説明

気相成長装置

【課題】基板面に成長する結晶における面内の組成及び膜厚の均一性を向上し得る気相成長装置を提供すること。
【解決手段】環状の室構成面部55と、その室構成面部55に対向する環状の対向面47とで画定されると共に、環状の室構成面部55の径方向の外方側と径方向の内方側とに開口を有する反応室2を形成する。上記対向面47に基板1を保持する基板ホルダ21を形成する。室構成面部55において基板ホルダ21に対向する基板対向部66を、石英の熱伝導率より大きい熱伝導率を有する材質で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦型の気相成長装置に関し、例えば、同一円周上に配置した複数の基板上に同時に半導体膜を成長させる中央放射型の縦型の気相成長装置等に関する。また、本発明は、III−V族化合物半導体結晶を形成するのに好適な縦型の気相成長装置に関し、例えば、半導体レーザ素子、LED素子等の半導体素子を製造するのに好適な縦型の気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
III−V族化合物半導体材料の中で窒化物系材料は、例えば青色系発光素子(発光ダイオードや半導体レーザ)として実用化されている。上記窒化物系材料を製造するときに一般的に用いられる結晶成長方法としては、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;以下略して「MOCVD」と記す)があり、該成長装置はMOCVD装置と呼ばれている。尚、MOCVDは、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)やOMVPE(Organo-Metallic Vapor Phase Epitaxy)と称する場合もある。
【0003】
上記MOCVDは、結晶を構成するIII族元素を含む原料ガス及びV族元素を含む原料ガスの夫々を、結晶成長させる反応室に導入し、反応室内に設置した基板上で化学反応させることにより結晶を堆積させる。基板は反応室内で加熱されており、ここから供給される熱エネルギーにより化学反応が進行する。窒化物系化合物半導体では、基板として、サファイヤ単結晶、窒化ガリウム単結晶、又は炭化シリコン単結晶等が用いられる。
【0004】
III族系原料ガスの原料としては、メチル基と結合したトリメチルガリウム(以下、「TMG」と称す)、トリメチルインジウム(以下、「TMI」と称す)、又はトリメチルアルミニウム(以下、「TMA」と称す)等のアルキル化合物が用いられるのが一般的である。また、V族系原料ガスの原料としては、窒素原子の水素化物であるアンモニア(以下、「NH」と称す)が用いられるのが一般的である。なお、III族系原料ガスの原料は、通常、液体状態で反応室外に設置されており、キャリアガスと呼ばれる水素ガスや窒素ガスを、該液体中に通してバブリング状態にすることにより、これらのキャリアガスと共に配管を介して反応室まで供給する。
上記MOCVDにて結晶成長させるための気相成長装置としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【0005】
上記特許文献1に開示された気相成長装置は、縦型の気相成長装置であり、図4に示すように、円形の上板と下板とによって偏平中空円柱状に形成した反応室102の中央部にガス導入部であるガス導入管112を配設すると共に、反応室102内の同一円周上に複数の基板101を配置し、加熱手段であるヒータ125で基板101を所定温度に加熱してガス導入管112から材料ガスを反応室102内に導入することにより、同時に複数の基板101上に薄膜を成長させるものである。
【0006】
さらに、上記特許文献1に開示された気相成長装置では、各基板101を保持する基板ホルダ123を回転(自転、公転又は自公転)させることにより、複数の基板101上に成長させる薄膜の均一化を図ることも行われている。
【0007】
以下に、上記特許文献1に開示された、同時に複数の基板上に半導体薄膜を成長させるための量産用気相成長装置の詳細について、図4に基づいて説明する。
【0008】
上記気相成長装置には、図4に示すように、平面形状が円形の隔壁111と基板保持台であるサセプタ120とによって偏平中空円柱状に形成した反応室102内に、基板保持部である基板ホルダ123と、この基板ホルダ123の上面に載置された基板101とが配設されている。
