説明

機能性素子の製造方法およびその製造装置

【課題】本発明は、インクジェット法等の吐出法を用いて平坦な機能性部を製造効率よく形成可能な、機能性素子の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】上記目的を達成するために、本発明は、基板上に、溶媒を含有する機能性層形成用塗工液を、機能性層を形成する領域である機能性層形成用領域に吐出法により滴下後、乾燥固化させて機能性層を形成する機能性層形成工程を有する機能性素子の製造方法において、前記機能性素子の機能性部として用いられる領域である前記機能性層内の有効領域における最大膜厚をTmax、最小膜厚をTminとした場合、
Tmax/Tmin≦2
となるように、滴下後の前記機能性層形成用塗工液の温度を調整することを特徴とする機能性素子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機半導体、有機エレクトロルミネッセント(以下、有機ELと略す場合がある。)素子、液晶用カラーフィルタ等の表示装置または電子デバイス等に用いることが可能な平坦性に優れた機能性部を有する機能性素子の製造方法、およびその製造方法に用いられるインクジェット装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、有機半導体、有機EL素子、液晶用カラーフィルタ等の表示装置および電子デバイス等に必要な薄膜をインクジェット法により形成する手法が注目されている。このような、デバイスをインクジェット法により作製することは、製造装置の簡略化、ランニングコストの低減等の観点から有力な手法とされており、中でも特に有機EL素子の製造方法として有望視されている。
【0003】
有機EL素子は、半導体層兼発光層である薄膜の両側に位置した対抗電極から注入された正孔および電子が発光層内で結合し、そのエネルギーで発光層中の蛍光物質を励起し、蛍光物質に応じた色の発光が得られるものである。このような有機EL素子は、自発光デバイスであるデバイス構造が、非常に単純である等の利点があり、液晶表示素子に継ぐ次世代表示装置として期待されている。
【0004】
上記有機EL素子の製造方法としては、大きく2つに分けられ、低分子材料を真空プロセスにより製造する方法、高分子材料をウエットプロセスにより製造する方法がある。中でも、後者の有機EL用材料を溶剤可溶とし、ウエットプロセスにより形成する方法が、製造方法および装置の簡略化の点から注目されている。有機EL素子をウエットプロセスにより製造する方法としては、様々な方法が知られているが、製造装置の簡略化、材料使用効率が高い等の点からインクジェット法による製造方法が中心となっている。このような有機EL素子の製造方法としては、例えば図13(a)に示すように、まず、基板1上に電極層15と、無機絶縁層5(親インク性)と、有機隔壁層6(親インク性)とを形成し、酸素プラズマおよびCFプラズマ処理を連続的に行う。ここで、CFプラズマにより表面をフッ化する際、無機物表面は有機物表面に比べフッ化処理され難いことから、処理時間の設定により無機物部分(第1電極層15および無機絶縁層5)は表面がフッ化されず親インク性が保持され、有機隔壁層6のみ表面がフッ化され撥インク性になるように選択的に表面処理を施すことが可能となる。次に、インクジェット法によりインクを有機隔壁6間に吐出することにより、吐出されたインクは撥インク性である有機隔壁6には付着せず、親インク性である第1電極層15および無機絶縁層5上に着弾させることができる。これにより、膜4を形成することが可能となるのである(図13(b)、特許文献1参照)。しかしながら、この方法においては、例えば図13(b)および(b´)に示すように、上記薄膜4は、インクの溶剤種類および乾燥方法によりインク塗布領域での膜の形状が凹状(図13(b))または凸状(図13(b´))のいずれかの形状を有する場合が多く、平坦な膜を形成することが困難であった。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、例えば、同一箇所に多数回のインク吐出を行い、かつ、固形分濃度を減少させながら行う方法(特許文献2)や、インクを基板上に吐出後、急速な減圧下に置いて乾燥を行う方法(特許文献3)、インクを基板上に吐出後、基板を揺動させる方法(特許文献4)、インクを保持する為の隔壁構造を、インクに対して親和性を有する層と非親和性を有する層とから形成する方法(特許文献5)等が知られている。
【0006】
しかしながら、いずれの方法においても、プロセス数の増加や複雑化、または製造装置の複雑化を避けることは不可能であり、製造コストの増加やスループット低下の面で問題があった。例えば、上記特許文献2では、同一画素に多数回にわたりインクの吐出を行う必要性があり、コストの増加や、スループットの低下という問題がある。また、上記特許文献3および4では、インクジェット法により基板上に吐出される場合の特有の性質により、明らかなスループットの低下につながる。これは、インクジェット用インクに使用される溶剤は、装置部でのインク乾燥を防ぐ為、一般的に高沸点溶剤を使用する事が多い。しかしながら、有機半導体、有機EL素子等の用途に使用する場合には、形成する膜がサブミクロンオーダーの為、このような高沸点溶剤を使用しても基板上でのインク体積がピコリットルオーダー(1×10−12l)と非常に微小であるため短時間で乾燥してしまう事になる。そのため、通常では数時間以上は乾燥しないような溶剤である、室温での蒸気圧が10mmHg以下であるような遅乾性溶剤を使用した場合であっても、インクジェット吐出された場合には数十秒〜数分程度で乾燥してしまう。すなわち、カラーフィルタや有機EL素子のように同一インクを基板内に多数箇所吐出する場合には、ある個所にインクを吐出している間に、それ以前に吐出したインクが乾燥してしまうことになるのである。従って、成膜プロセスとしてインク吐出後に真空乾燥および基板の揺動を行う場合には、インク吐出後直ちにこれらの手法を行う必要があるため、複数回塗布を行う場合にはインク吐出、乾燥の動作を繰り返すことになり非常に製造時間が長くなるという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献5の場合には、インクを保持するための隔壁構造がインクに対して親和性、非親和性を有する多層構造を切れ目のない一つの隔壁として高度に制御する必要があり、製造上このような隔壁を大量生産することは非常に困難であった。
【0008】
ここで、上述したインク塗布領域での凹状、凸状の膜厚分布の発生メカニズムは明確ではないが、これらに対していくつかの検討がなされている。例えば、インクジェット法で作製する液滴量と比べてオーダーが大きいミリメータサイズの液滴については、非特許文献1に「コーヒーのしみ」発生メカニズムについての検討が行われている。
【0009】
これを、図14を用いて説明する。インク液滴が基板上で液滴断面が半径Rの円または円の一部または弓状となるように形成された場合、図14(a)に示すように液滴の中心部(0の位置)と端部付近(rの位置)では単位面積あたりの溶剤の量が異なるため溶剤の乾燥速度(J)が異なる。このとき、インクは円または円の一部または弓状となっているため端部に行くほど乾燥速度(J)が速くなる。またこの際基板が極端に濡れる、または極端に撥インク性が高い場合を除き、インク端部は基板上に固定される。そのため、膜を維持するために基板端部付近で失われた液体を補うように液滴中心部から外側へ液体のフローが発生する(図14(b))。また、この液体の外側へのフロー速度(V)は中心からの距離rでの乾燥速度(Jr)に比例する。従って、端部付近では乾燥速度が大きいため、外側へのフロー速度(V)も大きくなる。この時、液体と一緒に溶解成分である溶質が外側へ移動し、液体成分の乾燥に伴い溶解成分は端部に集中することになり、最終的には、例えば図14(c)に示すような、端部の膜厚が高い、凹状の膜が形成されることとなるのである。
【0010】
また、液滴位置による乾燥速度の相違についての別の解釈としては非特許文献2に記載されている。これは液滴位置(中心部と端部)により単位底面積あたりその上部に存在する液適量が異なることから、揮発が完了し溶媒がなくなるまでの時間に差が生じる。これにより、相対的に乾燥が速い端部では膜を維持する為に、中心部から外側への液体のフローが発生するというものである。
【0011】
いずれにしても、液滴中央から外側への液体のフローが膜厚分布発生要因であり、これは、中心部と外側部での乾燥速度の差、特に外側部分で速く乾燥が進行することが原因と考えられる。
【0012】
一方、中心部が厚く、周辺部が薄い場合については、上記文献には明確な記載はないが、経験的に高沸点溶剤を使用した場合に多く見られる。この場合には、溶剤沸点に関係なく乾燥速度が速い場合に発生すると推察される。これは、乾燥速度が物質の外側へのフロー速度よりも速く、周辺部への物質フローが追いつかないためと考えられる。
【0013】
凹状、凸状いずれの形状においても、膜厚分布はインク乾燥工程で発生すると考えられるが、インクジェット法を用いた場合には、上述したように、吐出されたインクの乾燥時間が非常に速いため、上記のような膜厚分布に影響を与えるような乾燥段階はインク吐出後、非常に短時間で発生するといえ、膜厚の形状を制御することが困難であるという問題があった。
【0014】
また、機能性素子の機能性部として、上記の膜厚分布の大きなものを使用した場合、例えば有機EL素子やカラーフィルタ等の光学デバイスでは画素内の表示むら、色むら、デバイス寿命が短くなるという問題があり、有機半導体や有機EL素子等の電子デバイスにおいては、膜厚の薄い部分と厚い部分では、その電子特性に差が生じる等の問題があった。
