説明

樹脂と脆性材料との複合構造物及びその作製方法、電子機器

【課題】 樹脂材の上に脆性材料層を安定に形成する複合構成物およびその作製方法を提供すること。
【解決手段】 樹脂基材表面に密着する粘着材料からなる下地層が形成され、この下地層の上全部または一部に多結晶の脆性材料層が形成されている樹脂材と脆性材料との複合構造物、及び樹脂基材表面に密着する粘着材表面に、この粘着材よりも高硬度の脆性材料微粒子を食い込ませて下地層を形成し、次いでこの下地層に前記脆性材料微粒子を高速で衝突させ、この衝突の衝撃によって前記脆性材料微粒子を変形または破砕し、この変形または破砕にて生じた活性な新生面を介して微粒子同士を再結合せしめることで、前記下地層の上に多結晶の脆性材料層を形成する樹脂材と脆性材料との複合構造物の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材とセラミックスや半金属などの脆性材料とからなる複合構造物およびその作製方法、及びこの複合構造物を取り付けた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面に金属やセラミックスなどの被膜を形成する方法として、ゾルゲル法、PVDやCVDなどの蒸着法あるいは溶射法が知られている。
【0003】
また、最近では新たな被膜形成方法として、ガスデポジション法(加集誠一郎:金属 1989年1月号)や静電微粒子コーティング法(井川 他:昭和52年度精密機械学会秋季大会学術講演会前刷)が知られている。前者は金属やセラミックス等の超微粒子をガス攪拌にてエアロゾル化し、微小なノズルを通して加速せしめ、基材に衝突した際に運動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換され、微粒子間あるいは微粒子と基材間を焼結することを基本原理としており、後者は微粒子を帯電させ電場勾配を用いて加速せしめ、この後はガスデポジション法と同様に衝突の際に発生する熱エネルギーを利用して焼結することを基本原理としている。
【0004】
また、上記のガスデポジション法あるいは静電微粒子コーティング法を改良した先行技術として、特開平8−81774号公報、特開平10−202171号公報、特開平11−21677号公報、特開平11−330577号公報或いは特開2000−212766号公報に開示されるものが知られている。また、磁性粒子を原料とした先行技術については特開2002−097177或いは特開2002−097176などが知られている。
【特許文献1】特開平8−81774号公報
【特許文献2】特開平10−202171号
【特許文献3】特開平11−21677号公報
【特許文献4】特開平11−330577号公報
【特許文献5】特開2000−212766号公報
【特許文献6】特開2002−097177号公報
【特許文献7】特開2002−097176号公報
【非特許文献1】ガスデポジション法(加集誠一郎:金属 1989年1月号)
【非特許文献2】静電微粒子コーティング法(井川 他:昭和52年度精密機械学会秋季大会学術講演会前刷)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した先行技術の多くは、被膜形成に樹脂が溶融あるいはガス化する程度の加熱を伴うため、樹脂基板の表面に脆性材料構造物を形成するには適さない。また、上記した先行技術のうち、ガスデポジション法を改良したものの中には、加熱工程を伴わずに被膜を形成するものもあるが、脆性材料微粒子を樹脂基板に直接衝突させると、樹脂基板は一般的に無機材料に代表される脆性材料と比較して弾性に富み、また柔らかいために下記2つの不具合を生じる場合があった。
(1) 不飽和ポリエステル、ナイロン、ゴム、フッ素樹脂等のように、弾性に富む場合には脆性材料微粒子が跳ね返されてうまく製膜できない。
(2) アクリル樹脂、エポキシ樹脂等のように、樹脂材料の中では比較的硬く塑性に乏しい場合には強く衝突させると樹脂基板が削られてしまう。またポリカーボネートやポリプロピレンなどへの製膜も困難である。
【0006】
そこで、本発明者の一部により樹脂基板の表面にも脆性材料構造物を形成できる方法が国際出願(PCT JP00/07076)された。この発明は以下の知見に基づいてなされた。即ち、延展性を持たない脆性材料(セラミックス)に機械的衝撃力を付加すると、結晶子同士の界面などの劈開面に沿って結晶格子のずれを生じたり、あるいは破砕される。そして、これらの現象が起こると、ずれ面や破面には、もともと内部に存在し別の原子と結合していた原子が剥き出しの状態となった新生面が形成される。この新生面の原子一層の部分は、もともと安定した原子結合状態から外力により強制的に不安定な表面状態に晒され、表面エネルギーが高い状態となる。この活性面が隣接した脆性材料表面や同じく隣接した脆性材料の新生面あるいは基板表面と接合して安定状態に移行する。
