説明

液滴吐出装置及び液滴吐出方法

【課題】 ノズルが詰ってしまうことが無く、正常に液体材料を吐出することが可能な液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供すること。
【解決手段】 ヘッドプレート25に設けられた温調機構26で当該ヘッドプレート25を温調することにより、ヘッドプレート25と当該ヘッドプレート25に保持されたヘッド27とを介して液体材料を温調することができる。例えば、ヘッドプレート25の温度を上げた場合、ヘッドプレート25の熱がヘッド27を介してキャビティ34に保持された液体材料に伝達され、当該液体材料の温度を上げることができる。これにより、吐出する液体材料の粘度を低下させることができるので、ノズル27aが詰ってしまうことが無く、正常に液体材料を吐出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置及び液滴吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気光学装置等に形成される配線パターンや、有機EL装置用基板に形成される発光部等のパターンを形成する手法として、インクジェット方式(液滴吐出法)が知られている。インクジェット方式とは、いわゆるインクジェットプリンタに用いられている印刷技術であり、インクジェット装置(液滴吐出装置)の吐出ヘッドに充填されたインクの液滴を、吐出ヘッドから基板上に吐出し、定着させるものである(例えば、特許文献1参照)。このようなインクジェット方式によれば、微細な領域に液滴を正確に吐出できるので、フォトリソグラフィを行うことなく、所望の領域に直接材料インクを定着させることができる。この方法では、材料の無駄も発生せず、製造コストの低減も図ることができる。
【特許文献1】特開平11−54270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、使用する溶媒や成膜する材料の関係で粘度の高い液体材料を吐出する必要がある場合には、当該液体材料を安定的に吐出することが出来ないという問題がある。更に粘度の高い場合には吐出することができないという問題もある。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、液滴吐出法において安定して吐出することが可能な液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明に係る液滴吐出装置は、液体材料を保持する液体保持部と、前記液体保持部に連通するように設けられ前記液体材料を吐出可能なノズルとを有する複数のヘッドと、前記ヘッドを保持する保持プレートと、前記保持プレートの温度を調節する温調手段とを具備することを特徴とする。
【0005】
本発明では、保持プレートに設けられた温調手段で当該保持プレートを温調することにより、保持プレートと当該保持プレートに保持されたヘッドとを介して液体材料を温調することができる。例えば、保持プレートの温度を上げた場合、保持プレートの熱がヘッドを介して液体保持部に保持された液体材料に伝達され、当該液体材料の温度を上げることができる。これにより、吐出する液体材料の粘度を低下させることができるので、液滴吐出法において安定して吐出することが可能となる。
【0006】
マルチヘッド型の液滴吐出装置においては、液体材料を吐出する際にはすべてのヘッドにおいて詰まりを防ぐ必要がある。本発明では、各ヘッドを保持する保持プレートを例えば加熱することにより、その熱は保持プレートから各ヘッドに全体的に伝達される。これにより、各ヘッドについて別々に温調機構を設ける必要が無く、各ヘッドから吐出される液体材料を一括して温調することができるという利点がある。また、保持プレートを介して液体材料の温度を制御することで、マルチヘッドへの構成を用いる場合でも構造を複雑化させること無く高い精度で液体材料の温度を制御することができる。このため、ヘッド間での吐出の特性のばらつきを抑えることが出来、ヘッドプレート上の全てのヘッドで均一性の高い吐出を行うことができる。
【0007】
また、前記温調手段が、前記保持プレートの内部に設けられ、熱媒体が流通可能な流路と、前記流路に接続され、前記熱媒体の温度を調節する熱媒体温調手段を有し、前記熱媒体温調手段により温調された前記熱媒体を流通させることが可能な流通手段とを有することが好ましい。
【0008】
本発明によれば、保持プレート内部の所望の位置に流路を形成することができる。例えば、各ヘッドが設けられた位置に沿って流路を設けても良いし、保持プレートの周縁部に沿って流路を設けても良い。保持プレートの材質や熱媒体の種類等、状況に応じて最適な位置に流路を設けることができるという利点がある。
【0009】
また、前記温調手段が、前記保持プレートに設けられ、自身を流れる電流の大きさに応じた熱を発する電熱部材と、前記電熱部材に電流を供給する電流供給手段とを有することが好ましい。
