説明

測位装置

【課題】DR測位結果の補正を適切に実行する。
【解決手段】自律航法用のセンサと、各センサの計測値を算出するための所定の係数を保持する係数保持手段と、該所定の係数を用いて該計測値を算出する計測値算出手段と、計測値算出手段により算出された計測値を用いて測位演算を行う自律測位手段と、GPS航法により少なくとも該計測値に対応するパラメータの測位演算を行うGPS測位手段と、計測値算出手段により算出された計測値と、GPS測位手段により演算された、当該計測値に対応するパラメータの測位値との差を算出する差分算出手段と、差分算出手段により算出された測定値差と該所定の係数とを比較する比較手段と、比較手段による比較結果に基づいて自律測位手段の測位結果を補正する測位結果補正手段とを備えた測位装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS(Global Positioning System)航法と自律航法による測位を並列に実行し、互いの測位結果を比較して最終的な測位結果を算出する測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPSは、地球を周回するGPS衛星から発信されるGPS信号を用いて位置情報等を取得するための測位システムであり、例えば車両に実装されるナビゲーション装置等に利用される。このようなナビゲーション装置は、一般に、GPSを利用するGPS航法や、車速センサやジャイロセンサ等を利用する自律航法等を用いて測位を行い、車両の位置情報等を決定する。
【0003】
GPS航法をナビゲーション装置で利用する場合、例えば車両がGPS信号を受信可能な領域に位置しないときには測位を行うことができない欠点がある。また、自律航法を利用する場合、前回の測位結果にセンサの測定結果を加算した値が最新の測位結果となるため、当該最新の測位結果に誤差が蓄積される欠点がある。
【0004】
互いの航法の欠点を補って高精度の測位結果を得るため、例えばGPSを利用したGPS航法と、車速センサやジャイロセンサ等を用いた自律航法とを並列に実行する構成を採用したナビゲーション装置が知られている。このようなナビゲーション装置では、各航法の測位結果が比較され、その比較結果に基づいて車両の位置情報等が決定される。例えば下記特許文献1に、このようなナビゲーション装置の一例が開示されている。なお、便宜上、GPS航法を利用して得られた測位結果を「GPS測位結果」、自律航法を利用して得られた測位結果を「DR(Dead Reckoning)測位結果」と記す。
【0005】
下記特許文献1に記載のナビゲーション装置によれば、各航法を利用して得られたGPS測位結果とDR測位結果とが比較される。次いで、互いの測位結果に含まれる位置・方位・速度の差が所定の閾値より小さいときにはGPS測位結果の精度が高いと判断され、当該GPS測位結果に基づいてDR測位結果が補正される。そして、補正されたDR測位結果に基づいて車両の位置情報等が決定する。また、上記差が所定の閾値以上のときにはGPS測位結果の精度が低いと判断され、DR測位結果が補正されず、補正なしのDR測位結果に基づいて車両の位置情報等が決定する。このように下記特許文献1では、互いの測位結果を比較してGPS測位結果の精度が高いと判断されるときに限り上記補正を行い、車両の位置情報等を高精度に得ることを可能としている。
【特許文献1】特開2003−149318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば上記特許文献1において上記比較処理に用いる閾値を高い値にすればするほど、DR測位結果の補正に精度の低いGPS測位結果が用いられる可能性が高くなる。この結果、DR測位結果の精度が低下する。一方、上記特許文献1において上記比較処理に用いる閾値を低い値に設定すればするほど、DR測位結果の補正に精度の高いGPS測位結果が用いられる可能性が高くなる。この結果、DR測位結果の精度が高くなる。しかし、上記閾値を低く設定し過ぎると、GPS測位結果の精度が高い場合であっても、例えば車速センサやジャイロセンサ等に含まれる僅かな誤差が原因で上記差が当該の閾値を超えることがあり、上記補正が適切に実行されない不都合がある。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みて、DR測位結果の補正を適切に実行することが可能な測位装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する本発明の一態様に係る測位装置は、GPS航法と自律航法を併用して測位を行う装置である。