説明

液滴吐出ヘッド及びその製造方法並びに液滴吐出装置

【課題】 ノズルの吐出側表面の撥液性及び耐摩耗性に優れたノズルプレートを有する液滴吐出ヘッド及びその製造方法並びに液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】 液滴を吐出する複数のノズル20を有するノズルプレート3と、ノズルプレート3のノズル20に連通し、液滴を収容する圧力発生室5と、圧力発生室5に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段(振動板4とこの振動板4に対向して配置された個別電極11とを有し、振動板4を静電気力で変形させる手段)とを有し、少なくともノズル20の吐出側表面の周辺部に、カーボンナノチューブ膜からなる撥液膜25が形成されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するための液滴吐出ヘッド及びその製造方法並びに液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出ヘッドの代表的なものとして、プリンタ、複写機、複合機等に用いられるインクジェット式記録装置のインクジェットヘッドがある。インクジェットヘッドは、インク液滴を吐出する複数のノズルを有するノズルプレートと、ノズルプレートのノズルに連通し、インクを収容する圧力発生室と、圧力発生室にインク液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有し、圧力発生手段により圧力発生室内に圧力変化を与えることにより、ノズルからインク液滴を吐出させるものである。
【0003】
また、このようなタイプのインクジェットヘッドには、圧力発生手段として圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を静電気力により変形させてノズルからインク液滴を吐出させる静電駆動式や、振動板の変形を圧電素子により行なわせるようにした圧電振動式や、圧力発生室内に駆動信号によりジュール熱を発生する抵抗線を設けたバブルジェット(登録商標)式のものがある。
【0004】
このようなインクジェットヘッドにおいては、ノズルからインク液滴を吐出させて記録を行うため、ノズルの形状、精度がインク液滴の噴射特性に大きな影響を与えることが知られている。例えば、ノズルプレート表面のノズル開口周辺部にインクが付着して不均一なインク溜まりが発生すると、インク液滴の吐出方向が曲げられたり、インク液滴の大きさにバラツキが生じたり、インク液滴の飛翔速度が不安定になるなどの不都合が生じる。そこで、従来のインクジェットヘッドでは、ノズルの吐出側表面に撥インク膜を形成して撥インク性を持たせることで、ノズルプレートの表面の均一性を高め、インク滴の飛翔特性の安定化を図るようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−305582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1ではノズルプレートを樹脂材料から構成しており、その表面に撥インク膜を形成するようにしている。しかしながら、撥インク膜の樹脂材料基板に対する密着性が十分ではないことから、塗布後の初期では撥液性が得られていても、ワイピング(ノズルプレート表面やノズル開口部に付着したインク液滴やゴミ除去のための作業)によって表面が繰り返し擦られると、徐々に撥インク膜が剥がれ、撥液性が劣化してしまうという課題があった。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、ノズルの吐出側表面の撥液性及び耐摩耗性に優れたノズルプレートを有する液滴吐出ヘッド及びその製造方法並びに液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズルを有するノズルプレートと、ノズルプレートのノズルに連通し、液滴を収容する圧力発生室と、圧力発生室に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有し、少なくともノズルの吐出側表面の周辺部に、カーボンナノチューブ膜からなる撥液膜が形成されているものである。
