液体噴射装置
【課題】フラッシング動作によるインクの消費を削減する。
【解決手段】複数の単位噴射部Uの各々は、インクが充填された圧力室50と、圧力室50に連通するノズル56と、圧力室50内の圧力を変動させる圧電振動子422とを含んで構成され、圧力室50内の圧力の変動に応じてノズル56からインクを噴射する。制御部60は、印刷期間TPRにて圧力室50に付与される微振動の有無を制御する一方、印刷期間TPRで微振動が付与された単位噴射部Uのフラッシング動作によるインクの噴射量FL1が、印刷期間TPRで微振動が付与されない単位噴射部Uのフラッシング動作によるインクの噴射量FL2を上回るように、各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させる。
【解決手段】複数の単位噴射部Uの各々は、インクが充填された圧力室50と、圧力室50に連通するノズル56と、圧力室50内の圧力を変動させる圧電振動子422とを含んで構成され、圧力室50内の圧力の変動に応じてノズル56からインクを噴射する。制御部60は、印刷期間TPRにて圧力室50に付与される微振動の有無を制御する一方、印刷期間TPRで微振動が付与された単位噴射部Uのフラッシング動作によるインクの噴射量FL1が、印刷期間TPRで微振動が付与されない単位噴射部Uのフラッシング動作によるインクの噴射量FL2を上回るように、各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子や発熱素子等の圧力発生素子により圧力室内の圧力を変化させることで圧力室内の液体(例えばインク)をノズルから噴射する液体噴射技術が従来から提案されている。また、例えば特許文献1や特許文献2には、強制的に各ノズルから液体を噴射するフラッシング動作でノズルの目詰まり等を防止する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−117993号公報
【特許文献2】特開2003−001857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フラッシング動作で所期の効果を実現するために必要な液体の噴射量は、圧力室内の液体の特性(典型的には粘度)に応じて変化する。しかし、特許文献1や特許文献2の技術では、フラッシング動作による液体の噴射量が一定に維持されるから、圧力室内の液体がフラッシング動作により必要以上に消費される可能性がある。以上の事情を考慮して、本発明は、フラッシング動作による液体の噴射量を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために本発明が採用する手段を説明する。なお、本発明の理解を容易にするために、以下の説明では、本発明の要素と後述の実施形態の要素との対応を括弧書で付記するが、本発明の範囲を実施形態の例示に限定する趣旨ではない。
【0006】
本発明の液体噴射装置は、液体が充填された圧力室(例えば圧力室50)と、圧力室に連通するノズル(例えばノズル56)と、圧力室内の圧力を変動させる圧力発生素子(例えば圧電振動子422)とを各々が含み、圧力室内の圧力の変動に応じて圧力室内の液体を各ノズルから噴射する複数の単位噴射部(例えば単位噴射部U)と、強度可変の微振動が圧力室に付与されるように各単位噴射部を制御する微振動制御手段(例えば制御部60)と、第1強度の微振動が付与された圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量(例えばフラッシング噴射量FL1)が、第1強度を下回る第2強度の微振動が付与された圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量(例えばフラッシング噴射量FL2)を上回るように、各単位噴射部にフラッシング動作を実行させるフラッシング制御手段(例えば制御部60)とを具備する。
【0007】
以上の構成においては、各単位噴射部のフラッシング動作による液体の噴射量(フラッシング噴射量)が微振動の強度(微振動の有無を含む)に応じて可変に制御される。したがって、微振動の強度に関わらずフラッシング噴射量が所定値に固定される構成と比較して、フラッシング動作の所期の効果を維持しながらフラッシング動作に起因したインクの消費量を削減することが可能である。なお、以上の説明では第1強度および第2強度のみに言及したが、本発明の範囲は、微振動の強度を第1強度および第2強度の2種類のみから択一的に設定する構成には限定されない。すなわち、微振動の強度が3種類以上から選択され得る構成であっても、3種類のうち2種類の強度を第1強度および第2強度として把握した場合に前述の要件を充足する構成は当然の本発明の範囲に包含される。
【0008】
本発明の好適な態様において、微振動制御手段は、第1強度および第2強度の何れかの微振動が各圧力室に付与されるように各単位噴射部を制御し、第2強度は、微振動の停止(オフ)に相当する。以上の態様においては、圧力室に対する微振動の付与の有無(オン/オフ)が制御されるから、圧力室に実際に付与される微振動の強弱を制御する場合と比較して微振動の制御が簡素化されるという利点がある。微振動を停止させる方法としては、圧力発生素子に供給される電位を所定値に維持する方法や、圧力発生素子に対する電位の供給を停止することで微振動を停止する方法が採用され得るが、消費電力の低減という観点からすると後者の方法が好適である。
【0009】
本発明の好適な態様において、微振動制御手段は、各単位噴射部の液体の噴射の要否を印刷データに応じて判定し、液体の噴射が必要な単位噴射部については液体の噴射または圧力室に対する微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、液体の噴射が不要な単位噴射部については第2強度の微振動の付与を実行させる。以上の態様においては、第1強度の微振動を付与する単位噴射部と第2強度の微振動を付与する単位噴射部とを印刷データに応じて単位噴射部毎に個別に設定できるという利点がある。なお、以上の態様の具体例は例えば第1実施形態として後述される。
【0010】
本発明の好適な態様において、複数の単位噴射部は第1群(例えば第1群G1)と第2群(例えば第2群G2)とに区分され、第1群および第2群の双方の各単位噴射部から液体を噴射する第1動作モード(例えばカラー印刷モード)と、第1群の各単位噴射部から液体を噴射するとともに第2群の各単位噴射部による液体の噴射を停止させる第2動作モード(例えばモノクロ印刷モード)との何れかを選択する動作モード制御手段を具備し、微振動制御手段は、動作モード制御手段が第1動作モードを選択した場合、第1群および第2群の双方の各単位噴射部について、液体の噴射または圧力室に対する第1強度の微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、動作モード制御手段が第2動作モードを選択した場合、第1群の各単位噴射部について、液体の噴射または圧力室に対する第1強度の微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、かつ、第2群の各ノズルに対応する単位噴射部について、圧力室に対する第2強度の微振動の付与を実行させる。以上の態様においては、第1強度の微振動を付与する単位噴射部と第2強度の微振動を付与する単位噴射部とを動作モードに応じて区別できるという利点がある。なお、以上の態様の具体例は例えば第2実施形態として後述される。
【0011】
本発明は、液体が充填された圧力室(例えば圧力室50)と、圧力室に連通するノズル(例えばノズル56)と、圧力室内の圧力を変動させる圧力発生素子(例えば圧電振動子422)とを各々が含み、圧力室内の圧力の変動に応じて圧力室内の液体を各ノズルから噴射する複数の単位噴射部(例えば単位噴射部U)を制御するためのプログラムとしても実現される。本発明のプログラムは、強度可変の微振動が圧力室に付与されるように各単位噴射部を制御する微振動制御処理と、第1強度の微振動が付与された圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量(例えばフラッシング噴射量FL1)が、第1強度を下回る第2強度の微振動が付与された圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量(例えばフラッシング噴射量FL2)を上回るように、各単位噴射部にフラッシング動作を実行させるフラッシング制御処理とをコンピュータ(例えば制御装置102)に実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の部分的な模式図である。
【図2】記録ヘッドの吐出面の平面図である。
【図3】記録ヘッドの断面図である。
【図4】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図5】駆動信号の波形図である。
【図6】フラッシング動作のタイミングの説明図である。
【図7】記録ヘッドの電気的な構成のブロック図である。
【図8】間欠時間と着弾位置誤差との関係を示すグラフである。
【図9】間欠時間とフラッシング動作による必要噴射量との関係を示すグラフである。
【図10】第3実施形態における駆動信号の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、微細な液滴状のインクを記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、キャリッジ12と移動機構14と用紙搬送機構16とキャップ18とを具備する。
【0014】
キャリッジ12には、インクカートリッジ22と記録ヘッド24とが搭載される。インクカートリッジ22は、記録紙200に噴射されるインク(液体)を貯留する容器である。記録ヘッド24は、インクカートリッジ22に貯留されたインクを記録紙200に噴射する液体吐出部として機能する。なお、印刷装置100の筐体(図示略)にインクカートリッジ22を固定して記録ヘッド24にインクを供給する構成も採用され得る。
【0015】
図2は、記録ヘッド24のうち記録紙200に対向する吐出面26の平面図である。図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面26には、相異なるインク色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))に対応する複数のノズル群28(28K,28Y,28M,28C)が形成される。各ノズル群28は、副走査方向に直線状に配列された複数のノズル(吐出口)56の集合である。ノズル群28Kの各ノズル56からはブラック(K)のインクが吐出される。同様に、ノズル群28Yの各ノズル56からはイエロー(Y)のインクが吐出され、ノズル群28Mの各ノズル56からはマゼンタ(M)のインクが吐出され、ノズル群28Cの各ノズル56からはシアン(C)のインクが吐出される。なお、各ノズル56を千鳥状に配列した構成も好適である。
【0016】