この測位装置は、自律航法用のセンサと、各センサの計測値を算出するための所定の係数を保持する係数保持手段と、該所定の係数を用いて該計測値を算出する計測値算出手段と、計測値算出手段により算出された計測値を用いて測位演算を行う自律測位手段と、GPS航法により少なくとも該計測値に対応するパラメータの測位演算を行うGPS測位手段と、計測値算出手段により算出された計測値と、GPS測位手段により演算された、当該計測値に対応するパラメータの測位値との差を算出する差分算出手段と、差分算出手段により算出された測定値差と該所定の係数とを比較する比較手段と、比較手段による比較結果に基づいて自律測位手段の測位結果を補正する測位結果補正手段とを備えたことを特徴とした装置である。
【0009】
このような構成によれば、自律航法用センサの計測値の分解能を閾値として、GPS航法と自律航法との測位結果を比較することができる。このような分解能は、センサに含まれる誤差よりも十分に大きな値であると共に、センサの計測値の最小単位の値(すなわち十分に小さい値)でもある。従って、本発明に係る測位装置によれば、精度の高いGPS測位結果が自律測位手段の測位結果の補正に用いられるようになると共に、センサに含まれる誤差が原因で当該補正が適切に実行されない不都合が解消される。
【0010】
ここで、上記測位装置は、例えばセンサの計測値の履歴を保持する履歴保持手段と、履歴保持手段に保持された履歴に基づいて該所定の係数を補正する係数補正手段とを更に備えた構成であっても良い。
【0011】
また、上記測位結果補正手段は、例えば該測定値差が該所定の係数以下となる比較結果を比較手段から得たとき、GPS測位手段により演算された測位結果を用いて自律測位手段の測位結果を補正する構成であっても良い。また、例えば該測定値差が該所定の係数以下となる比較結果を比較手段から所定回数連続して得たとき、GPS測位手段により演算された測位結果を用いて自律測位手段の測位結果を補正する構成であっても良い。
【0012】
また、上記測位装置は、自律航法用のセンサとして、例えば少なくとも速度センサおよびジャイロセンサを有する構成であっても良い。
【0013】
上記センサが例えば速度センサである場合には、計測値算出手段は移動速度を算出し、差分算出手段は、計測値算出手段により算出された移動速度が第一の閾値以上であるときに限り、該測定値差を算出する構成であっても良い。
【0014】
また、上記の課題を解決する本発明の別の態様に係る測位装置は、GPS航法と自律航法を併用して測位を行う装置である。この測位装置は、自律航法用の速度センサと、速度センサの計測値を算出するための所定の係数を保持する係数保持手段と、該所定の係数を用いて該計測値を算出する計測値算出手段と、自律航法用の方位を検出する方位検出手段と、計測値算出手段により算出された計測値、および方位検出手段により検出された方位に基づいて速度および方位測位を行う自律測位手段と、GPS航法により速度および方位測位を行うGPS測位手段と、計測値算出手段により算出された計測値と、GPS測位手段による速度測位値との差を算出する速度差算出手段と、差分算出手段により算出された速度差と該所定の係数とを比較して、当該速度差が該所定の係数以下か否かを判定する判定手段と、判定手段により該速度差が該所定の係数以下と判定されるとき、GPS測位手段による方位測位結果を用いて自律測位手段による方位測位結果を補正する方位補正手段とを備えたことを特徴とした装置である。
【0015】
このような構成によれば、速度センサの計測値の分解能を閾値として、GPS航法と自律航法との測位結果を比較することができる。このような分解能は、速度センサに含まれる誤差よりも十分に大きな値であると共に、速度センサの計測値の最小単位の値(すなわち十分に小さい値)でもある。従って、本発明に係る測位装置によれば、精度の高いGPS測位結果が自律測位手段の測位結果の補正に用いられるようになると共に、速度センサに含まれる誤差が原因で当該補正が適切に実行されない不都合が解消される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る測位装置によれば、精度の高いGPS測位結果で自律測位手段の測位結果の補正が行われるようになると共に、センサに含まれる誤差が原因で当該補正が適切に実行されない不都合が解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態のナビゲーション装置の構成および作用について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態のナビゲーション装置200の構成を示したブロック図である。ナビゲーション装置200は、車両(不図示)に実装された所謂カーナビである。
