説明

樹脂フィルムの製造方法及び該樹脂フィルムを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】従って本発明の目的は、水分の封止性が高い樹脂フィルムの製造法の提供、及び該方法によって製造された樹脂フィルムを用いた長寿命で耐久性の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
【解決手段】樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、大気圧若しくはその近傍の圧力下で放電プラズマ処理を行うことで金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜を形成し、前記形成した金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜上に、不活性ガス及びフッ素化炭化水素ガスからなる混合ガスに、大気圧若しくはその近傍の圧力下放電プラズマ処理を行うことで膜を形成することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分の封止性が高い表示装置用或いは電子デバイス用の基板に関し、その基板を用いた長寿命な有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置などの表示装置用の基板として、或いはCCDやCMOSセンサーのような電子デバイス用の基板として、熱安定性や透明性の高さからガラスが用いられてきた。
【0003】
近年、携帯電話等の携帯情報端末機器の普及に伴い、これら端末機器に設けられる表示装置や電子光学デバイスにおいては、割れやすく重いガラスよりも、可撓性が高く割れにくい、軽いプラスチック基板や樹脂フィルムの採用が検討されている。
【0004】
しかしながら、プラスチック基板、樹脂フィルム等は透湿性を有しているため、特に有機エレクトロルミネッセンス表示装置のように、水分の存在で破壊され、性能が低下してしまう用途には適用が難しく、如何にして水分を封止するかが問題になっていた。
【0005】
この問題を解決すべくWO0036665においては、アクリレートを含むモノマーを蒸着し、重合し、シリカを蒸着し、更にアクリレートを含むモノマーを蒸着して重合することにより封止層としている。水分の透過性の低いシリカをアクリル系モノマーと共に用い複合的な膜を形成し、水分の封止性の高い膜を得ようとしているが、具体的な、素材或いは実験条件の開示がなく、検討の結果では、取扱中にポリマー膜と無機物膜が剥がれやすく、剥がれた部分から水分の透過を許してしまうという問題があることが判り、膜の剥離等がなく、水分の透過性の低い、表示装置用或いは電子デバイス用の基板として用いることのできる材料を得ようという試みは完全に成功しているとは言い難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、水分の封止性が高い樹脂フィルムの製造法の提供、及び該方法によって製造された樹脂フィルムを用いた長寿命で耐久性の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は以下の手段によって達成される。
【0008】
1.樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、大気圧若しくはその近傍の圧力下で放電プラズマ処理を行うことで金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜を形成し、前記形成した金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜上に、不活性ガス及びフッ素化炭化水素ガスからなる混合ガスに、大気圧若しくはその近傍の圧力下放電プラズマ処理を行うことで膜を形成することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
【0009】
2.前記フッ素化炭化水素ガスがCHFガス、CFガス、CFガス、C11Fガス、C13Fガスから選ばれる少なくとも一種類のガスであることを特徴とする前記1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0010】
3.前記混合ガス中の不活性ガスが50圧力%以上の不活性ガスからなることを特徴とする前記1または2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0011】
4.前記金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜が有機珪素化合物を原料として製造されることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0012】
5.前記金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜が酸化珪素からなる膜であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0013】
6.前記1〜5のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法によって製造された樹脂フィルムを有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0014】
水分の封止性が高く膜の剥離、ひび割れ等がなく、表示装置用或いは電子デバイス用の基板として有用性の高い基板及びそれを用いた長寿命な素子を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】表面処理装置の概略構成図。
【図2】プラズマ放電処理室の1例を示す概略構成図。
【図3】ロール電極の一例を示す図。
【図4】固定電極の概略斜視図。
【図5】角型の固定電極をロール電極の周りに配設したプラズマ放電処理室の概略構成図。
【図6】プラズマ製膜装置の概略構成図。
【図7】別のプラズマ製膜装置の概略構成図。
【図8】本発明のEL表示装置の一例を示す断面図。
【図9】有機EL素子を封止した有機EL表示装置の別の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明においては、基材フィルムの少なくとも一方の面を、大気圧若しくはその近傍の圧力下、不活性ガスおよび炭化水素ガスまたはフッ素化炭化水素ガスからなる混合ガスの存在下で放電プラズマ処理することにより、基材フィルムの表面に炭化水素またはフッ素化炭化水素分子が基材表面と結合した薄い層を形成することによって表面が疎水化することで基材フィルムの防湿性を高めるものと考えられる。
【0018】
真空プラズマ法と異なり、大気圧または大気圧近傍におけるプラズマ処理法を用いることにより、緻密な疎水性膜が基材フィルム表面に形成され、基材フィルムの水分の透過性を効率よく低下させることができるので、電子ディスプレイ、電子光学素子、タッチパネル、太陽電池等の電子デバイス等の基板として用いた場合の水の封止性に優れた基板が得られる。
【0019】
用いる基材フィルムとしては、樹脂フィルム、また、後述するがこれら樹脂フィルム上に金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を有する基材フィルムを用いることが封止性を高める上で好ましい。
【0020】
本発明においては、大気圧ないしは大気圧の近傍において、不活性ガスの50圧力%以上をアルゴン(Ar)ガスとした雰囲気下でプラズマ放電処理する。他の不活性ガスとして、ネオン(Ne)ガス、ヘリウム(He)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどがあるが、各種不活性ガスも不活性ガスの50圧力%未満で用いることが出来るが、アルゴンガスを主成分として用い、アルゴンガスを60圧力%以上とすることが、基材フィルム表面の効率的な改質効果を得るために好ましい。
【0021】
プラズマ放電処理における処理効果は、アルゴンガスが、ヘリウムガスより原子量が大きく、一原子気体としての大きさも大きく、処理の際、樹脂フィルム等の基材の表面にアルゴンが叩きつけられた時エッチングが起こり表面に凹凸を生じ、ヘリウムガスでは見られない処理として有効な効果がアルゴンガスにはある。また、他の不活性ガスに比してアルゴンガスは安価であり、しかも、格段の改質効果を得ることが出来る。他の不活性ガス、例えば、クリプトンガスやキセノンガスは、これらを使用してプラズマを発生させるためには、高出力、高周波数が必要になり表面処理が強すぎ、基材フィルムにダメージを与えてしまう。
【0022】
アルゴンガス以外の不活性ガスとしては上記のガスの中でもヘリウムが好ましく、アルゴンガス以外の不活性ガスの40圧力%未満をヘリウムガスとすることが好ましい。
【0023】
本発明のプラズマ放電処理は、基材フィルム表面を疎水性化するために、上記不活性ガスと共に、反応性ガスとして炭化水素またはフッ素化炭化水素ガスを用いることが特徴である。反応性ガスの不活性ガスに対する圧力割合は0.01〜0.30圧力%とするのがよく、好ましくは0.02〜0.2圧力%である。また、本発明において大気圧或いは大気圧近傍とは、大気圧に近い圧力をさし、20kPa〜110kPaの圧力下、好ましくは93kPa〜104kPaの圧力下である。
【0024】
本発明に用いられる反応性の炭化水素ガスとしては、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス、ペンタンガス、ヘキサンガス、シクロヘキサン等を挙げることが出来る。炭素原子数の4以上のものは、処理温度を上げることによってガス状態で処理が出来る。またフッ素化炭化水素ガスとしては、CHFガス、C2HFガス、CFガス、CFガス、C11Fガス、C13Fガス等を挙げることが出来る。いずれも有用であるが、特にフッ素化炭化水素ガスが好ましい。また炭化水素ガスとフッ素化炭化水素ガスを混合して用いてもよい。
【0025】
次に、本発明における基材フィルムを反応性ガスの炭化水素ガスまたはフッ素化炭化水素ガスを含む不活性ガスの50圧力%以上をアルゴンガスとした処理ガスで、プラズマ放電処理する方法について述べる。本発明の処理方法は、特開2000−72903号にほぼ準じている。