これにより、ワイピングによる表面劣化を防止でき、耐摩耗性に優れ、撥液性を長期間に渡って維持することが可能なノズルプレートを有する液滴吐出ヘッドを得ることができる。その結果、液滴の切れが良く、安定した液滴の飛翔特性を長期に渡って発揮することのできる液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0009】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、撥液膜が、カーボンナノチューブが所定方向に配向されてなるものである。
このようにカーボンナノチューブが所定方向に配向されているため、カーボンナノチューブ間に適宜間隔で空気層が形成され、その空気層の作用により撥液性を発揮することができる。
【0010】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ノズルプレートが、結晶性シリコン基板で構成され、撥液膜は、結晶性シリコン基板上に形成されたシリコンカーバイト膜の表面に形成されているものである。
このようにノズルプレートには結晶性シリコン基板を用いることができ、その場合、撥液膜は、結晶性シリコン基板上に形成されたシリコンカーバイト膜の表面に形成される。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ノズルプレートが、シリコンカーバイト基板で構成されてなるものである。
このようにノズルプレートにはシリコンカーバイト基板を用いることができる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、圧力発生手段が、静電駆動式又は圧電駆動式であるものである。
このように圧力発生手段としては、静電駆動式又は圧電駆動式のどちらも採用可能である。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記の何れかの液滴吐出ヘッドの製造方法であって、撥液膜を、シリコンカーバイト膜を真空加熱して形成するものである。
このように、撥液膜は、シリコンカーバイト膜を真空加熱することにより形成できる。
【0014】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記の何れかの液滴吐出ヘッドの製造方法であって、撥液膜を、シリコンカーバイト基板を真空加熱して形成するものである。
このように、撥液膜は、シリコンカーバイト基板を真空加熱することにより形成できる。
【0015】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の何れかの液滴吐出ヘッドが搭載されているものである。
これにより、液滴の切れが良く、安定した液滴の飛翔特性を長期に渡って発揮することのできる液滴吐出装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1の液滴吐出ヘッドの分解斜視図である。図2は、図1に示す液滴吐出ヘッドの縦断面図である。
【0017】
実施の形態1の液滴吐出ヘッドは、主にキャビティプレート1、電極基板2及びノズルプレート3が接合されることにより構成されている。キャビティプレート1は、例えば単結晶シリコン基板(以下、単にシリコン基板という)から構成される。なお、図1では、キャビティプレート1として(100)面方位のシリコン基板を使用している。キャビティプレート1には、ノズルプレート3のノズル20に連通し、液滴を収容する圧力発生室5と、各圧力発生室5に供給すべき液滴を溜めるリザーバー6とが形成されている。圧力発生室5は、その底壁が振動板4として形成されており、振動板4が変位して内部の液滴に圧力変化が与えられると、ノズル20から液滴が飛翔するようになっている。圧力発生室5に圧力変化を与える圧力発生手段は、本例では振動板4とこの振動板4に対向して配置された後述の個別電極11とを有し、振動板4を静電気力で変形させる静電駆動式のものを採用した場合を例に説明するが、圧電駆動方式のものとしても良い。また、図1の電極端子7は、図2に示す駆動回路23と接続されている。
【0018】
振動板4は、高濃度のボロン・ドープ層から形成されている。このボロン・ドープ層は、ボロンを高濃度(約5×1019atoms/cm3以上)にドープして形成されており、例えばアルカリ性水溶液で単結晶シリコンをエッチングしたときに、エッチング速度が極端に遅くなるいわゆるエッチングストップ層となっている。ボロン・ドープ層がエッチングストップ層として機能するため、振動板4の厚み及び圧力発生室5の容積を高精度で形成することができるようになっている。なお、この振動板4は本例では厚さ4μmで形成されている。かかる構成の振動板4は、各圧力発生室5側の共通電極として機能する。
