説明

液圧ブレーキ装置

【課題】ブースタ効き特性制御において運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制する。
【解決手段】ブレーキペダルの操作ストロークとマスタシリンダ圧との関係において、マスタシリンダ液圧の増加勾配が変化した場合に、ブースタが助勢限界に達したとされる。ブースタが助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧と定常状態のブースタ負圧との複数の組に基づいて、ブレーキ操作前のブースタ負圧と助勢限界時液圧との実際の関係が取得される。その実際に取得された関係を利用して、ブースタが助勢限界に達したことが検出され、ブースタ効き特性制御が行われる。その結果、ブースタ効き特性制御を適切な時期から開始させることができ、運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバキュームブースタを備えた液圧ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バキュームブースタと、バキュームブースタの助勢限界後に、ブレーキシリンダ圧を、助勢限界前後で特性が同じになるように制御するブレーキ液圧制御装置とを備えた液圧ブレーキ装置が記載されている。特許文献1に記載の液圧ブレーキ装置においては、マスタシリンダ圧が設定値より大きくなった場合に助勢限界に達したとされる。
特許文献2には、バキュームブースタと、バキュームブースタの助勢限界後に、ブレーキシリンダ圧を、助勢限界前後で特性が同じになるように制御するブレーキ液圧制御装置とを備えた液圧ブレーキ装置が記載されている。この液圧ブレーキ装置においては、マスタシリンダ圧の増加勾配が減少してから設定時間が経過した場合に助勢限界に達したとされる。マスタシリンダ圧の増加勾配が減少したことに基づけば、マスタシリンダ圧センサにゲイン異常が生じても、助勢限界に達したことを検出することができる。
特許文献3には、バキュームブースタと、そのバキュームブースタの負圧室に接続され、車両に設けられた回転軸の回転に伴って作動させられる真空ポンプとを含むブレーキ装置が記載されている。真空ポンプがエンジンによって作動させられるものではないため、エンジンを含まない電気自動車、あるいは、エンジンの作動頻度が低いハイブリッド自動車においても、バキュームブースタの負圧室の負圧の低下を抑制することができる。
【特許文献1】特開2001−334927号公報
【特許文献2】特開2000−168543号公報
【特許文献3】特開2007−223449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、液圧ブレーキ装置において、運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
請求項1に記載の液圧ブレーキ装置は、(1)ブレーキ操作部材と、(2)(a)パワーピストンと、(b)そのパワーピストンの前方の負圧室および後方の変圧室と、(c)その変圧室を、前記パワーピストンと前記ブレーキ操作部材との相対移動に伴って選択的に前記負圧室と大気とに連通させる制御弁とを備えたバキュームブースタと、(3)前記パワーピストンに連携させられた加圧ピストンを備え、その加圧ピストンの前方の加圧室に液圧を発生させるマスタシリンダと、(4)前記マスタシリンダに接続されたブレーキシリンダと、(5)動力式液圧源と、(6)前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力に対する前記ブレーキシリンダの液圧の増加勾配が前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになるように、前記バキュームブースタが助勢限界に達した後に、前記動力液圧源の液圧を利用して、前記ブレーキシリンダの液圧を制御するブレーキ液圧制御装置であって、前記バキュームブースタの標準状態における前記負圧室の圧力と、前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合の前記マスタシリンダの液圧である助勢限界時液圧との関係を記憶する記憶部を備え、実際に取得された前記標準状態における前記負圧室の圧力と、前記関係とから前記助勢限界時液圧を取得し、実際のマスタシリンダの液圧が前記助勢限界時液圧に達した場合に、前記ブレーキシリンダの液圧制御を開始するブレーキ液圧制御装置とを含む液圧ブレーキ装置であって、前記ブレーキ液圧制御装置が、前記記憶部に記憶された関係を、実際に取得された前記標準状態における前記負圧室の圧力と、前記バキュームブースタが助勢限界に達したことが検出された場合の実際のマスタシリンダの液圧との少なくとも1組に基づいて修正する関係学習部を含むものとされる。
バキュームブースタ(以下、単に、ブースタと称する)において、ブレーキ操作部材が操作され、パワーピストンに対して相対的に前進させられると、変圧室に、制御弁により大気が選択的に連通させられるため、変圧室の圧力が大気圧に近づく。変圧室と負圧室との間に圧力差が生じ、それにより、倍力効果が得られる。しかし、変圧室の圧力が大気圧に達した場合は、それ以降、倍力効果が得られなくなる。この変圧室の圧力が大気圧に達した状態をブースタの助勢限界と称する。
液圧ブレーキ装置においては、標準状態におけるブースタ負圧と、ブースタが助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧(助勢限界時液圧)との関係が予め記憶されており、実際に取得された標準状態におけるブースタ負圧と、記憶部に記憶された関係とに基づいて助勢限界時液圧が求められ、実際のマスタシリンダ圧が助勢限界時液圧に達した場合に、ブースタが助勢限界に達したとされて、ブレーキシリンダの液圧制御が開始される。そのため、標準状態におけるブースタ負圧が変化しても、助勢限界に達したことを正確に検出することができる。