【0009】
基板ホルダ123及び基板101はヒータ125によって加熱されると共に、反応室中心部のガス導入管112から流入される有機金属化合物を含む材料ガスと混合・反応することにより基板101上に所望の半導体薄膜を形成するようになっている。また、材料ガスの残りを、ガス排出部104から排出するようになっている。
【0010】
上記基板101及び基板ホルダ123は、通常、同心円上に複数配置され、装置の運転時において、基板101上に形成される半導体薄膜の成長面は、上方を向いている。
【0011】
また、図4において矢印Aで示すように、材料ガスは反応室中心から周囲へ向かって流されるようになっている。また、上記基板ホルダ123及び基板101は、サセプタ120の回転に合わせて各々回転するようになっている。
【0012】
ところで、発光素子の構造は、一般に、バンドギャップ(Band gap:禁制帯)制御のため、組成や構成元素が異なる多層膜構造を有しているが、各層の層厚のばらつきや組成のばらつきにより、光学特性がばらつき、場合によっては光学特性を大きく劣化させてしまう恐れがある。したがって、MOCVDによる結晶成長の場合、原料ガスの流し方や、基板の温を均一性することが非常に重要になる。
【0013】
例えば、発光素子を形成する多層膜の構成の中には、インジウム−ガリウム−窒素からなる層(以下、「InGaN層」と称す)があり、主に発光素子の発光層として用いられる層がある。このInGaN層は、TMIとNHとの反応で得られる窒化インジウム(以下、「InN」と称す)と、TMGとNHとの反応で得られる窒化ガリウム(以下、「GaN」と称す)との固溶体で形成された混晶層である。
【0014】
したがって、このInGaN層を結晶成長させる際には、反応室にTMGとTMIとNHとを原料ガスとして導入することになる。形成されたInGa1−XN混晶のx値は混晶比と呼ばれ、特に発光波長に重要な影響を及ぼす。言い換えると、混晶形成時のInとGaとの濃度比の制御、又は、均一性は、非常に重要となる。
【0015】
上記TMG及びTMIは同じIII族原料ではあるが、TMIは、TMGに比較して熱分解しやすい。したがって、導入されたTMIの反応室内でのガスの流れ方向の熱分解の進行具合は、ガス流れ方向の温度分布に非常に影響を受け易く、ガス流れ方向の温度分布を制御できていない場合には、基板上での形成度合の不均一を招き、混晶比ばらつきや層厚ばらつきを発生させる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2006−253244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記特許文献1に開示される気相成長装置では、反応ガスの上流側と下流側とで、混晶比が大きくばらついたり、層厚が、大きくばらついたりするという問題点を有している
ここで、基板を自転させることによって、ある程度平均化されるが、それだけでは十分ではない。基板の自転に起因して各発光素子の存在位置も変動するが、特に、存在しえる最も上流側の位置と、存在しえる最も下流側の位置との距離が長い基板周辺部の発光素子の特性が悪くなるからである。
【0018】
また、基板サイズが大きくなると、装置が大型化するとともに、基板の加熱領域が増大することから、さらにガスの上流側と下流側とで大きな組成ばらつきや層厚ばらつきを起こす恐れがある。
【0019】
そこで、本発明の課題は、基板面に成長する結晶における面内の組成及び膜厚の均一性を向上し得る気相成長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、この発明の気相成長装置は、
室構成面部を有する第1部材と、
上記室構成面部に対向する対向面を有し、上記対向面に基板を保持する基板保持部を有する第2部材と、
上記室構成面部と、上記対向面とで画定されると共に、第1開口と、第2開口とを有する反応室と、
複数のガスを、上記第1開口を介して上記反応室に導入するガス導入部と、
上記基板保持部に保持された上記基板を加熱する基板加熱部と
を備え、
上記室構成面部において上記基板保持部に対向する基板対向部を構成する材質の熱伝導率は、石英の熱伝導率より大きいことを特徴としている。