【0007】
外部からの連続した機械的衝撃力の付加は、この現象を継続的に発生させ、微粒子の変形、破砕などの繰り返しにより接合の進展、緻密化が行われ、脆性材料構造物が形成される。そして、更に上記機械的衝撃を搬送ガスにて脆性材料を基材に衝突させるようにした本発明の一態様を以後、微粒子ビーム堆積法と称する。またこの方法はエアロゾルデポジション法とも呼ばれる。
【0008】
上記の微粒子ビーム堆積法によって作製した脆性材料構造物の断面を観察したところ、噴射された微粒子または破砕した微細断片粒子が基材に突き刺さったアンカー部が存在し、その上に破砕・変形した脆性材料微粒子同士が、焼成することもなく緻密に接合して形成される構造となっていることがわかった。即ち、微粒子ビーム堆積法によってうまく脆性材料構造物が形成されるか否かは基材表面にアンカー部が存在しているか否かに大きく依存しており、一度薄いアンカー部が形成された後は、比較的容易にその上に脆性材料構造物が形成される。
【0009】
そして、上記アンカー部は、一般的に弾性係数が高いか、また樹脂の中では比較的硬くかつ塑性に乏しい樹脂基材上に直接脆性材料構造物を形成しようとすると脆性材料微粒子が樹脂基材に弾かれたり、脆性材料微粒子により樹脂基材が削られたりしてうまく形成できない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題は、樹脂基材表面に密着する粘着材料からなる下地層が形成され、この下地層の上全部または一部に多結晶の脆性材料層が形成されていることを特徴とする樹脂と脆性材料との複合構造物、によって解決される。
【0011】
また、以上の課題は、樹脂基材表面に密着する粘着材表面に、この粘着材よりも高硬度の脆性材料微粒子を食い込ませて下地層を形成し、次いでこの下地層に前記脆性材料微粒子を高速で衝突させ、この衝突の衝撃によって前記脆性材料微粒子を変形または破砕し、この変形または破砕にて生じた活性な新生面を介して微粒子同士を再結合せしめることで、前記下地層の上に多結晶の脆性材料層を形成することを特徴とする樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法、によって解決される。
【0012】
また、以上の課題は、樹脂基材表面に密着する粘着材料からなる下地層が形成され、この下地層の上全部または一部に多結晶の脆性材料層が形成されている樹脂と脆性材料との複合構造物を筐体の内周面及び/または上下内壁面に取り付けていることを特徴とする電子機器、によって解決される。
【0013】
更にまた、以上の課題は、内部の電子部品に、樹脂基材表面に密着する粘着材料からなる下地層が形成され、この下地層の上全部または一部に多結晶の脆性材料層が形成されている樹脂と脆性材料との複合構造物を取り付けていることを特徴とする電子機器、によって解決される。
【0014】
具体的に更に述べると、前述のこのような欠点を克服するために本発明者の一部により樹脂基材の上に下地層を形成し、その上に脆性材料を形成するという特許がだされた。本発明者らが鋭意研究を行なった結果、先願特許の形成法によっても生成し難い脆性材料(たとえばフェライトなどの磁性粒子など)があることが分かった。この欠点を克服するために、このような樹脂基材に対しては適度な密着性を持つ粘着材による下地層を形成した場合、その下地層に脆性材料が跳ね返されること無く容易に脆性材料膜がされるという知見を得て本発明を成したものである。
【0015】
即ち、本発明の第1の態様に属する樹脂と脆性材料との複合構造物は、樹脂基材表面にその一部が食い込む硬質材料からなる下地層が形成され、この下地層の上に多結晶の脆性材料構造物が形成された構成である。下地層の厚さは1μm以上が好ましい。
【0016】
上記の複合構造物を作製するには、樹脂基材上の粘着材表面にこの樹脂基材よりも高硬度の粒子を食い込ませて下地層を形成し、次いでこの下地層に脆性材料微粒子を高速で衝突させ、この衝突の衝撃によって前記脆性材料微粒子を変形または破砕し、この変形または破砕にて生じた活性な新生面を介して微粒子同士を再結合せしめることで、下地層の上に多結晶の脆性材料層を形成する。
【0017】
前記下地層を形成する手段としては、前記樹脂基材上に適切な塗布方法(グラビアコート、はけ塗り、スプレー塗布、転写法など)により形成される。
【0018】
脆性材料層の形成工程の温度は、前記粘着材用樹脂のガラス転移温度(Tg)以下にするのが好ましい。
