説明

油圧制御装置及びそれを備えた四輪駆動車両の駆動力配分装置

【課題】電動モータの故障を高い精度で検知できると共に、電動モータの正常状態を故障と誤検知する確率を低く抑えることができるようにする。
【解決手段】モータ(電動モータ)(37)により駆動されるオイルポンプ(35)から供給される油圧によって前後トルク配分用クラッチ(10)の作動制御を行う四輪駆動車両用の油圧制御装置(60)において、モータ(37)の故障判定を行うモータ故障判定手段(50)は、モータ(37)の故障検知開始時点(t2)からモータ(37)の駆動電流値(I)を積算したモータ駆動電流積算値(Is)の算出を行うと共に、モータ故障判定用の閾値(Ith)を所定の割合で増加させる。そして、モータ駆動電流積算値(Is)が闇値(Ith)以下となった場合、故障確定タイマ(Tm2)のカウント完了を待ってモータ(37)の故障確定判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより駆動されるオイルポンプから供給する油圧でアクチュエータの制御を行う油圧制御装置であって、電動モータの故障を検知するためのモータ故障検知手段を備えた油圧制御装置、及びそれを備えた四輪駆動車両の駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンなどの駆動源で発生した駆動力を主駆動輪と副駆動輪に分配するための駆動力配分装置を備えた四輪駆動車両がある。この種の四輪駆動車両では、例えば、前輪が主駆動輪で後輪が副駆動輪の場合、駆動源で発生した駆動力は、フロントドライブシャフトおよびフロントディファレンシャルを介して前輪に伝達されると共に、プロペラシャフトを介して油圧式クラッチを備えた駆動力配分装置に伝達される。そして、駆動力配分装置に油圧制御装置から所定圧の作動油を供給することで、駆動力配分装置が有する油圧式クラッチの係合圧を制御する。これにより、駆動源の駆動力が所定の配分比で副駆動輪である後輪に伝達されるようになっている。
【0003】
駆動力配分装置の油圧式クラッチへの供給油圧を制御するための油圧制御装置として、特許文献1、2に示す油圧制御装置がある。特許文献1、2に示す油圧制御装置は、多板クラッチを押圧するための油圧室に作動油を供給する電動オイルポンプを備え、電動オイルポンプと油圧室とを油圧供給路で接続した構成である。そして、特許文献1の油圧制御装置では、電動ポンプの吐出値が油圧クラッチの要求作動圧となるように電動ポンプの回転数を制御している。また、特許文献2に記載の油圧制御装置では、駆動力の配分比に応じた油圧を発生させるように電動ポンプのモータ駆動を制御している。
【0004】
特許文献1,2に記載の油圧制御装置は、電動モータ(以下では、単に「モータ」と記す場合がある。)によりポンプを駆動するものであるため、万一、モータが故障した場合には、油圧式クラッチへの油圧供給を適正に行えず、副駆動輪への駆動力の伝達を制御できなくなるおそれがある。そのため、モータの故障を検知する手段を設けることが必要となる。従来のモータ故障検知では、モータの駆動電流や回転数などの検出値に対して故障検知用の閾値を設定しておき、検出値が閾値を超えて正常範囲外になった場合にモータの異常状態と判断し、異常状態の継続時間によって故障を検知する手法が多く用いられている。ここで、故障検知のための閾値は、その値が大き過ぎるとモータの異常状態の検知精度が低下する一方で、小さ過ぎるとモータの異常状態の誤検知率が高くなってしまう。そのため、閾値を適切な値に設定することがモータの故障検知における課題の一つである。
【0005】
上記のようなモータ故障検知では、モータの速度検出値(回転速度の検出値)に対して故障検知用の閾値を設定する(速度検出値が閾値を下回ったら故障と判断する)手法が考えられる。しかしながら、モータに対して動作指示を行っているにも関わらずモータが動作しない故障(以下、これを「オフ故障」という。)が発生した場合、このようなモータの速度検出値に対して故障検知用の閾値を設定する手法では、モータが正常動作しているにも関わらず速度検出値が小さな値となる状態(例えば、モータの負荷が非常に大きな状態)において、正常に動作しているモータを故障と誤判定してしまう可能性がある。
【0006】
そこで、特許文献3において提案されている手法では、モータの速度指令値と速度検出値の偏差に対して故障検出用の閾値を設定するようにしている。すなわち、特許文献3に記載の電動機駆動制御装置では、モータの速度指令値に対する速度検出値の追従異常を検出する目的で、速度指令値(モータ回転速度の目標値)と速度検出値の偏差に対して故障検出用の閾値を設定し、当該閾値を用いてモータの故障を検知するようになっている。この特許文献3に記載された装置によれば、モータの速度検出値が小さな値であっても速度指令値との偏差が大きな値となるため、モータ故障の誤判定を防止することが可能となる。
【0007】
しかしながら、特許文献3で提案されている手法は、モータの速度指令値、即ちモータ回転速度の目標値を用いてその故障を検知するものであるため、モータ回転速度の目標値が与えられないシステムには適用できない。そのため、上記のような四輪駆動車両の油圧制御装置のシステムが、例えば、オイルポンプで予め定めた目標油圧を発生させるように構成したシステムや、フィードフォワード制御でモータを動作させるシステムなど、モータ回転速度以外の目標値が与えられたシステムである場合、特許文献3に記載のモータ故障検知手法は適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−19768号公報
【特許文献2】特開2001−206092号公報