【0026】
図1は表面処理装置の概略構成図であり、本発明の処理を行う装置の1例を示すが、これに制限されない。
【0027】
大気圧もしくはその近傍の圧力となっている処理室2に不活性ガスの50圧力%以上をアルゴンガスとした不活性ガスと、他の反応性ガスや不活性ガス等を混合して処理ガスを形成し、導入口から該混合ガスを導入し、処理室2内に充満させることによって、一対の電極6と7の間も処理ガスの雰囲気とする。この電極間において、移送している(搬送して来る)基材フィルム5をプラズマ放電処理するが、その際、基材フィルム5が同伴して来る空気によって表面処理の効率が低下するのを防ぐために、これを遮断する必要があり、本表面処理装置1には、表面処理を施す処理室2と、支持体5の搬送方向上流側に処理室2に隣接した予備室3aと、必要に応じて支持体5の搬送方向下流側に処理室2に隣接した予備室3bが設けられている。処理室に隣接する予備室3aまたは3bに例えば図示してないガス導入口のような手段から処理ガスの少なくとも1成分を導入することによって、予備室3aが導入されたガスで満たされ、処理室2への搬送されて来る支持体5が同伴して持ち込む空気を遮断することが出来る。予備室3aに導入するガスは処理ガスと全く同一組成のものとするのが好ましく、プラズマ放電処理がより安定して得られる。ガスの導入は、処理室からガスを隙間を通して流れ出させる方法でもよい。予備室3aまたは3bのうち、同伴空気を遮断するという目的からは、上流側の予備室3aの方が効果的である。従って、下流側の予備室3bは必要に応じて設ければよい。各予備室3a、3bと室外及び処理室2との間には、それぞれ間仕切り手段(例えばニップロールのような)9が設けられている。この間仕切り手段9や図示しない搬送手段により、基材フィルム5が、処理室2内の一対の電極6と7の隙間を連続搬送される。一対の電極6及び7は、平板電極で、導電性の金属(例えば、ステンレス、アルミニウム、銅など)の電極部材6A及び7Aと、電極部材6A、7Aの一部を被覆した誘電体(例えば、ゴム、ガラス、セラミックなど)6B及び7Bとから構成されている(被覆は全部でも一部でもよい)。また、図1では一対の電極6及び7のように平板電極を用いてあるが、一方もしくは双方の電極を円筒電極もしくは一方をロール状電極としてもよい。この一対の電極6及び7のうち、一方の電極6には高周波電源Eが接続され、他方の電極7にはアースGが接地されており、一対の電極6及び7間に放電を生じせしめるように構成している。なお、8は基材フィルムを表面処理装置1へ、または表面処理装置1から搬送するガイドロールである。
【0028】
本発明において、処理ガスを処理室2内に導入するに先立ち、予め不活性ガスと反応性ガスとを混合した処理ガスを使用することが好ましいが、各ガスを独立して導入しても、処理室2内の一対の電極6及び7の間の雰囲気が、上述した処理ガスの成分になっていればよい。
【0029】
本発明のプラズマ放電処理の放電状態は、真空下で起こるグロー放電に似た放電状態となっているが、基材フィルムが同伴して来る空気を遮断することによって、本発明の表面処理をするさいに大気圧あるいはその近傍においてより適したプラズマ放電処理の放電状態となる。
【0030】
本発明のプラズマ放電処理の放電強度は、アーク放電も起こさず安定した効果的な処理を行うには、50W・min/m以上500W・min/m未満が好ましい。この範囲でプラズマ放電処理を行うことにより、処理の均一性を有し、ダメージもなく仕上げることが出来、しかも優れた接着性を得ることが出来る。
【0031】
また、本発明のプラズマ放電処理をパルス化された電界中で行うことにより、より効果的に疎水性化処理を行うことが出来、パルス化された電界中でのプラズマ放電処理は好ましい方法である。
【0032】
処理すべき基材フィルムを予め加熱した状態でプラズマ放電処理を行うと、短時間で処理を行うことが出来、また基材フィルムの黄変、破壊、ひび割れ、極表面の裂傷等のダメージを大幅に減少することが出来る。余熱温度は基材フィルム例えば樹脂フィルムのガラス転移温度(絶対温度)の±35%範囲内がよく、±20%が好ましい。搬送して来る基材フィルムが同伴して来る空気を、上記方法及び表面処理装置を用いることによって遮断し、処理室内の酸素濃度を極端に低めることが出来る。本発明の表面処理を基材フィルム表面に効果的に行うためには、処理室内の酸素濃度を1000ppm以下とすることがよく、750ppm以下が好ましく、特に600ppm以下、更には200ppm以下とすることが好ましい。
【0033】
本発明の基板を作製する為の基材として用いられる樹脂フィルムとしては、特に限定はなく、樹脂として具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン類、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類等をあげることが出来る。
【0034】
これらのうち特に好ましい基材フィルムはポリエステルフィルム支持体である。ポリエステルを主成分とするポリエステルフィルムは、上記樹脂フィルム以上に機械的強度があり、また寸法安定性にも優れているため、ハロゲン化銀写真感光材料用、その他の支持体として一般的に使用されている。ポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、さらに他の共重合成分が共重合されていても良いし、他のポリエステル、またはポリエステル以外のポリマーが混合されていてもよい。
【0035】
本発明に有用なポリエステルフィルムは、構成成分のジカルボン酸とジオールとのエステル化及び重縮合により得られたポリエステルを溶融したシートを2軸延伸製膜法により得られる。
【0036】
構成成分の一つのジカルボン酸としては、透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸が、またもう一つの構成成分のジオールとしては、上記同様な点からエチレングリコールと1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。これらジカルボン酸とジオールを適宜組み合わせてエステル化及び重縮合したポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレート(以降、PETと表すこともある)、ポリエチレンナフタレート、特にポリエチレン−2,6−ナフタレート(以降、PENと表すこともある)、テレフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート/2,6−ナフタレートのコポリエステル、PETとPENの分子量の異なるものの混合物を溶融時エステル交換したコポリエステル、テレフタル酸とシクロヘキサンジメタノールとエチレングリコールとのコポリエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸とシクロヘキサンジメタノールとエチレングリコールとのコポリエステル、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールのジオールとテレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸のジカルボン酸との混合ポリエステルが好ましい。これらのうち、全ポリエステルに対してエチレンテレフタレートユニット及び/またはエチレン−2,6−ナフタレートユニットが70質量%以上含有されていると、透明性、機械的強度、寸法安定性等に優れたコポリエステルフィルムが得られ好ましい。
【0037】
本発明において、基材となる樹脂フィルムは、ガラス転移点が70〜200℃、500nmにおける光透過率が60%以上、厚みが50μm以上、特に60〜200μmであり、またヤング率が1.5GPa以上であることが好ましい。
【0038】
本発明においては、これらの樹脂フィルム(基材)表面に直接、大気圧若しくはその近傍の圧力下、不活性ガスおよび炭化水素ガスまたはフッ素化炭化水素ガスからなる混合ガスの存在下で放電プラズマ処理することによって、炭化水素またはフッ素化炭化水素分子が表面に化学的に結合するためと考えられるが、未処理の樹脂フィルムに比べ疎水性の表面を形成することができる。
【0039】
本発明のプラズマ放電処理された樹脂フィルムの表面における疎水性の度合いは、ヨウ化メチレンの接触角、水の接触角による測定によって知ることが出来る。ヨウ化メチレンによる接触角の測定は、支持体の表面の非極性成分の大小を示すことが出来、接触角が大きければ非極性成分が大きくなる。また水による接触角は支持体表面の水素結合成分の大小を示すことが出来、接触角が大きければ水素結合性成分が低下することを示す。因みに、極性成分はニトロメタンによる接触角の測定によって知ることが出来る。例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合には、通常、非極性成分としてのヨウ化メチレンの接触角は20°弱であり、また水素結合成分としての水の接触角は60〜65°である。本発明の処理によって、ヨウ化メチレン及び水のそれぞれの接触角が未処理のものより大きくすることがよく、好ましくは、ヨウ化メチレンの接触角は20°以上、より好ましくは30°以上である。また水の接触角は65°以上が好ましく、より好ましくは70°以上である。
【0040】
更に、表面の非極性成分と水素結合成分は下記数式に示すYoung−Fowbesの式で表される。
【0041】
【数1】

【0042】
ここで、
γd:支持体の表面エネルギーの非極性成分
γh:支持体の表面エネルギーの水素結合成分
γ1:ヨウ化メチレンの表面エネルギー、51mN/m(20℃)
γ2:水(HO)の表面エネルギー、72mN/m(20℃)
γd2:水の表面エネルギーの非極性成分
γh2:水の表面エネルギーの水素結合成分
θ1:ヨウ化メチレンと支持体表面の接触角(測定値)
θ2:水と支持体表面の接触角(測定値)
である。
【0043】
上記数式により求められる支持体の表面エネルギーが疎水性化処理することによって、樹脂フィルムの表面エネルギーの非極性成分及び水素結合成分をともに2mN/m以上減少させることが好ましい。