【0021】
本発明によれば、基板保持部に対向する基板対向部を構成する材質の熱伝導率が石英より高くて、基板の成長面に対向する壁面を構成する材質の熱伝導率が石英より高いから、壁面の温度を低くすることができて、ガスの流れの上流側のガスの温度の上昇を抑えることができる。したがって、ガスの上流側の位置での組成と、ガスの下流側の位置での組成とのばらつきを抑制できると共に、ガスの上流側の位置での膜厚と、ガスの下流側の位置での膜厚とのばらつきを抑制できて、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現することができる。
【0022】
また、一実施形態では、
上記基板対向部を構成する材質の熱伝導率は、100W/(m×K)以上である。
【0023】
本発明者は、シミュレーション解析の結果、基板の成長面に対向する壁面を構成する材質の熱伝導率が、100W/(m×K)以上であると、ガス温度の上昇を防ぐことができて、ガスの流れの上流側と、ガスの流れの下流側との、組成ばらつきや層厚ばらつきを小さくできることを突きとめた。
【0024】
上記実施形態によれば、熱伝導率が100W/(m×K)以上であるから、ガス温度の上昇を効果的に防ぐことができて、ガスの流れの上流側と、ガスの流れの下流側とでの組成ばらつきや層厚ばらつきを小さくすることができる。
【0025】
また、一実施形態では、
上記基板対向部を構成する材質は、モリブデンである。
【0026】
反応室内は、一般的に各種の反応ガス雰囲気で1000℃以上の高温となることから、熱安定性、化学安定性の観点から、反応室内の壁面に使用可能な材質が、石英、モリブデン等の材質に制限される。ここで、石英は、モリブデンに比べて比重が小さいから、構成物を軽量化できて、好適に使用できる。
【0027】
しかし、本発明者は、石英は、熱伝導率が小さいため、壁面の温度が高くなることを実験により確かめた。ここで、基板の成長面に対向する壁面の温度が高いと、特に、ガスの流れの上流側のガスの温度が高くなることから、反応ガスの分解速度が大きくなり、成膜速度が大きくなることによって、ガスの流れの上流側と下流側とで組成ばらつきや層厚ばらつきが起こる。気相成長装置には、水冷機構などの冷却手段を備えていることが多いが、壁面を構成する材質の熱伝導率が小さい場合、壁面が十分に冷却されず、壁面の温度が高くなる。
【0028】
本発明によれば、上記基板対向部を構成する材質が、熱伝導率が138W/(m×K)であり、融点が2600℃以上であり、かつ、熱膨張係数が約4.0E−6/Kであるモリブデンであるから、上記基板対向部の熱安定性を優れたものにできると共に、反応ガスと化学反応を起こさない化学的安定性を優れたものにすることができる。したがって、ガス温度の上昇を防ぐことができて、ガスの流れの上流側と下流側とでの組成ばらつきや層厚ばらつきを小さくできる。また、上記基板対向部の温度上昇を抑制できるから、上記基板対向部への生成物の付着を防止できると共に、基板対向部を含む壁面のクリーニングのメンテナンス間隔を長くできて、気相成長装置の安定稼動を実現することができる。
【0029】
また、一実施形態では、
略同一平面上に位置する環状の室構成面部を有する第1部材と、
上記環状の室構成面部に対向する環状の対向面を有し、上記対向面に基板を保持する基板保持部を有する第2部材と、
上記環状の室構成面部と、上記環状の対向面とで画定される一方、上記環状の室構成面部の径方向の内方側に第1開口を有すると共に、上記環状の室構成面部の径方向の外方側に第2開口を有する反応室と、
複数のガスを、上記反応室の上記径方向の内方側から上記第1開口を介して上記反応室に上記室構成面部に略平行な方向に導入するガス導入部と、
上記基板保持部に保持された上記基板を加熱する基板加熱部と
を備え、
上記室構成面部において上記基板保持部に対向する基板対向部を構成する材質の熱伝導率は、石英の熱伝導率より大きくなっている。
【0030】
上記実施形態によれば、基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現する装置を、簡易な構成で実現することができる。
【0031】
また、一実施形態では、