【0019】
上述の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法において、第1層目の脆性材料の上にさらに粘着層を塗布して、そのうえにさらに第2層目の脆性材料を形成してもよい。
【0020】
上述の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法において、第2層目以降同様に粘着層と脆性材料層とを交互に積み重ねて、n層(n≧2)の多層構造を特徴としてもよい。
【0021】
上述の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法において、粘着層は樹脂などの支持体もしくは基材の片面又は両面に塗布することを特徴としても良い。
【0022】
一方、粘着材が硬化性樹脂からなる場合には、この硬化性樹脂の前駆体を半硬化状態になるまで熱、UVなど適切な硬化法により半硬化させる。この半硬化状態にある粘着材表面に硬質材料粒子を食い込ませて脆性材料層を形成する。なお、脆性材料形成工程後に半硬化状態にある粘着性硬化樹脂をさらに加熱、UV照射などにより硬化させる必要は無い。なお、脆性材料層は常温または加熱状態で形成する。
【0023】
本発明においては樹脂基材上の粘着材の全部又は一部に脆性材料を形成する。ビデオカメラやデジタルスチルカメラなどの筐体や回路などに電波吸収材料としてフェライトなどの脆性材料を応用する場合には、直接樹脂基材上の粘着材の全部又は一部に脆性材料を形成する場合と、例えば粘着テープの一部に脆性材料を形成し、その周囲を脆性材料が未形成の部分が取り囲むように形成すると、電磁波吸収特性のある脆性材料が形成された粘着テープとなる。このテープは脆性材料形成面を下にして回路基板のノイズ発生源に貼り付けることが可能となり、脆性材料形成過程と貼り付け過程が分離できることにより、回路基板の不要な部位に未固化の脆性材料が付着することが防止でき、プロセス的にもメリットが大きい。
【0024】
ここで、本発明を理解する上で重要となる語句の解釈を以下に行う。
(下地層)樹脂基材の最表面に粘着材料が形成された薄い層であり、基材との密着性を保つとともに、その上に脆性材料構造物もしくは脆性材料層を微粒子ビーム堆積法により形成した場合に、この構造物と強固に接合される層を指す。また、脆性材料構造物との接合は、脆性材料構造物粒子が衝突した際に、その一部が食い込んでアンカー部を形成することが望ましい。それら条件を満足する材料は、粘着材料であり、アクリル系粘着材、ゴム系粘着材、シリコーン系粘着材などの粘着性を調整する事により使用可能である。
(多結晶)本件では結晶子が接合・集積してなる構造体を指す。結晶子は実質的にそれひとつで結晶を構成しその径は通常5nm以上である。ただし、微粒子が破砕されずに構造物中に取り込まれるなどの場合がまれに生じるが、実質的には多結晶である。
(結晶性)本件では多結晶である構造物中での粉末X線回折などにより、原料粉末結晶の特性ピークの拡がり方により、原料粒子の粉砕度合いを定性的に比較する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来では困難であった柔らかい樹脂基材表面への脆性材料層を粘着性の下地層を介在させることで確実に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態及び実施例を添付図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれらに限定されることなく、その技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0027】
図1に示す複合構造物は、基材の上に下地層として粘着材料層が存在し、この上に脆性材料構造物としての脆性材料層が形成されている場合である。この場合は、あらかじめ樹脂基材に粘着材料層を形成した後、微粒子ビーム堆積法によりある種の脆性材料微粒子を打ち込む。粘着材層は硬化不要の場合と半硬化の場合とがある。すなわち、図1においては樹脂基材1上に粘着材料層もしくは粘着層2が形成され、この上に脆性材料層3が形成される。
【0028】