【0044】
疎水性化処理効果の他の尺度の一つは、TOF−SIMS(飛行型2次イオンマススペクトル)による支持体表面のスペクトルピークを処理によって20%以上減少させることが好ましい。また他のもう一つの尺度は、ESCAによる表面原子の割合を測定し、表面処理により、炭素原子の割合を1%以上増加させることが好ましい。
【0045】
このように、本発明のプラズマ放電処理方法で疎水性化した表面を有する樹脂フィルムは、その表面の疎水性によりフィルム中を透過する水分をブロックできるので、有機エレクトロルミネッセンス表示装置などの表示装置用の基板として、或いはCCDやCMOSセンサーのような電子デバイス用の基板としてこれを用い、更にやはり水分の透過性の低い基材とで有機エレクトロルミネッセンス表示素子或いはCCDやCMOSセンサーのような電子デバイスを封止することで水分等による表示装置や電子デバイス等耐水性の低い素子やデバイスの寿命、安定性を高めることができる。
【0046】
本発明において、前記樹脂フィルムにかわって、基板の水分の透過性を更に低下させ、有機エレクトロルミネッセンス表示装置や電子デバイス等の基板として用いた場合に、安定で、水分の封止性に優れた基板を得るためには、前記樹脂フィルムそのものに前記表面処理を施す代わりに、前記樹脂フィルム上に水分の透過性の低い金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を有する複合フィルムを基材フィルムとして用い、これに前記炭化水素或いはフッ素化炭化水素を用いた表面処理により疎水化処理を行うことが好ましい。
【0047】
本発明において、金属酸化物或いは窒化物を含有するとは、これを主成分として有することであり、即ち、全構成成分中90%以上を金属酸化物或いは窒化物が占めるということが好ましい。
【0048】
膜中に含有される金属酸化物或いは窒化物としては酸化珪素、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、ITO(酸化インジウム錫)、アルミナ等の金属酸化物、窒化珪素等の金属窒化物、酸窒化珪素、酸窒化チタン等の金属酸窒化物等があげられる。
【0049】
金属酸化物或いは窒化物を含有する膜は、例えば、ゾルゲル法といわれる溶液を塗設する方法、又、真空蒸着、スパッタリング、CVD法(化学蒸着)等いかなる方法で形成してもよいが、前記、表面処理と同様に、大気圧或いは大気圧近傍でのプラズマ処理による方法、即ち有機金属化合物を反応性ガスとして用い、対向する電極間でプラズマ状態とした反応性ガスに基材フィルムを曝すことで基材フィルム上に膜形成を行う大気圧プラズマ法が、緻密な膜を形成できることと、反応性ガスの選択、更にプラズマ発生条件によって、膜の物性等を制御できるため好ましい。
【0050】
酸化珪素は透明性が高いものの、ガスバリア性が少し低めでやや水分を通すことから窒素原子を含んだ方が好ましい。但し、窒素の比率を上昇させるとガスバリア性は増強されるが、逆に光の透過率が低下するため、基板に光透過性が必要な場合、例えば、酸窒化珪素、又、酸窒化チタンの場合、SiOxNy、TiOxNyという組成で表すとx、yを以下の式を満足するような値とし光透過性を余り低下させない領域で用いることが好ましい。
【0051】
0.4≦x/(x+y)≦0.8
例えばx=0である場合、すなわちSiNでは殆ど光を通さない。酸素原子、窒素原子の比率はXPS(VGサイエンティフィック社製ESCACAB−200R)を用いて後述する炭素含有率と同様に測定できる。
【0052】
従って、本発明の表面処理法を用いてこれらの金属酸化物或いは窒化物等の表面を疎水化することにより。前記樹脂フィルムに適用する場合と同様に透明性の高い金属酸化物或いは窒化物等の膜の水分透過性を更に低下させることができる。
【0053】
本発明において、金属酸化物或いは窒化物を含有する膜の主成分としては水分の透過性が少ないため特に酸化珪素、及び酸化スズが好ましい。
【0054】
これらの金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を基材フィルム上に大気圧プラズマ法により形成するには、大気圧若しくはその近傍の圧力下、不活性ガスおよび金属化合物ガス、例えば有機金属化合物、金属水素化合物等を含有する反応性ガスを用いて基材フィルムを処理する。
【0055】
反応性ガスとして用いる有機金属化合物、金属水素化合物等の化合物は常温常圧で、気体、液体、固体いずれの状態であっても構わないが、気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール、エタノール、n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することができる。
【0056】
有機金属化合物としては、上記酸化珪素膜を形成するためには腐食性、有害ガスの発生がなく、工程上の汚れなども少ないことから、例えば、下記一般式(1)〜(5)で表される化合物が好ましい。
【0057】
【化1】

【0058】
式中、R21からR26は、水素原子または1価の基を表す。n1は自然数を表す。
【0059】
一般式(1)で表される化合物の例としては、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン等が挙げられる。
【0060】
【化2】

【0061】
式中、R31およびR32は、水素原子または1価の基を表す。n2は自然数を表す。
【0062】
一般式(2)で表される化合物の例としては、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0063】
一般式(3)
(R41Si(R424−n
式中、R41およびR42は、水素原子または1価の基を表す。nは、0から3までの整数を表す。
【0064】
一般式(3)で表される、有機珪素化合物の例としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、i−ブチルトリメトキシシラン、n−へキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0065】
【化3】

【0066】
式中、Aは、単結合あるいは2価の基を表す。R51〜R55は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、芳香族複素環基、アミノ基またはシリル基を表す。R51およびR52、R54およびR55は縮合して環を形成していてもよい。
【0067】
一般式(4)において、Aとして好ましくは単結合あるいは、炭素数1〜3の2価の基である。R54およびR55は縮合して環を形成していてもよく、形成される環としては例えばピロール環、ピペリジン環、ピペラジン環、イミダゾール環等を挙げることができる。R51〜R53は好ましくは水素原子、メチル基またはアミノ基である。
【0068】
一般式(4)で表される化合物の例としては、アミノメチルトリメチルシラン、ジメチルジメチルアミノシラン、ジメチルアミノトリメチルシラン、アリルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノジメチルシラン、1−トリメチルシリルピロール、1−トリメチルシリルピロリジン、イソプロピルアミノメチルトリメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、アニリノトリメチルシラン、2−ピペリジノエチルトリメチルシラン、3−ブチルアミノプロピルトリメチルシラン、3−ピペリジノプロピルトリメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、1−トリメチルシリルイミダゾール、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ブチルアミノ)ジメチルシラン、2−アミノエチルアミノメチルジメチルフェニルシラン、3−(4−メチルピペラジノプロピル)トリメチルシラン、ジメチルフェニルピペラジノメチルシラン、ブチルジメチル−3−ピペラジノプロピルシラン、ジアニリノジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルシラン等があげられる。
【0069】
一般式(4)において、特に好ましい化合物は一般式(5)で表されるものである。
【0070】
【化4】

【0071】
式中、R61からR66はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基または芳香族複素環基を表す。
【0072】
一般式(5)においてR61からR66は気化の容易性の観点から好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基であり、より好ましくはR61からR63のうちすくなくとも2つおよびR64からR66のうち少なくとも2つがメチル基のものである。
【0073】
一般式(5)で表される化合物の例としては、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(クロロメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン等が挙げられる。
【0074】
又、酸化スズを形成するためには例えば、ジブチル錫ジアセテート等があげられる。
【0075】
又、更に酸素ガスや窒素ガスを所定割合で上記有機金属化合物と組み合わせて、酸素原子と窒素原子の少なくともいずれかと珪素或いは、錫等の金属原子を含有する膜を得ることが出来る。
【0076】
更に、膜中の炭素含有率を調整するために前記の如く混合ガス中に水素ガス等を混合してもよく、これらの反応性ガスに対して、周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等、特に、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられるが、不活性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。不活性ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、不活性ガスの割合を90.0〜99.9%として反応性ガスを供給する。
