説明

溶液製膜方法

【課題】支持体の表面に付着した有機物の増大を抑制して、光学ムラのない高品質のフィルムを製造する。
【解決手段】表面が冷却された流延ドラム32の上にドープ21を流延して流延膜33を形成する。流延膜33が剥ぎ取られた後でドープ21が流延される前に、ドラム洗浄機41により流延ドラム32の表面に対してドライアイス粒子を含ませた洗浄ガスを吹き付ける。流延ドラム32の表面にドライアイス粒子が衝突する。この衝突時のエネルギーにより流延ドラム32の表面に付着した有機物を粉砕除去する。流延膜33の中から析出した脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩を主成分とする有機物を増大する前に取り除くことにより流延膜の表面に有機物を転写させない。以上より、生産性を低下させずに光学ムラのない高品質なフィルム20を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の偏光板の保護フィルムや光学補償フィルム、視野角拡大フィルム等の光学フィルムを製造するのに好適な溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、光透過性や柔軟性に優れると共に、軽量かつ、小型・薄型化が可能である等の特徴から写真感光用フィルム等として利用されている。最近では、セルロースアシレートを原料とするセルロースアシレートフィルムが、上記の特長に加えて強靭性に優れ、かつ複屈折率が低い等の理由から、液晶表示装置の偏光板の表面を保護するための保護フィルムや光学補償フィルム、或いは視野角拡大フィルム等の様々な光学フィルムとして利用されており、液晶表示装置の発展に伴ってその需要は著しく増大している。
【0003】
光学フィルムは、一般に溶液製膜方法で作られている。溶液製膜方法とは、走行させた支持体の上に、セルロースアシレート等のポリマーや溶媒、及び添加剤を含むドープを流延して流延膜を形成した後、支持体から流延膜を剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとする製膜方法である。溶液製膜方法は、熱ダメージを与えることなく製膜することができる他、製膜工程を工夫することで、光透過性、光学等方性、及び厚み均一性に優れ、かつ含有異物が少ないフィルムを得ることができる等の特徴を持つ。
【0004】
ところで、溶液製膜方法で連続的に製膜していると支持体の表面に汚れが生じる。この汚れは、流延膜中に含まれていた脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩等を主成分とする有機物が支持体の表面に析出したものと考えられる。有機物は、製膜開始から時間が経つほど大きくなり支持体表面の平滑性が損なわれる。増大した有機物は流延膜の表面に転写してフィルムの光学ムラを引き起こす。また、有機物が増大すると、有機物のところで円滑な剥ぎ取りが出来なくなり、剥ぎ取りムラや最悪の場合には剥ぎ取り不能になって製膜を一時中断する必要が生じる。このように有機物が付着すれば生産性低下等の様々な問題が生じるので、製膜現場では、通常、不織布等で定期的に支持体の表面を洗浄している。しかし、この方法では、製膜速度を落としたり、一旦製膜を停止する必要があるので生産性の低下が問題視されている。
【0005】
そこで、生産性を低下させずに支持体の表面を洗浄する方法として、例えば、特許文献1には、支持体の表面に光を照射し、この反射率を測定することにより支持体の表面に付着した有機物を確認し、その発生具合に応じて溶剤を染み込ませた不織布等で連続的又は間欠的に支持体の表面を拭き取る方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−001654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、有機物の存在を確認した後に支持体の表面を洗浄するので有機物の増大を抑えられず、完成したフィルムの品質低下が避けられない。また、溶剤を用いて支持体の表面を洗浄すると支持体の表面に溶剤の跡が残り易いので、溶剤の跡に起因するスジ状のムラや凹凸が流延膜の表面に形成されてフィルムの平面性が低下するおそれがある。加えて、不織布等で支持体の表面を拭けば、不織布と支持体との間に硬い異物が混入して支持体の表面に傷を付けるおそれがある。傷付いた支持体にドープを流延すれば、流延膜の表面に傷が写りフィルムの光学ムラを誘発するので問題である。
【0007】
そこで、本発明は上記問題を解決することを目的として、生産性を低下させることなく支持体上に付着した有機物の増大を抑えることにより光学ムラなどを誘発させずに高品質のフィルムを製造することができる溶液製膜方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の溶液製膜方法は、無端で走行する支持体の表面にポリマー及び溶媒を含むドープを流延して流延膜を形成する工程と、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとする工程と、前記流延膜が剥ぎ取られた後で前記ドープが流延されるまでの前記支持体の表面を洗浄して、前記表面に付着する有機物の増大を抑える洗浄工程とを有することを特徴とする。前記洗浄工程では、前記支持体の表面に対して粒状のドライアイスが含まれる洗浄ガスを洗浄ガス吹付手段により常時又は間欠的に吹き付けることが好ましい。
【0009】
前記洗浄工程では、前記ドライアイスを供給するドライアイス供給部と、前記ドライアイスを前記支持体の表面にまで運ぶキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、前記ドライアイスを前記キャリアガスに混合させて前記洗浄ガスを生成する洗浄ガス生成部とを有する前記洗浄ガス吹付手段により前記支持体の表面に対して前記洗浄ガスを吹き付け、前記ドライアイス供給部と前記洗浄ガス生成部とつなぐ第1配管に設けられた第1流量測定部により前記ドライアイスの流量を測定するとともに、前記キャリアガス供給部と前記洗浄ガス生成部とをつなぐ第2配管に設けられた第2流量測定部により前記キャリアガスの流量を測定し、前記第1及び第2流量測定部で測定した前記ドライアイスの流量及び前記キャリアガスの流量に基づいて、前記ドライアイスの供給量及び前記キャリアガスの供給量をフィードバック制御することが好ましい。
【0010】
前記洗浄工程では、前記第1配管に設けられた圧力測定部により前記第1配管内の圧力を測定し、前記圧力測定部で測定した前記第1配管内の圧力に基づいて、前記ドライアイスの供給圧をフィードバック制御することが好ましい。前記洗浄工程では、前記第1配管に設けられた温度測定部により前記ドライアイスの温度を測定し、前記温度測定部で測定した前記ドライアイスの温度に基づいて、前記ドライアイスの温度をフィードバック制御することが好ましい。
【0011】
前記洗浄工程では、前記洗浄ガス吹付手段に対して前記支持体の走行方向下流側に設けられた光沢度測定部により前記支持体の表面の光沢度を測定するとともに、前記支持体の表面を所定の光沢度にするために要した洗浄時間を時間計測部により計測し、前記光沢度測定部で測定した前記支持体の表面の光沢度及び前記時間計測部で計測した洗浄時間に基づいて、前記洗浄ガスの吹き付け量を制御することが好ましい。
【0012】
