説明

液体吐出装置、液体吐出方法及び回路基板の配線パターン形成方法

帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズル(51)を有する液体吐出ヘッド(56)と、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極(58)と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段(35)と、液滴の吐出を受ける絶縁性素材からなる基材Kと、液体吐出ヘッドの吐出を行う雰囲気を、露点温度9度(摂氏9度[℃])以上であって水の飽和温度未満に維持する吐出雰囲気調節手段(70)と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に液体を吐出する液体吐出装置、液体吐出方法及び回路基板の配線パターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の静電吸引方式のインクジェットプリンタとして、特許文献1に記載のものが挙げられる。かかるインクジェットプリンタは、その先端部からインクの吐出を行う複数の凸状インクガイドと、各インクガイドの先端に対向して配設されると共に接地された対向電極と、各インクガイドごとにインクに吐出電圧を印加する吐出電極とを備えている。そして、凸状インクガイドは、インクを案内するスリット幅が異なる二種類のものを用意し、これらのものを使い分けることで、二種類の大きさの液滴を吐出可能とすることを特徴とする。
そして、この従来のインクジェットプリンタは、吐出電極にパルス電圧を印加することでインク液滴を吐出し、吐出電極と対向電極間で形成された電界によりインク液滴を対向電極側に導いている。
【0003】
ところで、インクを帯電させて電界の静電吸引力を利用して吐出させる上述のようなインクジェットプリンタにあっては、絶縁体である合成シリカを受像層とする基材にインク吐出を行う場合、先に吐出されて基材に付着したインク液滴が運んできた電荷が逃げないため、次のインク液滴が、付着した先の液滴との間で斥力を生じ、その周辺へ散らされるため、液滴が所定の位置に到達せず、解像度を低下させたり、飛来で周囲が汚れると云うスパッタリング現象が起こることが問題となっていた。
【0004】
そこで、インク受理層または支持体に第4級アンモニウム塩型導電剤を含有し、20℃(摂氏20度)、30%RH時のインク受理層の表面抵抗を9×1011[Ω]以下とする基材を使用することにより、インク液滴が運んできた電荷を基材の表面抵抗を下げることで逐一逃がし、次々に到達するインク液滴が電界により散らされることを抑制するという先行技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、樹脂シート又は樹脂被覆シートからなる支持体の上面、下面、側面に、上面導電部、下面導電部、側面導電部を設け、上面導電層上の画像受理層を設け、各導電層の表面固有抵抗を1×1010[Ω/cm]以下で、導電層の厚みは0.1〜20μmとすることにより、インク液滴が運んできた電荷を支持体の導電層から逐一逃がし、次々に到達するインク液滴が電界により散らされることを抑制するという先行技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、従来の静電吸引方式のインクジェットプリンタとして、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7に記載のものが挙げられる。これらのインクジェットプリンタには、インクの吐出を行うヘッドに吐出電極が設けられており、ヘッドから所定間隔を離れた位置には、接地された対向電極が対向配置されており、この対向電極とヘッドとの間に用紙等の記録媒体が搬送される。そして、吐出電極に電圧を印加することによってインクに帯電させて、ヘッドから対向電極に向かってインクが吐出する。
【特許文献1】特開平11−277747号公報(第2図及び第3図)
【特許文献2】特開昭58−177390号公報
【特許文献3】特開2000−242024号公報
【特許文献4】特開平8−238774号公報
【特許文献5】特開2000−127410号公報
【特許文献6】特開平11−198383号公報
【特許文献7】特開平10−278274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した先行技術にあっては、いずれも、吐出する液滴の微小化を図った場合に、基材の表面状態により電界が影響を受けて、例えば、液滴の大きさが安定しないというように、正常な吐出を安定的に行うことができないという問題があった。
【0008】
即ち、上記特許文献1に記載のインクジェットプリンタは、前述したように、絶縁体である基材にインク吐出を行う場合に、先に付着したインク液滴の電荷の斥力により、着弾位置精度の低下や液滴の大きさの不安定化を生じることが問題となっていた。
【0009】
また、上記特許文献2記載の基材又は特許文献3に記載の支持体は、液滴が付着する表面の抵抗値の低減が図られているが、特に電界の影響を受けやすい従来よりも微小な液滴については、その効果は不十分であり、先に到達した液滴の影響を受けて次の液滴はその周辺へ散らされるため、その着弾位置精度の低下を生じるという問題があった。
また、吐出時における周囲の環境の変化によって基材インク受理層又は支持体の導電層の含水率が変化し、その結果支持体の電導度が変化してしまうために、周囲環境の状態変化よっても一定の着弾位置精度を維持できないという問題もあった。
この着弾位置精度の悪さは、印字画質を低下させるのみならず、例えばインクジェット技術により導電性インクを用いて回路の配線パターンを描画する際などには特に大きな問題となる。すなわち、位置精度の悪さは所望の太さの配線が描画出来ないばかりか、断線やショートを生ずることさえあり得る。
また、或いは、先に到達した液滴の影響を受けて次の液滴の吐出量が変動し、不安定になるため、形成されるドット径の大きさも不安定となるという問題もあった。
【0010】
さらに、特許文献4〜7のインクジェットプリンタでも、ヘッドに相対するように対向電極を配置しているため、記録媒体の厚さ・材質によって電界が影響されて、吐出されるインク量が一様にならないことがあり、インクによるドット径が位置によって異なることがある。それを解消するために、記録媒体を導電性とすることによって記録媒体を対向電極として用いることが考えられるが、絶縁性の記録媒体には適用することができないという問題点があった。
【0011】
そこで、記載される各発明については、特に、吐出される液滴が微小である場合であっても、安定して一定量の液滴を吐出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
液体吐出装置が、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、液滴の吐出を受ける絶縁性素材からなる基材と、液体吐出ヘッドの吐出を行う雰囲気を、露点温度9度(摂氏9度[℃])以上であって水の飽和温度未満に維持する吐出雰囲気調節手段と、を備えることで、課題の解決を図っている。
【0013】
また或いは、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、露点温度9度(摂氏9度[℃])以上であって水の飽和温度未満に維持された雰囲気中で、絶縁性材料からなる基材に対して液滴の吐出を行う、という方法により、課題の解決を図っている。
【0014】
基材表面の電界は、ノズル先端に集中して液滴を飛翔させる電界強度に対し影響を与える。基材−ノズル間の電界強度が、変動することは、ノズル先端部の溶液の液面における表面張力に打ち勝つ静電力の変化となり、吐出量や、臨界電圧の変動となる。そして、基材を絶縁体とする場合、絶対湿度により臨界電圧が変化する。なお、絶対湿度とは、水蒸気以外の気体(乾き空気)1[kg]に対して含まれる水蒸気の質量を比で表したもので混合比ともいう。
従って、この絶対湿度を0.007[kg/kg]以上(好ましくは0.01[kg/kg]以上)即ち、大気圧下で露点温度を9℃(摂氏9度)以上(好ましくは14℃(摂氏14度)以上)とすることで、基材表面から大気中への電荷の漏洩がすすみ、基材表面の電界の影響が抑制される。
【0015】
なお、「露点温度」とは、気体中の水分が飽和状態に達して結露する温度のことをいう。
また、「基材」とは吐出された溶液の液滴の着弾を受ける対象物をいう。従って、例えば、上記液体の吐出に関する技術をインクジェットプリンタに適用した場合には、用紙やシート等の記録媒体が基材に相当し、導電性ペーストを用いて回路の形成を行う場合には回路が形成されるべきベースとなる基板が基材に相当することとなる。
【0016】
また、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、絶縁性素材からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲の表面抵抗が10[Ω/cm]以下である基材と、を有する液体吐出装置により課題の解決を図ることもできる。
【0017】
或いは、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、絶縁性材料からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲について、表面抵抗10[Ω/cm]以下とした基材に対して液滴の吐出を行う、という液体吐出方法により課題の解決を図ることもできる。
【0018】
即ち、基材の表面抵抗を10[Ω/cm]以下とすることで、基材表面からの電荷の大気中への漏洩がすすみ、基材表面の電界の影響が抑制される。
【0019】
また、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、絶縁性素材からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲に表面抵抗を10[Ω/cm]以下とする表面処理層を設けた基材と、を有する液体吐出装置により課題の解決を図ることもできる。
【0020】
或いは、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、絶縁性材料からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲について、表面抵抗を10[Ω/cm]以下とする表面処理層を設けた基材に対して液滴の吐出を行う、という液体吐出方法により課題の解決を図ることもできる。
【0021】
即ち、基材に表面抵抗を10[Ω/cm]以下とする表面処理層を設けることで、基材表面からの電荷の漏洩がすすみ、基材表面の電界の影響が抑制される。
【0022】
また、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、絶縁性素材からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲に、界面活性剤の塗布により形成された表面処理層を設けた基材と、を有する液体吐出装置により課題の解決を図ることもできる。
【0023】
或いは、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、絶縁性材料からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲について、界面活性剤の塗布を行うことにより表面処理層を設けた基材に対して液滴の吐出を行う、という液体吐出方法により課題の解決を図ることもできる。
【0024】
即ち、基材に界面活性剤の塗布により表面処理層を形成することで、表面抵抗が低減され、基材表面からの電荷の漏洩がすすみ、基材表面の電界の影響が抑制される。
【0025】
また、絶縁性素材からなる基材の表面の少なくとも帯電した溶液の液滴の吐出を受ける範囲について界面活性剤の塗布により表面処理層を形成し、ノズル内の溶液に吐出電圧を印加すると共にノズルの先端部から基材の表面処理層に液滴を吐出し、吐出された液滴が乾燥、固化した後に当該液滴が付着した部分を除いて表面処理層を除去する、という液体吐出方法により課題の解決を図ることもできる。
即ち、基材の表面抵抗が低減され、基材表面からの電荷の漏洩がすすみ、基材表面の電界の影響が抑制されると共に、液滴が着弾した部分を除いて基材から界面活性剤が除去され、当該界面活性剤の表面抵抗低下による漏電等は発生しなくなる。
【0026】
また、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、液滴の吐出を受ける絶縁性基材の表面電位の最大値をVmax[V]、最小値をVmin[V]とした場合、信号波形の少なくとも一部における電圧値が次式(A)のV[V]を満たす信号波形の電圧を前記吐出電極に印加する電圧印加手段と、を有する液体吐出装置により課題の解決を図ることもできる。
【0027】
或いは、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、絶縁性基材の表面電位の最大値をVmax[V]、最小値をVmin[V]とした場合に、信号波形の少なくとも一部における電圧値が次式(A)のV[V]を満たす電圧を吐出電極に印加する、という液体吐出方法により課題の解決を図ることもできる。
この液体吐出方法では、吐出電極に電圧を印加する前に、絶縁性基材の表面電位分布を計測して前記最大値Vmax[V]と前記最小値Vmin[V]とを求めておくことが望ましい。
【0028】
【数1】

但し、V|max−min|[V]を次式(B)で定め、Vmid[V]を次式(C)で定める。
【数2】

【数3】

【0029】
上述のように、吐出電極に出力される信号波形の少なくとも一部における電圧値がVを満たせば、絶縁性基材の表面における任意の位置での表面電位の影響が小さくなり、吐出にかかる電界をおおよそ一様にすることができる。
【0030】
また、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、液滴の吐出を受ける絶縁性基材の表面電位の検出手段と、検出手段により検出された絶縁性基材の表面電位の最大値がVmax[V]、最小値がVmin[V]である場合、信号波形の少なくとも一部における電圧値が前述の式(A)のV[V]を満たす信号波形の電圧を印加する電圧印加手段と、を有する液体吐出装置により課題の解決を図ることもできる。
【0031】
上記液体吐出装置では、検出手段により、絶縁性基材の表面電位が検出され、当該検出から表面電位の最大値がVmax[V]と最小値がVmin[V]とが求められる。これにより、電圧印加手段により、信号波形の少なくとも一部における電圧値が前述の式(A)のV[V]を満たす信号波形の電圧を印加する。
これにより、絶縁性基材の表面における任意の位置での表面電位の影響が小さくなり、吐出にかかる電界をおおよそ一様にすることができる。
【0032】
また、吐出電極に対し、前記式(A)のVを満たす一定の電位を維持する信号波形の電圧を印加しても良い。
吐出電極に印加する電圧が、一定の電位を維持する信号波形であっても、絶縁性基材の表面における任意の位置での表面電位の影響が小さくなり、吐出にかかる電界をおおよそ一様にすることができる。
なお、一定とする電位の絶対値が、V|max−min|の5倍以上であるのが好ましく、更に10倍以上であるのがより好ましい。
【0033】
また、吐出電極に対し、前記式(A)のVを満たすパルス電圧の信号波形の電圧を印加しても良い。
この場合、吐出電極に印加されるパルス電圧の最大値がVmidよりも大きく、パルス電圧の最小値がVmidよりも小さいことがより望ましい。
また、上記の場合、パルス電圧の最大値とVmidの差と、Vmidとパルス電圧の最小値の差とのうち、一方の差が他方の差よりも大きいという条件を満たすことがより好ましい。
【0034】
吐出電極に印加する電圧が、パルス電圧の信号波形であっても、絶縁性基材の表面における任意の位置での表面電位の影響が小さくなり、吐出にかかる電界をおおよそ一様にすることができる。
なお、パルス電圧の最大値の絶対値、最小値の絶対値のうちの何れかが、V|max−min|の5倍以上であるのが好ましく、更に10倍以上であるのがより好ましい。
【0035】
また、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、液滴の吐出を受ける絶縁性基材に対向して配置され、当該絶縁性基材を除電する除電器と、を有する液体吐出装置により課題の解決を図ることもできる。
【0036】
或いは、帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに設けられ、液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、吐出電極に吐出電圧を印加して液滴の吐出を行う前に、絶縁性基材を除電する、という液体吐出方法により課題の解決を図ることもできる。
【0037】
絶縁性基材の表面を除電することによって、絶縁性基材の表面電位を小さくし、かつ、絶縁性基材の表面電位の変動を一様にすることができる。
【0038】
また、除電器として、液滴の吐出を受ける絶縁性基材に対向して配置される除電用電極を使用すると共に、除電用電極に交流電圧の印加を行っても良い。また、この除電用電極は、吐出電極と同じ電極を共用しても良い。
絶縁性基材に対向した除電用電極に交流電圧を印加することによって、絶縁性基材の表面を除電することができ、絶縁性基材の表面電位を小さくし、かつ、絶縁性基材の表面電位の変動を一様にすることができる。
【0039】
また、除電器としてコロナ放電方式の除電器を使用しても良い。或いは、絶縁性基材に光を照射する方式の除電器を使用しても良い。
なお、除電器で照射する光の波長はその光の照射により除電できるものであれば特に限定されないが、軟X線、紫外線、α線が良い。
【0040】
なお、液体吐出ヘッドのノズルの内部直径を20[μm]以下とすることが望ましい。これにより、電界強度分布が狭くなり、電界を集中させることができる。その結果、形成される液滴を微小で且つ形状の安定化したものとすることができる。また、液滴は、ノズルから吐出された直後、電界と電荷の間に働く静電力により加速されるが、ノズルから離れると電界は急激に低下するので、その後は、空気抵抗により減速する。しかしながら、微小液滴でかつ電界が集中した液滴は、基材に近づくにつれ、基材側で誘起された逆極性の電荷により引きつけられる。これにより、微小液滴ながら、基材側へ着弾させることを可能としている。
一方、液滴の微小化が図られれば電界集中の効果は得られるが、その一方で、基材側の表面の電界分布が不均一である場合には、液滴が微小であればあるほど、基材の表面状態により変動する電界の影響を受けやすい。
しかしながら、上述した種々の発明により電界不均一の影響が抑制されるので、微小な液滴であればより効果的且つ顕著に吐出の安定性を向上させることができる。
【0041】
また、ノズルの内部直径が8[μm]以下であることが好ましい。ノズル径を8[μm]以下とすることにより、さらに電界を集中させることが可能となり、さらなる液滴の微小化と、飛翔時に対向電極の距離の変動が電界強度分布に影響することを低減させることができるので、対向電極の位置精度や基材の特性や厚さの液滴形状への影響や着弾精度への影響を低減することができる。
さらに、電界集中の度合いが高まることにより、多ノズル化時のノズルの高密度化で課題となる電界クロストークの影響が軽減し、一層の高密度化が可能となる。
さらに、ノズルの内部直径が4[μm]以下とすることにより、顕著な電界の集中を図ることができ、最大電界強度を高くすることができ、形状の安定な液滴の超微小化と、液滴の初期吐出速度を大きくすることができる。これにより、飛翔安定性が向上することにより、着弾精度をさらに向上させ、吐出応答性を向上することができる。
さらに、電界集中の度合いが高まることにより、多ノズル化時のノズルの高密度化で課題となる電界クロストークの影響が受けにくくなり、より一層の高密度化が可能となる。
また、上記構成において、ノズルの内部直径は0.2[μm]より大きい方が望ましい。ノズルの内径を0.2[μm]より大きくすることで、液滴の帯電効率を向上させることができるので、液滴の吐出安定性を向上させることができる。
【0042】
なお、以下の説明において、ノズルの内部直径と記載せずにノズル径という場合にも、液滴を吐出する先端部におけるノズルの内部直径を示すものとする。なお、ノズル内の液体吐出穴の断面形状は円形に限定するものではない。例えば、液体吐出穴の断面形状が多角形、星形その他の形状である場合には、内部直径とはその断面形状の外接円の直径を示すものとする。以下、ノズル径或いはノズルの先端部の内部直径という場合において、他の数値限定を行っている場合にも同様とする。また、ノズル半径という場合には、このノズル径(ノズルの先端部の内部直径)の1/2の長さを示すものとする。
【0043】
さらに、上記液体吐出装置において、
(1)ノズルを電気絶縁材で形成し、ノズル内に吐出電圧印加用の電極を挿入あるいは当該電極として機能するメッキ形成を行うことが好ましい。
(2)前述した各発明の構成又は上記(1)の構成において、ノズルを電気絶縁材で形成し、ノズル内に電極を挿入或いは電極としてのメッキを形成すると共にノズルの外側にも吐出用の電極を設けることが好ましい。
ノズルの外側の吐出用電極は、例えば、ノズルの先端側端面或いは、ノズルの先端部側の側面の全周若しくは一部に設けられる。
(3)前述した各発明の構成、上記(1)又は(2)の構成において、ノズルに印加する電圧Vを
【数4】

