説明

水晶デバイスの製造方法

【課題】 本発明は、振動モード調整を精度良く行うことによって高精度の水晶デバイスを提供することが目的であり、且つ加工によるダメージの少ない信頼性の高い水晶デバイスを提供することが目的である。
【解決手段】 水晶からなる基部と基部から突出した振動脚とを有する振動体と電極とを備えた水晶デバイスの製造方法において、水晶からなる振動体をウェットエッチング法によって形成する工程と、水晶のエッチング異方性によって発生した振動脚の付け根付近のエッチング残渣をフェムト秒レーザーによって加工して振動モードを調整する工程を備えたことを特徴としている。エッチング残渣を加工することで水晶デバイスに与えるダメージを極力少なくすることができる。また、二つのレーザー光源と焦点位置測定機を備えた加工システムを用い、第一のレーザー光で加工部に焦点を合わせ、第二のレーザー光で加工することにより、精度よく加工できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水晶を振動体として利用した水晶デバイスの製造方法に関し、特に基部とこの基部から突出して形成される振動脚とを有する水晶デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶デバイスの一応用製品として、水晶の振動特性を利用した水晶ジャイロセンサがある。特に近年では、航空機や車両等の姿勢制御、ナビゲーションシステムの角速度検出、さらにはビデオカメラの手ぶれ制御など、幅広い分野で水晶ジャイロセンサの需要が高まっている。
【0003】
このように幅広い分野で水晶ジャイロセンサが使われだし徐々に普及するに従い、さらなる高信頼性化、高精度化の要求が高まってきている。
【0004】
水晶ジャイロセンサは水晶の振動特性を利用して角速度を検出するセンサであるので、高い信頼性と高い精度を有する水晶ジャイロセンサを提供するためには、水晶からなる振動体をより安定して振動させる必要がある。すなわち、設計通りの共振周波数で振動し、かつ振動バランスが安定している振動体を得る必要がある。しかしながら、水晶を加工する時に生じる加工寸法のばらつきや、水晶に電圧が印加した時に生じる電界強度のばらつきがあるため、理想的な状態で振動する振動体を安定して得ることは難しかった。
【0005】
そこで、従来の水晶ジャイロセンサの製造方法では、振動体の製造過程の中に、共振周波数の合わせ込みや振動体の振動バランスの調整を目的とした調整加工を行う振動モード調整工程を必ず入れていた。
【0006】
以下に従来の水晶ジャイロセンサの製造方法をより詳しく説明する(例えば、特許文献1参照)。図6は従来の水晶ジャイロセンサの斜視図と要部断面図である。図6に示す水晶ジャイロセンサ10は基部112と基部112から突出した二つの振動脚111とを有する音叉型の振動体100とその振動体100の表面に所定の形状で形成された電極200とからなっている。従来の水晶ジャイロセンサ10は、ウェットエッチング法によって振動体100が形成されるため、水晶のエッチング異方性によって、振動脚111の側面と付け根に凸状のエッチング残渣1050、1060、1070が必ず形成されてしまう。これらエッチング残渣1050、1060、1070は振動脚111の重量バランスを崩し、水晶ジャイロセンサ10を動作させたときに予期せぬ不要な振動を発生させる原因となる。これにより角速度の検出精度を悪化させるという問題が生じていた。
【0007】
そこで従来は、図6(a)及び図6(b)に示すように、不要な振動を無くすために振動体100の振動脚111の一部を部分的に除去し(除去部501、502)、それぞれの振動脚111の重量バランスをとり直すことで、水晶ジャイロセンサ10が所望の振動になるように調整していた(この工程が一般に振動モード調整工程と呼ばれる工程である。)。
【0008】
なお振動体100の二つの振動脚111には、図6(a)に示すように電極200が形成されており、上述の振動モード調整工程ではこの電極200から得られる電気的な出力を測定しながら行う。
【0009】
従来の振動モード調整工程では、除去加工にレーザー光による加工を用いた方法も提案されている。図7は従来のレーザー光を用いた振動モード調整工程における水晶ジャイロ
センサの斜視図である。この方法は振動脚111の角部に、別々な方向から二つのレーザー光を照射して除去加工を行なうのが特徴である。
【0010】
これら二つのレーザー光は、その一つ一つは加工を行うに不十分な低出力のエネルギーでしかなく、二つのレーザー光が同時に同一箇所に照射された場合にだけ振動脚111は加工される。このようにすることで、仮に誤ってレーザー光の一つが近傍の電極200に照射されてしまったとしても、 それぞれのレーザー光のエネルギーは充分に小さいため電極200に損傷を与えてしまうことはない。