前記洗浄工程では、前記支持体の表面に対して紫外線を常時又は間欠的に照射することが好ましい。前記洗浄工程では、前記支持体の表面に対してプラズマを常時又は間欠的に照射することが好ましい。前記洗浄工程では、前記支持体の表面に対してレーザーを常時又は間欠的に照射することが好ましい。前記支持体の表面は−10℃以上10℃以下に冷却されており、前記流延膜をゲル化させて自己支持性を持たせることが好ましい。前記ポリマーはセルロールトリアセテートであり、前記有機物は、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩のいずれか1つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、製膜速度を落とすことなく、流延膜が剥ぎ取られた後でドープが流延されるまでの支持体の表面を洗浄することにより支持体上に付着した有機物の増大を抑制する。これにより、生産性を低下させることなく光学ムラのない高品質のフィルムを製造することができる。また、所定の洗浄方法を用いることにより支持体の表面を傷付けることなく洗浄作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る実施形態を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし、ここに挙げる形態はあくまで本発明に係る一例であり、本発明を限定するものではない。
【0015】
[溶液製膜方法]
図1に示すように、本実施形態で用いるフィルム製造設備10は、ストックタンク11と、流延室12と、渡り部13と、テンタ14と、乾燥室15と、冷却室16と、巻取室17とから構成されている。
【0016】
ストックタンク11は、フィルム20の原料となるドープ21を貯留するためのものであり、モータ11aで回転する攪拌翼11bと、ストックタンク11の内部温度を調節するためのジャケット11cとが備えられている。ジャケット11cは、ストックタンク11の外周面に設けられており、ジャケット11cの内部に温度を調節した伝熱媒体が供給される。これによりストックタンク11の内部温度が所定の範囲で制御され、ストックタンク11に貯留されるドープ21の温度が略一定に保持される。モータ11aにより攪拌翼11bが回されてドープ21は常時攪拌される。これにより貯留するドープ21の中に凝集物等を発生させず均一な品質を保持する。また、ストックタンク11の下流にはポンプ25と濾過装置26とが備えられている。なお、ドープ21については後で詳細に説明する。
【0017】
流延室12には、ドープ21を流延する流延ダイ30と、支持体として作用する流延ドラム32と、流延ダイ30の吐出口近傍を減圧する減圧チャンバ34と、流延室12の内部温度を調整する温調設備35と、流延ドラム32から流延膜33を剥ぎ取る際に使用する剥取ローラ36と、流延ドラム32に接続された伝熱媒体循環装置37と、凝縮器(コンデンサ)39と、回収装置40と、ドラム洗浄機41とが設置されている。
【0018】
流延ダイ30はドープ21の吐出口が形成されており、この吐出口が流延ドラム32に向って開口した状態で設置されている。流延ダイ30の材質は、電解質水溶液やジクロロメタン、メタノール等の混合液に対する高い耐腐食性や熱膨張率が低い等の特性を有するものが好適である。また、流延ダイ30の接液面の仕上げ精度は表面粗さが1μm以下であり、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。このような流延ダイ30を用いれば、流延ドラム32の上にスジ及びムラのない流延膜33を形成することができる。
【0019】
流延ドラム32は、駆動装置により円筒の軸を中心に回転する。流延ドラム32は円筒形状或いは円柱状であり、その表面には十分な耐腐食性と強度とを付与する目的でクロムめっき処理が施されている。流延ドラム32の内部には伝熱媒体の流路が形成されている。この伝熱媒体は、流延ドラム32に取り付けられた伝熱媒体循環装置37から供給される。流路に伝熱媒体を通過又は循環させることにより流延ドラム32の表面温度が所望の温度に保持される。なお、流延ドラム32を代替する支持体として、回転ローラに掛け渡されて無端で走行する流延バンドを好適に用いることができる。
【0020】
減圧チャンバ34は、流延ダイ30の剥取ローラ36側に設置されており、流延ダイ30から流延ドラム32の間に形成されるドープ21の流れ(流延ビード)の背面側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側とは、後で流延ドラム32の表面に接する面である。剥取ローラ36は、流延ドラム32から剥ぎ取られる流延膜33を支持する。凝縮器39は、ドープ21や流延膜33の内部から蒸発した溶媒を含むガスを凝縮液化するものであり、回収装置40はこの凝縮液化した有機溶媒を回収するためのものである。なお、回収された溶媒は再生装置で再生された後にドープ調製用溶媒として再利用される。
【0021】
ドラム洗浄機41は、流延ドラム32の表面近傍であって流延膜33が剥ぎ取られた後、再び流延ドラム32の上にドープ21が流延されるまでの間に設置されている。ドラム洗浄機41は、流延ドラム32の表面に対して所定の洗浄ガスを吹き付けることにより有機物を除去する。有機物は、例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸及び脂肪酸金属塩の各成分を主としたものが挙げられる。ただし、除去対象となる有機物は脂肪酸などに限定されず、例えば、フィルムの原料とするポリマーに含まれている脂肪酸と、溶媒に含まれているアルコールとの間で生成するものであってもよいし、ドープを調製する際に添加する添加剤と溶媒に含まれるアルコールとの間で生成するものであってもよい。なお、有機物の成分は、流延ドラム32の表面に存在する有機物をサンプルとして採取した後に、これをIR(赤外分光光度計)、GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)、NMR(核磁気共鳴装置)などにより分析することで確認可能である。
【0022】
洗浄ガスは、空気の中に粒状のドライアイスを含ませたものが好適であるが、空気の替わりに窒素や不活性ガスなどの気体を用いても良い。ドラム洗浄機41には、配管68aを介して空気を供給する空気供給装置68が接続されている。空気供給装置68には、空気の供給時間を制御するためのタイマと圧力調整器とが備えられており、タイマで設定された時分の間、配管68aに圧力を調節して空気を供給する。この圧力調整器としては、例えば、空気が充填されたボンベとボンベ内の空気の温度を調節する温調器とを有するものが挙げられる。また、配管68aにはドライアイス供給装置69に繋げられた配管69aが接続されている。ドライアイス供給装置69には、タイマとドライアイス粒子のサイズや割合を制御するために流量調整器とが備えられており、所定の時分の間、粒径を調整したドライアイス粒子を配管69aに供給する。
【0023】
流延室12の下流に配置された渡り部13には、多数のローラと送風装置13aとが設置されている。テンタ14は、湿潤フィルム38の両側端部を保持するための手段として複数のピンを備えた乾燥装置であり、湿潤フィルム38の乾燥を進めてフィルム20とする。
【0024】
テンタ14の下流に設置された耳切装置43はフィルム20の両側端部を切断する。この耳切装置43にはクラッシャ44が取り付けられており、フィルム20の切断片をチップ状に粉砕する。
【0025】
乾燥室15には、多数のローラ47と溶媒の吸着回収装置48とが備えられており、ここでフィルム20の乾燥が十分に行なわれる。乾燥室15に併設された冷却室16は、乾燥室15で加温されたフィルム20を略室温まで冷却する。この冷却室16の下流には、フィルム20の帯電圧を調節するための強制除電装置(除電バー)49が設けられている。また、本実施形態では、強制除電装置49下流側にフィルム20にナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ50を設けている。巻取室17の内部には、フィルム20を巻き取るための巻取ローラ51と、フィルム20に押圧するためのプレスローラ52とが備えられている。
【0026】
次に、フィルム製造設備10によりフィルム20を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体が流されて、ドープ21の温度が25〜35℃に調整される。また、攪拌翼11bが常時回されて、ドープ21の品質が均一に保持される。適宜適量のドープ21がポンプ25によりストックタンク11からフィルタを備えた濾過装置26に送られて、ドープ21中の不純物が取り除かれる。