【0019】
ナビゲーション装置200は、GPSレシーバ100、ジャイロセンサ102、車速センサ104、ゲートアレイ106、CPU(Central Processing Unit)108、HDD(Hard Disk Drive)110、RAM(Random Access Memory)112、表示部114、スピーカ116、および入力部118を備える。CPU108は、ナビゲーション装置200全体の制御を統括して実行する。ナビゲーション装置200の各構成要素はCPU108の制御下で各種機能を実現する。
【0020】
GPSレシーバ100は、地球を周回する複数のGPS衛星の幾つかを捕捉・追尾する。そして、捕捉・追尾したGPS衛星からのGPS信号を用いて位置測位を行い、車両の現在位置情報を得る。また、それと同時にGPS信号を用いて速度測位を行い、車両の移動速度および方位(車両の進行方向)の情報を得る。すなわち、GPSレシーバ100は、現在位置情報、移動速度情報、および方位情報の3つのパラメータについての測位結果を取得する。そして、取得した測位結果をCPU108に送出する。
【0021】
ジャイロセンサ102および車速センサ104は、周知のデッドレコニング(Dead Reckoning、以下、「DR」と略記)用のセンサである。ジャイロセンサ102は、車両の水平面における方位に関する角速度を計測して、その計測結果をCPU108に出力する。車速センサ104は、車両の左右の駆動輪の回転速度を検出し、その検出結果に応じたパルス数をCPU108に出力する。なお、説明の便宜上、これらのセンサ出力を「DRセンサ出力」と記す。DRセンサ出力は、ゲートアレイ106を介してCPU108に入力する。CPU108は、これらのDRセンサ出力に基づいて周知の自律航法を行うことができる。
【0022】
HDD110は、地図データベースやプログラム等の各種データを格納した記録媒体である。RAM112は、例えばHDD110に格納されているデータやプログラム等が一時的に展開されるメモリである。CPU108は、例えばHDD110に格納されているプログラムを読み出してRAM112の所定領域に展開して実行させる。これにより、例えばナビゲーション用のプログラムが動作してナビゲーション機能が実現される。
【0023】
表示部114は、例えばナビゲーション用画面等を表示するためのものである。この表示部114は、例えば感圧式又は静電式等の周知のタッチ・パネルであり、入力手段を兼ねている。入力部118は、ユーザ・オペレーションを成すためのものであり、例えばフロントパネル(不図示)に設置されたメカニカル式の入力キーである。例えば電源スイッチは入力部118を構成する一要素である。表示部114又は入力部118が操作されると、それに応じた信号がCPU108に入力する。そして、CPU108は、ユーザ・オペレーションに対応した処理が実行されるよう各構成要素を制御する。また、スピーカ116は、例えば分岐地点での進行方向の報知等のナビゲーション用音声を出力する。
【0024】
次に、GPSレシーバ100について詳説する。図2に、本発明の実施の形態のGPSレシーバ100の構成をブロック図で示す。
【0025】
GPSレシーバ100は大別して、ダウンコンバータ部1、受信信号処理部2、および測位演算制御部3で構成される。ダウンコンバータ部1は、GPS信号を受信してダウンコンバートし、受信信号処理部2に渡す。受信信号処理部2は、ダウンコンバータ部1から信号を受け取ると、測位演算制御部3と連携して動作して捕捉、追尾、および測位の各処理を実行する。測位演算制御部3は、受信信号処理部2と連携して動作した結果得られたGPS測位結果をCPU108に出力する。
【0026】
ダウンコンバータ部1は、GPSアンテナ10、RF(radio frequency)入力部11、BPF(Band Pass Filter)12および14、LNA(Low Noise Amplifier)13、ダウンコンバータ15、AGC(Auto Gain Control)16、TCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)17、周波数シンセサイザー18、およびA/D変換部19を有する。
