波長可変干渉フィルター、測色センサー、測色モジュール、および波長可変干渉フィルターの製造方法
【課題】分光可能な波長域が広く、かつ、分光された光の透過率および分解能が大きい波長可変干渉フィルター、測色センサー、および測色モジュールを提供する。
【解決手段】エタロンは、互いに対向する一対のミラー56,57と、これらのミラー間の間隔であるミラー間ギャップを可変する静電アクチュエーターと、を備える。そして、一対のミラー56,57は、それぞれ、複数の誘電体膜551と、これらの誘電体膜551の間に設けられ、互いに対向する誘電体膜551間の距離を所定の寸法に保持するとともに、互いに対向する誘電体膜551間に空気層553を形成するポスト部材552と、を備える。
【解決手段】エタロンは、互いに対向する一対のミラー56,57と、これらのミラー間の間隔であるミラー間ギャップを可変する静電アクチュエーターと、を備える。そして、一対のミラー56,57は、それぞれ、複数の誘電体膜551と、これらの誘電体膜551の間に設けられ、互いに対向する誘電体膜551間の距離を所定の寸法に保持するとともに、互いに対向する誘電体膜551間に空気層553を形成するポスト部材552と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光から所望の目的波長の光を選択して射出する波長可変干渉フィルター、この波長可変干渉フィルターを備えた測色センサー、この測色センサーを備えた測色モジュール、および波長可変干渉フィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のミラー間で光を反射させ、特定波長の光のみを透過させて、その他の波長の光を干渉により打ち消し合わせることで、入射光から特定波長の光のみを取得する分光フィルターが知られている。また、このような分光フィルターとして、ミラー間の距離を調整することで、射出させる光を選択して射出させる波長可変干渉フィルターが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の光学デバイス(波長可変干渉フィルター)では、光透過性を有する板状の第1の構造体および第2の構造体が対向配置され、第1の構造体および第2の構造体の互いに対向する面に、第1の反射膜(ミラー)および第2の反射膜(ミラー)が形成されている。また、第1の構造体と第2の構造体との間には、それぞれ第1の駆動電極、および第2の駆動電極が形成され、これらの駆動電極間に電圧を印加することで、第1の反射膜および第2の反射膜の間のギャップを可変させる。また、第1の反射膜および第2の反射膜には、例えばTi2O,Ta2O2などにより構成される高屈折率層と、MgF2,SiO2などにより構成される低屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−116669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、波長可変干渉フィルターとしては、例えば可視光全域など、広い範囲の波長域で、光を分光させることが可能で、かつ、分光された光の透過率が高く、半値幅が狭い(分解能が高い)ことが好ましい。このような分光特性は、第1および第2の反射膜(ミラー)の構成により変化する。ここで、これらの反射膜を例えば単層のAgCにより構成すると、分光可能な波長域として、可視光全域をカバーすることが可能であるが、分光された光の透過率が悪く、半値幅も広くなってしまうという問題がある。
【0006】
一方、上記特許文献1に記載のように、波長可変干渉フィルターを構成する第1の反射膜、第2の反射膜として、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜を用いる場合、波長可変干渉フィルターの光透過率、および分解能を向上させることが可能となる。しかしながら、誘電体多層膜の低屈折率層としてMgF2,SiO2などにより構成される固体層を用いているため、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差が小さく、誘電体多層膜で反射される光の波長域も狭くなる。このため、波長可変干渉フィルターにより分光可能な波長域も狭くなり、例えば可視光全体などの広範囲の波長域をカバーすることができないという問題がある。
【0007】
本発明では、上記のような問題に鑑みて、分光可能な波長域が広く、かつ、分光された光の透過率および分解能が大きい波長可変干渉フィルター、測色センサー、測色モジュール、および波長可変干渉フィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の波長可変干渉フィルターは、互いに対向する一対のミラーと、前記ミラー間の間隔を可変する可変手段と、を備え、前記ミラーは、複数の誘電体膜と、これらの誘電体膜の間に設けられて、互いに対向する誘電体膜間を平行に保持するとともに、前記誘電体膜間に空間を形成するポスト部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明では、ミラーを構成する複数の誘電体膜間にポスト部材が設けられ、このポスト部材により互いに対向する誘電体膜の間に隙間が形成され、この隙間に、例えば屈折率が固体層よりも小さい空気などにより形成される空間(低屈折空間)が形成される。
このような構成のミラーは、誘電体膜を高屈折率層、低屈折空間を低屈折率層とした積層ミラーとなる。ここで、誘電体膜間に低屈折空間が介在するミラーでは、誘電体膜と固体の低屈折率層とを積層させた積層ミラーに比べて、各層間の屈折率の差が大きくなり、光反射率が増大し、反射可能な光の波長域も広くなる。また、ミラーで反射可能な波長域が広がると、波長可変干渉フィルターの一対のミラー間でより広い波長域の光を反射させることができ、ミラー間のギャップを調整することで、これらの広い波長域の光から所望の波長の光のみを分光させて透過させることが可能となる。すなわち、波長可変干渉フィルターにより分光可能な光の波長域が拡大される。
また、各ミラーの反射率も増大するため、誘電体膜と固体の低屈折率層とを積層した通常の誘電体多層膜ミラーを用いた場合に比べて、波長可変干渉フィルターにより分光されない光を、より確実にミラーで反射させることが可能となる。すなわち、波長可変干渉フィルターにおいて、所望波長以外の光の透過量が減少し、分解能をさらに向上させることが可能となる。
【0010】
また、誘電体膜間に空気層を介在させる構成としては、例えば筒状の枠部材に誘電体膜の外周縁を保持させる構成なども考えられるが、このような構成では、各誘電体膜の中央部が撓み、互いに対向する一対のミラーを平行に維持することが困難となる。このような場合、ミラー位置によって、一対のミラー間の隙間(ミラー間ギャップ)が変動し、光透過率および分解能が低下してしまう。これに対して、本発明では、誘電体膜間にポスト部材が設けられるため、誘電体膜の中央部が撓むことがなく、各誘電体膜を平行に保つことが可能となる。したがって、互いに対向する一対のミラーも平行に保たれ、誘電体膜の撓みによる波長可変干渉フィルターの光透過率および分解能の低下を防止できる。
以上により、本発明の波長可変干渉フィルターでは、単層ミラーを設ける場合や、反射膜を筒状枠部材に保持させて間に空気層を介在させたミラーを設ける場合、高屈折率の誘電体膜間に、固体の低屈折率層を介在させた誘電多層膜ミラーを設ける場合などに比べて、分光された光の透過率、および分解能を向上させることができ、分光可能な波長域を広げることができる。すなわち、本発明の波長可変干渉フィルターは、分光させる光の高透過率化および高分解能化と、分光可能な波長域の広域化とを両立させることができる。
【0011】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記ポスト部材は、透明部材であり、前記ミラーの平面視において、前記ミラーの全面積に対して前記ポスト部材が占める面積の割合は、20%以下であることが好ましい。
【0012】
ポスト部材が透光性を有する場合、ミラーにおけるポスト部材が設けられない位置では、空気などにより構成される低屈折空間と誘電体膜とが交互に積層されるミラー構造(高反射構造)となり、ポスト部材が設けられる位置では、誘電体膜とポスト部材とが積層されるミラー構造(低反射構造)となる。波長可変干渉フィルターにおいて、1つのミラーに上記のような高反射構造と低反射構造とが混在する構成では、これらの高反射構造および低反射構造のミラー反射特性が異なるため、これらの部分でそれぞれ異なる分光特性となる。ここで、ポスト部材が占める面積が20%より大きくなる場合、低反射構造部分により分光される光の透過量が増大し、波長可変干渉フィルター全体において、分光された光の透過率の半値幅が広くなり、分解能が低下してしまう。これに対して、本発明のように、ポスト部材が透明である場合、その占める割合をミラーの全面積に対して20%以下とすることで、低反射構造部分を透過する光の量に対して、高反射構造部分の光の透過量が多くなり、分解能の低下を抑えることができる。
また、ミラー全面積に対するポスト部材の占める面積の最小値としては、誘電体膜の撓みが防止されるために必要な面積を有していればよい。その具体的な値は、誘電体膜の厚み寸法や個々のポスト部材が誘電体膜を保持する面積(ポスト部材の断面積)、ポスト部材の形状などにより適宜設定されるものであるが、例えばミラー全面積の2%以上に形成されていればよい。
【0013】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記ポスト部材は、不透明部材であり、前記ミラーの平面視において、前記ミラーの全面積に対して前記ポスト部材が占める面積の割合は、50%以下である構成としてもよい。
【0014】
ポスト部材としては、透光性を有しない素材を用いることもでき、この場合、ミラー面積に対するポスト部材の占める面積の割合を50%以下とする。
ここで、不透明部材であるポスト部材を用いる場合、その占める割合が大きければ、波長可変干渉フィルターにより分光された光がポスト部材により遮られるため、透過率が悪化し、ポスト部材が占める割合が50%より大きくなると、波長可変干渉フィルターを透過する光の光量が著しく低下する。このような光の透過率が悪い波長可変干渉フィルターでは、例えば透過した光の光量を測定して検査対象物の測色処理を行う場合、各波長成分の正確な光量を測定することができず、測定精度が低下するおそれもある。これに対して、本発明のように、ポスト部材の占める割合を50%以下とすることで、測定精度が低下しない程度に波長可変干渉フィルターの透過率悪化を抑制することができる。
また、ポスト部材が不透明である構成では、ポスト部材が設けられる部分は光が透過しないため、上述の発明のように、低反射構造部分による波長可変干渉フィルターの分解能低下がなく、透光性部材によるポスト部材を設ける場合に比べて、波長可変干渉フィルターの分解能を向上させることができる。
また、ミラー全面積に対するポスト部材の占める面積の最小値としては、上記発明と同様、誘電体膜の撓みが防止されるために必要な面積を有していればよい。その具体的な値は、誘電体膜の厚み寸法や個々のポスト部材が誘電体膜を保持する面積(ポスト部材の断面積)、ポスト部材の形状などにより適宜設定されるものであるが、例えばミラー全面積の2%以上に形成されていればよい。
【0015】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記ポスト部材は、前記ポスト部材を前記ミラー面と平行な面で断面した際、その断面寸法の最小値が100μm以下であることが好ましい。
【0016】
ここで、ポスト部材の断面寸法の最小値とは、例えば、ポスト部材が断面楕円である場合は、その短軸寸法を指し、ポスト部材の断面矩形状である場合は、その短辺寸法を指し、ポスト部材が断面円形状の場合は、径寸法を指す。すなわち、ポスト部材は、断面形状において、寸法が最短となる部分では、その寸法が100μm以下に形成されている。
ポスト部材の断面寸法の最小値が100μmより大きい場合、ポスト部材が透明である場合、低反射構造部分の面積が増大するため、分解能が低下し、ポスト部材が不透明である場合、透過光の光量が減少してしまう。
これに対して、ポスト部材の断面形状における断面寸法の最小値が100μm以下である場合では、ポスト部材による光の透過阻害量を減少させることができ、エタロンの分解能の低下や透過率の低下を抑えることができる。
また、ポスト部材の断面寸法の最小値の下限値としては、そのポスト部材を形成する素材の剛性などにより適宜設定されるものであり、ポスト部材の傾斜による誘電体膜の歪みや撓みがない程度の断面寸法に形成されていればよい。
【0017】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記空間は、真空層であることが好ましい。
この発明では、互いに対向する誘電体膜間の低屈折空間が、空気よりも光屈折率が小さい真空層であるため、誘電体膜間に空気層が形成される場合に比べて、反射率をさらに向上させることができ、反射可能な波長域をさらに広げることができる。したがって、波長可変干渉フィルターの分光された光の透過率および分解能もさらに向上し、分光可能な波長域もさらに拡大させることができる。
これに加えて、誘電体膜間の空間が真空である場合、可変手段によりミラーを移動させた場合でも、誘電体膜に抵抗がかからない。したがって、ミラーの移動速度を速めた場合でも、ミラー移動時に誘電体膜の撓みを防止できる。
【0018】
一方、本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記空間は、気体層であってもよい。
ここで、気体層とは、波長可変干渉フィルターを透過させたい波長帯域において、光を吸収しない気体であればよく、例えば、波長可変干渉フィルターにおいて、可視光域の所定波長を分光させて透過させる場合、気体層として、空気層や、ヘリウム層などを用いることができる。
この発明では、ミラー製造時に、真空状態下で製造したり、真空パッケージ内にミラーを収納したりする必要がないため、ミラーを容易に製造することができる。また、誘電体膜間に気体がある場合、ミラーを変位させることで誘電体膜に抵抗がかかるが、ミラー移動速度を制御し、移動速度を低下させることで気体の抵抗による誘電体膜の撓みを防止することができる。
【0019】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記ミラーの前記誘電体膜は、酸化チタンにより形成されることが好ましい。
ミラーを構成する複数の誘電体膜としては、膜間空間との屈折率の差を大きくするために、高屈折率であることが好ましく、例えば、酸化チタン、酸化タンタルなどを利用することができる。この中でも、特に屈折率が高く、かつ波長吸収性が小さい酸化チタンを用いることで、ミラーにおける反射率を向上させることができ、反射可能な光の波長域も広げることができる。
【0020】
本発明の測色センサーは、上述した波長可変干渉フィルターと、前記波長可変干渉フィルターを透過した光を受光する受光手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
この発明では、測色センサーは、上述した発明の波長可変干渉フィルターを備える。したがって、誘電体膜と固体の低屈折率層とを積層した通常の誘電体多層膜ミラーや、単層のミラーを用いたフィルターに比べて、本発明の波長可変干渉フィルターでは、分光可能な波長域を広くでき、分光された光の透過率、分解能も向上させることができる。
また、測色センサーでは、このような波長可変干渉フィルターにより分光された光を受光手段により受光する。したがって、本発明の測色センサーでは、例えばフィルターとして、固体高屈折率層と固体低屈折率層とを積層したミラーを用いた波長可変干渉フィルターを組み込む場合に比べて、広い範囲の波長域の光の光量を測定することができる。また、本発明の測色センサーは、例えばAgC単層のミラーを用いた波長可変干渉フィルターを組み込む場合に比べて、入射光を高透過率、高分解能で分光させることが可能であるため、所望波長の光の強度をより高精度に測定することができる。
【0022】
本発明の測色モジュールは、上述した測色センサーと、前記測色センサーの前記受光手段により受光された光に基づいて、測色処理を実施する測色処理部と、を具備したことを特徴とする。
【0023】
この発明では、上述した発明と同様に、高屈折率層である誘電体膜と、ポスト部材により形成される低屈折空間とが積層されるミラーを備える波長可変干渉フィルターを用いるため、測色センサーの受光手段では、検査対象光を広範囲の波長の光に分光し、分光した各波長の光の光量を正確に検出することができる。したがって、処理手段においても、これらの光量に基づいて、検査対象光を構成する各色成分の強度を精度よく分析できる。
【0024】
本発明の波長可変干渉フィルターの製造方法は、基板上に、前記誘電体膜、および前記ポスト部材の形成材料である犠牲層を交互に積層した積層体を形成する積層工程と、前記積層体の上面から前記基板面までを貫通する複数のホールを開口形成するホール形成工程と、前記ホールを中心とした所定範囲の前記犠牲層をエッチングし、残留した前記犠牲層により前記ポスト部材を形成するポスト形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の波長可変干渉フィルターの製造方法では、まず、積層工程により、基板上に、犠牲層と誘電体膜との積層体を形成し、ホール形成工程において、積層体に複数のホールを形成する。そして、ポスト部材形成工程において、ホールを中心として犠牲層をエッチング加工することで、犠牲層の一部を除去する。これにより、犠牲層のうち、エッチングされた部分が、空気などにより形成される低屈折空間となり、エッチングされなかった部分が残留して、互いに対向する誘電体膜間を保持するポスト部材となる。
このような製造方法では、ミラーにホールを設ける必要はあるが、例えば形成したホールにエッチング用の流体を注入するだけで、容易に低屈折空間およびポスト部材を形成することができる。
【0026】
本発明の波長可変干渉フィルターの製造方法としては、基板上に、前記誘電体膜、およびエッチングにより除去可能な犠牲層を交互に積層した積層体を形成する積層工程と、前記積層体の上面から前記基板面までを貫通する複数のホールを開口形成するホール形成工程と、前記ホールに前記ポスト部材を埋め込むポスト部材埋込工程と、前記犠牲層をエッチングして除去する犠牲層除去工程と、を備える製造方法としてもよい。
【0027】
この発明では、波長可変干渉フィルターのミラー形成において、まず、積層工程において、誘電体膜と犠牲層とを積層した積層体を形成し、ホール形成工程においてこの積層体にホールを形成する。そして、ホール内にポスト部材を埋め込むことでポスト部材を形成し、この後、エッチングにより全ての犠牲層を除去する。
このような製造により波長可変干渉フィルターを製造する場合、ホールを形成するだけでなく、さらにポスト部材を埋め込む必要があり、製造工程が複雑化するが、ポスト部材を自由に選択することができる。すなわち、上述した犠牲層をエッチングしてポスト部材を形成する発明では、ミラーの製造が簡単になるが、ポスト部材として、エッチング可能な素材を用いる必要があったが、本発明では、エッチング不可能な材質を用いてもよく、ポスト部材の選択の幅が増大する。
さらに、エッチングによりポスト部材を形成する場合、例えばポスト部材の中央部の断面寸法が小さく、誘電体膜に接する両端部の断面寸法が大きくなるなど、ポスト部材の太さが不均一になるおそれがあり、エッチングの制御が困難であるのに対し、本発明では、太さが均一な棒状のポスト部材をホールに埋め込んで形成することができる。このような太さが均一なポスト部材を用いることで、誘電体膜を保持する保持力が増大し、外部からの応力、例えばミラー移動時の抵抗などにより誘電体膜が変形しにくくなり、誘電体膜の撓みや傾斜を防止することができる。
【0028】
また、本発明の波長可変干渉フィルターの製造方法は、ポスト部材形成用の孔部が設けられる犠牲層を形成する犠牲層形成工程、および、前記犠牲層を覆うとともに、前記孔部内および前記犠牲層の表面に誘電体層を形成する誘電体層形成工程、を複数回繰り返すことで、基板上に、前記犠牲層および前記誘電体層が複数積層された積層体を形成する積層工程と、前記犠牲層をエッチング処理により除去する犠牲層除去工程と、を備える製造方法であってもよい。
【0029】
この発明では、積層工程では、犠牲層形成工程でポスト部材形成用の孔部を有する犠牲層を形成し、誘電体層形成工程でその表面上および孔部内に誘電体膜を積層し、再び犠牲層形成工程を実施することで、その誘電体膜の表面上に、ポスト部材形成用の孔部を有する犠牲層を形成する。これを、ミラーを構成する誘電体膜の積層数分繰り返して積層体を形成する。この後、犠牲層除去工程で、これらの積層体のうち、犠牲層だけをエッチングにより除去する。
このような製造方法では、積層工程で積層形成された積層体に対して、犠牲層除去工程で犠牲層を除去するだけでミラーを形成することができる。したがって、ホールの形成やポスト部材の埋め込み、ポスト部材の形成のための精密なエッチング制御などが不要であり、波長可変干渉フィルターの製造がさらに容易となる。また、誘電体膜間の低屈折空間に対応した犠牲層を形成し、積層体形成後に犠牲層を除去するため、ポスト部材の断面寸法を一様にできる。したがって、上記発明と同様に、ポスト部材による誘電体膜の保持力が大きくなり、誘電体膜の撓みや傾斜を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る第一実施形態の測色モジュールの概略構成を示す図である。
