説明

液状エポキシ樹脂組成物と半導体装置

【課題】 半導体パッケージ下部への浸透性に優れ、リペア可能な、耐衝撃補強効果を高めることのできる新しい液状エポキシ樹脂組成物と、これを用いた硬化物により接着補強された半導体装置を提供する。
【解決手段】 (A)常温で液状のエポキシ樹脂、(B)硬化剤、並びに(C)充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、(C)充填材として組成物全体量に対して0.1〜10質量%の範囲内の、圧縮破壊強度が5MPa以上100MPa以下の軟質充填材を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液状エポキシ樹脂組成物とその硬化物により接着補強された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の二次実装ではBGA等の半導体パッケージを樹脂で補強することをしなかったが、近年の軽薄短小の流れのなかでBGA等を樹脂で補強しないと落下や曲げなどの衝撃に対しての機械強度が十分得られなくなってきている。
【0003】
樹脂による補強の方法としては大きく2通りの方法が一般的である。BGA等の半導体パッケージの下部全面に樹脂を浸透させて補強する方法とBGA等の半導体パッケージの周辺部のみを樹脂で補強する方法である。これらのための補強機能を有する樹脂として液状エポキシ樹脂の硬化物が知られてもいる(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3819148号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のとおりの樹脂による補強の方法のうち、BGA等の半導体パッケージの下部全面に樹脂を浸透させて補強する方法では、樹脂の接触面積が大きく高い機械強度が期待できる半面、部品の不具合が見つかった場合に部品を取り替えるリペアが難しかったり、下部全面に浸透させることに時間が掛かってしまうという問題があった。
【0006】
一方、周辺部のみの補強では樹脂の接触面積が小さく、十分に補強効果を発現できなかったり、硬化時に樹脂の形状が保持されずにBGA等の半導体パッケージ内部に樹脂が流れ込んで補強効果のばらつきが発生するなどの不具合があった。
【0007】
本発明は、以上のとおりの背景から、従来の問題点を解消して、衝撃強度が強く、BGA等の半導体パッケージ下部への浸透性に優れたリペア可能な新しい液状エポキシ樹脂組成物と、これを用いた硬化物により接着した半導体装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、前記の課題を解決するため、以下のことを特徴としている。
【0009】
(A)常温で液状のエポキシ樹脂、(B)硬化剤、並びに(C)充填材を必須成分とし、(C)充填材として組成物全体量に対して0.1〜10質量%の範囲内の、圧縮破壊強度が5MPa以上100MPa以下の軟質充填材を含有する。
【0010】
前記軟質充填材は無機物であることが好ましく、またシランカップリング剤で表面処理された無機物であることが好ましい。
【0011】
そしてまた、本発明は以上の液状エポキシ樹脂組成物の硬化物によって半導体素子と、その素子への配線を供する部材が接着された構造を有することを特徴とする半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物によれば、BGA等の半導体パッケージ下部への浸透性を損なうことなく、その硬化物において落下時や曲げにともなう衝撃を吸収しての補強効果をより高めることが可能となる。リペアも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における液状エポキシ樹脂組成物を構成する樹脂成分としての(A)常温で液状のエポキシ樹脂については、いわゆる「常温」としての、大気圧下での室温18℃前後、目安としての5℃〜28℃の温度範囲において液状の各種のエポキシ樹脂であってよい。
【0014】
また、常温におけるエポキシ樹脂組成物が液状となれば、市販されている液体のエポキシ樹脂や固体のエポキシ樹脂であって、1分子中に1個以上のグリシジル基を有する化合物からの樹脂を適宜併用することもできる。エポキシ樹脂の具体例としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するビフェニル型エポキシ樹脂や、これらの水素添加型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリアルキレングリコール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ブロム含有エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができる。
【0015】
(B)硬化剤についても同様に通常エポキシ樹脂を硬化するものであればよい。たとえば、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン等のアミン系硬化剤や、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等の酸無水物硬化剤や、フェノール類、イミダゾール類、ポリチオール類、シアネート類等各種用いることができる。