【0015】
【特許文献1】
特開2000−323276号公報
【特許文献2】
特開2001−291583号公報
【特許文献3】
特開2001−276726号公報
【特許文献4】
特開2001−237067号公報
【特許文献5】
特開平11−329741号公報
【非特許文献1】
Nature, 389,827,1997
【非特許文献2】
表面科学 Vol.24,N0.2,pp.90−97,2003
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
以上のことから、インクジェット法等の吐出法を用いて平坦な機能性部を製造効率よく形成可能な、機能性素子の製造方法の提供が望まれている。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基板上に、溶媒を含有する機能性層形成用塗工液を、機能性層を形成する領域である機能性層形成用領域に吐出法により滴下後、乾燥固化させて機能性層を形成する機能性層形成工程を有する機能性素子の製造方法において、上記機能性素子の機能性部として用いられる領域である上記機能性層内の有効領域における最大膜厚をTmax、最小膜厚をTminとした場合、
Tmax/Tmin≦2
となるように、滴下後の上記機能性層形成用塗工液の温度を調整することを特徴とする機能性素子の製造方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、吐出法により滴下された後の機能性層形成用塗工液の温度を調整することにより、上記機能性層形成用塗工液の溶媒の揮発速度を調整することが可能となり、機能性部として用いられる有効領域の膜厚の最大膜厚と最小膜厚との比が上記範囲内となるように形成することができる。これにより、特別な装置等が必要なく、例えばインクジェット法等によって効率よく、平坦な機能性部を有する機能性素子を製造することが可能となるのである。
【0019】
上記発明においては、上記温度の調整が、上記機能性層形成工程を所定の温度で行った場合の上記機能性層の形状を検査し、上記機能性層の中心部が凹形状の場合は温度を低くするものであり、上記機能性層の中心部が凸形状の場合は温度を高くするものであることが好ましい。これにより、上記有効領域における最大膜厚と最小膜厚との比を、上記範囲内とすることが可能となるからである。
【0020】
また、本発明においては、上記温度の調整を、上記基板の温度を変化させることにより行うことが好ましい。これにより、上記機能性層形成用塗工液の温度の調整を容易に行うことができるからである。
【0021】
またさらに、本発明においては、上記基板が撥液性であり、かつ上記機能性層形成用領域が親液性領域とされていることが好ましい。これにより、例えばインクジェット法等の吐出法によって、親液性領域である上記機能性層形成用領域のみに、上記機能性層形成用塗工液を容易に塗布することが可能となるからである。
【0022】
上記発明においては、上記基板が、基材と、上記基材上に形成され、かつ光触媒およびバインダを有し、エネルギー照射に伴い上記光触媒の作用により液体との接触角が低下する濡れ性変化層とからなり、上記機能性層形成用領域が上記濡れ性変化層にエネルギー照射を行うことにより親液性領域とされたものであることが好ましい。上記基板が、上記基材と上記濡れ性変化層とからなることによって、エネルギー照射により容易に、目的とするパターン状に親液性領域である機能性層形成用領域を形成することが可能となるからである。
【0023】
本発明は、上述した機能性素子の製造方法により製造される上記機能性部が、少なくとも発光層を有する有機エレクトロルミネッセント層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法を提供する。
【0024】
本発明によれば、上記機能性素子の製造方法により平坦な有機EL層を形成することができ、有機EL層の膜厚の差による色むらやデバイス寿命の短命化等が少ない高品質な有機EL素子を製造することができる。
【0025】
また、本発明は、インクを吐出する吐出部および上記インクが吐出される基板を保持する基板保持部とを有するインクジェット装置であって、上記インクの温度を調整するインク温度調整機構を有することを特徴とするインクジェット装置を提供する。
【0026】
本発明によれば、上記インク温度調整機構を有することから、上記吐出部から吐出されたインクの温度を調整することができる。これにより、インクに含有される溶媒の揮発速度を調整することができ、形成される膜の形状を制御することが可能となるからである。
【0027】
また、本発明は、インクを吐出する吐出部および上記インクが吐出される基板を保持する基板保持部とを有するインクジェット装置であって、上記基板の温度を調整する基板温度調整機構を有することを特徴とするインクジェット装置を提供する。
【0028】
本発明によれば、上記基板温度調整機構を有することから、上記吐出部から吐出されたインクが基板に着弾する際に、インクの温度を目的とする温度に調整することができる。これにより、インクに含有される溶媒の揮発速度を調整することができ、形成される膜の形状を制御することが可能となるからである。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明は、インクジェット法等の吐出法を用いて平坦な機能性部を製造効率よく形成可能な機能性素子の製造方法、およびその製造方法に用いることが可能なインクジェット装置に関するものである。以下、それぞれわけて説明する。
【0030】
A.機能性素子の製造方法
本発明の機能性素子の製造方法は、基板上に、溶媒を含有する機能性層形成用塗工液を、機能性層を形成する領域である機能性層形成用領域に吐出法により滴下後、乾燥固化させて機能性層を形成する機能性層形成工程を有する機能性素子の製造方法において、上記機能性素子の機能性部として用いられる領域である上記機能性層内の有効領域における最大膜厚をTmax、最小膜厚をTminとした場合、
Tmax/Tmin≦2
となるように、滴下後の上記機能性層形成用塗工液の温度を調整することを特徴とする方法である。
【0031】
本発明の機能性素子の製造方法は、例えば図1に示すように、基板1上に、機能性層形成用塗工液2を、例えばインクジェット装置3等により滴下し(図1(a))、その後乾燥固化させて機能性層4を形成する(図1(b))機能性層形成工程を有するものであり、上記機能性層形成工程において形成される機能性層4のうち、機能性部として用いられる有効領域a内の、最大膜厚Tmaxと最小膜厚Tminとの比が、所定の範囲内となるように、上記機能性層形成用塗工液2の温度を調整することを特徴とする。
【0032】
本発明によれば、機能性層を吐出法により形成する際に、例えばインクジェット装置のノズル等から滴下された後の機能性層形成用塗工液の温度を調整することにより、機能性層形成用塗工液に含有される溶媒の揮発速度を調整することが可能となる。すなわち、上記機能性層形成用塗工液の温度を低く調整した場合には、例えば図2に示すように、基板1上に塗布された機能性層形成用塗工液4中の溶媒の揮発速度(実線矢印)を、温度調整を行わない場合の揮発速度(点線矢印)と比較して、遅いものとすることができる。これにより、上記機能性層形成用領域における中心部から外側への機能性層形成用塗工液のフローを抑制することができ、形成された機能性層の中心部と端部との膜厚の差を少ないものとすることができるのである。
【0033】
上記機能性層形成用塗工液の温度調整により、上記機能性層形成用塗工液中の溶媒が揮発して形成される機能性層の形状を制御することが可能となり、形成された機能性層のうち、機能性部として用いられる有効領域における最大膜厚と最小膜厚との比が所定の範囲となるようにすることが可能となるのである。また、本発明においては、特殊な装置や複雑な工程を経る必要がなく、また滴下される機能性層形成用塗工液の組成を変える必要性がない。従って、製造効率やコストの面からも好ましいものとすることができ、例えば有機EL素子における有機EL層や、カラーフィルタの画素部等、様々な機能性部を有する機能性素子の製造方法に適用することが可能である。
【0034】
以下、本発明の機能性素子の製造方法の特徴である温度調整について最初に説明し、その後、本発明の機機能性層形成工程に用いられる各構成について説明する。
【0035】
1.温度調整
まず、本発明の特徴である、機能性素子の製造方法における温度調整について説明する。本発明の機能性素子の製造方法における温度調整は、後述する機能性層を形成する際に、吐出法によって滴下された機能性層形成用塗工液の温度を調整することにより行われるものである。上記機能性層形成用塗工液の温度を調整することにより、上記機能性層形成用塗工液に含有される溶媒の揮発速度等を調整することができ、形成された機能性層の形状を制御することが可能となるのである。
【0036】
ここで、本発明における温度調整は、後述する機能性層形成工程により形成された機能性層のうち、機能性部として用いられる領域である有効領域における最大膜厚(Tmax)と最小膜厚(Tmin)とが、
Tmax/Tmin≦2
となるように行われる。本発明においては、中でも
Tmax/Tmin≦1.5
特に
Tmax/Tmin≦1.2
であることが好ましい。これにより、本発明により製造された機能性素子が光学デバイスである場合には、上記機能性部の膜厚の差によって画素内の表示むらや色むら、デバイス寿命の短命化等が生じることを防ぐことができ、また製造された機能性素子が電子デバイスである場合には、上記機能性部の膜厚の差によって電気特性の差等が生じることを防止することができるからである。