【図2】第一実施形態の波長可変干渉フィルターを構成するエタロンの概略構成を示す平面図である。
【図3】第一実施形態のエタロンの概略構成を示す断面図である。
【図4】第一実施形態の各ミラーの概略構成を示す断面図である。
【図5】図4のV-V線を断面した低屈折空間の概略構成を示す断面図である。
【図6】エタロンの製造工程を示す図であり、(A)は、基板形成工程における各基板の概略図、(B)は、ミラー形成工程における各基板の概略図、(C)は、電極形成工程における各基板の概略図、(D)は、接合工程およびダイヤフラム形成工程の後、形成されたエタロンの概略図を示す図である。
【図7】第一実施形態のエタロンのミラー形成工程における積層工程を示す図である。。
【図8】第一実施形態のミラー形成工程におけるホール形成工程を示す図であり、(A)は、ホール形成工程後のミラーの概略を示す断面図、(B)は、ホール形成工程により形成されるホールの位置の例を示す図である。
【図9】第二実施形態のミラーの概略構成を示す断面図である。
【図10】第二実施形態のミラー形成工程を示す図であり、(A)は、積層工程、(B)は、ホール形成工程、(C)は、ポスト埋込工程を示す図である。
【図11】第三実施形態のエタロン5におけるミラーの概略構成を示す図である。
【図12】第三実施形態のミラー形成工程における積層工程を示す図であり、(A)は、最下段の犠牲層を形成する第一犠牲層形成工程、(B)は、最下段の誘電体膜およびポスト部材を形成する第一誘電体層形成工程、(C)は、誘電体膜上に犠牲層を形成する第二犠牲層形成工程、(D)は、誘電体膜上および犠牲層上に誘電体膜を形成する第二誘電体層形成工程を示す図である。
【図13】第三実施形態における犠牲層の形状の一例であり、網状に形成される場合の犠牲層の平面図である。
【図14】第四実施形態のエタロン5の構成を示す図である。
【図15】他の実施形態におけるポスト部材およびホールの形状を示す図である。
【図16】さらに他の実施形態におけるポスト部材およびホールの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第一実施形態]
以下、本発明に係る第一実施形態の測色モジュールについて、図面を参照して説明する。
〔1.測色モジュールの全体構成〕
図1は、本発明に係る第一実施形態の測色モジュールの概略構成を示す図である。
この測色モジュール1は、図1に示すように、被検査対象Aに光を射出する光源装置2と、本発明の測色センサー3と、測色モジュール1の全体動作を制御する制御装置4とを備えている。そして、この測色モジュール1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサーにて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち被検査対象Aの色を分析して測定するモジュールである。
【0032】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれており、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Aに向かって射出する。
【0033】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、図1に示すように、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5と、エタロン5を透過する光を受光する受光手段としての受光素子31と、エタロン5で透過させる光の波長を可変する電圧制御手段6と、を備えている。また、測色センサー3は、エタロン5に対向する位置に、被検査対象Aで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。そして、この測色センサー3は、エタロン5により、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、所定波長の光のみを分光し、分光した光を受光素子31にて受光する。
受光素子31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、受光素子31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0034】
(3−1.エタロンの構成)
図2は、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5の概略構成を示す平面図であり、図3は、エタロン5の概略構成を示す断面図である。なお、図1では、エタロン5に検査対象光が図中下側から入射しているが、図3では、検査対象光が図中上側から入射するものとする。
エタロン5は、図2に示すように、平面正方形状の板状の光学部材であり、一辺が例えば10mmに形成されている。このエタロン5は、図3に示すように、第一基板51、および第二基板52を備えている。これらの2枚の基板51,52は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成されている。これらの中でも、各基板51,52の構成材料としては、例えばナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属を含有したガラスが好ましく、このようなガラスにより基板51,52を形成することで、後述するミラー56,57や、各電極の密着性や、基板同士の接合強度を向上させることが可能となる。そして、これらの2つの基板51,52は、外周部近傍に形成される接合面513,524が接合されることで、一体的に構成されている。
【0035】
また、第一基板51と、第二基板52との間には、本発明の一対のミラーを構成する固定ミラー56および可動ミラー57が設けられる。ここで、固定ミラー56は、第一基板51の第二基板52に対向する面に固定され、可動ミラー57は、第二基板52の第一基板51に対向する面に固定されている。また、これらの固定ミラー56および可動ミラー57は、ミラー間ギャップGを介して対向配置されている。
さらに、第一基板51と第二基板52との間には、固定ミラー56および可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの寸法を調整するための静電アクチュエーター54が設けられている。
【0036】
(3−1−1.第一基板の構成)
第一基板51は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。具体的には、図3に示すように、第一基板51には、エッチングにより電極形成溝511およびミラー固定溝512が形成される。
電極形成溝511は、図2に示すようなエタロン5を厚み方向から見た平面視において、平面中心点を中心とした円形に形成されている。ミラー固定溝512は、前記平面視において、電極形成溝511と同心円で、電極形成溝511よりも径寸法が小さい円形に形成されている。
電極形成溝511は、ミラー固定溝512の外周縁から、当該電極形成溝511の内周壁面までの間に、リング状の電極固定面511Aが形成され、この電極固定面511Aに第一変位用電極541が形成される。また、第一変位用電極541の外周縁の一部からは、図2に示すような平面視において、エタロンの左下方向および右上方向に向かって、第一変位用電極引出部541Aがそれぞれ延出して形成されている。さらに、これらの第一変位用電極引出部541Aの先端には、それぞれ第一変位用電極パッド541Bが形成され、これらの第一変位用電極パッド541Bが電圧制御手段6に接続される。
ここで、静電アクチュエーター54を駆動させる際には、電圧制御手段6により、一対の第一変位用電極パッド541Bのうちのいずれか一方にのみに電圧が印加される。そして、他方の第一変位用電極パッド541Bは、第一変位用電極541の電荷保持量を検出するための検出端子として用いられる。
【0037】
ミラー固定溝512は、上述したように、電極形成溝511と同軸上で、電極形成溝511よりも小さい径寸法で形成されている。なお、本実施形態では、図3に示すように、ミラー固定溝512の深さ寸法が電極形成溝511の深さ寸法よりも深く形成される例を示すが、これは、ミラー固定溝512の底面(ミラー固定面512A)に固定される固定ミラー56、および第二基板52に形成される可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの寸法、第一変位用電極541および第二基板52に形成される後述の第二変位用電極542の間の寸法、固定ミラー56や可動ミラー57の厚み寸法により適宜設定される。
【0038】
また、ミラー固定溝512は、エタロン5を透過させる波長域をも考慮して、溝深さが設計されることが好ましい。例えば、本実施形態では、固定ミラー56および可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの初期値(第一変位用電極541および第二変位用電極542間に電圧が印加されていない状態のミラー間ギャップGの寸法)が450nmに設定され、第一変位用電極541および第二変位用電極542間に電圧を印加することにより、ミラー間ギャップGが250nmになるまで可動ミラー57を変位させることが可能となっており、これにより、第一変位用電極541および第二変位用電極542間の電圧を可変することで、可視光全域の波長の光を選択的に分光させて透過させることが可能となる。この場合、固定ミラー56および可動ミラー57の膜厚およびミラー固定溝512の深さ寸法や電極形成溝511の深さ寸法は、ミラー間ギャップGを250nm〜450nmの間で変位可能に設定されている。
【0039】
そして、ミラー固定面512Aには、直径が約3mmの円形状に形成される固定ミラー56が固定されている。なお、この固定ミラー56の詳細な説明については後述する。
【0040】
さらに、第一基板51は、第二基板52に対向する上面とは反対側の下面において、固定ミラー56に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、第一基板51の表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0041】
(3−1−2.第二基板の構成)
第二基板52は、厚みが例えば200μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、第二基板52には、図2に示すような平面視において、基板中心点を中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する連結保持部522と、を備えている。
【0042】
可動部521は、連結保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、第二基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。また、可動部521は、ミラー固定溝512に平行な可動面521Aを備え、この可動面521Aに可動ミラー57が固定されている。ここで、この可動ミラー57と、上記した固定ミラー56とにより、本発明の一対のミラーが構成される。また、本実施形態では、可動ミラー57と固定ミラー56との間のミラー間ギャップGは、初期状態において、450nmに設定されている。なお、可動ミラー57の構成についての詳細な説明は、後述する。
【0043】
さらに、可動部521は、可動面521Aとは反対側の上面において、可動ミラー57に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、第一基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0044】
連結保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイヤフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成されている。この連結保持部522の第一基板51に対向する面には、第一変位用電極541と、約1μmの電磁ギャップを介して対向する、リング状の第二変位用電極542が形成されている。ここで、この第二変位用電極542および前述した第一変位用電極541により、本発明の可変手段である静電アクチュエーター54が構成される。
また、第二変位用電極542の外周縁の一部からは、一対の第二変位用電極引出部542Aが外周方向に向かって形成され、これらの第二変位用電極引出部542Aの先端には第二変位用電極パッド542Bが形成されている。より具体的には、第二変位用電極引出部542Aは、図2に示すような平面視において、エタロンの右下方向および左上方向に向かって延出し、第二基板52の平面中心に対して点対称に形成されている。
また、第二変位用電極パッド542Bも、第一変位用電極パッド541Bと同様に、電圧制御手段6に接続され、静電アクチュエーター54の駆動時には、一対の第二変位用電極パッド542Bのうちのいずれか一方にのみに電圧が印加される。そして、他方の第二変位用電極パッド542Bは、第二変位用電極542の電荷保持量を検出するための検出端子として用いられる。
【0045】
(3−1−3.ミラーの構成)
次に、本発明の一対のミラーである固定ミラー56および可動ミラー57の構成について、図面に基づいて説明する。図4は、本実施形態のミラー56,57の概略構成を示す断面図であり、図5は、図4のV-V線で断面した低屈折空間の概略構成を示す断面図である。なお、図4、図5において、説明を分かりやすくするため、ポスト部材552やホール554の寸法、誘電体膜551間の寸法を実際より大きく表示するが、実際には、ミラーに対して十分小さく形成されている。
【0046】
ミラー56,57(固定ミラー56および可動ミラー57)は、図4に示すように、複数の誘電体膜551が間にポスト部材552を介して積層されることにより構成されている。すなわち、厚み方向に積層される誘電体膜551間には、それぞれポスト部材552の高さ寸法分だけの空間(低屈折空間)が形成される。ここで、本発明において、低屈折空間とは、例えば一般的に誘電体多層膜ミラーなどに用いられる固体の低屈折率層よりも屈折率が小さい空間のことを指し、例えば、本実施形態では、この低屈折空間は、空気層553である。そして、高屈折率を有する誘電体膜551により構成される高屈折率層と、空気層553とが積層されることで多層膜ミラーが構成されている。この誘電体膜551の積層数としては、特に限定されず、本実施の形態では、誘電体膜551および空気層553の層数がそれぞれ8層である16層構造となっている。なお、本実施形態では、固定ミラー56および可動ミラー57が同一層数の誘電体膜551および空気層553により構成される例を示すが、固定ミラー56および可動ミラー57で積層数が異なる構成などとしてもよい。
【0047】
誘電体膜551としては、例えば酸化チタン(TiO2)や、酸化タンタル(Ta2O3)などの高屈折率素材を用いることができる。これらの高屈折素材の中でも、特に高屈折率を有するとともに、特定波長の光の吸収率が他より小さいTiO2を用いることがより好ましい。
また、誘電体膜551の膜厚は、ミラー56,57において反射させる光の中心波長の1/4に設定され、本実施形態では、可視光域の中心波長である600nmの1/4である125nmに形成されている。
なお、本実施形態のエタロン5は、可視光域(例えば360nm〜800nm)を分光可能な波長域の対象とし、ミラー56,57においてもこの可視光域の光を反射する必要があるため、誘電体膜551の膜厚は、90nm〜200nmに形成されていればよい。ただし、例えば、膜厚が90nm近傍に形成される場合、可視光における高波長域成分の反射率が悪化し、また、膜厚が200nm近傍に形成される場合、可視光における低波長域成分の反射率が悪化する。このため、誘電体膜551は、膜厚としては、上述のように、可視光域の中心波長近傍の膜厚に形成されることが好ましい。
【0048】
また、誘電体膜551には、図4に示すように、複数のホール554が形成され、このホール554に空気層553が連通している。このホール554の直径は、0.3μm〜100μmに形成されるものであり、直径が3mmの円形状に形成されるミラー面全体の面積に対して、ホール554の占める面積は十分に小さく、ホール554の形成によるミラー反射特性や、透過特性に影響が出ることはない。
【0049】
ポスト部材552は、互いに対向する誘電体膜551間に複数形成される柱状の部材である。このポスト部材552は、各誘電体膜551が平行となるように保持するとともに、誘電体膜551間に低屈折空間である空気層553を形成する。ポスト部材552を形成する材料としては、例えば、SiO2、Ge、有機系樹脂により形成されるレジストなど、エッチングにより形状成形が可能な材料を用いることができる。なお、本実施形態では、ポスト部材552が透光性を有するSiO2により形成される例を示し、ポスト部材552が不透明性である例は、後述する第二実施形態において説明する。
【0050】
そして、ポスト部材552がSiO2などの透明材料により形成されている場合、ミラー56,57の平面視における全面積(ミラー面積)に対して、ポスト部材552により誘電体膜551を保持する部分が占める面積は、例えば2%〜20%であることが好ましい。ポスト部材552が透光性を有する場合、このポスト部材552が設けられる位置では、誘電体膜551とポスト部材552とが積層したミラー構成(低反射構造部)となる。一方、ポスト部材552が設けられていない位置では、誘電体膜551と空気層553とが積層されるミラー構成(高反射構造部)となり、ポスト部材552が設けられる位置のミラー特性とは異なるミラー特性となる。
一般に、誘電体多層膜において、各層の屈折率の差によりミラー特性が決定され、屈折率の差が大きいほど、反射率が高く、反射可能な波長域も拡大される。したがって、上記のように、ポスト部材552が透光性を有する場合、ポスト部材552が設けられる低反射構造部と、空気層553が設けられる高反射構造部とで、ミラー特性に差が生じ、ポスト部材552が設けられる位置では、反射率が低下し、反射可能な波長域も低下する。
また、エタロン5において、ミラー間ギャップGを所定値に設定した場合、上記のようにミラー特性が異なる場合、透過される光もそれぞれ異なる波長となる。すなわち、ポスト部材552が設けられる低反射構造部により分光される光の波長と、空気層553が形成される高反射構造部により分光される光の波長とが、それぞれ異なり、エタロン5により、これらの2波長の光が分光されて透過されることとなる。
したがって、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積が大きくなるほど、ポスト部材552が設けられる位置の低反射構造を透過する光が増大し、本来エタロン5により分光させたい高反射構造部を透過する光が低下する。このため、エタロン5を透過する光の分解能が低下する。そして、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積が20%より大きくなると、測色センサー3において、所望波長の光の光量を正確に検出することが困難となり、検査対象光の測色処理の精度が低下してしまう。
【0051】
一方、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積が2%より小さくなる場合、ポスト部材552による誘電体膜551の支持が困難となり、誘電体膜551が撓む場合が考えられる。すなわち、複数の誘電体膜551は、ポスト部材552によりそれぞれ平行状態に維持される必要があり、誘電体膜551が撓むと反射率は反射可能な波長域が変化してしまう。また、誘電体膜551の撓みにより、一対のミラー56,57も平行でなくなるため、ミラー位置によってミラー間ギャップGの差が生じ、エタロン5を透過する光に透過率や分解能も低下してしまう。したがって、ポスト部材552は、誘電体膜551を平行に保持するための面積を備える必要があり、ミラー面積に対してポスト部材552の占める面積は少なくとも2%以上となることが好ましい。
【0052】
ここで、誘電体膜551を平行に維持する条件としては、ミラー面積に対するポスト部材552が占める面積のみにより決定されるものではなく、その他、ポスト部材552の断面寸法や誘電体膜551の膜厚に基づいて設定されるポスト部材552の配置位置も重要なパラメーターとなる。したがって、上記のように、ミラー面積に対するポスト部材552の占める割合を2%と設定したが、これらのパラメーターによっては、例えば、ポスト部材552の占める面積をさらに大きく設定する場合もある。
また、本実施形態のミラー56,57では、図5に示すように、各ポスト部材552は、所定の第一方向(図5の紙面における縦方向)と、第一方向に直交する第二方向(図5の紙面における横方向)とに沿って、均等間隔で配置されている。ここで、各ポスト部材552間の間隔は、誘電体膜551の膜厚、ポスト部材552の断面積により適宜設定されるものであり、例えば本実施形態では、誘電体膜551の膜厚が125μm、ポスト部材552の断面積が20μm2に設定されているが、この場合、ポスト部材552の配置間隔としては、1つのポスト部材552の少なくとも500μm2以内に他のポスト部材552が配置されていることが好ましい。
【0053】
また、1つのポスト部材552に着目すると、ミラー面に対して平行な面でポスト部材552を断面した際、断面寸法の最小値は100μm以下に形成されることが好ましい。ここで、本発明で述べる断面寸法の最小値とは、前述したように、ポスト部材552の断面形状において、距離が最も短くなる部分を指し、例えば、図5の示すような断面が十字星型のポスト部材552の場合、断面形状の凹み部B−C間の寸法が断面寸法の最小値となる。また、ポスト部材552の断面形状が円形の場合では、その径寸法、断面形状が楕円形の場合では、短軸寸法を指すものである。