この実施の態様に示した樹脂基板材料としては、ABS、アセタール樹脂、メタクリル樹脂、酢酸セルロース、塩素化ポリエーテル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、アイオノマー、メチルペンテンポリマー、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルホン、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、AS樹脂,塩化ビニル樹脂等が、脆性材料としては、Al23,NiO,TiO2,CuO,ZnO,ZrO2,SnO2,MgO、フェライトなどの酸化物、Fe、Cu、などの金属、WC,ダイヤモンド,SiC,B4C等の炭化物,AlN,Si34等の窒化物,Ca2F,ZrF等のフッ化物などに代表される脆性材料を用い、搬送用キャリアガスとしては、乾燥空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、酸素、水素、酸素分圧を制御した混合ガスなどを用いることができる。
【0029】
図2にn=2の場合の多層構造の例を示す。さらに粘着層と脆性材料層とが交互に積み重ねられn層(n≧3)としても良い。図2において、図1に対応する部分については図1の符号を付す。すなわち、第1層の脆性材料層3の上に第2層の粘着層4が形成され、更にその上に第2層の脆性材料層5が形成される。
【0030】
次に、本発明の実施の形態の構造物形成装置について、図3を参照して説明する。本装置には上述したように微粒子ビーム堆積法が適用される。構造物形成室8内には加熱プレート11が配設され、熱硬化性樹脂基材17が載置される。温度計12が、基材17の温度を測るべく設置される。温度計12の出力が温調器13に供給される。この温調器13の制御信号は加熱プレート11に供給される。脆性材料である微粒子粉体を収容する原料槽14はバルブ20を介して連結管16が接続されており、これには一方、ヘリウムガスを貯蔵するキャリアガス貯蔵層15が接続されている。
【0031】
原料槽14には更にバルブ21を介して噴射管18が接続されており、その先端部は構造物形成室8内にあって、噴射ノズル19を接続させている。この噴射ノズル19は樹脂基材17に対向している。また下地層を形成させた樹脂基材17を空冷によって強制的に冷却するための空冷用噴射ノズル23が図示するように樹脂基材17に対し斜めに向けて配設されている。なお、原料槽14では図示せずとも脆性材料微粒子を振動、攪拌する機構を備えている。
【0032】
動作は、熱可塑性基材上に形成した練り合わせた熱硬化性樹脂基材17を噴射管19の噴射口の先方にセットし、基材温度を制御する温調器13を用いて、基材17を基材硬化温度より10℃低い温度以上硬化温度以下にセットする。基材表面の温度は基材に設置された温度計12によって測温され、温調器13によって制御される。基材17の温度が所定の温度に達した時点で、キャリアガス貯留槽15のバルブ20を開き、キャリアガス貯留槽15内のキャリアガスを流し、原料槽14内にある脆性材料微粒子をキャリアガスと共に噴射管18を通って噴射ノズル19の噴射口から噴出し、所定温度に制御された基材17の表面に衝突させる。
【0033】
この際、基材表面の温度は樹脂材が硬化する温度以下に制御されているので硬化が完全には達成されていない軟らかい状態であるために、噴射口から噴射された脆性材料微粒子は、基材表面に突き刺さり基材表面に下地層が容易に形成される。
【0034】
この工程を経た後、噴射ノズル19から再び脆性材料微粒子を下地層に向けて高速で噴射させることにより、次には脆性材料微粒子が下地層に衝突して変形あるいは破砕を起こし、変形した活性な粒子や活性な表面を持つ破砕断片粒子が再接合することにより下地層から成長するようにして脆性材料の構造物が形成される。上記に記した樹脂基材への脆性材料構造物の作製方法では、下地層形成工程から脆性材料構造物の形成工程までを連続的に行った例であるが、基本的に、下地層を形成した樹脂基材が十分に冷えてから、形成工程を行うといった断続的製法にても樹脂基材上への脆性材料構造物の形成は可能である。
【0035】
この実施の態様に示した熱硬化性樹脂材料としては、アクリル酸エステル系樹脂、アルキド樹脂、アリル樹脂、アミノ樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂,ユリア樹脂,フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等が使用される。下地層の材質、脆性材料構造物の材質は前述した実施の態様と同じものが適用できる。
【0036】
微粒子ビーム堆積法を用いてプラスチック材料上へ実際に構造物形成を試みた例について以下に説明する。
