説明

洗浄力評価方法及び液晶表示装置の製造方法

【課題】 基板洗浄装置における有機汚染除去力の変動を的確に把握することが可能な技術を提供することである。
【解決手段】 ドライ洗浄装置の有機物除去力を基板の接触角で評価する洗浄力評価方法であって、予め被膜を形成した基板を用意し、前記被膜を所定の洗浄時間でドライ洗浄する洗浄工程と、前記洗浄時間とは異なる洗浄時間で、前記洗浄工程と異なる前記被膜領域をドライ洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程でそれぞれ洗浄された被膜部分の接触角をそれぞれ計測する工程と、前記各洗浄工程に要した時間と前記接触角の計測値とに基づいて、前記基板に対する洗浄力を評価する工程とを備える洗浄力評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄力評価方法及びそれを用いた液晶表示装置の製造方法に係わり、特に、フッ素系有機物の被膜がついた基板を洗浄する大気圧プラズマ装置および紫外線装置(UV装置)などのドライ洗浄装置の有機物除去力を評価するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や半導体装置の製造プロセスにおいて、クリーンルーム雰囲気に存在する可塑剤などの有機物が、保管中あるいは搬送中の基板表面に付着すると、基板のぬれ性や接着強度の低下を引きおこし、製品の歩留まり低下やデバイス性能を劣化させることが知られている。
【0003】
例えば、液晶表示装置では、液晶分子を一定方向に配列させるために、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)基板およびカラーフィルタ(CF:Color Filter)基板に配向膜が形成される。配向膜はTFTおよびCF基板に均一に形成しなければならないため、配向膜溶液が均一にぬれ広がる必要がある。しかしながら、基板表面に有機汚染が存在すると、配向膜溶液と基板とのぬれ性が低下して配向膜溶液が広がりにくくなり、配向膜が塗布されない部分が発生する。
【0004】
この配向膜溶液が塗布されない場所すなわち配向膜が形成されない場所では、液晶を配向(初期配向)させることが出来ないため、液晶パネルを組んだ時にバックライトからの光が透過し輝点欠陥となる。このように配向膜が塗付されずに輝点欠陥となる部分はピンホール欠陥とよばれ、製品の歩留まりを低下させるため大きな問題になっている。
【0005】
このピンホール欠陥を防止する一つの方法として、配向膜を塗布する前の基板表面のぬれ性を向上させるために、UV洗浄あるいは大気圧プラズマ洗浄などのドライ洗浄、あるいはアルカリ薬液洗浄などのウエット洗浄によって、基板表面の有機汚染が除去されている。特に、近年では、廃液処理が不要で環境負荷が小さく、高スループットに対応可能なドライ洗浄方式が主流になってきている。
【0006】
また、プロセス雰囲気に由来する有機物の吸着を完全に防ぐことは困難であるため、配向膜塗布前に基板表面の有機汚染を除去することは、製品不良の低減及び歩留まり向上のために必須となっている。特に、大気圧プラズマ洗浄装置やUV洗浄装置の有機汚染除去力低下は歩留まり低下につながるため、これら洗浄装置の汚染除去力を的確に把握する技術が切望されている。
【0007】
大気圧プラズマ洗浄装置やUV洗浄装置の汚染除去力評価方法として、非特許文献1には、大気圧プラズマ処理後の液晶ガラス基板を水の接触角測定で評価する方法が記載されている。
非特許文献1に記載の除去力評価方法の手順を図2に示し、以下、図2に基づいて説明する。先ず、雰囲気由来の有機物が表面に付着しているガラス基板を用意し(ステップ21)、このガラス基板を所定時間で大気圧プラズマ洗浄する(ステップ22)。