【0037】
ここで、上記有効領域とは、例えば図1に示すように、形成された機能性層4のうち、実際に機能性素子における機能性部として機能する領域aである。これは、例えば図3に示すように、上記機能性層が有機EL素子における発光層である場合、基板1上には絶縁層5等とともに発光層4が設けられる。この場合、通常発光層4は、絶縁層5等にかかるように形成され、実際に発光部(機能性部)として機能する有効領域としては、図中に示すaの領域となる。また、本発明により製造される機能性層がカラーフィルタにおける着色層である場合においても、通常、着色層がブラックマトリックスにかかるように形成される。従って、本発明においては、上記機能性層の全領域が平坦性を有する必要はなく、機能性部として用いられる有効領域において、機能性層が平坦性を有するものであればよいのである。なお、本発明には、製造される機能性素子の種類により、上記機能性層の全領域が有効領域とされるものも含まれる。
【0038】
ここで、本発明における上記機能性層形成用塗工液の温度を調整する方法としては、上記機能性層形成用塗工液を吐出する際に、温度を調整するものであってもよく、また上記機能性層形成用塗工液が吐出装置より吐出され、基板に着弾する際に温度が調整されるものであってもよい。また、これらを組み合わせて行われるものであってもよい。
【0039】
本発明においては上記の中でも、上記機能性層形成用塗工液が吐出装置より吐出され、基板に着弾する際に温度が調整される際に温度が調整される場合、すなわち基板の温度を調整することにより行われるものであることが好ましい。上記吐出装置より吐出される機能性層形成用塗工液の液滴は十分小さく、基板の温度を目的とする温度に保持することによって、上記機能性層形成用塗工液が着弾する際に、基板と機能性層形成用塗工液とを等しい温度とすることができ、上記機能性層形成用塗工液を目的とする温度とすることが可能となるのである。この基板の温度調整は、特別な装置等を必要とせず、また上記機能性層形成用塗工液の温度調整によって生じる粘度変化に対して、吐出装置の調整等をする必要がないことから、容易に行うことができるからである。
【0040】
ここで、本発明の機能性素子の製造方法においては、所定の温度で形成される機能性層の形状により、上記温度調整において、調整される温度が異なる。従って、本発明の機能性素子の製造方法により機能性素子を製造する前に、まず所定の温度で、本発明に用いられる基板上において、機能性層を形成する機能性層形成用領域に、機能性層形成用塗工液を吐出法により滴下後、乾燥固化させる機能性層形成工程(後で詳しく説明する。)を行い、形成された機能性層の形状を検査する。上記検査により、形成された機能性層の形状が、例えば図4に示すように、機能性層の中心部が凹形状の場合と、例えば図5に示すように、機能性層の中心部が凸形状の場合とに分けられる。以下、それぞれの場合の温度調整について説明する。
【0041】
なお、本発明でいう所定の温度とは、機能性素子の製造が行われる環境の温度をいうこととし、通常は室温と同じ温度とされるものであり、具体的には0℃〜50℃の範囲内に通常設定される。
【0042】
(中心部が凹形状の場合)
まず、上記検査により機能性層の中心部が凹形状である場合の温度調整について説明する。上記検査によって、所定の温度により形成された機能性層の中心部が凹形状である場合には、本発明の機能性素子の製造方法における温度の調整は、滴下後の上記機能性層形成用塗工液の温度を低くすることにより行われる。これは、所定の温度において、上記機能性層形成用塗工液が、上記機能性層形成用領域上に塗布された際、上記機能性層形成用領域の端部における機能性層形成用塗工液中の揮発速度が速く、上述したように、中央部から外側への液体のフローが発生している。そこで、吐出法によって滴下された機能性層形成用塗工液の温度を低くすることにより、上記機能性層形成用領域端部における機能性層形成用塗工液中の溶媒の揮発速度を遅くすることができ、機能性層形成用領域中央部から外側への液体のフローを抑制し、機能性層の膜厚を平坦なものとすることができるのである。
【0043】
上記温度調整後の機能性層形成用塗工液の温度としては、機能性層形成用塗工液の種類や粘度、室温等により、適宜選択されるものであるが、上記検査を行う所定の温度より低い温度であって、通常所定の温度から1℃〜30℃低い温度、中でも3℃〜15℃低い温度の範囲内とされる。ここで、上記機能性層形成用塗工液の温度は、基板に着弾した際の温度とする。
【0044】
上記機能性層形成用塗工液の温度を上記範囲内とする方法としては、上記温度調整を吐出装置における吐出部分において行う場合には、インク温度調整機構を有する吐出装置を用いる方法等が挙げられる。また、上記温度調整を基板の温度を調整することにより行う場合には、基板を保持する基板保持部を水冷する方法や、上記基板保持部をペルチェ素子により冷却する方法等が挙げられる。本発明においては、上述したように、上記基板の温度を調整することにより、上記温度調整を行うことが好ましく、上記の方法の中でもペルチェ素子を用いた方法であることが好ましい。また、この際の基板の温度は、通常所定の温度より1℃〜30℃低い温度、中でも3℃〜15℃低い温度とされることが好ましい。
【0045】
また、本発明においては、後述するインク温度調整機構や、基板温度調整機構を有するインクジェット装置を用いて行うことも可能であり、上記温度調整と、上記機能性層形成用塗工液の塗布とを同じ装置によって行うことが可能となることから、後述するインクジェット装置を用いることが好ましい。またこの際、上記温度調整の際に水分結露の発生を抑制するために、窒素ガスや乾燥空気の雰囲気下で行うことが好ましい。
【0046】
なお、上記温度は、通常上記機能性層形成用塗工液が乾燥硬化する間保持されることが好ましい。
【0047】
(中心部が凸形状の場合)
次に、上記検査により機能性層の中心部が凸形状である場合の温度調整について説明する。上記検査によって、所定の温度により形成された機能性層の中心部が凸形状である場合には、本発明の機能性素子の製造方法における温度調整は、滴下後の上記機能性層形成用塗工液の温度を高くすることにより行われる。これは、所定の温度において、上記機能性層形成用塗工液が、上記機能性層形成用領域上に塗布された際、上記機能性層形成用領域中央部から外側への液体のフローが不足している。そこで、吐出法によって滴下された機能性層形成用塗工液の温度を高くすることにより、上記機能性層形成用領域中央部から外側への液体のフローを促進し、機能性層の膜厚を平坦なものとすることができるのである。
【0048】
上記温度調整後の機能性層形成用塗工液の温度としては、機能性層形成用塗工液の種類や粘度や室温等により、適宜選択されるものであるが、上記検査を行う所定の温度より高い温度であって、通常所定の温度から1℃〜30℃高い温度、中でも3℃〜15℃高い温度の範囲内とされる。
【0049】
上記機能性層形成用塗工液の温度を上記範囲内とする方法としては、上記温度調整を吐出装置における吐出部分において行う場合には、インク温度調整機構を有する吐出装置を用いる方法等が挙げられる。また、上記温度調整を基板の温度を調整することにより行う場合には、ホットプレートや、ペルチェ素子等を用いる方法が挙げられる。また、この場合においても、上述したように、上記基板の温度を調整することにより、上記温度調整を行うことが好ましく、上記の方法の中でもペルチェ素子を用いる方法であることが好ましい。また、この際の基板の温度は、通常所定の温度より1℃〜30℃高い温度、中でも3℃〜15℃高い温度とされることが好ましい。
【0050】
また、本発明においては、後述するインク温度調整機構や、基板温度調整機構を有するインクジェット装置を用いて行うことも可能であり、上記温度調整と、上記機能性層形成用塗工液の塗布とを同一の装置において行うことが可能となる面から、後述するインクジェット装置を用いることが好ましい。
【0051】
なお、上記温度は通常、上記機能性層形成用塗工液が乾燥硬化する間保持されることが好ましい。
【0052】
2.機能性層形成工程
次に、本発明の機能性素子の製造方法における機能性層形成工程について説明する。本発明の機能性素子の製造方法における機能性層形成工程は、基板上に、溶媒を含有する機能性層形成用塗工液を、機能性層を形成する領域である機能性層形成用領域に吐出法により滴下後、乾燥固化させる工程である。以下、この機能性層形成工程について、各構成ごとに説明する。
【0053】
(基板)
まず、本発明に用いられる基板について説明する。本発明に用いられる基板は、後述する機能性層形成用塗工液が塗布され、機能性層が形成されるものである。本発明においては、機能性層を形成する領域である機能性層形成用領域に、上記機能性層形成用塗工液を塗布することが可能であれば、その基板の種類等は特に限定されるものではなく、製造される機能性素子の種類や用途により適宜選択されるものである。また、透明性や可撓性等についても適宜選択される。
【0054】
ここで、上記機能性層形成用領域とは、上記基板上において機能性層が形成される領域である。本発明においては、上記機能性層形成用領域が、機能性層を形成しない領域と異なる性質を有することが、高精細に機能性層を形成することが可能となることから好ましい。本発明においては、特に濡れ性が異なることが好ましく、上記基板が撥液性領域、上記機能性層形成用領域が親液性領域とされていることが好ましい。これにより、後述する吐出法によって機能性層形成用塗工液を塗布した際に、上記基板上においては機能性層形成用塗工液がはじかれて付着せず、親液性領域である上記機能性層形成用領域のみに機能性層形成用塗工液が塗布され、目的とする形状に、機能性層を容易に形成することが可能となるからである。
【0055】
