説明

溶鋼の製造方法

【課題】 溶銑を転炉で脱燐処理し、次いで、この溶銑を別の転炉で脱炭精錬を行って溶鋼を製造するにあたり、上吹きランスの流路内での発熱・燃焼を危惧することなく、高い着熱効率及び生産性で溶鋼を製造する。
【解決手段】 粉状精錬剤供給流路、燃料供給流路、燃料燃焼用ガス供給流路、脱燐精錬用ガス供給流路を、独立して有する上吹きランス3を用い、燃料供給流路から供給する燃料と燃焼用ガス供給流路から供給する酸化性ガスとにより火炎を形成させながら、粉状精錬剤供給流路から、酸化鉄、石灰系媒溶剤、可燃性物質のうちの1種以上を不活性ガスとともに供給し、且つ、脱燐精錬用ガス供給流路から酸化性ガスを供給して溶銑7を脱燐処理し、次いで、該溶銑を別の転炉に装入し、脱炭精錬用ガス供給流路を有する上吹きランスを用い、脱炭精錬用ガス供給流路から粉状の媒溶剤を脱炭精錬用酸化性ガスとともに転炉内の溶銑浴面に向けて供給して溶銑を脱炭精錬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉から出銑された溶銑を転炉に装入してこの溶銑に予備処理として脱燐処理を施し、次いで、この溶銑を転炉から出湯した後に別の転炉に装入し、この転炉で溶銑に脱炭精錬を施すことによって、溶銑から溶鋼を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高炉で製造された溶銑を転炉で脱炭精錬して溶鋼を製造するにあたり、溶銑から溶鋼への全精錬工程におけるスラグ発生量の削減、並びに、転炉でのマンガン歩留りの向上を目的として、転炉での脱炭精錬に先立って、溶銑に対して予備処理として脱燐処理(予備脱燐処理ともいう)を施すことが一般的に行われている。
【0003】
また、環境保護の観点から、鉄鋼製造工程におけるCO2ガス排出量の削減が急務となっており、製鋼工程においては、鉄源として鉄スクラップなどの冷鉄源の配合比率を増加することが試みられている。これは、鉄鋼製品の製造にあたり、高炉での溶銑の製造では、鉄鉱石を還元し且つ溶融することから、多大なエネルギーを要すると同時に多量のCO2ガスを排出するのに対し、鉄スクラップなどの冷鉄源は溶解熱のみを必要としており、製鋼工程で冷鉄源を利用した場合には、エネルギー使用量及びCO2ガス発生量を少なくすることができるからである。
【0004】
但し、高炉−転炉の組み合わせからなる製造工程では、冷鉄源の溶解用熱源は、溶銑の有する顕熱、溶銑中の炭素及び珪素の燃焼熱が主体であり、本来、多量の冷鉄源を溶解することはできない。しかも、溶銑に対して予備処理として脱燐処理が実施されるようになり、処理工程の追加に伴う溶銑温度の低下のみならず、溶銑中の炭素及び珪素が脱燐処理で酸化されてその濃度が減少し、冷鉄源の溶解に対して不利になっている。
【0005】
そこで、溶銑の脱燐処理や転炉脱炭精錬において、より多くの冷鉄源を溶解するべく、溶銑及び溶鋼の熱的余裕を高めるための多数の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、脱燐処理中の生成スラグ中に炭素源を添加するとともに、スラグ中に酸素源を吹き込んで前記炭素源を燃焼させ、この燃焼熱を溶銑に着熱させる方法が提案されている。
【0006】
特許文献2には、精錬容器内の溶銑に上吹きランスから酸素ガスとともに鉄スクラップ粉、合金鉄粉、生石灰粉などの伝熱媒体を吹き込み、この伝熱媒体を、二次燃焼率を10〜50%に調整した二次燃焼の火炎で加熱し、加熱した伝熱媒体で溶銑を加熱する方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献3には、酸素噴出用主孔と、該主孔から噴出する酸素ガスの供給流路とは独立し、且つ、燃料ガス、酸素ガス及び精錬用フラックスを同時に噴出できるフラックス供給用副孔とを有する上吹きランスを用い、酸素ガス噴流と独立して副孔先端で火炎を形成させながら、該火炎中に精錬用フラックスを通過させて該精錬用フラックスの滓化を促進させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−20913号公報
【特許文献2】特開2001−323312号公報
【特許文献3】特開平11−80825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
【0010】
即ち、特許文献1では、生成スラグ中に炭素源を添加することで、溶銑温度は上昇するが、炭素源に含有される硫黄の混入を招き、鋼中の硫黄濃度が高くなる。また、炭素源の燃焼時間を確保するために精錬時間が長くなり、製造コストが上昇するという問題がある。また更に、炭素源を燃焼させることから、CO2ガスの発生量が自ずと増加するという問題もある。
【0011】
特許文献2では、二次燃焼率を伝熱媒体の供給速度に応じて制御する必要があり、これを実現する手段として、排ガスの分析結果に基づいて二次燃焼率を求めつつ上吹きランスのランス高さを調整する方法が示されている。一般に、ランス高さを大きくすると、上吹きランスからの酸素噴流に同伴される雰囲気ガス(主にCOガス)の量が増加し、二次燃焼率は高くなり、逆に、ランス高さを小さくすると、二次燃焼率は低くなる。つまり、特許文献2のように、二次燃焼率を高くすると、脱炭速度が低下して脱炭精錬時間が長くなるという問題が起こる。
【0012】
特許文献3では、同心円形状に配置した5重管の上吹きランスを用いており、つまり、中心部側から外部側に向かって、1.副孔酸素ガス及び精錬剤の流路、2.燃料ガスの流路、3.主孔酸素ガスの流路、4.冷却水の流路、5.冷却水の流路で構成される上吹きランスを用いており、副孔酸素ガス及び精錬剤の流路と燃料ガスの流路とを、ランス先端部で合流させ、燃焼火炎を形成させている。また、副孔酸素ガスと精錬剤とは、ランスの上部で合流させるが、合流する前は精錬剤の搬送用ガスとしてArガスなどの不活性ガスを使用している。尚、冷却水の流路が2つ存在するのは、冷却水は循環しており、一方が給水流路で他方が排水流路である。
【0013】