で表される領域においで駆動することが好ましい。
ただし、γ:溶液の表面張力(N/m)、ε:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル直径(m)、h:ノズル−基材間距離(m)、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
(4)前述した各発明の構成、上記(1)、(2)又は(3)の構成において、印加する任意波形電圧が1000V以下であることが好ましい。
吐出電圧の上限値をこのように設定することにより、吐出制御を容易とすると共に装置の耐久性の向上及び安全対策の実行により確実性の向上を容易に図ることが可能となる。(5)前述した各発明の構成、上記(1)、(2)、(3)又は(4)の構成において、印加する吐出電圧が500V以下であることが好ましい。
吐出電圧の上限値をこのように設定することにより、吐出制御をより容易とすると共に装置の耐久性のさらなる向上及び安全対策の実行により確実性のさらなる向上を容易に図ることが可能となる。
(6)前述した各発明の構成、上記(1)〜(5)いずれかの構成において、ノズルと基板との距離が500[μm]以下とすることが、ノズル径を微細にした場合でも高い着弾精度を得ることができるので好ましい。
(7)前述した各発明の構成、上記(1)〜(6)いずれかの構成において、ノズル内の溶液に圧力を印加するように構成することが好ましい。
(8)前述した各発明の構成、上記(1)〜(7)いずれかの構成において、単一パルスによって吐出する場合、
【数5】

により決まる時定数τ以上のパルス幅Δtを印加する構成としても良い。ただし、ε:溶液の誘電率(F/m)、σ:溶液の導電率(S/m)とする。
【0044】
また、上述した液体吐出方法のいずれかを用いて、金属ペーストの吐出を行うことで、回路基板の配線パターンの形成に応用することも可能である。
このとき、配線パターン形成後には界面活性剤を除去することが望ましい。界面活性剤の表面抵抗低減による短絡が回避される。
【発明の効果】
【0045】
液滴の吐出を行う雰囲気を、露点温度9℃(摂氏9度)以上であって水の飽和温度未満以下に維持する場合、絶対湿度が0.007[kg/kg]以上となり、基材を絶縁体とする場合であっても、基材表面からの電荷の漏洩を効果的に行うことができ、基材表面の電界の影響が抑制されて、液滴の着弾位置精度が向上すると共に、吐出液滴及び着弾ドットの径の大きさの変動も抑制されて安定化を図ることができる。
また、飽和温度未満とすることにより、吐出ヘッドや基材の結露を回避することができる。
【0046】
また、基材の表面の少なくとも液滴の吐出を受ける範囲について、表面抵抗を10[Ω/cm]以下とした場合、基材の表面の少なくとも液滴の吐出を受ける範囲に表面抵抗を10[Ω/cm]以下とする表面処理層を設けた場合及び基材の表面の少なくとも液滴の吐出を受ける範囲について、界面活性剤の塗布を行うことにより表面処理層を設けた場合にあっては、基材表面からの電荷の漏洩を効果的に行うことができ、基材表面の電界の影響が抑制されて、液滴の着弾位置精度が向上すると共に、吐出液滴及び着弾ドットの径の大きさの変動も抑制されて安定化を図ることができる。
【0047】
また、基材の表面に予め界面活性剤を塗布してから液滴の着弾を受ける液体吐出方法にあっては、基材の表面抵抗が低減され、基材表面からの電荷の漏洩がすすみ、基材表面の電界の影響が抑制される。
さらに、液滴が着弾した部分を除いて基材から界面活性剤を除去する場合、当該界面活性剤の表面抵抗低下による漏電等の発生を防止することが可能となる。また、基材に対するその後の処理やその後の使用に界面活性剤が付着していると不都合が生じるような場合にも、当該不都合を解消することが可能となる。
特に、上記構成からなる液体の吐出方法を回路基板の配線パターン形成方法に適用することで、所望の配線パターンに従って液滴たる金属ペーストを着弾させると共に、配線パターン形成後には界面活性剤が除去され、配線パターン以外は高い絶縁性を示し、ショート等を生じることのない微細で緻密な配線パターンを形成することが可能となる。
【0048】
また、前述の式(A)のV[V]を満たす信号波形の電圧を吐出電極に印加する場合、絶縁性基材の表面電位が吐出にかかわる電界の大きさへの影響を与えにくくなるので、吐出された液体を受ける基材が絶縁性基材であっても吐出口から吐出される液体の量を一様にすることができる。
【0049】
また、絶縁性基材の表面を除電することにより絶縁性基材の表面電位を一様にすることができるので、吐出された液体を受ける基材が絶縁性基材であっても吐出口から吐出される液体の量を一様にすることができる。
この場合、吐出電極が除電用電極を兼ねることによって、液体吐出装置の構成をシンプルにすることができる。
【0050】
また、液体吐出ヘッドのノズル径を微小化することにより、電界強度分布が狭くなり、電界を集中させることができる。その結果、形成される液滴を微小で且つ形状の安定化したものとすることができると共に、総印加電圧を低減することができる。
その一方で、基材側の表面電位の不均一を生じると影響を受けやすくなるが、上述した各構成によりその影響が抑制されることから、微小液滴について安定した吐出を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1A】ノズル径をφ0.2[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図1B】ノズル径をφ0.2[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図2A】ノズル径をφ0.4[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図2B】ノズル径をφ0.4[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図3A】ノズル径をφ1[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図3B】ノズル径をφ1[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図4A】ノズル径をφ8[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図4B】ノズル径をφ8[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図5A】ノズル径をφ20[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図5B】ノズル径をφ20[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図6A】ノズル径をφ50[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図6B】ノズル径をφ50[μm]とした場合であってノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図7】図1A〜図6Bの各条件下での最大電界強度を示す図表を示す。
【図8】ノズルのノズル径とメニスカス部における最大電界強度との関係を示す線図である。
【図9】ノズルのノズル径とメニスカス部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示す線図である。
【図10A】ノズル径とノズル先端部の強電界の領域の関係を表すグラフである。
【図10B】図10Aにおけるノズル径が微小な範囲での拡大図を示す。
【図11】液体吐出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図12】ノズルに沿った液体吐出機構の断面図である。
【図13A】溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって吐出を行わない状態である。
【図13B】溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって吐出状態を示す。
【図14A】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図であり溶液室側に丸みを設けた例を示す。
【図14B】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図であり流路内壁面をテーパ周面とした例を示す。
【図14C】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図でありテーパ周面と直線状の流路とを組み合わせた例を示す。
【図15】絶対湿度と露点温度との関係を示す線図である。
【図16】絶対湿度と露点温度との関係を示す図表である。
【図17】相対湿度と露点温度との関係を示す線図である。
【図18】本発明を適用した第二実施形態としての液体吐出機構を一部破断して示した断面図である。
【図19A】定常電圧の波形を示したグラフである。
【図19B】もう一方の定常電圧の波形を示したグラフである。
【図20】本発明を適用した第三実施形態としての液体吐出機構を一部破断して示した断面図である。
【図21A】パルス電圧の波形を示したグラフである。
【図21B】もう一方のパルス電圧の波形を示したグラフである。
【図22A】パルス電圧の波形を示したグラフである。
【図22B】もう一方のパルス電圧の波形を示したグラフである。
【図23A】パルス電圧の波形を示したグラフである。
【図23B】もう一方のパルス電圧の波形を示したグラフである。
【図24】本発明を適用した第四実施形態としての液体吐出機構を一部破断して示した断面図である。
【図25】本発明を適用した第五実施形態としての液体吐出機構を一部破断して示した断面図である。
【図26】本発明を適用した第六実施形態としての液体吐出機構を一部破断して示した断面図である。
【図27】基材の表面抵抗と液滴の着弾径のばらつきの変動率との関係を示す図表である。
【図28】露点温度と基材表面電位分布と吐出電圧と液滴の着弾径のばらつきの変動率との関係を示す図表である。
【図29】良好な露点温度環境下におけるバイアス電圧及びパルス電圧と液滴の着弾径のばらつきとの関係を示す図表である。
【図30】本発明の実施の形態として、ノズルの電界強度の計算を説明するために示した図面である。
【図31】本発明の一例としての液体吐出機構の側面断面図を示したものである。
【図32】本発明の実施の形態の液体吐出装置における距離−電圧の関係による吐出条件を説明した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0053】
以下の各実施形態で説明する液体吐出装置のノズル径(内部直径)は、25[μm]以下であることが好ましく、さらに好ましくは20[μm]未満、さらに好ましくは10[μm]以下、さらに好ましくは8[μm]以下、さらに好ましくは4[μm]以下とすることが好ましい。また、ノズル径は、0.2[μm]より大きいことが好ましい。以下、ノズル径と電界強度との関係について、図1A〜図6Bを参照しながら以下に説明する。図1A〜図6Bに対応して、ノズル径をφ0.2,0.4,1,8,20[μm]及び参考として従来にて使用されているノズル径φ50[μm]の場合の電界強度分布を示す。
ここで、各図において、ノズル中心位置とは、ノズルの液体吐出孔の液体吐出面の中心位置を示す。また、図1A、図2A、図3A、図4A、図5A、図6Aは、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示し、図1B、図2B、図3B、図4B、図5B、図6Bは、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。なお、印加電圧は、各条件とも200[V]と一定にした。図中の分布線は、電荷強度が1×10[V/m]から1×10[V/m]までの範囲を示している。
図7に、各条件下での最大電界強度を示す図表を示す。
図1A〜図6Bから、ノズル径がφ20[μm](図5A,図5B)以上だと電界強度分布は広い面積に広がっていることが分かった。また、図7の図表から、ノズルと対向電極の距離が電界強度に影響していることも分かった。
これらのことから、ノズル径がφ8[μm](図4A,図4B)以下であると電界強度は集中すると共に、対向電極の距離の変動が電界強度分布にほとんど影響することがなくなる。従って、ノズル径がφ8[μm]以下であれば、対向電極の位置精度及び基材の材料特性のバラ付きや厚さのバラツキの影響を受けずに安定した吐出が可能となる。
次に、上記ノズルのノズル径とノズルの先端位置に液面があるとした時の最大電界強度との関係を図8に示す。
図8に示すグラフから、ノズル径がφ4[μm]以下になると、電界集中が極端に大きくなり最大電界強度を高くすることができるのが分かった。これによって、溶液の初期吐出速度を大きくすることができるので、液滴の飛翔安定性が増すと共に、ノズル先端部での電荷の移動速度が増すために吐出応答性が向上する。
続いて、吐出した液滴における帯電可能な最大電荷量について、以下に説明する。液滴に帯電可能な電荷量は、液滴のレイリー分裂(レイリー限界)を考慮した以下の(3)式で示される。
【数6】

