説明

水現像可能な感光性平版印刷版材料

【課題】CTP方式に利用できる高感度な感光性平版印刷版でありかつ水により現像が可能で、かつ印刷機上でも現像が可能な印刷性に優れた平版印刷版材料を提供すること。
【解決手段】支持体上に、カチオン性無機微粒子を含有する親水性層を有し、さらにその上に、4級塩基と、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有する重合体、光重合開始剤およびそれを増感する化合物を含有する光硬化性感光層を有する積層構造を有する水現像性可能な感光性平版印刷版材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水により現像が可能な感光性平版印刷版材料に関し、特にコンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な印刷版材料に関する。更に詳しくは、750〜1100nmもしくは400〜430nm付近に発光する半導体レーザー等の光源を利用する走査露光装置を用いて水現像により画像形成可能な感光性平版印刷版材料に関する。また、印刷機上で給湿液により機上現像が可能である感光性平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター上で作製したデジタルデータをもとにフィルム上に出力せずに直接印刷版上に出力するコンピュータートゥープレート(CTP)技術が開発され、出力機として種々のレーザーを搭載した各種プレートセッターとこれらに適合する感光性平版印刷版の開発が盛んに行われている。CTP方式の普及と共にクローズアップされてきた重要な問題点或いは要望として、現像処理に関わる諸点が挙げられる。通常方式のCTP方式では、印刷版材料をレーザー画像露光した後、アルカリ性現像液により非画像部を溶出し、水洗およびガム引き工程を経て印刷に供される。CTP方式は露光に関しては完全にデジタル方式であり、印刷データは印刷版材料表面に正確に記録されるが、現像処理はアナログ的に作用し、結果として得られる平版印刷版材料の特性が必ずしも一義的に決定されず、製版工程の種々の変動要因により著しく左右されることがある。例えば、現像処理液のpH変動や現像液中の感光層成分の蓄積による現像性の低下等による処理条件の変動により網点面積率や線幅が変動し、更には印刷時の地汚れや耐刷不良を引き起こすこともある。こうした現像処理に関わるアナログ的な変動因子を回避し、如何に安定して製版物を作製するかが大きな問題である。さらには、処理液に関わるコストダウン要望および近年の環境負荷低減の要請からアルカリ現像廃液の問題もクローズアップされてきており、こうした現像工程を不要にするいわゆるプロセスレス印刷版への期待がますます高まってきている。
【0003】
近年、プロセスレス印刷版として、印刷機上で現像を行う機上現像方式の印刷版と、厳密な意味ではプロセスレスとは言い難いが、水により現像を行うケミカルフリーの印刷版が検討され、一部市場に出て実用化されている。機上現像方式は印刷機上で給湿液とインキの供給により感光層の除去を行うもので、給湿液は感光層を膨潤させインキによる除去を容易にするものである。水現像タイプは、感光層を水により除去するもので、印刷に先立て水洗工程により版面の画像を確認し易いため好ましい。後者は、給湿液によっても容易に感光層が除去できるため、水現像を経ず機上現像方式として利用することも可能である。
【0004】
現在までのところ、プロセスレス印刷版としては、インクジェット方式或いは熱転写方式を利用するもの、およびレーザー光を利用する方式として、アブレーション方式を利用するもの、熱融着タイプのもの、マイクロカプセル型のもの、および剥離タイプのものが知られている。インクジェット方式或いは熱転写方式を利用する例としては、特開2004−167973号公報および特開平9−99662号公報等に記載される系が挙げられる。これらは、下記に述べるレーザー光を利用する方式に比べて画質的に劣る問題がある。レーザー光を利用する方式として、アブレーション方式に関しては、例えば、特開平8−507727号、同6−186750号、同6−199064号、同7−314934号、同10−58636号、同10−244773号公報に記載されているものが挙げられる。アブレーション方式の問題点は、アブレーションにより発生するカスによる光学系の汚染や、アブレーションカスを除去するためのクリーニング機構を特別に装置に設ける必要性があり、汎用性に欠ける問題、更には、低感度であり、露光に時間がかかるため生産性に劣る事などが挙げられる。熱融着タイプは、例えば、特許2938397号、特開2001−88458号、特開2001−39047号、特開2004−50616号公報および特開2004−237592号公報などに記載される熱により熱融着性微粒子を融着させる方式を利用するものが挙げられるが、問題点として、低感度であることおよび支持体との接着に劣り、耐刷性において問題が発生する事などが挙げられる。マイクロカプセル型に関しては、特開2002−29162号、特開2002−46361号、特開2002−137562号、特開2004−66482公報等に見られるような、マイクロカプセル或いは微粒子に光重合性機能を付与した素材を使用し、光重合によりこれらを硬化させるタイプのものである。高感度光重合系を利用するため、感度に関しては良好であるが、機上現像に際して給湿液を版面全体に行き渡らせた後にインキをつけ、感光層を除去することが必要である。しかしながら、種々の印刷機の給湿機構において必ずしも感光層の除去が簡便に行われるわけではなく、印刷機の種類によっては感光層の除去が困難で地汚れが発生し問題になる場合があった。
【0005】
剥離タイプに属する系としては、例えば特開平7−191457号、特開平7−325394号、特開平10−3166号公報等に記載されるように、親水性層の上に光重合性感光層を設け、露光後に受容体シートを密着させて未露光部を受容体シート上に転写させることで親水性層の上に硬化した感光層からなる画像を形成する方法などが挙げられる。この方式では、微細なシャドー部網点部分などの除去が困難であると考えられ、また親水性層上の感光層の除去が不十分になり地汚れが発生しやすいことが欠点としてあげられる。
【0006】
上記のようなレーザー光を利用するプロセスレス印刷版は画像形成に関し一般に高エネルギーを必要とするため、露光用光源としては近赤外半導体レーザーを使用する。また、支持体としてアルミニウム板を使用するものが大部分である。これに対して、フィルム支持体上に親水性層を形成し、この上に熱融解性微粒子(ワックス等)層を設けたプロセスレス印刷版が、例えば特開2004−50616号公報および特開2004−237592号公報(特許文献1)などに記載されている。印刷材料としてフィルムを使用することで版材がロール状に収納されるため露光装置が小型でコンパクトに構成され、版材の取り扱い性やコストが大幅に改善される利点を有している。しかしながら、品質性能面では種々問題があり、これら公開特許公報によると、親水性層はコロイダルシリカやモンモリロナイトなどの親水性微粒子から構成され、画像は熱融着したワックスであるため、ワックスと親水性層の界面の接着性が十分でないため耐刷性に劣る問題と比較的低感度である問題があった。
【0007】
さらに、特開2004−167973号公報(特許文献2)および特開平9−99662号公報(特許文献3)等に記載されるシリカを主たる構成成分とする多孔質層を親水性層として用いる場合、シリカ粒子間隙に印刷時のインキが埋没することで地汚れが発生したり、或いは材料を長期間保存した後に使用しようとした場合に、画像形成層が同様に粒子間隙に埋没或いは吸着することで残膜の発生を引き起こし、結果として地汚れの発生に繋がることもあり問題であった。
【0008】
特開2002−19315号公報(特許文献4)等にはコロイダルシリカまたはアルミナゾルを含む親水性層を有する平版印刷版用支持体が記載されているが、親水性層中に空隙が形成され地汚れが発生しやすい問題があった。
【0009】