図1の移動機構14は、案内軸122に沿ってキャリッジ12を主走査方向(記録紙200の幅方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダ等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。用紙搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200を副走査方向に移動させる。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド24が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。
【0017】
移動機構14は、吐出面26が記録紙200に対向する範囲の外側の位置(以下「待避位置」という)まで記録ヘッド24を移動させることが可能である。待避位置にある記録ヘッド24の吐出面26に対向するようにキャップ18が配置される。キャップ18は、記録ヘッド24の吐出面26を封止する。キャップ18の近傍には吐出面26を払拭するワイパー(図示略)が配置される。
【0018】
図3は、記録ヘッド24の断面図(主走査方向に垂直な断面)である。図3に示すように、記録ヘッド24は、振動ユニット42と収容体44と流路ユニット46とを具備する。振動ユニット42は、圧電振動子422とケーブル424と固定板426と含んで構成される。圧電振動子422は、圧電材料と電極とが交互に積層された縦振動型の圧電素子であり、ケーブル424を介して供給される駆動信号に応じて振動する。圧電振動子422を固定した固定板426が収容体44の内壁面に接合された状態で振動ユニット42は収容体44に収容される。
【0019】
流路ユニット46は、相互に対向する基板462と基板464との間隙に流路形成板466を介挿した構造体である。基板462のうち基板464とは反対側の表面が図2の吐出面26に相当する。流路形成板466は、圧力室50と供給路52と貯留室54とを含む空間を基板462と基板464との間隙に形成する。圧力室50は、振動ユニット42毎に隔壁で個別に区画されるとともに供給路52を介して貯留室54に連通する。インクカートリッジ22から供給されるインクは貯留室54に貯留される。図2の各ノズル56は、各圧力室50に対応するように基板462に形成される。各ノズル56は、圧力室50に連通する貫通孔である。以上の説明から理解されるように、貯留室54から供給路52と圧力室50とノズル56とを経由して外部に至るインクの流路が形成される。
【0020】
基板464は、弾性材料で形成された平板材である。基板464のうち圧力室50の反対側の領域には島状の振動板48が形成される。振動板48には圧電振動子422の先端面(自由端)が接合される。したがって、駆動信号の供給により圧電振動子422が振動すると、振動板48を介して基板464が変位することで圧力室50の容積が変化して圧力室50内のインクの圧力が変動する。すなわち、圧電振動子422は、圧力室50内の圧力を変動させる圧力発生素子として機能する。以上に説明した圧力室50内の圧力の変動に応じてノズル56からインクを噴射することが可能である。すなわち、圧電振動子422と圧力室50とノズル56とで構成される要素は、インクを噴射する単位(以下「単位噴射部U」という)として機能する。
【0021】
図4は、印刷装置100の電気的な構成のブロック図である。図4に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部60と記憶部62と駆動信号発生部64と外部I/F(interface)66と内部I/F68とを含んで構成される。記録紙200に印刷される画像を示す印刷データDPが外部装置(例えばホストコンピュータ)300から外部I/F66に供給され、内部I/F68には印刷処理部104が接続される。印刷処理部104は、制御装置102による制御のもとで記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の記録ヘッド24と移動機構14と用紙搬送機構16とを含んで構成される。
【0022】
駆動信号発生部64は、駆動信号COM1および駆動信号COM2を生成する。駆動信号COM1および駆動信号COM2の各々は、各圧電振動子422を駆動する周期信号である。図5に示すように、駆動信号COM1の1周期(記録周期)内には、噴射パルスPD1と微振動パルスPS1とが配置され、駆動信号COM2の1周期内には駆動停止要素PS0と噴射パルスPD2とが配置される。
【0023】
噴射パルスPD1および噴射パルスPD2の各々は、圧電振動子422に供給された場合に所定量のインクがノズル56から噴射するように圧力室50を振動させる駆動パルスである。具体的には、噴射パルスPD1および噴射パルスPD2の各々は、図5に示すように、所定の基準電位VREFから高位側(圧力室50を減圧させる方向)に電位が変化する区間d1と、基準電位VREFから低位側に電位が変化する区間d2と、高位側に電位が変化して基準電位VREFに復帰する区間d3とを含んで構成される。なお、噴射パルスPD1と噴射パルスPD2とで波形を相違させた構成も採用され得る。
【0024】
駆動信号COM1の微振動パルスPS1は、圧電振動子422に供給された場合に圧力室50内のインクがノズル56から吐出されない程度の圧力の変化(以下「微振動」という)を圧力室50内に付与する駆動パルスである。具体的には、微振動パルスPS1は、図5に示すように、所定の基準電位VREFから高位側の電位VH1まで電位が変化する区間p1と、区間p1の終端の電位VH1を維持する区間p2と、電位が低位側に変化して基準電位VREFに復帰する区間p3とを含んで構成される。ただし、微振動パルスPS1の波形は適宜に変更される。他方、駆動信号COM2の駆動停止要素PS0は、図5に示すように、電位が基準電位VREFに維持される区間である。したがって、駆動停止要素PS0の供給で圧電振動子422の振動は停止する。
【0025】
図4の記憶部62は、制御プログラム等を記憶するROMと、画像の印刷に必要な各種のデータを一時的に記憶するRAMとを含んで構成される。制御部60は、記憶部62に記憶された制御プログラムの実行で印刷装置100の各要素(例えば印刷処理部104)を統括的に制御する。
【0026】
図6に示すように、印刷装置100の動作期間は、印刷期間TPRと紙間期間TFLとに区分される。印刷期間TPRは、例えば1枚の記録紙200に画像を形成する期間である。紙間期間TFLは、相前後する各印刷期間TPRの合間の期間(すなわち、1枚の記録紙200に対する画像の記録が完了してから次の記録紙200に対する画像の記録が開始するまでの期間)である。印刷期間TPRと紙間期間TFLとは時間軸上に交互に設定される。
【0027】
図4の制御部60は、記録紙200に対するインクの噴射で印刷データDPに応じた画像を記録紙200に記録する動作を各印刷期間TPRにて記録ヘッド24に実行させる。具体的には、制御部60は、外部装置300から外部I/F66に供給される印刷データDPを利用して印刷期間TPR毎に制御データDCを生成する。制御データDCは、各単位噴射部Uの動作を指示するデータである。
【0028】
具体的には、制御部60は、各印刷期間TPR内でのインクの噴射の要否を印刷データDPの解析で単位噴射部U毎に判定する。そして、印刷期間TPR内で少なくとも1度のインクの噴射が必要な単位噴射部Uについて、制御部60は、印刷データDPに応じた階調値(すなわちインクの噴射/非噴射)を指示する制御データDCを生成する。他方、印刷期間TPR内で1度もインクを噴射する必要がない単位噴射部Uについて、制御部60は、単位噴射部Uの駆動停止を指示する制御データDCを生成する。駆動停止は、ノズル56からのインクの噴射も圧力室50に対する微振動の付与も実行しないことを意味する。すなわち、制御部60は、圧力室50に対する微振動の付与の有無を制御する手段(微振動制御手段)として機能する。
【0029】
また、制御部60は、記録ヘッド24にフラッシング動作を実行させる手段(フラッシング制御手段)としても機能する。フラッシング動作は、記録ヘッド24を待避位置(キャップ18上)に移動させた状態で各単位噴射部Uに強制的にインクを噴射させる動作である。フラッシング動作で各ノズル56から噴射されたインクは待避位置のキャップ18に受容される。制御部60は、図6の各紙間期間TFLにて記録ヘッド24にフラッシング動作を実行させる。以上のようにフラッシング動作を周期的に実行することで各ノズル56の目詰まりや圧力室50内への気泡の侵入が解消される。
【0030】
図7は、記録ヘッド24の電気的な構成の模式図である。図7に示すように、記録ヘッド24は、相異なる単位噴射部Uに対応する複数の駆動回路32を含んで構成される。駆動信号発生部64が生成した駆動信号COM1および駆動信号COM2は、内部I/F68を介して複数の駆動回路32に共通に供給される。また、制御部60が生成した制御データDCは内部I/F68を介して各駆動回路32に供給される。
【0031】
各駆動回路32は、制御部60から供給される制御データDCに応じた区間を駆動信号COM1または駆動信号COM2から選択して圧電振動子422に供給する。具体的には、インクの噴射を必要とする階調値を制御データDCが指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COM1の噴射パルスPD1と駆動信号COM2の噴射パルスPD2とを選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50内のインクがノズル56から記録紙200に噴射される。他方、インクの噴射を必要としない階調値を制御データDCが指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COM1の微振動パルスPS1を選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50内に微振動が付与され、圧力室50内のインクは噴射されずに適度に撹拌される。
【0032】
また、制御データDCが駆動停止を指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COM2の駆動停止要素PS0を選択して圧電振動子422に供給する。したがって、単位噴射部Uは、インクの噴射も微振動もせずに静止する。すなわち、圧力室50内のインクは撹拌されない。
【0033】
図8は、微振動パルスPS1の供給で圧力室50に付与される微振動の効果を説明するためのグラフである。図8の横軸は、単位噴射部Uが最後にインクを噴射してから経過した時間(間欠時間)を意味し、図8の縦軸は、単位噴射部Uから噴射されたインクが実際に着弾する位置と目標の位置との距離(着弾位置誤差)を意味する。図8には、微振動パルスPS1の区間p2の電位(波高値)VH1を変化させた複数の場合について間欠時間と着弾位置誤差との関係が図示されている。
【0034】