ここで、qはレイリー限界を与える電荷量(C)、εは真空の誘電率(F/m)、γは溶液の表面張力(N/m)、dは液滴の直径(m)である。
上記(3)式で求められる電荷量qがレイリー限界値に近いほど、同じ電界強度でも静電力が強く、吐出の安定性が向上するが、レイリー限界値に近すぎると、逆にノズルの液体吐出孔で溶液の霧散が発生してしまい、吐出安定性に欠けてしまう。
ここで、ノズルのノズル径とノズル先端部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示すグラフを図9に示す。
図9に示すグラフから、ノズル径がφ0.2[μm]からφ4[μm]の範囲において、吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比が0.6を超え、低い吐出電圧でも比較的大きな帯電量を液滴に与えることができ、液滴の帯電効率が良い結果となっており、該範囲において安定した吐出が行えることが分かった。
例えば、図10A及び図10Bに示すノズル径とノズル先端部の強電界(1×10[V/m]以上)の領域をノズルの中心位置からの距離で示したものの値との関係を表すグラフでは、ノズル径がφ0.2[μm]以下になると電界集中の領域が極端に狭くなることが示されている。このことは、吐出する液滴は、加速するためのエネルギーを十分に受けることができず飛翔安定性が低下することを示す。よって、ノズル径はφ0.2[μm]より大きく設定することが好ましい。
【0054】
〔第一の実施形態〕
(液体吐出装置の全体構成)
以下、本発明の実施形態である液体吐出装置10について図11〜図14Cに基づいて説明する。図11は液体吐出装置10の概略構成を示すブロック図である。
この液体吐出装置10は、基材Kと、帯電した溶液の液滴を基材Kに吐出する液体吐出機構50と、液体吐出機構50及び吐出液滴が着弾される基材Kとを収容する恒温槽41と、恒温槽41内の雰囲気に対する温湿度の調節を行う吐出雰囲気調節手段としての空調機70と、恒温槽41と空調機70との間で循環する空気の塵芥を除去するエアーフィルタ42と、恒温槽41内部と外部との圧力差を検出する差圧計43と、恒温槽41と空調機70との間の空気の循環流量を調節する流量調節弁44と、恒温槽41と空調機70との間で循環する空気の排気量の流量を調節する排気流量調節弁45と、恒温槽41内の露点を検出する露点計46と、流量調節弁44、排気流量調節弁45、空調機70の動作制御を行う制御装置60とを備えている。
以下各部について詳細に説明する。
【0055】
(溶液)
上記液体吐出装置10による吐出を行う溶液の例としては、無機液体としては、水、COCl、HBr、HNO、HPO、HSO、SOCl、SOCl、FSOHなどが挙げられる。有機液体としては、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、などのフェノール類;ジオキサン、フルフラール、エチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エピクロロヒドリンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、アセトフェノンなどのケトン類;ギ酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などの脂肪酸類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−3−メトキシブチル、酢酸−n−ペンチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、セロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチルなどのエステル類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、o−トルイジン、p−トルイジン、ピペリジン、ピリジン、α−ピコリン、2,6−ルチジン、キノリン、プロピレンジアミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類;ベンゼン、p−シメン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキセンなどの炭化水素類;1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン(cis−)、テトラクロロエチレン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、2−クロロ−2−メチルプロパン、ブロモメタン、トリブロモメタン、1−ブロモプロパンなどのハロゲン化炭化水素類、などが挙げられる。また、上記各液体を二種以上混合して溶液として用いても良い。
【0056】
さらに、高電気伝導率の物質(銀粉等)が多く含まれるような導電性ペーストを溶液として使用し、吐出を行う場合には、上述した液体に溶解又は分散させる目的物質としては、ノズルで目詰まりを発生するような粗大粒子を除けば、特に制限されない。PDP、CRT、FEDなどの蛍光体としては、従来より知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、赤色蛍光体として、(Y,Gd)BO:Eu、YO:Euなど、緑色蛍光体として、ZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、(Ba,Sr,Mg)O・α−Al:Mnなど、青色蛍光体として、BaMgAl1423:Eu、BaMgAl1017:Euなどが挙げられる。上記の目的物質を記録媒体上に強固に接着させるために、各種バインダーを添加するのが好ましい。用いられるバインダーとしては、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースおよびその誘導体;アルキッド樹脂;ポリメタクリタクリル酸、ポリメチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート・メタクリル酸共重合体、ラウリルメタクリレート・2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体などの(メタ)アクリル樹脂およびその金属塩;ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアクリルアミドなどのポリ(メタ)アクリルアミド樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・イソプレン共重合体などのスチレン系樹脂;スチレン・n−ブチルメタクリレート共重合体などのスチレン・アクリル樹脂;飽和、不飽和の各種ポリエステル樹脂;ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ポリマー;ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;エポキシ系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のポリアセタール樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂などのポリエチレン系樹脂;ベンゾグアナミン等のアミド樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂及びそのアニオンカチオン変性;ポリビニルピロリドンおよびその共重合体;ポリエチレンオキサイド、カルボキシル化ポリエチレンオキサイド等のアルキレンオキシド単独重合体、共重合体及び架橋体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリエーテルポリオール;SBR、NBRラテックス;デキストリン;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン及びその誘導体、カゼイン、トロロアオイ、トラガントガム、プルラン、アラビアゴム、ローカストビーンガム、グアガム、ペクチン、カラギニン、にかわ、アルブミン、各種澱粉類、コーンスターチ、こんにゃく、ふのり、寒天、大豆蛋白等の天然或いは半合成樹脂;テルペン樹脂;ケトン樹脂;ロジン及びロジンエステル;ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリスチレンスルフォン酸、ポリビニルスルフォン酸などを用いることができる。これらの樹脂は、ホモポリマーとしてだけでなく、相溶する範囲でブレンドして用いても良い。
【0057】
液体吐出装置10をパターンニング方法として使用する場合には、代表的なものとしてはディスプレイ用途に使用することができる。具体的には、プラズマディスプレイの蛍光体の形成、プラズマディスプレイのリブの形成、プラズマディスプレイの電極の形成、CRTの蛍光体の形成、FED(フィールドエミッション型ディスプレイ)の蛍光体の形成、FEDのリブの形成、液晶ディスプレイ用カラーフィルター(RGB着色層、ブラックマトリクス層)、液晶ディスプレイ用スペーサー(ブラックマトリクスに対応したパターン、ドットパターン等)などが挙げることができる。ここでいうリブとは一般的に障壁を意味し、プラズマディスプレイを例に取ると各色のプラズマ領域を分離するために用いられる。その他の用途としては、マイクロレンズ、半導体用途として磁性体、強誘電体、導電性ペースト(配線、アンテナ)などのパターンニング塗布、グラフィック用途としては、通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、鋼板など)への印刷、曲面印刷、各種印刷版の刷版、加工用途としては粘着材、封止材などの本発明を用いた塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような)、遺伝子診断用試料等の塗布等に応用することができる。
【0058】
(基材)
基材Kは、(1)その表面抵抗が10[Ω/cm]以下となる素材から形成されたもの、(2)絶縁材料を母材として、液滴の吐出が行われるその表面部の表面抵抗が10[Ω/cm]以下となる素材からなる表面処理層が形成されたも、(3)絶縁材料から形成されると共に液滴の吐出が行われるその表面部に界面活性剤が塗布されて表面処理層が形成されたもののいずれかが使用される。
いずれの場合も、基材Kの表面部に帯電した液滴が付着した場合に、その表面部の抵抗値の低さから、当該液滴について基材表面からの電荷の漏洩がすすみ、基材表面の電界への影響が抑制されるからである。
【0059】
上記(2)の基材Kにおける絶縁体表面への表面処理層の形成方法としては以下の方法がある。
化学メッキ、真空蒸着、スパッタリングなどで表面に金属膜を形成する。
また一方、導電性高分子の溶液、金属粉、金属繊維、カーボンブラック炭素繊維、酸化スズ・酸化インジウムなどの金属酸化物、有機半導体などを混入した溶液、そして界面活性剤を溶解した溶液を絶縁体表面にコーティングする方法がある。コーティング方法としては、スプレー塗布、ディッピング、はけ塗り、布拭き、ロールコート、ワイヤーバー、押し出し塗布、スピンコート等がある。いずれでも良い。
【0060】
上記(3)の基材Kにおける界面活性剤の塗布を行う絶縁体表面への表面処理層の形成方法として、低分子量の界面活性剤を用いても良い。低分子量の界面活性剤は、洗浄、布拭き等で界面活性剤が基材より容易に除去することができ、或いは、耐熱性が低いために加熱することで分解除去が可能であることから、基材表面に予め低分子量の界面活性剤を塗布し、液滴の吐出が完了後に、不要となった表面処理層を取り除く場合に、好適である。このことにより、液体吐出装置20を後述する基材表面の絶縁性を維持した回路の形成も可能となる。
なお、この低分子量の界面活性剤は、湿度依存性が高いために、恒温槽41内を空調機70により必要な絶対湿度の環境にした雰囲気に調節し、描画前に、予め、界面活性剤をコーティングした基材Kを少なくとも1時間以上は静置しておくことが望ましい。
低分子量の界面活性剤としては、非イオン系として、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、アルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキル、フェニルエーテル、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)、アルキルアミン(アルキルジエタノールアミン)、N−2−ヒドロキシエチル−N−2−ヒドロキシアルキルアミン(ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン)、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン、アルキルアミン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアマイド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルホスフェート、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジル、アンモニウム塩、アルキルベダイン、アルキルイミダゾリウムベタイン等が挙げられる。
【0061】
また、高分子界面活性剤としては、ポリエーテルエステルアミド(PEEA)、ポリエーテルアミドイミド(PEAI)、ポリエチレンオキシド−エピクロルヒドリン(PEO−ECH)共重合体を挙げることができ、アニオン界面活性剤としてアルキル燐酸塩系(例えば、花王(株)のエレクトロストリッパーA、第一工業製薬(株)のエレノンNo19等(いずれも商標))、両性界面活性剤としてベタイン系(例えば、第一工業製薬(株)のアモーゲンK、等(商標))、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレン脂肪酸エステル系(例えば、日本油脂(株)のニッサンノニオンL等(商標))、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系(例えば、花王(株)のエマルゲン106,120,147,420,220,905,910、日本油脂(株)のニッサンノニオンE等(いずれも商標))を挙げることができる。その他、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンアルキルアミン系等の界面活性剤も有用である。
【0062】
表面抵抗が10[Ω/cm]以下となる素材としては、金属、導電性高分子材料、金属繊維、カーボンブラック、炭素繊維、酸化スズ・酸化インジウムなどの金属酸化物、有機半導体等がが使用される。
絶縁材料としては、シェラック、漆、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリエステル、エポキシ、シリコン、ポリエチレン、ポリスチロール、軟質塩化ビニル樹脂、硬質塩化ビニル樹脂、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)、生ゴム、軟質ゴム、エボナイト、ブチルゴム、ネオプレーン、シリコンゴム、白雲母、漆、マイカナイト、マイカレックス、石綿板、磁器、ステアタイト、アルミナ磁器、酸化チタン磁器、ソーダガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラス等が使用される。
【0063】
(恒温槽)
恒温槽41は、図示しない基材Kの搬入口と搬出口とを備え、液体吐出機構50の液体吐出ヘッド56を内部に格納している。また、恒温槽41は、空調機70から温度及び湿度が調節された空気が供給される吸気管48と空調機70へ内部の空気を送る排気管49とが接続されており、これら以外では外気との流通が遮断された密閉構造となっている。また、外気温の影響の少ない断熱構造となっている。
なお、排気管49の空調機70よりも上流側には、外気取込口49aが設けられ、ここから取り込まれた外気は空調機70により空調されて恒温槽41に供給される。また、この排気管49の途中に送風機を設け、排気又は外気の取り込みを積極的に行っても良い。また、吸気管48又は排気管49には流量計を設け、流量検出を行うと共に制御装置60に出力しても良い。
また、本実施形態では外気である空気を流通させているが外気を取り込まず、不活性ガスやその他の気体であっても良い。不活性ガスを使用する場合には、その供給手段を設けて、不活性ガスを循環させる構成としても良い。なお、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン等が挙げられる。
また、エアーフィルタ42は、吸気管48の途中に設けられているが、さらに、外気取込口49aにも設けても良い。
【0064】
(差圧計、流量調節弁及び排気流量調節弁)
差圧計43は、恒温槽41の内部と外部との差圧を検出し、制御装置60に出力する。流量調節弁44及び排気流量調節弁45は、制御装置60からの制御信号によりその開度が制御される電磁弁である。制御装置60は、差圧計43の検出する差圧に基づいて、恒温槽41内部が外部圧力と等しいか外部圧力よりも若干高くなるように流量調節弁44及び排気流量調節弁45により空気の通過流量を調節する制御を行う。恒温槽41内に、目標値と異なる温度又は湿度の外気の流入を防止するために、内部圧力を外部よりも若干高めに設定することが望ましい。
【0065】
(露点計)
露点計46は、恒温槽41内部の雰囲気の露点温度を検出し、制御装置60に出力する。なお、露点温度は、恒温槽の内部温度及び湿度から算出することも可能であることから、露点計46に替えて温湿度計を設け、その出力から制御装置60により算出する構成としても良い。
なお、露点温度と絶対湿度(混合比)とは図15、16に示す関係にあることから、絶対湿度を求めてから露点温度を算出しても良い。
また同様に、露点温度と相対湿度とは図17に示す関係にあることから、相対湿度を求めてから露点温度を算出しても良い。相対湿度とは、ある気体中の水蒸気とその気体の飽和水蒸気量との比を百分率で表したものをいう。
【0066】
(空調機)
空調機70は、恒温槽41への空気の循環を行うための送風機と、通過空気の加熱或いは冷却を行う熱交換機と、その下流側に設けられた加湿器及び除湿器とを備えている。そして、制御装置60の制御に従って、空調機70を通過する空気に対して加熱若しくは冷却又は加湿若しくは除湿を行う。
【0067】
(制御装置)
制御装置60は、前述した恒温槽41の内部圧力制御に加えて、内部雰囲気の露点温度制御を行う。即ち、露点計46の出力から露点温度と飽和温度とを算出し、露点温度が9℃以上となるように且つ飽和温度未満となるように、PID(Proportion−Integration−Differential)制御等の制御方法を用いて、空調機70の温度制御若しくは湿度制御又はこれらを組み合わせた制御を行う。
【0068】
(液体吐出機構)
液体吐出機構50は、前述した恒温槽41内に配設され、その液体吐出ヘッド56は図示しないヘッド駆動手段により所定方向に搬送される。
図12は、ノズルに沿った液体吐出機構50の断面図である。
この液体吐出機構50は、帯電可能な溶液の液滴をその先端部から吐出する超微細径のノズル51を有する液体吐出ヘッド56と、ノズル51の先端部に対向する対向面を有すると共にその対向面で液滴の着弾を受ける基材Kを支持する対向電極23と、ノズル51内の流路52に溶液を供給する溶液供給手段53と、ノズル51内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段35とを備えている。なお、上記ノズル51と溶液供給手段53の一部の構成と吐出電圧印加手段35の一部の構成は液体吐出ヘッド56により一体的に形成されている。
なお、説明の便宜上、図12ではノズル51の先端部が上方を向いた状態で図示されているが、実際上は、ノズル51が水平方向か或いはそれよりも下方、より望ましくは垂直下方に向けた状態で使用される。
【0069】
(ノズル)
上記ノズル51は、後述するノズルプレート56cのプレート部と共に一体的に形成されており、当該ノズルプレート56cの平板面上から垂直に立設されている。また、液滴の吐出時においては、ノズル51は、基材Kの受け面(液滴が着弾する面)に対して垂直に向けて使用される。さらに、ノズル51にはその先端部からノズル51の中心に沿って貫通するノズル内流路52が形成されている。
【0070】
ノズル51についてさらに詳説する。ノズル51は、その先端部における開口径とノズル内流路52とが均一であって、前述の通り、これらが超微細径で形成されている。具体的な各部の寸法の一例を挙げると、ノズル内流路52の内部直径は、25[μm]以下、さらに20[μm]未満、さらに10[μm]以下、さらに8[μm]以下、さらに4[μm]以下が好ましく、本実施形態ではノズル内流路52の内部直径が1[μm]に設定されている。そして、ノズル51の先端部における外部直径は2[μm]、ノズル51の根元の直径は5[μm]、ノズル51の高さは100[μm]に設定されており、その形状は限りなく円錐形に近い円錐台形に形成されている。また、ノズルの内部直径は0.2[μm]より大きい方が好ましい。なお、ノズル51の高さは、0[μm]でも構わない。つまり、ノズル51がノズルプレート56cと同じ高さで形成され、平坦なノズルプレート56cの下面に吐出口が単に形成されて吐出口から溶液室54間で通じるノズル内流路52が形成されているだけでも良い。
【0071】
なお、ノズル内流路52の形状は、図14A,図14B,図14Cに示すような、内径一定の直線状に形成しなくとも良い。例えば、図14Aに示すように、ノズル内流路52の後述する溶液室54側の端部における断面形状が丸みを帯びて形成されていても良い。また、図14Bに示すように、ノズル内流路52の後述する溶液室54側の端部における内径が吐出側端部における内径と比して大きく設定され、ノズル内流路52の内面がテーパ周面形状に形成されていても良い。さらに、図14Cに示すように、ノズル内流路52の後述する溶液室54側の端部のみがテーパ周面形状に形成されると共に当該テーパ周面よりも吐出端部側は内径一定の直線状に形成されていても良い。
また、図12では、液体吐出ヘッド56に一つのノズル51が設けられているのみだが、ノズル51は複数設けられていても良い。ノズル51が複数設けられている場合、吐出電極58、供給路57及び溶液室54は各ノズル51ごとに独立して形成することが望ましい。
【0072】
(溶液供給手段)
溶液供給手段53は、液体吐出ヘッド56の内部であってノズル51の根元となる位置に設けられると共にノズル内流路52に連通する溶液室54と、溶液室54へ溶液を供給する供給路57と、溶液室54への溶液の供給圧力を付与する図示しないピエゾ素子等からなる供給ポンプとを備えている。
上記供給ポンプは、ノズル51の先端部まで溶液を供給し、当該先端部からこぼれ出さない範囲の供給圧力を維持して溶液の供給を行う(図13A参照)。
供給ポンプとは、液体吐出ヘッドと供給タンクの配置位置による差圧を利用する場合も含み、別途、溶液供給手段を設けなくとも溶液供給路のみで構成しても良い。ポンプシステムの設計にもよるが、基本的にはスタート時に液体吐出ヘッドに溶液を供給するときに稼動し、液体吐出ヘッド56から液体を吐出し、それに応じた溶液の供給は、液体吐出ヘッド56内の容積変化及び供給ポンプの各圧力の最適化を図って溶液の供給が実施される。
【0073】
(吐出電圧印加手段)
吐出電圧印加手段35は、液体吐出ヘッド56の内部であって溶液室54とノズル内流路52との境界位置に設けられた吐出電圧印加用の吐出電極58と、この吐出電極58に常時,直流のバイアス電圧を印加するバイアス電源30と、吐出電極28にバイアス電圧に重畳して吐出に要する電位とする吐出パルス電圧を印加する吐出電圧電源31と、を備えている。
【0074】
上記吐出電極58は、溶液室54内部において溶液に直接接触し、溶液を帯電させると共に吐出電圧を印加する。
バイアス電源30によるバイアス電圧は、溶液の吐出が行われない範囲で常時電圧印加を行うことにより、吐出時に印加すべき電圧の幅を予め低減し、これによる吐出時の反応性の向上を図っている。
【0075】
吐出電圧電源31は、溶液の吐出を行う際にのみパルス電圧をバイアス電圧に重畳させて印加する。このときの重畳電圧Vは次式(1)の条件を満たすようにパルス電圧の値が設定されている。
【数7】