【0027】
GPSアンテナ10がGPS衛星から発信されるGPS信号を受信すると、その受信信号は、RF入力部11を介してBPF12に入力する。そして、この受信信号は、BPF12を通過して所定帯域に制限されて、低雑音増幅器であるLNA13、BPF14を経てGPS帯域外のノイズが減衰され、ダウンコンバータ15に入力する。
【0028】
TCXO17は、ダウンコンバータ15に入力された受信信号の周波数よりも低い周波数を発振する局部発振器である。周波数シンセサイザー18は、TCXO17からの出力に基づいて局部発振器信号を生成し、ダウンコンバータ15に出力する。ダウンコンバータ15は、周波数シンセサイザー18からの局部発振器信号を用いて、AGC16のコントロール下で、上記受信信号を安定動作や選択特性が改善される中間周波数、すなわちIF(Intermediate Frequency)信号に変換する。
【0029】
A/D変換部19は、IF信号をサンプリングして直交復調してI(In-phase)信号とQ(Quadra-phase)信号に変換する。なお、I信号は直交復調の際の同相成分である。また、Q信号はI信号と直交関係にある成分である。以下、説明の便宜上、I信号とQ信号とをまとめて「IQ信号」と略記する。A/D変換部19は、上記変換処理で得られたIQ信号を受信信号処理部2に出力する。
【0030】
受信信号処理部2は、複数のチャンネル21およびNCO(Number Controlled Oscillator)22を有する。A/D変換部19からのIQ信号は、複数のチャンネル21に入力する。チャンネル21の各々は1基のGPS衛星を補足・追尾するための構成を有する。各GPS信号に対応するIQ信号はそれぞれ別個のチャンネル21に入力し処理される。各チャンネル21で並列に処理が実行されることにより、GPSレシーバ100は複数のGPS衛星を同時に補足・追尾することが可能となっている。
【0031】
NCO22は、数値制御された周波数を発振する発振器である。NCO22には、周波数シンセサイザー18から基準クロックが入力する。NCO22は、当該の基準クロックに基づいて、キャリアに関するNCO制御、PRN(Pseudo Random Noise)コードのリファレンスコード生成、コードに関するNCO制御を実行する。各チャンネル21は、NCO22の出力に基づいて、入力したIQ信号に対して、ドップラー除去、少なくとも1つのコリレータによるコード相関検出、および積算処理を実行する。次いで、これらの処理を施された信号を測位演算制御部3に出力する。
【0032】
測位演算制御部3は、CPU31、RTC(Real-Time Clock)32、ROM33、RAM34、およびインターフェース35を有する。CPU31は、周波数シンセサイザー18から出力されるクロックに基づいて動作し、測位演算制御部3全体の制御を統括して実行する。RTC32は、水晶発振器(不図示)によって動作する時計IC(Integrated Circuit)であり、例えば計時手段として機能する。ROM33には、例えば測位演算を行うためのプログラムやデータが格納されている。CPU31は、ROM33のプログラムをRAM34に展開して測位演算処理を行う。CPU31は、例えば各チャンネル21から信号を受け取ると、当該信号に関する測定値を算出する。
【0033】
ここで、各チャンネル21に入力される信号に基づいて所望の測定値を得る処理について説明する。GPS信号を捕捉するために必要なサーチ周波数のレンジは、主として、ドップラー効果による受信周波数の偏位と、TCXO17のばらつき(個体差や経年変化)および変動(温度特性や電源変動)等の偏差によって決定される。先ず、CPU31が、衛星の軌道情報である航法メッセージ、前回測位位置および、現在時刻に基づいて当該信号のドップラー周波数とコード位相のサーチレンジを推定してそれらの設定値を生成し、NCO22に出力する。そして、各チャンネル21において実行されるサーチ処理の制御を行う。
【0034】
また、CPU31は、各チャンネル21でサーチされるPRNコードをチャンネル21毎に指定する。これにより、各チャンネル21では、設定されたドップラー周波数に基づいたドップラー除去が行われ、設定された位相サーチレンジ内において指定されたPRNコードのリファレンスコードと入力信号との相関ピークが検出される。次いで、積算処理が実行され、入力信号のレベルが所定の閾値を越えた場合に当該入力信号がGPS信号として捕捉される。なお、このときの積算時間を長く設定すればするほど捕捉感度が上昇する。この積算時間もCPU31によって設定される。