【0077】
上記のような、例えば、Si、O、N更にCを所定の割合で含有する膜を形成する為の混合ガスについて以下に具体的に例示する。
【0078】
x/(x+y)が0.80以下であって、更に炭素を0.2〜5質量%含有する酸窒化珪素(SiON)膜を、シラザンと酸素ガスの反応ガスから形成する場合について説明する。この場合、膜中のSiとNは、全てシラザン由来である。
【0079】
酸素ガスは、混合ガスのうち0.01〜5体積%が好ましく、より好ましくは0.05〜1体積%である。又、酸素とシラザンの反応効率から、シラザンに対する酸素ガスのモル比が、得たい膜の組成比(モル比)の1〜4倍になるような体積で混合することが好ましい。このようにして酸素ガスの混合ガス全体に対する割合と、シラザンに対する割合が設定される。
【0080】
又、酸素ガスを導入せず、SiN膜をシラザンから形成する場合、気化させたシラザンは混合ガス全体に対し、0.2〜1.5体積%でよい。このままであると、炭素がかなり膜中に残ってしまうので、最大でも混合ガスの2体積%以下の水素ガスを混合し炭素をとばす。
【0081】
Si源としては、上記のような有機珪素化合物だけでなく、無機珪素化合物を用いてもよい。
【0082】
又、酸素源として酸素ガス以外にオゾン、二酸化炭素、水(水蒸気)等を用いてもよいし、窒素源としてシラザンや窒素ガス以外に、アンモニア、窒素酸化物等を用いてもよい。
【0083】
本発明において、金属酸化物(例えばシリカ)或いは窒化物の膜については、ある程度の厚みがないと水分の封止性が充分でなく、厚いほど水分の阻止性に優れるがクラックが生じやすくなるため70nm〜1500nm、より好ましくは100nm〜1000nmの膜厚であることが好ましい。従ってある程度の厚みを有するものであれば塗布によって所謂ゾルゲル法等を用いて基材フィルム上に形成されていてもよく、これにより厚みのある膜を一度に形成出来るという点では効果的である。
【0084】
しかしながら、厚い膜についても大気圧プラズマ法によって形成することが膜が緻密であるため好ましく、やや厚みのある膜の場合には、プラズマ処理の回数、時間等を増やす等の方法で作製することが好ましい。
【0085】
金属酸化物(例えばシリカ)或いは窒化物の膜を基材フィルム上に形成するプラズマ製膜装置については種々の装置を用いることが可能であり、前記の処理装置を用いても構わないが、長尺状の基材フィルムに金属酸化物(例えばシリカ)或いは窒化物の膜を形成するために使用される好ましいプラズマ製膜装置の例を図2〜図7に示した。図中、符号Fは金属酸化物(例えばシリカ)或いは窒化物の膜を形成するため基材の一例としての長尺フィルムである。
【0086】
これらの放電プラズマ処理は大気圧又は大気圧近傍で行われる。大気圧近傍とは、前述のように20kPa〜110kPaの圧力を表し、更に好ましくは93kPa〜104kPaである。
【0087】
図2は、プラズマ製膜装置に備えられたプラズマ放電処理室の1例を示す概略構成図である。図2のプラズマ放電処理室10において、基材フィルムFは搬送方向(図中、時計回り)に回転するロール電極25に巻き回されながら搬送される。ロール電極25の周囲に固定されている複数の固定電極26はそれぞれ円筒から構成され、ロール電極25に対向させて設置される。
【0088】
プラズマ放電処理室10を構成する放電容器11はパイレックス(登録商標)ガラス製の処理容器が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウム又はステンレスのフレームの内面にポリイミド樹脂等を貼り付けてもよく、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。
【0089】
ロール電極25に巻き回された基材フィルムFは、ニップローラ15、15、16で押圧され、ガイドローラ24で規制されて放電容器11内部に確保された放電処理空間に搬送され、放電プラズマ処理され、次いで、ガイドローラ27を介して次工程に搬送される。本発明では、真空系ではなくほぼ大気圧に近い圧力下で放電処理により製膜できることから、このような連続工程が可能となり、高い生産性をあげることができる。
【0090】
尚、仕切板14、14は前記ニップローラ15、15、16に近接して配置され基材フィルムFに同伴する空気が放電容器11内に進入するのを抑制する。この同伴される空気は、放電容器11内の気体の全体積に対し、1体積%以下に抑えることが好ましく、0.1体積%以下に抑えることがより好ましい。前記ニップローラ15及び16により、それを達成することが可能である。
【0091】
尚、放電プラズマ処理に用いられる混合ガスは、給気口12から放電容器11に導入され、処理後のガスは排気口13から排気される。
【0092】
ロール電極25はアース電極であり、印加電極である複数の固定電極26との間で放電させ、当該電極間に前述したような反応性ガスを導入してプラズマ状態とし、前記ロール電極25に巻き回しされた長尺状基材フィルムを前記プラズマ状態の反応性ガスに曝すことによって、反応性ガス由来の膜を形成する。
【0093】
前記電極間には、高いプラズマ密度を得て製膜速度を大きくし、更に炭素含有率を所定割合内に制御するため、高周波電圧で、ある程度大きな電力を供給することが好ましい。具体的には、3kHz以上13.56MHz以下の高周波電圧を印加することが好ましく、10kHz以上であれば更に好ましく、50kHz以上であれば更に好ましく、100kHz以上であればより一層好ましい。又、電極間に供給する電力の下限値は、1W/cm以上50W/cm以下であることが好ましく、2W/cm以上であればより一層好ましい。
【0094】
尚、電極における電圧の印加面積(cm)は放電が起こる範囲の面積のことである。
【0095】
又、電極間に印加する高周波電圧は、断続的なパルス波であっても、連続したサイン波であってもよいが、製膜速度が大きくなることから、サイン波であることが好ましい。
【0096】
このような電極としては、金属母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。少なくとも固定電極26とロール電極25のいずれか一方に誘電体を被覆すること、好ましくは、両方に誘電体を被覆することである。誘電体としては、非誘電率が6〜45の無機物であることが好ましい。
【0097】
電極25、26の一方に固体誘電体を設置した場合の固体誘電体と電極の最短距離、上記電極の双方に固体誘電体を設置した場合の固体誘電体同士の距離としては、いずれの場合も均一な放電を行う観点から,0.5mm〜20mmが好ましく、特に好ましくは1mm±0.5mmである。この電極間の距離は、電極周囲の誘電体の厚さ、印加電圧の大きさを考慮して決定される。
【0098】
又、基材を電極間に載置或いは電極間を搬送してプラズマに曝す場合には、基材を片方の電極に接して搬送出来るロール電極仕様にするだけでなく、更に誘電体表面を研磨仕上げし、電極の表面粗さRmax(JIS B 0601)を10μm以下にすることで誘電体の厚み及び電極間のギャップを一定に保つことができ放電状態を安定化出来る。更に、誘電体の熱収縮差や残留応力による歪みやひび割れをなくし、且つ、ノンポーラスな高精度の無機誘電体を被覆することで大きく耐久性を向上させることができる。
【0099】
又、金属母材に対する誘電体被覆による電極製作において、前記のように、誘電体を研磨仕上げすることや、電極の金属母材と誘電体間の熱膨張の差をなるべく小さくすることが必要であるので、母材表面に、応力を吸収出来る層として泡混入量をコントロールして無機質の材料をライニングすることが好ましい。特に材質としては琺瑯等で知られる溶融法により得られるガラスであることがよく、更に導電性金属母材に接する最下層の泡混入量を20〜30体積%とし、次層以降を5体積%以下とすることで、緻密且つひび割れ等の発生しない良好な電極ができる。
【0100】
又、電極の母材に誘電体を被覆する別の方法として、セラミックスの溶射を空隙率10vol%以下まで緻密に行い、更にゾルゲル反応により硬化する無機質の材料にて封孔処理を行うことがあげられる。ここでゾルゲル反応の促進には、熱硬化やUV硬化がよく、更に封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、より一層無機質化が向上し、劣化のない緻密な電極ができる。
【0101】
図3(a)及び図3(b)はロール電極25の一例を示す図であり、ロール電極25c、25Cを示している。
【0102】
アース電極であるロール電極25cは、図3(a)に示すように、金属等の導電性母材25aに対しセラミックスを溶射後、無機材料を用いて封孔処理したセラミック被覆処理誘電体25bを被覆した組み合わせで構成されているものである。セラミック被覆処理誘電体を1mm被覆し、ロール径を被覆後200φとなるように製作し、アースに接地する。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工しやすいので、更に好ましく用いられる。
【0103】
或いは、図3(b)に示すロール電極25Cの様に、金属等の導電性母材25Aへライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体25Bを被覆した組み合わせから構成してもよい。ライニング材としては、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、リ酸塩系ガラス、ゲルマン酸塩系ガラス、亜テルル酸塩ガラス、アルミン酸塩系ガラス、バナジン酸塩ガラスが好ましく用いられるが、この中でもホウ酸塩系ガラスが加工しやすいので、更に好ましく用いられる。
【0104】
金属等の導電性母材25a、25Aとしては、銀、白金、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属等が挙げられるが、加工の観点からステンレスが好ましい。
【0105】
又、尚、本実施の形態においては、ロール電極の母材は冷却水による冷却手段を有するステンレス製ジャケットロール母材を使用している(不図示)。