本発明によれば、電熱部材に電流を流すだけで保持プレートの温調が可能となるので、例えば保持プレートの内部に流路を設けたり、熱媒体を流通させる手段を設けたりする必要が無く、大掛かりな装置構成が不要となる。また、電熱部材に流れる電流の大きさを変化させるだけで、保持プレートを所望の温度に簡単に温調することができるという利点もある。
【0010】
本発明の別の観点に係る液滴吐出方法は、保持プレートに保持された複数のヘッドを有する液滴吐出装置を用いた液滴吐出方法であって、液体材料を、前記ヘッドの内部に設けられた液体材料保持部に保持させる液体材料保持工程と、前記保持プレートを温調する温調工程と、前記液体保持部において、前記温調工程で温調された前記保持プレートから前記ヘッドを介して伝達する熱により所定の温度に温調された前記液体材料を、対象物の所定領域に吐出する工程とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、保持プレートの温度を上げた場合、保持プレートの熱がヘッドを介して液体保持部に保持された液体材料に伝達され、当該液体材料の温度を上げることができる。当該液体材料の温度を上げることにより溶媒の粘度を低下させることができるので、液滴吐出法において安定して吐出することが可能となる。
【0012】
また、前記液体材料が、室温で10mPa・s以上の粘度を有するものであることが好ましい。
液体材料が室温で10mPa・s以上の液体材料であれば、本発明により粘度を低下させたときの効果が一層大きいものとなる。
【0013】
また、前記液体材料が、1,1−ビス(3,5ジメチルフェニル)エタン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンタンまたは水添テルフェニルを含むことが好ましい。
例えば有機EL装置の発光部を液滴吐出法により形成する場合には、発光材料等を溶媒に溶解させる必要がある。特に、1,1−ビス(3,4ジメチルフェニル)エタン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンタン又は水添テルフェニルは、発光材料等を溶解させる溶媒としては好適ではあるが、室温での粘度が高いため、これらの液体材料を室温で安定的に吐出するのは困難である。本発明によれば、これらのように特に室温での粘度が高い上記の液体材料を吐出する場合に有効である。すなわち、高い精度での温度制御を行いながら、当該液体材料の温度を上げ、溶媒の粘度を低下させることができるので、吐出の精度を保った状態でこれらの溶媒を使用することが可能となる。また、保持プレートが比較的大きな熱容量を有するため、個別のヘッドを加熱する場合と比べて安定性の高い温度制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の液滴吐出装置1の全体構成を概略的に示す斜視図である。
【0015】
同図に示すように、液滴吐出装置1は、基台2と、基板ステージ3と、吐出機構4と、制御部5とを主体として構成されている。当該液滴吐出装置1は、例えば有機EL装置を構成する発光部を形成する際に、当該有機EL装置用の基板(以下、「基板」と表記する。)Gに、発光材料を含んだ液体材料を吐出してパターニングする(この手法を液滴吐出法という。)ための装置である。
【0016】
基板ステージ3は、基板Gに液体材料を吐出する際、当該基板Gを保持する保持部材であり、基台2におけるX方向のほぼ中央に設けられている。基板ステージ3には、当該基板ステージ3を貫通する貫通孔3a及び貫通孔3bが形成されており、当該貫通孔3a及び貫通孔3bは、例えばポンプ機構等の図示しない圧力調節装置等に連通されている。当該圧力調節装置が、貫通孔3a及び貫通孔3b付近の空気を吸引するように作動することで、当該貫通孔3a及び貫通孔3bを介して基板Gが基板ステージ3の上に吸着して保持されるようになっている。
【0017】
この基板ステージ3は、ガイドレール6(基台2上のY方向に延在している)を有する移動機構7のステージ支持柱8に取り付けられている。ステージ支持柱8はスライダー9に固着されており、スライダー9は例えばリニアモータ形式でガイドレール6上を移動するようになっている。スライダー9がガイドレール6上をY方向に移動するのに伴って、基板ステージ3がY方向に移動するようになっている。スライダー9には、当該スライダー9をθ方向に回転させるための図示しないダイレクトドライブモータ等が設けられている。ダイレクトドライブモータがθ方向に沿って回転することで、基板ステージ3をインデックス(回転割り出し)することができるようになっている。
【0018】
吐出機構4は、基板Gへ向けて液体材料を吐出するヘッドユニット10と、液体材料を貯蔵するタンク11と、当該液体材料をタンク11からヘッドユニット10へ供給する際の流路となるチューブ12とを有している。ヘッドユニット10は、ガイドレール14(基台2上のX方向に延在している)を有する移動機構15のヘッド支持部材16に取り付けられている。当該移動機構15は移動機構支持部材17によって基台2の上方(図中のZ方向)で支持されており、移動機構支持部材17の両端は基台2のX方向の端部に設けられた支持柱18及び支持柱19によってそれぞれ支持されている。ヘッド支持部材16はスライダー20に固着されており、そのスライダー20は例えばリニアモータ形式でガイドレール14上を移動可能に設けられている。スライダー20がガイドレール14上をX方向に移動するのに伴って、ヘッドユニット10がX方向に移動するようになっている。