【0035】
各チャンネル21では、更に、CPU31に含まれるトラッキングループフィルタ、およびNCO22を介して捕捉されたGPS信号のキャリア、コードへのトラッキングエラーを補正し、GPS信号の追尾を続行する。なお、GPS信号の捕捉に失敗した場合には、通常、CPU31が、より広いサーチ周波数のレンジ、コード位相のレンジ、および、より高い感度を再設定してNCO22に出力する。そして、NCO22の制御下でチャンネル21において上述の処理が再試行される。
【0036】
CPU31は、測位に必要な複数のGPS信号に含まれる航法メッセージを取得し、コード位相(疑似距離)、キャリア周波数(疑似距離レート)、キャリア位相(デルタスードレンジ)、SN比、GPSレシーバ100におけるGPSタイムラグを算出する。そして、これらのGPS信号からの測定値およびデータに基づいて、位置、速度、方位、時刻を算出(すなわち測位演算)する。算出されたGPS測位結果は、インターフェース35を介してCPU108に出力される。なお、CPU108側からGPSレシーバ100に設定値を入力することで、ナビゲーション装置200に対してより適応的なダイナミックな制御を実現することも可能である。
【0037】
次に、GPSレシーバ100からのGPS測位結果および各センサからのDRセンサ出力を受け取った際のCPU108の処理について説明する。
【0038】
CPU108は、各センサが出力したDRセンサ出力に基づいてDR測位演算を行い、DR測位結果を得る。DR測位結果もGPS測位結果と同様に、車両の現在位置情報、移動速度情報、および方位情報の3つのパラメータで構成される。具体的には、DR測位結果に含まれる移動速度情報は、車速センサ104で計測される移動速度を示すものである。また、DR測位結果に含まれる方位情報は、前回のDR測位結果の方位情報に、ジャイロセンサ102で計測された方位の変化量を加算することにより得られる。また、DR測位結果に含まれる現在位置情報は、前回のDR測位結果の位置情報に、ジャイロセンサ102で測定される方位の変化量および車速センサ104で測定される移動速度(移動距離)を加算することにより得られる。
【0039】
なお、CPU108は、DRセンサの直近の計測値の履歴を例えばRAM112に一時的に保持する。そして、距離係数(車速センサ104が1パルス出力する毎に車両が移動する距離を示す係数)やジャイロセンサ102の感度およびバイアスを、それぞれの計測値の履歴を参照して常に補正・学習しながらDR測位結果を算出する。補正・学習の結果得られる距離係数等は、例えばRAM112に保持される。ここで、説明の便宜上、距離係数等を補正・学習する動作を「センサ学習」といい、また、上記距離係数に符号「X」を付す。センサ学習を実行することにより、例えばタイヤが磨り減ったりサイズの異なるものに交換されたりすると、それに伴って距離係数Xが変化する。距離係数Xが経時的変化等に対応したものとなるため、DRセンサ出力に基づいて得られる直近の移動速度は、常時誤差の小さいものとなる。この結果、DR測位演算で得られる移動速度に蓄積される誤差の量が低減し、当該の移動速度の精度が向上する。
【0040】
次いで、CPU108は、得られたDR測位結果とGPS測位結果と、夫々の測位結果に対する誤差推定値とを比較する。そして、この比較結果に基づいてDR測位結果を補正して、最終的に得た測位結果をマップマッチングする。また、CPU108は、各測位結果に基づいてHDD110の地図データベースを検索し、現在位置周辺の地図画像データを抽出する。次いで、この抽出された地図画像データに車両の現在位置を示す自車位置マークが重畳表示された画面を表示部114に表示させる。
【0041】
なお、ここでいうマップマッチングとは、表示部114に表示されている地図中の道路から外れた位置に自車位置マークが表示される等の誤差を補正することを示す。マップマッチングを行うことによって自車位置と地図との整合性が取れ、ユーザは自車の現在位置を正確に把握することができる。マップマッチングは、ナビゲーションの実行に拘わらず常時行われている。
【0042】