【0016】
(A)常温で液状のエポキシ樹脂と(B)硬化剤については、その配合割合は、液状エポキシ樹脂組成物の全体量に対しての割合として、通常は、
(A):40〜90質量%
(B):5〜40質量%
の範囲内とすることが好ましい。この範囲を外れる場合には、本発明の効果を得ることが難しくなりかねない。
【0017】
また、本発明では(C)充填材を配合する。充填材としては、マイカ、タルク、結晶シリカ、溶融シリカ、ヒュームドシリカ、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラスなどの無機充填材や、有機プラスチック製のマイクロバルーンやその表面を無機物でコーティングした有機/無機複合体の充填材などが挙げられる。これらの充填材は1種単独で、または複数を併用して用いることができる。
【0018】
これらの充填材は、本発明においては、圧縮破壊強度が5MPa以上で100MPa以下の軟質充填材である。
【0019】
軟質充填材としては、中空や多孔質にすることで圧縮破壊強度を所望の範囲に調整してもよい。圧縮破壊強度が100MPaを越えると衝撃エネルギーを摩擦熱に変換する効果が十分でなく、5MPaよりも小さい場合には樹脂組成物とする際の分散時に粒子が破壊してしまう恐れがある。
【0020】
これら充填材はエポキシ樹脂組成物全体量の0.1〜10質量%の範囲内で含有する。0.1質量%を下回る場合には衝撃エネルギーを摩擦熱に変換する効果が十分でなく、一方、10質量%よりも多い場合には樹脂の浸透性が損なわれる恐れがある。
【0021】
組成物に配合される充填材については、その平均粒径は、通常は0.5〜30μmの範囲内であることが好ましい。0.5μm未満の場合には補強機能の向上を図ることが必ずしも容易でなく、30μmを超える場合には、BGA等の半導体パッケージの下部への浸透性が損われかねず、また、耐衝撃強度を高めることが必ずしも容易ではない。
【0022】
そして本発明においては以上の軟質充填材としては、マイカやタルクなどの無機物であることがより好ましい。軟質無機物の場合、衝撃エネルギーを吸収して熱に変換する効果が高く、エポキシ樹脂組成物のクラックを抑えるとともに被着体へのエネルギー伝播を低減する効果が高い。
【0023】
また、軟質充填材については、その表面をシランカップリング剤で被覆することによって充填材と樹脂成分との密着力が向上し、エポキシ樹脂組成物のクラックを抑えるとともに被着体界面での密着力を高めることができる。
【0024】
ここで、シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン、更に、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシラン等を用いることができる。
【0025】
本発明にはその目的を損なわない限り、必要に応じて他の物質を配合することもできる。このような物質としてはアミン類、ポリアミド類、イミダゾール類やルイス酸等の硬化促進剤、分散安定剤、イオントラップ剤、低弾性化剤、着色剤、希釈剤等を例示することができる。
【0026】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物については従来公知の方法をはじめとして、様々な方法、手段で調整することができる。
【0027】
たとえば、常温で液状のエポキシ樹脂、硬化剤、およびその他の所要の添加剤を同時または別々に配合し、必要に応じて熱処理や冷却処理を行いながら、攪拌、溶解、混合、分散を行う。ついでこの混合物に充填材を加え、必要に応じて加熱処理や冷却処理を行いながら、再度、攪拌、混合を行うことにより、本発明の樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
また、その使用についてはこれまでと同様にして行うことができる。これによって本発明の半導体装置が実現されることになる。
【0029】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0030】
配合成分として、表1に示したものを用いた。
【0031】
【表1】

【0032】
<実施例1〜7>
<比較例1〜3>
液状樹脂組成物の構成成分である表1のエポキシ樹脂、硬化剤、その他成分を表2に示す配合量で配合し、これをプラネタリーミキサーあるいはホモディスパーにて分散・混合することによって、エポキシ樹脂組成物を調製した。シランカップリング剤処理はインテグラルブレンド法により添加した。得られた液状エポキシ樹脂組成物について、以下のとおりの評価を行った。
(1)粘度
室温(25℃)にてB型粘度計を用いて測定した。
【0033】
粘度はNo.7ロータを用いて100rpmの数値を用いた。
(2)チクソ指数
上記粘度計、No.7ロータを用いて、10rpm/100rpmの粘度比の数値を算出した。
(3)ゲル化時間
ホットプレートの温度を150±2℃に設定し、このホットプレート上に約1gのエポキシ樹脂を載置し、これを1秒間隔で攪拌して攪拌不能になるまでの時間を測定した。
(4)ガラス転移温度(Tg)
粘弾性スペクトルメーター(DMA)の曲げモードにて評価した。試験片は120℃1時間で硬化して作製した。5幅×50長×0.2mm厚に切り出したものを用い、昇温5℃/min.により−60℃〜280℃まで測定した。
(5)線膨張率