圧力室50内のインクは、ノズル56内に露出する表面(メニスカス)からの水分の蒸発等に起因して局所的に増粘する。インクの増粘が進行するほど、単位噴射部Uから噴射されるインクの速度は低下するから、着弾位置誤差は、圧力室50内のインクの増粘の程度の指標(増粘が進行するほど着弾位置誤差が増加する)として把握される。図8から理解されるように、間欠時間が長期化するほど圧力室50内のインクの増粘が進行して結果的に着弾位置誤差が増加する。
【0035】
微振動パルスPS1の供給で圧力室50内に微振動を付与すると、圧力室50内のインクが撹拌される。したがって、圧力室50内のインクのうちノズル56の近傍の増粘した成分(以下「増粘成分」という)は圧力室50内で拡散する。以上に説明した増粘成分の拡散で着弾位置誤差(局所的な増粘)は低減される。図8に示すように、微振動パルスPS1の電位VH1が高い(すなわち圧力室50内に付与される微振動の強度が高い)ほど着弾位置誤差の低減の効果は顕著となる。すなわち、微振動の強度が高いほど増粘成分が圧力室50内の広範囲に拡散するという傾向が図8から把握される。
【0036】
図9は、間欠時間(横軸)とフラッシング動作で要求されるインクの噴射量との関係を示すグラフである。図9の縦軸は、インクの増粘に起因した着弾位置誤差をフラッシング動作で充分に抑制する(理想的に着弾位置誤差をゼロにする)ために必要な噴射量(以下「必要噴射量」という)を意味する。間欠時間が長いほどインクの増粘は進行するから、図9から理解されるように必要噴射量は増加する。
【0037】
図9には、圧力室50に微振動を付与した場合(実線)と微振動を付与しない場合(破線)との各々について間欠時間と必要噴射量との関係が図示されている。前述の通り、微振動の強度が高いほど、インクの増粘成分は圧力室50内の広範囲に拡散する。そして、増粘成分の分布が広範囲に拡散するほど、フラッシング動作で増粘成分を充分に噴射するために必要なインクの吐出量(必要噴射量)は増加する。例えば図9から把握されるように、圧力室50内に微振動を付与した場合の必要噴射量(例えばFL1)は、微振動を付与しない場合の必要噴射量(例えばFL2)を上回る。すなわち、微振動の強度が高いほどフラッシング動作による必要噴射量が増加するという傾向が把握される。
【0038】
以上の傾向を背景として、制御部60(フラッシング制御手段)は、各紙間期間TFL内におけるフラッシング動作でのインクの噴射量(以下「フラッシング噴射量」という)が、直前の印刷期間TPRでの各単位噴射部Uの微振動の有無(強弱)に応じて変化するように、紙間期間TFL毎に各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させる。具体的には、制御部60は、直前の印刷期間TPRにて駆動停止が指示された単位噴射部U(すなわち印刷期間TPRにて微振動が付与されない単位噴射部U)からのフラッシング噴射量FL2が、印刷期間TPRにて微振動が付与された単位噴射部U(すなわち印刷期間TPR内に1度でもインクを噴射した単位噴射部U)からのフラッシング噴射量FL1を下回るように、制御部60は記録ヘッド24(各単位噴射部U)を制御する。フラッシング噴射量FL1およびフラッシング噴射量FL2は、図9に示すように、間欠時間を印刷期間TPRの時間長とした場合の必要噴射量(例えば着弾位置誤差をゼロに低減するための噴射量)に設定される。
【0039】
制御部60は、インクの噴射を指示する制御データDCを各駆動回路32に供給することで、各紙間期間TFLにて各単位噴射部Uにフラッシング動作(すなわち、噴射パルスPD1および噴射パルスPD2の選択)を実行させる。制御データDCの供給により紙間期間TFL内でインクを噴射させる回数を直前の印刷期間TPRでの微振動の有無に応じて設定することで、各単位噴射部Uからのフラッシング噴射量が印刷期間TPRでの微振動の有無に応じて可変に制御される。
【0040】
以上に説明した第1実施形態においては、各単位噴射部Uのフラッシング噴射量が、印刷期間TPRでの微振動の有無(すなわち増粘成分の拡散の有無)に応じて可変に制御される。具体的には、印刷期間TPRで微振動が付与されない(すなわち微振動に起因した増粘成分の拡散が発生しない)単位噴射部Uからのフラッシング噴射量FL2が、微振動を付与した(すなわち増粘成分が圧力室50内で拡散した)単位噴射部Uからのフラッシング噴射量FL1を下回るように設定される。したがって、例えば微振動の有無(強度)に関わらず各単位噴射部Uがフラッシング噴射量FL1のインクを噴射する構成と比較してフラッシング動作によるインクの消費量が削減される。また、例えば微振動の有無に関わらず各単位噴射部Uがフラッシング噴射量FL2のインクを噴射する構成と比較して、微振動で圧力室50内に拡散した増粘成分を充分に噴射することが可能である。すなわち、第1実施形態によれば、フラッシング動作の所期の効果(ノズル56の目詰まりや圧力室50への気泡の侵入の解消)を充分に維持しながら、フラッシング動作に起因したインクの消費量を削減できるという利点がある。
【0041】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各態様において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0042】
図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面26に形成された複数のノズル56は、モノクロ印刷(グレースケール印刷)およびカラー印刷の双方に使用される第1群G1と、カラー印刷のみに使用される第2群G2とに区分される。具体的には、ブラック(K)のインクに対応するノズル群28Kの各ノズル56は第1群G1に区分され、カラーのインクを噴射するノズル群28Yとノズル群28Mとノズル群28Cとの各々の各ノズル56は第2群G2に区分される。
【0043】
第2実施形態の制御部60は、印刷装置100の動作モードをカラー印刷モードとモノクロ印刷モードとの何れかに設定する手段(動作モード制御手段)として機能する。カラー印刷モード(第1動作モードの例示)は、第1群G1および第2群G2の双方の各ノズル56を利用してカラー画像を記録紙200に記録する動作モードであり、モノクロ印刷モード(第2動作モードの例示)は、第1群G1の各ノズル56のみを利用してモノクロ画像を記録紙200に記録する動作モードである。外部装置300は、例えば利用者からの指示に応じた動作モードを制御部60に指示する。制御部60は、外部装置300から指示された動作モード(カラー印刷モード/モノクロ印刷モード)を選択する。
【0044】
カラー印刷モードを選択した場合、制御部60は、第1群G1および第2群G2の双方の各単位噴射部U(全部の単位噴射部U)について、印刷データDPに応じた階調値(すなわちインクの噴射/非噴射)を指示する制御データDCを生成する。したがって、印刷期間TPRでは、第1群G1および第2群G2の双方の各単位噴射部Uにおいて、記録紙200に対するインクの噴射または圧力室50に対する微振動の付与が実行される。
【0045】
他方、モノクロ印刷モードでは、第2群G2の各単位噴射部Uによるインクの噴射は停止する。したがって、制御部60は、第1群G1の各単位噴射部Uについて、印刷データDPに応じた階調値を指示する制御データDCを生成し、第2群G2の各単位噴射部Uについては、駆動停止を指示する制御データDCを生成する。したがって、印刷期間TPRにおいては、第1群G1の各単位噴射部Uにて記録紙200に対するインクの噴射または圧力室50に対する微振動の付与が実行され、第2群G2の各単位噴射部Uでは、記録紙200に対するインクの噴射も微振動の付与も実行されない。
【0046】
制御部60は、第1実施形態と同様に、各紙間期間TFL内におけるフラッシング噴射量が印刷期間TPRでの各単位噴射部Uの微振動の有無に応じて変化するように、紙間期間TFL毎に各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させる。具体的には、カラー印刷モードの紙間期間TFLにおいて、制御部60は、第1群G1および第2群G2の双方の各単位噴射部Uからフラッシング噴射量FL1のインクが噴射されるように、各単位噴射部Uのフラッシング動作を制御する。他方、モノクロ印刷モードの紙間期間TFLにおいて、制御部60は、直前の印刷期間TPRで微振動が付与された第1群G1の各単位噴射部Uからフラッシング噴射量FL1のインクが噴射され、かつ、直前の印刷期間TPRで微振動が付与されない第2群G2の各単位噴射部Uからフラッシング噴射量FL2(FL2<FL1)のインクが噴射されるように、各単位噴射部Uのフラッシング動作を制御する。
【0047】
すなわち、第1実施形態では、圧力室50内の微振動の有無およびフラッシング噴射量が印刷データDPに応じて設定されるのに対し、第2実施形態では、圧力室50内の微振動の有無およびフラッシング噴射量が動作モード(カラー印刷モード/モノクロ印刷モード)に応じて設定される。以上に説明した第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態では、動作モードに応じて微振動の有無およびフラッシング噴射量が設定されるから、圧力室50内の微振動の有無およびフラッシング噴射量が印刷データDPに応じて単位噴射部U毎に設定される第1実施形態と比較して制御部60の処理が簡素化されるという利点がある。
【0048】
<C:第3実施形態>
第1実施形態では、印刷期間TPRにて1度もインクを噴射しない単位噴射部Uについて微振動を停止した。第3実施形態の制御部60は、印刷期間TPRで1度もインクを噴射しない単位噴射部Uの圧力室50に、印刷期間TPRでインクを噴射する単位噴射部Uに付与される微振動と比較して強度が弱い微振動を付与する。
【0049】
図10は、第3実施形態における駆動信号COM1および駆動信号COM2の波形図である。図10に示すように、駆動信号COM1は、第1実施形態と同様に噴射パルスPD1と微振動パルスPS1とを含んで構成される。他方、駆動信号COM2は、第1実施形態の駆動停止要素PS0を微振動パルスPS2に置換した波形であり、微振動パルスPS2と噴射パルスPD2とを含んで構成される。
【0050】
駆動信号COM2の微振動パルスPS2は、駆動信号COM1の微振動パルスPS1と同様に区間p1と区間p2と区間p3とを含む台形状の波形である。ただし、微振動パルスPS2の供給で圧力室50に付与される微振動の強度(パワーや振幅)σ2は、微振動パルスPS1の供給で圧力室50に付与される微振動の強度σ1を下回る(σ2<σ1)。具体的には、微振動パルスPS2の区間p2の電位VH2は微振動パルスPS1の区間p2の電位VH1を下回り、微振動パルスPS2の区間p1や区間p3の勾配は微振動パルスPS1の区間p1や区間p3の勾配と比較して緩慢である。駆動停止を指示する制御データDCが供給された場合(すなわち印刷期間TPRにて単位噴射部Uがインクを噴射しない場合)、駆動回路32は、駆動信号COM2の微振動パルスPS2を選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50には強度σ2の微振動が付与される。
【0051】