(参考例)参考例では、プラスチック基板上に微粒子ビーム堆積法にて純度99%以上のサブミクロン粒径のフェライト微粒子を吹き付けて構造物形成を試みた例である。基材としてABS、ポリイミド、エポキシ樹脂ARALDITE XD911(商標)を用いた。構造物形成装置は図3に準じるようなもので基板の加熱は行わない。噴射管である微粒子を噴射するノズルは17mm・0.4mmの開口を持ち、ここからフェライト微粒子を窒素ガスに混合させたエアロゾルを7L/minの流量で吹き付けた。また構造物形成を行うチャンバーは真空ポンプにて1kPa以下に調整した。面積17mm・5mmで形成を行い、時間は10分とした。表1に構造物の形成の有無と形成された場合の膜厚を示す。膜厚の測定は日本真空技術株式会社製触針式表面形状測定器Dektak3030を用いた。ABS、ポリイミドでは成膜されたがエポキシ樹脂では成膜されず表面にコンマ数ミクロンm程度の凹凸の削れが見られた。
【0037】
【表1】

【0038】
(実施例1)
次にABS基板上に粘着材を用いて下地層を形成し、この上に構造物の形成を行った例について説明する。エポキシ樹脂基板に厚さ25μmのアクリル系粘着材層を転写法によりコーティングし、その粘着材層の上に微粒子ビーム堆積法にて参考例と同様の成膜条件で30分間構造物形成を行った。この結果下地層の上に20μmの構造物の膜が形成された。参考例の場合と比較して粘着層を介することにより構造物形成がなされたことがわかる。
【0039】
(実施例2)
次に熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂ARALDITE XD911(商標)を半硬化させ、この上に構造物の形成を行った例について説明する。
【0040】
まずABS基材上に未硬化のエポキシ樹脂を流し込み表面をフラットにした上に、フェライトをエタノールに分散させたスラリーを滴下して、室温にて乾燥させて基板上に微粒子の付着層を形成させた後、樹脂の硬化温度である120℃1時間の硬化処理を行い、付着層を下地層としてABS基板上に固定した。
【0041】
こののち基板に超音波洗浄を施して、固定化されなかった微粒子を除去した。次に参考例と同様の方法で微粒子ビーム堆積法にて構造物形成を行った。この結果、膜厚が1μm程度の薄膜であったが、参考例で見られたような基板の削れは見られず、構造物が形成されることがわかった。
【0042】
実施例1及び実施例2で成膜したフェライト構造物のX線回折を行なった結果、いずれも原料のフェライトと同じ位置に特性ピークが検出され、フェライト構造物が形成されていることが定性的に分かった。
【0043】
(実施例3)成膜速度の流量依存性、成膜時間依存性
厚さ0.2mmの両面粘着テープの粘着面片面に対してヘリウムをキャリアガスとして、微粒子ビーム堆積法にてフェライト粒子を原料として参考例と同様に構造物形成を行った。ヘリウムガスの流量を変えた場合30分間成膜した場合の膜厚を表2に示す。表1の樹脂基板に直接成膜した場合と比べて成膜が容易であることが分かる。また、ヘリウムガスの流量が7リットル毎分の場合における成膜厚さの変化を表3に示す。樹脂基板と異なり、成膜時間と共に膜厚が増加しているのが分かる。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
(実施例4)一部に成膜面がある場合
図4に粘着面の一部に成膜面がある場合の例を示す。例えば両面粘着テープの片面に図4のようにフェライト粒子を用いて微粒子ビーム堆積法にて一部のみ成膜して、成膜されていない粘着面により、筐体の内側などに貼り付けて、電磁波吸収対策を行う。
【0047】
すなわち、図4において30は粘着材料の表面であり、このほぼ中央にフェライトを成膜した領域31が形成されている。あるいは片面粘着テープの粘着面に図4のように一部のみ成膜して、成膜面をICパッケージ、ICチップ、フレキシブル配線基板などに貼り付け、電磁吸収対策を行う。
【0048】
両面粘着テープ、片面粘着テープいずれも成膜は図4のように適切な大きさに切断した粘着テープ一枚ごとに成膜するか、あるいは図5のように大きな粘着面の一部に連続的に成膜した後適切な大きさに切断してもよい。あるいは図6のように連続的にrole to role式で連続的に成膜して、適切な大きさに切断してもよい。
【0049】
すなわち、図5において40は接着材の表面を表し、境界線42によって図示のように区画されている。その各々の区画にフェライトの微粒子を成膜した領域が形成されている。境界線42に沿ってこの場合には9個の粘着板が形成される。また、図6は上記のrole to role方式を示すもので、一対のローラ50a、50bは軸54a、54bを有し一方の軸50bは駆動軸とされ駆動制御部により駆動制御される。
【0050】