一方、記憶部に記憶された関係は、多数の車両について、同じとされている。しかし、この関係は、多数の車両すべてについて同じであるとは限らず、車両個々で異なることがある。例えば、ブースタやマスタシリンダの特性の機械的なバラツキ、ブースタ負圧センサ、マスタシリンダ液圧センサの特性のバラツキ、コンピュータにおけるA/D変換誤差等に起因して、関係が、車両個々において異なるのである。また、ブースタ負圧センサ、マスタシリンダ液圧センサの特性が、温度、熱等による電子回路の変化等により、経時的に変化することもあり、関係が、経時的に変化することもある。いずれにしても、予め記憶されている関係と、実際の関係とが異なる場合には、ブースタが助勢限界に達したことを正確に検出することができず、実際に助勢限界に達していなくても(助勢限界に達する前に)ブレーキシリンダの液圧制御が開始されたり、実際に助勢限界に達した後、遅れて開始されたりすることがあり、運転者のブレーキフィーリングが低下するという問題があった。
そこで、請求項1に記載の液圧ブレーキ装置においては、関係が実際に取得され、予め記憶されている関係が修正される。実際の関係に基づけば、ブースタが助勢限界に達したことを正確に検出することが可能となる。また、ブレーキシリンダの液圧制御を、ブースタが実際に助勢限界に達した時に開始することが可能となり、運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制することができる。
実際の関係は、実際に取得された標準状態におけるブースタ負圧と、助勢限界に達した場合の実際のマスタシリンダ液圧との組の1つ以上に基づいて取得される。例えば、関係が直線で表される場合において、その直線の傾き、切片等が予め決まっている場合には、1点(1つの組)に基づいて実際の直線を取得することができる。また、複数の組に基づいて、1つの近似直線を取得して、関係を取得することができる。
標準状態は、ブースタが助勢限界に達する前の予め定められた状態であり、例えば、ブレーキ操作部材の非操作状態とすることができる。ブレーキ操作部材の非操作状態においては、負圧室の圧力は、エンジンの作動状態に基づいて変化するが、その変化は小さいため、定常状態と称することができる。ブレーキ操作部材の非操作状態には、操作直前の状態も含まれる。また、標準状態は、操作開始から設定時間が経過した時とすることもできる。
なお、ブレーキシリンダの液圧制御においては、(a)ブレーキシリンダの液圧が動力液圧源の液圧を利用して直接制御されるようにしても、(b)マスタシリンダの液圧が動力液圧源の液圧を利用して制御されることにより、ブレーキシリンダの液圧が制御されるようにしてもよい。
請求項2に記載の液圧ブレーキ装置においては、ブレーキ液圧制御装置が、前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記マスタシリンダの液圧との関係において、前記マスタシリンダ液圧の前記操作ストロークに対する増加勾配が変化した場合に、前記バキュームブースタが実際に助勢限界に達したと検出する勾配変化点依拠助勢限界検出部を含むものとされ、請求項3に記載の液圧ブレーキ装置においては、前記勾配変化点依拠助勢限界検出部が、前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記マスタシリンダの液圧との関係において、変曲点である場合に、前記バキュームブースタが実際に助勢限界に達したと検出する変曲点依拠助勢限界検出部を含むものとされる。
請求項2に記載の液圧ブレーキ装置においては、マスタシリンダ液圧の操作ストロークに対する増加勾配が変化した場合に助勢限界に達したと検出され、請求項3に記載の液圧ブレーキ装置においては、変曲点である場合に、助勢限界に達したと検出される。変曲点とは、2回微分値が0であり、かつ、その前後における2回微分値の積が負の値となる点をいう。すなわち、上に凸の線から下に凸の線に変化する点、下に凸の線から上に凸の線に変化する点をいう。
なお、請求項2,3に記載の液圧ブレーキ装置において、マスタシリンダ液圧の操作ストロークに対する増加勾配が変化する点、変曲点が複数存在する可能性がある。その場合には、マスタシリンダ液圧が予め定められた設定値以上である場合において、変化勾配が変化した場合、変曲点である場合に、助勢限界に達したと検出されるようにすることができる。また、ブレーキ操作部材の操作開始からブースタが助勢限界に達するまでの間に、変化勾配が変化する回数、変曲点の個数が予めわかっている場合には、その数に達した場合に助勢限界に達したとすることができる。
なお、請求項2に記載の液圧ブレーキ装置において、マスタシリンダ液圧の操作ストロークに対する増加勾配が設定値以上小さくなった場合に、助勢限界に達したと検出されるようにすることができる。
【実施例】
【0005】
以下、本発明の一実施例であるブレーキ装置としての液圧ブレーキシステムを図面に基づいて詳細に説明する。
この液圧ブレーキシステムにおいては、図1に示すように、ブレーキペダル10の踏力がバキュームブースタ12により倍力され、その倍力された踏力に応じた液圧がマスタシリンダ14に発生させられる。この液圧は、車輪に設けられたブレーキ16のブレーキシリンダ18に供給され、ブレーキシリンダ18が液圧により作動させられて車輪の回転が抑制される。また、ブレーキシリンダ18とマスタシリンダ14との間には、ブレーキシリンダ18の液圧を制御するアクチュエータである液圧制御ユニット20が設けられている。液圧制御ユニット20は、電子制御ユニット24(以下、ブレーキECU24と称する)により制御される。電子制御ユニット24には、ブレーキペダル10が操作されているか否かを検出するブレーキスイッチ26,ブレーキペダル10の操作ストロークを検出するストロークセンサ27,マスタシリンダ14の液圧を検出するマスタシリンダ圧センサ28等が接続されている。
【0006】
バキュームブースタ(以下、単にブースタと略称する)12は、後述する負圧室においてエンジン30のインテークマニホルド32に接続されており、負圧が供給される。インテークマニホルド32はエンジンの吸気側にあり、電子制御式スロットルバルブ34を介して大気に連通させられる。
ブースタ12とインテークマニホルド32との間にはチェック弁36が設けられている。チェック弁36は、インテークマニホルド32からブースタ12への負圧の供給(ブースタ12の空気がインテークマニホルド32側へ吸引されること)は許容するが、ブースタ12からインテークマニホルド32への負圧の流出(インテークマニホルド32内の空気がブースタ12へ吸引されること)は阻止するように設けられている。そのため、ブースタ12側の負圧は、インテークマニホルド32側の負圧より、チェック弁36の開弁圧分、低く、すなわち大気圧に近くなる。チェック弁36とブースタ12との間にはタンク38が設けられ、負圧が蓄えられる。タンク38は容量の小さいものとされている。
