押し出されてきた樹脂融液に、噴霧、および/あるいは、塗布、および/あるいは、転写することにより、樹脂融体の極表面層のみが、固化過程において、β晶化する。本発明に係る技術によるキャスト原反シートでは、β晶造核剤は、シート表面層に極わずかしか存在しないので、電気特性にも大きな影響を及ぼさない上、シート中心部は、均一な構造を有しているので、従来よりも高い延伸性が得られ、薄い延伸フィルムの製造に好適である。
【0034】
β晶造核剤の、噴霧、塗布、転写の方法には、特に限定はなく、一般に公知の方法が制限無く採用される。
【0035】
例えば、噴霧による方法は、押し出された樹脂融体が、Tダイから金属ドラムに接触するまでの間に、電動噴霧器など一般的に公知の噴霧器を用い、β晶造核剤溶液(または分散液)を、直接樹脂融液体に吹き付ける方法であり、塗布による方法では、樹脂に、造核剤溶液(または分散液)を、グラビア法、カーテンコート法など一般的に公知の塗工方法によって、塗布後、金属ドラム上でキャスティングし、固化・結晶化する方法である。
【0036】
転写による方法では、例えば、β晶造核剤溶液(または分散液)をグラビア法などにより、金属ドラム面上に塗布する(噴霧法により吹き付けても構わない)。引き続き、その金属ドラム面上に、Tダイから押し出された樹脂融液がキャストされる。樹脂融液が金属ドラムに接触した際に造核剤が樹脂側に転写され、冷却過程で、造核作用が発現する。
【0037】
効率良く極微量の造核剤を、Tダイから押し出された樹脂融液体の表層にのみ付着させるには、転写による方法が好ましく用いられるが、複数の方法を組み合わせても効果的である。
【0038】
β晶造核剤としては、一般的に公知の造核剤が、制限無く用いられる。例えば、非特許文献2および4に記載のγ―キナクリドン(パーマネントレッドE3B)や、非特許文献3に記載のインディゴゾルグレイIBLなどの着色剤や、非特許文献4に記載のエヌジェスター NU−100、非特許文献5および特許文献2に開示されている(A)有機二塩基酸および(B)酸化カルシウムもしくは酸化バリウム、水酸化物、または炭酸塩からなる2成分造核剤などが挙げられる。
【0039】
なかでも、無色でありかつ容易に溶液ないしは分散液化が可能な非特許文献5および特許文献2に開示されている2成分造核剤が好ましく用いられる。2成分のうち、成分Aの有機二塩基酸としては、ピメリン酸、アゼライン酸、オルト−フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。成分Bは、周期律表第IIA属金属例えばマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムの酸化物、水酸化物、または酸塩である。成分Bの酸塩としては、無機酸または有機酸の塩、例えば、炭酸塩、ステアリン酸塩などから導かれる。成分Bは、樹脂ペレットの材料の中に既に存在するポリプロピレン添加物の一つであっても構わない。この場合は、成分Aのみを噴霧、および/あるいは、塗布、および/あるいは、転写することとなる。
【0040】
成分Aと成分Bの混合割合は、B/A(質量比)で、0.01〜100である。
本発明においては、2成分造核剤のなかでも、非特許文献5記載のピメリン酸とステアリン酸カルシウムとからなβ晶造核剤が、強いβ晶造核作用を示すので、特に好ましく用いられる。
【0041】
ピメリン酸とステアリン酸カルシウムとからなβ晶造核剤液の調整方法としては、例えば、以下の通りである。まず、(1)ピメリン酸の0.1質量%のメタノール溶液を作製し、ついで、(2)ステアリン酸カルシウムの0.1質量%のメタノール溶液(または分散液)を作製する。(1)のピメリン酸溶液と(2)のステアリン酸カルシウム溶液(または分散液)とを質量比1対3(ピメリン酸対ステアリン酸カルシウム)となるよう充分に分散させ混ぜ合わせることにより、混合2成分造核剤溶液(または分散液)を得ることが出来る。
【0042】
キャスティングする工程において、シートのどちらか一方の面、あるいは両方の面に、β晶造核剤を噴霧、および/あるいは、塗布、および/あるいは、転写されることによってβ晶化されたポリプロピレンキャスト原反シートのX線法で測定したβ晶分率は、5%以上25%未満である。好ましくは、5%以上20%以下である。
【0043】
低すぎるβ晶分率は、フィルム表面を平滑化するため、巻き取り・巻き戻し等の加工適性には不利となるが、電気用途としては耐電圧特性の向上を図ることができる。しかしながら、本発明のβ晶分率の範囲は、両物性を十分に満足させるものである。
【0044】
即ち、β晶分率が、5%より低いと、フィルムは平滑になりすぎ、巻き取り・巻き戻し加工が難しくなり、25%を超えると、電気的特性が低下する。この範囲の間であると両物性をバランスさせることが出来る。