従って、副孔酸素ガス及び精錬剤の流路を通過する物質は、酸素ガス、Arガスなどの不活性ガス及び精錬剤となる。ここでの問題は、1つの流路を、酸素ガスと金属や炭素分を含有する精錬剤(酸化鉄、鉄鉱石、製鉄所発生ダストなど)とが通過することである。即ち、ランス内の前記流路を通過する際に、精錬剤と流路壁(通常は鋼製)との摩擦によって火花が発生したり、酸素ガスと精錬剤の一部とが反応したりして、流路内で発熱・燃焼する虞があり、設備の安全管理上に問題がある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶銑に対して転炉で予備処理としての脱燐処理を行い、次いで、この溶銑を転炉から出湯した後に別の転炉に装入して脱炭精錬を行い、かくして溶銑から溶鋼を製造するにあたり、上吹きランスの流路内での発熱・燃焼を危惧することなく、着熱効率及び生産性に優れ、鉄スクラップなどの冷鉄源の配合比率を高めることのできる溶鋼の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]粉状精錬剤供給流路、燃料供給流路、燃料を燃焼する燃焼用酸化性ガス供給流路、脱燐精錬用酸化性ガス供給流路を、独立して有する第1の上吹きランスを用い、前記燃料供給流路から燃料を供給すると同時に前記燃焼用酸化性ガス供給流路から燃焼用酸化性ガスを供給して第1の上吹きランスの先端下方に火炎を形成させながら、前記粉状精錬剤供給流路から、酸化鉄、石灰系媒溶剤、可燃性物質のうちの1種以上の粉状精錬剤を不活性ガスを搬送用ガスとして転炉内の溶銑浴面に向けて供給するとともに、前記脱燐精錬用酸化性ガス供給流路から脱燐精錬用酸化性ガスを溶銑浴面に向けて供給して、転炉内の冷鉄源の添加された溶銑を脱燐処理し、次いで、得られた脱燐処理後の溶銑を別の転炉に装入し、脱炭精錬用酸化性ガス供給流路を有する第2の上吹きランスを用い、前記脱炭精錬用酸化性ガス供給流路から粉状の媒溶剤を脱炭精錬用酸化性ガスとともに転炉内の溶銑浴面に向けて供給して転炉内の冷鉄源の添加された溶銑を脱炭精錬し、かくして溶銑から溶鋼を製造することを特徴とする、溶鋼の製造方法。
[2]転炉に装入される溶銑及び冷鉄源の合計質量をヒートサイズと定義したとき、前記脱燐処理のヒートサイズが前記脱炭精錬のヒートサイズの2倍以上であることを特徴とする、上記[1]に記載の溶鋼の製造方法。
[3]前記酸化鉄は、高炉または転炉で発生するダストを含むことを特徴とする、上記[1]または上記[2]に記載の溶鋼の製造方法。
[4]前記可燃性物質を燃焼させるために必要な可燃性物質燃焼用酸素量を予め測定しておき、予め測定した可燃性物質燃焼用酸素量に相当する量の酸化性ガスを、前記脱燐処理中に、前記燃焼用酸化性ガス供給流路から供給する燃焼用酸化性ガスに加えて供給することを特徴とする、上記[1]ないし上記[3]の何れか1項に記載の溶鋼の製造方法。
[5]前記第1の上吹きランスは、その横断面構造において中心側から、前記粉状精錬剤供給流路、前記燃料供給流路、前記燃焼用酸化性ガス供給流路、前記脱燐精錬用酸化性ガス供給流路、冷却水の給水及び排水の2つの流路からなる合計6つの流路で構成される6重管構造であることを特徴とする、上記[1]ないし上記[4]の何れか1項に記載の溶鋼の製造方法。
[6]前記第2の上吹きランスは、その横断面構造において中心側から、前記脱炭精錬用酸化性ガス供給流路、冷却水の給水及び排水の2つの流路からなる合計3つの流路で構成される3重管構造であることを特徴とする、上記[1]ないし上記[5]の何れか1項に記載の溶鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、転炉における溶銑の脱燐処理において、上吹きランスから酸化鉄、石灰系媒溶剤、可燃性物質のうちの1種以上からなる精錬剤を転炉内の溶銑浴面に供給する際に、上吹きランスに設けられる燃焼用及び脱燐精錬用の酸化性ガスの供給流路とは別の流路を介して不活性ガスを搬送用ガスとして供給するので、金属や炭素分を含有する精錬剤を使用した場合であっても、上吹きランスの流路内での粉状精錬剤の発熱・燃焼を未然に防止することができる。一方、脱炭精錬では、酸化性ガスを搬送用ガスとして使用するが、搬送対象物が粉状の媒溶剤であり、媒溶剤は、酸化物、炭酸化物、フッ化物、塩化物からなるので、可燃物を含有せず、酸化性ガスを搬送用ガスとして搬送しても、上吹きランスの流路内での発熱・燃焼は発生することがない。
【0017】
また、溶銑の脱燐処理では粉状の精錬剤を上吹きランスの先端下方に形成される火炎によって加熱しながら転炉内の溶銑に添加するので、火炎の熱が添加する精錬剤を介して溶銑に着熱し、溶銑の熱的余裕が向上して溶銑の転炉での脱燐処理において鉄スクラップなどの冷鉄源の配合比率を高めることが実現される。また、溶銑の脱炭精錬では、脱炭精錬用酸化性ガスとともに媒溶剤を添加するので、媒溶剤は、脱炭精錬用酸化性ガスの溶銑への衝突面である高温反応界面に添加され、媒溶剤の添加歩留りが高まり、媒溶剤の使用量が低減され、媒溶剤の加熱に費やす熱量が削減されて、その分の熱量を、鉄スクラップなどの冷鉄源の溶解用として使用することができ、脱炭精錬における冷鉄源の配合比率を高めることが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明において溶銑の脱燐処理を実施する際に用いる転炉設備の1例を示す概略断面図である。
【図2】本発明において、転炉に収容された溶銑を脱燐処理する際に用いる上吹きランスの概略拡大縦断面図である。
【図3】本発明において、転炉に収容された、脱燐処理後の溶銑を脱炭精錬する際に用いる上吹きランスの概略拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0020】
本発明において使用する溶銑は、高炉で製造された溶銑であり、この溶銑を、溶銑鍋、トピードカーなどの溶銑搬送容器で受銑して、脱燐処理及び脱炭精錬を実施する転炉に搬送する。少ない石灰系媒溶剤の使用量で効率的に脱燐処理するために、脱燐処理前に溶銑中の珪素を予め除去(「溶銑の脱珪処理」という)することが好ましい。脱珪処理を行う場合には、溶銑の珪素含有量を0.20質量%以下、望ましくは0.10質量%以下まで低減させることが好ましい。溶銑の珪素含有量をこの範囲まで下げる手段としては、溶銑に酸素ガスまたは酸化鉄などの酸素源を供給し、これらの酸素源によって溶銑中の珪素を酸化させ、珪素を酸化物として強制的に除去する方法を用いることができる。脱珪処理を実施した場合には、脱珪処理時に生成したスラグを脱燐処理の前までに排滓する。
【0021】
このようにして得た溶銑に対して転炉において、先ず、脱燐処理を実施する。脱燐処理は、溶銑鍋またはトピードカーなどの溶銑搬送容器内でも行うことができるが、これらの溶銑搬送容器に比べてフリーボードが大きく、溶銑を強攪拌することが可能であり、これにより、冷鉄源の溶解能力が高いのみならず、少ない石灰系媒溶剤の使用量で迅速に脱燐処理を行うことができることから、本発明においては、転炉を使用して脱燐処理を実施する。
【0022】
先ず、溶銑の脱燐処理について説明する。
【0023】
図1は、本発明において溶銑の脱燐処理を実施する際に用いる転炉設備の1例を示す概略断面図、図2は、図1に示す上吹きランス21の概略拡大縦断面図である。本発明では、溶銑の脱燐処理及びこの脱燐処理後の溶銑の脱炭精錬をともに転炉で実施するが、脱燐処理と脱炭精錬とで形状の異なる上吹きランスを使用するので、これらを区別するために、脱燐処理で使用する上吹きランスを第1の上吹きランス21(単に「上吹きランス21」と記す場合もある)と称し、脱炭精錬で使用する上吹きランスを第2の上吹きランス41(単に「上吹きランス41」と記す場合もある)と称す。尚、本発明では、脱燐処理及び脱炭精錬を転炉で行うが、製鉄所には複数の転炉が設置されており、従って、脱燐処理で使用する転炉と脱炭精錬で使用する転炉とは一般的には異なる。但し、同一転炉であっても本発明の適用は可能である。