【特許文献3】特開昭60−234480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電動モータで駆動されるオイルポンプから供給される油圧によってアクチュエータの制御を行う油圧制御装置において、当該油圧制御装置のシステムが電動モータの速度指令値(電動モータの回転速度の目標値)の存在しないシステムである場合にも、電動モータの故障を高い精度で検知でき、電動モータの正常状態を故障と誤検知する確率を低く抑えることができる油圧制御装置、及び該油圧制御装置を備えた四輪駆動車両の駆動力配分装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明は、電動モータ(37)と、電動モータ(37)により駆動されるオイルポンプ(35)と、電動モータ(37)の運転を制御する制御手段(50)と、を備え、オイルポンプ(35)から供給される油圧によってアクチュエータ(10)の作動制御を行う油圧制御装置(60)であって、制御手段(50)は、電動モータ(37)の故障を検知するためのモータ故障検知手段(50)を備え、モータ故障検知手段(50)は、電動モータ(37)の駆動電流値(I)を検出する駆動電流値検出手段(50,54)と、駆動電流値(I)を積算した駆動電流積算値(Is)の算出を行う駆動電流積算値算出手段(50)と、駆動電流積算値(Is)に対するモータ故障判定用の闇値(Ith)を設定するモータ故障判定用閾値設定手段(50)と、駆動電流積算値(Is)とモータ故障判定用の闇値(Ith)とを比較することで電動モータ(37)の故障判定を行うモータ故障判定手段(50)と、を備え、モータ故障検知手段(50)は、電動モータ(37)の故障検知開始時点(t2)から駆動電流積算値(Is)の算出を行うと共に、モータ故障判定用の閾値(Ith)を電動モータ(37)の故障検知開始(t2)からの経過時間に応じて所定の割合で増加させるようにし、モータ故障判定手段(50)は、駆動電流積算値(Is)がモータ故障判定用の闇値(Ith)以下である場合に電動モータ(37)が故障しているとの判定を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる油圧制御装置によれば、モータ故障検知手段は、駆動電流積算値算出手段でモータ駆動電流の積算値を算出し、モータ故障判定手段は、当該モータ駆動電流の積算値を閾値と比較することで電動モータの故障判定を行うようにした。このように、モータ駆動電流の積算値に基づいて電動モータの故障判定を行うことで、モータ速度指令値を用いずに故障判定を行うことができる。したがって、本発明にかかる油圧制御装置のシステムがモータ速度指令値の存在しないシステムであっても、電動モータの故障検知を行うことが可能となる。また、モータ駆動電流の積算値を用いて電動モータの故障判定を行うことで、電動モータ故障時の無通電状態を確実に検知可能となる。さらに、電動モータの定常回転時における電流値が非常に低い値である場合など、電動モータに微小電流のみが通電するような状態でも、そのことでモータ故障と誤検知するおそれが無くなる。
【0012】
また、本発明にかかるモータ故障検知手段によれば、モータ駆動電流の積算値をモータ故障検知用のデータとして用いることで、モータ故障検知用のデータが、電動モータの駆動および故障検知を行うための制御手段などを構成する素子(電子部品)の出力バラつきや出力データに含まれるノイズなどの影響を受け難くなる。そのため、従来のモータ故障検知手段と比較して、より外的要因に左右されず正確な故障検知が可能となるタフネス性の高いモータ故障検知手段となる。
【0013】
また、モータ故障検知手段は、モータ故障判定用の閾値を電動モータの故障検知開始からの経過時間に応じて所定の割合で増加させるようにしたことで、モータの駆動電流が微小電流であるときに、当該駆動電流が長時間に渡って積算された場合でもモータの故障判定を正確に行うことができる。これにより、モータ故障判定用の閾値を一定値とする場合と比較して、モータ駆動電流の積算値に基づくモータ故障判定をより適切に行えるようになる。したがって、モータの駆動電流の積算値に基づいて行うモータの故障判定の精度をさらに高めることが可能となる。
【0014】
また、この場合、モータ故障判定手段(50)は、駆動電流積算値(Is)がモータ故障判定用の闇値(Ith)以下となった場合、その時点(t2)から予め設定した時間が経過した時点(t3)でも駆動電流積算値(Is)がモータ故障判定用の闇値(Ith)以下であれば、電動モータ(37)が故障しているとの判定を行うようにするとよい。すなわち、駆動電流積算値がモータ故障判定用の闇値以下となった場合でも、直ちに電動モータの故障判定を確定させず、所定の待ち時間が経過した時点で依然として駆動電流積算値がモータ故障判定用の闇値以下であるときに電動モータの故障判定を確定させるようにする。これによれば、電動モータの駆動電流の異常が故障に関係しない一過性のものである場合でも、そのことによって電動モータの故障と誤検知することを防止できる。したがって、電動モータの故障検知の精度を効果的に高めることができる。
【0015】
また、本発明にかかる油圧制御装置では、上記のアクチュエータ(10)は、油圧式クラッチ(10)であり、油圧式クラッチ(10)とオイルポンプ(35)との間には、オイルポンプ(35)から油圧式クラッチ(10)ヘ向かう方向にのみ作動油を流通させる一方向弁(39)が設けられており、油圧式クラッチ(10)と一方向弁(39)との間の油路(49)は、一方向弁(39)を通過した作動油が封入されることで油圧式クラッチ(10)に供給する油圧が保持される油圧保持部(49)になっているとよい。
【0016】
この場合、油圧式クラッチ(10)に供給される作動油の油圧を検出する油圧検出手段(45)を備え、制御手段(50)は、油圧検出手段(45)で検出した油圧が目標油圧に達すると電動モータ(37)の運転を停止させるようにしてよい。またその場合、制御手段(50)は、油圧検出手段(45)で検出した油圧が目標油圧に達するまでの間、オイルポンプ(35)が一定圧の作動油を吐出するように電動モータ(37)の駆動を制御するとよい。
【0017】
この油圧制御装置では、目標油圧に基づいて電動モータの駆動を制御するシステムであるため、電動モータの回転速度の目標値が存在しない。これに対して、本発明にかかるモータ故障判定手段は、モータ駆動電流の積算値に基づいてモータの故障判定を行うため、このような電動モータの回転速度の目標値が存在しないシステムの油圧制御装置においても、電動モータの故障判定を行うことが可能となる。
【0018】