ただし、γ:溶液の表面張力(N/m)、ε:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル直径(m)、h:ノズル−基材間距離(m)、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
一例を挙げると、バイアス電圧はDC300[V]で印加され、パルス電圧は100[V]で印される。従って、吐出の際の重畳電圧は400[V]となる。
【0076】
(液体吐出ヘッド)
液体吐出ヘッド56は、図12において最も下層に位置するベース層56aと、その上に位置する溶液の供給路を形成する流路層56bと、この流路層56bのさらに上に形成されるノズルプレート56cとを備え、流路層56bとノズルプレート56cとの間には前述した吐出電極58が介挿されている。
上記ベース層56aは、シリコン基板或いは絶縁性の高い樹脂又はセラミックにより形成され、その上に溶解可能な樹脂層を形成すると共に供給路57及び溶液室54を形成するための所定のパターンに従う部分のみを残して除去し、除去された部分に絶縁樹脂層を形成する。この絶縁樹脂層が流路層56bとなる。そして、この絶縁樹脂層の上面に導電素材(例えばNiP)のメッキにより吐出電極58を形成し、さらにその上から絶縁性のレジスト樹脂層を形成する。このレジスト樹脂層がノズルプレート56cとなるので、この樹脂層はノズル51の高さを考慮した厚みで形成される。そして、この絶縁性のレジスト樹脂層を電子ビーム法やフェムト秒レーザにより露光し、ノズル形状を形成する。ノズル内流路52も露光・現像により形成される。そして、供給路57及び溶液室54のパターンに従う溶解可能な樹脂層を除去し、これら供給路57及び溶液室54が開通して液体吐出ヘッド56が完成する。
【0077】
なお、ノズルプレート56c及びノズル51の素材は、具体的には、エポキシ、PMMA、フェノール、ソーダガラス、石英ガラス等の絶縁材の他、Siのような半導体、Ni、SUS等のような導体であっても良い。但し、導体によりノズルプレート56c及びノズル51を形成した場合には、少なくともノズル51の先端部における先端部端面、より望ましくは先端部における周面については、絶縁材による被膜を設けることが望ましい。ノズル51を絶縁材から形成し又はその先端部表面に絶縁材被膜を形成することにより、溶液に対する吐出電圧印加時において、ノズル先端部から対向電極23への電流のリークを効果的に抑制することが可能となるからである。
【0078】
また、ノズル51を含めてノズルプレート108が撥水性を有していても良いし(例えば、ノズルプレート108がフッ素を含有した樹脂で形成されている。)、ノズル51の表層に撥水性を有する撥水膜が形成されていても良い(例えば、ノズルプレート108の表面に金属膜が形成され、更にその金属膜上にその金属と撥水性樹脂との共析メッキによる撥水層が形成されている。)。ここで撥水性とは、液体に対してはじく性質である。また、液体に応じた撥水処理方法を選択することによって、ノズルプレート108の撥水性をコントロールすることができる。撥水処理方法としては、カチオン系又はアニオン系の含フッ素樹脂の電着、フッ素系高分子、シリコーン系樹脂、ポリジメチルシロキサンの塗布、焼結法、フッ素系高分子の共析メッキ法、アモルファス合金薄膜の蒸着法、モノマーとしてのヘキサメチルジシロキサンをプラズマCVD法によりプラズマ重合させることにより形成されるポリジメチルシロキサン系を中心とする有機シリコン化合物やフッ素系含有シリコン化合物等の膜を付着させる方法がある。
【0079】
(対向電極)
対向電極23は、ノズル51の突出方向に垂直な対向面を備えており、かかる対向面に沿うように基材Kの支持を行う。ノズル51の先端部から対向電極23の対向面までの距離は、500[μm]以下さらには100[μm]以下が好ましく、一例としては100[μm]に設定される。
また、この対向電極23は接地されているため、常時,接地電位を維持している。従って、パルス電圧の印加時にはノズル51の先端部と対向面との間に生じる電界による静電力により吐出された液滴を対向電極23側に誘導する。
なお、液体吐出機構50は、ノズル51の超微細化による当該ノズル51の先端部での電界集中により電界強度を高めることで液滴の吐出を行うことから、対向電極23による誘導がなくとも液滴の吐出を行うことは可能ではあるが、ノズル51と対向電極23との間での静電力による誘導が行われた方が望ましい。また、帯電した液滴の電荷を対向電極23の接地により逃がすことも可能である。
【0080】
(液体吐出装置による微小液滴の吐出動作)
図12〜図13Bにより液体吐出機構50の吐出動作の説明を行う。
ノズル内流路52には供給ポンプにより溶液が供給された状態にあり、かかる状態でバイアス電源30により吐出電極58を介してバイアス電圧が溶液に印加されている。かかる状態で、溶液は帯電すると共に、ノズル51の先端部において溶液による凹状に窪んだメニスカスが形成される(図13A)。
そして、吐出電圧電源31により吐出パルス電圧が印加されると、ノズル51の先端部では集中された電界の電界強度による静電力により溶液がノズル51の先端側に誘導され、外部に突出した凸状メニスカスが形成されると共に、かかる凸状メニスカスの頂点により電界が集中し、ついには溶液の表面張力に抗して微小液滴が対向電極側に吐出される(図13B)。
【0081】
(液体吐出装置の全体的な動作)
恒温槽41内における液体吐出機構50の対向電極23上に基材Kが搬入される。このとき、差圧計43の検出に応じて制御装置60は、流量調節弁44及び排気流量調節弁45を制御して外部よりも恒温槽41内が幾分高めの圧力となるように調節する。また、空調機70の作動により恒温槽41内の空気は循環を行い、制御装置60は、露点計46により求まる露点温度が9℃未満の時には空調機70により加温加湿を行うことにより露点温度9℃以上となるように調節する。
そして、かかる雰囲気中で上述した液体吐出機構50による液滴の吐出動作が行われる。
【0082】
(実施形態の効果)
上記液体吐出機構50は、従来にない微細径のノズル51により液滴の吐出を行うので、ノズル内流路52内で帯電した状態の溶液により電界が集中され、電界強度が高められる。このため、従来のように電界の集中化が行われない構造のノズル(例えば内径100[μm])では吐出に要する電圧が高くなり過ぎて事実上吐出不可能とされていた微細径でのノズルによる溶液の吐出を従来よりも低電圧で行うことを可能としている。
そして、微細径であるがために、ノズルコンダクタンスの低さによりその単位時間あたりの吐出流量を低減する制御を容易に行うことができると共に、パルス幅を狭めることなく十分に小さな液滴径(上記各条件によれば0.8[μm])による溶液の吐出を実現している。
さらに、吐出される液滴は帯電されているので、微小の液滴であっても蒸気圧が低減され、蒸発を抑制することから液滴の質量の損失を低減し、飛翔の安定化を図り、液滴の着弾精度の低下を防止する。
【0083】
また、液体吐出装置10では、制御装置60が恒温槽41内の雰囲気の露点温度が9℃以上となるように調節するため、着弾した液滴の基材表面からの電荷の漏洩がすすみ、基材K表面の着弾した液滴の電荷による電界の影響が抑制される。これにより、液滴の着弾位置精度が向上すると共に、吐出液滴及び着弾ドットの径の大きさの変動も抑制されて安定化を図ることができる。
【0084】
また、基材K自体の素材により若しくはその表面処理層の素材により又は界面活性剤の塗布により、基材Kの表面の少なくとも液滴の着弾が行われる領域内について表面抵抗が10[Ω/cm]以下となるように設定されているため、着弾した液滴の基材表面からのさらなる電荷の漏洩を促進し、基材K表面の着弾した液滴の電荷による電界の影響がさらに抑制される。これにより、液滴の着弾位置精度がより向上すると共に、吐出液滴及び着弾ドットの径の大きさの変動も抑制されてさらなる安定化を図ることができる。
【0085】
(その他)
なお、ノズル51にエレクトロウェッティング効果を得るために、ノズル51の外周に電極を設けるか、また或いは、ノズル内流路52の内面に電極を設け、その上から絶縁膜で被覆しても良い。そして、この電極に電圧を印加することで、吐出電極58により電圧が印加されている溶液に対して、エレクトロウェッティング効果によりノズル内流路52の内面のぬれ性を高めることができ、ノズル内流路52への溶液の供給を円滑に行うことができ、良好に吐出を行うと共に、吐出の応答性の向上を図ることが可能となる。
【0086】
また、吐出電圧印加手段35ではバイアス電圧を常時印加すると共にパルス電圧をトリガーとして液滴の吐出を行っているが、吐出に要する振幅で常時交流又は連続する矩形波を印加すると共にその周波数の高低を切り替えることで吐出を行う構成としても良い。液滴の吐出を行うためには溶液の帯電が必須であり、溶液の帯電する速度を上回る周波数で吐出電圧を印加していても吐出が行われず、溶液の帯電が十分に図れる周波数に替えると吐出が行われる。従って、吐出を行わないときには吐出可能な周波数より大きな周波数で吐出電圧を印加し、吐出を行う場合にのみ吐出可能な周波数帯域まで周波数を低減させる制御を行うことで、溶液の吐出を制御することが可能となる。かかる場合、溶液に印加される電位自体に変化はないので、より時間応答性を向上させると共に、これにより液滴の着弾精度を向上させることが可能となる。
【0087】
また、上述した液体吐出ヘッド56は、そのノズル51の材料自体が絶縁性を有するものであったが、形成されたノズルの絶縁破壊強度が10[kV/mm]以上、好ましくは21[kV/mm]以上、さらに好ましくは30[kV/mm]以上であれば良い。かかる場合もノズル51とほぼ同様の効果を得ることが可能である。
【0088】
(回路基板の配線パターン形成への適用)
上記構成からなる液体吐出装置10を回路基板の配線パターンの形成に用いても良い。
その場合、溶液吐出装置20によって吐出される溶液は、互いに融着して電子回路をなすべき複数の微細粒子または接着性を有する接着粒子と、微細粒子または接着粒子を分散させている分散剤とを溶媒中に含有している。
微細粒子としては、金属や金属化合物などの粒子を用いることができる。金属の微細粒子としては、AuやPt、Ag、In、Cu、Ni、Cr、Rh、Pd、Zn、Co、Mo、Ru、W、Os、Ir、Fe、Mn、Ge、Sn、Ga、Inなど等の導電性の微細粒子がある。特にAuやAg、Cuのような金属の微細粒子を用いると、電気抵抗が低く、かつ腐食に強い電子回路を形成することができ好ましい。金属化合物の微細粒子としては、ZnSやCdS、CdSnO、ITO(In−SnO)、RuO、IrO、OsO、MoO、ReO、WO、YBaCu−x等の導電性の微細粒子、ZnOやCdO、SnO、InO、SnO等、熱によって還元されて導電性を示す微細粒子、Ni−CrやCr−SiO、Cr−MgF、Au−SiO、AuMgF、PtTa、AuTaTa、CrSi、TaSi等の半導電性の微細粒子、SrTiOやBaTiO、Pb(Zr,Ti)O等の誘電性の微細粒子、SiOやAl、TiO等の絶縁性の微細粒子がある。
接着粒子としては、熱硬化性樹脂接着剤、ゴム系接着剤、エマルジョン系接着剤、ポリアロマティックス、セラミックス系接着剤等の粒子がある。
分散剤は、微細粒子の保護コロイドとして作用するものである。このような分散剤としては、ポリウレタンとアルカノールアミンとのブロック共重合体やポリエステル、ポリアクリルニトリル等を用いることができる。
溶媒は、微細粒子との親和性を考慮して選定される。具体的には、溶媒としては、水を主体とする溶媒や、PGMEA、シクロヘキサン、(ブチル)カルビトールアセテート、3−ジメチル−2−イミタゾリジン、BMA、プロピレンモノメチルアセテートを主体とする溶媒などがある。
【0089】
ここで、例えば微細粒子として金属微粒子が溶解した水性溶液の調製方法を説明する。
まず、塩化金酸や硝酸銀のような金属イオンソース水溶液に水溶性の重合体を溶解させ、撹拌しながらジメチルアミノエタノールのようなアルカノールアミンを添加する。すると数10秒〜数分で金属イオンが還元され、平均粒系100nm以下の金属微粒子が析出する。そして、析出物を含有する溶液から塩素イオンや硝酸イオンを限外ろ過などの方法で除去した後、この溶液を濃縮・乾燥する。このようにして調製された水性溶液は、水やアルコール系溶媒、テトラエトキシシランやトリエトキシシランのようなゾルゲルプロセス用バインダーに安定に溶解・混合することが可能である。
【0090】
また、微細粒子として金属微粒子が溶解した油性溶液の調製方法を説明する。
まず、油溶解性のポリマーをアセトンのような水混和性有機溶媒に溶解させ、この溶液を、上記のようにして形成された水性溶液と混合する。このとき混合物は不均一系であるが、これを撹拌しながらアルカノールアミンを添加すると金属微粒子は重合体中に分散した形で油相側に析出してくる。そして、この溶液を洗浄・濃縮・乾燥させると油性溶液が得られる。このようにして形成された油性溶液は、芳香族系、ケトン系、エステル系などの溶媒やポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等に安定に溶解・混合することが可能である。
なお、上記のような水性及び油性の溶液における金属微粒子の濃度は、最大80重量%とすることが可能であるが、用途に応じて適宜稀釈して使用する。通常、溶液における金属微粒子の含有量は2〜50重量%、分散剤の含有量は0.3〜30重量%、粘度は3〜100センチポイズ程度が適当である。
【0091】
そして、配線パターの形成の際には、まず、基材としてのガラス製の基板の配線パターン形成面上に界面活性剤の塗布を行う(表面処理層の形成工程)。かかる界面活性剤は、前述した低分子量のものが後に除去することを考慮すれば望ましい。本実施形態では、具体的には、帯電防止剤であるコルコート200((商標)コルコート社製)を塗布し、これにより形成される表面処理層の表面抵抗は10[Ω/cm]となる。
【0092】
次いで、基板を恒温槽41内に配置し、液体吐出機構50により液滴の吐出を行って配線パターンの形成を行う(液滴吐出工程)。この時、具体的には液滴として銀ナノペースト((商標)ハリマ化成社製)を使用し、線幅10[μm]、長さ10[mm]で配線パターン形成を行う。
さらに、液滴吐出後には、溶液の溶剤の蒸発を行った後、又は同時に200℃(摂氏)で60分の加熱を行う(パターン定着工程)。
【0093】
その後、配線パターン形成済みのガラス基板を純水により10分間洗浄する(表面処理層除去工程)。これにより、着弾位置以外のコルコート200による表面処理層は洗い流されて除去される。ガラス基板の表面処理層が除去された部位の表面抵抗は1014[Ω/cm]となる。
つまり、上記方法により、配線パターン以外は高い絶縁性を示し、ショート等を生じることのない微細で緻密な配線パターンを形成することが可能となる。
【0094】
〔第二の実施形態〕
第二の実施形態たる静電吸引型液体吐出装置としての液体吐出機構101について図18を用いて説明する。ここで、図18は液体吐出機構101の要部を示した図面である。かかる図18では、使用時と同様にノズル51を下方に向けた状態で図示を行っている。なお、前述した液体吐出機構50と同様の構成については同符号を付して重複する説明は省略するものとする。
まず、前提として、かかる液体吐出機構101は、前述した液体吐出機構50のように、好適な露点温度に設定可能な恒温槽41の内部で使用されるものではない。従って、この液体吐出機構101では、基材表面の電位の不均一の影響を抑制するために液体吐出機構50とは異なる手法を用いている。かかる点を中心に以下に説明することとする。
【0095】
図18に示すように、この液体吐出機構101は、絶縁性基材102に向かって帯電可能な液体を吐出する液体吐出ヘッド56と、電圧による信号で液体吐出ヘッド56を駆動することによって液体吐出ヘッド56に吐出動作を行わせるとともに液体吐出ヘッド56を駆動することによって絶縁性基材102に帯電させるための吐出電圧印加手段兼帯電手段104と、を備えている。
【0096】
(絶縁性基材)
絶縁性基材102は比抵抗の非常に高い絶縁性体(誘電体)から形成されており、面102aにおける表面比抵抗(シート抵抗)が1010[Ω/cm]以上、更に望ましくは1012[Ω/cm]以上である。例えば、絶縁性基材102は、シェラック、漆、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリエステル、エポキシ、シリコン、ポリエチレン、ポリスチロール、軟質塩化ビニル樹脂、硬質塩化ビニル樹脂、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂(テフロン(登録商標))、生ゴム、軟質ゴム、エボナイト、ブチルゴム、ネオプレーン、シリコンゴム、白雲母、マイカナイト、マイカレックス、石綿板、磁器、ステアタイト、アルミナ磁器、酸化チタン磁器、ソーダガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラス等から形成されている。なお、絶縁性基材102の形状は、平板状であっても良いし、円盤状であっても良いし、シート状であっても良いし、台状であっても良い。
【0097】
また、絶縁性基材102は、アース、配線、電極、その他の導電性材料から離間することで絶縁されており、電気的に浮動状態となっている。従って、絶縁性基材102の面102aに電荷(正電荷、負電荷に限定されない。)が帯びたり、絶縁性基材102の面102aから電荷が放れたりするようになっている。
【0098】
液体吐出機構101をインクジェットプリンタに適用した場合、用紙、プラスチックフィルム、シート材等の記録媒体が絶縁性基材102に相当する。絶縁性基材102がシート状を呈している場合には、絶縁性基材102の液体吐出ヘッド56に向いた面の反対面に接して絶縁性基材102を支えるプラテン等の支持部材を液体吐出ヘッド56に対向するように設けると良いが、この場合には支持部材も絶縁体から形成すると良い。支持部材を絶縁体から形成することによって、支持部材に接した絶縁性基材102を電気的に浮動状態とすることができる。
【0099】
なお、絶縁性基材102の抵抗率にもよるが、絶縁性基材102の面102a以外の面にアース、配線、電極、その他の導電性材料が接触していても良い。また、面102a全面ではなく一部に配線、電極等が形成されていても良い。つまり、面102aのうち液体が着弾する部分に配線、電極、その他の導電性材料が形成されていなければ良い。また、前述した対向電極23を絶縁性基材102の背後(絶縁性基材102における吐出ヘッド56とは逆側)に設けても良い。
【0100】
また、この液体吐出機構101に、液体吐出ヘッド56による液体の吐出方向に交差する面に沿わして絶縁性基材102を移動させる基材移動機構を設けると良い。特に、基材移動機構は、液体の吐出方向に直交する面(以下、直交面という。)に沿わして絶縁性基材102を移動させる構成をしていると良いが、直交面内でも直交する二方向に絶縁性基材102を移動させることによって絶縁性基材102を直交面に沿わして移動させる構成としても良い。また、基材移動機構は直交面内でも一方向にのみ絶縁性基材102を移動させる構成をしても良いが、このような基材移動機構はインクジェットプリンタにおいて記録媒体を搬送する搬送機構として用いられる。
【0101】
また、この液体吐出機構101に、液体吐出ヘッド56による液体の吐出方向に交差する面に沿わして液体吐出ヘッド56を移動させるヘッド移動機構を設けると良い。特に、ヘッド移動機構は、液体の吐出方向に直交する面(以下、直交面という。)に沿わして液体吐出ヘッド56を移動させる構成をしていると良いが、直交面内でも直交する二方向に液体吐出ヘッド56を移動させることによって液体吐出ヘッド56を直交面に沿わして移動させる構成をしても良い。また、基材移動機構が直交面内でも一方向にのみ絶縁性基材102を移動させる構成をした場合、ヘッド移動機構は絶縁性基材102の移動方向に直交する方向に液体吐出ヘッド56を往復移動させる構成をしている。
【0102】
(吐出電圧印加手段兼帯電手段)
吐出電圧印加手段兼帯電手段104は、接地を基準とした定常電圧(一定の電位に維持された電圧をいうものとする。当該定常電圧は正であっても良いし、負であっても良い。定常電圧の値をV[V]と表す。)を吐出電極58に印加する定常電圧印加部104aから構成されている。定常電圧Vは、絶縁性基材102の液体吐出ヘッド56側の面102aの表面電位(接地を基準とする。)により設定されている。即ち、絶縁性基材102の面102a内の表面電位分布を計測し、接地を基準とした面102aの表面電位の最大値をVmax[V]とし、表面電位の最小値をVmin[V](Vmin<Vmax)とし、最大値Vmaxと最小値Vminとの電位差をV|max−min|[V]とし、最大値Vmaxと最小値Vminの中間値をVmid[V]とした場合、定常電圧印加部104aは次式(A)を満たす定常電圧Vを吐出電極58に印加する。
【数8】