ここで、親液性領域とは、液体との接触角が小さい領域であり、後述する機能性部用組成物等に対する濡れ性の良好な領域をいうこととする。また、撥液性領域とは、液体との接触角が大きい領域であり、後述する機能性部用組成物等に対する濡れ性が悪い領域をいうこととする。
【0056】
なお、本発明においては、隣接する領域の液体との接触角より、液体との接触角が1°以上低い場合には親液性領域、隣接する領域の液体との接触角より、液体との接触角が1°以上高い場合には撥液性領域とすることとする。
【0057】
ここで、上記親液性領域と撥液性領域との、後述する機能性層形成用塗工液に対する接触角が、少なくとも1°以上、好ましくは5°以上、特に10°以上異なることが好ましい。
【0058】
上述したような、基材上を撥液性領域、機能性層形成用領域を親液性領域とする方法については、後述する「3.その他」の項で説明するので、ここでの説明は省略する。
【0059】
また、本発明においては、上記機能性層形成用領域の外周部に隔壁が設けられており、この隔壁により機能性層形成用領域と、機能性層を形成しない領域とが区切られているものであってもよい。この隔壁についても、後述するので、ここでの説明は省略する。
【0060】
またさらに、本発明に用いられる基板上には、機能性素子の種類や必要に応じて、例えば有機EL素子における絶縁層等、種々の部材が形成されているものであってもよい。
【0061】
(吐出法)
次に、本発明に用いられる吐出法について説明する。本発明においては、上記機能性層形成用領域上に、吐出法により後述する機能性層形成用塗工液が塗布される。本発明に用いられる吐出法としては特に限定されるものではなく、例えばディスペンサー法やインクジェット法等が挙げられるが、本発明においては、中でもインクジェット法であることが好ましい。これにより、目的とするパターン状に機能性層を容易に形成することができ、また製造装置の簡略化やランニングコスト等の面からも好ましいからである。
【0062】
なお、本発明においては、後述するインク温度調整機構または基板温度調整機構を有するインクジェット装置を用いて行われることが好ましい。これにより、上述した温度調整を、上記機能性層形成用塗工液の塗布と同一の装置により行うことが可能となるからである。
【0063】
(機能性層形成用塗工液)
次に、本発明に用いられる機能性層形成用塗工液について説明する。本発明に用いられる機能性層形成用塗工液は、溶媒を含有するものであり、上述した基材上の機能性層を形成する機能性層形成用領域上に、上記吐出法により滴下された後、乾燥固化されることにより機能性層を形成するものである。
【0064】
ここで、本発明に用いられる機能性層形成用塗工液は、製造される機能性素子における機能性層の種類により適宜選択されるものであり、例えば有機EL素子における発光層を形成する発光層形成用塗工液や、カラーフィルタにおける着色層を形成する着色層形成用塗工液等が挙げられる。
【0065】
本発明においては、上記吐出法の中でも特にインクジェット法により塗布されることが好ましく、このようなインクジェット法に用いられる機能性層形成用塗工液の性質としては、溶媒を含み、粘性が低く、高沸点であること等が挙げられる。上記性質を有する機能性層形成用塗工液とすることにより、ノズル口から速やかに滞りなく塗工液を吐出させることができ、かつノズル内壁への塗工液の残存を防止し、塗工液の側面からインクジェット法の塗布精度を向上させることができるからである。
【0066】
このような機能性層形成用塗工液に含有される溶媒の種類は、特に限定されるものではなく、目的とする機能性層の種類に応じて適宜選択され、水系であっても非水系であってもよい。また、所定の温度での飽和蒸気圧が10mmHg以上の速乾性溶媒、所定の温度での飽和蒸気圧が10mmHg以下の遅乾性溶媒であってもよく、さらにこれらを組み合わせて用いてもよい。
【0067】
(乾燥固化)
次に、本発明においては、上述した機能性層形成用領域上に形成された機能性層形成用塗工液の乾燥固化(もしくは硬化)が行われる。本発明においては、上記機能性層形成用塗工液の乾燥固化は、上記温度調整の項で説明した温度で行われるものである。本発明においては、上記機能性層形成用塗工液中の溶媒を揮発させることが可能であれば、その方法は特に限定されるものではなく、吐出法により形成された膜の乾燥に通常行われる方法を用いることが可能である。
【0068】
3.その他
本発明においては、上述したように、上記機能性層形成用領域が、機能性層を形成しない領域と異なる性質を有することが、高精細に機能性層を形成することが可能となる面からから好ましく、特に濡れ性が異なることが好ましい。本発明においては、濡れ性の異なる領域を形成可能とすることを実現するために、上記基板が、基材と、上記基材上に形成され、かつ光触媒およびバインダを有し、エネルギー照射に伴い上記光触媒の作用により液体との接触角が低下する濡れ性変化層とからなり、上記機能性層形成用領域が上記濡れ性変化層にエネルギー照射を行うことにより親液性領域とされたもの(第1の態様)であることが好ましい。これにより、エネルギー照射によって容易に、目的とするパターン状に親液性領域である機能性層形成用領域を形成することが可能となるからである。
【0069】
また、本発明においては、上記機能性層形成用領域の外周部に隔壁が設けられており、この隔壁により機能性層形成用領域と、機能性層を形成しない領域とが区切られているもの(第2の態様)であってもよい。上記どちらの態様においても、上述した基板における機能性層形成用領域上に機能性層形成用塗工液を塗布する際、目的とするパターン状に高精細に機能性層形成用塗工液を塗布することが可能となる。以下、それぞれの態様について説明する。
【0070】
(第1の態様)
まず、上記基板が、基材と、上記基材上に形成され、かつ光触媒およびバインダを有し、エネルギー照射に伴い上記光触媒の作用により液体との接触角が低下する濡れ性変化層とからなり、上記機能性層形成用領域が上記濡れ性変化層にエネルギー照射を行うことにより親液性領域とされたものである場合について説明する。本態様においては、上記基板が、基材とその基材上に形成された上記濡れ性変化層とから形成されていることから、エネルギー照射を行うことによって、容易に表面の濡れ性を低下させることができ、親液性領域を形成することができる。すなわち、上記濡れ性変化層上の上記機能性層形成用領域のみにエネルギーを照射することによって、容易に上記機能性層形成用領域を親液性領域とすることが可能となるのである。
【0071】
以下、本態様に用いられる各構成について説明する。
【0072】
(1)濡れ性変化層
本態様に用いられる濡れ性変化層は、後述する基材上に形成され、かつ光触媒およびバインダを有し、エネルギー照射に伴い上記光触媒の作用により液体との接触角が低下する層であれば特に限定されるものではない。
【0073】
本態様に用いられる濡れ性変化層は中でも、エネルギー照射していない部分、すなわち撥液性領域においては、40mN/mの液体との接触角が、10°以上、好ましくは表面張力30mN/mの液体との接触角が10°以上、特に表面張力20mN/mの液体との接触角が10°以上であることが好ましい。これは、エネルギー照射していない部分が撥液性が要求される部分であることから、上記液体との接触角が小さい場合は、撥液性が十分でなく、上記機能性層形成用塗工液を塗布した際に、撥液性領域にも機能性層形成用塗工液が付着する可能性があるからである。
【0074】
また、上記濡れ性変化層は、エネルギー照射された部分、すなわち親液性領域においては、40mN/mの液体との接触角が9°未満、好ましくは表面張力50mN/mの液体との接触角が10°以下、特に表面張力60mN/mの液体との接触角が10°以下となるような層であることが好ましい。エネルギー照射された部分、すなわち親液性領域における液体との接触角が高い場合は、上記機能性層形成用塗工液を親液性領域においてもはじいてしまう可能性があり、機能性層形成用塗工液が十分に塗れ広がらず、機能性層を形成することが困難となる場合があるからである。
【0075】
なお、ここでいう液体との接触角は、種々の表面張力を有する液体との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得たものである。また、この測定に際して、種々の表面張力を有する液体としては、純正化学株式会社製のぬれ指数標準液を用いた。
【0076】
本態様に用いられる濡れ性変化層は、この濡れ性変化層中にフッ素が含有され、さらにこの濡れ性変化層表面のフッ素含有量が、濡れ性変化層に対しエネルギーを照射した際に、上記光触媒の作用によりエネルギー照射前に比較して低下するように上記濡れ性変化層が形成されていてもよく、またエネルギー照射による光触媒の作用により分解され、これにより濡れ性変化層上の濡れ性を変化させることができる分解物質を含むように形成されていてもよい。
【0077】
上述したような濡れ性変化層における、後述するような二酸化チタンに代表される光触媒の作用機構は、必ずしも明確なものではないが、光の照射によって生成したキャリアが、近傍の化合物との直接反応、あるいは、酸素、水の存在下で生じた活性酸素種によって、有機物の化学構造に変化を及ぼすものと考えられている。本態様においては、このキャリアが濡れ性変化層内のバインダ化合物に作用を及ぼし、その表面の濡れ性を変化させるものであると考えられる。
【0078】
以下、このような濡れ性変化層を構成する、光触媒、バインダ、およびその他の成分について説明する。
【0079】
a.光触媒