【0106】
更に、ロール電極25c、25C(ロール電極25も同様)は、図示しないドライブ機構により軸部25d、25Dを中心として回転駆動される様に構成されている。
【0107】
図4(a)には固定電極26の概略斜視図を示した。又、固定電極は、円筒形状に限らず、図4(b)の固定電極36の様に角柱型でもよい。円柱型の電極26に比べて、角柱型の電極は放電範囲を広げる効果があるので、形成する膜の性質などに応じて好ましく用いられる。
【0108】
固定電極26、36いずれであっても上記記載のロール電極25c、ロール電極25Cと同様な構造を有する。すなわち、中空のステンレスパイプ26a、36aの周囲を、ロール電極25(25c、25C)同様に、誘電体26b、36bで被覆し、放電中は冷却水による冷却が行えるようになっている。誘電体26b、36bは、セラミック被覆処理誘電体及びライニング処理誘電体のいずれでもよい。
【0109】
尚、固定電極は誘電体の被覆後12φ又は15φとなるように製作され、当該電極の数は、例えば上記ロール電極の円周上に沿って14本設置している。
【0110】
図5には、図4(b)の角型の固定電極36をロール電極25の周りに配設したプラズマ放電処理室30の概略構成図を示した。図5において、図2と同じ部材については同符号を伏して説明を省略する。
【0111】
図6には、図5のプラズマ放電処理室30が設けられたプラズマ製膜装置50の概略構成図を示した。図6において、プラズマ放電処理室30の他に、ガス発生装置51、電源41、電極冷却ユニット55等が装置構成として配置されている。電極冷却ユニット55は、冷却剤の入ったタンク57とポンプ56とからなる。冷却剤としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が用いられる。
【0112】
図6のプラズマ放電処理室30内の電極間のギャップは、例えば1mm程度に設定される。
【0113】
プラズマ放電処理室30内にロール電極25、固定電極36を所定位置に配置し、ガス発生装置51で発生させた混合ガスを流量制御して、給気口12より供給し、処理容器11内をプラズマ処理に用いる混合ガスで充填し不要分については排気口より排気する。
【0114】
次に電源41により固定電極36に電圧を印加し、ロール電極25はアースに接地し、放電プラズマを発生させる。ここでロール状の元巻き基材FFからロール54、54、54を介して基材が供給され、ガイドロール24を介して、プラズマ放電処理室30内の電極間をロール電極25に片面接触した状態で搬送される。このとき放電プラズマにより基材Fの表面が放電処理され、その後にガイドロール27を介して次工程に搬送される。ここで、基材フィルムFはロール電極25に接触していない面のみ放電処理がなされる。
【0115】
又、放電時の高温による悪影響を抑制するため、基材の温度を常温(15℃〜25℃)〜200℃未満、更に好ましくは常温〜100℃内で抑えられるように必要に応じて電極冷却ユニット55で冷却する。
【0116】
又、図7は、本発明の膜の形成方法で用いることができる別のプラズマ製膜装置の概略構成図であり、電極間に載置できない様な性状、例えば厚みのある基材上に膜を形成する場合に、予めプラズマ状態にした反応性ガスを基材上に噴射して薄膜を形成するためのものである。
【0117】
図7のプラズマ製膜装置60において、35aは誘電体、35bは金属母材、65は電源である。金属母材35bに誘電体35aを被覆したスリット状の放電空間に、上部から不活性ガス及び反応性ガスからなる混合ガスを導入し、電源65により高周波電圧を印加することにより反応性ガスをプラズマ状態とし、該プラズマ状態の反応性ガスを基材61上に噴射することにより基材61表面に膜を形成する。
【0118】
図6の電源41、図7の電源65などの本発明の膜の形成に用いるプラズマ製膜装置の電源としては、特に限定はないが、ハイデン研究所製インパルス高周波電源(連続モードで使用100kHz)、パール工業製高周波電源(200kHz)、パール工業製高周波電源(800kHz)、日本電子製高周波電源(13.56MHz)、パール工業製高周波電源(150MHz)等が使用出来る。
【0119】
この様なプラズマ製膜装置を用い、大気圧プラズマ法により、本発明に係わる金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を形成できる。
【0120】
本発明に係わる好ましい基板の1つは、基材フィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルム上の少なくとも一方の面に、大気圧若しくはその近傍の圧力下、不活性ガスおよび炭化水素ガスまたはフッ素化炭化水素ガスからなる混合ガスの存在下で放電プラズマ処理を行うことによって疎水化処理を行った基板であるが、更に好ましい基板としては、樹脂フィルム側から順次、金属酸化物又は窒化物を含有する膜厚が70nm以上、好ましくは1500nm以下の膜を少なくとも1層有し、該金属酸化物又は窒化物を含有する膜に対し上記放電プラズマ処理により、疎水化処理がされた基板である。該金属酸化物又は窒化物を含有する膜厚が70nm以上、好ましくは1500nm以下の膜を有することによって更に水の透過性を低く保ち、且つ、該表面の疎水性化を行うことによって水分の封止性が向上した良好な基板となる。
【0121】
本発明に係わる基板は、基材としての樹脂フィルムの特徴である可撓性を維持しつつ、樹脂フィルム中の水分や樹脂を透過して浸透する水蒸気等の水分を封止できるため、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子自体をこれらの基板上に形成し、且つ、フィルム等のやはり可撓性の材料、好ましくは同じ基板で封止して、フレキシブルな表示装置として形成することができ、湿気に対し敏感な有機エレクトロルミネッセンス素子が、従来の封止材料や基板等に含有される水分により徐々に特性が劣化するという問題を、封止された内部空間を低湿度に保つことにより回避でき、有機エレクトロルミネッセンス表示素子の寿命を非常に高めることが出来る。
【0122】
又、好ましい態様として、更に膜厚が70nm以上の金属酸化物(例えばシリカ)膜を有する樹脂フィルムを基材フィルムとし、該金属酸化物膜表面を本発明に係わる表面処理方法によって疎水化した基板を用いると更にその効果が大きい。
【0123】
又、シリカ等の金属酸化物膜を両面に有する樹脂基材の一方の表面を本発明に係わる表面処理方法により疎水化した基板は一方の面が疎水化され金属酸化物層と協同して水分の透過性の低い複合フィルムとなる一方、樹脂基材の反対側にある金属酸化物膜(例えばシリカ膜)はハードコート層としても作用し表面を傷つきにくくするため、基板として更に好ましい。
【0124】
次いで、有機エレクトロルミネッセンス表示素子について説明する。
【0125】
本発明において有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、陽極と陰極の一対の電極の間に発光層を挾持する構造をとる。本明細書でいう発光層は、広義の意味では、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する層のことを指す。具体的には、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する有機化合物を含有する層のことを指す。本発明に係わる有機EL素子は、必要に応じ発光層の他に、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層および電子輸送層を有していてもよく、陰極と陽極で狭持された構造をとる。また、保護層を有していても良い。
【0126】
具体的には、
(i)陽極/発光層/陰極
(ii)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
(iii)陽極/発光層/電子注入層/陰極
(iv)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(v)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
などの構造がある。
【0127】
さらに、電子注入層と陰極との間に、陰極バッファー層(例えば、フッ化リチウム、等)を挿入しても良い。また、陽極と正孔注入層との間に、陽極バッファー層(例えば、銅フタロシアニン、等)を挿入しても良い。
【0128】
上記発光層は、発光層自体に、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層および電子輸送層等を設けてもよい。即ち、発光層に(1)電界印加時に、陽極又は正孔注入層により正孔を注入することができ、かつ陰極又は電子注入層より電子を注入することができる注入機能、(2)注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる輸送機能、(3)電子と正孔の再結合の場を発光層内部に提供し、これを発光につなげる発光機能、のうちの少なくとも1つ以上の機能を有してもよく、この場合は、発光層とは別に正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層および電子輸送層の少なくとも1つ以上は設ける必要がなくなることになる。また、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層および電子輸送層等に発光する化合物を含有させることで、発光層としての機能を付与させてもよい。尚、発光層は、正孔の注入されやすさと電子の注入されやすさに違いがあってもよく、また、正孔と電子の移動度で表される輸送機能に大小があってもよいが、少なくともどちらか一方の電荷を移動させる機能を有するものが好ましい。
【0129】
この発光層に用いられる発光材料の種類については特に制限はなく、従来有機EL素子における発光材料として公知のものを用いることができる。このような発光材料は主に有機化合物であり、所望の色調により、例えば、Macromol.Symp.125巻17頁から26頁に記載の化合物が挙げられる。
【0130】