特開2000−158839号公報(特許文献5)には、ポリアクリル酸等のカルボキシル基を有する水溶性ポリマーとコロイダルシリカを特定の比率で含む親水性層をフィルム支持体上に形成し、インキ脱離性の良好な結果を示している。しかしながら、ポリアクリル酸などの水溶性ポリマーは印刷中に徐々に給湿液中に溶解し、親水性層が膨潤することで印刷条件によっては親水性層が剥離したり、画像部が剥離するなどの問題があった。さらに、PS版の印刷性能と比較した場合、明らかに保水性に劣るものであった。
【0010】
特開2003−215801号公報(特許文献6)には、水現像可能な感光性組成物として、側鎖にフェニル基を介してビニル基が結合したカチオン性もしくはアニオン性の水溶性ポリマーを用いる系が開示されており、さらにこれを親水性表面を有する基板上に形成することで水現像可能な印刷版が作製できることを開示している。この場合、親水性表面を有する基板として、シリケート処理されたアルミ板や親水性下引き層を設けたフィルム支持体が例示されているが、いずれの組み合わせにおいても種々の印刷条件に於いて地汚れ防止と耐刷性の両方の性質を同時に満足させることが困難であり、更なる最適化のための素材検討および構成に関する検討が必要であった。
【特許文献1】特開2004−237592号公報
【特許文献2】特開2004−167973号公報
【特許文献3】特開平9−99662号公報
【特許文献4】特開2002−19315号公報
【特許文献5】特開2000−158839号公報
【特許文献6】特開2003−215801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、CTP方式に利用できる高感度な感光性平版印刷版でありかつ印刷機上で現像が可能であり、または/および水により現像が可能な、地汚れの発生が無く、耐刷性に優れた感光性平版印刷版材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、支持体上に、カチオン性無機微粒子を含んでなる親水性層を有し、さらにその上に、4級塩基と、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有する重合体、光重合開始剤およびそれを増感する化合物を含有する光硬化性感光層を有する積層構造を有する水現像可能な感光性平版印刷版材料を用いることで達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、印刷機上で現像可能であるか、あるいは水による現像が可能な印刷版が与えられ、さらに地汚れの発生が無く、耐刷性に優れた感光性平版印刷版が与えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に関わる印刷版は支持体上にカチオン性無機微粒子を含んでなる親水性層を設け、さらにその上に、4級塩基と、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有する重合体、光重合開始剤およびそれを増感する化合物を含んでなる光硬化性感光層を有する積層構造からなることを特徴とする。支持体としては、後述するように従来から用いられるフィルムおよびアルミニウム支持体が好ましく用いられ、この上にカチオン性無機微粒子を含む親水性層が設けられていることが特徴である。
【0015】
本発明で用いられるカチオン性無機微粒子を含む親水性層について説明する。ここで言うカチオン性無機微粒子とは、動的光散乱方式粒度分布計で求められた平均粒子径が5〜300nmである球状、針状、不定形である表面に正電荷を有する無機微粒子である。好ましいカチオン性無機微粒子としてアルミナゾルおよび表面をカチオン変性したコロイダルシリカ等が挙げられる。アルミナゾルとは、水系溶媒中にアルミナ水和物のコロイド粒子が分散したゾルであり、その製造方法としては、アルミニウムイソプロポキシドを加水分解し、得られた沈殿に酸を添加して解膠する方法や、あるいは、アルミン酸ナトリウムの水溶液に、酸を加えてアルミナ水和物の沈殿を得て、これを解膠剤とともにオートクレーブ中で加熱して解膠する方法等が知られている。市販される素材として、例えば触媒化成工業(株)からカタロイドASと言う商品名で提供される素材や、日産化学工業(株)からアルミナゾル100,アルミナゾル200およびアルミナゾル520等の名称の素材が入手可能である。その他の市販品ではSasol社、Martinswerk社などから入手可能である。表面をカチオン変性したコロイダルシリカとしては、通常のコロイダルシリカの表面をアルミナで表面修飾したタイプの素材等があり、例えば日産化学工業(株)からスノーテックスAKやAKLの商品名で市販されている。
【0016】
親水性層を構成する成分として上記のようなカチオン性無機微粒子以外に、下記に示す各種無機顔料や水溶性ポリマーなどの成分を添加することも好ましく行われる。
【0017】
親水性層には上記のカチオン性無機微粒子以外に他の無機微粒子を添加することも好ましく行われる。μmサイズの多孔質シリカ微粒子として例えば、富士シリシア化学(株)から得られる各種グレードのサイリシアの添加により親水性の向上や親水性層のブロッキング防止などの好ましい効果が得られる。或いは、ゼオライトとして知られる結晶性アルミノケイ酸塩、層状粘土鉱物微粒子としてスメクタイト(モンモリロナイト等)やタルク等を添加することによっても同様な好ましい効果が得られる。これらの多孔質シリカ微粒子やゼオライト或いは層状粘土鉱物微粒子を添加して用いる場合には、カチオン性無機微粒子との好ましい比率が存在し、カチオン性無機微粒子100質量部に対し1から10質量部である。これ以下の添加量では効果が認めがたく、また10質量部を越えて添加した場合には、塗膜の平滑性が損なわれて画質が低下する場合がある。
【0018】
親水性層には上記のカチオン性無機微粒子以外に種々の水溶性ポリマーを含有することが好ましい。こうした水溶性ポリマーの例として、デンプン−アクリルアミド系グラフト重合体、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサントゲン酸セルロース、セルロース−アクリロニトリル系グラフト重合体、ゼラチン、グルテン、大豆蛋白、澱粉、デキストリン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリ(エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド)共重合体、水性ウレタン樹脂、水溶性ポリエステル、アクリルエマルジョンコポリマー、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート系ポリマー、ビニルピロリドンおよびその共重合体等が挙げられる。こうした水溶性ポリマーをカチオン性無機微粒子とともに使用する場合、両者に好ましい割合が存在し、カチオン性無機微粒子100質量部に対し10から100質量部である。これ以下の添加量では効果が認めがたく、また100質量部を越えて添加した場合には、塗膜の耐水性が損なわれて耐刷性が低下する場合がある。
【0019】
親水性層の乾燥塗布量に関しては好ましい範囲が存在し、支持体上に乾燥質量で1平方メートルあたり0.5gから20gの範囲で形成することが好ましく、この範囲より少ない場合には印刷時に地汚れが発生し易くなり、また1平方メートルあたり20gを越えて塗設した場合には、塗膜にひび割れが発生しやすくなる場合がある。最も好ましい範囲は1平方メートルあたり1gから10gの範囲である。
【0020】
親水性層には、前述の水溶性ポリマーに替えて各種カチオン性水溶性ポリマーを添加することも極めて好ましく行われる。好ましいポリマーとしては、アミノ基や4級アンモニウム塩基を有する水溶性ポリマーが挙げられ、具体的な例として、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリエチレンイミンやこれらの塩酸塩、硫酸塩など、およびポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等の4級塩ポリマー等が用いられる。
【0021】
カチオン性水溶性ポリマーについてはさらに好ましい組成のポリマーが存在し、下記一般式Iで示されるポリマーが極めて好ましく使用される。
【0022】
【化1】