【0027】
流延ドラム32は、駆動装置により所定の回転速度で連続的に回転している。また、流延ドラム32の内部にある流路に伝熱媒体循環装置37から伝熱媒体が供給されて、その表面温度が−10〜10℃の範囲で略一定となるように保持される。流延ダイ30の吐出口から流延ドラム32の上にドープ21が流延される。流延に供されるドープ21の温度は30〜35℃であることが好ましい。流延ドラム32の表面に到達したドープ21は速やかに冷やされて、短時間のうちにゲル状の流延膜33が形成される。流延膜33は流延ドラム32の上に滞在する時間が長くなるほど冷却が進み、流延膜33のゲル化がよりいっそう促進される。このように表面を冷却させた流延ドラム32を支持体とすれば、短時間のうちに自己支持性を持つ流延膜33を形成することができるため、生産速度の向上を図ることができる。自己支持性を持たせた流延膜33は、剥取ローラ36で支持された状態で流延ドラム32から剥ぎ取られ湿潤フィルム38が形成される。
【0028】
流延室12の内部温度は、温調設備35により10〜30℃の範囲で略一定となるように調節される。また、本実施形態では、流延室12の内部に存在するドープ21や流延膜33から蒸発した溶媒ガスを凝縮器39により凝縮液化した後、回収装置40で回収し、さらに再生装置で再生させてドープ調製用溶媒として再利用する。
【0029】
渡り部13に送られた湿潤フィルム38は多量の溶媒を含んだ状態にある。渡り部13では、各ローラで湿潤フィルム38を支持し搬送する間に、送風装置13aから乾燥風を供給して湿潤フィルム38の乾燥を進める。
【0030】
テンタ14では、その入口付近で湿潤フィルム38の両側端部に多数のピンが差し込まれ、湿潤フィルム38の両側端部が保持される。両側端部が保持された状態のまま湿潤フィルム38はテンタ14の内部を搬送される間に、乾燥が進められてフィルム20となる。テンタ14の出口付近においてフィルム20の両側端部からピンが抜かれて保持が解放される。
【0031】
テンタ14の下流にクリップテンタを設けてフィルム20を乾燥しても良い。クリップテンタは、フィルム20の両側端部を把持する把持手段として複数のクリップを備えた乾燥装置である。各クリップは、無端で走行するチェーンに取り付けられており、このチェーンの動きに応じてクリップテンタ内を移動する。クリップテンタでは、多数のクリップによりフィルム20の両側端部が把持した後、その内部を搬送する間に乾燥をよりいっそう促進させる。フィルム20を搬送する際に対面するクリップの間隔を拡げてフィルム20の幅方向に張力を付与する。フィルム20を幅方向に延伸しその分子配向を調節することにより所望のレターデーション値を付与することができる。クリップテンタに送る直前のフィルム20の残留溶媒量は、50〜150重量%であることが好ましい。本発明の残留溶媒量とは、フィルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものである。残留溶媒量は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をxとし、乾燥した後のサンプルの重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出される。
【0032】
フィルム20は耳切装置43に送られ、その両側端部が切断される。両側端部が切断されたフィルム20は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取ローラ51で巻き取られる。なお、耳切装置43によって切断された両側端部はクラッシャ44で細かくされ、ドープ調製用チップして再利用される。
【0033】
図2に示すように、ドラム洗浄機41は、配管68aの先端に取り付けられたノズル65とノズル65の周囲に設けられた吸引カバー67とから構成されている。この吸引カバー67は吸引装置(図示しない)に接続された吸引管67aが取り付けられており、ノズル65近傍の空気を吸引する。また、ドラム洗浄機41には、図示しないシフト部が接続されている。このシフト部の操作により流延ドラム32の表面に効率良く洗浄ガスを吹き付けることを目的として、ノズル65の先端に形成された送風口65aから流延ドラム32までの距離L1や、流延ドラム32に対して洗浄ガスを吹き付ける角度θ1などが適宜調節される。
【0034】
配管68aを経由してノズル65に送られた洗浄ガスが送風口65aから吹き付けられる。洗浄ガス中のドライアイス粒子が流延ドラム32の表面に衝突して流延ドラム32の表面に付着した有機物が粉砕される。本実施形態の流延ドラム32は、その表面が所定の温度範囲で冷却されているのでドライアイスは昇華せずに流延ドラム32に衝突する。また、流延ドラム32の表面に衝突したドライアイス粒子は衝突時のエネルギーで融解して液状の二酸化炭素が発生する。この液状の二酸化炭素は有機物を溶かした後に有機物を包含しながら蒸発する。有機物を粉砕し除去している間は、吸引カバー67で洗浄箇所周辺の空気を吸引する。これにより、粉砕し飛散している有機物を吸引回収することができ、粉砕した有機物が流延膜33の表面に付着する等の問題を防ぐことができる。なお、吸引力は洗浄ガスの吹き付け圧よりも小さい範囲で適宜調節すれば良く特に限定はされない。
【0035】
洗浄ガスの吹き付けは、流延膜33が剥ぎ取られた後でドープが流延されるまでの流延ドラム32の表面に対して行われる。析出してまもない有機物にガスを吹き付けることで、有機物が増大する前に効率良くかつ効果的に粉砕除去することができる。間欠的に吹き付けを行う場合には、流延膜33が剥ぎ取られた後でドープが流延されるまでの間に、少なくとも1回以上行うことが好ましい。ただし、回数は特に限定されず適宜決定すれば良い。また、洗浄ガスの吹き付けは常時又は間欠的に行われる。どちらの吹き付け方法を採用するかは、予想される流延ドラム32の表面に付着する有機物の量等に応じて決定すれば良い。有機物の析出量は、ドープの組成や流延ドラム32の表面温度等に基づき予想することができる。例えば、有機物の析出量が多くなると予想されるドープを流延する場合には、ガスを常時吹き付けることが有効であり、その一方で、有機物の析出量が比較的少なくなると予想されるドープを用いる場合には間欠的に行えば良い。これにより、生産性と吹き付けに要するエネルギーコスト等とのバランスを良好に保つことができる。
【0036】
有機物を粉砕する効果は、流延ドラム32の表面と送風口65aとの距離L1、洗浄ガスを吹き付ける圧、ドライアイスの平均粒径等を好適に調節することで向上させることができる。送風口65aと流延ドラム32の表面との距離L1は、0.1mm以上15.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1mm以上10.0mm以下であり、特に好ましくは0.1mm以上2.0mm以下である。上記の距離L1は、送風口65aから送られた洗浄ガスが流延ドラム32の表面に衝突するまでの長さに等しい。上記の距離L1が15.0mmを超えて長くなるほど、流延ドラム32の表面に到達する前にドライアイス粒子が昇華することが懸念され、有機物を粉砕するに必要な衝突時のエネルギーを確保することが難しい。一方で、L1を0.1mm未満とすると、衝突時のエネルギーが大きくなりすぎるため常時吹き付けが難しくなる他、装置の設置が困難である。なお、L1は、上記範囲を満たせば有機物の除去に対して有効であるため、設置の容易さ等に基づき適宜決定すれば良い。
【0037】