【0019】
ヘッドユニット10は、揺動位置決め装置としてのモータ21、22、23、24を有している。モータ21を作動すればヘッドユニット10がZ軸に沿って上下動し、モータ22を作動するとヘッドユニット10がY軸回りのβ方向に沿って揺動し、モータ23を作動するとヘッドユニット10がX軸回りのγ方向に揺動し、モータ24を作動するとヘッドユニット10がZ軸回りのα方向に揺動するようになっている。このように、移動機構15は、ヘッドユニット10をX方向及びZ方向に移動可能に支持するとともに、ヘッドユニット10をα方向、β方向、γ方向に移動可能に支持している。
【0020】
タンク11には、例えば図示しないポンプ等が取り付けられており、タンク11内の内圧を変化させることによって、タンク11内の液体材料がチューブ12に供給されるようになっている。
制御部5は、電気信号を送出することにより、例えばスライダー9、スライダー20の位置を制御することができ、基板ステージ3やタンク11に取り付けられたポンプの圧力を制御することができるようになっている。
【0021】
図2は、ヘッドユニット10の側面図である。図3は、ヘッドユニット10を図2の矢印の方向から見たときの平面図である。
ヘッドユニット10は、ヘッドプレート(保持プレート)25と、温調機構(温調手段)26と、ヘッド27と主体として構成されている。ヘッドプレート25上には複数のヘッド27が配置され、いわゆるマルチヘッドを構成している。
【0022】
ヘッドプレート25は、例えば、アルミ合金等の熱伝導率が高い材料からなり、ヘッド27を保持する基板である。なお、ヘッドプレート25を構成する材料については、例えばアルミのメタルマトリックス複合材料や、ステンレス等により形成されるようにしても良い。
温調機構26は、ヘッドプレート25の内部に設けられた配管28と、チラーユニット29(図3参照)とを主体として構成されている。
【0023】
配管28は、例えばヘッドプレート25の周縁部に設けられており、ヘッドプレート25の内部に例えば水などの熱媒体を循環させる流路である。例えば、図3に示すように、熱媒体が流入口28aから流入し、ヘッドプレート25の内部を一回りした後、流出口28bから流出するようになっている。
【0024】
チラーユニット29は、配管28を循環する熱媒体の温度を調節したり、所定の温度に保つために設けられている。チラーユニット29には、当該熱媒体を貯留するための熱媒体貯留タンクや、熱媒体の温度を調節するための加熱器、冷却器が設けられており、各部が配管などの流路により接続されている。熱媒体貯留タンクには、当該熱媒体貯留タンク内の熱媒体を配管に送出するためのポンプが設けられている。加熱器及び冷却器の温度やポンプの出力(吐出流量)は、例えば制御部5により高い精度で制御可能になっている。
【0025】
図4は、ヘッド27の構成を示す分解斜視図である。同図の斜線部分は、ヘッドプレート25に保持される部分である。
ヘッド27は、ノズル27aを有するノズルプレート30と、振動板31と、圧力室基板32と、筐体33とを有している。圧力室基板32は、キャビティ34、側壁35、リザーバ38、及び供給口39を備えている。キャビティ34は、圧力室であってシリコン等の基板をエッチングすることにより形成されるものである。側壁35は、キャビティ34間を仕切るよう構成されている。リザーバ38は、各キャビティ34に液体を充填する時に液体を供給可能な共通の流路として構成されている。供給口39は、各キャビティ34に液体を導入可能に構成されている。
【0026】
筐体33には図1に示したチューブ12を取り付けるチューブ口36が設けられている。チューブ口36を介してタンク11とヘッド27とが連通され、タンク11から供給される液体材料がヘッド27へと供給されるようになっている。振動板31上のキャビティ34に相当する位置には圧電素子37が設けられている。圧電素子37はPZT素子等の圧電性セラミックスを上部電極及び下部電極(図示せず)で挟んだ構造を備える。圧電素子37は、例えば制御部5から電気信号を供給されると振動板31側に膨張するように構成されている。
【0027】
キャビティ34に液体材料を保持させた状態で、制御部5から圧電素子37に電気信号を供給すると、当該圧電素子37が振動板31側へ膨張する。膨張による力が加えられて振動板31がキャビティ34側へと食い込む。振動板31が食い込むと、キャビティ34内に圧力が加えられる。この圧力により、ノズル27aから液滴が吐出されるようになっている。
【0028】