【0023】
上式に於いて、Xは共重合体組成中に占める繰り返し単位の質量%を表し、1から40までの任意の数値を表す。繰り返し単位Aはアミノ基、水酸基、アセトアセトキシ基から選ばれる基を有する繰り返し単位を表す。繰り返し単位Bは4級アンモニウム塩基またはアクリルアミドおよびその誘導体残基またはN−ビニルピロリドン残基を有する繰り返し単位を表す。
【0024】
上記一般式Iで示される水溶性ポリマーはアミノ基、水酸基、あるいはアセトアセトキシ基から選ばれる基を側鎖に有することから保水性が高い親水性層を形成し、印刷時に於いて地汚れを防止し、網がらみを抑制する性質を示すことから極めて好ましい。さらには、これらの基を後述する架橋剤との間で効率的に架橋反応が進行するための反応性基として利用することも好ましく行われる。これらの反応性基を分子内に有する水溶性ポリマーを得るには、アミノ基、水酸基、あるいはアセトアセトキシ基を有する各種モノマーを共重合する形で組み込むことが好ましく行われる。前記一般式Iで示す繰り返し単位Aに対応するモノマーとしては、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、3−アミノメチルスチレン、4−(2′−アミノエチルチオ)メチルスチレン等のアミノ基含有モノマーおよびこれらの塩酸塩、リン酸塩、酢酸塩および硫酸塩、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール等の含窒素複素環含有モノマーおよびこれらの塩酸塩、リン酸塩、酢酸塩および硫酸塩、N−メチロールアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類およびアセトアセトキシメタクリレート等が挙げられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0025】
上記一般式Iにおいて、繰り返し単位Aの共重合体中に於ける割合であるXは1から40までの範囲にあることが好ましく、この範囲以下では架橋反応が進行しても耐水性が発揮できず、この範囲以上であれば、下記の水溶性を付与するための繰り返し単位Bの導入による効果が薄れ、親水性層の水に対する親和性が低下する場合がある。
【0026】
更に、一般式Iにおける繰り返し単位Bを与えるためのモノマーの例としては、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、アクリル酸−2−(トリメチルアンモニウムクロライド)エチルエステル、メタクリル酸−2−(トリメチルアンモニウムクロライド)エチルエステル、アクリル酸−2−(トリエチルアンモニウムクロライド)エチルエステル、メタクリル酸−2−(トリエチルアンモニウムクロライド)エチルエステル、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリメチル−N−(4−ビニルベンジル)アンモニウムクロライド、アクリル酸−2−(N,N−ジメチル−(4′−ビニルベンジル)アンモニウムクロライド)エチルエステル、メタクリル酸−2−(N,N−ジメチル−(4′−ビニルベンジル)アンモニウムクロライド)エチルエステル等の4級アンモニウム塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、N−ビニルピロリドン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら水溶性モノマーは繰り返し単位Aを構成するために1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。本発明に於ける好ましい水溶性ポリマーの例を下記に示す。
【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
こうしたカチオン性水溶性ポリマーをカチオン性無機微粒子と共に使用することで、後述する光硬化性感光層の未露光部に於ける除去性が向上し、地汚れの発生を有効に防止できると同時に、光照射部に於ける層間の接着が極めて強固であるため、非常に優れた耐刷強度を示すことから極めて好ましい。こうした目的でカチオン性水溶性ポリマーを用いる場合には、カチオン性無機微粒子との好ましい比率が存在し、カチオン性無機微粒子100質量部に対し20から100質量部である。これ以下の添加量では効果が認めがたく、また100質量部を越えて添加した場合には、塗膜の耐水性が損なわれて印刷中に地汚れが発生したり、画像部感光層との接着性が低下し耐刷性が低下する場合がある。
【0030】
本発明に関わる親水性層には、上記カチオン性水溶性ポリマーを架橋するための架橋剤を添加して用いることも好ましく行われる。こうした架橋剤としては、公知の種々の化合物が挙げられる。具体的にはエポキシ化合物、イソシアネート化合物およびその誘導体、ホルマリン等のアルデヒド化合物およびメチロール化合物、ヒドラジド化合物などが好ましい例として挙げられる。以下、こうした架橋剤の具体的な例を化学式を添えて説明する。
【0031】
エポキシ化合物としては分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物で、水溶性であるものが好ましく使用される。こうしたエポキシ化合物は中性から弱酸性条件では水中でも比較的安定であり、親水性層を形成するための塗工液を作製した場合に、塗液寿命が長く連続した生産において極めて有利であり好ましい。好ましいエポキシ化合物の例を下記に示す。
【0032】
【化4】