発光材料は発光性能の他に、正孔注入機能や電子注入機能を併せ持っていても良く、正孔注入材料や電子注入材料の殆どが発光材料としても使用できる。
【0131】
発光材料はp−ポリフェニレンビニレンやポリフルオレンのような高分子材料でも良く、さらに前記発光材料を高分子鎖に導入した、または前記発光材料を高分子の主鎖とした高分子材料を使用しても良い。
【0132】
また、発光層にはドーパント(ゲスト物質)を併用してもよく、EL素子のドーパントとして使用される公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0133】
ドーパントの具体例としては、例えばキナクリドン、DCM、クマリン誘導体、ローダミン、ルブレン、デカシクレン、ピラゾリン誘導体、スクアリリウム誘導体、ユーロピウム錯体等がその代表例として挙げられる。また、イリジウム錯体(例えば特開2001−247859号明細書に挙げられるもの、あるいはWO0070655号明細書16〜18ページに挙げられるような式で表される例えばトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム等)やオスミウム錯体、あるいは2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン白金錯体のような白金錯体もドーパントとして挙げられる。
【0134】
上記材料を用いて発光層を形成するには、例えば蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により薄膜化することにより形成する方法があるが、特に分子堆積膜であることが好ましい。ここで、分子堆積膜とは、上記化合物の気相状態から沈着され形成された薄膜や、該化合物の溶融状態又は液相状態から固体化され形成された膜のことである。通常、この分子堆積膜はLB法により形成された薄膜(分子累積膜)と凝集構造、高次構造の相違や、それに起因する機能的な相違により区別することができる。
【0135】
また、この発光層は、特開昭57−51781号に記載されているように、樹脂などの結着材と共に上記発光材料を溶剤に溶かして溶液としたのち、これをスピンコート法などにより薄膜化して形成することができる。このようにして形成された発光層の膜厚については特に制限はなく、状況に応じて適宜選択することができるが、通常は5nm〜5μmの範囲である。
【0136】
正孔注入層の材料である正孔注入材料は、正孔の注入、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。この正孔注入材料としては、例えばトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマーなどが挙げられる。正孔注入材料としては、上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第三級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0137】
上記芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)ビフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)などが挙げられる。
【0138】
また、p型−Si、p型−SiCなどの無機化合物も正孔注入材料として使用することができる。この正孔注入層は、上記正孔注入材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔注入層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度である。この正孔注入層は、上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよく、同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0139】
電子注入層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。この電子注入層に用いられる材料(以下、電子注入材料という)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。また、特開昭59−194393号公報に記載されている一連の電子伝達性化合物は、該公報では発光層を形成する材料として開示されているが、本発明者らが検討の結果、電子注入材料として用いうることが分かった。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子注入材料として用いることができる。また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えばトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)など、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も電子注入材料として用いることができる。その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基などで置換されているものも電子注入材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も電子注入材料として用いることができるし、正孔注入層と同様にn型−Si、n型−SiCなどの無機半導体も電子注入材料として用いることができる。
【0140】
この電子注入層は、上記化合物を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。電子注入層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲で選ばれる。この電子注入層は、これらの電子注入材料一種又は二種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0141】
さらに、陽極と発光層または正孔注入層の間、および、陰極4と発光層または電子注入層との間にはバッファー層(電極界面層)を存在させてもよい。
【0142】
バッファー層とは、駆動電圧低下や発光効率向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日 エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(第123頁〜第166頁)に詳細に記載されており、陽極バッファー層と陰極バッファー層とがある。
【0143】
陽極バッファー層は、特開平9−45479号、同9−260062号、同8−288069号等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0144】
陰極バッファー層は、特開平6−325871号、同9−17574号、同10−74586号等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
【0145】
上記バッファー層はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その膜厚は0.1〜100nmの範囲が好ましい。
【0146】
さらに上記基本構成層の他に必要に応じてその他の機能を有する層を積層してもよく、例えば特開平11−204258号、同11−204359号、および「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日 エヌ・ティー・エス社発行)」の第237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層などのような機能層を有していても良い。
【0147】
バッファー層は、陰極バッファー層または陽極バッファー層の少なくとも何れか1つの層内に本発明の化合物の少なくとも1種が存在して、発光層として機能してもよい。
【0148】
有機EL素子における陽極は、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAuなどの金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnOなどの導電性透明材料が挙げられる。
【0149】
上記陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また、陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10nm〜200nmの範囲で選ばれる。
【0150】
有機EL層の陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属などが挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化などに対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えばマグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物などが好適である。上記陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が、透明又は半透明であれば発光効率が向上し好都合である。
【0151】
以下に、本発明の前記基板を用いて、本発明に係わる陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子を封止する好適な例を説明する。
【0152】
図8は本発明に係わる基板を用いて有機EL素子を封止した本発明のEL表示装置の一例を示す断面図である。この例においては、EL素子は透明な2つの本発明に係わる基板100により封止された構造をとっている。基板100は、大気圧プラズマ放電処理によって、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン等の樹脂からなるプラスチックシート基材101の一方の面に形成された疎水性の表面層102を有する本発明に係わる基板である。
【0153】