【0103】
ここで、電位差V|max−min|を最大値Vmax及び最小値Vminで表すと式(B)のようになり、中間値Vmidを最大値Vmaxと最小値Vminで表すと式(C)を満たす。
【数9】

【数10】

【0104】
絶縁性基材102の表面電位は、定常電圧印加部104aによって定常電圧Vが吐出電極58に印加される前に表面電位計によって測定したものである。ここで、定常電圧印加部104aにより印加される定常電圧の波形を図19A,図19Bに示す。図19A,図19Bにおいて、横軸は吐出電極58に印加される電圧を表し、縦軸は吐出電極58に電圧が印加され始めてからの時間を表す。定常電圧印加部104aによって図19A,図19Bに示すような定常電圧Vが印加されると、電界が生じ、絶縁性基材102の面102aが帯電されるようになっている。なお、図18において定常電圧印加部104aの正負の向きは逆であっても良い。
【0105】
(液体吐出機構を用いた液体吐出方法及び液体吐出機構の動作)
吐出電圧印加手段兼帯電手段104の定常電圧印加部104aにより定常電圧を印加する前に絶縁性基材102の面102a内の表面電位分布を表面電位計で測定し、表面電位分布から表面電位の最大値Vmax及び最小値Vminを求める。最大値Vmax及び最小値Vminから式(A),(B),(C)より定常電圧Vを求める。
【0106】
基材移動機構によって絶縁性基材102を移動させつつ、ヘッド移動機構によって液体吐出ヘッド56を移動させる。なお、絶縁性基材102と液体吐出ヘッド56の両方を移動させても良いし、どちらか一方を移動させるだけでも良い。絶縁性基材102及び液体吐出ヘッド56の移動を開始するのとほぼ同時に、定常電圧印加部104aにより印加する電圧を定常電圧Vに設定して定常電圧Vを吐出電極58に印加する。吐出電極58に定常電圧Vが印加されるとノズル51の先端と絶縁性基材102との間に電界が生じ、ノズル51の先端に形成された吐出口から絶縁性基材102に向けて液体が吐出される。図19A,図19Bに示すように、接地を基準とした吐出電極58の電圧を時間Tの関数V(T)として表すと、電圧V(T)は一定の定常電圧Vとなっており、電圧V(T)は式(A)のVを常に満たしている。図19Aのグラフの実線で示した波形のような定常電圧Vが吐出電極58に印加され続けるが、定常電圧印加部104aによる電圧印加を解除するまで液体が連続的に吐出され続ける。液体を連続的に吐出しつつ絶縁性基材102及び液体吐出ヘッド56のうちの少なくとも一方を移動させているので(絶縁性基材102に対して液体吐出ヘッド56を相対的に走査させているので)、絶縁性基材102の面102aには液体による線がパターンニングされる。なお、図19Aのグラフの実線で示した波形の代わりに、図19Bのグラフの実線で示した波形の定常電圧Vが定常電圧印加部104aにより吐出電極58に印加されても良い。
【0107】
また、絶縁性基材102の面102a内の或る点上をノズル51が通過する時に、その点には吐出電極58から生じた電界によって帯電し、その点の表面電位が変化する。測定時において絶縁性基材102の面102aの表面電位が位置によってばらついていても、吐出電極58に印加される定常電圧Vが式(A)を満たしているので、面102a内のどの点でも一定の表面電位に変化し、面102a内の表面電位分布が一様になる。そのため、液体の吐出量が一定にすることができるとともに、位置によって液体の吐出不良が生じることを防止することができる。
【0108】
なお、絶縁性基材102の面102aの表面電位分布を計測しなくても良いが、この場合には絶縁性基材102の面102aの予測し得る最大表面電位よりも十分に大きな定常電圧を吐出電極58に印加するか、又は予測し得る最小表面電位よりも十分に小さな定常電圧を吐出電極58に印加すれば良い。
【0109】
〔第三の実施形態〕
次に、本発明の第三実施形態である静電吸引型液体吐出装置としての液体吐出機構201について図20を用いて説明する。
(相違点)
図20に示すように、この液体吐出機構201は、液体吐出機構101と同様に、恒温槽41の外部で使用され、液体吐出ヘッド56と、吐出電圧印加手段兼帯電手段204とを具備する。液体吐出ヘッド56の構成は第二実施形態の場合と同じであるが、吐出電圧印加手段兼帯電手段204の構成は第二実施形態の場合と異なる。第二実施形態の場合では吐出電圧印加手段兼帯電手段104が定常電圧を印加するものであるに対し、第三実施形態の場合では吐出電圧印加手段兼帯電手段204がパルス電圧を印加するものである。
【0110】
この吐出電圧印加手段兼帯電手段204は、接地を基準とした一定のバイアス電圧V[V](バイアス電圧Vは正であっても良いし、負であっても良いし、ゼロであっても良い。)を吐出電極58に常時印加する定常電圧印加部204aと、液体の吐出を行う時にのみパルス電圧V(パルス電圧Vは正であっても良いし、負であっても良い。)をバイアス電圧Vに重畳して吐出電極58に印加するパルス電圧印加部204bと、から構成されている。従って、接地を基準とした吐出電極58の電圧を時間の関数V(T)で表すと、パルス電圧印加部204bがオフ状態の場合には電圧V(T)はバイアス電圧Vで一定となっており、パルス電圧印加部204bがオン状態の場合には電圧V(T)は(バイアス電圧V+パルス電圧V)で一定となっている。
【0111】
ここで、バイアス電圧Vと(バイアス電圧V+パルス電圧V)のうちの少なくとも一方が式(A)の電圧V[V]を満たすように設定されている。
【0112】
具体的には、バイアス電圧Vを最小値Vminを越え最大値Vmax未満に設定すると、吐出電極107の電圧V(T)の波形が図21Aのグラフの実線又は図21Bのグラフの実線のようになる。図21A,図21Bのグラフにおいて縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。図21Aのグラフの波形ではパルス電圧Vを正に設定した場合であり、図21Bのグラフの波形ではパルス電圧Vを負に設定した場合である。この場合、バイアス電圧Vが式(A)の電圧Vを満たしていないので、(バイアス電圧V+パルス電圧V)が式(A)の電圧Vを満たすようにパルス電圧Vを設定する必要がある。
【0113】
図21Aのグラフにおいて、電圧V(T)の最大値が(バイアス電圧V+パルス電圧V)となっており、最小値がVとなっているが、(バイアス電圧V+パルス電圧V−中間値Vmid)が(バイアス電圧V−中間値Vmid)よりも大きい。図21Bのグラフにおいて電圧V(T)の最大値がバイアス電圧Vであって中間値Vmidよりも高く、電圧V(T)の最小値が(バイアス電圧V+パルス電圧V)であって中間値Vmidよりも低くなっている。また、図21Bのグラフにおいて、(中間値Vmid−バイアス電圧V−パルス電圧V)が(バイアス電圧V−中間値Vmid)よりも大きい。
【0114】
バイアス電圧Vを最大値Vmax以上に設定するとともにパルス電圧Vを正に設定した場合には、電圧V(T)の波形は図22Aのグラフの実線のようになる。また、バイアス電圧Vを最小値Vmin以下に設定するとともにパルス電圧Vを負に設定した場合には、電圧V(T)の波形は図22Bのグラフの実線のようになる。ここで、図22A,図22Bのグラフにおいて縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。図22A,図22Bにおいて、バイアス電圧Vが式(A)の電圧Vを満たしていれば、パルス電圧Vはどのような値でも良いが、バイアス電圧Vが式(A)の電圧Vを満たしていないと、(バイアス電圧V+パルス電圧V)が式(A)の電圧Vを満たすようにパルス電圧Vを設定する必要がある。
【0115】
図22Aのグラフにおいて、電圧V(T)の最大値が(バイアス電圧V+パルス電圧V)となっており、最小値がVとなっているが、(バイアス電圧V+パルス電圧V−中間値Vmid)が(バイアス電圧V−中間値Vmid)よりも大きい。図22Bのグラフにおいて、電圧V(T)の最大値がバイアス電圧Vとなっており、(バイアス電圧V+パルス電圧V)となっているが、(中間値Vmid−バイアス電圧V−パルス電圧V)が(中間値Vmid−バイアス電圧V)よりも大きい。
【0116】
バイアス電圧Vを最大値Vmax以上に設定するとともにパルス電圧Vを負に設定した場合には、電圧V(T)の波形は図23Aのグラフの実線のようになる。また、バイアス電圧Vを最小値Vmin以下に設定するとともにパルス電圧Vを正に設定した場合には、電圧V(T)の波形は図23Bのグラフの実線のようになる。ここで、図23A,図23Bのグラフにおいて縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。図23A,図23Bにおいて、バイアス電圧Vが式(A)の電圧Vを満たしていれば、パルス電圧Vはどのような値でも良いが、バイアス電圧Vが式(A)の電圧Vを満たしていないと、(バイアス電圧V+パルス電圧V)が式(A)の電圧Vを満たすようにパルス電圧Vを設定する必要がある。
【0117】
図23Aのグラフにおいて、電圧V(T)の最大値がバイアス電圧Vであって中間値Vmidよりも高く、電圧V(T)の最小値が(バイアス電圧V+パルス電圧V)であって中間値Vmidよりも低くなっている。また、図23Aのグラフにおいて、(バイアス電圧V−中間値Vmid)と(中間値Vmid−バイアス電圧V−パルス電圧V)のうちどちらか一方が、他方よりも大きい。一方、図23Bのグラフにおいて、電圧V(T)の最大値が(バイアス電圧V+パルス電圧V)であって中間値Vmidよりも高く、電圧V(T)の最小値がバイアス電圧Vであって中間値Vmidよりも低くなっている。また、図23Bのグラフにおいて、(バイアス電圧V+パルス電圧V−中間値Vmid)と(中間値Vmid−バイアス電圧V)のうちどちらか一方が、他方よりも大きい。
【0118】
(液体吐出機構を用いた液体吐出方法及び液体吐出機構の動作)
吐出電圧印加手段兼帯電手段204の定常電圧印加部204a及びパルス電圧印加部204bにより電圧を印加する前に絶縁性基材102の面102a内の表面電位分布を表面電位計で測定し、表面電位分布から表面電位の最大値Vmax及び最小値Vminを求める。最大値Vmax及び最小値Vminにより式(A)、(B),(C)から、バイアス電圧Vと(バイアス電圧V+パルス電圧V)のうちの少なくとも一方が式(A)の電圧Vを満たすようなバイアス電圧Vとパルス電圧Vを求める。
【0119】
基材移動機構によって絶縁性基材102を移動させつつ、ヘッド移動機構によって液体吐出ヘッド56を移動させる。なお、絶縁性基材102と液体吐出ヘッド56の両方を移動させても良いし、どちらか一方を移動させるだけでも良い。絶縁性基材102及び液体吐出ヘッド56の移動を開始するのとほぼ同時に、定常電圧印加部204aにより印加する定常電圧をバイアス電圧Vに設定してバイアス電圧Vを吐出電極58に印加する。そして、絶縁性基材102と液体吐出ヘッド56のうちの少なくとも一方を移動させている時に、所定のタイミングでパルス電圧印加部204bによってパルス電圧Vをバイアス電圧Vに重畳して吐出電極58に印加する。吐出電極58に(バイアス電圧V+パルス電圧V)が印加されると、ノズル51の先端に形成された吐出口から絶縁性基材102に向けて液体が液滴として吐出され、絶縁性基材102に着弾した液滴がドットとして形成される。このようにパルス電圧Vを印加することを繰り返しつつ絶縁性基材102及び液体吐出ヘッド56のうちの少なくとも一方を移動させているので、絶縁性基材102の面102aにはドットからなるパターンが形成される。
【0120】
また、絶縁性基材102の面102a内の或る点上をノズル51が通過する時に、その点には吐出電極58から生じた電界によって帯電し、その点の表面電位が変化する。測定時において絶縁性基材102の面102aの表面電位が位置によってばらついていても、バイアス電圧Vと(バイアス電圧V+パルス電圧V)のうちの少なくとも一方が式(A)を満たしているので、面102a内のどの点でも一定の表面電位に変化し、面102a内の表面電位分布が一様になる。そのため、液体の吐出量が一定にすることができるとともに、位置によって液体の吐出不良が生じることを防止することができる。
【0121】
〔第四の実施形態〕
次に、本発明の第四の実施形態である静電吸引型液体吐出装置としての液体吐出機構301について図24を用いて説明する。
(相違点)
図24に示すように、この液体吐出機構301も、液体吐出機構101と同様に、恒温槽41の外部で使用され、液体吐出ヘッド56を備えている。更に、この液体吐出機構301は、液体の吐出を行う時にのみに接地を基準としたパルス波である吐出電圧を吐出電極58に印加する吐出電圧印加手段304と、液体の吐出を行う前に0[V]を中心とした交流電圧を吐出電極58に印加することによって絶縁性基材102の面102aを除電する除電手段である交流電圧印加手段305と、を更に具備する。
【0122】
吐出電圧印加手段304はパルス電圧印加部304aを備え、当該パルス電圧印加部304aにより印加される吐出電圧は液体吐出ヘッド56のノズル51から液体が吐出される程の電圧であり、理論上は、次式(1)により求められる。このような吐出電圧による電界がノズル51と絶縁性基材102との間に生じ、ノズル51の吐出口から液体が吐出されるようになっている。
【数11】