【0033】
上記のようなエポキシ化合物と該カチオン性水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、アミノ基が特に好ましい。
【0034】
イソシアネート化合物としては、水中で安定である化合物が好ましく、いわゆる自己乳化性イソシアネート化合物や、ブロックイソシアネート化合物が好ましく使用される。自己乳化性イソシアネート化合物としては、例えば、特公昭55−7472号公報(米国特許第3,996,154号明細書)、特開平5−222150号公報(米国特許第5,252,696号明細書)、特開平9−71720号公報、特開平9−328654号公報、特開平10−60073号公報の明細書等に記載されるような自己乳化性イソシアネートを指す。具体的には、例えば、脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネートから形成される環状三量体骨格のイソシアヌレート構造を分子内に有するポリイソシアネートや、ビュレット構造、ウレタン構造等を分子内に有するポリイソシアネートをベースポリイソシアネートとし、これに片末端エーテル化したポリエチレングリコール等をポリイソシアネート基の内一部のみに付加させて得られる構造のポリイソシアネート化合物が極めて好ましい例として挙げられる。こうした構造のイソシアネート化合物の合成法については上記の明細書中に記載されている。こうしたイソシアネート化合物の具体的な例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート等を出発原料とした環状三量化によるポリイソシアネートをベースポリイソシアネートとしたものが市販されており、例えば、旭化成工業株式会社からデユラネートWB40或いはWX1741等の名称で入手可能である。ブロックイソシアネート化合物としては、例えば特開平4−184335号、特開平6−175252号公報の明細書等に見られるように、重亜硫酸塩、アルコール類、ラクタム類、オキシム類、活性メチレン類などでブロックされたブロックイソシアネートが好ましく用いられる。こうしたイソシアネート化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、水酸基やアミノ基が特に好ましい。
【0035】
ホルマリン等のアルデヒド化合物およびメチロール化合物の例としては、ホルマリン、グリオキザール、および下記に示すような種々のN−メチロール化合物を例示することが出来る。こうした化合物と該カチオン性水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該カチオン性水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、水酸基やアミノ基が特に好ましい。
【0036】
【化5】

【0037】
ヒドラジド化合物として好ましく使用できる化合物の例を下記に示す。こうしたヒドラジド化合物と該カチオン性水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、アセトアセトキシ基のような活性メチレン基が特に好ましい。
【0038】
【化6】

【0039】
上記のような種々の架橋剤と該カチオン性水溶性ポリマーとの比率に関しては好ましい範囲が存在する。該カチオン性水溶性ポリマー100質量部に対して架橋剤は1〜40質量部の範囲で用いることが好ましく、1質量部以下では架橋耐水化が不十分であり、印刷中に親水性層の剥離が生じる場合がある。逆に40質量部以上用いた場合には、親水性層の水に対する親和性が低下し、地汚れの原因となるため好ましくない。
【0040】
本発明に用いる支持体としては各種プラスチックフィルムおよびアルミニウム板が挙げられる。プラスチックフィルム支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硝酸セルロースなどが代表的に挙げられ、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく用いられる。これらのフィルムは親水性層を設ける前に、表面に親水化加工が施されていることが好ましく、こうした親水化加工としては、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。さらなる親水化加工として基材上に設ける親水性層との接着性を高めるため基材上に下引き層を設けても良い。下引き層としては、親水性樹脂を主成分とする層が有効である。親水性樹脂としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン)、ヒドロキエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の水溶性樹脂が好ましい。特に好ましくは、ゼラチン、ポリビニルアルコールが挙げられる。こうした下引き層を介してフィルム支持体と親水性層を形成することで、多部数にわたるロングラン印刷条件での耐刷性が向上するため好ましく利用される。
【0041】
支持体としてアルミニウム板を使用する場合には、親水性層との接着性を良好にする目的で、粗面化処理され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板が好ましく用いられる。さらに、表面をシリケート処理したアルミニウム板も好ましく用いることが出来るが、印刷時に於ける親水性は本発明で得られる親水性層で発現されるため、アルミニウム表面の親水化処理としてのシリケート加工は特に必要としない。
【0042】
先行する従来技術との比較において重要な点は、上記のような本発明で得られる親水性層を支持体上に形成することで、後述する光硬化性感光層との接着が極めて良好となり、結果として高い耐刷性を示すと共に、良好な保水性、即ち地汚れの発生防止がなされる点が挙げられる。例えば、特公昭49−2286号公報に記載のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレート系ポリマーによる親水性樹脂層、特公昭56−2938号公報に記載の尿素樹脂と顔料から構成される親水性層、特開昭48−83902号公報に記載のアクリルアミド系ポリマーをアルデヒド類で硬化させて得られる親水性層、特開昭62−280766号公報に記載の水溶性メラミン樹脂、ポリビニルアルコール、水不溶性無機粉体を含有する組成物を硬化させて得られる親水性層、特開平8−184967号公報に記載の側鎖にアミジノ基を有する繰り返し単位を含む水溶性ポリマーを硬化して得られる親水性層、特開平8−272087号に記載の親水性(共)重合体を含有し、加水分解されたテトラアルキルオルソシリケートで硬化された親水性層、特開平10−296895号公報に記載のオニウム基を有する親水性層、特開平11−311861号公報に記載のルイス塩基部分を有する架橋親水性ポリマーを多価金属イオンとの相互作用によって三次元架橋させて得られる親水性層、特開2000−122269号公報に記載の親水性樹脂及び水分散性フィラーを含有する親水性層等を利用しようとした場合、後述する光硬化性感光層との接着性が十分でなく、本発明で見出されたカチオン性無機微粒子を含む親水性層の存在で初めて十分な接着性が発現することを見出したものであり、後述する実施例の中でも具体的事例を示す。
【0043】
特に前述の特許文献6(特開2003−215801号公報)においては、シリケート処理を施したアルミニウム支持体および水溶性ポリマーからなる親水性層を設けたフィルム支持体の両方において、本発明に関係する光硬化性感光層を適用した場合に良好な印刷性が見出されていたが、印刷機上での停機後の地汚れ発生防止やインキ脱離性あるいは長期の置き版性など種々の条件での地汚れ防止と耐刷性を両立することは困難であった。本発明は以下に述べる特定の光硬化性感光層と、カチオン性無機微粒子を含む親水性層との組み合わせに於いて初めて十分な印刷性能を発現することを見出した点に特徴がある。
【0044】
本発明に関わる光硬化性感光層には4級塩基と、ヘテロ環を含む連結基を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有する重合体を含む。該ヘテロ環を含む連結基を介してビニル基が結合したフェニル基とは、下記一般式IIで表される基を側鎖に有するものである。
【0045】
【化7】