ある目的地に向けてナビゲーションするようにユーザ・オペレーションが成されたとき、CPU108は、ナビゲーション用のプログラムをHDD110から読み出して例えばDRAM112に展開する。次いでHDD110の地図データベースを読み込み、且つ、測位結果に基づく現在位置情報および設定された目的地の情報を参照して、例えば周知のダイクストラ法により経路検索を実行する。そして、最適と判断される経路を検索結果として得る。CPU108は、例えば得られた経路や当該経路に関する種々の情報を表示部114に表示させる。ユーザはこのようなナビゲーション情報を参照することで目的地までの経路を把握することができる。
【0043】
ここで、最終的な測位結果を得る際にCPU108が実行する処理の1つに方位補正処理がある。この方位補正処理は、GPS測位結果を用いてDR測位結果の方位情報を補正する処理である。以下、この方位補正処理について説明する。
【0044】
図3に、方位補正処理のフローチャートを示す。方位補正処理は、例えばナビゲーション装置の電源がオンされている間、常時実行される。図3に示されるように、CPU108は、先ず、パラメータの初期化を行う(ステップ1、以下の明細書および図面においてステップを「S」と略記)。ここではCPU108はカウンタを内蔵しており、そのカウント値nを「0」にリセットする。
【0045】
CPU108はS1の処理に次いで、GPS測位結果およびDR測位結果を取得したか否かを判定する(S2)。なお、GPSレシーバ100は、GPS測位結果を例えば一秒毎に算出してCPU108に出力する。また、ジャイロセンサ102および車速センサ104も例えば一秒毎にDRセンサ出力をCPU108に渡す。CPU108は、DRセンサ出力を受け取ると、方位補正処理と並行してDR測位演算処理を行う。この結果、本実施形態では、CPU108は、GPS測位結果およびDR測位結果を例えば一秒毎に取得することになる。
【0046】
CPU108は、GPS測位結果およびDR測位結果を取得したと判定すると(S2:YES)、車両の現在の移動速度情報Vodoの値が閾値α以上か否かを判定する(S3)。この移動速度情報Vodoは、DRセンサ出力に基づいて算出される、車両の直近の移動速度を表す情報である。具体的には、移動速度情報Vodoは、CPU108が車速センサ104から受け取った単位時間当たりのパルス数aに距離係数Xを乗算することで得られる。
【0047】
S3の処理において移動速度情報Vodoの値が閾値αを下回る値である場合(S3:NO)、CPU108は、車両が完全に停止又は略停止した状態にあると判断する。GPSによる速度測位は、ドップラー周波数の変移量を基に行っている。このためその精度は、衛星配置はもちろんのこと、ドップラー周波数と、GPSレシーバ100の内部クロックの雑音との比(SN比)に依存することになる。従って、車両が停止又は略停止した状態で得られるGPSの速度測位結果には一般に誤差が含まれる確率が比較的高く、例えばGPS測位結果の方位情報がばらつき易い欠点がある。このため、CPU108は、取得したGPS測位結果を用いて処理を進めるべきでない判断して、方位補正処理をリターンする。
【0048】
また、S3の処理において移動速度情報Vodoの値が閾値α以上の値である場合(S3:YES)、CPU108は、先に説明したように、ドップラー周波数の変移量と、GPSレシーバ100の内部クロックのブレ等による雑音との比(SN比)がある程度高くなり、取得したGPS測位結果の精度が高いものとみなして、S4の処理に進む。次いで、S4の処理において、移動速度情報Vodoの値と移動速度情報Vgpsの値との差の絶対値が距離係数X以下の値であるか否かを判定する。なお、移動速度情報Vgpsは、GPS測位結果に含まれる移動速度情報である。
【0049】
ここで、移動速度情報Vodoは、上述したようにセンサ学習によって補正された距離係数Xを用いて算出される。また、過去のDR測位結果の累積値で得られる情報でない。従って、移動速度情報Vodoは、誤差が極めて小さく信頼性の高い値である。このため、上記差の絶対値が小さければ小さいほど移動速度情報Vgpsの精度が高いと云える。従って、S4の処理において上記差の絶対値が距離係数X以下の値である場合(S4:YES)、CPU108は、移動速度情報Vgpsが例えばマルチパス等の影響のない高精度な値であると判断してS5の処理に進む。また、上記差の絶対値が距離係数Xを上回る値である場合には(S4:NO)、移動速度情報Vgpsが例えばマルチパス等の影響を受けた値であり、精度が低いと判断する。そして、このような精度の低い移動速度情報Vgpsを含むGPS測位結果を用いてDR測位結果の方位情報を補正することはできないとして、方位補正処理をリターンする。