ただし、γ:液体の表面張力[N/m]、ε:真空の誘電率[F/m]、d:ノズルの内部直径(吐出口の直径)[m]、h:ノズル−基材間距離[m]、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
【0123】
(液体吐出機構を用いた液体吐出方法及び液体吐出機構の動作)
まず、ノズル51に液体を供給しない状態で、吐出電圧印加手段304を作動させず、交流電圧印加手段305を作動させる。次に、交流電圧印加手段305を作動させた状態で、基材移動機構によって絶縁性基材102を移動させつつ、ヘッド移動機構によって液体吐出ヘッド56を移動させる。なお、絶縁性基材102と液体吐出ヘッド56の両方を移動させても良いし、どちらか一方を移動させるだけでも良い。
【0124】
吐出電極58に交流電圧が印加されることによって、絶縁性基材102の面102aはノズル51と対峙した部分で除電される。絶縁性基材102及び液体吐出ヘッド56のうちの少なくとも一方を移動させているので、絶縁性基材102の面102a全体が除電され、面102a内の表面電位分布が一様になる。
【0125】
次に、交流電圧印加手段305を停止させ、ヘッド移動機構及び基材移動機構も停止させる。次に、液室111及びノズル内流路113内に液体を供給する。そして、再び基材移動機構によって絶縁性基材102を移動させつつ、ヘッド移動機構によって液体吐出ヘッド56を移動させる。なお、絶縁性基材102と液体吐出ヘッド56の両方を移動させても良いし、どちらか一方を移動させるだけでも良い。そして、吐出電圧印加手段304を作動させ、絶縁性基材102と液体吐出ヘッド56のうちの少なくとも一方を移動させている時に、所定のタイミングで吐出電圧印加手段304によって吐出電圧を吐出電極58に印加する。吐出電極58に吐出電圧が印加されると、ノズル51の先端に形成された吐出口から絶縁性基材102に向けて液体が液滴として吐出され、絶縁性基材102に着弾した液滴がドットとして形成される。このように吐出電圧を印加することを繰り返しつつ絶縁性基材102及び液体吐出ヘッド56のうちの少なくとも一方を移動させているので、絶縁性基材102の面102aにはドットからなるパターンが形成される。ここで、絶縁性基材102の面102aを除電し、面102a内の表面電位分布が一様になっているので、液体の吐出量が一定にすることができるとともに、位置によって液体の吐出不良が生じることを防止することができる。
【0126】
なお、上述の説明では交流電圧印加手段305によって交流電圧を印加する対象が吐出電極58であり、吐出電極58が除電用電極を兼ねていた。しかし、ノズル51のすぐ近傍に別の除電用電極(この別の電極は針状を呈しているのが望ましい。)を設け、その除電用電極を交流電圧の対象としても良い。
また、吐出電圧印加手段304は所定のタイミングでパルス波である吐出電圧を印加するものとしたが、常時一定の吐出電圧(つまり、定常電圧)を吐出電極58に印加するものであっても良い。この場合には、吐出電圧が吐出電極58に印加され続ける限り、ノズル51から液体が吐出され続ける。
【0127】
〔第五の実施形態〕
次に、本発明の第五の実施形態である静電吸引型液体吐出装置としての液体吐出機構401について図25を用いて説明する。
(相違点)
図25に示すように、この液体吐出機構401も、前述した液体吐出機構301と同様に、液体吐出ヘッド56と、吐出電圧印加手段304とを具備する。
【0128】
また、この液体吐出機構401は、交流電圧印加手段305の代わりに、絶縁性基材102の面102aに対向配置されるとともに絶縁性基材102の面102aを除電する除電器405を更に具備する。除電器405は、液体吐出ヘッド56と一体的に移動するように設けられていても良いし、液体吐出ヘッド56とは別に、液体吐出ヘッド56による液体の吐出方向に交差する面に沿わして移動するように設けられていても良いし、移動せずに固定されていても良い。除電器405は、電界集中による空気の局所的絶縁破壊作用を利用して除電するコロナ放電方式の除電器であっても良いし、軟X線(微弱X線)の光子の非弾性散乱による光電子放出作用を利用して除電する軟X線照射方式の除電器であっても良いし、紫外線の光子吸収による電子放出作用を利用して除電する紫外線照射方式の除電器であっても良いし、放射線同位元素からのα線による電離作用を利用して除電する放射線照射方式の除電器であっても良い。除電器405がコロナ放電方式の除電器である場合、自己放電方式の除電器でも良いし、電圧を印加することによりコロナ放電を起こす電圧印加方式の除電器でも良い。また、除電器405は、除電作用に伴い気流を発生させない無風方式であると良い。ここで、コロナ放電式の除電器は、商用周波数交流型のコロナ放電式除電器ではなく、商用周波数より遙かに高い周波数(約30kHz以上)で高電圧を放電針に印加し、コロナ放電を発生させることによってプラスイオン、マイナスイオンをバランスよく多量に発生させる高周波コロナ放電式の除電器が好ましい。また、圧力空気でイオン風を絶縁性基材102に向けて飛ばすではなく、電極を絶縁性基材102に近づけることにより、イオン雰囲気を絶縁性基材102に与えることが良い。
【0129】
(液体吐出機構を用いた液体吐出方法及び液体吐出機構の動作)
まず、ノズル51に液体を供給しない状態で、吐出電圧印加手段304を作動させずに、除電器405によって絶縁性基材102の面102a全体を除電する。これにより、絶縁性基材102の面102a内の表面電位分布が一様になる。
【0130】
次に、液室111及びノズル内流路113内に液体を供給する。そして、基材移動機構によって絶縁性基材102を移動させつつ、ヘッド移動機構によって液体吐出ヘッド56を移動させる。なお、絶縁性基材102と液体吐出ヘッド56の両方を移動させても良いし、どちらか一方を移動させるだけでも良い。そして、吐出電圧印加手段304を作動させ、絶縁性基材102と液体吐出ヘッド56のうちの少なくとも一方を移動させている時に、所定のタイミングで吐出電圧印加手段304によって吐出電圧を吐出電極58に印加する。吐出電極58に吐出電圧が印加されるとノズル51と絶縁性基材102との間に電界が生じ、ノズル51の先端に形成された吐出口から絶縁性基材102に向けて液体が液滴として吐出され、絶縁性基材102に着弾した液滴がドットとして形成される。このように吐出電圧を印加することを繰り返しつつ絶縁性基材102及び液体吐出ヘッド56のうちの少なくとも一方を移動させているので、絶縁性基材102の面102aにはドットからなるパターンが形成される。ここで、絶縁性基材102の面102aを除電し、面102a内の表面電位分布が一様になっているので、液体の吐出量が一定にすることができるとともに、位置によって液体の吐出不良が生じることを防止することができる。
【0131】
なお、吐出電圧印加手段304は所定のタイミングでパルス波である吐出電圧を印加するものとしたが、常時一定の吐出電圧(つまり、定常電圧)を吐出電極58に印加するものであっても良い。この場合には、吐出電圧が吐出電極58に印加され続ける限り、ノズル51から液体が吐出され続ける。
【0132】
〔第六の実施形態〕
次に、本発明の第六の実施形態である静電吸引型液体吐出装置としての液体吐出機構501について図26を用いて説明する。
図26に示すように、この液体吐出機構501も、前述した液体吐出ヘッド56を備え、さらに、基材102の面102aの表面各位置の電位を検出するためのプローブ511を備えた検出手段としての表面電位計512と、吐出ヘッド56の吐出電極58にパルス電圧を印加するためのパルス信号を出力する信号発生器513と、信号発生器513からの出力パルス信号を所定の割合で増幅して吐出電極58に印加する増幅器514と、により検出された絶縁性基材の表面電位の最大値がVmax[V]、最小値がVmin[V]である場合、信号波形の少なくとも一部における電圧値が次式(A)のV[V]を満たす信号波形の電圧を印加するように信号発生器513に対する制御を行うコントローラ515と、プローブ511を基板102の面102aに対するサンプリングに要する複数位置に位置決めする図示しない移動機構とを備えている。
【0133】
表面電位計512は、基板102の面102aに対して離間した状態でプローブ511を向け、対応位置の微小範囲について電位の検出を行うことができる。従って、液体吐出機構501では、移動機構により微小距離単位で離間した無数に点在する検出スポットごとにプローブ511を位置決めし、各スポットごとの電位検出を行う。さらに、各スポットの検出電位はコントローラに出力される。なお、移動機構は、基材102の移動を行う移動手段と、基材と異なる方向へプローブ511を移動させる移動手段との協働により基材102の面102aの各位置にプローブを位置決めしても良いし、プローブ又は基材のみを各位置に移動させても良い。
【0134】
コントローラ515は、信号発生器を制御するプログラムが格納されたチップを供える制御回路である。コントローラ515は、表面電位計512の出力から絶縁性基材102の表面電位の最大値がVmaxと最小値がVminとを特定する。さらに、これらVmax、Vminの値から前述した数式(A),(B),(C)によりVの範囲を算出し、当該範囲を満たす一定の値であるVを特定する。かかる特定方法としては、一例として、式(A)のV≦Vmid−V|max−min|の条件からVを特定する場合にはV=Vmid−V|max−min|−aによりVを特定する(aは予め設定された定数)。
さらに、コントローラは、信号発生器513の出力信号が増幅器514により増幅されて吐出電極58に印加されるパルス電圧が算出処理により特定したVとなるように、信号発生器513の出力制御を行う。
これにより、液体吐出機構501では、表面電位分布が既知ではない絶縁性基材102に対して、予め別の工程で測定を行うことなく、適切なパルス電圧で液滴の吐出を行うことが可能となる。これにより、所望のサイズのドット形成を行うことが可能となる。さらに、そのような基材102に対して複数回の吐出を行う場合に、基材102の表面電位の影響を抑制し、より均一化されたドット形成を行うことが可能となる。
【0135】
なお、パルス電圧を出力する上述した信号発生器513に替えて、図18に示す、一定の電圧を連続的に印加するための定常電圧印加部104aを使用しても良い。
また、パルス電圧を出力する上述した信号発生器513に替えて、図20に示す、バイアス電圧とパルス電圧を重畳的に印加するための吐出電圧印加手段兼帯電手段204を使用しても良い。この場合、重畳的な電圧の値が条件式(A)を満たすようにコントローラ515が吐出電圧印加手段兼帯電手段204の制御を行うことが望ましい。
【実施例1】
【0136】
(基材の表面抵抗と液滴の着弾径のばらつきとの関係試験)
図27は基材の表面抵抗と液滴の着弾径のばらつきの変動率との関係を示す図表である。かかる試験は、露点温度6℃の環境下で、上述した液体吐出機構50と同様の構造であってガラス製、ノズル径1[μm]の吐出ノズル用いて、吐出ノズルの先端部から基材Kまでの距離を100[μm]とした状態で、ガラス製の基材Kに対して、基材Kの表面抵抗を1014,1010,10,10,10[Ω/cm]とした各条件下で吐出することにより行った。各基材Kの表面抵抗は、(1)何も塗布しない、(2)帯電防止剤コルコートP((商標)コルコート社製)、(3)帯電防止剤コルコート200((商標)コルコート社製)、(4)帯電防止剤コルコートN−103X((商標)コルコート社製)、(5)帯電防止剤コルコートSP2001((商標)コルコート社製)の塗布により調整した。
また、溶液として金属ペースト(ハリマ化成株式会社製銀ナノペースト(商標))を使用し、吐出電圧を350[V]、吐出周波数10[Hz]、50%Dutyの各条件とし、同一の矩形波で1000点の射出を行った。そして、そのときの着弾径を測定し、その直径のばらつきの変動率(標準偏差/平均値)を算出した。
上記試験によれば、基材Kの表面抵抗を10[Ω/cm]まで下げると、その変動率は急激に低減(10[Ω/cm]の場合の1/3以下)し、それ以下の表面抵抗下では着弾径が顕著に安定することが観測された。
【実施例2】
【0137】
(露点温度と基材表面電位分布と吐出電圧と液滴の着弾径のばらつきとの関係試験)
図28は露点温度と基材表面電位分布と吐出電圧と液滴の着弾径のばらつきの変動率との関係を示す図表である。かかる試験は、周囲温度23℃の環境下で、上述した液体吐出機構50と同様の構造であってガラス製、ノズル径1[μm]の吐出ノズル用いて、吐出ノズルの先端部から基材Kまでの距離を100[μm]とした状態で、ガラス製の基材Kに対して、露点温度を1,3,6,9,14,17℃(摂氏)とした各条件下で吐出することにより行った。
また、各露点温度において、表面電位計(Trek社製のModel 347)を用いてガラス製の基材Kの表面内の各点について表面電位を測定することによって表面電位分布を求めた。ここで、縦横3mm間隔で縦に100点、横に100点の格子状の計10000点について表面電位を測定した。その結果のVmax:(10000点の中の最大電位)、Vmin:(10000点の中の最小電位)、V|max−min|:(最大電位と最小電位との差の絶対値)、Vmid:(最大電位と最小電位の平均値)も図28に示すものとする。
溶液として金属ペースト(ハリマ化成株式会社製銀ナノペースト(商標))を使用し、吐出電圧V=350[V]、吐出周波数10[Hz]、50%Dutyの各条件とし、同一の矩形波で1000点の射出を行った。そして、そのときの着弾径を測定し、その直径のばらつきの変動率(標準偏差/平均値)を算出した。
上記試験によれば、露点温度が9℃まで上がると、その変動率は急撃に低減(6℃の場合の1/2)し、それ以上の露点温度下では着弾径が顕著に安定することが観測された。
即ち、これにより、露点温度を9℃以上とすることで、吐出される液滴径の安定化に著しい効果があることが示された。
次に、露点温度と電位分布と吐出電圧との関係について検証する。電位分布と吐出電圧とによる基材K側の電位分布の影響を低減するための条件が第二の実施形態以降の記載に後述されている。即ち、上述のVmax、Vmin、V|max−min|、Vmidについての条件式(A)(第二の実施形態の記載参照)の条件を満たす場合に基材K側の電位分布の影響が低減される。
露点温度1℃、3℃では、吐出電圧Vは式(A)を満たしておらず、基材K側の電位分布の影響により液滴の着弾径の変動が大きい。
また、露点温度6℃では、吐出電圧Vは式(A)を満たしているが、V/V|max−min|が5未満であり、変動が大きい。
一方、露点温度条件を満たす三つの実施例では、表面電位のバラツキが低減されて吐出電圧が式(A)を満たした状態となると共に、V/V|max−min|が5以上となる。その結果、液滴の着弾径の変動が低減される。
【実施例3】
【0138】
(露点温度と基材表面電位分布と吐出電圧と液滴の着弾径のばらつきとの関係試験)
本実施形態では、実施例2と同じ吐出ノズルを用いて、吐出電極に印加するバイアス電圧Vとパルス電圧Vの値を変えた三つのパターンにより着弾径のバラツキの比較試験を行った。かかる比較試験では、図28において良好な結果を示した露点温度14℃(摂氏)の雰囲気中において、実施例2と同じガラス基材Kに対して同じ環境及び条件で同一の試験を行った。即ち、基材の表面電位の最大値及び最小値も同一であり、溶液も同一、射出点数、周波数も同一、電位分布の検出方法も同一、着弾径の変動率の算出方法も同一とした。
試験においては、吐出電極に対してバイアス電圧Vを予め連続的に印加し続けると吐出時のみに瞬間的にバイアス電圧Vを重畳的に印加した。
第1のパターンではバイアス電圧Vを0[V]、パルス電圧Vを350[V]とし、実施例2と同じ吐出電圧V(=V+V)となるように設定した。また、第2のパターンではバイアス電圧Vを−50[V]、パルス電圧Vを350[V]とし、第3のパターンではバイアス電圧Vを−50[V]、パルス電圧Vを550[V]とした。
良好な露点温度環境下におけるバイアス電圧及びパルス電圧と液滴の着弾径のばらつきとの関係を図29に示す。かかる図29の図表では、各パターンごとのバイアス電圧V、パルス電圧V、V+V,|V+V|/V|max−min|、着弾径の変動率を示している。図29に基づいて、良好な露点温度環境下におけるバイアス電圧及びパルス電圧と液滴の着弾径のばらつきとの関係について、Vmax、Vmin、V|max−min|、Vmidとの関連も考慮して説明する。なお、Vmax、Vmin、V|max−min|、Vmidについては前述した図28における露点温度14℃(摂氏)の欄の記載を参照するものとする。
第1のパターンを標準とすると、第2のパターンではV+Vの値、即ちVの値が低減しているが、バイアス電圧VがVminを下回るため、前述した第三の実施形態の図23Bの状態に相当し、変動率が向上していることが観測された。
また、第3のパターンでは、|V+V|/V|max−min|が10以上であり、変動率が向上していることが観測された。
【実施例4】
【0139】
以下に、実施例を挙げることにより、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例4では、第二実施形態の静電吸引型液体吐出装置101を用いた。ノズル110に供給する液体として、ハリマ化成株式会社製の銀ナノペースト(商品名)を用い、ノズル110はガラス製とし、ノズル110の内部直径(吐出口112の直径)は2[μm]とし、絶縁性基材102としてガラス基板を用い、ノズル110の先端から絶縁性基材102の面102aまでの距離を100μmとした。
【0140】
次に、表面電位計(Trek社製のModel347)を用いて、絶縁性基材102として用いるガラス基板の表面内の各点について表面電位を測定することによって表面電位分布を求めた。ここで、縦横3mm間隔で縦に100点、横に100点の格子状の計10000点について表面電位を測定した。その結果、ガラス基板の表面電位の最大値Vmaxは400[V]であり、最小値Vminは100[V]であり、中間値Vmidは250[V]であり、電位差V|max−min|は300[V]であった。
【0141】
そして、吐出電圧印加手段兼帯電手段104の定常電圧印加部104aで印加する電圧Vを表1の各条件に設定し、ノズル110からガラス基板に向けて液体を吐出し、ノズル110を移動させることによって液体による線をガラス基板の表面にパターニングした。そして、ガラス基板の表面にパターンニングされた線の幅の変動を計測した。線の幅の変動も表1に示した。ここで、変動については、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)で線を観察し、線に沿った任意の点で線幅を画像処理によって計測し、線幅の平均値と、最大値又は最小値から求めた。
【0142】
【表1】