これらローラには、粘着テープ54が巻回されており、上方のカッター52によりこのテープの長さ方向に所定間隔で形成された図5で示すような粘着テープを切断する。駆動制御器により一定間隔で駆動、停止を繰り返し、結局、図4で示すような粘着テープを形成する。また、カッター52の替わりにノズルとした場合はテープ54上に連続的に所定の幅で粘着領域を形成するか、あるいは前述したように一定間隔で成膜領域を形成する。
【0051】
(実施例5)粘着スプレーによる場合
粘着スプレーを用いて粘着剤を図7のような筐体(樹脂製)の内面全てに噴射塗布すると、筐体の隅の曲面部分にも隈なく粘着剤が塗布でき、フェライト粒子を微粒子ビーム堆積法にて成膜すると、粘着剤が塗布されてないと成膜しにくい隅の曲面部分にも隈なくフェライトが成膜できる。
【0052】
図7は熱可塑性樹脂で成る筐体60を示し、その上方にスプレーガン62が設けられており、これにより粘着層を形成したのち、この底面及び内周面全体にフェライトの微粒子を成膜するものである。
【0053】
これは例えばビデオカメラや携帯電話のような電子機器の外包ケースを簡略化して表すものであり、これらは外部からの電磁波を吸収する働きをするものである。特に図7の方式を用いれば曲面60aにもスプレーガン62の操作により簡単に洩れなく粘着材の膜を形成することができる。
【0054】
これらに対して例えばフェライトの微粒子を噴出させるノズルガンを用いて、これを適宜、X、Y、Z方向に操作することにより、これら底面及び内周面に隈なくフェライトで成る脆性材料層を形成して内部の各部品を外部電磁波から保護するものである。
【0055】
(実施例6)電波吸収効果
図8にNi-Zn系フェライトを用いた電磁波吸収効果の一例を示す。測定法は以下の通りである。ネットワークアナライザーを用い、マイクロストリップラインに信号を入射し、S11特性(反射特性)とS21特性(伝送特性)を測定し、その際のサンプルの有無における、信号特性の測定結果からサンプル(例えば図4の形状)の伝送信号フィルタ(遮蔽)効果について評価する。
【0056】
なお、マイクロストリップラインの特性インピーダンスは約50Ωとなるように設計してある。Loss(損失)量は、入射信号エネルギー量からS11量、S21量を差し引いた量として算出する。図8においてヘリウムの流量を3L/min、5L/min、7L/minと変えてフェライトをそれぞれ30分間粘着テープに成膜したものによる電磁波吸収効果は3L/minにおいては粘着テープのみと差が無いが、5L/min、7L/minにおいては差があることが分かる。
【0057】
図9にヘリウム流量7L/minにおいて成膜時間を10分、30分、60分と変えてNi-Zn系フェライトを粘着テープに成膜したものによる電磁波吸収効果を示す。いずれも粘着テープのみに比べて電磁波吸収効果があるが、成膜時間を変えて膜厚を厚くしても差が無いことが分かる。
【0058】
電磁吸収効果はこのNi-Zn系フェライトに限定されるものではなく、吸収しようとする電波の周波数帯に応じた吸収特性を持つ組成の磁性粒子を用いればあらゆる周波数帯の電波吸収に対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
フェライトのような脆性材料でも樹脂基材の上に安定に複合させるのに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態による脆性材料と樹脂との複合構造物の断面図である。
【図2】本発明の他実施の形態による脆性材料と樹脂との複合構造物の断面図である。
【図3】本発明による複合構造物を作製するための装置の概略配管系統図である。
【図4】本発明による複合構造物の第1実施例の平面図である。
【図5】本発明による複合構造物の第2実施例の平面図である。
【図6】第1実施例の複合構造物を製造するための装置の正面図である。
【図7】(A)は本発明による複合構造物の第3実施例を作製する斜視図、(B)はその平面図である。
【図8】本発明の複合構造物作製にあたって、ヘリウムの流量を変えた場合の電波吸収効果を示す周波数−損失(Loss)の特性を示すグラフである。
【図9】本発明の複合構造物作製にあたって、ヘリウム流量を一定にして成膜時間を変えた場合の電磁波吸収効果を示す周波数−損失(Loss)の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1・・・樹脂基板、2・・・粘着材、3・・・脆性材料層、8・・・構造物形成室、14・・・原料層、15・・・キャリアガス貯蔵層、17・・・樹脂基材、18・・・噴射管、19・・・噴射ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材表面に密着する粘着材料からなる下地層が形成され、この下地層の上全部または一部に多結晶の脆性材料層が形成されていることを特徴とする樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項2】