【0045】
従来の、β晶造核剤とポリプロピレン樹脂とからなる組成物をともに融解、混合して(いわゆる造核剤の内部添加法)Tダイから押し出し・固化させβ晶化シートを得る方法では、造核剤の添加量にもよるが、通常、50%を超えるβ晶分率を示す。この方法では、巻き取り加工適性としては好ましいが、電気用途、特に、コンデンサー用途としては、極めて不利である上、前述の通り、シート内部までα晶、β晶とからなる不均一な構造を形成しているため、このようなシートは、延伸過程におけるフィルムの破断が発生しやすくなり、薄い延伸フィルムを得ることが出来ない。
【0046】
本発明におけるβ晶分率は、X線回折強度測定によって得られ、A. Turner-Jones et al., Makromol. Chem., 75巻, 134頁 (1964). に記載されている方法によって算出される値であり、K値と呼ばれている値である。即ち、α晶由来の3本の回折ピークの高さの和とβ晶由来の1本の回折ピークの比によってβ晶の比率を表現したものである。
【0047】
本発明では、リガク社製、X線回折装置 RINT−2200を用い、CuKα線、照射出力40KV−40mA、散乱スリット1deg、受光スリット0.3mm、走査速度1deg/minの条件にて測定を行った。
【0048】
本発明のもう一つの態様は、シートの表面層のみがβ晶化されていることを特徴とするキャスト原反シートである。表面層とは、一般的に良く知られた範囲の表・裏面層の範囲を示すが、例えば、表裏面合わせて、全体の厚さ比(百分率)で20%以下の層の事であり、好ましくは、10%以下である。
【0049】
前記の通り、本発明に係る技術を用いβ晶をシートの極表面部分にのみ偏在させることにより、シートの延伸性が向上する。一方、β晶がシート内部にまで存在する場合、β晶の群雄率によっては、延伸性にきわめて劣る。
【0050】
本発明のさらにもう一つの態様は、ポリプロピレン樹脂が、分子量分布Mw/Mnが4以上10以下であり、かつ、逐次抽出法で測定された抽出残分(樹脂中に含む立体規則性成分(アイソタクチック成分)の分率)が、93質量%以上98質量%以下であることである。ポリプロピレン樹脂の前記2つの分子物性を両立する事は、電気用途、特にコンデンサー用途の薄いフィルムを得るために必須である。
【0051】
分子量分布は、前述のGPC法にて測定される重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の比から計算される。分子量分布Mw/Mnは4以上10以下であり、4.5以上8.5以下がより好ましい。Mw/Mnが4より低いと、延伸性が極端に低下し、製造過程において破断が多発し、8.5より大きいと延伸は容易となるが、コンデンサー用途として重要な品質である耐電圧特性の低下を招くなど所望の特性が得られなくなり実用上好ましくない。
【0052】
本発明に係る分子量分Mw/Mnを得るためのGPC装置には、前出の通り特に制限はなく、ポリオレフィン類の分子量分析が可能な一般に市販されている高温型GPC装置が、例外なく利用出来るが、本発明の検討では、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機、HLC-8121GPC-HTを用いた。GPCカラムには、東ソー株式会社製、TSKgel GMHHR−H(20)HTを3本連結させて用い、カラム温度は140℃、溶離液にはトリクロロベンゼンを用い、流速は1.0ml/minにて測定した。検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用い、測定結果はポリプロピレン値に換算した。
【0053】
さらに本発明に用いるポリプロピレン樹脂は、逐次抽出法で抽出された抽出残分が、93質量%以上98質量%以下である必要がある。
【0054】
逐次抽出法は、ポリプロピレン樹脂の立体規則性による分別方法の一種であるが、一般的に行われている立体機規則性分別の最も簡便な方法であるn−ヘプタンによる抽出(この抽出残分をヘプタンインデックス(HI)ないしはアイソタクチックインデックス(II)と一般的に呼ばれている)より詳細かつ正確であるという特徴を持つ。この方法は、沸点の異なる複数の溶媒を用いて順次抽出し、その抽出質量よりポリプロピレン樹脂の立体規則性分布を調査する。本発明では、日本分析化学・高分子分析研究懇談会編、新版 高分子分析ハンドブック、紀伊国屋書店、1995年、613頁記載の方法によって行った。
【0055】