図9を参照して説明した通り、微振動の強度が高いほど必要フラッシング量は増加する。そこで、制御部60(フラッシング制御手段)は、各紙間期間TFL内でのフラッシング噴射量が、直前の印刷期間TPRで各単位噴射部Uに付与された微振動の強度に応じて変化するように各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させる。すなわち、制御部60は、直前の印刷期間TPRにて強度σ2の微振動を付与した単位噴射部U(すなわち印刷期間TPR内に1度もインクを噴射しない単位噴射部U)のフラッシング噴射量(FL2)が、印刷期間TPRにて強度σ1の微振動を付与した単位噴射部U(印刷期間TPRにてインクを噴射する単位噴射部U)のフラッシング噴射量(FL1)を下回るように、各単位噴射部Uのフラッシング噴射量を制御する。
【0052】
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態では、印刷期間TPR内でインクを噴射しない単位噴射部Uにも強度σ2の微振動が付与されるから、圧力室50内のインクの増粘を有効に防止できるという利点がある。なお、以上の説明では、第1実施形態を基礎とした構成を例示したが、第2実施形態にも同様の構成を適用することが可能である。すなわち、動作モード(モノクロ印刷モード/カラー印刷モード)に応じて強度が相違する微振動を各圧力室50に付与する構成が採用され得る。
【0053】
以上の各形態の例示から理解されるように、制御部60(微振動制御手段)は、各圧力室50に付与される微振動の強度を可変に制御する要素として包括され、微振動の強度という概念は、微振動の強弱(第3実施形態)と微振動の有無(第1実施形態)との双方を含意する。すなわち、第1強度と第1強度を下回る第2強度とを含む複数の強度の何れかに微振動の強度が可変に設定される場合を想定すると、第2強度は、実際に圧力室50内に圧力の変動を発生させる範囲内で第1強度を下回る強度と、圧力室50内に圧力の変動を発生させない強度(すなわち微振動の停止(オフ)に相当する強度ゼロ)との双方を包含する。
【0054】
<D:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0055】
(1)変形例1
第1実施形態および第2実施形態では、印刷期間TPR内でインクを噴射しない単位噴射部U(圧電振動子422)に駆動信号COM2の駆動停止要素PS0(基準電位VREF)を供給することで圧力室50の微振動を停止したが、微振動を停止させる方法は任意である。例えば、圧電振動子422に対する基準電位VREFの供給を停止する(すなわち、圧電振動子422と駆動信号COM1および駆動信号COM2の供給線とを電気的に絶縁する)ことで圧力室50の微振動を停止する構成も採用され得る。以上の構成では、基準電位VREFの供給を含む単位噴射部Uの駆動が不要であるから、印刷期間TPR内でインクを噴射しない単位噴射部Uについては制御データDCの供給も省略され得る。したがって、制御部60の構成や処理が簡素化されるとともに消費電力が削減されるという利点がある。
【0056】
(2)変形例2
以上の各形態では、1枚の記録紙200に画像を形成する期間を印刷期間TPRとして各印刷期間TPRの合間の紙間期間TFLにフラッシング動作を実行したが、フラッシング動作の周期は任意である。例えば、記録紙200にインクを噴射しながらキャリッジ12が所定回にわたり往復する期間(すなわち記録紙200に画像の一部分を形成する期間)を印刷期間TPRとして各印刷期間TPRの合間にフラッシング動作を実行する構成も採用され得る。また、フラッシング動作が実行される位置は、吐出面26が記録紙200に対向する範囲の外側の待避位置に限定されない。例えば、吐出面26が記録紙200に対向する範囲内にある状態でフラッシング動作を実行する構成も採用され得る。フラッシング動作で記録紙200に噴射されたインクは、印刷データDPに応じて噴射される本来のインクと比較して充分に少ないから、実際には殆ど知覚されない。
【0057】
(3)変形例3
以上の各形態では、複数系統の駆動信号(COM1,COM2)を記録ヘッド24に供給したが、1系統の駆動信号のみを各圧電振動子422の駆動に使用する構成や3系統以上の駆動信号を各圧電振動子422の駆動に使用する構成も採用され得る。1系統の駆動信号を使用する構成では、例えば、噴射パルスPD1と微振動パルスPS1と駆動停止要素PS0(または微振動パルスPS2)とが時系列に配列された駆動信号が記録ヘッド24に供給される。
【0058】
また、駆動信号の各パルス(PD1,PD2,PS1,PS2)の波形は任意である。例えば、図5や図10に例示した台形状のパルスには限定されず、例えば矩形状のパルスを採用することも可能である。駆動信号の微振動パルス(PS1,PS2)の波形は、圧力室50内のインクがノズル56から吐出されない程度にインク(メニスカス)を揺動させる波形であれば、図5や図10の例示に限定されることなく任意に変更され得る。
【0059】
(4)変形例4
以上の各形態では、印刷期間TPRで各単位噴射部Uにインクを噴射させる駆動信号(COM1,COM2)を紙間期間TFL内のフラッシング動作にも流用したが、各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させるために専用される駆動信号を、印刷期間TPRで使用される駆動信号(COM1,COM2)とは別個に生成する構成も採用され得る。
【0060】
(5)変形例5
印刷期間TPR(間欠時間)の時間長は、印刷データDPが示す画像の内容や印刷の条件(例えば解像度や印刷品質)等に応じて変化する。他方、図9を参照して説明したように必要噴射量は間欠時間に応じて変化する。そこで、印刷期間TPRでインクを噴射しない単位噴射部U(すなわち微振動が付与されない単位噴射部Uまたは強度σ2の微振動が付与される単位噴射部U)のフラッシング噴射量を、直前の印刷期間TPRの時間長に応じて可変に設定する構成も採用され得る。例えば、図9から理解されるように間欠時間が長いほど必要噴射量は増加するから、印刷期間TPRの時間長が長いほど紙間期間TFLでのフラッシング噴射量が増加するように制御部60が各単位噴射部Uのフラッシング動作を制御する構成が好適である。
【0061】
(6)変形例6
以上の各形態では縦振動型の圧電振動子422を例示したが、圧力室50内の圧力を変化させる要素(圧力発生素子)の構成は以上の例示に限定されない。例えば、例えば撓み振動型の圧電振動子422や静電アクチュエータ等の振動体を利用することも可能である。また、本発明の圧力発生素子は、圧力室50に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室50の加熱で気泡を発生させて圧力室50内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生素子として利用することも可能である。すなわち、本発明の圧力発生素子は、圧力室50内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0062】
(7)変形例7
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルタを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物科学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。
【0063】
また、以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12が主走査方向に移動するシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙の幅方向の全域にわたって複数のノズルが配列するように主走査方向に長尺状に構成されたライン型の記録ヘッドを利用した印刷装置にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
100……印刷装置、12……キャリッジ、14……移動機構、16……用紙搬送機構、18……キャップ、22……インクカートリッジ、24……記録ヘッド、32……駆動回路、42……振動ユニット、422……圧電振動子、46……流路ユニット、462,464……基板、466……流路形成板、48……振動板、50……圧力室、52……供給路、54……貯留室、56……ノズル、102……制御装置、104……印刷処理部、60……制御部、62……記憶部、64……駆動信号発生部、66……外部I/F、68……内部I/F、200……記録紙、300……外部装置、COM1,COM2……駆動信号、PD1,PD2……噴射パルス、PS1,PS2……微振動パルス、PS0……駆動停止要素。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子や発熱素子等の圧力発生素子により圧力室内の圧力を変化させることで圧力室内の液体(例えばインク)をノズルから噴射する液体噴射技術が従来から提案されている。また、例えば特許文献1や特許文献2には、強制的に各ノズルから液体を噴射するフラッシング動作でノズルの目詰まり等を防止する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−117993号公報
【特許文献2】特開2003−001857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フラッシング動作で所期の効果を実現するために必要な液体の噴射量は、圧力室内の液体の特性(典型的には粘度)に応じて変化する。しかし、特許文献1や特許文献2の技術では、フラッシング動作による液体の噴射量が一定に維持されるから、圧力室内の液体がフラッシング動作により必要以上に消費される可能性がある。以上の事情を考慮して、本発明は、フラッシング動作による液体の噴射量を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために本発明が採用する手段を説明する。なお、本発明の理解を容易にするために、以下の説明では、本発明の要素と後述の実施形態の要素との対応を括弧書で付記するが、本発明の範囲を実施形態の例示に限定する趣旨ではない。
【0006】
本発明の液体噴射装置は、液体が充填された圧力室(例えば圧力室50)と、圧力室に連通するノズル(例えばノズル56)と、圧力室内の圧力を変動させる圧力発生素子(例えば圧電振動子422)とを各々が含み、圧力室内の圧力の変動に応じて圧力室内の液体を各ノズルから噴射する複数の単位噴射部(例えば単位噴射部U)と、強度可変の微振動が圧力室に付与されるように各単位噴射部を制御する微振動制御手段(例えば制御部60)と、第1強度の微振動が付与された圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量(例えばフラッシング噴射量FL1)が、第1強度を下回る第2強度の微振動が付与された圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量(例えばフラッシング噴射量FL2)を上回るように、各単位噴射部にフラッシング動作を実行させるフラッシング制御手段(例えば制御部60)とを具備する。