【0011】
【特許文献1】特開2004−93158号公報(第4頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の水晶ジャイロセンサの製造方法では、設計通りの振動特性を得るために、振動脚111の一部を除去して重量バランスを調整する振動モード調整工程が必須であった。そしてその振動モード調整工程において、重量バランスが大きく崩れていればいるほど、振動脚111の角部を大きく削り取り、除去量を多くする必要があった。
【0013】
しかしながら、振動脚111には電極200が形成されており、振動脚111の角部を大きく加工し、図6の除去部501、502があまり大きくなってしまうと、除去部501、502が電極200に引っかかり電極200までも除去しまう危険性が出てくる。電極200は水晶からなる振動体100に電圧を印加し電界を生じさせる役割と振動脚111の振動特性を電気的に検出する役割の両方を担っているため、電極200を一部でも除去することは、逆に水晶ジャイロセンサ10の電気特性を悪化させる原因となってしまう。また最悪の場合には、電極200を電気的に完全に断線させてしまい、水晶ジャイロとしての機能を消失させてしまうことも多々あった。
【0014】
本発明の目的は、高精度で信頼性の高く、且つ生産性に優れた水晶デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の水晶デバイスの製造方法は、水晶からなる振動体と電極とを備えた水晶デバイスの製造方法であって、水晶からなる振動体をウェットエッチング法によって形成する工程と、水晶のエッチング異方性によって発生したエッチング残渣の少なくとも一部を除去する工程を備えたことを特徴とする。
【0016】
さらに、エッチング残渣の少なくとも一部を除去する工程が振動モード調整工程であるのが望ましい。
【0017】
さらには、レーザー光を用いた加工法によってエッチング残渣の少なくとも一部を除去するのが望ましい。
【0018】
また、レーザー光がフェムト秒レーザーであるのが望ましい。
【0019】
さらに、加工部分に焦点を合わせるための第一のレーザー光を発する第一のレーザー光源と、加工を行うための第二のレーザー光を発する第二のレーザー光源とを備え、さらに第一のレーザー光の加工部からの反射光を検知し、その反射光の強度を焦点位置データに変換する焦点位置測定機を備えたレーザー加工システムを使って振動モード調整工程を行うのが望ましい。
【0020】
また、第一のレーザー光がHe−Neレーザーであり、第二のレーザー光がフェムト秒レーザーであるのが望ましい。
【0021】
さらに、この振動体は基部と基部から突出して形成される振動脚とを有しているのが望ましい。
【0022】
さらには、振動脚の付け根に形成されたエッチング残渣の少なくとも一部を除去するのが望ましい。
【0023】
(作用)
本発明の上記手段では、水晶からなる振動体の外形形状をウェットエッチング法によって形成する。水晶のウェットエッチング法は、母材となる水晶基板をフッ酸(HF)やフッ化アンモニウム(NH4HF)を主成分とするエッチング液で部分的に溶解させて加工する方法であり、生産性に優れた製造方法である。ゆえに広い分野で多量に利用される水晶デバイスを製造するには適しており古くから利用されている。
【0024】
しかしながら、水晶のウェットエッチングには、水晶特有のエッチング異方性があり、加工面に特異な形状のエッチング残渣が必ず生じてしまうという欠点も有している。この影響により、ウェットエッチング法により形成された水晶からなる振動体は、所望の形状とは異なったエッチング残渣が付加された形状でできあがってしまう。
【0025】
このようにして必ず形成されてしまうエッチング残渣は、振動体の、特に振動脚の重量バランスを崩す原因となり、振動脚を振動させたときに予期せぬ不要な振動を発生させる要因の一つとなる。そこで、従来は振動脚の角部を除去して振動脚の重量バランスを釣り合わせることによって、所定の振動になるように振動調整していた。
【0026】
しかしながら、振動脚を振動させたときに予期せぬ不要な振動を発生させる要因は、振動脚の重量バランスの崩れだけではない。それ以外の要因も同時に影響して不要な振動を発生させているのである。我々の実験によれば、振動体のいろいろな部分に形成されるエッチング残渣の中でも、振動脚の付け根に形成されるエッチング残渣が所定の方向に振動しようとする力を別の方向に伝えていることがわかり、これによる影響が予想した以上に大きいことがわかってきた。
【0027】