【0046】
式中、Zはヘテロ環を含む連結基を表し、R1、R2、及びR3は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R4は水素原子と置換可能な基または原子を表す。nは0または1を表し、mは0〜4の整数を表し、kは1〜4の整数を表す。上記ヘテロ環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。一般式IIで表される基の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
上記一般式IIで表される基の中には好ましいものが存在する。即ち、R1及びR2が水素原子でR3が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であるものが好ましい。更に、複素環基としてはチアジアゾール環を含むものが好ましく、kは1または2であるものが好ましい。
【0050】
本発明に於いて用いる4級塩基とは4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩であることが好ましく、下記で示す基が好ましい例として挙げられる。
【0051】
【化10】

【0052】
上記に示されるような各種4級塩基は該重合体中において主鎖と任意の結合基を介して連結される。重合体においては、先の一般式IIで示される基と4級塩基とが様々な形で側鎖に導入された重合体が用いられる。これら2種類の基の重合体中に於ける割合については、好ましい範囲が存在し、一般式IIで示される基の割合が重合体中に於いて10質量%以上60質量%以下の範囲であることが好ましく、これ以下の割合では光重合による硬化のための感度が低下し、架橋効率が低下する場合があり、また、この範囲を越える場合、該重合体の水に対する溶解性が低下し、本発明の目的とする水現像や印刷機上での現像性が低下する場合がある。
【0053】
本発明に於ける好ましい重合体の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。式中、数字は各繰り返し単位の重合体中に於ける質量%を表す。これらの重合体の合成方法に関しては、例えば特開2003−215801号公報中に記載される合成例と同様な方法により容易に合成される。
【0054】
【化11】

【0055】
【化12】

【0056】
本発明に於ける該重合体組成中における4級塩基と、先に述べたカチオン性無機微粒子を含む親水性層との相互作用により、印刷時の耐刷性が良好であると共に、カチオン性無機微粒子により親水性の高い親水性層が形成されることから、地汚れの無い良好な印刷性を示すことが本発明の特徴である。
【0057】
上記重合体の分子量に関しては好ましい範囲が存在し、質量平均分子量で5000から20万の範囲が好ましく、これ以下の分子量では耐刷性が不十分となり好ましくなく、また20万を越える分子量では塗布する際の塗液粘度が高くなりすぎ、均一な塗布が困難になる場合がある。最も好ましい分子量範囲は1万から10万の間である。
【0058】
上記重合体組成中には、目的に応じて上記の4級塩基および一般式IIで示される繰り返し単位以外にも種々の繰り返し単位を導入することが出来る。例えば、親水性モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン、アクリルアミド−N−グリコール酸等のカルボキシル基含有モノマー及びこれらの塩、ビニルホスホン酸等のリン酸基含有モノマー及びこれらの塩、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら水溶性モノマーは1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。
【0059】
或いは、疎水性モノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアリール(メタ)アクリレート類またはアリールアルキル(メタ)アクリレート類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを挙げることができる。これらの任意の組み合わせで構成される、該スルホン酸基とビニル基を同時に繰り返し単位に含む共重合体を本発明における重合体として使用することができる。こうした該4級塩基と一般式I以外の繰り返し単位を該重合体に含む場合、該重合体中に於ける割合は全体の50
質量%以下に留めることが好ましく、これ以上の割合で導入した場合には本発明の目的とする地汚れ防止と耐刷性の両立に支障を来す場合がある。
【0060】
本発明に関わる該光硬化性感光層には、該重合体と併せて、光重合開始剤を含有する。本発明に用いられる光重合開始剤としては、光または電子線の照射によりラジカルを発生し得る化合物であれば任意の化合物を用いることができる。
【0061】
本発明に用いることのできる光重合開始剤の例としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)アジニウム化合物、(g)活性エステル化合物、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、及び(j)有機ホウ素化合物等が挙げられる。
【0062】
(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、”RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY”J.P.FOUASSIER,J.F.RABEK(1993)、P.77〜P.177に記載のベンゾフェノン骨格、或いはチオキサントン骨格を有する化合物、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン類、特公昭60−26403号、特開昭62−81345号公報に記載のベンゾインエーテル類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報に記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン類、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類を挙げることができる。
【0063】
(b)芳香族オニウム塩の例としては、N、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、TeまたはIの芳香族オニウム塩が含まれる。このような芳香族オニウム塩は、特公昭52−14277号、同昭52−14278号、同昭52−14279号公報等に例示されている化合物を挙げることができる。
【0064】
(c)有機過酸化物の例としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、例えば、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−tert−ブチルジパーオキシイソフタレート等の過酸化エステル系が好ましい。
【0065】
(d)ヘキサアリールビイミダゾールの例としては、特公昭45−37377号、同昭44−86516号公報に記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5'−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0066】
(e)ケトオキシムエステルの例としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0067】
(f)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号、同昭63−142345号、同昭63−142346号、同昭63−143537号、特公昭46−42363号公報等に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0068】
(g)活性エステル化合物の例としては特公昭62−6223号公報等に記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号、特開昭59−174831号公報等に記載の活性スルホネート類を挙げることができる。
【0069】
(h)メタロセン化合物の例としては、特開昭59−152396号、同昭61−151197号、同昭63−41484号、同平2−249号、同平2−4705号公報等に記載のチタノセン化合物ならびに、特開平1−304453号、同平1−152109号公報等に記載の鉄−アレーン錯体等を挙げることができる。具体的なチタノセン化合物としては、例えば、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ジ−クロライド、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジシクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル等を挙げることができる。
【0070】
(i)トリハロアルキル置換化合物の例としては、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、米国特許第3,954,475号、同第3,987,037号、同第4,189,323号、特開昭61−151644号、同昭63−298339号、同平4−69661号、同平11−153859号公報等に記載のトリハロメチル−s−トリアジン化合物、特開昭54−74728号、同昭55−77742号、同昭60−138539号、同昭61−143748号、同平4−362644号、同平11−84649号公報等に記載の2−トリハロメチル−1,3,4−オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合した、特開2001−290271号公報等に記載のトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0071】
(j)有機ホウ素塩化合物の例としては、特開平8−217813号、同平9−106242号、同平9−188685号、同平9−188686号、同平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素アンモニウム化合物、特開平6−175561号、同平6−175564号、同平6−157623号公報等に記載の有機ホウ素スルホニウム化合物及び有機ホウ素オキソスルホニウム化合物、特開平6−175553号、同平6−175554号公報等に記載の有機ホウ素ヨードニウム化合物、特開平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素ホスホニウム化合物、特開平6−348011号、同平7−128785号、同平7−140589号、同平7−292014号、同平7−306527号公報等に記載の有機ホウ素遷移金属配位錯体化合物等が挙げられる。また、特開昭62−143044号、同平5−194619号公報等に記載の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有するカチオン性色素が挙げられる。
【0072】
また、本発明の光硬化性感光層を、400〜430nm付近の紫外光に対応させる場合には、(d)ヘキサアリールビイミダゾール、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、(j)有機ホウ素塩化合物が特に好ましい。
【0073】
また、本発明の光硬化性感光層を750〜1100nmの近赤外〜赤外光に対応させる場合には(i)トリハロアルキル置換化合物、(j)有機ホウ素塩化合物が特に好ましい。
【0074】
上記光重合開始剤は単独で用いても良いし、任意の2種以上の組み合わせで用いても良い。特に、(i)トリハロアルキル置換化合物と(j)有機ホウ素塩化合物を組み合わせて用いた場合には、感度が大幅に向上するために好ましい。光重合開始剤の光硬化性感光層中に占める含有量は、水溶性重合体に対して、1〜100質量%の範囲が好ましく、更に1〜40質量%の範囲が特に好ましい。
【0075】
本発明に関わる光重合開始剤については特に有機ホウ素塩が好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物およびオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)を組み合わせて用いることである。
【0076】
有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記一般式IIIで表される。
【0077】
【化13】