また、エンジン30において、電子制御式スロットルバルブ34の開度,インジェクタの燃料噴射量,タイミング等が、電子制御ユニット40(以下、EFI−ECU40と称する)により制御される。EFI−ECU40には、インテークマニホルド32の負圧を検出するインテークマニホルド負圧センサ42,電子制御式スロットルバルブ34の開度を検出するスロットルポジションセンサ44,回転数を検出するエンジン回転数センサ46等が接続されており、それらの検出値に基づいてエンジン30の作動状態が検出され、電子制御式スロットルバルブ34,インジェクタ等が制御される。
【0007】
図2に示すように、マスタシリンダ14は、ハウジングに、直列に摺動可能に嵌合された2つの加圧ピストン50a,50bを含む。加圧ピストン50a,50bの前方には、それぞれ、2つの加圧室51a,51bが形成される。
ブースタ12は、中空のハウジング54と、ハウジング54内に設けられたパワーピストン56とを含む。パワーピストン56は、ハブ部58とダイアフラム60とを含み、ダイヤフラム60により、ハウジング54内が、マスタシリンダ側の負圧室62とブレーキペダル10の側の変圧室64とに仕切られる。
パワーピストン56のハブ58は、マスタシリンダ14の側において、ゴム製のリアクションディスク66を介してブースタピストンロッド67と連携させられている。ブースタピストンロッド67はマスタシリンダ14の加圧ピストン50aに連携させられ、パワーピストン56の作動力を加圧ピストン50aに伝達する。
ハブ58は、ブレーキペダル10の側において、リアクションロッド68,バルブオペレーティングロッド69を介してブレーキペダル10と連携させられている。
リアクションロッド69のハブ58への相対接近限度と相対離間限度とがストッパキー70により規定されている。ストッパキー70は、ハブ58とリアクションロッド68との両方に貫通しているが、リアクションロッド68との間にはストッパキー70の後側において大きな軸方向クリアランスが設けられる一方、ハブ58との間にはストッパキー70の前側において小さな軸方向クリアランスが設けられている。
リアクションロッド68の先端部はリアクションディスク66に係合可能とされており、ブースタ12の非作動状態では係合しないが、作動状態では後述するように係合し、ブースタピストンロッド67からの反力がリアクションロッド68に作用する。
【0008】
負圧室62と変圧室64との間に弁機構72が設けられている。弁機構72は、バルブオペレーティングロッド69とパワーピストン56との相対移動に基づいて作動するものであり、コントロールバルブ72aと、エアバルブ72bと、バキュームバルブ72cと、コントロールバルブスプリング72dとを備えている。エアバルブ72bは、コントロールバルブ72aと共同して変圧室64の大気に対する連通・遮断を選択的に行うものであり、バルブオペレーティングロッド69に一体的に移動可能に設けられている。コントロールバルブ72aは、バルブオペレーティングロッド69にコントロールバルブスプリング72dによりエアバルブ72bに着座する向きに付勢される状態で取り付けられている。バキュームバルブ72cは、コントロールバルブ72aと共同して変圧室64の負圧室62に対する連通・遮断を選択的に行うものであり、パワーピストン56に一体的に移動可能に設けられている。
なお、負圧室62の圧力(以下、ブースタ負圧と称することがある)はブースタ負圧センサ78によって検出される。
【0009】
このように構成されたブースタ12においては、非作動状態では図2に示す状態にある。コントロールバルブ72aが、エアバルブ72bに着座する一方、バキュームバルブ72cから離間し、それにより、変圧室64が大気から遮断されて負圧室62に連通させられる。したがって、この状態では、負圧室62も変圧室64も共に等しい高さの圧力(大気圧以下の圧力)にある。
ブレーキペダル10の操作により、オペレーティングロッド69がパワーピストン56に対して相対的に前進させられる状態(過渡状態)においては、図11(a)に示すように、コントロールバルブ72aがバキュームバルブ72cに着座し、それにより、変圧室64が負圧室62から遮断される。その後、エアバルブ72bがコントロールバルブ72aから離間し、変圧室64が大気に連通させられる。この状態では、変圧室64の圧力が大気圧に近づき、負圧室62と変圧室64との間に差圧が発生し、その差圧によってパワーピストン56が作動させられる。
ブレーキシペダル10の操作力Fが一定に保持される状態では、図11(b)に示すように、コントロールバルブ72aがエアバルブ72bとバキュームバルブ72cとの双方に着座し、変圧室64が負圧室62および大気の双方から遮断され、それにより、負圧室62の圧力が一定に保持され、パワーピストン56の作動力も一定に保持される。
【0010】
変圧室64の圧力が大気圧と等圧となれば、ブースタ12が助勢限界に到達する。その後にさらにブレーキペダル10が操作されれば、パワーピストン56が前進することなくリアクションロッド68がリアクションディスク66を押し潰しつつ前進する。その結果、リアクションロッド68がパワーピストン56に対して相対的に前進し、やがてストッパキー70とリアクションロッド68との間の後側の軸方向クリアランスが消滅し、それにより、ストッパキー70に当接する。このとき、ストッパキー70とパワーピストン56のハブ58との間の前側の軸方向クリアランスも消滅し、それにより、リアクションロッド68がストッパキー70を介してハブ58に押し付けられることになる。この状態はブースタ12の最大助勢状態であり、図11(c)に示されている。この状態から、さらにブレーキペダル10が操作されれば、リアクションロッド68がパワーピストン56と一体的に前進し、ブースタピストンロッド67の作動力が増加させられ、それにより、マスタシリンダ液圧が上昇する。
【0011】
また、操作力が緩められると、コントロールバルブ72aがエアバルブ72bに着座する一方、バキュームバルブ72cから離間し、変圧室64が大気から遮断されて負圧室62に連通させられ、それにより、変圧室64の圧力が真空に近づき、その結果、負圧室62と変圧室64との差圧も低下させられる。操作力が解除されると、図2に示す状態に戻される。