【0024】
図1に示すように、本発明において脱燐処理に用いる転炉設備1は、その外殻を鉄皮3で構成され、鉄皮3の内側に耐火物4が施行された転炉2と、この転炉2の内部に挿入され、上下方向に移動可能な上吹きランス21とを備えている。転炉2の上部には、脱燐処理終了後の溶銑7を出湯するための出湯口5が設けられ、また、転炉2の炉底部には、攪拌用ガス16を吹き込むための複数の底吹き羽口6が設けられている。この底吹き羽口6はガス導入管14と接続されている。
【0025】
上吹きランス21には、窒素ガス、Arガスなどの不活性ガスとともに、酸化鉄、石灰系媒溶剤、可燃性物質のうちの1種以上からなる粉状の精錬剤15を供給するための精錬剤供給管9と、プロパンガス、天然ガス、コークス炉ガスなどのガス燃料、或いは、重油、灯油などの炭化水素系の液体燃料を供給するための燃料供給管10と、供給した燃料を燃焼するための酸素ガスなどの燃焼用酸化性ガスを供給するための燃焼用酸化性ガス供給管11と、酸素ガスなどの脱燐精錬用酸化性ガスを供給するための脱燐精錬用酸化性ガス供給管12と、上吹きランス21を冷却するための冷却水を供給・排出するための冷却水給水管及び排水管(図示せず)とが、接続されている。図1では、燃焼用酸化性ガス及び脱燐精錬用酸化性ガスを酸素ガスとした例を示している。
【0026】
精錬剤供給管9の他端は、精錬剤15を収容したディスペンサー13に接続され、また、ディスペンサー13は精錬剤搬送用ガス供給管9Aに接続されており、精錬剤搬送用ガス供給管9Aを通ってディスペンサー13に供給された不活性ガスが、ディスペンサー13に収容された精錬剤15の搬送用ガスとして機能し、ディスペンサー13に収容された精錬剤15は精錬剤供給管9を通って上吹きランス21に供給され、上吹きランス21の内部を通って上吹きランス21の先端から溶銑7に向けて吹き付けることができるようになっている。図1では、精錬剤15の搬送用ガスとして窒素ガスの例を示している。
【0027】
脱燐処理で使用する第1の上吹きランス21は、図2に示すように、円筒状のランス本体22と、このランス本体22の下端に溶接などにより接続された銅鋳物製のランスチップ23とで構成されている。ランス本体22は、最内管28、内管29、中管30、外管31、仕切管32、最外管33の同心円形状の6種の鋼管、即ち6重管構造であることが好ましい。精錬剤供給管9は最内管28に連通し、燃料供給管10は内管29に連通し、燃焼用酸化性ガス供給管11は中管30に連通し、脱燐精錬用酸化性ガス供給管12は外管31に連通し、冷却水給水管及び排水管はそれぞれ仕切管32または最外管33の何れか一方に連通している。
【0028】
最内管28の内部は、ランスチップ23のほぼ軸心位置に配置された粉状精錬剤噴射孔24と連通し、最内管28と内管29との間隙は、前記粉状精錬剤噴射孔24の周囲に、円環状のノズルまたは同心円上の複数個のノズル孔として開口する燃料噴射孔25と連通し、内管29と中管30との間隙は、前記燃料噴射孔25の周囲に、円環状のノズルまたは同心円上の複数個のノズル孔として開口する燃焼用酸化性ガス噴射孔26と連通し、中管30と外管31との間隙は、同心円上の複数個のノズル孔として開口する脱燐精錬用酸化性ガス噴射孔27と連通している。粉状精錬剤噴射孔24は粉状の精錬剤15を不活性ガスからなる搬送用ガスとともに吹き付けるためのノズル、燃料噴射孔25は燃料を噴射するためのノズル、燃焼用酸化性ガス噴射孔26は燃料を燃焼する燃焼用酸化性ガスを噴射するためのノズル、脱燐精錬用酸化性ガス噴射孔27は脱燐精錬用酸化性ガスを噴射するためのノズルである。
【0029】
このように、最内管28の内部が粉状精錬剤供給流路となり、最内管28と内管29との間隙が燃料供給流路となり、内管29と中管30との間隙が燃焼用酸化性ガス供給流路となり、中管30と外管31との間隙が脱燐精錬用酸化性ガス流路となっている。つまり、粉状の精錬剤15が搬送用ガスとともに最内管28の内部を通り、プロパンガスや重油などの燃料が最内管28と内管29との間隙を通り、燃料を燃焼する燃焼用酸化性ガスが内管29と中管30との間隙を通り、脱燐精錬用酸化性ガスが中管30と外管31との間隙を通るように構成されている。更に、外管31と仕切管32との間隙及び仕切管32と最外管33との間隙は、冷却水の給水流路または排水流路となっている。外管31と仕切管32との間隙及び仕切管32と最外管33との間隙のうちの一方が給水流路で、他方が排水流路であり、どちらを給水流路としても構わない。冷却水は、ランスチップ23の位置で反転するように構成されている。尚、図2において、粉状精錬剤噴射孔24は、ストレート形状のノズルであるが、その断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成されるラバールノズルの形状としてもよい。逆に脱燐精錬用酸化性ガス噴射孔27は、ラバールノズル形状を有しているが、ストレートノズル形状としてもよい。
【0030】
上吹きランス21において、粉状精錬剤噴射孔24、燃料噴射孔25及び燃焼用酸化性ガス噴射孔26が、上吹きランス21の先端部よりも奥まった位置(凹んだ位置)で開口する理由は、粉状精錬剤噴射孔24から供給される粉状の精錬剤15が、燃料噴射孔25から供給される燃料によって形成される火炎の中を確実に通過するようにするためであり、これにより、燃料の燃焼熱を精錬剤15に効率良く着熱させることが可能になる。
【0031】
この上吹きランス21を用いて溶銑7を脱燐処理するにあたり、先ず、転炉2の内部へ冷鉄源(図示せず)を装入する。使用する冷鉄源としては、製鉄所で発生する鋳片及び鋼板のクロップ屑や市中屑などの鉄スクラップ、磁力選別によってスラグから回収した地金、更には、冷銑、還元鉄などを使用することができる。冷鉄源の配合比率は、装入する全鉄源に対して5質量%以上とすることが好ましい。冷鉄源の配合比率は、下記の(1)式で定義される。
冷鉄源の配合比率(質量%)=冷鉄源配合量×100/(溶銑配合量+冷鉄源配合量)…(1)
冷鉄源の配合比率が5質量%未満では、生産性向上の効果が少ないのみならず、CO2ガス発生量の削減効果が少ないからである。冷鉄源の配合比率の上限は特に決める必要はなく、脱燐処理後の溶銑温度が目標範囲を維持できる上限まで添加することができる。冷鉄源の装入完了に前後して底吹き羽口6から攪拌用ガス16の吹き込みを開始する。
【0032】
転炉内への冷鉄源の装入後、溶銑7を転炉内へ装入する。用いる溶銑7としてはどのような組成であっても処理することができ、脱燐処理の前に脱硫処理や脱珪処理が施されていてもよい。また、溶銑温度は1200〜1400℃の範囲であれば問題なく脱燐処理することができる。
【0033】