この断面寸法の最小値が100μmより大きくなる場合、ミラー面積に対してポスト部材552が占める割合が20%以下であったとしても、ポスト部材552を設けた部分のミラー特性の影響を受け、エタロン5を透過する光の透過率や、分解能が低下する。これに対して、ポスト部材552の断面寸法が100μm以下となる場合では、ポスト部材552によるミラー特性の変化の影響を十分に小さくでき、光透過率や分解能の低下を無視できる程度に減少させることが可能となる。
また、この断面寸法の最小値が1μmよりも小さくなる場合、ポスト部材552の形成が困難となる。
なお、ポスト部材の断面寸法がこの場合、強度が不足し、互いに対向する誘電体膜551を平行に維持することが考えられるが、ポスト部材552の配置間隔を蜜にすることで対応ことが可能である。
【0054】
一般に、高屈折率層と低屈折率層とが積層される誘電体多層膜ミラーでは、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差、積層数、各層の光学的厚みにより、反射率、反射可能な波長域が決定されることが知られている。
すなわち、各層の光学的厚みを、反射させたい光の波長の1/4にすることで、その波長付近で高い反射率を得ることができる。また、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差が大きくなるほど、反射率を大きくでき、かつ反射可能な波長帯域も広くすることができる。さらに、誘電体膜の積層数を増加させることで、反射率を向上させることが可能であるが、この場合、反射可能な波長域が狭くなってしまう。
以上により、エタロン5により分光可能な波長帯域を可視光全域(例えば360〜800nm)とし、かつ、分光される光の透過率および分解能を向上させるためには、各ミラー56,57の反射可能な波長域を可視光域に設定する必要があり、反射率を低下させることなく、反射可能な波長帯域を広げるために、積層数を減少させることなく、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差を大きくする必要がある。
本実施形態のミラー56,57では、上述のように、誘電体膜551の光学的厚み、および空気層553の厚み寸法(ポスト部材552の高さ寸法)は、125nmに形成されており、これにより、可視光域(例えば360nm〜800nm)の中心波長である600nmを中心とした光を高反射率で反射させることが可能となる。そして、TiO2層(屈折率≒2.5)の誘電体膜551が高屈折率層となり、低屈折空間の空気層553(屈折率≒1.0)が低屈折率層となるため、各層の屈折率の差が1.5となり、例えばTiO2−SiO2系誘電体多層膜ミラー(屈折率の差が1.0)に比べて、屈折率の差が大きく、反射率を高くでき、かつ反射可能な波長帯域も広くすることができる。
【0055】
(3−2.電圧制御手段の構成)
電圧制御手段6は、上記エタロン5とともに、本発明の波長可変干渉フィルターを構成する。この電圧制御手段6は、制御装置4からの入力される制御信号に基づいて、静電アクチュエーター54の第一変位用電極541および第二変位用電極542に印加する電圧を制御する。
【0056】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、測色モジュール1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、および測色処理部43などを備えて構成されている。
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3の電圧制御手段6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター54への印加電圧を設定する。
【0057】
〔5.エタロンの製造方法〕
次に、上記エタロン5の製造方法について、図面に基づいて説明する。
図6は、エタロン5の製造工程を示す図であり、(A)は、基板形成工程における第一基板51および第二基板52の概略図、(B)は、ミラー形成工程における第一基板51および第二基板52の概略図、(C)は、電極形成工程における第一基板51および第二基板52の概略図、(D)は、接合工程およびダイヤフラム形成工程の後、形成されたエタロン5の概略図を示す図である。
【0058】
図6に示すように、エタロン5を製造するためには、まず、図6(A)に示すように、第一基板51の製造素材であるガラス基板を加工して、各溝を形成する(基板形成工程)。具体的には、第一基板51に対しては、接合面513にレジストを形成し、接合面513以外の部分をエッチングすることで、電極形成溝511を形成する。この後、さらに、電極形成溝511の電極固定面511Aにレジストを形成し、ミラー固定溝512を形成する。
【0059】
この後、図6(B)に示すように、ミラー形成工程を形成する。これには、第一基板51および第二基板52のミラー56,57の形成部分以外にレジストを形成し、ミラー56,57を形成する。
このミラー形成工程では、図7および図8に示すような各工程により、ミラー56,57を形成する。図7は、ミラー形成工程における積層工程を示す図である。図8は、ミラー形成工程におけるホール形成工程を示す図であり、(A)は、ホール形成工程後のミラー56,57の概略を示す断面図、(B)は、ホール形成工程により形成されるホール554の位置の例を示す図である。なお、図7,8において、説明のためホール554の径寸法を大きく表示するが、実際にはミラー面積に対して十分に小さく形成されており、また各層の積層数についても、実際には、16層構成(誘電体膜551が8層、犠牲層555が8層)に形成されている。
【0060】
ミラー形成工程では、まず図7に示すように、第一基板51および第二基板52上に、ポスト部材552の形成材料(本実施形態では、SiO2)により構成される犠牲層555と、誘電体膜551(TiO2)とを交互に積層した積層体55を形成する(積層工程)。これらの各層は、スパッタリングにより、膜厚が125nmとなるように形成する。
【0061】
この後、積層工程により形成された積層体55に、図8に示すように、ホール554を形成する(ホール形成工程)。このホール形成工程では、ミラー厚み方向に沿って、積層体55の上面から第一基板51(第二基板52)の基板面までを貫通するホール554を形成する。本実施形態では、図8に示すミラーの平面視において、円形状のホール554を形成する。このホール554の径寸法としては、上述したように、0.3μm〜100μmの大きさであり、ミラー特性に影響を与えない寸法に形成される。また、ホール554の形成方法としては、積層体55の表面におけるホール554の形成箇所以外にレジストを形成し、例えばCF4やCHF3などのCF系ガスや、フッ化キセノンなどをエッチングガスとして、ドライエッチングによりホール554を形成する。
【0062】
次に、ホール形成工程において形成されたホール554を中心として、犠牲層555をエッチングすることで、ポスト部材552および空気層553を形成するポスト形成工程を実施する。
このポスト形成工程では、ホール554にフッ化キセノン系のエッチングガスを流し込み、等方性ドライエッチングを所定時間実施し、犠牲層555の一部を除去する。なお、ドライエッチングを実施する時間としては、形成するポスト部材552の断面寸法や、エッチングガスの流量により適宜設定される。これにより、ホール554の中心から所定径寸法の範囲内の犠牲層555が除去され、この範囲外の犠牲層555が残留することで、残留部分により図4、図5に示すようなポスト部材552が形成される。
なお、本実施形態では、犠牲層555がSiO2により形成されるため、上記のようなフッ化キセノン系のドライエッチングを実施するが、犠牲層555がGeにより形成される場合も同様にフッ化キセノン系のドライエッチングによりポスト部材552を形成することができる。また、犠牲層555が、有機系樹脂のレジストにより形成される場合では、O2アッシングによりホール554から所定範囲内のレジストを除去し、ポスト部材552を形成する。また、本実施形態では、ドライエッチングにより犠牲層555を除去する例を示したが、例えば過酸化水素水によりウェットエッチングを実施することでポスト部材552を形成する製造方法としてもよい。
【0063】
その後、図6(C)に示すように、第一基板51の電極形成部分以外、および第二基板52の電極形成部分以外に、レジストを形成し、スパッタリングにより、第一基板51に第一変位用電極541を形成し、第二基板52に第二変位用電極542を形成する(電極形成工程)。また、この時、第一基板51の第二基板52に対向しない面で、ミラー平面視において固定ミラー56と重なる位置、第二基板52の第一基板51に対向しない面で、ミラー平面視において可動ミラー57と重なる位置に、それぞれ反射防止膜を形成する。
そして、以上のように形成された第一基板51および第二基板52を、重ね合わせ、接合面513,524を接合させる(接合工程)。そして、この後、図6(D)に示すように、第二基板52に連結保持部522を形成するための溝をエッチングにより形成する(ダイヤフラム形成工程)。以上により、エタロン5が製造される。
なお、接合工程の後にダイヤフラム形成工程を実施する製造方法を例示したが、これに限定されず、例えば基板形成工程において、第二基板52に対してダイヤフラム形成工程を実施してもよい。
【0064】
〔6.第一実施形態の作用効果〕
上述したように、上記実施形態のエタロン5では、第一基板51および第二基板52に形成されるミラー56,57は、複数の誘電体膜551により形成され、これらの誘電体膜551の間にポスト部材552を設けることで誘電体膜551間に低屈折空間である空気層553が設けられる。
このように、高屈折率の誘電体膜551と、低屈折率の空気層553とによりミラー56,57が形成されることで、誘電体膜551と、例えばSiO2層などの固体の低屈折率層とにより形成される誘電体多層膜ミラーに比べて、各層間の屈折率の差が大きくなり、ミラー56,57にて反射可能な波長域を拡大させることができる。また、エタロン5では、静電アクチュエーター54を制御して、この一対のミラー56,57間のミラー間ギャップGを調整することで、透過する光の波長を可変させることができるが、上記のように各ミラー56,57で反射可能な波長域が広くなると、エタロン5の一対のミラー56,57間でより広い波長域の光を反射させることができ、ミラー間ギャップGを調整することで、これらの広い波長域の光から所望の波長の光のみを分光させて透過させることが可能となる。すなわち、エタロン5により分光可能な光の波長域を拡大させることができる。そして、上記のように、誘電体膜551および空気層553の積層数を16層構造とすることで、可視光全域の波長の光に対して、選択的に光を透過させることができる。
また、誘電体膜551と、空気層553とを複数積層させたミラー56,57を用いることで、例えばAgC単層のミラーを用いる場合に比べて、反射率も高くなり、エタロン5により分光される光の透過率、分解能も高くすることができる。
さらに、ポスト部材552により誘電体膜551を保持することで、誘電体膜551を平行に維持することができ、一対のミラー56,57も平行に維持することができる。したがって、誘電体膜551の撓みによるミラー56,57の反射率の低下がなく、ミラー56,57の撓みによるエタロン5により分光される光の透過率や分解能低下も防止できる。
以上により、本実施形態のエタロン5では、透過光の透過率や分解能を低下させることなく、分光可能な波長域を可視光全域に広げることができる。
【0065】
また、ポスト部材552は、透明材料であるSiO2により形成され、ミラー56,57の平面視において、ポスト部材552が占める総面積は、ミラーの全面積に対して20%以下となるように形成されている。
このため、透光性のポスト部材552と誘電体膜551との積層部分である低反射構造部を透過する光の光量を少なく、空気層553と誘電体膜551との積層部分である高反射構造部を透過する光の光量を多くすることができる。
ここで、上述したように、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積が20%より大きくなる場合では、ポスト部材552と誘電体膜551との積層部分により分光されて透過する光の光量が多くなり、エタロン5にて分光された光の透過率の半値幅が広くなる。すなわち、分解能が低下してしまうという問題がある。これに対して、ポスト部材552の占める割合をミラー面積に対して20%以下にすることで、ポスト部材552と誘電体膜551との積層部分における影響を十分に小さくすることができるため、透過率の半値幅が狭くなり、上記のように、分解能を高めることができる。
【0066】
さらに、1つのポスト部材552の断面寸法の最小値が100μmより大きくなる場合、上記のように、ミラー面積に対してポスト部材552の占める割合が20%以下である場合でも、ポスト部材552と誘電体膜551との積層部分のミラー特性の影響を受け、分解能が低下してしまう場合がある。これに対して、本実施形態では、ポスト部材552の断面寸法が100μm以下に形成されているため、ポスト部材552と誘電体膜551との積層部分のミラー特性の影響を十分に小さくでき、エタロン5の分解能の低下を抑えられる。
【0067】
そして、ポスト部材552は、ミラー56,57の平面視において、縦方向、横方向に沿って均等間隔で配置されている。このため、誘電体膜551がこれらのポスト部材552により、均等に保持されるため、例えば一部に撓みが生じるなどの不都合を防止でき、エタロン5の透過率の低下、分解能の低下を防止することができる。
【0068】
また、上記エタロン5における各ミラー56,57は、積層工程、ホール形成工程、ポスト形成工程により形成される。
このような製造方法では、ポスト部材552により各誘電体膜551を保持したミラー56,57を容易に製造することが可能となる。
すなわち、ミラー56,57の製造としては、例えば、各誘電体膜551を形成した後、この誘電体膜551上に複数のポスト部材552を配置し、その上から再び誘電体膜551を形成することで、誘電体膜551と空気層553とを積層したミラー56,57を形成することも可能である。しかしながら、この製造方法では、ポスト部材552を形成するために、誘電体膜551上にポスト部材552の配置位置に対応した孔部を有するレジストを形成して、レジストの孔部にポスト部材552を形成し、さらに、これらのレジストおよびポスト部材552上に誘電体膜551を形成する必要があり、最後にレジストのみを剥離させる必要もある。すなわち、レジストの形成工程、レジストの除去工程が別途必要となり、製造工程が増加してしまう。これに対して、本実施形態におけるミラー56,57の形成では、積層体55に形成されたホール554にエッチングガスを流入させるだけで、複数層の空気層553およびポスト部材552を一度に製造することができる。また、ポスト部材552の製造のために、レジストを別途形成したり、これらのレジストを除去したりする必要がないため、製造工程も少なくなる。以上により、上記のような製造方法によりミラー56,57を設けることで、ミラー56,57の製造効率を向上させることができ、その結果エタロン5の製造効率も向上させることができる。
【0069】
〔第二実施形態〕
次に、本発明に係る第二実施形態の測色モジュールについて、図面に基づいて説明する。
図9は、第二実施形態のミラー56,57の概略構成を示す断面図である。
なお、以降の実施形態の説明にあたり、上記第一実施形態と同様の構成については、同符号を付し、その説明を省略または簡略する。
【0070】
上記第一実施形態の測色モジュール1では、エタロン5の一部を構成する一対のミラー56,57は、複数の誘電体膜551間に、透明材料により形成されるポスト部材552を介在させて空気層553を形成した。これに対して、第二実施形態のエタロン5では、ミラー56,57は、複数の誘電体膜551間に、不透明材料により形成されるポスト部材552Aが設けられ、これらの不透明性のポスト部材552Aにより誘電体膜551を保持する。
【0071】
具体的には、図9に示すように、ミラー56,57は、各誘電体膜551にホール554が形成され、これらのホール554に不透明性のポスト部材552Aが貫通され、各誘電体膜551を固定している。ホール554は、第一実施形態と同様、直径が、0.3μm〜100μmに形成されるものであり、直径が3mmの円形状に形成されるミラー面全体の面積に対して、ホール554の占める面積は十分に小さく形成されている。
【0072】
そして、このミラー56,57では、ミラーの全面積に対して、ポスト部材552により誘電体膜551を保持する部分が占める全面積は、2%〜50%であることが好ましい。
上記第一実施形態のようなエタロン5では、ポスト部材552が透光性を有するため、ポスト部材552が設けられる位置では、ポスト部材552と誘電体膜551とが積層する誘電体多層膜ミラーとなり、空気層553と誘電体膜551との積層部分と異なるミラー特性となる。したがって、ポスト部材552が設けられる位置は、エタロン5の透過光の分解能を低下させる一因となり、ポスト部材552の占める割合を、ミラー面積の20%以下に制限する必要があった。
これに対して、第二実施形態のミラー56,57では、ポスト部材552Aは不透明部材であり、このポスト部材552Aが設けられる位置では、光の反射や透過が起こらない。したがって、ポスト部材552Aにより、エタロン5を透過する光の透過率の半値幅が広がることがなく、分解能の低下がない。
一方、不透明性のポスト部材552Aでは、光が透過されないため、ミラー面積に対するポスト部材552Aの面積を大きくなるほど、ポスト部材552Aにより光が吸収されてしまうため、エタロン5を透過する光量が減少する。そして、ミラー面積に対するポスト部材552Aの占める面積が50%より大きくなると、エタロン5を透過する光が減少し、測色センサー3において、所望波長の光の光量を正確に検出することが困難となり、検査対象光の測色処理の精度が低下してしまう。これに対し、ミラー面積に対するポスト部材552Aの占める面積を50%以下とすることで、精度が高い測色処理を実施するために十分な光量を得ることができる。
【0073】
また、ポスト部材552Aの他の形成条件としては、上記第一実施形態のポスト部材552と同様であり、各ポスト部材552Aは、断面寸法が100μm以下に形成されている。また、各ポスト部材552Aは、縦方向、および横方向に沿って均等に配置され、各ポスト部材552Aの間隔が、誘電体膜551の撓みの発生を防止するために必要な所定の間隔閾値以下となるように配置されている。なお、このポスト部材552Aの配置間隔は、上記第一実施形態と同様に、各誘電体膜551の厚み寸法や、各ポスト部材552Aの断面寸法により決定されるものである。
【0074】
(ミラーの製造方法)
次に、第二実施形態のエタロン5の製造方法について、図面に基づいて説明する。
第二実施形態のエタロン5の製造は、上記第一実施形態の製造方法と略同様に、基板形成工程、ミラー形成工程、電極形成工程、接合工程、およびダイヤフラム形成工程により形成されるが、このうち、ミラー形成工程の内容が上記第一実施形態と異なる。
【0075】
図10は、第二実施形態のミラー形成構成を示す図であり、(A)は、積層工程、(B)は、ホール形成工程、(C)は、ポスト埋込工程を示す図である。
第二実施形態のミラー形成工程では、まず図10(A)に示すように、誘電体膜551(例えばTiO2層)と、犠牲層555(例えばSiO2層)とを交互に積層形成し、積層体55を構成する。これは、第一実施形態におけるミラー形成工程の積層工程と同様であり、スパッタリングにより、各層の厚み寸法が125nmとなるように形成する。
【0076】
次に、図10(B)に示すように、積層体55の上面から基板面までを貫通するホール554を形成するホール形成工程を実施する。ここで、第二実施形態で形成するホール554は、ポスト部材552Aが形成される位置となり、ポスト部材552Aの径寸法に応じたホール554を形成する。
具体的には、ホール形成工程では、ミラー全面積に対してホール554が占める面積が50%以下となり、1つのホール554の断面寸法が100μm以下となるように各ホール554を形成する。また、第二実施形態では、第一実施形態と同様、ミラー面における所定の縦方向、および縦方向に直交する横方向に対して、各ポスト部材552Aが均等間隔となるように配置されるが、この場合、ホール形成工程において、各ホール554を、縦方向および横方向に対して均等間隔となるように形成する。この時、各ホール554は、上述したように、誘電体膜551の厚み寸法や、ホール554の径寸法により決定される所定の間隔閾値以下の間隔で形成する。
【0077】
この後、各ホール554にポスト部材552Aを埋め込むポスト部材埋込工程を実施する。このポスト部材552Aとしては、上記第一実施形態のように、エッチングにより形状を形成する必要がないため、材質の選択幅が広がり、例えば、本実施の形態では、W,Au,Crなどの金属素材をポスト部材552Aとして用いることができる。
ここで、このポスト埋込工程では、例えば、ホール554に棒状のポスト部材552Aを圧入することで、ホール554にポスト部材552Aを埋め込む。
【0078】
そして、このポスト部材埋込工程の後、犠牲層555を除去する犠牲層除去工程を実施することで、ミラー56,57が形成される。