次に、洗浄後のガラス基板の接触角を測定し(ステップ23)、この接触角が予め設定された範囲内(例えば、5°以下)の値であるかを判定し、当該洗浄装置の汚染除去能力の可否を判定していた(ステップ24)。なお、接触角はぬれ性の指標であり、接触角が小さいほど表面のぬれ性が良いことを表す。ガラス基板の場合、接触角が5°以下であれば清浄と判断され、装置の汚染除去力は問題ないと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大気圧プラズマ処理による接着性の向上(松下電工技法Nov.2002、p.61−66)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1に記載の従来方法により、洗浄後のガラス基板の接触角が5°以下であり、清浄レベルまで有機汚染が除去可能な大気圧プラズマ洗浄装置を使用して、配向膜塗布前基板の有機汚染除去洗浄を行った場合であっても、ピンホール不良率が通常の水準よりも高くなる場合があり、装置の汚染除去力が必ずしも的確に評価出来ておらず、不良を未然に防ぐことが出来ないという課題がある。
【0010】
本発明はこれらの問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、基板洗浄装置における有機汚染除去力の変動を的確に把握することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)前記課題を解決すべく、ドライ洗浄装置の有機物除去力を基板の接触角で評価する洗浄力評価方法であって、予め被膜を形成した基板を用意し、前記被膜を所定の洗浄時間でドライ洗浄する洗浄工程と、前記洗浄時間とは異なる洗浄時間で、前記洗浄工程と異なる前記被膜領域をドライ洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程でそれぞれ洗浄された被膜部分の接触角をそれぞれ計測する工程と、前記各洗浄工程に要した時間と前記接触角の計測値とに基づいて、前記基板に対する洗浄力を評価する工程とを備える洗浄力評価方法である。
【0012】
(2)前記課題を解決すべく、ドライ洗浄装置を用いて洗浄した透明基板上に配向膜を形成する工程を備える液晶表示装置の製造方法であって、前記ドライ洗浄装置の洗浄力が、(1)に記載の洗浄力評価方法に基づいて調整された液晶表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板洗浄装置における有機汚染除去力の変動を的確に把握することができる。
【0014】
本発明のその他の効果については、明細書全体の記載から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1の洗浄力評価方法を説明するためのフローである。
【図2】従来の除去力評価方法の手順を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態1の洗浄力評価方法における基板への被膜の形成方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態1の洗浄力評価方法における大気圧プラズマ洗浄装置の概略構成を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態1の洗浄力評価方法による洗浄時間と接触角との計測結果の一例の図である。
【図6】本発明の実施形態2の洗浄力評価方法で大気圧プラズマ洗浄装置における有機汚染除去力の状態変化の計測結果を示す図である。
【図7】本発明の実施形態3の液晶表示装置の製造工程を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明は省略する。
【0017】
〈実施形態1〉
図1は本発明の実施形態1の洗浄力評価方法を説明するためのフローであり、以下、図1に基づいて、実施形態1の洗浄力評価方法における評価手順を説明する。ただし、以下の説明では、異なる3つの洗浄時間で洗浄した基板に基づいて洗浄力を評価する場合について説明するが、少なくとも2以上の異なる洗浄時間で洗浄した基板に基づいて洗浄力を評価可能である。
【0018】
図1に示すように、実施形態1の洗浄力評価方法では、まず、基板に被膜を形成する前処理として、例えば、波長172nmのエキシマUV(紫外線)を3分間照射して、表面に付着している有機物を除去する(ステップ11)。すなわち、実施形態1においては洗浄力評価用の基準として用いる基板にシリコン基板(以下、Si基板と略記する。)を用いるので、まず、Si基板表面を洗浄することにより、該Si基板表面の条件を一定の条件に揃えるものである。
【0019】
なお、実施形態1では、基板としてSi基板を用い、該Si基板表面の洗浄条件として波長172nmのエキシマUVを3分間照射する構成としたが、これに限定されることはない。