基板100上の疎水性の表面層102上に複数の陽極(アノード)103が互いに平行して設けられている。陽極103は所望の電極物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10nm〜200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させ作製する。有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物、具体例としてはAuなどの金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、インジウムジンクオキシド(IZO)、SnO、ZnOなどの導電性透明材料が用いられる。
【0154】
次に、この上に有機EL層104を形成する。即ち、ここで図示していないが、正孔注入層、発光層、電子注入層等の前記各材料からなる薄膜を形成させる。
【0155】
次いで、上記有機EL層104上には、前述のような物質から選ばれる陰極(カソード)105が、蒸着やスパッタリングなどの方法により薄膜を形成させることにより作製される。なお、前述の如く、発光を透過させるためには、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光効率が向上し好都合である。
【0156】
有機EL層104の各層の作製方法としては、前記の如くスピンコート法、キャスト法、蒸着法などがあるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくいなどの点から、真空蒸着法が好ましい。薄膜化に、真空蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は、使用する化合物の種類、分子堆積膜の目的とする結晶構造、会合構造などにより異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6〜10−3Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚5nm〜5μmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0157】
これらの層の形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させ、陰極を設けることにより、所望の有機EL素子が得られる。
【0158】
この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた有機EL素子に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧5〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0159】
又、陰極105を含む有機EL層104の表面全体には、保護膜を設けてもよい。無機保護膜は、例えば、CeO中にSiOを分散したものからなっている。無機保護膜の形成は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、蒸着法等によって行い、膜厚は1〜100000Å好ましくは500〜10000Åとする。この場合、無機保護膜の形成は、陰極(カソード)105を形成した後、大気中に戻すことなく真空中で連続して形成するか、或いは窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気中での搬送が可能な搬送系で搬送して再度真空中において形成することができる。
【0160】
陰極105を含む有機EL層104の上面には、対向基板として、大気圧プラズマ放電処理によって、一方の面に形成された疎水性の表面層102を有するポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン等の樹脂からなるプラスチックシート基材101、即ち本発明の基板100がもう一つ重ねられ(この場合表面処理層が外側に面するかたちで)素子が封止されている。
【0161】
封止は、2つの基板100の互いに向き合う面の周辺部に塗布法や転写法等によって設けられたほぼ枠状のシール材106を介して2つの基板が互いに貼り合わされることで行われる。シール材106は、熱硬化型エポキシ系樹脂、紫外線硬化型エポキシ系樹脂、または反応開始剤をマイクロカプセル化して加圧することにより反応が開始する常温硬化型エポキシ系樹脂等からなっている。この場合、シール材106の所定の箇所には空気逃げ用開口部等を設け(図省略)封止を完全にする。空気逃げ用開口部は、真空装置内において減圧雰囲気(真空度1.33×10−2MPa以下が好ましい)或いは窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気中において、上記硬化型エポキシ系樹脂のいずれか、或いは紫外線硬化型樹脂等で封止される。
【0162】
この場合のエポキシ系樹脂は、ビスフェノールA形、ビスフェノールF形、ビスフェノールAD形、ビスフェノールS形、キシレノール形、フェノールノボラック形、クレゾールノボラック形、多官能形、テトラフェニロールメタン形、ポリエチレングリコール形、ポリプロピレングリコール形、ヘキサンジオール形、トリメチロールプロパン形、プロピレンオキサイドビスフェノールA形、水添ビスフェノールA形、またはこれらの混合物を主剤としたものである。シール材106を転写法により形成する場合には、フィルム化されたものが好ましい。
【0163】
対向する基板として用いた基板100については、ガラス、樹脂、セラミック、金属、金属化合物、またはこれらの複合体等で形成してもよく、JIS Z−0208に準拠した試験において、その厚さが1μm以上で水蒸気透過率が1g/m・1atm・24hr(25℃)以下である基材から選択してもよいが、前記表面処理層を有する本発明の基板が水蒸気透過率が低く好ましく、且つ、可撓性があり好ましい。
【0164】
又、本発明において、素子内に水分を吸収する、或いは水分と反応する材料(例えば酸化バリウム等)を上記基板に層形成して積層体内部に封入することもできる。
【0165】
以上のように構成された有機EL素子では、2つの基板を枠状のシール材106を介して互いに貼り合わせているので、基板100およびシール材106によって、基板100上に設けられた陽極103、有機EL層104、陰極(カソード)105等からなる有機EL素子を内部を低湿度の状態に維持し封止出来ると同時に、基板を通しての水分の浸透が抑えられ、有機EL表示装置の耐湿性がより一層向上し、ダークスポットの発生、成長を抑制することができる。
【0166】
また、図9は金属酸化物膜(例えばシリカ膜)を両面に有する樹脂基材の一方の表面を本発明に係わる表面処理方法により疎水化した基板を用いて有機EL素子を封止した有機EL表示装置の別の例を示す断面図である。図9において107はプラズマ処理によって形成された金属酸化物の層を示し、102は該金属酸化物膜表面に形成された炭化水素による疎水性の表面層である。シリカ層の表面を本発明に係わる炭化水素或いはフッ素化炭化水素を反応性ガスとしてプラズマ処理することによって透明性の高い水の封止性に優れた基板が得られる。
【0167】
尚、本発明の基材及び上記有機EL素子による前記構成は本発明の1つの態様であり、有機EL素子構成及び本発明の基板を含めた構成はこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0168】
本発明を以下の実施例で具体的に説明するが、これらに限定されない。
【0169】
実施例1
〔試料作製〕
〈基材フィルム表面処理〉
下記条件で、図1に示した装置を用い、ガス導入を開始後10分間処理室にパージし、基材フィルムを搬送して処理を開始し、搬送が安定してから2分後からの処理支持体について、下記表面の性質を測定した。なお、処理済みの基材フィルムは巻き取り装置でロール状に巻き取った。
【0170】
《実施条件》
処理室:容量0.2m、幅420mm
基材フィルム:400mm幅、100μmの厚みのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム
処理ガス:導入する不活性ガスを100圧力%アルゴンガスとし、不活性ガスと反応性ガスの比を、アルゴンガス:反応性ガス=100:10とし、反応性ガスの種類としてメタンガス、プロパンガス、フッ化メチルガスを使用。
周波数: 10kHz
電極間ギャップ:5mm
基材フィルム搬送速度:150m/分
処理時間:0.5秒
出力: 22kW/m
なお、酸素濃度については、市販の酸素濃度測定器(東レ社製:LC800)を用い、上記処理条件において、ガス導入後10分間パージし、基材フィルム搬送開始後、安定搬送になって2分後に測定を行った結果、100ppmであった。反応性ガスとしてメタンガス、プロパンガス、フッ化メチルガスを使用したものをそれぞれ基板試料No.1,2,3とし、又未処理の基材フィルムを基板試料No.4とした。
【0171】
〈基材フィルム表面の性質の測定及び評価〉
《接触角の測定》
接触角測定用液として、試薬特級ヨウ化メチレン及び純水を使用し、23℃、55%RHに調湿したクリーンルームで、基材フィルム表面にシュリンジから一滴を乗せ、接触角測定器(FIBLO社製)を使用して滴下3秒後の接触角を測定した。
【0172】
《TOF−SIMSによるスペクトルの測定》
基材フィルム表面の官能基及び分子量分布等を測定することが出来るTOF−SIMS測定装置(PHI社製:TRIFTII)を用いて、処理後の基材フィルムを処理後1時間(23℃、55%RHにて保存)以内に測定した。
【0173】
《ESCAによる炭素原子の割合の測定》
基材フィルムの表面元素組成を測定することの出来るESCA測定装置(VG社製:ESCALAB200−R)を用いて、基材フィルムを処理後1時間(23℃、55%RHにて保存)以内に測定した。
【0174】
表1に、処理条件、接触角の測定値、TOF−SIMSによるスペクトルピークの変動、ESCAによる炭素原子の割合の変動について評価した結果を示す。
【0175】
【表1】

【0176】