【0012】
液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路を図3に基づいて説明する。
本実施例における液圧ブレーキ回路はX配管とされており、マスタシリンダ14の一方の加圧室51bには右前輪FRおよび左後輪RL用の第1ブレーキ系統が接続され、他方の加圧室51aには左前輪FLおよび右後輪RR用の第2ブレーキ系統が接続されている。それらブレーキ系統は互いに構成が共通するため、以下、第1ブレーキ系統のみを代表的に説明し、第2ブレーキ系統については説明を省略する。
【0013】
第1ブレーキ系統においては、加圧室51bと、右前輪FRのブレーキシリンダ18と左後輪RLのブレーキシリンダ18とが、それぞれ、主通路80を介して接続されている。主通路80は、基幹通路84と個別通路86とを含み、個別通路86の各々にはブレーキシリンダ18が接続されている。各個別通路86の途中には常開の電磁開閉弁である増圧弁90が設けられ、各増圧弁90と並列に作動液戻り用の逆止弁94が設けられる。各ブレーキシリンダ18にはリザーバ通路96を介してリザーバ98に接続され、リザーバ通路96の途中には、それぞれ常閉の電磁開閉弁である減圧弁100が設けられる。
【0014】
リザーバ98にはポンプ通路104が接続され、主通路80の増圧弁90の上流側に接続される。ポンプ通路104には、ポンプ106、吸入弁108、吐出弁110、オリフィス114、固定ダンパ116が設けられる。
また、リザーバ98は作動液収容部118aと、補給弁118bとを含む。作動液収容部118aは、ハウジングと、そのハウジングに摺動可能に設けられた可動部材118dと、可動部材118dの一方の側に設けられたスプリング118eと、可動部材118dの他方の側に設けられた収容室118fとを含み、補給弁118bは、弁子119aおよび弁座119bと、可動部材118aに設けられた弁駆動部材119cとを含む。補給弁118bには補給通路119dを介してマスタシリンダ14が接続される。
補給弁118bは、収容室118fに作動液が十分に収容されている場合には閉状態にある。収容室118fに収容される作動液量が設定量以下になると、可動部材118dが移動させられ、弁駆動部材119cにより補給弁118bが開状態に切り換えられる。それによって、補給通路119cを経てマスタシリンダ14から収容室118fに作動液が供給されるのであり、リザーバ98において作動液不足が生じないようにされている。
【0015】
前記主通路80のポンプ通路104の接続部とマスタシリンダ14(補給通路119cの接続部)との間に圧力制御弁120が設けられている。圧力制御弁120は、ブレーキシリンダ18側の液圧とマスタシリンダ14側の液圧との差圧を制御するものであり、マスタシリンダ14の液圧に対してブレーキシリンダ18の液圧を差圧だけ高くする。前記ブレーキECU24は、運転者によるブレーキ操作中であって、マスタシリンダ14の液圧より高い液圧をブレーキシリンダ18に発生させることが必要である場合に、ポンプ106を作動させるとともに圧力制御弁120を制御する。
【0016】
圧力制御弁120は、図4に示すように、図示しないハウジングと、弁子130および弁座132と、それら弁子130および弁座132の相対移動を制御する磁気力を発生させるソレノイド134と、弁子130を弁座132から離間させる向きに付勢するスプリング136とを含む常開弁であり、主通路80の基幹通路84に、弁子130に、ブレーキシリンダ18の液圧からマスタシリンダ14の液圧を引いた大きさの差圧が作用する姿勢で設けられる。
この圧力制御弁120において、ソレノイド134が励磁されない非作用状態(OFF状態)では開状態にある。主通路80においてマスタシリンダ側とブレーキシリンダ側との間での双方向の作動液の流れが許容され、その結果、ブレーキ操作が行われれば、ブレーキシリンダ圧はマスタシリンダ圧と同じとなり、マスタシリンダ圧の増加に伴って増加させられる。
これに対し、ソレノイド134が励磁される作用状態(ON状態)では、弁子130に、ブレーキシリンダ圧とマスタシリンダ圧との差に基づく力F2 とスプリング136の弾性力F3 との和と、ソレノイド134の磁気力に基づく吸引力F1 とが互いに逆向きに作用する。ブレーキシリンダ圧とマスタシリンダ圧との差圧F2 は、弾性力F3 が同じ場合に、吸引力F1 が大きい場合は小さい場合より大きくなるのであり、ソレノイド134への供給電流の制御によって、これらの差圧が制御される。
なお、図3に示すように、圧力制御弁120と並列に逆止弁144、リリーフ弁146が設けられている。逆止弁144は、ブレーキシリンダ18からマスタシリンダ14への作動液の流れは阻止するが、逆向きの流れは許容するものであり、圧力制御弁120が異常であっても、マスタシリンダ14からブレーキシリンダ18へ向かう作動液の流れが許容される。リリーフ弁146は、ブレーキシリンダ側の液圧がマスタシリンダ側の液圧よりリリーフ圧以上高くなると、ブレーキシリンダ側からマスタシリンダ側への作動液の流れを許容するものであり、ポンプ106による吐出圧が過大となることを回避し得る。
本実施形態においては、圧力制御弁120,リザーバ98,ポンプ106等が液圧制御ユニット20を構成している。
【0017】
前記ブレーキECU24は、図5に示すように、PU(プロセッシングユニット),ROM,RAM,I/O回路,それらを接続するバスを含むコンピュータを主体として構成されている。ブレーキECU24の入力側に前記ブレーキスイッチ26,ストロークセンサ27,マスタシリンダ圧センサ28,ブースタ負圧センサ78に加えて、車輪速センサ158等が接続されている。車輪速センサ158は、各輪毎に設けられ、各輪の車輪速を規定する車輪速信号を出力する。
ブレーキECU24の出力側には、前記ポンプ106を駆動するポンプモータ160が駆動回路162を介して接続されている。また、前記圧力制御弁120のソレノイド134の駆動回路164、増圧弁90および減圧弁100の各ソレノイド166の各駆動回路168(図には複数のソレノイド166,駆動回路168がそれぞれまとめて図示されている)も接続されている。ソレノイド134の駆動回路164には、ソレノイド134の磁気力をリニアに制御するための電流制御信号が出力され、一方、増圧弁90等の各ソレノイド166の各駆動回路168にはそれぞれ、ソレノイド166をON/OFF駆動するためのON/OFF駆動信号が出力される。図5においてブレーキECU24の出力側についての接続も、第1ブレーキ系統について代表的に図示されており、第2ブレーキ系統については図示を省略する。