まず、本態様に用いられる光触媒について説明する。本態様に用いられる光触媒としては、光半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、および酸化鉄(Fe)を挙げることができ、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0080】
本態様においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本態様ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
【0081】
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
【0082】
光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径か50nm以下が好ましく、20nm以下の光触媒を使用するのが特に好ましい。
【0083】
本態様に用いられる濡れ性変化層中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。また、濡れ性変化層の厚みは、0.05〜10μmの範囲内が好ましい。
【0084】
b.バインダ
次に、本態様に用いられるバインダについて説明する。本態様においては、濡れ性変化層上の濡れ性の変化をバインダ自体に光触媒が作用することにより行う場合(第1の形態)と、エネルギー照射による光触媒の作用により分解され、これにより濡れ性変化層上の濡れ性を変化させることができる分解物質を濡れ性変化層に含有させることにより変化させる場合(第2の形態)と、これらを組み合わせることにより行う場合(第3の形態)の三つ形態に分けることができる。上記第1の形態および第3の形態において用いられるバインダは、光触媒の作用により濡れ性変化層上の濡れ性を変化させることができる機能を有する必要があり、上記第2の形態では、このような機能は特に必要ない。
【0085】
以下、まず第2の形態に用いられるバインダ、すなわち光触媒の作用により濡れ性変化層上の濡れ性を変化させる機能を特に必要としないバインダについて説明し、次に第1の形態および第3の形態に用いられるバインダ、すなわち光触媒の作用により濡れ性変化層上の濡れ性を変化させる機能を有するバインダについて説明する。
【0086】
上記第2の形態に用いられる、光触媒の作用により濡れ性変化層上の濡れ性を変化させる機能を特に必要としないバインダとしては、主骨格が上記光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、有機置換基を有しない、もしくは多少有機置換基を有するポリシロキサンを挙げることができ、これらはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を加水分解、重縮合することにより得ることができる。
【0087】
このようなバインダを用いた場合は、添加剤としてエネルギー照射による光触媒の作用により分解され、これにより濡れ性変化層上の濡れ性を変化させることができる分解物質を濡れ性変化層中に含有させることが必須となる。
【0088】
次に、上記第1の形態および第3の形態に用いられる、光触媒の作用により濡れ性変化層上の濡れ性を変化させる機能を必要とするバインダについて説明する。このようなバインダとしては、主骨格が上記の光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであって、光触媒の作用により分解されるような有機置換基を有するものが好ましく、例えば、(1)ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)撥水牲や撥油性に優れた反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
【0089】
上記の(1)の場合、一般式:
SiX(4−n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。なお、ここでYで示される基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましく、また、Xで示されるアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
【0090】
また、バインダとして、特にフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンが好ましく用いることができ、具体的には、下記のフルオロアルキルシランの1種または2種以上の加水分解縮合物、共加水分解縮合物が挙げられ、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られたものを使用することができる。
CF(CFCHCHSi(OCH
CF(CFCHCHSi(OCH
CF(CFCHCHSi(OCH
CF(CFCHCHSi(OCH
(CFCF(CFCHCHSi(OCH
(CFCF(CFCHCHSi(OCH
(CFCF(CFCHCHSi(OCH
CF(C)CSi(OCH
CF(CF(C)CSi(OCH
CF(CF(C)CSi(OCH
CF(CF(C)CSi(OCH
CF(CFCHCHSiCH(OCH
CF(CFCHCHSiCH(OCH
CF(CFCHCHSiCH(OCH
CF(CFCHCHSiCH(OCH
(CFCF(CFCHCHSiCH(OCH
(CFCF(CFCHCHSi CH(OCH
(CFCF(CFCHCHSi CH(OCH
CF(C)CSiCH(OCH
CF(CF(C)CSiCH(OCH
CF(CF(C)CSiCH(OCH
CF(CF(C)CSiCH(OCH
CF(CFCHCHSi(OCHCH
CF(CFCHCHSi(OCHCH
CF(CFCHCHSi(OCHCH
CF(CFCHCHSi(OCHCH
CF(CFSON(C)CCHSi(OCH
上記のようなフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンをバインダとして用いることにより、濡れ性変化層のエネルギー未照射部の撥液性が大きく向上し、上記機能性層形成用塗工液の付着を妨げる機能を発現する。
【0091】
また、上記の(2)の反応性シリコーンとしては、下記一般式で表される骨格をもつ化合物を挙げることができる。
【0092】
【化1】



ただし、nは2以上の整数であり、R,Rはそれぞれ炭素数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アリールあるいはシアノアルキル基であり、モル比で全体の40%以下がビニル、フェニル、ハロゲン化フェニルである。また、R、Rがメチル基のものが表面エネルギーが最も小さくなるので好ましく、モル比でメチル基が60%以上であることが好ましい。また、鎖末端もしくは側鎖には、分子鎖中に少なくとも1個以上の水酸基等の反応性基を有する。
【0093】
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコン化合物をバインダに混合してもよい。
【0094】
c.分解物質
上記第2の形態および第3の形態においては、さらにエネルギー照射による光触媒の作用により分解され、これにより濡れ性変化層上の濡れ性を変化させることができる分解物質を濡れ性変化層に含有させる必要がある。すなわち、バインダ自体に濡れ性変化層上の濡れ性を変化させる機能が無い場合、およびそのような機能が不足している場合に、上述したような分解物質を添加して、上記濡れ性変化層上の濡れ性の変化を起こさせる、もしくはそのような変化を補助させるようにするのである。
【0095】
このような分解物質としては、光触媒の作用により分解し、かつ分解されることにより濡れ性変化層表面の濡れ性を変化させる機能を有する界面活性剤を挙げることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
【0096】
また、界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を挙げることができる。
【0097】
d.フッ素の含有
また、本態様においては、濡れ性変化層がフッ素を含有し、さらにこの濡れ性変化層表面のフッ素含有量が、濡れ性変化層に対しエネルギーを照射した際に、上記光触媒の作用によりエネルギー照射前に比較して低下するように上記濡れ性変化層が形成されていることが好ましい。
【0098】
このような特徴を有する濡れ性変化層であれば、エネルギーをパターン照射することにより、後述するように容易にフッ素の含有量の少ない部分からなるパターンを形成することができる。ここで、フッ素は極めて低い表面エネルギーを有するものであり、このためフッ素を多く含有する物質の表面は、臨界表面張力がより小さくなる。したがって、フッ素の含有量の多い部分の表面の臨界表面張力に比較してフッ素の含有量の少ない部分の臨界表面張力は大きくなる。これはすなわち、フッ素含有量の少ない部分はフッ素含有量の多い部分に比較して親液性領域となっていることを意味する。よって、周囲の表面に比較してフッ素含有量の少ない部分からなるパターンを形成することは、撥液性域内に親液性領域のパターンを形成することとなる。
【0099】
したがって、このような濡れ性変化層を用いた場合は、エネルギーをパターン照射することにより、上記機能性層形成用塗工液を塗布し、高精細な機能性層を形成することが可能となるからである。
【0100】
上述したような、フッ素を含む濡れ性変化層中に含まれるフッ素の含有量としては、エネルギーが照射されて形成されたフッ素含有量が低い親液性領域におけるフッ素含有量が、エネルギー照射されていない部分のフッ素含有量を100とした場合に10以下、好ましくは5以下、特に好ましくは1以下であることが好ましい。