具体的には、この犠牲層除去工程では、犠牲層555(SiO2層)をフッ化キセノン系のエッチングガスを流入させることで、積層体の側面部から犠牲層555をドライエッチングして除去する。
なお、本実施形態のように、犠牲層555がSiO2層である場合や、Ge層である場合には、ドライエッチングによる犠牲層除去工程を実施するが、例えば、犠牲層555として有機系樹脂によるレジストを形成した場合では、O2アッシングなどによりエッチングすることができる。また、ドライエッチングに限らず、過酸化水素などによるウェットエッチングを実施することで犠牲層555を除去してもよい。
【0079】
〔第二実施形態の作用効果〕
第二実施形態のエタロン5では、ポスト部材552Aは、不透明な素材により形成され、ミラー全面積に対するポスト部材552Aの占める割合は50%以下である。
ポスト部材552Aが不透明であるため、ポスト部材552Aと誘電体膜551との積層部分では、光透過性がなく、ミラー56,57のミラー特性に影響を及ぼさない。したがって、ポスト部材552Aと誘電体膜551との積層部分が占める面積が増えた場合でも、上記第一実施形態のようなエタロン5の分解能の低下を招くことがない。
一方、ポスト部材552Aおよび誘電体膜551との積層部分の占める面積が、ミラー面積に対して50%より大きくなると、この部分は光を通さないため、エタロン5を透過する光の光量も減少してしまう。これに対して、本実施形態では、ミラーの平面視において、ミラー全面積に対して、ポスト部材552Aが占める部分の割合は、50%以下であり、エタロン5の透光性の低下を測色処理が可能な程度に維持することができる。
【0080】
また、エタロン5の製造において、ミラー形成工程では、積層工程で積層形成された積層体55に、ホール形成工程でホール554を形成した後、ポスト部材埋込工程により、ホール554にポスト部材552Aを埋め込むことでポスト部材552Aを形成する。そして、犠牲層除去工程により犠牲層555を除去することで、空気層553を形成している。
上記のようなポスト部材552Aの埋め込みでは、各ポスト部材552Aを各ホール554内に埋め込む必要があるため、このポスト部材埋込工程における操作が煩雑になるが、ポスト部材552Aを埋め込んだ後は、犠牲層除去工程において、積層体55中の全ての犠牲層555を除去すればよい。したがって、上記第一実施形態のように、犠牲層555の除去時にポスト部材552を形成する必要がなく、犠牲層555の除去に精密な操作が必要とならない。また、第一実施形態では、ポスト部材552の素材は、エッチングにより形状を形成可能なものに限られていたが、第二実施形態では、ポスト部材552Aは埋め込みにより形成されるため、様々な素材からポスト部材552Aを選択することができる。したがって、各誘電体膜551を平行に保持するために必要な強度を有する金属性のポスト部材552Aを選択することが可能であり、この場合、誘電体膜551の撓みをより確実に防止でき、エタロン5により分光される光の透過率および分解能の低下を抑えることができる。
【0081】
〔第三実施形態〕
次に、本発明に係る第三実施形態の測色モジュールのエタロンについて図面に基づいて説明する。
第三実施形態は、第一実施形態の測色モジュール1において、エタロン5のミラー56,57の構成が異なる。図11は、第三実施形態のエタロン5におけるミラー56,57の概略構成を示す図である。
【0082】
上記第一実施形態では、ポスト部材552が、SiO2により形成される例を示したが、第三実施形態のポスト部材552Bは、誘電体膜551と同一素材であるTiO2により形成される。また、第一実施形態では、空気層553を形成するためのホール554が形成されない。
ここで、ポスト部材552Bが形成される面積としては、第一実施形態と同様であり、ミラー56,57の平面視において、ポスト部材552Bが占める割合はミラーの全面積に対して20%以下であり、各ポスト部材552Bの断面寸法は100μm以下に形成されている。
【0083】
〔ミラーの製造方法〕
次に、第三実施形態のエタロン5の製造におけるミラー形成工程について、図面に基づいて説明する。
第三実施形態のエタロン5の製造は、上記第一実施形態の製造方法と略同様に、基板形成工程、ミラー形成工程、電極形成工程、接合工程、およびダイヤフラム形成工程により形成されるが、このうち、ミラー形成工程の内容が上記第一実施形態とは異なる。
【0084】
図12は、第三実施形態のミラー形成工程における積層工程を示す図であり、(A)は、最下段の犠牲層555を形成する第一犠牲層形成工程、(B)は、最下段の誘電体膜551およびポスト部材552Bを形成する第一誘電体層形成工程、(C)は、誘電体膜551上に犠牲層555を形成する第二犠牲層形成工程、(D)は、誘電体膜551上および犠牲層555上に誘電体膜551を形成する第二誘電体層形成工程を示す図である。
【0085】
図12に示すように、第三実施形態のミラー形成工程では、まず、積層工程において、犠牲層555と誘電体層556とを積層した積層体55Aを形成する。
ここで、この積層工程では、図12(A)に示すように、まず、第一基板51および第二基板52上に、犠牲層555を形成する(第一犠牲層形成工程)。この犠牲層555は、ミラー平面視において、例えば、網状や棒状に形成され、その端部が積層体55Aの側面に露出するように形成する。ここで、犠牲層555が、網状に形成される場合の犠牲層555の平面図の一例を図13に示す。図13に示すように、網状の犠牲層555に囲われる空間がポスト部材552Bの形成位置となる。
具体的な犠牲層555の形成方法としては、第一基板51および第二基板52上に、ポスト部材552Bの位置に対応してレジストを形成し、スパッタリングにより犠牲層555を形成する。この後、レジストを除去することで、ポスト部材552Bの形成用の孔部555Aが設けられた犠牲層555が形成される。
なお、犠牲層555の形状としては、上記のような網状に限られず、複数の棒状の犠牲層555が形成される構成としてもよい。この場合、これら棒状の犠牲層555の間の空間がポスト部材552Bの形成位置となる。
【0086】
次に、この犠牲層555上に誘電体層556を形成する第一誘電体層形成工程を実施する。この第一誘電体層形成工程では、図12(B)に示すように、犠牲層555を覆うように誘電体層556を形成する。これには、第一基板51および第二基板52上で、ミラー56,57の形成位置のみが開口した新たなレジストを形成する。そして、スパッタリングなどにより、この第一基板51および第二基板52のミラー形成部分で、犠牲層555の孔部555Aおよび表面に、誘電体層556(TiO2層)を積層形成する。
ここで、この誘電体層556は、その表面が第一基板51または第二基板52の基板面に対して平行となるように形成される。
【0087】
この後、図12(C)に示すように、誘電体層556の表面に犠牲層555を形成する第二犠牲層形成工程を実施する。
この第二犠牲層形成工程では、第一犠牲層形成工程で形成した犠牲層555と同様の形成方法で、誘電体層556の表面に、孔部555Aを有する犠牲層555を形成する。
その後、図12(D)に示すように、誘電体層556の表面に形成された犠牲層555を覆う状態に、誘電体層556を形成する第二誘電体層形成工程を実施する。
この第二誘電体層形成工程では、第一誘電体層形成工程で形成した誘電体層556と同様の形成方法で、誘電体層556の表面に、犠牲層555を覆う状態に誘電体層556を形成する。
そして、上記第二犠牲層形成工程および第二誘電体層形成工程を繰り返し実施することで、所定層数の誘電体層が積層される積層体55Aを形成する。
【0088】
この後、上記積層工程で形成された積層体55Aの側面から、例えばフッ化キセノン系のエッチングガスを流入させるなどして、犠牲層555のみをドライエッチングにより除去する(犠牲層除去工程)。これにより、犠牲層555間に形成される空間に形成されるポスト部材552Bにより誘電体膜551が保持され、各誘電体膜551間に空気層553が形成されるミラー56,57が製造される。
【0089】
〔第三実施形態の作用効果〕
上記第三実施形態のエタロン5では、ミラー56,57の形成時に、積層工程で犠牲層555と誘電体層556を積層した後、犠牲層除去工程で犠牲層555を除去するだけで、ポスト部材552Bが形成される。したがって、第一実施形態や第二実施形態のミラー形成工程で必須であった、ホール554を形成するホール形成工程が不要となり、ミラー56,57の製造をより短い工程で製造することができる。
【0090】
〔第四実施形態〕
次に、本発明に係る第四実施形態の測色モジュールのエタロン5について、図面に基づいて説明する。
図14は、第四実施形態のエタロン5の構成を示す図である。
上記第一〜第三実施形態のエタロン5では、ポスト部材552,552A,552Bにより誘電体膜551間に空気層553が形成されるミラー56,57を備える構成としたが、第四実施形態では、誘電体膜551間に真空層557が形成される。
【0091】
具体的には、エタロン5は、図14に示すような密閉パッケージ58内に収納されている。このパッケージ58は、例えばエタロン5の第一基板51および第二基板52に対向する面が透光性の基板により形成されている。また、パッケージ58は、例えば内周側面でエタロン5の外周部を保持することで、エタロン5をパッケージ58の内部の所定位置に固定している。そして、このパッケージ58は、密閉された内部空間が真空状態に保たれている。
このようなエタロン5は、真空雰囲気下で、上記第一実施形態と同様の製造工程で、エタロン5を形成することで、誘電体膜551間に真空層557を形成する。そして、この真空雰囲気下で、形成されたエタロン5を密閉パッケージ58内の所定位置に固定し、パッケージ58の蓋を閉めて密閉する。これにより、密閉パッケージ58内が真空状態に維持され、ミラー56,57における誘電体膜551間の真空層557も真空状態が維持される。
【0092】
上記のような第四実施形態のエタロン5では、ミラー56,57の誘電体膜551間に真空層557が形成される。真空の屈折率は、空気の屈折率より小さいため、ミラー56,57を構成する高屈折率層(誘電体膜551)と、低屈折率層(真空層557)との屈折率の差が、低屈折率層として空気層553を用いる場合に比べて、より大きくすることができる。したがって、ミラー56,57における反射率を大きくでき、反射可能な波長域もより拡大させることができる。すなわち、エタロン5で分光可能な波長帯域をより広げることができ、分光可能波長域として可視光域をカバーすることができる。
【0093】
また、エタロン5にて、所定波長の光を分光させる際、分光させたい光の波長に応じて静電アクチュエーター54に電圧を印加し、可動部521を移動させることで、ミラー間ギャップGを変動させる。ここで、誘電体膜551間の低屈折空間が空気層553である場合、可動ミラー57の各誘電体膜551に、空気抵抗が加わるため、可動部521の移動速度が速いと誘電体膜551が空気抵抗により撓むおそれがあり、可動部521の移動を遅くする必要がある。これに対して、本実施形態では、誘電体膜551間に真空層557が形成されるため、可動部521の移動により、誘電体膜551に抵抗が加わらない。したがって、可動部521の変動速度を速くした場合でも、誘電体膜551の撓みがなく、エタロン5の透過特性に影響を及ぼさない。
【0094】
さらに、エタロン5が、内部が真空に維持される密閉パッケージ58内に収納されるため、可動部521および連結保持部522に加わる空気抵抗もなく、可動部521の移動をよりスムーズにすることができる。したがって、静電アクチュエーター54に所定の電圧を印加した際の可動部521の移動速度を、例えばエタロン5を空気中で作動させる場合に比べて、より速くすることができる。
【0095】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上記第一実施形態の説明において、ミラー平面視で円形状のホール554を均等間隔で形成することで、ポスト部材形成工程において十字星型のポスト部材552が形成される例を示したが、ポスト部材552の形状としてはこれに限らない。例えば、図15および図16に示すようなポスト部材552の形状としてもよい。図15および図16は、ポスト部材552およびホール554の他の形状を示す図である。なお、これらの図15および図16において、説明のため、ホール554の寸法やポスト部材552の寸法を大きく表示しているが、実際には、エタロン5の透過特性や測色処理に影響が出ない程度に十分に小さく形成されている。
具体的には、図15は、円弧溝状のホール554を形成した場合のポスト部材552の形状である。図15(A)に示すように、ホール形成工程では、ミラー56,57の中心点を中心とした複数の同心円に沿う円弧状のホール554を形成する。このような形状のホール554を形成することで、図15(B)に示すような円形状のポスト部材552が形成される。この場合でも、各ポスト部材552の幅寸法が100μm以下となるように犠牲層をドライエッチングすることで、ポスト部材552による透過率の悪化を抑えることができる。また、図15(B)のような閉空間を有するポスト部材であっても、エタロン特性上の問題はなく、その他、筒状のポスト部材などであってもよい。
また、図16は、円柱状のポスト部材552を形成する場合の例である。この例では、十字型のホール554を形成し、このホール554を中心としてエッチング処理により犠牲層を除去することで、図16(B)に示すような断面円形のポスト部材552を形成することができる。
また、第二〜第四実施形態に対しても、ポスト部材552の形状については、特に限定されず、例えば、図15(B)に示すような平面視で円環状のポスト部材が設けられる構成などとしてもよい。
【0096】
さらに、上記実施形態において、ポスト部材552が縦方向および横方向に対して、それぞれポスト部材552均等間隔に配置される例を示したが、これに限られない。例えば、ミラー56,57の中心点に対して同心円となる複数の径寸法の異なる仮想円上に沿って、ポスト部材552が配置される構成としてもよい。この場合でも、各仮想円の径寸法や、各仮想円上のポスト部材552の配置間隔(配置角度間隔)は、誘電体膜551の厚み寸法や、各ポスト部材552の断面寸法により適宜決定され、誘電体膜551の撓みがなく、かつ、ポスト部材552が透明部材である場合は、ミラー平面視において、全ポスト部材552の占める面積がミラー全面積に対して20%以下となるように、またポスト部材552が不透明部材である場合は、全ポスト部材552の占める面積がミラー全面積に対して50%以下となるように、ポスト部材552を配置すればよい。
【0097】
また、第一実施形態において、ミラー平面視において、ミラー全面積に対してポスト部材552の占める割合が20%以下に形成される例を示したが、これに限定されない。例えば、ポスト部材552をMgF2(屈折率=1.37)により形成するなど、さらに屈折率がより小さい素材によりポスト部材552を形成することで、低反射構造部分におけるミラー特性を高反射構造部分のミラー特性に近づけることができ、この場合、例えばミラー全面積に対するポスト部材552の占める面積を20%以上にするなどとしても、エタロン5の分解能の低下を抑えることができる。
ただし、上記のような構成とした場合でも、上記実施形態に比べて、エタロン5により分光される光の分解能の低下が考えられるため、上記実施形態と同様に、ポスト部材552が透明部材である場合は、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積の割合は20%以下に設定することが好ましい。
【0098】
さらに、第二実施形態においても、ミラー平面視において、ミラー全面積に対してポスト部材552の占める割合が20%以下に形成される例を示したが、これに限らない。例えば、より大きい面積のミラー56,57を用いることで、エタロン5を透過する光の光量も多くなるため、この場合、ミラー全面積に対するポスト部材552の占める面積を50%以上にするなどしてもよく、エタロン5により分光される光の透過量の減少を抑えることができる。
ただし、ミラー56,57の面積を大きくする場合、一対のミラー56,57の平行関係を維持することが困難となる問題などもあるため、ミラー56,57の寸法を上記実施形態のように、直径3mm程度に形成し、ミラー全面積に対するポスト部材552の占める面積を50%以下に設定することが好ましい。
【0099】
さらには、ポスト部材552は、断面寸法の最小値が100μm以下に形成される例を示したが、上記と同様、ポスト部材552の素材や、ミラー面積により、ポスト部材552の断面寸法を100μm以上に形成する構成などとすることもできる。
【0100】
また、第四実施形態において、内部が真空密閉されたパッケージ58内にエタロン5を固定することで、真空層557を形成する例を示したが、これに限定されない。例えば、可動部521が形成される第二基板52の、第一基板51とは反対側面に第三基板を接合し、第一基板51および第二基板52の間の内部空間、第二基板52および第三基板の内部空間をそれぞれ真空状態にすることで、真空層557を形成する構成としてもよい。この場合、第二基板52と第三基板との間が真空となるため、可動部521が真空空間に挟まれる状態となり、可動部が空気抵抗を受けないため、静電アクチュエーターにより可動部521を変位させる際の変位速度を向上させることができる。
【0101】
そして、上記第一、第二、第三実施形態において、ポスト部材552により誘電体膜551間に低屈折空間である空気層553が形成され、この空気層が本発明の気体層を形成する構成としたが、気体層としては、空気に限られない。例えば、気体層として、低屈折率を有し、可視光範囲内で波長吸収性が小さい気体であればよく、例えばヘリウムガスなどにより気体層が形成される構成としてもよい。
【0102】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0103】
1…測色モジュール、3…測色センサー、5…波長可変干渉フィルターであるエタロン、31…受光手段である受光素子、43…測色処理部、54…可変手段である静電アクチュエーター、56…固定ミラー、57…可動ミラー、551…誘電体膜、552,552A,552B…ポスト部材、553…気体層である空気層、555…犠牲層、555A…孔部、556…誘電体層、557…真空層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光から所望の目的波長の光を選択して射出する波長可変干渉フィルター、この波長可変干渉フィルターを備えた測色センサー、この測色センサーを備えた測色モジュール、および波長可変干渉フィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のミラー間で光を反射させ、特定波長の光のみを透過させて、その他の波長の光を干渉により打ち消し合わせることで、入射光から特定波長の光のみを取得する分光フィルターが知られている。また、このような分光フィルターとして、ミラー間の距離を調整することで、射出させる光を選択して射出させる波長可変干渉フィルターが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の光学デバイス(波長可変干渉フィルター)では、光透過性を有する板状の第1の構造体および第2の構造体が対向配置され、第1の構造体および第2の構造体の互いに対向する面に、第1の反射膜(ミラー)および第2の反射膜(ミラー)が形成されている。また、第1の構造体と第2の構造体との間には、それぞれ第1の駆動電極、および第2の駆動電極が形成され、これらの駆動電極間に電圧を印加することで、第1の反射膜および第2の反射膜の間のギャップを可変させる。また、第1の反射膜および第2の反射膜には、例えばTi2O,Ta2O2などにより構成される高屈折率層と、MgF2,SiO2などにより構成される低屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−116669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、波長可変干渉フィルターとしては、例えば可視光全域など、広い範囲の波長域で、光を分光させることが可能で、かつ、分光された光の透過率が高く、半値幅が狭い(分解能が高い)ことが好ましい。このような分光特性は、第1および第2の反射膜(ミラー)の構成により変化する。ここで、これらの反射膜を例えば単層のAgCにより構成すると、分光可能な波長域として、可視光全域をカバーすることが可能であるが、分光された光の透過率が悪く、半値幅も広くなってしまうという問題がある。
【0006】
一方、上記特許文献1に記載のように、波長可変干渉フィルターを構成する第1の反射膜、第2の反射膜として、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜を用いる場合、波長可変干渉フィルターの光透過率、および分解能を向上させることが可能となる。しかしながら、誘電体多層膜の低屈折率層としてMgF2,SiO2などにより構成される固体層を用いているため、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差が小さく、誘電体多層膜で反射される光の波長域も狭くなる。このため、波長可変干渉フィルターにより分光可能な波長域も狭くなり、例えば可視光全体などの広範囲の波長域をカバーすることができないという問題がある。
【0007】