洗浄ガスを吹き付ける圧は600kPa以上4000kPa以下であることが好ましく、より好ましくは1000kPa以上2500kPa以下である。吹き付け圧が4000kPaを超えると、ノズル65内にドライアイス粒子が詰まるおそれがある他、流延ドラム32の表面を傷付けるおそれがある。一方で、600kPa未満では、洗浄ガスの衝突時に発生するエネルギーが小さいため有機物を粉砕する効果が弱い。また、ドライアイス粒子の平均粒径は5μm以上20μm以下であることが好ましい。ドライアイス粒子は、粒径が20μmを超えると大きすぎて流延ドラム32の表面を傷付けるおそれがある。逆に粒径が5μm未満であると小さすぎて有機物を砕き除去する効率が低下する。なお、ドライアイス粒子の粒径は有機物の大きさの具合に応じて適宜選択することが好ましい。
【0038】
この他にも、有機物の粉砕効果をより向上させるには、洗浄ガスの吹き付け時間、洗浄ガスを吹き付ける方向と流延ドラム32の表面とのなす角度θ1を好適に制御することが有効である。洗浄ガスを吹き付ける時間は、1×10−3秒以上5秒以下であることが好ましい。より好ましくは1×10−2以上5秒以下である。洗浄ガスを吹き付ける時間が5秒を超えると、流延ドラム32の表面が損傷するおそれがある。一方で、吹き付ける時間が1×10−3秒未満と短時間では有機物を粉砕することが難しい。また、洗浄ガスを吹き付ける方向と流延ドラム32の表面とのなす角度θ1は、好ましくは45°以上135°以下であり、より好ましくは70°以上110°以下、最も好ましくは85°以上95°以下である。上記の角度θ1は有機物の形状等に応じて適宜調節される。なお、ドライアイス粒子を吹き付ける方法は、防爆管理下にある流延ドラム32の表面を洗浄する手段として適用可能である。
【0039】
ドラム洗浄機41は、1機或いは複数機を用いても良く特に限定されない。複数のドラム洗浄機41を用いる場合には、流延ドラム32の幅方向に並列しても良いし、予め、小スケールでドープを流延する等して有機物が付着すると予想される箇所を特定した上で、当該箇所の近傍にランダムに設置しても良い。1機の場合には走査型の洗浄機を用いれば広範囲に渡って有機物を粉砕する効果が得られる。
【0040】
上記のようなドライアイス粒子を空気と混合した洗浄ガスを供給する装置は特に限定されず、例えば、液状の二酸化炭素を吹き付けて生成させたドライアイス粒子を用いることにより洗浄ガスとしてもよい。次に、図3を参照して、液状の二酸化炭素を用いる場合のドラム洗浄機の実施形態について説明する。図3に示すように、ドラム洗浄機150は、第1ノズル151と第2ノズル152とからなる。また、このドラム洗浄機150に対してドラム走行方向下流側には、流延ドラムの周面32bの光沢度を測定する光沢度測定器198が設置されている。
【0041】
第1ノズル151は、キャリアガス300が導入されるキャリアガス導入口162と、液状の二酸化炭素310が導入される二酸化炭素導入口163と、洗浄ガス320を送り出す洗浄ガス送風口164と、キャリアガス導入口162及び洗浄ガス送風口164を連通させるキャリアガス流路165と、二酸化炭素導入口163及びキャリアガス流路165を連通させる二酸化炭素流路166とを備える。キャリアガス流路165は、キャリアガス300及び二酸化炭素流路166からの液状の二酸化炭素310から、ドライアイス粒子311を含む洗浄ガス320を生成する洗浄ガス形成部167を有する。また、二酸化炭素流路166の出口166a側にオリフィス168を有する。更に、キャリアガス流路165は、洗浄ガス形成部167の上流側に、キャリアガス流路165の断面積よりも大きな断面積を有する整流用ポケット169を有する。
【0042】
第2ノズル152は、洗浄ガス送風口164からの洗浄ガス320が導入される洗浄ガス導入口175と、洗浄ガス320を送り出す洗浄ガス供給口176と、キャリアガス導入口175及び洗浄ガス送風口176を連通させる洗浄ガス流路177とを備える。また、洗浄ガス流路177は、洗浄ガス流路177の断面積よりも大きな断面積を有する整流用ポケット178を有する。
【0043】
第2ノズル152は、洗浄ガス送風口164と洗浄ガス導入口175とが連結するように第1ノズル151に取り付けられる。そして、流延ドラム32の周面32bと洗浄ガス送風口176との距離L1や吹き付け角度θ1が所望の値になるようにドラム洗浄機150が配される。なお、流延ドラムの近傍に対するドラム洗浄機の設置条件(L1及びθ1など)は前述と同じとすればよいのでここでの説明は省略する。
【0044】
キャリアガス導入口162は、配管180を介してキャリアガス300の供給源であるキャリアガスタンク181と接続する。キャリアガスタンク181には、タンク内部の圧力を調節する圧力調節器191aが設けられている。配管180には、キャリアガス300の流量を調節する絞り弁182が設けられる。二酸化炭素導入口163は、配管190を介して液状の二酸化炭素310の供給源である二酸化炭素タンク191と接続する。配管190には、液状の二酸化炭素310の流量を調節する絞り弁192が設けられる。また、配管180には流量計200が、配管190には温度調節器201、流量計202、圧力センサ203、及び温度センサ204が設置されている。
【0045】
キャリアガス300は、例えば、空気などが用いられる。キャリアガスタンク181は、キャリアガス300を所定の圧力に圧縮した状態で格納してもよい。液状の二酸化炭素310としては、純度の高いものを用いることが好ましい。また、二酸化炭素タンク191や配管190の条件としては、二酸化炭素タンク191から送られる液状の二酸化炭素310が、洗浄ガス形成部167に到達するまでに、液状を維持しえる程度のものであればよい。
【0046】
絞り弁182、192は、コントローラ195により制御される。コントローラ195はメモリ195aを備えており、このメモリ195aは、流延ドラムの周面32bに対する洗浄性が最も高くなるときの液状の二酸化炭素310及びキャリアガスタンク181の供給量(以下「最適供給量」という)と、洗浄性が最も高くなるときの配管190内の圧力(以下「最適圧力」という)と、洗浄性が最も高くなるときの液状の二酸化炭素310の温度(以下「最適温度」という)とを記憶している。また、メモリ195aは、流延ドラムの周面32bの光沢度とその光沢度にするために要する洗浄時間とを対応付けて記憶している。ここで、周面32bの光沢度は、周面32bに対する洗浄性を示す指標として用いられる。なお、絞り弁182、192の開度を調節することで、洗浄ガス320の吹き付け圧力、ドライアイス粒子311の粒径、キャリアガス300と液状の二酸化炭素310との混合比率などを調節することも可能である。
【0047】
コントローラ195は、流量計200,202で測定した液状の二酸化炭素310及びキャリアガスタンク181の流量に基づき絞り弁182,192の開度を調節し、液状の二酸化炭素310及びキャリアガス300の供給量を最適供給量に近づける(以下「CO2及びキャリアガス供給量のフィードバック制御」という)。このCO2及びキャリアガス供給量のフィードバック制御を行うことで、ドラム洗浄機150の第1及び第2ノズル151,152にドライアイスが詰まってしまうという問題などを解消することができる。これにより、洗浄性を落とすことなく、一定能力で洗浄を行うことができる。
【0048】
図4(A)は、ドラム洗浄時における液状の二酸化炭素310の流量(以下「CO2流量」という)の経時変化を示している。ここで、図4(A)の「○」は、CO2及びキャリアガス供給量のフィードバック制御を行った場合のCO2流量を、「□」はCO2及びキャリアガス供給量のフィードバック制御を行わない場合のCO2流量を、ハッチングエリア210は流延ドラムの周面32bに対する洗浄性が良くない場合のCO2流量を示している。この図4(A)に示すように、CO2及びキャリアガス供給量のフィードバック制御を行った場合には、洗浄時間が長くなってもCO2流量は一定に保持されるため、一定能力で洗浄を行うことができる。
【0049】