【0050】
S5の処理においてCPU108は、カウント値nを1インクリメントする。次いで、カウント値nが閾値β以上か否かを判定する(S6)。そして、カウント値nが閾値β以上である場合には(S6:YES)、GPS信号の受信状態が継続的に良好で移動速度情報Vgpsの精度の信頼性が高いと判断する。ここで、一般に、移動速度情報Vgpsの精度が高いとき、そのGPS測位結果に含まれる方位情報Vdirの精度も高い。従って、CPU108は、カウント値nが閾値β以上である場合には方位情報Vdirの精度が高いとみなし、当該の方位情報Vdirを用いてDR測位結果の方位情報を補正する(S7)。そして、方位補正処理をリターンする。なお、ここでいう補正は、DR測位結果の方位情報を例えば方位情報Vdirに一致させることを云う。
【0051】
また、S6の処理においてカウント値nが閾値β未満である場合には(S6:NO)、CPU108は、移動速度情報Vgpsのサンプリング数が少なくその精度に信頼性が欠けると判断する。そして、S2乃至5の処理を繰り返し実行するためにS2の処理に復帰する。
【0052】
本実施形態の方位補正処理では、移動速度情報Vodoと移動速度情報Vgpsとを比較する際の閾値として距離係数Xを採用している。ここで、移動速度情報Vodoの値は、上述したようにパルス数aに距離係数Xを乗算することで得られる値である。これは、距離係数Xが車速センサ104の計測値の分解能に相当する値であることを意味する。一般に、センサが故障したり性能が大幅に低下したりしない限り、センサに含まれる誤差が計測値の分解能を超えることはない。従って、本実施形態において車速センサ104に誤差が生じても、当該の誤差だけを原因として移動速度情報Vodoと実際の車両の移動速度との差が距離係数Xを超えることはない。
【0053】
また、距離係数Xは、車速センサ104の計測値の分解能に相当する値であることから、十分に低い値であると云える。従って、このような値を閾値として採用することにより、精度の高いGPS測位結果のみをDR測位結果の補正に用いることができるメリットがある。また、距離係数Xは、センサ学習により、タイヤの摩耗や交換、車速センサ104の経時的変化等に対応して常に最適値に収束されている。このため、本実施形態の方位補正処理では、タイヤや車速センサ104等の経時的変化に拘わらず、常に、車速センサ104の計測値の分解能に相当する閾値を用いて図3のS4の判定処理を実施可能である。
【0054】
なお、GPS測位結果において、一般に、移動速度情報の精度は位置情報の精度よりも高い。また、例えばGPS測位が2次元測位となる場合(補足・追尾中のGPS衛星が3つである場合)、或いはDOP(Dilution Of Precision)が所定の閾値を超える場合であってもGPS測位による移動速度情報の精度は比較的高く、より正確なGPS測位の方位結果を用いてDR測位の方位結果の補正が行われることになるため、結果的に当該補正の精度が向上するメリットが享受される。従って、本実施形態のようにGPS測位結果の移動速度情報をDR測位結果の補正に利用した場合、より正確なマップマッチングを行うことが可能となる。
【0055】
また、本実施形態のナビゲーション装置では上記特許文献1と異なり、GPS測位に利用するGPS衛星の組み合わせに依存することなくDR測位結果の補正が達成される。例えば新宿等の都心部では、ビル等の建造物による遮蔽によって上記組み合わせが変化し易い状況にあると云える。本実施形態のナビゲーション装置は、このような状況下でもDR測位結果の補正を継続して実行することができるため、都心部等で利用するのに極めて好適な構成であると云える。
【0056】
以上が本発明の実施形態である。本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく様々な範囲で変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態のナビゲーション装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態のGPSレシーバの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態で実行される方位補正処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1 ダウンコンバータ部
2 受信信号処理部