【0101】
このような範囲内とすることにより、エネルギー照射部分と未照射部分との親液性に大きな違いを生じさせることができる。したがって、このような濡れ性変化層に、例えば上記機能性層形成用塗工液を塗布することにより、フッ素含有量が低下した親液性領域のみに正確に機能性層を形成することが可能となるからである。なお、この低下率は重量を基準としたものである。
【0102】
このような濡れ性変化層中のフッ素含有量の測定は、一般的に行われている種々の方法を用いることが可能であり、例えばX線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy, ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とも称される。)、蛍光X線分析法、質量分析法等の定量的に表面のフッ素の量を測定できる方法であれば特に限定されるものではない。
【0103】
また、本態様においては、光触媒として上述したように二酸化チタンが好適に用いられるが、このように二酸化チタンを用いた場合の、濡れ性変化層中に含まれるフッ素の含有量としては、X線光電子分光法で分析して定量化すると、チタン(Ti)元素を100とした場合に、フッ素(F)元素が500以上、このましくは800以上、特に好ましくは1200以上となる比率でフッ素(F)元素が濡れ性変化層表面に含まれていることが好ましい。
【0104】
フッ素(F)が濡れ性変化層にこの程度含まれることにより、濡れ性変化層上における臨界表面張力を十分低くすることが可能となることから表面における撥液性を確保でき、これによりエネルギーをパターン照射してフッ素含有量を減少させたパターン部分における表面の親液性領域との濡れ性の差異を大きくすることができるからである。
【0105】
さらに、エネルギーをパターン照射して形成される親インク領域におけるフッ素含有量が、チタン(Ti)元素を100とした場合にフッ素(F)元素が50以下、好ましくは20以下、特に好ましくは10以下となる比率で含まれていることが好ましい。
【0106】
濡れ性変化層中のフッ素の含有率をこの程度低減することができれば、機能性層を形成するためには十分な親液性を得ることができ、上記エネルギーが未照射である部分の撥液性との濡れ性の差異により、機能性層を精度良く形成することが可能となる。
【0107】
e.濡れ性変化層の製造方法
上述したようにオルガノポリシロキサンをバインダとして用いた場合は、上記濡れ性変化層は、光触媒とバインダであるオルガノポリシロキサンとを必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を基材上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディッブコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。バインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより、濡れ性変化層を形成することができる。
【0108】
(2)基材
次に、本態様に用いられる基材について説明する。本態様に用いられる基材は、上記濡れ性変化層が形成可能であれば、特に限定されるものではなく、製造される機能性素子の種類や用途により適宜選択されるものである。また、透明性や可撓性についても適宜選択されるものである。
【0109】
なお、本態様においては、基材表面と上記濡れ性変化層等との密着性を向上させるために、基材上にアンカー層を形成するようにしてもよい。このようなアンカー層としては、例えば、シラン系、チタン系のカップリング剤等を挙げることができる。
【0110】
(3)親液性領域(機能性層形成用領域)の形成
次に、親液性領域(機能性層形成用領域)の形成について説明する。本態様においては、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、上述した濡れ性変化層の濡れ性を変化させ、機能性層を形成する領域である機能性層形成用領域を親液性領域とする。
【0111】
本態様における上記親液性領域の形成は、例えば図6に示すように、上記基材11上に形成された上記濡れ性変化層12に、例えばフォトマスク13等のマスクを用いてエネルギー14を照射する(図6(a))。これにより、エネルギー照射された領域の濡れ性変化層12上の濡れ性が変化し、親液性領域とされた機能性層形成用領域15とすることができるのである(図6(b))。
【0112】
なお、本態様でいうエネルギー照射(露光)とは、上記濡れ性変化層の濡れ性を変化させることが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、可視光の照射に限定されるものではない。
【0113】
通常このようなエネルギー照射に用いる光の波長は、400nm以下の範囲、好ましくは380nm以下の範囲から設定される。これは、上述したように光触媒に二酸化チタンが好ましく用いられ、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
【0114】
このようなエネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。
【0115】
上述したような光源を用い、フォトマスクを介したパターン照射により行う方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。
【0116】
また、エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、濡れ性変化層が光触媒の作用により濡れ性が変化するのに必要な照射量とする。
【0117】
この際、上記濡れ性変化層を加熱しながらエネルギー照射することにより、感度を上昇させことが可能となり、効率的な濡れ性の変化を行うことができる点で好ましい。具体的には30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。
【0118】
(第2の態様)
次に、上記機能性層形成用領域の外周部に、隔壁が設けられており、この隔壁により機能性層形成用領域と、機能性層を形成しない領域とが区切られている場合について説明する。本態様は、例えば図7に示すように、基板1上に、隔壁6が設けられており、この隔壁6により上記機能性層形成用領域bと、機能性層を形成しない領域とが区切られているものである。上記隔壁は、上記機能性層形成用領域と、上記機能性層を形成しない領域とを区切るものであれば、特に限定されるものではなく、例えばカラーフィルタにおけるブラックマトリックス等であってもよい。ここで、本態様においては、例えば図8に示すように、隔壁6の高さcが、形成された機能性層4の最大膜厚Tmaxより低い場合には、隔壁6は親液性であっても撥液性であってもよいが、例えば図9に示すように、隔壁6の高さcが、形成された機能性層4の最大膜厚Tmaxより高い場合には、隔壁6は撥液性であることが必要とされる。これは、形成された機能性層の最大膜厚より、高さが高い隔壁が親液性である場合には、隔壁と隔壁との間に塗布された機能性層形成用塗工液が、隔壁による影響を受けるため、上記温度調整によって、上記機能性層形成用塗工液中に含有される溶媒の揮発速度に伴うフローを制御することが困難となり、本発明の効果を期し難いからである。なお、ここでいう親液性および撥液性とは、上記第1の態様で説明した親液性領域における親液性、および撥液性領域における撥液性と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0119】
またこの際、上記機能性層形成用領域は親液性であることが好ましい。上記機能性層形成用領域が撥液性である場合には、機能性層形成用塗工液をはじいてしまい、均一な機能性層を形成することが困難となる。またさらに、機能性層形成用塗工液の撥液性の影響を受けることにより、上述した温度調整によって、上記機能性層形成用塗工液中に含有される溶媒の揮発速度に伴うフローを制御することが困難となる場合があるからである。
【0120】
B.有機EL素子の製造方法
次に、本発明の有機EL素子の製造方法について説明する。本発明の有機EL素子の製造方法は、上述した機能性素子の製造方法により製造される上記機能性部が、少なくとも発光層を有する有機EL層であることを特徴とするものである。本発明によれば、有機EL素子における有機EL層が、上述した機能性素子の製造方法により製造されることにより、有機EL層の膜厚を均一なものとすることができ、色ムラやデバイス寿命の短命化等の少ない、高品質な有機EL素子とすることができるのである。
【0121】
本発明における有機EL素子の製造方法は、例えば図10に示すように、透明基材1上に、第1電極層15をフォトリソグラフィー法等によりパターン状に形成し、その第1電極層15の端部を覆うように絶縁層5を形成する。その後、絶縁層より幅が狭くなるように撥液性の隔壁6を形成する(図10(a))。
【0122】
続いて、例えばインクジェット装置3によりR、G、B各色の発光層形成用塗工液2を、上記第1電極層15上である、上記隔壁6間に塗布し(図10(b))、上述した温度調整を行うことにより、平坦な発光層4を形成する(図10(c))。さらに、その発光層4上に第2電極層16を形成することにより有機EL素子とする(図10(d))方法等とすることができる。
【0123】
本発明により製造される有機EL素子は、上記の有機EL素子に限定されるものではなく、例えば第1電極層上に正孔注入層を形成するものであってもよく、また発光層形成後に、電子注入層や電子輸送層、電荷ブロッキング層等を形成するものであってもよい。