溶銑7の転炉内への装入後、溶銑7を収容した転炉内に上吹きランス21を挿入し、上吹きランス21の燃料噴射孔25から、プロパンガス、天然ガス、コークス炉ガスなどのガス燃料、或いは、重油、灯油などの炭化水素系の液体燃料を供給するとともに、燃焼用酸化性ガス噴射孔26から、酸素ガスや空気などの燃焼用酸化性ガスを供給して、上吹きランス21の下方に火炎を形成させると同時に、上吹きランス21の粉状精錬剤噴射孔24から、粉状の精錬剤15として、鉄鉱石粉やミルスケールなどの酸化鉄粉、粉状の石灰系媒溶剤、コークス粉や廃プラスチック成形体粉などの可燃性物質のうちの1種以上を窒素ガスや希ガスを搬送用ガスとして溶銑浴面に吹き付ける。
【0034】
この場合、燃料噴射孔25から供給される燃料と、燃焼用酸化性ガス噴射孔26から供給される燃焼用酸化性ガスとは、上吹きランス半径方向の全方位で近接しているので、各々混合し合い、雰囲気温度が高いこともあって、点火装置がなくても燃焼限界範囲内に燃料濃度が達した時点で燃焼し、上吹きランス21の下方に火炎が形成される。粉状精錬剤噴射孔24から供給される精錬剤15は、形成される火炎の熱を受けて加熱または加熱・溶融し、加熱または溶融した状態で溶銑7の浴面に吹き付けられる。
【0035】
また、粉状精錬剤噴射孔24からの粉状精錬剤の噴射に前後して、脱燐精錬用酸化性ガス噴射孔27から、酸素ガスや酸素含有ガスなどの脱燐精錬用酸化性ガスを溶銑7の浴面に向けて吹き付ける。脱燐精錬用酸化性ガスとしては、脱燐反応が速くなることから、酸素ガスを使用することが好ましい。ここで、酸素ガスとは、工業用純酸素ガスであり、窒素ガスなどの不純物を5体積%程度含有するガスも工業用純酸素ガスと定義する。
【0036】
溶銑の脱燐処理は、溶銑7に酸素ガスや酸化鉄などの酸素源を供給し、この酸素源中の酸素で溶銑中の燐を酸化して燐酸化物(P25)を形成させ、この燐酸化物を石灰系媒溶剤の滓化によって生成するスラグ8で、3CaO・P25(=Ca3(PO4)2)なる安定形態で固定することによって行われる。この場合、石灰系媒溶剤の滓化が促進されて、スラグ8の生成が早まるほど脱燐速度は速くなる。つまり、溶銑の脱燐処理においては、酸素ガスや酸化鉄などの酸素源の供給と石灰系媒溶剤の供給とが必須となる。
【0037】
粉状精錬剤噴射孔24から供給する粉状の精錬剤15として石灰系媒溶剤を使用した場合には、粉状精錬剤噴射孔24から供給される石灰系媒溶剤粉に燃料の燃焼熱が伝達され、加熱または加熱・溶融した石灰系媒溶剤粉が溶銑7に供給されるので、燃料燃焼熱の溶銑7への着熱効率が高くなり、溶銑7の熱的余裕が向上する。また、粉状精錬剤噴射孔24から溶銑浴面に吹き付けられた石灰系媒溶剤は、加熱または加熱・溶融しているので直ちに滓化してスラグ8を形成し、その結果、供給される酸素源と溶銑中の燐とが反応して生成した燐酸化物は、底吹き羽口6から供給される攪拌用ガスによって溶銑7とスラグ8とが強攪拌されることも相まって、滓化したスラグ8に迅速に吸収され、溶銑7の脱燐反応が速やかに進行する。
【0038】
前述したように、石灰系媒溶剤の供給は脱燐処理では必須条件であるので、粉状精錬剤噴射孔24から石灰系媒溶剤を供給しない場合には、図1には図示しない転炉炉上ホッパーから転炉内に石灰系媒溶剤を上置き投入することとする。石灰系媒溶剤としては、生石灰(CaO)、石灰石(CaCO3)、焼成ドロマイト(CaO−MgO)などを使用することができる。生石灰に蛍石(CaF2)またはアルミナ(Al23)を滓化促進剤として混合したものを石灰系媒溶剤として使用することもできる。また、溶銑の脱炭吹錬工程で生成する転炉スラグ(CaO−SiO2系スラグ)を石灰系媒溶剤の全部または一部として使用することもできる。
【0039】
粉状精錬剤噴射孔24から供給する粉状の精錬剤15として鉄鉱石粉やミルスケール粉などの酸化鉄粉を使用した場合には、酸化鉄は酸素源として機能し、溶銑中の燐と反応して脱燐反応が進行する。また、粉状精錬剤噴射孔24から供給される酸化鉄粉に燃料の燃焼熱が伝達され、加熱または加熱・溶融した酸化鉄粉が溶銑7に供給されるので、燃料燃焼熱の溶銑7への着熱効率が高くなり、溶銑7の熱的余裕が向上する。また、酸化鉄が石灰系媒溶剤と反応して石灰系媒溶剤の表面にFeO−CaOの化合物が形成され、石灰系媒溶剤の滓化が促進され、脱燐反応が促進される。
【0040】
このように酸化鉄は、脱燐反応を促進させる効果を有するので、粉状精錬剤噴射孔24から酸化鉄を供給しない場合には、転炉炉上ホッパー(図示せず)から、転炉内に酸化鉄を上置き投入することが好ましい。
【0041】
また、使用する酸化鉄は、高炉または転炉で発生する製鉄所発生ダスト(高炉ダスト、転炉ダスト)を含むことが好ましい。酸化鉄としての高炉ダストや転炉ダストなどは、一般に、金属鉄や炭素などの可燃性物質を含有しており、このような高炉ダストや転炉ダストを使用した場合には、これらに含まれる可燃性物質が火炎により燃焼し、上記に加えてこの可燃性物質の燃焼熱が溶銑7の加熱に寄与する。即ち、高炉ダストや転炉ダストなどに代表される製鉄所発生ダストを、精錬剤及び燃料の一部として活用し得る。製鉄所発生ダスト中には金属鉄や炭素などの易酸化性物質が多量に含まれており、転炉2での脱燐処理において、これらの製鉄所発生ダスト中の易酸化性物質は、天然ガスなどの燃料による火炎中を通過する際に、加熱されて燃焼するので、火炎の熱量を更に向上することが可能となる。加えて、製鉄所発生ダスト中の易酸化性物質は、粉状精錬剤の一部として機能する。
【0042】
また、粉状精錬剤噴射孔24から供給する粉状の精錬剤15としてコークス粉や廃プラスチック成形体粉などの可燃性物質を使用した場合には、可燃性物質が火炎により燃焼し、燃料の燃焼熱に加えて可燃性物質の燃焼熱が溶銑7の加熱に寄与し、溶銑7の熱的余裕が向上する。粉状精錬剤噴射孔24から供給する粉状の精錬剤15として、酸化鉄、石灰系媒溶剤及び可燃性物質を混合したものを使用する場合には、それぞれの効果を並行して得ることができる。
【0043】
粉状精錬剤噴射孔24から供給される粉状精錬剤は加熱または加熱・溶融しており、その熱が溶銑7に伝達し、更には、溶銑7の上方に存在する火炎の燃焼熱が溶銑7に伝達することから、溶銑7が激しく攪拌されることも相まって、溶銑中の冷鉄源の溶解が促進される。即ち、装入した冷鉄源の溶解が脱燐処理の期間中に終了する。
【0044】
上吹きランス21を介して可燃性物質を溶銑7に吹き付け添加する場合には、この可燃性物質を添加する以前に、可燃性物質を燃焼させるために必要な可燃性物質燃焼用酸素量を測定し、測定した可燃性物質燃焼用酸素量に相当する分の酸化性ガスを増量することが好ましい。具体的には、公知の装置及び/または方法で、高炉ダストや転炉ダストなどを含む粉状精錬剤の組成物を分析し、各組成物中の可燃性物質の化学当量分が燃焼するために必要な酸素量を算出し、添加される可燃性物質の量に相当する酸素量、つまり、可燃性物質燃焼用酸素量を測定し、この測定した可燃性物質燃焼用酸素量に相当する分の酸化性ガスを、燃焼用酸化性ガス供給流路から供給する燃料燃焼用酸化性ガスに加えて供給することが好ましい。この場合、使用する製鉄所発生ダストの種類を予め決定しておけば、その種類の製鉄所発生ダストに含まれる可燃性物質が燃焼するために必要な酸素量は、新たに測定しなくても把握することができ、前回の使用実績に応じて酸化性ガスを増量させることができる。尚、燃料燃焼用の酸化性ガス流量は、供給する燃料の化学当量分或いは化学当量分±5体積%程度とすればよい。