前記粘着材料からなる下地層は前記樹脂基材上に塗布により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項3】
前記塗布の方法は、グラビアコート、はけ塗り、スプレー塗布、転写法のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項4】
前記粘着材料は、アクリル系粘着材、ゴム系粘着材、シリコーン系粘着材またはこれらの類似物のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかにに記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項5】
前記樹脂基材は、ABS、アセタール樹脂、メタクリル樹脂、酢酸セルロース、塩素化ポリエーテル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、アイオノマー、メチルペンテンポリマー、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルホン、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂またはこれらの類似物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項6】
前記脆性材料は、Al23,NiO,TiO2,CuO,ZnO,ZrO2,SnO2,MgO、フェライトまたはその類似酸化物、Fe、Cuまたはその類似金属、WC,ダイヤモンド,SiC,B4Cまたはそれらのいずれかの類似炭化物,AlN,Si34またはそのいずれかの類似窒化物,Ca2F,ZrFまたはそのいずれかの類似フッ化物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項7】
前記下地層は前記塗布後硬化処理を行わないことを特徴とする請求項2または3に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項8】
前記下地層は硬化性の低分子量化合物塗布後、適度な粘着性を示すために硬化処理を行うことを特徴とする請求項2または3に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項9】
前記硬化処理は熱硬化処理、UV硬化処理、電子線硬化処理のいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項10】
前記下地層の厚みは1μm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項11】
前記脆性材料層を構成する粒子の衝突により前記下地層を構成する粘着材料上の脆性材料を破砕又は変形せしめて新生面を生じることにより、前記脆性材料層と前記下地層とが接合されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項12】
前記脆性材料層の一部が前記下地層に食い込んでアンカー部を形成していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項13】
第1層目の脆性材料の上に更に粘着層を塗布して、その上にさらに第2層目の脆性材料を形成する特徴とする請求項1に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項14】
第2層目以降同様に粘着層と脆性材料層とを交互に積み重ねて、n層(n≧2)の多層構造を特徴とする請求項13に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物。
【請求項15】
樹脂基材表面に密着する粘着材表面に、この粘着材よりも高硬度の脆性材料微粒子を食い込ませて下地層を形成し、次いでこの下地層に前記脆性材料微粒子を高速で衝突させ、この衝突の衝撃によって前記脆性材料微粒子を変形または破砕し、この変形または破砕にて生じた活性な新生面を介して微粒子同士を再結合せしめることで、前記下地層の上に多結晶の脆性材料層を形成することを特徴とする樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項16】