また本発明は、駆動源(3)からの駆動力を主駆動輪(W1,W2)及び副駆動輪(W3,W4)に伝達する駆動力伝達経路(20)と、駆動力伝達経路(20)における駆動源(3)と副駆動輪(W3,W4)との間に配置されて副駆動輪(W3,W4)に配分する駆動力を制御する油圧式クラッチ(10)と、を備えた四輪駆動車両(1)の駆動力配分装置(70)であって、油圧式クラッチ(10)の作動制御を行うための油圧制御装置(60)として、本発明にかかる上記の油圧制御装置(60)を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる四輪駆動車両の駆動力配分装置によれば、上記の油圧制御装置が備えるモータ故障検知手段で電動モータの故障を検知するようにしたことで、万一、電動モータに故障が発生した場合でも、当該故障の発生を高い精度で検出できる。したがって、電動モータの故障に伴う油圧式クラッチの作動不良に対してのフェールセーフ動作を迅速に行うことができ、駆動力配分制御の安全性を高めることができる。
なお、上記で括弧内に記した参照符号は、後述する実施形態における対応する構成要素の符号を参考のために例示したものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる油圧制御装置及びそれを備えた駆動力配分装置によれば、電動モータの故障を高い精度で検知でき、電動モータの正常状態を故障と誤検知する確率を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態にかかる駆動力配分装置を備えた四輪駆動車両の概略構成を示す図である。
【図2】油圧制御装置の油圧回路を示す図である。
【図3】制御ユニット(4WD・ECU)の詳細構成を示すブロック図である。
【図4】ピストン室の油圧制御の手順を示すフローチャートであり、(a)は、加圧時の手順を示すフローチャート、(b)は、減圧時の手順を示すフローチャートである。
【図5】ピストン室の油圧制御におけるモータ(オイルポンプ)の運転/停止状態及びソレノイド弁の開/閉状態と実油圧の変化を示すタイミングチャートである。
【図6】ピストン室の油圧制御における油圧回路内の作動油の状態を示す回路図で、(a)は、加圧時の作動油の状態、(b)は、油圧保持時の作動油の状態、(c)は、減圧時の作動油の状態を示す図である。
【図7】モータ故障検知の手順を示すフローチャートである。
【図8】モータ故障検知におけるモータ駆動電流の積算値及びモータ故障検知用の閾値など各値の変化を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる油圧制御装置及び駆動力配分装置を備えた四輪駆動車両の概略構成を示す図である。同図に示す四輪駆動車両1は、車両の前部に横置きに搭載したエンジン(駆動源)3と、エンジン3と一体に設置された自動変速機4と、エンジン3からの駆動力を前輪Wf,Wf及び後輪Wr,Wrに伝達するための駆動力伝達経路20とを備えている。
【0023】
エンジン3の出力軸(図示せず)は、自動変速機4、フロントディファレンシャル(以下「フロントデフ」という)5、左右のフロントドライブシャフト6,6を介して、主駆動輪である左右の前輪Wf,Wfに連結されている。さらに、エンジン3の出力軸は、自動変速機4、フロントデフ5、プロペラシャフト7、リアデファレンシャルユニット(以下「リアデフユニット」という)8、左右のリアドライブシャフト9,9を介して副駆動輪である左右の後輪Wr,Wrに連結されている。
【0024】
リアデフユニット8には、左右のリアドライブシャフト9,9に駆動力を配分するためのリアデファレンシャル(以下、「リアデフ」という。)19と、プロペラシャフト7からリアデフ19への駆動力伝達経路を接続・切断するための前後トルク配分用クラッチ10とが設けられている。前後トルク配分用クラッチ10は、駆動力伝達経路20において後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御するための油圧式クラッチからなるアクチュエータである。また、前後トルク配分用クラッチ10に作動油を供給するための油圧回路30と、油圧回路30による供給油圧を制御するための制御手段である4WD・ECU(以下、「制御ユニット」と記す。)50を備えている。制御ユニット50は、マイクロコンピュータなどで構成されている。上記の制御ユニット50と油圧回路30とで油圧制御装置60が構成されており、油圧制御装置60と前後トルク配分用クラッチ10とで駆動力配分装置70が構成されている。
【0025】
図2は、油圧回路30の詳細構成を示す油圧回路図である。同図に示す油圧回路30は、ストレーナ33を介してオイルタンク31に貯留されている作動油を吸い込んで圧送するオイルポンプ35と、オイルポンプ35を駆動するモータ(電動モータ)37と、オイルポンプ35から前後トルク配分用クラッチ(以下、単に「クラッチ」という。)10のピストン室15に連通する油路40とを備えている。
【0026】
クラッチ10は、シリンダハウジング11と、シリンダハウジング11内で進退移動することで積層された複数の摩擦材13を押圧するピストン12とを備えている。シリンダハウジング11内には、ピストン12との間に作動油が導入されるピストン室15が画成されている。ピストン12は、複数の摩擦材13における積層方向の一端に対向配置されている。したがって、ピストン室15に供給された作動油の油圧でピストン12が摩擦材13を積層方向に押圧することで、クラッチ10を所定の係合圧で係合させるようになっている。
【0027】
オイルポンプ35からピストン室15に連通する油路40には、ワンウェイバルブ(一方向弁)39、リリーフ弁41、ソレノイド弁(開閉弁)43、油圧センサ45がこの順に設置されている。ワンウェイバルブ39は、オイルポンプ35側からピストン室15側に向かって作動油を流通させるが、その逆の向きには作動油の流通を阻止するように構成されている。これにより、オイルポンプ35の駆動でワンウェイバルブ39の下流側に送り込まれた作動油を、ワンウェイバルブ39とピストン室15との間の油路(以下では、「封入油路」ということがある。)49に封じ込めることができる。上記のワンウェイバルブ39とピストン室15との間の油路49によって、クラッチ10に供給する油圧が保持される油圧保持部が構成されている。
【0028】