【0019】
また、キャビティプレート1の電極基板2側の面全体には、絶縁膜4aが形成されている。この絶縁膜4aは、各圧力発生室5側の共通電極として機能する振動板4と後述の個別電極11との短絡及び絶縁破壊を防止するためのものである。
【0020】
電極基板2は、例えば厚さが1mmのホウ珪酸ガラスからなり、キャビティプレート1の振動板4側に接合されている。この電極基板2には、振動板4との間にギャップ10を構成する例えば深さが0.2μmの電極用凹部10aがエッチングにより形成されている。そして、この電極用凹部10aの内部には、振動板4に対向して個別電極11が形成されている。個別電極11は、酸化錫をドープしたITO(Indium Tin Oxide、インジウム錫酸化物)等からなり、例えばスパッタにより厚さ0.1μmで形成されている。また、電極基板2には、リザーバー6に液滴を供給するための液体供給口17が設けられている。さらに、個別電極11は、リード部及び端子部13(図1参照)を介して駆動回路23と接続されている。また、ギャップ10は封止材10bによって封止されている。なお、電極基板2は、ホウ珪酸ガラスではなくシリコン基板等で形成してもよい。
【0021】
ノズルプレート3は、例えば厚さ100μmの結晶性シリコン基板からなり、ノズルプレート3の厚さ方向に貫通するノズル20が形成されている。ノズル20は、ノズルプレート3の下面側が圧力発生室5に連通し、ノズルプレート3の上面側が液滴を吐出するための開口面となっている。このノズル20は、ノズルプレート3の上面側が横断面の面積の小さい第1の溝20aからなり、ノズルプレート3の下面側が横断面の面積の広い第2の溝20bとなっており、階段状の2段ノズルとなっている。また、ノズルプレート3の下面には、圧力発生室5とリザーバー6を連通するためのオリフィス21と、リザーバーダイヤフラム22が設けられている。ノズルプレート3の上面のリザーバーダイヤフラム22に対応する部分は凹部になっている。このようにしてリザーバーダイヤフラム22の部分を薄くすることにより、ノズル20間でのリザーバー6を介した圧力干渉を防止し、駆動するノズル本数によらず液滴の吐出が安定して行えるようになっている。
【0022】
また、ノズルプレート3のノズル20の吐出面側の表面全体には、プラズマ化学的蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition )装置を用いて結晶構造を有する例えば厚さ200nmのSiC(シリコンカーバイト)膜24(図2参照)が形成されている。そして、SiC膜24のうち、ノズル20の吐出側表面の周辺部に、カーボンナノチューブ膜からなる撥液膜25が形成されている。
【0023】
図3は、撥液膜を有するノズル部分の拡大図である。
図3に示すように、撥液膜25は、所定方向(この例ではノズルプレート3に対して垂直方向)に配向した多数のカーボンナノチューブ25aからなるカーボンナノチューブ膜から構成されている。各カーボンナノチューブ25aがこのように所定方向に配向していることで、各カーボンナノチューブ25a間に適宜間隔で空気層25bが形成され、その空気層25bの作用により撥液性が発揮されるようになっている。カーボンナノチューブ25aの高さは本例では50nmとしている。この高さは、液滴吐出ヘッドの繰り返し使用により液滴が空気層25b内に進入して乾燥固着してしまっても、表面に空気層25bが残存し、長期に渡って撥液性を維持できる高さとされる。
【0024】
ここで、カーボンナノチューブ25aは硬度が高いことから、このように硬度の高いカーボンナノチューブ25aから構成されるカーボンナノチューブ膜を撥液膜25として用いることにより、ワイピングによる表面劣化を防止でき、耐摩耗性に優れ、撥液性を長期間に渡って維持することが可能なノズルプレート3を構成できる。
【0025】
次に、図1及び図2に示す液滴吐出ヘッドの動作について説明する。
駆動回路23によりキャビティプレート1と個別電極11の間にパルス電圧が印加されると、振動板4と個別電極11との間に静電気力が発生し、その吸引作用により振動板4が個別電極11側に引き寄せられて撓み、圧力発生室5の容積が拡大する。これによりリザーバー6の内部に溜まっていたインク等の液滴がオリフィス21を通じて圧力発生室5に流れ込む。次に、個別電極11への電圧の印加を停止すると、静電吸引力が消滅して振動板4が復元し、圧力発生室5の容積が急激に収縮する。これにより、圧力発生室5内の圧力が急激に上昇し、この圧力発生室5に連通しているノズル20からインク等の液滴が吐出される。