ブレーキECU24とEFI−ECU40とは、CAN(Car Area Network)170を介して接続され、種々の情報の通信が行われる。
【0018】
ブレーキECU24のROMには、複数のプログラム、テーブル等が記憶されており、これらのプログラムに従って、ブースタ効き特性制御(以下、単に、効き特性制御と称する),アンチロック制御等がそれぞれ実行される。
増圧弁90,減圧弁100は、アンチロック制御ルーチンに従って開閉制御されるが、アンチロック制御についての説明は省略する。
効き特性制御とは、ブースタ12に助勢限界があることを考慮し、車体減速度が、ブースタ12の助勢限界の前後を問わず、ほぼ同じ勾配で増加するように行われるブレーキシリンダ18の液圧制御をいう。
ブースタ12の助勢限界後は、ブレーキ操作力を倍力することができないから、何ら対策を講じないと、図6(a)のグラフで表されているように、ブレーキの効き、すなわち、同じブレーキ操作力Fに対応するブレーキシリンダ圧P Wの高さが助勢限界がないと仮定した場合におけるブレーキシリンダ圧PWの高さより低下する。かかる事実に着目して効き特性制御が行われるのであり、具体的には、図6(b)のグラフで表されているように、ブースタ12が助勢限界に達した後には、ポンプ106を作動させてマスタシリンダ圧PM より差圧ΔPaだけ高い液圧をブレーキシリンダ18に発生させ、それにより、ブースタ12の助勢限界の前後を問わず、ブレーキの効きを安定させる。ここに、差圧ΔPa(目標差圧)とマスタシリンダ圧PM との関係は、予めROMに記憶されており、例えば、図6(c)のグラフで表されるものとされる。
尚、図6(d)のグラフは、圧力制御弁120のソレノイド134への供給電流と目標差圧ΔPaとの関係を示し、この関係も予めROMに記憶されている。
【0019】
本実施例においては、図7(a)に示すように、ブレーキペダル10の非操作状態におけるブースタ負圧と、ブースタ12が助勢限界に達した場合のマスタシリンダの液圧PMB (以下、助勢限界時液圧と称する)との関係が予め記憶されている。ブレーキペダル10の非操作状態にはブレーキペダル10の操作直前の状態も含まれる。また、ブレーキペダル10の非操作状態においては、ブースタ負圧のエンジン30の作動状態に基づいて変化するが、その変化は小さいため、ブースタ12の定常状態と称することもできる。このブレーキペダル10の非操作状態(ブースタ12の定常状態)は特許請求の範囲に記載の標準状態の一態様であるため、以下、単に標準状態と称する。
これらの関係は、多数の車両について共通に設定されたものである。図7(b)に示すように、標準状態におけるブースタ負圧が大気圧に近い場合は真空に近い場合より、ブースタ12が助勢限界に達した場合の助勢限界時液圧が小さくなることが知られており、これらの間は、直線で表される関係があることが知られている。
効き特性制御において、標準状態(ブレーキペダル10の非操作状態)におけるブースタ負圧が取得され、その取得されたブースタ負圧と図7(a)に示す関係とに基づいて、助勢限界液圧PMBが取得され、マスタシリンダ圧センサ28によって検出された実際のマスタシリンダ圧PMが助勢限界時液圧PMBに達した場合に、ブースタ12が助勢限界に達したとされて、ポンプ106が作動させられ、圧力制御弁120が制御される(効き特性制御が開始される)のである。
【0020】
また、図7(a)に示す関係が学習によって修正される。
図7(a)に示す関係(以下、共通関係と称することがある)は、前述のように、多数の車両について同じとされているが、実際には、車両個々で異なることがある。例えば、ブースタ12やマスタシリンダ14の特性の機械的なバラツキ、ブースタ負圧センサ78、マスタシリンダ圧センサ28の特性のバラツキ、ブレーキECU24におけるA/D変換誤差等に起因して、異なることがあるのである。また、ブースタ負圧センサ78、マスタシリンダ液圧センサ28の特性が、経時的に変化することもあり、関係が、経時的に変化することもある。
いずれにしても、共通関係と、実際の関係(以下、実関係と称する)とが異なる場合には、ブースタ12が助勢限界に達したことを正確に検出することができず、実際に助勢限界に達する前に効き特性制御が開始されたり、実際に助勢限界に達した後、遅れて開始されることがあり、運転者のブレーキフィーリングが低下するという問題があった。
そこで、実関係が取得され、共通関係が修正されるのである。
【0021】
本実施例においては、ブレーキペダル10の操作ストロークとマスタシリンダ圧との関係において、操作ストロークに対するマスタシリンダ圧の増加勾配が、予め定められた設定値以上小さくなった場合に、ブースタ12が助勢限界に達したとされる。そして、実際に取得された標準状態におけるブースタ負圧と、助勢限界に達した場合の実際のマスタシリンダ圧との組が取得され、取得された組が予め定められた設定個数以上になった場合に、実関係が取得されて、共通関係が修正される。
図12のグラフは、ブレーキペダル10が非作用位置から操作された場合における、ブレーキペダル10の操作力F、ブレーキペダル10の操作ストロークSに対するマスタシリンダ液圧PM の変化を示す。図には、ブースタ12が助勢限界に到達したときの操作力F,マスタシリンダ液圧PM および操作ストロークSがそれぞれ「F1 」,「P1 」および「S1 」で示されている。このグラフは、実験等により取得されたものである。グラフから明らかなように、ブースタ12が助勢限界に到達した直後に一時的に、操作ストロークSに対するマスタシリンダ液圧PM の増加量である変化勾配dPM /dSが緩やかになる。助勢限界前のある時期iにおける変化勾配dPM /dSを「dPMi/dSi 」、助勢限界の直後のある時期jにおける変化勾配dPM /dS を「dPMj/dSj」で表せば、両者の間に、
(dPMi/dSi )>(dPMj/dSj
なる式で表される関係が成立するのである。
【0022】