リリーフ弁41は、ワンウェイバルブ39とピストン室15との間の油路49の圧力が所定の閾値を超えて異常上昇したときに開くことで、油路49の油圧を解放するように構成された弁である。リリーフ弁41から排出された作動油は、オイルタンク31に戻されるようになっている。ソレノイド弁43は、オンオフ型の開閉弁で、制御ユニット50の指令に基づいてPWM制御(デューティ制御)されることで、油路49の開閉を制御することができる。これにより、ピストン室15の油圧を制御することができる。なお、ソレノイド弁43が開かれることで油路49から排出された作動油は、オイルタンク31に戻されるようになっている。また、油圧センサ45は、油路49及びピストン室15の油圧を検出するための油圧検出手段であり、その検出値は、制御ユニット50に送られるようになっている。また、ピストン室15は、アキュムレータ18に連通している。アキュムレータ18は、ピストン室15及び油路49内の急激な油圧変化や油圧の脈動を抑制する作用を有している。また、オイルタンク31内には、作動油の温度を検出するための油温センサ47が設けられている。油温センサ47の検出値は、制御ユニット50に送られるようになっている。
【0029】
図3は、制御ユニット50の詳細構成を示すブロック図である。制御ユニット50には、バッテリー48の端子がイグニッションスイッチ42及びフェールセーフリレー44を介して接続されているほか、モータ37、ソレノイド弁43のソレノイド(ソレノイドコイル)43a、油圧センサ45、油温センサ47が接続されている。また、制御ユニット50には、車両の各部を制御する他の制御ユニット46が繋がれている。他の制御ユニット46には、図示は省略するが、各種メーターを制御するためのメーター・ECU、エンジン3及び自動変速機4を制御するためのFI/AT・ECU、車両の挙動を安定させる制御を行うためのVSA・ECU、ステアリング舵角の制御を行うためのSTRG・ECUなどが含まれている。ここでは、上記他の制御ユニット46に含まれる各ECUについての詳細な説明は省略する。なお、図3において、制御ユニット50の外周縁に沿って配置した○印の部位は、制御ユニット50をモータ37などの外部部品と接続するための接続端子である。
【0030】
制御ユニット50は、主制御部であるマイコン51を備えると共に、フェールセーフリレー44を制御するためのフェールセーフリレードライバ52と、モータ37の駆動を制御するためのモータドライバ53と、モータ37の駆動電流を検知するためのモータ電流検知部54と、ソレノイド43aの駆動を制御するためのソレノイドドライバ55と、ソレノイド43aの駆動電流を検知するためのソレノイド電流検知部56と、制御ユニット50を他の制御ユニット46と繋ぐためのインタフェースであるCAN(Controller Area Network)ドライバ57とを備えている。
【0031】
上記構成の制御ユニット50には、油圧センサ45の検出値と油温センサ47の検出値が入力されるようになっている。また、制御ユニット50は、モータドライバ53によってモータ37の駆動を制御すると共に、モータ電流検知部54でモータ37の駆動電流を検知するようになっている。すなわち、モータ動作指示として、モータ動作用デューティ電圧がマイコン51から出力されて、モータドライバ53へ入力される。このモータ動作用デューティ電圧でモータドライバ53が駆動され、モータ37の+端子にバッテリー電圧が印加されて、モータ37が作動する。また、モータ電流検知部54では、シャント抵抗による電流検知にてモータ37の駆動電流が計測される。
【0032】
また、制御ユニット50は、ソレノイドドライバ55によってソレノイド43a(ソレノイド弁43)の駆動を制御すると共に、ソレノイド電流検知部56でソレノイド43aの駆動電流を検知するようになっている。すなわち、ソレノイド動作指示として、ソレノイド動作用デューティ電圧がマイコン51から出力されて、ソレノイドドライバ55に入力される。このソレノイド動作用デューティ電圧によりソレノイドドライバ55が駆動され、ソレノイド43aの+端子にバッテリー電圧が印加されて、ソレノイド43aが作動する。また、ソレノイド電流検知部56では、シャント抵抗による電流検知にてソレノイド43aの駆動電流が計測される。
【0033】
なお、上記の制御ユニット50は、本発明にかかる電動モータの故障を検知するためのモータ故障検知手段として機能するほか、本発明にかかる電動モータの駆動電流値を検出する駆動電流値検出手段、駆動電流値を積算した駆動電流積算値の算出を行う駆動電流積算値算出手段、駆動電流積算値に対するモータ故障判定用の闇値を設定するモータ故障判定用閾値設定手段、及び駆動電流積算値とモータ故障判定用の闇値とを比較することで電動モータの故障判定を行うモータ故障判定手段などとして機能するものである。制御ユニット50の上記各機能によるモータ37の故障検知の詳細については、後述する。
【0034】
図4は、ピストン室15の油圧制御の手順を示すフローチャートであり、(a)は、加圧時の手順を示すフローチャート、(b)は、減圧時の手順を示すフローチャートである。また、図5は、ピストン室15の油圧制御におけるモータ37(オイルポンプ35)の運転/停止状態及びソレノイド弁43の開/閉状態と実油圧(封入油路49の油圧)の変化を示すタイミングチャートである。また、図6は、ピストン室15の油圧制御における油圧回路30内の作動油の状態を示す回路図で、(a)は、加圧時の作動油の状態、(b)は、油圧保持時の作動油の状態、(c)は、減圧時の作動油の状態を示す図である。
【0035】
本実施形態の油圧制御装置60による油圧制御では、ピストン室15を加圧する際には、モータ37(オイルポンプ35)の駆動を制御(デューティ制御)することで、加圧側の油圧−トルク特性に基づいてピストン室15が目標油圧となるように制御する。そして、ピストン室15が目標油圧となるまで加圧した後、減圧を開始するまでの間は、封入油路49に作動油を封じ込めた状態を維持することで、クラッチ10のトルクを略一定に保つことができる。一方、ピストン室15を減圧する場合には、オイルポンプ35の作動を禁止すると共にソレノイド弁43の開閉を制御(オンオフ制御)することで、減圧側の油圧−トルク特性に基づいてピストン室15が目標油圧となるよう制御する。なお、上記の加圧側及び減圧側の油圧−トルク特性は、後輪Wr,Wrに配分すべき駆動力(リアトルク)に対応する封入油路49内の油圧値として、予めモデル化されているものである。
【0036】