コントローラ195は、圧力センサ203で測定した配管190内の圧力に基づき圧力調節器191aを制御し、二酸化炭素タンク191の供給圧を調節する。この二酸化炭素タンク191の供給圧を調節することにより、配管190内の圧力を最適圧力に近づける(以下「CO2配管内圧力のフィードバック制御」という)。このCO2配管内圧力のフィードバック制御を行うことで、二酸化炭素タンク191の低温化によるボンベ内圧低下などを抑制することができる。これにより、液状の二酸化炭素310の供給圧が一定に維持されるため、一定能力で洗浄を行うことができる。
【0050】
図4(B)は、ドラム洗浄時における配管190内の圧力(以下「CO2配管内圧力」という)の経時変化を示している。ここで、図4(B)の「○」はCO2配管内圧力のフィードバック制御を行った場合のCO2配管内圧力を、「□」はCO2配管内圧力のフィードバック制御を行わない場合のCO2配管内圧力を、ハッチングエリア211は流延ドラムの周面32bに対する洗浄性が良くない場合のCO2配管内圧力を示している。この図4(B)に示すように、CO2配管内圧力のフィードバック制御を行うことで、洗浄時間が長くなっても、洗浄性を維持することができる。
【0051】
コントローラ195は、温度センサ204で測定した液状の二酸化炭素310の温度に基づき温度調節器201を制御し、液状の二酸化炭素310の温度を最適温度に近づける(以下「CO2温度のフィードバック制御」という)。例えば、夏場などで配管190内の温度が温められる場合や冷却能力の変動等がある場合には、液状の二酸化炭素の温度が上昇してしまい、洗浄が困難なることがある。これに対し、CO2温度のフィードバック制御を行うことで、液状の二酸化炭素の温度を一定に保持する。これにより、一定能力で洗浄を行うことができる。なお、液状の二酸化炭素310の最適温度は、気体になる割合が最も高くなる温度、例えば−5℃であることが好ましい。また、CO2温度のフィードバック制御は、ドラム洗浄機150を連続運転、例えば10分以上連続して運転する場合にも効果的である。
【0052】
図4(C)は、ドラム洗浄時における液状の二酸化炭素310の温度(以下「CO2温度」という)の経時変化を示している。ここで、図4(C)の「○」は温度センサ204の検出結果に基づきCO2温度を最適温度に近づけた(以下「CO2温度のフィードバック制御」という)場合のCO2温度を、「□」はCO2温度のフィードバック制御を行わない場合のCO2温度を、ハッチングエリア222は流延ドラムの周面32bに対する洗浄性が良くない場合のCO2温度を示している。この図4(C)に示すように、CO2温度のフィードバック制御を行うことで、洗浄時間が長くなっても、洗浄性を維持することができる。
【0053】
コントローラ195は、光沢度測定器198で測定した流延ドラムの周面32bの光沢度に基づき、その光沢度にするために要した洗浄時間を計測する。そして、コントローラ195は、計測した洗浄時間がメモリ195aに記憶された洗浄時間を超えた場合には、絞り弁182,192の開度を大きくし、キャリアガス181及び液状の二酸化炭素310の供給量を増加させる。これにより、洗浄ガス320の吹き付け量を増加させ、洗浄能力を向上させる。なお、液状の二酸化炭素310の供給量は、通常時には120kg/h/mmで、洗浄能力向上時には150kg/h/mmであることが好ましい。また、キャリアガス300の供給量は、通常時には5m/min/mmで、洗浄能力向上時には6.5m/min/mmであることが好ましい。
【0054】
図5は、ドラム洗浄時における流延ドラムの周面32bの光沢度(以下単に「光沢度」という)の経時変化を示している。図5の「光沢度」は「1」が最も光沢度が高く、「1」から大きくなるごとに光沢度が低くなり、「4.5」が最も光沢度が低い。図5の「○」は洗浄能力を上げなかった場合の光沢度を、「△」は洗浄能力を上げた場合の光沢度を、「□」はコントローラのメモリ195aに記憶された光沢度を示している。図5では、周面32bの光沢度を「3.5」から「3」にするのに多くの洗浄時間を要するが、この洗浄時間の超過をコントローラ195で検出し、これに応じて洗浄能力を上げることで、予期しない時間延長を防ぐことができる。
【0055】
次に、ドラム洗浄機150の作用について説明する。コントローラ195の制御の下、絞り弁182、192の開度がそれぞれ所望の範囲に調節される。キャリアガス300は、所定の流量Q1(m/mm・分)で配管180を介して、キャリアガスタンク181からキャリアガス導入口162に導入され、キャリアガス流路165の洗浄ガス形成部167まで送られる。液状の二酸化炭素310は、所定の質量流量Q2(kg/mm・分)で配管190を介して、二酸化炭素タンク191から二酸化炭素導入口163に導入され、二酸化炭素流路166まで送られる。二酸化炭素流路166に送られた液状の二酸化炭素310は、オリフィス168を介して、洗浄ガス形成部167に送られる。洗浄ガス形成部167に送られた液状の二酸化炭素310は、相変化により、二酸化炭素ガスとドライアイス粒子311とになる。そして、キャリアガス300の流れにより、二酸化炭素ガスとドライアイス粒子311とが、周面32bに析出した有機物X1に衝突する。このドライアイス粒子311と有機物X1との衝突により有機物X1が周面32bから除去される。
【0056】
ドラム洗浄機150では、CO2及びキャリアガス供給量のフィードバック制御、CO2配管内圧力のフィードバック制御、及びCO2温度のフィードバック制御を行い、流延ドラムの周面32bに対する洗浄能力を一定に保持する。また、周面32bの光沢度を所定の光沢度にするために要する洗浄時間を計測し、洗浄時間が予め設定した洗浄時間を超えた場合に、洗浄能力を上げることで、予期しない時間延長を防ぐ。
【0057】
有機物X1の除去作用としては、(1)ドライアイス粒子と有機物X1との衝突により、吹き付けられるドライアイス粒子の運動エネルギーが周面32bに付着する有機物X1の破壊に用いられること、(2)有機物X1との衝突に起因してドライアイス粒子が液状の二酸化炭素となり、この液状の二酸化炭素が有機物X1を溶解すること、(3)液状の二酸化炭素やドライアイス粒子の気化時による体積膨張が有機物X1を吹き飛ばすこと、及び(1)〜(3)の組合せによる相乗効果が挙げられる。ドライアイス粒子との衝突に起因する効果により、周面32bから除去された有機物X1は、微細化され、雰囲気ガスとともに循環されるため、有機物X1や残存物による厚みムラや析出物故障などの発生につながることはない。また、周面32bに残存したとしても、微小物であり、これによる析出物故障に発展することもない。
【0058】
第2実施形態では、液状の二酸化炭素310について、その液状の二酸化炭素310の流量等を測定し、その測定結果に基づいてフィードバック制御を行ったが、固体の二酸化炭素、すなわちドライアイス粒子311の場合であっても、同様のフィードバック制御を行うことができる。
【0059】
第2実施形態では、第1ノズル151と第2ノズル152とからなるドラム洗浄機150を用いたが本発明はこれに限られず、第1ノズル151のみをドラム洗浄機として用いてもよい。また、図示は省略したが、ドラム洗浄機150の近傍に吸引ダクトを設けて、粉砕した有機物等を吸引回収することが好ましい。
【0060】
また、流延ドラム32の表面に付着した有機物の除去には、紫外線や酸素ラジカル、レーザーの利用も有効である。次に、本発明に係る第3の実施形態であり、紫外線を利用して支持体を洗浄する方法の一例を説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態と異なる部分に限って説明し、その他の説明は省略する。
【0061】
図6に示すように、ドラム洗浄機242である紫外線ランプ500は、185nm及び254nmの2つの波長に強い線スペクトルを有する低圧水銀ランプである。必要に応じて紫外線ランプ500からは流延ドラム32の表面に対して紫外線が照射される。なお、紫外線ランプは上記に限定されず、波長172nmの紫外線照射を可能にするエキシマランプや高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどが好適に用いられる。