ブースタ12の助勢限界後、リアクションロッド68のストッパキー70への当接前においては、前述のように、リアクションロッド68は、ブレーキ操作力(マスタシリンダ液圧PM が上昇する向きの作動力)をブースタピストンロッド67に、リアクションディスク66を介して(パワーピストン56は介さないで)付与する。リアクションロッド68は、リアクションディスク66に局部的に接触するため、リアクションディスク66が容易に押し潰される。その結果、リアクションロッド68のストロークの増加量の割りに、リアクションディスク66に付与する力の増加量、すなわち、マスタシリンダ液圧PM の増加量が小さくなる。ブースタ12が助勢限界に到達した後、ストッパキー70への当接前には、リアクションロッド68のストローク、すなわち、ブレーキペダル10の操作ストロークの増加量に対するマスタシリンダ液圧PM の増加量である増加勾配dPM /dSが、助勢限界前に比較して減少するのである。
【0023】
リアクションロッド68がストッパキー70に当接した状態では、リアクションロッド68は、ブレーキ操作力(マスタシリンダ液圧PM が上昇する向きの作動力)をブースタピストンロッド67に、ストッパキー70,パワーピストン67およびリアクションディスク66を介して付与する。そのため、リアクションロッド68は、パワーピストン56を介してリアクションディスク66に全体的に接触するため、リアクションディスク66が容易には押し潰されなくなり、その結果、ストッパキー70への当接後には、リアクションロッド68のストロークの増加量に対するリアクションディスク66に付与する力の増加量、すなわち、マスタシリンダ液圧PM の増加量である増加勾配dPM /dSが、ブースタ12が助勢限界に到達した時期からストッパキー70に当接する時期までの間に比較して大きくなる。
また、リアクションロッド68がストッパキー70に当接した後には、リアクションロッド68がパワーピストン56およびブースタピストンロッド67と一体的に前進し、それにより、マスタシリンダ液圧PM がブースタ12による倍力なしで増加させられる。したがって、マスタシリンダ液圧PM が操作力Fに対して助勢限界前におけるより緩やかな勾配で上昇させられることになる。
【0024】
ブレーキシリンダの液圧は、図8のフローチャートで表されるブレーキ液圧制御プログラムの実行に従って制御される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、ブレーキスイッチ26がON状態にあるか否かが判定される。ブレーキペダル10が踏み込まれていない場合には、S2〜5において、ブースタ負圧センサ78によりブースタ負圧が検出され、平均値が取得されて、標準状態のブースタ負圧<PB0>とされる。そして、図7の関係に従って、助勢限界時液圧PMBが決定される。また、圧力制御弁120がOFFとされ、ポンプ106が停止状態とされる。ブレーキペダル10の非操作状態において、S1〜5が繰り返し実行され、常に、最新の助勢限界時液圧PMBが取得されて、記憶されることになる。
S1〜5が繰り返し実行される間に、ブレーキペダル10が踏み込まれて、ブレーキスイッチ26がON状態になると、S6において、マスタシリンダ圧センサ28によりマスタシリンダ液圧PMが検出され、S7において、助勢限界時液圧PMB以上になったか否かが判定される。助勢限界時液圧PMBより小さい場合には、S5において、圧力制御弁120がOFFとされ、ポンプ106が停止状態とされる。S1,6,7,5が繰り返し実行されるうちに、実際のマスタシリンダ圧PMが助勢限界時液圧PMB以上になると、S7の判定がYESとなり、S8において、実際のマスタシリンダ圧PMと図6(c)に示す関係とに基づいて、目標差圧ΔPaが取得され、S9において、図6(d)に示す関係に従って、圧力制御弁120への供給電流量IPMが取得され、S10において、それに応じて圧力制御弁120が制御され、ポンプ106が作動させられる。
それによって、ブースタ12の助勢限界後も、助勢限界前と同じ勾配で、ブレーキシリンダ液圧、すなわち、減速度を増加させることが可能となる。
【0025】
次に関係の学習について説明する。
実関係は1回取得される。1回取得されれば、車両個々のバラツキに起因する相違を修正をすることができる。
図9のフローチャートで表される関係学習プログラムは、予め定められた設定時間毎に実関係が取得されるまで実行される。
S21において、ブースタ12が助勢限界に達したことが検出される。そして、その時点のマスタシリンダ圧が検出され、マスタシリンダ圧PMと標準状態のブースタ負圧<PB0>との組が記憶される。
【0026】
具体的には、図10のフローチャートに示すように、S51において、ブレーキスイッチ26がON状態にあるか否かが判定され、OFF状態にある場合には、S52において、ブースタ負圧センサ78によってブースタ負圧PBが検出され、S53において、平均値が取得されて、標準状態のブースタ負圧<PB0>とされる。ブレーキスイッチ26がOFF状態の間、S51〜53が繰り返し実行され、最新の標準状態のブースタ負圧<PB0>が取得されて、記憶される。
S51〜53が繰り返し実行される間に、ブレーキスイッチ26がON状態に切り換えられると、S51の判定がYESとなり、S54において、マスタシリンダ圧PM、操作ストロークSが検出され、S55において、マスタシリンダ圧のストロークに対する増加勾配dPM/dS、増加勾配の変化量ΔdPM/dSが取得される。
dPM/dS={PM(n)−PM(n-1)}/{S(n)−S(n-1)
ΔdPM/dS=(dPM/dS)n−(dPM/dS)n-1
なお、増加勾配dPM/dSは、S55が最初に実行された場合には取得されず、2回目以降に取得される。増加勾配の変化量ΔdPM/dSは、増加勾配が2つ取得された後に取得される。
そして、S56において、増加勾配の変化量ΔdPM/dSが負の設定値Dthより小さくなったか否かが判定される。図12に示すように、助勢限界に達する前においては、増加勾配はほぼ一定であるため、判定はNOとなる。S51、54〜56が繰り返し実行され、増加勾配が|Dth|以上小さくなった場合に、判定がYESとなる。ブースタ12が助勢限界に達したのであり、S57において、標準状態におけるブースタ負圧<PB0>、その時点のマスタシリンダ圧PM(直前のS54で検出された値)の組が記憶される。
【0027】
このように取得された組(PM、<PB0>)が予め定められた設定個数以上になったか否かが、S22において判定される。設定個数より少ない場合には、共通関係の修正が行われることがなく、S21,22が繰り返し実行される。