以下、図4のフローチャートに沿って、ピストン室15の加圧時と減圧時の油圧制御の手順について説明する。まず、同図(a)に示す加圧時の制御フローでは、制御ユニット50は、ピストン室15に対する加圧指示(加圧指示トルク)が有るか否かを判断する(ステップST1−1)。ピストン室15に対する加圧指示の有無は、車両の走行状態に応じて前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrに配分する駆動力を判断した結果、クラッチ(駆動力配分装置)10の締結要求又は締結力の増加要求があるか否かによって決まる。その結果、ピストン室15に対する加圧指示が無ければ(NO)、そのまま処理を終了する。一方、加圧指示があれば(YES)、続けて、加圧側の油圧−トルク特性に基づいて、オイルポンプ35(モータ37)の停止油圧(指示油圧)を算出し(ステップST1−2)、算出した指示油圧からモータ37を駆動するPWM制御のデューティ比を決定する(ステップST1−3)。その後、ソレノイド弁43が開いている場合には、ソレノイド弁43を閉じて油路49を封止状態とし(ステップST1−4)、決定したデューティ比でモータ37を駆動してオイルポンプ35を運転する(ステップST1−5)。これにより、ワンウェイバルブ39とピストン室15の間の油路49に作動油が送り込まれて、油路49及びピストン室15の油圧が上昇してゆく。その後、油圧センサ45で検出した油路49及びピストン室15の油圧(実油圧)がオイルポンプ35(モータ37)の停止油圧(指示油圧)以上になったか否かを判断する(ステップST1−6)。油路49及びピストン室15の油圧がオイルポンプ35の停止油圧に達したら(YES)、モータ37(オイルポンプ35)の運転を停止して(ステップST1−7)、加圧時の制御を終了する。なお、このピストン室15の加圧時には、油路49及びピストン室15の油圧が目標油圧に達するまでの間、オイルポンプ35が一定圧の作動油を吐出するようにモータ37の駆動を制御するとよい。
【0037】
一方、図4(b)に示す減圧時の制御フローでは、制御ユニット50は、ピストン室15に対する減圧指示(減圧指示トルク)が有るか否かを判断する(ステップST2−1)。ピストン室15に対する減圧指示は、車両の走行状態に応じて前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrに配分する駆動力を判断した結果、クラッチ(駆動力配分装置)10の締結解除要求又は締結力の低減要求があるか否かによって決まる。その結果、減圧指示が無ければ(NO)、そのまま処理を終了する。一方、減圧指示があれば(YES)、続けて、減圧側の油圧−トルク特性テーブルに基づいて、ソレノイド弁43の閉止油圧(指示油圧)を算出する(ステップST2−2)。その後、ソレノイド弁43を開いて油路49の封止状態を解除し(ステップST2−3)、油路49及びピストン室15の油圧を制御する。これにより、ソレノイド弁43を介して油路49の作動油が排出されて油圧が下降してゆく。その後、油圧センサ45で検出した油路49及びピストン室15の油圧(実油圧)がソレノイド弁43の閉止油圧(指示油圧)以下になったか否かを判断する(ステップST2−4)。油路49及びピストン室15の油圧がソレノイド弁43の閉止油圧に達したら(YES)、ソレノイド弁43を閉じて(ステップST2−5)、減圧時の制御を終了する。
【0038】
図5のタイミングチャートにおいて、時刻T1から時刻T2までの加圧時には、図4(a)のフローチャートに沿って加圧時の油圧制御が行われる。この加圧時の油圧制御では、既述のように、指示油圧に応じてオイルポンプ35の駆動を制御することで、ピストン室15の油圧を所望のトルクに応じた目標油圧になるように制御する。すなわち、油圧センサ45を用いて封入油路49内の作動油の油圧を計測し、当該油圧が後輪Wr,Wrに配分すべきトルクを出力可能な値(=目標油圧)となるまでモータ37の運転及びソレノイド弁43の閉状態を継続する。この加圧時の油圧回路30内の作動油は、図6(a)に示す状態になっている。
【0039】
その後、時刻T2においてモータ37(オイルポンプ35)の運転を停止する。時刻T2から時刻T3までの油圧保持時には、油圧回路30内の作動油は、図6(b)に示すように、油路49に指示油圧の作動油が封じ込められた状態になっている。したがって、オイルポンプ35の運転を停止しても、暫くの間はクラッチ10のトルク(実トルク)は略一定に維持される。これにより、目標の四輪駆動(4WD)状態を必要な時間継続する。なお、図示は省略するが、この状態においてより高い目標油圧が設定された場合には、さらにモータ37を動作させ油路49の加圧を行うようにする。
【0040】
時刻T3から、図4(b)のフローチャートに沿って減圧時の油圧制御が行われる。この減圧時の油圧制御では、既述のように、指示油圧に応じてソレノイド弁43の開閉を制御することで、ピストン室15の油圧が所望のトルクに応じた目標油圧まで下降するように制御される。この減圧時の油圧回路30内の作動油は、図6(c)に示す状態になっている。また、この状態において、より低い目標油圧(但し、加圧を開始する状態よりも高い油圧)が設定された場合には、封入油路49内の油圧がその目標油圧へ到達するまでソレノイド弁43を開状態とし、目標油圧に到達したらソレノイド弁43を閉状態とする。これにより、油路49及びピストン室15の指示油圧とクラッチ10の指示トルクが複数段で段階的に変化するように制御される。ピストン室15の油圧が低下すると、摩擦材13の押付力が減少して後輪Wr,Wrへのトルク配分量が減少する。最終的には、封入油路49内の油圧を加圧開始時点の油圧まで低下させることで前輪Wf,Wfにのみ駆動力が配分される二輪駆動(2WD)状態となる。
【0041】
このように、制御ユニット50は、油圧回路30による供給油圧を制御することで、クラッチ10で後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御する。これにより、前輪Wf,Wfを主駆動輪とし、後輪Wr,Wrを副駆動輪とする駆動制御を行うようになっている。すなわち、クラッチ10が解除(切断)されているときには、プロペラシャフト7の回転がリアデフ19側に伝達されず、エンジン3のトルクがすべて前輪Wf,Wfに伝達されることで、前輪駆動(2WD)状態となる。一方、クラッチ10が接続されているときには、プロペラシャフト7の回転がリアデフ19側に伝達されることで、エンジン3のトルクが前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrの両方に配分されて四輪駆動(4WD)状態となる。制御ユニット50は、車両の走行状態を検出するための各種検出手段(図示せず)の検出に基づいて、後輪Wr,Wrに配分する駆動力およびこれに対応するクラッチ10への油圧供給量を演算すると共に、当該演算結果に基づく駆動信号をクラッチ10に出力する。これにより、クラッチ10の締結力を制御し、後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御するようになっている。