【0062】
紫外線ランプ500には内蔵コントローラが接続されている。この内蔵コントローラにはタイマ機能が備えられており、定められた照射時間に基づき、紫外線ランプ500の照射に係るON/OFFが制御される。紫外線を照射する場合、内蔵コントローラは紫外線ランプ500をONとし、所定の照射時間に基づいて紫外線ランプ500から流延ドラム32に対して紫外線を照射する。低圧水銀ランプである紫外線ランプ500は、185nmと254nmの線スペクトルが強いのが特徴であり、それぞれの波長の紫外線が有するエネルギーは、波長が185nmの場合で155(kcal/mol)、波長が254nmの場合で113(kcal/mol)である。一方、前述した有機物を構成する主要な結合であるC−C、C−H、C=C、O−HやC−Oの単結合エネルギーは、それぞれ84.3(kcal/mol)、97.6(kcal/mol)、140.5(kcal/mol)、110.6(kcal/mol)74.6(kcal/mol)である。このため、流延ドラム32の表面に照射された紫外線により脂肪酸エステルなどの有機物が持つ結合のうち紫外線が有するエネルギーよりも低い結合エネルギーの結合が壊され、流延ドラム32の表面に付着した有機物が分解される。
【0063】
このとき、流延室12内の酸素分子に波長が185nmの紫外線が吸収されて、オゾン分子が作られる。また、波長が254nmの紫外線がオゾン分子に吸収されて、励起状態の酸素原子O(D)が作られる。更に、熱分解により、オゾン分子から基底状態の酸素原子O(P)が作られる。このように強力な酸化力を有する酸素原子O(D)や酸素原子O(P)、及び紫外線により流延ドラム32の表面に付着する脂肪酸エステルは分解され、CO、COやH0や低分子化合物が生成する。これら分解反応により生成したCO、COやH0を吸着回収するために、紫外線ランプ500の近傍に吸着ダクト(図示しない)を設置することが好ましい。なお、上記の生成物は、流延室12内の凝縮器39により回収される他、低分子化合物はドープ21に溶解し、流延ドラム32の表面上にて新たな流延膜33となるためフィルムの品質上問題はない。なお、所定の照射時間が経過した時点で、内蔵コントローラにより紫外線ランプ500がOFFとされ、紫外線ランプ500の紫外線放射が止められる。
【0064】
波長185nmの紫外線照射によりオゾン分子を生成可能な酸素分子は、流延工程が行われる流延室内にあるもの、或いは、流延室外部から供給されるものいずれであってもよい。上記実施形態では、流延ドラム32の表面上に付着する有機物を除去するために波長185nmや254nmの紫外線を照射するとしたが、これに限らず、脂肪酸エステルをはじめとする有機物の結合の切断が可能なものであれば、他の波長(例えば、波長172nm)の紫外線を照射しても同等の効果を得ることができる。
【0065】
紫外線の照射による有機物の除去効果は、流延ドラム32の表面と紫外線ランプ500との距離L2や照射時間、及び流延ドラム32の表面温度に依存する。本発明において、紫外線ランプ500と流延ドラム32の表面との距離L2は、25mm以上50mm以下であることが好ましく、より好ましくは25mm以上30mm以下ある。L3が25mm未満では、紫外線ランプ500の照射により流延ドラム32の表面温度が上昇し、流延膜33の剥ぎ取り性が維持できない。一方、距離L2が50mmを超えると、脂肪酸エステルなどの有機物の分解が十分に行われない。
【0066】
本発明における紫外線の照射時間は、好ましくは60分以上180分以下であり、より好ましくは120分以上180分以下である。照射時間を120分とすれば、流延ドラム32表面の全面に除去効果が見られ、照射時間が180分の場合には、除去効果が十分に発揮される。ただし、流延ドラム32の表面に紫外線を照射する照射時間が60分未満では、有機物を十分に分解させることが難しい。なお、上記の様に照射時間が180分の場合には、満足のいく有機物の分解効果が得られるためこれ以上延長する必要がない。
【0067】
次に、酸素ラジカルを利用して支持体の表面を洗浄する方法の一例を説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態と異なる部分に限って説明し、その他の説明は省略する。図7に示すように、第4の実施形態で用いられるドラム洗浄機142は、配管403の先端に取り付けられたノズル400やノズル400の外周を覆うカバー402などから構成されている。ノズル400の先端には、流延ドラム32に対して開口した供給口400aが形成されている。カバー402は、供給口400a近傍を吸引できる吸引機能を有するものが好ましい。また、ノズル400には、ノズル400の位置を自在に調節することができるシフト部が接続されており、供給口400aと流延ドラム32との距離L3などが好適に調節される。配管403にはプラズマ発生装置405が接続されている。
【0068】
プラズマ発生装置405には、図示しないガス充填室とタイマとが備えられている。ガス充填室は酸素を含む所定のガスが充填されており、内部に電極対を格納する。タイマは所定の時間、酸素ラジカルを生成し、供給するためのものである。ガス充填室では、上記の電極間に所定の電圧を印加し、充填されるガスに含まれる酸素分子から酸素ラジカルを発生させる。発生した酸素ラジカルは、配管403を介してドラム洗浄機142に送られる。
【0069】
タイマの操作によって定められた供給時間の間、プラズマ発生装置405から配管403内に酸素ラジカルが送られ、更に供給口400aから流延ドラム32の表面に対して酸素ラジカルが供給される。この酸素ラジカルは流延ドラム32の表面に付着した有機物と反応する。脂肪酸エステルなどを主成分とする有機物は、CO、CO、H0や低分子化合物などに分解され、効率良く取り除かれる。酸素ラジカルにより脂肪酸エステルの他に、脂肪酸や金属脂肪酸塩などの有機物も効率良く分解される。酸素ラジカルによって発生した物質は、流延室12内に存在する有機溶媒ガスと共に、吸引機能を有するカバー402や凝縮器39により回収される。また、低分子化合物は流延ドラム32の表面上に流延されるドープ21に溶解して新たな流延膜33となるためフィルムの品質上問題とはならない。なお、酸素ラジカルを生成する酸素分子は、流延室内に浮遊しているもの、或いは、流延室外部から供給されるものいずれであってもよい。
【0070】
酸素ラジカルの供給による有機物の分解効果は、流延ドラム32の表面とノズル400の供給口400aとの供給距離L3や酸素プラズマを供給する方向と流延ドラム32の表面とのなす角度θ2、供給時間などに依存する。本発明において、距離L3は、好ましくは2mm以上15mm以下であり、より好ましくは2mm以上5mm以下である。ここで、L3が2mm未満の場合には、ノズル400を流延ドラム32に近づけることにより、流延ドラム32が損傷する恐れがある。更に、高温(250℃〜350℃)のノズル400を流延ドラム32に接近させれば、流延ドラム32の温度が上昇して熱ヒストリシスによるドラム表面の劣化、ドラム上の温度差に起因する膜厚変化等が懸念される。一方、距離L3が15mmより大きい場合には、酸素ラジカルが流延ドラム32の表面に十分供給されないため、酸素ラジカルによる脂肪酸エステルの分解の効果が十分に発揮されない。
【0071】
酸素プラズマを供給する方向と流延ドラム32の表面とのなす角度θ2は、30°以上150°以下であることが好ましく、より好ましくは45°以上135°以下、最も好ましくは85°以上95°以下である。中でも、θ2をより直角に近づけるほど流延ドラム32の表面に対して酸素ラジカルを供給することができる。また、流延ドラム32の表面に酸素ラジカルを供給する供給時間は、好ましくは0.025秒以上0.05秒以下であり、より好ましくは0.375秒以上0.05秒以下である。供給時間が0.025秒の場合は、流延ドラム32の脂肪酸エステルの分解効果が一部に見られる。一方、流延ドラム32の表面上のすべての脂肪酸エステルを分解するのに供給時間は0.05秒あれば十分である。