例えば、基板としてガラス基板、ITO基板(Indium Tin Oxide)などの無機材料基板、あるいは、ポリイミド膜あるいはアクリル膜などの有機膜が形成された無機材料基板などを適用することも可能である。また、基板のドライ洗浄方法も他の光源の大気圧プラズマ洗浄やUV洗浄等でもよく、さらには洗浄時間も他の時間でもよい。
【0020】
次に、フッ素系被膜をSi基板表面に形成する(ステップ12)。すなわち、被膜を形成させる基板としてSiウエハ(Si基板)を用い、除去対象である有機物としてフッ素系の表面処理剤をSi基板表面に形成することにより、洗浄力の評価用となる基板を形成する。このとき、実施形態1では、異なる3つの洗浄時間に基づいて後の洗浄力評価を行う構成となっているので、3枚のSi基板を用意し各Si基板にそれぞれフッ素系の表面処理剤を塗布する。
なお、実施形態1における洗浄力評価用基板の作製方法については、後に詳述する。
【0021】
次に、ステップ12で作製したフッ素系有機皮膜のついた3枚のSi基板を、洗浄力評価対象である大気圧プラズマ装置で洗浄する(ステップ13)。このとき、実施形態1では、後に詳述するように、3枚の基板をそれぞれ異なる所要時間で洗浄を行う構成とする。
なお、後述するように、搬送速度に応じて洗浄時間が変化するので、洗浄時間は便宜的に洗浄装置の有する搬送装置による基板の搬送速度を変えることにより、洗浄時間を異なる構成とした。すなわち、基板搬送型の洗浄装置の場合には、搬送時間と洗浄時間とが比例関係にあるので、各基板をそれぞれ搬送速度2m/min、3m/min、及び4m/min等のように、異なる搬送速度で洗浄することにより、洗浄に要する時間を異なる所要時間として洗浄する構成としている。
【0022】
次に、異なる時間でそれぞれ洗浄したSi基板に対する水の接触角をそれぞれ測定する(ステップ14)。このときの接触角の測定方法は、周知の測定方法と同じでよい。
【0023】
次に、洗浄時間に対する接触角の変化量、すなわち洗浄時間に対する接触角の減少速度を演算する。なお、洗浄時間に対する接触角の減少割合は、基板材料や被膜材料、及びドライ洗浄方法等によって変化することとなるが、実施形態1の洗浄力評価方法においては、演算量を低減させるために直線近似により洗浄時間に対する接触角の減少割合を算出する構成としている。なお、洗浄時間に対する接触角の減少割合の近似方法は、直線近似に限定されることはなく、他の近似方法であってもよい。
【0024】
次に、ステップ15で演算された洗浄時間に対する接触角の減少割合に基づいて、当該洗浄装置の洗浄力を判定する(ステップ16)。このときの洗浄力の判定方法としては、例えば、予め計測された洗浄時間に対する接触角の減少割合と、現在計測された洗浄時間に対する接触角の減少割合との比較や、複数台の洗浄装置を使用している場合には、それぞれに計測された洗浄時間に対する接触角の減少割合をそれぞれ比較する方法等がある。
【0025】
次に、図3に本発明の実施形態1の洗浄力評価方法における基板への被膜の形成方法を説明するための図を示し、図1のステップ12におけるフッ素系被膜の形成方法を詳細に説明する。
【0026】
図3に示すように、実施形態1の洗浄力評価方法では、Si基板としてSiウエハ1を用いる構成とする。また、実施形態1では、フッ素系被膜材料として、フッ素系表面処理液(フロロサーフ1060:フロロテクノロジー製)を、フッ素系溶媒(HFE−7200:住友3M製)で希釈したフッ素系表面処理剤希釈液2を用いることが可能である。ただし、希釈溶媒は表面処理剤と混和するものであれば特に制限はない。
また、フッ素系表面処理剤希釈液2に含有されるフッ素系ポリマー濃度は、形成した被膜の水の接触角が90°より小さくなるようになっていることが好ましく、1〜50ppmが好適である。
【0027】
前処理したSiウエハ1をフッ素系表面処理剤希釈液2に1分間浸漬し引上げ、フッ素系有機被膜を形成したSiウエハ1が作製される。なお、実施形態1における汚染の付着方法すなわちフッ素系有機被膜の形成では、基板であるSiウエハ1の表面に均一に付着すればよく、前述する浸漬法以外のスピンコート法、又はスリットコート法などの他の手法も適用可能である。
【0028】
また、前述の手順を3枚のSiウエハ1に対して繰り返すことにより、洗浄力評価基板が3枚作製できる。
【0029】