【0026】
ここで、液滴吐出ヘッドにおいては、上述したように、ノズル20の吐出側表面の周辺部にカーボンナノチューブ膜から構成された撥液膜25が形成されているので、液滴の切れが良く、安定した液滴の飛翔特性が発揮された液滴吐出が可能となっている。
【0027】
このように本実施の形態1によれば、撥液膜25をカーボンナノチューブ膜で構成したので、ワイピングによる表面劣化を防止でき、耐摩耗性に優れ、撥液性を長期間に渡って維持することが可能なノズルプレート3を有する液滴吐出ヘッドを得ることができる。これにより、液滴の切れが良く、安定した液滴の飛翔特性を長期に渡って発揮することのできる液滴吐出ヘッドを構成できる。
【0028】
なお、図2では、撥液膜25をノズル20の吐出側表面の周辺部のみに形成した例を示したが、ノズルプレート3のノズル20の吐出側表面全体に形成するようにしても良い。また、ノズルプレート3は、上述したように結晶性シリコン基板で構成する以外に、SiC基板で構成してもよい。また、図1では、ノズル20及び圧力発生室5が2列に並んだ液滴吐出ヘッドを示しているが、ノズル20及び圧力発生室5が1列に並んだものであってもよい。また、図1及び図2では、吐出方式が、ノズルプレート3に平行に液滴を吐出するフェイスイジェクトタイプのものを例に挙げて説明したが、サイドイジェクトタイプのものであってもよい。
【0029】
実施の形態2.
次に、実施の形態1の液滴吐出ヘッドの製造方法について、図4〜図7を参照して説明する。なお、キャビティプレート1及び電極基板2は従来公知の方法を用いて形成でき、ここではその説明を省略し、以下では本発明の要部である撥液膜25を有するノズルプレート3の製造方法について説明する。
【0030】
まず、厚み約100μmの結晶性シリコン基板31を準備し(図4(a)参照)、この結晶性シリコン基板31に、水蒸気を含んだ酸素雰囲気の中で熱酸化処理を行い、表面31a及び裏面31bに約1.8μmのシリコン酸化膜32を形成する(図4(b)参照)。次に結晶性シリコン基板31の裏面31bの、ノズル20の第1の溝20aに対応する部分20cをフォトリソグラフィーによりパターニングし、これらの部分のシリコン酸化膜32をエッチングにより除去する(図4(c)参照)。なおパターニングは、シリコン酸化膜32を除去しない部分(結晶性シリコン基板31の表面31aを含む)にレジストを塗布して行う。
【0031】
そして結晶性シリコン基板31の裏面31bの、ノズル20の第2の溝20bに対応する部分20dをフォトリソグラフィーによりパターニングし、これらの部分のシリコン酸化膜32をハーフエッチングする(図4(d)参照)。なおパターニングは図4(d)と同様に行い、ハーフエッチングではシリコン酸化膜が1.0μmの厚さに残るようにする。
【0032】
図4(d)でシリコン酸化膜32をハーフエッチングした結晶性シリコン基板31の裏面31bに、ICP(誘導結合プラズマ)放電による異方性ドライエッチングを施し22μmの深さにエッチングする。このときシリコン酸化膜32の残った部分(ハーフエッチングされた部分を含む)はエッチングされない。その後、フッ酸水溶液で結晶性シリコン基板31をエッチングし、ハーフエッチングされた部分に残っているシリコン酸化膜32の厚みだけ薄くする。このとき、図4(d)でハーフエッチングされた部分はシリコン酸化膜32がすべて除去され、残りの部分はエッチングした分だけシリコン酸化膜32が薄くなる。そして再び裏面31bに、ICP放電による異方性ドライエッチングを行い、55μmエッチングする。これにより、ノズル20の第1の溝20aに対応する部分20cは77μmエッチングされ、ノズル20の第2の溝20bに対応する部分20dは55μmエッチングされることとなる。その後、結晶性シリコン基板31をフッ酸水溶液に浸し、残ったすべてのシリコン酸化膜32を除去する(図4(e)参照)。
【0033】
図4(e)の工程では、ノズル20の第1の溝20a及び第2の溝20bをICP放電による異方性ドライエッチングで形成しているため、結晶性シリコン基板31に垂直にエッチングすることができ、精度の高いノズル20を形成することができる。また、ノズル20は2段ノズルとなっているので、第2の溝20bで液滴の流れが整えられ、液滴の吐出時の直進性を増すことができる。