扁平中空円柱状に形成された反応室に設けられた円形の基板保持台における円周部に戴置された複数の基板に向けて、該反応室の中央部から複数のガスを導入して外周方向に上記基板表面に平行に供給することにより、加熱された該基板に膜を成長させる縦型の気相成長装置において、基板の成長面の対向面を形成する壁面を構成する材質の熱伝導率が石英より大きいことを特徴としている。
【0032】
上記実施形態によれば、扁平中空円柱状に形成された反応室に設けられた円形の基板保持台における円周部に配置された複数の基板に向けて該反応室の中央部からガスを導入して外周方向に向けて上記基板表面に平行に供給することにより、加熱された該基板に結晶を成長させる縦型の気相成長装置に利用できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の気相成長装置によれば、第1部材の室構成面部において上記基板保持部に対向する基板対向部を構成する材質の熱伝導率が、石英の熱伝導率より大きいから、ガスの流れの上流側とガスの流れの下流側とでの組成ばらつき、および、ガスの流れの上流側とガスの流れの下流側とでの層厚ばらつきを抑制することができると共に、上記基板対向部への生成物の付着を防止できて、装置の安定稼動を実現できる。
【0034】
また、一実施形態の気相成長装置によれば、第1部材の室構成面部において基板保持部に対向する基板対向部が、熱伝導率が100W/(m×K)以上のモリブデンなどの材質であるから、ガスの流れの上流側と下流側とでの組成ばらつきおよび層厚ばらつきを更に確実に抑制することができると共に、装置を更に安定に稼動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態の気相成長装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】上記気相成長装置のサセプタの周辺部を、基板載置側から見たときの平面図である。
【図3】GaN成膜速度のシミュレーション結果である。
【図4】従来の気相成長装置の構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0037】
図1は、本発明の第1実施形態の気相成長装置の構成を示す概略断面図である。
【0038】
この気相成長装置は、MOCVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)にて、例えば半導体に結晶成長させるために用いられるようになっている。
【0039】
図1に示すように、この気相成長装置は、縦型の気相成長装置であり、円盤状(円形)の基板保持台としての環状のサセプタ20と、第1部材としての隔壁11の円盤部24とを互いに水平方向に所定間隔で対向配置している。
【0040】
また、上記環状のサセプタ20には、基板1を保持する基板保持部である基板ホルダ21がサセプタ20の円周部の同一円周上に複数個、等間隔で配置されている。上記各基板ホルダ21上には、1枚の基板1が、半導体薄膜の成長面を上に向けた形態で載置されている。上記サセプタ20および基板ホルダ21は、第2部材を構成し、その第2部材の隔壁11側の上面は、環状の対向面47を構成している。また、上記隔壁11において対向面47にサセプタ20の上面の法線方向に対向する部分は、環状の室構成面部55を構成している。上記室構成面部55は、略同一平面上に位置している。
【0041】
上記環状の室構成面部55と、環状の対向面47とは、偏平中空状の空間を画定し、環状の反応室2を画定している。上記反応室2は、径方向の内方側に第1開口を有すると共に、径方向の外方に第2開口を有し、第1開口および第2開口の夫々は、径方向に向いている。上記反応室2の径方向の内方側の第1開口は、環状であり、周方向に全周にわたって延在している。
【0042】
上記反応室2の径方向の内方側の中央部には、原料ガス及びサブフローガスが導入される環状のガス導入部3が設けられ、そのガス導入部3のガス噴出口は、反応室2の径方向の内方の第1開口に連通している。
【0043】
上記反応室2の径方向の外方には、複数の排気ポート4が設けられている。上記各排気ポート4は、反応室2に連通し、排気口としての役割を果たしている。上記隔壁11は、円筒部25を有し、この円筒部25は、円盤部24の径方向の外方側の端部につながっている。上記円筒部25は、サセプタ20の側面28に間隔をおいて沿うように、円盤部24のサセプタ20側の面の法線方向に延在している。上記サセプタ20の側面と、隔壁11の円筒部25の内周面との間に、下方に向かう排気流路59を形成している。