振動脚の付け根に形成されるエッチング残渣は、振動脚の大きさに比べて非常に微小であり、振動脚の重量バランスを大きく崩すほどの大きさではないにもかかわらず、この部分のエッチング残渣をほんの一部でも除去することで、容易に不要な振動を無くすことができた。
【0028】
このように本発明の上記手段では、振動脚の付け根に形成されるエッチング残渣を部分的に除去することで、振動モードを調整するのが特徴である。振動脚の付け根であれば、振動脚を振動させるための電極は形成されていないため、従来の振動脚自体を加工する振動モード調整工程のように、電極までも削ってしまうような危険性はほとんどない。よって本発明の製造方法では非常に信頼性の高い振動モードの調整が可能である。
【0029】
なお本発明では加工する箇所が振動脚の付け根という非常に狭い領域であるので、切削工具によって機械的に削る切削加工法では加工が難しい。そして今後、水晶デバイスが小型化されればされるほど加工はさらに困難になる。そこで、本発明ではフェムト秒レーザーを用いたレーザー加工法によって振動脚の付け根のエッチング残渣を除去している。この点が本発明の第2の特徴である。
【0030】
フェムト秒レーザーは数十から数百フェムト秒間だけ照射されるレーザーで、単位時間・単位面積あたりに非常に大きなエネルギーを発生させるレーザーである。この大きなエネルギー量により、通常のレーザーでは加工することができない水晶のような透明性材料であっても加工することができるというのが特徴である。
【0031】
本発明の上記手段では、振動脚の付け根にできたエッチング残渣に局所的にフェムト秒レーザーを照射して加工を行うので、水晶デバイスが小型化されても十分に加工が可能である。
【0032】
また、フェムト秒レーザーを局所的に絞り込んで加工を行うことで、微小な量だけ加工できるので、非常に細かな調整が可能となり、水晶デバイスの性能の高精度化が容易である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の水晶デバイスの製造方法によれば、高精度で信頼性の高い水晶デバイスを提供することが可能である。
【0034】
さらには、本発明の水晶デバイスの製造方法によれば、小型の水晶デバイスを提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(第1の実施形態)
本実施形態では水晶デバイスの一例として水晶ジャイロセンサを取り上げて本発明の製造方法を説明する。通常、水晶ジャイロセンサの製造において最も重要なことは安定した振動を発生させることである。安定した振動を発生させることにより、信頼性が高く、高精度の水晶ジャイロセンサを得ることができるのである。
【0036】
一般に高い信頼性と高い精度を有する水晶ジャイロセンサを製造するには、振動を発生させる主要部品である振動体をいかに正確に製造するかが重要となる。通常、水晶ジャイロセンサで用いられる振動体は水晶基板から作られ、その加工にはフォトリソグラフィー法とウェットエッチング法が利用される。フォトリソグラフィー法とウェットエッチング法の組み合わせは、微細な加工に適しており精度の高い加工が行える製造方法である。しかしながら水晶をウェットエッチング法により加工する場合、水晶の結晶面に従った水晶特有のエッチング異方性があるため、特定の部分にエッチング残渣が必ず形成されてしまう。このエッチング残渣は理想的な状態での振動を妨げる要因の一つとなる。
【0037】
また上記フォトリソグラフィー法とウェットエッチング法は高い加工精度を有するが、それでも多少の加工寸法のばらつきは避けられない。さらに水晶からなる振動体に電圧を印加した時に生じる電界強度も電極の配置等の影響で必ずばらついてしまう。こうした 種々の要因が影響するため、理想的な状態で振動する振動体を安定して製造することは非常に難しかった。
【0038】
そこで通常、水晶ジャイロセンサの製造においては、振動体が所望の状態で振動するように製造の過程で共振周波数の合わせ込みや振動体の振動バランスの調整加工を行っている。一般にこの調整加工の工程を振動モード調整工程と呼んでいる。本発明はこの振動モード調整工程に特徴を有するものである。
【0039】
以下に本実施形態の水晶ジャイロセンサの製造における振動モード調整工程を説明する。図1は本発明のエッチング残渣をレーザー加工法により加工して行う振動モード調整工程
を示した図である。また図2は本発明の振動モード調整工程前後での水晶ジャイロセンサの振動状態を示した図である。
【0040】