即ち、まず、ポリプロピレン樹脂を(1)キシレンに還流下充分溶解させ、その後、室温下4時間放置する。キシレンに不溶な部分をろ別し、不溶分は次の抽出に供する。キシレン不溶分は、ソックスレー脂肪抽出器を用い、(2)n−ペンタン、(3)n−ヘキサン、(4)n−ヘプタンの順に順次ソックスレー抽出を各々6時間実施する。沸点の低い溶媒では、結晶性の低い(立体規則性が低い)成分が抽出されていき、n−ヘプタンにも不溶な成分は、立体規則性の度合いが極めて高い「アイソタクチック」成分と定義でき、最終的な抽出残分を質量比で表現することによってその割合を知ることが出来る。
【0056】
このように、逐次抽出法によって評価される立体規則性度の割合は、いわゆるヘプタン不溶分(HI値)やII値で評価されるような単一の溶媒による抽出量評価結果とまったく異なる意味を持つ。
【0057】
本発明においては、逐次抽出法で評価される最終抽出残分率、すなわち逐次抽出法で得られるアイソタクチック成分の割合を立体規則性の一つの指標とし、この値が93質量%以上98質量%以下である必要がある。アイソタクチック分率が93質量%より低いと、樹脂の結晶性が悪過ぎて高い耐電圧特性が維持し得ず。また、98質量%より大きい場合、延伸加工性が低下し、延伸過程で破断が発生し易くなる。さらには、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速さが早くなり過ぎ、シート成形用の金属ドラムからの剥離が発生するなど、いくつもの製造上の難点を有するため好ましくない。したがって、アイソタクチック分率が、93質量%以上98質量%以下に調整することで、高い耐電圧特性を維持したまま、薄いフィルムを製造するための延伸性等、高い製造加工適性が期待される。
【0058】
本発明では、前出の分子量・分子量分布範囲と、特定のアイソタクチック分率の範囲とを同時に満たす樹脂をキャスト原反シートの作製に用いることにもう一つの特徴がある。即ち、分子量分布を調整することにより、高い延伸加工性を付与させつつ、耐電圧特性を維持できるが、それだけでは耐電圧特性は十分と言えない。しかしながら、本発明に係る特定の範囲の立体規則性度を同時に併せ持つことにより、延伸性の向上と共に、さらなる耐電圧特性の付与が可能となる。
【0059】
本発明に係る前述のポリプロピレン樹脂を原料として用いると、キャスト原反シート成形過程において、β晶を5%〜25%未満の範囲で、過度の粗面化を発生させることなく、適度に発生させることができ、かつ、高い耐電圧特性を有するため、コンデンサーフィルム用キャスト原反シートに特に好ましく使用できる。
【0060】
本発明において、ポリプロピレン樹脂の原料としてシートまたはフィルムなどを成形する場合、ポリプロピレン樹脂には、必要に応じて、他の樹脂などを本発明の効果を損なわない範囲内で添加しても構わない。前記の他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリ(1−ブテン)、ポリイソブテン、ポリ(1−ペンテン)、ポリ(1−メチルペンテン)などのポリα―オレフィン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体などの、α−オレフィン同士の共重合体、スチレン−ブタジエンランダム共重合体などのビニル単量体−ジエン単量体ランダム共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン ブロック共重合体などのビニル単量体−ジエン単量体−ビニル単量体ランダム共重合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
他の樹脂の添加量は添加する樹脂の種類にもより異なるが、前述のように本発明の効果が損なわない範囲であれば良く、一般的に、通常の場合、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、10質量部以下、好ましくは5質量部以下であるのが良い。
【0062】
また、本発明において、ポリプロピレン樹脂を原料としたキャスト原反シートあるいは延伸フィルムを成形する場合、樹脂中に必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、塩酸吸収剤などの安定化剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲であれば添加しても良い。
【0063】
本発明のポリプロピレンキャスト原反シートを成形する方法としては、公知の各種方法が制限なく採用することが出来る。例えば、前述のポリプロピレン樹脂からなる原料ペレット類を押出機に供給し、加熱溶融し、ろ過フィルターを通した後、170℃〜320℃、好ましくは、200℃〜300℃で加熱溶融してTダイから溶融押し出し、1本以上の金属ドラムを用いて冷却、固化させることによりキャスト原反シートを得ることが出来る。
【0064】