【0044】
図1に示すように、上記ガス導入部3は、三つの仕切壁12a,12b,12cを有し、三つの仕切壁12a,12b,12cは、互いに間隔をおいて位置している。上記各仕切壁12a,12b,12cは、円筒部と、円盤部とを有し、円盤部は、円筒部の軸方向の一方側の端部から円筒部の中心軸に垂直な方向に延在している。図1に示すように、三つの仕切壁12a,12b,12cの円筒部は、同心円状に分離されている。上記円筒部が最も径方向の外側に存在する第1仕切壁12aは、隔壁11の一部をなしている。また、上記三つの仕切壁12a,12b,12cのうちで第1仕切壁12a以外の二つの仕切壁12b,12cの円盤部の径方向の端の径方向の位置は、略一致している。
【0045】
上記第1仕切壁12aと、その第1仕切壁12aに対向する第2仕切壁12bとの間には、筒状の第1流路と、環状で円盤状の第2流路とを有する第1ポート3aが形成されている。また、上記第2仕切壁12bと、円筒部が最も径方向の外側に存在する第3仕切壁12cの間には、筒状の第1流路と、環状で円盤状の第2流路とを有する第2ポート3bが形成されている。また、上記第3仕切壁12cと、第3仕切壁12cの円盤部に対向するように延在する底壁77との間には、断面円形状の第1流路と、環状で円盤状の第2流路とを有する第3ポート3cが形成されている。
【0046】
上記ガス導入ポート3a〜3cからそれぞれ導入されたガスは、同心円状に分離された上記各第1通路内を鉛直下方向に流れ、下方末端にて水平方向に方向転換し、基板1面に平行に上記各第2通路を放射状に流れ、基板1上に供給されるようになっている。
【0047】
例えば、ガス導入ポート3cには、キャリアガスとして水素、V族系ガスとしてアンモニアを、ガス導入ポート3bには、キャリアガスとして水素、III 族系ガスとしてTMGを、ガス導入ポート3aには、キャリアガスとして水素、V族系ガスとしてアンモニアを導入することによって、基板上にGaNを成長させることができる。
【0048】
尚、本実施の形態において、III 族元素としては、例えば、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)又はIn(インジウム)等を使用でき、III 族元素を含むIII 族系ガスとしては、例えば、トリメチルガリウム(TMG)又はトリメチルアルミニウム(TMA)等の有機金属ガスのうち1種類以上を使用することができる。
【0049】
また、本実施の形態において、上記V族元素としては、例えば、N(窒素)、P(リン)又はAs(ヒ素)等を使用でき、V族元素を含むV族系ガスとしては、例えば、アンモニア(NH )、ホスフィン(PH )又はアルシン(AsH )等の水素化合物ガスのうち1種類以上を使用することができる。
【0050】
図2は、サセプタ20の周辺を、基板載置側から見たときの平面図である。
【0051】
図2に示すように、この実施形態では、サセプタ20は、周方向に等間隔に配置された8個の基板ホルダ21を有し、各ホルダ21には、直径4インチの円盤状の基板が設置されるようになっている。
【0052】
尚、この発明では、各ホルダに載置される基板が、直径4インチ以外の寸法の円盤状の基板であっても良く、また、各ホルダに載置される基板は、円盤状の基板でなくても良い。また、この発明では、基板保持部としての基板ホルダは、周方向に等間隔に8以外の複数設けられても良く、周方向に非等間隔に複数設けられても良く、基板ホルダは、周方向に連続な環状形状であっても良い。また、各基板ホルダの上面は、この実施形態のように円形状でなくても良く、正方形、台形、楕円形等、如何なる形状であっても良い。
【0053】
再度図1を参照して、上記サセプタ20における基板ホルダ21の下部には、基板加熱用ヒータ22が設けられている。上記基板加熱用ヒータ22は、基板1を成長温度に加熱するようになっている。
【0054】
上記基板1は、設置場所で基板中心軸にて回転し、また、サセプタ20は、その中心軸にて回転するようになっている。この結果、基板1が、反応室2内で自転すると共に、公転するようになっている。
【0055】