図2に示すように本実施形態の水晶ジャイロセンサは、基部112とその基部112から突出した2本の振動脚111からなる振動体100と、所定の形状で引き回された電極200とを備えている。上述のように、振動体100は水晶基板をフォトリソグラフィー法とウェットエッチング法によって形成したものであり、水晶のエッチング異方性により、特定の部分にエッチング残渣なる凸部形状が形成されている。図2に示すように本水晶ジャイロセンサの振動体100には、振動脚111の付け根付近にエッチング残渣1060、1070が形成されている。また振動脚111の片側の側壁にもエッチング残渣1050が形成されている。なおこれらエッチング残渣1050、1060、1070は、水晶の結晶面に従って形成されるものであるので、図6にも示されるように従来の水晶ジャイロセンサの振動体100にも同様に形成されていた。なお本明細書で言う「付け根」とは、振動脚111と基部112の接合部のことを言う。
【0041】
従来はこれらエッチング残渣1050、1060、1070のうち特にエッチング残渣1050が振動脚111の重量バランスを崩し、その結果、予期せぬ不要な振動を発生させていると考えられていた。そこで、従来は振動脚111の角部を除去することによって、エッチング残渣1050により崩された重量バランスを釣り合わせ直していた。
【0042】
しかしながら、振動脚111を振動させたときに予期せぬ不要な振動を発生させる要因は、振動脚111の重量バランスの崩れだけに限られているわけではない。それ以外にも多くの要因が同時に影響しあって不要な振動を発生させている。我々は実験を進める中で、振動脚111の付け根に形成されるエッチング残渣1060、1070が、所定の方向に振動しようとする力を別の方向に伝えていることを確認することができた。またこれによる影響は、従来考えられてきた重量バランスの崩れの影響に比べて格段に大きいことがわかってきた。
【0043】
本実施形態は、振動脚の付け根付近に形成されるエッチング残渣1060、1070を部分的に除去することで振動モードの調整を行うのが特徴である。本実施形態では図1に示すように、振動脚の付け根付近に形成されるエッチング残渣1060、1070をフェムト秒レーザーを用いたレーザー加工法によって加工して、エッチング残渣1060、1070上に除去部510、520を形成することによって、振動脚111が最適な状態で振動するように調整した。
【0044】
フェムト秒レーザーは数十から数百フェムト秒間だけ照射されるレーザーで単位時間・単位面積あたりに非常に大きなエネルギーを発生させるレーザーである。この大きなエネルギー量により、通常のレーザーでは加工することができない水晶のような透明性材料であっても加工を行うことができるのが特徴である。
【0045】
またフェムト秒レーザーは光学的に焦点を絞り込むことで非常に微小な領域を狙って加工することができる。これにより、振動脚111の付け根付近にできたエッチング残渣1060、1070だけを正確に除去加工することができる。よって本発明の製造方法は、水晶デバイスの小型化に非常に適した製造方法である。
【0046】
また、図1に示すように、エッチング残渣1060、1070には電極200が近傍に形成されていないので、加工面積を広げ除去部510、520を大きくしても、誤って電極200を加工してしまう危険性はほとんど無い。これにより、従来多少なりとも発生していた電極の断線や、電極が加工されたことによる電気特性の悪化を本発明では防ぐことができ、信頼性の高い水晶デバイスを提供できるようになる。
【0047】
さらに、フェムト秒レーザーを局所的に絞り込んで加工を行うことで、微小な量だけ加工することができるので、非常に細かな調整が可能である。これにより本発明では水晶デバイスの高精度化が容易に行えるようになる。
【0048】
特に水晶ジャイロセンサでは、こうした振動モード調整工程は検出感度の高精度化のためには欠かせない非常に重要な工程である。一般に、水晶ジャイロセンサは、図2(b)に示すように2本の振動脚111が互いに近づいたり離れたりする方向に振動f0を行い、この振動に対して垂直方向に働くコリオリ力fsを検出することによって、回転時の角速度ωを測定する角速度センサである。よって振動モード調整前の図2(a)に示すような振動バランスを崩した不正な振動f1が働くと、これに垂直方向に働くコリオリ力fs’も設計とは異なった不正な方向に向いて働いてしまい、正確な角速度ωを測定することはできなくなってしまう。これに対し、本発明の振動モード調整を行うと、図2(b)に示すように振動脚111は理想的な振動f0で振動し、回転時に設計通りの方向にコリオリ力fsが働く。その結果、正確な角速度ωを測定することができるようになる。
【0049】
本実施形態では、以下の条件で水晶ジャイロセンサの振動モード調整を行った。まずフェムト秒レーザーの照射条件を、パルスエネルギー=10μJ/pulse、周波数=1kHz、走査速度=500μm/secに設定して、一方のエッチング残渣1060を100μmの長さで加工し、除去部510を形成した。