【0078】
式中、R5、R6、R7およびR8は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R5、R6、R7およびR8の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0079】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオン及びカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウムおよびホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加することで色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与することが行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。
【0080】
本発明に用いられる有機ホウ素塩としては、先に示した一般式IIIで表される有機ホウ素アニオンを含む塩であり、塩を形成するカチオンとしてはアルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0081】
【化14】

【0082】
【化15】

【0083】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いることでさらに高感度化、硬調化が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0084】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を下記に示す。
【0085】
【化16】

【0086】
【化17】

【0087】
本発明に関わる光硬化性感光層中には、前述の光重合開始剤を増感する化合物を併せて含有する。400〜430nm付近の感度を増大される化合物としては、特開平9−230913号、特開2001−42524号公報等に記載されるカルバゾール系化合物や、特開平8−262715号、同8−272096号、特開平9−328505号公報等に記載されるカルボメロシアニン系色素、特開平4−194857号、特開平6−295061号、特開平7−84863号、特開平8−220755号、特開平9−80750号、同9−236913号公報等に記載されるアミノベンジリデンケトン系色素、特開平4−184344号、特開平6−301208号、特開平7−271284号、特開平8−29973号公報等に記載されるクマリン色素、特開平7−225474号、同7−5685号、同7−281434号、特開平8−6245号公報公報等に記載されるピロメチン色素、特開平9−80751号公報等に記載されるスチリル系色素等のような各種増感剤を好ましく使用することが出来る。また上記有機ホウ素塩との組み合わせに於いては特にピリリウム系化合物またはチオピリリウム系化合物が好ましい。
【0088】
750〜1100nmにおける増感色素として、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、クマリン、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム化合物、ピリリウム化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号、米国特許第4,508,811号、同5,227,227号公報に記載の化合物も用いることができる。
【0089】
好ましく用いることの出来る増感色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。400〜430nm付近の紫外光に対応する増感色素を下記に示す。
【0090】
【化18】

【0091】
【化19】

【0092】
750〜1100nm付近の近赤外光に対応する増感色素を下記に示す。
【0093】
【化20】

【0094】
【化21】

【0095】
本発明は、光硬化性感光層中に多官能性モノマーを含有することも出来る。こうした多官能性モノマーの例としては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性アクリル系モノマー、或いは、アクリロイル基、メタクリロイル基を導入した各種重合体としてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等も同様に使用される。
【0096】
光硬化性感光層を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0097】
光硬化性感光層中には、さらに長期にわたる保存に関して、熱重合による暗所での硬化反応を防止するために重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。こうした目的で好ましく使用される重合禁止剤としては、公知の各種フェノール化合物等が使用できる。
【0098】
感光性平版印刷版材料として使用する場合の光硬化性感光層自体の乾燥塗布量に関しては、親水性層上に0.6g/m2から10g/m2の範囲の乾燥塗布量で形成することが好ましく、さらに0.6g/m2から3g/m2の範囲であることが良好な解像度を発揮し、かつ耐刷性を大幅に向上させるために極めて好ましい。感光層は上述の種々の要素を混合した溶液を作製し、公知の種々の塗布方式を用いて親水性層上に塗布、乾燥される。
【0099】
上記のようにして支持体上に形成された光硬化性感光層と親水性層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することで水に対する溶解性が低下することから、水により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0100】
本発明において、水現像に使用される水とは、純水もしくはこれに各種無機、有機イオン性化合物が含まれても良く、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムイオンなどが含まれる水であっても良い。また、各種界面活性剤を添加することも好ましく行うことが出来る。さらにはまた、印刷機上で給湿液を機上現像用に用いる場合には、各種市販の給湿液が使用でき、pHは4〜10程度の範囲内で用いることが好ましい。また、水には各種アルコール類として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシエタノール、ポリエチレングリコールなどの溶剤が含まれていても良い。或いは、市販される各種ガム液を使用して現像することも、版面を指紋汚れ等から保護する目的で好ましく用いることが出来る。
【0101】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【実施例1】
【0102】
(親水性層)
塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有する厚み100μmのポリエステルフィルムを使用して、この上に下記の処方で示される親水性層を形成することで支持体1〜5を作製した。親水性層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり4gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料はさらに40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、引き続く感光層の塗布に給した。
(親水性層塗液処方)
カチオン性水溶性ポリマー(表1)溶液(20%濃度) 7g
カチオン性無機微粒子(日産化学工業(株)製スノーテックスAK)
(20%溶液) 10g
架橋剤(表1) 0.2g
純水 10g
【0103】
【表1】