次に、図4に本発明の実施形態1の洗浄力評価方法における大気圧プラズマ洗浄装置の概略構成を説明するための図を示し、図1のステップ13においてSiウエハ1を洗浄する大気圧プラズマ洗浄装置について説明する。
【0030】
図4に示すように、実施形態1の大気圧プラズマ洗浄装置では、基板搬送型の大気圧プラズマ洗浄装置となっており、搬送装置7の上部に大気圧プラズマヘッド3と、該大気圧プラズマヘッド3と対向する電極4とが配置され、その間に窒素(N2)と空気(Air)の混合ガスが流され、プラズマ5が発生する構成となっている。このプラズマ5の発生に伴う放電に生成されるイオン、電子、及びラジカル粒子が搬送装置7に搭載される搬送用基板(例えば、ガラス基板)6上にSiウエハ1を固定し、この搬送用基板6と共に搬送装置7でプラズマ5の発生位置にSiウエハ1を移動させ、Siウエハ1の表面を洗浄する構成となっている。このときの窒素ガス流量及び空気の流量はそれぞれ6001/min、750ml/minとなる。
このように、大気圧プラズマ洗浄装置では、搬送装置7による搬送用基板6の搬送速度の調整により、Siウエハ1の洗浄時間を調整する構成となっている。
【0031】
次に、図5に本発明の実施形態1の洗浄力評価方法による洗浄時間と接触角との計測結果の一例の図を示し、以下、図5に基づいて、実施形態1の洗浄力評価方法の効果を説明する。
【0032】
図5に示す計測結果は、ピンホール不良率の異なる2台の大気圧プラズマ洗浄装置A、Bについて行い、2つの装置の洗浄力を評価した結果を示すものである。ここで、ピンホール不良率の相対比は、大気圧プラズマ洗浄装置Aを1とした場合、大気圧プラズマ洗浄装置Bは約2倍である。
また、各大気圧プラズマ洗浄装置A、Bに対する計測結果は、前述するように、それぞれ3枚のSiウエハを用いて、異なる3つの洗浄時間に対する接触角を直線近似で評価する方法としている。
【0033】
図5に示すように、3つの洗浄時間から接触角の減少率、すなわち直線の傾きを比較すると、大気圧プラズマ洗浄装置Aの計測結果を示す直線51の方が大気圧プラズマ洗浄装置Bの計測結果を示す直線52よりも大きく、大気圧プラズマ洗浄装置Aの洗浄力は大気圧プラズマ洗浄装置Bより優っていることが明らかになった。このように、実施形態1の洗浄力評価方法では、洗浄時間に対する接触角の傾きから当該洗浄装置の洗浄力を評価する。
なお、比較のために搬送速度4m/minについて、従来法で評価した結果、大気圧プラズマ洗浄装置A、B共に洗浄処理後のガラス基板の接触角はいずれも5°であり、大気圧プラズマ洗浄装置A、Bの洗浄力の差を確認することはできなかった。
【0034】
このとき、雰囲気由来の吸着有機物の多くは可塑剤起因の炭化水素系有機物であり、可塑剤起因の炭化水素系有機物は大気圧プラズマ洗浄およびUV洗浄などのドライ洗浄で比較的除去されやすい。しかしながら、液晶表示装置等の製造時におけるピンホール要因となる有機物には、前述する可塑剤以外にフッ素系有機物があることを発明者らは突き止めた。特に、フッ素系有機物は大気圧プラズマ洗浄およびUV洗浄などのドライ洗浄では比較的除去されにくい傾向があることもわかった。
【0035】
接触角の測定のみの従来の評価方法では、大気圧プラズマ洗浄やUV洗浄で除去されやすい可塑剤由来の有機物を用いて汚染除去力を評価していたため、可塑剤よりも除去が困難でピンホール不良の要因となるフッ素系有機物に対する装置の汚染除去力が低下しても検出することが不可能であった。
【0036】
これに対して、本発明の実施形態1の洗浄力評価方法では、予めフッ素系被膜を形成した3枚の基板を用意し、この基板を少なくとも異なる2以上の洗浄時間でドライ洗浄すると共に、前記洗浄工程でそれぞれ洗浄された被膜部分の接触角をそれぞれ計測し、洗浄時間と接触角の計測値とに基づいて、洗浄時間に対する接触角の減少割合を基板に対する洗浄力として評価する評価方法となっているので、雰囲気由来の可塑剤起因の炭化水素系有機物と共に基板表面に付着するフッ素系有機物に対する基板洗浄装置における有機汚染除去力の変動を的確に把握することができる。
【0037】
〈実施形態2〉
図6は本発明の実施形態2の洗浄力評価方法で大気圧プラズマ洗浄装置における有機汚染除去力の状態変化の計測結果を示す図である。特に、図6は本発明の実施形態1の洗浄力評価方法で大気圧プラズマ洗浄装置Aにおける有機汚染除去力(洗浄力)の状態変化を計測したときの経時変化を示す図であり、以下、図6に基づいて、洗浄力評価方法で大気圧プラズマ洗浄装置Aにおける有機汚染除去力の状態変化について説明する。なお、洗浄力評価基板の作製方法および評価手順は、実施形態1に示すものと同様である。