【0034】
その後、結晶性シリコン基板31に水蒸気を含んだ酸素雰囲気中で熱酸化処理を施し、全面に厚さ1.2μmのシリコン酸化膜33を形成する(図4(f)参照)。この熱酸化処理は、温度1075℃の水蒸気を含んだ酸素雰囲気中で4時間程度行う。そして結晶性シリコン基板31の表面31aに、ノズル20を開口させるための凹部20eを形成する部分(図4(h)参照)をフォトリソグラフィーによってパターニングし、これらの部分のシリコン酸化膜33をエッチングにより除去する(図4(g)参照)。また、パターニングは図4(c)と同様に行う。
【0035】
次に、結晶性シリコン基板31を25重量%の水酸化カリウム水溶液に浸し、図4(g)の工程でシリコン酸化膜33を除去した部分から23μmエッチングを行う(図4(h)参照)。なおこの図4(g)の工程では、結晶性シリコン基板31の表面31aから斜めにエッチングが進むため、図4(g)の工程ではそれに合わせたパターニングを行うようにする。凹部20eを形成するのは、ノズル20の周辺部以外の部分の結晶性シリコン基板31の厚みを確保するためであるが、図4(g)の工程で第1の溝20aと第2の溝20bを深く形成して、凹部20eを形成しないようにしてもよい。
【0036】
そして、結晶性シリコン基板31に残っているシリコン酸化膜33をフッ酸水溶液によって除去し、ノズル20の第1の溝20aを貫通させる(図4(i)参照)。また、ノズル20の形成と同時又は別のエッチング工程によってオリフィス21、リザーバーダイヤフラム22を形成する。
【0037】
以上のようにしてノズルプレート3の外形形状が完成したところで、次に撥液膜25を形成する。本例の撥液膜25は、上述したようにカーボンナノチューブ膜で構成するもので、当該カーボンナノチューブ膜は特開2003−63813号公報に開示されるような、従来公知の手順に従い形成する。すなわち、まず、図5(j)に示すように結晶構造を有する例えば厚さ200nmのSiC膜(炭化珪素多結晶体膜)24を熱CVD法により形成する。このSiC膜24は、最終的に形成されるカーボンナノチューブ25aが高い配向性を持って構成されるように、所定の面方向に配向するように形成される。この所定の面方向とは、SiC膜24の結晶相がα−SiCの場合には(0001)面とされ、β−SiCの場合には(111)面とされる。
【0038】
かかる配向を有するSiC膜24は、特開2003−63813号公報に開示されるように、まず、結晶性シリコン基板31をエタノール、続いてアセトンにて超音波洗浄を行って脱脂した後、反応管の中に入れて、水素プラズマ中、800℃で60分間加熱する。基板温度が安定した後、原料ガスを導入し、成膜を開始する。Cの原料ガスとしてC22を、Siの原料ガスとしてSiH2Cl2を使用した。原料ガスは水素で10%に希釈・充填したボンベから供給され、反応室へ入る前にキャリアガスの水素と混合する。それぞれのガス流量はH2 を343sccm、SiH2Cl2を14sccm、C22を9sccmとした。そして、結晶性シリコン基板31上にSiC膜24を厚さ200nm堆積形成する。
【0039】
以上の手順を行うことにより、結晶性シリコン基板31上に、(111)面に配向したSiC膜(β−SiC)24を形成することができる。続いて、図5(k)に示すようにSiC膜24の表面全面に、プラズマCVD法によりSixNy(窒化珪素)膜34を形成する。そして、図5(l)に示すように、SixNy膜34の表面全面にフォトレジストを塗布し、マスクアライナーでSixNy膜34の全面に塗布されたフォトレジストを露光した後、現像液で現像するフォトリソグラフィ(photolithography)技術を使用して、SixNy膜34から不要な部分を除去するためのマスクパターンとなるフォトレジストパターン35を形成する。そして、図5(m)に示すようにフォトレジストパターン35をマスクとしてCF4 によるドライエッチングを行い、SixNy膜34から不要な部分を除去し、その後、フォトレジストパターン35を除去する。これにより、結晶性シリコン基板31上の全体に形成されたSiC膜24のうち、ノズル20の吐出側表面のノズル周辺部のみにカーボンナノチューブ膜を形成するためのSixNy膜パターン34aを得る。
【0040】