図5は、液滴吐出装置1を用いて吐出する液体材料について、ある温度における液体材料の粘度(温度−粘度特性)を示すグラフである。液体材料としては、例えば1,1−ビス(3,4ジメチルフェニル)エタン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンタン又は水添テルフェニルが好適に用いられる。グラフの縦軸が液体材料の粘度(mPa・s)であり、横軸が液体材料の温度(℃)である。
【0029】
グラフ中の「液体材料1」は、1,1−ビス(3,4ジメチルフェニル)エタンを示している。当該液体材料1は、温度が20℃のときには粘度が29.6mPa・sであり、温度が24.7℃のときには粘度が24.0mPa・sであり、温度が29.3℃のときには粘度が18.5mPa・sであり、温度が40℃のときには粘度が5.7mPa・sである。
【0030】
グラフ中の「液体材料2」は、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンタンを示している。当該液体材料2は、温度が20℃のときには粘度が16.2mPa・sであり、温度が24.7℃のときには粘度が13.4mPa・sであり、温度が29.3℃のときには粘度が11.2mPa・sであり、温度が40℃のときには粘度が5.4mPa・sである。
【0031】
グラフ中の「液体材料3」は、水添テルフェニルを示している。当該液体材料1は、温度が20℃のときには粘度が48.7mPa・sであり、温度が24.7℃のときには粘度が36.3mPa・sであり、温度が29.3℃のときには粘度が30.7mPa・sであり、温度が40℃のときには粘度が8.9mPa・sである。
【0032】
液滴吐出法により液体材料を吐出する場合、液体材料の粘度は10.0mPa・s以下であることが望ましい。液体材料1、液体材料2及び液体材料3のいずれについても、室温に近い20℃では粘度が10.0mPa・sを超えているが、40℃まで温度を上げた状態では粘度が10.0mPa・sを下回っている。
【0033】
次に、このように構成された有機EL装置の製造方法について説明する。
製造する有機EL装置は、図6に示すように、ガラス等からなる透明な基体2と、マトリックス状に配置された発光素子とを具備している。ここで、発光素子は、画素電極111と、機能層(有機EL層)110と、陰極12とにより構成されている。なお、画素電極111はITO(インジウム錫酸化物)等の透光性導電膜にて構成されており、陰極12はアルミニウム等の光反射性導電膜にて構成されている。
【0034】
基体2上には、画素電極111と、前記機能層110を区画するバンク部122とが配設されている。バンク部122は、基体2側に位置する無機物バンク層(第1バンク層)112aと、陰極12側に位置する有機物バンク層(第2バンク層)112bとが積層されて構成されている。
【0035】
次に、機能層110は、画素電極111上に積層された正孔注入/輸送層110aと、正孔注入/輸送層110a上に隣接して形成された発光層110bとから構成されている。正孔注入/輸送層110aは、正孔を発光層110bに注入する機能を有するとともに、正孔を正孔注入/輸送層110a内部において輸送する機能を有する。また、発光層110bでは、正孔注入/輸送層110aから注入された正孔と、陰極12から注入される電子が発光層で再結合し、発光が得られる。正孔注入/輸送層110aと発光層110bの間に、正孔注入/輸送層100aと発光層110bの反応を抑えるためのインターレイヤ層を設けても良い。
【0036】
また、発光層110bは、赤色(R)に発光する赤色発光層110b1、緑色(G)に発光する緑色発光層110b2、及び青色(B)に発光する青色発光層110b3、の3種類を有し、各発光層110b1〜110b3がストライプ配置されている。
【0037】
続いて、上記有機EL装置200の製造方法について説明する。本実施形態の有機EL装置を製造する工程は、隔壁(バンク部)形成工程と、正孔注入/輸送層形成工程と、発光層形成工程と、陰極形成工程と、封止工程とから基本的に構成される。これらの工程のうち、上記の液滴吐出装置1を用いた液滴吐出法を好適に適用できるのは、正孔注入/輸送層形成工程と、発光層形成工程である。
【0038】
隔壁形成工程では、必要に応じてTFT等が予め設けられている基体2に形成されたITO等からなる透明電極111上に、各画素領域を隔てるバンク部(隔壁)120を形成するにより行う。具体的には、無機材料からなる無機物バンク層112aと、有機材料からなる有機物バンク層112bとを、それぞれフォトリソグラフィ技術を用いてパターン形成するものとしている。
【0039】
次に、上述した液滴吐出装置1を用いて、正孔注入/輸送層形成工程及び発光層形成工程を行う。
正孔注入/輸送層形成工程では、正孔注入/輸送層形成材料(正孔注入/輸送層形成インク)を上述した液滴吐出方法を用いて、各画素領域に吐出する。正孔注入/輸送層形成材料としては、例えばポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸(PSS)等の混合物を、上述した液体材料1、液体材料2及び液体材料3のうちいずれかの液体材料(例えば液体材料1)に溶解させた組成物を用いることができる。吐出後の正孔注入/輸送層形成材料を乾燥処理して正孔注入/輸送層形成材料に含まれる液体材料を蒸発させることにより、正孔注入/輸送層110aが形成される。