【0038】
図6において、縦軸は実施形態1に示す手順により評価した洗浄力、すなわち実施形態1に示す図5における洗浄時間に対する接触角の減少率(傾き)の絶対値を表す。また、横軸は装置Aの洗浄力の評価期間を表す。また、実施形態1に示す大気圧プラズマ洗浄装置Bの洗浄力に基づいて設定した洗浄力4.5以上のハッチングで示す領域を洗浄力適正範囲60とする。なお、洗浄力適正範囲は洗浄力4.5以上に限定されることはなく、種種変更可能である。
【0039】
図6から明らかなように、評価期間1〜9日の洗浄力のグラフ61は、洗浄力適正範囲60に収まっているが、10日目では適正範囲外となった。そのため、暫定的に洗浄時間の調整を行うことによって、本願発明に基づく洗浄力の低下分を補完し、液晶表示装置の製造時におけるピンホール不良の発生を防止できることを確認した。
【0040】
〈実施形態3〉
本発明の実施形態3においては、本発明の実施形態1、2の洗浄力評価方法を用いた液晶表示装置の製造工程を説明する。図7は本発明の実施形態3の液晶表示装置の製造工程を説明するための工程図であり、以下、図7に示す工程図に基づいて実施形態3の液晶表示装置の製造方法を説明する。
ただし、図7に示す実施形態3の工程図では、第1基板及び第2基板の洗浄に、実施形態1、2を適用し、洗浄力の低下を防止した洗浄装置を用いる以外の製造工程及び液晶表示装置の構造は、従来と同様である。従って、以下の説明では、第1基板及び第2基板の製造工程における配向膜塗布前の洗浄工程について、詳細に説明する。
【0041】
図7において、工程701から工程705は液晶表示装置を構成する一対の透明ガラス基板の内の一方の基板であり、少なくとも各画素内に面状又は複数の線状に形成された共通電極と、この共通電極の上層に絶縁層を介して形成され、共通電極に重畳して形成される線状の複数の画素電極とを有する第1基板(薄膜トランジスタ回路基板)の製造工程を示すものである。
【0042】
また、工程706から工程710は他方の基板であり、画素に対応する遮光膜(ブラックマトリクス)及び色フィルタ層(カラーフィルタ層)と該色フィルタ層の上層に形成される保護膜とを有する第2基板(カラーフィルタ基板)の製造工程を示すものである。
【0043】
さらには、工程711から工程715は第1基板と第2基板とで液晶層を挟持し、共通電極と画素電極との間に生じる電界で液晶層の液晶分子を駆動する液晶表示装置(液晶セル)を製造する工程を示すものである。
【0044】
図7に示す製造方法により製造される液晶表示装置では、画素電極と共通電極との間に第1基板の面に平行な成分を有する電界が生じ、この電界によって液晶層の液晶分子を駆動させるようになっている。このような液晶表示装置は、いわゆる広視野角表示ができるものとして知られ、前述の液晶層への電界の印加の特異性からIPS方式又は横電界方式と称される。
また、図7に示す液晶表示装置(液晶セル)の製造では、マザー基板と称される母体となる大型の透明基板上に多数個の液晶セルを一括で形成した後に、液晶セル毎に切り出しを行ういわゆる多面取りで液晶セルを製造することにより、生産効率を向上させている。
【0045】
従って、以下の説明においても、多面取りで実施形態1の液晶表示装置を製造する場合について説明する。ただし、本願発明は多面取りに限定されることはなく、1枚の透明基板から1つの液晶表示装置を製造する場合にも適用可能である。
【0046】
工程701は、第1基板の対向面側(液晶層側)に周知の薄膜トランジスタ回路を含む電極及び信号線等を形成する工程である。
この工程では、まず、第1基板である母体基板に複数の走査信号線(ゲート線)と共に、該ゲート線に接続される薄膜トランジスタのゲート電極を形成する。このゲート電極の上層に絶縁層を形成した後に、該絶縁層の一部領域を薄膜トランジスタのゲート絶縁膜として使用する薄膜トランジスタの半導体層を形成し、ソース電極とドレイン電極を形成する。このとき、絶縁層の上層部分の液晶セル表示領域内に、ゲート線と交差し、該ゲート線の延在方向に並設される映像信号線(ドレイン線)を形成する。
【0047】