それらの組が設定個数以上取得された場合には、S22の判定がYESとなって、S23において、複数の点に基づいて、近似直線が取得され、実関係とされる。S24において、共通関係が実関係に修正される。例えば、図7(c)に示すように、共通関係(実線)が実関係(一点鎖線)に修正されるのである。
この修正後の実関係に基づけば、助勢限界時液圧PMBを正確に取得することができるため、ブースタ12が助勢限界に達したことを正確に取得することができる。その結果、効き特性制御を、ブースタが助勢限界に達した時に開始することができ、運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制することができる。
【0028】
以上のように、本実施例においては、ブレーキECU24のうち図8のフローチャートで表されるブレーキ液圧制御プログラム、図9のフローチャートで表される関係学習プログラムを記憶する部分、実行する部分等によりブレーキ液圧制御装置が構成される。そのうちの、関係学習プログラムを記憶する部分、実行する部分等により関係学習部が構成される。関係学習部は勾配変化点依拠助勢限界検出部でもある。
【0029】
なお、上記実施例においては、増加勾配dPM /dSの今回値が前回値より設定値以上減少した場合に助勢限界に達したと検出されるようにされていたが(相対的判定手法)、増加勾配dPM /dSが予め定められた設定値Xより小さくなった場合に助勢限界に達したと検出されるようにすることもできる(絶対的判定手法)。
ただし、この絶対的判定手法を採用する場合に、図12に示すように、ブレーキ操作の開始当初において、増加勾配が小さくなるため、ブースタ12が実際には助勢限界に到達していないにもかかわらず助勢限界に到達したとの誤った判定がなされてしまう可能性がある。そこで、本実施形態においては、ブースタ12が助勢限界に到達する時期にはマスタシリンダ液圧PM がある程度高くなっているという事実に基づき、増加勾配が設定値Xより小さく、かつ、マスタシリンダ液圧PM が基準値PA より高い場合に、ブースタ12が助勢限界に到達したと判定されるようすることが望ましい。
また、実関係が、共通関係で決まる予め定められた領域内にある場合には、修正しないようにすることもできる。共通関係と実関係との差が小さい場合には、修正する必要性が低いからである。
【0030】
さらに、変曲点である場合に、ブースタ12が助勢限界に達したと検出することもできる。図12においては、マスタシリンダPMがストロークSの変化に対して直線的に変化する状態を記載したが、ブレーキペダル10の操作状態によっては(例えば、非常に速く操作された場合)曲線的に変化することもあり、その場合には、助勢限界点が変曲点となる。その場合の一例を図13に示す。
本実施例においては、2回微分値が0となり、かつ、2回微分値が0になる前後の二回微分値の積が負の値となる場合に、その点を助勢限界点とする。
(d2M/dS2n=0
(d2M/dS2n-1・(d2M/dS2n+1<0
【0031】
また、助勢限界(S21)は図14のフローチャートに従って取得される。
ブレーキスイッチ26がOFF状態にある場合には、上記実施例における場合と同様に、S52,53において、ブースタ負圧が検出されて、平均値が求められる。そして、S74において、フラグがリセットされる。フラグは、2回微分値が0になった場合にセットされるフラグである、助勢限界が検出された場合、2回微分値は0になったけれど、助勢限界でなかった場合にリセットされるフラグである。
ブレーキスイッチ26がOFF状態にある間、S51〜53,74が繰り返し実行される。ブレーキスイッチ26がON状態になった場合には、S54において、マスタシリンダ圧PM、操作ストロークSが検出され、S75において、2回微分値が求められる。
2M/dS2={(dPM/dS)(n)−(dPM/dS)(n-1)}/{S(n)−S(n-1)
上記実施例における場合と同様に、S75が最初に実行された場合には、2回微分値が求められることはないが、必要なデータが取得された後から求められることになる。
そして、S76において、フラグがセット状態にあるか否かが判定される。リセット状態にある場合には、S77において2回微分値が0であるか否かが判定される。0でない場合には、S78において、その2回微分値が記憶される。その後、S51,54,75〜78が繰り返し実行される。S78においては、常に、最新の2回微分値が記憶される。
S51,54,75〜78が繰り返し実行されるうちに、2回微分値が0になると、S77の判定がYESとなり、S79において、S54において検出された最新のマスタシリンダ圧PMと、標準状態におけるブースタ負圧<PB0>が仮記憶される。その後、S80において、フラグがセットされる。
次に、S51、54,76において、マスタシリンダ圧PM、操作ストロークSが検出され、2回微分値が求められるが、フラグがセット状態にあるため、S76における判定がYESとなり、S81において、今回S75において求められた2回微分値と、記憶されていた2回微分値との積が取得される。
A=(d2M/dS2(n+1)・(d2M/dS2(n-1)
前回S78において記憶された2回微分値、今回S75において求められた2回微分値は、2回微分値が0になった時の1回前、1回後に取得された値であるため、それぞれ、(n−1)回、(n+1)回目の値として表すことができる。
S82において、積Aが負の値であるか否かが判定される。
負の値である場合には、S83において、S79において仮記憶されたマスタシリンダ圧とブースタ負圧とが本記憶され、S84において、フラグがセットされる。2回微分値が0になった点が変曲点であるため、助勢限界点であると検出することができるからである。
それに対して、前後の2回微分値の積の符号が負の値でない場合には、S85において、S79において仮記憶された記憶が消去され、フラグがリセットされる。変曲点でないため助勢限界点として採用できないからである。
このように、変曲点である場合に助勢限界であると検出することもできる。また、図14のフローチャートで表される助勢限界検出ルーチン(S21)を記憶する部分、実行する部分等により変曲点依拠助勢限界検出部が構成される。
【0032】
なお、実関係は、定期的に取得することもできる。例えば、数日毎、数ヶ月毎、数年毎等の実関係取得条件が満たされた場合に、関係学習プログラムの実行が開始され、実関係が取得される。本実施例においては、その時点において予め記憶されている関係が、新たに取得された実関係に適宜修正されることになる。