【0143】
表1からわかるように条件(a)、条件(b)では電圧Vが式(A)を満たしており、条件(a)では線幅の変動が10%と小さく、条件(b)でも線幅の変動が7%と小さかった。条件(c)では電圧Vが式(A)を満たさず、線幅の変動が55%と大きかった。このように、条件(a),(b)では液体の吐出量を一定にすることができ、位置によって液体の吐出不良が生じることを防止することができた。
【実施例5】
【0144】
実施例5では、第二実施形態の静電吸引型液体吐出装置101を用いた。ノズル110に供給する液体として、ハリマ化成株式会社製の銀ナノペースト(商品名)を用い、ノズル110はガラス製とし、ノズル110の内部直径(吐出口112の直径)は2[μm]とし、絶縁性基材102としてガラス基板を用い、ノズル110の先端から絶縁性基材102の面102aまでの距離を100μmとした。
【0145】
次に、実施例4と同様に表面電位計を用いて、絶縁性基材102として用いるガラス基板の表面内の各点について表面電位を測定することによって表面電位分布を求めた。その結果、ガラス基板の表面電位の最大値Vmaxは70[V]であり、最小値Vminは−20[V]であり、中間値Vmidは25[V]であり、電位差V|max−min|は90[V]であった。
【0146】
そして、吐出電圧印加手段兼帯電手段104の定常電圧印加部104aで印加する電圧Vを表2の各条件に設定し、ノズル110からガラス基板に向けて液体を吐出し、ノズル110を移動させることによって液体による線をガラス基板の表面にパターニングした。そして、実施例1と同様に、ガラス基板の表面にパターンニングされた線の幅の変動を計測した。線の幅の変動も表2に示した。また、Vs/V|max−min|も求め、それも表2に示した。
【0147】
【表2】

【0148】
表2からわかるように条件(d)、条件(e)、条件(f)では電圧Vが式(A)を満たしており、条件(d)では線幅の変動が6%と小さく、条件(e)では線幅の変動が3%と小さく、条件(f)では線幅の変動が1%と小さかった。また、Vs/V|max−min|が大きくなるにつれて線幅の変動が小さくなり、Vs/V|max−min|が5以上であるのが好ましく、更に10以上であるのが更に好ましいことがわかった。
【実施例6】
【0149】
実施例6では、第三実施形態の静電吸引型液体吐出装置201を用いた。ノズル110に供給する液体はハリマ化成株式会社製の銀ナノペースト(商品名)を用い、ノズル110はガラス製とし、ノズル110の内部直径(吐出口112の直径)は2[μm]とし、絶縁性基材102としてガラス基板を用い、ノズル110の先端から絶縁性基材102の面102aまでの距離を100μmとした。
【0150】
次に、実施例1と同様に表面電位計を用いて、絶縁性基材102として用いるガラス基板の表面内の各点について表面電位を測定することによって表面電位分布を求めた。その結果、ガラス基板の表面電位の最大値Vmaxは70[V]であり、最小値Vminは−20[V]であり、中間値Vmidは25[V]であり、電位差V|max−min|は90[V]であった。
【0151】
そして、吐出電圧印加手段兼帯電手段204の定常電圧印加部204aで印加するバイアス電圧Vと、パルス電圧印加部204bで印加するパルス電圧Vを表3の各条件に設定し、ノズル110を移動させつつパルス電圧Vを印加することを250回繰り返すことによってノズル110からガラス基板に向けて液体を液滴として250回吐出し、液滴によるドットをガラス基板の表面にパターニングした。そして、ガラス基板の表面にパターンニングされたドット径の変動率を求めた。ドット径の変動率も表3に示した。ここで、変動率については、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)でドットを観察し、各ドットを円形と見なしてドットの面積から直径を画像処理によって計測し、計測した直径の標準偏差及び平均値を求めて、標準偏差を平均値で除することによって求めた。
【0152】
【表3】

【0153】
表3からわかるように条件(g)、条件(h)、条件(i)、条件(j)の何れでも吐出電極107に印加される電圧の最小値であるバイアス電圧Vと、最大値である(バイアス電圧V+パルス電圧V)のうちの少なくとも一方が式(A)の電圧Vを満たしている。条件(g)ではドット径の変動率が12%と小さく、条件(h)では変動率が8%と更に小さく、条件(i)では変動率が8%と小さく、条件(j)では変動率が5%と更に小さかった。このように、条件(g)〜(j)では液体の吐出量を一定にすることができ、位置によって液体の吐出不良が生じることを防止することができた。なお、条件(g)における変動率が他の条件(h)〜条件(j)よりも大きかったのは、バイアス電圧Vが絶縁性基材102の表面電位の最小値Vminよりも大きく最大値Vmaxよりも小さかったためと考えられる。そのため、ドット径の変動率を小さくするためには、図21A,図21Bに示すような波形のパルス電圧を吐出電極107に印加するのではなく、図22A,図22B又は図23A,図23Bに示すような波形のパルス電圧を吐出電極107に印加すると良いと考えられる。また、条件(j)では(V+V)がVmidよりも大きく、VがVmidよりも小さいため、変動率が最も小さかった。
【実施例7】
【0154】
実施例7では、第三実施形態の静電吸引型液体吐出装置201を用いた。ノズル110に供給する液体はハリマ化成株式会社製の銀ナノペースト(商品名)を用い、ノズル110はガラス製とし、ノズル110の内部直径(吐出口112の直径)は2[μm]とし、絶縁性基材102としてガラス基板を用い、ノズル110の先端から絶縁性基材102の面102aまでの距離を100μmとした。
【0155】
次に、実施例4と同様に表面電位計を用いて、絶縁性基材102として用いるガラス基板の表面内の各点について表面電位を測定することによって表面電位分布を求めた。その結果、ガラス基板の表面電位の最大値Vmaxは70[V]であり、最小値Vminは−20[V]であり、中間値Vmidは25[V]であり、電位差V|max−min|は90[V]であった。
【0156】
そして、吐出電圧印加手段兼帯電手段204の定常電圧印加部204aで印加するバイアス電圧Vと、パルス電圧印加部204bで印加するパルス電圧Vを表4の各条件に設定し、ノズル110を移動させつつパルス電圧Vを印加することを250回繰り返すことによってノズル110からガラス基板に向けて液体を液滴として250回吐出し、液滴によるドットをガラス基板の表面にパターニングした。そして、ガラス基板の表面にパターンニングされたドット径の変動率を実施例3と同様に求めた。ドット径の変動率も表4に示した。また、電圧の最大値の絶対値又は最小値の絶対値(つまり、|V|又はV+V|)で大きい方と、V|max−min|との比(ここで、全て|(V+V)|/V|max−min|を求め、それも表4に示した。
【0157】
【表4】

【0158】
表4からわかるように条件(k)、条件(l)、条件(m)の何れでも吐出電極107に印加される電圧の最小値であるバイアス電圧Vと、最大値である(バイアス電圧V+パルス電圧V)のうちの少なくとも一方が式(A)の電圧Vを満たしている。条件(k)ではドット径の変動率が5%と小さく、条件(l)では変動率が2%と更に小さく、条件(m)では変動率が0.8%と更に小さかった。このように、条件(k)〜(m)では液体の吐出量を一定にすることができ、位置によって液体の吐出不良が生じることを防止することができた。また、|(V+V)|/V|max−min|が大きくなるにつれて変動率が小さくなり、|(V+V)|/V|max−min|が5以上であるのが好ましく、更に10以上であるのが更に好ましいことがわかった。
【実施例8】
【0159】
実施例8の条件(n)では、第四実施形態の静電吸引型液体吐出装置301を用いた。条件(o)、条件(p)、条件(q)、条件(r)では、第五実施形態の静電吸引型液体吐出装置401を用いた。条件(s)では、第五実施形態のような除電器405を装備していない静電吸引型液体吐出装置401を用いた。何れの条件(n)〜条件(r)でも、ノズル110に供給する液体はハリマ化成株式会社製の銀ナノペーストを用い、ノズル110はガラス製とし、ノズル110の内部直径(吐出口112の直径)は2[μm]とし、絶縁性基材102としてガラス基板を用い、ノズル110の先端から絶縁性基材102の面102aまでの距離を100μmとした。
【0160】
また、実施例4と同様に表面電位計を用いて、絶縁性基材102として用いるガラス基板の表面内の各点について表面電位を測定することによって表面電位分布を求めた。その結果、ガラス基板の表面電位の最大値Vmaxは300[V]であり、最小値Vminは−100[V]であり、中間値Vmidは100[V]であり、電位差V|max−min|は400[V]であった。
【0161】
条件(n)では、±500[V]、周波数1[kHz]の交流電圧を交流電圧印加手段305によって吐出電極107に印加しつつ、液体吐出ヘッド103をガラス基板に対して走査することによって、ガラス基板の表面全体を除電した。
【0162】
条件(o)では、除電器405として自己放電方式の除電ブラシ(アキレス株式会社制のノンスパーク)を用いた。この除電器405をガラス基板に対して走査することによって、ガラス基板の表面全体を除電した。
【0163】
条件(p)では、除電器405としてコロナ放電方式の交流電圧印加型除電器(株式会社キーエンス製のSJ−S)を用い、特に交流周波数を33[Hz]とした。この除電器405をガラス基板に対して走査することによって、ガラス基板の表面全体を除電した。
【0164】
条件(q)では、除電器405として高周波コロナ放電方式の交流電圧印加型除電器(シシド静電気株式会社製のZapp)を用い、特に交流周波数を38[kHz]とした。この除電器405をガラス基板に対して走査することによって、ガラス基板の表面全体を除電した。
【0165】
条件(r)では、除電器405として、光電離によるイオン生成方式を利用した微弱X線照射方式の除電器(浜松ホトニクス株式会社製のフォトイオナイザ)を用いた。この除電器405で微弱X線をガラス基板に照射することによって、ガラス基板の表面全体を除電した。
【0166】
条件(s)では、除電を行わなかった。
【0167】
そして、条件(n)〜条件(s)のそれぞれについて、定常電圧を吐出電極107に印加することによってノズル110からガラス基板に向けて液体を吐出し、ノズル110を移動させることによって液体による線をガラス基板の表面にパターニングした。そして、ガラス基板の表面にパターンニングされた線の幅の変動を計測した。線幅の変動の求め方については実施例1の場合と同様とした。除電方式と結果を表5に示した。
【0168】
【表5】

【0169】
表5からわかるように、条件(s)のようにガラス基板を除電しなかった場合には、線幅の変動が90%と大きかった。それに対して、条件(n)〜条件(r)のようにガラス基板を除電した場合には、線幅の変動が除電しない場合よりも小さかった。特に、条件(n)では線幅の変動が3%と小さく、条件(p)では線幅の変動が10%と小さく、条件(q)では線幅の変動が7%と小さく、条件(r)では線幅の変動が4%と小さかった。このように、条件(n)〜(r)では液体の吐出量を一定にすることができ、位置によって液体の吐出不良が生じることを防止することができた。
【0170】
[液体吐出装置の理論説明]
以下に、本発明による液体吐出の理論説明及びこれに基づく基本例の説明を行う。なお、以下に説明する理論及び基本例におけるノズルの構造、各部の素材及び吐出液体の特性、ノズル周囲に付加する構成、吐出動作に関する制御条件等全ての内容は、可能な限り上述した各実施形態中に適用しても良いことはいうまでもない。
【0171】
(印加電圧低下および微少液滴量の安定吐出実現の方策)
従前は以下の条件式により定まる範囲を超えて液滴の吐出は不可能と考えられていた。
【数12】