【0042】
次に、本実施形態の油圧制御装置60においてモータ37の故障を検知するモータ故障検知の手順について詳細に説明する。図7は、モータ故障検知の手順を示すフローチャートである。また、図8は、モータの動作指令開始からモータ故障確定判定までの間におけるモータ駆動電流及びその積算値、モータ故障検知用の閾値など各値の変化を示すタイミングチャートである。
【0043】
図7に示すモータ故障検知の手順では、まず、制御ユニット50からモータ37に対する動作指令(モータ動作指令)が有るか否かを判断する(ステップST3−1)。その結果、モータ37に対する動作指令がなければ(NO)、モータ故障検知を行わずそのまま終了する。一方、モータ37に対する動作指令が有れば(YES)、続けて、制御ユニット50がモータ故障検知を許可中であるか否かを判断する(ステップST3−2)。その結果、モータ故障検知の許可中で無ければ(NO)、モータ故障検知を行わずそのまま終了する。一方、モータ故障検知の許可中であれば(YES)、ディレイタイマのカウントを開始する(ステップST3−3)。
【0044】
ここでいうディレイタイマとは、制御ユニット50などの各部が備えるハード構成及びソフトウェア構成に依存する処理の遅れによってモータ故障の誤検知(後述する故障確定タイマの誤動作)が発生することを回避する目的で設定する猶予時間である。すなわち、本実施形態の油圧制御装置60で行うモータ故障検知にかかる制御では、制御ユニット50などの各部が備えるハード構成に依存して、モータ37の動作指令に対する駆動電流の読込みに遅れが生じたり、ソフトウェアの処理速度に依存して、モータ動作指令から実際に駆動電流が立ち上がるまでに遅れが生じたりする。そのため、モータ動作指令が出された時点で直ちにモータ故障検知を開始すると、モータ故障検知を開始しているにも関わらず実際にはモータ37へ通電が行なわれていないという状況が発生する。その結果、モータ37が正常であるにも関わらず故障(オフ故障)であると誤判断するおそれがある。そこで、モータ動作指令からモータ故障検知の開始までの間に猶予時間を設けることで、上記のような故障の誤検知を回避できるようにしたものである。
【0045】
ステップST3−3でディレイタイマのカウントを開始したら、ディレイタイマがカウント完了となるまで待機する(ステップST3−4)。ディレイタイマがカウント完了となったら(YES)、モータ故障検知を開始する(ステップST3−5)。モータ故障検知は、具体的には、下記のステップST3−5a及びステップST3−5bの処理によって開始される。すなわち、制御ユニット50のモータ電流検知部54で計測しているモータ駆動電流値Iを積算した値であるモータ駆動電流積算値Isの算出を開始する(ステップST3−5a)。また、モータ駆動電流積算値Isに対するモータ故障検知用の閾値Ithを設定し、このモータ故障判定用の閾値Ithを故障検知の開始時点からの経過時間に応じて所定の割合で増加させる(ステップST3−5b)。
【0046】
モータ37の故障検知が開始されたら、モータ駆動電流積算値Isとモータ故障判定用の閾値Ithとの比較を行う(ステップST3−6)。そして、モータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の閾値Ith以下となった(又は、下回った)場合(ステップST3−6でYES)、その時点で、故障確定タイマのカウントを開始する(ステップST3−7)。
【0047】
その後、故障確定タイマのカウントが完了するまで待機する(ステップST3−8)。故障確定タイマのカウントが完了したら(YES)、その時点で、再度モータ駆動電流積算値Isとモータ故障判定用の閾値Ithとの比較を行う(ステップST3−9)。その結果、モータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の閾値Ith以下で無ければ(NO)、モータ37が正常に動作していると判断して、モータ故障確定判定をせず、そのまま処理を終了する。一方、モータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の閾値Ith以下(Is≦Ith)であれば(YES)、モータ37に故障が発生していると判断して、モータ故障確定判定を行う(ステップST3−10)。制御ユニット50は、モータ故障確定判定を行った場合、それに基づいて適切なフェールセーフ動作の指示を行うようにする。
【0048】
上記のモータ故障検知の処理の流れを図8のタイミングチャートに沿って説明する。なお、以下の説明には、図7のフローチャートにおける対応する処理番号(ステップ番号)を併記している。図8のタイミングチャートにおいて、モータ37の動作指令が出された時刻t1において、ディレイタイマTm1のカウントが開始(ST3−3)される。その後、時刻t2で、ディレイタイマTm1のカウントが完了(ST3−4でYES)する。その時点で、モータ駆動電流値積算値Isの算出が開始(ST3−5a)され、モータ故障検知用の閾値Ithの加算(閾値Ithを増加させる制御)が開始(ST3−5b)されることで、モータ37の故障検知が開始(ST3−5)される。
【0049】
ここで、故障検知用の閾値Ithを増加させる制御の具体例を示すと、モータ故障検知を開始した時刻t2から、モータ37の制御の1サイクルごとに所定値を故障検知用の閾値Ithに加算することが挙げられる。ここでいうモータ37の制御の1サイクルとは、制御ユニット50において所定時間(例えば10ms)ごとにモータ37に対する動作指令が出されているか(継続しているか)否かの監視を行っており、この監視を行うサイクルを制御の1サイクルとしている。したがって、この監視を行うタイミングに合わせて閾値Ithを所定値ずつ増加させるようにする。