【0045】
上吹きランス21から供給する酸化性ガス量を、燃料燃焼用の酸化性ガス量に対して更に可燃性物質燃焼用酸素量に相当する量を増加させることで、より効率的に可燃性物質を燃焼させることができ、可燃性物質の燃焼熱を最大限に活用することが可能となる。
【0046】
これによって、可燃物質中の金属鉄及び炭素は、それぞれ酸化鉄及びCOガスまたはCO2ガスに容易に且つ有効に酸化可能となる。これらの酸化反応は全て発熱反応であり、反応熱は、被酸化物、反応生成物、加えて同時に供給されるCaOなどの石灰系媒溶剤の加熱に有効に費やされ、溶銑7の加熱及び冷鉄源の溶解を促進させる。また、金属鉄の酸化によって生成する酸化鉄は、酸素源の一部として溶銑の脱燐反応に有効に作用する。尚、上記では、酸素源供給量の調整方法として、燃焼用酸化性ガスの供給量のみを調整する方法を説明したが、燃焼用酸化性ガスと脱燐精錬用酸化性ガスとの合計量を調整する方法でも調整可能である。
【0047】
このようにして溶銑7を脱燐処理し、溶銑7の燐濃度が目的とする値か、それ以下になったなら、上吹きランス21から溶銑7への全ての供給を停止して脱燐処理を終了する。脱燐処理後、転炉2を傾動させて脱燐処理の施された溶銑7を、出湯口5を介して取鍋や転炉装入鍋などの溶銑保持容器に出湯する。溶銑の出湯後、炉内のスラグ8を滓ポットなどに排出する。
【0048】
転炉内の溶銑7をこのようにして脱燐処理することで、燃料燃焼熱の溶銑7への着熱効率が高くなり、溶銑7の熱的余裕が向上する。従って、この熱的余裕の向上に応じて、鉄スクラップなどの冷鉄源を溶銑7に配合することが可能となる。
【0049】
その後、溶銑保持容器に出湯された溶銑7を、第1の上吹きランス21とは別の第2の上吹きランス41を備えた、図1と同様の構成を有する転炉設備1の別の転炉に装入し、脱燐処理の施された溶銑7に対して脱炭精錬を実施する。
【0050】
図3に、本発明において、転炉に収容された、脱燐処理後の溶銑7を脱炭精錬する際に用いる上吹きランスの概略拡大縦断面図を示す。転炉では、上吹きランス41から、脱炭精錬用酸化性ガスとして酸素ガスを供給して脱炭精錬を行う。脱炭精錬で使用する転炉も、その炉底に底吹き羽口6が設けられ、この底吹き羽口6から窒素ガスやArガスなどを攪拌ガスとして転炉内の溶銑7に吹き込むことのできる転炉であることが好ましい。
【0051】
使用する上吹きランス41は、図3に示すように、円筒状のランス本体42と、このランス本体42の下端に溶接などにより接続された銅鋳物製のランスチップ43とで構成されており、ランス本体42は、内管45、仕切管46、外管47の同心円形状の3種の鋼管、即ち3重管構造であることが好ましい。内管45は、脱炭精錬用酸化性ガスを供給するための脱炭精錬用酸化性ガス供給管(図示せず)及び脱炭精錬用酸化性ガスを搬送用ガスとして粉状の媒溶剤を供給するための粉状媒溶剤供給管(図示せず)と連通し、仕切管46及び外管47は、冷却水の給水管または配水管の何れか一方に連通している。粉状媒溶剤供給管の経路には、図1に示すディスペンサーと同様のディスペンサーが配置されている。
【0052】
内管45の内部は、ランスチップ43の先端部中心に対して同一円周方向に等間隔で配置された複数個の脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44と連通している。この脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44は、噴射する酸素ガスを音速以上の流速で噴射させるために、その断面が、縮小する部分(「絞り部」という)と拡大する部分(「スカート部」という)との2つの円錐体で構成されるラバールノズルの形状を採っている。ラバールノズルにおいて、絞り部とスカート部との境界の最も断面積の小さい部位をスロートと称している。
【0053】
即ち、内管45の内部が脱炭精錬用酸素ガス供給流路となり、また、脱炭精錬用酸素ガス供給流路である内管45からは、生石灰粉、ドロマイト粉などの粉状の媒溶剤を、脱炭精錬用酸素ガスを搬送用ガスとして吹き込むことができるように構成されている。媒溶剤は、酸化物、炭酸化物、フッ化物、塩化物からなるので、可燃物を含有せず、酸素ガスを搬送用ガスとしても、上吹きランス41の流路内で発熱・燃焼することはない。
【0054】
また、内管45と仕切管46との間隙及び仕切管46と外管47との間隙は、冷却水の給水流路または排水流路となっている。内管45と仕切管46との間隙及び仕切管46と外管47との間隙のうちの一方が給水流路で、他方が排水流路であり、どちらを給水流路としても構わない。冷却水はランスチップ43の位置で反転するように構成されている。
【0055】
脱炭精錬の場合も、転炉には、脱燐処理で使用した冷鉄源と同類の冷鉄源を溶銑の装入の前に予め装入する。この脱炭精錬工程における冷鉄源の溶解用熱源は、脱燐処理後の溶銑7の顕熱と溶銑中の炭素濃度に依存しており、従って、前工程の脱燐処理工程における冷鉄源の配合比率を高く設定すると、この溶銑を使用した脱炭精錬工程では冷鉄源の配合比率を低く設定せざるを得ない。従って、脱炭精錬工程における冷鉄源の配合比率は、脱燐処理工程での配合比率と脱炭精錬工程での配合比率との合計値が8質量%以上となるように、脱燐処理工程での配合比率に応じて設定することが好ましい。冷鉄源の全体の配合比率が8質量%未満では、生産性向上の効果が少ないのみならず、CO2ガス発生量の削減効果が少ないからである。
【0056】
転炉に脱燐処理の施された溶銑を装入したなら、溶銑を収容した転炉に上吹きランス41を挿入し、転炉底部の底吹き羽口からArガスなどを攪拌用ガスとして転炉内の溶銑に吹き込みながら、上吹きランス41の脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44から粉状媒溶剤とともに酸素ガスを溶銑浴面に吹き付ける。この場合、上吹きランス41には、ランスチップ43の軸心部に脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44が設けられていないので、この脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44への脱炭精錬中の地金の飛び込みは起こらず、安定した操業が可能となる。
【0057】
脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44から供給される粉状の媒溶剤は、脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44から噴射される酸素ガスの溶銑への衝突面である高温反応界面(「火点」という)に供給されるので、媒溶剤の加熱、溶融が促進され、媒溶剤の利用率(添加される媒溶剤のうちで滓化してスラグとして機能するものの比率)が向上する。これにより、媒溶剤の使用量が低減し、媒溶剤の加熱に要する熱量が削減され、その熱量分を冷鉄源の溶解用に利用することができ、冷鉄源の配合比率を高めることができる。
【0058】
上吹きランス41から供給する粉状媒溶剤としては、石灰系媒溶剤(生石灰や石灰石)、マンガン鉱石、ドロマイト、転炉スラグなどを使用することができる。また、これらの副原料を全て上吹きランス41から供給することは必要ではなく、これらのうちの一部は、図1には図示しない炉上ホッパーから上置き添加しても構わない。また更に、上吹きランス41からの供給と上置き添加とを併用しても構わない。
【0059】
脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44から供給される酸素ガスと溶銑中の炭素とが反応して脱炭反応が進行する。脱炭反応が進行し、炭素濃度が目的とする値まで低下したなら、上吹きランス41からの炉内への全ての供給を停止して脱炭精錬を終了する。溶銑は脱炭精錬されて溶鋼が製造される。添加した冷鉄源は脱炭精錬の期間中に溶解する。製造した溶鋼は、取鍋に出鋼し、必要に応じてRH真空脱ガス装置などで二次精錬を施した後、連続鋳造機で鋳片に鋳造する。
【0060】
本発明で使用する脱炭精錬用の上吹きランス41は、粉状媒溶剤の添加量、添加タイミングを任意に調整できることを特徴とする。即ち、粉状の媒溶剤を脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44より供給しているが、脱炭精錬中の脱炭酸素効率は、精錬初期から上昇して精錬中期で100%となり、末期の溶湯中炭素濃度の低下に伴って再び低下する。即ち、精錬初期には添加する酸素ガスによってFeOが生成するので、その時期にCaOを主体とする媒溶剤を添加することで、CaO−FetO融体が形成され、媒溶剤の滓化・溶融を促進することが可能となる(ここで、FetOとは、FeOやFe23などの鉄酸化物の総称である)。その場合、脱炭酸素効率が100%となる精錬中期以降では粉状媒溶剤の供給は必要でなく、却って粉状媒溶剤の供給を停止したほうが、精錬が安定する。
【0061】
また、図2に示す第1の上吹きランス21のように、ランスチップ43の中心部に、不活性ガスを搬送用ガスとして粉体を噴射するためのノズル孔を配置すると、脱炭精錬では脱炭精錬用酸素ガスの供給が必須であることから、ランスチップ43の中心部に設けた粉状媒溶剤噴射孔の周囲に脱炭用酸素ガスの噴出孔を配置する必要がある。このような構成の上吹きランスを脱炭精錬に用いた場合、粉状媒溶剤の供給停止の際には、脱炭精錬中に発生する飛散溶湯(スプラッシュ、スピッテイング)の粉状媒溶剤噴射孔への飛び込みを避けるために、多量の不活性ガスを粉状媒溶剤噴射孔に供給する必要がある。その結果、不活性ガスのコスト上昇が問題となる。この問題を解決するために、本発明では脱炭精錬用の上吹きランスとして、図3に示す3重管構造の上吹きランス41を開発した。3重管構造とすることで、任意に粉状媒溶剤の停止が可能になるとともに、脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔44からは常に脱炭精錬用の酸素ガスが噴射しているので、ランスチップ43に設けたノズル孔への飛散溶湯の飛び込みの懸念がない。
【0062】
本発明では、転炉で溶銑の脱燐処理を行い、その後、この脱燐処理した溶銑を別の転炉に装入して脱炭精錬を行うが、脱燐処理及び脱炭精錬で転炉に装入する溶銑及び冷鉄源の合計質量をヒートサイズと定義したとき、脱燐処理のヒートサイズが脱炭精錬のヒートサイズの2倍以上であることが好ましい。つまり、脱燐処理後の溶銑の全体質量をそれぞれ1/2以下の質量に分湯し、分湯したそれぞれの溶銑を、3重管構造の上吹きランス41を備えた別の転炉にそれぞれ装入し、それぞれの溶銑に対して脱炭精錬を実施することが好ましい。
【0063】
脱燐処理のヒートサイズを脱炭精錬のヒートサイズの2倍以上とすることで、1基の脱燐用転炉で2基以上の脱炭精錬用転炉との同期が可能となる。つまり、生産性が向上する。また、脱燐処理のヒートサイズを脱炭精錬のヒートサイズの2倍以上とすると、脱燐処理でのヒートロスが大幅に低減する。このようにすることで脱燐処理でのヒートロスが低減する理由は、転炉のように、浴深さ(H)と炉内径(D)との比(H/D)が0.2程度の浅底の形状を有する場合には、ヒートサイズの増減率に比較して溶銑の炉壁耐火物との接触面積の増加率の方が小さいことに基づく。即ち、ヒートサイズが大きくなっても溶銑の耐火物との接触面積はそれほど大きくならないことから、ヒートロスが低減する。
【0064】
以上説明したように、本発明によれば、転炉における溶銑の脱燐処理において、上吹きランスから酸化鉄、石灰系媒溶剤、可燃性物質のうちの1種以上からなる粉状精錬剤を転炉内の溶銑浴面に供給する際に、不活性ガスを搬送用ガスとして供給するので、粉状精錬剤が金属や炭素分を含有していても、上吹きランスの流路内での粉状精錬剤の発熱・燃焼を未然に防止することができる。また、脱燐処理において、粉状精錬剤或いは粉状媒溶剤を上吹きランスの先端下方に形成される火炎によって加熱しながら転炉内の溶銑に添加するので、火炎の熱が粉状精錬剤或いは粉状媒溶剤を介して溶銑に着熱し、溶銑の熱的余裕が向上して溶銑の転炉での脱燐処理及び脱炭精錬において鉄スクラップなどの冷鉄源の配合比率を高めることが実現される。尚、本発明は鍋型の反応容器における溶銑の脱燐処理にも適用可能である。
【実施例1】
【0065】
図1〜3に示す転炉設備及び上吹きランスを用いて、以下に示す条件で、溶銑の脱燐処理及び脱炭精錬を行った。転炉として、炉容量が2.5トンの上底吹き転炉(「脱燐炉」と呼ぶ)を用いて、この転炉に溶銑及び鉄スクラップを装入して脱燐処理を行った。脱燐処理後、溶銑を出湯し、この溶銑及び鉄スクラップを炉容量が2.5トンの別の上底吹き転炉(「脱炭炉」と呼ぶ)に装入して脱炭精錬を行った(本発明例11)。尚、本発明例11では、脱燐処理において、上吹きランスから供給する鉄鉱石中の金属鉄などの可燃性物質の供給量を考慮することなく、燃料の燃焼に必要な量の燃料燃焼用の酸素ガスのみを供給した。
【0066】
また、炉容量が5.0トンの上底吹き転炉(「脱燐炉」と呼ぶ)を用いて、この転炉に溶銑及び鉄スクラップを装入して脱燐処理を行い、この脱燐処理後の溶銑を出湯し、この溶銑を2等分に分湯した溶銑と鉄スクラップとを、本発明例11で使用した炉容量が2.5トンの上底吹き転炉(「脱炭炉」と呼ぶ)に装入して脱炭精錬を行った(本発明例12)。本発明例12でも、脱燐処理において、上吹きランスから供給する鉄鉱石中の金属鉄などの可燃性物質の供給量を考慮することなく、燃料の燃焼に必要な量の燃料燃焼用の酸素ガスのみを供給した。