キャストする際の1本以上の金属ドラムは、冷却・固化を効率よく行うため、ある程度一定温度に調整されていれば良く、温度に特に制限はない、また、複数の金属ドラムを用いる場合、効率よく固化させるために各々の金属ドラムの温度が異なっていても構わない。
【0065】
しかしながら、金属ドラムを80℃以上の温度に保持することは、不必要なエネルギーを要することになるため、あまり好ましくない。また、5℃以下に保持してキャストすると、樹脂が、急冷されるため、スメチカと呼ばれる液晶類似構造に変化(転移)する恐れがあるため好ましくない。したがって、5℃を超え80℃までの範囲内、より好ましくは10℃から60℃程度の範囲で、冷水、温水、オイル、電気など一般的に公知な方法によりドラム温度を保持するのが良い。
【0066】
本発明のさらにもう一つの態様は、溶融樹脂を冷却・固化するキャスティング工程において、シートのどちらか一方の面、あるいは両方の面上に、β晶造核剤を、噴霧、および/あるいは、塗布、および/あるいは、転写する製造技術である。β晶造核剤の、噴霧、塗布、転写の方法には、特に限定はなく、一般に公知の方法が制限無く採用される。
【0067】
例えば、噴霧による方法は、押し出された樹脂融体が、Tダイから金属ドラムに接触するまでの間に、電動噴霧器など一般的に公知の噴霧器を用い、β晶造核剤溶液(または分散液)を、直接樹脂融液体に吹き付ける方法であり、塗布による方法では、樹脂に、造核剤溶液(または分散液)を、グラビア法、カーテンコート法など一般的に公知の塗工方法によって、塗布後、金属ドラム上でキャスティングし、固化・結晶化する方法である。
【0068】
転写による方法では、例えば、β晶造核剤溶液(または分散液)をグラビア法などにより、金属ドラム面上に塗布する(噴霧法により吹き付けても構わない)。引き続き、その金属ドラム面上に、Tダイから押し出された樹脂融液がキャストされる。樹脂融液が金属ドラムに接触した際に造核剤が樹脂側に転写され、冷却過程で、造核作用が発現する。
【0069】
効率良く極微量の造核剤を、Tダイから押し出された樹脂融液体の表層にのみ付着させるには、転写による方法が好ましく用いられる。また、これらの方法を複数組み合わせても効果的である。
【0070】
この製造技術により、キャスト原反シートの極表面層のみが選択的にβ晶化することができる。さらに、得られるキャスト原反シートのβ晶分率は、5%以上25%未満に調整することが可能になる。これらキャスト原反シートの厚さには、特に制限はないが、通常0.05mm〜2mm、好ましくは、0.1mm〜1mmであるのが望ましい。
【0071】
本発明のポリプロピレンキャスト原反シートは、延伸処理を行い容易に延伸フィルムとすることができる。延伸は、縦および横に2軸に配向せしめる2軸延伸が良く、延伸方法としては、逐次2軸延伸方法が好ましい。逐次2軸延伸方法としては、まずキャスト原反シートを100〜160℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して、流れ方向に3〜7倍に延伸し、直ちに室温に冷却する。引き続き、当該延伸フィルムをテンターに導いて、160℃以上の温度で幅方向に3〜11倍に延伸した後、緩和、熱固定を施し巻き取る。
【0072】
この延伸工程によって、機械的強度、剛性に優れたフィルムとなり、また、表面の凹凸もより明確化され、微細に粗面化された延伸フィルムとなる。
【0073】
本発明のキャスト原反シートは、きわめて延伸性に優れているため、非常に薄い延伸フィルムを得ることができる、延伸フィルムの厚さは、1μm以上7μm以下、好ましくは1μm以上4μm以下である。この延伸フィルムは、適度な微細粗化面を有するため、各種産業用途の巻き取り加工適性に優れた効果を有するとともに、さらに、高耐電圧も付与されているので、素子巻き適性に優れた非常に薄いコンデンサー用延伸フィルムとして極めて好適である。
【0074】
本発明の極薄粗面化フィルムにおいて、金属蒸着加工工程における接着特性を高める目的で、延伸・熱固定工程終了後に、オンラインもしくはオフラインにて、コロナ放電処理を行っても構わない。コロナ放電処理は一般に公知の方法を難なく用いることができるが、処理をする際に雰囲気ガスとして、空気、炭酸ガス、窒素ガス、およびこれらの混合ガス中で処理することが望ましい。
【0075】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、もちろん本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。また、特に断らない限り、例中の部および%はそれぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
【0076】
〔特性値の測定方法ならびに効果の評価方法〕
実施例における特性値の測定方法ならびに効果の評価方法はつぎの通りである。