【0124】
また、上記「A.機能性素子の製造方法」で説明した濡れ性変化層等が形成されているものであってもよい。
【0125】
なお、本発明に用いられる有機EL素子の各構成等に用いられる材料等は、通常有機EL素子の製造方法に用いられる材料を用いることが可能であるので、ここでの説明は省略する。
【0126】
C.インクジェット装置
次に、本発明のインクジェット装置について説明する。本発明のインクジェット装置には、2つの態様がある。第1の態様は、インクを吐出する吐出部および上記インクが吐出される基板を保持する基板保持部とを有するインクジェット装置であって、上記インクの温度を調整するインク温度調整機構を有するものであり、第2の態様は、インクを吐出する吐出部および上記インクが吐出される基板を保持する基板保持部とを有するインクジェット装置であって、上記基板の温度を調整する基板温度調整機構を有するものである。
【0127】
上記どちらの態様においても、吐出部により吐出されたインクの温度を調整することが可能となる。これにより、上記インクジェット装置により塗布されたインクの溶剤の揮発速度を調整することが可能となり、形成された膜の形状を制御することが可能となるのである。
【0128】
以下、それぞれの態様についてわけて説明する。
【0129】
1.第1の態様
まず、本発明のインクジェット装置の第1の態様について説明する。本発明のインクジェット装置の第1の態様は、インクを吐出する吐出部および上記インクが吐出される基板を保持する基板保持部とを有するインクジェット装置であって、上記インクの温度を調整するインク温度調整機構を有するものである。
【0130】
本態様のインクジェット装置は、上記インクジェット装置から吐出されるインクの温度を調整することにより、吐出されたインクの温度の調整をすることに特徴を有するものである。以下、本態様のインクジェット装置の各構成について説明する。
【0131】
(吐出部)
まず、本態様のインクジェット装置における吐出部について説明する。本態様に用いられる吐出部は、インクを吐出する部材であり、通常インクジェット装置に用いられる吐出部を用いることが可能である。
【0132】
本発明におけるインクの吐出方法としては、特に限定されるものではなく、例えば帯電したインクを連続的に噴射し磁場によって制御する方法、圧電素子を用いて間欠的にインクを噴射する方法、インクを加熱しその発泡を利用して間欠的に噴射する方法等の各種の方法を用いることが可能である。
【0133】
(基板保持部)
次に、本発明のインクジェット装置に用いられる基板保持部について説明する。本発明のインクジェット装置に用いられる基板保持部は、上述した吐出部より吐出されたインクを塗布する対象である基板を保持するものである。本発明においては、基板を保持することが可能であれば特に限定されるものではなく、通常上記吐出部と、X、Y、Z方向に相対的に移動可能なものとされる。
【0134】
(インク温度調整機構)
次に、本態様のインクジェット装置に用いられるインク温度調整機構について説明する。本態様に用いられるインク温度調整機構は、上記吐出部から吐出されるインクの温度を目的とする温度に保持することが可能であれば、特に限定されるものではなく、例えば上記吐出部にインクを供給するためにインクを保持する例えばタンク等の温度を調整する機構であってもよく、また上記吐出部の温度を所定の温度に保持し、吐出されるインクの温度を調整するものであってもよい。
【0135】
2.第2の態様
次に、本発明のインクジェット装置における第2の態様について説明する。本発明のインクジェット装置における第2の態様は、インクを吐出する吐出部および上記インクが吐出される基板を保持する基板保持部とを有するインクジェット装置であって、上記基板の温度を調整する基板温度調整機構を有するものである。
【0136】
本発明によれば、上記吐出部より吐出される機能性層形成用塗工液の液滴は十分小さい。従って上記基板温度調整機構により、基板の温度を目的とする温度に保持することによって、上記機能性層形成用塗工液が着弾する際に、基板と機能性層形成用塗工液とを等しい温度とすることができ、上記機能性層形成用塗工液を目的とする温度とすることが可能となるのである。
【0137】
以下、本態様のインクジェット装置の基板温度調整機構について説明する。なお、吐出部および基板保持部については、上述した第1の態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0138】
(基板温度調整機構)
本態様のインクジェット装置に用いられる基板温度調整機構について説明する。本態様に用いられる基板温度調整機構は、上記吐出部から吐出された基板の温度を目的とする温度に保持することが可能であれば、特に限定されるものではなく、例えば水やペルチェ素子により冷却する冷却機構および加熱機構を有するものが挙げられる。
【0139】
3.その他
本発明のインクジェット装置は、上記インク温度調整機構および基板温度調整機構を有するものであってもよい。
【0140】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0141】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明をさらに説明する。
【0142】
[実施例1]
(基板の作製)
200μmの厚さのPET上にITOをスパッタにより成膜し、80μmの線幅のITOを20μmの間隔でパターニングした後、ITOパターンのエッジを被うようにITOの間を厚さ1μmの絶縁層をフォトリソグラフィー法により形成した。絶縁層にはレジストとしてZPP−1850(日本ゼオン(株))を用いた。
【0143】
次に、下記組成の光触媒含有層用の塗布液を調整した。



上記の光触媒含有層塗液を上記基板上に塗布し、150℃、10分間の乾燥処理後、加水分解、重縮合反応を進行させて、光触媒がオルガノシロキサン中に強固に固定された透明な光触媒含有層を厚み20nmに形成した。
【0144】
続いて、上記の光触媒含有層にマスクを介して水銀灯(波長365nm)により70mW/cmの照度で50秒間パターン照射を行い、照射部位と非照射部位との水に対する接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定した結果(マイクロシリンジから水滴を滴下して30秒後)、非照射部位における水の接触角は142°であるのに対し、照射部位における水の接触角は10°以下であり、照射部位と非照射部位との濡れ性の相違によるパターン形成が可能なことが確認された。
【0145】
(発光層形成用塗工液の準備)
次に、発光層として以下の組成物を発光層形成用塗工液として準備した。
・ポリビニルカルバゾール 7重量部
・発光色素(R,G,B) 0.1重量部
・オキサジアゾール化合物 3重量部
・テトラリン 990重量部
上記発光層形成用塗工液の濃度を測定したところ、粘度は12m・Pa・sであった。
【0146】
(発光層形成用塗工液の塗布)
次に、チラーによる水冷式冷却機構、加熱機構および温度制御機構を持つ基板ステージ上に上述した基板をセットした。このとき、室温は21℃であった。
【0147】
続いて、上述した基板温度を18℃に保持しながら、インクジェット法により前記発光層形成用塗工液(R、G、B)のインクを発光層形成用領域である親液性領域にそれぞれ形成した。目視により溶剤乾燥を確認した後、膜中残留溶剤を除去するため、窒素中で100℃、1時間乾燥を行った。
【0148】
(評価)
次に、以下の2つの評価を実施し、上記発光層領域(画素内)での平坦性の評価を実施した。
【0149】
<評価1>
上記基板上に第2電極として真空蒸着装置により、Caを1000Å、保護電極としてAlを2000Å成膜した。第1電極側を正極、第2電極側を負極に接続し、ソースメーターにより直流電流を印可し、画素部の発光エリアの面積測定を、複数の印加電圧により行った。また、面積測定は印加電圧による(発光部の面積)/(開口部の面積)(ITO部)により計算を行った。表1に各温度での発光面積を示す。
【0150】
<評価2>
各基板を第2電極を形成しないで、インク塗布領域での発光層膜厚分布を触針式段差計により測定を行った。表2に各温度での画素内膜厚の最大値/最小値を示し、図11に各温度での画素内膜厚プロファイルを示す。
【0151】
[実施例2]
上記基板の温度を15℃とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0152】
[実施例3]
上記基板の温度を12℃とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0153】
[比較例1]
上記基板の温度を21℃とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0154】
[比較例2]
上記基板の温度を35℃とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0155】
【表1】



【0156】
【表2】



【0157】
[評価結果]
上記比較例1および比較例2の、室温(21℃)以上での膜形成では、画素内の膜厚分布が大きく、また、発光面積についても、発光開始電圧直後は非常に狭い領域しか発光しておらず、印加電圧が増加するにつれ発光面積は増加した。
【0158】
一方、実施例1から実施例3までの室温(21℃)以下での膜形成では、画素内膜厚は緩和する傾向が観察された。特に、実施例2および実施例3の、基板温度が15℃以下では非常に平坦であり、発光面積は開口部のほとんどの部分が発光部であった。また、発光開始電圧から電圧増加に伴う発光領域変化はほとんど観察されずほぼ一定であった。