本発明では、上記のような問題に鑑みて、分光可能な波長域が広く、かつ、分光された光の透過率および分解能が大きい波長可変干渉フィルター、測色センサー、測色モジュール、および波長可変干渉フィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の波長可変干渉フィルターは、互いに対向する一対のミラーと、前記ミラー間の間隔を可変する可変手段と、を備え、前記ミラーは、複数の誘電体膜と、これらの誘電体膜の間に設けられて、互いに対向する誘電体膜間を平行に保持するとともに、前記誘電体膜間に空間を形成するポスト部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明では、ミラーを構成する複数の誘電体膜間にポスト部材が設けられ、このポスト部材により互いに対向する誘電体膜の間に隙間が形成され、この隙間に、例えば屈折率が固体層よりも小さい空気などにより形成される空間(低屈折空間)が形成される。
このような構成のミラーは、誘電体膜を高屈折率層、低屈折空間を低屈折率層とした積層ミラーとなる。ここで、誘電体膜間に低屈折空間が介在するミラーでは、誘電体膜と固体の低屈折率層とを積層させた積層ミラーに比べて、各層間の屈折率の差が大きくなり、光反射率が増大し、反射可能な光の波長域も広くなる。また、ミラーで反射可能な波長域が広がると、波長可変干渉フィルターの一対のミラー間でより広い波長域の光を反射させることができ、ミラー間のギャップを調整することで、これらの広い波長域の光から所望の波長の光のみを分光させて透過させることが可能となる。すなわち、波長可変干渉フィルターにより分光可能な光の波長域が拡大される。
また、各ミラーの反射率も増大するため、誘電体膜と固体の低屈折率層とを積層した通常の誘電体多層膜ミラーを用いた場合に比べて、波長可変干渉フィルターにより分光されない光を、より確実にミラーで反射させることが可能となる。すなわち、波長可変干渉フィルターにおいて、所望波長以外の光の透過量が減少し、分解能をさらに向上させることが可能となる。
【0010】
また、誘電体膜間に空気層を介在させる構成としては、例えば筒状の枠部材に誘電体膜の外周縁を保持させる構成なども考えられるが、このような構成では、各誘電体膜の中央部が撓み、互いに対向する一対のミラーを平行に維持することが困難となる。このような場合、ミラー位置によって、一対のミラー間の隙間(ミラー間ギャップ)が変動し、光透過率および分解能が低下してしまう。これに対して、本発明では、誘電体膜間にポスト部材が設けられるため、誘電体膜の中央部が撓むことがなく、各誘電体膜を平行に保つことが可能となる。したがって、互いに対向する一対のミラーも平行に保たれ、誘電体膜の撓みによる波長可変干渉フィルターの光透過率および分解能の低下を防止できる。
以上により、本発明の波長可変干渉フィルターでは、単層ミラーを設ける場合や、反射膜を筒状枠部材に保持させて間に空気層を介在させたミラーを設ける場合、高屈折率の誘電体膜間に、固体の低屈折率層を介在させた誘電多層膜ミラーを設ける場合などに比べて、分光された光の透過率、および分解能を向上させることができ、分光可能な波長域を広げることができる。すなわち、本発明の波長可変干渉フィルターは、分光させる光の高透過率化および高分解能化と、分光可能な波長域の広域化とを両立させることができる。
【0011】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記ポスト部材は、透明部材であり、前記ミラーの平面視において、前記ミラーの全面積に対して前記ポスト部材が占める面積の割合は、20%以下であることが好ましい。
【0012】
ポスト部材が透光性を有する場合、ミラーにおけるポスト部材が設けられない位置では、空気などにより構成される低屈折空間と誘電体膜とが交互に積層されるミラー構造(高反射構造)となり、ポスト部材が設けられる位置では、誘電体膜とポスト部材とが積層されるミラー構造(低反射構造)となる。波長可変干渉フィルターにおいて、1つのミラーに上記のような高反射構造と低反射構造とが混在する構成では、これらの高反射構造および低反射構造のミラー反射特性が異なるため、これらの部分でそれぞれ異なる分光特性となる。ここで、ポスト部材が占める面積が20%より大きくなる場合、低反射構造部分により分光される光の透過量が増大し、波長可変干渉フィルター全体において、分光された光の透過率の半値幅が広くなり、分解能が低下してしまう。これに対して、本発明のように、ポスト部材が透明である場合、その占める割合をミラーの全面積に対して20%以下とすることで、低反射構造部分を透過する光の量に対して、高反射構造部分の光の透過量が多くなり、分解能の低下を抑えることができる。
また、ミラー全面積に対するポスト部材の占める面積の最小値としては、誘電体膜の撓みが防止されるために必要な面積を有していればよい。その具体的な値は、誘電体膜の厚み寸法や個々のポスト部材が誘電体膜を保持する面積(ポスト部材の断面積)、ポスト部材の形状などにより適宜設定されるものであるが、例えばミラー全面積の2%以上に形成されていればよい。
【0013】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記ポスト部材は、不透明部材であり、前記ミラーの平面視において、前記ミラーの全面積に対して前記ポスト部材が占める面積の割合は、50%以下である構成としてもよい。
【0014】
ポスト部材としては、透光性を有しない素材を用いることもでき、この場合、ミラー面積に対するポスト部材の占める面積の割合を50%以下とする。
ここで、不透明部材であるポスト部材を用いる場合、その占める割合が大きければ、波長可変干渉フィルターにより分光された光がポスト部材により遮られるため、透過率が悪化し、ポスト部材が占める割合が50%より大きくなると、波長可変干渉フィルターを透過する光の光量が著しく低下する。このような光の透過率が悪い波長可変干渉フィルターでは、例えば透過した光の光量を測定して検査対象物の測色処理を行う場合、各波長成分の正確な光量を測定することができず、測定精度が低下するおそれもある。これに対して、本発明のように、ポスト部材の占める割合を50%以下とすることで、測定精度が低下しない程度に波長可変干渉フィルターの透過率悪化を抑制することができる。
また、ポスト部材が不透明である構成では、ポスト部材が設けられる部分は光が透過しないため、上述の発明のように、低反射構造部分による波長可変干渉フィルターの分解能低下がなく、透光性部材によるポスト部材を設ける場合に比べて、波長可変干渉フィルターの分解能を向上させることができる。
また、ミラー全面積に対するポスト部材の占める面積の最小値としては、上記発明と同様、誘電体膜の撓みが防止されるために必要な面積を有していればよい。その具体的な値は、誘電体膜の厚み寸法や個々のポスト部材が誘電体膜を保持する面積(ポスト部材の断面積)、ポスト部材の形状などにより適宜設定されるものであるが、例えばミラー全面積の2%以上に形成されていればよい。
【0015】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記ポスト部材は、前記ポスト部材を前記ミラー面と平行な面で断面した際、その断面寸法の最小値が100μm以下であることが好ましい。
【0016】
ここで、ポスト部材の断面寸法の最小値とは、例えば、ポスト部材が断面楕円である場合は、その短軸寸法を指し、ポスト部材の断面矩形状である場合は、その短辺寸法を指し、ポスト部材が断面円形状の場合は、径寸法を指す。すなわち、ポスト部材は、断面形状において、寸法が最短となる部分では、その寸法が100μm以下に形成されている。
ポスト部材の断面寸法の最小値が100μmより大きい場合、ポスト部材が透明である場合、低反射構造部分の面積が増大するため、分解能が低下し、ポスト部材が不透明である場合、透過光の光量が減少してしまう。
これに対して、ポスト部材の断面形状における断面寸法の最小値が100μm以下である場合では、ポスト部材による光の透過阻害量を減少させることができ、エタロンの分解能の低下や透過率の低下を抑えることができる。
また、ポスト部材の断面寸法の最小値の下限値としては、そのポスト部材を形成する素材の剛性などにより適宜設定されるものであり、ポスト部材の傾斜による誘電体膜の歪みや撓みがない程度の断面寸法に形成されていればよい。
【0017】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記空間は、真空層であることが好ましい。
この発明では、互いに対向する誘電体膜間の低屈折空間が、空気よりも光屈折率が小さい真空層であるため、誘電体膜間に空気層が形成される場合に比べて、反射率をさらに向上させることができ、反射可能な波長域をさらに広げることができる。したがって、波長可変干渉フィルターの分光された光の透過率および分解能もさらに向上し、分光可能な波長域もさらに拡大させることができる。
これに加えて、誘電体膜間の空間が真空である場合、可変手段によりミラーを移動させた場合でも、誘電体膜に抵抗がかからない。したがって、ミラーの移動速度を速めた場合でも、ミラー移動時に誘電体膜の撓みを防止できる。
【0018】
一方、本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記空間は、気体層であってもよい。
ここで、気体層とは、波長可変干渉フィルターを透過させたい波長帯域において、光を吸収しない気体であればよく、例えば、波長可変干渉フィルターにおいて、可視光域の所定波長を分光させて透過させる場合、気体層として、空気層や、ヘリウム層などを用いることができる。
この発明では、ミラー製造時に、真空状態下で製造したり、真空パッケージ内にミラーを収納したりする必要がないため、ミラーを容易に製造することができる。また、誘電体膜間に気体がある場合、ミラーを変位させることで誘電体膜に抵抗がかかるが、ミラー移動速度を制御し、移動速度を低下させることで気体の抵抗による誘電体膜の撓みを防止することができる。
【0019】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記ミラーの前記誘電体膜は、酸化チタンにより形成されることが好ましい。
ミラーを構成する複数の誘電体膜としては、膜間空間との屈折率の差を大きくするために、高屈折率であることが好ましく、例えば、酸化チタン、酸化タンタルなどを利用することができる。この中でも、特に屈折率が高く、かつ波長吸収性が小さい酸化チタンを用いることで、ミラーにおける反射率を向上させることができ、反射可能な光の波長域も広げることができる。
【0020】
本発明の測色センサーは、上述した波長可変干渉フィルターと、前記波長可変干渉フィルターを透過した光を受光する受光手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
この発明では、測色センサーは、上述した発明の波長可変干渉フィルターを備える。したがって、誘電体膜と固体の低屈折率層とを積層した通常の誘電体多層膜ミラーや、単層のミラーを用いたフィルターに比べて、本発明の波長可変干渉フィルターでは、分光可能な波長域を広くでき、分光された光の透過率、分解能も向上させることができる。
また、測色センサーでは、このような波長可変干渉フィルターにより分光された光を受光手段により受光する。したがって、本発明の測色センサーでは、例えばフィルターとして、固体高屈折率層と固体低屈折率層とを積層したミラーを用いた波長可変干渉フィルターを組み込む場合に比べて、広い範囲の波長域の光の光量を測定することができる。また、本発明の測色センサーは、例えばAgC単層のミラーを用いた波長可変干渉フィルターを組み込む場合に比べて、入射光を高透過率、高分解能で分光させることが可能であるため、所望波長の光の強度をより高精度に測定することができる。
【0022】
本発明の測色モジュールは、上述した測色センサーと、前記測色センサーの前記受光手段により受光された光に基づいて、測色処理を実施する測色処理部と、を具備したことを特徴とする。
【0023】
この発明では、上述した発明と同様に、高屈折率層である誘電体膜と、ポスト部材により形成される低屈折空間とが積層されるミラーを備える波長可変干渉フィルターを用いるため、測色センサーの受光手段では、検査対象光を広範囲の波長の光に分光し、分光した各波長の光の光量を正確に検出することができる。したがって、処理手段においても、これらの光量に基づいて、検査対象光を構成する各色成分の強度を精度よく分析できる。
【0024】
本発明の波長可変干渉フィルターの製造方法は、基板上に、前記誘電体膜、および前記ポスト部材の形成材料である犠牲層を交互に積層した積層体を形成する積層工程と、前記積層体の上面から前記基板面までを貫通する複数のホールを開口形成するホール形成工程と、前記ホールを中心とした所定範囲の前記犠牲層をエッチングし、残留した前記犠牲層により前記ポスト部材を形成するポスト形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の波長可変干渉フィルターの製造方法では、まず、積層工程により、基板上に、犠牲層と誘電体膜との積層体を形成し、ホール形成工程において、積層体に複数のホールを形成する。そして、ポスト部材形成工程において、ホールを中心として犠牲層をエッチング加工することで、犠牲層の一部を除去する。これにより、犠牲層のうち、エッチングされた部分が、空気などにより形成される低屈折空間となり、エッチングされなかった部分が残留して、互いに対向する誘電体膜間を保持するポスト部材となる。
このような製造方法では、ミラーにホールを設ける必要はあるが、例えば形成したホールにエッチング用の流体を注入するだけで、容易に低屈折空間およびポスト部材を形成することができる。
【0026】
本発明の波長可変干渉フィルターの製造方法としては、基板上に、前記誘電体膜、およびエッチングにより除去可能な犠牲層を交互に積層した積層体を形成する積層工程と、前記積層体の上面から前記基板面までを貫通する複数のホールを開口形成するホール形成工程と、前記ホールに前記ポスト部材を埋め込むポスト部材埋込工程と、前記犠牲層をエッチングして除去する犠牲層除去工程と、を備える製造方法としてもよい。
【0027】
この発明では、波長可変干渉フィルターのミラー形成において、まず、積層工程において、誘電体膜と犠牲層とを積層した積層体を形成し、ホール形成工程においてこの積層体にホールを形成する。そして、ホール内にポスト部材を埋め込むことでポスト部材を形成し、この後、エッチングにより全ての犠牲層を除去する。
このような製造により波長可変干渉フィルターを製造する場合、ホールを形成するだけでなく、さらにポスト部材を埋め込む必要があり、製造工程が複雑化するが、ポスト部材を自由に選択することができる。すなわち、上述した犠牲層をエッチングしてポスト部材を形成する発明では、ミラーの製造が簡単になるが、ポスト部材として、エッチング可能な素材を用いる必要があったが、本発明では、エッチング不可能な材質を用いてもよく、ポスト部材の選択の幅が増大する。
さらに、エッチングによりポスト部材を形成する場合、例えばポスト部材の中央部の断面寸法が小さく、誘電体膜に接する両端部の断面寸法が大きくなるなど、ポスト部材の太さが不均一になるおそれがあり、エッチングの制御が困難であるのに対し、本発明では、太さが均一な棒状のポスト部材をホールに埋め込んで形成することができる。このような太さが均一なポスト部材を用いることで、誘電体膜を保持する保持力が増大し、外部からの応力、例えばミラー移動時の抵抗などにより誘電体膜が変形しにくくなり、誘電体膜の撓みや傾斜を防止することができる。
【0028】
また、本発明の波長可変干渉フィルターの製造方法は、ポスト部材形成用の孔部が設けられる犠牲層を形成する犠牲層形成工程、および、前記犠牲層を覆うとともに、前記孔部内および前記犠牲層の表面に誘電体層を形成する誘電体層形成工程、を複数回繰り返すことで、基板上に、前記犠牲層および前記誘電体層が複数積層された積層体を形成する積層工程と、前記犠牲層をエッチング処理により除去する犠牲層除去工程と、を備える製造方法であってもよい。
【0029】
この発明では、積層工程では、犠牲層形成工程でポスト部材形成用の孔部を有する犠牲層を形成し、誘電体層形成工程でその表面上および孔部内に誘電体膜を積層し、再び犠牲層形成工程を実施することで、その誘電体膜の表面上に、ポスト部材形成用の孔部を有する犠牲層を形成する。これを、ミラーを構成する誘電体膜の積層数分繰り返して積層体を形成する。この後、犠牲層除去工程で、これらの積層体のうち、犠牲層だけをエッチングにより除去する。
このような製造方法では、積層工程で積層形成された積層体に対して、犠牲層除去工程で犠牲層を除去するだけでミラーを形成することができる。したがって、ホールの形成やポスト部材の埋め込み、ポスト部材の形成のための精密なエッチング制御などが不要であり、波長可変干渉フィルターの製造がさらに容易となる。また、誘電体膜間の低屈折空間に対応した犠牲層を形成し、積層体形成後に犠牲層を除去するため、ポスト部材の断面寸法を一様にできる。したがって、上記発明と同様に、ポスト部材による誘電体膜の保持力が大きくなり、誘電体膜の撓みや傾斜を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る第一実施形態の測色モジュールの概略構成を示す図である。
【図2】第一実施形態の波長可変干渉フィルターを構成するエタロンの概略構成を示す平面図である。
【図3】第一実施形態のエタロンの概略構成を示す断面図である。
【図4】第一実施形態の各ミラーの概略構成を示す断面図である。
【図5】図4のV-V線を断面した低屈折空間の概略構成を示す断面図である。
【図6】エタロンの製造工程を示す図であり、(A)は、基板形成工程における各基板の概略図、(B)は、ミラー形成工程における各基板の概略図、(C)は、電極形成工程における各基板の概略図、(D)は、接合工程およびダイヤフラム形成工程の後、形成されたエタロンの概略図を示す図である。
【図7】第一実施形態のエタロンのミラー形成工程における積層工程を示す図である。。
【図8】第一実施形態のミラー形成工程におけるホール形成工程を示す図であり、(A)は、ホール形成工程後のミラーの概略を示す断面図、(B)は、ホール形成工程により形成されるホールの位置の例を示す図である。
【図9】第二実施形態のミラーの概略構成を示す断面図である。
【図10】第二実施形態のミラー形成工程を示す図であり、(A)は、積層工程、(B)は、ホール形成工程、(C)は、ポスト埋込工程を示す図である。
【図11】第三実施形態のエタロン5におけるミラーの概略構成を示す図である。
【図12】第三実施形態のミラー形成工程における積層工程を示す図であり、(A)は、最下段の犠牲層を形成する第一犠牲層形成工程、(B)は、最下段の誘電体膜およびポスト部材を形成する第一誘電体層形成工程、(C)は、誘電体膜上に犠牲層を形成する第二犠牲層形成工程、(D)は、誘電体膜上および犠牲層上に誘電体膜を形成する第二誘電体層形成工程を示す図である。
【図13】第三実施形態における犠牲層の形状の一例であり、網状に形成される場合の犠牲層の平面図である。
【図14】第四実施形態のエタロン5の構成を示す図である。
【図15】他の実施形態におけるポスト部材およびホールの形状を示す図である。
【図16】さらに他の実施形態におけるポスト部材およびホールの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第一実施形態]
以下、本発明に係る第一実施形態の測色モジュールについて、図面を参照して説明する。
〔1.測色モジュールの全体構成〕
図1は、本発明に係る第一実施形態の測色モジュールの概略構成を示す図である。
この測色モジュール1は、図1に示すように、被検査対象Aに光を射出する光源装置2と、本発明の測色センサー3と、測色モジュール1の全体動作を制御する制御装置4とを備えている。そして、この測色モジュール1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサーにて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち被検査対象Aの色を分析して測定するモジュールである。
【0032】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれており、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Aに向かって射出する。
【0033】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、図1に示すように、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5と、エタロン5を透過する光を受光する受光手段としての受光素子31と、エタロン5で透過させる光の波長を可変する電圧制御手段6と、を備えている。また、測色センサー3は、エタロン5に対向する位置に、被検査対象Aで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。そして、この測色センサー3は、エタロン5により、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、所定波長の光のみを分光し、分光した光を受光素子31にて受光する。
受光素子31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、受光素子31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0034】
(3−1.エタロンの構成)
図2は、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5の概略構成を示す平面図であり、図3は、エタロン5の概略構成を示す断面図である。なお、図1では、エタロン5に検査対象光が図中下側から入射しているが、図3では、検査対象光が図中上側から入射するものとする。