(1)重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)測定
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で測定した。
測定機:東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC、
HLC−8121GPC−HT型
カラム:東ソー株式会社製、TSKgel GMHHR−H(20)HTを3本連結
カラム温度:140℃
溶離液:トリクロロベンゼン
流速:1.0ml/min
検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用い、測定結果はポリプロピレン値に換算した。
【0077】
(2)逐次抽出法によるアイソタクチック成分分率の測定
ポリプロピレン樹脂を(1)キシレンに還流下充分溶解させ、その後、室温下4時間放置した。キシレンに不溶な部分をろ別し、不溶分は次の抽出に供した。キシレン不溶分は、ソックスレー脂肪抽出器を用い、(2)n−ペンタン、(3)n−ヘキサン、(4)n−ヘプタンの順に順次ソックスレー抽出を各々6時間実施した。n−ヘプタンにも不溶な最終的な抽出残分を秤量し、この質量をアイソタクチック成分量とした。この成分の質量をキシレンに溶解前の樹脂質量に対する百分率比で表現した。
【0078】
(3)β晶分率測定
キャスト原反シートのβ晶分率は、X線回折強度測定によって求められるK値を用いて評価した。
X線回折強度測定条件は次の通り行った。
測定装置:リガク社製、X線回折装置 RINT−2200
X線源:CuKα線
照射出:40KV−40mA
散乱スリット1deg
受光スリット0.3mm
走査速度1deg/min
【0079】
K値は、得られた強度曲線から、以下の式を用い、α晶由来の3本の回折ピークの高さの和とβ晶由来の1本の回折ピークの比によって算出した。
【0080】
K値(強度比%)=Hβ/(Hβ + HαI + HαII + HαIII)×100
〔ただし、Hβはβ晶(2θ=16deg)の結晶性回折に対応するピークの強度(高さ)、HαIはα晶(110)面の結晶性回折に対応するピークの強度(高さ)、HαIIはα晶(040)面の結晶性回折に対応するピークの強度(高さ)、HαIIIはα晶(130)面の結晶性回折に対応するピークの強度(高さ)である。ただし、いずれも非晶性散乱を差し引いた後の強度(高さ)を用いた。〕
【0081】
(4)フィルム厚の評価
二軸延伸フィルムの厚さは、マイクロメーター(JIS−B7502)を用いて、JIS−C2330に準拠して測定した。
【0082】
(5)巻取り加工適性の評価
二軸延伸フィルムの巻き取り、巻き戻し、断裁の加工性評価を以下の通り行った。まず、フィルムを幅640mm×20000mに巻き取ったロールを、小幅断裁機に掛け、幅方向に6本、長さ方向に4本に、巻き取り、巻き戻しが繰り返されて断裁し、幅100mm×長さ5000mの小幅ロール、24本に分割加工した。得られた小幅ロールの仕上がり状況を目視で観察し、ロール24本中に、シワ、端面ズレ、軟巻き等の不良品が何本あるかを評価した。いずれかの不良が少しでもあると、不良品1本と数える。不良ロール0本を、巻き取り加工適性を「○」と評価、不良ロール1〜2本を「△」、不良ロール3本以上を「×」と評価した。
巻き取り加工性が「○」の場合、コンデンサーとしての素子巻き加工適性も極めて良好と理解される。
【0083】
(6)耐電圧特性の評価
二軸延伸フィルムの耐電圧特性は、JIS−C2151およびJIS−C2330に準じて評価した。ここでは、評価された耐電圧特性が、従来より極めて向上した場合を「◎」、従来並みの場合を「○」、劣る場合を「×」として評価した。
【0084】
〔β晶造核剤液の調整実施例〕
(1)ピメリン酸を0.1質量%の濃度でメタノールに溶解し、ピメリン酸メタノール溶液を作製した。ついで、(2)ステアリン酸カルシウムを、同じく0.1質量%の濃度でメタノールに充分分散させ、ステアリン酸カルシウムのメタノール溶液(または分散液)を作製した。(1)のピメリン酸溶液と(2)のステアリン酸カルシウム溶液(または分散液)とを質量比1対3(ピメリン酸対ステアリン酸カルシウム)となるよう充分に分散させ混ぜ合わせることにより、2成分β晶造核剤溶液(または分散液)を得た。
【0085】
〔造核剤転写作用確認実施例〕