前記樹脂基材は、ABS、アセタール樹脂、メタクリル樹脂、酢酸セルロース、塩素化ポリエーテル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、アイオノマー、メチルペンテンポリマー、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルホン、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂またはこれらの類似物のいずれかであることを特徴とする請求項15に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項17】
前記脆性材料は、Al23,NiO,TiO2,CuO,ZnO,ZrO2,SnO2,MgO、フェライトまたはその類似酸化物、Fe、Cuまたはその類似金属、WC,ダイヤモンド,SiC,B4Cまたはそれらのいずれかの類似炭化物,AlN,Si34またはそのいずれかの類似窒化物,Ca2F,ZrFまたはそのいずれかの類似フッ化物のいずれかであることを特徴とする請求項15に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項18】
前記脆性材料微粒子を前記粘着材表面へと搬送するキャリアガスは、乾燥空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、酸素、水素、酸素分圧を制御した混合ガスのいづれかであることを特徴とする請求項15に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項19】
前記下地層の形成は、脆性材料の硬質微粒子の衝突による衝撃によって行い、前記基材に向けた硬質粒子の衝突速度は50m/s以下とすることを特徴とする請求項15に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項20】
前記粘着材はアクリル系、ゴム系、シリコーン系の粘着性樹脂またはこれらの類似物からなるものとし、この粘着材のガラス転移温度(Tg)は常温以下であることを特徴とする請求項15または16に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項21】
前記脆性材料層の形成工程の温度を前記粘着材のガラス転移温度(Tg)以上とすることを特徴とする請求項17に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項22】
第1層目の脆性材料の上に更に粘着層を塗布して、その上にさらに第2層目の脆性材料を形成する特徴とする請求項15に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項23】
第2層目以降同様に粘着層と脆性材料層とを交互に積み重ねて、n層(n≧2)の多層構造を特徴とする請求項19に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項24】
粘着層は樹脂基材の片面又は両面に塗布することを特徴とする請求項15に記載の樹脂と脆性材料との複合構造物の作製方法。
【請求項25】
樹脂基材表面に密着する粘着材料からなる下地層が形成され、この下地層の上全部または一部に多結晶の脆性材料層が形成されている樹脂と脆性材料との複合構造物を筐体の内周面及び/または上下内壁面に取り付けていることを特徴とする電子機器。
【請求項26】
前記脆性材料は磁性材であることを特徴とする請求項25に記載の電子機器。
【請求項27】
前記磁性材料はフェライトであることを特徴とする請求項26に記載の電子機器。
【請求項28】
内部の電子部品に、樹脂基材表面に密着する粘着材料からなる下地層が形成され、この下地層の上全部または一部に多結晶の脆性材料層が形成されている樹脂と脆性材料との複合構造物を取り付けていることを特徴とする電子機器。
【請求項29】
前記脆性材料は磁性材であることを特徴とする請求項28に記載の電子機器。
【請求項30】
前記磁性材料はフェライトであることを特徴とする請求項29に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−175375(P2006−175375A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372127(P2004−372127)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム(ナノ加工・計測技術)ナノレベル電子セラミックス材料低温成形・集積化技術プロジェクト」産業活力特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】