【0104】
(感光性平版印刷版材料)
上記のように作製した支持体1〜5の上に、下記光硬化性感光層塗液処方の塗布液を塗布し、光硬化性感光層を形成することで感光性平版印刷版材料1〜5を作製した。感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり0.6gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で10分間加熱して乾燥を行った。
(光硬化性感光層塗液処方)
ポリマー(CP−5)溶液(25%濃度) 5g
光重合開始剤(BC−6) 0.1g
光重合開始剤(T−2) 0.03g
増感色素(S−38) 0.03g
ビクトリアブルー(着色用染料) 0.02g
ジオキサン 9g
エタノール 1g
【0105】
(露光試験)
上記のようにして作製した感光層を設けた感光性平版印刷版材料1〜5を用いて以下のようにして露光試験を行った。露光はアルミ印刷版に用いられる830nmレーザーを搭載したPT−R4000(大日本スクリーン製造(株)製)を使用し、この装置を用いて描画を行うために、0.24mmのアルミ板上に上記の試料をセロテープ(登録商標)を用いて感光層が表面になるように張り合わせた。露光エネルギーは、フィルム表面上で100mJ/cm2程度になるように設定し、ドラム回転数1000rpmで描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の網点階調パターンと10〜100μm細線を出力し、後述する解像度の評価を行った。
【0106】
(水現像性および解像度試験)
上記で描画を行った各試料を30℃に調節した水中に10秒間浸け、スポンジで軽く表面を擦ることで未露光部を除去した。この際、現像性評価として、未露光部が完全に除去された場合を○とし、感光層残りが僅かに認められた場合を△とし、現像性が悪く明らかに残膜若しくは現像不良を生じた場合を×とした。さらに、現像性評価で○である場合についてのみ、解像度の評価を行い、10μm細線および1%網点が明瞭に再現されている場合を○とし、これらが部分的に欠落しているが、20μm以上の細線および2%以上の網点が明瞭に再現されている場合を△、これ以下の再現性である場合を×とした。
【0107】
(印刷性試験)
印刷機として、オフセット枚葉印刷機リョービ560を使用し、印刷インキは大日本インキ(株)製ニューチャンピオンFグロス85墨Fを使用し、給湿液は市販のPS版用給湿液トーホーエッチ液を1%に希釈して使用した。印刷枚数は3万枚まで実施し、印刷評価項目として、耐刷性についてテスト画像中の微小網点および細線が欠落し始めるまでの刷り枚数を以て評価を行った。実用的な耐刷性の目標は1万枚であり、これ以上の耐刷性を有する場合を実用上可と判定した。また地汚れに関しては、印刷を通して地汚れが無い場合を○とし、印刷初期或いは後期に地汚れが発生した場合を△、終始地汚れが認められた場合を×とした。この場合、実用上の観点からは、△レベルを実用上の下限とし、△および○の評価であった場合を実用上可と判定した。インキ脱離性として、印刷開始時に、給湿液を絞り全面をインキで覆った状態から刷り始め、その後給湿液を正常値に戻した時点からのインキ脱離性を評価した。この際、刷り枚数50枚以下で地汚れが消失した場合を○とし、50枚以上100枚以下であった場合を△、100枚以上であった場合を×とした。この場合、実用上の観点からは、△レベルを実用上の下限とし、△および○の評価であった場合を実用上可と判定した。
【0108】
(印刷機上現像性試験)
上記の印刷評価とは別に、同じ版で未露光部を除去していない印刷版を用いて、同じ印刷機、インキおよび給湿液を使用して、印刷開始時にインキ供給をゼロに設定し、給湿液を版面に十分に供給した状態から印刷を開始し、印刷物上で地汚れのない正常な印刷物が刷り初めから100枚以下で得られた場合に○とし、100枚以上200枚以下である場合を△、200枚以上であった場合を×とした。
【0109】
以上の様にして評価を行った結果を表2にまとめた。
【0110】
【表2】

【0111】
表2に見られるように、何れの感光性平版印刷版材料においても2万枚から3万枚の良好な耐刷性を示すと共に、良好な水現像性および機上現像性を示す結果であった。
【実施例2】
【0112】
実施例1と同様に、塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有する厚み100μmのポリエステルフィルムを使用して、この上に下記の処方で示される親水性層を形成することで支持体6を作製した。親水性層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり4gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料はさらに40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、実施例1で用いた光硬化性感光層塗液を用い感光性平版印刷版材料6を得た。実施例1と同様にして各種評価を行った結果を表3に示した。
(親水性層塗液処方)
カチオン性無機微粒子(日産化学工業(株)製アルミナゾル200)
(20%溶液) 10g
ポリビニルアルコールGL−05(日本合成化学(株)製)
(5%溶液) 20g
純水 10g
【0113】
実施例1と同様に、塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有する厚み100μmのポリエステルフィルムを使用して、この上に下記の処方で示される親水性層を形成することで支持体7を作製した。親水性層の塗布厚みは乾燥質量で1平方メートル当たり4gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料はさらに40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、実施例1で用いた光硬化性感光層塗液を用い感光性平版印刷版材料7を得た。実施例1と同様にして各種評価を行った結果を表3に示した。
(親水性層塗液処方)
カチオン性無機微粒子(日産化学工業(株)製アルミナゾル200)
(20%溶液) 10g
カチオン性水溶性ポリマー(C−1)
(20%溶液) 10g
純水 10g
【0114】
(比較例1)
実施例1と同様に、塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有する厚み100μmのポリエステルフィルムを使用して、この上に下記の処方で示される親水性層を形成することで比較支持体1を作製した。親水性層の塗布厚みは乾燥質量で1平方メートル当たり4gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料はさらに40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、実施例1で用いた光硬化性感光層塗液を用い比較例1の感光性平版印刷版材料を得た。実施例1と同様にして各種評価を行った結果を下記表3に示したが、この場合、光硬化性感光層が親水性層に強固に接着したため水により現像できず、印刷は不可能であった。
(親水性層塗液処方)
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製スノーテックス20)
(20%溶液) 10g
ポリビニルアルコールGL−05(日本合成化学(株)製)
(5%溶液) 10g
純水 10g
【0115】
【表3】