【0072】
なお、上記実施形態では、流延室12の外部に設置されたプラズマ発生装置405により酸素ラジカルを生成させる形態を示したがこれに限らず、流延室12内に浮遊する酸素分子を用いて酸素ラジカルを生成させ、これを流延ドラム32の表面に供給させても同等の効果が得られる。
【0073】
本発明では、洗浄時に製造設備を停止させたり、生産速度を下げたりする必要がないので、生産性を低下させずに高品質のフィルムを製造することが可能となる。また、上記各実施形態に挙げた非接触式のドラム洗浄機を用いれば、流延ドラムの表面に洗浄跡や傷を発生させずに有機物を取り除くことができる。本発明に適用可能なドラム洗浄機としては、上記実施形態に限らず、例えば、レーザー照射を可能とする装置等が挙げられる。本発明では、ドラム洗浄機として不織布などを備えたものを使用してもよいが、拭き取り装置を用いる場合には、各実施形態で説明した非接触式のドラム洗浄機と併用することが好ましい。この他に上記実施形態ではフィルム製造設備において流延ドラムの表面の有機物を除去する、いわゆるオンライン形態を記載したが、フィルム製造設備から取り出した流延ドラムの表面に同様の除去処理を施す、いわゆるオフライン形態で有機物を除去してもよい。
【0074】
以下、本発明に係るドープについて説明する。
【0075】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0076】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0077】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0078】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0079】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0080】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでもよいが、リンター綿から得られたものが好ましい。
【0081】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0082】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0083】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25質量%が好ましく、より好ましくは、5〜20質量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0084】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0085】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0086】
本発明の溶液製膜方法では、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0087】
流延ダイ、減圧室、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0088】
以下に、本発明に係る実施例を挙げて、本発明の効果について説明する。なお、ここに示す実施例及び比較例は、本発明に係る一例であり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0089】
実施例1では、先ず、フィルム製造設備10において、表面にクロムめっき及び鏡面加工処理が施され、直径1000mmの円筒状の流延ドラム32の表面上に、ドープ21を乾燥厚み80μmで流延して流延膜33を形成した。自己支持性を有する流延膜33を剥取ローラ36で支持しながら剥ぎ取り湿潤フィルム38を得た。渡り部13及びテンタ14により湿潤フィルム38を所定の残留溶媒量まで乾燥してフィルム20とした。この後、フィルム20を乾燥室15に送り、フィルム20中に残留する溶媒量を所望とするまで乾燥した後、冷却室16で略室温としたものを巻取室17内に設置された巻取ローラ51で巻き取りロール状のフィルム20を得た。
【0090】
製膜中、ドラム洗浄機41により流延膜33を剥ぎ取った後でドープが流延されるまでの流延ドラム32の表面に対して洗浄ガスを常時吹き付けた。ドラム洗浄機41は(株)リンクスタージャパン製snocle、ノズル65はテフロン(登録商標)からなるオリフィス付ノズルとした。洗浄ガスは、空気中に平均粒径が15μmのドライアイス粒子を含ませたものを用いた。このとき、流延ドラム32の表面温度を−10℃とした。また、ノズル65の送風口65aから流延ドラム32の表面までの距離L1を15mmとし、その吹き付け圧を896kPaとし、流延ドラム32の表面とガスの吹き付ける方向とのなす角度θ1を90°とした。
【0091】
完成したフィルム20をサンプルとして、ヘイズメーターにより光学ムラの有無を調べた。この結果、フィルム上に光学ムラは確認されなかった。また、光学顕微鏡によりガスを吹き付けた後の流延ドラム32の表面に損傷が存在するか否かを確認したが、有機物の存在及び洗浄ガスの吹き付けによる損傷のいずれも確認されなかった。
【実施例2】
【0092】
実施例2では、洗浄ガスを間欠的に吹き付けた以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム20を製造した。この結果、完成したフィルム20には光学ムラは確認されなかった。また、実施例1と同様に流延ドラム32の表面における有機物の存在や損傷の有無を確認したが、いずれも確認されなかった。
【実施例3】
【0093】
実施例3では、ドラム洗浄機として紫外線ランプを利用し、紫外線を流延ドラム32の表面に対して常時照射した以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム20を製造した。紫外線ランプは、(株)ジーエスユアサライティング製SLC−500ATK(低圧水銀)を使用した。また、紫外線ランプと流延ドラム32までの距離L2を20mmとした。この結果、完成したフィルム20には光学ムラは確認されなかった。また、実施例1と同様に流延ドラム32の表面における有機物の存在や損傷の有無を確認したが、いずれも確認されなかった。
【実施例4】
【0094】
実施例4では、紫外線を間欠的に照射した以外は、全て実施例3と同様にしてフィルム20を製造した。この結果、完成したフィルム20には光学ムラは確認されなかった。また、実施例1と同様に流延ドラム32の表面における有機物の存在や損傷の有無を確認したが、いずれも確認されなかった。
【実施例5】
【0095】
実施例5では、ドラム洗浄機としてプラズマ発生装置を利用し、酸素プラズマを流延ドラム32の表面に対して常時照射した以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム20を製造した。プラズマ発生装置は、松下電工(株)製 Aiplasma(登録商標)を使用した。また、酸素プラズマの供給口と流延ドラム32の表面までの距離L3は7mmとした。この結果、完成したフィルム20には光学ムラは確認されなかった。また、実施例1と同様に流延ドラム32の表面における有機物の存在や損傷の有無を確認したが、いずれも確認されなかった。
【実施例6】
【0096】
実施例6では、酸素プラズマを間欠的に照射した以外は、全て実施例5と同様にしてフィルム20を製造した。この結果、完成したフィルム20には光学ムラは確認されなかった。また、実施例1と同様に流延ドラム32の表面における有機物の存在や損傷の有無を確認したが、いずれも確認されなかった。
【実施例7】
【0097】