【0050】
モータ37の故障検知では、上記のモータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の閾値Ith以下である場合(ST3−6でYES)、モータ37に故障が発生していると暫定的に判断し、その時点で故障確定タイマTm2のカウントを開始(ST3−7)する。なお、図8のタイミングチャートでは、モータ37の故障検知を開始した時刻t2において、既にモータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の閾値Ithを下回っており、その時点で故障確定タイマTm2のカウントが開始されている。その後、時刻t3において故障確定タイマTm2のカウントが完了(ST3−8でYES)すると、再度モータ駆動電流積算値Isとモータ故障判定用の閾値Ithとの比較(ST3−9)が行われる。その結果、モータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の閾値Ith以下(Is≦Ith)であれば、故障確定フラグ=1として、モータ故障(オフ故障)の確定判定(ST3−10)がなされる。
【0051】
図8のタイミングチャートに示す例では、モータ37に故障が発生していることで、モータ駆動電流値Iが0〔A〕である場合を示している。そのため、この場合は、モータ駆動電流積算値Isが経過時間に関わらず0のままである。しかしながら、上記に示す以外にも、モータ37に故障が発生していながら微小電流(正常状態よりも小さい僅かな電流)が流れる場合がある。このような場合には、モータ駆動電流値Iが0〔A〕ではないため、モータ駆動電流積算値Isは、モータ駆動電流値Iに応じた積算値(正の値)となる。
【0052】
なお、先のステップST3−6でモータ駆動電流積算値Isがモータ故障検知用の閾値Ith以下にならない場合(NO)には、モータ駆動電流積算値Isの積算とモータ故障検知用の閾値Ithの増加がそのまま継続される。そして、モータ駆動電流積算値Is及びモータ故障検知用の閾値Ithは、モータ動作指令が解除された時点(動作ストップ指令中となったとき)に両値がリセットされる。その後、再度モータ動作指令が出された場合には、ディレイタイマTm1のカウント完了を待ってから、モータ駆動電流値積算値Isの算出とモータ故障検知用の閾値Ithの加算とが再開されることで、モータ故障検知が再開される。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の油圧制御装置60におけるモータ37の故障検知によれば、モータ駆動電流の積算値Isを算出し、当該モータ駆動電流の積算値Isを故障検知用の閾値Ithと比較することでモータ37の故障判定を行うようにした。このように、モータ駆動電流の積算値Isに基づいてモータ37の故障判定を行うことで、モータ速度指令値を用いずに故障判定を行うことができる。したがって、本実施形態の油圧制御装置60のように、クラッチ10に供給する油圧(油圧センサ45で検出した油圧)を目標値としてモータ37の駆動制御を行うシステム、即ち、モータ速度指令値の存在しないシステムであっても、モータ37の故障検知を行うことが可能となる。また、モータ駆動電流の積算値Isを用いてモータ37の故障判定を行うことで、モータ37故障時の無通電状態を確実に検知可能となると共に、モータ37の定常回転時における電流値が非常に低い値である場合など、モータ37に微小電流のみが通電する状態でも、そのことでモータ故障と誤検知するおそれが無くなる。
【0054】
また、本実施形態の油圧制御装置60が備えるモータ故障検知手段によれば、モータ駆動電流の積算値Isをモータ故障検知用のデータとしていることで、モータ故障検知用のデータが、モータ37の駆動および故障検知を行う制御ユニット50などを構成する素子(電子部品)の出力バラつきや出力データに含まれるノイズなどの影響を受け難くなる。そのため、従来のモータ故障検知手段と比較して、より外的要因に左右されず正確な故障検知が可能となるタフネス性の高いモータ故障検知手段となる。
【0055】
また、本実施形態の油圧制御装置60が備えるモータ故障検知手段は、モータ故障判定用の閾値Ithをモータ37の故障検知開始時点からの経過時間に応じて所定の割合で増加させるようにしたことで、モータ37の駆動電流が微小電流であるときに、当該駆動電流が長時間に渡って積算された場合でもモータ37の故障判定を正確に行うことができる。これにより、モータ故障判定用の閾値を一定値とする場合と比較して、モータ駆動電流の積算値Isに基づくモータ故障判定をより適切に行えるようになる。したがって、モータ37の故障判定精度をさらに高めることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態では、モータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の闇値Ith以下となった場合、その時点t2から予め設定した時間が経過した時点t3でも駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の闇値Ith以下であることを条件として、モータ37が故障しているとの確定判定を行うようにしている。これにより、モータ37の駆動電流の異常が故障に関係しない一過性のものである場合、モータ37の故障と誤検知することを防止できる。したがって、モータ37の故障検知精度を効果的に高めることができる。
【0057】