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトンフィルム300H、厚さ75μm)上に、β晶造核剤液を手押し噴霧器にて数回噴きつけた後、100℃乾燥機内で、乾燥させた。このβ晶造核剤を付着させたポリイミドフィルム上に予めシート化したポリプロピレンシートを重ね、さらにその上に造核剤を付着させていないポリイミドフィルムを重ねた。この積層資料を、200℃のホットプレス機を用い、予熱時間2分、2.0MPaの圧力で軽くプレスする事で、ポリイミドフィルム上に付着した造核剤を溶融したポリプロピレンシート面に転写させた。積層資料は、プレス後すばやく室温にて静置・冷却してポリプロピレンを固化させ、ポリイミドフィルムをはがして、ポリプロピレンキャストシートを得た。得られたポリプロピレンキャストシートのβ晶分率(K値)は、造核剤転写面35%、非転写面2%であり、β晶造核剤を転写させた面のみが、特異的にβ晶分率が上昇し、造核剤のポリイミドフィルムからポリプロピレンシートへの転写と、それによるβ晶造核作用を確認することが出来た。また、この手法による片面のみのβ晶化が確認できた。
【実施例1】
【0086】
重量平均分子量(Mw)3.0×10、分子量分布(Mw/Mn)5.8、アイソタクチック成分分率が93.3%であるポリプロピレン樹脂ペレットを押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押し出した。押し出された樹脂融液の一方の面を、予めグラビアロールにてβ晶造核剤液が塗布され、表面温度を30℃に水冷保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約200μmのキャスト原反シートを作製した。作製したキャスト原反シートのβ晶分率(K値)は、9%であった。また、このシートを破断し、その破断面を偏光顕微鏡にて光学観察を行ったところ、シート内部には、β球晶がほとんど存在しない均一構造であることが確認された。β晶が偏在する部分は、シートの表面あるいは裏面より厚さ比(百分率)で、各々5%〜10%程度の範囲であった。
【0087】
引き続きこの未延伸キャスト原反シートを130℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、ついでテンターにて160℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ4.0μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムは適度に粗化され、巻き取り加工適性に優れており、コンデンサーの素子巻き加工にも好適と判断された。また、極めて良好な耐電圧特性を得ることができた。表1に樹脂およびキャスト原反シートの物性値ならびに作製した二軸延伸フィルムの評価結果をまとめる。
【実施例2】
【0088】
重量平均分子量(Mw)4.7×10、分子量分布(Mw/Mn)7.9、アイソタクチック成分分率が97.8%であるポリプロピレン樹脂ペレットを実施例1と同様にして溶融、Tダイより押し出した。造核剤導入方法を実施例1に変え、表面温度を30℃に水冷保持した金属ドラムに巻きつける直前の樹脂融体に噴霧器にてβ晶造核剤液を吹き付けた。厚さ約150μmのキャスト原反シートを得た。作製したキャスト原反シートのβ晶分率(K値)は、20%であった。
【0089】
この未延伸キャスト原反シートを実施例1と同様にして、厚さ3.0μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムは、適度に粗化され、巻き取り加工適性に優れており、コンデンサーの素子巻き加工にも好適と判断された。また、極めて良好な耐電圧特性を得ることができた。表1に樹脂およびキャスト原反シートの物性値ならびに作製した二軸延伸フィルムの評価結果をまとめる。
【実施例3】
【0090】
重量平均分子量(Mw)2.9×10、分子量分布(Mw/Mn)4.5、アイソタクチック成分分率が95.3%であるポリプロピレン樹脂ペレットを実施例1と同様にして、厚さ約300μmのキャスト原反シートを作製した。作製したキャスト原反シートのβ晶分率(K値)は、14%であった。
【0091】
この未延伸キャスト原反シートを実施例1と同様にして、厚さ6.0μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムは、適度に粗化され、巻き取り加工適性に優れており、コンデンサーの素子巻き加工にも好適と判断された。また、従来同様の耐電圧特性を得ることができた。表1に樹脂およびキャスト原反シートの物性値ならびに作製した二軸延伸フィルムの評価結果をまとめる。
【0092】
〔比較例1〕
実施例1と同様のポリプロピレン樹脂ペレットを押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押し出し、表面温度を110℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、β晶造核剤を使用せず、厚さ約200μmのキャスト原反シートを作製した。作製したキャスト原反シートのβ晶分率(K値)は、35%であった。また、このシートを破断し、その破断面を偏光顕微鏡にて光学観察を行ったところ、シート内部にまでβ球晶が存在し不均一構造となっていた。