実施例7では、ドラム洗浄機としてSAMAC社、CL500Qを使用し、流延ドラム32の表面に対してレーザーを常時照射することにより有機物の除去を試みた以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム20を製造した。この結果、完成したフィルム20には光学ムラは確認されなかった。また、実施例1と同様に流延ドラム32の表面における有機物の存在や損傷の有無を確認したが、いずれも確認されなかった。
【実施例8】
【0098】
実施例8では、ドラム洗浄機としてSAMAC社、CL500Qを使用し、流延ドラム32の表面に対してレーザーを間欠的に照射することにより有機物の除去を試みた以外は、全て実施例7と同様にしてフィルム20を製造した。この結果、完成したフィルム20には光学ムラは確認されなかった。また、実施例1と同様に流延ドラム32の表面における有機物の存在や損傷の有無を確認したが、いずれも確認されなかった。
【0099】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同じ条件ながら、非接触式のドラム洗浄機を用いることなくフィルムを製造した。また、製膜開始から一定時間経過後、流延膜33を剥ぎ取った後でドープを流延する前に、溶剤としてアセトンを染み込ませた不織布で流延ドラム32の表面を洗浄した。この結果、完成したフィルム20には光学ムラが確認された。また、製膜開始から早い段階で流延ドラム32の表面に有機物の付着を目視により確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係わるフィルム製造設備の一例の概略図である。
【図2】第1の実施形態であるドラム洗浄機を利用して流延ドラムの表面を洗浄する一例の概略図である。
【図3】第2の実施形態であるドラム洗浄機を利用して流延ドラムの表面を洗浄する一例の概略図である。
【図4】(A)はドラム洗浄時における液状の二酸化炭素の流量の変化を示すグラフであり、(B)はドラム洗浄時における液状の二酸化炭素の圧力の変化を示すグラフであり、(C)はドラム洗浄時における液状の二酸化炭素の温度の変化を示すグラフである。
【図5】ドラム洗浄時における流延ドラムの周面の光沢度の変化を示すグラフである。
【図6】第3の実施形態であるドラム洗浄機を利用して流延ドラムの表面を洗浄する一例の概略図である。
【図7】第4の実施形態であるドラム洗浄機を利用して流延ドラムの表面を洗浄する一例の概略図である。
【符号の説明】
【0101】
10 フィルム製造設備
12 流延室
20 フィルム
21 ドープ
30 流延ダイ
32 流延ドラム
32b (流延ドラムの)周面
33 流延膜
34 減圧チャンバ
36 剥取ローラ
41、142、150、242、 ドラム洗浄機
167 洗浄ガス生成部
180,190 配管
181 キャリアガスタンク
182,192 絞り弁
191 二酸化炭素タンク
191a 圧力調節器
195 コントローラ
195a メモリ
198 光沢度測定器
200,202 流量計
201 温度調節器
203 圧力センサ
204 温度センサ
300 キャリアガス
310 液状の二酸化炭素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端で走行する支持体の表面にポリマー及び溶媒を含むドープを流延して流延膜を形成する工程と、
前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとする工程と、
前記流延膜が剥ぎ取られた後で前記ドープが流延されるまでの前記支持体の表面を洗浄して、前記表面に付着する有機物の増大を抑える洗浄工程と、
を有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記洗浄工程では、前記支持体の表面に対して粒状のドライアイスが含まれる洗浄ガスを洗浄ガス吹付手段により常時又は間欠的に吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記洗浄工程では、
前記ドライアイスを供給するドライアイス供給部と、前記ドライアイスを前記支持体の表面にまで運ぶキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、前記ドライアイスを前記キャリアガスに混合させて前記洗浄ガスを生成する洗浄ガス生成部とを有する前記洗浄ガス吹付手段により前記支持体の表面に対して前記洗浄ガスを吹き付け、
前記ドライアイス供給部と前記洗浄ガス生成部とつなぐ第1配管に設けられた第1流量測定部により前記ドライアイスの流量を測定するとともに、前記キャリアガス供給部と前記洗浄ガス生成部とをつなぐ第2配管に設けられた第2流量測定部により前記キャリアガスの流量を測定し、
前記第1及び第2流量測定部で測定した前記ドライアイスの流量及び前記キャリアガスの流量に基づいて、前記ドライアイスの供給量及び前記キャリアガスの供給量をフィードバック制御することを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記洗浄工程では、
前記第1配管に設けられた圧力測定部により前記第1配管内の圧力を測定し、
前記圧力測定部で測定した前記第1配管内の圧力に基づいて、前記ドライアイスの供給圧をフィードバック制御することを特徴とする請求項3記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記洗浄工程では、
前記第1配管に設けられた温度測定部により前記ドライアイスの温度を測定し、
前記温度測定部で測定した前記ドライアイスの温度に基づいて、前記ドライアイスの温度をフィードバック制御することを特徴とする請求項3または4記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
前記洗浄工程では、
前記洗浄ガス吹付手段に対して前記支持体の走行方向下流側に設けられた光沢度測定部により前記支持体の表面の光沢度を測定するとともに、前記支持体の表面を所定の光沢度にするために要した洗浄時間を時間計測部により計測し、
前記光沢度測定部で測定した前記支持体の表面の光沢度及び前記時間計測部で計測した洗浄時間に基づいて、前記洗浄ガスの吹き付け量を制御することを特徴とする請求項2ないし5いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
前記洗浄工程では、前記支持体の表面に対して紫外線を常時又は間欠的に照射することを特徴とする請求項1ないし6いずれかに記載の溶液製膜方法。
【請求項8】
前記洗浄工程では、前記支持体の表面に対してプラズマを常時又は間欠的に照射することを特徴とする請求項1ないし7いずれか1つに記載の溶液製膜方法。
【請求項9】
前記洗浄工程では、前記支持体の表面に対してレーザーを常時又は間欠的に照射することを特徴とする請求項1ないし8いずれか1つに記載の溶液製膜方法。
【請求項10】
前記支持体の表面は−10℃以上10℃以下に冷却されており、前記流延膜をゲル化させて自己支持性を持たせることを特徴とする請求項1ないし9いずれか1つに記載の溶液製膜方法。
【請求項11】
前記ポリマーはセルロールトリアセテートであり、
前記有機物は、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩のいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1ないし10いずれか1つに記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−230219(P2008−230219A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252007(P2007−252007)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】