また、実関係は、当該車両の出荷前に取得されるようにすることもできる。その場合には、共通関係ではなく実関係が記憶された車両が出荷されることになる。
その他、本発明は、前述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例である液圧ブレーキ装置としての液圧ブレーキシステムをエンジンシステムと共に概略的に示す図である。
【図2】上記液圧ブレーキシステムを構成するブースタおよびマスタシリンダを示す側面断面図である。
【図3】上記液圧ブレーキシステムを示す回路図である。
【図4】上記液圧ブレーキシステムを構成する圧力制御弁の構造および作動を説明するための図である。
【図5】上記液圧ブレーキシステムの電気的構成を示すブロック図である。
【図6】(a)上記液圧ブレーキシステムにおけるブレーキ操作力とブレーキシリンダ圧との関係を示すグラフである。(b)ブレーキ効き特性制御を説明するためのグラフである。(c)ブレーキ効き特性制御におけるマスタシリンダ圧と、マスタシリンダとブレーキシリンダとの間の液圧差との関係を示すグラフであり、上記液圧ブレーキシステムを構成するブレーキECUのコンピュータのROMに記憶されている。(d)マスタシリンダ圧と圧力制御弁のソレノイドへの供給電流量との関係を示すグラフであり、上記ROMに記憶されている。
【図7】(a)上記ROMに記憶された標準状態のブースタ負圧と助勢限界時液圧との関係を表す図である。(b)上記液圧ブレーキシステムにおける、踏力とマスタシリンダ圧との関係を示す図である。(c)予め記憶された関係(共通関係)と、修正後の関係(実関係)とを示す図である。
【図8】上記ROMに記憶されたブレーキ液圧制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】上記ROMに記憶された関係学習ルーチンを示すフローチャートである。
【図10】上記関係学習ルーチンの一部(S21)の実行を示すフローチャートである。
【図11】上記液圧ブレーキシステムに含まれるブースタの作動状態に示す図である。
【図12】上記液圧ブレーキシステムにおける操作ストローク、操作力に対するマスタシリンダ液圧の変化を示す図である。
【図13】上記液圧ブレーキシステムにおける別の操作態様における操作ストローク、操作力に対するマスタシリンダ液圧の変化を示す図である。
【図14】上記関係学習ルーチンの別の一部の実行を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
10:ブレーキペダル 12:ブースタ 14:マスタシリンダ 24:ブレーキECU 27.ストロークセンサ 28:マスタシリンダ圧センサ 68:負圧室 79:ブースタ負圧センサ 120:圧力制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材と、
(a)パワーピストンと、(b)そのパワーピストンの前方の負圧室および後方の変圧室と、(c)その変圧室を、前記パワーピストンと前記ブレーキ操作部材との相対移動に伴って選択的に前記負圧室と大気とに連通させる制御弁とを備えたバキュームブースタと、
前記パワーピストンに連携させられた加圧ピストンを備え、その加圧ピストンの前方の加圧室に液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダに接続されたブレーキシリンダと、
動力液圧源と、
前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力に対する前記ブレーキシリンダの液圧の増加勾配が前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになるように、前記バキュームブースタが助勢限界に達した後に、前記動力液圧源の液圧を利用して、前記ブレーキシリンダの液圧を制御するブレーキ液圧制御装置であって、前記バキュームブースタの標準状態における前記負圧室の圧力と、前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合の前記マスタシリンダの液圧である助勢限界時液圧との関係を記憶する記憶部を備え、実際に取得された前記標準状態における前記負圧室の圧力と、前記関係とから前記助勢限界時液圧を取得し、実際のマスタシリンダの液圧が前記助勢限界時液圧に達した場合に、前記ブレーキシリンダの液圧制御を開始するブレーキ液圧制御装置と
を含む液圧ブレーキ装置であって、
前記ブレーキ液圧制御装置が、前記記憶部に記憶された関係を、実際に取得された前記標準状態における前記負圧室の圧力と、前記バキュームブースタが助勢限界に達したことが検出された場合の実際のマスタシリンダの液圧との少なくとも1組に基づいて修正する関係学習部を含むことを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項2】
前記ブレーキ液圧制御装置が、前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記マスタシリンダの液圧との関係において、前記マスタシリンダ液圧の前記操作ストロークに対する増加勾配が小さくなった場合に、前記バキュームブースタが助勢限界に達したと検出する勾配変化点依拠助勢限界検出部を含む請求項1に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
前記勾配変化点依拠助勢限界検出部が、前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記マスタシリンダの液圧との関係において、変曲点である場合に、前記バキュームブースタが助勢限界に達したと検出する変曲点依拠助勢限界検出部を含む請求項2に記載の液圧ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−116068(P2010−116068A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291142(P2008−291142)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】