また、本実施形態の四輪駆動車両1によれば、上記構成のモータ故障検知手段で油圧制御装置60のモータ37の故障を検知するようにしたことで、万一、モータ37に故障が発生した場合でも、当該故障の発生を高い精度で検出できる。したがって、モータ37の故障に伴うクラッチ10の作動不良に対するフェールセーフ動作を迅速かつ的確に行うことができ、四輪駆動車両1における駆動力配分制御の安全性を高めることができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、モータ故障検知用の閾値Ithを増加させる方法の具体例として、モータ37の制御の1サイクルごとに閾値Ithに所定値を加算することを示したが、モータ故障検知用の閾値Ithを増加させる方法は、これ以外にも、モータ故障検知の開始時点からの経過時間に比例するように増加させるなど、他の方法で増加(加算)させるようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、モータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の闇値Ith以下となった場合、その時点から故障確定タイマのカウントを開始し、当該故障確定タイマのカウントが完了した時点でモータ故障確定判定を行う場合を示したが、これ以外にも、モータ駆動電流積算値Isがモータ故障判定用の闇値Ith以下となった場合に、故障確定タイマのカウントを行わず、その時点で直ちにモータ故障確定判定を行うようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 四輪駆動車両
3 エンジン
4 自動変速機
5 フロントデフ
6,6 フロントドライブシャフト
7 プロペラシャフト
8 リアデフユニット
9,9 リアドライブシャフト
10 前後トルク配分用クラッチ(油圧式クラッチ:アクチュエータ)
11 シリンダハウジング
12 ピストン
13 摩擦材
15 ピストン室
18 アキュムレータ
19 リアデフ
20 駆動力伝達経路
30 油圧回路
31 オイルタンク
33 ストレーナ
35 オイルポンプ
37 モータ(電動モータ)
39 ワンウェイバルブ(一方向弁)
40 油路
41 リリーフ弁
43 ソレノイド弁
43a ソレノイド(ソレノイドコイル)
44 フェールセーフリレー
45 油圧センサ(油圧検出手段)
46 他の制御ユニット
47 油温センサ
48 バッテリー
49 油路(封入油路:油圧保持部)
50 制御ユニット(4WD・ECU:制御手段、モータ故障検知手段)
51 マイコン
52 フェールセーフリレードライバ
53 モータドライバ
54 モータ電流検知部
55 ソレノイドドライバ
56 ソレノイド電流検知部
57 CANドライバ
60 油圧制御装置
70 駆動力配分装置
I モータ駆動電流値
Is モータ駆動電流積算値
Ith モータ故障検知用の闇値
Tm1 ディレイタイマ
Tm2 故障確定タイマ
Wf,Wf 前輪(主駆動輪)
Wr,Wr 後輪(副駆動輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータにより駆動されるオイルポンプと、前記電動モータの運転を制御する制御手段と、を備え、前記オイルポンプから供給される油圧によってアクチュエータの作動制御を行う油圧制御装置であって、
前記制御手段は、前記電動モータの故障を検知するためのモータ故障検知手段を備え、
前記モータ故障検知手段は、
前記電動モータの駆動電流値を検出する駆動電流値検出手段と、
前記駆動電流値を積算した駆動電流積算値の算出を行う駆動電流積算値算出手段と、
前記駆動電流積算値に対するモータ故障判定用の闇値を設定するモータ故障判定用閾値設定手段と、
前記駆動電流積算値と前記モータ故障判定用の闇値とを比較することで前記電動モータの故障判定を行うモータ故障判定手段と、を備え、
前記モータ故障検知手段は、前記電動モータの故障検知開始時点から前記駆動電流積算値の算出を行うと共に、前記モータ故障判定用の閾値を前記電動モータの故障検知開始からの経過時間に応じて所定の割合で増加させるようにし、
前記モータ故障判定手段は、前記駆動電流積算値が前記モータ故障判定用の闇値以下である場合に前記電動モータが故障しているとの判定を行う
ことを特徴とする油圧制御装置。
【請求項2】
前記モータ故障判定手段は、前記駆動電流積算値が前記モータ故障判定用の闇値以下となった場合、その時点から予め設定した時間が経過した時点でも前記駆動電流積算値が前記モータ故障判定用の闇値以下であれば、前記電動モータが故障しているとの判定を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧制御装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、油圧式クラッチであり、
前記油圧式クラッチと前記オイルポンプとの間には、前記オイルポンプから前記油圧式クラッチヘ向かう方向にのみ作動油を流通させる一方向弁が設けられており、
前記油圧式クラッチと前記一方向弁との間の油路は、前記一方向弁を通過した作動油が封入されることで前記油圧式クラッチに供給する油圧が保持される油圧保持部になっている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の油圧制御装置。
【請求項4】
前記油圧式クラッチに供給される作動油の油圧を検出する油圧検出手段を備え、
前記制御手段は、前記油圧検出手段で検出した油圧が目標油圧に達すると前記電動モータの運転を停止させる
ことを特徴とする請求項3に記載の油圧制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記油圧検出手段で検出した油圧が前記目標油圧に達するまでの間、前記オイルポンプが一定圧の作動油を吐出するように前記電動モータの駆動を制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の油圧制御装置。
【請求項6】
駆動源からの駆動力を主駆動輪及び副駆動輪に伝達する駆動力伝達経路と、
前記駆動力伝達経路における前記駆動源と前記副駆動輪との間に配置されて前記副駆動輪に配分する駆動力を制御する油圧式クラッチと、を備えた四輪駆動車両の駆動力配分装置であって、
前記油圧式クラッチの作動制御を行うための油圧制御装置として、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の油圧制御装置を備える
ことを特徴とする四輪駆動車両の駆動力配分装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−67326(P2013−67326A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208771(P2011−208771)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】