【0007】
以上の構成においては、各単位噴射部のフラッシング動作による液体の噴射量(フラッシング噴射量)が微振動の強度(微振動の有無を含む)に応じて可変に制御される。したがって、微振動の強度に関わらずフラッシング噴射量が所定値に固定される構成と比較して、フラッシング動作の所期の効果を維持しながらフラッシング動作に起因したインクの消費量を削減することが可能である。なお、以上の説明では第1強度および第2強度のみに言及したが、本発明の範囲は、微振動の強度を第1強度および第2強度の2種類のみから択一的に設定する構成には限定されない。すなわち、微振動の強度が3種類以上から選択され得る構成であっても、3種類のうち2種類の強度を第1強度および第2強度として把握した場合に前述の要件を充足する構成は当然の本発明の範囲に包含される。
【0008】
本発明の好適な態様において、微振動制御手段は、第1強度および第2強度の何れかの微振動が各圧力室に付与されるように各単位噴射部を制御し、第2強度は、微振動の停止(オフ)に相当する。以上の態様においては、圧力室に対する微振動の付与の有無(オン/オフ)が制御されるから、圧力室に実際に付与される微振動の強弱を制御する場合と比較して微振動の制御が簡素化されるという利点がある。微振動を停止させる方法としては、圧力発生素子に供給される電位を所定値に維持する方法や、圧力発生素子に対する電位の供給を停止することで微振動を停止する方法が採用され得るが、消費電力の低減という観点からすると後者の方法が好適である。
【0009】
本発明の好適な態様において、微振動制御手段は、各単位噴射部の液体の噴射の要否を印刷データに応じて判定し、液体の噴射が必要な単位噴射部については液体の噴射または圧力室に対する微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、液体の噴射が不要な単位噴射部については第2強度の微振動の付与を実行させる。以上の態様においては、第1強度の微振動を付与する単位噴射部と第2強度の微振動を付与する単位噴射部とを印刷データに応じて単位噴射部毎に個別に設定できるという利点がある。なお、以上の態様の具体例は例えば第1実施形態として後述される。
【0010】
本発明の好適な態様において、複数の単位噴射部は第1群(例えば第1群G1)と第2群(例えば第2群G2)とに区分され、第1群および第2群の双方の各単位噴射部から液体を噴射する第1動作モード(例えばカラー印刷モード)と、第1群の各単位噴射部から液体を噴射するとともに第2群の各単位噴射部による液体の噴射を停止させる第2動作モード(例えばモノクロ印刷モード)との何れかを選択する動作モード制御手段を具備し、微振動制御手段は、動作モード制御手段が第1動作モードを選択した場合、第1群および第2群の双方の各単位噴射部について、液体の噴射または圧力室に対する第1強度の微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、動作モード制御手段が第2動作モードを選択した場合、第1群の各単位噴射部について、液体の噴射または圧力室に対する第1強度の微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、かつ、第2群の各ノズルに対応する単位噴射部について、圧力室に対する第2強度の微振動の付与を実行させる。以上の態様においては、第1強度の微振動を付与する単位噴射部と第2強度の微振動を付与する単位噴射部とを動作モードに応じて区別できるという利点がある。なお、以上の態様の具体例は例えば第2実施形態として後述される。
【0011】
本発明は、液体が充填された圧力室(例えば圧力室50)と、圧力室に連通するノズル(例えばノズル56)と、圧力室内の圧力を変動させる圧力発生素子(例えば圧電振動子422)とを各々が含み、圧力室内の圧力の変動に応じて圧力室内の液体を各ノズルから噴射する複数の単位噴射部(例えば単位噴射部U)を制御するためのプログラムとしても実現される。本発明のプログラムは、強度可変の微振動が圧力室に付与されるように各単位噴射部を制御する微振動制御処理と、第1強度の微振動が付与された圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量(例えばフラッシング噴射量FL1)が、第1強度を下回る第2強度の微振動が付与された圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量(例えばフラッシング噴射量FL2)を上回るように、各単位噴射部にフラッシング動作を実行させるフラッシング制御処理とをコンピュータ(例えば制御装置102)に実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の部分的な模式図である。
【図2】記録ヘッドの吐出面の平面図である。
【図3】記録ヘッドの断面図である。
【図4】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図5】駆動信号の波形図である。
【図6】フラッシング動作のタイミングの説明図である。
【図7】記録ヘッドの電気的な構成のブロック図である。
【図8】間欠時間と着弾位置誤差との関係を示すグラフである。
【図9】間欠時間とフラッシング動作による必要噴射量との関係を示すグラフである。
【図10】第3実施形態における駆動信号の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、微細な液滴状のインクを記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、キャリッジ12と移動機構14と用紙搬送機構16とキャップ18とを具備する。
【0014】
キャリッジ12には、インクカートリッジ22と記録ヘッド24とが搭載される。インクカートリッジ22は、記録紙200に噴射されるインク(液体)を貯留する容器である。記録ヘッド24は、インクカートリッジ22に貯留されたインクを記録紙200に噴射する液体吐出部として機能する。なお、印刷装置100の筐体(図示略)にインクカートリッジ22を固定して記録ヘッド24にインクを供給する構成も採用され得る。
【0015】
図2は、記録ヘッド24のうち記録紙200に対向する吐出面26の平面図である。図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面26には、相異なるインク色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))に対応する複数のノズル群28(28K,28Y,28M,28C)が形成される。各ノズル群28は、副走査方向に直線状に配列された複数のノズル(吐出口)56の集合である。ノズル群28Kの各ノズル56からはブラック(K)のインクが吐出される。同様に、ノズル群28Yの各ノズル56からはイエロー(Y)のインクが吐出され、ノズル群28Mの各ノズル56からはマゼンタ(M)のインクが吐出され、ノズル群28Cの各ノズル56からはシアン(C)のインクが吐出される。なお、各ノズル56を千鳥状に配列した構成も好適である。
【0016】
図1の移動機構14は、案内軸122に沿ってキャリッジ12を主走査方向(記録紙200の幅方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダ等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。用紙搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200を副走査方向に移動させる。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド24が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。
【0017】
移動機構14は、吐出面26が記録紙200に対向する範囲の外側の位置(以下「待避位置」という)まで記録ヘッド24を移動させることが可能である。待避位置にある記録ヘッド24の吐出面26に対向するようにキャップ18が配置される。キャップ18は、記録ヘッド24の吐出面26を封止する。キャップ18の近傍には吐出面26を払拭するワイパー(図示略)が配置される。
【0018】
図3は、記録ヘッド24の断面図(主走査方向に垂直な断面)である。図3に示すように、記録ヘッド24は、振動ユニット42と収容体44と流路ユニット46とを具備する。振動ユニット42は、圧電振動子422とケーブル424と固定板426と含んで構成される。圧電振動子422は、圧電材料と電極とが交互に積層された縦振動型の圧電素子であり、ケーブル424を介して供給される駆動信号に応じて振動する。圧電振動子422を固定した固定板426が収容体44の内壁面に接合された状態で振動ユニット42は収容体44に収容される。
【0019】
流路ユニット46は、相互に対向する基板462と基板464との間隙に流路形成板466を介挿した構造体である。基板462のうち基板464とは反対側の表面が図2の吐出面26に相当する。流路形成板466は、圧力室50と供給路52と貯留室54とを含む空間を基板462と基板464との間隙に形成する。圧力室50は、振動ユニット42毎に隔壁で個別に区画されるとともに供給路52を介して貯留室54に連通する。インクカートリッジ22から供給されるインクは貯留室54に貯留される。図2の各ノズル56は、各圧力室50に対応するように基板462に形成される。各ノズル56は、圧力室50に連通する貫通孔である。以上の説明から理解されるように、貯留室54から供給路52と圧力室50とノズル56とを経由して外部に至るインクの流路が形成される。
【0020】
基板464は、弾性材料で形成された平板材である。基板464のうち圧力室50の反対側の領域には島状の振動板48が形成される。振動板48には圧電振動子422の先端面(自由端)が接合される。したがって、駆動信号の供給により圧電振動子422が振動すると、振動板48を介して基板464が変位することで圧力室50の容積が変化して圧力室50内のインクの圧力が変動する。すなわち、圧電振動子422は、圧力室50内の圧力を変動させる圧力発生素子として機能する。以上に説明した圧力室50内の圧力の変動に応じてノズル56からインクを噴射することが可能である。すなわち、圧電振動子422と圧力室50とノズル56とで構成される要素は、インクを噴射する単位(以下「単位噴射部U」という)として機能する。
【0021】
図4は、印刷装置100の電気的な構成のブロック図である。図4に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部60と記憶部62と駆動信号発生部64と外部I/F(interface)66と内部I/F68とを含んで構成される。記録紙200に印刷される画像を示す印刷データDPが外部装置(例えばホストコンピュータ)300から外部I/F66に供給され、内部I/F68には印刷処理部104が接続される。印刷処理部104は、制御装置102による制御のもとで記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の記録ヘッド24と移動機構14と用紙搬送機構16とを含んで構成される。