次に、有機材料からなり平坦化膜として機能する絶縁層を形成し、この絶縁層の上層に共通電極を形成する。次に、この上面に窒化シリコン膜からなる絶縁層を形成し、絶縁層にソース電極まで貫通する開口111を形成した後に、画素電極を形成することにより、ドレイン線とゲート線とで囲まれる領域に画素が形成され、各画素に薄膜トランジスタが接続される構成となる。
【0048】
次に、工程702において、実施形態1に示す洗浄力評価方法で洗浄力の監視及び調整がなされた大気圧プラズマ洗浄装置を用いて、第1基板の表面すなわち対向面側を洗浄する。この洗浄により、薄膜トランジスタ等の形成に伴う雰囲気由来の可塑剤起因の炭化水素系有機物と共に、基板表面に付着するフッ素系有機物に対する基板洗浄装置における有機汚染除去力の変動を把握した基板洗浄を行うことが可能となる。
【0049】
次の工程703では、横電界駆動方式の液晶に対応する液晶配向膜(配向膜)を形成する。この工程703では、例えば、有機材料からなる配向膜の溶液をフレキソ印刷法等の周知の配向膜塗布方法を用い、基板表面に液塗膜を形成する。
【0050】
次の工程704では、例えば、最高温度が200〜280℃範囲内で加熱焼成処理を行って、配向膜を形成する。
【0051】
次の工程705では、工程704で形成した配向膜に液晶配向のための配向処理すなわち初期配向処理を施す。特に、横電界駆動に対応する液晶セルでは、配向膜に対して配向処理が必要であり、例えば、一般的な有機ポリマ配向膜を用いる場合は、ラビング布によるラビング処理を施す。次に、配向膜表面を純水で洗浄し、100℃で加熱乾燥する。
以上に示す工程701〜705により、配向膜までが形成された第1基板が形成される。
【0052】
一方、工程706は、第2基板の対向面側(液晶層側)に、カラー表示用の画素を形成するための赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のカラーフィルタ、及びブラックマトリクス、並びに保護膜を形成する周知の工程である。例えば、第2基板上に、カーボンブラック粒子を含有したアルカリ現像型の感光性ポリマ溶液を塗布し、加熱処理した後に、周知のホトリソグラフィー技術によって、周知のブラックマトリックスパターンを形成する。
【0053】
次に、赤色、緑色、青色のカラーフィルタ顔料を含有するアルカリ現像型の感光性カラーフィルタ材料をそれぞれについて、第2基板上に形成することにより、ブラックマトリックと赤色、緑色、青色カラーフィルタパターンからなるカラーフィルタ層を形成する。
【0054】
次に、工程707において、実施形態1に示す洗浄力評価方法で洗浄力の監視及び調整がなされた大気圧プラズマ洗浄装置を用いて、第1基板と同様に、第2基板の表面すなわち対向面側を洗浄する。この洗浄により、カラーフィルタ層の形成に伴う雰囲気由来の炭化水素系有機物と共に、基板表面に付着するフッ素系有機物に対する基板洗浄装置における有機汚染除去力の変動を把握した基板洗浄を行うことが可能となる。
【0055】
次の工程708では、第1基板と同様に、横電界駆動方式の液晶に対応する液晶配向膜(配向膜)を形成する。この工程708では、例えば、有機材料からなる配向膜の溶液をフレキソ印刷法等の周知の配向膜塗布方法を用い、基板表面に液塗膜を形成する。
【0056】
次の工程709では、例えば、最高温度が200〜280℃範囲内で加熱焼成処理を行って、配向膜を形成する。
【0057】
次の工程710では、工程709で形成した配向膜に液晶配向のための配向処理すなわち初期配向処理を施す。この配向処理においても、第1基板の形成時と同様に、一般的な有機ポリマ配向膜を用いる場合は、ラビング布によるラビング処理を施す。次に、配向膜表面を純水で洗浄し、100℃で加熱乾燥する。
以上に示す工程706〜710により、配向膜までが形成された第2基板が形成される。
【0058】
工程711では、第2基板上のシール領域に光熱硬化型シール材料を塗布し、次の工程712で、工程711で塗布した光熱硬化型シール材料で囲まれた領域に、横電界駆動に対応する液晶を所望の適量を滴下する。
【0059】
工程713では、液晶を挟持するために、第1基板と第2基板とを真空中で貼り合わせ、工程714で光照射と加熱処理とを組み合わせてシール材料を硬化する。これにより、液晶層を挟持した液晶セルすなわち液晶層を挟持した表示領域を有する液晶表示装置が1枚の母体基板上に複数個形成される。