エタロン5は、図2に示すように、平面正方形状の板状の光学部材であり、一辺が例えば10mmに形成されている。このエタロン5は、図3に示すように、第一基板51、および第二基板52を備えている。これらの2枚の基板51,52は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成されている。これらの中でも、各基板51,52の構成材料としては、例えばナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属を含有したガラスが好ましく、このようなガラスにより基板51,52を形成することで、後述するミラー56,57や、各電極の密着性や、基板同士の接合強度を向上させることが可能となる。そして、これらの2つの基板51,52は、外周部近傍に形成される接合面513,524が接合されることで、一体的に構成されている。
【0035】
また、第一基板51と、第二基板52との間には、本発明の一対のミラーを構成する固定ミラー56および可動ミラー57が設けられる。ここで、固定ミラー56は、第一基板51の第二基板52に対向する面に固定され、可動ミラー57は、第二基板52の第一基板51に対向する面に固定されている。また、これらの固定ミラー56および可動ミラー57は、ミラー間ギャップGを介して対向配置されている。
さらに、第一基板51と第二基板52との間には、固定ミラー56および可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの寸法を調整するための静電アクチュエーター54が設けられている。
【0036】
(3−1−1.第一基板の構成)
第一基板51は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。具体的には、図3に示すように、第一基板51には、エッチングにより電極形成溝511およびミラー固定溝512が形成される。
電極形成溝511は、図2に示すようなエタロン5を厚み方向から見た平面視において、平面中心点を中心とした円形に形成されている。ミラー固定溝512は、前記平面視において、電極形成溝511と同心円で、電極形成溝511よりも径寸法が小さい円形に形成されている。
電極形成溝511は、ミラー固定溝512の外周縁から、当該電極形成溝511の内周壁面までの間に、リング状の電極固定面511Aが形成され、この電極固定面511Aに第一変位用電極541が形成される。また、第一変位用電極541の外周縁の一部からは、図2に示すような平面視において、エタロンの左下方向および右上方向に向かって、第一変位用電極引出部541Aがそれぞれ延出して形成されている。さらに、これらの第一変位用電極引出部541Aの先端には、それぞれ第一変位用電極パッド541Bが形成され、これらの第一変位用電極パッド541Bが電圧制御手段6に接続される。
ここで、静電アクチュエーター54を駆動させる際には、電圧制御手段6により、一対の第一変位用電極パッド541Bのうちのいずれか一方にのみに電圧が印加される。そして、他方の第一変位用電極パッド541Bは、第一変位用電極541の電荷保持量を検出するための検出端子として用いられる。
【0037】
ミラー固定溝512は、上述したように、電極形成溝511と同軸上で、電極形成溝511よりも小さい径寸法で形成されている。なお、本実施形態では、図3に示すように、ミラー固定溝512の深さ寸法が電極形成溝511の深さ寸法よりも深く形成される例を示すが、これは、ミラー固定溝512の底面(ミラー固定面512A)に固定される固定ミラー56、および第二基板52に形成される可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの寸法、第一変位用電極541および第二基板52に形成される後述の第二変位用電極542の間の寸法、固定ミラー56や可動ミラー57の厚み寸法により適宜設定される。
【0038】
また、ミラー固定溝512は、エタロン5を透過させる波長域をも考慮して、溝深さが設計されることが好ましい。例えば、本実施形態では、固定ミラー56および可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの初期値(第一変位用電極541および第二変位用電極542間に電圧が印加されていない状態のミラー間ギャップGの寸法)が450nmに設定され、第一変位用電極541および第二変位用電極542間に電圧を印加することにより、ミラー間ギャップGが250nmになるまで可動ミラー57を変位させることが可能となっており、これにより、第一変位用電極541および第二変位用電極542間の電圧を可変することで、可視光全域の波長の光を選択的に分光させて透過させることが可能となる。この場合、固定ミラー56および可動ミラー57の膜厚およびミラー固定溝512の深さ寸法や電極形成溝511の深さ寸法は、ミラー間ギャップGを250nm〜450nmの間で変位可能に設定されている。
【0039】
そして、ミラー固定面512Aには、直径が約3mmの円形状に形成される固定ミラー56が固定されている。なお、この固定ミラー56の詳細な説明については後述する。
【0040】
さらに、第一基板51は、第二基板52に対向する上面とは反対側の下面において、固定ミラー56に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、第一基板51の表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0041】
(3−1−2.第二基板の構成)
第二基板52は、厚みが例えば200μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、第二基板52には、図2に示すような平面視において、基板中心点を中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する連結保持部522と、を備えている。
【0042】
可動部521は、連結保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、第二基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。また、可動部521は、ミラー固定溝512に平行な可動面521Aを備え、この可動面521Aに可動ミラー57が固定されている。ここで、この可動ミラー57と、上記した固定ミラー56とにより、本発明の一対のミラーが構成される。また、本実施形態では、可動ミラー57と固定ミラー56との間のミラー間ギャップGは、初期状態において、450nmに設定されている。なお、可動ミラー57の構成についての詳細な説明は、後述する。
【0043】
さらに、可動部521は、可動面521Aとは反対側の上面において、可動ミラー57に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、第一基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0044】
連結保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイヤフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成されている。この連結保持部522の第一基板51に対向する面には、第一変位用電極541と、約1μmの電磁ギャップを介して対向する、リング状の第二変位用電極542が形成されている。ここで、この第二変位用電極542および前述した第一変位用電極541により、本発明の可変手段である静電アクチュエーター54が構成される。
また、第二変位用電極542の外周縁の一部からは、一対の第二変位用電極引出部542Aが外周方向に向かって形成され、これらの第二変位用電極引出部542Aの先端には第二変位用電極パッド542Bが形成されている。より具体的には、第二変位用電極引出部542Aは、図2に示すような平面視において、エタロンの右下方向および左上方向に向かって延出し、第二基板52の平面中心に対して点対称に形成されている。
また、第二変位用電極パッド542Bも、第一変位用電極パッド541Bと同様に、電圧制御手段6に接続され、静電アクチュエーター54の駆動時には、一対の第二変位用電極パッド542Bのうちのいずれか一方にのみに電圧が印加される。そして、他方の第二変位用電極パッド542Bは、第二変位用電極542の電荷保持量を検出するための検出端子として用いられる。
【0045】
(3−1−3.ミラーの構成)
次に、本発明の一対のミラーである固定ミラー56および可動ミラー57の構成について、図面に基づいて説明する。図4は、本実施形態のミラー56,57の概略構成を示す断面図であり、図5は、図4のV-V線で断面した低屈折空間の概略構成を示す断面図である。なお、図4、図5において、説明を分かりやすくするため、ポスト部材552やホール554の寸法、誘電体膜551間の寸法を実際より大きく表示するが、実際には、ミラーに対して十分小さく形成されている。
【0046】
ミラー56,57(固定ミラー56および可動ミラー57)は、図4に示すように、複数の誘電体膜551が間にポスト部材552を介して積層されることにより構成されている。すなわち、厚み方向に積層される誘電体膜551間には、それぞれポスト部材552の高さ寸法分だけの空間(低屈折空間)が形成される。ここで、本発明において、低屈折空間とは、例えば一般的に誘電体多層膜ミラーなどに用いられる固体の低屈折率層よりも屈折率が小さい空間のことを指し、例えば、本実施形態では、この低屈折空間は、空気層553である。そして、高屈折率を有する誘電体膜551により構成される高屈折率層と、空気層553とが積層されることで多層膜ミラーが構成されている。この誘電体膜551の積層数としては、特に限定されず、本実施の形態では、誘電体膜551および空気層553の層数がそれぞれ8層である16層構造となっている。なお、本実施形態では、固定ミラー56および可動ミラー57が同一層数の誘電体膜551および空気層553により構成される例を示すが、固定ミラー56および可動ミラー57で積層数が異なる構成などとしてもよい。
【0047】
誘電体膜551としては、例えば酸化チタン(TiO2)や、酸化タンタル(Ta2O3)などの高屈折率素材を用いることができる。これらの高屈折素材の中でも、特に高屈折率を有するとともに、特定波長の光の吸収率が他より小さいTiO2を用いることがより好ましい。
また、誘電体膜551の膜厚は、ミラー56,57において反射させる光の中心波長の1/4に設定され、本実施形態では、可視光域の中心波長である600nmの1/4である125nmに形成されている。
なお、本実施形態のエタロン5は、可視光域(例えば360nm〜800nm)を分光可能な波長域の対象とし、ミラー56,57においてもこの可視光域の光を反射する必要があるため、誘電体膜551の膜厚は、90nm〜200nmに形成されていればよい。ただし、例えば、膜厚が90nm近傍に形成される場合、可視光における高波長域成分の反射率が悪化し、また、膜厚が200nm近傍に形成される場合、可視光における低波長域成分の反射率が悪化する。このため、誘電体膜551は、膜厚としては、上述のように、可視光域の中心波長近傍の膜厚に形成されることが好ましい。
【0048】
また、誘電体膜551には、図4に示すように、複数のホール554が形成され、このホール554に空気層553が連通している。このホール554の直径は、0.3μm〜100μmに形成されるものであり、直径が3mmの円形状に形成されるミラー面全体の面積に対して、ホール554の占める面積は十分に小さく、ホール554の形成によるミラー反射特性や、透過特性に影響が出ることはない。
【0049】
ポスト部材552は、互いに対向する誘電体膜551間に複数形成される柱状の部材である。このポスト部材552は、各誘電体膜551が平行となるように保持するとともに、誘電体膜551間に低屈折空間である空気層553を形成する。ポスト部材552を形成する材料としては、例えば、SiO2、Ge、有機系樹脂により形成されるレジストなど、エッチングにより形状成形が可能な材料を用いることができる。なお、本実施形態では、ポスト部材552が透光性を有するSiO2により形成される例を示し、ポスト部材552が不透明性である例は、後述する第二実施形態において説明する。
【0050】
そして、ポスト部材552がSiO2などの透明材料により形成されている場合、ミラー56,57の平面視における全面積(ミラー面積)に対して、ポスト部材552により誘電体膜551を保持する部分が占める面積は、例えば2%〜20%であることが好ましい。ポスト部材552が透光性を有する場合、このポスト部材552が設けられる位置では、誘電体膜551とポスト部材552とが積層したミラー構成(低反射構造部)となる。一方、ポスト部材552が設けられていない位置では、誘電体膜551と空気層553とが積層されるミラー構成(高反射構造部)となり、ポスト部材552が設けられる位置のミラー特性とは異なるミラー特性となる。
一般に、誘電体多層膜において、各層の屈折率の差によりミラー特性が決定され、屈折率の差が大きいほど、反射率が高く、反射可能な波長域も拡大される。したがって、上記のように、ポスト部材552が透光性を有する場合、ポスト部材552が設けられる低反射構造部と、空気層553が設けられる高反射構造部とで、ミラー特性に差が生じ、ポスト部材552が設けられる位置では、反射率が低下し、反射可能な波長域も低下する。
また、エタロン5において、ミラー間ギャップGを所定値に設定した場合、上記のようにミラー特性が異なる場合、透過される光もそれぞれ異なる波長となる。すなわち、ポスト部材552が設けられる低反射構造部により分光される光の波長と、空気層553が形成される高反射構造部により分光される光の波長とが、それぞれ異なり、エタロン5により、これらの2波長の光が分光されて透過されることとなる。
したがって、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積が大きくなるほど、ポスト部材552が設けられる位置の低反射構造を透過する光が増大し、本来エタロン5により分光させたい高反射構造部を透過する光が低下する。このため、エタロン5を透過する光の分解能が低下する。そして、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積が20%より大きくなると、測色センサー3において、所望波長の光の光量を正確に検出することが困難となり、検査対象光の測色処理の精度が低下してしまう。
【0051】
一方、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積が2%より小さくなる場合、ポスト部材552による誘電体膜551の支持が困難となり、誘電体膜551が撓む場合が考えられる。すなわち、複数の誘電体膜551は、ポスト部材552によりそれぞれ平行状態に維持される必要があり、誘電体膜551が撓むと反射率は反射可能な波長域が変化してしまう。また、誘電体膜551の撓みにより、一対のミラー56,57も平行でなくなるため、ミラー位置によってミラー間ギャップGの差が生じ、エタロン5を透過する光に透過率や分解能も低下してしまう。したがって、ポスト部材552は、誘電体膜551を平行に保持するための面積を備える必要があり、ミラー面積に対してポスト部材552の占める面積は少なくとも2%以上となることが好ましい。
【0052】
ここで、誘電体膜551を平行に維持する条件としては、ミラー面積に対するポスト部材552が占める面積のみにより決定されるものではなく、その他、ポスト部材552の断面寸法や誘電体膜551の膜厚に基づいて設定されるポスト部材552の配置位置も重要なパラメーターとなる。したがって、上記のように、ミラー面積に対するポスト部材552の占める割合を2%と設定したが、これらのパラメーターによっては、例えば、ポスト部材552の占める面積をさらに大きく設定する場合もある。
また、本実施形態のミラー56,57では、図5に示すように、各ポスト部材552は、所定の第一方向(図5の紙面における縦方向)と、第一方向に直交する第二方向(図5の紙面における横方向)とに沿って、均等間隔で配置されている。ここで、各ポスト部材552間の間隔は、誘電体膜551の膜厚、ポスト部材552の断面積により適宜設定されるものであり、例えば本実施形態では、誘電体膜551の膜厚が125μm、ポスト部材552の断面積が20μm2に設定されているが、この場合、ポスト部材552の配置間隔としては、1つのポスト部材552の少なくとも500μm2以内に他のポスト部材552が配置されていることが好ましい。
【0053】
また、1つのポスト部材552に着目すると、ミラー面に対して平行な面でポスト部材552を断面した際、断面寸法の最小値は100μm以下に形成されることが好ましい。ここで、本発明で述べる断面寸法の最小値とは、前述したように、ポスト部材552の断面形状において、距離が最も短くなる部分を指し、例えば、図5の示すような断面が十字星型のポスト部材552の場合、断面形状の凹み部B−C間の寸法が断面寸法の最小値となる。また、ポスト部材552の断面形状が円形の場合では、その径寸法、断面形状が楕円形の場合では、短軸寸法を指すものである。
この断面寸法の最小値が100μmより大きくなる場合、ミラー面積に対してポスト部材552が占める割合が20%以下であったとしても、ポスト部材552を設けた部分のミラー特性の影響を受け、エタロン5を透過する光の透過率や、分解能が低下する。これに対して、ポスト部材552の断面寸法が100μm以下となる場合では、ポスト部材552によるミラー特性の変化の影響を十分に小さくでき、光透過率や分解能の低下を無視できる程度に減少させることが可能となる。
また、この断面寸法の最小値が1μmよりも小さくなる場合、ポスト部材552の形成が困難となる。
なお、ポスト部材の断面寸法がこの場合、強度が不足し、互いに対向する誘電体膜551を平行に維持することが考えられるが、ポスト部材552の配置間隔を蜜にすることで対応ことが可能である。
【0054】
一般に、高屈折率層と低屈折率層とが積層される誘電体多層膜ミラーでは、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差、積層数、各層の光学的厚みにより、反射率、反射可能な波長域が決定されることが知られている。
すなわち、各層の光学的厚みを、反射させたい光の波長の1/4にすることで、その波長付近で高い反射率を得ることができる。また、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差が大きくなるほど、反射率を大きくでき、かつ反射可能な波長帯域も広くすることができる。さらに、誘電体膜の積層数を増加させることで、反射率を向上させることが可能であるが、この場合、反射可能な波長域が狭くなってしまう。
以上により、エタロン5により分光可能な波長帯域を可視光全域(例えば360〜800nm)とし、かつ、分光される光の透過率および分解能を向上させるためには、各ミラー56,57の反射可能な波長域を可視光域に設定する必要があり、反射率を低下させることなく、反射可能な波長帯域を広げるために、積層数を減少させることなく、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差を大きくする必要がある。
本実施形態のミラー56,57では、上述のように、誘電体膜551の光学的厚み、および空気層553の厚み寸法(ポスト部材552の高さ寸法)は、125nmに形成されており、これにより、可視光域(例えば360nm〜800nm)の中心波長である600nmを中心とした光を高反射率で反射させることが可能となる。そして、TiO2層(屈折率≒2.5)の誘電体膜551が高屈折率層となり、低屈折空間の空気層553(屈折率≒1.0)が低屈折率層となるため、各層の屈折率の差が1.5となり、例えばTiO2−SiO2系誘電体多層膜ミラー(屈折率の差が1.0)に比べて、屈折率の差が大きく、反射率を高くでき、かつ反射可能な波長帯域も広くすることができる。
【0055】
(3−2.電圧制御手段の構成)
電圧制御手段6は、上記エタロン5とともに、本発明の波長可変干渉フィルターを構成する。この電圧制御手段6は、制御装置4からの入力される制御信号に基づいて、静電アクチュエーター54の第一変位用電極541および第二変位用電極542に印加する電圧を制御する。
【0056】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、測色モジュール1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、および測色処理部43などを備えて構成されている。
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3の電圧制御手段6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター54への印加電圧を設定する。
【0057】
〔5.エタロンの製造方法〕
次に、上記エタロン5の製造方法について、図面に基づいて説明する。
図6は、エタロン5の製造工程を示す図であり、(A)は、基板形成工程における第一基板51および第二基板52の概略図、(B)は、ミラー形成工程における第一基板51および第二基板52の概略図、(C)は、電極形成工程における第一基板51および第二基板52の概略図、(D)は、接合工程およびダイヤフラム形成工程の後、形成されたエタロン5の概略図を示す図である。
【0058】