【0022】
駆動信号発生部64は、駆動信号COM1および駆動信号COM2を生成する。駆動信号COM1および駆動信号COM2の各々は、各圧電振動子422を駆動する周期信号である。図5に示すように、駆動信号COM1の1周期(記録周期)内には、噴射パルスPD1と微振動パルスPS1とが配置され、駆動信号COM2の1周期内には駆動停止要素PS0と噴射パルスPD2とが配置される。
【0023】
噴射パルスPD1および噴射パルスPD2の各々は、圧電振動子422に供給された場合に所定量のインクがノズル56から噴射するように圧力室50を振動させる駆動パルスである。具体的には、噴射パルスPD1および噴射パルスPD2の各々は、図5に示すように、所定の基準電位VREFから高位側(圧力室50を減圧させる方向)に電位が変化する区間d1と、基準電位VREFから低位側に電位が変化する区間d2と、高位側に電位が変化して基準電位VREFに復帰する区間d3とを含んで構成される。なお、噴射パルスPD1と噴射パルスPD2とで波形を相違させた構成も採用され得る。
【0024】
駆動信号COM1の微振動パルスPS1は、圧電振動子422に供給された場合に圧力室50内のインクがノズル56から吐出されない程度の圧力の変化(以下「微振動」という)を圧力室50内に付与する駆動パルスである。具体的には、微振動パルスPS1は、図5に示すように、所定の基準電位VREFから高位側の電位VH1まで電位が変化する区間p1と、区間p1の終端の電位VH1を維持する区間p2と、電位が低位側に変化して基準電位VREFに復帰する区間p3とを含んで構成される。ただし、微振動パルスPS1の波形は適宜に変更される。他方、駆動信号COM2の駆動停止要素PS0は、図5に示すように、電位が基準電位VREFに維持される区間である。したがって、駆動停止要素PS0の供給で圧電振動子422の振動は停止する。
【0025】
図4の記憶部62は、制御プログラム等を記憶するROMと、画像の印刷に必要な各種のデータを一時的に記憶するRAMとを含んで構成される。制御部60は、記憶部62に記憶された制御プログラムの実行で印刷装置100の各要素(例えば印刷処理部104)を統括的に制御する。
【0026】
図6に示すように、印刷装置100の動作期間は、印刷期間TPRと紙間期間TFLとに区分される。印刷期間TPRは、例えば1枚の記録紙200に画像を形成する期間である。紙間期間TFLは、相前後する各印刷期間TPRの合間の期間(すなわち、1枚の記録紙200に対する画像の記録が完了してから次の記録紙200に対する画像の記録が開始するまでの期間)である。印刷期間TPRと紙間期間TFLとは時間軸上に交互に設定される。
【0027】
図4の制御部60は、記録紙200に対するインクの噴射で印刷データDPに応じた画像を記録紙200に記録する動作を各印刷期間TPRにて記録ヘッド24に実行させる。具体的には、制御部60は、外部装置300から外部I/F66に供給される印刷データDPを利用して印刷期間TPR毎に制御データDCを生成する。制御データDCは、各単位噴射部Uの動作を指示するデータである。
【0028】
具体的には、制御部60は、各印刷期間TPR内でのインクの噴射の要否を印刷データDPの解析で単位噴射部U毎に判定する。そして、印刷期間TPR内で少なくとも1度のインクの噴射が必要な単位噴射部Uについて、制御部60は、印刷データDPに応じた階調値(すなわちインクの噴射/非噴射)を指示する制御データDCを生成する。他方、印刷期間TPR内で1度もインクを噴射する必要がない単位噴射部Uについて、制御部60は、単位噴射部Uの駆動停止を指示する制御データDCを生成する。駆動停止は、ノズル56からのインクの噴射も圧力室50に対する微振動の付与も実行しないことを意味する。すなわち、制御部60は、圧力室50に対する微振動の付与の有無を制御する手段(微振動制御手段)として機能する。
【0029】
また、制御部60は、記録ヘッド24にフラッシング動作を実行させる手段(フラッシング制御手段)としても機能する。フラッシング動作は、記録ヘッド24を待避位置(キャップ18上)に移動させた状態で各単位噴射部Uに強制的にインクを噴射させる動作である。フラッシング動作で各ノズル56から噴射されたインクは待避位置のキャップ18に受容される。制御部60は、図6の各紙間期間TFLにて記録ヘッド24にフラッシング動作を実行させる。以上のようにフラッシング動作を周期的に実行することで各ノズル56の目詰まりや圧力室50内への気泡の侵入が解消される。
【0030】
図7は、記録ヘッド24の電気的な構成の模式図である。図7に示すように、記録ヘッド24は、相異なる単位噴射部Uに対応する複数の駆動回路32を含んで構成される。駆動信号発生部64が生成した駆動信号COM1および駆動信号COM2は、内部I/F68を介して複数の駆動回路32に共通に供給される。また、制御部60が生成した制御データDCは内部I/F68を介して各駆動回路32に供給される。
【0031】
各駆動回路32は、制御部60から供給される制御データDCに応じた区間を駆動信号COM1または駆動信号COM2から選択して圧電振動子422に供給する。具体的には、インクの噴射を必要とする階調値を制御データDCが指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COM1の噴射パルスPD1と駆動信号COM2の噴射パルスPD2とを選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50内のインクがノズル56から記録紙200に噴射される。他方、インクの噴射を必要としない階調値を制御データDCが指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COM1の微振動パルスPS1を選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50内に微振動が付与され、圧力室50内のインクは噴射されずに適度に撹拌される。
【0032】
また、制御データDCが駆動停止を指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COM2の駆動停止要素PS0を選択して圧電振動子422に供給する。したがって、単位噴射部Uは、インクの噴射も微振動もせずに静止する。すなわち、圧力室50内のインクは撹拌されない。
【0033】
図8は、微振動パルスPS1の供給で圧力室50に付与される微振動の効果を説明するためのグラフである。図8の横軸は、単位噴射部Uが最後にインクを噴射してから経過した時間(間欠時間)を意味し、図8の縦軸は、単位噴射部Uから噴射されたインクが実際に着弾する位置と目標の位置との距離(着弾位置誤差)を意味する。図8には、微振動パルスPS1の区間p2の電位(波高値)VH1を変化させた複数の場合について間欠時間と着弾位置誤差との関係が図示されている。
【0034】
圧力室50内のインクは、ノズル56内に露出する表面(メニスカス)からの水分の蒸発等に起因して局所的に増粘する。インクの増粘が進行するほど、単位噴射部Uから噴射されるインクの速度は低下するから、着弾位置誤差は、圧力室50内のインクの増粘の程度の指標(増粘が進行するほど着弾位置誤差が増加する)として把握される。図8から理解されるように、間欠時間が長期化するほど圧力室50内のインクの増粘が進行して結果的に着弾位置誤差が増加する。
【0035】
微振動パルスPS1の供給で圧力室50内に微振動を付与すると、圧力室50内のインクが撹拌される。したがって、圧力室50内のインクのうちノズル56の近傍の増粘した成分(以下「増粘成分」という)は圧力室50内で拡散する。以上に説明した増粘成分の拡散で着弾位置誤差(局所的な増粘)は低減される。図8に示すように、微振動パルスPS1の電位VH1が高い(すなわち圧力室50内に付与される微振動の強度が高い)ほど着弾位置誤差の低減の効果は顕著となる。すなわち、微振動の強度が高いほど増粘成分が圧力室50内の広範囲に拡散するという傾向が図8から把握される。
【0036】
図9は、間欠時間(横軸)とフラッシング動作で要求されるインクの噴射量との関係を示すグラフである。図9の縦軸は、インクの増粘に起因した着弾位置誤差をフラッシング動作で充分に抑制する(理想的に着弾位置誤差をゼロにする)ために必要な噴射量(以下「必要噴射量」という)を意味する。間欠時間が長いほどインクの増粘は進行するから、図9から理解されるように必要噴射量は増加する。
【0037】
図9には、圧力室50に微振動を付与した場合(実線)と微振動を付与しない場合(破線)との各々について間欠時間と必要噴射量との関係が図示されている。前述の通り、微振動の強度が高いほど、インクの増粘成分は圧力室50内の広範囲に拡散する。そして、増粘成分の分布が広範囲に拡散するほど、フラッシング動作で増粘成分を充分に噴射するために必要なインクの吐出量(必要噴射量)は増加する。例えば図9から把握されるように、圧力室50内に微振動を付与した場合の必要噴射量(例えばFL1)は、微振動を付与しない場合の必要噴射量(例えばFL2)を上回る。すなわち、微振動の強度が高いほどフラッシング動作による必要噴射量が増加するという傾向が把握される。
【0038】
以上の傾向を背景として、制御部60(フラッシング制御手段)は、各紙間期間TFL内におけるフラッシング動作でのインクの噴射量(以下「フラッシング噴射量」という)が、直前の印刷期間TPRでの各単位噴射部Uの微振動の有無(強弱)に応じて変化するように、紙間期間TFL毎に各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させる。具体的には、制御部60は、直前の印刷期間TPRにて駆動停止が指示された単位噴射部U(すなわち印刷期間TPRにて微振動が付与されない単位噴射部U)からのフラッシング噴射量FL2が、印刷期間TPRにて微振動が付与された単位噴射部U(すなわち印刷期間TPR内に1度でもインクを噴射した単位噴射部U)からのフラッシング噴射量FL1を下回るように、制御部60は記録ヘッド24(各単位噴射部U)を制御する。フラッシング噴射量FL1およびフラッシング噴射量FL2は、図9に示すように、間欠時間を印刷期間TPRの時間長とした場合の必要噴射量(例えば着弾位置誤差をゼロに低減するための噴射量)に設定される。
【0039】
制御部60は、インクの噴射を指示する制御データDCを各駆動回路32に供給することで、各紙間期間TFLにて各単位噴射部Uにフラッシング動作(すなわち、噴射パルスPD1および噴射パルスPD2の選択)を実行させる。制御データDCの供給により紙間期間TFL内でインクを噴射させる回数を直前の印刷期間TPRでの微振動の有無に応じて設定することで、各単位噴射部Uからのフラッシング噴射量が印刷期間TPRでの微振動の有無に応じて可変に制御される。
【0040】