【0116】
(比較例2〜6)
実施例1で作製した支持体1〜5の上に、下記光硬化性感光層塗液処方の塗布液を塗布し、光硬化性感光層を形成することで比較例2〜6の感光性平版印刷版材料を作製した。感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり0.6gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で10分間加熱して乾燥を行った。
(光硬化性感光層塗液処方)
ポリマー(下記化22)溶液(25%濃度) 5g
光重合開始剤(BC−6) 0.1g
光重合開始剤(T−2) 0.03g
増感色素(S−38) 0.03g
ビクトリアブルー(着色用染料) 0.02g
ジオキサン 9g
エタノール 1g
【0117】
【化22】

【0118】
実施例1と同様にして各種評価を行った結果を下記表4に示した。いずれの比較感光性平版印刷版材料においても、光硬化性感光層が親水性層に強固に接着したため水による現像性が悪く、地汚れが顕著であったため耐刷評価は実施出来なかった。
【0119】
【表4】

【実施例3】
【0120】
実施例1と同様に、塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有する厚み100μmのポリエステルフィルムを使用して、この上に下記および表5で示される処方の親水性層を形成することで支持体8〜12を作製した。親水性層の塗布厚みは乾燥質量で1平方メートル当たり4gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料はさらに40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、実施例1で用いた光硬化性感光層塗液を用い感光性平版印刷版材料8〜12を得た。実施例1と同様にして各種評価を行った結果を表6に示した。
(親水性層塗液処方)
カチオン性水溶性ポリマー(C−1)溶液(20%濃度)表5中Xg
カチオン性無機微粒子(日産化学工業(株)製スノーテックスAK)
(20%溶液) 10g
架橋剤(E−3) 表5中Yg
純水 10g
【0121】
【表5】

【0122】
【表6】

【実施例4】
【0123】
実施例1の塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有するポリエステルフィルムに替えて、粗面化し陽極酸化皮膜を設けたオフセット印刷用アルミニウム板を用いた以外は実施例1と同様にして感光性平版印刷版材料13〜17を得た。これらを用いてPT−R4000にそのまま装填し、同様に描画を行って、先の実施例と同様に水現像性試験および印刷性試験(刷り枚数は6万枚まで実施した)、印刷機上現像性試験を行った。結果を表7にまとめた。
【0124】
【表7】

【0125】
表7に見られるように、感光性平版印刷版材料13〜17の全てにおいて5万枚以上の良好な耐刷性を示すと共に、良好な保水性および機上現像性を示す結果であった。
【0126】
(比較例7)
印刷版用支持体として、粗面化され陽極酸化皮膜を設けたオフセット印刷用アルミニウム板を用い、親水性層を設けずにアルミ板表面に直接実施例1で使用した光硬化性感光層塗液を塗布し、比較例7の感光性平版印刷版材料を作製した。実施例1と同様にして評価を行ったところ、印刷評価に於いて地汚れが著しく正常な印刷物が得られなかった。
【実施例5】
【0127】
実施例1で作製した支持体1の上に、感光層塗布液として、増感色素を実施例1で使用したものから、化18中S−21で示す色素に替えた以外は全く同様にして感光層を塗布し、感光性平版印刷版材料13を作製した。露光装置として、405nmに発光する青紫半導体レーザー(出力50mW)を用いて、版面露光エネルギー120μJ/cm2に設定してテストパターンを描画した。その後、実施例1と全く同様にして評価を行い、3万枚の良好な耐刷性を示すと共に、良好な保水性および機上現像性を示す結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明により、近赤外領域(750〜1100nm)に発光するレーザーもしくは、400〜430nm付近に発光するレーザーを使用する走査型露光装置を用いるCTP方式印刷版において、印刷機上で現像可能であるか、あるいは水による現像が可能なフィルムベース印刷版およびアルミベース印刷版が得られる。更に、プリント配線基板作製用レジストや、カラーフィルター、蛍光体パターンの形成等に好適な感光性組成物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、カチオン性無機微粒子を含んでなる親水性層を有し、さらにその上に、4級塩基と、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有する重合体、光重合開始剤およびそれを増感する化合物を含有する光硬化性感光層を有する積層構造を有することを特徴とする水現像可能な感光性平版印刷版材料。
【請求項2】
該親水性層にカチオン性水溶性ポリマーをカチオン性無機微粒子の固形分量に対して20〜100質量%の範囲で含む請求項1に記載の水現像可能な感光性平版印刷版材料。
【請求項3】
該カチオン性水溶性ポリマーが下記一般式Iで示されるポリマーである請求項2に記載の水現像可能な感光性平版印刷版材料。
【化1】

(上式に於いて、Xは共重合体組成中に占める繰り返し単位の質量%を表し、1から40までの任意の数値を表す。繰り返し単位Aはアミノ基、水酸基、アセトアセトキシ基から選ばれる基を有する繰り返し単位を表す。繰り返し単位Bは4級アンモニウム塩基またはアクリルアミド誘導体残基またはN−ビニルピロリドン残基を有する繰り返し単位を表す。)
【請求項4】
該親水性層にさらに該カチオン性水溶性ポリマーを架橋する架橋剤をカチオン性水溶性ポリマーの固形分量に対して5〜50質量%の割合で含む請求項2または3に記載の水現像可能な感光性平版印刷版材料。

【公開番号】特開2008−250195(P2008−250195A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94222(P2007−94222)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】