上記環状の室構成面部55は、石英より熱伝導率が大きい材料で構成され、隔壁11において、基板ホルダ21に室構成面部55の法線方向に対向する基板対向部66は、石英より熱伝導率が大きい材料で構成されている。また、隔壁11において、基板ホルダ21上の基板1の成長面(上面)に対向する基板対向面30は、石英より熱伝導率が大きい材料で構成されている。詳しくは、隔壁11において対向面47にサセプタ20の上面の法線方向(室構成面部55の法線方向に一致)に重なる部分は、石英より熱伝導率が大きい材料で構成され、隔壁11において、基板ホルダ21上の基板1の成長面に上記法線方向に重なる部分は、石英より熱伝導率が大きい材料で構成されている。径方向において、上記基板ホルダ21に室構成面部55の法線方向に重なる範囲の隔壁11(第1部材)の筒状部の全ては、石英より熱伝導率が大きい材料で構成されている。ここで、石英より熱伝導率が大きい材料としては、例えば、モリブデン、アルミナまたは窒化珪素等がある。
【0056】
図3は、隔壁において基板ホルダ上の基板の上面に対向する基板対向面を構成する材料が、石英である場合と、隔壁において基板ホルダ上の基板の上面に対向する基板対向面を構成する材料が、モリブデンである場合とを比較したシミュレーション結果を示す図であり、基板1が自転していない場合のGaNの成長速度のシミュレーション結果を示す図である。
【0057】
図3において、横軸は、動径方向距離を示し、環状の反応室の径方向の中心を0mmとして、その中心からの径方向の距離を示している。また、図3において、縦軸はGaNの成長速度を示している。
【0058】
シミュレーションの条件としては、ポート3cには、キャリアガスとして水素を1.0SLM導入し、V族系ガスとしてアンモニアを10SLM導入するものとした。また、ポート3bには、キャリアガスとして水素を50SLM導入し、III 族系ガスとしてTMGを100μmol/min導入するものとした。また、ポート3aには、キャリアガスとして水素を15SLM導入し、V族系ガスとしてアンモニアを2SLM導入するものとした。また、基板を、150mmから250mmの範囲内に設置し、基板面が1020℃になるように加熱するものとした。この条件にて、隔壁において基板ホルダ上の基板に対向する基板対向面を構成する材質の熱伝導率を50、100、200、400W/(m×K)と変化させて、GaNの成長速度を計算した。
【0059】
その結果、熱伝導率が大きくなるほど基板設置エリアでのGaN成長速度のGaN成長速度分布の設置場所に依存するばらつき(成長速度が上流側で大きくなる一方、下流側で小さくなること)が小さくなることがわかった。
【0060】
このシミュレーション結果は、基板の自転を考慮していないため、この結果に基板の自転を考慮させる場合、基板エリアのみを基板中心で対称になる上流側と下流側の値を平均化してプロットすればよい。この平均化処理の結果、熱伝導率に関係無く、成長速度は、基板エリア内でフラットな分布となるが、実際は成長速度が基板特性に影響するため、基板の自転を考慮していない状態での成長速度分布がフラットになることが好ましい。
【0061】
図3の紙面の下側には、反応室内の温度分布の一シミュレーション結果を示している。この一シミュレーション結果によると、反応室は、原料ガスの流れの上流側の領域の温度が相対的に低くなっている。
【0062】
本発明者は、実験機での成長実験において、基板対向面を石英からモリブデンへ変更したシミュレーションも行った。
【0063】
モリブデンは、石英よりも比重が大きいから、製作および取付に工夫が必要となる。したがって、従来、基板ホルダ上の基板の成長面に対向する基板対向面をモリブデンで構成するという思想は、当業者になかった。また、上記理由から、特に、大型の装置の場合、基板ホルダ上の基板の成長面に対向する基板対向面をモリブデンで構成することは、不可能であると考えられてきた。
【0064】
しかしながら、本発明者は、上記基板対向面を含むドーナツ型の壁面を、薄型化して軽量化した上で、強度を維持するために、分割して取り付ける構成にすれば、取付可能であることを見出した。
【0065】
また、基板ホルダ上の基板の成長面に対向する基板対向面をモリブデンで構成すると、基板対向面を含む壁面への生成物の付着量が少なくなるという顕著かつ格別な作用効果が導かれることを発見した。これは、基板対向面の熱伝導率が大きくなったことで、上記壁面の冷却効果が上がり、上記壁面での不要な成長が抑制されためであると推察される。