【0040】
次に、発光層形成工程では、発光層形成材料(発光層形成インク)を上記実施形態の吐出方法を用いて、各画素領域の正孔注入/輸送層上に吐出する。発光層形成材料は、各色に対応した有機EL材料等の溶質成分と、液体材料1〜液体材料3のうち正孔注入/輸送層に溶解させた液体材料とは異なる液体材料とから構成される。有機EL材料として、フルオレン系高分子誘導体、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体や、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、その他ベンゼン誘導体に可溶な有機EL材料等を用いることができる。
【0041】
なお、正孔注入/輸送層形成工程及び発光層形成工程をそれぞれ行う前に、液滴吐出装置1に設けられたタンク11からチューブ12を介して、ヘッド27のキャビティ34に液体材料を保持させる。この状態で、チラーユニット29を起動し、当該チラーユニット29内の熱媒体が所定の温度、例えば40℃になるように加熱器で加熱所定の温度に加熱して、加熱された熱媒体を流入口28aから配管28へと循環させる。配管28を循環する熱媒体の熱がヘッドプレート25からヘッド27を介してキャビティ34内の液体材料に伝わり、液体材料が加熱される。液体材料が約40℃に加熱されたら、ノズル27aから液体材料を吐出する。
【0042】
次に陰極形成工程では、発光層110b及びバンク部122の全面に陰極12を形成する。また、封止工程では、陰極12上の全面に熱硬化樹脂または紫外線硬化樹脂からなる封止材を塗布し、封止層を形成する。さらに、封止層上に封止用基板を積層する。以上の工程により図6に示した有機EL装置を製造することができる。
【0043】
このように、本実施形態によれば、ヘッドプレート25に設けられた温調機構26で当該ヘッドプレート25を温調することにより、ヘッドプレート25と当該ヘッドプレート25に保持されたヘッド27とを介して液体材料を温調することができる。例えば、ヘッドプレート25の温度を上げた場合、ヘッドプレート25の熱がヘッド27を介してキャビティ34に保持された液体材料に伝達され、当該液体材料の温度を上げることができる。これにより、吐出する液体材料の粘度を低下させることができるので、ノズル27aが詰ってしまうことが無く、正常に液体材料を吐出することが可能となる。
【0044】
また、ヘッドプレート25を介して液体材料の温度を制御することで、マルチヘッドへの構成を用いる場合でも構造を複雑化させること無く高い精度で液体材料の温度を制御することができる。このため、ヘッド間での吐出の特性のばらつきを抑えることが出来、ヘッドプレート上の全てのヘッドで均一性の高い吐出を行うことができる。
【0045】
また、本実施形態のように、有機EL装置200の発光部110bを液滴吐出法により形成する場合、発光材料等を溶媒に溶解させる必要がある。特に、1,1−ビス(3,4ジメチルフェニル)エタン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンタン又は水添テルフェニルは、発光材料等を溶解させる溶媒としては好適ではあるが、室温での流動性は低いため、これらの液体材料を溶媒として使用した場合に室温で安定的に吐出するのは困難である。本実施形態によれば、これらのように特に室温での粘度が高い上記の液体材料を吐出する場合に有効である。すなわち、高い精度での温度制御を行いながら、当該液体材料の温度を上げ、溶媒の粘度を低下させることができるので、吐出の精度を保った状態でこれらの溶媒を使用することが可能となる。また、ヘッドプレート25が比較的大きな熱容量を有するため、個別のヘッドを加熱する場合と比べて安定性の高い温度制御を行うことができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第1実施形態と同様、以下の図では、各部材を認識可能な大きさとするため、縮尺を適宜変更している。また、第1実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。本実施形態では、ヘッドユニットの構成が第1実施形態と異なっているため、この点を中心に説明する。
【0047】
図7は、ヘッドユニット310の側面図である。図8は、ヘッドユニット10を図7の矢印の方向から見たときの平面図である。
ヘッドユニット310は、ヘッドプレート325と、フィルムヒータ326と、ヘッド327と主体として構成されている。
【0048】
ヘッドプレート325は、第1実施形態と同様、例えばアルミ合金等の材料から形成されており、ヘッド327を保持する基板である。フィルムヒータ326を挟むように設けられている。