【0050】
その後、振動脚111の振動を測定し、その測定結果をもとにし、同じレーザー照射条件で、別のエッチング残渣1070を60μmの長さで加工し、除去部520をさらに形成した。
【0051】
その結果、電極200を断線させることなく、図2(a)に示すように不要な方向に振動していた振動f1を、図2(b)に示すような理想的な振動f0に振動モード調整することができた。
【0052】
なお同程度の振動モード調整を従来の方法、すなわち振動脚の一部をレーザーで加工する方法で行ったところ、同じレーザー照射条件(パルスエネルギー=10μJ/pulse、周波数=1kHz、走査速度=500μm/sec)で、2本の振動脚111それぞれ1000μmの長さで加工し、図6(a)のように除去部501、502を形成しても、振動を調整することはできなかった。そこで、除去部501、502の同一箇所を同じレーザー照射条件で5回繰り返して加工したところ、やっと理想的な振動f0に振動モード調整することができた。しかしながらこれにより電極200も加工されてしまい、電極200の幅が約20μm細くなってしまった。この結果からも、本発明の製造方法は、従来に比べて、加工量を非常に少なくすることができ、振動体100、電極200に与えるダメージが少ないことがわかる。
【0053】
このようにして本発明の製造方法を用いることによって、高い信頼性と高い測定精度を有する水晶ジャイロセンサを容易に製造できることが確認できた。
【0054】
(第2の実施形態)
図3は本発明の振動モード調整工程に用いられるレーザー加工システムの構成図である。本実施形態では、このレーザー加工システムを用いて、パッケージ400に接合された状態の振動体100を振動モード調整した。本実施形態において振動体100は基部112と2本の振動脚111とから構成されており、その表面には電極200が所定の形状で形成されている。さらにパッケージ400に備わる台座300に振動体100の基部112が接着剤によって接合されている。
【0055】
パッケージ400に振動体100を接着剤で接合した場合、接着剤の厚みの影響やパッケージ400の反りや歪みの影響によって、加工したい部分の表面にレーザーの焦点を合わせることが難しくなる。そこで本実施形態では、図3に示すように加工部分に焦点を合わせるためのHe−Neレーザー600と、加工を行うためのフェムト秒レーザー610の2種類のレーザー光を用いたレーザー加工システムを使って振動モード調整を行った。
【0056】
本レーザー加工システムは、図3に示すように、He−Neレーザー600とフェムト秒レーザー610の二つの光源を別々に有しており、それぞれのレーザー光は途中でレンズやミラー等により光路が同一になるように構成されている。また、本レーザーシステムには加工部からのレーザーの反射光を検知し、その反射光の強度を焦点位置のデータに変換する焦点位置測定機620が備わっている。
【0057】
以下に本実施形態で行った振動モード調整工程について説明する。図4は本発明の振動モード調整工程に用いられるレーザー加工システムによる加工位置の検出時の状態を示した図である。図5は本発明の振動モード調整工程に用いられるレーザー加工システムによる加工時の状態を示した図である。なお図4、図5では振動体100、台座300、パッケージ400は簡略化して描かれている。
【0058】
本実施形態では、まず図4に示すように、He−Neレーザー600を振動体100の加工部、すなわち振動脚の付け根にできるエッチング残渣、に向けて照射する。この時、加工部付近でHe−Neレーザー600を上下左右にスキャンさせた。なお図4、図5では本内容をわかりやすくするために、誇張して振動体100全体をスキャンするように描かれている。もちろん工程の状況に応じて、このように加工部表面だけでなく振動体100の全ての表面をスキャンしても本発明には何ら問題はない。
【0059】
このようにしてHe−Neレーザー600を上下左右にスキャンさせると、焦点位置からずれるために振動体100からの反射光の強度は変化する。逆に言えば、この反射光の強度を検出することによって、焦点位置がわかるのである。本レーザーシステムでは焦点位置測定機620によって振動体100からの反射光を検出し、焦点位置データを割り出している。
【0060】
その後、図5に示すように焦点位置測定機620から焦点位置データを読み取って、その焦点位置データにしたがい、フェムト秒レーザー610を加工部表面に焦点を合わせながらスキャンして加工を行う。
【0061】
このようにして、振動脚111の付け根にできるエッチング残渣を精度良く加工することができ、その結果、振動モード調整を行うことができた。
【0062】