【0066】
上記実施形態によれば、基板ホルダ21に対向する環状の室構成面部55を構成する材質の熱伝導率が石英より高くて、基板の成長面に対向する壁面を構成する材質の熱伝導率が石英より高いから、上記室構成面部55の温度を低くすることができて、ガスの流れの上流側のガスの温度の上昇を抑えることができる。したがって、ガスの上流側の位置での組成と、ガスの下流側の位置での組成とのばらつきを抑制できると共に、ガスの上流側の位置での膜厚と、ガスの下流側の位置での膜厚とのばらつきを抑制できて、基板1の基板面に成長する結晶の結晶品質の均一化を実現することができる。
【0067】
尚、上記実施形態では、サセプタ20および基板ホルダ21からなる第2部材の上面に、サセプタ20の上面の法線方向に対向する隔壁11の室構成面部55の全面を、石英の熱伝導率より大きい熱伝導率を有する材質で構成したが、この発明では、上記基板保持部に基板保持部の法線方向に対向する第1部材の基板対向部を構成する材質の熱伝導率が、石英の熱伝導率より大きければ良い。
【0068】
また、上記実施形態では、第1部材の室構成面部55が、環状であった。しかしながら、この発明では、第1部材の室構成面部は、環状でなくても良く、反応室は、環状でなくても良く、第1開口も、環状でなくても良い。
【0069】
また、上記実施形態では、図1に示すように、第1部材の室構成面部55が、略同一平面上に位置しているが、この発明では、第1部材の室構成面部は、同一平面上に位置していなくても良い。そして、第1部材の室構成面部は、複数の異なる平面を接続した面で構成されても良く、平面と曲面とを接続してなる面で構成されても良く、曲面のみで構成されても良い。
【0070】
また、上記実施形態では、ガス導入部が、ガスを同一平面上に位置する室構成面部55に略平行な方向に導入するようになっていた。しかしながら、この発明では、ガス導入部が、ガスを、同一平面上に位置する室構成面部に略平行な方向に導入しなくても良く、ガス導入部が、ガスを、同一平面上に位置する室構成面部に傾斜する方向から導入する等、ガス導入部が、ガスを、同一平面上に位置する室構成面部に略平行な方向以外の方向に導入する構成であっても良い。
【0071】
また、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
1 基板
2 反応室
3 ガス導入部
3a,3b,3c ガス導入ポート
4 排気ポート
11 隔壁
12a,12b,12c 仕切壁
20 サセプタ
21 基板ホルダ
22 基板加熱用ヒータ
47 対向面
55 室構成面部
66 基板対向部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室構成面部を有する第1部材と、
上記室構成面部に対向する対向面を有し、上記対向面に基板を保持する基板保持部を有する第2部材と、
上記室構成面部と、上記対向面とで画定されると共に、第1開口と、第2開口とを有する反応室と、
複数のガスを、上記第1開口を介して上記反応室に導入するガス導入部と、
上記基板保持部に保持された上記基板を加熱する基板加熱部と
を備え、
上記室構成面部において上記基板保持部に対向する基板対向部を構成する材質の熱伝導率は、石英の熱伝導率より大きいことを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
請求項1に記載の気相成長装置において、
上記基板対向部を構成する材質の熱伝導率は、100W/(m×K)以上であることを特徴とする気相成長装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の気相成長装置において、
上記基板対向部を構成する材質は、モリブデンであることを特徴とする気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−84581(P2012−84581A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227408(P2010−227408)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】