フィルムヒータ326は、電熱部材326aと、カバー部材326bとを主体として構成されている。電熱部材326aは、例えばニッケル合金等の導電材料によって形成され、自身を流れる電流の大きさに応じて熱を発生する。カバー部材326bは、例えばポリイミド等の材料によって形成され、当該電熱部材をカバーしている。電熱部材326aは、例えば制御部305に電気的に接続されており、例えば制御部305から電気信号を送出するようにする。この場合、制御部305が電流供給手段となる。また、別途電源を設けるようにしても良い。この場合、当該電源が電流供給手段となる。
【0049】
本実施形態によれば、電熱部材326aに電流を流すだけでヘッドプレート325の温調が可能となるので、例えばヘッドプレート325の内部に流路を設けたり、熱媒体を流通させる手段を設けたりする必要が無く、大掛かりな装置構成が不要となる。また、電熱部材326aに流れる電流の大きさを変化させるだけで、ヘッドプレート325を所望の温度に簡単に温調することができるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係る液滴吐出装置の構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る液滴吐出装置のヘッドの構成を示す側面図である。
【図3】本実施形態に係る液滴吐出装置のヘッドの構成を示す平面図である。
【図4】本実施形態に係る液滴吐出装置のヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図5】本実施形態に係る液滴吐出装置から吐出される液体材料の温度−粘度特性を示すグラフである。
【図6】本実施形態に係る液滴吐出方法により形成される有機EL装置の構成を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る液滴吐出装置のヘッドの構成を示す側面図である。
【図8】本実施形態に係る液滴途中津装置のヘッドの構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…液滴吐出装置 4…吐出機構 5、305…制御部 10、310…ヘッドユニット 25、325…ヘッドプレート 26…温調機構 27、327…ヘッド 27a…ノズル 28…配管 28a…流入口 28b…流出口 29…チラーユニット 30…ノズルプレート 34…キャビティ 110b…発光層 326…フィルムヒータ 326a…電熱部材 326b…カバー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体材料を保持する液体保持部と、前記液体保持部に連通するように設けられ前記液体材料を吐出可能なノズルとを有する複数のヘッドと、
前記ヘッドを保持する保持プレートと、
前記保持プレートの温度を調節する温調手段と
を具備することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記温調手段が、
前記保持プレートの内部に設けられ、熱媒体が流通可能な流路と、
前記流路に接続され、前記熱媒体の温度を調節する熱媒体温調手段と、
前記熱媒体温調手段により温調された前記熱媒体を前記流路内に流通させることが可能な流通手段と
を有することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記温調手段が、
前記保持プレートに設けられ、自身を流れる電流の大きさに応じた熱を発する電熱部材と、
前記電熱部材に電流を供給する電流供給手段と
を有することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
保持プレートに保持された複数のヘッドを有する液滴吐出装置を用いた液滴吐出方法であって、
液体材料を、前記ヘッドの内部に設けられた液体材料保持部に保持させる液体材料保持工程と、
前記保持プレートを温調する温調工程と、
前記液体保持部において、前記温調工程で温調された前記保持プレートから前記ヘッドを介して伝達する熱により所定の温度に温調された前記液体材料を、対象物の所定領域に吐出する工程と
を具備することを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項5】
前記液体材料が、室温で10mPa・s以上の粘度を有するものであることを特徴とする請求項4記載の液滴吐出方法。
【請求項6】
前記液体材料が、1,1−ビス(3,5ジメチルフェニル)エタン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンタンまたは水添テルフェニルを含むことを特徴とする請求項4又は5記載の液滴吐出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−255994(P2006−255994A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74471(P2005−74471)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】