表1から、基材フィルムに疎水性化処理を行い疎水性膜を形成した基板試料No.1〜3の接触角が、試料No.4の未処理のPETフィルムそれよりも大きく、TOF−SIMSによるスペクトルピークの変動、ESCAによる炭素原子の割合の変動も大きくなっており、疎水性化表面を有する基板が得られていることがわかる。
【0177】
次いで、これらの基板試料No.1〜3及び比較の未処理PETフィルム(試料No.4)を用いて、それぞれ以下に示すように有機EL表示装置OLED−1〜4を作製した。
【0178】
有機EL表示装置OLED−1の作製
図8に示した構成で有機EL表示装置を作製した。
【0179】
先ず、図8における透明基板100として前記で作製した基板試料No.1を用いて、最表面の疎水性膜を有する面上にスパッタリングターゲットとして酸化インジウムと酸化亜鉛との混合物(Inの原子比In/(In+Zn)=0.80)からなる焼結体をもちい、DCマグネトロンスパッタリング法にて透明導電膜であるIZO(Indium Zinc Oxide)膜を形成した。即ち、スパッタリング装置の真空装置内を1×10−3Pa以下にまで減圧し、アルゴンガスと酸素ガスとの体積比で1000:2.8の混合ガスを真空装置内が1×10−1Paになるまで真空装置内に導入した後、ターゲット印加電圧420V、基板温度60℃でDCマグネトロン法にて透明導電膜であるIZO膜を厚さ250nm形成した。このIZO膜に、パターニングを行い陽極(アノード)103とした後、この透明導電膜を設けた透明支持基盤をi−プロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0180】
この透明導電膜上に方形穴あきマスクを介して真空蒸着法により、図8における有機EL層104として、α−NPD層(膜厚25nm)、CBPとIr(ppy)の蒸着速度の比が100:6の共蒸着層(膜厚35nm)、BC層(膜厚10nm)、Alq層(膜厚40nm)、フッ化リチウム層(膜厚0.5nm)を順次積層した(図8には詳細に示していない)。更に別のパターンが形成されたマスクを介して、膜厚100nmのアルミニウムからなる陰極(カソード)105を形成した。
【0181】
【化5】

【0182】
このように得られた積層体に、乾燥窒素気流下、同じ基板試料No.1を重ね、シール材106として光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を用いて、周囲に透明電極及びアルミニウム陰極の一部を端子として取り出せるようにして封止し、有機EL表示装置OLED−1を得た。
【0183】
同様の方法で、前記基板試料No.1を基板試料No.2、3及び比較の基板試料No.4(未処理PETフィルム)に代えて有機EL表示装置OLED−2、3及び4を作製した。表2に作製した有機EL表示装置OLED−1〜4の発光層について以下の評価を行った結果を示す。
【0184】
《評価項目1》
封入直後に50倍の拡大写真を撮影した。80℃、300時間保存後50倍の拡大写真を撮影し観察されたダークスポットの面積増加率を評価した。
【0185】
ダークスポット面積増加率は以下の基準で評価した。
【0186】
◎ ;5%未満
○ ;5%以上10%未満
△ ;10%以上15%未満
× ;15%以上50%未満
××;50%以上
《評価項目2》
封入直後に50倍の拡大写真を撮影した。素子を45°に折り曲げて元に戻す折り曲げ試験を1000回繰り返した後に、評価項目1と同様の保存試験を行いダークスポット面積の増加率を同様に評価した。
【0187】
【表2】

【0188】
これらの結果から、本発明の基板を用いて作製した有機EL表示装置OLED−1、2、3は比較の基板を用いて作製した表示装置OLED−4に比べて、ダークスポットの面積増加率が小さいことが明らかである。また、曲げ応力がかかった時に封止性能に影響が少ないことがわかる。
【0189】
本実施例には、素子内に水分を吸着或いは水分と反応する材料(例えば酸化バリウム)を封入しなかったが、これらの材料を素子内に封入することを妨げるものではない。
【0190】
実施例2
以下に示す各基板を作製した。プラズマ放電処理は図5に示すプラズマ放電処理室30を用い、プラズマ発生には、日本電子(株)製高周波電源JRF−10000を電源に用いた。又、反応性ガスを用いる場合、以下の組成のガスを用いた。
【0191】
(酸化珪素膜形成用反応性ガス)
不活性ガス:アルゴン98.25体積%
反応性ガス1:水素ガス1.5体積%
反応性ガス2:テトラメトキシシラン蒸気(アルゴンガスにてバブリング)0.25体積%
周波数は13.56MHz、且つ、20W/cmの電力を供給して、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に酸化珪素の膜をそれぞれ200nmの厚みになるまで順次形成して両面に酸化珪素膜を有するポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0192】
〈基材フィルム表面処理〉
下記条件で、図1に示した装置を用い、ガス導入を開始後10分間処理室にパージし、基材フィルムとして、上記により作製した両面に酸化珪素の膜を有する100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを搬送して実施例1と同じ下記の条件でそれぞれ処理を行った。処理済みのフィルムは巻き取り装置でロール状に巻き取った。尚、安定搬送になって2分経過後、処理が安定してからの基板を以下の試験に用いた。
【0193】
《実施条件》
処理室:容量0.2m、幅420mm
基材フィルム:400mm幅、上記で製造した両面に酸化珪素の膜を有する100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム
処理ガス:導入する不活性ガスを100圧力%アルゴンガスとし、不活性ガスと反応性ガスの比を、アルゴンガス:反応性ガス=100:10とし、反応性ガスの種類としてメタンガス、プロパンガス、フッ化メチルガスを使用して基板5、6及び7をえた。また、未処理の基材フィルムを比較の基板8とした。
周波数: 10kHz
電極間ギャップ:5mm
基材フィルム搬送速度:150m/分
処理時間:0.5秒
出力: 22kW/m
なお、前記と同様、酸素濃度については、市販の酸素濃度測定器(東レ社製:LC800)を用い、上記処理条件において、ガス導入後10分間パージし、基材フィルム搬送開始後、安定搬送になって2分後に測定を行った結果、100ppmであった。
【0194】
実施例1の有機EL表示装置OLED−1の作製において、基板1に代えて基板5〜8をそれぞれを用いたほかは同様にして有機EL表示装置OLED−5〜8を作製した(図9)。
【0195】
これらの有機EL表示装置OLED−5〜8の発光部について、前記評価項目1及び2に従って評価を行った結果を表3に示した。
【0196】
【表3】

【0197】
これらの結果から、本発明の基板を用いて作製した有機EL表示装置OLED−5、6及び7は比較の基板を用いて作製した表示装置OLED−8に比べて、ダークスポットの面積増加率が小さいことが明らかである。また、更に、曲げ応力がかかった時に封止性能に影響が少ないことがわかる。
【符号の説明】
【0198】
1 表面処理装置
2 処理室
3a,3b 予備室
5,F 基材フィルム
6,7 電極
9 間仕切り手段
E 高周波電源
G アース
10、30 プラズマ放電処理室
12 給気口
13 排気口
15、16 ニップローラ
24、27 ガイドローラ
25、25c、25C ロール電極
26、26c、26C、36、36c、36C 電極
25a、25A、26a、36a 金属等の導電性母材
25b、26b、36b セラミック被覆処理誘電体
25B ライニング処理誘電体
35a 誘電体
35b 金属母材
41,65 電源
51 ガス発生装置
55 電極冷却ユニット
60 プラズマ製膜装置
61 基材
FF 元巻き基材
100 基板
102 疎水性の表面層
103 陽極
104 有機EL層
105 陰極
106 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、大気圧若しくはその近傍の圧力下で放電プラズマ処理を行うことで金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜を形成し、前記形成した金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜上に、不活性ガス及びフッ素化炭化水素ガスからなる混合ガスに、大気圧若しくはその近傍の圧力下放電プラズマ処理を行うことで膜を形成することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素化炭化水素ガスがCHFガス、CFガス、CFガス、C11Fガス、C13Fガスから選ばれる少なくとも一種類のガスであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記混合ガス中の不活性ガスが50圧力%以上の不活性ガスからなることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜が有機珪素化合物を原料として製造されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物膜または金属窒化物からなる膜が酸化珪素からなる膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法によって製造された樹脂フィルムを有する有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−13735(P2010−13735A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224139(P2009−224139)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【分割の表示】特願2002−61815(P2002−61815)の分割
【原出願日】平成14年3月7日(2002.3.7)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】