【0067】
脱燐炉で使用した上吹きランスは、本発明例11及び本発明例12ともに、図2に示す6重管構造の上吹きランス21であり、燃料噴射孔及び燃焼用酸化性ガス噴射孔は、円環のスリット状に開口するストレート型のノズルである。また、粉状の精錬剤を不活性ガスである搬送用ガス(窒素ガス)とともに吹き付けるための粉状精錬剤噴射孔は、内径が11.5mmのストレート型のノズルであり、燃料を噴射するための燃料噴射孔のスリット間隙は1.0mm、燃料を燃焼する酸素ガスを噴射するための燃焼用酸化性ガス噴射孔のスリット間隔は1.85mm、脱燐精錬用の酸素ガスを噴射するための脱燐精錬用酸化性ガス噴射孔はスロート径が7.0mmの3孔ラバールノズルであり、その中心軸がランス中心軸に対して15°の角度で傾斜している。
【0068】
一方、脱炭炉で使用した上吹きランス41は、本発明例11及び本発明例12ともに、図3に示す3重管構造の上吹きランスであり、脱炭精錬用の酸素ガスを吹き付けるための脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔は、スロート径が7.0mmの3孔ラバールノズルであり、その中心軸がランス中心軸に対して15°の角度で傾斜している。
【0069】
本発明例11及び本発明例12ともに、脱燐炉では、鉄スクラップを装入した後、温度が1350℃の溶銑を装入し、次いで、上吹きランスから、粉状精錬剤としての生石灰と鉄鉱石との混合粉、燃料燃焼用の酸素ガス、燃料としてのプロパンガス、脱燐精錬用の酸素ガスを溶銑浴面に向けて吹き付けながら、底吹き羽口からArガスを攪拌用ガスとして溶銑中に吹き込んだ。また、鉄スクラップの装入量は、脱燐処理終了時の溶銑温度が1400℃となるように調整した。生石灰は、炉内のスラグの塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)が2.5となるようにその添加量を調整した。
【0070】
脱炭炉では、本発明例11及び本発明例12ともに、鉄スクラップを装入した後、予め脱燐処理を施した、温度が1350℃の溶銑を装入し、次いで、底吹き羽口からArガスを攪拌用ガスとして溶銑中に吹き込みながら、上吹きランスから、脱炭精錬用の酸素ガスとともに、粉状媒溶剤として生石灰粉を溶銑7の浴面に向けて吹き付けた。また、鉄スクラップの装入量は、脱炭精錬終了時の溶鋼温度が1680℃且つ溶鋼中炭素濃度が0.05質量%となるように調整した。生石灰は、炉内のスラグの塩基度が3.5となるようにその添加量を調整した。
【0071】
また、比較のために、脱燐炉において、本発明例11及び本発明例12で使用した6重管構造の上吹きランス21の代わりに、3重管構造の上吹きランス41を使用して脱燐処理を行い、この溶銑を用いて前記脱炭炉で3重管の上吹きランス41を使用して脱炭精錬を行う試験を実施した(比較例11)。比較例11では、脱燐処理終了時の溶銑中炭素濃度が3.2質量%になるように、脱燐処理中の溶銑に炭材を添加した。
【0072】
本発明例11、本発明例12及び比較例11において、脱燐炉及び脱炭炉で使用した溶銑の組成を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
また、本発明例11、本発明例12及び比較例11における脱燐炉及び脱炭炉での粉体吹き込み速度、プロパンガス吹き込み流量、酸素ガス吹き込み流量、底吹き攪拌ガス吹き込み流量及びランス高さを表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
本発明例11、本発明例12及び比較例11における操業条件(ヒートサイズ)及び操業結果(精錬時間、鉄スクラップ配合量)を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
本発明例11及び本発明例12では、脱燐処理を行う際に、上吹きランスの先端下方に火炎を形成させながら、粉状精錬剤としての生石灰と鉄鉱石との混合粉を、不活性ガスである窒素ガスとともに最内管28の内部を通過させて、これらを転炉内の溶銑浴面に向けて供給している。つまり、本発明例11及び本発明例12では、生石灰と鉄鉱石との混合粉を不活性ガスとともに供給しているので、最内管内において、生石灰と鉄鉱石との混合粉の発熱・燃焼が起こることはなく、脱燐処理を実施することが可能であった。
【0079】
また、本発明例11及び本発明例12では、脱燐処理を行う際に、生石灰と鉄鉱石との混合粉を、上吹きランスの先端下方に形成させた火炎で加熱しながら転炉内の溶銑浴面に向けて供給するので、表3からも明らかなように、精錬時間及び鉄スクラップの配合比率を本発明例11と比較例11とで比較すると、本発明例11では精錬時間が短縮される上に、鉄スクラップの配合比率を高くすることが可能であることが確認できた。比較例11では、脱燐処理を行う際に、上吹きランスの先端下方に火炎を形成させていない。
【0080】
本発明例11の脱燐処理及び脱炭精錬において転炉に装入する溶銑及び冷鉄源の合計質量は、脱燐処理及び脱炭精錬で用いる転炉の炉容量がともに2.5トンであるので、脱燐処理及び脱炭精錬のヒートサイズは2.5トンである。つまり、本発明例11では、脱燐処理のヒートサイズが脱炭精錬のヒートサイズの1倍である。一方、本発明例12の脱燐処理において転炉に装入する溶銑及び冷鉄源の合計質量は、炉容量が5.0トンであるので、脱燐処理のヒートサイズは5.0トンである。本発明例12の脱炭精錬において転炉に装入する溶銑及び冷鉄源の合計質量は、炉容量が2.5トンであるので、脱炭精錬のヒートサイズは2.5トンである。つまり、本発明例12では、脱燐処理のヒートサイズが脱炭精錬のヒートサイズの2倍である。
【0081】
このようにヒートサイズが異なるために、本発明例11と本発明例12とを比較すると、本発明例12では、本発明例11に比べて、脱燐処理でのヒートロスが低減され、表3からも明らかなように、本発明例12では、本発明例11に比較して精錬時間が短縮されると同時に、鉄スクラップの配合比率を更に高くすることが可能であることが確認できた。即ち、本発明を適用することで、高効率で脱燐処理及び脱炭精錬を行うことが実現されることが確認できた。
【実施例2】
【0082】
実施例2では、実施例1の本発明例11と同一の構成の転炉設備及び上吹きランスを用いて、鉄スクラップを配合した溶銑の脱燐処理及び脱炭精錬を行った(本発明例21、本発明例22、本発明例23)。本発明例21、本発明例22、本発明例23では、実施例1と同様に、脱燐炉で用いる上吹きランスに、粉状精錬剤としての生石灰と鉄鉱石との混合粉、燃料燃焼用の酸素ガス、燃料としてのプロパンガス、脱燐精錬用の酸素ガスを供給した。更に、本発明例21及び本発明例23では、この混合粉に転炉ダストを加えて、これらを上吹きランスに供給した。一方、本発明例22では、混合粉に転炉ダストが加えられていない。