以上に説明した第1実施形態においては、各単位噴射部Uのフラッシング噴射量が、印刷期間TPRでの微振動の有無(すなわち増粘成分の拡散の有無)に応じて可変に制御される。具体的には、印刷期間TPRで微振動が付与されない(すなわち微振動に起因した増粘成分の拡散が発生しない)単位噴射部Uからのフラッシング噴射量FL2が、微振動を付与した(すなわち増粘成分が圧力室50内で拡散した)単位噴射部Uからのフラッシング噴射量FL1を下回るように設定される。したがって、例えば微振動の有無(強度)に関わらず各単位噴射部Uがフラッシング噴射量FL1のインクを噴射する構成と比較してフラッシング動作によるインクの消費量が削減される。また、例えば微振動の有無に関わらず各単位噴射部Uがフラッシング噴射量FL2のインクを噴射する構成と比較して、微振動で圧力室50内に拡散した増粘成分を充分に噴射することが可能である。すなわち、第1実施形態によれば、フラッシング動作の所期の効果(ノズル56の目詰まりや圧力室50への気泡の侵入の解消)を充分に維持しながら、フラッシング動作に起因したインクの消費量を削減できるという利点がある。
【0041】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各態様において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0042】
図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面26に形成された複数のノズル56は、モノクロ印刷(グレースケール印刷)およびカラー印刷の双方に使用される第1群G1と、カラー印刷のみに使用される第2群G2とに区分される。具体的には、ブラック(K)のインクに対応するノズル群28Kの各ノズル56は第1群G1に区分され、カラーのインクを噴射するノズル群28Yとノズル群28Mとノズル群28Cとの各々の各ノズル56は第2群G2に区分される。
【0043】
第2実施形態の制御部60は、印刷装置100の動作モードをカラー印刷モードとモノクロ印刷モードとの何れかに設定する手段(動作モード制御手段)として機能する。カラー印刷モード(第1動作モードの例示)は、第1群G1および第2群G2の双方の各ノズル56を利用してカラー画像を記録紙200に記録する動作モードであり、モノクロ印刷モード(第2動作モードの例示)は、第1群G1の各ノズル56のみを利用してモノクロ画像を記録紙200に記録する動作モードである。外部装置300は、例えば利用者からの指示に応じた動作モードを制御部60に指示する。制御部60は、外部装置300から指示された動作モード(カラー印刷モード/モノクロ印刷モード)を選択する。
【0044】
カラー印刷モードを選択した場合、制御部60は、第1群G1および第2群G2の双方の各単位噴射部U(全部の単位噴射部U)について、印刷データDPに応じた階調値(すなわちインクの噴射/非噴射)を指示する制御データDCを生成する。したがって、印刷期間TPRでは、第1群G1および第2群G2の双方の各単位噴射部Uにおいて、記録紙200に対するインクの噴射または圧力室50に対する微振動の付与が実行される。
【0045】
他方、モノクロ印刷モードでは、第2群G2の各単位噴射部Uによるインクの噴射は停止する。したがって、制御部60は、第1群G1の各単位噴射部Uについて、印刷データDPに応じた階調値を指示する制御データDCを生成し、第2群G2の各単位噴射部Uについては、駆動停止を指示する制御データDCを生成する。したがって、印刷期間TPRにおいては、第1群G1の各単位噴射部Uにて記録紙200に対するインクの噴射または圧力室50に対する微振動の付与が実行され、第2群G2の各単位噴射部Uでは、記録紙200に対するインクの噴射も微振動の付与も実行されない。
【0046】
制御部60は、第1実施形態と同様に、各紙間期間TFL内におけるフラッシング噴射量が印刷期間TPRでの各単位噴射部Uの微振動の有無に応じて変化するように、紙間期間TFL毎に各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させる。具体的には、カラー印刷モードの紙間期間TFLにおいて、制御部60は、第1群G1および第2群G2の双方の各単位噴射部Uからフラッシング噴射量FL1のインクが噴射されるように、各単位噴射部Uのフラッシング動作を制御する。他方、モノクロ印刷モードの紙間期間TFLにおいて、制御部60は、直前の印刷期間TPRで微振動が付与された第1群G1の各単位噴射部Uからフラッシング噴射量FL1のインクが噴射され、かつ、直前の印刷期間TPRで微振動が付与されない第2群G2の各単位噴射部Uからフラッシング噴射量FL2(FL2<FL1)のインクが噴射されるように、各単位噴射部Uのフラッシング動作を制御する。
【0047】
すなわち、第1実施形態では、圧力室50内の微振動の有無およびフラッシング噴射量が印刷データDPに応じて設定されるのに対し、第2実施形態では、圧力室50内の微振動の有無およびフラッシング噴射量が動作モード(カラー印刷モード/モノクロ印刷モード)に応じて設定される。以上に説明した第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態では、動作モードに応じて微振動の有無およびフラッシング噴射量が設定されるから、圧力室50内の微振動の有無およびフラッシング噴射量が印刷データDPに応じて単位噴射部U毎に設定される第1実施形態と比較して制御部60の処理が簡素化されるという利点がある。
【0048】
<C:第3実施形態>
第1実施形態では、印刷期間TPRにて1度もインクを噴射しない単位噴射部Uについて微振動を停止した。第3実施形態の制御部60は、印刷期間TPRで1度もインクを噴射しない単位噴射部Uの圧力室50に、印刷期間TPRでインクを噴射する単位噴射部Uに付与される微振動と比較して強度が弱い微振動を付与する。
【0049】
図10は、第3実施形態における駆動信号COM1および駆動信号COM2の波形図である。図10に示すように、駆動信号COM1は、第1実施形態と同様に噴射パルスPD1と微振動パルスPS1とを含んで構成される。他方、駆動信号COM2は、第1実施形態の駆動停止要素PS0を微振動パルスPS2に置換した波形であり、微振動パルスPS2と噴射パルスPD2とを含んで構成される。
【0050】
駆動信号COM2の微振動パルスPS2は、駆動信号COM1の微振動パルスPS1と同様に区間p1と区間p2と区間p3とを含む台形状の波形である。ただし、微振動パルスPS2の供給で圧力室50に付与される微振動の強度(パワーや振幅)σ2は、微振動パルスPS1の供給で圧力室50に付与される微振動の強度σ1を下回る(σ2<σ1)。具体的には、微振動パルスPS2の区間p2の電位VH2は微振動パルスPS1の区間p2の電位VH1を下回り、微振動パルスPS2の区間p1や区間p3の勾配は微振動パルスPS1の区間p1や区間p3の勾配と比較して緩慢である。駆動停止を指示する制御データDCが供給された場合(すなわち印刷期間TPRにて単位噴射部Uがインクを噴射しない場合)、駆動回路32は、駆動信号COM2の微振動パルスPS2を選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50には強度σ2の微振動が付与される。
【0051】
図9を参照して説明した通り、微振動の強度が高いほど必要フラッシング量は増加する。そこで、制御部60(フラッシング制御手段)は、各紙間期間TFL内でのフラッシング噴射量が、直前の印刷期間TPRで各単位噴射部Uに付与された微振動の強度に応じて変化するように各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させる。すなわち、制御部60は、直前の印刷期間TPRにて強度σ2の微振動を付与した単位噴射部U(すなわち印刷期間TPR内に1度もインクを噴射しない単位噴射部U)のフラッシング噴射量(FL2)が、印刷期間TPRにて強度σ1の微振動を付与した単位噴射部U(印刷期間TPRにてインクを噴射する単位噴射部U)のフラッシング噴射量(FL1)を下回るように、各単位噴射部Uのフラッシング噴射量を制御する。
【0052】
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態では、印刷期間TPR内でインクを噴射しない単位噴射部Uにも強度σ2の微振動が付与されるから、圧力室50内のインクの増粘を有効に防止できるという利点がある。なお、以上の説明では、第1実施形態を基礎とした構成を例示したが、第2実施形態にも同様の構成を適用することが可能である。すなわち、動作モード(モノクロ印刷モード/カラー印刷モード)に応じて強度が相違する微振動を各圧力室50に付与する構成が採用され得る。
【0053】
以上の各形態の例示から理解されるように、制御部60(微振動制御手段)は、各圧力室50に付与される微振動の強度を可変に制御する要素として包括され、微振動の強度という概念は、微振動の強弱(第3実施形態)と微振動の有無(第1実施形態)との双方を含意する。すなわち、第1強度と第1強度を下回る第2強度とを含む複数の強度の何れかに微振動の強度が可変に設定される場合を想定すると、第2強度は、実際に圧力室50内に圧力の変動を発生させる範囲内で第1強度を下回る強度と、圧力室50内に圧力の変動を発生させない強度(すなわち微振動の停止(オフ)に相当する強度ゼロ)との双方を包含する。
【0054】
<D:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0055】
(1)変形例1
第1実施形態および第2実施形態では、印刷期間TPR内でインクを噴射しない単位噴射部U(圧電振動子422)に駆動信号COM2の駆動停止要素PS0(基準電位VREF)を供給することで圧力室50の微振動を停止したが、微振動を停止させる方法は任意である。例えば、圧電振動子422に対する基準電位VREFの供給を停止する(すなわち、圧電振動子422と駆動信号COM1および駆動信号COM2の供給線とを電気的に絶縁する)ことで圧力室50の微振動を停止する構成も採用され得る。以上の構成では、基準電位VREFの供給を含む単位噴射部Uの駆動が不要であるから、印刷期間TPR内でインクを噴射しない単位噴射部Uについては制御データDCの供給も省略され得る。したがって、制御部60の構成や処理が簡素化されるとともに消費電力が削減されるという利点がある。
【0056】
(2)変形例2
以上の各形態では、1枚の記録紙200に画像を形成する期間を印刷期間TPRとして各印刷期間TPRの合間の紙間期間TFLにフラッシング動作を実行したが、フラッシング動作の周期は任意である。例えば、記録紙200にインクを噴射しながらキャリッジ12が所定回にわたり往復する期間(すなわち記録紙200に画像の一部分を形成する期間)を印刷期間TPRとして各印刷期間TPRの合間にフラッシング動作を実行する構成も採用され得る。また、フラッシング動作が実行される位置は、吐出面26が記録紙200に対向する範囲の外側の待避位置に限定されない。例えば、吐出面26が記録紙200に対向する範囲内にある状態でフラッシング動作を実行する構成も採用され得る。フラッシング動作で記録紙200に噴射されたインクは、印刷データDPに応じて噴射される本来のインクと比較して充分に少ないから、実際には殆ど知覚されない。