【0093】
この未延伸キャスト原反シートを実施例1と同様にして延伸を行ったが、延伸工程で破断が多発し、薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得るのに困難を極め、延伸性に劣るものと理解された。多大な労力と時間を要して、かろうじて4.0μmの延伸フィルムを作製した。得られたフィルムは、適度に粗化され、巻き取り加工適性に優れており、コンデンサーの素子巻き加工にも好適と判断された。また、従来並みの耐電圧特性を得ることができた。表1に樹脂およびキャスト原反シートの物性値ならびに作製した二軸延伸フィルムの評価結果をまとめる。
【0094】
〔比較例2〕
重量平均分子量(Mw)2.9×10、分子量分布(Mw/Mn)4.1、アイソタクチック成分分率が97.1%であるポリプロピレン樹脂ペレットを押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押し出し、表面温度を90℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、β晶造核剤を使用せず、厚さ約200μmのキャスト原反シートを作製した。作製したキャスト原反シートのβ晶分率(K値)は、23%であった。
【0095】
この未延伸キャスト原反シートを実施例1と同様にして延伸を行ったが、延伸工程で破断が散発し、薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得るのに困難を極め、延伸性に劣るものと理解された。多大な労力と時間を要して、かろうじて4.0μmの延伸フィルムを作製することが出来た。得られたフィルムは、適度に粗化され、巻き取り加工適性に優れており、コンデンサーの素子巻き加工にも好適と判断された。また、従来並みの耐電圧特性を得ることができた。表1に樹脂およびキャスト原反シートの物性値ならびに作製した二軸延伸フィルムの評価結果をまとめる。
【0096】
〔比較例3〕
ピメリン酸とステアリン酸カルシウムを質量比1対3(ピメリン酸対ステアリン酸カルシウム)となるよう予め混合し2成分β晶造核剤を調整した。この造核剤を実施例1と同様のポリプロピレン樹脂ペレットに樹脂に対して質量濃度0.02%となるよう添加し、その混合組成物を押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融混合し、Tダイを用いて押し出した。押し出された溶融樹脂は、30℃に水冷保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約200μmのキャスト原反シートを作製した。作製したキャスト原反シートのβ晶分率(K値)は、52%であった。
【0097】
この未延伸キャスト原反シートを実施例1と同様にして延伸を行ったが、延伸工程で破断が続発し、厚さ7μm以下の薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができなかった。表1に樹脂およびキャスト原反シートの物性値を記す。
【0098】
〔比較例4〕
β晶造核剤を導入しない以外は実施例1と同様にして未延伸シートを得た。そのシートのβ晶分率(K値)は、1%であった。
【0099】
この未延伸キャスト原反シートを実施例1と同様にして、厚さ4.0μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。フィルム表面は、粗面化されておらず、巻き取り加工に極めて不適と判断された。しかし、耐電圧特性は充分なものであった。表1に樹脂およびキャスト原反シートの物性値ならびに作製した二軸延伸フィルムの評価結果をまとめる。
【0100】
〔比較例5〕
重量平均分子量(Mw)3.0×10、分子量分布(Mw/Mn)5.4、アイソタクチック成分分率が91.0%であるポリプロピレン樹脂ペレットを押出機に供給して、実施例1と同様の方法にて、厚さ約200Mのキャスト原反シートを作製した。作製したキャスト原反シートのβ晶分率(K値)は、7%であった。
【0101】
この未延伸キャスト原反シートを実施例1と同様にして、厚さ4.0μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムは、適度に粗化され、巻き取り加工適性に優れており、コンデンサーの素子巻き加工にも好適と判断されたが、耐電圧特性は極めて劣るものであった。表1に樹脂およびキャスト原反シートの物性値ならびに作製した二軸延伸フィルムの評価結果をまとめる。
【0102】
【表1】