図6に示すように、エタロン5を製造するためには、まず、図6(A)に示すように、第一基板51の製造素材であるガラス基板を加工して、各溝を形成する(基板形成工程)。具体的には、第一基板51に対しては、接合面513にレジストを形成し、接合面513以外の部分をエッチングすることで、電極形成溝511を形成する。この後、さらに、電極形成溝511の電極固定面511Aにレジストを形成し、ミラー固定溝512を形成する。
【0059】
この後、図6(B)に示すように、ミラー形成工程を形成する。これには、第一基板51および第二基板52のミラー56,57の形成部分以外にレジストを形成し、ミラー56,57を形成する。
このミラー形成工程では、図7および図8に示すような各工程により、ミラー56,57を形成する。図7は、ミラー形成工程における積層工程を示す図である。図8は、ミラー形成工程におけるホール形成工程を示す図であり、(A)は、ホール形成工程後のミラー56,57の概略を示す断面図、(B)は、ホール形成工程により形成されるホール554の位置の例を示す図である。なお、図7,8において、説明のためホール554の径寸法を大きく表示するが、実際にはミラー面積に対して十分に小さく形成されており、また各層の積層数についても、実際には、16層構成(誘電体膜551が8層、犠牲層555が8層)に形成されている。
【0060】
ミラー形成工程では、まず図7に示すように、第一基板51および第二基板52上に、ポスト部材552の形成材料(本実施形態では、SiO2)により構成される犠牲層555と、誘電体膜551(TiO2)とを交互に積層した積層体55を形成する(積層工程)。これらの各層は、スパッタリングにより、膜厚が125nmとなるように形成する。
【0061】
この後、積層工程により形成された積層体55に、図8に示すように、ホール554を形成する(ホール形成工程)。このホール形成工程では、ミラー厚み方向に沿って、積層体55の上面から第一基板51(第二基板52)の基板面までを貫通するホール554を形成する。本実施形態では、図8に示すミラーの平面視において、円形状のホール554を形成する。このホール554の径寸法としては、上述したように、0.3μm〜100μmの大きさであり、ミラー特性に影響を与えない寸法に形成される。また、ホール554の形成方法としては、積層体55の表面におけるホール554の形成箇所以外にレジストを形成し、例えばCF4やCHF3などのCF系ガスや、フッ化キセノンなどをエッチングガスとして、ドライエッチングによりホール554を形成する。
【0062】
次に、ホール形成工程において形成されたホール554を中心として、犠牲層555をエッチングすることで、ポスト部材552および空気層553を形成するポスト形成工程を実施する。
このポスト形成工程では、ホール554にフッ化キセノン系のエッチングガスを流し込み、等方性ドライエッチングを所定時間実施し、犠牲層555の一部を除去する。なお、ドライエッチングを実施する時間としては、形成するポスト部材552の断面寸法や、エッチングガスの流量により適宜設定される。これにより、ホール554の中心から所定径寸法の範囲内の犠牲層555が除去され、この範囲外の犠牲層555が残留することで、残留部分により図4、図5に示すようなポスト部材552が形成される。
なお、本実施形態では、犠牲層555がSiO2により形成されるため、上記のようなフッ化キセノン系のドライエッチングを実施するが、犠牲層555がGeにより形成される場合も同様にフッ化キセノン系のドライエッチングによりポスト部材552を形成することができる。また、犠牲層555が、有機系樹脂のレジストにより形成される場合では、O2アッシングによりホール554から所定範囲内のレジストを除去し、ポスト部材552を形成する。また、本実施形態では、ドライエッチングにより犠牲層555を除去する例を示したが、例えば過酸化水素水によりウェットエッチングを実施することでポスト部材552を形成する製造方法としてもよい。
【0063】
その後、図6(C)に示すように、第一基板51の電極形成部分以外、および第二基板52の電極形成部分以外に、レジストを形成し、スパッタリングにより、第一基板51に第一変位用電極541を形成し、第二基板52に第二変位用電極542を形成する(電極形成工程)。また、この時、第一基板51の第二基板52に対向しない面で、ミラー平面視において固定ミラー56と重なる位置、第二基板52の第一基板51に対向しない面で、ミラー平面視において可動ミラー57と重なる位置に、それぞれ反射防止膜を形成する。
そして、以上のように形成された第一基板51および第二基板52を、重ね合わせ、接合面513,524を接合させる(接合工程)。そして、この後、図6(D)に示すように、第二基板52に連結保持部522を形成するための溝をエッチングにより形成する(ダイヤフラム形成工程)。以上により、エタロン5が製造される。
なお、接合工程の後にダイヤフラム形成工程を実施する製造方法を例示したが、これに限定されず、例えば基板形成工程において、第二基板52に対してダイヤフラム形成工程を実施してもよい。
【0064】
〔6.第一実施形態の作用効果〕
上述したように、上記実施形態のエタロン5では、第一基板51および第二基板52に形成されるミラー56,57は、複数の誘電体膜551により形成され、これらの誘電体膜551の間にポスト部材552を設けることで誘電体膜551間に低屈折空間である空気層553が設けられる。
このように、高屈折率の誘電体膜551と、低屈折率の空気層553とによりミラー56,57が形成されることで、誘電体膜551と、例えばSiO2層などの固体の低屈折率層とにより形成される誘電体多層膜ミラーに比べて、各層間の屈折率の差が大きくなり、ミラー56,57にて反射可能な波長域を拡大させることができる。また、エタロン5では、静電アクチュエーター54を制御して、この一対のミラー56,57間のミラー間ギャップGを調整することで、透過する光の波長を可変させることができるが、上記のように各ミラー56,57で反射可能な波長域が広くなると、エタロン5の一対のミラー56,57間でより広い波長域の光を反射させることができ、ミラー間ギャップGを調整することで、これらの広い波長域の光から所望の波長の光のみを分光させて透過させることが可能となる。すなわち、エタロン5により分光可能な光の波長域を拡大させることができる。そして、上記のように、誘電体膜551および空気層553の積層数を16層構造とすることで、可視光全域の波長の光に対して、選択的に光を透過させることができる。
また、誘電体膜551と、空気層553とを複数積層させたミラー56,57を用いることで、例えばAgC単層のミラーを用いる場合に比べて、反射率も高くなり、エタロン5により分光される光の透過率、分解能も高くすることができる。
さらに、ポスト部材552により誘電体膜551を保持することで、誘電体膜551を平行に維持することができ、一対のミラー56,57も平行に維持することができる。したがって、誘電体膜551の撓みによるミラー56,57の反射率の低下がなく、ミラー56,57の撓みによるエタロン5により分光される光の透過率や分解能低下も防止できる。
以上により、本実施形態のエタロン5では、透過光の透過率や分解能を低下させることなく、分光可能な波長域を可視光全域に広げることができる。
【0065】
また、ポスト部材552は、透明材料であるSiO2により形成され、ミラー56,57の平面視において、ポスト部材552が占める総面積は、ミラーの全面積に対して20%以下となるように形成されている。
このため、透光性のポスト部材552と誘電体膜551との積層部分である低反射構造部を透過する光の光量を少なく、空気層553と誘電体膜551との積層部分である高反射構造部を透過する光の光量を多くすることができる。
ここで、上述したように、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積が20%より大きくなる場合では、ポスト部材552と誘電体膜551との積層部分により分光されて透過する光の光量が多くなり、エタロン5にて分光された光の透過率の半値幅が広くなる。すなわち、分解能が低下してしまうという問題がある。これに対して、ポスト部材552の占める割合をミラー面積に対して20%以下にすることで、ポスト部材552と誘電体膜551との積層部分における影響を十分に小さくすることができるため、透過率の半値幅が狭くなり、上記のように、分解能を高めることができる。
【0066】
さらに、1つのポスト部材552の断面寸法の最小値が100μmより大きくなる場合、上記のように、ミラー面積に対してポスト部材552の占める割合が20%以下である場合でも、ポスト部材552と誘電体膜551との積層部分のミラー特性の影響を受け、分解能が低下してしまう場合がある。これに対して、本実施形態では、ポスト部材552の断面寸法が100μm以下に形成されているため、ポスト部材552と誘電体膜551との積層部分のミラー特性の影響を十分に小さくでき、エタロン5の分解能の低下を抑えられる。
【0067】
そして、ポスト部材552は、ミラー56,57の平面視において、縦方向、横方向に沿って均等間隔で配置されている。このため、誘電体膜551がこれらのポスト部材552により、均等に保持されるため、例えば一部に撓みが生じるなどの不都合を防止でき、エタロン5の透過率の低下、分解能の低下を防止することができる。
【0068】
また、上記エタロン5における各ミラー56,57は、積層工程、ホール形成工程、ポスト形成工程により形成される。
このような製造方法では、ポスト部材552により各誘電体膜551を保持したミラー56,57を容易に製造することが可能となる。
すなわち、ミラー56,57の製造としては、例えば、各誘電体膜551を形成した後、この誘電体膜551上に複数のポスト部材552を配置し、その上から再び誘電体膜551を形成することで、誘電体膜551と空気層553とを積層したミラー56,57を形成することも可能である。しかしながら、この製造方法では、ポスト部材552を形成するために、誘電体膜551上にポスト部材552の配置位置に対応した孔部を有するレジストを形成して、レジストの孔部にポスト部材552を形成し、さらに、これらのレジストおよびポスト部材552上に誘電体膜551を形成する必要があり、最後にレジストのみを剥離させる必要もある。すなわち、レジストの形成工程、レジストの除去工程が別途必要となり、製造工程が増加してしまう。これに対して、本実施形態におけるミラー56,57の形成では、積層体55に形成されたホール554にエッチングガスを流入させるだけで、複数層の空気層553およびポスト部材552を一度に製造することができる。また、ポスト部材552の製造のために、レジストを別途形成したり、これらのレジストを除去したりする必要がないため、製造工程も少なくなる。以上により、上記のような製造方法によりミラー56,57を設けることで、ミラー56,57の製造効率を向上させることができ、その結果エタロン5の製造効率も向上させることができる。
【0069】
〔第二実施形態〕
次に、本発明に係る第二実施形態の測色モジュールについて、図面に基づいて説明する。
図9は、第二実施形態のミラー56,57の概略構成を示す断面図である。
なお、以降の実施形態の説明にあたり、上記第一実施形態と同様の構成については、同符号を付し、その説明を省略または簡略する。
【0070】
上記第一実施形態の測色モジュール1では、エタロン5の一部を構成する一対のミラー56,57は、複数の誘電体膜551間に、透明材料により形成されるポスト部材552を介在させて空気層553を形成した。これに対して、第二実施形態のエタロン5では、ミラー56,57は、複数の誘電体膜551間に、不透明材料により形成されるポスト部材552Aが設けられ、これらの不透明性のポスト部材552Aにより誘電体膜551を保持する。
【0071】
具体的には、図9に示すように、ミラー56,57は、各誘電体膜551にホール554が形成され、これらのホール554に不透明性のポスト部材552Aが貫通され、各誘電体膜551を固定している。ホール554は、第一実施形態と同様、直径が、0.3μm〜100μmに形成されるものであり、直径が3mmの円形状に形成されるミラー面全体の面積に対して、ホール554の占める面積は十分に小さく形成されている。
【0072】
そして、このミラー56,57では、ミラーの全面積に対して、ポスト部材552により誘電体膜551を保持する部分が占める全面積は、2%〜50%であることが好ましい。
上記第一実施形態のようなエタロン5では、ポスト部材552が透光性を有するため、ポスト部材552が設けられる位置では、ポスト部材552と誘電体膜551とが積層する誘電体多層膜ミラーとなり、空気層553と誘電体膜551との積層部分と異なるミラー特性となる。したがって、ポスト部材552が設けられる位置は、エタロン5の透過光の分解能を低下させる一因となり、ポスト部材552の占める割合を、ミラー面積の20%以下に制限する必要があった。
これに対して、第二実施形態のミラー56,57では、ポスト部材552Aは不透明部材であり、このポスト部材552Aが設けられる位置では、光の反射や透過が起こらない。したがって、ポスト部材552Aにより、エタロン5を透過する光の透過率の半値幅が広がることがなく、分解能の低下がない。
一方、不透明性のポスト部材552Aでは、光が透過されないため、ミラー面積に対するポスト部材552Aの面積を大きくなるほど、ポスト部材552Aにより光が吸収されてしまうため、エタロン5を透過する光量が減少する。そして、ミラー面積に対するポスト部材552Aの占める面積が50%より大きくなると、エタロン5を透過する光が減少し、測色センサー3において、所望波長の光の光量を正確に検出することが困難となり、検査対象光の測色処理の精度が低下してしまう。これに対し、ミラー面積に対するポスト部材552Aの占める面積を50%以下とすることで、精度が高い測色処理を実施するために十分な光量を得ることができる。
【0073】
また、ポスト部材552Aの他の形成条件としては、上記第一実施形態のポスト部材552と同様であり、各ポスト部材552Aは、断面寸法が100μm以下に形成されている。また、各ポスト部材552Aは、縦方向、および横方向に沿って均等に配置され、各ポスト部材552Aの間隔が、誘電体膜551の撓みの発生を防止するために必要な所定の間隔閾値以下となるように配置されている。なお、このポスト部材552Aの配置間隔は、上記第一実施形態と同様に、各誘電体膜551の厚み寸法や、各ポスト部材552Aの断面寸法により決定されるものである。
【0074】
(ミラーの製造方法)
次に、第二実施形態のエタロン5の製造方法について、図面に基づいて説明する。
第二実施形態のエタロン5の製造は、上記第一実施形態の製造方法と略同様に、基板形成工程、ミラー形成工程、電極形成工程、接合工程、およびダイヤフラム形成工程により形成されるが、このうち、ミラー形成工程の内容が上記第一実施形態と異なる。
【0075】
図10は、第二実施形態のミラー形成構成を示す図であり、(A)は、積層工程、(B)は、ホール形成工程、(C)は、ポスト埋込工程を示す図である。
第二実施形態のミラー形成工程では、まず図10(A)に示すように、誘電体膜551(例えばTiO2層)と、犠牲層555(例えばSiO2層)とを交互に積層形成し、積層体55を構成する。これは、第一実施形態におけるミラー形成工程の積層工程と同様であり、スパッタリングにより、各層の厚み寸法が125nmとなるように形成する。
【0076】
次に、図10(B)に示すように、積層体55の上面から基板面までを貫通するホール554を形成するホール形成工程を実施する。ここで、第二実施形態で形成するホール554は、ポスト部材552Aが形成される位置となり、ポスト部材552Aの径寸法に応じたホール554を形成する。
具体的には、ホール形成工程では、ミラー全面積に対してホール554が占める面積が50%以下となり、1つのホール554の断面寸法が100μm以下となるように各ホール554を形成する。また、第二実施形態では、第一実施形態と同様、ミラー面における所定の縦方向、および縦方向に直交する横方向に対して、各ポスト部材552Aが均等間隔となるように配置されるが、この場合、ホール形成工程において、各ホール554を、縦方向および横方向に対して均等間隔となるように形成する。この時、各ホール554は、上述したように、誘電体膜551の厚み寸法や、ホール554の径寸法により決定される所定の間隔閾値以下の間隔で形成する。
【0077】
この後、各ホール554にポスト部材552Aを埋め込むポスト部材埋込工程を実施する。このポスト部材552Aとしては、上記第一実施形態のように、エッチングにより形状を形成する必要がないため、材質の選択幅が広がり、例えば、本実施の形態では、W,Au,Crなどの金属素材をポスト部材552Aとして用いることができる。
ここで、このポスト埋込工程では、例えば、ホール554に棒状のポスト部材552Aを圧入することで、ホール554にポスト部材552Aを埋め込む。
【0078】
そして、このポスト部材埋込工程の後、犠牲層555を除去する犠牲層除去工程を実施することで、ミラー56,57が形成される。
具体的には、この犠牲層除去工程では、犠牲層555(SiO2層)をフッ化キセノン系のエッチングガスを流入させることで、積層体の側面部から犠牲層555をドライエッチングして除去する。
なお、本実施形態のように、犠牲層555がSiO2層である場合や、Ge層である場合には、ドライエッチングによる犠牲層除去工程を実施するが、例えば、犠牲層555として有機系樹脂によるレジストを形成した場合では、O2アッシングなどによりエッチングすることができる。また、ドライエッチングに限らず、過酸化水素などによるウェットエッチングを実施することで犠牲層555を除去してもよい。
【0079】
〔第二実施形態の作用効果〕
第二実施形態のエタロン5では、ポスト部材552Aは、不透明な素材により形成され、ミラー全面積に対するポスト部材552Aの占める割合は50%以下である。
ポスト部材552Aが不透明であるため、ポスト部材552Aと誘電体膜551との積層部分では、光透過性がなく、ミラー56,57のミラー特性に影響を及ぼさない。したがって、ポスト部材552Aと誘電体膜551との積層部分が占める面積が増えた場合でも、上記第一実施形態のようなエタロン5の分解能の低下を招くことがない。
一方、ポスト部材552Aおよび誘電体膜551との積層部分の占める面積が、ミラー面積に対して50%より大きくなると、この部分は光を通さないため、エタロン5を透過する光の光量も減少してしまう。これに対して、本実施形態では、ミラーの平面視において、ミラー全面積に対して、ポスト部材552Aが占める部分の割合は、50%以下であり、エタロン5の透光性の低下を測色処理が可能な程度に維持することができる。
【0080】
また、エタロン5の製造において、ミラー形成工程では、積層工程で積層形成された積層体55に、ホール形成工程でホール554を形成した後、ポスト部材埋込工程により、ホール554にポスト部材552Aを埋め込むことでポスト部材552Aを形成する。そして、犠牲層除去工程により犠牲層555を除去することで、空気層553を形成している。
上記のようなポスト部材552Aの埋め込みでは、各ポスト部材552Aを各ホール554内に埋め込む必要があるため、このポスト部材埋込工程における操作が煩雑になるが、ポスト部材552Aを埋め込んだ後は、犠牲層除去工程において、積層体55中の全ての犠牲層555を除去すればよい。したがって、上記第一実施形態のように、犠牲層555の除去時にポスト部材552を形成する必要がなく、犠牲層555の除去に精密な操作が必要とならない。また、第一実施形態では、ポスト部材552の素材は、エッチングにより形状を形成可能なものに限られていたが、第二実施形態では、ポスト部材552Aは埋め込みにより形成されるため、様々な素材からポスト部材552Aを選択することができる。したがって、各誘電体膜551を平行に保持するために必要な強度を有する金属性のポスト部材552Aを選択することが可能であり、この場合、誘電体膜551の撓みをより確実に防止でき、エタロン5により分光される光の透過率および分解能の低下を抑えることができる。
【0081】
〔第三実施形態〕
次に、本発明に係る第三実施形態の測色モジュールのエタロンについて図面に基づいて説明する。
第三実施形態は、第一実施形態の測色モジュール1において、エタロン5のミラー56,57の構成が異なる。図11は、第三実施形態のエタロン5におけるミラー56,57の概略構成を示す図である。
【0082】
上記第一実施形態では、ポスト部材552が、SiO2により形成される例を示したが、第三実施形態のポスト部材552Bは、誘電体膜551と同一素材であるTiO2により形成される。また、第一実施形態では、空気層553を形成するためのホール554が形成されない。
ここで、ポスト部材552Bが形成される面積としては、第一実施形態と同様であり、ミラー56,57の平面視において、ポスト部材552Bが占める割合はミラーの全面積に対して20%以下であり、各ポスト部材552Bの断面寸法は100μm以下に形成されている。
【0083】
〔ミラーの製造方法〕
次に、第三実施形態のエタロン5の製造におけるミラー形成工程について、図面に基づいて説明する。
第三実施形態のエタロン5の製造は、上記第一実施形態の製造方法と略同様に、基板形成工程、ミラー形成工程、電極形成工程、接合工程、およびダイヤフラム形成工程により形成されるが、このうち、ミラー形成工程の内容が上記第一実施形態とは異なる。
【0084】
図12は、第三実施形態のミラー形成工程における積層工程を示す図であり、(A)は、最下段の犠牲層555を形成する第一犠牲層形成工程、(B)は、最下段の誘電体膜551およびポスト部材552Bを形成する第一誘電体層形成工程、(C)は、誘電体膜551上に犠牲層555を形成する第二犠牲層形成工程、(D)は、誘電体膜551上および犠牲層555上に誘電体膜551を形成する第二誘電体層形成工程を示す図である。