熱分析計TMAにより評価した。試験片は120℃1時間で硬化して作製した。
【0034】
3mm×3mm×15mm長に切り出したものを用い、昇温5℃/min.により−60℃〜260℃まで測定した。
(6)曲げ弾性率
80長以上×10幅×3厚mmの樹脂硬化物を用いて、引張圧縮試験機による3点曲げ試験により室温で評価した。試験速度2mm/min.、支点間距離48mmとし、荷重を加えた。試験片は120℃1時間で硬化した。
(7)圧縮破壊強度
微小圧縮試験機(島津微小圧縮試験機MCTM−500)を用いて以下の式を用いて測定した。破壊しない弾性粒子においては粒子径の10%変形時の強度を用いた。
【0035】
St=2.8P/πd2
St:破壊強度(MPa)
P:破壊荷重(N)
d:粒子径(mm)
(8)特性評価
評価基板(FR40.6mmt)に14mm□FBGA(552I/O,0.4mmピッチ、ボールサイズ250μm)を実装した導通チェック可能な評価基板を用いて、BGAの2辺にエポキシ樹脂組成物をL字に塗布して、樹脂を浸透させ、対角側の2辺にBGAの本体厚みの30%の高さまでフィレットが形成されるのを確認してから、室温から120℃まで5分で昇温しその後8分間120℃で保持するプロファイルで硬化して以下の評価を実施した。
<浸透性>
BGAの2辺にエポキシ樹脂組成物をL字に塗布してから、対角側の2辺にBGAの本体厚みの30%の高さまでフィレットが形成されるまでの時間を測定した。BGAについてn3の平均値を算出した。
<リペア性>
上記の樹脂硬化後のFBGA実装基板を各n3個用いて樹脂リペア性の評価を行った。リペアはBGAリワーク機(オーケーインターナショナル製BGA−3500)を用いてハンダ接合部温度が300℃に到達してからBGAを取り外し、基板側の樹脂残渣を竹串を用いて3分間で剥がし取って行った。基板側に樹脂塊りが10体積%以上残っている場合は「×」、樹脂塊りが10体積%以下であっても基板側に薄く薄膜状の残渣が認められる場合は「△」、これらいずれも確認されない場合は「○」として評価を行った。
<衝撃強度>
上記の樹脂硬化後のFBGA実装基板を各n20個用いて落錘試験を実施した。
【0036】
100gの荷重をBGA実装面でない裏面に接触させた杭状金属に落下させて、衝撃箇所のバラツキが出ないようにして20cmの高さから繰返し落下させた。評価基板はケースに端部をネジで固定させてBGA実装部分は自由に撓むように配置している。また、導通チェックパッドに常時通電させて抵抗値の変化をモニタリングして瞬断が発生するまでの回数と、フィレットにクラックの発生が確認されるまでの回数を評価した。クラックは10回ごとにケースから基板を外して光学顕微鏡で観察した。
<温度サイクル(TC)性>
上記の樹脂硬化後のFBGA実装基板を各n20個用いて温度サイクル試験サンプルとした。これらのサンプルに−40℃で5分間、85℃で5分間を1サイクルとする気相中での温度サイクルを与え、1000サイクルまでの100サイクルごとに半導体装置の動作確認を導通確認により行い、10%以上抵抗値が上昇したものを動作不良と判定した。そして、20個のサンプルのうち動作不良が発生した個数が10個に達したときのサイクル数にて評価を行った。上記の評価結果を表2に示した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示した評価結果からは、実施例では比較例に比べて衝撃強度の向上が著しいことがわかる。また、実施例1をカップリング処理することで更に衝撃強度の向上が確認できた(実施例7)。
【0039】
圧縮破壊強度の大きい充填材(比較例1)、添加量が少ないもの(比較例2)においては強度アップの効果が見られない。添加量が多すぎると粘度とチクソ指数の上昇によりBGAに樹脂が浸透しないことがわかる(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)常温で液状のエポキシ樹脂、(B)硬化剤、並びに(C)充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、(C)充填材として組成物全体量に対して0.1〜10質量%の範囲内の、圧縮破壊強度が5MPa以上100MPa以下の軟質充填材を含有することを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
軟質充填材は無機物であることを特徴とする請求項1に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
軟質充填材はシランカップリング剤で表面処理された無機物であることを特徴とする請求項1または2に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
半導体素子と、その素子への配線を供する部材が、請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の液状エポキシ樹脂の硬化物により接着された構造を有することを特徴とする半導体素子。

【公開番号】特開2011−246602(P2011−246602A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120995(P2010−120995)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】