実施例1〜3で明らかな通り、本発明に係る重量平均分子量を有したポリプロピレン樹脂を、シートに製膜する際、本発明のβ晶造核剤導入方法を用いることによって、シートの極表面にのみ本発明に係る範囲の適度なβ晶が生成した延伸特性にきわめて優れたキャスト原反シートが得られるものと判断される。この優れた延伸特性から非常に薄い粗面化二軸延伸フィルムを得ることができる。さらに、本発明に係る範囲の分子量分布とアイソタクチック成分分率を同時に有するポリプロピレン樹脂を用いることにより、高い耐電圧特性を付与できることも分かった。
【0103】
一方、β晶造核剤を用いずキャスト温度の制御による従来のβ晶化の方法でキャスト原反シートを作製した場合、そのシートから得られる二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、巻き取り加工適性に優れた微細粗化面を有すると同時に、良好な耐電圧特性を有してはいるものの、延伸性に極めて劣っているため、延伸過程において、フィルム破断が多発し、薄いフィルムを作製するのに困難を有した(比較例1〜2)。
【0104】
さらに、β晶造核剤を内部添加した場合には、わずかな添加量であってもシートは過度にβ晶化し、極めて延伸性が劣った原反シートが得られ、薄い2軸延伸フィルムを得ることは困難であった(比較例3)。
【0105】
本発明のβ晶造核剤導入方法を用いずに、キャスト原反シートを作製すると、シートはβ晶化することが無く、適度な表面粗化状態を有するポリプロピレン延伸フィルムを得ることができず、巻き取り加工適性に劣るものであった(比較例4)。
【0106】
また、本発明に係る範囲の分子量分布とアイソタクチック成分分率を同時に有するポリプロピレン樹脂を用いないと、適度な表面粗化性と高い耐電圧特性を兼ね備えたポリプロピレン延伸フィルムを得ることができなかった(比較例5)。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のポリプロピレンキャスト原反シートは、シートの極表面層にのみβ晶が存在する高い延伸特性を有したシートであり、非常に薄い粗面化フィルムを作製できる。ここで得られるフィルムは、適度な微細粗化面を有するため、各種産業用途の巻き取り加工適性に優れた効果を有する。さらに、高い耐電圧特性も有するので、コンデンサーフィルムとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した重量平均分子量が、10万以上50万以下であるポリプロピレン樹脂を、加熱溶融し作製されたポリプロピレンキャスト原反シートであって、前記シートは、シート化キャスティング工程において、シートのどちらか一方の面、あるいは両方の面にβ晶造核剤が噴霧、塗布および転写から選ばれる方法で供給されることによってβ晶化されており、シートのX線法で測定したβ晶分率が5%以上25%未満であることを特徴とするキャスト原反シート。
【請求項2】
キャスティング工程において、噴霧、塗布および転写から選ばれる方法で供給されるβ晶造核剤が、(A)有機二塩基酸および(B)周期律表第IIA属金属の酸化物、水酸化物、または酸塩からなる成分より調製される溶液(または分散液)であることを特徴とする請求項1記載のキャスト原反シート。
【請求項3】
シートの表面層のみがβ晶化されていることを特徴とする請求項1または2に記載のキャスト原反シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャスト原反シートにおいて、前記ポリプロピレン樹脂が、分子量分布Mw/Mnが4以上10以下であり、かつ、逐次抽出法で測定された抽出残分(樹脂中に含む立体規則性成分(アイソタクチック成分)の分率)が、93質量%以上98質量%以下であることを特徴とするキャスト原反シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャスト原反シートを2軸延伸して成形される厚さが1μm以上7μm以下であることを特徴とするコンデンサーフィルム用極薄粗面化フィルム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャスト原反シートの製造方法であって、キャスティング工程において、β晶造核剤を噴霧、塗布および転写から選ばれる方法で供給することによって、シート表面層のみをβ晶化することを特徴とするポリプロピレンキャスト原反シートの製造方法。


【公開番号】特開2008−231305(P2008−231305A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74825(P2007−74825)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】