【0057】
(3)変形例3
以上の各形態では、複数系統の駆動信号(COM1,COM2)を記録ヘッド24に供給したが、1系統の駆動信号のみを各圧電振動子422の駆動に使用する構成や3系統以上の駆動信号を各圧電振動子422の駆動に使用する構成も採用され得る。1系統の駆動信号を使用する構成では、例えば、噴射パルスPD1と微振動パルスPS1と駆動停止要素PS0(または微振動パルスPS2)とが時系列に配列された駆動信号が記録ヘッド24に供給される。
【0058】
また、駆動信号の各パルス(PD1,PD2,PS1,PS2)の波形は任意である。例えば、図5や図10に例示した台形状のパルスには限定されず、例えば矩形状のパルスを採用することも可能である。駆動信号の微振動パルス(PS1,PS2)の波形は、圧力室50内のインクがノズル56から吐出されない程度にインク(メニスカス)を揺動させる波形であれば、図5や図10の例示に限定されることなく任意に変更され得る。
【0059】
(4)変形例4
以上の各形態では、印刷期間TPRで各単位噴射部Uにインクを噴射させる駆動信号(COM1,COM2)を紙間期間TFL内のフラッシング動作にも流用したが、各単位噴射部Uにフラッシング動作を実行させるために専用される駆動信号を、印刷期間TPRで使用される駆動信号(COM1,COM2)とは別個に生成する構成も採用され得る。
【0060】
(5)変形例5
印刷期間TPR(間欠時間)の時間長は、印刷データDPが示す画像の内容や印刷の条件(例えば解像度や印刷品質)等に応じて変化する。他方、図9を参照して説明したように必要噴射量は間欠時間に応じて変化する。そこで、印刷期間TPRでインクを噴射しない単位噴射部U(すなわち微振動が付与されない単位噴射部Uまたは強度σ2の微振動が付与される単位噴射部U)のフラッシング噴射量を、直前の印刷期間TPRの時間長に応じて可変に設定する構成も採用され得る。例えば、図9から理解されるように間欠時間が長いほど必要噴射量は増加するから、印刷期間TPRの時間長が長いほど紙間期間TFLでのフラッシング噴射量が増加するように制御部60が各単位噴射部Uのフラッシング動作を制御する構成が好適である。
【0061】
(6)変形例6
以上の各形態では縦振動型の圧電振動子422を例示したが、圧力室50内の圧力を変化させる要素(圧力発生素子)の構成は以上の例示に限定されない。例えば、例えば撓み振動型の圧電振動子422や静電アクチュエータ等の振動体を利用することも可能である。また、本発明の圧力発生素子は、圧力室50に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室50の加熱で気泡を発生させて圧力室50内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生素子として利用することも可能である。すなわち、本発明の圧力発生素子は、圧力室50内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0062】
(7)変形例7
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルタを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物科学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。
【0063】
また、以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12が主走査方向に移動するシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙の幅方向の全域にわたって複数のノズルが配列するように主走査方向に長尺状に構成されたライン型の記録ヘッドを利用した印刷装置にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
100……印刷装置、12……キャリッジ、14……移動機構、16……用紙搬送機構、18……キャップ、22……インクカートリッジ、24……記録ヘッド、32……駆動回路、42……振動ユニット、422……圧電振動子、46……流路ユニット、462,464……基板、466……流路形成板、48……振動板、50……圧力室、52……供給路、54……貯留室、56……ノズル、102……制御装置、104……印刷処理部、60……制御部、62……記憶部、64……駆動信号発生部、66……外部I/F、68……内部I/F、200……記録紙、300……外部装置、COM1,COM2……駆動信号、PD1,PD2……噴射パルス、PS1,PS2……微振動パルス、PS0……駆動停止要素。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が充填された圧力室と、前記圧力室に連通するノズルと、前記圧力室内の圧力を変動させる圧力発生素子とを各々が含み、前記圧力室内の圧力の変動に応じて前記圧力室内の前記液体を前記各ノズルから噴射する複数の単位噴射部と、
強度可変の微振動が前記圧力室に付与されるように前記各単位噴射部を制御する微振動制御手段と、
第1強度の微振動が付与された前記圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量が、前記第1強度を下回る第2強度の微振動が付与された前記圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量を上回るように、前記各単位噴射部にフラッシング動作を実行させるフラッシング制御手段と
を具備する液体噴射装置。
【請求項2】
前記微振動制御手段は、前記第1強度および前記第2強度の何れかの微振動が前記各圧力室に付与されるように前記各単位噴射部を制御し、
前記第2強度は、微振動の停止に相当する
請求項1の液体噴射装置。
【請求項3】
前記圧力発生素子に供給される電位を所定値に維持することで微振動を停止する
請求項2の液体噴射装置。
【請求項4】
前記圧力発生素子に対する電位の供給を停止することで微振動を停止する
請求項2の液体噴射装置。
【請求項5】
前記微振動制御手段は、前記各単位噴射部の前記液体の噴射の要否を印刷データに応じて判定し、前記液体の噴射が必要な前記単位噴射部については前記液体の噴射または前記圧力室に対する微振動の付与を前記印刷データに応じて実行させ、前記液体の噴射が不要な前記単位噴射部については前記第2強度の微振動の付与を実行させる
請求項1から請求項4の何れかの液体噴射装置。
【請求項6】
前記複数の単位噴射部は第1群と第2群とに区分され、
前記第1群および前記第2群の双方の前記各単位噴射部から前記液体を噴射する第1動作モードと、前記第1群の前記各単位噴射部から前記液体を噴射するとともに前記第2群の前記各単位噴射部による前記液体の噴射を停止させる第2動作モードとの何れかを選択する動作モード制御手段を具備し、
前記微振動制御手段は、
前記動作モード制御手段が前記第1動作モードを選択した場合、前記第1群および前記第2群の双方の前記各単位噴射部について、前記液体の噴射または前記圧力室に対する前記第1強度の微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、
前記動作モード制御手段が前記第2動作モードを選択した場合、前記第1群の前記各単位噴射部について、前記液体の噴射または前記圧力室に対する前記第1強度の微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、かつ、前記第2群の前記各ノズルに対応する前記単位噴射部について、前記圧力室に対する前記第2強度の微振動の付与を実行させる
請求項1から請求項5の何れかの液体噴射装置。
【請求項1】
液体が充填された圧力室と、前記圧力室に連通するノズルと、前記圧力室内の圧力を変動させる圧力発生素子とを各々が含み、前記圧力室内の圧力の変動に応じて前記圧力室内の前記液体を前記各ノズルから噴射する複数の単位噴射部と、
強度可変の微振動が前記圧力室に付与されるように前記各単位噴射部を制御する微振動制御手段と、
第1強度の微振動が付与された前記圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量が、前記第1強度を下回る第2強度の微振動が付与された前記圧力室のフラッシング動作による液体の噴射量を上回るように、前記各単位噴射部にフラッシング動作を実行させるフラッシング制御手段と
を具備する液体噴射装置。
【請求項2】
前記微振動制御手段は、前記第1強度および前記第2強度の何れかの微振動が前記各圧力室に付与されるように前記各単位噴射部を制御し、
前記第2強度は、微振動の停止に相当する
請求項1の液体噴射装置。
【請求項3】
前記圧力発生素子に供給される電位を所定値に維持することで微振動を停止する
請求項2の液体噴射装置。
【請求項4】
前記圧力発生素子に対する電位の供給を停止することで微振動を停止する
請求項2の液体噴射装置。
【請求項5】
前記微振動制御手段は、前記各単位噴射部の前記液体の噴射の要否を印刷データに応じて判定し、前記液体の噴射が必要な前記単位噴射部については前記液体の噴射または前記圧力室に対する微振動の付与を前記印刷データに応じて実行させ、前記液体の噴射が不要な前記単位噴射部については前記第2強度の微振動の付与を実行させる
請求項1から請求項4の何れかの液体噴射装置。
【請求項6】
前記複数の単位噴射部は第1群と第2群とに区分され、
前記第1群および前記第2群の双方の前記各単位噴射部から前記液体を噴射する第1動作モードと、前記第1群の前記各単位噴射部から前記液体を噴射するとともに前記第2群の前記各単位噴射部による前記液体の噴射を停止させる第2動作モードとの何れかを選択する動作モード制御手段を具備し、
前記微振動制御手段は、
前記動作モード制御手段が前記第1動作モードを選択した場合、前記第1群および前記第2群の双方の前記各単位噴射部について、前記液体の噴射または前記圧力室に対する前記第1強度の微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、
前記動作モード制御手段が前記第2動作モードを選択した場合、前記第1群の前記各単位噴射部について、前記液体の噴射または前記圧力室に対する前記第1強度の微振動の付与を印刷データに応じて実行させ、かつ、前記第2群の前記各ノズルに対応する前記単位噴射部について、前記圧力室に対する前記第2強度の微振動の付与を実行させる
請求項1から請求項5の何れかの液体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−76365(P2012−76365A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223578(P2010−223578)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]