この後に、工程715で、液晶セル毎に母体基板を切断することによって、複数個の液晶表示装置がそれぞれ分離され、液晶表示装置が形成される。
【0060】
以上説明したように、実施形態3の液晶表示装置の製造方法では、第1基板に配向膜材料を塗布する前の工程702と、第2基板に配向膜材料を塗布する前の工程707とにおいて、実施形態1の洗浄力評価方法を用いて、基板洗浄装置における有機汚染除去力の変動を把握した基板洗浄を行うことが可能となり、次の工程703、708における配向膜材料の塗布不良を防止することができるので、液晶表示装置の製造時におけるピンホール不良の発生に伴う液晶表示装置の製造不良の発生を防止することができる。
【0061】
なお、本実施形態1、2の洗浄力評価方法においては、有機物の被膜としてフッ素系撥液剤の例を示したが、従来法と比較して接触角の低下速度が遅い、アクリル膜やポリイミド膜などの有機被膜を用いることも可能である。また、実施形態1では、ドライ洗浄として大気圧プラズマ洗浄の例を述べたが、UV洗浄についても同様の方法により、洗浄力の有意差を評価することが可能である。
【0062】
以上、本発明者によってなされた発明を、前記発明の実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記発明の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0063】
1………………Siウエハ
2………………フッ素系表面処理剤希釈液
3………………大気圧プラズマヘッド
4………………電極
5………………プラズマ
6………………搬送用基板
7………………搬送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライ洗浄装置の有機物除去力を基板の接触角で評価する洗浄力評価方法であって、
予め被膜を形成した基板を用意し、前記被膜を所定の洗浄時間でドライ洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄時間とは異なる洗浄時間で、前記洗浄工程と異なる前記被膜領域をドライ洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程でそれぞれ洗浄された被膜部分の接触角をそれぞれ計測する工程と、
前記各洗浄工程に要した時間と前記接触角の計測値とに基づいて、前記基板に対する洗浄力を評価する工程とを備えることを特徴とする洗浄力評価方法。
【請求項2】
前記洗浄工程で用いられる基板は、それぞれ異なる基板であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄力評価方法。
【請求項3】
前記基板の洗浄時間に対する前記接触角の変化量を、洗浄力の指標とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄力評価方法。
【請求項4】
前記洗浄時間と前記接触角の関係が洗浄時間に対して単調減少することを特徴とする請求項3に記載の洗浄力評価方法。
【請求項5】
前記ドライ洗浄が、大気圧プラズマ洗浄又はUV洗浄であることを特徴とする請求項1乃至4の内の何れかに記載の洗浄力評価方法。
【請求項6】
前記被膜が、有機化合物であることを特徴とする請求項1乃至5の内の何れかに記載の洗浄力評価方法。
【請求項7】
前記有機化合物の被膜は、フッ素系有機化合物であることを特徴とする請求項6に記載の洗浄力評価方法。
【請求項8】
前記被膜は、フッ素系の表面処理剤をシリコンウエハに付着させ形成したものであることを特徴とする請求項7に記載の洗浄力評価方法。
【請求項9】
ドライ洗浄装置を用いて洗浄した透明基板上に配向膜を形成する工程を備える液晶表示装置の製造方法であって、
前記ドライ洗浄装置の洗浄力が、請求項1乃至8に記載の洗浄力評価方法に基づいて調整されたものであることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−39327(P2011−39327A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187283(P2009−187283)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】