そして、図5(n)に示すように、結晶性シリコン基板31を真空炉(図示せず)内にセットし、結晶性シリコン基板31を、SiC膜24のSiCが分解してその表面から珪素原子が失われる温度に加熱する。これによりSiCから珪素原子が除去され、SiC膜24のうち、SixNy膜パターン34aの開口から表面が外部露呈している部分に、所定方向に配向する多数のカーボンナノチューブ25aが成長する。すなわち、ノズル20の吐出側表面のノズル周辺部にカーボンナノチューブ膜(すなわち撥液膜25)が構成され、ノズルプレート3が完成する。なお、本例では、1350℃で30時間の条件で炭化珪素を昇華分解させるようにした。
【0041】
なお、ここでは、結晶性シリコン基板31の上面全体に形成したSiC膜24のうち、ノズル20の吐出側表面のノズル周辺部のみに撥液膜25を形成するようにしたが、図5(n)に示す状態の結晶性シリコン基板31を真空炉にセットして、ノズルプレート3の吐出側表面全体を撥液膜化するようにしてもよい。また、ここではノズルプレート3のノズル加工(外形加工)を行ってから撥液膜25を形成する例を説明したが、撥液膜25を必要部分のみ又は全面に形成した後、ノズル加工(外形加工)を行うようにしてもよい。
【0042】
また、ノズルプレート3は上述したようにSiC基板で構成してもよく、SiC基板で構成した場合の製造方法を以下に説明する。基本的には結晶性シリコン基板31で形成する場合と同じであり、ここでは異なる部分を中心に説明する。
【0043】
図6及び図7は、ノズルプレートをSiC基板で構成した場合のノズルプレートの製造工程を示す図である。
まず、厚さ約50μmまで研削したSiC基板41を準備する(図6(a)参照)。このSiC基板41として、(0001)面方位のSiC基板(α−SiC)を使用する。なお、β−SiCの場合には(111)面方位のSiC基板を使用する。そして、続く図6(b)〜図6(d)の工程は、図4(b)〜(d)と同様の処理を行う。そして、図6(e)では、図4(e)と異なりECRプラズマエッチングによる異方性ドライエッチングを行いノズル20を形成する。そして、図6(f)〜図6(i)の工程は、図4(f)〜(i)と同様の処理を行い、ノズルプレート3の外形形状を完成する。
【0044】
次に、図7(j)に示すようにSiC基板41の表面全面に、プラズマCVD法により厚さ約100nmのSixNy(窒化珪素)膜42を形成する。そして、図7(k)に示すように、SixNy膜42の表面全面にフォトレジストを塗布し、マスクアライナーでSixNy膜42の全面に塗布されたフォトレジストを露光した後、現像液で現像するフォトリソグラフィ(photolithography)技術を使用して、SixNy膜42から不要な部分を除去するためのマスクパターンとなるフォトレジストパターン43を形成する。そして、図7(l)に示すようにフォトレジストパターン43をマスクとしてCF4 によるドライエッチングを行い、SixNy膜42から不要な部分を除去し、その後、フォトレジストパターン43を除去する。これにより、SiC基板41のうち、ノズル20の吐出側表面のノズル周辺部のみにカーボンナノチューブ膜を形成するためのSixNy膜パターン42aを得る。
【0045】
そして、図7(m)に示すように、SiC基板41を真空炉(図示せず)内にセットし、SiC基板41を、SiCが分解してその表面から珪素原子が失われる温度に加熱する。これによりSiC基板41から珪素原子が除去され、SiC基板41のうち、SixNy膜パターンの開口から表面が外部露呈している部分に、所定方向に配向する多数のカーボンナノチューブ25aが成長する。すなわち、ノズル20の吐出側表面のノズル周辺部にカーボンナノチューブ膜(すなわち撥液膜)25’が構成され、ノズルプレート3が完成する。本例では、1500℃で10時間の条件でSiCを昇華分解させるようにした。なお、この図7(m)に示す処理過程でSixNy膜パターン42aは分解されて無くなるため、SixNy膜パターン42aを取り除くための工程は不要となっている。
【0046】
なお、ここではSiC基板41のうち、ノズル20の吐出側表面のノズル周辺部のみに撥液膜を形成するようにしたが、図7(j)に示す状態のSiC基板41を真空炉にセットして、ノズルプレート3の吐出側表面全体を撥液膜化するようにしてもよい。また、ここではノズルプレート3のノズル加工(外形加工)を行ってから撥液膜25’を形成する例を説明したが、撥液膜25’を必要部分のみ又は全面に形成した後、ノズル加工(外形加工)を行うようにしてもよい。