【0085】
図12に示すように、第三実施形態のミラー形成工程では、まず、積層工程において、犠牲層555と誘電体層556とを積層した積層体55Aを形成する。
ここで、この積層工程では、図12(A)に示すように、まず、第一基板51および第二基板52上に、犠牲層555を形成する(第一犠牲層形成工程)。この犠牲層555は、ミラー平面視において、例えば、網状や棒状に形成され、その端部が積層体55Aの側面に露出するように形成する。ここで、犠牲層555が、網状に形成される場合の犠牲層555の平面図の一例を図13に示す。図13に示すように、網状の犠牲層555に囲われる空間がポスト部材552Bの形成位置となる。
具体的な犠牲層555の形成方法としては、第一基板51および第二基板52上に、ポスト部材552Bの位置に対応してレジストを形成し、スパッタリングにより犠牲層555を形成する。この後、レジストを除去することで、ポスト部材552Bの形成用の孔部555Aが設けられた犠牲層555が形成される。
なお、犠牲層555の形状としては、上記のような網状に限られず、複数の棒状の犠牲層555が形成される構成としてもよい。この場合、これら棒状の犠牲層555の間の空間がポスト部材552Bの形成位置となる。
【0086】
次に、この犠牲層555上に誘電体層556を形成する第一誘電体層形成工程を実施する。この第一誘電体層形成工程では、図12(B)に示すように、犠牲層555を覆うように誘電体層556を形成する。これには、第一基板51および第二基板52上で、ミラー56,57の形成位置のみが開口した新たなレジストを形成する。そして、スパッタリングなどにより、この第一基板51および第二基板52のミラー形成部分で、犠牲層555の孔部555Aおよび表面に、誘電体層556(TiO2層)を積層形成する。
ここで、この誘電体層556は、その表面が第一基板51または第二基板52の基板面に対して平行となるように形成される。
【0087】
この後、図12(C)に示すように、誘電体層556の表面に犠牲層555を形成する第二犠牲層形成工程を実施する。
この第二犠牲層形成工程では、第一犠牲層形成工程で形成した犠牲層555と同様の形成方法で、誘電体層556の表面に、孔部555Aを有する犠牲層555を形成する。
その後、図12(D)に示すように、誘電体層556の表面に形成された犠牲層555を覆う状態に、誘電体層556を形成する第二誘電体層形成工程を実施する。
この第二誘電体層形成工程では、第一誘電体層形成工程で形成した誘電体層556と同様の形成方法で、誘電体層556の表面に、犠牲層555を覆う状態に誘電体層556を形成する。
そして、上記第二犠牲層形成工程および第二誘電体層形成工程を繰り返し実施することで、所定層数の誘電体層が積層される積層体55Aを形成する。
【0088】
この後、上記積層工程で形成された積層体55Aの側面から、例えばフッ化キセノン系のエッチングガスを流入させるなどして、犠牲層555のみをドライエッチングにより除去する(犠牲層除去工程)。これにより、犠牲層555間に形成される空間に形成されるポスト部材552Bにより誘電体膜551が保持され、各誘電体膜551間に空気層553が形成されるミラー56,57が製造される。
【0089】
〔第三実施形態の作用効果〕
上記第三実施形態のエタロン5では、ミラー56,57の形成時に、積層工程で犠牲層555と誘電体層556を積層した後、犠牲層除去工程で犠牲層555を除去するだけで、ポスト部材552Bが形成される。したがって、第一実施形態や第二実施形態のミラー形成工程で必須であった、ホール554を形成するホール形成工程が不要となり、ミラー56,57の製造をより短い工程で製造することができる。
【0090】
〔第四実施形態〕
次に、本発明に係る第四実施形態の測色モジュールのエタロン5について、図面に基づいて説明する。
図14は、第四実施形態のエタロン5の構成を示す図である。
上記第一〜第三実施形態のエタロン5では、ポスト部材552,552A,552Bにより誘電体膜551間に空気層553が形成されるミラー56,57を備える構成としたが、第四実施形態では、誘電体膜551間に真空層557が形成される。
【0091】
具体的には、エタロン5は、図14に示すような密閉パッケージ58内に収納されている。このパッケージ58は、例えばエタロン5の第一基板51および第二基板52に対向する面が透光性の基板により形成されている。また、パッケージ58は、例えば内周側面でエタロン5の外周部を保持することで、エタロン5をパッケージ58の内部の所定位置に固定している。そして、このパッケージ58は、密閉された内部空間が真空状態に保たれている。
このようなエタロン5は、真空雰囲気下で、上記第一実施形態と同様の製造工程で、エタロン5を形成することで、誘電体膜551間に真空層557を形成する。そして、この真空雰囲気下で、形成されたエタロン5を密閉パッケージ58内の所定位置に固定し、パッケージ58の蓋を閉めて密閉する。これにより、密閉パッケージ58内が真空状態に維持され、ミラー56,57における誘電体膜551間の真空層557も真空状態が維持される。
【0092】
上記のような第四実施形態のエタロン5では、ミラー56,57の誘電体膜551間に真空層557が形成される。真空の屈折率は、空気の屈折率より小さいため、ミラー56,57を構成する高屈折率層(誘電体膜551)と、低屈折率層(真空層557)との屈折率の差が、低屈折率層として空気層553を用いる場合に比べて、より大きくすることができる。したがって、ミラー56,57における反射率を大きくでき、反射可能な波長域もより拡大させることができる。すなわち、エタロン5で分光可能な波長帯域をより広げることができ、分光可能波長域として可視光域をカバーすることができる。
【0093】
また、エタロン5にて、所定波長の光を分光させる際、分光させたい光の波長に応じて静電アクチュエーター54に電圧を印加し、可動部521を移動させることで、ミラー間ギャップGを変動させる。ここで、誘電体膜551間の低屈折空間が空気層553である場合、可動ミラー57の各誘電体膜551に、空気抵抗が加わるため、可動部521の移動速度が速いと誘電体膜551が空気抵抗により撓むおそれがあり、可動部521の移動を遅くする必要がある。これに対して、本実施形態では、誘電体膜551間に真空層557が形成されるため、可動部521の移動により、誘電体膜551に抵抗が加わらない。したがって、可動部521の変動速度を速くした場合でも、誘電体膜551の撓みがなく、エタロン5の透過特性に影響を及ぼさない。
【0094】
さらに、エタロン5が、内部が真空に維持される密閉パッケージ58内に収納されるため、可動部521および連結保持部522に加わる空気抵抗もなく、可動部521の移動をよりスムーズにすることができる。したがって、静電アクチュエーター54に所定の電圧を印加した際の可動部521の移動速度を、例えばエタロン5を空気中で作動させる場合に比べて、より速くすることができる。
【0095】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上記第一実施形態の説明において、ミラー平面視で円形状のホール554を均等間隔で形成することで、ポスト部材形成工程において十字星型のポスト部材552が形成される例を示したが、ポスト部材552の形状としてはこれに限らない。例えば、図15および図16に示すようなポスト部材552の形状としてもよい。図15および図16は、ポスト部材552およびホール554の他の形状を示す図である。なお、これらの図15および図16において、説明のため、ホール554の寸法やポスト部材552の寸法を大きく表示しているが、実際には、エタロン5の透過特性や測色処理に影響が出ない程度に十分に小さく形成されている。
具体的には、図15は、円弧溝状のホール554を形成した場合のポスト部材552の形状である。図15(A)に示すように、ホール形成工程では、ミラー56,57の中心点を中心とした複数の同心円に沿う円弧状のホール554を形成する。このような形状のホール554を形成することで、図15(B)に示すような円形状のポスト部材552が形成される。この場合でも、各ポスト部材552の幅寸法が100μm以下となるように犠牲層をドライエッチングすることで、ポスト部材552による透過率の悪化を抑えることができる。また、図15(B)のような閉空間を有するポスト部材であっても、エタロン特性上の問題はなく、その他、筒状のポスト部材などであってもよい。
また、図16は、円柱状のポスト部材552を形成する場合の例である。この例では、十字型のホール554を形成し、このホール554を中心としてエッチング処理により犠牲層を除去することで、図16(B)に示すような断面円形のポスト部材552を形成することができる。
また、第二〜第四実施形態に対しても、ポスト部材552の形状については、特に限定されず、例えば、図15(B)に示すような平面視で円環状のポスト部材が設けられる構成などとしてもよい。
【0096】
さらに、上記実施形態において、ポスト部材552が縦方向および横方向に対して、それぞれポスト部材552均等間隔に配置される例を示したが、これに限られない。例えば、ミラー56,57の中心点に対して同心円となる複数の径寸法の異なる仮想円上に沿って、ポスト部材552が配置される構成としてもよい。この場合でも、各仮想円の径寸法や、各仮想円上のポスト部材552の配置間隔(配置角度間隔)は、誘電体膜551の厚み寸法や、各ポスト部材552の断面寸法により適宜決定され、誘電体膜551の撓みがなく、かつ、ポスト部材552が透明部材である場合は、ミラー平面視において、全ポスト部材552の占める面積がミラー全面積に対して20%以下となるように、またポスト部材552が不透明部材である場合は、全ポスト部材552の占める面積がミラー全面積に対して50%以下となるように、ポスト部材552を配置すればよい。
【0097】
また、第一実施形態において、ミラー平面視において、ミラー全面積に対してポスト部材552の占める割合が20%以下に形成される例を示したが、これに限定されない。例えば、ポスト部材552をMgF2(屈折率=1.37)により形成するなど、さらに屈折率がより小さい素材によりポスト部材552を形成することで、低反射構造部分におけるミラー特性を高反射構造部分のミラー特性に近づけることができ、この場合、例えばミラー全面積に対するポスト部材552の占める面積を20%以上にするなどとしても、エタロン5の分解能の低下を抑えることができる。
ただし、上記のような構成とした場合でも、上記実施形態に比べて、エタロン5により分光される光の分解能の低下が考えられるため、上記実施形態と同様に、ポスト部材552が透明部材である場合は、ミラー面積に対するポスト部材552の占める面積の割合は20%以下に設定することが好ましい。
【0098】
さらに、第二実施形態においても、ミラー平面視において、ミラー全面積に対してポスト部材552の占める割合が20%以下に形成される例を示したが、これに限らない。例えば、より大きい面積のミラー56,57を用いることで、エタロン5を透過する光の光量も多くなるため、この場合、ミラー全面積に対するポスト部材552の占める面積を50%以上にするなどしてもよく、エタロン5により分光される光の透過量の減少を抑えることができる。
ただし、ミラー56,57の面積を大きくする場合、一対のミラー56,57の平行関係を維持することが困難となる問題などもあるため、ミラー56,57の寸法を上記実施形態のように、直径3mm程度に形成し、ミラー全面積に対するポスト部材552の占める面積を50%以下に設定することが好ましい。
【0099】
さらには、ポスト部材552は、断面寸法の最小値が100μm以下に形成される例を示したが、上記と同様、ポスト部材552の素材や、ミラー面積により、ポスト部材552の断面寸法を100μm以上に形成する構成などとすることもできる。
【0100】
また、第四実施形態において、内部が真空密閉されたパッケージ58内にエタロン5を固定することで、真空層557を形成する例を示したが、これに限定されない。例えば、可動部521が形成される第二基板52の、第一基板51とは反対側面に第三基板を接合し、第一基板51および第二基板52の間の内部空間、第二基板52および第三基板の内部空間をそれぞれ真空状態にすることで、真空層557を形成する構成としてもよい。この場合、第二基板52と第三基板との間が真空となるため、可動部521が真空空間に挟まれる状態となり、可動部が空気抵抗を受けないため、静電アクチュエーターにより可動部521を変位させる際の変位速度を向上させることができる。
【0101】
そして、上記第一、第二、第三実施形態において、ポスト部材552により誘電体膜551間に低屈折空間である空気層553が形成され、この空気層が本発明の気体層を形成する構成としたが、気体層としては、空気に限られない。例えば、気体層として、低屈折率を有し、可視光範囲内で波長吸収性が小さい気体であればよく、例えばヘリウムガスなどにより気体層が形成される構成としてもよい。
【0102】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0103】
1…測色モジュール、3…測色センサー、5…波長可変干渉フィルターであるエタロン、31…受光手段である受光素子、43…測色処理部、54…可変手段である静電アクチュエーター、56…固定ミラー、57…可動ミラー、551…誘電体膜、552,552A,552B…ポスト部材、553…気体層である空気層、555…犠牲層、555A…孔部、556…誘電体層、557…真空層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対のミラーと、
前記ミラー間の間隔を可変する可変手段と、を備え、
前記ミラーは、複数の誘電体膜と、これらの誘電体膜の間に設けられて、互いに対向する誘電体膜間を平行に保持するとともに、前記誘電体膜間に空間を形成するポスト部材と、を備える
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記ポスト部材は、透明部材であり、
前記ミラーの平面視において、前記ミラーの全面積に対して前記ポスト部材が占める面積の割合は、20%以下である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記ポスト部材は、不透明部材であり、
前記ミラーの平面視において、前記ミラーの全面積に対して前記ポスト部材が占める面積の割合は、50%以下である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記ポスト部材は、前記ポスト部材を前記ミラー面と平行な面で断面した際、その断面寸法の最小値が100μm以下である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記空間は、真空層である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記空間は、気体層である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記ミラーの前記誘電体膜は、酸化チタンにより形成される
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターと、
前記波長可変干渉フィルターを透過した光を受光する受光手段と、
を備えることを特徴とする測色センサー。
【請求項9】
請求項8に記載の測色センサーと、
前記測色センサーの前記受光手段により受光された光に基づいて、測色処理を実施する測色処理部と、
を備えたことを特徴とする測色モジュール。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターの製造方法であって、
基板上に、前記誘電体膜、および前記ポスト部材の形成材料である犠牲層を交互に積層した積層体を形成する積層工程と、
前記積層体の上面から前記基板面までを貫通する複数のホールを開口形成するホール形成工程と、
前記ホールを中心とした所定範囲の前記犠牲層をエッチングし、残留した前記犠牲層により前記ポスト部材を形成するポスト形成工程と、
を備えることを特徴とした波長可変干渉フィルターの製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターの製造方法であって、
基板上に、前記誘電体膜、およびエッチングにより除去可能な犠牲層を交互に積層した積層体を形成する積層工程と、
前記積層体の上面から前記基板面までを貫通する複数のホールを開口形成するホール形成工程と、
前記ホールに前記ポスト部材を埋め込むポスト部材埋込工程と、
前記犠牲層をエッチングして除去する犠牲層除去工程と、
を備えることを特徴とした波長可変干渉フィルターの製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターの製造方法であって、
ポスト部材形成用の孔部が設けられる犠牲層を形成する犠牲層形成工程、および、前記犠牲層を覆うとともに、前記孔部内および前記犠牲層の表面に誘電体層を形成する誘電体層形成工程、を複数回繰り返すことで、基板上に、前記犠牲層および前記誘電体層が複数積層された積層体を形成する積層工程と、
前記犠牲層をエッチング処理により除去する犠牲層除去工程と、
を備えたことを特徴とする波長可変干渉フィルターの製造方法。
【請求項1】
互いに対向する一対のミラーと、
前記ミラー間の間隔を可変する可変手段と、を備え、
前記ミラーは、複数の誘電体膜と、これらの誘電体膜の間に設けられて、互いに対向する誘電体膜間を平行に保持するとともに、前記誘電体膜間に空間を形成するポスト部材と、を備える
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記ポスト部材は、透明部材であり、
前記ミラーの平面視において、前記ミラーの全面積に対して前記ポスト部材が占める面積の割合は、20%以下である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記ポスト部材は、不透明部材であり、
前記ミラーの平面視において、前記ミラーの全面積に対して前記ポスト部材が占める面積の割合は、50%以下である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記ポスト部材は、前記ポスト部材を前記ミラー面と平行な面で断面した際、その断面寸法の最小値が100μm以下である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記空間は、真空層である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記空間は、気体層である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記ミラーの前記誘電体膜は、酸化チタンにより形成される
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターと、
前記波長可変干渉フィルターを透過した光を受光する受光手段と、
を備えることを特徴とする測色センサー。
【請求項9】
請求項8に記載の測色センサーと、
前記測色センサーの前記受光手段により受光された光に基づいて、測色処理を実施する測色処理部と、
を備えたことを特徴とする測色モジュール。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターの製造方法であって、
基板上に、前記誘電体膜、および前記ポスト部材の形成材料である犠牲層を交互に積層した積層体を形成する積層工程と、
前記積層体の上面から前記基板面までを貫通する複数のホールを開口形成するホール形成工程と、
前記ホールを中心とした所定範囲の前記犠牲層をエッチングし、残留した前記犠牲層により前記ポスト部材を形成するポスト形成工程と、
を備えることを特徴とした波長可変干渉フィルターの製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターの製造方法であって、
基板上に、前記誘電体膜、およびエッチングにより除去可能な犠牲層を交互に積層した積層体を形成する積層工程と、
前記積層体の上面から前記基板面までを貫通する複数のホールを開口形成するホール形成工程と、
前記ホールに前記ポスト部材を埋め込むポスト部材埋込工程と、
前記犠牲層をエッチングして除去する犠牲層除去工程と、
を備えることを特徴とした波長可変干渉フィルターの製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターの製造方法であって、
ポスト部材形成用の孔部が設けられる犠牲層を形成する犠牲層形成工程、および、前記犠牲層を覆うとともに、前記孔部内および前記犠牲層の表面に誘電体層を形成する誘電体層形成工程、を複数回繰り返すことで、基板上に、前記犠牲層および前記誘電体層が複数積層された積層体を形成する積層工程と、
前記犠牲層をエッチング処理により除去する犠牲層除去工程と、
を備えたことを特徴とする波長可変干渉フィルターの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−191474(P2011−191474A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57127(P2010−57127)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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