3 測位演算制御部
100 GPSレシーバ
102 ジャイロセンサ
104 車速センサ
108 CPU
200 ナビゲーション装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS(Global Positioning System)航法と自律航法を併用して測位を行う測位装置において、
自律航法用のセンサと、
各前記センサの計測値を算出するための所定の係数を保持する係数保持手段と、
該所定の係数を用いて該計測値を算出する計測値算出手段と、
前記計測値算出手段により算出された計測値を用いて測位演算を行う自律測位手段と、
GPS航法により少なくとも該計測値に対応するパラメータの測位演算を行うGPS測位手段と、
前記計測値算出手段により算出された計測値と、GPS測位手段により演算された、当該計測値に対応するパラメータの測位値との差を算出する差分算出手段と、
前記差分算出手段により算出された測定値差と該所定の係数とを比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果に基づいて、前記自律測位手段の測位結果を補正する測位結果補正手段と、を備えたこと、を特徴とする測位装置。
【請求項2】
前記センサの計測値の履歴を保持する履歴保持手段と、
前記履歴保持手段に保持された履歴に基づいて該所定の係数を補正する係数補正手段と、を更に備えたこと、を特徴とする請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記測位結果補正手段は、該測定値差が該所定の係数以下となる比較結果を前記比較手段から得たとき、前記GPS測位手段により演算された測位結果を用いて前記自律測位手段の測位結果を補正すること、を特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の測位装置。
【請求項4】
前記測位結果補正手段は、該測定値差が該所定の係数以下となる比較結果を前記比較手段から所定回数連続して得たとき、前記GPS測位手段により演算された測位結果を用いて前記自律測位手段の測位結果を補正すること、を特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の測位装置。
【請求項5】
自律航法用のセンサとして、少なくとも速度センサおよびジャイロセンサを有すること、を特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の測位装置。
【請求項6】
前記センサが速度センサである場合、前記計測値算出手段は移動速度を算出し、
前記差分算出手段は、前記計測値算出手段により算出された移動速度が第一の閾値以上であるときに限り、該測定値差を算出すること、を特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の測位装置。
【請求項7】
GPS航法と自律航法を併用して測位を行う測位装置において、
自律航法用の速度センサと、
前記速度センサの計測値を算出するための所定の係数を保持する係数保持手段と、
該所定の係数を用いて該計測値を算出する計測値算出手段と、
自律航法用の方位を検出する方位検出手段と、
前記計測値算出手段により算出された計測値、および前記方位検出手段により検出された方位に基づいて速度および方位測位を行う自律測位手段と、
GPS航法により速度および方位測位を行うGPS測位手段と、
前記計測値算出手段により算出された計測値と、前記GPS測位手段による速度測位値との差を算出する速度差算出手段と、
前記差分算出手段により算出された速度差と該所定の係数とを比較して、当該速度差が該所定の係数以下か否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により該速度差が該所定の係数以下と判定されるとき、前記GPS測位手段による方位測位結果を用いて前記自律測位手段による方位測位結果を補正する方位補正手段と、を備えたこと、を特徴とする測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−232771(P2008−232771A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71773(P2007−71773)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】