【0083】
また、本発明例21では、上吹きランスから供給される転炉ダストに含まれる可燃性物質を燃焼させるために必要な可燃性物質燃焼用酸素量を予め測定し、その酸素量に相当する分の酸素ガスを、脱燐処理において、燃焼用酸化性ガス供給流路から供給する酸素ガスに加えて供給したが、本発明例23では、脱燐処理において、上吹きランスから供給される転炉ダストに含まれる可燃性物質を燃焼させるために必要な可燃性物質燃焼用酸素量を考慮することなく、燃料としてのプロパンガスの燃焼に必要な流量のみの酸素ガスを上吹きランスに供給した。
【0084】
本発明例21、本発明例22、本発明例23において、脱燐炉及び脱炭炉で使用した溶銑の組成を表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
本発明例21、本発明例23において、上吹きランスに供給した転炉ダストの組成を表5に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
本発明例21、本発明例22、本発明例23における脱燐炉及び脱炭炉での粉体吹き込み速度、プロパンガス吹き込み流量、酸素ガス吹き込み流量、底吹き攪拌ガス吹き込み流量、及びランス高さを表6に示す。
【0089】
【表6】

【0090】
本発明例21、本発明例22、本発明例23における操業結果(精錬時間、鉄スクラップ配合量)を表7に示す。
【0091】
【表7】

【0092】
表7からも明らかなように、精錬時間及び鉄スクラップの配合比率を本発明例21と本発明例22とで比較すると、脱燐処理で転炉ダストを上吹きランスに供給している本発明例21における脱燐処理の精錬時間が、転炉ダストを供給していない本発明例22におけるその時間とほぼ同一であるにも拘わらず、本発明例21では、本発明例22よりも鉄スクラップの配合比率を高くすることが可能であることが確認できた。
【0093】
また、精錬時間及び鉄スクラップの配合比率を本発明例21と本発明例23とで比較すると、脱燐処理において転炉ダストに含まれる可燃性物質を燃焼させるために必要な可燃性物質燃焼用酸素量を考慮した本発明例21における脱燐処理での鉄スクラップ配合比率が、転炉ダストに含まれる可燃性物質の燃焼を考慮せずに、燃料としてのプロパンガスの燃焼に必要な流量のみで酸素ガスを供給した本発明例23におけるそれと同一であるにも拘わらず、本発明例21では、本発明例23よりも精錬時間の短縮が可能であることが確認できた。
【0094】
即ち、本発明を適用することで、高効率で脱燐処理及び脱炭精錬を行うことが実現されることが確認できた。
【符号の説明】
【0095】
1 転炉設備
2 転炉
3 鉄皮
4 耐火物
5 出湯口
6 底吹き羽口
7 溶銑
8 スラグ
9 精錬剤供給管
10 燃料供給管
11 燃焼用酸化性ガス供給管
12 脱燐精錬用酸化性ガス供給管
13 ディスペンサー
14 ガス導入管
15 精錬剤
16 攪拌用ガス
21 第1の上吹きランス
22 ランス本体
23 ランスチップ
24 粉状精錬剤噴射孔
25 燃料噴射孔
26 燃焼用酸化性ガス噴射孔
27 脱燐精錬用酸化性ガス噴射孔
28 最内管
29 内管
30 中管
31 外管
32 仕切管
33 最外管
41 第2の上吹きランス
42 ランス本体
43 ランスチップ
44 脱炭精錬用酸化性ガス噴射孔
45 内管
46 仕切管
47 外管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状精錬剤供給流路、燃料供給流路、燃料を燃焼する燃焼用酸化性ガス供給流路、脱燐精錬用酸化性ガス供給流路を、独立して有する第1の上吹きランスを用い、
前記燃料供給流路から燃料を供給すると同時に前記燃焼用酸化性ガス供給流路から燃焼用酸化性ガスを供給して第1の上吹きランスの先端下方に火炎を形成させながら、前記粉状精錬剤供給流路から、酸化鉄、石灰系媒溶剤、可燃性物質のうちの1種以上の粉状精錬剤を不活性ガスを搬送用ガスとして転炉内の溶銑浴面に向けて供給するとともに、前記脱燐精錬用酸化性ガス供給流路から脱燐精錬用酸化性ガスを溶銑浴面に向けて供給して、転炉内の冷鉄源の添加された溶銑を脱燐処理し、
次いで、得られた脱燐処理後の溶銑を別の転炉に装入し、脱炭精錬用酸化性ガス供給流路を有する第2の上吹きランスを用い、
前記脱炭精錬用酸化性ガス供給流路から粉状の媒溶剤を脱炭精錬用酸化性ガスとともに転炉内の溶銑浴面に向けて供給して転炉内の冷鉄源の添加された溶銑を脱炭精錬し、
かくして溶銑から溶鋼を製造することを特徴とする、溶鋼の製造方法。
【請求項2】
転炉に装入される溶銑及び冷鉄源の合計質量をヒートサイズと定義したとき、前記脱燐処理のヒートサイズが前記脱炭精錬のヒートサイズの2倍以上であることを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼の製造方法。
【請求項3】
前記酸化鉄は、高炉または転炉で発生するダストを含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶鋼の製造方法。
【請求項4】
前記可燃性物質を燃焼させるために必要な可燃性物質燃焼用酸素量を予め測定しておき、予め測定した可燃性物質燃焼用酸素量に相当する量の酸化性ガスを、前記脱燐処理中に、前記燃焼用酸化性ガス供給流路から供給する燃焼用酸化性ガスに加えて供給することを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の溶鋼の製造方法。
【請求項5】
前記第1の上吹きランスは、その横断面構造において中心側から、前記粉状精錬剤供給流路、前記燃料供給流路、前記燃焼用酸化性ガス供給流路、前記脱燐精錬用酸化性ガス供給流路、冷却水の給水及び排水の2つの流路からなる合計6つの流路で構成される6重管構造であることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の溶鋼の製造方法。
【請求項6】
前記第2の上吹きランスは、その横断面構造において中心側から、前記脱炭精錬用酸化性ガス供給流路、冷却水の給水及び排水の2つの流路からなる合計3つの流路で構成される3重管構造であることを特徴とする、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の溶鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−229486(P2012−229486A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87142(P2012−87142)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】