このように、振動体100をパッケージに接合した後でも本レーザーシステムを使うことによって、本発明の製造方法を容易に行うことができた。
【0063】
なお本実施形態では、水晶ジャイロセンサを例に挙げ本発明の水晶デバイスの製造方法を説明したが、当然のごとく本発明は水晶ジャイロセンサに限られるものではない。水晶からなる振動体を備え振動モード調整工程を有していれば、いかなる水晶デバイスであっても本発明の製造方法は有効である。例えば他に水晶振動子、水晶発振子、加速度センサ等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のエッチング残渣をレーザー加工法により加工して行う振動モード調整工程を示した図である。
【図2】本発明の振動モード調整工程前後での水晶ジャイロセンサの振動状態を示した図である。
【図3】本発明の振動モード調整工程に用いられるレーザー加工システムの構成図である。
【図4】本発明の振動モード調整工程に用いられるレーザー加工システムによる加工位置の検出時の状態を示した図である。
【図5】本発明の振動モード調整工程に用いられるレーザー加工システムによる加工時の状態を示した図である。
【図6】従来の水晶ジャイロセンサの斜視図と要部断面図である。
【図7】従来のレーザー光を用いた振動モード調整工程における水晶ジャイロセンサの斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
10 水晶ジャイロセンサ
100 振動体
111 振動脚
112 基部
200 電極
300 台座
400 パッケージ
501、502、510、520 除去部
600 He−Neレーザー
610 フェムト秒レーザー
620 焦点位置測定機
1050、1060、1070 エッチング残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶からなる振動体と電極とを備えた水晶デバイスの製造方法において、水晶からなる振動体をウェットエッチング法によって形成する工程と、水晶のエッチング異方性によって発生したエッチング残渣の少なくとも一部を除去する工程を備えたことを特徴とする水晶デバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水晶デバイスの製造方法において、
エッチング残渣の少なくとも一部を除去する工程が振動モード調整工程であることを特徴とする水晶デバイスの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の水晶デバイスの製造方法において、
エッチング残渣の少なくとも一部を除去する工程がレーザー光を用いる加工であることを特徴とする水晶デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の水晶デバイスの製造方法において、
前記レーザー光がフェムト秒レーザーであることを特徴とする水晶デバイスの製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の水晶デバイスの製造方法において、
レーザー光を用いる加工は、加工部分に焦点を合わせるための第一のレーザー光を発する第一のレーザー光源と、加工を行うための第二のレーザー光を発する第二のレーザー光源とを備え、さらに第一のレーザー光の加工部からの反射光を検知し、その反射光の強度を焦点位置データに変換する焦点位置測定機を備えたレーザー加工システムを使って行うことを特徴とする水晶デバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の水晶デバイスの製造方法において、
前記第一のレーザー光がHe−Neレーザーであり、前記第二のレーザー光がフェムト秒レーザーであることを特徴とする水晶デバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の水晶デバイスの製造方法において、
前記振動体は基部とこの基部から突出して形成される振動脚とを有していることを特徴とする水晶デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の水晶デバイスの製造方法において、
振動脚の付け根に形成されたエッチング残渣の少なくとも一部を除去することを特徴とする水晶デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−208670(P2007−208670A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25257(P2006−25257)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】