【0159】
[実施例4]
(基板の調整)
ガラス基板上に第1電極としてITOが100μmピッチ(ITO幅80μm,スペース幅20μm)でパターニングされた基板を準備した。
【0160】
次に、絶縁層としてポジ型感光成材料であるOFPR−800(東京応化社製)を基板全面にスピンコーティング法により膜厚1.5μmとなるように成膜し、第1電極開口部が幅70μm、高さ70μmの矩形になるように開口部が設計されたフォトマスクを用いて、露光を行い、アルカリ現像液(NMD−3東京応化社製)により現像を行った。続いて、250℃、30分間加熱硬化処理を行い絶縁層とした。
【0161】
次に、撥インク性隔壁として、ポジ型感光性材料OFPR−800中に撥インク性を有するモノマーであるモディパー(日本油脂社製)を2wt%混合した溶液を基板全面に塗布した。続いて、第1電極が露出した領域よりも若干広い部分が開口部となるように設計されたフォトマスクを介して露光、現像を行い撥インク性隔壁を絶縁層よりも内側に形成し、250℃、30分間加熱硬化処理を行い撥インク性隔壁とした。撥インク性隔壁に対するインク接触角は64°、第1電極および絶縁層に対するインク接触角は10°以下であった。
【0162】
次に、正孔注入層として、Baytron P(バイエル社製)をインクジェット法により第1電極上に吐出し、200℃、1時間乾燥を行い膜中水分を完全に除去した。
【0163】
(発光層形成用塗工液の準備)
発光層として以下の組成物を発光層形成用塗工液として準備した。
・ポリビニルカルバゾール 7重量部
・発光色素(R,G,B) 0.1重量部
・オキサジアゾール化合物 3重量部
・シクロヘキシルベンゼン 990重量部
上記発光層形成用塗工液の濃度を測定したところ、粘度は14m・Pa・sであった。
【0164】
(発光層形成用塗工液の塗布)
次に、チラーによる水冷式冷却機構、加熱機構および温度制御機構を持つ基板ステージ上に上述した基板をセットした。このとき、室温は21℃であった。
【0165】
続いて、上述した基板温度を35℃に保持しながら、インクジェット法により前記発光層形成用塗工液(R、G、B)のインクを発光層形成用領域である親液性領域にそれぞれ形成した。目視により溶剤乾燥を確認した後、膜中残留溶剤を除去するため、窒素中で100℃、1時間乾燥を行った。
【0166】
(評価)
次に、以下の2つの評価を実施し、上記発光層領域(画素内)での平坦性の評価を実施した。
【0167】
<評価1>
上記基板上に第2電極として真空蒸着装置により、Caを1000Å、保護電極としてAlを2000Å成膜した。第1電極側を正極、第2電極側を負極に接続し、ソースメーターにより直流電流を印可し、画素部の発光エリアの面積測定を、複数の印加電圧により行った。また、面積測定は印加電圧による(発光部の面積)/(開口部の面積)(ITO部)により計算を行った。表3に各温度での発光面積を示す。
【0168】
<評価2>
各基板を第2電極を形成しないで、インク塗布領域での発光層膜厚分布を触針式段差計により測定を行った。表4に各温度での画素内膜厚の最大値/最小値を示し、図12に各温度での画素内膜厚プロファイルを示す。
【0169】
[実施例5]
上記基板の温度を30℃とした以外は、実施例4と同様に行った。
【0170】
[比較例3]
上記基板の温度を21℃とした以外は、実施例4と同様に行った。
【0171】
[比較例4]
上記基板の温度を13℃とした以外は、実施例4と同様に行った。
【0172】
[比較例5]
上記基板の温度を45℃とした以外は、実施例4と同様に行った。
【0173】
【表3】



【0174】
【表4】



【0175】
[評価結果]
上記比較例3および比較例4の室温以下での膜形成では、画素内の膜厚分布は中心部が厚く周辺部が薄いプロファイルとなり、また、発光面積は画素の周囲のみが発光する結果となった。
【0176】
一方、比較例5での膜形成では、膜厚分布は中心部が薄く、周辺部が厚いプロファイルとなり膜厚分布が増加した。
【0177】
実施例4および実施例5においては、非常に平坦であり、発光面積は開口部のほとんどの部分が発光部であった。また、発光開始電圧から電圧増加に伴う発光領域変化はほとんど観察されずほぼ一定であった。
【0178】
【発明の効果】
本発明によれば、吐出法により滴下された後の機能性層形成用塗工液の温度を調整することにより、上記機能性層形成用塗工液の溶媒の揮発速度を調整することが可能となり、機能性部として用いられる有効領域の膜厚の最大膜厚と最小膜厚との比が上記範囲内となるように形成することができる。これにより、特別な装置等が必要なく、例えばインクジェット法等によって効率よく、平坦な機能性部を有する機能性素子を製造することが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の機能性素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の機能性素子の製造方法における機能性層形成用塗工液の乾燥速度の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の機能性素子の製造方法における有効領域を説明するための図である。
【図4】凹形状に形成された機能性層の一例を示す概略断面図である。
【図5】凸形状に形成された機能性層の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の機能性素子の製造方法に用いられる基板の形成方法の一例を示した図である。
【図7】本発明の機能性素子の製造方法に用いられる基板の一例を示した概略断面図である。
【図8】本発明に用いられる隔壁の一例を示す概略断面図である。
【図9】本発明に用いられる隔壁の他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図11】本発明の実施例および比較例の膜厚プロファイルを示したグラフである。
【図12】本発明の実施例および比較例の膜厚プロファイルを示したグラフである。
【図13】機能性素子の製造方法の従来技術を示す工程図である。
【図14】インクジェット法による膜形成の際の乾燥速度およびインクのフローを説明するための図である。
【符号の説明】
1 … 基板
2 … 機能性層形成用塗工液
3 … インクジェット装置
4 … 機能性層
a … 有効領域
Tmax… 有効領域における最大膜厚
Tmin… 有効領域における最小膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、溶媒を含有する機能性層形成用塗工液を、機能性層を形成する領域である機能性層形成用領域に吐出法により滴下後、乾燥固化させて機能性層を形成する機能性層形成工程を有する機能性素子の製造方法において、前記機能性素子の機能性部として用いられる領域である前記機能性層内の有効領域における最大膜厚をTmax、最小膜厚をTminとした場合、
Tmax/Tmin≦2
となるように、滴下後の前記機能性層形成用塗工液の温度を調整することを特徴とする機能性素子の製造方法。
【請求項2】
前記温度の調整が、前記機能性層形成工程を所定の温度で行った場合の前記機能性層の形状を検査し、前記機能性層の中心部が凹形状の場合は温度を低くするものであり、前記機能性層の中心部が凸形状の場合は温度を高くするものであることを特徴とする請求項1に記載の機能性素子の製造方法。
【請求項3】
前記温度の調整を、前記基板の温度を変化させることにより行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機能性素子の製造方法。
【請求項4】
前記基板が撥液性であり、かつ前記機能性層形成用領域が親液性領域とされていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の機能性素子の製造方法。
【請求項5】
前記基板が、基材と、前記基材上に形成され、かつ光触媒およびバインダを有し、エネルギー照射に伴い前記光触媒の作用により液体との接触角が低下する濡れ性変化層とからなり、前記機能性層形成用領域が前記濡れ性変化層にエネルギー照射を行うことにより親液性領域とされたものであることを特徴とする請求項4に記載の機能性素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の機能性素子の製造方法より製造される前記機能性部が、少なくとも発光層を有する有機エレクトロルミネッセント層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法。
【請求項7】
インクを吐出する吐出部および前記インクが吐出される基板を保持する基板保持部とを有するインクジェット装置であって、前記インクの温度を調整するインク温度調整機構を有することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項8】
インクを吐出する吐出部および前記インクが吐出される基板を保持する基板保持部とを有するインクジェット装置であって、前記基板の温度を調整する基板温度調整機構を有することを特徴とするインクジェット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2004−327357(P2004−327357A)
【公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−123391(P2003−123391)
【出願日】平成15年4月28日(2003.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】