【0047】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態に係る液滴吐出装置の一例を示す図で、図8では、特にインクを吐出するインクジェット記録装置の例で示している。図8に示されるインクジェット記録装置100は、インクジェットプリンタであり、実施の形態1の液滴吐出ヘッドを搭載している。このため、インク滴に飛翔が損なわれるなどの原因による画質低下を防止でき、高解像度の印字が可能となる。従って、本実施の形態3では、安定して高品質の印字が可能なインクジェット記録装置100を得ることができる。
【0048】
なお、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドは、図8に示すインクジェットプリンタの他に、吐出する液体を種々変更することで、カラーフィルタのマトリクスパターンの形成、有機EL表示装置の発光部の形成、生体液体試料の吐出等を行う液滴吐出装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施形態1の液滴吐出ヘッドの分解斜視図。
【図2】図1の液滴吐出ヘッドの概略縦断面図。
【図3】図1の要部断面図。
【図4】ノズルプレート(結晶性シリコン基板)の製造工程図(1/2)。
【図5】ノズルプレート(結晶性シリコン基板)の製造工程図(2/2)。
【図6】ノズルプレート(SiC基板)の製造工程図(1/2)。
【図7】ノズルプレート(SiC基板)の製造工程図(2/2)。
【図8】実施形態1の液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置の一例図。
【符号の説明】
【0050】
3 ノズルプレート、5 圧力発生室、20 ノズル、24 SiC膜、25 撥液膜、25a カーボンナノチューブ、25b 空気層、31 結晶性シリコン基板、34,42 SixNy膜、100 インクジェット記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルを有するノズルプレートと、該ノズルプレートの前記ノズルに連通し、液滴を収容する圧力発生室と、該圧力発生室に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有し、
少なくとも前記ノズルの吐出側表面の周辺部に、カーボンナノチューブ膜からなる撥液膜が形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記撥液膜は、カーボンナノチューブが所定方向に配向されてなることを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記ノズルプレートは、結晶性シリコン基板で構成され、前記撥液膜は、結晶性シリコン基板上に形成されたシリコンカーバイト膜の表面に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズルプレートは、シリコンカーバイト基板で構成されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記圧力発生手段は、静電駆動式又は圧電駆動式であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜3、5の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法であって、前記撥液膜は、シリコンカーバイト膜を真空加熱して形成することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項1、2、4、5の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法であって、前記撥液膜は、シリコンカーバイト基板を真空加熱して形成することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の液滴吐出ヘッドが搭載されていることを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−45124(P2007−45124A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234790(P2005−234790)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】