λは静電吸引力によりノズル先端部からの液滴の吐出を可能とするための溶液液面における成長波長(m)であり、λ=2πγh/εで求められる。
【数13】

【数14】

本発明では、静電吸引型インクジェット方式において果たすノズルの役割を再考察し、従来吐出不可能として試みられていなかった領域において、マクスウェル力などを利用することで、微小液滴を形成することができる。
このような駆動電圧低下および微少量吐出実現の方策のための吐出条件等を近似的に表す式を導出したので以下に述べる。
以下の説明は、上記各本発明の実施形態で説明した液体吐出装置に適用可能である。
いま、内径dのノズルに導電性溶液を注入し、基材としての無限平板導体からhの高さに垂直に位置させたと仮定する。この様子を図30に示す。このとき、ノズル先端部に誘起される電荷は、ノズル先端の半球部に集中すると仮定し、以下の式で近似的に表される。
【数15】

ここで、Q:ノズル先端部に誘起される電荷(C)、ε:真空の誘電率(F/m)、ε:基材の誘電率(F/m)、h:ノズル−基材間距離(m)、d:ノズル内部の直径(m)、V:ノズルに印加する総電圧(V)である。α:ノズル形状などに依存する比例定数で、1〜1.5程度の値を取り、特にd<<hのときほぼ1程度となる。
【0172】
また、基材としての基板が導体基板の場合、電荷Qによる電位を打ち消すための逆電荷が表面付近に誘起され、それらの電荷分布により、基板内の対称位置に反対の符号を持つ鏡像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。また、基板が絶縁体の場合は、基板表面で分極により逆電荷が表面側に誘起され、誘電率によって定まる対称位置に同様に反対符号の映像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。
ところで、ノズル先端部に於ける凸状メニスカスの先端部の電界強度Eloc.[V/m]は、凸状メニスカス先端部の曲率半径をR[m]と仮定すると、
【数16】

で与えられる。ここでk:比例定数で、ノズル形状などにより異なるが、1.5〜8.5程度の値をとり、多くの場合5程度と考えられる。(P.J.Birdseye and D.A.Smith,Surface Science,23(1970)198−210)。
今簡単のため、d/2=Rとする。これは、ノズル先端部に表面張力で導電性溶液がノズルの半径と同じ半径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
ノズル先端の液体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力は、ノズル先端部の液面積をS[m]とするとすると、
【数17】

(7)、(8)、(9)式よりα=1とおいて、
【数18】

と表される。
【0173】
一方、ノズル先端部に於ける液体の表面張力をPsとすると、
【数19】

ここで、γ:表面張力(N/m)、である。
静電的な力により流体の吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回る条件なので、
【数20】

となる。十分に小さいノズル直径dをもちいることで、静電的な圧力が、表面張力を上回らせる事が可能である。この関係式より、Vとdの関係を求めると、
【数21】

が吐出の最低電圧を与える。すなわち、式(6)および式(13)より、
【数22】

が、本発明の動作電圧となる。
【0174】
ある内径dのノズルに対し、吐出限界電圧Vcの依存性を前述した図9に示す。この図より、微細ノズルによる電界の集中効果を考慮すると、吐出開始電圧は、ノズル径の減少に伴い低下する事が明らかになった。
従来の電界に対する考え方、すなわちノズルに印加する電圧と対向電極間の距離によって定義される電界のみを考慮した場合では、微細ノズルになるに従い、吐出に必要な電圧は増加する。一方、局所電界強度に注目すれば、微細ノズル化により吐出電圧の低下が可能となる。
【0175】
静電吸引による吐出は、ノズル端部における流体の帯電が基本である。帯電の速度は誘電緩和によって決まる時定数程度と考えられる。
【数23】

ここで、ε:溶液の誘電率(F/m)、σ:溶液の導電率(S/m)である。溶液の比誘電率を10、導電率を10−6S/mを仮定すると、τ=1.854×10−5secとなる。あるいは、臨界周波数をfc[Hz]とすると、
【数24】

となる。このfcよりも早い周波数の電界の変化に対しては、応答できず吐出は不可能になると考えられる。上記の例について見積もると、周波数としては10kHz程度となる。このとき、ノズル半径2μm、電圧500V弱の場合、ノズル内流量Gは10−13/sと見積もることができるが、上記の例の液体の場合、10kHzでの吐出が可能なので、1周期での最小吐出量は10fl(フェムトリットル、1fl:10−15l)程度を達成できる。
【0176】
なお、各上記本実施の形態においては、図30に示したようにノズル先端部に於ける電界の集中効果と、対向基板に誘起される鏡像力の作用を特徴とする。このため、先行技術のように基板または基板支持体を導電性にすることや、これら基板または基板支持体への電圧の印加は必ずしも必要はない。すなわち、基板として絶縁性のガラス基板、ポリイミドなどのプラスチック基板、セラミックス基板、半導体基板などを用いることが可能である。
また、上記各実施形態において電極への印加電圧はプラス、マイナスのどちらでも良い。
さらに、ノズルと基材との距離は、500[μm]以下に保つことにより、溶液の吐出を容易にすることができる。また、図示しないが、ノズル位置検出によるフィードバック制御を行い、ノズルを基材に対し一定に保つようにする。
また、基材を、導電性または絶縁性の基材ホルダーに裁置して保持するようにしても良い。
【0177】
図31は、本発明の他の基本例の一例としての液体吐出装置のノズル部分の側面断面図を示したものである。ノズル1の側面部には電極15が設けられており、ノズル内溶液3との間に制御された電圧が引加される。この電極15の目的は、Electrowetting効果を制御するための電極である。十分な電場がノズルを構成する絶縁体にかかる場合この電極がなくともElectrowetting効果は起こると期待される。しかし、本基本例では、より積極的にこの電極を用いて制御することで、吐出制御の役割も果たすようにしたものである。ノズル1を絶縁体で構成し、先端部におけるノズルの管厚が1μm、ノズル内径が2μm、印加電圧が300Vの場合、約30気圧のElectrowetting効果になる。この圧力は、吐出のためには、不十分であるが溶液のノズル先端部への供給の点からは意味があり、この制御電極により吐出の制御が可能と考えられる。
【0178】
前述した図9は、本発明における吐出開始電圧のノズル径依存性を示したものである。液体吐出装置として、図12に示すものを用いた。微細ノズルになるに従い吐出開始電圧が低下し、従来より低電圧で吐出可能なことが明らかになった。
【0179】
上記各実施形態において、溶液吐出の条件は、ノズル基材間距離(h)、印加電圧の振幅(V)、印加電圧振動数(f)のそれぞれの関数になり、それぞれにある一定の条件を満たすことが吐出条件として必要になる。逆にどれか一つの条件を満たさない場合他のパラメーターを変更する必要がある。
【0180】
この様子を図32を用いて説明する。
まず吐出のためには、それ以上の電界でないと吐出しないというある一定の臨界電界Ecが存在する。この臨界電界は、ノズル径、溶液の表面張力、粘性などによって変わってくる値で、Ec以下での吐出は困難である。臨界電界Ec以上すなわち吐出可能電界強度において、ノズル基材間距離(h)と印加電圧の振幅(V)の間には、おおむね比例の関係が生じ、
ノズル間距離を縮めた場合、臨界印加電圧Vを小さくする事が出来る。
逆に、ノズル基材間距離(h)を極端に離し、印加電圧Vを大きくした場合、仮に同じ電界強度を保ったとしても、コロナ放電による作用などによって、流体液滴の破裂すなわちバーストが生じてしまう。
【産業上の利用可能性】
【0181】
以上のように、本発明に係る液体吐出装置、液体吐出方法は、グラフィック用途としての通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、金属板等)への印刷、又は、液体状又はペースト状の導電性物質による配線、アンテナ等のパターニング塗布、加工用途としての粘着剤、封止剤等の塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような場合)、遺伝子診断用試料等の塗布等において、各用途に応じた液体の吐出に適している。
また、回路基板の配線パターン形成方法は、回路基板のパターニングに適している。
【符号の説明】
【0182】
35,104,204,304 電圧印加手段
51 ノズル
56 吐出ヘッド
58 吐出電極
70 空調機(吐出雰囲気調節手段)
10 液体吐出装置
101,201,301,401,501 液体吐出機構(液体吐出装置)
102,K 基材
104,204 帯電手段
305 交流電圧印加手段
405 除電器
512 表面電位計(表面電位検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、
前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記液滴の吐出を受ける絶縁性素材からなる基材と、
前記液体吐出ヘッドの吐出を行う雰囲気を、露点温度9度(摂氏9度[℃])以上であって水の飽和温度未満に維持する吐出雰囲気調節手段と、
を備える液体吐出装置。
【請求項2】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、
前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
絶縁性素材からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲の表面抵抗が10[Ω/cm]以下である基材と、
を有する液体吐出装置。
【請求項3】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、
前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
絶縁性素材からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲に表面抵抗を10[Ω/cm]以下とする表面処理層を設けた基材と、
を有する液体吐出装置。
【請求項4】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、
前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
絶縁性素材からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲に、界面活性剤の塗布により形成された表面処理層を設けた基材と、
を有する液体吐出装置。
【請求項5】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、
前記液滴の吐出を受ける絶縁性基材の表面電位の最大値をVmax[V]、最小値をVmin[V]とした場合、信号波形の少なくとも一部における電圧値が次式(A)のV[V]を満たす信号波形の電圧を前記吐出電極に印加する電圧印加手段と、
を備える液体吐出装置。
【数25】

但し、V|max−min|[V]を次式(B)で定め、Vmid[V]を次式(C)で定める。
【数26】

【数27】

【請求項6】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、
前記液滴の吐出を受ける絶縁性基材の表面電位の検出手段と、
前記検出手段により検出された絶縁性基材の表面電位の最大値がVmax[V]、最小値がVmin[V]である場合、信号波形の少なくとも一部における電圧値が次式(A)のV[V]を満たす信号波形の電圧を印加する前記電圧印加手段と、
を備える液体吐出装置。
【数28】

但し、V|max−min|[V]を次式(B)で定め、Vmid[V]を次式(C)で定める。
【数29】

【数30】

【請求項7】
前記電圧印加手段により出力される信号波形が前記式(A)のVを満たす一定の電位を維持する波形である請求の範囲第5項又は第6項記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記電圧印加手段による出力される信号波形がパルス電圧の波形であり、そのパルス電圧の最大値、最小値のうち少なくとも一方が前記式(A)のVを満たす請求の範囲第5項又は第6項記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記電圧印加手段により印加されるパルス電圧の最大値がVmidよりも大きく、前記電圧印加手段により印加されるパルス電圧の最小値がVmidよりも小さいという条件を満たす請求の範囲第8項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記電圧印加手段により印加されるパルス電圧の最大値とVmidの差と、Vmidと前記電圧印加手段により印加されるパルス電圧の最小値の差とのうち、一方の差が他方の差よりも大きいという条件を満たす請求の範囲第5項又は第6項に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、
前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記液滴の吐出を受ける絶縁性基材に対向して配置され、当該絶縁性基材を除電する除電器と、
を有する液体吐出装置。
【請求項12】
前記除電器は、前記液滴の吐出を受ける絶縁性基材に対向して配置される除電用電極であり、
前記除電用電極に交流電圧を印加する交流電圧印加手段を有する請求の範囲第11項記載の液体吐出装置。
【請求項13】
前記吐出電極と前記除電用電極とを同じ電極で共用する請求の範囲第12項記載の液体吐出装置。
【請求項14】
前記除電器がコロナ放電方式の除電器である請求の範囲第11項記載の液体吐出装置。
【請求項15】
前記除電器が光を前記絶縁性基材に照射することによって前記絶縁性基材を除電する除電器である請求の範囲第11項に記載の液体吐出装置。
【請求項16】
前記ノズルの内部直径が20[μm]以下である請求の範囲第1項から第15項のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項17】
前記ノズルの内部直径が8[μm]以下である請求の範囲第16項記載の液体吐出装置。
【請求項18】
前記ノズルの内部直径が4[μm]以下である請求の範囲第17項記載の液体吐出装置。
【請求項19】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、
露点温度9度(摂氏9度[℃])以上であって水の飽和温度未満に維持された雰囲気中で、絶縁性材料からなる基材に対して前記液滴の吐出を行う液体吐出方法。
【請求項20】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、
絶縁性材料からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲について、表面抵抗10[Ω/cm]以下とした基材に対して前記液滴の吐出を行う液体吐出方法。
【請求項21】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、
絶縁性材料からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲について、表面抵抗を10[Ω/cm]以下とする表面処理層を設けた基材に対して前記液滴の吐出を行う液体吐出方法。
【請求項22】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、
絶縁性材料からなり、少なくとも液滴の吐出を受ける範囲について、界面活性剤の塗布を行うことにより表面処理層を設けた基材に対して前記液滴の吐出を行う液体吐出方法。
【請求項23】
絶縁性素材からなる基材の表面の少なくとも帯電した溶液の液滴の吐出を受ける範囲について界面活性剤の塗布により表面処理層を形成し、
ノズル内の溶液に吐出電圧を印加すると共に前記ノズルの先端部から前記基材の表面処理層に前記液滴を吐出し、
前記吐出された液滴が乾燥、固化した後に当該液滴が付着した部分を除いて表面処理層を除去する液体吐出方法。
【請求項24】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、
前記絶縁性基材の表面電位の最大値をVmax[V]、最小値をVmin[V]とした場合に、信号波形の少なくとも一部における電圧値が次式(A)のV[V]を満たす電圧を前記吐出電極に印加することによって前記液滴を吐出させる液体吐出方法。
【数31】

但し、V|max−min|[V]を次式(B)で定め、Vmid[V]を次式(C)で定める。
【数32】

【数33】

【請求項25】
前記吐出電極に電圧を印加する前に、前記絶縁性基材の表面電位分布を計測して前記最大値をVmax[V]と前記最小値をVmin[V]とを求める請求の範囲第24項に記載の液体吐出方法。
【請求項26】
前記吐出電極に印加する電圧の信号波形が、前記式(A)のVを満たす一定の電位を維持する波形である請求の範囲第24項又は第25項に記載の液体吐出方法。
【請求項27】
前記吐出電極に印加する電圧の信号波形がパルス電圧の波形であり、そのパルス電圧の最大値、最小値のうち少なくとも一方が前記式(A)のVを満たす請求の範囲第24項又は第25項に記載の液体吐出方法。
【請求項28】
前記パルス電圧の最大値がVmidよりも大きく、最小値がVmidよりも小さいという条件を満たす請求の範囲第27項に記載の液体吐出方法。
【請求項29】
前記パルス電圧の最大値とVmidの差と、Vmidと前記パルス電圧の最小値の差とのうち、一方の差が他方の差よりも大きい請求の範囲第27項又は第28項に記載の液体吐出方法。
【請求項30】
帯電した溶液の液滴を先端部から吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに設けられ、前記液滴を吐出させるための電界を生じさせる電圧が印加される吐出電極と、前記吐出電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備える液体吐出装置を用いて、
前記吐出電極に吐出電圧を印加して前記液滴の吐出を行う前に、前記絶縁性基材を除電する液体吐出方法。
【請求項31】
前記絶縁性基材に対向して配置した除電用電極に交流電圧を印加することにより、前記絶縁性基材の除電を行う請求の範囲第30項記載の液体吐出方法。
【請求項32】
前記除電用電極を前記吐出電極と共用する請求の範囲第31項に記載の液体吐出方法。
【請求項33】
コロナ放電方式の除電器で前記絶縁性基材の除電を行う請求の範囲第30項に記載の液体吐出方法。
【請求項34】
光を前記絶縁性基材に照射する除電器で前記絶縁性基材の除電を行う請求の範囲第30項に記載の液体吐出方法。
【請求項35】
前記吐出口の直径が20[μm]以下である請求の範囲第19項から第34項のいずれか一項に記載の液体吐出方法。
【請求項36】
前記吐出口の直径が8[μm]以下である請求の範囲第35項に記載の液体吐出方法。
【請求項37】
前記吐出口の直径が4[μm]以下である請求の範囲第36項に記載の液体吐出方法。
【請求項38】
請求の範囲第19項から第37項のいずれか一に記載の液体の吐出方法を用いて、前記基材に金属ペーストからなる液滴の吐出を行う回路基板の配線パターン形成方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【国際公開番号】WO2005/014289
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512920(P2005−512920)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010828
【国際出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】